2019年10月28日月曜日

【回路】Simple WSPR Receiver

簡単にできるWSPR受信機
あなたもできるWSPR受信機
 WSPR受信機は、簡単に言ってしまえばSSB受信機そのものです。 例えば、7MHz帯のWSPR局は、キャリヤ周波数が(リグのダイヤル表示周波数が)7038.6kHzのUSBモードでオンエアしています。 受信機はその同じ周波数をUSBモードで受信すればOKです。 また、WSPRの変調周波数は1500Hz±100Hzのあいだに限られます。 そのため、受信機はできるだけその周波数幅のみ通過するように設計します。

 上図は、これから作る「シンプルなWSPR受信機」のブロック図です。 SSB/CW受信用のダイレクト・コンバージョン受信機にそっくりです。 その違いはフィルタにあります。 音声や電信の受信用ではないので、WSPRの復調に必要な1500Hz±100Hzだけを通過させます。 その1500Hz±100Hzの受信信号をパソコンのマイク端子に導いてやればWSPR受信機の役割は終了です。 復調はパソコンのアプリで行ないます。 受信状態とデコードしたデータはネット経由でサーバーにアップされます。 これで自局で聞こえたWSPR各局の受信状況が世界のHAM局と共有できるわけです。

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 受信周波数は固定ですしWSPRの受信に特化した受信機です。 ところが、低周波フィルタとVXO部分をちょっと変更してやれば直ちにSSBやCWの受信機に変身します。 具体的には、受信周波数の変更はVXO部分を必要な受信範囲をカバーするように変えます。セラロックを使った”VXO”など最適でしょう。CW受信機にはフィルタを700Hzくらいにします。 そうやって実際に受信してみると思った以上によく聞こえました。 ポート間のアイソレーションが良いDi-DBMを使ったので周波数の引き込み現象もなく安定かつ快適な復調ができます。 WSPRに興味がないようならSSB/CW用ダイレクト・コンバージョン受信機に転用するアイディアはどうでしょうか?

参考:最後の部分にこの受信機の「プロモーション・ビデオ」(のようなもの?)があります。先に動画の方を見てから以下に目を通すのも良いと思います。

簡単WSPR受信機・回路図その1
 これは「簡単WSPR受信機」の初期バーションです。 ただし、最終バージョンではむしろ簡略化しました。

 復調用の7038.6kHzの発振器は予定通りVXO形式です。この部分の詳細については前のBlog(←リンク)に書きました。 ただし、周波数安定度の問題などから更に検討を加えています。詳しくはこの後にも説明があります。

 アンテナからの受信信号は、2SK544Eで高周波増幅されます。2SK544Eは2SK241Yと互換の高周波増幅用MOS-FETです。 当初は前回のBlog(←リンク)で扱ったDual-Gate MOS-FETあるいはGaAs MES-FETのRFアンプを使う予定でした。(それも目的の一つとして実験していましたので) しかし、最小部品数で済むように2SK544Eを使う設計に変更しました。これは、あらかじめ受信機全体の回路規模が読めなかったからです。 高周波増幅部にたくさん面積を割いてボードに乗せきれなくなっても困ります。最小面積で済む方を優先したのです。 なお、最終的にボードにかなりの「ゆとり」が生じましたからRFアンプにもっと面積を割いても支障はなかったようです。この回路にとらわれずお好みのRFアンプが使えます。

 検波にはダイオードDBMを使いました。 コンパクトさと手間を省く意味から市販品のDBMモジュールを使いました。Mini Circuits Lab社のADE-1です。 HF帯ですし復調用ですから他社のDBMでも、あるいは伝送線路型トランスとショットキ・ダイオードで自作したDBMでも大丈夫です。 RF信号のロスが少なく、なるべく各端子が50Ωに終端されるように使います。 回路図では幾らか不整合ですが受信復調用ですから特に問題になりません。 VXO発振部から7038.6kHzは7dBmくらい注入されています。

 DBMで復調されたWSPR信号は、ゲイン約26dBの低周波プリアンプで増幅されます。その後、中心周波数が1500Hzのバンドパス・フィルタで選択されます。 この1500Hzのフィルタはシミュレーテッド・インダクタを使った共振器が3段シリーズになった形式です。  どちらかと言うとブロードな選択度で良いため、あまりHigh-Qな設計ではありません。 後ほど周波数特性の実測結果があります。フィルタ自身にも約27dBのゲインがあります。プリアンプと合計で50dBくらいのゲインがあるため、後続のアンプはゲインをあまり必要としません。

 フィルタの後、ボリウム・コントロールがあって全体のゲインが加減できます。 その後、この初期バージョンでは低周波パワー・アンプ:LM386Nがあり、スピーカーを十分鳴らせるパワーが出ます。 後ほどのテストでわかったのですが、WSPR用の受信機としてはゲイン過剰かつ、スピーカを鳴らすパワーは不要でした。そのため、最終バージョン(後述)ではLM386Nのアンプは省いています。

 もし、WSPR以外のモード・・・例えばCWの受信機にするのでしたら低周波パワー・アンプ付きのままが良いです。 その場合、フィルタの中心周波数を約700Hzに変更します。 フィルタの設計方法(変更方法)は以前のBlog(←リンク)にあります。 リンク先と回路は同じで抵抗値のみの小変更で簡単にCW受信機へと変身できます。 抵抗値がクイズ形式になってますが、XXおよびYYともに1.5kΩでやってみてください。

BPF用にコンデンサを選別
 写真は1500HzのBPF用に、コンデンサを選別している様子です。 0.039μFのコンデンサがたくさんあったので、選別してみました。使うのは6個です。

 結論から言うと、選別は不要なようです。 もちろん、選別したコンデンサを使って作ると、設計と実際の差は小さくなります。設計の再現性が良くなるわけです。 シビアな切れ味を求めるフィルタなら、部品合わせの選別は必須でしょう。
しかし、ここで作るフィルタはブロードですから無選別でも大丈夫そうでした。

 選別を行なうにしても入念さは必要なく気休め程度で十分です。 選別にはLCRメータ:DE-5000を使いました。 こうした作業には手軽で便利です。

もやし配線で様子を見る
 1500HzのBPFを試作している様子です。 初めてブレッド・ボード上に作る回路は部品配置を決めるのが難しいものです。なるべく合理的な配線ができ、性能も維持できるような部品配置を目指します。それがなかなか難しいのです。

 4回路入のOP-Amp:TL-074CNを使ったので、コンパクトに作れますが、反面、部品が密集するので配置は少し難しく感じました。

 そこで、まずはジャンバー線が多くなっても気にせず配置・配線してみます。 だいたい写真のような規模になるのがわかったので、様子を見ながら徐々に合理的な配置に変えて行くわけです。 検討の成果は次の写真を見てもらえばわかります。(笑)

フィルタ完成版+低周波アンプ
 左半分が低周波プリアンプ+1500HzのBPFです。 上記の写真と同じだけ部品が載ってますがスッキリしました。 配線の見通しも良くなり、チェックも容易です。

 プリント基板の設計と同じで、ブレッドボードも2回目の方が格段に上手く作れるものです。(笑)

 右側にLM386N(NJM386BD)の低周波アンプがあります。 こうするとトータルの低周波ゲインが大きくなる関係で、発振し易くなりますから対策は必須になります。 CW受信機に転用されるなら十分な対策をしておきます。

 まずは、この状態でパソコンのマイク端子に接続してテストしました。WSPRの受信は可能でしたが、低周波部分がオーバーゲインなのと、GND系のアイソレーションがとれていないためパソコンからのノイズ混入が気になりました。

低周波部の周波数特性
 低周波系の周波数特性とゲインを評価しておきます。回路図のTP-1とTP-2の間の特性を測定したものです。  50Ω系の測定器を接続する都合で、ゲインは6dBほど低く測定されています。 従って、実測のゲインは44dBですから予定のゲイン、50dBが得られていることがわかりました。

 フィルタの「切れ」にやや物足りなさを感じますが、通過帯域に平坦部のない形式なのでこの程度の特性が妥当でしょう。 もっと本格的なフィルタを作れば改善できますが「シンプル」と言う趣旨にそぐいません。 実用的な範囲で済ませることにしました。

 後ほどのテスト運用によれば、WSPR用受信機として高性能とは言えぬまでも実用性能にあると思います。 パソコン側のソフトの助けもあるようで、マズマズの選択度でした。 なお、50dBの低周波ゲインではかなり過剰です。だいぶボリウムを絞って使うことになります。 いわんやLM386Nのアンプ(ゲイン)など必要としません。 接続先のパソコンの入力端子が感度の高いマイク入力端子だからです。

課題あったVXO・初期版
 VXOの周波数安定度について考えるとき、もう一度WSPR局のデータ送信について考える必要があるでしょう。 WSPRでは発信局のコールサイン、グリッドロケーション、パワーレベルが50ビットのデジタルデータとして送られてきます。

 1400Hzから1600Hzの間のどこかに設定(送信局のオーナーが設定)された副搬送波は、4値のFSK信号として周波数変調されます。 その4値のそれぞれはわずかに1.4648Hzしか離れていないのです。従って、占有周波数帯域幅は約6Hzしかありません。  また低速のボーレートなので一回あたりの送信時間は110.6秒間もあって、少なくともその間だけ周波数は安定でなくてはなりません。(多少は許容量があるがレポートの数値に現れるのでみっともない・笑)

 長期的な変動は取りあえず考えないとしても温度補償のない水晶発振器の周波数安定度はせいぜい±1ppm/℃くらいのものでしょう。 これはかなり良い方向に見積もっています。 従って7MHzの発振器なら1℃あたり7Hzくらいの変動は存在するわけです。 急激な変化さえなければWSPRのデータ一周期ごとの復調は可能でしょう。 しかし出来の悪い発振器ではこれさえも難しいのです。無造作に作れば水晶発振器と言えども安定度はずっと悪くなります。
 一日の気温変化は10℃くらい存在します。 何の温度補償もない水晶発振器ならそれだけで10ppmくらいは変動するでしょう。 良い方に見積もっても70Hzの周波数変化ですから、WSPRを安定に運用するにはどうやら十分とは言えないようです。 

 CWやSSBの受信でも周波数変動は問題になります。 ただし交信のあいだ安定で了解に支障がなければ良いのであって、オペレータがズレを修正することも可能ですからそれほどシビアではありません。 普通の水晶発振器や上手に作ったVXOならほとんど問題になりません。 しかしWSPRではそうも行かないのです。手を煩わせずに連続運転が基本ですからね。

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 写真の初期状態では周波数安定度が不十分でした。原因はいくつかありました。使った部品の温度安定性が悪かったのです。考えてみれば当たり前のことばかりですけれど・・。

 まず、数pF〜10pFあたりの小容量セラミック・コンデンサはNP0特性であろうと考えたのが勘違いでした。  水晶発振子とパラの5pFと、周波数設定のトリマ・コンデンサにパラになった10pFのセラコンが問題でした。 実際には温度特性がかなり悪かったのです。 多分、普通の用途ならそれほど気にはならなかったでしょう。しかしシビアな用途では不十分な性能でした。

 もう一つはVXOコイルです。使用した47μHのマイクロインダクタは温度特性が良くないのです。aitendoで買った中国製のRFCセット(←関連のBlogにリンク)に入っていた47μHを使いました。初めからわかっていたことですが、VXOコイルのようなシビアな用途には使うべきでなかったのは間違いないです。 小さくて扱い易いのですが、おそらくμ(透磁率:ミュー)が大きな・・・ただし温度特性の良くない・・・コア材が使ってあるのでしょう。 指で少し触れた程度でも体温の影響が強く現れました。マイクロインダクタの用途は共振回路ではありませんからやむを得ないでしょう。実験的には良いとしても実用には温度特性の良いコイルに替えなくてはなりません。これは反省点です。(笑)

# このようなことから、WSPRを安定して受信するには不十分な周波数安定度です。

こちらが改善版VXO
 問題点が明確になれば対策は可能です。 温度補償型の発振器ではないと言う本質的な問題はありますが対処療法は可能です。

 まずは、問題のコンデンサを温度係数がはっきりしているNP0のセラミックコンデンサあるいはディップド・マイカコンデンサに交換してみました。 セラミック・トリマコンデンサもいくらかマシそうな物に替えます。

 VXOコイルは空芯もしくは温度係数の小さなコアに自分で巻いた方が良いのでしょうが、いくつか交換したらだいぶマシなものが見つかったのでそれで済ませました。

 このような対策で短時間の漂動(ドリフト)なら、数十ミリHzに抑えることができるようになりました。 環境の変動に強くする意味で、回路部分に直接風が当たらぬように箱で覆うと効果的です。 ブレッドボードなのでやりずらいのですが、覆って外気の流れを防ぐのは必須とも言えます。きちんと作って箱に入れればかなり効果的です。

 アンテナとパソコンを繋いで実験すると、ここまでの対策を施した初期バージョンでも旨く受信できました。 しかし、初期バージョンでわかってきた問題点はできるだけ改善しましょう。

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簡単WSPR受信機・回路図その2
 改良版の回路図です。 VXO部分の周波数安定度は部品の交換でまずまずになったのですが、長期的な連続運転にはまだ不足するように感じます。 いずれ本格的な対策を行ないたいと思いますが、一旦ここまでにしました。

  VXO周りの部品定数など変化はありませんが、温度特性の良いコンデンサやコイルを使うことで対策しました。 シビアなことを言うと、やはりセラミック・トリマでは不安があります。 エア・トリマコンデンサを使うことにしました。

 プリアンプ+1500HzのBPF部の低周波ゲインは約50dBあります。 この時点で、すでにオーバーゲイン気味なので、ボリウムでだいぶしぼる必要がありました。 特に低周波アンプにゲインのあるLM386N(NJM386BD)を使ったため、その部分はまったくの過剰ゲインです。 スピーカを鳴らす意味はないので、思い切って簡単な1石のアンプにしました。アンプ無しでも行けそうでしたが、ゲイン調整の便など考えてアンプは設けておきました。

 初期バージョンでは、PCとの接続はレベルを合わせただけでC結合で直結しました。 回路のGND回路はパソコンのそれと共通になります。 しかし、そのようにするとパソコンで発生したノイズの混入が見られました。 試しにトランスでアイソレーションするとノイズの混入はかなり軽減されます。 改良にあたり、出力アンプのアウトプットはトランスで分離する形式にしました。 トランスの二次側は回路のGNDに接続せず、浮かせたままパソコンのマイク入力端子へ接続します。

以上のような対策を行なって、概ね使えそうな性能のWSPR受信機が出来ました。

試作完成・外観全景
 初期バージョンと比べてあまり変わり映えはしませんが、改良版の受信機全景です。 低周波パワー・アンプ(LM386N)を取ってしまったので、その部分がずいぶんスッキリしました。

 高周波増幅、検波器、プリアンプ、1500HzのBPF部分に変更はありません。 WSPR受信機としてかなり簡単に実現できることがわかります。

 もちろん、よくご存知のお方なら単純なダイレクトコンバージョン受信機では逆サイドの混信があって、性能に影響しないか気になるでしょう。 原理通り逆サイドの受信はありますが、低周波で受信帯域を絞っているのでほとんど支障ないようでした。 ただし、受信のS/Nは6dBくらい犠牲になっているのでしょう。 従ってあまり高性能な受信機にはなりませんが、簡単で実用的な性能と思えばまずまずのようです。

VXOは受信のかなめ
 WSPRの概要を検討した結果でもわかるように、周波数安定度は受信・送信の「かなめ」と言えます。

 さらに改善する目的で、周波数調整のトリマコンデンサにシリンダー型のエア・トリマを使ってみました。 多回転型なのでシビアな調整には向いているようです。 もちろん一般的な羽を回すエアトリマでも十分です。 何ならエアバリコン(50pFくらい)にバーニヤ・ダイヤルでもつけてやればすこぶる調整し易くなります。  言うまでもありませんが、きちんとした箱に収納するのは安定した受信の大前提ですね。w

 一連の対策を行なったことで、周期の早い変動は収まったのでまずまず安定に受信できるようになりました。 電源投入後は30分くらいの初期変動がありますが、その後はかなり安定します。 ただし変動の様子を観察すると、数時間あるいは一昼夜といったゆっくりした変動は未だに残存します。 だいたい±10Hzくらいはありそうです。 これくらいならWSPRの復調に支障はなさそうでした。 まずはワッチしてレポートをアップするのに十分使えます。

 しかし、このままでは数ヶ月や1年間と言った長期的な安定度は維持できそうにありません。 できれば良質のTCXOあるいは可能ならOCXOを基準にした発振器に置き換えるのが理想でしょう。 週に一度くらい周波数をチェックして、もしずれていたら補正すると言う運用方法もありますがちょっと面倒です。できたら技術的に解決したいものです。 この後は送信の検討を始めますが、必要な周波数安定度は同じですから何か改善策も考えておきたいと思います。

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簡単に済むRFアンプ+検波器
 回路をざっと見て行きます。
これはRFアンプと検波回路の部分です。

 RFアンプには2SK544Eを使いました。 ゼロバイアス(Idssの状態)で使い、最小限の部品数で済ませています。 これでも20dB以上のゲインはあるので必要十分です。 なるべくロスなく検波器に導きます。

 検波器は4ダイオード式のDBMです。既製品を使ってコンパクトに作りました。 復調用キャリヤ(BFO)の入力端子へは3dBのPADを挟んでインピーダンスマッチングを改善しています。 出力側も概ね50Ωに終端するように回路設計しています。 信号入力側は不整合ですが、用途が検波回路なので支障はないでしょう。 アンテナへのキャリヤ漏れも高周波アンプがあるのでほとんどありません。

 いずれも簡単な回路ですが、7MHzのダイレクトコンバージョン受信機には十分なものです。 検波信号を耳で聞いてみると、近傍の周波数でオンエアしているロシアのレタービーコンが良く入感しました。 メインのトランシーバと比較しても同等であり、感度が悪いと言った印象はありませんでした。

低周波アンプも簡潔に!
 パソコンとの接続部分にはFETを使った簡単な低周波アンプを置きました。 回路のGND系を分離する目的で、トランス結合式のアンプです。

 低周波アンプにはFET:2SK19Y(GRでも良い)を使いました。これは回路が簡単に済むためです。 2SK19は高周波用のFETですが、こうした低周波アンプに使っても支障はありません。 トランジスタやICでも良いのですが、2SK19Yならゲートのバイアス用抵抗器が1本必要なだけです。 ただし、大きな信号を扱うとFET固有の「二乗特性」が現れるため、二次ひずみ(非対称歪み)が大きくなります。もちろん、パソコンとの接続はローレベルで済むので支障はありません。

 ほとんどゲインのない低周波アンプですが、インピーダンス変換と信号およびGNDラインのアイソレーションの目的は十分に果たしてくれます。 アイソレーション用の小型トランスは山水のST-71などで代替できます。aitendoのチープな低周波トランスも十分役立ちます。

受信始めました
 画面はパソコンでWSPRネットのサイトを開いて、自局のレポート状態を表示したものです。

 受信した時刻が昼過ぎの午後なので国内のWSPR局しか見えていませんが、まずまずではないでしょうか。 1WでオンエアしているJA9MAT局、JA8XMC局もコンディションが悪いなか、旨く受信できています。 いつもFBな電波を送ってくるJA5NVN局はS/Nも良く強力に入感しています。(画面の時刻はUTCです)

 気になる周波数変動ですが、例えばJA5NVN局の周波数をみると様子がわかります。 10〜20分間で1〜3Hzくらいの変動があるようです。 この表示周波数には空間状態による変動や送信局の周波数変動も含まれます。 レポートのいずれの局も連続運用されていて、いつも周波数は安定しているように思います。 したがって、現れる周波数変動は自局における変動であると推測できます。(周波数カウンタで見ていればわかりますが・笑)

 Driftの項目に0あるいは±1の数字がありますが、これはデータ受信の110.6秒間の変動が十分小さいことを示しています。 支障のない周波数安定度ですです。 もし、ここが±1Hz以上の数字を示すなら短時間における周波数安定度はあまり良くないと思うべきでしょう。

以上、総合すると長期的な周波数安定度には多少の懸念はあるものの、WSPR受信機としてまずまずの性能があると思われます。

海外WSPR局も見えた
 画面は23時(JST)ころキャプチャしたものです。 夜になって7MHzバンドがオーバーシーズへも開けてきました。

 北米やオーストラリアのWSPR局も見えるようになっています。 このところサンスポットは連日ゼロで、MUFも数MHz台のところに低迷しています。 それでも何とか入感するのが7MHzの良いところでしょうね。 ノイズレベルの下がる冬場になればもう少し見えてくるはずです。

 シンプルな受信機なので感度が心配でした。また逆サイドの混信もあって不利です。 しかし、実際に受信してみるとまずまずの性能が実感できます。 どうしてもダメならPSNを使ったシングルシグナル受信も考えました。 しかし一気に複雑化するのでシンプルと言う精神(?)に反します。 実際に作ってわかりましたが、単純な回路で使い物になりそうなのは良かったです。

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 消費電力が少ないWSPR専用受信機を作りたいと言う目的は概ね達成できそうです。 簡単な回路構成ですが、少なくとも感度は大丈夫そうです。 周波数安定度はDDSやPLL化で簡単に解決できるものではありません。 それらの発振器も基準の発振器が十分な安定度を持っていなければ、ここで使ったVXOに及ばぬ可能性さえあるでしょう。

 以前、キットのWSPRの送信専用機を検討したことがありました。 それにはオプションでGPSに同期させるAFC機能が付いていました。 Hzオーダーの誤差を自動修正する仕組みでした。(GPS-DOとは違います) 当たり前のようにオプションを付けた状態で検討したのですが、思えば簡単な回路構成の専用機にとって必須だったのでしょう。 そうでなければ安定性は確保できなかったはずです。

 手持ちTCXOのSpecを見ると変動は1ppm/年以内とあります。 まあ、この程度の変動なら実用性は損なわれないでしょう。 7MHz帯ですから7Hz/年くらいの変動があるわけです。 WSPRでオンエアしている各局の周波数を観察していると、その程度ならマシな方にも感じます。 消費電力など考えてTCXOを基準にしたDDS発振器などが周波数対策の決め手になるでしょう。


簡単WSPR受信機・プロモーション・ビデオ 
(再生すると音が出ます)

 耳で聞く受信機と違って、こうした受信機の動的な紹介は難しいものです。 初めはVXOの周波数変動の様子を流しておしまいにしようと思っていました。 編集していて、だんだん各部のシーンを寄せ集めたプロモーション・ビデオのようになってしまいました。(笑) この1分半ほどの動画をご覧になって、もし興味が湧いた部分でもあれば本文に帰ってじっくりお読みください。 それでも解消しない疑問などは遠慮なくご質問いただけたらFBです。 あなたの「ひとこと」が何か解決の糸口になるかもしれません。ご感想・ご意見など歓迎いたします。

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 受信機といっても耳で聞くものではありません。 パソコンのマイク入力端子に接続してスタンバイOKです。 あとはオンエアしているWSPR局がうまく復調できるか待つことになります。 インターネットとも関係するので、全体を見渡すと大掛かりな仕組みと言えるでしょう。 それだけに受信機が自作できるのか心配にもなります。 しかし、ポイントさえ押さえておけば案外簡単に作れるもののようです。 ポイントとはもちろん周波数安定度ですね。あとは意外にシンプルです。

 周波数安定度の改善策は頭の隅に入れておくとして、次回は送信系の検討を始めたいと思います。 周波数安定度の課題は同様に存在しますが送信パワーは5W以下です。中には数10mWでオンエアされるお方もあります。  電波型式はF1D(FSK)ですからシングルトーンと等価です。従って効率の良いC級増幅でも支障はないはずです。 数ステージの送信部で何とかならないものでしょうか?  ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

2019年10月14日月曜日

【回路】Dual Gate FET RF-Amp. Design

DG-FET RF-Amp. : 2ゲートFETでRFアンプ設計
 【表面実装型2ゲートMOS-FETを使う
 台風19号の被害もなくホッとしているところです。台風一過でさっそくアンテナも復帰しました。

 さて、予定通りの話題で行きましょう。 しばらく前になるのですが、Dual Gate FET(2ゲート電界効果トランジスタ)について簡単に扱ったことがあります。(過去のBlogにリンク)

 2SK241のような使いやすいシングルゲート型のFETが登場した結果、2ゲート型FETの用途はだいぶ限られてきたという話でした。 それが覆る訳でもないのですが調べていたら思ったよりもたくさん手持ちがありました。買っておいたものや頂きものなど様々です。 こうした引き出し在庫を有効活用しないのは勿体ないでしょう。性能が悪いのなら仕方ありませんがそんなこともありません。 そこで実際に試用して使い方の道筋を付けておきたいと思います。

 以下は、様々な文献などにも載っているような話ですが、残念ながら本格的に高周波回路の設計を扱った書籍は絶版ばかりです。個別半導体で設計する機会も減ったため売り上げが見込めないことから新版の登場も期待できません。 いまでは設計法や使用例を見つけるのも一苦労になってしまいました。 ここでは理論的な説明はひとまず脇に置きましょう。もちろん理論を無視した訳ではないのですが、もっぱら実践的な内容にまとめておきたいと思います。 例によって自身の製作メモに過ぎませんが機会があれば試してみてください。使い方の一助にでもなれば幸いです。

写真:今回はおもに表面実装型の2ゲートMOS-FETを使います。 パッケージが小さくてリード線も付いていないためこれまで試用の機会もありませんでした。 今回、試しに変換基板に実装してみたところ意外に好成績でした。扱いが容易になったのも評価のきっかけになりました。 写真は3SK294と3SK144Rです。この3SK294(←秋月電子通商にリンク)は現在も安価に販売されており、新規の採用にも向いています。同ショップで売られている3SK291も同様のデバイスです。リード線付きの2ゲートMOS-FETは姿を消していますが、表面実装型ならまだ十分手に入ります。有効に活用したいものです。

 【RF-Amp.で動作点を探る
 評価を行なったのは:3SK294、3SK144、3SK103です。いずれもDual Gate MOS-FETです。 なお、評価は面実装型に偏りましたが、予め評価済みだった金属缶パッケージ型(古い形状)のDual Gate MOS-FETとの違いは感じませんでした。どちらも同じように使うことができます。手に入り易いものを活用するのがベストでしょう。

 それぞれのデータ・シートを見比べると、こうしたMOS-FETはゲート電極へのバイアス電圧の掛け方(加え方)から見て、以下のような3つのグループに大別できることがわかります。

(1)ディプレッション型:第1ゲートのバイアス電圧をソース電極に対して負の方向に掛けて使うタイプ。規格表でIdssが比較的大きくて10〜数10mA以上のものがこれです。五極管の特性に近いイメージがあって旧来はほとんどがこれでした。例:3SK35、3SK41、3SK45、3SK48、3SK51、3SK59、3SK73、etc.  他にもたくさんあります。 正の範囲までバイアスを掛けることもできますが、ドレイン電流を流しすぎて許容ドレイン損失をオーバーしないように注意します。(Depletion mode:減少型 / Normally ON type)

(2)完全なエンハンスメント型:第1ゲートにソース電極に対して正方向のバイアス電圧を掛けて使うものです。負あるいはゼロのバイアス電圧ではドレイン電流がほとんど流れません。規格表でIdssがゼロあるいはそれに近いものはこのタイプです。例:3SK291、3SK294、3SK108、etc . 比較的新しいものが多いようです。負方向のバイアスが要らず、電源電圧も低くて済むためでしょう。AGCも掛け易いです。(Enhancement mode:増大型 / Normally OFF type)

(3)上記両者の中間的なもの:第1ゲートに加えるバイアス電圧がゼロではあまりドレイン電流は流れず、通常の増幅回路に使うには幾らか正の方向にバイアスを掛ける必要のあるものです。規格表で見たときIdssはゼロではないものの最大でも数mA以下のものはこれです。上記(1)の品番でもIdssが小さなランク品はこれに当たります。例:3SK144、3SK103、3SK107、etc  意外にたくさんあります。Idssで使うとゲインは低めですが、バイアスの掛け方次第で高性能も期待できます。(D+E mode)

これらの3種類を考慮していずれの特性のFETでも使えるようなバイアスの自由度が高い回路を考えてみたいと思います。 適正なバイアスさえ掛けて使えばどの分類でも大差ない性能が得られるはずです。 写真はそのテスト風景です。

 【2ゲートMOS-FETのRF-Amp.回路
 2ゲートMOS-FETの使い方の基本は高周波増幅(RFアンプ)でしょう。IFアンプも類似回路です。 左図の回路は3タイプいずれのFETにも適用できます。 要するに万能型です。バイアスの自由度が高く作ってあります。

 電源電圧:Vddは9Vの設計です。第2ゲートには標準的なバイアスが掛かるように、Vddの半分の電圧・・・+4.5Vが掛かっています。ここには固定したバイアス電圧を掛けておきます。 なお、ソース電圧がGNDに対して+1Vになるよう設計しているので、実質的な第2ゲートの電圧はソースに対し+3.5Vになります。 このように第2ゲートにはソースに対して+3〜4Vの電圧をかけて使うのが基本です。 この部分にリバースAGCを掛けることもできます。

 組み立てたら、ソース端子とGND間の電圧:Vsを測りながら、第1ゲートのバイアス電圧を調整します。 Vs=1.0Vになるように可変抵抗:VR2を調整すればOKです。 こうしたMOS-FETのRFアンプではおおよそ10mAのドレイン電流:Idを流して使うのが基本です。 これで標準的な動作状態になります。ゲインは十分得られノイズフィギャ(NF)も概ねオプティマイズされます。 そのように調整を行なった時の、第1ゲートのバイアス電圧:VG1を実測した結果を図中の表に示します。

 各FETの特徴がよく表れていると思います。 このVG1は調整後の結果であって、予めこの電圧をG1に掛けて使うという意味ではないので注意して下さい。たまたまそのFETでId=10mA流すのに必要なVG1がこの電圧だったという結果に過ぎません。従って個々のFETで異なるわけです。(もちろん、同一品種、同一ランクのFETなら類似の電圧になりますけれど・・・個々には微妙に違うはずです)

 VG1が実測値と近似の電圧になるよう、可変抵抗をやめて固定抵抗に置き換えても良いでしょう。 頻繁な調整の必要がないところは固定抵抗に置き換えるほうが安定です。一般的に可変できる部品は自然に変化する(劣化する)可能性も高いからです。

 なお、ドレイン電流:Idは10mA前後が標準ですが、必ずしもそこまで流さなくても大丈夫です。ノイズ・フィギャやゲイン、さらには負荷インピーダンスなど考慮しながら定格の範囲内でかなり自由に決めることができます。

 バイアス調整が済んだら、信号発生器あるいはアンテナからの信号などを頼りに入力同調回路:T1の同調をとればRFアンプの完成です。 ゲインのピーク値は図中の表に示しますが、どのFETでも25dBを超える好成績が得られました。 HF帯からVHF帯のRFアンプとして十分なものです。

 入力回路は、Lマッチ形式ではなく単純なトランス形式にしました。 概ね良好なNFが得られる巻き数比が選んであります。 実測はしませんでしたがNF≦2dBくらいはごく普通に得られます。このアンプは回路例の7MHz帯などローバンドではとてもローノイズで、必要以上に低いNF値と言えます。RFアンプはNF=0dBを理想としますが、空間ノイズが極めて大きな7MHz帯ではNF=20dBでも支障ないくらいですので・・・。 50MHzあるいは144MHzではLマッチ形式を使うとNFの最適化が容易です。 ただし30MHz以下のHF帯では図のように選択度を優先した回路の方が望ましいようです。

参考:上図には3SK144や3SK294の実測した性能一覧があります。他のリード線タイプの2ゲートMOS-FETたとえば、3SK35あるいは3SK59などの実測結果は続編(←リンク)でまとめ一覧表にしてあります。合わせて参照を)

 【3SK294でテスト
 3SK294でテストしている様子です。 ドレイン負荷の高周波トランスにはMini Circuits Lab.社の製品を使いました。これは自作品のトリファイラ巻きトランスでもよくて、後ほど製作例があります。 性能的にも違いはないので自分で巻くと安上がりです。 ドレイン負荷に同調回路を置く形式も可能ですが、最適な同調コイルの設計はやや難しいので非同調のトランス負荷式をお勧めします。 得られるゲインもほとんど違いません。 選択度は入力側で稼げば良いと言う考え方です。

 入力のトランス(同調回路)はT25-#2というトロイダルコアにφ0.2mmUEW線を巻いて作ったものです。巻き数はアンテナ側が2回、同調側が30回です。 FCZコイル(同等品含む)も使えなくはないのですが、アンテナ回路用としては巻き数比が最適でないため多少性能は悪くなるでしょう。トロイダルコアに自身で巻くとQの高いコイルが作れるのでFBです。製作する周波数に応じてコア材は変更します。巻き数比は概ね同じで良いでしょう。

 3SK294は面実装型6ピン・パッケージをDIP化する変換基板に載せてあります。 このようにすると、高周波特性が幾分悪くなって損です。しかしリード線付きパッケージのFET と比べて大差はないため十分使い物になります。 3本並んだ真ん中の無接続になるピンは必ずGNDして使います。 50MHzあたりまでなら問題なく行けそうですが、144MHz以上では真面目に基板化したほうがFBでしょうね。  MCL社の出力トランスは数100MHzまで使える優秀なものなのでHF帯〜VHF帯でFBに使えます。

 【ゲインと周波数特性
 3SK294で作ったRF-Amp.(7MHz用)の周波数特性です。 中央少し上を横切る赤いラインがゲイン0dBです。縦軸のひと目盛りは10dBです。 横軸は左端が1MHzで右端は20MHzのLog目盛りになっています。 マーカーの位置がゲイン最大のポイントで、この例では27.4dBのゲインが得られています。

 入力部に同調回路が一つあるだけですから、選択度はあまり良くありません。 必要に応じて入力部に2〜3段の同調回路を置くか、バンド・パス・フィルタ(BPF)形式にするとベストです。 ゲイン、NFともにゆとりがあるのが普通ですから、少しロスは増えても入力部分でなるべく帯域幅を絞る設計にしたいものです。

 ご存知のお方も多いと思いますが、こうしたRF-Amp.は入力同調回路による昇圧利得がその多くを占めます。 FETそのものによるゲインは意外に小さいのです。 FETによってゲインに数dBの違いがありますが、これはドレイン電流10mAにおけるトランスコンダクタンス:gfsの違いによるものです。(昔風に言うと相互コンダクタンス:gmの違い) ややゲインが低めの石でもドレイン電流を加減すると大きくすることは可能です。 ドレイン損失をオーバーさせない範囲で試してみるのも面白いでしょう。 しかし、一般的にはId=10mA程度で使うと良さそうでした。数dBのゲインを追求しても意味は小さいかも知れません。

 結論として、試作回路のような方法でいずれの2ゲートMOS-FETもうまく使えます。得られた性能もほとんど違いません。 従って特定のFETを探すまでもなく、手に入り易い品種で代替すれば大差ない結果が得られることもわかりました。

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 【GaAs MES-FET : SGM2006Mを試す
 ついでと言っては可愛そうですが、これから試すのはシリコンではなく、化合物半導体のガリウム・ヒ素を使った2ゲート型FETです。 GaAs MES-FETと言います。 このガリヒソFETについては過去にBlog(←リンク)で扱ったことがありました。

 ゲート部分は酸化膜(オキサイド)絶縁のMOS構造ではなく、ショットキー接合の構造になったFETです。 MOS型ではなくメタル・セミコンダクタ接合(MES)になっている・・・ジャンクション型FETの一種と言えるでしょう。 当然ですがゲートは順方向にバイアスしてはいけないため、正方向のゲート電圧はほとんど許容できません。 完全なディプレッション型の特性です。 プラス方向のゲート電圧についてはデータ・シートにはどこまで許容できるか詳しく書かれていませんが、せいぜい+0.3Vくらいまででしょう。(実際に測定してみても順方向電圧は0.45Vくらいしかない) もしゲートが順方向にバイアスされるとゲート電流が流れ急激に入力インピーダンスが低下します。

 この形式のFETでは3SK121(東芝)がアマチュアの間で有名でした。メーカー製のUHF無線機に使われたからのようです。 GaAs MES-FETは1974年にNEC日本電気によって実用化されました。主にマイクロ波帯の通信機用として供給されたものです。 UHF帯でもローノイズかつ混変調特性も良好なため、民生品用としても各社から登場して一時期はもてはやされたものでした。しかし半導体素材が特殊なのと、1979年のHEMT(富士通)の登場とその後の実用化、さらにはRF回路のMMIC化が進んだため今ではほとんどが製造中止になりました。
 このSGM2006Mは秋月電子通商で長いあいだ販売されていたSONY製のGaAs MES-FETです。 表面実装型のためアマチュアには使いにくいことから人気は今ひとつのようでした。しかし性能はなかなか優秀です。(現在は販売終了)

 このようにGaAs MES-FETはMOS構造ではないため、もっぱらゲートは負のバイアスで使います。 何となく似ているように見えますが、MOS型のFETとはだいぶ使い方が違います。 以下にもっともシンプルな使い方を示しておきました。

 【SGM2006MでRF-Amp.
 GaAs MES-FETで作ったRF-Amp.です。

 第2ゲートのバイアスはゼロボルトで良いため、ソースに直結するだけで済みます。 とても簡単です。

 また、第1ゲートのバイアスはソースとGND間の抵抗(ソース抵抗)による自己バイアスで得るのが最も簡便です。 ドレイン電流を測定しながらソース抵抗を加減して10mAになるよう調整すれば完了です。VRの抵抗値を実測して固定抵抗に置き換えておくのも好ましいことです。 なお、GaAs MES-FETはドレイン・ソース間の耐電圧が低いため電源電圧に注意します。コイルやトランスのようなインダクタンス負荷においては必ず6V以下の電源で使います。 この例では5Vにしましたが十分なゲインが得られています。

 ごく簡単な回路ですが28.5dBと言う十分なゲインが得られました。 NFも小さく、混変調特性も優秀ですがVHF帯以上でこそ本領を発揮するのでしょう。 もちろん、HF帯で使っても支障はありません。温存して死蔵になるよりマシですから積極的に使いたいものです。 シングルゲートのFETと同じように使えるので思ったよりも使い易く重宝なデバイスです。

  ゲートを正にドライブするような荒っぽい使い方はまずいと思いますが、発振回路のような用途では大きな振幅を扱う可能性もあります。 ゲートに電流を流し過ぎて壊さないようなるべく慎ましく使いたいものです。 低めの電源電圧でもよく働くので電圧を落とした使い方も悪くないです。 なお、ゲート部分がショットキー構造のため静電気に弱いので扱いに注意します。半田コテのリーク電流も大敵です。(高周波特性の良いデバイスでは一般的な注意事項です)

 GaAs MES-FETはお店からほとんど姿を消していますが、手持ちがあるなら有効活用したいデバイスの一つです。 容易に使え、V/UHF帯でLow NoiseなRFアンプが実現できます。 比較的ポピュラーなものとしては、SGM2006M(SONY)のほか、3SK97(松下/Panasonic)、3SK113(日立)、3SK121(東芝)、3SK129(Panasonic)、3SK240(東芝)などがありました。これらの使い方はいずれも同じです。

 【トリファイラ巻きRFトランス
 RF-Amp.のテストではドレイン負荷に既製品のRFトランスを使いました。使いやすく実験試作には便利ですがコストは高めです。

 写真のようにフェライトビーズ:FB-801-#43に自分で巻くと安上がりです。 性能も良いのでお勧めです。 3本の線を軽くよじったものをコアの穴に6回通してから、写真のように配線すれば完成です。この例ではわかり易いように3色の線を使いました。 写真の製作例はトリファイラの6回巻きですから30MHz以下で使うのが適当でしょう。 

 30MHzくらいから上の周波数では3回巻きに減らします。さらにはもっと小型のフェライトビーズ:FB-101-#43を使い、巻き数も3回くらいにします。 引出し線をなるべく短く実装すればVHF帯も十分行けます。

 コア材にメガネ型コアを使う方法もあって、なかなか優秀なトランスが作れます。巻き方と結線方法は同じです。写真を見ながら間違わないように結線します。 写真のPin番号は既製品のRFトランス:ADT4-1WTに合わせてあります。 従って回路図のPin番号通りに接続すればそのまま置き換えOKです。

# 多少手間は掛かりますがRFトランスの自作はお勧めです。

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 RF-Amp.は測定器でテストしたあと、実際にシャックの無線機でも試しました。 受信系のトータルゲインが過剰になるのは承知です。 ただしいくらかでも緩和するためアンプの出力に10dBのアッテネータを入れました。 強い電波がひしめく7MHzはそもそも厳しいのですが、まずまず使いものになりそうです。 もちろん、既に十分なゲインを持っている市販の無線機に追加するのは無意味であり、むしろ有害と言うべきかも知れません。 後付けRF-Amp.の意味があるのは、もともとRF-Amp.が付いていなかったり、トータルのゲインが不足しているような受信機でしょう。そのような場合はたいへん効果的です。ここで扱ったようなRFアンプなら何れもノイズが少なくゲインも適当です。

 自作機の場合、ゲインのあまりないミキサに前置する使い方がFBです。ゲインのあるミキサでは時にオーバーゲインになってミキサの部分で飽和してしまいます。 昔の真空管機ではRF-Amp.で40dB近いゲインを得ている例もあったようですが、電源電圧が低い半導体の場合、せいぜい20dBくらいが適当なようです。ゲインはその程度にして、ローノイズ(低NF)であることを重視します。 テストしたようなRF-Amp.ならどれもその目的に使えるでしょう。ミキサがDiode-DBMならRF-Amp.との間に3dBのPADを挟むのも上手な使い方です。 もし、アンプ自体のゲインが過剰と感じられる場合は入力コイルの部分でタップダウンするのも良い方法です。

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 【3SK294で7MHzクリコン
 RF-Amp.以外の用途として、少し前のBlog(←リンク)で扱ったクリコン+再生検波式の受信機に3SK294を使ってみました。 元々は3SK35GRを使っていましたが、エンハンスメント型の3SK294に置き換えます。

 次項に回路図を示しますが、 検討した結果、第1ゲートの部分に抵抗器を一本追加するだけで同じように動作します。 ほか、いくらか調整のマージンを得るためにバイアス調整回路の抵抗値を変えたほうがよさそうでした。

 調整は3SK35GRの時と同じように行ないます。 ソース電極で波形を観測して水晶発振の発振振幅が 2Vppになるようにバイアス調整します。 受信しながら良く聞こえる状態にセットしても良いでしょう。

 感度など違いは感じられませんので、3SK35GRの部分は3SK294に置き換えることができます。 写真ではクリコン部分のみ交換していますが、原理的に第1ゲートに正のバイアスを掛ければ良いだけですから同様に再生検波回路も3SK294に置き換えできます。

3SK294クリコンの回路
 先に作った再生式受信機のクリコン回路部分を3SK294に置き換えて作った回路です。
 抵抗器が一本追加になりましたが、他の部分はほぼそのままです。 3SK35GRはディスコン(製造中止品)ですから、手に入るDual Gate MOS-FETに交換すると作り易いです。

 なお、変換基板に実装してから判明したのですが、3SK35のような金属缶タイプの2ゲートMOS-FETとは裏返しのピン配置になります。 従ってそのまま差し換えて試すことはできません。注意が必要です。 面実装した変換基板を裏返しにすれば同じピン配列にできますが、実装したデバイスが見えなくなると何となく不安なので行ないませんでした。 本番のプリント基板実装なら裏面(パターン面)に搭載すれば辻褄が合います。(笑)

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 Dual Gate MOS-FETが活躍するのは、シンプルな1石クリコンや再生検波回路くらいかもしれません。 しかし、性能が悪いわけではないので使わずに死蔵するのも勿体無いと思います。 ただし、どうしても部品数が増えてしまいますからなるべく2つあるゲートが活かせるようなアプリケーションに使うとスッキリしそうです。 今回の実験では、RF-Amp.と1石式のクリコンを試しました。 他には第2ゲートに局発を注入する形式のミキサー回路もなかなか旨く働いてくれます。 類似の用途ではダイレクト・コンバージョン受信機の検波器があります。
 もちろん他の回路への応用も可能なのですが、あまり必然性のない使い方になってしまうでしょう。他に適当なデバイスがなければ別なんですが・・・という感じです。 でも、優秀なデバイスを埋もれたままにしては勿体ないです。機会を見て使って行きましょう。

 時代に連れて色々なデバイスを使ってきました。その当時は便利で優秀と思って買い貯めたデバイスも後にはさらに良いものが登場して一気に陳腐化することも度々です。 半導体の進歩は留まるところを知りませんからね。 程々に買い置きして、自作に支障のないようにしておくくらいが丁度良いのかなあ・・・と思っています。 そうは言っても過去に買い貯めた「しがらみ」から容易に抜けられず、いつまでもレトロな路線ではそのうち誰からも相手にしてもらえなくなりそうです。(爆) ではまた。 de JA9TTT/1

参考:FET(電界効果トランジスタ)について、このBlogには関連した話題がたくさんあります。もし興味を覚えたらBlog画面の上部左側にある検索窓に「FET」とインプットして検索でご覧を。ほか、何か疑問とかあれば遠慮なくコメントして下さい。

おすすめ・追加情報:ヨーロッパ系のデュアルゲートMOS-FET:BF998を比較測定した続編のBlog(←リンク)があります。 3SK35や3SK59,etcとの比較用実測データもあり。

(おわり)