
QST誌は
ARRLの機関誌で
JARL NEWSに近い存在だ。紙面は
CQ 誌にも近いように感じるが、記事はかなり吟味され検証もするようだから比べては気の毒かも知れない。 昨今はJARLのページが巻末に付いたことでCQ誌の性格はよりQSTに近づいたようだ。
さて「今月のQST」とは言っても80年前の1929年2月号である。先月号より面白そうな記事が並んでいる。今月は詳しく紹介してみたい。(頒布要領は末尾にあり)
え?JA- CQ2月号はやらんのか?って。 はい、やりません。(^^) どうやら辛口ご声援は評判甚だ芳しからず。(やれやれ・笑)

さて、QST 1929年2月号である。始めの部分にあって、かなりのページを割いているのは、CW送信機のキーイングに関する解説だ。
当時、そろそろB電波(
火花送信機)の時代は終わったようだが、CW(無線電信)は無線通信の主役である。送信機は全段C級増幅であり、パワーが大きくなるにつれキーイングは難しくなっていた筈だ。 QRPな送信機なら、アンテナキーイングやB+のキーイングも通用したろう。 ハイパワー化が始まった頃として送信機のキーイングは扱うべき重要なテーマであったようだ。

電源に使うパーツとして、RCAから
UX-866と言う『水銀蒸気整流管』が登場した。これは大きなニュースであったはず。
その最新型整流管を紹介する記事である。 Si-Diは未来のデバイスで登場していないから電源の悩みは少なくなかったようだ。 ホウ砂水溶液に純アルミと鉛の電極板を差し入れた容器を多数並べた「電解整流器」(通称:ケミレク)も実用にされていたころである。 受信機用の小電流なら高真空整流管も登場していたが、ハイパワー送信機ともなると効率の良い(=内部電圧降下の小さい)整流素子が待ち望まれていた。 その答えの一つが水銀蒸気整流管である。優秀な 866系水銀蒸気整流管はその後も長く重用された。(国産の2H66も同じ系統のもの)なお、環境を汚染する水銀を含む電子部品は、使用後の廃棄処理の問題があり、現在においてはお薦めできない。

この送信機は、三極管・
UX-852をPush-Pullに使って自励発振させている。いきなりアンテナに給電する送信機である。
特徴的なのは、UX-852のプレートに電源トランスで昇圧しただけのAC(交流)をそのまま加えていることだ。 電源部にはトランスがあるだけで、整流器や平滑回路はないのである。キーイングはトランスの一次側で行なっている。 大きなパワーを扱う送信機用の電源回路は厄介で、欠点は承知のうえで、整流せずに済ませたいと考えたのだろう。
今どきこんな野蛮な送信機は認められないが、簡単なテストオシレータ程度なら、AMラジオにはかえって信号がわかり易くて良いかも。(?)

1929年スタイルの標準型受信機である。
受信機は未だストレート型が全盛で、図のような1-V-2式である。 高周波増幅は入力側非同調のバッファアンプで、アンテナの動揺やボディ・エフェクトなどによる再生検波への影響を軽減するのが目的だ。電波も少ないから混変調は気にならなかったのだろう。
ゲインは殆どなくともRFアンプを再生検波式ストレート受信機に付けるのは現在でも意味がある。もちろん半導体式でも有効だ。

コイル製作の連載:第一回目である。
この時代、部品の自作は特殊なことではなかった。高価で得難いなら努力と工夫で解決するのが当然だったのだ。
特にコイルは既製品ではまかないきれず手作りが普通であった。しかし、今と同じくコイル巻きは敬遠されたようだ。製作の要領と勘所を解説する記事は無線雑誌でも良く見かけるもの。
時代は変わっても、コイルの本質は変わらない。今でも通用しそうな記事だろう。連載でソレノイド巻きだけでなく、ハネカム巻き、バンク巻きなども扱う。
UV-861と言う新鋭のスクリーングリッド4極管紹介と、それを使った送信機の記事である。 既にお金さえ出せば、ハイパワーも可能な時代にあった。現代のリニヤアンプとさして違わない構造設計が確立されているように見える。
左の写真の右下に小さく見えるのが、受信管のUX-201Aだからずいぶん大きな球である。450THくらいの感じだろうか。
マルチレンジ電圧計を製作する記事だ。
小遣いの少ないアマチュアはオンエアが優先だから測定器は手の出し難い分野だ。 そうは言っても回路の状態は確認したいもの。
フルスケール1.5mAの可動線輪型電流計(いわゆる普通のメーター)を使い、倍率器を付けて幅広く電圧が読めるよう工夫している。汎用測定器のハシリ、現代のテスター(
回路計)のご先祖のようなものだろうか?
肝心のメーターは$12-で、そのほかも合わせると$35-の製作費用だ。このQST が1冊¢25-なのだから、当時の物価を考えたら結構高額だ。

たくさんある絵入りの広告ページが面白い。
先月号でも話題になった
Vibroplex社のバグキーだ。 バグキーその物は有線通信(電報)で使われ既に実績のあるキーヤーだったようだ。
構造は今も基本的に同じだ。OMさんから譲って頂いた一台があるのだが、下の絵と殆ど変わらないように見える。
他の広告も面白くて、欲しい物がいっぱいで思わず買いたくなってしまった。まずはTime Machineの手配が先かな?(^^)

広告ついでに、頻繁に登場する
BURGESS社の乾電池である。
この四角いものはBバッテリーで、プレート電源(B+)に乾電池を使っている受信機も多かったことを伺わせる。
後世のmt管を使った電池管式ポータブルラジオ用ではなく、これは据え置き型のラジオ用である。 長時間使えるように、それなりの容量の乾電池を使っていた。 やがてEver Readyの乾電池も登場するが、当時はBurgessがトップブランドだった。それから幾星霜、隆盛だった会社も時代の波間に消えて行った。
さて、QST:1929年2月号をざっとレビューしてみた。当時の無線事情が感じられるだろうか?
今も昔も『実験的な記事』は面白いもの。PDF版をお送りするので『QST希望』のタイトルで、お名前・コールサインを書いた空メールを『ttt.hiroアットマークgmail.コム』まで。 折り返し添付で返信します。(約11MBあり。メールボックスの容量制限に注意!)常連さんでないお方は数語でも何かお書きを。届いたQSTは個人の範囲でご覧を。 本日(2月7日)より数日間対応の予定。 遠慮せずにどうぞ。==>期限も過ぎたので終了す。(2月14日)