2022年2月17日木曜日

Red Plum blossoms(紅梅)


Photo : 2022.2.8 16:28 JST at "Honjo General Park" Honjo-City.

2022年2月1日火曜日

Beat Frequency Oscillator , BFO (2)

通信型受信機の必需品:BFO回路・2

455kHz FET-LC発振・電子同調式
 『私だけの受信機設計』シリーズの第二回、前回のBlog(←リンク)の続きです。前回はいろいろなBFO回路の特徴などを眺めてみました。いつかは真空管でも・・・と思ってますが管球式の通信型受信機はなかなか具体化しません。まずは半導体を使った回路で進めます。

 写真は455kHzのLC発振BFOです。発振回路にはJ-FET(接合型電界効果トランジスタ)を使いました。詳しくは以下の回路図のところで。

                   ☆

 BFO回路は受信機の一部に過ぎません。どちらかと言えば付属的な機能です。 もっぱら中波の聴取や短波でもBCLが専門なら使う機会はないでしょう。付ける必要はありませんし、そうすればBFOが原因のトラブルもありません。悩みのタネが一つでも減るのは良いことです。
 しかしHF帯の通信主体がSSBやCWの現在ではHAMが使う通信型受信機には必須です。FT-8に代表されるデジタル交信もSSBのモードで受信します。BFOは通信型受信機の「らしさ」を象徴する機能ですね。

 ここではHAMが交信に使うための「通信型受信機」・・・特にCW(無線電信)に向いたアナログ形式のレシーバ(受信機)を想定しています。そうした「アナログもの」に否定的ならこの先を眺めてもたいしてお役に立ちません。人生アクティブに活躍できる時間はそれほど長くありません。今年こそ時間の浪費はやめて貴重なお時間を大切にされてください。 何も作らない(作れないの?・笑)のでしたらここでお帰りがオススメでしょう。

455kHz FET-LC発振・電子同調式:回路図
 上記試作の回路です。いま現在ベストな(個人的見解です・笑)LC発振式BFO回路です。もちろん、これは私の目的・用途に限っての話です。使い道が異なれば最適なものはまた違ってきます。

 このBFOは以下の項目を重視しました。(1)中間周波増幅器・IFアンプへの漏洩低減。(2)周波数の可変を電子同調にする。(3)発振周波数帯の自由な変更。(4)周波数が信号に引き込まれない。・・・などです。


                   ☆

 発振周波数は455kHz前後です。コイル(Tr用IFTで代用)のコアの調整で中心周波数は約430〜470kHzの範囲で変更可能。その発振周波数を中心に数kHzの可変はバリキャップ(可変容量ダイオード)で行ないます。

 バリキャップは端子間に加える逆電圧で静電容量が変化します。従って電圧的に発振周波数を可変できます。電圧可変のボリウムは受信機パネル面の任意の場所に配置できます。

 既存の発振回路の場合、発振コイル(BFOコイル)のホットエンドにおける発振振幅は10Vppくらいあります。そこに無造作にバリキャップをつけてしまうとこの発振電圧をバリキャップ自身が整流していて何がしかの直流電圧を生じます。
 その結果(A)本来の周波数可変範囲が得られない。(B)周波数の変化に「飛び」や「ヒステリシス」を生じスムースにならない。(C)発振振幅が周波数により変化する。・・と言った問題を生じます。バリキャップを発振回路に使うときはバリコンと同じように接続したのでは旨くないのです。

 対策は種々考えられますが、ここでは発振振幅を抑制することにしました。コイル両端をダイオードでクランプします。少々野蛮な手段ですが、これで振幅は1Vppくらいに抑え込まれます。振幅の減少は後続のアンプで補います。使用予定の検波回路は約150mV(rms)しか要しませんから簡単なアンプで十分でした。
 クランプ用ダイオードによる周波数安定度へ影響はわずかなようです。SSB/CWの受信テストでは特に不安定さは感じられません。周波数が低いからでしょう。 クランプすることで発振波形の崩れが気になりますが、実際はきれいな正弦波ですから問題ありません。

 発振回路のQ1は2SK192AYのほか、2SK19Y、BF256B、J-310などのJ-FETが使えます。バッファアンプ(Q2)は帰還容量が小さい必要があって2SK544Eのほか、2SK241Y、2SK439Eが推奨です。3SK35などの2ゲートMOS-FETも良い選択ですが第2ゲートにバイアスを与えるための部品が増えます。

 発振振幅を抑えるダイオードD1、D2(1S2076A)は小信号用Siダイオードを使います。1S1588、1SS53、1SS178、1N914A、1N4148など汎用品が使えます。 なお、可変容量ダイオード(Varicap)D3:1S86については後ほど詳しく扱います。 回路全体で容易に代替可能な部品ばかりです。

455kHz PNP-Tr-LC発振・電子同調式
 これは発振回路にJ-FETに替わってPNPトランジスタを使った試作例です。

 半導体を新規に購入するなら上記J-FETの方がいくらか有利かもしれません。多少部品が少ないからです。しかし手持ちにPNPトランジスタがあるならこちらも悪くありません。性能も違いませんので。

 バイポーラトランジスタ(BJT:普通のトランジスタ)はJ-FETよりトランスコンダクタンス(gfe)が大きいため発振は容易です。但しBJTを使った発振回路は発振振幅の制御がやりにくい傾向があります。

 ここでは上記J-FETの回路と同様に発振振幅をダイオードでクランプしています。従って増幅素子の種類には依存しないのでBFOとしての機能や性能に違いはありませんでした。

455kHz PNP-Tr-LC発振・電子同調式:回路図
 上記試作の回路図です。

 BJTの特性からコレクタ側に同調回路を置く発振回路が有利です。もしNPN-Trを使うとBFOコイルがDC的にGNDから浮きます。 できたらコイルのコールドエンドをGNDレベルに置きたいのでPNPトランジスタを使いました。

 たいてい無調整でうまく発振すると思いますが、ダメなときはR1:10kΩを減らしてみます。発振はしても波形が美しくないときは増やしてみます。(コイルのタップ位置に依存します。R1を2〜10kΩの範囲で変えてみて発振が確実で正弦波が得られる値に決めます)

 PNPトランジスタは自作好きのHAMでも持て余し気味かも知れません。このさい使ってみましょう。 BFOとして性能の優劣は感じないのでこちらの回路も推奨できます。 発振トランジスタのQ1:2SA495は2SA564、2SA608、2SA733、2SA929、2SA1029、2SA1015、2SA1048、2N3906、BC558などたいていの小信号用シリコンPNP-Trが使えます。hFEが200前後のものを選べば回路定数の変更は不要でしょう。発振回路に続くバッファアンプの部分は既述の通りです。

本格的なBFOコイル
 写真は「本格的なBFOコイル」の例です。いずれも455kHz付近の発振用です。 真空管用の部品ですが半導体回路で使っても良い性能が得られます。ただし大型なので釣り合わない感じもします。

 上の円筒状はコリンズの70J-2型PTOです。軍用受信機R392/URRのBFO用です。他のPTOと違い「コイルとコンデンサの同調回路部分のみ」なので外部に発振回路を構成します。ハートレー型発振回路で使うことが想定されています。これはだいぶ前に米国の通販ジャンクショップ:Fair Radio Sales Co.で購入しました。

 J-FETを使った回路(70J-2に最適化)でテストして良好な周波数安定度が得られました。出ているシャフトで±15kHzくらい周波数可変できます。そのままシャフトを延長して周波数可変するのも良いでしょう。電子同調式でもうまく使えました。

 写真下はTRIOのBFOコイル(BFO-A)です。シールドケース入りのBFO-Bも市販されていました。どちらもハートレー型発振回路用の標準的なBFOコイルです。他に松下電器製のBFOコイルもありました。また真空管用IFTを改造してBFOに流用する方法も一般的でした。しかしいずれにしてもレトロな部品ですから入手は難しそうです。無理して探す必要もないでしょう。

BFOコイルとして使えるIFT
 半導体回路用の「BFOコイル」は記憶にありません。しかしトランジスタラジオ用のIFT(中間周波トランス)や中波ラジオ用の局発コイルで代用できます。

 写真のような黄・白・黒の3個組のトランジスタラジオ用IFTが(今でも)売られています。いずれもBFOに使えます。こうした既成のIFTは455kHzに共振するよう同調コンデンサが内蔵されています。温度特性も考慮してあるはずなので発振回路でも好結果が得られます。他にaitendoの「IFTきっと」を買って同じようなコイルを自作(←リンク:自作例)できます。

 トランジスタ用IFTも様々です。一次と二次の巻き数比や途中タップの引出しに違いがあって回路側で工夫を要します。初段用(黄色)、段間用(白)、検波段用(黒)の違いのほかにSi-Tr用とGe-Tr用でも違います。正帰還が不足すれば発振せず過剰なら綺麗な正弦波になりません。回路図通りのコイル(IFT)なら同じ部品定数で大丈夫ですが任意のコイルを使うなら正帰還量の加減が必要でしょう。

 テストは既製品のIFTほか手製も使って行ないました。いずれも正帰還量の加減でうまく発振します。この「加減」はシビアなものではなく、許容範囲はずいぶん広いです。

使用したバリキャップ
 電子同調式が目的の一つです。1から9Vの電圧を加えたとき、端子間の容量変化が20pFくらいあるバリキャップなら何でも良いでしょう。

 写真の1S86は東芝製です。左台紙に並ぶ物は頂いたものです。右の黒い1S86はだいぶ前に買った古い物です。

 こうしたバリキャップはアナログTVやFMラジオなどの自動周波数調整(AFC回路)に使うものです。前回のBlogでは同じ用途のSD111(NEC製)を使う例が見られました。1S86は容量が少し大きいのですが同様に使えます。1S86もSD111も旧式です。たぶん入手難ですから類似品で間に合わせましょう。

バリキャップの容量変化特性
 回路例にあったSD111と1S86の違いを確認しておきました。

 1S86を実測しグラフにプロットしてみます。グラフのように同じ逆電圧で1S86の方が数pF大きめです。 発振周波数はコイルのコアで調整できるため数pFの違いなら吸収できるでしょう。

 近代的なバリキャップはイオン注入法で作られており逆電圧対容量特性の形が異なります。特性カーブによっては発振周波数が直線的に変化するので好都合です。新しいものに「良い物あり」です。SD111や1S86にこだわる理由はないですね。

発振周波数特性図
 バリキャップに加える逆方向電圧と発振周波数の関係です。PNP-Trの回路で測定しましたが、J-FETの回路でもほぼ同じでした。

 始めにバリキャップに逆電圧:VRを4.5V加えて455kHzを発振するように発振コイル(IFT)のコアを調整します。使ったIFTは同調容量が180pFのものです。

 発振振幅を抑えず、そのまま47pFを介してバリキャップを接続したのが赤色のカーブです。バリキャップの逆電圧:VRが4V以下になると発振周波数の変化がゆるやかになります。

 これはコイルに生じる高周波電圧(10Vppくらい)をバリキャップが自己整流しているからです。バリキャップも構造はシリコンのダイオードですから・・・。変化がゆるやかになるのは整流作用による余分なバイアス電圧が加わるからです。そのため期待される周波数の可変量が得られません。この「余分なバイアス分」が一定しているならまだマシですが発振状態で変わるため厄介なのです。

 青色のカーブは発振振幅を抑えた状態です。バリキャップ自身による整流は起こらず想定外にバイアスされません。 従ってバリキャップの容量変化特性がそのまま反映されます。途中でカーブが折れ曲がることもなくスムースな曲線になっています。

(参考・1)1S86はパーツボックスから最初に出て来たので使いましたが、もう少し近代的なものを選べば電圧対周波数の直線性が良かったかもしれません。

(参考・2)ここでは主にCW(無線電信)の受信を考えたので周波数可変型のBFOを作りました。帯域幅が2.4〜3kHzの良い特性のフィルタを内蔵するSSB用受信機なら固定周波数のBFOの方が扱い易いです。水晶発振あるいはDDSやPLLでフィルタの通過帯域特性にマッチした固定周波数のLSB/USB用BFOを作るのが良いですね。

                   ☆

 周波数安定度や受信している信号に引き込まれると言った大きな問題はDDSやPLLで作れば解決できます。DDSには周波数の自由度もあります。 しかし「たかがBFO」にマイコン制御では大げさですし消費電流も数mAでは済みません。総合的に考えると自励発振のBFOも未だ捨てがたいと思いました。 455kHz付近の周波数なら周波数安定度も十分得られますし。
 周波数安定度が良く発振波形も綺麗なBFOが作れました。付随ノイズも少ないようです。すでに受信テスト中ですがCW、SSBともにクリアな復調音です。発振周波数が受信信号に引き込まれることもありません。BFOのIF-Ampへの漏れについては検波器とも関連するので改めて触れます。

 BFOは通信型受信機の一構成要素に過ぎません。そもそもBFOだけを単独で検討したのでは不十分です。直接的には検波回路とセットになるものです。復調する信号の大きさも関係するのでIFアンプのゲインも影響します。 どんな検波回路を使うのか、ある程度の想定はあったわけです。それをはじめに書いた方が良かったのかも知れませんね。 まあ、私の事情を反映した受信機なのでそれはそれで支障はないわけです。他のお方の事情はわかりませんし。 次回があるとすれば(笑)SSBやCWの受信に向いた検波回路のお題で一席やりましょう。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)

第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→いまここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ