2025年1月14日火曜日

【電子管】Testing the Converter Tube : 1AB6 / DK96

【コンバータ管:1AB6/DK96を試す】

introduction
I'm testing a vacuum tube, 1AB6/DK96, designed for portable radios using dry batteries. Developed in the 1950s, these tubes are less efficient than those used in AC-powered radios. Ingenuity is required to use them well. The 1AB6/DK96 circuit's oscillator coil is key. I've tested and made the best coil for this tube. (2025.01.14 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【七極管:1AB6/DK96】(電池管)
 2025年が始まりました。今年はラジオ100年だそうです。

 1925年大正14年3月22日・東京放送局:JOAK・愛宕山からラジオ放送が始まったのでした。もちろん私は影も形もありません。母さえ未だ生まれてません。(笑) それから100年、情報伝達のメディアもずいぶん発展・変化しましたが、そのとき始まったAMラジオ放送は何とか今でも健在です。

 当時、真空管は存在しましたが非常に高価であって7割は鉱石ラジオだったという資料もあります。 JOAKもいまのように超ハイパワーではありませんからごく近距離の限られたエリアで聞こえただけだったのでしょう。(参考:800kHz、0.22kW UV204パラ自励)

 ラジオ放送が一般に認知されるや、ラジオとその部品は猛烈な勢いで発展し続けました。戦争の影響もあったでしょう。放送開始からたった14年後の1939年にはもうミニチュア管さえも登場したのでした。大戦前の日本は作れませんでしたがRCAのミニチュア電池管のおかげで昭和16年・1941年ころの米国では実用的なポータブルラジオが市販されていました。製品としての完成度も高かったそうです。

 これからテストするコンバータ管(変周管):1AB6/DK96は戦後に生まれた第2世代のミニチュア電池管です。 スーパー・ヘテロダイン式ラジオの周波数変換回路(コンバータ)に使うための7極管です。 1950年代はじめヨーロッパで登場したものです。

 RCAの:1R5-1T4-1S5-3S4(1S4)といった50mAフィラメントの球を25mAに省エネ改良したものです。それでも乾電池にとっては電流が多いと感じますが半分になったのですからフィラメント用:A電池の持ちはずいぶん改善されたでしょう。(3倍もつそうです)

 この省エネ管は蘭フィリップス社が開発しました。日本では技術提携していたナショナル・松下電器で生産されました。私の手持ちも松下製です。 これに触発され、従来の50mA管を半分の25mAに改造した1R5-SFのような-SF管が国内各社から登場したのはご存知の通りです。(はっきり言ってこの改造で電気的性能はかなり悪くなった・笑)

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 1AB6/DK96は70年も前の電子デバイスです。 でも私にとっては「新しい電子デバイス」なのです。 真空管規格表やラジオの回路図はそこそこ残っていますが使うための基本的な情報はほとんどわかっていません。 回路はごく簡単なのですが幾つかキーとなるパーツはもう一度ラジオ製作者自身で検討しなくてはならないようです。

【ナショナルDシリーズ管ラジオ】
 使い方を知るにはメーカーの提供する資料がたいへん役立ちます

 真空管規格表は正しく使うために重要ですが、それだけで活用するのは難しいと感じます。 具体的な回路例があって初めて安心して使えるのではないでしょうか。

 1950年代にもなると、真空管は完成されたデバイスの域に達していたようです。 活用法も整理され非常にシンプルな回路でラジオが作れることがわかります。 真空管はトランジスタほど小型ではありませんからポケットサイズは難しいでしょう。

 それでも十分ポータブルなラジオが可能なことがわかります。電池管はほとんど発熱もありませんから真空管をぎゅうぎゅう詰めにしたようなポータブルラジオが作れたのですね。

 ただし電池だけは無闇に小型化できませんでした。実用寿命を考えるとあまり小型化すると容量が激減して使い物にならないからです。 電池そのものの性能も今ほど優れてはいませんでした。 マンガン乾電池は大電流の放電特性が悪いためフィラメント用A電池は特に消耗が早かったでしょうね。

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 ポータブルなAMラジオを真空管で作りたい訳ではありません。せめて7MHzのHAMバンドが受信できるような「受信機」を作ってみたいものだ・・・と。その第一歩が1AB6/DK96の検討です。今年もジャンクな球で遊ぶ最後のチャンスになりそうです。

【Dシリーズ管:1AB6/DK96テスト回路】
 最終目標は違いますが、まずはラジオ(受信機)をスーパー・ヘテロダインで作ります。 スーパーの肝と言えば何と言っても周波数変換回路:コンバータ回路でしょう。

 この回路がうまく働かないとラジオの性能が出せません。 まずはここから検討を始めました。

 他の回路は言わば常識的な増幅回路に過ぎませんから難しさや未知数な部分は少ないと考えられるからです。

 何を検討するのかというと、局発回路(ローカル・オシレータ回路)です。 スーパー・ヘテロダインの原理を使って、受信信号を局発と混合して中間周波に変換します。 局発がうまく発振しなければ周波数変換がなされません。 従って全く受信できなくなってしまうからです。

 メーカーの回路図(前項)を見ると、2次巻線付きの発振コイルが使ってあります。グリッド同調型の反結合型発振回路です。 電池管の構造上6BE6のようなハートレー型発振回路は合理的でないからです。 実はこの発振回路のコイルこそがキーパーツでしょう。 デキが悪ければ発振せず、何とか発振はしても最適でなければ感度が上がりません。 電池管のラジオもここさえ決まればあとはそれほど未知の部分はないと言えそうです。

【Tr用局発コイル:SLV-C01の仕様】
 電池管のAMスーパーと言うと、巷ではNo.88コイルが局発用として使われることが多いようです。

 そのNo.88コイルは私が子供のころから存在していて、実はいま売っているのも電池管式ラジオのために開発されたコイルが原型だそうです。 秋葉や日本橋のパーツショップを探せば手に入りそうですが代替品を探ってみることにしました。

 フィードバック用(帰還用)の巻線を持った局発回路用のコイルといえばトランジスタ・ラジオ用が思い浮かびます。 市販品で容易に手に入るものに「SLV-C01」と言う型番のコイルがあります。 幸い手持ちがあったので検討してみました。

 左の仕様書を見ると同調側のインダクタンスは360μHです。140pF+82pFのトラッキングレス型ポリ・バリコンを使うのが前提でしょう。 巻き数は同調側が104回巻いてあります。 フィードバック・コイル・・・本来はトランジスタのコレクタ側に入る・・・は11回巻きです。

 フィードバック・コイルは同調側の約10%の巻き数です。 電池管(発振部)のgm:相互コンダクタンスは600μ℧くらいなので、ずいぶん小さいため10%ではちょっと心もとないと思うのです。しかし既製のコイルがうまく使えたなら手間が要らずFBです。 それで中波ラジオの受信テストができますから・・・取りあえず1AB6を使った感触をつかむには適当です。 まずは使ってみましょう。

【SLV-C01を使ってみる】
 ラッキーなことに発振してくれました

 なぜラッキーかと言うと3本あった1AB6のうち1本しか発振せず、しかも最初に使った1本目で発振したからです。(笑)

 結論から言うと「活きのいい」1AB6/DK96なら発振するかも知れないが、ダメな確率は2/3ということでしょう。もっとも3本とも中古品なので少々ボケた球の可能性はあります。 電池管はひ弱なのでちょっとボケただけでも性能がだいぶ落ちるようですから・・・。

 1本だけでも発振してくれたお陰で、基本的なテストができました。 発振状態を観測したり、信号を加えて簡易なコンバータ動作などテストができたからです。 しかし、明らかにフィードバック用コイルの巻き数は不足していると感じられます。(後に先人の情報など調べていてわかったのですが、発振が弱いと変換コンダクタンス:gcが上がらず、ラジオとしての感度はだいぶ悪くなるそうです)

【発振波形:SLV-C01のとき】
 約1MHzを発振しているときの波形です。 観測ポイントは局発コイルの同調側で、1AB6の第1グリッドに繋がる部分です。

 約2Vppの発振振幅があります。約700mVrmsですね。 しかしこれでは発振が弱過ぎて性能の良い周波数変換はできないようです。(後で調べてわかった)

 周波数を可変してみて、発振波形は良好でした。 また周波数安定度も良くて電源をONしてすぐ元の発振周波数に落ち着くのは消費電力の少ない電池管ならではのように感じました。

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【局発コイルを設計】
 結局のところ自分で適当な局発コイルを設計して製作するのがベストであるという結論です。

 コイルを巻くためのボビンはaitendoで売っている「IFTきっと」を使います。 このキットのコア材は透磁率:μ(ミュー)が大きくて少なめの巻き数で必要なインダクタンスが得られます。 ストレー容量が減らせるので同調回路に使ったとき周波数の伸びがよくなります。

 コイルの仕様を決めるためには、使用するバリコンを決めなくてはなりません。 私の定番はmin7.2pF〜max275pFの2連ポリバリコンです。それを使う前提で左図のBで製作することにしました。(典型的なバリコンに合わせて幾つか設計しておきました。左図)

 同調側のインダクタンスは148μHで巻き数は68回です。 肝心のフィードバック・コイルの巻き数は19回でやってみます。 同調側の約28%の巻き数になっています。

 巻き数の根拠は何かと問われると困るのですが、電池管の1R5(同じくコンバータ管です)の局発コイルについて試作した資料があって、意外に広い範囲で発振することがわかっています。 ただし10%くらいでは明らかに不足で、グリッド同調側の25〜45%くらいの巻き数は必要そうでした。 それと1AB6/DK96は1R5よりも明らかにgmが低くて非力なのです。フィラメント電流は半分ですからねえ・・・。

 ただし参考資料のコイルはコア入りではあっても細いボビンにハネカム巻きになっており、ここで使うボビンよりも1次と2次の結合度は緩いものです。 従ってツボ形コアの「IFTきっと」で作るならやや少なめでも十分であろうと目処を付けた訳です。 もちろん上記でテストした既製品コイル:SLV-C01の評価も十分参考になってます。

【局発コイルを製作】
 さっそく巻いてみました。 いずれANTコイルも欲しくなるので同時に製作しました。 こちらもmin7.2pF〜max275pFの2連ポリバリコンを使う設計です。

 はじめ、同調側を70回巻きで作ったところ、コアの可変範囲の端の方で148μHになりました。 余裕がなさ過ぎたので2回減らして68回巻きに修正しました。 巻線はφ0.08mmのポリウレタン被覆電線(UEW線)を使います。φ0.1mmでは巻ききれないことがあります。

 コイルの再現性は良いと思います。 いまのところaitendoで売っている「IFTきっと」のボビンとコアを使って製作すれば同じ巻き数で概ね同一のコイルが作れると思って良いでしょう。 巻き方ですが整然と揃えて綺麗に巻く必要はありません。ガラ巻きで十分です。 なお、巻枠にあたるツヅミ型コアには同調側の巻線(68回)を先に巻きます。 フィードバック・コイル(19回)はそれに重ねる形で後から巻きました。

 コイルの巻線の1次側と2次側の絶縁耐圧に多少の心配はあるのですが、少なくとも50Vやそこらでは問題はないようです。実際にはせいぜい40Vくらいしか掛かりませんので心配ないでしょう。 なお、回路的な工夫でDC電圧が掛からないようにする方法もあります。

【作ったコイルでテスト】
 先のテストと同じようにブレッドボード用の変換基板に実装しました。

 さっそく交換してテストしてみたところ、こんどは3本ある1AB6/DK96のどれでもちゃんと発振しました。やはりフィードバック。コイルの巻き数は10%では不足だったようですね。 たぶんこのコイルなら少々ボケたような球でも発振してくれるのではないかと思っています。

 参考のためQメータを使って実測しておきました。 Quもだいたい100位あってSLV-C01よりも良好でした。 コアを調整してインダクタンスを合わせておいたので回路に入れた際の調整は最小限で済みました。

 自作コイルもSLV-C01と巻線の巻き方向を合わせてありますから、そのまま差し替えれば配線変更なしで直ちにテストできます。 巻線方向が合っていないと正帰還にならず発振しないので良く確認を。 コイルの製作図で⚫️黒丸のあるピンから巻き始めます!

【発振波形:自作コイルはどうか?】
 発振波形を観測しています。

 上の方の波形とたいした違いはないように感じるかも知れません。 この観測では縦軸の感度は2V/divで先の写真の4倍になっているので注意を!  従って、だいたい5倍くらいの発振振幅になっています。

 振幅は発振周波数によって変化します。 高い周波数で大きくなり低くなると小さくなります。 低い周波数で9Vpp、高い周波数で12 Vppくらい得られています。 フィリップス社の1AB6/DK96のデータ・シートを見ると変換コンダクタンス:gcは局発が4Vrms程度で最大になります。(4Vrmsは約11.3Vpp) 従って概ね最適値になっていると考えて良いでしょう。

 実測結果は上記のテスト回路図中にある表・1にまとめておきました。 3本あったいずれの1AB6/DK96ともに良好な発振特性が得られました。出所不明のジャンクな球ですが十分使いものになりそうです。

【回路電流】
 コンバータ回路のみの回路電流です。 どの球でもだいたい1.3mA程度流れるようです。 8割近くがスクリーン・グリッドg2(発振回路のプレートとして動作している)に流れているようです。

 真空管というと消費電力が大きいイメージがあります。 実際のところフィラメントやヒータ回路での消費電力が大きくて、次いでスピーカを鳴らすパワーアンプ部の消費電力が大きいです。 I-Fアンプや検波後の低周波小信号アンプのプレート電源(+B電源)はごく少ない電流しか流れていません。

 スーパー・ヘテロダインの自励コンバータ回路の場合、局部発振回路(ローカル・オシレータ)の消費電流が大きめになっているようです。 これは電池消耗やAC電源の電圧変動で発振プレート(g2)の電圧が低下しても確実に発振し、最後まで踏ん張るように考えられているからだと思います。 スーパーは局発が止まってしまうと万事休すですから。

 発振停止電圧も確かめておきました。 フィラメント電圧が1.4VならEp=12Vあたりまで発振は持続します。 またフィラメント電圧が0.9Vに低下したときでもEp=17.6Vまで発振は継続します。

 もちろん、Ep=12Vや18Vではラジオの低周波パワー管はうまく働かず音は出ません。ラジオとして実用になるのはもっと高い電圧まででしょう。何とか使えるのはEp=35Vあたり迄でしょうか。 コンバータ管の発振が止まる以前に他の回路が働かなくなるのでコンバータ回路としては合格です。

【テスト回路全景】
 いつものようにブレッドボードを使って実験しました。 電池管ラジオの電源電圧はあまり高くないので十分使えます。

 写真では1AB6/DK96のプレート回路にIFT(中間周波トランス)が入れてあります。これはトランジスタ回路用ですが十分使いものになるようです。
 続きが書けそうでしたら次回のBlogでもう少し詳しく扱いたいと思っています。

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 性能の良い普通の真空管がまだまだ沢山あるのに、あえて性能の良くない電池管など試す価値はないと言われてしまいそうです。 でもそれを言い出すと真空管を使うことすらナンセンスになってしまいます。半導体でやる方が本質的でしょうからね。

 いずれ真空管ジャンクは処分するわけなので、それまでに幾らかでも試して遊んでみたいというのが今の心境です。 電池管はことに用途が限定的です。 それに実際に自らの手で触った経験のないデバイスは何となく新鮮で楽しいですし・・・。これは見てるだけではわからないかも。w 次回はI-Fアンプ以降に続きます。 ではまた。 de JA9TTT/1 T.Kato

(つづく)fm