2019年7月17日水曜日

【回路】Regenerative Receivers (3)

再生式受信機・その3 セラロック®︎式の予備テスト
 【セラミック発振子
 写真は手持ちのセラミック発振子(共振子・振動子)です。あとでよく見たら一部にセラミック・フィルタが混じっていました。(笑)

 手持ちの資料やYouTubeの動画など参考にしてどんな「再生式受信機」を試そうかと考えてみました。 印象に残った一つにVK3YE / Peterのセラミック発振子を使ったものがあります。 特に「シングルシグナル」(←先回のコラム参照)に興味を持ちました。 もちろんそのほかの「引張りがない」「強信号に強い」と言った特徴も注目すべきポイントです。

 あいにく、彼が使ったような都合の良い周波数のセラミック発振子は持っていません。しかし幾らか周波数は違っても本質は同じだろうと思うので手持ちを使ってテストしてみることにしたのです。 さっそくやってみましょう。

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 いまでは懐かしい「再生検波式受信機」を扱う第3回目です。(第2回はこちら) 高性能な「通信型受信機」を作るわけではありません。 かろうじてHAMの交信に使えるかどうかと言ったミニマムな受信機です。 高級志向のお方の興味にはマッチしません。  つまらないと言われても困るので、あらかじめ書いておきます。

 【手持ちセラロックで受信テスト
 さっそくテスト回路を作ってみました。 セラミック発振子とトランジスタ(2SC372Y)を3石を使った再生式受信機の基本的な部分です。

テスト回路で確認すべきことは:
(1)再生検波回路としてうまく動作するのか?
 YouTubeの動画でも実績はありますが、回路としての感触はやはり自身で確認しないとわからないものです。
(2)感度はどうか?
 「再生検波回路」としてうまく動作しても低感度では困ります。どれくらいの受信能力があるのか信号発生器(SSG)などを使ってテストします。
(3)受信周波数の可変範囲はどうか?
 一般的な再生式受信機の受信周波数範囲は同調回路の周波数可変範囲となります。セラミック発振子はそもそも固定した周波数を発振するのが目的です。バリコンだけでどれくらいの周波数範囲を可変できるものでしょうか。
(4)シングル・シグナル受信は本当か?
 条件を変えながらシングル・シグナル受信が可能か否かを確認します。
(5)強い入力信号で引き込み(Pull-in)は起こらないのか?
 信号発生器から様々な強さの信号を与えて引き込みの状況を確認します。
(6)周波数安定度はどうか?
  受信周波数の安定度は受信機の3要素(ほかに感度、選択度)の一つです。CWの受信では音調の変化として現れますが、SSBでは復調音の良し悪しにも関係します。 ワッチのみならともかく、大幅な周波数変動があると交信の支障になるのでQSOするためには重要な項目です。

 以上のような目的・視点で手持ちのセラミック発振子を使って事前の評価を行ないました。 結論から言ってしまうと、総合的な結果から判断して十分に「合格点」でした。 重要な項目についてはこのあと実測結果など交えて話を進めます。

 【Digi-Keyで買えるが
 手持ちのセラミック発振子を使った試作結果はなかなか良好でした。 しかし受信可能な周波数は使うセラミック発振子で決まってしまいます。 HAM Bandにちょうど合った手持ちはなかったのです。

 さらに残念なことに国内の通販ショップを幾つかあたっても周波数がちょうどHAMバンドに掛かっていて、うまく使えそうなセラミック発振子は「発見」できませんでした。 海外通販まで探せば可能性もありそうですが面倒なので半ばあきらめかけたのですが・・・。(真っ先に調べた中華通販もダメそう)

 改めてVK3YEの動画を見ていたら、彼はオーストラリアのDigi-Keyで7160kHzのセラミック発振子を手に入れたらしいことがわかりました。 Digi-Keyならおそらく世界共通のはずです。 さっそくDigi-Key Japanで調べたら該当のセラミック発振子が売られていました。 価格も単価50円以下とお手軽です。 しかしDigi-Keyで残念なのは注文1件あたりの基本手数料が高いことにあります。 どうしてもダメならそれでもとは思ったのですが・・・。

 【3端子のセラミック発振子
  たまたま雑誌を見ていたら、国内通販ショップのmarutsu(マルツ)がDigi-Keyの商品を1個から扱うようになったと言う広告が目にとまりました。

 試しにmarutsu(←リンク)のサイトに飛んで調べたら目的のセラミック発振子が1個から買えることがわかりました。 もちろんDigi-Key直接よりも割高になります。 しかし簡易包装での発送がチョイスでき、安い送料で済むため安価な部品の少量購入ならメリットがありそうです。

 さっそく注文してみました。 私が購入したセラミック発振子は、7160kHz、7200kHz、3580kHzの3種類です。 製造メーカーは村田製作所です。 単価は40円から43円でした。価格は為替の状況によって変動があると思いますので興味があればご自身で調べてください。参考までに送料は259円でした。8月1日からネコポスの扱いになるので350円+税になるそうです。(価格・送料は2019年7月現在のもの)

 写真は7160kHzのものです。他の2つも外観・形状は同じです。 このセラミック発振子は3端子型です。中央のピンがGND端子です。  両側のピン間にセラミック発振子が入っており、さらにそのピンとGND間にはコンデンサが入ってπ型の回路になっています。この写真の例ではGND間のコンデンサは15pFのようです。

 このコンデンサは発振回路を構成する際に必要で、外付けを省くためのものです。 取ってしまうことはできないので応用上は少々不利ですが仕方ありません。 そのままで試してみることにします。 まあ、目的の用途に使えさえすれば良いので・・・ :-)

 【セラロック発振器のテスト
 「再生検波回路」を突き詰めて言うと「発振回路」のようなものです。 この例ではコルピッツ型発振回路と等価です。 前回のBlogではハートレー型やグリッド同調プレート帰還型などの「発振回路」そっくりの検波回路が使われているのがわかるでしょう。

 従って発振回路の数だけ「再生検波回路」があると言っても良いくらいです。注1 もちろん、単に「発振」させるのが目的ではありませんから「検波回路」としての適性も要求されます。 しかし大雑把に言っていずれの発振回路でも「再生検波器」を構成できそうなことがわかります。 あとは併せ持つ低周波の増幅能力の優劣で感度が決まると言った感じでしょうか。(注1:発振器でも非正弦波の、例えば弛張発振器は旨くありません)

 もう一つ重要なこと、普通の発振回路との違いは「スムースな発振状態の加減」にあります。 一般的な発振回路・・・LC発振回路、水晶発振回路を問わず・・・では、確実な発振が起こることが最優先です。微弱な発振状態など普通は目的としません。 再生検波回路では発振が起こることも必要ですが、「発振直前」の状態から「弱い発振」さらに「少し強い発振」までスムースに加減できることが極めて重要なのです。

 検波して得た低周波信号に対する増幅作用が十分にあって、発振状態の加減がスムースならどんな発振回路でも「再生検波回路」として使える可能性があります。 こんな話は過去の書物で見たことはないかも知れませんけれど・・・ウソではありません。(笑)

 写真はセラミック発振子を使ったコルピッツ等価型の発振回路で、発振周波数の可変範囲や発振振幅の加減がスムースに行なえるか確認している様子です。 回路は下記に示します。

 【テスト回路
 おもに発振周波数の可変範囲を調べるために試作した回路です。 基本的にどの回路も同じですが、(A)から(D)まで4種類の回路定数になっています。 なお、(A)、(B)の回路では7160kHzの発振子、(C)は7200kHzの発振子、(D)は3580kHzの発振子を使って発振させます。

 これは使用するセラミック発振子によって回路定数を変えたほうが望ましいからです。 また発振に使うトランジスタによっても定数を変える方が良いようです。

 発振に使うトランジスタは(A)、(C)、(D)の回路では2SC1923Yを使いました。これは2SC1815(Y or GR)でも大丈夫です。 RF特性の良いトランジスタの方がやや有利と言えますが、数MHzですから汎用のトランジスタでも十分でした。 「検波回路」としての特性も同じようでした。

 なお、(B)の回路はレトロなゲルマニウム・トランジスタ:2T76で実験した際のものです。遊びの実験なので無視してもらって結構です。(笑)

 これらの回路はセラミック発振子を使った発振回路になっているのですが、「再生検波」を意識した回路にもなっています。 一般的な発振回路では「確実な発振」が目的なので、バイアスの与え方が異なります。 この図のようにベースに高抵抗(数MΩ)を経由した与え方などしません。 図のような方法でバイアスを与えると、発振停止から弱い発振の開始・・・強い発振までスムースな加減が可能なのです。 「再生検波回路向き」と言うわけです。 普通の発振回路のようなバイアスの与え方だといきなり「強い発振」が始まってしまい「再生検波回路」としては不適当なのです。 エミッタ抵抗が10kΩと高いのもいきなり強い発振へ移行するのを防ぐのが目的です。 普通の発振回路ならもっと低くしてただちに強い発振が起こるような回路定数にします。 回路定数の選び方が再生検波回路向きになっているのです。

 なお、トランジスタの直流増幅率:hFEによってR2(R12、R22、R32も同じ)は変更する必要があります。   (B)の回路例のようなhFEの低いトランジスタ(100以下)なら1MΩくらいが適当です。 またhFEが300〜400と言ったトランジスタでは3.3MΩや4.7MΩが良い場合もあります。  製作後に再生状態や発振の様子を見ながら加減するのも効果的でしょう。 しかし、図のような2.2MΩでおおよその場合にマッチするはずです。 トランジスタの種類によっても再生検波への適否があってなかなか面白いものです。(拙宅ではCCS6400と言う正体不明のTrが意外に良かったりして・・・w)

参考:ゲルマニウム・トランジスタにはコレクタ・ベース間の漏れ電流:ICBOが大きいものがあります。 その場合、ベース抵抗を大きくし過ぎるとコレクタ電流の加減がうまくできなくなります。 ICBOが小さいものを選ぶか、ベース・エミッタ間にも抵抗を入れるなどの対策が必要になります。かなり古いトランジスタでもうまく活用できる可能性があるので試してみてください。

                   ☆

 これらの回路で発振させた時の発振周波数範囲を下記にグラフで示します。 この周波数範囲がそのままセラミック発振子を使った再生式受信機の受信周波数範囲になるわけです。 なお、必要に応じてバリコンの容量値を選んだり並列に入れるコンデンサを加減して使い易い周波数範囲に設定します。

 【実測VXO特性
 3種類のセラミック発振子について周波数の可変範囲を調べました。 この周波数可変範囲が再生式受信機の受信周波数範囲になります。 テストした発振子は規格の発振周波数が7160kHz、7200kHzそして3580kHzの3種類です。

 7160kHzの発振子は上記回路図の(A)または(B)の回路定数で測定しました。 7200kHzは(C)で、3580kHzは(D)の回路定数です。

 測定結果はグラフのようになりました。縦軸は周波数で横軸がバリコンの容量値です。 いずれの発振子も外付けでコンデンサを追加する形式になるため、規格の周波数よりも低い発振周波数になりました。
(1)7160kHzの発振子の場合、実用的には6970kHzから7110kHzくらいをカバーします。 7MHzのHAM Bandの下半分をカバーできます。CW受信向きと言えるでしょう。
(2)7200kHzの発振子では7030kHzから7160kHzくらいがカバーできます。 どちらかと言うとSSB向きのカバー範囲です。
(3)3580kHzの発振子は3460kHzから3560kHzで発振できました。 3.5MHzのCW受信には適当でしょう。

 いずれも回路定数を加減すると多少は変更も可能です。 ただし発振の加減のスムースさや周波数トビが起こらないかと言った条件もあるので総合的な再確認が必要です。

 結果として、7160kHzの発振子を使うと7MHz帯のCW受信に適したカバレッジが得られそうです。 同じ周波数の発振子を3個ほど交換して比べましたが、数kHzの差はあっても大きな違いはありませんでした。 再現性は悪くないでしょう。

 7200kHzの発振子は7MHz帯のSSB局がよくオンエアする周波数をカバーできます。 周波数安定度もLC回路を使った再生式受信機よりずっと優れるため、SSB局が思ったよりも良好に受信できそうでした。 扱い易い減速比を持ったダイヤルをつけてやれば実用になりそうです。

 3580kHzの発振子は3.5MHz帯のCW受信に向いています。 最大容量が50pFくらいのバリコンでも十分な可変範囲が得られそうです。 あまり容量の大きなバリコンを使うとオフバンドの範囲まで変化します。

 セラミック発振子の性能が現れるので、周波数安定度はLC回路を使った再生検波回路よりずっと良いのはもちろんです。 ただし温度係数は大きめですから水晶発振器やDDSと比べたら可哀想です。 それでもなかなか安定なので発振器としても使い物になりそうでした。

参考:実験した回路は水晶発振子でもうまく動作します。その代わり周波数の可変範囲はずっと狭くなります。一般的な水晶発振子を使ったVXOで行なわれるようなコイルを挿入する形式も可能です。

次回は
 Part3では主にセラミック発振子の周波数可変特性と発振調整のスムースさを調べました。 セラミック発振子を使った再生検波回路ではこの部分が最も基本だからです。

 marutsu経由で購入したセラミック発振子はなかなか良好でした。 Digi-Keyで売っている部品は正規の商品ですからジャンクと違って再現性は良いはずです。 入手性も悪くないだろうと思います。 この評価結果は同じような回路で試作するなら十分使えるでしょう。

 少々長くなってきたので一旦ここで区切りにします。 次回はセラミック発振子を使って試作した再生検波式受信機を具体的に扱うつもりです。 写真はレトロなトランジスタを使って試作中の様子ですが、ほかにも幾つかバリエーションを交えたいと思います。 まずはブレッドボードでの試作ですが好成績ならハンダ付けで製作して実際の交信まで進めてみたいです。 さて、どうなりますでしょうか・・。

                   ☆

 今回は再生式受信機の検討というよりもセラミック発振子を使った「VXO回路」の検討のようになってしまいました。 もちろん再生検波回路への活用が主目的ではありますが、例えば送信機の主発振器としても使えます。 その時は強い発振状態に固定すれば良いわけです。 セラミック発振子はQが高く、LC同調回路を使ったVFOよりも良好な周波数安定度が期待できます。 さらに発振素子そのものが小型ですから、シールドして外部の影響を防ぐのも容易でしょう。 振動に対しても有利です。 バリコンの可変範囲に対する周波数変化も穏やかですから減速比の小さなダイヤル機構でも使いやすいと思います。 従って送信機への適性も十分あると思います。

 さて次回もボチボチ行きましょう。 再生式受信機として全般的な話を続けたいと思います。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクfm

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2019年7月3日水曜日

【回路】Regenerative Receivers (2)

再生式受信機・その2 YouTube編
 【YouTubeに見る再生式受信機
 再生式受信機の第2回です。 今さらながら再生式の受信機を扱ってみようと思ったのはYouTubeの動画を見たからでもあります。(第1回はこちら

  YouTubeでは世界中のHAMがアップした様々な受信機の動画を見ることができます。 自作品ではシンプルな再生式受信機がたくさん見つかるでしょう。 あまり面白みのないものが殆どかも知れませんが、かなりユニークで興味深い動画も見かけます。 中には暫く見入ってしまうものさえあります。(笑)

 では、再生式の受信機が現実に通信の分野で使われていた頃の様子はどうだったのだろうかと言う疑問が湧いてきました。 あんがい若い(?)私にとっては「紙の知識」に過ぎませんが、有名な再生式受信機としてSW-3という米National社の1-V-1があったそうです。 実際それをレストアして受信する動画もあって面白かったです。 しかしSW-3はずいぶん古い設計のシンプルな受信機です。 それで実用になっていたと言われればそれまでですが、より本格的な再生式受信機はなかったのでしょうか?

 たまたま『魅惑の軍用無線機』でお馴染みのJA2AGP矢澤OMのHomepage(←リンク)が移転されたとのことで、久しぶりに拝見していたらRCAのRALという再生式受信機に目がとまりました。 RALはプロ用の受信機です。プロが本気で作った再生式受信機はどんなものだったのでしょう?

 それで、実働状況の動画はないかと思ってYouTubeを探すと写真のような動画(←動画へリンク)が見つかりました。 フルセットで実働させており、実際に受信して様子を見せてくれます。  RALの動画は他にも幾つかあります。スーパーヘテロダインではない受信機でどんな風に聞こえるのか、良かったらYouTubeでどうぞ。(笑)

                   ☆

  こんな切っ掛けもあって改めて「再生式受信機」(TRF Receiver)に興味を持ったようなわけです。 興味は人それぞれです。 こんな古臭いものに何の意味もないとお感じでしたら早々にお立ち去りください。 この先、無理に読み進むような話は何も書いてありませんから。w

RALの回路
 さっそく動画をご覧になったでしょうか? 良く聞こえるものだと感心しますね。 微弱なHAMの電波がどう聞こえるのかまではわかりませんでしたが、相当の実力を持っていそうなことはわかります。 RALは「2-V-2」構成の受信機で、回路は左図のようになっています。 9バンドで0.3MHz〜23MHzをカバーします。 この受信機は船舶用で、長波帯用にはRAK型があって船舶の通信室ではRAKとRALがセットになって使われていたようです。

 ストレート受信機ですからさほど複雑ではありません。 2-V-2でRF2段なのはゲインを稼ぐというよりも検波以前の不要信号の除去にあるのでしょう。さらに再生検波回路の「発振勢力」がアンテナから輻射されぬよう防止する意味も大きいでしょう。 再生検波回路は5極管(6D6)によるオーソドックスな形式です。 低周波増幅部には細かく周波数が切り替えられるオーディオフィルタが付いています。これで混信対策も万全な訳です。 また再生式受信機では珍しい自動音量調整、即ちAVCが設けられています。  こうした受信機は電気回路よりも見るべきなのは構造の方かも知れませんね。 ここまですれば再生式受信機でもプロの使用に耐えるという見本のような存在です。 下手なスーパーよりも存在感のある受信機です。

                  ー・・・ー

 しかし私は動画を見て再生式受信機の限界も感じました。 まず、周波数の読み取りですが直読式ではないのです。 決められた周波数を聞くためには、はじめに同調曲線のチャートを使ってダイヤルの数字を合わせます。そのあと受信機の右脇下にあるような「ヘテロダイン型周波数計」を使って正確な周波数にセットするのです。 決まった相手局との交信ならダイヤルの数字をメモっておけば良いので欠点とは言えません。しかしランダムなワッチには使いにくいでしょうね。
 流石にプロ用なので「引き込み」(Pull-inあるいはInter-Lockとも言う)はうまく抑えてあります。 しかしCWのようなビート受信では自己の発振周波数と受信波が接近してくると幾らか引き込まれるのがわかります。 強い局で顕著なのでRFのゲインを絞れば軽減できます。しかしよく出来たスーパーなら普通は起こらない現象なので扱いの厄介さを感じますね。
 また、原理上シングルシグナル受信にはなりません。 CW(無線電信)の受信では自身の発振周波数の上下2箇所に同じようにビートが現れます。 そのために細かく周波数が切り替えられる低周波フィルタがあるのでしょう。 逆サイドにビート混信を感じたら受信周波数を微調整し、フィルタ周波数を切り替えて混信から逃げる操作をします。これは近接信号による混信に対しても効果的です。 素早く良好な受信を行なうにはオペレータの技量を要します。それなりの受信訓練が必要だったでしょうね。hi hi

コラム :シングルシグナルとは
 今のHAMが普通に使っているような選択度が十分な受信機では、相手の電波が聞こえるのはダイヤルの1箇所だけです。CWフィルタが付いているような近代的なHAM用受信機ではこれが当たり前でしょう。
 しかし再生式受信機では同調周波数の上下2箇所でビート音が聞こえるのです。 CWを受信していてダイヤルを回しだんだん周波数を近づけて行くとビートの音程は低くなります。 やがて周波数が一致しゼロービートになりますが、更にダイヤルを回して行くと再びビートが聞こえ始めます。 ダイヤルの2箇所の位置で同一局が聞こえる訳です。これはシングルシグナルではないと言う事です。 原理上やむを得ないのですが再生式受信機やダイレクト・コンバージョン式受信機の欠点です。 おかげでHAMバンドが2倍にぎやかに聞こえてしまいます。(笑) これを逃れる手段として、ダイレクト・コンバージョン式なら移相打消式(PSN式)も考えられますが、再生検波式ではその手は使えません。

WU2DのJ-FET受信機
 RALのようなプロの再生式受信機ではなく、アマチュアの再生式受信機の動画もたくさん見つかります。 写真は面白い動画をたくさんアップしているWU2D / MikeのJ-FET(接合型電界効果トランジスタ)を使った再生式受信機の一コマです。該当の動画(←リンク)

 レトロなゲルマニウム・トランジスタを使った例などと共に様々な再生式受信機が紹介されていますが、写真のこれがいちばんスムースに受信できるように感じました。 Mikeが言うようにローノイズでスムースな再生が特徴のようです。

 アンテナからのリンクコイルの結合度を機械的に可変する仕組みが楽しいです。 強い信号で引き込み(Pull-in)があるのは避け難いので入力信号の大きさをスムースに加減できる機構は再生式受信機に欠かせません。 一般にアンテナと直列にバリコンやボリウムを入れて加減しますが、調整のしやすさではリンクコイルの結合度を変える方式にメリットがあるように感じました。  結合度を変えると少し周波数が動くのはやむを得ませんね。

J-FET受信機の回路図
 これは動画に出てくる回路図をキャプチャしたものです。 ハートレー式再生検波回路になっています。 面白いのは再生調整の方法で、ドレイン側に入っているバリキャップの静電容量を変えて加減しています。

 これで本当に再生の度合いが加減できるのかちょっと疑問もありますが、バリキャップ・・・整流用ダイオードで代用ですが・・・でうまく動作しているようなので興味深いです。 まだ試してはいませんがリンクコイルの結合度可変機構と合わせて実験してみたいですね。 おヒマなお方はそっくり真似てみては如何でしょうか?

 Mikeの動画には真空管式を含めて色々な再生式受信機が登場するので楽しいです。 6AK5を使った単球式オートダイン受信機とQRPな単球送信機で遠方とQSOする動画など1950年代のHAM局を彷彿とさせます。 メーカー製のリグをずらりと並べるのもFBですが、こう言うのがホントのHAM局じゃないかって思ってしまいました。(笑)

VK3YEのセラロック式再生受信機
 オーストラリアのHAM、VK3YE / Peterも積極的に自作HAMの動画を投稿しています。 ご覧になったお方もあるでしょう。 VK訛りの英語なのでちょっとわかりにくいことがあります。 Low-pass Filterが「ロイパスフィルタ」だったり、Ceramic Resonatorが「セラミック・スナイダ」のように聞こえてしまうので慣れるまで聞き取りに苦労しました。(笑) 映像の作品を拝見すると配線は大雑把で如何にもアマチュアっぽくて親近感がわきます。(爆)

 この動画(←リンク)では表題のように再生式受信機でシングルシグナルな受信が可能なのか?・・・と言う驚くような内容です。 これについてはすでに私も実験済みなので後ほど詳しく書くつもりです。しかし、なかなか興味深いお話です。

 この受信機は「シングルシグナル」以外にもメリットがあります。 信号による引き込み:Signal Pullingがほとんどない、だからRFゲインのコントロールは必要ない、周波数安定度に優れているなど見掛けとは違って(笑)なかなか素晴らしい性能だと思いました。 HAMバンドの受信機がコイルを一つも巻かずに作れると言うのも驚きモノです。hi hi

セラロック式再生受信機の回路図
 同じく動画からキャプチャしたセラミック・レゾネータ付き再生式受信機の回路図です。

 アンテナを非同調のRFアンプのベースに繋ぐなど、ビックリするような回路になっています。 再生検波はバイポーラ・トランジスタを使ったコルピッツ型発振器と等価な回路になっています。 セラミック・レゾネータ(セラロック)の一端にRFアンプからの受信信号を小容量経由で与えます。  このようにしてまったくコイルを使わずに完成させた驚くような再生式受信機です。(笑) イイカゲン(失礼)にも見える受信機ですが受信成績は「なかなか」のものと言えるでしょう。 上記のリンクとは別の動画ですが、同様の受信機と出力30WのMOS-FET送信部を組み合わせた自作トランシーバで米国とQSOする様子が見られます。

                 ー・・・ー

 いくつかYouTubeの動画を見てきましたが、せっかく作るならやはりQSOに使えるレベルを目指したいものです。 RALのように本格的な受信機はハードルが高過ぎますがMikeやPeterの作例なら作れそうです。 やはりHAMなのですから短波放送を受信しているだけではちょっと物足りなさを感じます。 まずは高性能でなくとも実際の交信に使えるレベルの「再生式受信機」を目指したいものだと思いました。 それほど「高級」でなくても行けそうに思うのですが・・・。(笑)

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 YouTubeの動画を全部見た訳ではありませんが、他にも沢山あってどれも興味深いです。 それぞれ力作揃いですから優劣はないと思います。 思い思いに自作を楽しんでいる様子はたいへん微笑ましいと思いました。 再生式受信機を単に「レトロな短波ラジオ」として製作するだけではなく、HAMの交信に使うところまで持ってゆくのはスリルたっぷりで素晴らしいチャレンジではないでしょうか。

 ここで紹介した例をそのまま再現するつもりはありませんが、それぞれのアイディアなどヒントにさせてもらいながらオリジナルな回路に纏めるつもりです。 既に幾つか実験も始めているので順次レポートできたらと思っています。
 ところで、実際のところ再生式受信機を作ってみたお方はどれくらい居られるのでしょう? ご経験談などコメントをいただけたらVY-FBです。ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm