2016年10月1日土曜日

【回路】AD9834 DDS-VFO Design, Plus

AD9834を使ったDDS-VFOの設計,プラス
 【AD9834BRUZを使ってみる
 AD9834を使ったDDSモジュールと、DDS-VFOについては前のBlog(←リンク)で概ね評価が済んでいます。  ここでは、AD9834を活かす上で更に確認しておきたいことをテストしようと思います。

 既に書いたようにAD9834にはAD9834BRUZと言う50MHz版と、AD9834CRUZと言う75MHz版があります。 クロック周波数の上限が高いほど、発生可能な(実用可能な)周波数も高くなるので75MHz版の方が有利なのは間違いありません。 しかし50MHz版の方ならだいぶ安価に出回っているので、どの程度のオーバークロックで使えるのか実験しておきたいと思います。

 写真は最近入手したAD9834BRUZ(50MHz版)をピッチ変換基板に実装した状態です。 あとはピンヘッダをハンダ付けして完成させるところを示しています。 ピンヘッダのピッチが良く揃うようにユニバーサル基板をテンプレートにしてハンダ付けします。 ピッチ変換基板については前回のBlogに書きました。

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 いつものようにこのBlogは自身で参照するための備忘録です。 要点を纏めただけなので貴方が知りたい事のすべてが書かれている訳ではないでしょう。  過去のBlogで扱った内容はかなり省略しています。 不明な点は読み返して頂くと何かわかるかも知れませんが、特にお薦めするつもりもありません。

オーバークロックで使う
 AD9834BRUと言う末尾のZなし旧バージョンをテストした事がありました。 もちろん、クロックの上限周波数は50MHzでした。(注:末尾のZが無いのは鉛フリーではないもので現在では販売されていません。電気的特性はZありと同等です)

 そのときは周波数が67.108864MHzの既製のクロック発振器を使いました。 そのクロック発振器は秋月電子通商で売られていた「旧型」で、現在の「新型」と違ってスペクトラムの奇麗なものでした。 50MHzがスペック上限のAD9834BRUに67MHzなのですから、そのとき既にオーバークロックになっていた訳です。(笑)
 なぜ67.108864MHzなのかと言えば、この周波数が正確ならDDSの発生周波数がジャスト0.25Hz刻みになるため設定プログラムが簡単になるからでした。 しかしそれではクロック周波数の自由度は無くなってしまいます。何らかの対策を考えるべきでしょう。 その後、プログラムの工夫で0.25Hz刻みでなくても近似周波数に旨く設定できるよう改良したため(ある程度)任意のクロック周波数で良くなった経緯があります。 従って現在では67.108864MHzに拘る必要は無くなっています。もしその時のままなら省電流化も進まなかったでしょう。

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 写真は前回のBlogで検討した75MHzのクロックを先ほど変換基板に実装したばかりのAD9834BRUZに与えてテストしている様子です。 75MHzと言えば、規格の50MHzに対して150%ものオーバークロックになるのですが何ら支障なく動作してくれました。メーカーの公称値にはかなりマージンが取ってあるようです。 すべてが75MHzまで動作する保証はありませんが、かなりのオーバークロックで使えるらしい事がわかります。 これで安価なAD9834BRUZの価値がグーンと高まります。 活用範囲も広くなるでしょう。

 CRUZと消費電流を比較してみましたが同じくクロックで使う限りほぼ同じ消費電流でした。 具体的にはBRUZの方が100μAほど少ないのですが、これはチップのバラツキの範囲でしょう。 50MHz版を75MHzで使ったからと言って消費電流が急増するようなことはありません。もともと低消費電力なのでチップの温度上昇も感じられないくらいです。

 なお、未確認ですが上限周波数が75MHzのAD9834CRUZの方は100MHzあたりのオーバークロックでも動作すると言う情報があります。必要になった時にテストしてみましょう。

速報:90MHzなら簡単にテストできたので試してみました。 少なくともそのあたりまで正常に動作するようです。 詳細は改めて纏める予定です。(2016.10.4)

参考:AD9834を75MHzのクロックで使う場合、1ビットあたり0.2793967724Hz刻みとなります。従って、発生可能な周波数も0.2793967724Hzおきになるため、完全な連続周波数が発生できる訳ではありません。 しかし0.2793967724Hz刻みなら実際には殆ど連続と感じられるステップなので不連続についてあまり神経質になる必要はないでしょう。もちろん、どんな周波数の発生でも幾ばくかの量子化誤差が残存することは覚えておくべきです。特に精密な用途では重要です。 なお、実際のVFOでは10Hzステップで周波数が変えられるよう設計しています。必要があればもっと細かくできますが一般的な送受信機にはそれくらいの分解能で十分です。
 アナログなVFOなら連続だと思うかも知れませんが、0.3Hz未満の刻みで周波数を維持することなど不可能ですからDDS-VFOの方がよほど優秀です。クロック発振器の周波数さえ安定なら合わせたその周波数で完全に静止できます。

 【AD9834のスペクトラム
 前回のBlogでは未掲載でしたが、あらためてAD9834CRUZで得られた信号のスペクトラムを見ましょう。 なお、オーバークロックで動作させたAD9834BRUZの方もまったく同じでした。

 これはTCA440を使った受信機の局発としてDDS-VFOを構成している例です。 7MHz帯の受信周波数に対し中間周波は3577.8kHzなので局発は10MHz帯となっています。AD9834のクロックは自作のオーバートーン発振器で作った75MHzを与えています。

 写真は信号の上下5kHzずつ、全体で10kHzの範囲を観測した結果です。 ジッターのような揺らぎも無く、90dB下の測定系のノイズフロアまで奇麗に落ちています。 良くできた水晶発振器並みのとても奇麗な信号が得られています。 これなら安心して通信機に使えるでしょう。音色を気にするHi-Fiな(?)SSB送信機のVFOとしても秀逸です。(笑)

 【LPFナシだと・・
 写真はAD9834のDDSモジュール状態のままのスペクトラムです。 要するに不可欠な低域濾波器(LPF)の無い状態です。 0〜100MHzまでの範囲で観測してみました。

 左の大きな信号が主信号です。  右の方にやや大きめの信号がありますが、これが「折り返しスプリアス」と呼ばれるものでDDS発振器では原理的に発生してしまうものです。
  主信号の周波数を上昇して行くと、スプリアスの方はクロックの周波数を起点として逆に下がってきます。 そしてちょうどクロック周波数の半分のところで主信号とスプリアスは一致してしまうのです。 もちろん、その周波数の近くでは両方が接近してしまうので簡単に分離することはできません。 クリスタルフィルタでも使えば可能かも知れませんが非現実的でしょう。

 従って、クロック周波数の半分よりもかなり低い周波数で遮断するようなローパスフィルタ(低域濾波器)をDDSモジュールの後に付加しなくてはなりません。 安全に使える範囲として、クロック周波数の1/3くらいまでと考えています。 75MHzのクロックなら25MHzあたりが間違いないところと言えます。  急峻な良く切れるフィルタを使って30MHzまでと言った所でしょうか。 簡易なπ型2段のフィルタ程度では20MHzでさえやっとです。 簡易なフィルタで上限を欲張るとスプリアスが漏れるので注意が必要です。

 3次の高調波がやや大きめでしたが問題になるほどのレベルではありません。また2つのDAC出力を使ったPush-Pull動作のためか2次高調波は少なめでした。(前回のBlogに回路図があります) DAC出力の片側だけを使うよりも高調波の抑止では有利なようです。

 【LPFの設計
 DDSモジュールをなるべく高い周波数まで使うためには、良く切れるローパスフィルタが必須です。 ここではAD9834を75MHzのクロックで使う想定で設計してみました。 クロックが50MHzならLPFは15〜20MHz程度に設計変更する必要があります。

 終端インピーダンスは50Ωと200Ωで設計しています。50Ωが一般用で、200Ωは受信機の局発用として使う想定です。 なおLPFの遮断周波数は25MHzと30MHzで設計しました。 製作し易さを考えてなるべくE系列の値になるようコンデンサを選んでいます。 そのため、理想の設計値とは多少異なってしまうので、丸めた値を使った回路シミュレーションで特性の確認をしておきます。 一覧表のすべてについてシミュレーションしましたが必要にして十分な性能が得られていると思います。

 精度の良い部品を使いコンパクトに組み立てれば無調整でも行けます。 ここでは測定器を使って調整する前提で可変型のインダクタを使う設計です。 そのため3つのコイルは中途半端な定数になっていますが、概ねその値を目標に巻線すると言う意味です。 組み立てた後でω2、ω4、ω6の各周波数でNullになるようコイルのコアを調整します。 調整にはスペアナ+TGもしくはネットアナを使うのが便利でしょう。 発振器+高感度RF電圧計でも可能な筈です。

 【LPFをシミュレーション・回路図
 各LPFの定数で回路シミュレーションしてみました。 例によって回路シミュレータはLT-Spiceを使います。 LT-Spiceの扱いは専門書(←リンク:一例です)を参照しています。

 回路は簡単ですが製作する前に面倒がらずにシミュレーションしておくと確実です。 図の例は遮断25MHz、入出力インピーダンスは200Ωで設計したLPFです。 同じ形式で25MHz以外の遮断周波数で設計した例がこちら(←リンク)にもあります。

 遮断領域の最低減衰量Aminは70dB以上の設計です。また7次のエリプティック型(連立チェビシェフ型、楕円関数型とも言う)ですからかなり急峻な特性が実現できている筈です。 Blogでは無理があるのでフィルタの設計法は説明しません。詳しく知るには専門書を参照します。

 【LPFをシミュレーション・プロット
 シミュレーション結果の一例です。 減衰極が3カ所にあります。 また最低減衰量Aminは70dB以上が実現できています。 E系列の値に部品定数を丸めていますが、概ね意図したような特性が実現できているようです。 主信号の周波数が25MHzのとき、スプリアスの周波数は50MHzになります。控え目に見ても60dB以上の減衰が期待できるでしょう。十分な特性と言えます。

 なお、DDSの出力信号は発生周波数によって振幅変化があります。 フィルタの通過帯域特性も完全なフラットではありませんが実用上の支障はないだろうと思っています。 もし周波数で振幅が変化しない平坦な特性が必要なら出力アンプを補ってALCを掛けるような設計にする必要があります。 多くの場合、DDS-VFOとしては支障ないと思われますが広帯域な信号発生器やジェネカバの受信機などに活用する場合には考慮しておきます。

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 以上、AD9834のオーバークロックの実験とDDSモジュールに外付けするローパスフィルタの特性について検討してみました。 50MHz版のAD9834BRUZが70MHz以上のクロックでも使えることから、ローパスフィルタも25MHzあるいは30MHzの遮断周波数で行けそうです。 活用範囲も広がることからFBだと思っています。

おまけ:低消費電流のLCD表示器
 前回のBlogではLCD表示器のバックライトが問題になりました。 DDS-VFO全体の消費電流が少なくなってくると表示器のバックライトの電流が馬鹿にならなくなって来るのです。

 色々な表示器のスペックを見ていて面白いことがわかりました。 バックライトに白色LEDを使う表示器ならバックライトの電流はかなり少なくて良いようなのです。 例えば、写真の表示器は青地に白抜き文字の表示器ですが、スペックによるとバックライトの電流は20mA(標準)になっています。バックライトには白色のLEDが一つ使われていました。 白色LEDは高輝度なので一つでも十分な明るさが得られるのでしょう。

 実際に点灯してみたところ20mAならかなり明るく、半分の10mAまで減らしてもまずまずのコントラストが得られるようでした。 流石に5mAともなると暗いので常用には向きませんが、夜間のように周囲が暗ければ十分読み取りできました。 むしろ眩しくないので丁度良いくらいです。 省エネには白色LEDのバックライトが使ってあるLCD表示器を使うのがポイントのようです。 周囲の明るさに応じて輝度を加減できるとなお良いと思います。 良さそうに思っていた有機EL/OLED表示器はバックライト不要なのですが、それ自身が50mA以上消費するのでトータルの消費電流はかなり大きめでした。

参考:写真は中華直送で入手されたものを頂きました。2年程度使用していたらLEDの輝度が低下し白抜き文字の色調も黄色味を帯びて来たそうです。 (JA6IRK/1岩永さんによる) 文字表示機能そのものには支障はないようですがバックライトの白色LEDの劣化が進むようです。品質的にいま一つなのかも知れません。 省エネの基本は白色LEDのバックライトにありますから、もう少し信頼できそうな表示器を選ぶのも良さそうです。 また、白色LED一個に20mAも流すのは無理があるようにも感じます。10mA程度で使う方が劣化の進行はかなり遅くなるかも知れません。

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 AD9834は低消費電流ではたいへん優れていますが、AD9850/51よりもクロック周波数の上限が低いと言う欠点がありました。 安価なAD9834と言うとBRUZになるのですがスペック上のクロック上限は50MHzです。その上限で使ったのでは出力の方はせいぜい20MHzあたりまでになってしまいます。
 以前からかなりオーバークロックが可能らしいことはわかっていました。 50MHz版のAD9834BRUZでも75MHzあたりまで使えればHF帯をフルにカバーすることが可能になります。 そのような期待から実験を始めたのですが、あっさりと75MHzで動くことがわかりました。 150%ものオーバークロックはメーカーの保証外ですが自作品でしたら自己責任で使って行けば良いはずです。  TCA440を使った受信機だけでなくAD9834BRUZを積極的に使って行こうと思っています。 あとはLCD表示器に白色LEDのバックライトが使ってあるものを選べばかなり省エネ効果があります。 これで何とか電池電源のRigにもDDS-VFOが採用できるでしょう。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2016年9月17日土曜日

【回路】AD9834 DDS-VFO Design

【AD9834を使ったDDS-VFOの設計】
 【AD9834 DDS Chip】
 AD9834と言うDDS-ICに再び注目してみました。 このBlogで初めて本格的に扱ったDDS-ICはこのAD9834でした。 しかし、その直後にAD9850と言う別のDDS-ICを搭載したDDSモジュール・・・いわゆる「中華DDSモジュール」が安価に登場したので移行した経緯があります。 その中華DDSは既に旬を過ぎたらしく安価な入手が難しくなってきました。一つ5〜600円で買うことはもうできないでしょう。*1

 一旦はAD9850の活用に移行したDDSですが再びAD9834に戻りたいと思っています。 何故かと言えば、何と言ってもAD9834は消費電流が少ないのが魅力だからです。 しかもここ数年でチップの価格もこなれて来ました。 次なるDDSとしてAD9834は良い選択だと思うのです。 それほど高い周波数の必要がないならAD9834の性能で十分でしょう。 ただ戻るのではなく以前の試作を見直して回路全体として更に消費電流を減らせたらと思っています。 合わせてモジュール化の検討もしてみましょう。

 写真のようにAD9834は20ピンのTSSOPパッケージに入っています。ピン間隔は0.65mmです。ハンダ付けは容易とは言えませんが困難と言うほどでもありません。 左の旧型はクロック周波数の上限が50MHzでした。AD9834BRUZです。その後バージョンアップされて写真右の75MHzバージョンも登場しています。こちらはAD9834CRUZです。いずれも幾らかのオーバークロックは可能なので、もう少し高い周波数のクロックまで動作できます。

 現在では1,000円以下で入手できることもあるようです。ちょっと前に共同購入のお話があったので陳腐化しない程度に確保しておくことにしました。これからも安価に手に入る機会はあるでしょう。 AD9834は現在も販売されているDDSチップです。仕様の詳細はメーカ(←リンク)のデータシートを参照して下さい。

*1:中華DDSの入手状況(参考・Aliexpress調べによる)2016年9月現在、中華DDSモジュールは単価$8〜$12-程度で売られているようです。送料など含めて1,000〜1,500円で入手できそうです。最盛期よりも値上がりしていますが未だお買い得感は残っています。AD9834では発生できない高い周波数が必要なら手に入れておいて損は無いかも知れません。

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 いつものように備忘録がこのBlogの目的です。 ほかのお方に特定の部品を推奨する意図はありません。メモ書きを纏めただけなので貴方が知りたいことのすべてが書かれている訳ではないでしょう。
 AD9834の制御にはマイコンを使います。基本的な使い方は以前のBlog(←リンク)にあります。  活用の際には用途に応じたプログラムを書きます。 個々のニーズは異なるため、用途に合わせて各自で考えるものです。 その部分のハードルが幾らか高いことはわかっています。データの送り方は少し違っていますが中華DDS・AD9850用ソフトの小変更で行けます。

 【TSSOP-20 ピッチ変換ボード
 検討を始めて便利なパーツを発見しました。 写真左側の小型変換基板がそれです。以前は無かったので最近発売されたのでしょう。 変換後のピン列間隔は10.16mmです。多くのデュアルインラインICよりもやや広いですが十分にコンパクトです。

 従来は右側のような変換基板に載せて試作していたのですが余分な部分が多いと感じていました。 その点、左側の基板は必要最低限の面積に作られています。 コンパクトな製作に向いていますし、試作ではなく実際に使う際にも小型化が図れそうです。

 この基板が登場したこともAD9834で再開する切っ掛けになりました。 aitendoで2枚100円で購入できるのもFBでした。

AD9834を搭載
 さっそくチップを搭載してみました。 出来上がりは写真のように十分コンパクトなので目論み通りと言って良いでしょう。

 但しランドサイズが小さいのとメッキが鉛フリーのようでハンダの乗りが悪かったです。 フラックスを塗布するなどかなり気を付けたのですが数カ所の未ハンダが残ってしまいました。

 何回か修正して写真の程度になりましたが十分満足できる仕上がりとは思っていません。 確実なハンダ付けにはなったので良しとしました。 良質のハンダでランド部分を予備メッキしておくべきでした。

 足ピンはブレッドボードやユニバーサル基板などを治具として使って位置決めしてからハンダ付けすると列間隔が正しく揃います。

#このような状態に変換しておけばAD9834を手軽に実験することができます。

クロック発振器の検討
 DDS-ICは基準になるクロック信号に基づいて出力信号を作成しています。

 従ってクロック信号の品質は非常に重要です。 出力信号の周波数精度や安定度は使うクロックに依存します。 更にジッターのような揺らぎがあれば出力信号も揺らぎを含んでしまうでしょう。 従ってDDSのクロック源には良質の水晶発振器が望まれます。

 市販の発振器にも優秀なものがあります。しかし価格と消費電流の面で満足できませんでした。特に数mAの消費電流で満足に働く発振器の入手は難しいようでした。

 HAMにとって水晶発振回路はお手の物と言えます。ここでは自作することにしました。写真は回路検討の様子で75MHzを発振させています。 後の回路図のようにFETを使ったピアースD-G型オーバートーン発振回路を使いました。 コルピッツ型発振器と等価です。

発振回路のトランス:T1
 LC同調回路を含まず調整の必要がないオーバートーン発振回路と言うのもあるのですが回路的に苦しいようです。 周波数選択回路の無い発振回路は確実な動作に無理があるように思います。 LC回路は使いたくないし調整もせずに済ませたい・・・と言う気持ちはわかるのですが水晶発振回路としてはどうも不利なようです。

 ここではオーソドックスにLC同調回路を使ったオーバートーン発振回路にしています。 FETやトランジスタと言った能動デバイスも重要ですが、確実な発振回路を実現するポイントの一つはLC回路にあります。

 なるべくQの高いコイルやコンデンサを使います。 良いコイル(Qの高いコイル)を使うことは発振し易さだけでなく発振器のC/Nを良くする効果もあります。 コイルにはVHF用の#10と言うコア材を使いました。 写真のように試作に便利なように4×4穴のミニ基板に実装しています。 今はこのような基板が廉価に販売されており重宝しています。  写真は50MHz用のコイルで75MHz用よりも巻き数が多くなっています。 コイルの詳細は次の図にあります。

オーバートーン水晶発振回路
 3次または5次のオーバートーン発振をすれば良いのでFETを使った発振回路にしました。 FETのIdssランクにより回路の消費電流が変化します。 例えば2SK241の場合、Yランクなら5mA程度ですがGRでは10mAくらいです。 GRの方が発振勢力は強いのですがYランクでも十分でした。 消費電流を優先してYランクを使います。

 J-FETの場合、発振が始まるとゲートジャンクションでの自己整流による負バイアスが掛かります。発振振幅が抑制されるとともに消費電流も減少します。これは真空管の発振器と非常に良く似た動作と言えます。 2SK241のようなMOS-FETで同様の効果を得るには、ゲートとソース間にダイオードを追加します。カソードがGNDになる向きに小信号用のSi-Diを入れます。

 もっと高次のオーバートーン発振が目的ならゲインの大きなバイポーラ・トランジスタ(普通のトランジスタ:但しfTが高いもの)を使うと有利です。 AD9834のクロック上限周波数はオーバークロックを考えても100MHz程度です。 周波数範囲から考えて3次もしくは5次のオーバートーン発振で十分なため部品点数の少ないFETを使った発振回路にしました。 5次以上でも発振はしますが3次オーバートーン発振よりも発振勢力は弱くなります。水晶発振子を選んでなるべく3次オーバートーンで行くべきです。

 ここでは50MHzの3次オーバートーン用に作られた水晶発振子のほか、HC-49/US型で基本波が25MHzの水晶で75MHzを得る実験を行ないました。いずれの水晶発振子も図の定数で旨く発振できました。 発振周波数はジャスト50MHzや75MHzにはなりません。真値は実測で求める方法もありますが、仮の数値で信号を発生させて見ます。その仮の値で発生させた信号の周波数を周波数カウンタで測定して比例計算から補正値を求めても良いでしょう。マイコンでコントロールしますから端数の付いたクロック周波数でも支障はありません。プログラム的に補正してしまうので水晶発振器の発振周波数は調整不要です。

 50MHzの3次オーバートーン用水晶発振子は米国製のジャンク出身です。また75MHzのオーバートーン発振に使った25MHz水晶(基本波)は秋月電子通商で購入したものです。 他の水晶発振子でも3次や5次のオーバートーン発振が可能なものはたくさんありました。手持ちを試してみると面白いです。いずれ役立つ時があるでしょう。
 本来オーバートーン用ではない水晶発振子でオーバートーン発振させるのは、水晶屋さんに言わせれば邪道でしょう。アマチュア的には支障ないと思っていますが、販売を目的とした商品・製品に使うのは保証外の使い方になるので慎むべきです。専用の水晶発振子を使って下さい。

 ドレイン側の共振器はなるべくQの高いコイルを使い、同調容量を少なめにしてHigh-Lに設計すると発振が容易です。(共振インピーダンスが上がりゲインがアップするため)

AD9834 DDSモジュールの試作
 AD9834を使った「DDSモジュール」の検討として写真のように試作してみました。

 左側に検討して来たクロック発振回路が載っています。 その右がAD9834を変換基板に実装したDDSの心臓部です。 DDS-ICの出力は巻き数比2:1(インピーダンス比で4:1)のインピーダンス変換トランスを介して出力されます。負荷インピーダンスは50Ωです。 写真右側のトランスはメガネ型コアを使っていますがフェライト・ビーズ:FB801-#43にトリファイラ巻き(6t×3)で作っても同等です。

 DDS-ICの出力には「折り返しスプリアス信号」が含まれているので低域濾波器(ローパスフィルタ:LPF)の付加は必須です。 但し遮断周波数は用途ごとに異なるため外付けするようにしました。 従って実際に使うためには出力の後ろに用途・目的に合ったLPFが不可欠ですです。

 このモジュールは単独で使うものではありません。 発振周波数を制御するためのマイコン回路を必用とします。 シリアルでデータを送れば良くマイコンの種類は問いません。

75MHzクロック発振回路
 クロック発振回路は先に実験済みのオーバートーン発振回路そのままですが、コイルは7mm角のコア入りボビンに巻きました。 トロイダルコアが駄目と言う訳ではありません。

 ちょうどVHF用と言う7mm角ボビンの手持ちがあったのと、トロイダルコアとトリマコンデンサを使うよりも回路の小型化が可能だったからです。コアによる調整範囲は意外に狭い印象がありました。発振周波数に応じて巻き数を細かく加減する必用がありました。 もし新規に部品を購入して製作するならトロイダルコアを選ぶ方が確実でしょう。

 性能的にはトロイダルコアに巻いた方が良さそうでしたが実用上の差はないのでこちらを使ってみました。  調整方法の考え方は同じです。 コアを右に回し入れて行くと発振のピークが現れます。 さらにコアを右回しに押し込むと急に発振が停止するでしょう。一旦発振ピークの位置にコアを戻してから、さらに左に回して少し戻した位置で調整終了します。 調整にはオシロスコープもしくは高周波電圧計を使って下さい。簡易な検波プローブとアナログテスタの組み合わせでも何もないよりマシです。(笑)

 FETはジャンクション型の2SK19Yや2SK192AY(どちらも東芝)、あるいは最近売られているBF256B(Fairchildほか)でも発振は十分可能でした。しかしMOS型の2SK241Y(東芝)あるいは2SK544E(旧・三洋)の方が発振させ易いようです。 使う水晶のアクティビティが低いと発振しにくいかも知れませんから2SK241Yや2SK544Eを使うと良いです。足の並びは異なりますが2SK439E(旧・日立)も良い選択です。

AD9834 DDSモジュールの回路図
 上記のクロック発振回路とAD9834 DDS-ICの部分をモジュール化するための回路図です。 モジュール化せず他の回路と一緒に作っても支障はありません。

 クロックに50MHzを使う例と、75MHzの場合を例示しています。AD9834チップの上限クロック周波数に合わせて決めます。なお、いずれのバージョンでも多少のオーバークロックは可能なようです。AD9834の消費電流は50MHzと75MHzで顕著な違いはありませんでした。(1mA以下)

参考:出力電圧の半減を許容するか、200Ωの負荷で使う前提ならこのモジュールの消費電流は12mAくらいまで低減可能です。図のT2を巻き数比1:1に変更します。またR2の2.7kΩを5.6kΩに変更します。更に水晶発振のFETを2SK192AYにすることで発振部の消費電流も減少できます。出力として200Ω負荷に約300mVppが得られます。なお後続のLPFはインピーダンス200Ωで再設計しなくてはなりません。(次回のBlogに具体的なLPFの製作データあり)

 専用の基板を作りDDSモジュールとして組み立てておくと汎用の発振器モジュールとして便利に使えるだろうと思っています。 いずれそのような基板化ができればと思います。将来の課題です。

 このモジュールは発振周波数をマイコンでコントロールします。 私はAVRマイコンを使いましたが、PICマイコンでもArduinoやラズパイなどなんでも良いです。データは3線式のシリアル伝送で簡単な方式です。 電源電圧は5Vが標準ですが水晶発振回路およびAD9834のいずれも3Vでも働きます。 一段と省電力のために3Vで使うのも良いでしょう。 なお、3Vの時はオーバークロックはしない方が良いです。

DDSモジュールを使ったVFO
 AVRマイコンと組み合わせてDDS-VFOを構成した回路例です。 ロータリーエンコーダで周波数を可変し周波数はLCD表示器に表示されます。

 図では発振周波数の上限はクロック周波数の1/3となる25MHzを想定しています。但し75MHzのクロックの場合、LPFの設計を変更すれば30MHzくらいまで可能でしょう。  またクロックを50MHzにするならLPFの遮断周波数は15MHzあるいは20MHzに設計変更する必用があります。 図のLPFは切れの良いElliptic型(楕円関数型、連立チェビシェフ型とも言う)になっています。回路図中の印が付いたコンデンサはすべて0.1μF/25Vまたは50Vです。できたら積層型セラコンを使います。

 消費電流はLCD表示器のバックライトをOFFした状態で約40mAでした。もちろんこの数字はマイコンやLCD表示器を含んだDDS-VFO全体の消費電流です。 昔から売っているLCD表示器のバックライトはかなり暗いので十分な明るさを得るためにはバックライトだけに40mAも流す必要がありました。 全消費電流80mAのうち半分がバックライトの分だと言うのではナンセンスです。 従ってもっと発光効率の良いバックライトを持った表示器に変更するか、最初からバックライトは無しで考えた方が良さそうです。

  DDS-ICをAD9834にしてクロックも低消費電流に作ったことで大幅な省電力になりました。 乾電池電源の機器にはまだ消費電流は大きめではありますがマイコンやLCD表示器を工夫すれば更に削減は可能だと思います。 しかし現状の40mAならまずまずだと思っています。 また200Ω負荷を前提でDDS部分の省電流動作を行なえばマイコンやLCDを含んだトータルで33mAくらいまで低減できました。(バックライトはOFF)

 DDS-VFOとしての機能は以前の試作品と同等です。 個別の事例ではありますがもし興味があれば詳細は以前の記事(←リンク)に戻って下さい。  SSB/CW受信機やトランシーバ向きのVFOになっています。 ここでは試作中のTCA440を使った7MHz受信機を想定してプログラムを修正しています。中間周波は3577.8kHzとなっています。 信号純度も良好なため良好な受信ができています。 AD9834を使ったVFOへの変更は受信機全体の消費電流を低減するために大変効果的でした。

参考:AD9850を使った「中華DDSモジュール」はそれ自体で150mAも消費していました。搭載されているクロック発振器により消費電流には大きな違いがあります。 実測によれば少ないもので120mA、平均的には150mA、多いものでは180mAも流れるようです。 従ってマイコンやLCDのバックライトを加えたらDDS-VFO全体では250mA近く流れていました。

DDS-VFOのテスト風景
 テストには以前開発に使った「AD9834を使ったVFO」の試作品を部分的に流用しています。

 DDS部分は新しいものに置き換え、マイコンと表示器の部分を流用しています。 クロックの周波数が異なるのでプログラムの書き換えを行なっています。
 使用を予定するTCA440を使った受信機に合わせて中間周波のオフセット量も異なるのでそれも変更しました。 取りあえずATmega8という古いチップを使っています。機能に支障はないのですがATmega168Pあるいはmega328Pへ移行したいと思っています。 プログラムはBASCOM-AVRを使って作成していてオブジェクトのサイズは5kバイトくらいです。

 自作のクロック発振器は温度補償型ではないため発振周波数は幾らか周囲温度の影響を受けます。 しかし消費電流が少ないので電源を加えてからの変動はごく僅かでした。温度による周波数変化も普通の水晶発振器並みですから十分な性能です。TCXOには敵いませんが総合的に見て既製品の発振器(SPXO)を使うよりも良好でした。

 実証実験は済んだので、実際の応用に向けて本格的に製作するのが次のステップと言うことになります。AD9834は発熱も殆どなく安心して使えるDDS-ICだと思います。スペクトルを確認しましたが、十分きれいな信号が得られています。

                   ☆ ☆ ☆

 いわゆる「中華DDSモジュール」は安価で扱い易いため一世を風靡した感がありました。 扱いが面倒な面実装型のDDS-ICが基板に実装されておりクロック発振器も搭載され使い易い形で供給されたからでしょう。しかも中国からの直輸入ならとても経済的でした。 このBlogでも様々に活用すべく検討してきました。DDSと言えばVFOへの応用が着目されがちですが、安価なので水晶発振子の代用に使うと言った利用さえ考えられたのです。しかし幾つか欠点もあって消費電流が大きいこともその一つでした。

 最近になってその「中華DDSモジュール」もそれほど経済的ではなくなってきました。 主要部品であるAD9850の調達が割高になったのでしょ うか? 安価が取り柄のモジュールでしたがいずれ供給が途絶えればそれで終わりです。 あえて高額で買うほどの品質でもありません。 新しいDDS発振器を検討しておくことにしましょう。

 中華DDSモジュールが手に入らなくなったからと言って昔に帰りたくありません。 特にHAM用機器では自励発振のVFOやVXOには戻りたくはないのです。 周波数安定度に優れたVFOの製作は部品事情から言っても難しく、またごく簡易なRigを除けばVXOと言うのもいまさらの感があります。 やはりDDSのような近代的な発振器で周波数安定度と読み取り精度をがっちり確保するのがトレンドです。マイコンを使いこなす苦労はあってもVFOとしての製作はむしろ容易です。

 価格がこなれてきたAD9834を使い自前のDDSモジュールを開発しておけば様々な活用が創造できます。 消費電流が少なく信号純度の良いクロック発振器を備えたDDSモジュールが開発できたと思います。やたらと電気を喰わないので中華DDSよりも活用範囲は広がるでしょう。 製作費用もAD9834等の価格低下で「ミズホのVFO」をずいぶん下回るようになっています。 次は具体的な活用を探りましょう。 ではまた。de JA9TTT/1

Dual Gate FETの記事はAD9834/DDS-ICが先行したため機会を改めます。

つづき)←リンクします。fm

2016年9月1日木曜日

【その他】a little rest

【ちょっと一休み】
遅い夏休みです・笑
 ちょっと遅い夏休みです。 いつも忙しくしている訳でもないのですが・・・。 台風が来たり、少し疲れました。

               ☆

 写真はDual Gate FETの3SK22BLです。 次のテーマはDual Gate FETにしたいと思って準備を始めたのですが、途中で疲れてしまいました。 すこし休んでからまた歩き出すことにします。

・・・と言うことで、何時かのテーマは再びFETになりそうです。

良かったらコメント欄にDual Gate FETの思い出とかご自由にお書きください。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2016年8月18日木曜日

【Antenna】 Half-size G5RV Antenna

【ハーフサイズのG5RVアンテナをテストする】
 【G5RVアンテナとは?】
 G5RVアンテナは英国のHAM:Louis Varney氏(Silent key:2000年6月28日)によって1966年ころ考案され発表されたワイヤー系のアンテナです。

 左右対称な水平のエレメントと、その中央に平衡フィーダ(ラダーライン)が接続され、その平衡フィーダと同軸ケーブルとの接続点にソータバランが置かれます。 その後、任意長の同軸ケーブルでシャックに引き込みます。詳しくはこのあと図面があります。 写真は水平エレメントと平衡フィーダの接続部です。

 このアンテナの特徴は:
(1)マルチバンドである。
(2)構造が簡単で費用もかからない。
(3)SWRは必ずしも低くならない。
(4)アンテナチューナを介して給電する必要がある。
(5)聞こえも飛びも良好である。
 ・・・・と言ったところでしょうか?(噂も含む・笑)

 SWRが限りなく1.0に近付かないと気が済まない人が多いJAのHAM局にはいま一つ人気がないようです。 SWRが1でないと言うのは『飛ばないアンテナ』と言う意味ではありません。 これは給電点のインピーダンスが純抵抗の50Ω(または75Ω)ではないと言うことですが、だから飛びの悪いアンテナだとは言いきれません。 極端な例ですがダミーロードのSWRは1.0ですが電波はぜんぜん飛びません。同じようにSWRが低くても良く飛ばないアンテナは幾らでもあるのです。

 うまくアンテナ・エレメント上に定在波が乗り、輻射効率が良ければアンテナとして機能します。その状態で給電点のインピーダンスは50ΩでないのでSWRは1にならないのです。G5RVアンテナはそのようなアンテナです。 SWRは低いが飛ばないアンテナとは対極をなすようなアンテナと言えるでしょう。 原理上SWRが低くなる筈のアンテナが高いSWRを示しているならそれは飛びも悪いでしょう。たぶん調整不十分か故障しているのですから。 その状態とは違うのです。G5RVアンテナはある程度高いSWRを示すのが正常なのです。

 あとは何らかの方法で50Ωに整合して使えば良いわけです。 一般的にはオート・アンテナ・チューナ:ATUを使います。 もちろん手動のアンテナ・チューナ(=アンテナ・カップラ)でも大丈夫です。できたらSWR=5程度まで整合可能なものが良いでしょう。 これで送信機側から見たSWRはめでたく1.0になります。 アンテナその物はハイパワーも可能なので、送信電力に見合ったチューナがあればリニヤアンプを付けた運用も可能でしょう。

 オリジナルのG5RVアンテナは3.5MHzから28MHzをカバーします。そのためエレメント全長は約30mもあります。 ここでは目的から7MHz以上がカバーできれば良いと考えてハーフサイズで製作することにしました。  従ってエレメント全長は半分の約15mとなります。 平衡フィーダ部分も同様に半分の約6mです。 ハーフサイズなら比較的狭い敷地でも架設可能でしょう。 ハーフサイズはG5RV-Juniorとも呼ばれるようです。ハーフサイズについてはG5RVも自著で触れていますので勝手な変形アンテナと言う訳ではありません。 そもそもアンテナ・チューナで整合して使うのが前提です。バンド幅も広く取れるそうですからシビアに共振周波数を追い込む必要はないようです。 ある程度調整したらあとはチューナ任せで良いのです。いい加減が好きなワタシ向きアンテナですね。(笑)

                    ☆

 このアンテナをテストしたのは架設済みの4バンド逆Vアンテナ(←リンク)を補えるアンテナを探ることが目的です。 4バンド逆Vアンテナはトラップ形式です。また、構造上やや短縮型になるため7MHz帯では使用可能なバンド幅が狭いのが弱点でした。 具体的には下側100kHzはカバーできるものの、上側の100kHzはSWRがずいぶん高くなってしまいます。 G5RVアンテナは比較的広帯域とのことなので7MHzのオンエアを補助できれば・・・と考えています。

 結果は後ほど示しますが、一言で言って悪くないアンテナです。 ハーフサイズではなくオリジナルのフルサイズで作ったG5RVアンテナならHF帯を運用するHAM局のメインアンテナとして十分使えると思います。 HF帯ハイバンドでビームアンテナを主に使う局の補助アンテナとしても意外に重宝するでしょう。バンドによっては幾らかのゲインも期待できます。 マルチバンド・アンテナとして、確かにATUは必須ですがトラップ式で苦労するよりも良いかも知れませんね。

# アンテナ製作には体を動かす行動力が必要ですがお暇と興味があれば実験レポートにお付合いください。 アンテナのレパートリーが増やせるかも知れませんよ。

                  −・・・−


 【Half-size G5RVの製作図】
 図のように架設しています。 左側が架設の状態を示します。 タワーの約13mの所から傾斜型に架設しています。エレメントはφ2.0mmの裸銅線です。この銅線は古いアンテナをリサイクルしました。(笑) 地面に近い方は地上高2m程度です。 ラダーラインはエレメントにほぼ直角になるようシャック方向に引き下ろしています。

 ラダーラインと同軸ケーブルの接続点にはあとで説明するソータバラン(Sortabalun)が入っています。 そのあと任意長の同軸でシャックまで引き込んでいます。当局の場合はリグ(ATU内蔵)まで約6mあります。 なお、50Ωの同軸が良いのかも知れませんが、既設の75Ωケーブル(5C-2V)があったので、そのまま使いました。 どうせATUのお世話になるなら50Ωでなくても良いだろうと言う解釈です。 後で読んだG5RVの記事(*1)によれば75Ωでも50Ωでも支障はないようです。 要するにどうやってもフィーダ上に定在波が立つので何でも大して違わないのでしょう。

注意:図の寸法は製作した際の初期値です。調整終了後の最終的な寸法ではありません。「初期値」と言う意味は、調整を始める前の「製作したままの長さ」と言う意味です。エレメント及びラダーラインは(かなり)長めに作ってあります。 測定して様子を見ながらエレメント及びラダーラインを少しずつ段階的にカットします。これを繰り返して希望の共振周波数になるように調整を行ないます。最終的な(調整終了後の)各部の寸法は架設する環境により変化します。 なお、エレメントに被覆線(例:IV線など)を使うと波長短縮率の関係から最適エレメント長は大幅に違ってきます。 製作の再現性を確保する意味から「裸銅線」を使うようにします。(メッキ線は裸線同様に使えるので支障ありません)

                    ☆

 【G5RVによる設計法
 以下、開発者:G5RVによる設計方法を要約しておきます。オリジナルは3.5MHz〜28MHzをカバーするアンテナです。従ってフルサイズでの設計になります。開発した時代から考えてもWARCバンドは想定外のようですが、整合範囲の広いATUを使えば取りあえずオンエア可能なようです。
 まず、エレメントの全長ですが、14MHz帯で(3λ/2)×速度係数:VFに相当する長さにします。 言うまでもないとは思いますが、λ(ラムダ)と言うのは電波の波長のことです。周波数fをMHz単位とすれば、波長:λ=300/fとなります。単位はメートルです。例えば10MHzの電波の波長は30mと言うことになります。 ここで、G5RVアンテナの設計中心周波数を14.15MHzとすれば:

・水平部の長さ:LA=(300/14.15)×(3/2)×0.98=31.17m・・・・・(1)となります。

各エレメントはその半分ですから約15.58mにします。速度係数:VF=0.98としました。

ラダーラインも同じ周波数で計算します。 ラダーラインの長さ:LL=(λ/2)×フィーダの速度係数とします。いま中心周波数は14.15MHzですから:

・ラダーラインの長さ:LL=(300/14.15)×(1/2)×0.98=10.39m・・・(2)となります。

なお、図のようにラダーラインはオープンワイヤ形式を使うので、速度係数:VF=0.98としています。他の型式のラダーライン(TV用の平衡フィーダなど)を使うと速度係数:VFが違いますから長さも異なります。(各種の平衡フィーダの速度係数について、このあと具体例があります)

 以上はフルサイズのG5RVの場合なので、ハーフサイズでは何れもその半分になります。従ってエレメント全長は約15.58mです。片側のエレメントはその半分の約7.79mとなります。ラダーラインも半分で良いので、約5.19mとなります。

 あるいは元の設計を単純に半分にするのではなく、設計周波数を28.5MHzにして設計式の通り計算を行なった方が良いのかも知れません。その場合、エレメント全長は:LA=約15.47mとなり片側あたり約7.74mです。ラダーラインの長さ:LL=約5.16mとなります。

・給電方法:ラダーラインの終わり部分にソータバラン(1:1)を入れる・・・(3)

  ・・・と言うのが基本です。ソータバランのあとは任意長の同軸ケーブルでリグ(ATU付き)まで引き込みます。

 以上がG5RVアンテナのすべてと言うことになります。構造としては単純ですね。

                    ☆

上図ではG5RVの設計法に従っていない部分があります。これは初期段階に於いて種々調査しても明確な答えが見つけられなかったためです。 やむなく長めに製作して調整で追い込む方針でスタートしました。 今では設計法がわかったので、新たに製作するならオリジナルの設計寸法を基本に製作開始するでしょう。(もちろん、最初は多少長めに作ります)

                    ☆

 図の右側はラダーラインの製作図です。 ラダーラインに使うワイヤー径はφ1.6mmです。インピーダンスが450Ωになるよう線間は34mmです。φ1.6mmを使ったのは手持ちの材料の都合なので、エレメントと同じφ2.0mmにしても良いです。但し、線間の寸法を43mmに変える必要があります。定在波を載せて使いますからラダーラインのインピーダンスは極端でなければ何Ωでも良いです。 調整は主にラダーラインの長さの加減でHAMバンドにてSWRが低くなるように合わせます。

 G5RVアンテナとしてはイレギュラーな傾斜型の架設ですが十分使い物になるようです。いくらか指向性が出るのはやむを得ないでしょう。 ただ7MHzでのオンエアでは余り指向性は感じられませんでした。 垂直偏波に近くなりそうなのでローカルノイズを拾いそうですが、逆Vアンテナとの切換え比較では顕著な違いは感じませんでした。 一応、平衡型ですから不平衡な接地型アンテナよりも有利なのかも知れません。

 開発者のG5RVによるお薦めの架設方法ですが、水平エレメントはなるべく高く水平に張ることが理想だとしています。DP系のアンテナですからこれは当然です。 しかし敷地が限られるなら、逆V形式やエレメントの先端を折曲げた架設でもよく働くとしています。 他の実験者によれば傾斜型に張っても良い成績が得られたそうです。 もちろん理想型での架設でないなら条件に合わせるための調整は必要でしょう。

【ラダーライン】
 いわゆる梯子フィーダの部分です。 このアンテナの場合、バンドによっては輻射エレメントとしても動作します。 従ってリボン・フィーダよりもこのようなオープンワイヤ形式の方が有利なのではないでしょうか?

 電線はφ1.6mmの銅線です。 セパレータは次の写真に示すようなアクリル樹脂製のパイプを使いました。 割り箸をパラフィンで揚げる方法でも製作は可能でしょうが今どきかえって面倒臭いです。 それにパラフィンで揚げても割り箸が何年も持つとは思えません。ノスタルジーの追求なら別ですが樹脂製のセパレータが良いです。

 アクリル樹脂は取りあえず耐候性があるので屋外使用でも安心です。 ワイヤーとの固定は接着などの方法も考えたのですが、面倒臭いですが写真のような方法が確実でしょう。 屋外用の束線バンドを使っても良いかも知れません。セパレータ相互の間隔は30cmにしてみました。

参考:ラダーラインの設計
ラダーライン(梯子フィーダ)の設計法を以下に示します。ここではインピーダンス:Zo=450Ωで設計します。600Ωについては結果のみ示しました。

なお、d:電線の直径、D:電線の中心間距離で単位はmmです。Z0は特性インピーダンスで単位はΩです。

Z0=276・Log(2D/d)・・・・・・(1) 注意:Logは底が10の常用対数です。

いま、Z0=450Ωにするための線間距離Dを求めようとしています。(1)を変形して:
D=(d/2)× 10^(450/276)・・・・・(2) となります。

d=1.6(mm)です。 また、450/276=1.630434・・・ですから:
D=0.8×10^1.630434・・・・(3)になりますので、以下関数電卓で計算して:

D=0.8×42.70068=34.16054(mm)・・・(4)となります。

 直径1.6mmの銅線を使い、450Ωのインピーダンスをもった梯子フィーダ(ラダーライン)を作るには、2本の電線の間隔(中心間)を約34mmで製作すれば良いことがわかりました。 あるいは直径2mmの電線で作るなら電線の間隔:D=約43mmにします。

 参考 1・600Ωのラダーライン:直径:d=1.6mmの電線を使ってZo=600Ωにするには電線の間隔:D=119mmにします。また、電線の直径d=2.0mmで作るなら、間隔:D=149mmです。

参考 2・450Ωのリボンフィーダ:同じ450Ωでも最近よく使われるようになっている「450Ωのリボンフィーダ」は速度係数が違います。 市販品の450Ωリボンフィーダを使うには速度係数:VF=0.91なのでオープンワイヤよりも8%くらい短くする必要があります。

参考 3・300Ωのリボンフィーダむかし懐かしい300ΩのTV用リボンフィーダも使用可能なようですが、速度係数の違いで長さが変わります。一般に手に入る300Ωのリボンフィーダは速度係数:VF=0.85です。一段と短くなる訳です。 なお、リボンフィーダは雨天や降雪によって特性変化するため開発者のG5RVは推奨していません。もし可能なら「中ぬき」してあるリボンフィーダを使うと改善されるでしょう。

# 製作の手間は掛かりますが損失など考えるとオープンワイヤ形式が最良のようです。

 【セパレータ】
 ラダーラインのセパレータです。 外径10mm、内径7mmのアクリルパイプを長さ50mmに切って作りました。ラインの間隔は34mmなので所定の位置に穴加工しておきます。 電線を通す穴径はφ2mmです。

 ラダーライン用として450Ωのリボンフィーダーも販売されているので購入すると手っ取り早いです。 但し、必要な約6mを切り売りしてくれる所はありませんからこのアンテナを作るだけでは余分が出て勿体ないかも知れません。

 趣味ですから手間と時間はかかっても可能なところはなるべく手作りで・・・と思いますがそれなりに大変なので、特にお奨めはしません。しかし活用できる部材の手持ちがあれば手作りは楽しいものです。

 材料費は電線とアクリルパイプの合計で1,500円くらいです。 手に入る450Ωのリボンフィーダは輸入品の特殊な物なので600円/mくらいです。 製作の手間を考えれば既製品も安いと思いますが、手作りすれば半分以下の費用で作れます。
 
 【ソータバラン】
 ・・・と言うとソレっぽい(笑)のですが、同軸ケーブルを直径150mmくらいにぐるぐる巻きにしただけです。写真のように12回巻いてあります。12回の根拠は特にありません。長さに余裕があったので12回にしましたが、10回でも15回でも良いでしょう。

 ボビンに巻き付けた方がそれらしく見えて良いのですが、面倒なので巻き束ねておしまいにしました。 これでも高い周波数では十分にバランとして機能します。 空芯ですから低い周波数ではインダクタンス不足になるためあまり効いていないかも知れません。重量があるのでロープで吊っています。

 バランは製作事例で良く見掛けるため取りあえず入れていますが、実際の効果は良くわかりません。 開発者:G5RVの説明によれば同軸ケーブル上に定在波が生じてTVIが発生するのを抑止する効果があるそうです。高い周波数のHAMバンドでは意味があるでしょう。

 G5RVアンテナと称するものは色々なバリエーションがあって、給電点に1:4のバランを入れている例も見掛けます。梯子フィーダのインピーダンスを同軸ケーブルのインピーダンスに変換しようとする意図でしょう。しかしこの考えは梯子フィーダ部分に定在波が立っていないことが前提なので、G5RVアンテナの動作から言えば間違っています。 また1:1の一般的なコア入り強制バランを使う例もあるようです。 米国ではすべてを含むG5RVアンテナのキットがたくさん市販されていますが、中には勘違いしているキットも見掛けます。

 殆どのHAMバンドで給電点インピーダンスがリアクティブになるためコア入りのバランは適当ではありません。 条件次第でしょうがコア入りの1:1バランは損失による過熱のため損傷する危険があると指摘されています。 十分なインダクタンスは得られませんが磁芯のない同軸バランならどのような状況でもあまり問題は起きないようです。 コア入りのバランを避けるよう記述している例も見ますが、そのような理由からです。

 同軸ケーブルは使わず、すべてラダーラインで給電しリグの近くに平衡型のアンテナチューナを置く方法があります。 これは良い給電方法で、もちろんこの場合は途中にバランなど入れる必要はありません。 ラダーラインには定在波が立っていますので他のケーブルや金属から十分離して引き込む必要があります。

【SWR特性・初期状態】
  左図は作ったままの初期状態のSWR特性です。 横軸の左端が1MHz、右端が100MHzです。対数目盛りになっています。 縦軸は一番下の赤いラインがSWR=1です。縦軸一目盛りの刻みは約2.0です。

 マーカーは7MHz、14MHz、28MHz、50MHzの各HAMバンドに相当する共振点を示していますが何れも周波数は低めです。 主目的の7MHzバンドは6.456MHzでSWRがもっとも低くなっています。このままではHAMバンド外なのでアップする必要があります。 他のバンドも全般に低めなので調整する必要があるわけです。 これは当然でエレメントおよびラダーラインともに調整を見込んで長めに作ってあるため共振周波数も低くなるのです。 しかし設計値そのままを作ったとしてもまったくの無調整では済まないようでした。もちろん架設環境しだいだと思います。

 G5RVアンテナのSWRはかなり高いので一般的なSWRメータでは少し測定しにくいようでした。ケーブルの途中に挿入するインライン型のSWR計はSWR=3を超えると不正確になります。 ここではネットワーク・アナライザと方向性結合器を使って測定しています。画面はリターンロスの値をSWRに換算した表示になっています。 ネットワーク・アナライザを使ったのは稼働率を少しでも上げる意味もあります。 そうでもしないとネットアナは使用頻度がたいへん低いので完全な遊休設備になってしまうでしょう。w

 最近ポピューラになって来たアンテナ・アナライザでも類似の測定が可能でしょう。当たり前ですがアンテナ製作に向いています。但し、よほどのアンテナマニアでもないと使用頻度は非常に低いでしょう。大抵のHAM局には勿体ないです。 工夫次第なので高級な手段が不可欠と言う意味ではありません。従来型のアンテナ・インピーダンス・メータやSWR計でもあらかたの様子はわかります。 もちろんビジュアルな測定器を使った方がわかり易いのは言うまでもありません。

 測定場所はシャックのリグの近くまで引き込んだ同軸ケーブルの先端です。 ケーブルを含んだ測定になるため予め同軸ケーブルの影響を確認しておく必要があります。 数mのケーブルを追加して周波数特性の変化を見るのです。 アンテナその物の共振周波数はほとんど変化しませんが、ケーブル自身、あるいはケーブルとの相互関係で現れる共振点は追加のケーブルによって変化するので簡単に判別できます。

 ものの本によれば「アンテナの特性は給電点で測るべし」と書いてあります。それが理想かも知れませんが実際の使用時にはケーブルでシャックに引き込みます。 従って実際に近い状態で測定するのもあながち不合理ではないと思っています。但しケーブル長の影響を良く確認しながら測定する必要があるわけです。

参考:予め電気長がλ/2のn倍(nは整数)になるよう調整した同軸ケーブルを用意しておき測定する方法があります。別のアンテナの例ですが、バンドごとにケーブルを用意して実際にやってみたところたいへん旨く測定できました。但しそのようにしなくても上記のような注意を払えばHAM局のアンテナ調整には支障ないようでした。

 【SWR特性・調整後】
 左図は調整後のSWR特性です。 横軸の左端が1MHz、右端が100MHzです。 縦軸は一番下の赤いラインがSWR=1です。上の特性図よりも変化が大きくなったように見えますが、わかり易いように縦軸一目盛りの刻みを1.0に変更しています。

 アンテナ建設の目的から7MHzを最優先に調整しました。 具体的にはエレメントの長さを短くするとともにラダーラインも短縮しました。 従って既出の製作図面よりもエレメントもラダーラインも短くなっています。

 図面の寸法から始めて、調整ではエレメントは両端それぞれ15cm程度カットしています。 さらにラダーラインも約1mカットしました。 マルチバンドで使用するつもりならエレメントは逆に数10cmくらい長くし、ラダーラインの方を長さ5.2m程度(かなり短くする)を目安にスタートすると良い筈です。*1 7MHzのSWRはやや高くなりますが14MHz、28MHz、50MHzのSWRは低くできます。ハーフサイズのG5RVアンテナでは28MHzがもっともSWRが下がるバンドになります。 個々の周波数で調整できないため、このあたりは各バンドの兼ね合いではないでしょうか。 最後は妥協と言うことです。(爆)

 マーカーは7MHz、10MHz、14MHz、28MHz、50MHzバンドに相当する場所を示しています。 画面の下部に各マーカーの周波数とSWR値が数値表示されています。 7MHzはSWRの底が旨くHAM-Bandに入りました。 しかし、他のバンドでは底の周波数が上の方に上昇し過ぎています。 エレメント長とラダーラインの加減で7MHzの共振周波数を上げながら、他のバンドのSWR最低点がが高くなり過ぎないように出来そうですがその方法も程度問題なので妥協が必要でしょう。

 なお、もともとWARCバンドはあまり考慮されていないアンテナです。10MHzはSWR=7近くあるのでオンエアには適しません。ほか18MHzや24MHzもSWR=5以上なので旨くATUでチューニングできないかも知れません。また21MHzもあまり良くないようです。 使用予定はありませんが28MHzと50MHzはまずまずFBなようです。(以上、ハーフサイズのG5RVアンテナの場合です)

【7MHzの詳細特性】
 7MHzの特性を詳細に観測しています。 横軸の中心は7MHzです。横軸一目盛りは50kHzでリニヤスケールです。 また、縦軸はいちばん下の赤いラインがSWR=1で、縦軸一目盛りは1.0です。 マーカーは7.0MHz、7.1MHz、7.2MHzに置いています。

 このように7MHz帯を優先に調整したのでまずまずの特性になりました。但し、いちばん低くなる所でもSWR=2.5くらいあるのでATUの併用は必須です。 7.0MHz〜7.2MHzでSWRの急変がないのでHAMバンド全体で使う事ができます。 どうやらうまく目的の特性が得られました。 これで良く聞こえて飛んでくれれば言うことなしですね。

【WSPRで飛びのチェック】
 今回もWSPR(←リンク)で飛び具合のチェックをしてみました。 盛夏の7MHzですから、コンデイションはいま一つで飛びは良くありません。 特に昼間の7MHzは遠方にはぜんぜん飛んでくれませんねぇ・・・。

 なるべくコンディションが上がって来た時刻を見計らって確認してみました。 既設の4バンド逆Vアンテナとの比較で検討したいと思います。 WSPRを使った比較ではG5RVの方が指向性が少ない関係で北米方面は有利な感じでした。 逆Vは南南東方向への指向性からオーストラリア東岸、ニュージーランド方面には明らかに良いようです。 逆Vアンテナの方が架設条件が良いため幾らか有利なようですが、送受ともG5RVの方が良いケースもあって決定的な差はないようです。

 7MHzのWSPRは7038.6kHzのUSBモードで受信します。 耳でワッチしていますと近接した周波数でオンエアするロシアの「Letter Beacon」(レタービーコン)が聞こえます。 「F」の繰り返しが7039.2kHzのウラジオストック(新潟の対岸:当局から1,000km弱)、「K」の繰り返しが7039.3kHzのペトロパブロフスク(カムチャッカ半島:約2,400km)、「M」の繰り返しが7039.4kHzのマガダン(オホーツク海北部:約2,700km)のようです。 他にも数局オンエアしているようですがこの季節あまり聞こえないようでした。

 ハムバンドに居座っていて邪魔な存在ですが、アンテナを瞬時に切り替えた時の比較に便利なのでワッチしてみました。 中距離の伝搬状態の比較ができます。 逆Vアンテナとの比較ではG5RVが良い場合と、逆Vが良い場合とがあるようでした。偏波の違いなどが原因かも知れません。 しかしノイズフロアの差なども含めほぼ同等の受信性能だと言えそうです。

参考:WSPRの継続運用
一連のアンテナ製作ではでき具合の判断にWSPRはとても便利でした。どれも普通のQSOのためのアンテナですが使っていない時はWSPRの運用に使いましょう。ずっと続けられるよう整備しています。 連続オンエアがちょっぴり役立てば良いなあ・・と思っています。


追記:【既設アンテナへの影響について
 狭い敷地・・・「猫の額」に密集して複数建設したアンテナです。しかも同じ周波数帯を含みます。 アンテナ相互の影響があって然るべきかも知れません。

 指向性への影響を調べるのは難しいですがSWRの変化は確認しています。 4バンド逆Vアンテナへの影響がもっとも懸念されましたが、実際には何ら変化は見られませんでした。
 エレメント同士が平行になるよう張ったアンテナなら影響もあるでしょう。 しかしほぼ直交した形に架設していますから結合しないようです。 4バンド逆VアンテナのSWR値への影響は認められませんしSWRがボトムになる周波数の変化も見られませんでした。7MHzほか各HAMバンドでも同様です。
 従って補助アンテナのテストと言いつつもハーフサイズのG5RVを恒久的に使おうと思っています。 接続部分を耐候性に処理するなど対策を行なっておきました。 飛び方、聞こえ方が幾らか異なるため同一バンドでアンテナを切り替えられるメリットはあると感じます。トラップタイプのアンテナと違い雨天の影響を受けにくいのもFBです。(写真は借りてきたにゃんです・笑)

                  ☆ ☆ ☆

 HAMのコールサインが付いたアンテナは沢山あります。古くはKRAUS博士の8JKアンテナがありました。HB9CVアンテナは2エレメント・ビームアンテナの代表でしょう。W3DZZアンテナも古くから有名なマルチバンドアンテナですね。飛ばないアンテナの代表はT2FDでしょうか? 但しこれはコールサインではありません。 G5RVアンテナも結構古くからあって知ってはいましたが注目したことはありませんでした。多分アンテナ・チューナが面倒だったからかもしれません。今はチューナ内蔵のリグが普通になったのでハードルはだいぶ下がりましたね。

 ハーフサイズのG5RVアンテナですが、正直なところそれほど期待していませんでした。 取りあえず7200kHzあたりまでオンエアできるようになればいいなあ・・・と言うくらいの気持ちでした。ローカルさん相手にそこそこ飛べば御の字だろうと・・・。 架設条件もメイン・アンテナと比べるとだいぶ悪くなっています。

 7MHzを優先に調整したところうまくバンド全体がカバーできました。 更に実際に使ってみると受信感度も良好で飛びもまずまずのようです。 まんべんなく飛ぶと言うわけでもないでしょうが夕刻になって北米が開け始めると他のWSPRビーコン局より逸早く太平洋を渡るようでした。 パワーやロケーションの違いもあるので一概には言えませんが悪いアンテナではないようですね。 傾斜型に架設した関係で、打ち上げ角が低くなってバンドの開き始めに特に有利なのかも知れません。

 WSPRビーコンが太平洋を渡る頃にはロシアのレタービーコン「F」と「M」と「K」もQSBを伴いながら聞こえ始めます。 G5RVは結構いけるアンテナではないでしょうか。 何かダイポール以外の変わったアンテナを使ってみたくなったらお奨めできると思います。 いつか7195kHzのAMでお会い出来るかも知れませんね。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

参考記事*1:タイトル:『The G5RV Multiband Antenna ... Up-to-Date』、著者:Louis Varney / G5RV、掲載書籍:ANTENNA COMPENDIUM:Volume1 、掲載ページ:pp86〜90、発行:ARRL, 1985年、現在の価格:$20-、ISBN:978-0-87259-019-9、Amazon.co.jpで購入可能、オリジナルはRSGBの機関誌Radio Communication July 1984,pp572-575からの転載です。 内容:フルサイズのG5RVアンテナについてWARCバンドを含む各バンドの波の乗り方を解説し、構造を説明しています。給電方法など使用上の注意が書いてあります。このアンテナに関する開発者自身による正式な見解や解釈がわかります。 残念ながら実際の調整法や特性の実測例が示されている訳でもないので必読とは言えません。執筆当時すでに73歳とご高齢ですからもうアンテナの製作などなされなかったのでしょう。

2016年8月3日水曜日

【Antenna】 Quad-Band Inverted-V Antenna , plus

【アンテナ:4バンド逆Vアンテナ:製作資料編】

新しくなったLow-Band Antenna
 逆Vアンテナの続きです。 写真は別のアングルから撮影したニューアンテナです。 珍しく曇天での撮影ですが、ワイヤーアンテナは晴天よりも写り易いようです。

 下から見た様子で頂角の開き具合いがわかると思います。 約100度の狭角に開いている方向が南南東にあたるため、無視できない指向性が現れているようす。ニュージーランドやオーストラリア東岸方向が有利なのは0.5WのWSPRオンエアでも明確です。 サイド方向に当たる北米はどうも不利なようですが敷地の関係もあって改善は望めません。 このあたり、アンテナは各局の架設環境の制限があるので思うに任せないのが現実ではないでしょうか?

 先のBlog(←リンク)では旧Low-Bandアンテナの劣化とニューアンテナの製作・調整、そして簡単な試験実績などを紹介しました。 その時点では製作資料は製作途中で書き留めたメモ書きのレベルで纏まっていませんでした。 その後資料のリクエストも頂き、やっとお見せできるようなイラストにできたので掲載することにします。

 自家用の記録が目的なので、あなたが知りたいことのすべてが書かれているわけではないかも知れません。 ほかに何か知りたい所があれば、支障ない限りご返事しますので製作をお考えなら遠慮せずにコメントなりメールでもどうぞ。

トラップのコイル部製作図
 1.9MHz、3.5MHz、7MHz、10MHzの4バンドアンテナです。 動作するエレメントよりも下側のバンドを切り離すためのトラップが必要です。例えば10MHzで動作する時には、その先にある7、3.5、1.9MHzのエレメントを10MHzのトラップによって切り離します。 従って一番下のバンドになる1.9MHzを除いた3.5MHz、7MHz、10MHzに共振したトラップが必要になります。
 図は、3種類のトラップのコイル部分の製作図です。 必要なことは図に書いてありますが、巻き線するためのボビンは全て外径60mで長さ120mmの同じサイズです。肉厚は1.5mmのものを使いました。 全部で6個必要ですが、ホームセンターで十分な長さの塩ビパイプが全国どこでも500円程度で購入できる筈です。
 穴は8個必要ですが、図では6個しか書いてありません。これら6個の穴はφ2mmです。 残りの2個は共振コンデンサ代用の同軸ケーブルを束線バンドでボビンに固定するための穴です。これは巻線に干渉しないない位置に現物合わせで適宜開けて下さい。

 重要なポイントはL2の寸法です。 巻き線はL2の間でなるべく均等なスペースが開くように巻きます。 一部に片寄るように巻くとインダクタンスが予定の値になりません。 巻線が済んだら何らかの手段でインダクタンスを調べておくと安心です。 値のわかっているコンデンサとGDMなどを使うと良いと思います。 図のインダクタンス値と±5%以内になっていれば支障はないです。 空芯コイルですからそんなにずれることは無いはずです。

同調コンデンサ製作図
 トラップを共振させるためのコンデンサには同軸ケーブルを使います。 必ず50Ω系の同軸ケーブルを使います。 ここでは5D-2Vを使いました。 このトラップは設計上500W程度まで大丈夫な筈です。 50Wくらいでしたら3D-2Vでも良いでしょう。
 いずれも十分な長さが取ってあるので容量値は大きめです。上記のコイルと組み合わせると共振周波数は必ず予定よりも低くなります。 コイルと組み合わせる前に容量計で初期容量を測定しておきましょう。長さあたりの容量は1cmあたり1pF見当です。

 GDMと受信機、あるいはスペアナ+TGのほかVNAなどを有るものを使って共振周波数を確認します。 共振周波数と初期容量の値から目的周波数に共振させるためにあと何cmくらい切り詰めれば良いか計算して下さい。但し一気に切り詰めないようします。面倒ですが段階的に切り詰めて行き目的周波数に合わせます。

 切り詰める方法ですが、網線を傷つけないようにビニル外被を除去します。 網線をビニル外被の端面の位置で丁寧に切り取ってから共振周波数を確認します。 少しずつ切り進めて2つのコイルの周波数が予定の共振周波数に良く合うようにしましょう。目標は±10kHz以内です。
 所定の周波数に合ったら網線を切断した部分を覆うように自己融着テープを巻いて十分な防水処理をしておきます。シリコーン系のコーキング剤を塗って固めておくのも良いと思います。 コイルのボビンに一端を固定したら適当なループ状に纏めておきます。ループのサイズは適当で大丈夫です。 前のBlog(←リンク)に写真があります。

4バンド逆Vアンテナの構造図
 図はアンテナの組み立て構造図です。 各バンド用のエレメント長は必ず図の長さよりも長い所から調整を始めます。

 このアンテナは作ったままでは使い物になりません。調整が必須です。 調整の順番は必ず高い方のバンドから・・・即ちこのアンテナの場合は10MHzから始めます。  そのようにすればバンド間を行き来する必要がなく調整の手順が一方向で済むのでもっとも合理的です。それでも1バンドあたり3〜5回くらいの繰り返しが必要でしょう。

 トラップとエレメントの接続部分は初期段階では仮に固定します。 なるべく小型の「ワイヤークリップ」を使ってエレメントとトラップの引出し線とを仮固定すると調整の自由度があります。 仮の段階でもアンテナは最終的な架設状態と極力同じになるようにして調整しないと最後の段階で共振周波数がずれてしまいます。

 アンテナの共振点が概ね予定の周波数に近づいて来たら、20cm程度の調整用のヒゲを見込んでエレメントとトラップの引出し線の部分を笛巻きにしてからハンダ付けで固定します。 ワイヤークリップは除去しハンダ付けが済んだ状態からアンテナの共振点を目的周波数に最終的に追い込みます。 この時にはアンテナインピーダンスメータだけでなく、送信機とSWR計も併用してSWRの最低点がバンド内の所定周波数に来るように微調整します。

参考;図面のエレメント寸法は概略の数値です。架設から3ヶ月後を目処に一旦降ろして状態の確認を行なう予定です。その際に延びがあれば微調整し詳細にエレメント寸法の測定を行ないます。 実測値により数値を書き換えて図面を改訂する予定です。興味があれば9月頃またご覧下さい。

応用:バンド数を減らす方法を説明します。低い方のバンドを減らす場合、一番低い周波数になるバンドのエレメントは図の値より長く必要です。一例として1.9MHzをなくす場合、3.5MHzのトラップを省略するとともに、3.5MHz用のエレメントは7mではなく、例えば7.5mのようにもう少し長く必要になります。 逆に高い方のバンドを減らす場合、すべてのバンドに影響が及びます。トラップは同じように製作して大丈夫ですが、各バンドのエレメント長はかなり違ってきます。その場合もエレメント長の加減で各バンドにアンテナが共振するように調整すればOKです。

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  ところで、こうした資料はどれほど役立っているのでしょうかね? 私が思うにコレクションされるだけのような気がしてなりませんが? 図面がBlogに掲載されるとすかさずダウンロードされるお方があります。 しかしネットの徘徊ばかりで行動力はほとんど無いのではありませんか??(笑) どんな製作モノでも同じだと思いますが資料集めの人に何か作れる可能性はほぼゼロでしょうね。hi hi まあアンテナは架設環境が無ければ無理な話しでしょうけれども・・・。 もちろんアクティブにお楽しみのお方も存知ておりますよ!!

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 愚痴っていても進歩はないので、アンテナ製作で参考にした書籍を書いておきます。少しでも参考にして頂き、何がしか一歩でも歩み出して頂けたらとても嬉しいです。 入手は特にお奨めしないので、機会があればOMさんのシャックとか図書館ででも眺めてみては如何ですか? それで自分に役立ちそうだと思ったら手に入れて下さい。  絶版が多いので古書店を当たる必要があるかも知れません。 どれもオークションで競り合って入手するほどの価値はないです。競るくらいなら別の新しい本を買いましょう。 高額入札などされませんように!



アンテナ製作の参考書
 マルチバンドのワイヤーアンテナと言う視点で参考にした図書を纏めています。 参照の度合いは異なりますが、製作に必要な情報は一つの情報源からだけでは不十分でしょう。 複数を比較検討する必要がありました。 また、アンテナは架設環境によって調整後の寸法が異なるのは常識なので製作データは鵜呑みにできません。 色々比較してみることが大切です。

アンテナハンドブック
 かつてのHAM局には必ずあるようなハンドブックでした。 逆に言えば、HAM局に向いているアンテナ関係の書籍は殆どありませんでした。 ハムバンドごと区切って典型的なアンテナの製作が掲載されています。 但しWARCバンド以前の書籍なので10、18、24MHzの各バンドのアンテナはありません。しかし他バンドの例で応用が効く筈です。当然ですが長波・中波ハムバンドの例もありません。

 アンテナの製作部材と加工方法、架設用の部材とその使用方法などデータは豊富です。 今でも役立つ資料は多いのですが残念ながら十分古くさくなってしまったので同様のコンセプトで「新刊」が強く望まれます。 JA6HW角居さんのようにハンドブックをちゃんとコーディネートできるお方は居られないのでしょうかね? 写真は1970年の初版です。改訂版が幾つかあります。

ワイヤーアンテナ
 ワイヤーアンテナに特化した書籍です。写真はCQ誌の別冊扱いですが後に単行本化したと思います。 1993年ですからそれほど古くさくありません。 DP系、GP系、スローパ系などワイヤーで作るアンテナの特性と製作法が書いてあります。

 上のアンテナハンドブックには登場しなかったようなアンテナもあって参考になります。 アンテナは購入するものだと思っているHAMには役立ちません。しかしワイヤーアンテナはHAM局のアンテナの基本ですから部材集めから始めて一度は自力で作ってみたいものです。 そんな時には役立つだろうと思います。 この書籍は絶版でいまは類似のワイヤーアンテナ本が出版されていますが、これを選んで紹介しました。他の書籍がダメと言う意味ではありません。 もし最近の本を買うなら大きな書店で手に取って実際に中身を見てからが良いです。いささか物足りない内容のアンテナ本もあります。読み物と勘違いしているようなアンテナ本とかも。(笑)

アマチュアのアンテナ設計
 戦前からのアマ無線の師JA1CA岡本OT(故人)執筆のロングセラーアンテナ本でした。 とかくアンテナの理論を扱った書籍は難しいものです。 しかし基礎的な電磁気学を知ることなくアンテナを論じていたら迷信じみたオカルトチックなアンテナばかりが登場してしまうでしょう。アンテナの基本的なところは常に振り返ってみたいものです。

 比較的平易な書き方でアマチュア局が良く使うであろうようなアンテナに絞り解説されています。 アンテナを理論的に扱う書籍はほとんどが教科書的なので読んでいて眠くなってしまいます。 この本は厳密さには欠けるかも知れませんがHAMの視点なので眠くならずに読めると思いました。 短縮アンテナの原理など考え方の整理にも役立ちます。1974年が初版で確か第3版までだったと思います。最終版は多少改訂されて「アマチュアのアンテナ設計法」と改題されています。類似書が無いためか古書はどれも高いので図書館の利用がお薦めです。

THE ARRL ANTENNA BOOK : 15thED
 米国のアマチュア無線連盟:ARRLのアンテナハンドブックです。 2016年現在では第23版になっています。 電波伝搬から始まりアンテナと給電の理論的な解説のほか、豊富な製作・評価例が掲載されています。 給電技術とアンテナチューナほかアンテナ系の測定器の製作記事もFBだと思います。恥ずかしいから真似てCQ誌に投稿なんかしないでね。ww

 JAの書籍では往々にして「建てました。SWRは良く落ちました。遠くに飛びました!」的なアンテナ記事が多いのですが、もう少し突っ込んだ内容があるように思います。 ARRLが監修しているので某国の商業誌とはその辺りが違うのかも知れません。 なお、英語ですので、はなから英語嫌いには「うたた寝の枕」になってしまうかも知れません。(笑) 新版は比較的高価ですが、旧版の古書なら数ドルで買えると思います。内容はそれほど違いません。なるべくなら新しい版が良いです。

HF Antenna for all locations
 『どこでも建てられるHF帯アンテナ』という英国の無線連盟(RSGB)の書籍です。 上記のARRLの書籍は機関誌QSTの内容を纏めている関係で、米国の事情に基づいた内容になっています。
 そのため島国の英国や日本のように敷地に恵まれないHAMには少々無理のあるアンテナが多いものです。

 それに対して英国のHAMは環境が似ているので類似の工夫が見られて面白いものです。機関誌RadComの記事がベースでしょうか? コンパクトなアンテナが多いように感じます。 またG5RVのような英国HAMの名前がついたアンテナなど、欧州系のアンテナも扱っているので楽しんで眺めることができました。 同じ英語の書籍でもARRLの本ばかり見ていると米国の事情しかわかりませんからね・・・。2016年現在2nd EDが登場しています。しかし購入はお奨めしません。ARRLやJAの書籍で十分でしょう。

Low-Band DXing
 HF帯ローバンドに特化したハンドブックです。かつてはLow-Bandのバイブルのような存在でした。

 リグへの言及もありますが、やはりローバンド通信の真髄はアンテナにあるでしょう。 ローバンドDX向きのアンテナについて詳しい解析が行なわれています。 ローバンドの電波伝搬に関する記述も参考になります。

 なお、DXingの書籍ですから必然的に巨大なアンテナが多くなります。 従って「兎小屋に猫の額」の当局にとっては垂涎のアンテナばかりです。 しかしローバンドに賭ける各局の意気込みや苦労はたいへん興味深いものです。  巨大なアンテナの無いQRPerは電波伝搬の特徴を捉えないとQSOできませんからバンドの性質を知る研究は大切だと思います。700ページ近い厚さの新版が出ています。Low-Bandマニアなら既に持っていますよね。(笑)

LF Experimenter's Source Book
 長波の通信に特化して情報を纏めた書籍です。 まだJAでは136kHzがライセンスされなかった時代にヨーロッパでは実験的に開放されました。 その頃から長波の通信に興味を覚えたもののJAには参考にすべきアマチュア向きの情報がなかったのです。雑多な記事の寄せ集めと言った感じでしょうか。記事に一貫性はありません。1998年RSGB発行です。絶版でしょうね。あまりお奨めするようなものではありません。

 いまではJA各局の努力で長波の情報も豊富になりましたが、先人の苦労や工夫が感じられて面白いものです。多分、いまではやらないようなことも書いてあります。(笑)

 そのまま4バンド逆Vアンテナの参考にはなりませんが、何とか活用してLF帯にオンエアしようと思い至る切っ掛けになりました。 但し、まだ実行していません。いずれは・・と思っているんですがネ。

                  ー・・・ー

 以上、ローバンドのアンテナにフォーカスしてアンテナ関連の書籍を紹介してみました。 ネットに溢れている怪しげな情報に頼ると方向を誤る危険性があります。 たまには書籍を紐解いてみては如何ですか? 何となく自分には縁遠い世界だと思っていたアンテナがあんがい身近に感じられるかも知れません。もちろんアンテナの楽しさを味わうには行動力が肝心です。



 何か作ったら纏めて情報発信できたら良いなあ・・と思っています。 アンテナは架設環境に左右されるので再現性が良くありません。 しかし自身で建てようと思った時、先達の実例は心強いものがありました。私の製作例もそうであって欲しいものです。

 部材の使い方とか、架設の工夫などアンテナの理論本には書いてありませんし、材料には時代の変化もあります。昔々のように割り箸をパラフィンで煮て梯子フィーダを作る・・・と言うのはノスタルジーでしかありません。

 新しい知識や情報はネットが頼りの面もありますが、どう考えてもおかしいアンテナもあって、そうしたものはいずれ消えてなくなります。過去を振り返えれば良くわかるでしょう。 変なアンテナに騙されたくありませんね。ネットだけに染まったのでは怪しげな小路に迷い込むかも知れませんから視野を広げておきましょう。 ではお空でまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm