2009年8月28日金曜日

【HAM】Junk Boxの友か

 買い置きのパーツが「お宝に変身」も稀にはあるが、いつしか陳腐化しゴミやジャンクの運命になる方が遥かに多い。これ以上増やさぬようにと思いつつもついつい手が出てしまう。(^^;


 アイボール目的だから期待はしてなくても少しはお土産も欲しいものだ。 しかし今年のHAMフェアもパッとしなかったように感じた。ジャンクも年ごとに細って行くようだ。 オークションの影響かも知れぬがその実パーツの類いに高値が付くのは稀である。良さそうなパーツもヤフオクでは売れない回転寿しの様相を呈している。

 結局のところ思ったほどパーツのニーズはないのだろう。いくら集めた所で部品は部品でしかない。 HAMも高齢化すれば自作とか修理みたいな面倒臭いことはしなくなる。(できなくなる?) だんだん「できあい」が手っ取り早いと感じてくる。


・・・と言うわけで、肝心の良いブツが無くては大した買い物にもならぬ。そのうち使いそうな小物をちょっとだけお土産にした。(笑)


12.8MHzのX-talオシレータ:

 TCXOでは無いかもしれないが、周波数調整穴があるので便利である。10個300円だったのでJE6LVE高橋さんと山分けした。 AVRマイコンのクロック発振にでも使うつもり。

 高精度タイマーや周波数カウンタのタイムベースには周波数を微調整したくなる。水晶発振子+トリマ・コンデンサでも良いが、電源を繋げば済む発振モジュールは便利だ。

 端子はVcc、GNDとOutputの3つだけのシンプルなものだ。 何時でも売っているようなポピュラーな部品とは言い難いが、写真に端子接続を入れておいた。 秋月で定番として売っている京セラ製のTCXO:KTXO-18Sと互換性がある。それ以前に売っていたTCO-703Aともピンの並びは同じで互換なのだが、TCO-703Aではピン番号の付け方が異なっていた。
 なお、ピン番号1番に相当する位置にピンはない。以降、上面から見て反時計回りに7番がGND、8番Output、14番が+Vcc5Vである。内部は温度補償コンデンサを使い、トランジスタ1石のシンプルな無調整型水晶発振回路(コルピッツ等価)になっている。 この種のモジュールは4Pinのものも見かけるが、出力のON/OFF機能を持つものも多い。 VCO機能を持つものがあれば面白いが残念ながら稀である。(2009年12月12日:ピン配置に関する記述を再編集)
:秋月で売っていた京セラ製のKTXO-18Sに関しては別のBlogを参照:==>ここ

こんな波形が得られる。

 電源電圧:Vcc=5Vで約2.0Vppのナマった矩形波が得られる。写真は無負荷の状態なので2.2Vppくらいあるが、4.7kΩ負荷では約2.0Vppだった。

 内部でC結合されておりマイコンに与えるにはDCバイアスを掛けた方が良い。 VccとGND間に10kΩを2個シリーズに入れ、抵抗の接続点に出力端子を繋ぐ。 これで2.5VのDCバイアスが加わるから大抵は旨くはたらく。ただし信号の振幅が不足気味なのでシュミットで受けてやるとより確実だ。周波数安定度はAVRマイコン自身で水晶発振させるよりも良さそうであった。

7005kHzのクリスタル(水晶発振子):

 7003kHzのクリスタルの手持ちが無くなってしまったのでこれを試しに買ってみた。 早速テストした結論から言えばトリマ・コンデンサだけでうまく7003kHzに調整できる。VXOまでしなくても良い。

 拙Blogの「7MHz QRP Transmitter(2)」にある回路図で言えばC6(トリマ・コンデンサ)とC15がクリスタルと直列になっている。 そのままの回路でこれを使うと当たり前だが7005kHz前後の発振になる。実際やってみても7003kHzまでは下げられなかった。

 そんな時はトリマ・コンデンサ(C6、C15)をクリスタルと並列に入れる方法がよい。うまく周波数を下げることができ7003kHzに調整できる。 max100pFのトリマ・コンデンサがあれば、広い範囲の可変ができてより便利だ。 具体的に書くとクリスタルはQ1:2SC30のC-B間に直接入れる。そのクリスタルと並列にトリマ・コンデンサ(C6)を付ける。固定コンデンサC15は必要に応じて入れる。

 7003kHzを特注しようと思っていたのだが、@¥500-円のこれで十分そうだ。 この水晶発振子は通販ショップ「ラジオ少年」で普通に売っている。 7000kHzのクリスタルを上まで引張るよりも少し安心だし、7003〜7007kHzあたりの方がオンエアする局も多い。この水晶はその辺りをカバーできる。

400pFのマイカトリマ・コンデンサ:

 BC帯ラジオのパディング・コンデンサに使うには容量不足だと思う。 もちろん目的はそれではない。

 7MHzのあとは3.5MHzや10MHzのQRP送信機も作ってみたい。特に3.5MHzは大容量のバリコン(トリマ・コンデンサ)が欲しくなる。 丹念に探せば秋葉原で普通にあるのかもしれない。だが何故かHAMフェアでは毎年良くお目にかかるトリマ・コンデンサなのである。

 400pFのエヤーバリコンは大きくて困るがこれは小型で場所をとらない。 このトリマはCminが270pFと大きく作ってあった。 本来の目的用途は不明だが無闇に可変範囲が広くならぬように作ってあるようだ。元来マイカ・トリマのCminは大きめなのだがCmax=400pFのものでも普通はCmin=100pF以下である。

10連のLED(赤):

 HDSP-4830と言うhp製の10連LEDである。 かなり安価だったのは良いがLEDのジャンクはやはり感心しない。 輝度が高くないのでそれなりに電流を流す必要がある。 最近は超高輝度LEDが多いので暗く感じるのだろうか。それで新品ジャンクになったように思う。

 実験用など暗くて良い時には配置・配線が簡単なので便利そうだ。 少し高価でも電池が電源の機器にあっては最新の高輝度LEDを使いたいものだ。 アレータイプのLEDは高輝度品が秋月にもあったと思う。 せいぜい1mA/Seg.程度で十分な輝度がないと電気の無駄だろう。これはまさしく安物買いの・・・だったようだ。まあ実験用と言うことで。(笑)

                  −・・・−

 以上、どれも新品ばかりだが怪しげな「純ジャンク」もいつもどおり見られた。 むしろ丹念にかき分ければお宝はそちらで発掘されそうだ。 もちろん部品だけでなくRigや測定器など「機器ジャンク」も出店していた。 HAMフェアに中古測定器を目的に来る人もあるほどだ。 不景気の影響もあって測定器は年ごとに値崩れ傾向が続いている。持っていなければ欲しくなりそうなものもあった。 ただ、めぼしいものは余りなかったように感じた。 売れ残りを警戒してか少ししか持って来なくなったのだろう。

 昨今は測定器も必要な人には行き渡り、逆に初心者は迂闊に手を出しても使い物にならぬことを学習したようだ。オークションでもちょっと高いと買い手が付かないのが現実だ。 それもその筈で雑誌記事を作ったりキット製作を楽しむくらいならオシロスコープがあれば御の字だ。 否、良くできた記事やキットならデジタル・テスタとせいぜい周波数カウンタでもあれば済む。
 雑誌記事やキットが高級測定器を要求するようでは落第だろう。 自作に研究開発的な要素が多分に含まれるなら別だが、そうでもなければ高度な計器もシャックの飾りになる。 過去1年間も灯を入れぬようでは、たぶんそれは不要な機器なのである。 いやいや之は自戒を込めてのこと。(笑)

# 前々から欲しかった物と出会えたなら収穫の多いHAMフェアだったと感じることだろう。 ジャンク市などそんなものである。人それぞれ感じ方は異なるものだ。

来年も皆さんとのアイボールが一番の楽しみだ。 お会いできた皆さんどうも有難う!

2009年8月23日日曜日

【その他】いまさら?ETC

ETCが手に入った。(今さらなんだが・笑)
注意:このBlogは2009年8月のものです

 知らなかったのだが、ETCはこの箱に入った車載器を買うだけではぜんぜん使えない。(^^;

ETC割引の恩恵にあずかるには・・・
(1)ETC車載器の購入:まずは高速インターのゲートでデータを無線通信するための『車載器』と言うものが必要だ。まあ、HAMならこれは当たり前にわかるだろう。データ送受信用の5.8GHz帯トランシーバと言うわけだ。

(2)車両情報の書き込み:しかし車載器を買っただけではダメである。取付ける車両の情報を車載器本体に書き込んでもらう必要がある。(要するにETCを取付ける車は固定されるのだ) このセットアップの手数料に数千円もとられる。

(3)ETCカード:写真手前にあるドライバーズカード/ETCカードと言うICカードが必要になる。利用時にはこのカードを車載器に差し込んでおく。このICカードには料金支払者の情報が書き込まれている。 カードは一般に無料で作れるようだがカード会社などと契約して料金が口座から引き落とせるよう手続きしておく。 なおETCカードは特定の車両には依存しないのでレンタカーでも使えるようだ。

これだけ揃ってやっとETCを取付けて使えるようになる。

車載器の取付け:何とかDIYで。

昨今は車載器が慢性的に(メーカーと販売店の意図的に)品不足状態である。 私が付けようと思った時にはすでに品薄だった。安価な物はまったく無かった。 それは今でも続いており、足下を見たメーカーと業者が高額なものだけを用意して暴利を貪っている感じがする。 以前は人気がなくて補助金付きで殆どタダ同然で付けられたと言うのに・・・。(今の状況は××党族議員の陰謀に違いない?)

 幸い無料と言う訳には行かなかったが車両情報書き込み済みの車載器がまずまずで手に入った。 最初は「価格.com」で安価な車載器を探したのだが、リーズナブルなモデルはどれも売り切れであった。あるのは高額なモデルばかり・・・。 数量限定だが割引キャンペーンを見つけた。 但し時間が掛かってしまった。今月初めに申し込んで、車載器が届いたのは一昨日(21日)である。その間にETCカードは入手済みだ。支払い口座の手続きも済んでいる。ETC本体へ車両情報の書き込みも済んでいる。あとはクルマに付けるだけだ!

 車載器を設置しなくてはいつまでも使えない。(アタリマエ) 面倒くさいと思いながら、懇意の自動車整備工場に電話したら「自分でやれますよ。わからない所があれば、持っくれば見てあげます・・・」とのこと。そう言われてしまうとDIYでやるしかない。要するに簡単にできるからお金にならないと言うことらしい。

 内装の剥がし方がわからないのが難関であった。配線の接続はともかく、どの様に車内を通すと言うのが問題である。 まさか「剥き出し配線」と言う訳にも行かない。 結局ピラーのカバーを外したり試行錯誤しながら何とか設置した。 素人細工だからこんなものだろう。 余った配線が気になったが切りつめるのもたいへんなので束線しておくことにした。

アンテナの取付け:もちろんDIYで。

 無線なので勿論アンテナが必要だ。この取り付けが悪いと認識されず、ゲートが開いてくれない危険がある。

 しかし普通の車なら所定の所にマウントすれば問題ないようだ。ここは指定の場所である。 フロント・グラスが特殊加工されたクルマでもなければこの位置が一番のようである。

 但しこの場所はアンテナ線のとり回しが厄介だ。 ウインドウ上縁に沿ってダッシュボードまで引いて来なくてはならない。 どうしたものかと迷ったが、サンバイザーのステーを外したら内貼りが浮いたので裏側に収納できた。 そのあとピラーの所で下方に落とし込んでETC本体まで持って来た。(やれやれ)

 電気配線は、常時+12Vと、アクセサリONの時+12Vが通電される箇所、それにGNDへの3箇所の接続が必要だ。車種によるので配線方法は書かないが接続場所さえ見つければ簡単にできる。ハンダ付けなどせずに、圧着式の端子を使うのが「自動車配線的」だ。
 コネクタを本体に接続して動作テストしたら配線に問題はなさそうだ。 しかしちゃんとゲートを通れるかと言う実地試験は必須であろう。 さっそく近所のインターまで走って最短区間でテストしてみた。 入口でちゃんと認識してゲートが開いたのであっけなくテストOKである。 テスト費用(=通行料金)¥250-也を「自動徴収」されて次のインターのゲートを出た。(笑)

 おりしも休日一律¥1,000-サービスをやっていた。 テストしたのは日曜の夕方である。交通情報によれば東京方面の上りは大渋滞とのこと。 それを見越して東京寄りの花園インターまで下の道で行く。そこで高速に上がり、下り方面:本庄・児玉インターに向かう。 もちろん下りはスイスイだが、それでも割引以前より混んだ感じがする。
 分離帯越しに見る上り線は殆ど止まってるかノロノロである。これに巻き込まれるなら¥1,000円でも行きたくないなあ・・と思いつつインターの1区間を15分でスイっと走って帰って来た。
 ETCのメリットは休日上限1,000円一律だけではないので、要は使い方のようだ。政権が交代するとタダになる可能性(ムダになる危険性?)もあるが完全実施されるまでには数年掛かるように思う。 それまでには十分モトはとれそうだ。取り付けもDIYして浮かせたことだし。

2009年8月19日水曜日

【HAM】Famiポートで「前売り」

今年のHAMフェアは今週の土日/8月22・23日である。

 到着時刻にもよるようだが、去年はあまり並ばずに入場券を買えたようだ。 しかし、一昨年は一時間も行列してしまった。 その横を前売り券でスイスイ入場する人を恨めしく眺めたものである。 役員とかお手伝いで、事前の出展者用入場券を持っていたことも多いので、滅多に並んだことはなかったのだが・・・。(笑)

 今年はお手伝いもないので一般入場者である。 並ばされるのはまっぴらだし、時間も勿体ないので前売り券を買っておいた。 正しくは引換券だが、大抵そちらの専用窓口は空いている。 去年もまったく並ばなかった。(笑)

 なお、JARL NEWSに付いてきた割引クーポンは使えないが前売りで150円安く買える。 ファミリーマートの店内にあるマルチメディア情報端末「Famiポート」の簡単操作で前売りを購入できる。チケット「ぴあ」に行っても良いがファミマの方が身近だろう。
 端末の前に立ったらチケット「ぴあ」の扱いなので、最初にそのボタンにタッチしてチケット購入の画面に行く。 その場でイベント名で検索しても良いが「Pコード」と言うのがわかっていると簡単だ。ハムフェアのPコードは「986-523」なのでそれをインプットすれば一発である。あとは画面の指示に従えば(だれでも?)できてしまう。

 端末操作が終わると予約券のようなものが感熱紙に印刷されて出てくる。それをレジに持って行くと代金と引換えに写真のような正式の前売り券をくれる。(30分以内に予約券を持ってレジで支払いしないと無効になる。その場合は再度端末の操作が必要)なお、複数の枚数をいっぺんに買うこともできる。

 手際よくやれば発券まで10分もかからない。まだ間に合うので会場で行列したくないお方にお薦めである。

# 実はちょっと手間取ったので「面倒くさいねえ・・」とかレジの女子高生バイトと話したら、「アタシなんかまだ使えないからスゴイ!」とか言われてしまった。 実際は端末画面を「良く読んで」従えば難しくないからオジサンでも大丈夫だ。(笑)


注意(2010年度の情報):上記のBlogは2009年のHAMフェアに向けて書いたもの。当然ことしの前売券購入のためのコードは異なっている。 2010年のHAMフェアは、8月21、22日に東京有明のビックサイトで開催される。 2010年の前売りは、コンビニ端末にて1,350円で購入できる。「コンビニ商品コード」;0227750もしくは「チケットぴあ Pコード」:986-942の何れでも購入できる。 8月21日はQRP-Clubのブースにて店番する予定。お会いできたら宜しく。(2010,8,19)

2009年8月15日土曜日

【回路】700Hz Bandpass Filters

【CW用を目的としたオーディオ・フィルタ】
 このBlogは考えの整理と勉強の意味で書いています。何かを解説すると言うような大層なつもりはありません。記述は幾らか不十分かも知れませんがご容赦下さい。ご質問を頂けばわかる範囲で考えてみたいと思います。遠慮なくどうぞ。


中心周波数700HzのオーディオCWフィルタ
 先日からバンドパス・フィルタを検討しています。 引いてみた回路図を眺めていたら、おなじ図面のままで種々の特性に変身できることに気付きました。 理屈から言えば当たり前なのですが実際に数値計算し、シミュレーションで確かめたら妙に感心してしまったのです。(笑)

 表にあるすべてのフィルタは中心周波数:Fo=700Hz、-3dB帯域幅:Bw=300Hz、ゲイン:Gv=0dB(1倍)で設計しています。 回路図でご覧の通り、MFB型(多重帰還型)の単体フィルタを4つ組み合わせた4次のアクティブ・フィルタです。

 具体例があった方がイメージし易いでしょう。フィルタの勉強用であると共にもちろん実用に使えることを基本にしています。 前のBlogの続編なのでCW受信機を対象としたオーディオ・フィルタで考えることにしました。 低周波フィルタゆえにダイレクト・コンバージョン受信機(DC受信機)向きなのですが、もちろんスーパ・ヘテロダイン形式の受信機に付加してもたいへん効果的なのは実証済みです。

 すでにCW受信用オーディオ・フィルタは何回も扱っていて目新しくもないかも知れません。この例では比較的複雑な・・高性能()な・・フィルタを扱っています。 たぶんかなり「高級指向」であってもこの程度のフィルタを作ればHAMの通信用としては十分だと思っています。 部品も多く複雑ですから作り易いとは言えませんが性能優先なら検討に値するフィルタです。(大半のニーズは前のBlogのようにずっと簡単なフィルタの方で十分間に合ってしまいそうですけれど・・・)

 回路を簡単に説明します。 上段の左端:U2aは入力バッファアンプです。 外部回路の状態がフィルタ特性に影響しないようにしています。 U1a〜U1dまでの4つの繰り返し回路がフィルタの心臓部にあたります。 下段左のU2bはこのフィルタがマイナスGNDの片電源だけで使えるようするための中点電位(仮想的なGND電位)を作る回路です。(この部分は少々凝り過ぎかも)

 ところで、フィルタは中心周波数:Foや通過帯域幅:Bwが決まればそれがすべてでしょうか? 実際はそうではありません。 通過帯域の下端と上端周波数でスパッと切れ、いきなり遮断域になり、しかも位相特性や群遅延も完全フラットな理想フィルタが完成すればただ1種類のフィルタで事足りるかもしれません。 しかしそのようなフィルタは存在しません(作れません)。 現実のフィルタは通過域から減衰域へと傾斜を持って切れて行くのです。さらに、通過する信号に(群)遅延や位相歪みも発生するのです。

 すべての要望を理想的に満たすフィルタは実現不可能なのでどんな性能を重視するのかによって、要求内容に最も適したフィルタを選択することになるわけです。 特徴的なフィルタにはそれぞれ固有の名称があって以下の4種類は代表的なものと言えるでしょう。

 回路図の一覧表のように部品定数を換えることで同じ回路形式で4種類のフィルタが実現できます。 表の部品定数に従えば以下の4種類のフィルタが「実際に」作れます。(回路図:Ver.3が最新)

注:減衰域に伝送ゼロ点を持たせるElliptic型(楕円関数型あるいは連立チェビシェフ型とも言う)はノッチ特性を持たせる必要があります。ノッチの実現にはブリッジド・T型回路などを使います。従って上記と同じ回路と言う訳には行かず、部品定数の変更だけでは実現できないためここでは扱いません。その設計は更に厄介で製作も大変です。過渡応答特性もけして良くありません。CW受信用として適当でないと考えています。

 例によって0.039μFの手持ちのフィルム・コンデンサを多用する設計にしました。以下一連のフィルタは部品の誤差がシビアに効くので同じ値のコンデンサが多量にあると選別に好都合だからです。 しかしまったく同じ値のCを高い精度で多数揃えるのは大変です。 そのために2個の同一容量コンデンサを得てから抵抗値を決める方法が現実的です。これは4つの基本フィルタ・セクションが独立だから可能なのです。 部品誤差を設計でカバーする方法を採る訳ですが、電卓の手計算では膨大な計算量のうえ間違い易いため計算専用プログラムを自作して使っています。

 具体的な製作では、まずLCRメータやインピーダンス・ブリッジで同じ容量のコンデンサ:Cを2個探すことから始めます。 2個ずつ値の揃った4ペアを見つけたらそれぞれのコンデンサの値に基づいて各段の抵抗値を設計計算します。 膨大な数のコンデンサから同じ値のコンデンサをたくさん(8個)揃えるよりも合理的であり実際に作り易い方法です。

 抵抗器はE24系列が使えるので半端な値も2個の組み合わせであらかた実現できます。抵抗値の実測確認には4桁表示のDMMが欲しい所でしょう。  なお掲載の一覧表はコンデンサにすべて誤差のない0.039μFを使うとして計算した例です。 ±1%誤差のコンデンサが入手できれば無選別でも良いでしょう。表の通り作って大丈夫です。

                   ☆


【ベッセル型:Bessel】
 青い線はBessel特性のフィルタです。もちろん、中心周波数:Foは700Hz、-3dB帯域幅:Bw=300Hzになっています。4種類のフィルタの特性を重ねあわせていますが、中心から-3dB下がったポイントですべてのカーブが交差しているのがわかるでしょう。どれも中心周波数と帯域幅が同じ設計だからです。

 Bessel型は通過域(山の頂上の部分)に平坦部はなく文字通り山形の特性です。 見た通りなだらかに裾野を引いており切れも良くありません。周波数特性だけで見れば何も良い所はないように思えます。

 Bessel型は通過する信号の変形が少ないと言う大きな特徴があります。 位相特性や過渡特性に優れるのです。 連続した単一信号を扱うなら特にメリットはありませんが、例えばFSK信号などでその特性が発揮されます。 過渡応答にすぐれているので信号がオーバーシュートしたり過度の余韻を引くこともありません。 しかし混んだハムバンドではどうも有り難味の少ないフィルタのように見えてしまいます。

【トランジショナル・ガウシャン型:Transitional Gaussian】
 特性カーブを緑で示します。 周波数特性のカーブが途中でガウシャン型(ベッセル型に近似)から、バターワース特性(後述)に切り替わるフィルタです。 この例では-6dBのところで切り替わっています。
 通過域がガウシャン型であり、ベッセル型と同じように過渡特性や位相特性に優れます。 しかも通過域を過ぎるとバターワース型になるので、ベッセル型よりも切れは良くなります。このフィルタは「良い音のCWフィルタ」として過去に紹介しているものです。(実のところ、あまりポピュラーなフィルタ形式とは言えないようです。もちろんフィルタの教科書には載っています)

 良いとこ取りのようなフィルタですがシミュレーションしてみればこの程度であって、切れ具合はベッセルよりややマシな程度のようでした。 ただ、実際はこの程度のキレでもCW用フィルタとして十分であって、むしろ切れ過ぎるくらいの感触でした。 より複雑な6次で製作したこともありましたが、実用上そこまでの必要は感じませんでした。4次で十分だと思います。

 通過域の特性を重要視したフィルタであってCWの受信感に優れています。 全般の特性はベッセルと良く似ています。 信号が通過域のエッジに掛かると多少バターワース型の特徴が見られるようになるでしょう。 過渡特性を重視するなら中心付近を使うようにすべきです。ただし4次ではそれほど極端ではありませんでした。

参考:クリスタルフィルタで作るトランジショナル・ガウシャン型フィルタ→リンク

【バターワース型:Butterworth】
 オレンジ色のカーブで示します。 最大平坦型とも言われるだけあって通過域が平坦になっているのが特徴です。 周波数特性を見たときもっとも美しいと感じるでしょう。 素人を騙す(?)にはこれが一番かも知れませんね。(笑)

 信号周波数をゆっくり変えながら特性を取ればこのようになります。 過渡特性や位相特性・群遅延特性などはベッセル型よりも劣ります。 但しこの例ではフィルタQが小さいのであまり顕著ではないようでした。 フィルタQ=Fo/Bwはたったの2.33だからでしょう。 この特性を実現するための途中の個々のMFB型フィルタのQは最大値でも6.22なのでごく低い値です。従って過渡特性も極端に劣化しないようでした。 案外お薦めの特性のように感じました。

【チェビシェフ型:Chebyshev (0.25dB)】
 チェビシェフ型は通過域の凸凹をある程度許容することで、帯域外の傾斜を急峻にする形式です。 図の赤のラインの様に少し凸凹が現れています。 この例では最大0.25dBまで凸凹を許容する設計にしました。 例えばもっと大きな・・・例えば±1dBとかの・・・凸凹を許容すれば、帯域外の傾斜を更に急峻にできます。 通過域の特性と帯域外の傾斜をトレードオフしているわけですね。

 同じ4次でも一目瞭然でベッセル型と比べ遥かに良く切れるのがわかります。 試しに700Hzの矩形波を加えるとフィルタ出力では奇麗な正弦波に見えます。 高調波が奇麗に除去され基本波の700Hzしか見えなくなります。

 残念ながら過渡特性があまり良くありません。 選択度に優れたフィルタなのですがCWのような断続信号の処理には向きません。 リンギングしたり余韻を引くなどの現象が現れ易いからです。 切れだけに着目するとこうしたあまり実戦的ではないフィルタを採用してしまうことになってしまいます。(この例では未だフィルタQが低く構成するMFB型フィルタのQも13程度なのでエッジ部分を使わなければまあまあ実用できる範囲だと思います。しかしここまで切れるCW用オーディオ・フィルタが必要だとは思いませんね・・・)

                   ☆


【フィルタを分解してみる】
 ところで、これらの形式のフィルタは既に扱ったシミュレーテッド・インダクタを使った3段同調フィルタより部品が多く設計も複雑なものになっています。 前例ではすべて同じ周波数に共振する回路を3つ重ねたものだったのに対し、これは4つの各部分をぞれぞれを異なる中心周波数、Q、ゲインにすることで総合して目的の特性が得られるようになっているのです。だからこそ同じ回路図であっても部品定数の変更で異なった特性になる訳ですね。

 フィルタは4つの同じセクションがシリーズになっています。さっそく各段の意味を調べてみました。 赤の太線で示したのが、フィルタ全体での特性です。 ①A〜②Bがこのフィルタを構成する4つのセクションの単独特性になります。なおこの例はTransitional to Gaussian 6dB型です。

フィルタ製作について
 このように4つのセクションが所定の中心周波数、Q、ゲインになるよう設計してあります。 その設計値が回路図の表の部品定数になる訳です。 既にお気づきのように一覧表に記載されている周波数は各段の中心周波数を示しています。 実際の製作では部品の誤差が累積されます。 従って可変抵抗器により所定の特性に近づくよう合わせるわけです。

 各段の中心周波数の誤差はフィルタ特性への影響が大きいため、これだけは良く合わせるようにします。 もちろん中心周波数だけでなくQやゲインも合わせ込めれば最良です。 しかし実際それはなかなか困難でしょう。 簡略なチューニング手法として最も重要な各段の中心周波数を合わせて済ませることにします。

 一般に非常にHigh-Qな設計でなければ、そのような方法で実用上支障はありません。 部品誤差があまりに大きすぎると、シミュレーションのように奇麗な左右対称の特性にはならないかも知れません。 しかし実用上支障無い程度になればそれで良しとするわけです。 無闇に部品交換しても設計どおりの特性に追い込むのは困難だろうと思います。

 製作したら夫々の段が一覧表に記載の周波数でピークが出るように可変抵抗器;VRを調整して下さい。 調整用信号源には1Hzまで設定できる周波数シンセサイザ発振器を使うか、一般の低周波発振器に周波数カウンタの併用が必須です。電圧の読み取りには電子電圧計(ミリバルなど)を使います。 各可変抵抗器を闇雲に調整しても所定の特性にはなりません。

 同一周波数でピークが出るようにする(*1)だけで良かった「シミュレーテッド・インダクタを使ったフィルタ(1)・(2)」が作り易かったように思われるかも知れませんね。(*1:「Synchronously tuned filter」と言うその名の通りのものです)

【過渡特性】
 既にこのBlogではお約束のようになった過渡特性です。 重ねあわせたので見難いかもしれません。 赤のトレースはチェビシェフ型の特性です。 このように少々過渡応答が現れていますがフィルタQが低いのでそれほど極端ではありませんでした。 従ってこれをCWフィルタとして採用しても意外に実用になるのかも知れません。

 しかし455kHzあるいはHF帯のクリスタル・フィルタでは中心周波数Foを帯域幅Bwで除したフィルタQ:QFは非常に大きくなります。 帯域幅:Bw=500Hzとすれば、中心周波数:Fo=455kHzとしても、フィルタQはQF=910にもなるため過渡応答の劣化は無視し得ないでしょう。 もしBw=250HzのフィルタならQF=1,820にもなります。 独特の音色を持ち、信号が切れても余韻を引いて明瞭度が損なわれるのもうなずける訳です。 ちなみに一連のフィルタのQFはどれもたったの2.33でした。(笑)

 実際、Bw=300Hzと600Hzのフィルタを内蔵した某社のトランシーバで聴き比べると了解度にかなり差が見られます。 極端に混んだ状況でもなければ300Hzを使う意味は殆どないことがわかりました。 要するに「切れれば切れるほど良い訳ではない」ことを実感させられます。 455kHzのフィルタでこれですから、HF帯のCWフィルタに良いものがないのもある意味致し方ないことかも知れません。 プロの通信士が好んだ某業務用RXのLCフィルタの中心周波数は75kHzです。 その魅惑的なCW受信フィーリングを思い浮かべてしまいます。おなじBwならQFが1/6になる75kHzは明らかに有利だからでしょう。

 共振子の無負荷Q:Quが低いことから無闇な狭帯域にできなかった「世羅多フィルタ」の受信フィールングの良さもこの辺りにあるかも知れません。 ダイレクト・コンバージョン受信機の音の良さもQFの関係から来るのでしょう。(但し、別の欠点があるので総合性能では「良くできた」スーパ・ヘテロダインに軍配が上がるのですが・・・)

 フィルタから受信機の話に転換してしまいましたが受信機のフィーリングを決める要素はフィルタなのですから、あらためて認識しておきたいものです。 昨今はDSPフィルタが全盛なのでフィルタを巡る事情も変わりつつあります。 しかし流行のようにインプット・インターセプトポイント:IIP3ばかりを追求したところで、総合的に良い受信機にはなりませんね。

ありゃ、この議論じゃ50kHzのIFTでQ5'er式受信機の再登場になってしまいそうです。(^^;続きはまたいつか。 de JA9TTT/1

(おわり)
                −・・・−

追記:<具体的な設計手順>・・・この追記は自家用の備忘です。
(1)準備:中心周波数:Fo、通過帯域幅:Bw、フィルタ・ゲイン:Gvを予め決めておく。実際の部品定数に展開する際にコンデンサの値が必要になる。都合の良さそうなCの値を想定しておく。ここでは手持ちが沢山ある関係で0.039μFで設計する。

(2)設計:次にフィルタの具体設計に入るが、現在は無料の設計ソフトもあるのでそれを使っても良い。 ここではElectric Filter Design Handbookの「Normalized Filter Design Table」を使った方法で行く。

 Bessel、Transitional to Gaussian、Butterworth、Chebyshevなど代表的なフィルタについてはn次のポール・ロケーションが数表化されているのでそれを用いる。

(3)計算:最初に決めた仕様に従い4つある各段の中心周波数、Q、ゲインを求める。これは手計算でも不可能ではないがプログラムを使って計算した方が間違いない。(計算プログラムP1を使う)

(4)部品値の計算:続いて、各段の部品定数設計を行なう。これもプログラムを使う。(P2を使う)実測で得られたコンデンサの値に基づいて4段分の計算を繰り返す。 得られた抵抗値が不合理な値でなければ設計は終了する。

:合理的抵抗値の範囲:100Ω以上1MΩ以下が良い。特別低い周波数のフィルタの場合は数MΩになることもあり得る。それはそれで良いがOP-Ampを選ぶ。

# 得られた数値に基づいて回路シミュレータで特性検証しておく。 (了)

(Bloggerの新仕様対応済み。部分的な内容改訂を含む。2017.03.29)

2009年8月2日日曜日

【回路】Simulated Inductor (2)

【回路:シミュレーテッド・インダクタ・2】
シミュレーテッド・インダクタはいかが?
 昨日のBlogの続きです。

 シミュレーテッド・インダクタの応用として、実際にCW用オーディオ・フィルタを作ってみることにしましょう。 左図は昨日のシミュレーリョンに基づいて設計した実用回路です。

 オーディオCWフィルタは、ダイレクト・コンバージョン(DC)受信機でこそ真価を発揮しますが、それ以外の受信機でも効果はあるものです。 メカニカル・フィルタ:MFやクリスタル・フィルタ:XF、或は「世羅多フィルタ」の切れを補助する効果があります。

 SSB用フィルタしか付いてないリグでCWのオンエアを余儀なくされてるHAMも一時しのぎ以上の効果があるので試したらどうでしょうか?  但し、受信機のIF帯域内に目的よりも遥かに強い不要信号が存在するとAGCの作用で目的信号の方がブロックされてしまいます。 後付けフィルタは自ずと限界があることは理解しておきましょう。 もちろん、DC受信機の検波直後に入れるならそのような心配はありません。 たいへん有効に働いてくれます。 これは、このフィルタに限らず後付けする形式のオーディオCWフィルタについて全般に言えることです。

 図はシミュレーテッド・インダクタを使った3段LC同調と等価のCW受信機用オーディオ・フィルタです。 受信機の回路で使い易いよう片電源で動く実用設計にしてあります。製作に必要な情報は回路図に記載しておきました。 この回路の個人的な利用に制限はありません。 もし製作記をネット上にお書きなら引用元を明確にし二次参照者にオリジナルのありかを示して便をはかって下さい。それが最低限のマナーでもあります。 まさかとは思いますが、商用的に利用したいならメールでもどうぞ。(笑)

クイズ:回路定数の一部がクイズになっています。前回のブログを参照して電卓で計算すれば簡単にわかります。正解をお知りになりたければメールでもどうぞ。

使用部品一式】(あとはハンダと配線材少々)
 手持ちに0.039μFのフィルム・コンデンサ(ポリエステル・フィルム)がたくさんあったので、それを消費する設計にしました。 0.039μFはE12系列なのでE6系列よりも幾らか入手しにくいかもしれませんが、秋葉原や日本橋なら大丈夫でしょう。

 マイラ・フィルム型でも良いです。 流石に誤差を確認してから使う方が無難ですが積層セラコンでも使えなくはないと思います。 もちろん、手持ちに0.047μFや0.1μFなどあればそれで作ることもできますが、伴って抵抗値の変更が必要です。 これは所定のQになるよう、積を一定にした状態で2個の抵抗の値(積抵抗値と抵抗比)を調整する必要があるからです。 そのあたりの加減がちょっと面倒なのでシミュレーテッド・インダクタを使う例が少ない理由かもしれませんね。回路図の部品定数のまま作る方が楽でしょう。

 抵抗器は1/4Wまたは1/8W型のカーボン型で十分です。部品の誤差はクリチカルではありませんから普通に売っている精度±5%の抵抗器やコンデンサを使えば良いです。 中心周波数や、そこでのゲインが多少設計とずれるかもしれませんが実用上に支障のないフィルタが作れる筈です。 部品の選別などいりませんし、もちろん調整も不要なのでたいへん作り易い『良く切れるオーディオ・フィルタ』になります。

# 作る人にはSASEで製作情報と写真の0.039μF(誤差±5%品)を必要数+α差し上げますのでメールをどうぞ。(手持ちがあるうちは差し上げます)

FET OP-Ampを使おう
 TL074CNはもはや古典的なOP-Ampと言えます。 TI社のこのシリーズはまずまずの性能で特性も安定しているので難しい用途以外には何にでも使っています。 FET入力型でバイアス電流が僅かなので帰還抵抗値を広く選べて重宝です。TL084CNも類似ですがTL074CNの方がややLow-Noiseなのもこうしたフィルタには良いです。 拙宅の常備品として纏め買いしてある部品です。 価格も十分にこなれていて単品買いでも@100〜200円と言ったところでしょう。 J-FET入力の OP-Ampが1回路あたり25〜50円で手に入る計算です。 いつもこうした安価なパーツで満足な性能を発揮することを目標に回路設計しています。技術はカネに勝る?いえいえ、アマチュア無線家はビンボーだからねェ・・。(^^)

 なお、同じ4回路入りのOP-Ampでも、LM324Nなどの「324」型をここに使うのは良くありません。 出力段が「ノー・バイアスのC級増幅的」なので、音楽や音声を含め交流(オーディオ)の信号を扱うには適当でないのです。クロスオーバー歪が出ます。 同様に2回路入りの「358」型も宜しくありません。中身の回路は324型とまったく同じです。 良く見掛ける324型は片電源動作の直流増幅向きなのです。 なお、「4558シリーズ」ならオーディオ向きなので手持ちがあれば活用しましょう。 4558はバイポーラ・トランジスタ入力形式のOP-Ampですが、この回路の場合そのままの回路定数で使えます。 別段4回路入りOP-Ampである必要はないので2回路入りあるいは単独のOP-Ampを並べても同じことです。各自の部品事情やお好みで作って下さい。

# Quad OP-Ampは、電源の配線が簡単に済むので好きです。(個人の好み)

さっそく完成
 簡単な回路なので、部品を集めて1時間ほどで配線終了しました。 抵抗器を立てて実装したので基板に余白がずいぶんできました。 他の回路と一緒に・・・たとえば、最初からDC受信機のフィルタに使うような際にもコンパクトに作れるので取り付け場所に困らないと思います。 大きな電解コンデンサ(=電源バイパス用)は組込み用なら他の回路と共用で良いでしょう。 本物のコイルを使うと、こんなにコンパクトにはなりませんね。

 入力インピーダンスは50kΩに設計したので真空管式受信機の組込み用にも使い易いでしょう。 回路電流はせいぜい10mAなので、6AR5のカソードから失敬したりヒーター用の6.3Vを倍電圧整流しても得られます。 電源電圧は特に安定化しなくても大丈夫です。 出力インピーダンスは十分低いので誘導ハムの心配はありませんが、負荷インピーダンスは5kΩ以上が望ましいです。 利得が約20dB(10倍)あるので、もし過剰なようなら出力部分あるいは入力部にVRを入れて加減します。

【実測周波数特性】
 設計と良く一致しました。 上記を実測した周波数特性です。 評価にはベクトル・ネットワーク・アナライザ:VNAを使いフィルタ・アナリシスモードで行なってみました。 中心周波数fc=680.9Hzであり、回路シミュレーションの結果とわずか4Hzの違いでした。 また、実測ゲインGv=19.04dBです。同じくシミュレーションの19.811dBと1dBも違いませんでした。 フィルタQは、実測が3.83、シミュレーションでも3.83なので良く一致しています。これは当然ですが-3dB帯域幅も1Hzくらいの誤差です。
 なお、フィルタ特性の評価は「低周波発振器+ミリバル又はテスタ」があれば十分です。高級な測定器がないと何もできないと勘違いしないで下さい。測定の手間がすこし増えるだけです。

 使用した部品がもともと誤差の少ないものだった関係もありますが、フィルム・コンデンサのバラツキも平均化されて良い方向に収束したものと思われます。 更にシミュレーションしてみると、部品のバラツキが少々あっても極端に特性劣化することはないようでした。 簡単な測定器だけで自作する場合も心配ないでしょう。 Low-Q回路であり、しかも帰還型フィルタとは違うので発振する心配もなさそうです。もちろん、誤配線は論外sですけれど・・・。

 山形の特性なので切れが悪いように感じるかもしれませんが使ってみれば十分納得すると思います。 簡単なCW用DC受信機なら、このフィルタだけで十分だと感じました。(SSBにはHigh、Lowともにカットされ過ぎます)

#写真のグリーンのトレースはこのフィルタの位相特性です。単純なLC同調フィルタと等価なので、素直な特性になっています。これもVNAがなくてもオシロスコープのX-Yモードで測定できます。

【実測過渡特性】
 これもなかなか良好でした。 オシロスコープで観測しました。上の小さい方が入力信号です。 下の、立ち上がりエッジがやや丸くなっている方がフィルタの出力信号です。 非常に滑らかな応答であり、しかもオーバーシュートもしないので聴感もなかなか好ましいものでした。 Low-Q設計にしたのは成功のようです。
 この700Hzのバースト波はファンクション・ジェネレータで作っていますが、無線機のサイドトーンをキーイングしてスピーカ端子から引き出して使えば良いでしょう。その方が実際的だし、何事も工夫です。オシロスコープがあれば観測してみましょう。

 この特性も回路シミュレーションの結果と良く一致しています。 事前に検討してから製作した意味があったと思います。 もともとこのテーマは、単にシミュレーテッド・インダクタを扱うだけで終えようと思っていました。 しかし回路シミュレーションまで行なったら、案外行けそうなので実際の製作まで発展したのです。 作ったフィルタは回路シミュレーションと良く一致する結果が得られ、その有効性も同時に確認できました。

 理論に裏打ちされた、高級な設計は普遍性や確実性があるのでプロ向きです。 しかし実用になるものを簡単に実現して活用するのもアマチュア的で面白いものです。 もちろんシミュレーテッド・インダクタ/ジャイレータは如何わしい回路と言う訳ではありませんし、再現性も検討済みだからそのまま使って心配はありません。(笑)

# 先日、JA2エリアのお方よりTA7310P(古い?と言うなかれ・笑)と言う「発振回路+ギルバートセルDBM+汎用アンプ」で構成されたICを頂きました。(VY-TNX!) それで直接検波する簡単なDC受信機でも作ってみようかと言うことになります。
 このフィルタの後ろにLM386のAFアンプでも付けたらシンプルな受信機の完成です。 TA7310PはTA7358P、SA612、SN16913P、SN76514N、MC1496G、NJM2594、μPC1037Hなんかでも良いでしょう。(しかし、これらのICは大半がディスコンとは・・・) Di-DBM+AF Pri-Ampの方が今の部品事情に合っているのかも知れませんね。無いものを金力で漁るより工夫で解決する方がスマートです。(おわり)

追記(2009年8月8日):JN3XBY岩永さんが追試され、その結果がBlogで公開されています。自作DC受信機に付加した実験レポートです。回路をプリント基板化されとてもコンパクトに纏まっています。プリント基板CAD:PCBE用のパターンデータと、レイアウト図も公開されています。==>JN3XBY's Blogへ:その(1)、その(2)

さらに高級・高性能なCW用オーディオ・フィルタは別のBlogで:==>こちらから。

(おわり)

(Bloggerの新仕様対応済み。2017.03.30)

2009年8月1日土曜日

【回路】Simulated Inductor (1)

回路:シミュレーテッド・インダクタ・1
Simulated Inductorとは何か?
 OP-Ampを使って抵抗器RとコンデンサCだけでコイルLの働きを模擬する回路です。実際にその”模擬コイル”(インダクタ)とコンデンサを組み合わせると共振するし、LC発振器やLCフィルタ回路を【実物のコイルなしで】作ることができます。

 コイルは巻き線とコアから出来た単純な部品です。実際それを作った方が簡単ではないかと思うかも知れません。 いま、仮にインダクタンスが10H(ヘンリー)で、巻線抵抗が100Ω以下のコイルが欲しいとしましょう。 あまりイメージできないかもしれませんが、そのコイルの製作は難しいのでしょうか。 良質のコア材・・・パーマロイでしょうか?・・を使い入念に作ればさほど困難でないでしょう。 しかし、ずいぶん大きなサイズになる筈で大人の握りこぶしくらいになりそうです。相応の費用が掛かるに違いありません。

 シミュレーテッド・インダクタなら図の回路で(貴方にも)10Hのインダクタが自作できます。等価的な直列抵抗も仕様どおり約100Ωです。 しかも巻き線間の分布容量はないうえ、漏洩フラックスが誘導する心配もないので磁気シールドは要りません。汎用のOP-Ampが一個と3個のCR(+2個)だから費用も200円くらいでしょう。

 なお、シミュレーテッド・インダクタは「ジャイレータ:Gyrator」とも呼ばれます。

 大きなインダクタンスが欲しい時に有効な手段です。 但し本物のコイルではないので加えうる交流電圧はOP-Ampの電源電圧で制限され、流せる電流も限度があります。 パワーを扱うインダクタ・・・例えば電源回路の平滑チョークコイルにはまったく適しません。周波数特性はOP-Ampの性能に依存しますが、音声帯域くらいの低周波用には十分使えます。

シミュレーテッド・インダクタを使ったフィルタ
 上図のシミュレーテッド・インダクタは片側がGNDされた形式です。 コイルの両端がGNDから浮いた形式もあるのですが、図のように簡単にできません。 図のような片側がGNDのインダクタは作るには良いのですが、回路設計に対する自由度が低いので用途は限定されてしまいます。(だから実用事例が少ないのですが・・・)

 具体的な応用として、CW受信用オーディオ・フィルタやSSB送信機のスピーチアンプ用フィルタなどに使えそうです。 ところが意外に設計は面倒なので実用例を見ることは多くないように思います。

 シミュレーテッド・インダクタの回路を示しただけでは何も面白くありません。 そこで活用を考えてみましたが、CW用のオーディオ・フィルタが手っ取り早そうです。(示した回路図は回路シミュレーション用のイメージ図です。実用回路図は次回のBlogに掲載します) もちろん、単なる実験ではなく、『実用に耐えるもの』が目標です。 泥臭い学問だなどと言われそうですが、エレクトロニクスは「実用の科学」なのですから。(笑)

【High-Qコイルとフィルタ特性】
 低周波回路に使う本物のコイルでHigh-Qを実現するのは容易ではありません。 大きなインダクタンスを得るにはたくさん巻く必要があって銅線抵抗が効いてくるからです。 しかしシミュレーテッド・インダクタならHigh-Qなコイルが容易に実現できます。 ならばHigh-Qなフィルタも容易だろうと言うことで、LC共振回路を2段カスケードにして作ったフィルタを回路シミュレーションしてみました。 上図の中央の回路と同じですが、部品定数はHigh-Qになるようにしています。

 実際に作るときも部品精度に気を使うか、製作後に調整してチューニングすればグラフのように鋭く尖った特性が得られます。 かなり狭帯域なので用途によっては有用でしょう。 共振によって電圧がQ倍になるのもLC共振回路の原理通りで、このように『ハイゲイン』なフィルタになります。

【High-Qフィルタの過渡応答特性】
 フィルタは周波数軸上の特性だけが重要なのではありません。 以前、Transitional Filter(Blogタイトル:良い音のCWフィルタ)をテーマにしたとき時間軸上の特性・・・フィルタの過渡応答を扱ったことがありました。 この図は、上の周波数特性のフィルタにCWの単点もしくは長点信号(f=700Hz)が加わった瞬間の応答特性を示します。

 これも回路シミュレーションの結果ですが、出力はこのように行き過ぎてリンギングが発生します。 過渡応答が完全におさまるには更に数周期の時間を要するでしょう。 こうした特性は「独特の応答音」があって好ましくありません。 さらに信号が切れてからも余韻を引くので明瞭度が低下します。 いわゆる「符号が粘る」と言う現象が起こるのです。
 実際のところピークばかり鋭いCWフィルタは受信機チューニングのしにくさから実用的ではありません。 切れれば切れるほど良い訳ではないことを体感することになります。類似特性のCWフィルタを実際に作った経験があるのですがフィルタの実験にはなってもCW受信用としての実用性は殆どありませんでした。フィルタのことを良くわかっていなかったんです。(笑)

【適度なQのフィルタが良い】
 フィルタQが3〜4程度になるよう加減し共振器の数を変えながら特性をとって検討してみました。 上のシミュレーション用回路図のように1〜3段構成で様子をみた図です。

 低Qなので、1段ではHPFのような特性になってしますます。 CW用フィルタとして実用性がありません。 2段でも良さそうですが、高域の落ちが少し物足りない気がします。さらに3段の特性を見ると通過帯域の高域も落ちてなかなか良さそうです。(赤のトレースが3段の特性)

 各段を総合したフィルタQは3〜4程度とかなり低めの設計です。 -3dB帯域幅も200Hz程度あるので扱い易い範囲にあります。 Low-Qなフィルタとは言え、共振器3段にすれば裾野も良く切れてくるので聴感上もかなり『切れ』を感じるようになります。

 もちろん、入念に作るならTransitional型が間違いない選択でしょう。 しかし、極端に劣っていなければ、部品が少なくて製作が容易な3段同調式のLC等価フィルタも悪くありません。簡易なリグには向いています。何を最優先するか?・・・と言うことでしょうね。 あとは、過渡特性がどうかで決まります。

【過渡応答特性は?】
 まずまずそうです。 700Hzのバースト波を加えたときの応答を回路シミュレーションしています。 上記のHigh-Qなフィルタとは違い素直な応答特性になっており、リンギングは見られません。

 1〜3段のフィルタを重ねあわせて見ましたが、いずれも過渡応答に問題はないようでした。

 詳細に見て、帯域外の切れ味を比較すればもちろんTransitional型の方が優れています。 従って本質的に高性能を目指すなら、そちらを使うべきだと思います。 その代わり、作りっぱなしと言う訳には行かず必ず調整が必要になります。 しかしLC共振器3段シリーズの形式でも、総合して適度なフィルタQになるように加減すれば「実用的なもの」が作れそうでした。

 あまり実例を見ない「シミュレーテッド・インダクタ」を使ったCW受信用オーディオ・フィルタを実際に作ってみようと言う気にさせてくれるシミュレーション結果が出たようです。(注:過去のCQ誌にJA1AYO丹羽さんのCWフィルタ記事があります。 少ない段数でかなりHigh-Qにした設計だったと思います。どの程度実用的だったのでしょうか?)

次回は一連の回路シミュレーション結果に基づいて設計したフィルタを『リアル』に製作し、実物の耳や測定器で特性評価してみましょう。製作評価編に:→つづく

(つづく)

(Bloggerの新仕様に対応。2017.03.30)