2010年5月9日日曜日

【部品】RF FETs

高周波用小信号FET
 連日ディスコン部品の追悼Blogのようになっている。 そろそろ2SK241(東芝)の番が来たようだ。 だいぶ前に製造は中止になっていて、いよいよ流通在庫も底をついて来たようなのだ。 代替品(正しい日本語の「だいたいひん」と読んで下さい。教養がわかります)であった2SK439(日立)や2SK544(三洋)は一足先に入手難であり、他に同等品はないと思うので対策を検討すべき状況だ。

 もちろん2SK241の表面実装型も存在し、同じ東芝から2SK302と2SK882が出ている。いずれも中身のシリコンチップは同じらしく、規格上の違いは最大ドレイン損失くらいだ。 各FETの最大ドレイン損失:Pd(max)は、2SK241=200mW、2SK302=150mW、そして2SK882=100mWである。これはパッケージサイズによるもの。表面実装してドレイン側に広めのランドを作れば2SK882でもPdを大きくすることは可能だ。但し、用途はもっぱら小信号増幅なのでPd=100mWであっても支障はない。従ってPd(max) の違いが問題になることはまずないだろう。いまのところ表面実装品の少量入手は目処が立っていないので、これが解決すべき第一の課題かもしれない。

重要:このBlog記事は2010年ころの状況に基づいて書かれたものです。部品の供給状況は時々刻々と変化しており年数の経過により現況を示してはいないと考えられます。内容を参照される際は必ず現在の状況も調べることをお奨め致します。(2017.12.01)

                   * * * *

 写真はRF用FETのディスコン・トリオである。 左から2SK439(日立)、2SK241(東芝)、そして2SK125(SONY)だ。参考のためにゲート・ドレイン・ソースのピン接続を記入しておいた。以下,それぞれの代替方法など気付いた所をメモしておく。(ディスコン:ディスコンティニュー=Discontinue=生産を継続しないの意味。要するに廃番製品)

【1】2SK125: 写真右の2SK125についてはU310あるいはJ310と言う、原型になったVishay-Siliconix製ほかが海外から入手できる。先祖に帰ってそれを代替品にすれば良い。むしろ、かつての6m ManたちはU310やJ310のプリアンプに憧れたほどだ。そのU310やJ310の憧れを国産で(安価に?)実現したのが2SK125だから、今となっては入手が容易な方を使えば同じと言う訳だ。なお、表面実装派には同じ中身のSST310もある。U310、J310、SST310の違いは外周器の違いだけであり、中身のFET本体はどれも同じである。もちろん何回も書いているように2SK19(ディスコンだが)あるいは2SK192AのIdssが大きいもの、具体的にはBLランク品で工夫しても問題なく行けることが多い。

 何れで代替するにしても単に差し替えるだけではダメで、せめてドレイン電流くらい調整すべきだ。それもせずに単に差し替えただけでデバイスの良し悪しを議論しても無意味ではないか。NFやGainの数dBは動作点の適否やデバイス周辺の外部条件でも容易に変わってしまう。IIP3など同じデバイスであってもドレイン電流:Idの流し方でがらっと変わる。それぞれ最適と思われる状態に加減してもなお顕著な差があるようならまだ何かが旨くない証拠だ。同様に評価条件の異なる別個のカタログ・データを見比べても優劣の判断ができるものでもない。同一条件のもとで詳細に比較せねばならない。

 2SK125やJ310をゲート接地以外の回路で使う例も見る。どちらのJ-FETも汎用品なので使える範囲は広い。様々な場所に使って問題は起きない。しかし、その場合これらである必然性は殆どないことになる。手持ち部品の消化目的か部品共通化のために使ったに過ぎない筈だ。むしろその回路に適した別のFETに換えた方が有利なことも多い。従って、大量に買い置きすると消化の為に適材適所ではない使い方を強いられることになって損である。

参考:例えば2SK125の代替品としてON Semiconductor社製のJ310G(鉛フリーの現行品)がMOUSERで購入できる。1個単位の72.4円から購入できるが、数量割引があって10個で単価42.5円、100個では単価20.1円、1000個だと単価15.4円になる。値上がり傾向ではあるがまだまだ安価と言うこともあり2SK125の代替にお薦めできる。お値段に関係なく性能は良いので今なら最初からJ310Gを使う設計が良いのだろう。(価格は2015年1月15日現在) 外観形状は写真の2SK125とほぼ同じだが、足の並びはまったく違う。リンク先にあるデータシートで確認して使う。ON Semiconductor社のリード線付きJ310Gも生産中止品の方向なので在庫限りになるようだ。これからは表面実装型の採用も視野に入れるべき時のようである。RSコンポーネンツ社では既に面実装型のMMBFJ310(Fairchild製)のみ扱っている。

追記・1:先般ON Semiconductor社製の代替品:J310Gが入手できたので2SK125と特性比較してみた。Idss=約35mA、カットオフ時のVgsすなわち、Vp=約-3.3Vであった。Idss付近に於ける相互コンダクタンス:gm=約18m℧(=18,000μ℧)である。あらゆる特性を比較した訳ではないが確認した範囲から見て互換品と考えて問題はないようだ。従って値上がりしつつある2SK125を入手するまでもなく安価なJ310を使えば十分だ。2SK125の時代は終わってしまったが、J310はこれからも継続し汎用の範囲まで用途を拡大しながら使われ続けるだろう。(注:J310Gの末尾文字「G」は鉛フリー品を示す記号であり、電気的な特性は従来品J310とまったく同じ。従ってそのまま置き換えできる)2010.6.27


追記・22SK125とJ310のIdssについて
 まず、Idssとは何かと言えば、FETの ゲート:Gとソース:Sを短絡し、ドレインと(ソース+ゲート)の間に所定の電圧を加えたときにドレインに流れる電流を言う。(左図の「Idss測定方法」を参照)
 Nチャネルの小信号用FETの場合、ドレイン:Dに正、ソース:S側を負として、その間に直流・・・この図の例では10Vを掛けてドレインに流れ込む電流を測定する。 規格表によれば2SK125もJ310も同じ条件・・すなわちVds=10VでIdssを測定し分類している。

 2SK125のIdssはカタログ上でIdssによる4つの分類があって、それぞれ枝番を付けている。例示すれば、2SK125-2(Idss=40〜75mA)、2SK125-3(同40〜52mA)、2SK125-4(同48〜63mA)、2SK125-5(同57〜75mA)となっている。2SK125-2と言うのは一番分類の緩いものだろう。-3は小さめ、-4は中くらい、-5は大きめのIdssといった分類のようだ。
半導体はバラツキが有るので製造後に実測して分類し各ユーザーに販売していたのであろう。どれが優秀と言うことはなく、ユーザーの希望で納品していたに過ぎないはずだ。使う際にドレイン電流は加減できるので指定の物がなくても調整でカバーできる場合がほとんどなので神経質にならなくても良い。なんなら我々自身が実測して選別する手もある。

 J310に Idssの分類はなくて、24〜60mAと言う規格があるだけだ。おおよそ2SK125-4に近いと言えるだろう。2SK125よりもバラツキは少ないのだ。なお、姉妹品にJ309と言うのが有って、こちらはIdss=12〜30mAとなっている。同じように製造してIdssの小さい物をJ309と言う型番にしているのであろう。

 いずれのFETも、ユーザー自身がIdssを実測してペアを組むと言ったことはごく簡単にできる。バランス型のミキサのような用途や、複数個をパラで使うと言った目的には近似のIdssのものを見つけてやればベストである。 その場合でも±10%以内に合わせておけば十分だ。Idss以外にgmやVgs(off)といった項目も値は個々にばらつくので、Idssばかりやたら高精度に選別してもあまり意味がないからである。なおVgs(off)すなわち、ピンチオフ電圧:Vpの測定方法については別のBlog(←リンク)で扱っている。これらIdssとVpの実測によってJ-FETの静特性を把握することができる。正確なバイアス設計に必要な項目だ。(2015.3.18)

【2】2SK2412SK439: 2SK241と2SK439は多くの場合、相互に代替できる互換品だ。まともに設計されている回路に使うなら、どちらを使っても殆ど差は出ない。 内部はカスコード構造になった特殊なものであり、しかも「ディプレッション・モード」の小信号RF用MOS型なので海外製の同等品を具体的に目にしたことはない。日本オリジナルの模様で海外製に代わりはないのかもしれない。 *上記よりも入手難かもしれないが、三洋電機(現ONセミ社)の2SK544(-D、-E、-F)は東芝の2SK241(-O、-Y、-GR)と足ピン配列を含めて同等品である。纏めて手に入ったので拙宅の在庫品は2SK544に移行中だ。(2013.6.16)

 どうしても入手難なら、少し特性は異なるがRF用J-FET、例えば2SK192Aのカスコード接続であらかた行けるので試す価値はある。同様にJ-FETで内部カスコード構造の2SK161(東芝)も代替に向くが、こちらもディスコンである。やや損な方法だがDual Gate MOS-FETの第2ゲートをソースに直接結んで代替する方法もある。

要点:これらのFETが意味をなす用途は「ソース接地型の高周波増幅」である。上記の代替案もそれが前提だ。他の用途、例えば水晶 or LC発振器(=VFO等)、VXO回路、MIXer回路、検波回路、ソースフォロワ等のバッファアンプでは普通のJ-FET:例えば2SK192Aで十分だ。要するにゲート・ドレイン間の帰還容量:Crssが特に小さい方が有利な回路を除けば、2SK241や2SK439のメリットはない。普通のRF用J-FETに置き換えできる。なお、ソースフォロワに2SK241、2SK544や2SK439のような内部カスコード構造のFETを使うと、むしろ周波数特性は悪くなる。ソースフォロワには2SK192Aのような普通のJ-FETが良い。 2SK241や2SK439のような高周波用のMOS-FETは低周波で使うと1/fノイズが大きい。Hi-Fi Audioのような低周波増幅の目的には不適当である。 オーディオ回路には1/fノイズが少ないJ-FETの方をつかうこと。 同様の理由でMOS-FETをVCO回路に使うのもあまり感心しない。

 2SK439はアイテック電子のキットで使われたが他ではあまり見なかった。自作で使うのは稀なのでディスコンになってもさほど困らない。本に書いてあるほどの違いは感じられないので、私はIdssランクを合わせ2SK241で互換していた。もし顕著な違いが見られたなら何かがおかしいのだ。どちらかの手持ちがあれば相互に代替すれば済む。但し足の並びが裏表なので要注意だ。(写真参照) なお2SK359(TO-92)と2SK360(面実装型)はパッケージ違いの2SK439同等品である。(どれもディスコンだろう)

2SK125と2SK241の二つは高周波用のFETとしてたいへんポピュラーであった。頻繁に雑誌記事にも登場していた。それだけに過去の製作記事をそっくりそのまま真似ようとすれば入手に奔走することになろう。 結局、回路動作の片鱗すらも理解しないアマチュアは部品のディスコンに怯え右往左往することになる。 そして枯渇を見越し価格高騰を目論んで買い集める輩も登場する。 かくして増々の品薄となる。 やがてその部品の時代も終わって行く。

                    −・・・−

 どうしてもその部品でなければ実現できない性能と言うのも無いとは言えない。しかし殆どは別の部品や回路で十分な結果が得られるものだ。 むしろ古臭い部品を使うよりも近代的部品の採用で一段と優れた性能になるケースも多い。 こうしたRF用デバイスの例で言えば周波数特性に優れ一段とローノイズで低歪みに改善されることがある。

 メーカー製品の補修ならやむを得ないかもしれない。しかしそれを除けば無理に探したりするよりも入手し易い部品で代替して同等以上を目指すのがCOOLと言うものだ。 エンジニアとして金力で解決するのは恥ずべき行為と自らへの戒めも含めてここは強調しておこう。高くなったら「もう買わない,もう使わない」の合い言葉で行こう。(笑)

# 少し前に2SK241のGRランクを使い切ったので買っておけば良かった。
==>; Blog読者のHOTな情報で2SK241GRを少しだけ補充しておいた。 (5/19/'10)
(だからと言って何百本も溜め込んだら使い切れなくて馬鹿みたいなことになる・笑)

追注:最近になって2SK241のGRランクばかり欲しがる人があるそうだが、それは馬鹿げている。 ここでGRを購入したのはYランクはまだ手持ちがあるからだ。GRの方が何か良いからではない。もともとYの方が多少便利そうに感じたので多めに持っていた。GRは少しの手持ちだったから先に使い切った。実際はどちらも幅広く使えるので問題はない。
 ソース-Gnd間に抵抗Rsを入れ、自己バイアスを掛けてIdを調整して使うのが普通だろう。その場合Rsの値はYとGRでは違っては来るが、調整後に得られる性能はどちらも同じになる。もしもゼロバイアスで使いたいならIdssの小さなYランクの方が消費電流を少なくできる。
 何かの理由でIdを大きくしたいなら、Yランクでも正のゲートバイアスを掛けてやればGRと同じにできるわけだ。MOS構造の2SK241ならゲートの正バイアスもまったく問題はない。
 だからどちらかのランクがいつでも良い訳ではないのである。おわかりか?(上っ面だけ読んで勘違いする人がいるので念のためにしつこく書いておく。笑 2010.7.17+2010.10.9)

さらに追注秋月電子通商の店頭を見ていたら、2SK241はいまでもごく普通に売っている。(5本入りで200円)(←残念ながら秋月電子通商の扱いも終了した模様:2015.10.1)入荷状況が少し悪くなってきたのは一部のお店(S電気だけ?)なのかも知れない。実は以前にも同じようなことがあったが、仕入れ先の関係なのだろう。まさか値上げの口実にした訳でもあるまい。 しばらくは心配なさそうに思う。なお、秋月で売っているのは最も汎用性のあるYランク品だ。他のショップでも順調な入荷が見られるので、慌てた買い急ぎは高値を掴まされ損である。買い置きするなら当面必要な最小限にするのが良さそう。(2010.7.28 + 2010.9.12)

(おわり)

2010年5月5日水曜日

【部品】Simple TCXO

【秋月のTCXO】
 もう先月(2010年4月)のことになるが、永らく秋月電子通商で売っていた写真のTCXOが販売終了になった。記憶から薄れぬうちにBlogに書いておくことにした。

 TCXOとはTemperature-compensated crystal oscillator、すなわち温度補償型水晶発振器のことである。 水晶振動子や発振回路が持つ温度特性を逆の温度係数を持つ部品の追加で打ち消し、温度による周波数変動を少なくした発振器である。なお、電子回路屋は水晶振動子:CrystalのことをX-talと略すことが多く、TCCOではなくて「TCXO」となる。(これは一般常識かも・笑)

 このモジュールの周波数は12.800MHzなので2^nにも100kHzのN倍にもあたるので、PLLの基準発振器などにうってつけであった。 安価(@200円)でお手頃なユニットとしてたいへん重宝していた。
 パーツショップでは他にも多種多様な水晶発振モジュールが売られている。 こうした周波数安定度に優れ、しかも周波数の微調整ができるモジュールはなかなか貴重なものだった。

 初期には旧式化した余剰在庫品が持ち込まれて販売が始まったようだ。その後も人気があったのでメーカーに注文して作っていたとも聞く。 しかし既に国内メーカーから同種のモジュールを供給してもらうのは難しいのではないだろうか。この寸法、この形式の発振モジュールはかなりの旧式なものだ。 既に産業分野での大量ニーズも途絶えている筈だから安価に供給を受けるのは困難だろう。

【KTXO-18を開けてみる】
 内部はどのようになっているのか調べてみよう。シールドケースは底面の3カ所でハンダ付けされている。ハンダを除去し開けてみるとHC-49/Uが寝かせて付いていた。

 水晶振動子の足下にある白い角形のものは周波数調整用のトリマー・コンデンサである。シールドケースの調整穴からアクセスする。ジェル状の物質が流し込まれているように見えるが、経年変化を抑える為かもしれない。

 振動子は大きなHC-49/U型でありトリマコンデンサも旧式だ。 チップ抵抗や積層セラミックコンデンサの寸法は2mm×1.25mmのようだ。 こうした使用部品から見てこの発振モジュールの設計は1980年代ではないだろうか。20年以上前の設計を感じさせる。

【KTXO-18Sの基板】
 解析した回路は次に示すが,基板上の様子はこのようなものである。 全部品はケースや基板、足ピンを含めても僅かである。 電子部品としては:トランジスタ=1石、抵抗器=4個、積層チップセラコン=8個、トリマーコンデンサ=1個、それに12.800MHzの水晶振動子(HC-49/U)=1個ですべてである。

 水晶振動子はシリコン・ゴム系の接着剤(白色)で基板に接着されており振動で動かないようになっている。 柔軟性のある接着剤は無用なストレスが部品に加わらぬようにするためだろう。 基板は単純な両面基板である。 下記の回路図と対応で部品番号を振っておいた。

【KTXO-18Sの内部回路】
 このようにごく簡単な水晶発振回路になっている。 回路はコルピッツ等価型のピアースC-B水晶発振回路である。 コンデンサも外せば実測で値を確認できるが、取りあえずその必要は感じなかったので調べていない。 使ってある抵抗器には抵抗値が書いてあったので図に入れておいた。

 このモジュールはTCXOとしては最もシンプルなものである。「直接型」と言う形式であろう。 図に矢印で示した「温度補償型セラミックコンデンサ」で水晶振動子と回路を含めたトータルの温度変化を打ち消している。 あとで例を示す「間接型」よりも温度補償性能は劣るようだが、無補償の水晶発振器に比べれば周波数安定度は一桁くらい良くなるようだ。

 水晶発振器とは言え我々が無造作に作った回路の温度安定性は良いものではない。数〜10ppm/℃くらいの温度係数を持つのが普通である。何の温度補償もしなければ水晶発振とは言ってもその程度のものだ。 このTCXOはそれほど高性能ではないようだが、それでも1ppm/℃には収まっていそうだからマズマズ安定と言える。回路が簡単なので付加雑音も少なくて出力信号のC/Nも悪くない。ただし、より安定に使うためには外部にバッファアンプを置きたい感じだ。また、この簡易な回路構成では電源に乗ってきたノイズで変調を受けフェーズノイズ(位相雑音)が増加するので、信号純度を問題にする用途では十分奇麗なDC電源を与えてやるべきだ。

 過去の資料や手に入った幾つかの情報を調べても正式にTCXOと書いてあるものはないようだった。温度補償されてはいてもあまり高級品ではないようなので、メーカーの気持ちで言えば積極的にTCXOと言うほどではないのかも知れない。TCXOなのかどうか、どうも曖昧なのはその辺に理由がありそうだ。ごく平凡な水晶発振モジュールの扱いなのであろう。




【類似のTCXO】
 おそらく「ポケベル」と思われる古いジャンク基板に付いていたモジュールである。 秋月のよりもやや小さいが同じころの部品だろう。

 ポケベルの回路はこのTCXOを基準にしたPLLで局発を構成したスーパーヘテロダインになっている。24 MHz帯のMCFと455kHzのセラフィルが使ってあった。フロントエンド部分には誘電体フィルタやSAWフィルタも使われておりなかなか高級そうな回路だった。まあ当時の技術では当たり前の構成であり必要な部品を並べたのであろう。

 今の移動体通信機はデジタル化・ソフト処理化が進んでいる。イメージリジェクション型のダイレクト・コンバージョン受信機が主流のようで、かつてのように贅沢な電子部品は載っていない。 基準発振器の精度と安定性は等しく重要だが、初期誤差はデジタル的に補正するそうだ。小さく作る必要もあって調整用のトリマーコンデンサなど付いていないのである。水晶振動子の温度特性も一段とタイトになっている。

【NDKのTCXO】
 以前のBlogに既出であるが、昨年のHAMフェアで手に入れたジャンクである。 大きさから見て秋月で売っていたTCXOと同類のモジュールであろう。 どこかの倉庫に眠っていた長期在庫品だと思うが、簡単に試してみた範囲では良さそうだった。

 おそらく、これも簡易なTCXOであって同じように使えるだろう。出力波形や信号振幅も良く似た感じだ。 中身を確認した訳ではないが製造メーカーは異なっても上記の回路と類似ではないだろうか。形状寸法や電気的仕様が標準のようになっていたモジュールなのだろう。

【これもTCXO ?】
 15360kHzと言う中途半端に見える発振器である。 計算すると3×10×2^9(kHz)と言う周波数だ。3と言う奇数が付くのがちょっと厄介だが、TC9122(ディスコンだが・笑)で1536分周すれば1発で10kHzが得られる。768分周のあと1/2する方が良いかもしれない。

 周波数安定度は見ていないのでTCXOじゃないかもしれないが、周波数調整穴もあるからそれなりに精度が必要で安定な発振器ではないだろうか。 こうした水晶発振モジュールはジャンクで時たま見かける。中には安定度の良いものもあるだろうと思っている。使えそうなものを各自工夫するのがアマチュアの自作の良い所だ。(面白い所だ)




【間接型TCXOの例】
 参考の為に少し高級なのTCXOを紹介しておく。 写真は移動体通信用:携帯電話関係の基地局(子局)のメンテナンス用機器に使ってあったモジュールである。測定器の周波数基準発振器として使われていた。 上記に比べるとずいぶん大きなもので高級そうに見える。 これはジャン測からゲットしたので、お値段はわからないがそれなりなのであろう。

 「間接型」と言うのは周囲温度をサーミスタのような温度センサで検出し、一旦電圧に変換してから可変容量ダイオード(バリキャップ)に加える方式だ。 水晶発振のための正帰還ループとは別に、そのループの外側に置いた回路で周波数補償する方式を間接式と分類するとのこと。 秋月TCXOのように正帰還ループ内にある温度補償型コンデンサで直接補正するのではないため「間接型」と呼ぶようだ。 この形式のメリットはモジュール個々に温度補償の効き具合を加減できる点にあろう。従って直接型より優れた性能が実現できる。

 測定器の周波数基準器と言えばオーブン入り水晶発振器(OCXO)を思い浮かべそうだ。 しかしフィールド(屋外)で使う機器は常時通電しておく訳にも行かない。従ってOCXOではダメでスイッチオンですぐに安定する良質なTCXOを基準にする。 我々が使う測定器、例えば周波数カウンタなども常時通電ではエコでないから基準発振器はTCXOが向いている。OCXOでなくても1ppm/℃以内の安定度は得られるから普通の用途なら十分だ。秋月の「TCXO」に飽き足らなくなってきたらこうしたモジュールを見つけると良い。

【間接型TCXOの内部】
 精密なモジュールを開けるのはお薦めできないが、必要があって開けたので写真に撮っておいた。特別な事情がない限り開けない方が良い。なお、これは6.4MHzのTCXOである。

 水晶振動子には番号が付けられており、個々に調べていることがわかる。周波数は12.800MHzである。 内蔵のTTLで1/2分周して6.4MHzを得ている。

 水晶振動子の脇にある小基板が温度補償回路のようだ。この小基板と水晶振動子をセットにして組み立てているように見える。 発振回路のトランジスタはCanタイプで、電源電圧は12Vである。TTL用の電源は78L05型3端子レギュレータで落としている。

【バリキャップ】
 水晶振動子の脇にはFC53Mと言うバリキャップ(可変容量ダイオード)があって、これで周波数を微修正している。富士通のFCシリーズ・バリキャップは良い部品だったが既にディスコン(生産中止)だ。

 白い可変抵抗器は周波数の微調整用である。温度補償用のバリキャップを兼用して周波数調整もする。 周波数微調整と温度補償が干渉しあわないよう回路的に旨く考えてあるようだ。
 発振回路も簡単なTCXOよりもやや高級そうに見える。 Canパッケージのトランジスタも長期安定性を重視した為かもしれないが真相はわからない。(笑)


【サーミスタ】
 小基板に実装されているビード型サーミスタを矢印で示している。 水晶振動子の近傍に配置されている。 これで温度を捉え温度で変化する電圧を得ているのであろう。 その変化電圧を丁度良く加減したうえでバリキャップに加えている。言葉では簡単にできそうでも、きちんと性能を出すのは難しいだろう。

 部品数も増え温度特性の実測や調整の手間もかかる。しかしシンプルな直接型TCXO以上の性能を得ようとすればこのようになるのであろう。 アマチュア用無線機にオプション設定されているTCXOはこれほど高級ではないようだ。秋月のTCXOよりは多少マシな程度かと思うので、メーカーや販売店にとっては美味しいオプションではないだろうか。hi




【VC-TCXO改造】
 なぜ開けたのかと言えば電圧可変型のTCXO、即ちVC-TCXOに改造したかったからだ。 回路の仕組みから改造は容易そうで、実際にもなかなか旨く行った。(グリーンの配線はその一部だが、誰にでもお薦めできるような改造ではない。しかし腕に覚えのある人には情報提供可能だ)

 VC-TCXOが何故必要だったのかと言えば、GPS受信機の基板ユニットと組み合わせてGPS-DO(GPS基準周波数基準器)を作ろうと思ったからだ。 GPS受信機基板から得られる1pps(1Hz)にVC-TCXOをPLLで同期させ、高精度の周波数基準を得ようと考えたのである。 この1pps(1Hz)信号は、毎秒信号の間隔は±にかなり揺らいでいる。しかし毎秒の長さを非常に長い時間掛けて平均化して求めた平均値はたいへんな高精度である。平均値(1/周波数)を媒介して実用信号を得るための発振器としてVC-TCXOを使うのが目論みだ。

 しかし、この考えはTCXOの性能評価を始めてまもなく中止した。GPS-DOに使うには周波数安定度が決定的に不足しているからだ。 高級な方のTCXOであっても、おおよそ要求される性能に対し〜1000倍くらい悪いのであった。 TCXO自身の揺らぎが大き過ぎて必要な安定状態を保持できないのである。

 市販のGPS基準周波数基準器(GPS-DO)がダブルオーブン型のVC-OCXOを使っている理由が良くわかる。 少々高級なTCXOくらいではまったくの性能不足だ。 秋月のTCXOでGPS-DOを作る例もあるそうだが、まあ「周波数カウンタの確認用」くらいには使えても「基準信号源」としては旨くないだろう。(この違いをおわかりなのだろうか?) 基準として無線機や高級オーディオ機器に供給してみても意味をなすまい。
 長期・短期・瞬時のすべてで10^-10オーダーの揺らぎを問題にするGPS-DOにはオーブン入り水晶発振器(VC-OCXO)が必須だ。GPS-RXから得られる1pps信号の性質とGPS-DOの仕組みを冷静に考えれば納得できるだろう。(笑)

                −・・・−

 最後は少々話題がずれてしまったが、秋月のTCXOは一般的な用途には十分満足できるものだ。 長期安定性もまずまずで動作時の消費電流も少ないからポータブルな機器にも向いていた。 性能とその限界をわかって使えばなかなか重宝な部品なのだ。 それだけにこうした手軽なモジュールが得られなくなるのは残念に思う。 どこか海外からでも同種のモノを調達してもらえないだろうか? 同じくらいのコストでの再登場を期待している人は多いだろう。


追記:調べると、RSコンポーネンツやDigi-KeyほかMouserなど電子部品の通販で各種の扱いがある。周波数だけでなく温度範囲と得られる安定度など、仕様を良く確認して購入すれば希望のものが得られる。TCXOと謳っている製品は、秋月のTCXOより一段上のグレードの物も多い。また、VC-TCXOもあってPLLループに入れるVCOとして向いているものもある。そうしたものなら外付けVRで周波数微調整ができるからKTXO-18の代替には最適だ。 TCXOの自作も不可能ではないが、まずTCXOに適した水晶発振子の入手に難がある。また、それが有っても最適な温度補償をする為には測定とチューニングに多大の時間と手間を要する。従って、わずか数個のニーズには購入するのが一番だろう。
(おわり)

2010年5月2日日曜日

【旅】5月の風

秩父高原牧場
 旅と言えるほどじゃないローカルな話しである。 天候不順だった4月も終わり、爽やかな5月が訪れたようだ。 連休の遠出は渋滞が恐ろしいので近くの散策に出掛けた。埼玉県営・秩父高原牧場は約30kmの距離にあって手軽な範囲だ。

 爽やかな5月の高原の風に鯉のぼりが伸びのびと泳ぐ。 水仙が咲き遅い桜もまだ残る高原の春を感じた。 牧場特製というソフトクリームを舐めながらしばしノンビリした空気を楽しんできた。 空気がウマイと何でも美味しい。

 高速インター方面に向かう帰路は少しだけ渋滞に遭遇したが、早々に群れと反対方向に別れることができた。あとはスイっと家まで戻って来た。 何が何でも高速道路を使おうとするから渋滞を「タップリ楽しむ」ことになる。 みなと同じ発想じゃそれも当たり前だろうか。路上の車列より高原の眺めの方が良い。(笑)

# 連休前半はすっかりのんびりしたので明日は鏝でも暖めようか。それとも・・・?