2014年6月1日日曜日

【測定】TRIO LPF LF-30 : Part 2

TRIOのLow Pass Filter:LF-30 その2

LF-30を解析する
 TRIO/現KenwoodのTVI対策用ローパスフィルタの第2回です。前回(←リンク)はLF-30の電気的な特性を確かめ、更に開封して中身を眺めたところまででした。

 写真は少しだけお掃除をした状態です。 ずいぶん長く眠っていたのでホコリだらけでした。 どこかにガムテープで貼付けて使っていたらしくテープの糊が残っていました。 その糊も粘着性をまったく失っており、除去するのは少々厄介した。 有機溶剤を幾つか試して除去に成功しましたが、塗装も幾分やられた感じです。 まあ、ある程度やむを得ません。

 この先は、内部のコイルとコンデンサの値を調べ、シミュレーションと実測による特性の比較を行ないます。 解析してレプリカを作りたい訳ではありません。いずれ改造するにしても現況がどうなっているのかわからなくては方針も立てにくいからです。ここは一通りの調査をしておきます。 なお例によって自家用の記録なので記述の過不足は悪しからず。(笑)

LF-30のLとC
 LF-30の電気的な構造は単純です。 写真のような数回巻きのコイル:Lと、右の方に見えるネジと銅の円盤、そして薄い樹脂製フィルムとで構成されたコンデンサ:Cからなっています。

 コンデンサ部分は円盤の中心部に貫通穴があって、そこをネジが突き抜けており、両側からナットで円盤を締め付けています。 フィルムの厚みと円盤の面積でキャパシタンスの値が決まります。

 見た所、コイルは両端のコネクタに繋がる2つが同じで、他に比べて巻き数は少ないです。途中の3つのコイルは両端よりも巻き数が多くなっています。 コンデンサ部分は円盤のサイズが同じなのでフィルム厚が同じならすべて同じ容量でしょう。

 構造からT型のLPFを重ねたLPFの形式です。 そう考えると途中3つのコイルは同じインダクタンス、両端の2つはその半分のインダクタンスでしょう。 また途中のコンデンサはどれも同一の容量だと推測できます。

コンデンサの測定
 各容量の測定は一旦分解しないとできません。 なるべく変形させないようにコイルのハンダ付けを外しました。 コンデンサはいずれもGND間に入っています。

 測定には「小容量計」を使いました。 ここは例によってLCRメータのDE-5000でも良いです。 それほど微小な静電容量ではないし、テフロンを誘電体に使ったコンデンサは絶縁抵抗が高くHigh-Qです。従って測り易い対象です。 フィルムの耐熱性を確認したらほぼテフロンに間違いないようでした。

 余談ですがテフロン・フィルムを誘電体に使った山七商店の「テフコン」と言うポリバリコンに良く似たバリコンがあったのを思い出します。 あれは安くて耐圧もあってなかなか良い物でしたが流行りませんでした。 商品としてやや詰めの甘い部分があったのが原因かも知れません。
 
Cの値は良く揃っていた
 測定結果は後で出て来る回路図に記載しました。図中の(1)の回路の定数が実測値そのものです。 多少のばらつきは見られましたがコンデンサはどれも120pFを目標に設計しているようです。 4つの平均値は122.75pFでした。

 なお、測定にあたっては接続線のストレー容量をキャンセルしています。 のちほど改めてDE-5000で測定し、比較しましたが測定値は良く合っています。

 こうした構造のコンデンサも円盤面積を良く管理すれば数%以内の精度が保てるのでしょう。テフロン・フィルムの入手に問題はありますが、高耐圧のコンデンサが自分できそうです。

久しぶりにGDM登場
 コンデンサとちがって小さなインダクタンスの測定にDE-5000はあまり向きません。測定周波数が100kHzまでなので精度が出ないのです。

 ここは昔ながらのGDMで行くことにしました。 容量が確かなコンデンサと抱き合わせて共振周波数を測定し、インダクタンスは周波数とコンデンサの値から計算で求めます。

 GDMの周波数測定精度はせいぜい頑張って3桁くらいでしょう。下手をすれば2桁ですが、その程度で支障ありません。無極のLPFではLCの値にシビアさは必要なかったと思います。

 1968年ころ購入したGDMで、しかも暫く通電していなかったので、徐々に電源電圧を加えて支障ないことを確認してから使いました。 周波数カウンタがなかった時代には精度の良いデリカのGDMは重宝でした。 今回、あらためて目盛をチェックしたらまずまず合っています。流石にDELICAと言うべきでしょうか。hi

一般的にはこれで良いが
 コイルの測定ですがこのように測定すれば良いです。

 真空管式ですから、10分程度ウオームアップします。最初に発振強度の調整()をしたら、まずはコイルを近づけて高い周波数から下げて行き、良くディップする周波数を見つけます。
:発振強度の調整:DELICAのGDMではメーターの指針が中央部青く塗られたゾーン内またはそこまで振れぬ場合は最大まで振れる位置に発振強度調整のVRを加減します)

 その後はGDMのコイルと被測定共振回路の結合がなるべく疎になるようにGDMを遠ざけて行きます。 慎重に周波数ダイヤルを回すと浅いディップが現れるので、その点が正しい共振周波数です。 ディップが浅くなり過ぎてわかりにくいようならGDMをやや近づけます。この写真の状態はコイルがまだまだ近過ぎます。

 ディップがわかる範囲で、なるべく結合を疎にすると言うのが大切なポイントです。 このあたり、今ごろになって「憧れの」ディップメータを手に入れるお方もあるようですが、てんで使い方がなってないので書いておきました。 だれも教えてくれないので仕方ないのですが、道具はちゃんと使えなくては持ち腐れです。

箱の中で測定
 上の方法でも良いとは思いましたが、箱に入れた状態で測定してみました。 金属の箱に入れるとインダクタンスは幾分変化(減少)します。

 シールドされることまで気にしなくても良いのかも知れません。しかし気になります。 発泡スチロール片でLCを浮かせ所定の位置に近い所で測定してみました。LCは箱に触れないよう浮かせます。

 共振周波数に多少の違いが見られたので、こちら測定値を採用することにします。 なおコイルに抱かせたコンデンサは100pFちょうどのマイカ・コンデンサです。あまり精度の良くない測定とは言ってもラフにやると訳が解らなくなります。

回路検討してみる
 回路は3つ書いてあります。

一番上の回路(1)が、実測によるLCの値を記入したものです。 Cの値は120pFで設計してあるようです。 メーカーの設計値はわかりませんが現物はこのようになっていました。

 (2)はL、Cともに50Ω用に設計変更したものです。 カットオフ周波数を30MHzにし終端インピーダンスも50Ωに変更します。当然LもCも全部変更しなくてはならないので結構面倒です。

(3)はコイルには手をつけずに、コンデンサにみ変更する(追加する)方法です。こうするとカットオフ周波数はかなり下がりますが(2)よりも手間は掛かりません。

 どの方法を採用するかは思案どころですが、まずは(3)でやってみようと思います。

そしてシミュレーション
(1)(2)(3)ともう一つの4条件でシミュレーションしてみました。

 緑色のカーブが実測から求めたオリジナルの定数で、75Ω終端の特性です。上図(1)の結果です。 前回(←リンク)の実測特性と良く合っています。

赤色のカーブは、実測結果から、計算上最適と思われる終端インピーダンスでシミュレーションした結果です。部品定数は(1)のままですが、終端インピーダンスを変えています。 実測のLC値から計算してみると最適インピーダンスは44.2Ωなのです。 75Ωよりもむしろ50Ωに向いていると言う結果は予想外でした。(だから50Ωで実測してもかなり良い特性だったのでしょう・笑)

青色のカーブは上図(2)のものです。 LCともに変更して50Ωに最適化した回路定数になっています。

紫色のカーブが上図の(3)によるものです。コイルに手をつけなかった関係で(2)よりもカットオフ周波数は下がっています。 ぎりぎり30MHzくらいなので10mバンドには適さない可能性があります。しかし改造はコンデンサを足すだけだからシンプルです。

                ☆ ☆ ☆

 結局(3)で様子を見る方針です。 支障がありそうならコイルも加減すれば良いでしょう。 あるいは25MHzバンドまでと割り切って使うのも良いかも知れません。 このあたりは目的や用途も考えあわせて自由に決めれば良いわけです。

                  ☆

 かつて、こうしたフィルタと言えば素人には手が出せないブラックボックスでした。 しかし、「いまの素人」にとっては何でもない単純なLC回路です。 ハイパワー向きの構造と言ったノウハウは必要かも知れませんが、まったく手が出せない代物ではなくなっています。 次回は実際に改造し周波数特性を確認します。de JA9TTT/1

つづく)←続きにリンク

2014年5月15日木曜日

【測定】AD9850 has a Clock Multiplier ?

AD9850にも有ったクロック逓倍器
噂の真相?
 QRPerの親睦を目的とした月例の懇親会が秋葉原で開催されています。小電力=QRPの通信や自作電子回路に興味をお持ちならどなたでも参加できます。 第一土曜日の夕方16:00〜です。(但し例外有り)

 懇親会には任意参加の2次会があって近くの居酒屋「天狗」秋葉原店にあらかたのメンバーがそっくり移動してAC付になります。

 いつも刺激的で楽しい話題が飛び交いますが、その席でとても興味深い話しを耳にしました。 早速試してみたのがこのBlogです。 TRIOのLPF:LF-30のPart-2が予定でしたが急遽テーマを変更します。

                     ☆

興味深いお話
 その話しとは以下のようなものでした。 お馴染みの中華DDS基板に搭載されているDDS-IC:AD9850にもクロック逓倍器が内蔵されていると言うのです。 AD9850にはAD9851と言う上位チップがあって、そちらには与えたクロックの周波数を6倍する逓倍器が内蔵されています。 AD9850と51では最高クロック周波数の違いもありますが、クロック逓倍器の有無が一番の違いです。 そのためAD9851を最高クロック周波数:180MHzで使うのに30MHzのクロックで済むと言うメリットがあります。

 その機能を持たないAD9850を最高クロックで使うには直接125MHzを与えなくてはなりません。 この125MHzのクロックがなかなかの曲者なのは既にご存知の通りです。 ですからAD9850に4倍のクロック逓倍器が内蔵されてると言うのは聞き流すには惜しい「耳寄りな話し」なのです。

*以下の観測は同じDDSモジュールで行なっています。クロック発振器の周波数を変更し、それに伴って制御プログラムも変更しています。従ってAD9850の個体差ではありません。5種類のクロック発振器を使いましたが、どれもスペクトルに問題ないことは事前に確認してあります。

まずは近傍のスプリアスから
 その裏技的な技法とは・・・実はとても簡単です。 AD9850にもAD9851と同じコマンドワードを送れば良いのです。
 要するにコマンドワードの最下位のビット:LSBに「1」を立てたコマンドを送ります。具体的にはcmd=&B00000001です。

早速やってみたのがこの写真です。 何時ものように15MHzを発生させてみました。 まずは目的信号:15MHzの上下10kHzの近傍スプリアスから観測しました。

 左がAD9850のクロックに48MHzを与え4逓倍の192MHzクロックで動作させたもの。 その右側の写真はオーソドックスな125MHzクロック・・・もちろん奇麗なもの・・・を逓倍機能OFFで直接与えてた時のものです。

#なにやら左の方にはスプリアスが・・・・?。

100kHz幅で観測継続
 目的信号:15MHzの上下50kHz、全体で100kHz幅に拡大して観測しています。クロックの条件は上記と同じです。

 写真右のノーマルの状態はいつものようにとても奇麗なスペクトラムです。
 それに対して左の逓倍クロックの方はどうもスプリアスだらけです。 目的信号よりも70dBくらい小さいため極端に悪い訳ではありませんが右を見てしまうと使いたい気持ちにはなれませんね。 この例では15MHzなのでこの程度でしたが、30MHzを発生させると55dBくらいまで悪化します。

 試してみたら50MHzを4倍した200MHzのクロックでも動作しました。隠しモードにメーカーの規格なんて存在しないので、どこ迄が上限かはわかりません。 ただ、クロック逓倍器で高い周波数まで可能になっても、これでは意味も無くなりそうです。

クロックが高過ぎ?
 48MHzとか、50MHzを与えて4逓倍したのでは周波数が高過ぎて発生信号が劣化するのかも知れません。 そう思って、今度は21.0526MHzのクロック・オシレータで試してみました。手持ちを使っただけですから細かい周波数に意味はありません。

 写真はその結果です。 左は21.0526×4=82.2104MHzの逓倍クロックで動作させたもので、右の比較対象の方には64MHz・・・もちろん奇麗な・・・を与え、逓倍機能はOFFです。 目的信号の近傍のスプリアスは前の20kHzスパン、100kHzスパンの写真と大同小異です。 ここでは0〜150MHzまでの間に発生するスプリアスの写真を掲載しました。

 まずは右の方ですが、逓倍なしの奇麗なクロックにしてもかなりのスプリアスが認められます。 これは中華DDSモジュールにあらかじめ搭載されているローパスフィルタの遮断周波数(fc=70MHz)が高過ぎて効果的でないからです。 但しほとんどがDDSの原理上現れるスプリアスなのでしかるべき遮断周波数のLPFを挿入して使えば大丈夫です。 この例ではクロックが64MHzなので、1/3のfc=約20MHzのLPFが適当です。そうすればスプリアスの大半は片付きます。これは前々からわかっている通りですね。

 一方、左の4逓倍クロックで動作させた方はスプリアスだらけです。 LPFを最適な物に載せ換える程度では済まないでしょう。 目的信号の近傍だけでなく上にも下にも強いスプリアスが見られます。 結局、与えるクロックの周波数が高過ぎるからスプリアスが現れていた訳ではなさそうです。4逓倍クロックで使うとこうなってしまうようですね。 ですからメーカーもクロックの4逓倍を仕様書で触れないのでしょう。これは想像ですがクロック4逓倍を付けてみたものの、何らかの原因で目標Specをクリヤできなかったので無いことにしているのではありませんか?

 あるいは、4遞倍と推測するモードでは上限の125MHzを遥かに越えた200MHzでも動くように見えますから、何かのテストモードかも知れません。21.0526MHzを与えた例で見ると、逓倍されない成分の(要するに21MHzの)漏れがやたら大きく現れていて本当に逓倍したクロックで動作しているのか疑問があります。いずれにしても使うのはちょっと問題がありそうです。

                    ☆

 「耳寄りな話」はちょっと残念な結末でした。 目的・用途によってはクロックの4逓倍も効果的なことがあるかも知れません。(もちろん、本当に4倍モードなら) 一概に何とも言えませんのでAD9850をクロック4逓倍のモードで使うかどうかの判断は各自に委ねます。ここではありのままを見てもらえたらそれで十分でしょう。

 それで、あんたはどうするのかって? まあ、何かの緊急時に知っていれば助かるかも知れません。ですが通信機に積極的に使いたいとは思わないなぁ・・・。 それぞれのお方のお考え次第なので、ご自由にされたら良いとは思いますが、お子様連れの電波を出さぬよう送信機に使う際は十分な確認をお願いします。 受信機に使うとスプリアス受信が多くなって色々不都合でしょう。ですが自身が納得して使えば良いです。 他人に迷惑はかかりませんから自由にされてください。 繰り返しますが送信機に使えば皆が迷惑しますからやめて欲しいですね。あなたの電波がバンド内外のそこらじゅうで聞こえたらまずいでしょう。

 酒席で小耳に挟んだ『うわさ話』を切っ掛けで実験しました。元はどのあたりの話しなのか、どなたが見つけた『新発見』なのかは知りません。 もし違う結果が(ずっとFBな結果とかが)出ているようでしたら情報やコメントなど頂ければと思います。 実は噂の奥にはもっと深い裏があるのかも知れません。それをクリヤして旨く使えるのなら素晴らしいですから。(笑)de JA9TTT/1

(おわり)

2014年5月1日木曜日

【測定】TRIO LPF LF-30 : Part 1

TRIOのLow Pass Filter : LF-30 その1

LF-30の外観
 何時ころからシャックにあるのでしょう? ずいぶん昔ですがローカルクラブのオークションで手に入れたように思います。

 写真はTRIO:今のKenwood社製のローパスフィルタ:LF-30です。 30MHzまでのHF帯用送信機とアンテナの間に挿入します。 送信機で発生する高調波を除去し、TVIを防止するのが目的でした。 シャックの必需品として売られていたアクセサリの一つです。

 今のメーカー製送信機では高調波対策が十分なされています。そうでないと技適が通りません。 しかしLF-30が使われていたころはまだそのあたりが不十分でした。 取説に書かれている送信機はTS-500やTX-40Sと言ったかなりの年代物です。 こうした時代の送信機は真空管式でπ型のタンク回路になっていました。 π型タンク回路にも高調波抑止効果はありますが不十分だったので運が悪いとTV放送に高調波が飛び込みました。 ですからこうした低域濾波器:LPFのニーズがあったのでしょう。TVIフィルタの専門メーカーからも各種販売されていました。 何かと問題が多かったVHF帯のTVが地デジ化でUHF帯へ移行してくれたのはHF帯にオンエアするHAMにはとても有難いです。

 シャックの整理で出て来ましたがどんな特性か興味があったので調べてみます。単なる興味本意ですが、せっかく有るので再利用を考えましょう。 半導体式のパワーアンプを実験していると臨時に外付けのLPFが欲しくなることがあります。30MHzのLPFだけでは済まないことも多いのですが、整備しておけば実験用器材として活用できるでしょう。

LF-30の内部
 どんなフィルタ形式になっているのか取扱い説明書からはわかりませんでした。 掲載の特性図からは無極の単純な特性のように見えます。 さっそく開けて調べました。

 四隅の取付け穴に入っていた鳩目を抜いて開けます。 外観は汚れていて程度は良くありませんが中はまずまず奇麗です。

 思った通り単純な無極のLCフィルタでした。コイル5個、コンデンサ4個でT型LPFを重ねた形式です。 一つセクションが遊んでいるのはLF-60と共通の箱を使った関係でしょうか。 コイルはLossを減らす目的で銀メッキ線が使ってあります。線径は実測でφ1mmでした。 割と雑な作りでハンダ付けで組立ててから伸縮させて特性を加減していた模様です。 他に調整可能なところはありません。
 コンデンサは誘電体フィルムを銅の円盤で挟んでネジ止めする形式で作られています。 普通のコンデンサを使った場合リードインダクタンスと自己共振してVHF帯で良い特性が得られなのかも知れません。

 このような方法で作れば自己共振の心配は少ないしフィルム厚があれば耐電力も十分得られます。おまけに電力用コンデンサよりもローコストでしょう。 構造から放熱にも優れるので1kWを許容しています。誘電体フィルムはテフロンではないでしょううか。仕切り板を折り曲げで一体式に作るなど、手間がかからず作り易い構造にできています。

取扱い説明書
 仕様と代表的な特性グラフが載った取扱説明書(一部分)を載せておきます。

 このLPFシリーズには60MHz以上をカットするLF-60と言うのもあって、50MHz帯を含むTX-88D、TX-88A、TR-1000、TX-26にはそちらを使うようにとあります。(それにしても想定機種が古いです・笑) 実際、TVIに悩まされたのは6 m局が一番多かった筈でLF-60の方がポピュラーだったかも知れません。

 仕様を見ると入出力インピーダンスが75Ωなのはちょっと問題で、いまの50Ωの機械には不適当と言うことになります。ですから遊休品になっていた訳なのですが・・・。 一応75Ω±40%までが使用範囲となっています。50Ωはその範囲内にあるので使えることになりますがどうも気持ちが悪いのです。それに±40%と言う数字そのものの根拠がわかりません。根拠は無くても使っても大丈夫だったと言うセールス上の話しかも知れませんね。(笑)

 送信終段が真空管だった時代の送信機は標準が75Ωでしたからフィルタもそれに合わせてあります。半導体時代に発売されたLF-30A、LF-60Aは50Ω用に変更されました。 中古市場を見てもA付きの50Ωモデルはそこそこのお値段ですが、75Ωのこらの方はジャンクの扱いです。(いじって遊ぶにはそう言うジャンク品が狙い目なのですが・・・)

実測特性
 規定のインピーダンス、75Ωで特性をとってみました。 遮断領域への傾斜がやや緩やかな印象もありますが、無極のフィルタなのでこの程度のものでしょう。

 上記特性図よりもカットオフ周波数は高くなっていて、-3dBは40MHzあたりです。 高調波は28MHzの2倍が40dBくらい、3倍が90dBくらい落ちるのでそこそこ効果的が期待できます。 通過損失は14MHzで見て0.13dBくらいです。これだけのLCが連なっていて3%ほどのLossなら優秀です。

 なお50Ωのインピーダンスでも測定しましたが、通過損失及び遮断特性ともに75Ωの時とと大差ありません。何となく気持ち良くないのですが、そのまま50Ω系でも使えそうです。たぶん50Ωのリグにそのまま使って問題はないでしょう。インターフェア対策に試して効果があったならそのまま使って支障はない筈です。

                 ☆

 50Ωで使うとまるで乱れてしまい使いモノにならないかと思っていました。その点は意外でしたが、やはり気持ちが悪いのです。ここはちゃんと50Ω用に改造してみようと思いました。 今では十分な評価手段があるので改造も難しくありません。

 遮断周波数とインピーダンスによるざっとした机上の検討ではコンデンサの追加が必要です。ハイパワーで使う予定はありませんから、ディップド・マイカや電力用セラコンで行けるでしょう。 50Ωに変更するとコイルはカットする方向なるので元のものが利用できます。 テフロン薄板を入手し銅板を切り抜いて任意容量のコンデンサを自作しても良いですが面倒です。 さらに箱だけ流用して任意特性のフィルタを作ってしまうのも面白いかも知れません・・・。

 この先、LF-30のLC値を実測しその結果を使った回路シミュレーション、さらには幾つかの改造指針について考えてみます。de JA9TTT/1

つづく)←Part-2へリンク

2014年4月15日火曜日

【回路】Repair an NRD-72 Receiver

【JRC:NRD-72型受信機の修理】

NRD-72故障す
 まったく故障しない機械など存在しないでしょう。しかしJRC:日本無線製の通信型受信機:NRD-72が再び故障したのです。以下、簡単な修理記録として纏めておくことにしましよう。 コレをお持ちのお方でも同様の故障をするとは限りませんから参考にはならないでしょう。 以下、持ってないお方には単なる暇つぶしでしょう・・と言う訳で、もしお暇ならどうぞ。

 この機体が製造されたのは1979年のようです。 既に35年が経過していますからどこか不調になっても不思議ではありません。前回の修理は5年以上前だったと思いますから、それ以降はノートラブルでした。 少し接触不良が出るのはやむを得ません。古いのに立派なものと言えそうです。

 写真は正面パネルの左側部分です。 Sメータはこのように0〜10までの目盛になっているだけでアマチュア機のようにS目盛ではありません。プロの通信士は通信ができれば良いので、シグナルレポートの交換などしませんしアンテナが変われば指示値が変化するSメータなど飾りでしょう。

 流石に、この時代の受信機ともなればSメータを頼りにチューニングして最良点に合わせるなどと言う受信操作はせず、あらかじめ決められた周波数に数字を合わせるだけで事足りたはずです。 Sを見ながらワッチなどBCLやアマチュア無線家の楽しみです。(笑)

周波数は飛ぶ
 メインダイヤルの回転に対して周波数がスムースに変化せず飛ぶようになりました。 写真で100Hzの桁がおかしいのです。 0,1,2,・・・・9,0と順に変化しません。

 この桁は1kHz/0.1kHzのステップ切換えスイッチでスルーにすることができます。 スルーにしてダイヤルを回すと1kHz単位の変化になります。 その状態では正常に周波数のアップダウンが可能です。従ってロータリ・エンコーダの問題ではありません。どうやら一番下の桁のカウンタ部分に異常があるようです。

 前回の修理でもこの部分に異常が発生しました。 ダイヤルが一方向にしか変化しなくなったのです。 パネル面にあって、最初に外気に曝されるこの周波数表示ユニット:CDE-52は故障し易いようです。 このNRD-72も船舶に搭載されていたらしいので潮風が入ってくる環境に長年おかれたのでしょう。 NRD-72は密閉構造ではありませんから、スイッチや表示部の隙間から外気はお構いなく浸入したでしょう。

#どうも外気に曝された部分に故障が多発する印象があります。

NRD-72の中身
 同社のアマチュア向け受信機やトランシーバにも採用されている構造です。 底部のマザーボードのソケットに各機能ブロックを搭載したプラグイン基板が差し込まれます。 Collinsの651S-1あたりから採用された構造でしょう。ボードエクステンダが必要なので、メンテナンス性は良くないと思いますが製造には有利だったのでしょう。

 左から入力のLCフィルタ、RFアンプとミキサー、IFフィルター・・・・と言う順に並んでいます。 電源部は右の方にあります。 AC100VとDC24Vで動作します。 なお、故障が発生したユニットは正面パネル裏に搭載されています。 ダイヤルツマミを全て外し左右のラック・ハンドルを止めるネジを取ると前に倒れます。基板はフレームから取外さなくてもある程度のメンテナンスできます。

周波数表示の裏側
 写真の左上に見えるのが周波数ダイヤルのロータリ・エンコーダーです。 光学式のロータリ・エンコーダーで、かなり大型のユニットです。 耐久性を考えて非接触形式にしたのでしょう。 しかし、意外に故障が多いのも事実で不具合になっている機体もかなりあるようです。

 周波数表示ユニットは、このロータリ・エンコーダからのアップダウンパルスを拾って、周波数表示を行なうとともに、PLL回路にデータとして渡す役目を持っています。 一番下の桁が悪い場合に疑われるICは数個に限られていて、動作解析の結果からIC17:TC4510BPが最も怪しいことがわかりました。

 写真では褐色のフレキシブル基板(FPC)が目に入るでしょう。 これは基板ユニット間を繋ぐ配線用です。束線のワイヤ・ハーネスではなくこうしたFPCを使ったのは配線の合理化と確実性を追求してのことと思います。しかし修理などメンテナンスの際には障害になるので一長一短です。
 FPC上に見える細い青色の電線はLSBモードを追加した際の配線です。NRD-72はプロ用なのでSSBと言えばUSBモードです。しかし配線の追加でLSBも受信可能になります。デジタル周波数表示もキャリヤ・センターなのでLSBモードを追加しても支障はありません。

IC17:TC4510BPの周辺回路
 TC4510BPは標準的な4000/14500シリーズC-MOS ICです。 一桁のアップダウン・カウンタで特殊なICではありません。手持ちにはありませんが、各社からセカンドソースが出ていたので交換部品の入手は少しも心配していませんでした。 回路に見える周辺のゲートICも同じで、4001や4049と言ったポピュラーなデバイスです。故障原因さえ究明できれば修理に困る筈はありません。

 そう思っていたのですが苦労しました。 4000シリーズのC-MOSも市場から徐々に姿を消しつつあるのです。 4001、4011や4049と言ったポピュラーなゲート類ならまだ支障なく手に入ります。 しかしMSIの4510Bは入手困難でした。用途が限定されているからかも知れません。 もちろん秋葉原のお店を虱潰しに当たればどこかに在庫があったかも知れません。 しかし、若松、千石、鈴商ほかラジオデパートやセンターのメジャーな数軒を当たってもどこも在庫はありませんでした。通販のサトー電気にもありません。最後の手段で世界中から探して海外通販する手はありそうですがこれ一つと言うもの・・・。

 はたと困ってしまったのでJE6LVE高橋さんに相談してみました。少々古いようですが、お手持ちがあったほか大阪・日本橋のお店にも当たって頂きました。 数軒回って発見できたそうで送って頂くことができたのです。 LVE高橋さん、どうも有難うございます。お陰でこうして立派に直りましたよ。

#原因はほぼ特定されているので部品さえあれば直ったも同然だったのですが・・・。

4510Bを交換す
 両面スルーホール基板なので、良くハンダを除去しないと配線パターンを傷めてしまいます。 また、潮風と年数の経過とで基板は弱って来ているので丁寧な作業を心がけました。

 写真中央が交換したIC17:4510Bです。 オリジナルは東芝のTC4510BPでしたが、交換品はTI・RCA系のCD4510BEです。モトローラ系のMC14510BPでも良いでしょう。 ロータリ・エンコーダと言う人間が相手のインターフェースですから、ICの動作速度など影響はないので「4510B」なら何でも大丈夫です。 交換したら正常に動作するようになりました。 めでたし、めでたし。

 この写真の4510Bの右にあるTC4001BPは以前交換したものです。 聞くところによれば、前オーナーがそのほかにも交換しているとのことなので、やはりパネル面寄りの基板は故障率が高いようです。

                    ☆

NRD-72のRFアンプ
 せっかくNRD-72を開けたので、特徴的な部分を少しだけ紹介しておしまいにしましょう。

 写真はRFアンプ基板:CAF-50を引き出した状態です。 裏返しになったトランジスタが目に入るでしょう。 これがNRD-72の高周波増幅です。 2SC1164-Oと言うトランジスタがPush-Pullになっています。 小さなヒートシンクが付いていますが、これはそこそこ電力を喰わせているからです。

 それぞれ15mAくらい流れています。コレクタ電圧は15Vで、CE間には12Vほど掛かっています。200mWくらいの消費電力ですからそのままと言う訳には行かなかったようで、小型のヒートシンクが付いています。 なお、振動など考慮してヒートシンクを基板にネジ固定する関係で裏返して搭載したようです。足が長くなりますが30MHzまでの受信機ですから影響はありません。

RFアンプの回路
 アマチュア無線では、RFアンプと言えば2SK241や2SK125などがポピュラーです。 こうしたバイポーラ・トランジスタ(BJT)を使ったRFアンプはあまり見ません。大昔の半導体受信機にはBJTのRFアンプもありましたがそれとはまったくの別物です。

 実は、こうした形式のアンプはなかなか優秀です。使ってあるトランジスタはCATVの中継器用に向けて開発されたもので、直線性に優れています。CATVの中継器にあっては多重化された多チャンネルの信号を一括して広帯域増幅する関係で、混変調や相互変調を非常に嫌います。目は耳以上に鋭敏であり、僅かと言えども画質の低下は視覚的にすぐわかります。要するにIP3やIP2は十分大きくなくては使用に耐えないのです。 ですからそれ専用のデバイスが開発されました。 従ってデバイスの性能に依存しますから回路だけを真似ても真価は発揮できません。 ノイズ・フィギャもHF帯用としては十分低く、広いダイナミックレンジが得られるRFアンプです。 消費電力が大きい欠点の他に、デバイスのコストが掛かるのでアマチュア機で同様のデバイスを実際に使った例は杉山電機のF-850(但し簡易型)くらいしか見たことがありません。(稀な例として、トランシーバ・キットでも簡略型が見られました)

 ずいぶん前に扱った、Collinsの651S-1A受信機ではいきなりJ-FETのppミキサーで周波数変換していました。 おそらく、感度的にはそれでも十分行けるのでしょう。 しかし局発の漏れによるスプリアス輻射ほか、妨害特性の点ではRFアンプがあった方が有利なはずです。 HF帯のハイバンドではなるべくNFを下げたくなって来ますのでやはりRFアンプは欲しくなります。 広いダイナミックレンジを確保しつつ、良好なNFを得る必要からJRCの受信機ではこうしたRFアンプが付加されているのでしょう。

 ほか、ミキサーが2SK19BLなのはIdssが大きなJ-FETを使うと言う常套手段です。今ならJ310のような外国製J-FETの方が入手性は良いです。もちろん、2SK125があるならそれも良いでしょう。 しかし、昨今では高IPのミキサーはスイッチング・タイプに移行する傾向にあります。 これからはD-MOSを使う形式が台頭するはずです。 Bus-SW用ICも同様にD-MOSであって周辺回路が集積されていて使い易いものです。ミキサー話しはまたいずれ機会があれば。

2SC1164の素性
 あまり入手し易いトランジスタではないので簡単にしておきます。 同様のデバイスとしては、NECの2SC1252の方が有名です。たぶんそれもディスコンですが、RF用パッケージに入った面実装タイプのCATV用トランジスタが今でも作られています。

 コストが厳しく、そうでなくても昨今のアマチュア機は受信時の消費電力が過大な傾向にあります。 ですから無条件に採用するのは難しいかも知れませんが、一度検討してみる価値はあるでしょう。 バス・スイッチのDBMと同じで、ここでこう書いておくと何時の日にか良い性能のRFアンプがアマチュア機にも搭載される時が来るかも知れません。(笑) RFアンプのデバイスは2SK125/J310/SST310ばかりでありません。こうしたバイポーラ・トランジスタを使ったRFアンプなど如何でしょうか?

 まあ、今ならノイズレス・フィードバックのノートン・アンプ・・・もちろんPush-Pullタイプを使ってゲインの平坦化と低歪みの追求を図るのがトレンドです。 その為にはもう少しゲインの取れる石がベストチョイスかも知れません。

 そのほか、IFアンプなども面白い回路になっています。詳しく見て行ったら興味深いこともありますが、始めるとキリがないのでまた何時か機会でもあったらにします。

                 ☆ ☆ ☆

 JRCのNRD-72とかその上位の受信機は安定した性能なので使っていて安心感があります。だまって過不足なく受信できる安心・安定感はさすがです。 ところが操作していて何か楽しいかと言えば、あまりそう感じません。 当たり前に受信できる機械はプロにとっては頼りになる存在でしょう。 空気のような存在と言ったらわかり易いでしょうか。 なければ困りますが、普段は特に意識などしない存在なのかも知れません。 プロの通信士を惚れさせた小林無線とは対極にある受信機のようです。

 今でもプロ用受信機・業務用受信機に憧れを持つ人がたくさん居られます。 堅牢で確実な動作をしてくれるのは流石だと感じさせてくれます。 しかし、こうした受信機で聞こえるときは今のアマチュア機ならどれでも立派に聞こえます。 昔のようにプロ用とアマ用の性能差は無くなっています。 プロの通信はチャネルが割り当てられていましたから普通は混信など滅多にありません。従って混信除去能力は限定的です。一方、アマチュア無線は大違いです。混信対策の機能を考えれば今どきのアマ用の受信機なりトランシーバはとても優れものです。もちろん製造技術の進歩で信頼性だって侮れません。 de JA9TTT/1

(おわり)

2014年4月1日火曜日

【電子管】Restoration of a tube radio SR-100K

【STAR SR-100K型ラジオを復活する】

の色
 やっと春になりました。 2月の2回の大雪でずいぶん足踏みをした春です。 スイセンや鮮やかな黄色のレンギョウもやっと開花したと思ったら桜がやってきました。 北国の春と一緒で一気に花の季節を迎えています。

 春は出会いと新たなスタートの季節です。 学生時代は遠い昔のことになりましたが、なんとなくわくわくが4月とともに蘇ってきます。 もう一度初心に帰って・・・と言う訳でもありませんが、古いラジオのレストアでも辿りながらあのころを思い出しつつ書き綴ってみましょう。 何か新規性がある訳でもありませんし役立ちもしないとは思います。もしお暇ならお付き合いでも。もちろん自身のレストア記録が目的なので記述の過不足があっても悪しからず。

#真空管でノスタルジックな話しと言うより意外に近代的だったりします。(笑)

                    ☆ ☆ ☆


SR-100K発掘
 子供の頃から何回も引っ越ししています。運ぶ価値の無いものはその都度捨てられました。 ですから子供の頃の思い出と言えばアルバムくらいです。

 このラジオキットが残っていたのはそれなりの思い入れがあったからです。捨ててしまう気持ちにはなれなかったのです。 数年前に古い家を取り壊した時にも再整理しました。このラジオはその際に持ち出して屋根裏の奥深くに仕舞われていました。

 昨年の春頃から始めたシャックの整理で発掘されました。 STARの受信機キット・SR-100Kと言うものです。段ボール箱に入っていたから残ったと言えそうです。

私のSR-100K
 取り出して久しぶりに灯を入れてやりたいと思いました。

 ですが、確かめたらそうも行かないことがわかりました。 年数の経過だけが理由ではありません。 昔々、製作技術が稚拙だったころの作品です。 理屈も良くわからず行なった改良(改悪?)が随所に見られました。 ですから写真のように無事に通電できたのは全てのことが済んでからのことです。

 パネル面の登場はここだけなので少しだけコメントします。 まず、ラジーケータのSメータはオリジナルにはありません。これは以前の改造で取り付けました。 ほかバリキャップを使ったスプレッドや意味不明のジャックが数個追加されていましたがすべて撤去しました。空いた穴は埋め戻しました。いろいろ改造して遊んだ痕跡があったわけです。

SR-100kの回路図
 入っていた段ボール箱の文字を良く見ると、Communications Receiverとあります。要するに「通信型受信機」と言う意味です。 でも、回路を見れば一目瞭然、たんなる4球スーパーです。 整流管がダイオードに置き換わっていますが、トランス付きの「5球スーパー」と同じ回路構成です。 B電圧が低く回路電圧はトランスレスのラジオ並です。 ですからAFのパワーはあまり出ませんがそれで不足ではありません。十分うるさく鳴ります。

 もちろん同じ5球スーパーのような受信機にはDELICAのCS-7やTRIOの6R4Sのような「通信型」と呼べるものもあります。STARならSR-40Kが同類です。 ですがSR-100Kは純然たる家庭用スーパ・ラジオのキットです。回路だけでなく部品からも伺えます。この先、明らかになって行くでしょう。

こりゃ通電不可だな
 家庭用ラジオだって案外侮れません。中波放送くらいうるさいほど良く聞こえるのが普通です。 ですから、久しぶりに灯を入れてみたかったのです。

 しかし、ちょっと待った!

 上から見たら球も所定の位置に刺さっていて大丈夫そうですが、シャシの裏をみたらどうにも危なっかしいのです。 それにもう何10年も通電していないので、いきなり通電は危険過ぎるでしょう。

 中身を見て駄目そうでしたから捨てようとも思いましたが音を出してみたい一心で修復することになったのです。 これは平成の大修理です。(笑) 途中の写真は省略しますが要するに「完全分解+再組立」です。部品も怪しいので確かめながら使いました。新品キットの倍以上の手間がタップリ掛かりました。

IFTとIFアンプ
 手前の真空管は周波数変換の6BE6です。 IFTに挟まれたのが中間周波増幅の6BA6です。

 使ってあるIFTはごく一般的な物のように思えます。要するに家庭用ラジオと同じです。

 IF1段用のIFTでもTRIOのT-6型のような通信用とはだいぶ違います。これは通信機用の性能を追求したものでは無いでしょう。このIFTですがすこし怪しかった記憶もあるので確認してから再利用すべきです。

IFTの確認
 たとえばバリコンや電源トランスと言った主要部品はそのまま使うしかありません。 IFTはどうしても駄目なら代替品に換える手もあります。 あるいはあっさりラジオと割り切った使い方でしのぐことも必要でしょう。

 さっそく内部を確認しました。 同調コンデンサはディップド・マイカコンデンサです。 IFTテスト治具で特性確認したらIFT-Aは正常でした。 IFT-Bは2次側の同調がだいぶずれていて、正しく調整されていなかったようでした。 二次側コアを正しい方向へ回して行くと一旦信号レベルが下がるのです。コアを回す方向が逆だと勘違いする状態になっていました。 特性直視装置で観測しながら再調整したので間違いませんでしたが、放送を受信しつつ調整していたなら現象は良く理解できなかったでしょう。

#配線のストレー容量を見込んだ再調整を行なって再利用に備えることにします。

ウエファ型ソケット
 真空管のソケットはウエファ型です。 しかも最初からシャシにリベット止めでした。 リベット止めは家庭用の量産ラジオでは常套手段です。

 このソケット、何回も球の抜き差しをしました。 配線の付け替えもたびたび行なったので相当「へたって」います。 そのままでも何とか使えそうにも見えましたが、一旦外して超音波洗浄くらいしたいです。

 配線を撤去した後はシャシの清掃も必要なので一旦ソケットは撤去しました。結局、外してみたら程度が良くないので新品に交換したくなりました。

ステアタイト型に交換
 真空管ソケットは全部交換しました。 ラジオごときにステアタイトのソケットは贅沢でしょう。 しかし手持ちにウエファ型はないし、ベーク・モールド型もありません。

 ステアタイトをこの際使いました。 たぶん、持っていてもこの先使う機会はないでしょう。 こうしたソケットも近ごろは中華モノが出回っています。 但しこれはずいぶん前に購入した国産品です。

 タイトソケットはウエファ型とは取付けネジの間隔が異なります。 鉄シャシをヤスリで削って穴間隔を広げてやらないと止められません。その加工が修復作業の中で一番面倒でした。

 新品のソケットを使うなら、いらない球で「足慣らし」を数回やってから使うと安心です。 もし中華ソケットを使うなら寸法精度に注意しましょう。 しっくり来ないソケットは使わぬ方が良いです。金メッキされてはいても寸法誤差が大きいのは困りものです。

出力トランスも交換
 オリジナルとは違うアウトプット・トランスに交換されていました。使用中に断線したので手持ちで間に合わせたようです。出力管:6AR5にはミスマッチなので秋葉原の東栄変成器でT-600型を買って来ました。 T-600は小さな出力トランスですが、それでもオリジナルよりも大きくて取付け穴の追加が必要でした。

 5極管:6AR5シングルの無帰還アンプです。トランスも小さいので低域再生は望むべくもありません。 むかしの真空管ラジオらしい歯切れが良く明瞭な音がします。 音質改善の目的で6AR5のプレートと6AV6のプレートを高抵抗で結び、局部負帰還を掛けていた痕跡もありましたがオリジナルを尊重してそのままにしました。 ラジオチックな音なのは当然です。もちろん低周波出力は大きいしスピーカも大きな分トランジスタラジオよりマシな音がします。

AFゲインVRの交換
 音量調整は500kΩのスイッチ付き(S付き)VRが使ってあります。 電源スイッッチを兼ねた音量調整VRはラジオを使う都度回すことになるので損耗しやすいのです。 過去にも交換した記憶がありましたが、調べたらやはり使い物になりそうにありません。新しくすることにしました。

 もっと良い物が欲しかったのですが、500kΩのAカーブでS付き、しかもローレットの短軸ともなると秋葉原でも売っている所は限られます。 使える物が見つかったのはむしろラッキーでした。 このVRはAカーブの具合がJISとは違うらしいのと、左に回し切ってスイッチOFF直前の所に残留抵抗があってあまり芳しくありません。しかし他には無いので仕方ありません。もちろん使えない程ではありませんが無名の品の寿命は短そうです。最近秋葉原に多い中華部品のようです。

バンドスイッチは清掃で
 バンド・スイッチは4回路2接点のロータリ型です。 まだALPSほかで良い物を売っています。 しかし上のVRと同じようにローレットの短軸と言うものは近ごろ見かけません。 ツマミごと換えてしまえば良いのですが、それでは外観が別物になってしまいます。

 状態を見たら,接触不良は酷いもののガタもなく接点の状態は悪くないようでした。 良く清掃・整備して再利用することにします。 コンタクトスプレーほかケミカル品で接点クリーニングをしたあと有機溶剤も使って超音波洗浄しました。 完全に脱脂されてしまったので、必要部分に潤滑しました。 まだいくぶん接触状態に不安定さも見られますが概ね良好になりました。

 バンド切換えのロータリ・スイッチからは12本の配線が出ます。初心者にとって間違い易い部分です。キットの組立て説明書では拡大図で詳しく説明されています。 いまでは接点構造ほか回路も熟知しているのでこの程度ではまず間違いません。大人になって少し上手になりました。(笑)

シャシ下面全景
 写真の下側が正面パネル側です。シャシの四角い切り欠き部分にバンドスイッチがあります。 2つ見えるマイカ・コンデンサはパッディング・コンデンサです。 容量を確認したら正常だったのでそのまま再利用しました。 シャシ中央付近に見える2つのコイルは「局発コイル」です。

 そのほか、多くのCR部品は新しい物に交換しました。回路定数はオリジナルを尊重しつつ、もちろんE系列から近似値を採用します。 コンデンサは耐圧の必要な物とそうでない物を考慮して同一容量でも種類を変えています。これは耐圧の高いコンデンサの手持ちが限られるからです。 高周波部では卵ラグを随所に追加してニアバイアースに備えました。

 配線は奇麗とは言えませんが、高周波回路を意識してバイパス・コンデンサは最短で落としています。 また、ヒーターや電源一次側など、ACが通る配線は良くよじってHUMが誘導しないようにしておきます。 オリジナルではヒータ配線はシャシを帰路とした片側配線になっていました。 あらたに2本引いて行く形式に変えました。 低周波出力管の部分で片側をシャシに落としました。ヒーターのバイパスコンデンサも随所に入れてあります。耐圧が低くて良い所には50V耐圧の積層セラコンを使いました。 青い円盤型コンデンサは電源一次側に追加したコンデンサ(Yコン)です。 ここは安全規格品を使います。

シャシ下AF増幅部
 低周波回路部分です。 中間周波増幅(6BA6)で増幅された信号は、双二極三極管の6AV6の二極部で検波されます。 検波で得られたDC電圧分はAGC電圧となってコンバータ管:6BE6と中間周波増幅管:6BA6に加えられます。

 6AV6の二極部で検波された音声信号は三極部で電圧増幅されます。 回路は高抵抗のグリッドリークを使った「リークバイアス方式」です。 リークバイアス式は大きな入力信号では歪みが増えますが、ラジオですからまあ使えます。 青い色のカップリング・コンデンサ(フィルム型)を通って電力増幅用五極管:6AR5で増幅されスピーカーを鳴らします。 ワット数の大きな抵抗器は酸化金属皮膜抵抗を使ったので従来のカーボン型と比較して、非常に小型化されました。(ただし高温化します)

 写真下側に見える1,000μF/16Vの縦型ケミコンは後に説明するSメータアンプ用の電源部です。ヒーター用AC6.3Vをプラスとマイナスに半波整流して±約8Vを得ました。負荷電流を考えると1,000μFは大きすぎます。220μF程度で十分でしょう。

電源部は大改造
 電源部のブロック・ケミコン(70+60μF/180V)も再利用したいと思いました。 入念な再化成を試みたのですがリーク電流が減少してくれないので使うと危険なため再利用は断念しました。 この時代のケミコンとしては珍しいことです。多くの場合、再化成で復活する筈です。

 同じサイズのブロック・ケミコンはありませんから縦型とチューブラ型を組み合わせて平滑回路を構成しました。 ごく小容量の電源トランスなので許容リプル電流にはマージンがあります。 100μFと330μFを使ったので平滑容量はだいぶ大きめです。 整流回路もダイオード一つの半波整流から4ダイオードのブリッジ整流に変更しました。使用ダイオードはDS135C×4です。 その結果B電圧がやや上昇してオーディオはパワーアップしました。 リプルも減少したのでブーンと言うHUM音はまったく感じられません。 なお、電源部は部品が増えたのでラグ板を追加しました。

シャシ上面全景
 シャシ上面では、4連のトリマ・コンデンサが交換になりました。 オリジナルはタイト基板のマイカトリマでした。

 調べたら,タイト板にクラックが入っていて使用できません。 在庫からちょうど良い4連トリマコンデンサが見つかりました。寸法に合わせて穴加工を行ないスタッド・ボルトで浮かせて実装しました。ちょっと見ではオリジナルと違いません。

 スピーカー・マグネットの左に見えるのがアンテナ・コイルです。 手前のパネル寄りがBCバンド、奥側がSWバンドです。 いずれもアンテナ側の巻線がたくさん巻いてあるハイ・インピーダンス型です。 STARのラジオ用コイルによく見られる形式で、長さ数m程度のごく短いアンテナでも良く聞こえるようになっています。家庭用のラジオには好都合なようにできています。

 その代わりHAM局がよく使うダイポール型アンテナのようなローインピーダンス・アンテナを繋ぐには不適当です。 このあたりもSR-100Kが単なる家庭用ラジオの設計だと言うことを裏付けています。 HAM用受信機ならローインピーダンス型のアンテナコイルが良いのです。プリセレクタやクリコンと言った付加装置にマッチするからです。

Sメータ・アンプ基板
 マジック・アイにしろラジケータにしろ、ラジオには何らかの同調指示器があった方が使い易いです。 SR-100Kにはどちらも付いていないのが不満でした。 マジックアイは通信機らしくないので500μA-FSのラジケータを付けました。

 PNPトランジスタを使い、AGC回路に流れる電流を増幅する形式のメーター回路になっていました。 最初はゲルマニウム・トランジスタ:2SB185でしたがIcbo(コレクタ遮断電流)が機内温度の上昇で増加し零点がずれました。 その後、本質的にIcboの少ないシリコン・トランジスタ:2SA562に交換しました。 但しシリコン・トランジスタはVbeが大きいので振れ始めに不感帯を生じる欠点がありました。

 同調指示程度ならそのままでも良いのですが、ここは近代化してC-MOS OPアンプを使ったバルボル形式のSメータ回路を追加しました。 圧縮型の振り切れ防止を付けるなどラジケータが相手では勿体ない回路です。動作は安定していてとても快適です。

Sメータ回路図
 電源回路を含めてSメータ部分の回路を書いておきました。 メーターの照明は白色LEDを使います。 数mAで十分明るいので豆電球よりもずっと効率的です。 LEDなら切れる心配もありません。(そんなに使うこともないでしょううが・笑)

 アンプ部はRCAのC-MOS OPアンプ:CA3130Sです。CA3130EやCA3130Tでも同じです。 ここはFET入力型のOPアンプなら何でも大丈夫です。 AGC電圧は6BA6の部分から引張って来ます。 たいへん強い信号が入って来たときAGCは-12Vくらいの電圧が出ます。 それを約10MΩのアッテネータでだいたい1/10に分圧してからOPアンプでアンプし、メーターを振らせます。 昔の本を参考にすると12AU7の差動型Sメータアンプなどを付けたくなります。しかし補助回路にこそ半導体が相応しいでしょう。消費電力も僅かなので高性能な回路が追加できます。迷わずハイブリッド構成にしました。

 メータの振れ方はIF増幅管:6BA6のリモート・カットオフ特性に依存します。概ねLogリニヤに近い振れ方になります。 要するに一目盛りが何dBと言うSメータらしい目盛です。もちろん、メータースケールは自分で用意することになります。 いまならパソコンのグラフィック機能とカラープリンタで格好良い目盛板が作れますね。

参考:AGC回路には無信号時でも-0.3Vくらいの電圧が出ています。これは真空管の初速電子による電流が流れるからです。そのため大型のSメータを付けるとフルスケールの2〜3%程度指針が零点より浮くことになります。 これを回避するには幾つか方法があります。Sメータアンプに電気的にオフセットを掛けるのが本質的な対策ですが、メータースケールを書き換える、機械的な零点調整をマイナズ側にずらせるなどの方法もあります。 ここではもとがラジケータなので目立たないこともあって零点の浮きは無視しました。 初速電流は検波管の6AV6だけでなく、6BA6と6BE6からの電流もあります。 Sメータアンプの参照が多いようなので追記しました。(2014.04.06)

調整と仕上げ
 全般的な清掃と再組立を実施したので快調な受信ができるようになりました。 もちろん、初めて作った時のようにテスターくらいしか測定器が無い状況ではありません。きちんとした調整ができました。

 まずは、アンテナ端子から強めの455kHzを加えてIFTの調整を行ないます。変調は掛けても掛けなくても良いです。 Sメータ回路が付いていますから調整は容易です。 SメータがなくてもAGC電圧をテスタ(指針式が良い)で測定しながら同じようにできます。 その後は手順書に従いトラッキング調整を行なって終了です。 配線のストレー容量も設計想定の範囲に入っているようで、トリマ・コンデンサの可変範囲も中央あたりで調整終了できました。

 きちんと調整した五球スーパはずいぶん高感度なことがわかります。 短波帯も昔作った頃よりも良く聞こえるように感じるのは全般的な調整がうまくできているからでしょう。 あまり測定器が無い状態ではやむを得なかったとは思いますが、キットの値段を遥かに越えるような測定器を要求するようでは困るし・・・と言った所が初心者向けキットの難しさ(悲しさ)でしょうか。

                   ☆

 まさか、もう一回真空管ラジオを作ることになるとは思いませんでした。 同じような経験は中古のトランシーバキット:QS-500の時にもあったのを思い出します。 結局、ごく簡単なキットとは言え、初心者が完全な形で仕上げるのはなかなか難しいのです。 しかしどんな形にしろ『鳴るラジオ』が作れたことはとても良い経験だったのです。 まがりなりにも鳴ったのですから良い教材だったに違いありません。そうやってみな電子回路の入門をしたものでした。 もう一回組立てて面白かったか?・・と問われれば、とても懐かしかったと言うのが感想です。

 再製作でずっとマシな作りになりました。 これで何時の日にか電気に興味を持った孫が『じいちゃんの作ったラジオ』を開けてみたときに恥ずかしい思いをしなくて済むでしょう。良かった良かった。(爆)

 バンドスプレッドが無い、ダイヤルが十分減速されていないなど、HAM用はおろかBCLでさえ厳しいラジオです。あくまでも家庭用ラジオのキットです。 木造家屋なら数mのビニール線を垂らしてやれば在京の民放局はたいへん良く聞こえます。 夜間ともなればびっしり民放局が並ぶので、目的の局がどれなのか見分けるのも難しいくらいでした。Sメータを見ればAGCも良く効いています。 短波もラジオ日経の各プログラムが快適に入ってきます。大陸方面からの国際放送も同様です。 選択度はラジオ聴取に程良いらしく十分快適です。短波帯でも少しウオームアップすれば局が逃げてしまうようなQRHは感じません。 但し無改造のままではHAMバンドは殆ど実用性が無いことがわかります。せめてバンド・スプレッドは必要です。 選択度やゲインの問題もありますが、やはりきちんとしたダイヤル機構の存在が「通信型受信機」の決め手だと再認識しました。de JA9TTT/1

(おわり)