2013年2月1日金曜日

【HAM】 Experiments memo

 【Low Band Antennaの整備
 HF帯のハイバンドからV/UHFまでのアンテナはリニューアルが済んだ。 しかし、架設から18年にもなってLow Bandアンテナも整備が必要だ。

 敷地を含めアンテナ架設用のタワーやポールなど、環境条件は変更が難しい。従って大きな不満が無ければ、既設のアンテナを同じ形式で整備する方向になるだろう。 但し、運用していて気になった幾つかは再架設に当たってできるだけ改善したい。

 写真は再掲載だが、Low Band用アンテナである。ワイヤーアンテナなのでよく見えないとは思うが、7MHzと3.5MHzのトラップ・コイルが入った3バンド用の逆Vアンテナだ。これで1.9MHz、3.5MHz、7MHzのHAMバンドをカバーする。

 原理はシンプルであるが、敷地や架設条件に合わせて作ってあるから建設当時の製作資料が無いと整備はたいへんだろう。 現状をリバース・エンジニアリングしてトラップ・コイルを同じように作ることも一計かもしれないが、ベストは設計・検討の結果がわかる資料の参照だ。 そうすれば同じ物が作れるばかりか、改良の目星も付け易い。(それに、自分で作った物をリーバース・エンジニアリングすると言うのも情けない話しだし・・)

 しかし、架設から年月が経過しており資料の発掘は難しそうであった。 メーカー製や雑誌記事を焼き直して作ったなら古い資料の入手もできそうだが、まったくのオリジナルとあっては他を頼ることはできない。 そこで過去の記録から探査を始めた。

Paper Documents
 いまでこそ、可能な限り電子化して資料を残そうとするが、かつては紙で記録を残すしか無かった。 手書きの文書やグラフ、スケッチ、回路図、そしてどうしても必要なら写真を撮影した。もちろん銀塩写真であった。

 左の写真は過去の実験ほか、様々なことを書込んだ紙のドキュメント(一部)である。 基本的に手書きのものであって、書籍や文書のコピーなどは別に保存している。このように1995年ころまでは紙の記録が主である。 但し、テキストファイル程度の電子データ化も徐々に始まっていた。

 この中にアンテナを作った当時の資料があれば良いのだがあまり自信は無かった。 資料を残したのかさえ、忘れていたくらいなのでどんな情報があるのか内容などサッパリ忘れていた。 ただ、苦労して建設した記憶もあったので何がしかは残っているのではないかと期待して捜索を始める。 

                  ☆ ☆ ☆

トラップの製作データ
 ワイヤー・アンテナである以上、ワーヤー部分の加減は何がしか必要である。架設環境の影響を受けるからだ。 しかし、最も重要なのはトラップの部分だ。

 7MHz帯はフルサイズの逆Vアンテナの動作になる。トラップ部分がエレメント長に及ぼす影響は小さい。しかし、その下のバンド、3.5MHzや1.9MHzのエレメント長は、トラップのL・C比によって大きく影響を受ける。 従って既設のアンテナとなるべく同じ寸法になるよう架設するには同じトラップを作る必要がある。

 幸いなことに詳しい製作データの一群を発見できた。 まずは、コイル:Lとその内部にあって共振させているコンデンサ:Cの製作表が一番重要だ。 仕様を決めるにあたっては、更にバックグラウンドがあった筈だが、取りあえずこれさえ有れば前と同じコイルが作れる。 なお両面プリント基板を使って共振用のコンデンサを作っているのは、適当な容量で高耐圧のコンデンサが入手できなかったからだ。

構造のメモ
 最終的には逆Vアンテナになったが、最初は3バンドのスローパー・アンテナからスタートしていた。資料を見直してわかった。 左図はスローパーだった時の構造を示したメモである。

 かなり煮詰まって来た段階のメモだと思う。概ねこの条件で一旦はスローパーとして架設したはずだ。

 スローパーの輻射エレメント長については種々の説があるようだ。 今でも確たる決め手はないものと思っている。当時様々な例を調べた記憶では、この例のように1/4・λを基本とするものは少数派らしかった。

 しかし類似の考えでトラップを入れ複数バンドで使う例もない訳ではなかった。 マルチバンド化にあたっては必要なバンドにアンテナが「旨く共振すること」、その「共振点インピーダンス」はどうかと言ったテーマを持って実用性を探った。

3.5MHzトラップの共振特性
 上表の通りに製作した3.5MHzトラップの共振特性である。まさかこんな特性まで実測していたとは、すっかり忘れていた。 作った当時、旨いことに詳細評価するチャンスがあったのだろうと思う。
 
 トラップは単純なLC並列共振器であって、実測の共振インピーダンスは18kΩである。 これが3.5MHzのエレメントの先に付いていて、その先の電線へ行こうとするRF電流を阻止することになる。 その阻止インピーダンスということになる。アンテナは該当の周波数帯ではトラップの先のエレメントはないとして振る舞うことになる。

 意外に低いインピーダンスであるが、この程度でもアンテナ用としてはまずまず使えるようであった。 3.5MHzの主バンド幅は75kHzで、バンド内で10kΩ以上のインピーダンスがあるので、まずまず使えたのだろう。もちろん共振点の上下ではトラップのリアクタンス分もVSWR特性に効いてくる。

7MHzトラップの共振特性
 上表の通りに製作した7MHzトラップの共振特性である。

 共振インピーダンスは約17kΩとなった。 これが7MHzのエレメントの先に付いていて、その先のエレメントへ行くRF電流を阻止するということになる。 今は7200kHzまでバンド幅が拡張されたから、共振周波数を7100kHzあたりに変更した方が良いだろう。 但し、そうすると下端のCWバンドでSWRが悪くなりそうだ。

 最初に両面基板で作ったコンデンサは付けずに、コイルだけ単独の評価を行った。その時の無負荷Q:Quは200くらいあってまずまず優秀であった。塩ビ管のボビンは悪くない材料のようだった。 それから計算される共振インピーダンスは70kΩ以上になる筈である。それにしては実測の共振インピーダンスは低過ぎる。

 コイルのQuとインダクタンスに基づいた計算値の1/4もないのは共振コンデンサに問題があったからだ。 要するに両面プリント基板を使ったコンデンサのQは低いのである。 銅箔の抵抗は僅かだからガラス・エポキシの誘電体損失が意外に大きいと言うことになる。 これは上の3.5MHzトラップでも同じようだ。 どうもガラエポ基板のコンデンサはHF帯で使うのは好ましくないようだった。 時々ガラエポ基板上にパターンでLCを形成する例を見るが、本来は好ましくないのだろう。もちろん、基板材が違えば別だ。

 このあたり、リニューアルに当たっては改善したいと思っている。

製作メモ
 上記の表や特性データは部品の製作方法や評価結果を直接的に示す資料であった。 主観は交えず事実の記述であって、だからどうしてどうなったのかと言う部分はわからない。

 それに対してノートに記された当時のメモには、考え方や予想、そしてその結果など感想を交えて書いてある。だから自分で読んでも面白かったりする。(笑) 誰しも忘れ易いのは同じだと思う。細部まで記憶に残ることはないだろうから、こうした記録は大切だと感じた。いろいろ製作経過がわかって再製作の助けになる。

 この記録によれば、トラップを作るにあたって両面プリント基板の面積あたりの静電容量を求めることから始めたことがわかる。 実際にはその前にトラップのLC比をどうするか、各種の実例などを見ながら考察していた筈だ。 その上でLとCの値を求めたのではないかと思う。しかしその辺は記録になかった。 ただ、こうしたトラップ・アンテナにはW3DZZ型のように有名なマルチバンド・アンテナがある。 そうした例も参考にしたとは思うが、この場合は純粋にトラップ式なので動作原理は違うだろう。

スローパーアンテナの評価メモ
 トラップを完成し、実際に架設した後の測定評価について書かれたメモだ。 汚い文字なので本人以外(本人も?)読みにくいとは思うが。

 最初に給電点に於けるインピーダンスを測定する為の「測定用ケーブル」を用意していることが書かれている。 その上で、自作のRXインピーダンス・ブリッジ(ノイズ・ブリッジ)を使って実測している。

 スローパーの状態でエレメント長の調整を済ませ、共振させた状態でのインピーダンス測定をしている。 その結果、ケーブル直結の給電は7MHzはまずまずで1.9MHzも良いが、3.5MHzはどうも旨くないことなどが書かれている。その後のテスト運用の状況も詳しいが、アンテナ製作物語でもないので割愛させてもらう。(笑)

実験コイル
 探していたら、テスト用に作ったコイルまで見つかった。 但し、これは最終版ではない。 実際に巻線したのはφ1.6mmのフォルマール線(PEW線)だと思う。 これは事前に同じボビンに巻線して簡単な評価をした程度だったのではないだろうか。

 アンテナ線の途中にあって宙吊りになる関係で、トラップはなるべく軽量なものが良い。 おまけに、耐環境性能も要求されるので向いた材料が必要だ。 塩ビ管は安価な材料としては悪くない耐環境性を持っている。 それでも写真のパイプは肉厚が薄いので機械的な強度はギリギリな感じだ。18年間の架設で損傷したものが見つかっている。 さりとて肉厚のあるものは重くなるのが難点だ。 実績で同じ材料を使おうと思っているが、何か補強策も考えたいと思う。

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 結局スローパー形式ではあまり長く使わなかった。一つは3.5MHzの給電点インピーダンスが思ったよりも高かったことにある。マルチバンド化するにはマッチングが厄介そうだったからだ。これはタワーの高さや載っているアンテナの分量にもよるだろう。 それでも各バンドごと個々にマッチングをとってやると、かなり良く飛ぶし耳も良い印象があった。どこか一つのバンドに決めるなら悪くなさそうだった。

 テスト運用を始めたころは近隣の主要道路も未開通で言わば畑のど真ん中だった。しかし、土地開発は急激に進んで商店などが増えて行った。そうなるとローカルノイズが激増しそれが運用の障害になった。 特にタチが悪かったのはISDNとADSLと言った架空された電話線からの輻射ノイズであった。 ほか自動販売機やエアコンなど各種電気機器のインバータもHF帯のノイズ源だ。しかし都市化では避けようが無い。(いまは光ファイバー化が進んで電話線ノイズは改善方向)

 スローパーは噂に違わずかなり良いアンテナだが、接地型アンテナの例に漏れず、都市部では受信ノイズに対して不利であった。 しかし、1/4・λの輻射エレメントから出発していたから、ノイズ源に対して有利なバランス型のアンテナ、すなわちダイポール系への転向はまったく容易であった。結局、もう一本同じエレメントを作って逆Vアンテナに転向した。

                    ☆

 何かをしたら記憶が鮮明なうちに記録しておこう。それを強調しておきたい。 これは仕事でも趣味でも同じである。誰しも半年もすれば半分くらいは忘れるし、3年もすれば記憶そのものが他と混じり合って怪しくなる。 だから記録することにつきる。文字でも画像でも良い。もちろん画像には説明がないと片手落ちだ。いずれ意味不明の写真に成り下がる。 Blogに残すのも記録の一つだが、外向けの話ししか書けない(書かない)と言った欠点がある。それでも自身にとって有用な記録には違いない。少なくとも思い出す切っ掛けにはなってくれる。(しかしTwitterやFaceBookは不向きなようだ)

 リニューアルにあたり、良くないコンデンサを変更したい。 これは実際の運用でも欠点として感じた。 QRPなら支障ないが、固定局の方で運用すると大したパワーでもないのに連続Keyダウンで共振周波数がズレて行くのが観測される。 Lossのために発熱があるのだろう。 それでトラップコイルの共振コンデンサが容量変化し、SWRが変化するものと思う。 だからその問題だけは認識していたが、ほかのことは何となく曖昧であった。18年前ともなれば仕方あるまい。

 トラップの改善には損失の少ない、もっとQの高いコンデンサが必須のようだ。一つは同軸ケーブルそのものをCとして使う方法がある。 Qも高く太いものなら耐電圧も高い。 それを使うのか、なにか既成品のコンデンサを使うか思案中だ。 ほか降ろした時の目視点検によればエレメント接続部分の耐候性アップが必要そうだ。長く持たせるにはハンダ付けのあと塗装などで被うべきだ。 意外に長く持ったのは自己融着テープだ。表面はだいぶ風化が見られたが表層の下は奇麗だった。de JA9TTT/1

(おわり)

参考2016年6月、このアンテナを降ろして新しいアンテナと交換した。このアンテナは架設から約20年使用したが、アンテナ各部が屋外の環境でどのように劣化したのか調査している。 新しいアンテナは4バンドの逆Vアンテナとして製作し、1.9〜7MHzのほか、10MHz帯を含めた。バンドの追加のほか20年間の使用実績に基づいた改良を行なっている。 詳細は以下のリンクで参照を。→Quad-Band_IV-Antenna

2013年1月14日月曜日

【測定】DE-5000 Test Report.


LCRメーター:DE-5000のテストレポート
(末尾にCR直列素子の測定に関する追記・1と、高抵抗測定に関する追記・2を加えた.2013.01.14)

 LCRメーターとはコイルのインダクタンス:L(単位はH:ヘンリー)、コンデンサの容量:C(単位はF:ファラッド)、そして抵抗値:R(単位はΩ:オーム)を測る測定器だ。 主に電子部品の測定・評価に活躍する計測器である。 ここをご覧になるようなお方には、あえて説明の必要もないだろう。

 一般的なテスターは、電圧、電流、そして直流抵抗を測定するものである。おもに回路の動作状態を確かめるのに使う。 一方、LCRメーターでは交流信号を部品に印加し(交流)抵抗の値(リアクタンス)を測定しており、その結果からLCRの値を求めて表示する。2端子電子部品の評価が主な用途だ。 最近の一般的なテスタにはオマケ機能として容量測定機能が付いていることも多いが、同じ容量測定でもそれと測定原理は異なっており精度もちがう。

 一般的なテスターと比べて、LCRメーターの仕組みは複雑なので従来はかなり高価な測定器であった。 しかし、最近になって「高精度で本格的」と言う宣伝のLCRメーターが登場したので購入してみた。 マイコンとFPGAなどを使って実現しているらしい。*1 こうした測定器が安価で手に入るのなら、我々の自作回路もずいぶんグレードアップするに違いない。 能書き通りの性能や機能が得られているのか簡単にテストしてみた。 価格相応のチープなものか・・・と言う興味もある(*1:LCRメータ専用のチップセットがあってそれを使っているようだ・注記2014.03.22)

 なお、現在の価格は写真左の本体が4,700円、右の面実装パーツ用のプローブが950円であった。秋葉原は秋月電子通商で手に入る。 AgilentやFlukeと言った一流測定器がお馴染みのベテランエンジニアのお方がお値段を見たら、「チープで怪しげな測定器かも?」と思うに違いない。ではどうなのだろうか??

参考:2015年5月現在、円安の影響で大幅に値上げされており、税込み販売価格は7,800円になっている。 合わせてアクセサリ類も値上げになっており、以前ほどのコストパフォーマンスは無くなって来ている。 一般にこうした測定器はデジタルマルチメータ(DMM)と比べて使用頻度は極端に低い。 自身の活動の中でどの程度必要なのかを良く考えて購入したい。なければないで済むことの方が多いはずだ。 コンデンサの種類も適切な使い方もわからぬような初心者にはそれこそ「猫に小判」だろう。おまけに付属説明書だけで理解できず、他人に使い方を乞うようでは恥も上塗りだ。 それでも「1万円以下で購入できる測定器としては」優秀な方だと思う。なお、お財布に余裕のある向きは別機種の検討もお薦めしたい。

 【DE-5000型LCRメータ
 台湾メーカーとタイアップして、日本語取説を付属させた形で手軽な価格を実現したと言う。 高級計器からみたら安っぽい部分もあるが、意外にしっかりしていると言う印象を持った。

 電池は006P型9Vを使う。 どの程度の電池寿命があるのか、取扱説明書にはないが裏蓋はネジ止めなので比較的長時間使えるのではないかと思う。 なお、側面に9VのACアダプタを接続するためのコネクタが付いている。 良く電圧を確認して、奇麗な直流が供給できるアダプタを使うべきだろう。 これは精度が問題になる測定器だから。

 赤のボタンを押すと起動する。 約5分間なにも操作しないとオートパワーオフすると言うが、測定が済んだらこまめに切った方が良いだろう。

 【SMD部品用チッププローブ
 このプローブがあったので購入したようなものである。 ピンセットの先端少し前で、ケルビンコンタクトになっている。 しかも、オープンとショートキャリブレーション機能があって、プローブやテストリードの影響を排除できるようになっているのが素晴らしい。

 あとで実際に測定してみるが、わずか2〜5pFと言う水晶振動子の並列容量:Cpが高精度で測定できるからだ。 もちろん、小さなインダクタンスのコイルを計測する時にも効果的な筈だ。

 安価なプローブであるが、思ったよりもしっかりできている印象があるので、乱暴に扱わなければ簡単に壊れることもないだろう。
 
 【チップコンデンサの測定
 最近の電子回路は表面実装で作られていて、積層セラミックコンデンサが一番ポピュラーだ。 しかし、容量値が表示されていないので、一旦混じってしまうとお手上げである。

 耐電圧や温度特性などは明確に判別できなくても、容量がわかれば最低限の判断が可能になる。 写真で測定しているコンデンサは、主にバイパス用に使う0.1μFの積層セラミック型だ。 もともと誤差が大きいので0.090μFあたりだと言うことがわかる。(注:あまり馴染みはないかもしれないが、1nF=1ナノ・ファラッドは1000pFあるいは、0.001μFのこと。1nF=1×10^-9F)

 なお、10pF〜1000μFまでのコンデンサを測定して見たが、精度は悪いところても誤差1%以内であった。 だいたい、1μF以下なら、0.3%以内と言った感じである。 1%以下の精度があるなら高精度なアクティブ・フィルタやAF-PSNの製作にもかなり役立つだろう。

 【チップインダクタの測定
 面実装型のインダクタ(コイル)も一般的になっているので、こうした部品も旨く測れないと困る。

 写真では、22μHのチョークコイルを測定している。 こうしたコイルは、測定周波数によってインダクタンスや損失係数:Dが大きく変わるものがある。

 このLCRメーターの標準測定周波数は、1kHzのように思うが、100Hz、120Hz、1kHz、10kHzそして100kHzに切換えできる。 インダクタンスの小さな、RF用コイルは100kHzあたりで評価する方が良いと思う。 逆に、オーディオで使うトランスや、AFチョークコイルなら1kHzあるいは100Hzなどが良いだろう。 なお、120Hzと言うのは、主に電解コンデンサの評価に使う標準周波数だ。

 【怪しいコイル?
 この項、読者のお方からご指摘があったので内容を改訂しておく。 105と書いてあるコイルだが、これは1mHのインダクタなのである。 10×10^5μHすなわち、1Hかと思ったら、さにあらず。 色々調べてみたら、これは面実装型インダクタに多くなった表示方法で、単位はnH(ナノ・ヘンリー)なのだ。 従って、10×10^5(nH)=1mHと言う訳である。 すなわち、怪しいどころか旨く測定できている訳である。(笑)

 従来、マイクロ・インダクタではμH単位の表示が普通であった。 例えば、101と書いてあれば、10×10^1(μH)すなわち、100μHのことである。102とあれば、1mHであった。 しかし、現実にはμH表示なのかnH表示なのかは単純に区別が付かなくなっている。 そうなると、こうした測定器で実測してみると確実と言うことにもなりそうだ。(改訂:2013.01.15)

 自動でLCRの区別を判別して測定するそうなので、正体不明な2端子部品の判定にも役立ちそうだ。先入観なしで色々試してみたが、特殊な部品を除けば間違えることはないようだった。(笑) なお、DCバイアスを掛けて測定できないのが残念な所だが、安価な測定器にそれを求めても気の毒だろう。

 【リード付きインダクタの測定・1
 リード線付きの部品は、SMDチッププローブを使わずに測定できる。 スリット状の端子部分にリード線を差し込めば良い。

 あまりリード線の太い部品は挿入できないので、その時は同じく別売のミノムシクリップ付きのテストリードを購入した方が良いだろう。 私が購入した時点では品切れだった。 通販の送料も馬鹿にならないので、在庫があるなら同時に注文しておく方が良いと思う。 いずれ欲しくなるに違いないからだ。

 【リード付きインダクタの測定・2
 上記インダクタの測定結果だ。 公称値は56μHのマイクロインダクターである。 このように、測定結果は4桁表示されるが、全部の数字を信用してはいけない。 相対測定の場合は数字の大小で、容量の大小が比較できる。

 しかし、絶対値の精度はせいぜい有効数字で2桁と思う必要がある。 要するに、1%以内の精度と言うのはその程度のものと言う意味だ。 従って、測定値を記録する場合、参考程度に3桁目まで書いておくのは良いが、その3桁目には必ず誤差が含まれると思わなくてはならない。 この測定器を使って、学生実験のレポートに表示された4桁のナマの数字を全部書いておくと指導教官に馬鹿にされること間違いなしだ。 それに気付かぬ指導教官がいたらもっとお馬鹿だ。(笑)

                     ☆

 【キャリブレーション:オープン・1
 右の上から2段目のCALボタンは重要である。 浮遊容量や測定リードの残留インダクタンス分などの影響を差し引いてくれる機能だ。 高精度測定をしたいのなら、まず最初に行なうべきだろう。きちんとキャリブレーションしないと抵抗やコンデンサの値がマイナスになると言った現象が起こるので要注意だ。 優れた機能もユーザーが「低級」では真価を発揮しないのである。 良く理解してきちんと行なおう。

 また、プローブを付け替えたら必ず行なう。 特に、数pFや数μHという小さな値が問題になるような測定では必ず行なわないと精度が悪くてお話しにならない。

まず、端子に何も接続しない状態、あるいはプローブを使うならプローブの先端には何も接続しない状態で、CALボタンを長押しする。 「ーーー」表示が出るので、もう一度オープン状態なのを確認したら、もう一度ボタンを押すと30秒間のオープン校正が始まる。
 
 【キャリブレーション:オープン・2
 写真のようにPASSと表示されればOKだ。 ショート校正がセットになっているので、からなず続いて行なう。







ショートプラグ
 必ずしもこれである必要は無い。 なにか接触が良さそうな短いリード線でも良いので、測定端子間をショート(短絡)できるものを用意しておこう。

 ここでは、水晶を測定する時を考えて作ってあったショートプラグを流用している。 なお、リード線間をショートしてしまうのだから、中身の水晶は何でも良い。

 【キャリブレーション:ショート・1
 上記のキャリブレーション:オープンが終わったら、続けてキャリブレーション:ショートをおこなう。

 かならず、端子間をショートしておかないとエラーになるので注意を。 エラーになった場合は、CALオープンからもう一度行なえば良い。 短絡片(ショート・リード、ショート・プラグ)は一般的になるべく最短でショートできるものが良い。 ミノムシクリップ式のプローブの場合はクップ先端同士を挟んでショートしておけば良い。

 【キャリブレーション:ショート・2

 写真のようにPASSと表示されればOKだ。 これで、オープンとショートの校正が終わったので、精度良く測定が可能になる。

 測定器としてみたら、標準抵抗器、標準容量、標準インダクタンスなどを使ったフルスケール校正ができたらベストだが、ユーザーには難しいだろう。 おそらく、内部にはそうした初期校正の機能がある筈だ。 有名メーカーの測定器なら、定期的な校正を依頼すれば良いが、こうしたチープな測定器にそれを求めるのは難しいだろう。

 従って、購入したらなるべく早いうちに信頼のおける部品を用意して、それを実測したあとはメモと一緒に大切に保管しておこう。ときどきそれをチェックするのが良い精度確認になる。 もし、無視し得ないほど値が違って来たなら、校正ずれと思ってLCRメータそのものを買い替えるのが良い。(ディップド・マイカ・コンデンサ、スチロール・コンデンサ、精密金属皮膜抵抗器などが良い。メモと一緒に乾燥剤を入れた密封袋に保存する)

 絶対値の校正ができない以上、ずれて来たら捨てるしかない訳だ。 勿体ないように思うかもしれないが、精度の悪い測定器で得られた結果はまったく信用できない。もっともらしい数字を表示したとしても使ってはダメだ。既に「無い方がマシ」のインチキ測定器に成り下がっている。

 お値段が2桁以上高い測定器なら再校正に出す意味もあると思う。しかしこのLCRメータの購入価格はたったの4,700円だ。 高級測定器の校正費用にも及ばないお値段で新しい物が手に入ると思えば納得できるだろう。精度が悪くなったら買い替えるのをお薦めする。

                   ☆


 【クリスタルの並列容量・1
  ダラー型クリスタルフィルタの設計のためには、クリスタルの並列容量:Cpを精度よく測定する必要があった。 数pFと言った、小さなキャパシタンスを0.1pF単位まで精度よく測定する必要がある。 しかし0.1pFまでと言うのは意外に難しくて、従来は専用の「小容量計」を用意して測定していた。

 このLCRメータでそこまで旨く測定できるのだろうか?

 【クリスタルの並列容量・2
 比較的端子容量の小さいHC-49/US型11MHz帯のクリスタルの並列容量がこのように測定できた。 他の手段でもCp=2.1pFくらいだったので、十分良い精度が得られていると思う。

 これでラダー型フィルタの製作に使えることが確認できた。 これもこのLCRメーターを評価する目的の一つだった。 小さな容量の測定が旨くできることがわかって良かった。

 ラダー型クリスタル・フィルタを自作したいHAMにもお薦めできる測定器のようだ。


 【セラミック振動子の並列容量・1
 愛称:世羅多フィルタの設計にもセラミック振動子の端子間容量:Cpの測定が必要だ。 上記のクリスタルと同じように測定してみよう。

写真は472kHzのセラミック振動子(セラロック)だ。




セラミック振動子の並列容量・2
 このように旨く測定できる。 セラミック振動子の端子間容量:Cpはクリスタルのそれとは桁違いに大きい。
  また、バラツキも大きいことが多い。 このあたり、実測して良く振動子を選別して揃えておくとフィルタ製作の再現性も良くなる。 これは『世羅多フィルタ』ファンのお方にもお薦めできる測定器だろう。(笑)



                ☆ ☆ ☆

 お正月のお年玉気分で、安価なLCRメータを自分用に購入してみた。測定器としては、破格の安さだとは言ってもそれなりのお値段である。 あまりにも精度が悪かったらどうしようかと心配だったのだが、意外にもなかなかの精度であった。 初期精度で誤差1%以内に入っているなら、この手の測定器としてはまずまずなものだ。 高級なLCRメータと比べて些細なことでこき下ろす輩もいるようだが、まずはお値段を考えるべきだろう。価格対性能比で言えば、間違いなくこのLCRメーターは優れている。高価なジャン測を買ったお方はお気の毒なくらいだ。 拙宅にもこれ以前に既設品があるのだが、大きくて重くて、おまけに高いジャン測に手を出すよりも趣味のアマチュアにはこうした測定器の方が手軽だし安心できると感じた次第。HAMやオーディオの自作やキット作りにも役立つ測定器だと思う。CやLの値に不安があったらまずは測ってみるのが良い。LCRなら何でもかんでも精度よく測れる訳では無いけれど、手元に置いて上手に使えば威力を発揮するのは間違いない。  de JA9TTT/1

(おわり)

                 −・・・−

追記・1CR直列素子の測定について。
(JG1EAD仙波さんのご質問にお答えして)

【330pFと1kΩの直列素子・1】
 LCRメータの測定対象は、基本的に純粋のCやLだと思う方が良いが、写真のような直列素子ではどうなのかと言う疑問が出て来て当然だろう。

 1kΩのカーボン抵抗器と、330pFのセラミックコンデンサを直列にした素子を作ってみた。


【330pFと1kΩの直列素子・2】
 DE-5000ではこのように測定されたが、少し注意が必要である。

 基本的に、コンデンサのリアクタンス値と直列になる抵抗の値がかけ離れていると旨く測定できない。 この例では、写真の様に100kHzで測定している。 1kHzにおける330pFのリアクタンスは、約480kΩである。 そのように大きなリアクタンスとの組み合わせでは旨く測定できないようだ。 測定電圧と電流値、そしてその位相角で計算するのではないかと思うが、位相角が小さ過ぎると分解能の関係で旨く計算できないのだろう。 なお、Cの値は単独で測ると丁度300pFくらいだったので良い精度に測定できている。 表示上段の抵抗値(ESR)には330pF単体のESR(約10Ω)が加わった値が表示されているが、これもまずまずの精度だと思う。

:ESR=Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗のこと。電子部品に内在する損失抵抗成分を言う。一般にこの値は小さいほど「良い部品」である。

参考;表示が青いのはバックライトを点灯させたからである。右上のボタンがそれ。



【0.047μFと1kΩの直列素子・1】
 続いて0.047μ Fと1kΩの直列素子を測定してみる。

 上記の理屈から言えば、こんどはもっと低い測定周波数でも測定できる筈だ。 0.047μFのリアクタンスは、1kHzにおいて約3.4kΩである。

 従って,コンデンサのリアクタンスは直列抵抗と同じ程度の値になっている。電圧と電流のなす位相角も測定し易い所に来る筈なので、良い精度で測定できるだろう。


【0.047μFと1kΩの直列素子・2】

DE-5000ではこのように測定された。

 測定周波数は、1kHzだが旨く測定できていると思う。 コンデンサのリアクタンスと抵抗値の組み合わせが旨い範囲になるので、精度よく測定できているようだ。

 0.047μFのマイラコンデンサ自身のESRは小さく、1kHzにおいては数Ω程度であった。 従って、ESRとして測定される1kΩとの合計の値は、上の330pFとの直列の時の測定値よりも小さくなる。

 ここでは直列のCRでやってみたが、CRの並列でも理屈は一緒である。 LやCのリアクタンスがRの1/10〜10倍くらいの範囲にあるなら意外に精度よく測定できるようだ。あとは色々な組み合わせでお試しあれ。

 このように、純コンデンサ、或は純コイルの測定のような理想状態から外れると、うまく測定できる時と旨くない組み合わせが出てくる。 これはこの測定器が安価だからと言う訳ではなくて、かなり高級なメーカー製でも同じような制限があるのが普通だ。

 測定周波数を変えるとか、測定モードを直列あるいは並列に切り替えるなど上手に使いこなしたいものだ。 工夫して使うには電気の知識も多少必要とされるようだが、ここまで測定できるのはなかなか立派なものと言えるだろう。(追記:2013.01.14)  de JA9TTT/1

(追記・1のおしまい)

             −・・・−


追記・2高抵抗の測定について。
(JE6LVE/3高橋さんのご質問にお答えして)

【100MΩの抵抗器】
 100MΩと言うのは、100,000,000Ωと言うことで、普通は絶縁体と言えるような抵抗値だ。 抵抗器の両端に100Vを加えても電流はたったの1μAしか流れない。 表示のように精度記号はFなので、誤差は1%以内だ。

 こうした抵抗器はかなり特殊な部品である。しかし、微小電流の測定などニーズがあるので何種類か持っている。 ちなみに拙宅で一番の高抵抗は5,000MΩだった。

 200MΩの抵抗器もあったが、こちらの方の精度が良さそうなので100MΩでやってみたいと思う。 これがうまく精度よく測れれば200MΩの測定が破綻することも無いだろうと思う。


【100MΩの扱いは難しい】
 まず、素手で触ってはいけない。 人間の手指は汗腺があって汗で汚れており、ナトリウムとか様々な導電イオンが付着している。洗った所ですぐに汚れる。 素手で抵抗器の表面を触れば数M〜数100MΩくらいの並列抵抗が入ったことと同じになるかもしれない。

 しかも、そうしたイオンは不安定なので抵抗値は安定しなくなる。 溶剤とか洗剤で奇麗に洗うしか無いが、もとの精度に戻る保証も無い。 従って扱いは十分慎重であるべきだ。 奇麗な手袋とピンセットを使って挿入した。 手袋はしていても、なるべく抵抗の本体には触らない方が良い。 なにしろ、1000MΩが並列に入っただけで、誤差は約-10%にもなってしまうのだから。
 
【DE-5000の高抵抗測定】
 なかなか優秀である。 0.1%まで精度があるかどうかは別としても、測定結果は非常に安定していた。 旨く測定できていると思って良いだろう。

 なお、測定周波数が120Hzになっているのは、関東ではAC電源の周波数が50Hzだから100Hzで測定するとACの誘導が干渉して測定値がばらついてしまう。 測定点のインピーダンスが100MΩなのだから、簡単に静電誘導してしまう。 ACが60Hzの関西なら100Hzで測定すれば良いだろう。

 位相角:θがマイナス1.4度になっている。マイナスと言うことは抵抗器と並列に僅かなキャパシタンスが存在していることを示している。電流ベクトルを思い浮かべてもらえばわかるだろう。

 以上、DE-5000には200MΩまで測定可能なレンジがあるが、その精度はどうなのかと言うご質問があったのでテストしてみた。 基準器がある訳ではないので、精度保証できる訳ではないが、悪くない精度だと思って良さそうだ。

 なお、測定端子回りを汚すとそれだけで絶縁抵抗が下がってしまう。 高抵抗を精度よく測定するためには、測定器を汚れた手でべたべた触ったりせず、きれいに使う必要があるだろう。 測定器の精度を気にするよりも、案外そうした考慮をしたか否かの方が重要だったりする。その辺りが測定の技術とも言える。それは高抵抗の測定に限らないのだが・・。 あんまり教えちゃまずかったか。(爆)(追記:2013.01.14)de JA9TTT/1

(追記・2のおしまい)

               −・・・−

追記・3:電池の持ちについて.
電源は006P型積層乾電池である。 外部供給も可能であるが、ひも付きになる不便さがあるため電池電源のままで継続使用していた。 それほど頻繁に使う測定器でもないが、それでも月に数回以上使ってきたと思う。 使用開始から約2年少々の2015年4月にローバッテリー表示が出たので交換した。 消費電流の多そうな測定器だが、使用頻度が少なければかなり電池は持つと思って良さそうだ。 交換に使用した電池は国産有名メーカーのアルカリ乾電池にした。安価な100均乾電池は入れっぱなしにした時の液漏れが心配である。安価な測定器とは言え信頼できる乾電池の使用をお薦めしたい。(追記:2015.05.15) de JA9TTT/1

(追記・3のおしまい)

御注意:このBlogはアフィリエイトBlogではないので、特定商品をお薦めする意図はない。自身のニーズを良く考え、無駄使いのないように。使わ(使え)ないものにお金を使うのは勿体ないことだ。電気の初心者は『良いテスター』の購入がまず先決だろうと思う。LCRメータが役立つのは多分簡単ラジオの製作などを卒業してからだ。まずは電気の知識を深めると良いだろう。 以上全ての内容はこのBlogオーナー個人の感想である。

2013年1月6日日曜日

【HAM】 TRIO 59C Line

TRIO 59Cラインとは
 今のKenwood社が1961年ころに発売したHAM用送信機:TX-88A型と全波受信機:9R-59型で構成されるラインであった。他にSP-5型スピーカーとCC-6型50MHz帯用クリスタルコンバータがあった。144MHz帯用のCC-2型も後で追加されたように思う。 後継の9R-59Dラインが登場するに及び、オンエアの際、シャック紹介でわかり易くするために59Cラインなどと呼ばれたことを思い出す。59Cラインと言うのはHAM仲間のお空での愛称であったようだ。またメーカーがキット版の9R-59を区別するために社内的にそう呼んだ名称でもあるそうだ。広告等の公式では9R-59Cと言う名称は登場していない。ちなみに9R59Dの「D」と言うのはデラックスと言う意味であり、Cの次のDと言う意味ではないだろう。

写真は拙宅の書棚の上で長年眠っている「59C」ラインである。 送信機:TX-88Aと受信機:9R-59は異なった経緯で中古品を譲って頂いたのでツマミと塗色が異なっている。 いずれも無改造と言って良い。 従ってTX-88Aのファイナルは後で示す回路図どおりのUY-807のままだ。いずれ復活することを夢見ている。

 TX-88AはAMとCWの10W出力送信機である。3.5〜50MHz帯の6バンド(80m〜6mバンド)をカバーするが、807のままでは6mバンドの効率が悪い。従って 6mバンドがメインの局は取説にも書いてあるように終段管をVHF帯向きの2E26に交換していた。 そろそろ手に入り易くなって来た6146Aへの交換も多かった。 また安価なTV用水平出力管も流通して来たころなので、6G-B3A、6BQ6や6DQ5のような球に交換している局もあった。整流管5U4G(B)をやめてシリコンDiにすればプレート電圧(B+電圧)も一段と高くできる。 そうなれば10Wをかなり越えるので初級局ではオーバーパワーだ。 もちろん変調器のパワーは不足気味になるから、AM局ではあまり快適ではなかっただろう。しかしCW専門ならB+電圧アップと水平出力管への交換で、50Wくらい楽に出たのでかなり効果的だった。

59Cラインのシャック
 近ごろはネット上にOMさんたちの懐かしいシャック写真が散見されるので、こうした感じのシャックを目にすることも多い。 ただ、これほどスッキリしたシャックは珍しかったように思う。

 当時のHAM局は何がしかの自作品があるのが普通であった。特にVFOは写真のVFO-1の周波数安定度がイマイチだったこともあって、自作品を良く見かけた。 バーニヤダイヤル付きでコイルとバリコンがLCボックスに入っていたアレだ。 発振回路はクラップ型の人気が高かったように思う。 VFO-1のような電源自蔵は熱的に不利なので別体にしている人も多かった。(注:写真のVFO-1は試作型の模様)

 また写真は宣伝広告なので、9R-59の左に6mバンドのクリコン(クリスタル・コンバータのこと):CC-6型が並んでいるが、クリコンくらいは自作していたHAMが大半だったと思う。またスピーカーも純正のSP-5型は音が良くないから大口径の箱入りを使っていたものだった。 9R-59にしても、T-11型通信機用IFTくらいでは選択度不足であり、またBFO兼用のQマルチも何かと不都合で不安定なため、国際電気のメカフィルに置き換える改造が流行っていた。MF-455-10CKとか-15CKメカフィルを入れていた。 9R-59はあまりSSB向きではなかったのではあるが、プロダクト検波付きなど大改造を試みる人も少なくなかった。そうした改造記事は雑誌に頻繁に登場したから、暫くその話題でラグチューも盛り上がったものだった。 だからいま残っている9R-59でまったく無傷(?)の物は稀ではないだろうか。hi hi

TX-88Aの回路図
 回路図くらいないと寂しいのでTX-88Aの回路をアップしておく。 6BQ5ppの変調器を含め、電源内蔵で(当時としては)コンパクトに纏まったオールバンド送信機として一世を風靡した。3ステージのCW/AM送信機の完成形だった。

 実際、受信機と送信機ではだいぶ部品が違っていて、高耐圧のコンデンサや耐電圧の高いステアタイト絶縁のバリコンのように特殊な部品が多い。 地方のHAMにとっては町のラジオ屋さんでは手に入らない部品も多かった。 それで送信機キットの人気が高かったのだろう。部品やジャンクの通販もあったが今ほど便利なものではなかったので、秋葉原や日本橋から遠いHAMは苦労が多かったものだ。

 発振と逓倍段に5極管の6AR5を使っている。UY-807を含め当時入手し易い真空管ばかりで構成されていた。 ただ、6AR5は高い周波数の逓倍効率が幾分悪くなるので大半の人が6AQ5(有名なビーム管:6V6のmt管バージョン)に差換えていた。 TX-88Dのように12BY7Aあたりの方が良いのだが、ともかく当時はラジオ球の6AR5は入手容易で安かった。

               ☆ ☆ ☆

 メーカー製の送信機でオンエアしたのはTX-88Aが最初だった。だから思い出深い。πマッチの調整方法が未熟で良く理解できておらず、ロードバリコンを抜きすぎてIpオーバーになって807をエミ減にしたことなど様々思い出される。(笑)

 戦後すぐに再開されたOMさんにとってAM(A3)時代は長かったと思うが、私の時代は既にAMも末期であった。 本格的オンエアを始めた頃にはSSB化もだいぶ進んでいた。 しかもHAMバンドは混雑が極まっており、占有帯域幅が広くてビートの元凶になるキャリヤ付きのAMなど迷惑そのものでさえあった。バンドの利用効率を上げる為に、率先したSSB化が叫ばれていたのである。 今になってAMがリバイバルしているのは7MHz帯のバンド幅が拡張されたことと、HAM局そのものが激減しバンドが空いてきたからにほかなるまい。 一見良いことのようにも感じるが、HAMと言う趣味そのものの衰退を象徴しているのかもしれない。もはやあまり先のない、棺桶に半分足を突っ込んだ趣味と言えそうだ。hi

 いつかTX-88Aをリバイバルしてオンエアしたいと思ってきた。 但しAMでのオンエアは目指していなかった。 なかばCW専用機と化してしまい、安定度に優れたDDS-VFOと組んで実用性をアップしたいと思っていた。 しかし、昨今AMでのオンエアも聞こえるようになって来たようなので、それでもオンエアできるようにはしておこうと思う。ことしの目標にでもしておこうか。de JA9TTT/1

(おわり)

2012年12月17日月曜日

【HAM】 JA9TTT's NEW Antenna

【JA9TTTの新アンテナ】

アンテナ全景
 アマチュア無線局(HAM局)にとって何が一番大切かと問われれば「アンテナ」という答えが圧倒的ではないだろうか。 或はV-UHF manなら「ロケーション」と答えるかもしれないが、そのFBなロケーションにFBなアンテナを上げればベストであるにちがいない。 無線局にとってアンテナは一番大切だと思っている。オンエア経験を持つお方なら皆さん同じではないだろうか。

 ここで紹介するのは最近リニューアルした当局のアンテナ系である。 世間にはFBなロケーションに広大な土地を持ち、何本ものタワーを建設して楽しんでおられる方もあまたおられる。 だから、こんな例は参考にもならないとは思うが、限られた条件で努力した結果だと思っていご覧いただければ幸いだ。

目標:少ない数のアンテナで可能な限り多くのHAMバンドをカバーし、それぞれローパワーでも実用になる程度の輻射効率・性能を持つアンテナであること。

リニューアルしたアンテナ
 今回リニューアルしたアンテナは、14MHz以上をカバーするものだ。 従来の4エレ・トライバンダ(14、21、28MHz)、またエレメントが脱落していた50 MHzの4エレ、そしてロスが多くなっていた144/430MHz-2バンドGPの全てを撤去し、いずれも新しいアンテナに交換した。

 10MHz以下のHF帯ローバンドについては、既設アンテナの成績が良かったのでそのままの形式を継承することにした。 但し長年の風雪でトラップコイルの劣化が見られるようなので、折りをみて交換・保守を行なう方針だ。 10MHzについては、ロータリーDPの選択肢もあったのだが、今回は見送ってタワーから傾斜型に降ろしたDPで行くことにする。これも国内局相手なら特に悪くないと感じたからだ。

 以上、14MHz以上のアンテナを交換したことになる。 なお、従来は24MHz帯のアンテナはなかった。今回は5バンド八木にしたので18MHzがビーム化されたとともに、新たに24MHzバンドが追加された。

HF帯と50MHzの八木
 各バンドともにフルサイズのビームアンテナが理想であろう。しかし、限られた敷地と1本のタワーではいかんともしがたい。

 どこかのバンドに特化すると言う選択肢もあるだろう。 前のソーラー・サイクルのピーク時に28MHzの8エレだったか(フルサイズのロングブーム型)でばんばん楽しんでいた友人もいた。 しかし、ピークを迎えている今回のソーラー・サイクル(サイクル24)は少々微妙なようで、まんべんなく各バンドに出られる方が良さそうな感じだ。

 この際、14MHzの3エレ程度のフルサイズにでもしようかと思ったのだが、5バンドのトラップ式八木になった。エレメントは9本もあるが、各バンドとも動作するのは4エレで、しかも帯域幅を得るために中心部の2本は位相給電している。 実質的にはナロースペースの3エレ短縮八木に相当すると思えば間違いないようだ。 従って、ばんばんDXを撃ち落とすようなことは無理で、コンディションの良い時に雑魚と遊ぶ程度と思えば落胆もなかろう。ナガラのT-59GXと言うもの。

 50MHzはフルサイズながらも5エレの小振りな物にした。 一応,ロングブームタイプなのでそれなりにビームは鋭い。 今の季節、6mバンドのコンディションは良くないし出ている局も少ないが、聞いて見た感じはまずまずなようだ。地上高もそこそこなので見える範囲には飛ぶのではないだろうか。クリエートのCL-6Aと言うもの。

V-UHFのアンテナ
 基本的に、V-UHFは連絡用と割り切っているのでビームにはしなかった。 それでも多少はゲインがある方が良かろうと言うことで、全長が5mも有る多段コリーニヤアレー式GPにしてみた。 第一電波工業:DiamondのX-7000と言うもの。

 最初は、同じメーカーのX-5000で行こうかと思ったが、X-7000の方が「絶対に良い」あるいは「下手なビームアンテナなど要らない」・・・とか言う、強いサジェスチョンがあったので採用した。

 なにせ、長いので冬の強風や台風が心配で、夏場の雷も恐いのだが、まあ様子を見たいと思う。 タワーの天辺に付けると同軸が長くなって不利なのだが、もちろん見通しは一番だろう。 今日は風があったので写真の様にだいぶたなびいている。

HF帯Low-Bandのアンテナ
 次回リニューアルする予定のアンテナだが、紹介しておく。 1.9、3.5、7MHzをカバーする逆Vアンテナである。 7MHzはフルサイズである。給電点も1/2λに近いのでなかなか良く飛んでくれるようだ。 なお、ワイヤーアンテナは写真に写り難いので「見える化処理」をしている。hi hi

 少なめのインダクタンスを持ったトラップコイル(自作)を使っているので、3.5MHzや1.9MHzもあまり短縮されておらず、エレメント部分はかなり長くなっている。 3.5MHzはタワーの高さが有るのでエレメントの引き下ろしに問題はない。

 しかし1.9MHzはエレメントが更に長くなるのでそうも行かない。 狭い敷地ではいかんともしがたい所だ。 選択肢は幾つか有るがローディングコイルで短縮する形式はQが高くなりすぎてバンド幅が取れない。それは過去に作って経験済みだ。 そのためエレメントを折り返えすことによって、言わばキャパシティ・ハットのような形式で行くことにした。 幸い、この形式は成功したようでバンド幅も取れているしQも上がらないので良い方法だった。 逆VやDPは左右エレメントが概略対称形で何となくバランスするからローカル・ノイズには接地系より明らかに有利だ。

(注:アンテナのQは低いほどバンド幅が取れる。もちろん、抵抗:Rを入れてQを下げるのはナンセンスだ。抵抗の高いステンレス・ワイヤで作るとそうなるのだが・・・笑)

参考2016年6月、HF帯のアンテナをリニューアルした。 同じくトラップ形式の逆Vアンテナである。 新しいアンテナは1.9MHz、3.5MHz、7MHz、10MHzの4バンド形式で製作した。詳細は以下のリンクでご覧を、→Quad-Band_IV-Antenna

10MHzは課題ありか?
 10MHzは給電点が約10mの傾斜型ダイポールになっている。 ゲインはないし、やや低いので高性能ではない。 しかし、SWRも低く、ノイズの拾い込みも昔使ったGP系よりも少ない感じだ。

 もっと高く上げたいところだが、当面はこれでやってみたい。 希望を言えば短縮でも良いから2エレくらいのビームアンテナが・・・と言ったところ。 10MHzは考えているよりずっとDX向きのバンドなので、良いアンテナさえ上げればとても面白いと思う。今回はやや冷遇した感じだ。

 取りあえず、国内向きに前と同じこれを上げておいた。 そこそこ飛ぶのでJCCサービスのリクエストくらいには十分お応えできるだろう。(笑)

アンテナ・ローテータとケーブル引下し
 アンテナ・ローテータは(株)エモテーターで整備済みの1105-MXを再利用している。 分解オーバーホール済みなので快調だ。 ユニバーサル・カップリングを入れて捩じれによる影響を軽減してある。 なお、タワーにはアンテナ・エレベータが付いているのでローテータはその台車に載っている。

 この部分のオーバーホールではマストベアリングの固着が問題であった。アンテナを上げる直前に発覚したので、急遽分解して清掃を行ない、グリースアップをして何とか間に合わせた。 C社のプラスチック・ボールのマストベアリングが良さそうだが、残念ながら間に合わなかった。

 エレベーター部分からのケーブル引下しには以前から何となく自信が持てなかったのであるが、JE1SLP吉田さんが旨く処理してくれた。こんな感じにバインド線など使って補強して吊り下げておけば大丈夫だそうだ。VY-TNX!

ケーブル接続
 ケーブルは途中で接続するものではなく、つなぎの無いものを使うべきだろう。 販売店に聞いたらサポート金具のような物を作ればFBケーブルをローテータ部分(回転部分)に使っても大丈夫だと言う。 実績もあるようなので詳しく聞きたかったが、今回は「つなぎ式」で行くことにした。

 写真のループ部分でアンテナから来た10D-2Vとシャックに引き込む10D-FBを繋いでいる。このケーブルはV・UHFのGP用なので1200MHzを含むからコネクタはいずれもN型である。

 N型コネクタの良くない点はスッポ抜けが起こることだ。 引っぱり力が掛からないようにループ式にしてみた。 この部分、前のGPでも問題になった部分であり、アンテナ系の中では寿命の短かった部分であった。 アンテナの上げ下げは滅多にしないので繰り返しの屈曲に弱いFBケーブルでも大丈夫だろうと言う判断である。

逆Vアンテナの給電部
 今回のリニューアル対象にはならなかったが、3バンド逆Vの給電部分である。 自作の「強制バラン」が入っていたと思う。 ベーク板の上にコネクタ付きで作った。

 なお、今のところ使えているが、ハンダ付け部分のハンダ痩せが見られた。 おそらく、酸性雨あるいは濡れた時の異金属による電食などで溶け出すのであろう。

 ハンダ付けした上にペイントを塗るとか、そもそもハンダ付けを使わず圧着で組立てるなどの対策をすべきなようだ。 屋外に曝される構造物は耐候性を考えないと長くは使えない。

ケーブルを引き込む
 ビーム系とVUのGP、そしてローテータケーブルは一緒に上げおろしされる関係から束ねておく。 また、逆Vと10MHzのDPは引き込み部分の手前で束ねるようにした。

 束線には「束線バンド」を使っているが、補助的にはアルミ線をも併用して万一、バラバラにならないようにしておいた。

アンテナ工事の補助材料
 アンテナの工事には様々な物が必要になるが、今回使った目新しい物を紹介する。

 束線バンドは従来から存在して来たが、耐候性が無いのが泣き所であった。 最近の例では、工事業者が耐候性のない束線バンドを使って工事をしたら、何ヶ月か経って電線が垂れ下がってしまい電車を止めると言う事故があったほどだ。

 従って束線バンドは屋外使用では信頼性が低いので、使わぬ方が良いのかもしれない。 しかし、屋外用として「耐候性」をうたう製品も出て来ているので今回は積極的に採用してみた。それでも心配はあるので、補助的にアルミ線でも補強しておいた。

 右の二硫化モリブデン・グリース・スプレーは、アンテナエレベータのワイヤー巻き取り部分に噴射して錆び止めを狙ってみた。(下の写真) 浸透して行く感じなので、単純にグリースを塗り付けるよりも良さそう。 引き出された部分にも普通のグリースタイプを塗布してもらった。

気休め・笑】
 アンテナ・エレベータのワイヤー巻き取り部分である。 メンテナンスを怠っていたら、ワイヤーが真っ赤に錆び付いてしまっていた。 今回はワイヤーの交換も行なったほか、防錆のためにグリースの塗布を行なっている。

 巻き取り部分でワイヤーが盛大(?)に錆びたので今回は上の写真のグリースをたっぷり塗布し「気やすめ」にコンビニ袋で被っておいた。 袋に耐候性はないので、すぐに交換は必要だろうと思う。 プラスチック類は紫外線劣化するので選択が難しいと思う。


別のアングルから
 最後に、今回リニューアルした当局のアンテナ系を別のアングルから撮影してオシマイにする。

 ナロースペースなので、エレメント数の割には周囲を威圧する感じが少なくて良かった。 まあ、その分だけ飛びはそこそこであろうが、目的に対して十分そうなので満足している。 簡単なスイッチ切換えで多バンドに出られるのはなかなか便利だ。昨今のリグからは、バンドデータが出ているので自動切換器の製作も可能だと思う。そうなれば増々便利だ。

                ☆ ☆ ☆

 暮れの休日、風は強かったが出掛ける予定もキャンセルになったので「今日しかない」という意気込みで、最後に残っていた作業を済ませて完成まで漕ぎ着けた。風はあったものの、地上の作業がメインだったので助かった。また、思ったより寒くなかったので作業も捗った。なかなかこれで完璧と言う所までは行かない物だが、取りあえず一段落と言った所だ。 これで目標のように少ない(5本)アンテナで多くのバンド(13バンド)をカバーすることができた。それぞれ、QRPでもまずまず実用になるだろう。

                  ☆

 たくさんのバンドに出たいのなら。数条のワイヤーにオート・アンテナ・チューナーがベストではないか?と言われそうだ。 確かに、条件次第ではそれが良いこともある。 しかし、オンエアする周波数に共振したエレメントに乗せるのと、共振していないワイヤーにチューナーで(無理矢理?)乗せるのとでは、聞こえも飛びも全然違ってくる。これはやって見ればすぐわかる。 従って、やむを得ない時の非常手段にオート・アンテナ・チューナーは良いのかもしれないが、固定局の常設アンテナは各バンドに共振したものがベストだと思う。そのうえで、アンテナ・チューナはリグとのマッチング改善に使う程度が良い。

 これでまたたくさんのバンドに出られるようになった。メンテナンスしながら維持して行きたい。 これから少しアクティブにオンエアしてみよう。 春先のHF帯ハイ・バンドも楽しみだ。 そう言えば、V・UHFのリグを新調しなくてはいけないのだった。どれが良いかなあ。(笑) de JA9TTT/1

                ☆ ☆ ☆

 末尾ながら、アンテナのリニューアルに当たって、旧アンテナの撤去から複雑なアンテナの組立て、そして建設まで多大なご援助を頂いたJE1SLP吉田さん、JA1CTZ三昌さんに感謝いたします。 またアンテナの選定に当たって、有益なご助言いただいたJA1COU村田さん有難うございました。

(おわり)

2012年12月1日土曜日

【HAM】Repair an Antenna Coaxial Switch

【アンテナ同軸スイッチの修理】


<Abstract>
 DAIWA coax antenna switcher: The contact point of CS-401 has become bad.  I decided to try to fix it.   When I checked the inside, the cause was a stain on the contacts.  I cleaned the contacts well with ethanol to begin with.  Once the contacts are clean, apply a small amount of lubricant, such as contact spray.
When disassembling, be careful not to melt the insulation material of the coaxial connectors by heat.  It is important to use a soldering iron with sufficient heat capacity to solder in a short time.   The result of the repair was a very good contact.  (2012.12.01  de JA9TTT/1  Takahiro Kato)

DAIWA CS-401 Coax. Switch
 少ないアンテナでなるべくたくさんのバンドにオンエアできるようにしている。  必然的にマルチバンドアンテナの組み合わせになるから、どのアンテも高性能とは言えない。 それでも自作受信機の実働評価や送信機のテスト・オンエアに各バンドのアンテナは欠かせない。多バンドのアンテナが欲しくなる理由だ。

 アンテナが増えリグも増えたら切換えが必要になる。 いちいち同軸コネクタの接続替えをするようでは面倒であろう。 写真は当局のアンテナ側の切換え器である。 このスイッチで切り替えて、1.9〜50MHzの10バンドを4本のアンテナでカバーする。 なお、144〜1200MHzは別のアンテナがあってこのスイッチは通さない。 結局全5本のアンテナでMF帯〜UHF帯の13バンドをカバーをしていることになる。

 便利に使って来たのだが、暫く前から接触の悪いポジション(接点)が目立つようになって来た。 すり減るほど切り替えてもいないのだが、所詮はアマチュア用なので機械的な強度が不足していて劣化した(=壊れた)のだろうと思っていた。

しかし、意外に安くないのがこの種のアンテナ・スイッチだ。直せるものを捨てては勿体ない。この際メンテナンスを試みることにした。

CS-401の外観
 1入力で4出力の同軸切換器だ。
DC〜500MHzまでがSpecだったと思うが、まあアマチュア用なのでAgilentの同軸スイッチのようにフラットなインピーダンスとは行かないだろう。 但し、耐電力だけはタップリあってkWでも大丈夫なはずだ。

 修理不能を想定しネットで交換用を探していたのだが、すでにこの形式は製造中止らしかった。 しかも国産のHAM用品メーカーは元気が無いようで、殆ど製品を出していなかった。 しっかりしていて良さそうな4wayアンテナ同軸切換器ともなるとMFJあたりの輸入品しかないようだ。

・・・となれば、これを直したいものだ。ダメもとでやってみよう。

CS-401の裏面
 Passedのシールが貼ってあるが、この際無視して開けるしかない。上手に開けたのでシールを切らずに開けられた。(笑)

 底面の4つのネジを外せば良い。 このフタは単なるフタであって、内部にホコリが入らぬようにしているだけの物だ。 このスイッチは防水構造ではないようだから、屋外使用は無理である。

買ってから何年になるのだろう・・・などと思いながら作業を進める。

CS-401の内部
 裏蓋を開けるとこのようになっている。 ガラエポ基板上に接点構造が組み付けてあるらしく、このままでは見ることもできないし、もちろんメンテナンスも不可能である。

 しかし、十分な数のネジでしっかりケースにアースしてあり、端子間のクロストークが少なく、各ラインのインピーダンス不整合が少なくなるような配慮が見られる。

 機械的なガタもなさそうだ。 内部は奇麗であって接点の状態を確認してメンテすれば十分復活するのではないかと思えた。 そのためには、各コネクタへハンダ付けされている銅の接片を外さなくてはならない。 容量の大きなハンダ鏝とハンダ吸取器を使いピンセットで接片を持ち上げるようにしてハンダを外した。 なお、ハンダ吸取器がなければハンダ吸着リボンでも良いと思う。

 同軸コネクタの絶縁物は高周波特性に優れるスチロール樹脂である。但し耐熱性に劣るので、十分な熱容量のあるハンダ鏝で手短に済ませる必要がある。 中途半端な熱容量のコテを長く当てているとコネクタの絶縁物が溶けて変形してしまう。ここだけは要注意だ。

CS-401の接点構造
 写真をクリックすると良くわかるが、接点はこのような構造になっている。 最短距離で接続されるようになっており、うまく考えてあると思った。 接片の矢印部分が押されると該当の接点が閉じるようになっている。

 操作の感触から見て、普通のロータリースイッチではないだろうとは思っていたがこのような構造とは思わなかった。 これなら周波数特性も良好だろう。

 接触が悪くなっていたのは、この各接点が汚れて来たからだ。 銀系の接点らしくやや硫化が見られ色がくすんでいた。 なお、写真は清掃後の状態だ。

 清掃はまず無水アルコールを綿棒に浸して丁寧に汚れを除去する。洗うつもりくらいが良い。綿棒の先がグレーになるくらい汚れていた。

 その後コンタクトスプレー(接点復活剤)をごく少量だけ綿棒に付け、接点の部分にだけ薄く伸ばしておく。 これで接点の摺動が滑らかになり摩耗もしにくい。 なおコンタクトスプレーを直接噴霧してはいけない。 液が滴るほど噴霧する人がいるが多く掛ければ効果が良くなる訳ではない。むしろ逆だ。

 洗浄と潤滑は別と考え、揮発性の溶剤で良く洗浄してから、あらためて潤滑剤を使うべきだ。

プッシュ・ロッド
 ツマミの回転で、写真に矢印で示した樹脂製の押し棒(プッシュ・ロッド)が飛び出し、上の写真の接点バネを押し付ける仕組みになっている。 それで接点が閉じる訳だ。

 周波数特性を良くするのが目的のスイッチでは良くある構造だ。 プッシュ・ロッドの動きが良いよう、当たり部分に摺動グリース(モリブデン・グリース)を少しだけ塗っておいた。 ロッドの軸受け部分も軽く潤滑した方が良いかもしれない。

 更にこの先まで分解する必要はなさそうだったのでここで分解は終わりにした。 あとは奇麗にした接点を汚さぬよう、逆の手順で再組み立てを行なう。

 コネクタのハンダ付け前に念のため接触状態をテスターで確認しておいた。 接触状態は接片のところで測れば良い。 各々mΩ(ミリオーム)オーダーの接触抵抗を示し、安定していたので修理は成功である。

 その後、手早くかつ確実にコネクタ部分のハンダ付けを行なって裏蓋を閉めれば作業は完了だ。

参考:この際、ネットアナに掛けて調査したらどうかと言うご意見もあろう。しかし、それでわかるくらいならマズ不合格だ。受信機に繋いで空間ノイズの入感状況で見れば十分だし、それがアマチュア的だと思う。何でも高級なことをするのが良い訳はでない。

前と同じように
 前と同じ場所に戻して終了である。 これで暫くは接触不良に悩まされることもないだろう。

 写真のように各アンテナを接続して切り替えてみた。 リグから発するノイズの状態で安定して切換えできているかどうかわかる。 ガサゴソ言わず「スパッ」と同じ状態に切り替わるなら合格だ。 もちろん各バンドでVSWRの測定も行なってみたが問題はなかった。 スイッチを通す前と変わりはない。

                ☆ ☆ ☆

 只今、全面的なアンテナの整備中である。アンテナは屋外に曝されるだけに年数が経過すれば劣化してくる。ハンダ付け部分も酸性雨によって徐々に溶けて行くらしく、だいぶ痩せていたほどだ。 アンテナの完全リニューアルにはもう少し時間が掛かりそうだ。

 屋内にあったアンテナ切換器も年数の経過で接触不良が我慢できなくなっていた。 電位差ができる関係だろうか、密閉状態でも接点には汚れの付着が見られた。 頻繁に切り替えていれば自然に接触状態が保たれるのかもしれない。切り替えずに置いたのが良くなかったのだろうか。 しかし清掃も済んで接触状態も安定したから暫くは大丈夫だろう。 開けてみて接点に摩耗や傷などはなく奇麗なことが確認できた。 表面の薄い汚れさえ除去すれば支障は無かった訳だ。僅かの手間で捨てずに済んだ。 浮いた費用は他の充実に回そう。hi

 年数が経過しまた接触が不安定だと感じたならオーバーホールしよう。 見てのように、慎重にやれば特に難しい作業ではない。リニューアルしたアンテナの話しはまたいずれ。 de JA9TTT/1

(おわり)