2009年7月22日水曜日

【写真】Lunar Eclips 日食

何年ぶりかに見る日食である。

休みの日に重なることは滅多にないので、楽しみにしていたのだが、昨夜から曇天或は雨天の空模様。 あまり期待していなかったのだが、11時ころには何となく空も明るくなって来た。

写真は11時10分ころの様子。太陽の存在はわかるが雲が厚くて形は判別できない状況だ、

雲間の日食:

様子を見ていると雲の移動が早いようで、状態はどんどん変化して行く。 少しだが太陽が三日月型になっているようだ。

撮影はコンパクト・デジカメ(NIKON Coolpix P-60)を使い、電子ズームの領域まで使っているので少々荒れた感じになるがやむを得まい。

見えて来た:

但し、NDフィルタの丁度良いものがないので、マトモに晴れるとかえって旨くない。 雲が薄い部分に掛かったら、明るくなり過ぎて絞りきれない。 テラスの着色アクリル板を透してこのように観測できた。

東京地方は11時13分頃が最も欠ける時刻である。これはそれより約2分前の様子である。 概ね最大に掛けた状況と言えるだろうか。

ピーク過ぎる:

11時16分ころの写真である。ピークを過ぎて少し三日月型の厚みを増したように見える。
ずっとこの程度の状態が続いてくれるなら連続写真も可能なのだが、上2枚のように殆どは厚い雲に遮られており、このような形が見えたのはむしろラッキーだったようである。

今日は早めの夏休み最終日だった。 お陰で久しぶりに日食見ることが出来た。

# HF帯をワッチしていたが、特に変わった様子もないようである。 まあ、日食なんて一瞬の現象だし電離層には何の影響も与えないのだろう。(笑)

2009年7月19日日曜日

【HAM】7MHz QRP Transmitter (3)

【HAM:7MHzのQRP送信機・3】
【7MHz QRP送信機の高調波対策】
 写真は製作した7MHz QRP送信機の終段増幅部分です。
 製作編(←リンク)に続き、第三回は測定評価編として纏めた。 測定評価に基づいた対策や感じたことなども交えて書き留めておきます。 (検索来訪者へ:7MHz QRP送信機の初回は→こちら


 終段部はLC回路でインピーダンス・マッチングする形式です。この出力回路形式はブロードな共振特性ではありますが、同調回路なので広帯域型のパワーアンプよりもスプリアス輻射の点では有利です。 写真で一番左のコイルはπ型LPFです。 シンプルな一段で設計しています。 狭帯域アンプなので一段でも十分だろうと思ったからです。

【厳しくなった無線設備の不要輻射基準】
左図は電波法の無線設備規則の一部です。
これは、アマチュア局の不要輻射に関する部分です。(30MHzまでのHF帯のもの)

 不要輻射と言えば、昔は高調波や寄生発振などを考えれば良かったのですが、現在の不要輻射に関する規定は二つに分けて考えることになっています。

 一つが「帯域外領域」と称する送信信号の近傍に関するものです。 もう一つが「スプリアス領域」で、昔と同じ高調波など送信信号とは離れた所に出るものです。この二つをそれぞれ規定しています。

 中央の欄が「帯域外領域」の基準です。 送信波の電波形式に応じた必要帯域幅(CWなら0.5kHz、SSBなら3kHz)の外側にあって、しかもその近傍に存在する不要信号の基準です。 たとえばSSB送信機に於けるスプラッタ成分などがそれに該当します。
 CWなど狭帯域の電波形式では送信中心周波数:fcの±10kHzまでが「帯域外領域」になります。 いま、CW送信機の場合の必要周波数帯幅は0.5kHzですから、結局その外側の上下10kHzまでが「帯域外領域」に相当することになります。(同規則2項(3)による) 寄生振動や電源ハム(HUM)等によるキャリヤの濁りなどがあれば別ですが問題になることは少ないと思います。(SSB送信機を使い、サイドトーン・オシレータでCWを得る方式では問題になることがあります)

 右側の項がその外側にあたる「スプリアス領域」で高調波など一般に問題になる不要輻射にあたります。 この送信機の終段回路はシングルのC級電力増幅ゆえに偶数次の高調波が多いですから、まず問題になるのは二次高調波ですが、もちろん三次以上の高調波も無関係ではありません。

 赤いラインで囲んだ部分が3WのQRP送信機に適用される部分です。 中央の帯域外領域の『50mW以下であり、かつ、基本周波数の平均電力より40dB低い値』と言う基準はこの形式のCW送信機ならまず問題になりません。(SSB機の場合はそう簡単でないので文末の部分も参照のこと)

 いま問題になるのは右欄のスプリアス領域の『50μW 以下』でしょう。 これには、高調波のすべてが関係します。 低調波はこの送信機では問題ありませんが基本波を逓倍する形式の送信機では要注意です。 (一例として3.5MHzを4逓倍して14MHzを得るような送信機で問題になります。 出力に付けた14MHz用のローパスフィルタ(LPF)は低調波には効果はありません。設計がマズいと3.5MHzや7MHzの成分がかなり漏れます) 50μWと言うのは3Wの約-48dBなので、なかなか侮れない数字だと思います。 

スプリアス評価
 パワー計に電力を喰わわせて、信号を十分減衰させてからスペクトラムアナライザ(=スペアナ)に導きます。 間違っても3Wをスペアナに直送してはなりません。 (「OMさん」が×××Wを直接送信したというスペアナを見たことがあるのですが、ミキサー部がみごとに燃えていました・笑) 高級な測定器はとてもデリケートだから良く理解して使いたいものです。

 なお、簡易な手法なのでパワー計のモニタ出力を使いましたが、正式には「50Ωのダミーロード」、「-20dBカプラ」と「アッテネータ」を組み合わせてやるべきでしょう。 ここでは相対測定で行くので簡単に済ませました。 スペアナがあればもちろん各種測定用アクセサリも持っていると思いますので、それらを使って正規の方法でやるのが良いでしょう。

参考:写真は使用した機器がイメージできるように並べて撮影したものです。 実際は送信機を大きな接地板の上に載せ、全体のGND電位が安定するようにして行ないます。接地板は文字通りGNDされています。 送信機をスペアナ上に載せて測定するようなことはありません。

対策前
 実は初期設計では設備基準をクリヤできませんでした。 この画面はπ型LPF一段のみの高調波の様子です。 14MHzに発生する第二高調波は主信号の-41.35dBでした。 これは、主信号を3Wとして約220μWです。 1〜5W送信機の基準値「50μW以下」の4倍もあって満足していません。

第三高調波(21MHz)はさらに20dB(1/100)小さい約2μWなので十分な余裕がありました。

 少なくとも第二高調波を7dBくらい低減する必要がありました。 対策としては一般にπ型LPFを2段にするのが簡単で良いと思います。 しかし、ここでは基板のサイズが限られるので別の方法でやることにします。 幸い二次高調波以外は十分低いので二次高調波の所に減衰極を設ければ改善できると予想できます。 有極型にすると跳ねっ返るので他の高調波に対して不利になりますがそれもまず大丈夫でしょう。

有極型LPFで対策
 14MHzのところに減衰極(ポール)を設けてみました。 劇的な効果があって、二次高調波は主信号に対して-72dBにななりました。 これは3Wに対して0.18μWなので、基準の50μWより遥かに小さい値です。 また、第三高調波はやや劣化しましたが-57dBですから約6μWです。 これも十分基準を満たしています。

 もし余裕があれば、π型2段で第二・第三高調波の周波数に極を持たせたLPFにすればベストでしょう。 まさしくそれは以前Web siteに掲載していたローパスフィルタそのものです。 hi

これで無線設備規則を十分満足した送信機になりました。さっそく箱にでも入て完成させましょう。

              −・・・−

◎無線設備基準と現実の送信機の評価から気になったことがあります。

 まずは非常に古い送信機についてです。 たとえばTX-88AやTX-88Dと言った発振・逓倍式の送信機ですが高調波の基準を完全に満たすのは難しいでしょう。 送信出力10Wとして、「基本周波数の尖頭電力より50dB低い値」とは、0.1mWです。 実測すればわかりますが、この10倍は出ているかも知れません。 いや、それどころか遥かに多いかも知れないのです。 レストアしてオンエアする人もあるようですが、十分気にしておく方べきです。 低い周波数の源発振を逓倍してオンエアするバンドでは、低調波(サブ・ハーモニックス)にも注意が必要なので、LPFではなくてバンドパスフィルタ:BPFが望ましいかもしれない。

 次に、旧式のSSB送信機です。 例えばFT-101やTS-520です。 一つにスプラッタの問題があるので、適正なマイクゲインになるよう調整しALCが強度に掛からないように運用すべきです。 ALCをオフするなど言語道断です。 中心周波数から±10kHzまでの帯域外領域・・即ち中心周波数の+1.5kHz〜+10kHz及び-1.5kHz〜-10kHzの範囲に発生する(主に終段電力増幅のIMDの悪さに起因して発生する)スプラッタは平均電力に対して-40dB以下に抑える必要があります。
 実際にパワーアンプを評価するとわかりますが、Full Powerで-40dB以下のスプラッタ(IMD)を実現するのはかなり難しいのです。 数W程度のLow Level部ならいとも容易いIMD<-40dBが容易ではないのです。 Over 10WのAB級Power Amp.ともなれば、3rd IMD<-30dBの実現すら怪しいのが実際でしょう。 スプラッタに対しては後付けのフィルタはまったく無力であり、出来てしまったモノの除去は不可能です。 リニヤリティ(直線性)の良いデバイスを使い、十分ゆとりを持った使い方をする以外に根本対策はありません。フィルタで除去可能な高調波よりよほど始末が悪いものです。(送信レベルが一定なら歪み打消しアンプを使う手法があります。移動体通信用中継器のIMD改善に実用化されています)

 更にスプリアス領域、おもには高調波に対する対策ですが尖頭電力より50dB低い値とずいぶん厳しくなっています。 やはりバンドごとに良い特性のLPFを付加して使うべきです。 C級増幅だった上記の古典的な送信機よりはだいぶマシではあっても、-50dBが常に保証されているとは思えないからです。なお、SSB機は逓倍式ではないため低調波の心配は少ないのが普通です。(HAMの自作品の場合は局発の漏れなどに要注意です)

 従って、何れの旧式送信機(トランシーバ)も、少なくとも各運用バンドに対応した有極型のLPFくらい付けてオンエアすべきです。 そうでないと無線設備基準を満たさない送信機でのオンエアになる危険があります。 レストアを楽しむのも良いのですが、昔のままでは不十分なので現在の基準に合わせてオンエアしなくてはなりません。
 一応、LPFを付けたことにすればTSSの保証認定は得られると思いますが実態はこのようなものです。 もちろん多くの場合、高調波は上のHAMバンドに落ちるのでプロの通信を妨げる危険性は少ないとは思います。しかしモラルの問題は常に残ります。

 いまは良い測定器がHAMの手に入る時代になりました。 しかしスプリアス退治は厄介なので、『見なければ良かった・・・』などと言いたくもなりそうです。 ですが、それを言ったらそもそも高級な測定器を持つ資質を問われてしまいそうです。 スペアナは電波の質を維持するための強力な武器であって単なるシャックの飾りではないのですから、ぜひとも有効活用して奇麗な電波でオンエアしたいものです。

# 第三回として7MHz QRP送信機の評価と対策を詳しく扱ったのは、未だあまり良く認識されていない「新しいスプリアス基準」の説明が大切だと感じたからです。過度に恐れず、本質を見極めておきたいものです。

7MHz QRP送信機の初回は→こちら

(おわり)

(Bloggaeの新仕様対応済み。2017.03.31)

2009年7月17日金曜日

【HAM】7MHz QRP Transmitter (2)

【HAM:7MHz QRP送信機・製作編】

検索でおいでのお方は、初回(←リンク)から読むのがお薦めです。
この送信機の目的・目標および設計コンセプトが纏めてあります。




7MHz帯QRP送信機:製作編】(つづきです)
 この送信機はごく簡単な構成のうえ部品数もごく僅かです。 しかも自作好きHAMならジャンクボックスからピックアップできるような部品ばかりでしょう。 実際、当シャックでは手持ちのジャンクパーツからすべて調達できました。 中には将来を見越して買い置きしていたパーツもありますから、活用される好機でもあった訳です。 

 ところで、部品事情は年ごとに自作派に厳しくなりつつあります。 ほとんどの電子機器は表面実装で作られていて、リード線付き部品は姿を消しつつあるのです。 極端に言えばアマチュア以外のニーズがなくなっているからでしょう。 ごく当たり前の部品はまだ大丈夫だとしても、キーになる部品の幾つかは価格高騰しているケースも出てきました。 この製作はQRPなモノバンド送信機にすぎません。 しかも周波数は7MHzと低いので代用品で何とでもなります。 このBlogの部品にとらわれず、各自の工夫で十分乗り切れると思います。手持ちの部品を活用する切っ掛けにでもなれば幸いです。

7MHz QRP送信機の回路図
 方針通り2ステージ構成です。 水晶発振段+終段電力増幅段になっています。 付属回路としてキーイング回路と受信機制御のためにスタンバイリレーを設けておきました。 電源は他から供給します。 12V1Aあれば十分です。 なお、コイルの巻き方は後の方に詳しい説明があります。

 簡単に回路の説明をしておきます。 水晶発振回路はピアースCB型です。 少々アクティビティの低い水晶発振子も良く発振します。 コレクタ側は基本波周波数に同調しています。 水晶発振の段からある程度大きなパワーを取り出す設計になっています。 終段を十分ドライブする必要があるからです。 約150mWくらい得られてます。 発振段のコレクタ電流はパルス状で歪みが多いのですがこれで正常です。 コレクタ負荷のコイルはタップダウンでインピーダンスマッチングしています。 同時に必要なQを得ています。 多少なりとも奇麗な正弦波に近付ける努力です。 次段もC級増幅なのでそれほど正弦波に拘っても意味はありません。 水晶発振のトランジスタには2SC30を使いました。

 続いて終段電力増幅です。 出力:Po=3Wを目指すので必要なゲインとパワーが得られるように考えます。 広帯域トランスを使う方法は安直で良いのですが増幅回路としての効率は低めです。 この例では最適なインピーダンスに設計して十分なゲインが得られるよう配慮しました。 3Wを確実に得るためには中電力用のトランンジスタを使う必要がります。 ここでは汎用の中電力トランジスタ、2SC696(松下電器製)を使ってみました。

 キーイングは発振段で行ないます。 エミッタを直接キーイングしても良いのですが、キーイング用トランジスタを設けてコレクタ側で行ないます。 このようにしておけば大抵のキーヤーが使えるので便利です。 なお、発振段をキーイングしていますが、モニタしてきちんと調整すれば問題はありません。 どうしても気になるようでしたら、大きなPNP-Trを使って終段トランジスタのコレクタのキーイングと言う方法もあります。(その方法はチャープが出易い感じでした)

 アンテナ切換えと受信機の制御にはリレーを使います。 アンテナ切換えはDi-SWでも良いのですが、消費電力はリレーと比べて大差ありません。 フルブレークインではなく、手動スタンバイでオンエアするため機械式リレーで十分しょう。

 ローパスフィルタはπ型一段では二次高調波の減衰がやや不足でした。 そのため14MHzに極を持たせてクリヤしています。詳細は後続の測定・検証編に説明があります。

使用トランジスタ
 2SC30と2SC696を使いました。
 古典的な2SC30を発振段に使います。 登録は古いのですが通信工業用として遅くまで生産されていたようです。
 それよりやや新しい2SC696を終段電力増幅に使いました。もちろん、どちらもシリコン・トランジスタですが、懐かしい1970年代のデバイスです。

 何れも形状はメタル缶スタイルです。これらを使ったのは写真のような放熱器(放熱フィン)の手持ちがあったからです。 それ以外の意味はありませんからプラスチック・パッケージのトランジスタでも差し支えありません。もちろんシリコン・トランジスタを使います。

 2SC30は、fT>250MHz、Vcbo>50V、Ic>200mA、Pc>500mWくらいの高周波用トランジスタなら何でも良いでしょう。比較的入手しやすいTrとして、2SC945を2つパラで使う方法があります。 少々発熱するので簡単に放熱しておくと安心ですが、連続送信しなければ大丈夫です。 外観形状が異なるトランジスタを使う際は放熱器(ヒートシンク)を適宜探して下さい。ごく小さなヒートシンクでも効果があります。

 2SC696は、fTが100MHzくらい、Vcbo>50V、Pc>5W、Ic>1Aを目安に選びます。 コレクタ・ベース間容量Cobは20pFであるとして設計しているので、Cob=15〜30pFくらいのものを選びます。 従って、あまりパワーの大きなトランジスタは不適当でしょう。 fTは高すぎない方が良いです。過剰に高いと7MHzで使うにはゲインがあり過ぎて不安定になります。 逆に低すぎるとゲインが足らず、パワーが出なくなります。 良く探せば条件に合うトランジスタは@¥100-くらいで売っていると思います。 もしAM送信機にするなら、連続した送信に耐えられる十分なサイズのヒートシンクを付けて下さい。 最近ではあまり見掛けなくなりましたが、CBトランシーバに使われていたような高周波用パワートランジスタが好適です。

 CWのキーイング・トランジスタにもメタル缶の2SA571を使っていますが、メタル缶に統一する意味で使っただけなので、Ic>200mA、Vcbo>50V、hFE>100のPNP型なら何でも良いでしょう。(但しゲルマTrは漏れ電流が大きいので不可です)ON/OFFのスイッチングをするだけで殆ど発熱しないのでヒートシンクは必要ありません。汎用品の2SA1015Yでも十分でしょう。


2SC696には放熱フィンを
 2SC696の許容コレクタ損失:Pcは750mWとなっています。しかしこれは何も放熱器を付けない場合でしょう。 2SC696の中身は姉妹品の2SC697(Pc=10W@Tc=25℃)と同じなので放熱すれば数Wに十分耐えられるようになります。 この程度の放熱フィンではそれほどPcは大きくなりませんが、3WのCW送信機用には十分でした。なお、耐圧選別品の2SC696Aや形状は異なりますが2SC697でも良いです。

【以下は蛇足です】
 2SC696は電子楽器用エフェクタに使った記事があったそうで価格高騰しています。 興味があったのでVc-Ic特性を測ってみました。 「なるほど非常にノンリニヤで心地良い歪みが期待できる特性だから使ったのであろう・・・・」と言う話しは真っ赤なウソです。
 実際はhFEのリニヤリティが良好なHi-Fiにも向くようなトランジスタでした。 近代的な低歪みトランジスタと何も違わないくらいです。 もともと汎用品であって中電力用として手頃なトランジスタでした。 エフェクタには2SC696ではなく、何でも良かった筈なのに雑誌の製作記事に名前が書かれたお陰で高騰してしまったのでしょう。 エフェクタ向きで歪み云々を言うのなら、もっとずっと適した石もあるのですがあえて書きません。こんどはそちらが・・・。(笑)

 2SC696は既に廃番ですが、過去にたくさん使われていました。 基板付きジャンクや部品店の店頭在庫も大量にあると思います。 送信機用のトランジスタではありませんが、出力数Wの手軽なHF送信機に向いていると思います。 昨今は松下製ではない2SC696(=いわゆる偽物)がオークション等に登場しているようです。 ホンモノと同じように使えるのかもしれませんが、中身はまったくの別物なのでエフェクタには良くても、高周波にはぜんぜんダメかもしれません。 中古の2SC696でも宜しければご希望のお方に差し上げます。やや足は短いですがもちろん本物(笑)です。

送受切換リレー
 実機にはジャンクから出てきた軍用のリレー(中古品)を使っています。 しかし写真のような一般品で十分です。
 2回路でトランスファー接点(C接点とも言う)のリレーを使います。駆動電圧は12Vのものにします。 OMRON、Panasonic電工ほか各社から適したものが出ています。周波数が低いので同軸リレーとかRF専用品の必要はありません。

 様々なリレーが売られており、同じように使えるものはたくさんあります。 適当なものをジャンクからピックアップすれば良いのですが、種類が多過ぎて初心者はかえって迷ってしまいます。 昔から地方の自作ハムにリレーは厄介な部品の一つでした。 ラジオ店には置いてないし通販で買えば1,000円近いことも多かったからです。

 入手しにくいようなら写真のOMRON製:G5A型リレーを差し上げます。このリレーは気密型なので接点が汚れにくく、ツイン接点で接触が安定しており通信機に向いています。 3Wの送信機には十分な接点容量があります。 消費電流=約17mA/@12Vと省エネなのも良いでしょう。 製作予定でリレーを必要とする人はまずはメールを。ttt.hiroアットマークgmailドットcomでどうぞ。SASEの送り先を返信します。

クリスタル
 基本波の水晶発振子を使います。 実機ではQRPクラブ有志がアルト電子に特注した7003kHz:HC-18/Uを使いました。 写真のようなHC-49/UあるいはHC-49/USでも良いです。 写真の7108kHzも良好に発振したのでうまく使えます。

 7000kHzの水晶発振子と直列にトリマ・コンデンサを入れて7003kHzに調整する方法も不可能ではありませんが、水晶のバラツキで不安定になることがありました。 キーイングすると発振起動不良で単点が抜けるとか、酷くチャープするなどの現象が現れるかもしれません。 その時は別の水晶に交換してみると直るかも知れません。 もちろん正規に7003kHz用として作られた水晶振動子を使うと安心です。

【参考】水晶振動子の特注先(おもにアマチュア向き)
アルト電子製作所:宮城県大崎市TEL:0229-55-xxxx→2011年7月廃業した
川崎電波研究所:神奈川県川崎市TEL:044-877-0901(Webなし)→営業してるらしい
アズマ無線工業:東京都北区:TEL:03-3913-2164(Webなし)→廃業か?(真相不明)
三器電子工業:東京都港区:TEL:03-3866-9536(Webなし)
エヌエスアイ:横浜市港北区:TEL:045-547-2182(→Web)
◎各メーカーへの問い合わせや注文は各自の責任でお願いします。

マイカ・トリマ・コンデンサ
 max300pFのトリマ・コンデンサを使っています。 古臭い部品に見えるかもしれませんが、単純な構造で接触不良になりにくいのでパワーアンプ向きです。 国内では使用例をあまり見ませんが海外の半導体RFアンプではよく使われています。大きな容量のトリマ・コンデンサとしては安価なのでお薦めできます。 見つからない場合は他のトリマ・コンデンサを使って下さい。あるいはポリ・バリコンで代用する方法も考えておく必要がありそうです。

 昔の真空管ラジオに使ってあったパッディング・コンデンサも極板を減らせばこの目的に使えます。 しかし手持ちが沢山あれば別ですが五球スーパ用の部品は高騰しているので他の方法を試みるべきでしょう。

 他の手段としては、コンデンサを固定してしまい、コイルの方を可変すると言う手もあります。 その場合は、下記のモノコイルのようなインダクタンスが調整できるものを使います。3Wと言うパワーから考えて、FCZコイルや10Kコイルでは無理です。

モノコイル】(発振段で使用)
 FCZコイル以前のトランジスタ回路用コイルと言えば東光のモノコイルでした。 これは本物のモノコイルではなく、自作の模造品(レプリカ)です。 もし手に入るなら東光のSCN-5948A(7MHz用)を購入すると楽です。
 但し改造が必要です。付いている二次側巻き線を除去して代わりに可動型リンクコイルに交換にします。 写真手前のような構造になります。二次側のリンクコイルは3回巻きで、糸で縛って崩れないようにしておきます。 輪が崩れないよう接着剤で固めても良いでしょう。

 東光のモノコイルも姿を消して久しいのですが、φ8mmのトランジスタ用ボビンは秋葉原を探せば入手できます。 新品を扱うお店は減っていますが、用途不明で既に巻線されたジャンクはかなり見かけました。
 そうしたジャンク品はコアに着色してあります。 使用周波数帯で色分けがあると聞いたこともありますが、実際に入手したものを試したらどれも同じようなものでした。 おそらく、元々はトランジスタ・ラジオの短波用局発コイルなのでしょう。 どれを買っても大丈夫なようでした。 パワーを扱う送信機には有用なパーツなので見かけたら数個手に入れておくと役立ちます。 秋葉原の場合、日米商事ほか、鈴商などの店頭で見かけました。

 どうしても手に入らないときはTシリーズ・トロイダルコアとトリマ・コンデンサの組み合わせでも良いです。 こちらの方が入手は容易かもしれません。 トロイダルコアの場合,二次側リンクコイルの移動で結合度を変えることはできなので、巻き数を1〜3回の間で変えて調整します。 なお、FCZコイルは扱える電力が小さいのでこうした送信機には不適当です。 このコイル部分が3Wを出す送信機のポイントの一つでもあります。 ここは是非このようなコイルを使って下さい。

 なお、写真の物は一次側(同調側)はφ0.32mm:ポリウレタン電線(UEW線)が18回巻いてあります。タップは中点(9回目)です。 巻いたあとの確認方法ですが、1次側(同調側)巻線のインダクタンスは4.6μHなので、100pFを並列にすると約7.4MHzに共振します。 グリッド・ディップ・メータ:GDMがあれば共振周波数を見ておくと確実です。コアの出し入れで加減できるので少々ずれていても大丈夫です。

終段部の空芯コイル
 空芯コイルはトロイダルコアに巻くより遥かに安価で、巻くのも簡単です。 「密着巻き」にしたので手間がかからず作り易いと思います。 空芯コイルは線径、巻径、ピッチさえおさえておけばコアに付き物のμのバラツキもなく再現性はたいへん良好です。

 線径φ=1.0mmの絶縁被覆電線を内径12mmに巻きます。 なぜ12mmなのかと言えば手元にあった油性マジックペンの軸径が12mmだったからです。 もちろん10mmでも15mmでも任意ですが巻き数を変える必要があります。コイルの設計には簡単な設計プログラムを使いました。 GDMを使って共振周波数からインダクタンスを確認してあるので、この通り作れば問題ありません。各コイルの巻数など作り方を含めて写真に記載してあるので参照して下さい。

このように巻きます
 実際に使った筆記用具の写真です。 近所の100均で買ったと思いますが、身近を探せば12mm径の円筒は幾らでもありそうです。

 巻き線にはφ1.0mmのフォルマール線(記号:PEW)を使うました。PEWは被覆が丈夫なのは良いのですがハンダコテでは溶けないので剥がすのは少し厄介です。 ポリウレタン電線(記号:UEW)が楽だと思います。線径が同じなら性能に違いはありません。 隙間なく密着巻きにしないとインダクタンスが違ってしまいます。 写真の様にピッチリ隙間なく巻いて下さい。巻いたあとやや緩むので内径は12.2〜12.3mmほどになりますがそれで大丈夫です。

 以上、主要部品を説明しました。 コンデンサ、抵抗器は高周波用のものなら何でも良いです。 製作例では同調回路やフィルタなど高周波が通る部分にディップド・マイカコンデンサを使いました。 バイパス・コンデンサはセラミック・コンデンサです。 抵抗器はすべてカーボン型の1/4Wです。

 ハンダ付け用「ランド」は1.6mm厚の紙エポキシ基板を幅5mm程度の短冊状に切ったものを用意しておき、適宜ニッパーでカットしながら瞬間接着剤で貼付けて行きます。 瞬間接着剤は「ジェル状」がハンダ付けの熱で剥離しにくいので良好でした。 基板その物は片面の紙フェノールです。ガラス・エポキシでも何でも良いでしょう。 サイズは80×140mmです。回路や部品に関する質問などはメールやコメント欄でお願いします。

以上です。 de JA9TTT/1

次回(←リンク)は測定・評価編を予定しますが、グズグズしていると気の早い人はその前に完成させオンエアしてしまいそうです。サンデー工作用なので簡単ですからね。(笑)

(つづく)

(Bloggerの仕様変更対応済み。2017.03.31)

2009年7月12日日曜日

【HAM】7MHz QRP Transmitter (1)

【HAM:シンプルな送信機の製作】
7MHz帯のQRP送信機
 突然ですが7MHzの送信機を作ってみました。実は少し前から進めていたのですが、やっと今日になって形になりました。

 前から完全自作でオンエアしたいと思っていましたが、なかなか実現していません。 構想を練り始めると『折角なのだから・・・』と言う気持ちが起こって、エスカレートしてしまうのです。
 例えば、送信機ならVFOを内蔵して2〜3バンドはカバーし、パワーもできたら10Wは欲しい。できたらフルブレークインで・・とか。 結局そうなると構想は楽しいのですが製作は容易でないと言ういつものパターンに陥ってしまいます。じっくり取り組む十分な時間が取れない身には絵に書いた餅になるのです。(^^;

 考えてみれば、そんなに複雑なモノでなくてもオンエアはできるわけで、ニューカマー時代は2ステージの送信機だって遊べました。 もっとも、その頃は真空管(12BY7Aファイナル)だったのですが・・・。 振幅変調のAMでパワーもせいぜい5Wくらいでした。

                  ☆

 CQ誌2009年7月号にはプリント基板が付録とかで、巷ではQRP送信機がちょっと話題になっています。埃をかぶっていたハンダコテを暖める切っ掛けになったらしいのでFBな企画だと言えそうです。自作に縁遠かった人のために部品セットも別売されています。アマチュア無線再入門にも適当だったようです。

 『基板+部品キット』で無線の再入門をしても誰も感心してくれそうにありませんから、ここはフル自作で行ってみましょう。雑誌は買っていないので基板はありませんし回路も含めて完全オリジナルで行くしかありません。それこそ自作と言うものだ・・・と自分自身で納得です。(笑)

【設計方針】
 まずは目標を明確にしましょう。 壮大な製作は完成困難なので『実用になる程度』を限度として簡単・簡潔を第1としました。 たとえば週末の1日を使えば一応の動作まで持ち込める規模が理想的でしょう。 良く言われるように「KISS」(Keep it Simple stupid.)な製作と言う訳ですね。
 次に電気的な仕様です。送信機としては出力電力:Poが一番重要でしょう。 経験からみてPo=100mW程度ではオンエアに忍耐が必要です。 あまりコンディションに左右されず何時でも実用的と言えるのはPo=3〜5Wといったところでしょう。 実際7MHzでは5Wも出すと国内ならQRPとは言い難いくらい良く飛びますから、ここでは3Wで設計することにしましょう。 電源の面倒がないようにトランジスタを使って作ります。

 KISSな方針から回路構成は2ステージで考えたいところです。 ミズホのQP-7は3ステージの手堅い設計になっています。 初心者向けのキットとしては安心だと思います。 しかし設計しだいで2ステージで3Wは楽々ですし、電源電圧:Vccを高くすれば10Wも不可能ではありません。 ここではVcc=12Vで行くので3Wがデバイスの選択から考えても無難な範囲でしょう。

出力電力は?
 予定通り:Po=3Wになりました。
 この写真は評価の一コマです。 パワーの測定中で、電源電圧:Vcc=12.0Vで出力電力:Po=3.0Wをやや越えました。目論見通りの性能が得られた訳です。

 そのほか、実際にオンエアする送信機として問題ないか高調波を含むスプリアスなど一通りの評価を行なっておきました。 またダミーロードを負荷にして受信機でモニタをしながらキーイングしてみました。 なかなか良い感じのトーンです。 少なくとも迷惑を掛けない程度の電波にはなっているようですね。

 もう少し書くつもりで、写真など用意したのですが夜も更けてしまったので、あとは続きと言うことで・・・。 製作・評価編を予定していますがご希望のコメント次第でしょうか?(笑) これからなので詳しくも大雑把にも・・・。

このつづき、具体的な作り方は『製作編』でじっくり:→こちらのBlogで。

半導体ではなく、レトロな真空管式でやってみたい人は:→こちらのBlogで。

(Bloggerの新仕様対応済み。2017.03.31)

2009年7月3日金曜日

【部品】長波136kHz用バー・アンテナ

長波・中波帯用のバー・アンテナ・コイルのはなし
 バー・アンテナ/フェライト・アンテナと言えばトランジスタ・ラジオ専用部品のイメージがあるのでHAMが使うことは滅多にありません。 HAM局は受信するだけでは済まないので、送信にまったく不適当なバー・アンテナなどに着目はしないのでしょう。

 しかし色々な用途があって重宝することがあります。 私が積極的に使った例としては電界強度計の製作があります。 もちろん簡易なものでしたがホイップ・アンテナが不要なので機動的でした。 バー・アンテナはループ・アンテナの一種であって、この場合は電界強度計と言うより『磁界強度計』と言うべきかもしれません。 ずいぶん前になるのですがMobile HAM誌に製作記事を発表したことがありました。
 シールデッド・ループ構造にしたので周囲から静電的な影響を受け難く便利に使えるものでした。

 そのほかにも、フェライト・コアはコモンモード・チョークやバラン用としても使えます。トロイダル・コアと違って開磁型なので磁気飽和しにくいのが長所でしょう。

                   ☆

 ここでは長波帯ラジオ用のバーアンテナを活用し、新HAMバンド:136kHz帯の機動的な受信機への応用を構想してみたいと思います。受信だけとは言え、大きな外部アンテナなしで受信可能なら有用性があると思います。

 写真はコアの長さが100mmのもので、右側の巻き線が中波帯用(531kHz〜1602kHz)、左の巻き線は長波帯用(153kHz〜279kHz)です。 欧州向けトランジスタ・ラジオ用だったのでしょう。長波帯用の巻き線は分布容量が少なくなるような巻き方がしてあります。

コアの長さ120mmのバー・アンテナ
 バー・アンテナと一口に言っても様々なものがあります。構造やサイズは見ればわかりますが、一番のポイントはフェライト・コアの材質にあります。

 たとえばHF帯用の電界強度計を作るなら短波帯に適したものが必要です。 中波止まりのコア材では透磁率:μ(ミュー)が周波数とともに低下し、Qも2MHzあたりを境に急落してしまい不適当だからです。

 既に巻き線してある時は短波帯への適否も何となくわかります。 しかし結局のところ、こればかりは買って調べてみないと正しく判断できないようでした。 HF帯にも良さそうだと思って入手したものの、性能から見て中波帯止まりだったものはパーツボックスに眠ったままです。

 写真のものは、通販で購入したものです。 残念ながら中波帯より上でQはガックリ低下します。 左の巻き線(L=350μH)が中波用、右側の巻き線(L=3.3mH)が長波用でどちらの周波数でも良好でした。 長波付きラジオの受信周波数は幾らか上下に余裕を持たせてあって約140〜300kHzをカバーするようです。

コアの長さ140mmのバー・アンテナ
 バー・アンテナは断面積が大きく長いものほど高感度です。 同一電界内に置いたときバー・アンテナから取り出し得る最大電力はコアの寸法によって決まってしまいます。

 従って、いくら巻き方を工夫しHigh-Qなコイルを作っても、小さなコアでは・コアサイズによる感度の限界が存在します。

 もちろん、サイズばかり大きくてもだめです。 その周波数帯に適したコア材でなければ高性能は望めません。 ノイズフィルタ用コア材には巨大なものが存在しますが、短波帯どころか中波でも性能は良くありません。 それを使ったバーアンテナはサイズは巨大でも性能は期待通りにはなりません。 あくまでもバーアンテナに適したコア材が使ってある条件下で、サイズの論議がある訳です。コア材が良くなければ幾ら大きくても低性能なのです。

 写真のバー・アンテナは、左のセクション巻きになった巻き線が長波帯用です。 右のソレノイド巻きが中波用、そして中央の小さな巻き線は外部アンテナ用リンクです。 比較的大型で高級なラジオに使うものでしょう。 残念ながらこれも短波帯には不適当だったので上記同様にパーツボックスに眠っていました。 入手したのはまさか長波のハムバンドが実現するとは思わなかった頃でした。

 本格的なアンテナを建てるのとは違いバー・アンテナには限界があります。 幾ら大きなコアを使ったからと言っても自ずと限度があります。 長波でやったことはありませんが短波帯でどこまで聞こえるか試したことがありました。 結論から言えばBCLラジオなど比較にならぬほど高感度になりましたが、最後は熱雑音との戦いとなりそこで終わりました。結局、受信性能はラフに張ったワイヤーアンテナに敵いませんでした。

 限界性能から判断して、バーアンテナは本格的な交信用には不十分です。 しかし簡易なテスト用受信機あるいは電界強度を調べる測定器用には有用性があります。 十分な大きさのアンテナが張れない長波帯では、ある程度効果的に使える可能性もあるでしょう。利用価値の低かったバーアンテナも少しは見直されてきた感じがします。

 上記のどれも長波帯のハムバンド:136kHzには良さそうでした。コアの直径は同じようなものですが、少しでも長い写真のこれが中でも一番有望でしょう。代表して評価してみることにしました。

 Qメータで評価しましたが、ディップメータ(GDM)ほか可変周波発振器+オシロスコープで評価することもできます。 オシロスコープはVTVMで代用しても良いでしょう。 要は共振特性がわかれば良いのです。発振器とバーアンテナがなるべく弱い結合なるように配置を工夫します。 その状態で-3dB帯域幅を測定し、中心周波数を除すれば"Q"になると言う原理的な方法で求められます。

 なお、短波帯に使えるバーアンテナは珍しいので必ず適否を調べるべきです。 中波や長波で使えないものに遭遇したことはありませんから、その周波数で使うのならサイズで選んでも十分だと思います。


L=140mm:バー・アンテナ・コイルの評価
 長波用巻き線の共振特性を調べました。中波用の巻き線は一旦外してしまい、長波用巻き線を中央に寄せて測定しています。

 なお、コア上の巻線の場所が端部と中央部ではインダクタンス、Qともに大きく異なります。 従って使う際の巻線位置を想定したうえで調べないと旨くありません。

 なお、巻き線をコアの中央に置くとインダクタンスは最大を示しQも大きくなって性能が最も良い状態になります。

 巻き線方法でバー・アンテナの性能は変わります。 詳しく調べたデータもあるのですが、目的である長波帯では工夫の余地も少ないうえ性能にも極端な差はありません。 従って適当なインダクタンスが得られるならあえて巻き換えなくても元々の巻き線の流用でも十分でしょう。 リッツ線が巻いてあることも多いのですが136kHzでは表皮効果はそれほど大きくないのでUEW線でも十分です。 但し巻き線どうしが密着すると分布容量が増えて、また近接効果と言ってQが下がる現象も起こるので絹巻き線が好まれます。

素晴らしくHigh-Q
 135kHzにおける無負荷Q(=Qu)は540を示しました。この状態でインダクタンスは4.2mHあって約330pFで同調します。

 長波付きトランジスタ・ラジオではBC帯と同じバリコン(ポリ・バリコン)を使う関係でHigh-L/Low-Cになります。
 おまけにたいへんなHigh-Qです。 これらの条件は一般的に共振インピーダンスが高くなって有利なのですが、それも程度問題でしょう。 同調があまりクリチカル過ぎても困るので使い方を工夫しないといけないようです。(ほか2種類のバー・アンテナもHigh-Qでした)

 試行錯誤が必要なので今から構想を書いても仕方ありませんが、バーアンテナから取り出される電力を無駄にしないような設計にすべきでしょう。 周波数が低周波並に低いことからGaAsやHEMTと言った超高周波用デバイスが適当であるとは言ません。 むしろAudio用のデバイスに良いものがありそうです。 このあたり最高性能を極めるには我々にとって未知の周波数なのです。

長波帯ラジオのフロントエンド・デザイン
 スーパーヘテロダイン式で長波受信機を設計してみましょう。
 長波帯受信機の回路は殆どお目にかからないので、半導体を使ったものと真空管式を設計してみました。 140kHz〜310kHzがカバーできるようにしてあります。

 受信周波数範囲を広めにとったのでアンテナ・コイルは分布容量が少なくなるように巻く必要があります。 なお、この受信範囲はEu標準の長波放送バンドです。 136kHzのハムバンド用ではありません。(HAM用の変更法は後述)

 半導体式の場合、トランジスタ1石の自励式コンバータでも十分実用になります。ここではMixerにDual Gate MOS-FET(3SK73)を使い、Local-OSCにはJ-FET(2SK192)を使いました。少しだけ『通信機』のように設計しました。 FETは入力インピーダンスが高いので、コイルにタップは不要でしょう。 バリコンは最大275pFの等容量2連ポリ・バリコンを使います。
 アンテナ同調回路はかなりハイ・インピーダンスになるので、IFアンプと結合しないよう注意が必要です。 必要に応じてシールドするなど、通信機を作るつもりでやれば問題ありません。 送信アンテナの近傍で使うには必ず保護回路を設けMixerのFETを飛ばさぬように気をつけて下さい。ダイオードを2本使う保護回路でも十分効果的です。

 真空管式は五球スーパのコンバータ回路そのものです。 七極管のコンバータはノイズが云々などと寝言を言うのは現実を知らない人でしょう。 ここはVHF帯ではありませんからきちんとスーパーヘテロダインの調整ができるウデがあれば性能に心配はありません。 こちらは430pFのバリコンを使う設計にしました。従ってコイルのインダクタンスも半導体式とは異なります。

 136kHz帯HAM Bandへの変更ですが、非常に狭いハムバンドなのでこのような本格的なトラッキング設計をしなくても十分です。 従ってごく簡単にできます。 このバンドではRFアンプの必要性は感じないでしょう。 すぐ上にあるBCバンドの放送波は非常に強力ですから混変調を避ける意味で非同調・広帯域な高周波アンプを付けてはいけません。 もし付けるとすれば必ず同調回路形式の「プリセレクタ」にします。

 周波数が低いとは言え、バーアンテナ式の五球スーパを作ったのでは、HAM用としては感度、選択度ともに不十分でしょう。 選択度の良いフィルタを設け、二段以上の中間周波増幅を行なう必要があります。 従って、案外大掛かりな製作になります。  この周波数ではNFはあまり問題にならず、選択度とゲインが十分得られれば良いのでスーパーヘテロダインに限らず、ストレート式(オートダインやダイレクト・コンバージョン式受信機)でも十分実用性があります。

巻き線ストッパー
 バー・アンテナ一般について少しだけ触れておきます。
 コアの上で巻き線を動かすとインダクタンスが変わると書きました。 トランジスタ・ラジオのトラッキング調整は巻き線を動かして行ないます。 調整したらその位置で止まっていないと困るので、このようなクザビ型のストッパーを使います。 

 パラフィンで固めてしまう例もあるようですが、本来は巻き線の位置が加減できるようになっているべきです。 安価なトランジスタ・ラジオでもきちんとトラッキング調整すると驚くほど高感度になります。

巻き線ストッパー(使い方)】
 このように、ボビンとコアの間に差し込んで半固定します。 トランジスタ・ラジオ(スーパーヘテロダイン式)のトラッキングは結構シビアです。 最後はほんのわずかの加減になるのでクサビの入れ方でも変化するくらいでした。 そこまで調整すると6石スーパーも相当高感度なのがわかります。

 6石スーパーと比べると五球スーパーの方が遥かに高感度だという印象を持っているかもしれません。しかし、実際は同等かトランジスタ・ラジオの方が高利得なくらいです。 それはバー・アンテナと言うたいへん不利な『アンテナ』で十分良く聞こえる必要があるからです。 もしバー・アンテナではなく無線用外部アンテナを付ければ聞こえ過ぎて困るほどの感度(ゲイン)があります。6石スーパー侮れずですね。

 バーアンテナは便利ですが比較してたいへん低性能です。 本格的な通信用途にはきちんとしたアンテナが必要ですから、期待しても完全な代替品にはなりません。 しかし、移動運用など機動性を活かす目的にはたいへん面白い素材です。 最大限の性能が発揮できるよう回路的な工夫をして、性能を探求する面白味もありそうです。 まずはバー・アンテナと言う素材から着目してみました。 de JA9TTT/1

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バー・アンテナの参考書
"Ferromagnetic-Core Design & Application Handbook"

 一般に入手可能なラジオ関係の書籍でバー・アンテナについて触れているものは殆どありません。 定量的なデータはあまり載っていないのですが、応用回路など載っています。 バーアンテナを使った受信機やARDF用受信機の製作に役立つ情報がありました。

 W1FB/Doug DeMaw(故人)の執筆です。 フェライトコア全般を扱っていて、JAの『トロ活』には載っていないような情報もあるので『コア好き』にはお薦めできそうな一冊です。もし期待はずれだったらゴメンナサイ。(笑)

 出版元はMFJ Publishing Company,Inc. MFJ-3506:S19.95-・・・ISBNは1891237012のようです。 暫く前にネット書店からではなく、MFJ Enterprises Inc.(←リンク)から直接購入しました。 1996年初版ですが、調べてみたら今でも同じ値段で販売されていました。 米国では結構有名な本のようです。

 なお、Amazon.co.jpでサーチすると1万円以上もする古書がヒットします。間違ってもそれを購入しないようにご注意を。新品が送料込み3千円くらいで買えますので。

                    −・・・−

 粗大ゴミの日には古くて大きな『ラジカセ』が捨てられているのを目にします。大きなバー・アンテナが使ってありそうなので回収してみては如何でしょうか?

(おわり)

(Bloggerの新仕様に対応済み。2017.03.31)