2024年7月21日日曜日

【部品】7mm SQ Coils

部品:7mm角のコイル

[introduction:]
Many electronic devices these days are coil-less. However, it will be difficult to completely eliminate coils. Coils are indispensable electronic components, especially for us HAMs who build our own radios. This Blog explains in detail how to make use of 7mm square shielded coils that were obtained as surplus. In addition, there is a distribution guide for the coils. The free distribution is limited to residents of Japan. However, the information for making coils can be referred to from all over the world. Please make use of it. hi hi(2024.07.21 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

コイルはもう稀少部品かも?

某月某日:群馬県にお住いのOMさんからお手紙が届きました。

 曰く「7mm角のコイルが沢山あるが貰ってくれる人を探しています」とのことです。
私も自身で使う分くらいのストックはありますから、これ以上もっと増やしても生きてるうちに使いきれるものではありません。(笑) それでお断りしようかとも思ったのですが・・・

 ところが、ネットの掲示板やSNSの書込みなどを拝見しているとコイルに困っている人がまだ結構おられることがわかります。

 一つはコイルを作る(巻く)ための詳しい情報を探している人がおられます。おそらくただちに役立つような具体的な作り方の情報はあまりないのが問題なのでしょう。

 もう一つは、コイルを作るための材料の問題です。 電子機器の製造が海外へ移転し、さらにコイルレスな電子機器が多くなったため、コイル・メーカも国内ではほとんど生産していません。したがってRF用コイル作りの部材も入手難になっているのでしょう。

 これらの2つには密接な関係があります。具体的な作り方(巻き方)を説明するためには「現実に手に入るような部品」を使った作り方を説明しなくてはならないからです。 ですからご厚意に甘えて余剰品らしいコイルを頂戴し、それらを欲しいお方に「情報とともに配布すれば幾らかでも自作の応援ができる」のではないかと思ったのです。

 要するに「素材」と「情報」がコイル作りに大切ということです。

 あとはちょっとしたコイル巻きのスキルも必要そうですが、これはそれほど難しくはないので実際に巻いてみて実地で習得していただくのが近道でしょうか。(笑)

 コイルがさっそく届きました。(写真) かなり大量です。有り難うございます。

                   ☆

 すでに自作HAMを卒業なさったお方はこの先ご覧になっても意味はないBlogです。ご覧になるのは自由ですが役に立たなくてもご勘弁を。二度と来ない今日という一日、あなたのお時間はもっと有意義なことに・・・

 もし、FCZコイルやそれに類似のコイルを探しているのでしたらぜひご覧ください。 まずはどんなコイルなのか紹介したあと、FCZコイルと類似の「ほぼFCZコイル」を自作するための具体的な情報を公開します。製作のヒントやノウハウも余さず情報提供します。 さらに希望されるお方に「現品を(無料で)配布」しますのでBlog末尾の配布案内をご覧のうえ、申し込んでください。良かったら自作好きのお友達にも教えてあげてください。

◎ まずは配布するコイルはどんなものなのか知っていただけたらと思います。


7mm角コイルの外観
 コイルは3種類あります。いずれも7mm角のシールドケース入りのコイルで、既に巻線されており、同調用のコンデンサも内蔵されています。

 有名な東光製のコイルに「7K型」というものがあります。このコイルの外形寸法は7Kと同じですが内部構造は異なっています。7K型は段型の巻溝があるボビン構造になっていますが、このコイルはぜんぜん異なっています。詳しくはこの後の写真をご覧ください。

 おおよその共振周波数は3つとも5.6MHzくらいになっています。巻き換えることなくそのまま使えるとたいへん便利なのですが、活用できる可能性はあまりないように思います。 一応、コンデンサを外付け(追加)して3.5MHz帯のコイルとして使うことは可能です。 巻き数の関係さえ問題なければそのまま使うのも良いだろうと思います。 例えば5MHz帯のI-Fアンプの段間コイルに使うと言った方法があるでしょう。

 私は巻き替えもいとわない方なので、そのまま使うアイディアはあまり思い浮かびませんでした。 しかし次項で詳細な巻線とインダクタンスの情報を提供していますので「そのまま使う」方法もぜひご検討されてください。 うまい使い方を見つけたらぜひ教えてください! 皆さんと情報共有しましょう。

7mm角コイルの仕様・概略
 連続した型番になっていますから、何か特定の機器のために製作されたコイルなのでしょう。

 何に使ったコイルなのか、具体的な機器は想像できませんでしたが約5.6MHz付近の高周波回路で使う目的で製作されたようです。

 私が数個を実測して得た情報を左図に示します。 これは実測で得たものであって本来のコイルの仕様書とは異なっている可能性があります。一応、念のため。 さらにインダクタンスや同調容量にはかなり「ばらつき」があって左図は実測で得た概略値・平均値です。 もちろん、コアがあって調整できるのでばらつきは吸収できるようになっているのでしょう。

 何か特定の機器の固有の回路のために設計されたコイルです。FCZコイルのような汎用品(はんようひん・幅広く使える品)とは異なるので、そのまま使う場合は共振周波数だけでなく、同調側と2次側の巻数比にも気を配ってください。
 2次側は次段との結合用のリンクコイルとしては巻き数が多すぎると思います。またT2(黄色コア)には2次巻線が巻いてありません。

 なお、こうした7mm角コイルのピン間隔は2.50mmです。穴が2.54mmピッチのユニバーサル基板(ジャノメ基板)にギリギリ挿入できます。ジャノメ基板で使えるのは便利です。

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 そのまま使えれば有難いのですが、たぶん使いにくい筈です。 以下に分解方法を示しますので巻き替えて自身の目的にマッチしたコイルに作り変えることを考えましょう。FCZコイルの同等品を作るのもいいです。 短波ラジオや通信型受信機のほか、HAM局の送信機などへも幅広い目的で使うことが可能になります。


コイルの分解方法は?
 外側を覆っている「シールド缶」を外すのが分解の最初の作業です。

 上側の調整穴に見えるコアにドライバの先端を当てて叩いて押し出すという方法があります。締め付けが弱いので大した力も要らずシールドが外せます。

 ほかに、写真の方法があります。 調整用のコアを反時計方向に回して行くと、すぐシールド缶の上端に突き当たります。 さらに少し力を入れながら回して行くと写真・中央のようにシールド缶が台座部分から浮いてきます。 2mmくらい浮いて来たらあとは台座の側を引っ張れば、引き抜くことができます。 わりあい簡単にシールド缶を外せますので「改造の第一歩」と思って試してください。

 すぐに要領がつかめて、簡単に外せるようになります。 なお、再組み立てはコアを時計回りにねじ込んで、そのあと分解前の状態になるよう組み立てます。

 コアの有効な回転範囲ですが、2回転と1/4くらいです。 時計回りに押し込んでゆくと突き当たります。そこから反時計方向にもどして、約2回転と1/4くらいの有効範囲があるわけです。 突き当たってから1回転くらい戻したあたりがコアの中心位置と考えられます。このあとインダクタンスのグラフがありますが、コアがこの中心位置にあるときの値を測定しました。


7mmコイルの内部構造は?
 写真に内部構造を示します。
 台座の部分にメスネジが切ってあります。 そのネジに調整用のコアを押し込む構造になっています。 そのメスネジの部分が台座から「そびえて」いるので巻線するための「ツヅミ型コア」へ線を巻くのは少々厄介です。 しかし困難というほどでもありません。

 既に巻いてある巻線はφ0.08mmくらいの細い巻線です。巻いたあと柔らかなパラフィンのような樹脂で防湿処理されています。 巻線は容易に解くことができるので心配はいりません。 巻線を取り除く際に防湿材は取れるので事前除去は不要です。 巻線をほどいて行くと一緒に取れてしまいます。(巻き直し後の防湿材の再塗布は必要ないと思います)

 足ピンが3本出ている側を一次側とします。ピン番号で言えば1〜3番です。 ピンが2本出ている側が2次側で、ピン番号は4〜6ですが、一般的にこうしたコイルでは5番ピンは欠けている場合が多いようです。


内蔵コンデンサが不要なら
 巻き直しせずにそのまま使う場合、内蔵されているコンデンサが邪魔になるかも知れません。

 入念に作業すれば足ピンにハンダ付けされているコンデンサだけを取り除くことも不可能ではありません。
 しかしコンデンサを再利用するつもりがなければ「破壊」してしまうのがもっとも手っ取り早くてうまいやり方です。

 このコンデンサは円筒型セラミックスに電極を付けた構造で「チタコン」と呼ばれるものです。 その円筒は薄く割れやすいため簡単に潰して除去することができます。 なまじはんだコテでコンデンサだけを外そうと思うと苦労しますのでお薦めしません。 コンデンサが不要なら壊してしまうのがベストでしょう。 ドライバの先端などで押し潰してしまい、割れた破片をよく取り除いておきます。 コンデンサ両端の引出線の部分は残ったままでも支障はありません。

 なお、巻線と一緒にコンデンサも除去するのは比較的容易です。 はんだコテと先の尖ったピンセットを使って丁寧に作業すれば巻線とコンデンサを除去できます。上手にやればコンデンサの再利用も十分可能です。 完全に作り換えるのでしたら巻線とコンデンサをすべて除去することになります。


T2はバイファイラ巻きになっている
 上の方で説明していますが、黄色コアのT2だけは1次側がバイファイラ巻きになっています。

 1次側がバランスしたコイルが必要ならそのまま使うと良いです。 ただしこのコイルは2次側の巻線はありません。

 リンク結合で次段と結合したい場合は巻線を追加します。 一般にリンクは2〜5回も巻けば充分なはずですから簡単に追加可能でしょう。

 シールド缶を外したら調整用ネジコアを外し、φ0.16mm程度の巻線で2次リンクコイルを既に巻いてある巻線の上に巻きます。 ピン4とピン6へ配線を引き出してリンク付きコイルへの改造が完了です。 必要に応じで改造してみてください。 平衡度もマズマズのようなのでDiode-DBM回路の入・出力トランスに使うと言った活用法が考えられます。この応用ではコンデンサを除去します。コアは一番下まで押し込んだ状態でインダクタンスを大きくして使います。

 もちろん巻線をすべて除去し、新たな巻線で任意の巻き数のバイファイラ巻きコイルを作ることもできます。

◎ コイル巻きに関してはこちらのBlog(←このBlog内の記事へリンク)も参考にどうぞ。


巻数 vs インダクタンス
 巻き数とインダクタンスの関係を示したグラフです。測定にはLCRメータ:DE-5000およびQメータ:hp4342Aを使いました。

 このコイルはコアの出し入れでインダクタンスが可変できるので可変範囲も記入してあります。コアの可変範囲は2回転と1/4くらいあります。 巻き数が増えると可変範囲も広くなる傾向があって、コアの出し入れでずいぶん変化できることがわかります。

 巻線は直径:φ=0.16mmのポリウレタン電線(UEW線:ウレメット線とも言う)を使いました。 もう少し細い、例えば直径:φ=0.1mmを使えばもっとたくさん巻くことができますが、実際には「構造的な巻きにくさ」があるので作るのが大変になって来ます。 苦労せずに巻ける範囲として巻きやすい範囲でグラフを作成しておきました。

 整然と綺麗に揃えて巻く必要はありません。いわゆる「ガラ巻き」で問題ないです。綺麗に巻いても苦労に見合ったほどの違いはありません。もう一度言います「ガラ巻き」でいいんですよ。(笑)

 参考までに巻き線の太さを変えた場合の情報です。φ0.16mmより細い線・・・例えばφ0.1mmを使って巻くとインダクタンスがやや大きくなります。だいたい5〜10%くらい多くなるようです。 切れやすいので推奨はしませんがインダクタンスの大きなコイルが必要なら細い線を使うとたくさん巻けます。 逆にφ0.16mmより太い線は巻き芯の径が細いので巻きにくくなります。せいぜいφ0.2mmまでが良いでしょう。太いとたくさん巻けません。 コアの出し入れでインダクタンスが加減できるので巻線の太さは製作例と多少違っても大丈夫です。

 コアとしては、USF 08 T1(黒)のものを使いましたが、同じように巻いて比較したらT1〜T3のどれもほぼ同じでした。コアの塗装色は3種類ありますが、透磁率μには違いがありません。従って巻き替えるならどの色のコアを使ってもこのグラフと同じようになります。

 中間周波トランスのような2次側(リンクコイル)の巻線が必要な場合、2次側は目安として1次側の1/10くらい巻けば良いはずです。選択度を重視するなら2次側は少なめに巻くのが良いコイルのコツ(ノウハウ)です。 特にアンテナコイルのように50Ωのところに接続するなら、リンクは1〜3回とごく少なくする必要があります。

 空芯コイルと違ってフェライトコアを使ったコイルは、1次側と2次側の結合が密になります。2次側をかなり少なく巻いても十分な結合が得られますから少なめが良いのです。

 この表を使えば、自身が必要とするRF用のコイルを設計・製作できます。 たとえばこのBlogにある「短波ラジオ」(←リンク)の実験で必要なANTコイルやOSCコイルが作れます。もしコイル材料の入手難から諦めていたなら、これで短波ラジオが製作できるでしょう。
 ちなみに、リンク先の短波ラジオ用コイルをこのコイルで巻く場合:ANTコイルは1次側23回巻きで途中の4回目にタップ、2次側は4回です。OSCコイルは1次側が21回巻きで途中の3回目にタップ、2次側は7回巻きです。 ぜひお試しを。

 まったくのオリジナル設計は難しいと感じるかも知れません。 最初はFCZコイルの互換品を製作してみるのが良いでしょう。


ほぼFCZができる
 FCZコイルとほぼ同等のコイルを作るための巻き数一覧表です。FCZコイルを使うよう設計された回路にそのまま使えるはずです。

 コア材のフェライトの特性からあまり高い周波数のコイルには向かないため21MHz用の「FCZ-07S-21」までの範囲で一覧にしました。 21MHz以上でも使えないわけではありませんが、Qが下がって性能低下するのと、巻き数に対してインダクタンスが多くなりすぎるので使いにくく(作りにくく)なります。従って21MHzあたりまでで使うのが良さそうです。

 それでもHF帯の多数のバンドで使えるコイルが作れますので無線機や短波ラジオの製作に幅広く活用できます。

 なお、FCZコイルはもともと送信機の段間コイルとして考えられているようです。そのため電力をロスなく伝送するのが最優先で、選択度はあまり重視していないようです。そのため2次側(リンクコイル)の巻き数がかなり多めになっています。

 ですから受信機のアンテナコイルやIFT(中間周波トランス)の用途には負荷Q:QLが低くなりすぎて選択度が不足します。 もし受信機に使うなら、その対策として2次側の巻き数(ピン4とピン6番の間の巻き数)を表の値よりもずっと少なくします。半分もしくは1/3くらいが適当でしょう。具体的には1回巻き〜3回巻きで十分です。
(参考:あまりたくさん巻けないのでこのコイルを使って455kHz用のIFTの自作は困難でしょう。短波帯向きです。)

 FCZコイルはバイファイラ巻きと言って、2本の巻線をよじったものを使って巻いてあります。厳密な中点タップが必要ならバイファイラ巻きにすべきですが、おおよそ中点で良いならバイファイラ巻きにする必要はありません。
 たとえば20回巻きの中点タップ付きコイルが必要だとします。その場合、まず1番ピンから10回巻いて2番ピンに接続します。さらに3番ピンに向かってもう10回巻けば良い訳です。

 むしろ中点を外れたような位置にタップがあった方が良い場合も多くて、バイファイラ巻きにこだわらず製作される方が回路が最適化される場合も多いものです。 詳細は省きますが無理してバイファイラ巻きする必要はないことを明記したいと思います。

 もちろんプッシュ・プル回路のように完全な中点タップを理想とする場合はやはりバイファイラ巻きが良いでしょう。ニーズに応じて巻き方を工夫してください。


参考:FCZコイルの仕様一覧
 FCZ誌からホンモノのFCZコイルの一覧を転載しておきます。ほぼFCZコイルを自作される際の目安にしてください。 同じ巻き数を巻くと言う意味ではなくて製作時には一次側と二次側の巻き数比に着目します。
 一次側の巻き数は共振周波数、同調容量、インダクタンスから決めます。インダクタンスと巻き数の関係は上のグラフを参照すればわかります。「ほぼFCZコイル」はそうやって設計しました。

 FCZコイルは長いあいだJAの自作HAMを支えてくれました。 シールド付きで使いやすいため広く普及し、自作品の再現性向上にたいへん役立ってくれました。

 「自作の普及には既製品の良いコイルが必須だ」と言う、JH1FCZ大久保OM(故人)の先見の明あったので多くの自作HAMが助けられたのだと思います。 いまさらながら、ありがとうございました。


欲しくなったら
 以下、配布のご案内です。このBlogで紹介してきた7mm角のコイルをどなたにでも無償(タダと言う意味・笑)で配布いたします。

◎ 三種類のコイル各5個ずつ合計で15個送ります。

 郵送で送りますので、もちろん匿名のお方にはお届けできません。

 郵送先の情報は発送後すぐに消去します。それに年なので誰に送ったかなんてすぐ忘れちゃいます。身バレとかお気にされずに。(笑)


 このサービスは日本国内にお住いのお方に限定です。
(This service is available only to residents of Japan.)

配布をご希望されるお方は必ず

「郵便番号」
「住所」
「氏名(様)」

・・・の3行をわかりやすく書いたeメールを送ってください。メールのタイトルは「コイル希望」としてください。

メルアドはこのBlogの右の欄にあります。なお、このBlogのコメント欄にご住所を書くと危険なのでおやめください。見つけたらスグ消去します。必ずeメールで。

 お送りいただいたメールからその3行分を抽出して宛名ラベルを作り定形外郵便で発送する予定です。今月('24年7月)末に一旦締め切って、その後1〜2週間くらいで届くようにしたいと思っています。余っている場合はその後も2週間に1回程度の頻度でころあいを見て発送します。慌てなくてもだいじょうぶかも?? 残ってるうちは対応します。

 なお、発送用の封筒等はこちらで用意します。無駄な手数と経費の発生を防ぐ意味から送料をお送りいただく必要はございません。 お送りする数量は説明した三種類のコイルを各5個ずつ、合計で15個です。 もしそれでは足りないお方はご理由など教えていただければ追加して送ります。 そのまま転売する人はいないとは思いますけどやめてくださいね! あなたの使用目的・用途は問いませんのでご自由に活用されてください。

 ジャンクなコイルその物にはさほどの価値はないのかもしれません。しかし十分な情報さえあれば自作にすぐ活かせるのです。ジャンクに新たな価値が生まれるわけです。ぜひ使ってみてください。 足りなくなったら「おかわり」でもどうぞ。

先着の数名さんにはちょっとオマケ付けます!
 ↑早々にオマケ終了です。 コイルの配布は継続中、まだまにあいますがお早めに!

                   ☆

 真空管の話から突然あらぬ方向に飛んでしまいました。このコイルはQRP懇親会に持ち込んでの頒布も考えていたのですが、出席されるお方はかなり限定的です。 それに自作のベテランなのでコイルには困っておられないお方が多いように拝察いたしております。(笑)
 もちろん懇親会の常連さんもご希望なら遠慮なくどうぞ!! できるだけ広く使っていただけたらFBだと思い、地方のお方にも公平になるよう公開配布とさせていただきました。 最後になりますが、群馬のKさん、コイルのご提供どうもありがとうございました。

 2回休みかと思ってましたが何とか所用が片付いたので1回休みで済みました。 また、このCoilの話はたぶん今回限りのテーマです。 次回のBlogは真空管の話に戻ろうと思っています。お楽しみに。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm


◎ このBlogの公開からだいぶ時間が経ってからご覧になったお方へ:
読んでいるうちにコイルが欲しくなったらあきらめずにお問い合わせを。たくさんあるのでまだ残っている可能性があります。 残っているうちは対応できます。

2024年6月22日土曜日

【電子管】Using the Pentode as the Audio Amp. (3)

【AFアンプで五極管を・第3回】

introduction
I have many pentodes for RF. This blog is a continuation of the previous one. This time I will build an audio amplifier with pentodes for RF with 7-pin mt tubes. Hopefully I can expand the use of those pentodes. I tested three types of pentodes: 6CB6, 6AK5, and 19M-R10. The 19M-R10 is an original Japanese tube made for NTT's telephone relay network. All of the tubes can be used in audio amplifiers. hi hi (2024.06.22 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【再び五極管をテストする】
 前回Blog(←リンク)の続きです。 前回は9ピンmt管(Novel管とも言う)のRF用五極管を試してみました。

 既にテストした6BX6、6EJ7、そして6688/E180Fのいずれも、わかって使えばそれなりに「使えそう」と言う結果でした。 電圧増幅用の五極管はまだまだたくさんの種類があります。今回は手持ちの中から7ピンmt管を選んでみました。 これらもうまく使えるなら活用につながります。さっそくうまい使い方を発掘してみましょう。一般的に9ピンmt管よりも7ピンmt管タイプの五極管の方がポピュラーかもしれません。

 前回と同じように、ごく基本的なアンプをブレッド・ボード(BB)上に製作しました。 五極管の単管アンプではなく、同じようにバッファ・アンプを設けてあります。前回同様バッファ・アンプは五極管を三極管接続(三結)にしたカソード・フォロワです。

 検討対象の球が6.3V管の場合にはバッファ・アンプに6AU6を使います。これは前回と同じです。 対象の球が19M-R10の場合はバッファも同じ19M-R10にしました。これはヒータ回路の都合です。 なお、三結のカソード・フォロワとして使うのでしたら6AU6と19M-R10ではたいした違いはありません。

 写真・右側が検討対象の五極管です。この写真では19M-R10が刺さっています。 左側はバッファ・アンプの19M-R10で三極管接続のカソード・フォロワです。 回路図は前回のBlog(←リンク)に掲載しているのでそちらを参照してください。

                    ☆

 なんだかんだの前にさっさと実験を継続しましょう。今回も無線関係(ラジオ)のハナシはほとんど登場しないので「ラジオ作り」をご期待されていると面白くないです。早々のおかえりが宜しいかもです。 もちろんコメントでラジオのお話をされても一向に構いません。いつものようにコメント歓迎です!!

【五極管:6CB6の場合】
 さっそく始めましょう。簡単に6CB6の話です。
6CB6は米国系のTV球です。欧州名はありません。 初期のTV(モノクロ)はトランス付きだった関係でヒータ電圧が6.3Vの6CB6が使ってありました。その後、TVのトランスレス化が進むようになって600mAヒータの3CB6が主流になりました。 6CB6は稀にオーディオ・アンプに使われることもありましたが、流石に3CB6はTV専用でオーディオに使う例は見ませんね。

 6CB6や3CB6はTV受像機のI-Fアンプ用(映像中間周波増幅用)として多用されました。松下電器のTVを除き多くのメーカ製TVで使われたので、解体すると大量に得られた真空管です。

以下は検討して得られた6CB6の使い方です:
Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=750kΩ、Rk=2.2kΩです。
この状態で、カソード・フォロワ:6AU6のEkt=55V前後になるでしょう。大きく外れる可能性は低いですが、その場合はスクリーン抵抗:Rc2を加減します。Rc2を大きく変えた場合、カソード電圧:Ekp≧0.8Vを確認しておきます。ゲインは約220倍(≒47dB)得られました。(Vo=10Vrms、1kHzにて測定) 6BCB6は6AU6よりもトランスコンダクタンス:gmが高いのでやや大きなゲインが得られます。

 上に書きましたが、6CB6はオーデイオ・アンプに使われることがあって、RCA社のデータ・ブックにはR-C結合アンプの定数表が掲載されています。 参考までに紹介しておくと以下のようになっていました。(RC-22,pp498参照)
Ebb=180Vにおいて、Rb=220kΩ、Rc2=620kΩ、Rk=1800Ωです。ゲインは208倍(46.4dB)となっています。 データ・ブックには他の動作条件のデータも掲載されていますので必要に応じて真空管データブック:RC-22を直接参照されてください。 RCAのRC-22(1963年版)はInternet archive org.にて誰でも無償で参照できます。

 私が実験的に得たデータと幾らか違いはありますが概ね類似しています。 RCAのデータで多少ゲインが低いのはRbが220kΩなのと、次段が直結のカソード・フォロワではなくて負荷抵抗Rcf:470kΩになっているからです。また、カソード抵抗:Rkが1.8kΩなのはプレート電圧の選び方の違いによると思います。しかしどちらでも大差はないはずです。

 6CB6は高周波の汎用品でした。gmが高いことから水晶発振にはもってこいで、私も何度もお世話になった球です。 (高周波の)ミキサー回路の適性もあって受信機・送信機に幅広く使われました。
 シールド付きソケットを使う必要があることに注意します。6AU6や6BX6と違って管内シールドはありません。プレートは剥き出しなので外から良く見えます。管内シールドを省いているのは出力容量の低減が目的のようです。しかし実用上シールド付きソケットが必須なのですからかえって不便に感じられます。

 オーディオ・アンプに使うときも扱う信号が微小な場合はシールド付きソケットを使うべきです。メイン・アンプのように大きめの信号しか扱わなければ普通の7ピンソケットでも大丈夫でしょう。 もちろん高周波回路に使うのならどんな場合もシールド付きソケットが無難です。同じ7ピンでピン配置も類似なので6AU6,6BA6,etcと差替えて試すことも可能です。 ソケットのところでピン2と7を結んでおくと良いです。


【五極管:6AK5の場合】
 6AK5はミニチュア管の五極管として戦前からあった球です。同等の数字管には5654があります。欧州名はEF95です。
 もともと電話中継網(AT&T)の広帯域増幅用でウエスタン・エレクトリック社のWE-408Aあるいは類似管が原型のようです。(但し408Aのヒータは20V 0.1A)
 しかしVHF帯の通信機やレーダー受信機などへの適性があったことから戦争遂行を目的に製造技術が移転されて非常に多くの米国メーカで生産されました。6AK5として登録された際にヒータ電圧も一般的な6.3Vに変更されています。

 6AK5については戦後VHFマンとしてご活躍されたJA1FC藤室OM(故人)に伺ったことがあります。日本で戦前・戦後に愛用されたVHF管は954(エーコン管)が有名でしたが、お話しによれば月とスッポンだったそうです。言うまでも無いでしょうが6AK5が優ってます。(笑)

以下は検討して得られた6AK5の使い方です:
Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=820kΩ、Rk=2.7kΩです。
この状態で、カソード・フォロワ:6AU6のEkt=60V前後になるでしょう。大きく外れる可能性は低いですが、その場合はスクリーン抵抗:Rc2を加減します。Rc2を大きく変えた場合、念のためカソード電圧:Ekp≧0.8Vを確認しておきます。ゲインは約210倍(≒46dB)得られました。(Vo=10Vrms、1kHzにて測定) 6AK5は6AU6とトランスコンダクタンス:gmが同じくらいなので同じようなゲインが得られます。

 めったに見かけないと思いますが6AK5(ただし同等管:5840)のR-C結合アンプ定数表を見つけました。参考までに紹介しておくと以下のようになっていました。
Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=700kΩ、Rk=1800Ωです。ゲインは140倍(43dB)となっています。だいぶゲインが低いのは次段がカソード・フォロワではなくて負荷抵抗Rcf:510kΩになっているためです。交流負荷抵抗を求めて補正計算すると概ね差のないゲインであることがわかります。

 それから、こうしたR-C結合増幅器では問題になりませんが6AK5はプレートやスクリーンの耐電圧がだいぶが低いです。耐圧は180Vしかありません。間違っても大きなパワーを出そうと思って高い電圧を掛けてはいけません。電極間で放電することがあってダメにしてしまいます。w

 6AK5は純粋にRF用(高周波用)の球だと思っていましたが、近年ではオーディオ・アンプに使う人も現れて驚いています。 もちろん単なる五極管ですから低周波増幅に使って何も悪いことはないわけです。オーディオ・アンプ系への適性はあります。

 過去にオーディオ系に使わなかったのは6AU6のように安価で優秀な五極管があったからです。 6AK5は純粋に通信用の球なので見かけによらず高価です。 前に登場した松下電器の価格表(1960年代)によれば6AU6が570円なのに対して6AK5は1,500円なのです。 我々HAMにとって6AK5はジャンクで100円もしない安球でしたが正規にはそうではありません。それで民生機器には使われなかったのでしょう。市販ラジオやTVで見かけない理由でしょうね。

 HAMの世界では50MHz用クリコン(クリスタル・コンバータ)の定番の球でした。RFアンプに使えば十分なゲインが得られNF値も良好でした。ミキサー回路の適性もあるのでクリコン製作のために買い求めたものです。 私が子供のころ米軍ジャンクとおぼしき6AK5は未だに出回っており総じて安価だったのです。しかし地元のラジオ屋さんでは手に入らなくて秋葉原のジャンク屋を巡った記憶が蘇ります。(笑)
 こんにちでも6AK5で作ったクリコンはまずまず実用になるでしょう。あまり混変調特性は芳しくないかも知れませんが・・。 ノスタルジーの追求にはもってこいですがやめておきます。 オーディオ・アンプでの適性もあるのでそちらで活躍してもらおうと思っています。小ぶりでかわいいので好きですねえ。w

【五極管:19M-R10の場合】
 19M-R10は特殊な球です。もっぱら旧・電電公社の電話中継網で使われました。 もちろん高価ですし、間違っても民生機器には使いません。ですから本来なら手に入り難いはずなのですが・・・。

 特殊な球でありながらよほど多量に使われていたのでしょう。保守で交換したらしい球の一部が廃棄を免れて出回っていたのです。
 保守作業では良否に関わらず使用開始から一定時間で交換していたはずです。ですからエージング済みの優良品(笑)がたくさん混じって出回ったのです。ミニチュア管ではありますが、ちょうどWE-310Aのような通信用のスペシャルな五極管です。ちなみに目標MTBFは10万時間だそうです。(注:用途・目的は同じでもWE-310Aと同じ特性という意味ではありません)

 19M-R10は民生用の6CB6と類似特性と言われています。 しかし見た目はまるで違っていて、がっちりした管内シールドがあって電極の保持構造も見るからに強固です。 従ってマイクロフォニックが少なくて小信号増幅にはマッチしているように思えます。写真はNEC日本電気製ですがTEN神戸工業製も見かけます。 旧・電電公社の通信研究所で開発し各社が生産した特注品でしょう。 欧州名がないのは当然として米国名もありません。付与された型番はJIS形式です。(型番の途中にハイフォンが入っている)

 なお、こうした19V管のヒータはDCで点灯していました。電話局には大容量の蓄電池があってフローティング充電しながら使っていました。 ちなみにヒータ用の電源は22V/10,000AHと言ったような超大容量の蓄電池です。調整器で19Vに落として与えていました。プレート回路の方も130V/800AHと言った蓄電池だったそうです。(すごい)

 このような事情からヒータ・ハムの対策はあまり行なわれていない可能性があります。AC19Vでの点灯は不向きではないでしょうか。19Vと電圧は高い反面、電流は0.1Aと少ないことからDC点灯で使いましょう。
 データシートによると19V管は頻繁なヒータのON/OFFは好ましくないそうです。ヒータ線が細いので突入電流で切れやすいのでしょうか。 局では一度電源を投入したら入れっぱなしですから支障なかったんでしょうね。(起動時の突入電流対策を行なったそうです)

前置きが長くなりました。以下、検討して得られた19M-R10の使い方です:
Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=1MΩ、Rk=2.7kΩです。
この状態で、カソード・フォロワ:19M-R10のEkt=60V前後になるでしょう。大きく外れる可能性は低いですが、その場合はスクリーン抵抗:Rc2を加減します。Rc2を大きく変えた場合、念のためカソード電圧:Ekp≧0.8Vを確認しておきます。
 ゲインは約220倍(≒47dB)得られました。(Vo=10Vrms、1kHzにて測定) 19M-R10は6CB6とトランスコンダクタンス:gmがほぼ同じなので同じようなゲインが得られています。6CB6と同等の電気的特性というのは本当のようです。

特殊な環境・使用条件で使われていた球ですがオーディオ・アンプ用として有望そうです。
良好なシールド構造、強固な耐震構造などが持ち味の球なのでオーディオのプリ・アンプに適しているかも知れません。 ゆっくり起動して突入電流が緩和できるような19V電源を作れば安全に電源のON/OFFができる筈です。 ゲインも過剰ではないので扱いやすそうです。 組合わせてプリ・アンプを作るには19V管の19R-LL1、19R-P11が揃っていて不自由はありません。 もっとも、これらの球でオーディオが良い音で鳴るのかどうかはわかりませんけど。(爆)

                    ☆


【アルテック型パワー・アンプ】
 回路図がないのも寂しいのでアルテック型パワー・アンプの回路を貼っておきます。

 アンプ初段が五極管になっており、P-K分割型ドライバ(三極管)との間は直結になっています。 Hi-Fiアンプには有名な回路がたくさんあって優劣を競う状況にありますが、アルテック型は構成がシンプルなので人気の回路です。メーカのパワー・アンプにもよく見られた形式です。

 事実、比較的感度の高い近代的な出力管ならこうしたシンプルな構成でもドライブ不足にはなりません。 初段が五極管なら十分なオープンループ・ゲインが得られますからNFBを掛けるには十分でしょう。 構成がシンプルなのは負帰還を掛けるとき有利に働きます。 C-R一つずつで位相補償できるのも増幅段数が少ないシンプルさゆえです。

 ここで五極管のテストに使ったのもそのまま活用できる可能性を考えたからです。 P-K分割の部分は殆どゲインはないのでアンプ全体のゲインは初段でだいたい決まってしまいます。初段が三極管ではゲイン不足を感じるでしょうね。

 実験してきた近代的な五極管を使うと左図の6SJ7よりも大きめのゲインが得られる筈です。 従ってクローズド・ループ・ゲインの減少をあまり心配せずに十分なNFBを掛けることができます。 ぜひお試しになってください。

【バリミュー管は瑞々しいのか?】
 テストしてきた五極管はすべてシャープ・カットオフ特性の球でした。 電圧増幅用五極管にはリモート・カットオフ特性の球もたくさんあります。 そうした球は使えないのでしょうか?  mt管では6BA6や6BD6、そして写真の6EH7などが代表的です。

 結論から言うと十分使えます。 測定器での評価ではシャープ・カットオフ管より不利です。 特にアンプ全体のゲインを抑えて大きめの入力信号がその五極管に加わるような設計だと歪み特性が悪くなります。

 そもそも入出力の関係が非直線な特性になるよう特別に作られた球です。ラジオやTV受像機の高周波回路に使う目的の球です。 前提として小さめの信号・・・せいぜい数10mVppくらいでしょうか・・を想定している筈です。 そのような信号ならバイアス電圧を変えて増幅度を可変すると言った自動利得調整(AGC)の目的に最適だからです。 それと想定のI-Fアンプ(中間周波増幅器)は狭帯域特性ですから非直線性による二次歪みが少々あっても帯域外になって顕著には現れません。

 バリミュー管/可変増幅率真空管(リモート・カットオフ管)をオーディオ帯でテストしてみたら意外に使えそうでした。思っていたよりも良さそうな感触を得ました。 少し歪みが多くなって2次高調波が含まれます。その方が瑞々しく聞こえるというお方もいるのだそうです。 そのようなわけでシャープ・カットオフ管と類似特性のリモート・カットオフ管が差替えできるようにしておくと面白いかもしれません。 そんな組み合わせとして、6AU6には6BA6が、6CB6には6BZ6が、そして6EJ7なら6EH7があります。いずれも後者がリモート・カットオフ管です。

 測定数値を重視されるなら向いていないと思いますが自分の耳で聞いて自身にピッタリな音を探したいと言うお方には楽しめるのではないでしょうか。 バリミュー管/可変増幅率真空管はオーディオの対象外と考えず、遊びと思って試したら面白いです。 使用にあたってはいくらか定数を変えた方が良いです。 特性上、Ipが流れやすい傾向がありRkをやや大きくする必要があります。プレート電圧を見ながら両立できそうな回路定数を見つけ差し替えてみるのが良さそうです。

                    ☆

 ところで、真空管にはそれぞれ背景となる歴史や物語が埋もれているように思います。 トランジスタにはあまり無いバックグラウンドかもしれません。 それぞれの真空管には目的の機器・回路があり、それに向かって開発された球には生まれてきたストーリーがあるのでしょう。 それがみなさんが真空管に特別の感慨を抱かれる理由(わけ)ではないでしょうか。 たかが電子デバイスとは言ってもそこには何か「物語」があって欲しいのです。それは懐かしいあのときが蘇る「わたしだけのストーリー」でも良いのでしょうね。

 なんだか五極管テストの話がノスタルジックな方向になってしまいました。 いろいろ書きましたが得られるゲインに違いはあってもどれも同じようにオーディオ・アンプに使えそうです。 著名な球が手持ちにあるならそれを使うべきでしょう。あえて変な球を買い求めるのはナンセンスです。 しかしオーディオでポピュラーな球が手元になくても代替になりそうな真空管は結構ゴロゴロしています。 あらたに買い求めることもなく私の遊びの目的には十分そうです。色々試しながら楽しい時間を過ごしたいものですね。

 五極管活用をテーマに3回続けました。私には「手持ちの活用」という目的があるので良いとして見てるだけの人はこんなのはどうでもいいんでしょうね? 面白いですか?(笑) 次回は更に他の手持ち真空管をどう活かすべきか考えます。複合管などが対象です。 そちらも目的はオーディオで、と言うことになります。 このあと事情があって1〜2回お休みを頂くかも知れません。 お待たせ致しますが良かったらそれまでにお手元の五極管をテストされてみたら如何でしょう? 少しは面白くなるかも? 実際、手にしたご感想など教えてください。 ではまた。 de JA9TTT/1


(つづく)fm

2024年6月6日木曜日

【電子管】Using the Pentode as the Audio Amp. (2)

【AFアンプで五極管を・第2回】

introduction
I have a lot of pentodes for RF. In this blog I will build an audio amplifier with 9-pin NOVAL based pentodes for RF. If they can be used well, they will expand their applications. I tried three different types: 6BX6, 6EJ7 and E180F. They all seem to work well enough for audio amplifiers. They are very high gain and should be used with care. hi hi (2024.06.06 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【五極管:テスト・アンプ】
 これからさき何をやりたいのか? すなわち目的ですが、これははっきりしてます。
手元の真空管はいわゆるポピューラーな球と同じようには使えないのだろうか?・・・という疑問が出発点です。 旨く使えるなら手持ちの活用につながりますし、もしダメならそれなりの理由を知れば納得することができるでしょう。 もちろん方針はうまい使い方の発掘ということですが。

 さっそく手元の電圧増幅用五極管を使ってテスト用のアンプを作ってみます。 やってみるまでもないよと言われるかも知れません。 いきなり本番のアンプに組んで様子を見る、旨くなければ方針転換すればイイんだよ・・・という考え方もあるでしょう。まあ人それぞれでしょうね。

 ごく基本的なアンプをブレッド・ボード(BB)上に製作してみました。基本的な特性を見るには最適です。 テスト対象の五極管とバッファ・アンプの2段構成です。これは後ほど扱う三極・五極複合管において好結果が得られた形式です。評価方法を継承しました。

 五極管の単管でアンプを作ることはあまりないでしょう。複数段のアンプが普通です。 単管では測定器の接続で状態が変化してしまい正しい特性が評価できない可能性があります。五極管アンプは出力インピーダンスが高いからで周波数特性は特に大きな影響を受けます。
 バッファ・アンプがあれば影響を軽減でき、ほとんど無視できる程度になります。測定系の配線が少々長くなっても大丈夫です。そのような訳でバッファ付きのアンプにして評価しました。実際の活用場面に即した評価法とも言えます。

 写真・右側が評価対象の五極管で、この写真では6BX6が刺さっています。 左側はバッファ・アンプの6AU6で三極管接続のカソード・フォロワです。 詳しくはこの後の回路図で。

 ブレッド・ボードに不安を持つかも知れません。 実際は旨く行きますが心配になるとすれば耐電圧と発熱の問題でしょうか?

 プレートやスクリーン・グリッド回路には高電圧が加わりますが十分な耐圧があって250V程度なら心配無用です。 流石に1kVとかやってませんが350Vなら実績もあって何も問題ありませんでした。 こうした小信号アンプではプレートやスクリーンの電流はせいぜい数mAなので電流は心配ないでしょう。 プレートやスクリーン抵抗の電圧降下は大きいのですが各電流はごく少ないので発熱は僅かです。たいてい100mWもありません。
 主に1/4Wの抵抗器を使っていますが熱的にも大丈夫です。もちろんもっと大電流が流れる所にはワット数の大きな抵抗器を使います。予想される消費電力の2倍以上の容量を持った抵抗器が目安です。(これは常識の範囲かも?・笑)

 ヒータ回路(フィラメント回路)の電流も小信号の球では300mA〜600mAです。多数の接続箇所をまたぐと幾らか電圧降下しますが供給元で加減すれば補正できます。ヒーターは基本的にDC点灯します。従ってヒータ・ハムの誘導はありません。

                    ☆

 アンタは何でもBBで作るって揶揄されそうですが恒久的ではないこうした評価回路には適当だと思っています。写真撮影しておけば再現性も確保できます。 いつも思うのですがアルミ・シャーシに穴加工は面倒なんです。実験する気も重くなります。w BBはハンダコテ不要で部品交換も自在なので試行錯誤にも最適です。ただし感電だけは要注意ですね。w
 ストレー・キャパシティが心配で・・・気持ちはわかりますが過去のBlog(←リンク)をご覧になれば支障ないことがわかるでしょう。BBも使い方しだいです。それにせいぜい数100kHzまでのオーディオ帯ですからね。

 なんだかんだ迷う前にさっそく実験してみましょう。わかってやれば真空管も半導体回路の手軽さで試せます。真空管+BBはオススメです。 このさき口先介入がご専門のお方には「目の毒」なので早々のおかえりが宜しいかもです。 無線関係(ラジオ)は登場しないので其方のお話をご期待されていると面白くないです。さっさとお帰りが宜しいかもです。w
例によってコメント歓迎! ラジオに絡んだコメももちろんOK!!

【五極管・テスト回路】
 テストに使う回路です。 低周波信号のアンプになっていて、信号は左から入り増幅されて右に出ます。かなりゲイン(増幅度)があって数mVの低周波信号が数Vに増幅されて出て来ます。ゲインは使う真空管によって変わります。

 テスト対象の五極管は左側です。 プレートに入るRb、スクリーン・グリッドに入るRc2、カソードのRkを選んで評価します。これらの値を決めるのが一つの目的とも言えるでしょう。
 このうちプレートのRbは初めから100kΩ、250kΩ(240kΩ)、470kΩと言ったアンプ一般に使われる値を選びます。(特別な負荷条件を想定するならそれに即した数値を選びます)
その状態で適切なスクリーン電圧になり、動作点がちょうど良い所に来るようカソード抵抗:Rkを加減し最適化します。

 変更すべき要素が複数あるので難しい部分もありますが、やって見ると然るべき所に落ち着くようです。 既存の球の定数一覧表など参照すれば割合容易に類似の結果が得られるわけです。

 回路図で右側の球はバッファ・アンプです。(ゲインはほぼ1倍のカソードフォロワ) バッファ・アンプには6C4、6AB4等の単三極管が使えます。しかし良さそうな手持ちが見つからず、手元の五極管:6AU6のスクリーン・グリッドをプレートに結び三極管接続にして代用しました。(双三極管:12AU7や12AT7の片側を使う方法もあります)

 五極管とバッファ・アンプの間は直結です。直結アンプ形式は段間の時定数を減らすための常套手段です。 これはアルティック型パワー・アンプでよく見る形式です。アルティック型アンプではプレート側にもカソード側と同じ抵抗を入れてプッシュプル・アンプのP-K分割型ドライバ・アンプとして使います。 6AU6のグリッド側にあるC6とR8は位相補正用で負帰還を掛ける際に必要になります。このアンプは無帰還でテストするのでとりあえず不要です。

 バッファ・アンプ(カソード・フォロワ)の出力インピーダンスは概略1/gmですから、数100Ωになります。 そのため測定用のプローブやシールド線など配線を取付けてもほとんど影響は受けません。 これはこの種のアンプを実用に供するする際にも使えるテクニックです。 プリ・アンプの出力部にもバッファ・アンプを設けておけばメイン・アンプまで少々配線を引き回してもハイ落ちやノイズの誘導が防げるわけです。 プリ・アンプの出力部にはバッファ・アンプをぜひ設けておきたいですね。(gmが大きな中μの三極管が向いている)

                   ☆

 このアンプでは:評価対象の五極管において適当と考えられる動作点を探るのが主目的です。 とりあえず上述のようにプレート負荷抵抗:Rbはいくつか決めてしまいます。 プレート電圧:Eppも適当になるよう決めればプレート電流は計算で求まります。 その際にスクリーン・グリッド抵抗:Rc2とカソードのバイアス抵抗:Rkを加減します。スクリーングリッド電圧:Esgの要件はEsg≦Eppです。さらにカソード電圧:Ekpは1V以上が目安です。これがグリッド・バイアス電圧になります。(グリッド・バイアス電圧としては概ね-1V以下を目処とします)

☆具体的には:
(1)RbとEppを決めてしまう。例えば240kΩと50Vのように想定します。
(2)その状態でEsg≦Eppが必要ですから、別途電源を用意し、例えばEsg=35Vや40Vに設定し動作させます。
(3)カソード抵抗Rkを10kΩ程度の可変抵抗に置変え、加減してプレート電圧:Eppが予定の電圧(例:50V)になるよう調整します。この状態でスクリーン電流:Isgを読んでおきます。Isgの値はあとでスクリーン抵抗:Rc2の算出に使います。
(4)カソードとGND間のDC電圧:Ekpを測定しておきます。これがバイアス電圧になります。可変抵抗の値をオーム計で測ってカソード抵抗:Rkの値を得ます。

 これでおおむね想定の動作状態が求められます。ただしカソード電圧:Ekpは1V以上でなくてはうまくありません。(低くても0.8Vくらいまで) そのうならないときはスクリーン電圧を変更して再試行することになります。 球メーカのやり方は不明なのですが、ここでは概ねこのような方法で動作条件を得ています。 具体的に得られるのは、スクリーンのドロッパ抵抗:Rc2とカソード抵抗:Rkの値です。

 ここまで求めたら入出力の直線性や歪み率の変化、周波数特性などを評価します。プレートを大きくスイングさせるつもりならサチュレーションとクリップの始まるポイントを確認しておくと後々役立ちます。(←オシロスコープで観測します)どちらかへ偏りがひどければこの段階でプレート電圧を変えてみるとか動作点を変えて様子を見る必要があるでしょうね。 

 それぞれの球の評価過程を延々と書いても退屈なだけです。 まだまだ沢山ある項目の評価が終わった訳でもないので、以下においては実験中の暫定的な回路定数を各真空管ごとに簡単にメモっておきました。もしも興味でもあったらご自身でもテストしてみてください。今のところ電源電圧:Ebbはすべて150Vです。Ebbは±50Vくらい違っても結果に大きな差は出ないでしょう。

【五極管・6BX6の場合】
 まずは簡単に6BX6の話です。
6BX6は欧州系の9ピンmt管です。欧州名はEF80です。おもにTV受像機のI-Fアンプ用(映像中間周波増幅用)として使われました。松下電器のTVを解体すると大量に得られた真空管でした。
 松下は戦後フィリップス社から製造技術を導入し欧州系の真空管をたくさん作って自社製のTVで使いました。他社製のTVでは殆ど見かけません。JVC日本ビクターのTVくらいでしょうか?

以下は検討して得られた6BX6の使い方です:
Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=1.1MΩ、Rk=2.2kΩです。
この状態で、カソード・フォロワ:6AU6のEkt=55V前後になるでしょう。大きく外れる可能性は低いですが、その場合はスクリーン抵抗:Rc2を加減します。Rc2を大きく変えた場合、カソード電圧:Ekp≧0.8Vを確認しておきます。ゲインは約290倍(≒49dB)得られました。(Vo=10Vrms、1kHzにて測定) 6BX6はトランスコンダクタンス:gmが高いのでかなりハイゲインです。なかなかの性能です。(トランスコンダクタンス:昔は相互コンダクタンスと言った。昔の単位は℧:モーでした。いまは導電率S:ジーメンスを使います)

 今になって見ると汎用性があって悪くない球なのですがRF回路を含め活用例は少なかったのであまり歓迎しませんでした。ジャンクで手に入っても使い道のない球だと思ったものです。ただ、規格表を参照し現品を観察すると他の五極管、例えば6AU6などと同様に使えるのではないかと思えました。9ピン管なので6AU6,6BA6,etcと差替えの互換性がないのはかなり問題でしたが・・・。
 自身ではAM送信機の変調器・初段アンプに使ったことがあります。マイク・アンプ用として6AU6代用の役目を十分果たしてくれたことを覚えています。なぜ低周波回路に使われないのか不思議に思ったくらいでした。そとから見える網目状の円筒は管内シールドでシールド付きソケットが要らないのはFBでした。 ただし、いくつか差替えて比較しているとマイクロフォニックが出る球があったのを思い出します。

コラム:真空管のノイズ

 真空管のノイズには幾つかがあります。ヒータ・ハム、マイクロフォニック、ショットノイズが3大ノイズでしょう。(低周波アンプの場合)

ヒータは交流で点灯するのが普通なので、それが誘導されてハム音(HUM)が出ます。真空管自体の対策としてはヒータ線をスパイラルにする、電極構造を検討し管内のシールドを強化するといった方法で低減できます。もちろん配線の巧拙も問題ですがオーディオ・プリアンプのようなハイゲインなアンプでは完全な解決にはDC点灯以外にはないように思います。昔はハム対策済みの球もHi-Fi用として売っていたのですが手持ち活用なのでそれは望めません。

マイクロフォニック雑音は真空管の電極が機械的に振動することが原因です。グリッドなどの電極やマイカ板の保持が強固でないと機械的な緩みの影響があって「マイクロフォン」のように音や振動を拾ってしまいます。スピーカ内蔵のラジオやギター・アンプ等では酷い時にはハウリングのような状態になります。オーディオ用の球:6267などは特に気を配った構造や組立てを行なってマイクロフォニックを防いでいます。しかし6BX6のようなRF用の球ではそれほど重視していない可能性があります。

ショットノイズ(散射雑音)は熱電子流を使っている真空管においては宿命的なもので、「サーっ」というバックグラウンンド・ノイズとしてハイゲインなアンプでは感じられます。カソードの材質を改良するといった対策を行なうようですが完全に取除くことは難しいでしょう。いま時の超ローノイズな半導体にはとても勝てません。w

そのほかにも様々なノイズがあって、プレート電流が超低周波で揺らぐフリッカ・ノイズなどもあります。 高周波では等価雑音抵抗が問題になってRFアンプのノイズ・フィギャを劣化させる原因になります。

 6BX6を低周波アンプに使ったとき問題になるとすれば、マイクロフォニックかもしれません。しかしそれほど酷くはなかったと思います。 観察しようと思ってもなかなか意図的には再現させ難くかったことが思い出されます。 過度にハイゲインなアンプを構成しないと言った使い方の注意でオーディオ用として十分イケル球だろうと思っています。6AU6の代用くらいなら十分務まります。
 

【五極管・6EJ7の場合】
 6EJ7はフレーム・グリッド構造を採用した高性能管です。6BX6と同じようにTV受像機のI-Fアンプに使われました。
同じ9ピンmt管でピン配置も同じになっています。この球もヨーロッパ系なので国産品は松下電器(松下電子工業)から登場しました。ちなみに欧州名はEF184です。

 カラーTV時代になると従来型の球では性能が不足したため各社のTVに使われるようになりました。
写真は左が松下製、右は日立製です。東芝製もあったと思います。
 フレーム・グリッドの詳細は長くなるのでやめておきますが、簡単に言えば極細線でグリッドを密に巻きカソードの直近に密接させて配置したことにあります。従って非常にgmが高くなり大きな増幅度だけでなく、等価雑音抵抗が小さくてミキサー管としても高性能なのでHAMの無線機(YAESU FT-200,etc)でも使用例がありました。

 しかし6EJ7をオーディオで使った例を目にしたことはありません。 一説によるとフレーム・グリッド管は直線性がよろしくないという話があります。 構造上カソードのインゼル効果の発生などから確かに歪みに対し不利な面もあります。しかしこれは本当でしょうか? あまりにgmが高いので使いにくいのが敬遠の最たる理由のように思っています。

以下は検討して得られた6EJ7の使い方です:
Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=510kΩ、Rk=2.2kΩです。 6EJ7は6BX6よりも同じEsgにおいてスクリーン電流が大きいため、Rc2は小さくする必要があります。
 この状態で、カソード・フォロワ:6AU6のEkt=55V前後になるでしょう。スクリーン電流が幾分バラつく傾向があって必要に応じてスクリーン抵抗:Rc2を加減してみます。ゲインは約400倍(≒52dB)得られます。(Vo=10Vrms、1kHzにて測定)

 6EJ7はトランスコンダクタンス:gmが特に高い球なのでかなりハイゲインです。素晴らしい性能ですが、よくわかって使わないとオーディオでは持て余すかもしれません。w

 上の方でフレーム・グリッド管は歪みの関係で敬遠気味と書きました。もしそうなら最近もてはやされている双三極管:6DJ8もダメなはずです。同じフレーム・グリッド管ですからね。
 6EJ7を試した範囲では特に悪いこともないように感じます。普通の五極管なみです。
 やはり6EJ7は過剰にハイゲインなのが敬遠の理由でしょう。 フレーム・グリッド管は構造的に電極の保持が強固に作られているので6BX6よりマイクロフォニックでは有利なはずです。ゲインが高いのでそれも程度問題かもしれませんけれど。w

 アンプなど実用の機器に使った実績がないので何とも言えませんが上手に使えば高性能が活きるのではないでしょうか。例えば五極管の単段で構成している英Leak社やQuad社のプリアンプようなEQアンプに使えばイコライジング・カーブが設計どおり得易いでしょう。 RF用の球なのでヒータ・ハムは出易い可能性があります。もちろん「DC点灯を推奨」でしょうね。 十分な発振対策の上で試してみたいと思います。 使いこなせれば6EJ7はオーディオでも有望な球ではないでしょうか。

【五極管・E180F/6688の場合】
 6688/E180は名実ともにスペシャルな球です。
球の側面には「SQ」の文字があって、これは「Special Quality tube:特別な品質の真空管」を意味しているのですから・・・。

 おそらく普通は手に入りにくい筈ですが中古品(ジャンク)なら意外にたくさん出回っていたのです。 金メッキ足やSQの文字に釣られてしまい集まってしまいました。すべてジャンクなので劣化品もあると思いますが使わない手はないでしょう。「腐っても鯛」かも知れません。(笑)

 写真は左がオリジナルと思われるPhilips社のE180F、右はセカンドソースあるいは技術提携品の松下の6688/E180Fです。E180Fが欧州名で6688は米国名のようです。 1960年代の松下の真空管定価表をみると6688は3,600円もする高価な球です。前回Blogの「6267」が690円、ラジオ球の6BA6などは375円でした。まだ大卒の初任給は2万5千円くらいの時代です。

 お値段に驚いていても仕方ありません。さっそく使ってみました。

以下は検討して得られた6688/E180Fの使い方です:
注意:6BX6,6EJ7とはピン配置が異なっています。ピン8と9の交換が必要

Ebb=150Vにおいて、Rb=240kΩ、Rc2=750kΩ、Rk=2.2kΩです。 6688は6BX6よりも同じEsgにおいてスクリーン電流はやや大きいため、Rc2は小さめにする必要があります。
 この状態で、カソード・フォロワ:6AU6のEkt=60V前後になるでしょう。流石に(?)バラつきは少ないようですが必要に応じてスクリーン抵抗:Rc2を加減してみます。ゲインは約280倍(≒49dB)が得られます。(Vo=10Vrms、1kHzにて測定)

 6688/E180Fはトランスコンダクタンス:gmが特に高い球なのでかなりハイゲインです。6EJ7と同じフレーム・グリッド構造の球です。規格表の上では6EJ7よりHigh-gmなのですが、私の実験ではゲインは下回っています。それでも素晴らしい性能ですが、ちょっと思惑はずれでした。(笑)

 原因はいくつか考えられますが、一つはジャンクなのでトランスコンダクタンス:gmが落ちて劣化しているのかも知れません。(大いにあり得ますね)
 もう一つ、この回路定数が最適になっていない可能性です。6688/E180Fは高周波広帯域増幅用の球です。 業務用映像機器のビデオ・アンプなどが主な用途ではないでしょうか? やや大きめの電流を流し、低めの負荷インピーダンスで使うのが前提でしょう。 こうしたHigh-gmな球をIpが僅か1mA以下で使うとEg-Ip特性の下部湾曲部に掛かってgmが上がらないように思います。球によってはバラツキも出やすいでしょう。

 6688/E180Fは電源電圧:Ebbをアップする、負荷抵抗:Rbを小さく選ぶとかトランス負荷で使いもう少しプレート電流:Ipを流す方が良さそうです。 よくわかって使えばオーディオでも活かせます。 耐震構造をうたっていますのでマイクロフォニックは少ないでしょう。 規格上、ヒータ・ハムのレベルは必ずしも低くないためプリ・アンプに使うのでしたらDC点灯が安心です。 なお金メッキ足の球はソケットの方も金メッキ品の採用が本来です。(オーディオの人が大好きな「金ぴか」・爆)

蛇足ながら6688/E180Fの国産類似管には旧・電電公社規格品:6R-R8(C)があります。6R-R8はWE-404Aの同等管でもあります。但し6688/E180Fとはピン配置がまったく異なるため差し替えたテストはできません。6R-R8はテストしてませんが同等に扱えるでしょう。純国産品種として、ぜひ試してみたい球のひとつです。hi hi

                   ☆

 9ピン五極管の特集になりました。RF用五極管の別の一面が窺えたように思います。

 今回はRb=240kΩのデータだけになりましたが他の条件でもテストしています。 現状ではBlogの進行に評価・纏めが追いついていないので限定した情報のみになりました。もう少し詳しいデータの採取も考えているので結果は必要に応じて追加して行くつもりです。 まずは手持ちで活用してみたい球を選び条件を絞った評価から始めている段階です。

 6BX6は一般に駄球の扱いなのであなたのジャンク箱にもゴロゴロしているかも知れません。6EJ7もオーディオ的には猫またぎだったでしょうか? どちらも試してみて自作アンプに十分使えるという結論でいいでしょう。(笑)
(注:どの球もラジオの低周波アンプにも使えますが、そのまま使ったらゲイン過剰です。試すなら負帰還増幅器にして低周波アンプとしてちょうど良いゲインに加減します。回路はケース・バイ・ケースなのでご自身で研究してみてください)

別にみんなと同じアンプを作ってみたいわけじゃありませんので変わった球で遊べたらそれだけでも満足です。 定番な球や著名回路の部品定数にこだわる必要もないわけです。 ジャンク箱に永く眠っていた真空管が活かせたら嬉しいです。 真空管も単なる電子部品ですから電子工学の理屈に逆らわぬ使い方をすれば問題ないでしょう。 謎めいた伝説とか迷信などはいりません。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

2024年5月23日木曜日

【電子管】Using the Pentode as the Audio Amp. (1)

【AFアンプで五極管を】

introduction
The pentode tube is a vacuum tube created from the improvement of the triode. The pentode is improved high-frequency amplification characteristics and power supply voltage utilization ratio of the triode. In addition, the pentode has a large transconductance, which allows for a large amplification gain. Therefore, for the same supply voltage, a much higher gain and output voltage can be obtained than with a triode tube.
Triodes are popular in home-built audio amplifiers. I am also actively using pentodes in my own amplifiers. Of course, I also use triodes! hi hi (2024.05.08 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【五極管:6AU6】(通測用)
 6AU6(欧州名:EF94)はオーディオ・アンプでは定番の5極管です。プリ・アンプの初段からパワー・アンプのドライバ段まで幅広い用途があります。

 そのままの・・・5極管のまま使えば1段で約200倍(≒46dB)のゲインあります。 ハイゲインで小信号を一気に増幅できますし、2段も増幅すれば十分なオープン・ループ・ゲインが得られます。従ってNFBアンプを構成すれば深いNFが掛けられ低歪なアンプになります。
 さらにスクリーン・グリッド(g2)とサプレッサ・グリッド(g3)をプレート(p)に結べば増幅率:μ=36の中μ三極管としても便利なものです。

 6AU6はかなり万能に使えるのでオーディオではごく当たり前の五極管になりました。 もともと汎用品なので入手容易で安価なのがメリットでしたが良いものは既に品薄です。

                    ☆

 真空管に詳しければ6AU6は純然たるオーディオ管でない事はご存知のはず。 もともとFMラジオやTV受像機のI-Fアンプ用(映像中間周波増幅用)でした。 シャープ・カットオフ特性でgmが大きい割に帰還容量Cpgがたいへん小さくて使いやすいため汎用品になったのでしょう。 同じような球にはST管の6C6、メタル/GT管なら6SJ7があってオーディオ・アンプに使われています。しかしmt管の6AU6はスマートなのが大きなメリットです。

 6AU6は7pinのmt管で管内シールドが付いています。写真で見える灰色の円筒は管内シールドなのです。 プレートはその中にあって外からは見えません。従ってシールド付ソケットは必要としませんが振動防止或いは抜け止めにシールド付ソケットを使うメリットは大です。

                    ☆

 HAMの自作では発振管やミキサ管として愛用されました。VFO発振やそのバッファ・アンプにも最適です。 変調回路のマイク・アンプにも1段で十分なゲインがあるので便利な球です。 帰還容量:Cpgが小さいためRFやI-Fアンプにも使えますがシャープ・カットオフ特性なのでAGCを掛ける用途には向きません。そちらには6BA6や6BD6を使います。この先はオーデイオの話なので「無線」はこれくらいでやめておきます。

【五極管:6267】
 数字管:6267はオーデイオ用に作られた球です。 オーディオ用というよりも微小信号のローノイズ増幅用と言うべきかもしれませんが。欧州名はEF86と言ってヨーロッパ生まれの球です。

 レコード・プレーヤ用プリ・アンプの初段や高級マイク・アンプに使って効果を発揮します。 振動によるマイクロフォニック・ノイズやヒータからの誘導ハムが極力少なくなるよう設計されたスペシャルな球です。 米国系が主流の我国では普及が遅れた経緯があるそうです。

 その後は知れ渡ったためオーディオでは真っ先に目をつけられてしまい、品薄かつ有ればプレミアム付きで取引されるありさまです。 写真に見える¥690-はナショナルがごく普通に供給していた往時の定価であって今どきこんなお値段ではとてもとても。w

 電気的な特性は特別なものではありません。6AU6と似たり寄ったりです。 gmがやや低いためゲインは6AU6の方が得られるようです。三結でも使えますがせっかくの性能が勿体ないかもしれません。 五極管として使い小さな信号をローノイズに一気に増幅すると言った使い方をしたい球です。

 オーディオに好適なので積極的に使いたい球ですが、価格高騰かつ東欧モノを銘柄物にリマークしたニセ・ブランド品が横行してます。目利きのつもりでいても注意が必要になっています。w

                   ☆ ☆

 さて、真空管(五極管)の写真を展示するのがこのBlogの目的ではありません。 少し前に手持ち真空管を調べました。良いものはほんの僅か、だいたいはロクでもない球でした。(笑) その結果を踏まえて新たに買い求めることなしに手持ちの駄球を工夫しつつ消費して手作りを楽しもうと思っているのです。

 手持ちは写真に登場したオーディオに向いた球ばかりではありません。 もともとHAMが趣味でしたからRF回路(高周波回路)に向いた球が殆どです。 オーディオの用例や使用実績のない球のほうが多いのです。 それらを工夫して使い方を考えながら製作を楽しもうという作戦です。

 そのためには自ら用法を検討しつつ用途開発も必要になるでしょう。 いずれパワーアンプまでと思っていますが、このさき暫くは小信号用の五極管を手始めに様々な球を試してみたいと思います。 自身の実験記録が目的であり、いわゆる銘管や著名球、定番アンプの製作記事は登場する予定がありません。 まずは真空管をテストすることが目的で、おそらくそんな話は興味の対象外でしょう。 決まった形式の球アンプを作りたいのでしたらBlogを眺めてもあまり意味はありません。 例によって早々のお帰りがかと思われます。 今日という貴重な1日を大切にされますように。

                  ー・・・ー

【WE-91B Power Amp.】
 趣味のオーディオアンプ製作では五極管はどうも敬遠されているように感じます。 五極管は三結で使われるケースも多いようでちょっと勿体無いと感じています。(笑)

 パワー・アンプの出力管については三極管あるいは五極管やビーム管の三結が良いと思います。しかしドライバ段までなら五極管が十分活用できます。

 回路は五極管をドライバ管に使ったウェスタン・エレクトリック社のパワーアンプWE91Bです。劇場のトーキー再生用パワー・アンプと言われています。 出力管は純三極管のWE300Aまたは300Bですが、そのドライバ管はWE310Aという五極管を使っています。WE310Aは特別設計された長寿命な通信用の球ですが冷静になって見れば6C6のような五極管です。(6C6より管内シールド付きのRCA-77の方が近いかも) 少ない段数で十分なゲインを得てなおかつ低μな出力管:300A/Bを十分ドライブする目的で使われているのです。

 三極管はシンプルさからアマチュアのアンプビルダーにウケるのでしょう。しかし電源電圧利用率が悪くて大振幅を振る必要のあるドライバ・アンプには幾分不利です。回路例が示すようにむしろ五極管が有利なのです。

 手持ちの活用でも三極管ばかり優先せず五極管の良さを活かせるよう考えたいと思っています。 そのためには特性検討とか回路での扱いなど自身にとって未知なる分野では実験が必要だと感じます。 知識に乏しければ実際に使ってみることが理解の助けになるはずです。

【R-C結合増幅器・定数表:6AU6】
 6AU6のような定番の真空管なら各メーカーから具体的な使用法が提供されています。左図は米シルバニア社のデータ・ブックから引用した用例です。

 表の見方は難しくはありません。 左の回路例のように使う場合の部品定数が一覧に纏めてあります。 表は電源電圧:Ebbによる違いで2つに分かれています。Ebb=100VとEbb=250Vです。 電源電圧:Ebbが例示と異なる場合も、どちらか近い方を使えば概ねそのままの定数で使えます。 もし幾らか変更するとしても定数例を基に加減すればうまく行きます。

 該当の真空管は用例のように使えば概ね最適な使い方ができる訳なので定数表はなかなか重宝します。 しかしすべての真空管にこうした便利な一覧表が用意されているわけではありません。

 むかし真空管が全盛だった時代なら、具体的な応用例があるような「オーディオに向いた球」を買い求めそれを使って製作すれば事足りました。 変わった球をあえて無理してまで使う必要もなかったのです。 しかし既にそうした時代ではなく、手持ちにあるものを何とか工夫して有効活用する必要がでてきました。 もちろん似た球を活用するならこうした表は参考にはなりますが、手持ちの別型番の球にはそのままでは使えないのは当たり前でしょう。その球に向いたようにアレンジしなくてはなりません。

参考:左表において:Rb、Rc2、Rcfの単位はMΩです。Rkの単位はΩです。Ib、Ic2の単位はmAです。Ec1、Ec2、Ebは直流の電圧で単位はVです。Esig、Eoutは420HzのAC電圧で単位はVrmsです。Gainは無単位で倍数(V/V)です。Dist.は歪み率をあらわし単位は%です。

【A級アンプ:6AU6】
 真空管の規格表には代表的な動作例が載っています。 ではこうした動作例は役立つのでしょうか?

 答えはYesとも言えますし、No!とも言えるのです。 ただ、R-C結合のアンプに限ればほとんど役立たないと思って間違いありません。

 検証してみましょう。
 左の例からプレート電圧が250Vの例でやってみます。 まず、プレート側からやると:プレート電圧は250Vでこのときプレート電流は7.6mAです。 いま、プレートの負荷抵抗をC-R結合アンプでは常識的な250kΩとします。 するとこの250kΩにおける電圧降下は250kΩx7.6mAとなり、1900Vになります。 従って電源電圧はプレート電圧の250Vに加えて1900Vの合計2150V必要です。 なお、250kΩは14.4W消費しますので安全を見て30W型の抵抗器を選びます。
 もうこの先をやる必要もないと思いますが、スクリーン電圧もこの電源からもらうとすればスクリーンのドロッパ抵抗は(2150-125)/3.0=675kΩとなります。そして675kΩの消費電力は約6Wなので15W型が適当でしょう。

 たかが小信号増幅器の動作に2kV以上の電源電圧が必要で、さらに数10Wが消費可能な大きな抵抗器が必要とあってはまったく非現実的です。このように規格表に出てくるこうした代表動作例はR-C結合のアンプ設計には役立たないのです。 もし代表動作例が役立つとすればトランス結合とかチョーク結合のアンプくらいでしょう。

【Ep-Ip特性:6AU6】
 それでは動作特性曲線のグラフは役に立つのでしょうか? これで正しく設計ができるなら用例のない未知の真空管も活かせます。

 これも答えはYesともNo!とも言えます。
 試しに電源電圧250Vのとき負荷抵抗が270kΩだとしましょう。 これは常識的な電源電圧と負荷抵抗と言えます。 図にロードライン(負荷線)を引くと赤の線のようになります。 ここから適当と思える動作点を決めて、その点におけるグリッド・バイアス電圧を読取って得れば設計完了のハズなのですが・・・。 それにしてもずいぶんグラフの下の方に張り付いてしまいますね。 細かく読むのは難しいです。

 ところで、対象は五極管なのでスクリーン・グリッド(c2)の動作が問題になります。 このグラフはc2が150Vだとして得た特性図です。 実際にはEc2=150Vと言えば、いま使おうとしているプレート電圧:Epをはるかに超える電圧になってうまくありません。プレート電圧は負荷抵抗によってドロップしているので下がった分だけもっと低いスクリーン電圧で使う必要があります。 五極管の使い方の基本はEp≧Ec2なわけです。EpよりもにEc2の方が大幅に高いのはうまくありません。 Ec2をもっと低くする必要があって、そうなるとこのグラフ自体の前提条件:Ec2=150Vが崩れてしまい図に引かれているすべてのカーブが変わってしまうでしょう。 グラフが違ってしまうのですから先ほど引いたロードラインから動作点は決められません。

 結局のところ、こうしたプレート特性のグラフはあってもR-C結合アンプの設計はできないことになってしまいます。

【Ep-Ip特性:6BX6】
 これは6BX6という五極管の動作特性を実測したものです。
 R-C結合の小信号用アンプに適するようスクリーン・グリッド電圧を35Vとしています。またプレート電流もずっと小さな範囲がわかりやすいように測定しています。 こうした特性図があれば設計も可能になります。

 おいおい使うつもりの球を実測してみたいと思っていますが、ある程度やってみると実はそれほど難しく考えなくても何とかなることがわかってきました。 結局のところプレート負荷抵抗や電源電圧が決まってしまえば、適当とされるスクリーン・グリッド電圧も決まってきます。

 適当とされるプレート電圧も決まるのでバイアス電圧も求まります。 制約条件があるとすればあまり浅いバイアスはうまくないことくらいです。 だいたいEg1≦-1.0Vが必要です。これよりバイアスが浅いと(0Vに近いと)初速電子流によるグリッド電流が流れ始めて入力インピーダンス低下とそれに起因するひずみの発生が起こります。

 手持ちがあって活かしたい小信号用の五極管(電圧増幅用の五極管)について、メーカーが用意してくれていたような「R-C結合アンプ部品表」が作れたらFBです。 実験を通じ実用的な情報に纏めたいと思います。 まあ、私の手持ちを積極的に活用するのが目的なので情報に一般性はないかもしれませんけど。w

【ブレッド・ボードで】
 いつものようにブレッドボードを使って実験します。 真空管回路は電源電圧が高いので注意は必要ですが、それを除けば実験に十分使えます。

 写真は6BL8相当のトランスレス管:9A8です。 こうしたTV用の球も使い方しだいで十分活きてきます。 用例がないから使わないのでは勿体ないです。 まずは実験して工夫しながらアンプの手作りを楽しみたいと思っています。 そうした準備の目的にはブレッドボードは最適です。

                    ☆

 6AU6や6267のようにオーディオ用として認知されている球ばかり使えるなら有難いのですが手持ちはそんなに都合良くありません。 むしろそうしたオーデイオ向きの手持ちは限られているのが現実です。 冷静に見たら手持ちなんて駄球ばかりですけれどせっかく集めた球ですから捨ててしまったら可哀想です。 何とか活かす道を考えてみましょう。 もちろん五極管だけでなく三極管だって使いますよ。あるものは何でも試しましょう。
 製作物は何でも構わないので、これからぼちぼち手持ち真空管で遊ぶBlogが登場します。 球式のラジオ作りは予定にありませんが途中で何か閃いたら気にせず寄り道します。各駅停車で楽しみましょう。 ではまた。 de JA9TTT/1 T.Kato

つづく)←リンクfm

2024年5月8日水曜日

【回路】Repair the Antenna Tuner , FC-700

【アンテナ・チューナの整備と研究】

abstract
I am repairing a Yaesu Musen FC-700 antenna tuner. I have been using this antenna tuner for a long time. It seems that the contacts of the switch have oxidized due to years of use. It will be possible to repair it by cleaning the contacts of the switch.
And I will use this repair opportunity to study the inside of the FC-700. I have also considered several antenna tuners.(2024.05.08 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

FC-700:Antenna Tuner
 FC-700は八重洲無線のアンテナ・チューナです。FT-77、FT-707といった1980年代のトランシーバのアクセサリでした。 今では上位機種でなくてもオート・アンテナ・チューナ(ATU)の内蔵が普通になっています。しか30数年前はまだ外付けの手動式アンテナ・チューナが一般的だったのです。

 このFC-700はもともとモバイル用に購入したものです。 固定局のアンテナはインピーダンスが50Ω付近になるよう作っていたのでチューナーは特に必要としていませんでした。 しかし整合が難しい車載用アンテナで使おうと思って購入した経緯があります。(1990.11.21:3.5MHz Mobaileに初OA)

 ところがバリコンで同調する形式のチューナは振動でズレれしまい車載では使えないことがわかりました。 すぐに引退したのですがシャックにあってもあまり使う機会はありませんでした。 それに最近のトランシーバはATU内蔵が普通になったので50Ωから大幅に外れていなければ内蔵ATUで支障なく整合可能です。 それと、オートに慣れると手動は不便に感じますね。(笑)

 走行中に使うのでなければ支障はありません。 移動運用先の半固定でアンテナ整合の補助として使うのなら十分役立ちます。 最近復活した移動運用にあらためて使うことにしました。 ところがずいぶん古いため接触不良が目立っていたのです。 外観はまずまず綺麗でしたが内部のスイッチ接点は酸化・硫化が進んだのでしょう。整備することにしました。

                   ☆

 こんな古いアンテナ・チューナを整備する人は稀でしょう。あまり役立たないとは思いますが自身の整備記録としてBlogにまとめます。 また、せっかくの機会ですからよく観察してメーカー製アンテナ・チューナを研究することにしました。 もしも興味があればこの先もどうぞ。 アンテナ・チューナの自作は意外に挑戦者が多いので幾らか役立つかもしれません。

FC-700:内部構造
 後ほど回路図も出てきますが、アンテナ・チューナは単純な装置です。従って見たところもシンプルです。 部品配置がわかるように取扱説明書からコピーしました。

 写真で、左上の入力コネクタにトランシーバ(送信機)を接続します。 アンテナは右上の出力コネクタに接続します。 単線式のワイヤーアンテナも使えますが、その場合は必ずアース側の配線も必要です。 右の出力コネクタ寄りにアース用のターミナルがあります。

 入力コネクタから入ってすぐにSWR検出回路があります。C-Mカプラ式のオーソドックスなものです。そのあと心臓部の整合回路になります。

 このアンテナ・チューナはいわゆるπ-C型(パイ・シーがた)と称する形式です。 後ほど詳しく触れますが市販のアンテナ・チューナではT型と共に良く使われる形式です。 最近の内蔵型オート・アンテナ・チューナでも良く見られる形式です。 特別変わったものではありません。 八重洲無線のアンテナ・チューナにはπ-C型、T型のいずれも存在しますのでどちらかが特に有利と言うこともなかったようです。

接点の清掃
 さっそく整備を始めましょう。 メーカー製だけあってFC-700はなかなかうまく出来ていると感じました。

 専用に作らせたスイッチが使われていて電流容量が必要な部分はダブル接点になっており、また耐圧が必要な部分はステア・タイト絶縁になっています。インピーダンスの低い部分はベークライト絶縁で済ませています。 この辺りが自作ではなかなか真似のできない部分です。

   接点板と接触子は銀メッキのようです。 そのため長い年月の経過で硫化が進んだようでした。 観察すると黒ずんでいたのでそれで接触が悪くなったのでしょう。 サビと汚れを上手に清掃すれば復活できるはずです。(写真は清掃後のもの)

接点復活剤:コンタクト・スプレー
 接点復活剤(コンタクト・スプレー)と称するケミカル製品は様々なものが売られています。 電子機器用と称するものでしたら大抵のものが使えると思います。
 ここではホーザンの製品を使いましたがだいぶ古くなったので腐ってる(?)かもしれません。 でも取りあえずまだ効果はあるので使ってます。w

 こうしたスプレーにはストローのような噴射チューブが付属しています。 そうしたもので直接噴射しても良いのかもしれませんが、それには接点以外の余計な場所に付着した分を洗い流す必要があります。洗い流すには専用の洗浄剤が必要です。

 それも大変なので、私は綿棒の先に付けて要所のみ清掃することにしています。 少々手間ではありますがスプレーの残渣だらけでベトベトになってしまうと後々埃が付着し固着するのでかえって厄介なことになります。機器の寿命を縮めることにも繋がります。

 残渣が残らない無水アルコールなどで清掃する方法もあります。 しかし汚れを落とす能力はこうしたスプレーの方が優っているようです.使い過ぎると旨くありませんが要所に上手に使えばかなり効果的です。

汚れが・・・
 綿棒の先には汚れがいっぱい付いてきました。w

 ひどい汚れが除去できたら綺麗な綿棒に交換して仕上げの清掃をしておきます。 アンテナ・チューナのロータリー・スイッチは接点がたくさんあります。 丁寧にやろうとすればかなり時間が掛かるでしょう。
 はじめ、上蓋だけを外して雑に作業していました。 それである程度良くなったのですがまだ不完全でした。 それに綿棒を押し込んだ結果、少々無理な清掃をしてしまいました。そのため接点の一部を曲げてしまい致命的な接触不良を作ってしまったのです。orz

 それで止む無く底蓋も外し丁寧にやり直すことにしました。 曲げてしまった奥のほうの接点もピンセットで慎重かつ丁寧に元の形に戻しました。 特にデリケートさを感じたのはコイルのタップを切り替える接点で難しさを感じました。 何とか接点による不安定さは改善できました。 清掃によって全般に接点が綺麗になったためか接触不良も感じなくなりました。 アンテナ・チューナは機器としては単純なものです。 デリケートな部分もあって初心者向けとは言えないかもしれませんが、目視でわかる不具合も多いので良く観察して作業すればうまく直せるのではないでしょうか。

 再整備としてはSWR計の反射調整とパワー計に切替えた際のメーター再校正などが残っています。 外付けのダミーロードで確認した範囲ではこれらに問題はなかったので今回は手をつけませんでした。 もしSWRの表示やパワー計の指示ズレが目立つようならきちんとした終端電力計や50Ωダミーロードなどを併用して再調整を要します。

                   ☆


FC-700の回路図
 蓋を開けたのでせっかくですからFC-700を研究してみました。

 取扱説明書からコピーした回路図です。 メーカーのサイトで取扱説明書がダウンロードできるので正式な図面はそちらを参照してください。 左の図はBlogの説明用です。

 スイッチがたくさんあるので複雑そうですがアンテナ・チューナの回廊としてはπ-C型の単純なものです。 後ほど単純化した図面があります。
 書籍などアンテナ・チューナ関係の資料を参照するとスイッチで切り替えている:C1〜C13というコンデンサがバリコンになっているものがありました。 FC-700ではトランシーバの出力インピーダンスは50Ωであるとの前提で、バリコンではなくバンドごとの固定コンデンサに置き換えたものでしょう。 バリコンにすると操作部が増える上、コストもかさみますから固定コンデンサの切り替えですませる方法は現実的です。

 コイルはL01とL02の2つに分けられています。 各コイルとも使わないタップは間をショートするようにしています。 複数のタップ間を細かくショートしてショート部分で無用な共振などが起こらぬように特別に構成されたスイッチが使われています。 芸がこまかいと言うか、こうしないと旨くないのでしょう。

 入力コネクタから入ってすぐにSWR検出回路があります。C-Mカプラ式のオーソドックスなものです。 バイファイラ巻きのトロイダル・コイルを使ったカレント・トランス式なので基本的に周波数特性は平坦です。

 50Ωのダミーロードが内蔵されています。 ただし切り替えにリレーを使っている関係で外部からDC電源(+8V)を供給しないと機能しないのは残念です。
 ダミーロードはシャックの必需品です。 メーカー機ばかり使っていると必要は感じないかもしれませんがRigの修理や自作送信機のテストには是非とも欲しいものです。

 近頃はオンエア前にPlateとLoadバリコンを調整するようなトランシーバ(FT-901やTS-820,etc)は見なくなっていますが、もしこのアンテナ・チューナを併用するなら内蔵のダミーロードは重宝します。 まずダミーロードに切り替えてトランシーバのPlateとLoadを加減し所定のパワーが出るよう調整します。続いてチューナに切り替えて整合調整を始めることになります。

 整合調整はまず目的のバンドに切り替えます。SWR計を反射波側にセットし適度なパワーに絞ったのち送信をはじめます。チューナのTuneとLoadのバリコンを交互にゆっくり回しSWR計の「反射」が最低になるよう調整します。 慣れると勘が働くようになってバリコンを「予測」で余分に回せるようになり素早く整合できるようになります。(勘の悪い人は手間取ります・笑)

 このようにSWR計はアンテナ・チューナに不可欠です。 使用時には「必ず」メータを見ながら反射電力が最小になるようにTuneとLoadのバリコンを「入念に」調整する必要があリます。 また、このC-Mカプラ式の内蔵SWR計は簡易なパワー計としても機能するので重宝です。 ただしメーターは小さいですし多分周波数特性も完全なフラットではないでしょう。パワー計としての精度はあまり良く無いと思いますが無いよりもずっとマシなのは間違いありません。
 このチューナが接続してあればスイッチがスルー状態でも常にSWR計としてアンテナ系を監視できます。 また通過型のパワー計としても便利に使えます。 パワー計の目盛は15Wと150Wフルスケールの2レンジあります。

 ところで、こうしたアンテナ・チューナは便利なものですが、必ず「通過損失」が存在します。 これは50Ωの終端電力計をつないでスルー状態とチューナを入れた状態を比較すればすぐにわかります。 だいたい5〜10%くらい損すると思えば良いでしょう。チューナを通すと10Wが9Wになってしまうのです。 しかも50Ωを大きく外れるような負荷(SWRがとても高いアンテナ)の場合はさらに大きな通過損失がチューナ内部で発生すると思って間違いありません。 ですから、なるべくアンテナそのものが50Ω付近になるよう製作(調整)してアンテナ・チューナなど必要としないようにすべきなのです。

コイルに注目
 このアンテナ・チューナで私が注目したのはコイルの部分です。 従来のアンテナ・チューナでは決まって空芯型の大型コイルが使われていたからです。 そうしたQの高い空芯コイルを使うのが「アンテナ・チューナの常識」だと思っていました。

 トロイダル・コイルが使えるというのは目から鱗と感じるほどだったのです。 もちろん空芯のHigh-Qなコイルを使う方がロスは少ないでしょう。 しかしFC-700のように薄型でコンパクトに作ることはできません。 これは他社のアンテナ・チューナの内部を見れば良くわかることです。トロイダル・コイルとは、ちょっと思い切った方法なのでびっくりしたものでした。

 3.5MHz〜14MHzと言ったローバンドではトロイダル・コアに巻いたコイルは省スペースになってFBです。 しかしハイバンドになるとトロイダル・コアのロスが増えるのと、うまくタップが取り出せないことから空芯コイルの2つに分けたものと思います。


2つのバリコンは・・
 バリコンは2つ使われています。 いずれもギャップは狭くてあまり耐圧は高くないでしょう。 せいぜい1kVではないでしょうか。

 仕様上の整合可能なインピーダンス範囲を狭くとっているため1kV程度でも何とかなるのでしょう。
 それでも10Ω〜250Ωとなっているので最近のRigに内臓のATUよりも整合可能な範囲はずっと広いです。この辺りがテキトーに張ったワイヤ・アンテナでも意外にうまく整合できる理由なのでしょう。 まあ、そう言った”アンテナ”は整合はできても飛びは別の問題なんですけれども。(笑)
 注意としては1/2λに近いワイヤーのようにインピーダンスが高くなりそうなアンテナはやめた方が良さそうです。 QRPならともかく100Wではバリコンの耐圧が問題になってきます。

入力側コンデンサ
 写真はπ回路の入力側コンデンサです。 既に書いたようにRig側のインピーダンスは50Ωであると想定しているので、容量が固定されたコンデンサで済んでいるのでしょう。 各バンドともXc=25Ωになるような設計で整合範囲を広く取るのが目的でしょう。

 コンデンサはすべてディップド・マイカ(シルバード・マイカ)です。 E12系列を基本とし一部にはE24系列の市販品から容量を選び、それでも適切な容量が無い場合は2個並列で必要な容量を合成しています。 従って、使用できるHAMバンドはWARCバンドを含む3.5MHz〜28MHzの8つですがコンデンサは13個あります。

 アンテナ・チューナを自作する場合もこうした手法は参考にできるでしょう。 単一のバンド用チューナなら切り替えスイッチも要らず容易に作れます。

SWR・パワー計検出部
 C-M型のSWR・パワー検出回路になっています。 原理的に周波数特性はフラットなのでバンドによって感度の変化はありません。(そうは言っても完全なフラットではないでしょうけれど・・・しかし実用上の支障はないはずです)

 SWR計はアンテナ・チューナには必須の機能です。もし内蔵されていなければ外付けする必要があります。
 アンテナ・チューナに必要なことは整合状態の検出です。 整合しているかがわかれば良いのであってSWR値は読めなくても支障はありません。 従ってSWR測定回路ではなくて、インピーダンス・ブリッジ形式の整合検出回路を内蔵するアンテナ・チューナも存在します。 しかしせっかくですからSWR計になっている方がFBでしょう。 オンジエアしながらSWRが監視できますし通過型のパワー計にもなって便利です。

 検証はしていませんが検出部に使ってあるトロイダル・コアはT-37-#1のように見えます。 #1材はあまりポピュラーではありませんがカーボニル・コアのTシリーズでは最も透磁率が大きいマテリアルです。 フェライト・コアのFTシリーズで自作する例が多いのですが、カーボニルの#1材の方が何か良い点があるのかも知れません。(これは要確認です・笑)

内蔵ダミーロード
 50Ω/100Wのダミーロード部分です。

 抵抗器は1kΩ/5Wのごく普通のものが20本並列で使われています。抵抗器は小型で耐熱性に優れる酸化金属皮膜型です。周波数特性を補償する目的で10pF/1kVのマイカ・コンデンサが並列に入っています。

 5Wが20本ですから計算上は100Wですが連続的にそれだけの電力を消費できるわけではありません。 FC-700の仕様書には30秒と書いてあります。 抵抗器が密集していますし中の方は熱放散が悪いでしょう。連続ではとても持たないわけです。

 昔、似た方法でダミーロードを作ったことがあります。 周波数特性もHF帯なら問題なくうまく動作します。 課題は冷却で、強制空冷するとか何か効率的に放熱して冷却する方法を考えておかないとすぐに過熱するのが問題でした。hi

                   ☆

 以上、FC-700の各部を眺めてみました。 流石にメーカー製だけあって構造や部品配置が工夫されており各部は最短距離で配線されていてます。 スイッチなど特殊品なのでそのままそっくり真似はできないと思いますが工夫された部分は学びたいものです。

このあとはちょっとしたアンテナ・チューナ回路の雑談です。

アンテナ・カプラの基本回路
 今では送信機(トランシーバ)とアンテナを整合する装置は「アンテナ・チューナ」の呼称が定着しています。
 私が若かった時分は「アンテナ・カプラ」と呼ばれていました。

 同軸ケーブルでの給電が常識になる以前は「ハシゴ・フィーダ」と言った平衡給電が行なわれていました。 たいてい同調フィーダとして使いますからフィーダ上に定在波が立つのは常識でした。そのためアンテナ・カプラはシャックの必需品だったのです。

 その後、不平衡型のケーブル・・同軸ケーブル・・で給電する時代になってもアンテナ・カプラは良く使われました。(左図は古い形式の例です)
 もちろん今でも有効に使える回路ですが、この形式で厄介なのはコイルの1次側と2次側の結合度を可変する必要があることでしょう。コイルを機械的に動かして結合度を可変するケースが多いのですが、代わりに1次側(送信機側)のリンク・コイルにも直列にバリコンを入れる形式もあります。バリコン形式にするときにはリンクは2倍くらい多く巻きます。

 もし作るのでしたら(b)の中間型にしようと思います。 端子板を使って配線換えで(a)や(c)に変えられるように作っても良いのですが煩雑になってしまいます。 しかしうまく作るとバリコン一つで済みますから経済的で悪くない回路だと思っています。 固定局のようにアンテナの形状がだいたい決まってしまうと一度調整すれば良いわけですからコイルの結合調整も煩わしいと言うほどではありません。

 コイルとバリコンで運用周波数に共振させることになります。 共振させるためのコイル(インダクタンス)とバリコン(キャパシタンス)の組み合わせは無数にあるわけですがアンテナ・カプラとしてはHigh-C、Low-Lの組み合わせが適しています。

 部品数の少ないアンテナ・カプラです。 コンパクトに作って移動運用にも重宝する「小型アンテナ・システム」になりそうです。 何の変哲もない「同調回路」ですが眺めていてそう思いました。

 古よりシャックで使うアンテナ・カプラといえば太い線を巻いた立派な(巨大な)コイルとギャップの広い大型エアー・バリコンと相場は決まっています。 しかしそれでは移動運用には大げさです。パワーに見合った部品を使うと言ったちょっとした発想の転換も必要そうです。

L-Zマッチのアンテナ・チューナはいかが?
 上記の古いアンテナ・カプラを眺めていて「Zマッチ」を使ったらどうだろうかと思いました。
 Zマッチというのは2連バリコンを使いコイル一つで広い周波数可変範囲を持った共振器を構成する方法です。

 左図の左側の囲みのようにLとCを並列共振と直列共振に組み合わせた回路です。 作り方次第ではHF帯を一つのコイルと一つの2連バリコンでカバーできます。 上記のアンテナ・カプラのLC共振器をこの回路に置き換えれば少ないパーツでオールバンド・アンテナ・チューナorカプラが作れそう。

 実はそう思ったHAMはたくさんいたようです。 ネットで探すと似た発想のアンテナ・チューナが幾つもヒットします。

 図はARRLのAntenna Compendium Volume3という書籍にあった回路です。(Page:191〜、W6JJZの執筆) 記事には2つ回路があって左図はそのうちの簡略版の方です。いくらか制約はあるようですが回路はシンプルです。 うまく使えればマルチバンド対応の移動用アンテナシステムがコンパクトに構成できるかもしれません。 基礎的な実験からでも初めてみたいと思っています。

 なお、先人のテスト結果もネット上にいくつか見られました。 それによればZマッチを使ったチューナは回路自体の通過損失がかなり大きくなって効率的でないケースがあるそうです。 さらなる検証は必要そうですが、ある程度のディメリットはあってもシンプルさと言った特徴が発揮できそうなら採用する意味はあるかもしれません。

 実験していませんから推測にすぎませんがZマッチを構成するコイルのインダクタンスとバリコンの容量によってもかなりの違いはありそうです。 さらにLow BandとHigh Bandではたとえ共振はしていても共振インピーダンスに大きな違いがあるはずです。 アンテナ・チューナ回路として負荷をかけた状態(=アンテナをつけた状態)であまりにもHigh-Qになる(例えばQL>30)ようでは損失が激増するのも当然です。
 従ってLとCの組み合わせの上手いところを探す必要があるのでしょう。 それにしても可能性がありそうなチューナ回路だと思いました。

FC-700の解析
 回路図の最後はFC-700の解析結果です。

 取説の回路図に書かれていて部品定数がわかるパーツは実際に内部を見ただけでもおおよそ理解できるものです。 しかし問題のコイルだけは現物を見てもどんな部品定数なっているか、にわかにはかわかりにくいのです。

 幸いトロイダル・コイルはコア材がわかりました。 T-157-#2に間違いないためAL値は簡単に判明します。 数えれば巻き数もわかりますから計算でインダクタンスも求まるでしょう。 空芯コイルの部分も寸法と巻き数がわかったのでかなり精度よく計算できました。

 ただし、見落としてはいけないことがあります。 多バンド型アンテナ・チューナ特有の構成のためインダクタンスには不確かさがありそうなのです。
 全巻線を使わないほとんどのバンドでは途中タップを使って小刻みに巻線をショートしているからです。そのショートされた部分は影響しないのでしょうか? そのため実効的なインダクタンスは計算される大きさとは異なっているかも知れません。
 まあ、まったくの同等品を作りたいのであれば同じ材料で同じ形状・構造に作れば実現できるるわけで、そういう意味での再現性は十分にあるでしょう。 しかし図に参考として書いてあるインダクタンス値は確かではない可能性が残っています。

 この図は独自の研究によって推定して得たものですからメーカーの設計意図を正しく反映していない可能性があリます。 従ってこの図をもってメーカーにご質問などされることはおやめください。 ご迷惑をかけるだけです。

 どうしても確かめたいのなら材料はわかっているのですから自ら同じように作ってみたら良いわけです。 確証が得たいなら是非そうされてください。 私からのお願いです。

アンテナ・チューナの参考書
 アンテナ・チューナの関連で蔵書を漁っていたらこのような書籍を見つけました。 買ったことを忘れていたくらいなので中身の記憶はぜんぜんありませんでした。

 書名が「アンテナ・チューナ」とはなっていませんからチューナの製作記事を期待してはいけないのかも知れません。 おもにチューナのオートチューニング技術を扱った内容と言ったら良いでしょうか。

 しかしアンテナとRigの間のチューニングのお話としては面白い研究内容です。 こうした分野にご興味があったら一読をお薦めしたいと思います。 絶版と思われますので図書館の利用がよろしいでしょう。 また、私見ですが無理してまで手に入れるほどの内容はないと思います。

                   ☆

 不調になったアンテナ・チューナをリペアすると言った単純な話のつもりでした。 色々眺めて散策しているうちにだいぶ道中が長くなってしまいました。 このBlogに欠けているのは数式によるアンテナ・チューナの解析です。 この辺りはπ型の変形インピーダンス整合回路として専門誌では詳しい扱いがなされていました。

 もちろん数値による解析は重要な手がかりを与えてくれます。 みずから設計するには避けられないはずですが、ここは娯楽のBlogなのであえて数式には触れぬことにしておきました。 興味の向きは是非ともご研究を!  アンテナに限らず整合回路の奥深さが楽しめるでしょう。 ではまた。 de JA9TTT/1 T.Kato

(おわり)