2018年1月2日火曜日

【部品】Shopping AD603 IC-Chip

AD603を中華通販で買ってみる
中華通販サイトにて
 12月のBlogではAD603と言う高性能受信機向きのICがお安く出回っているという話しから始まりました。 自身の実験には頂きもので済んでしまったのですが、やはり自ら買って確かめてみる必要があるでしょう。 以下は何かと話題の中国サイトでショッピングを楽しんだ顛末です。

 Aliexpressのサイトで「AD603」をキーワードに検索すればたくさんのお店がヒットします。 AliexpressはAmazonのマーケットプレースあるいは、楽天のサイトに近い感じです。対象の商品を扱っている様々なお店がヒットします。

 お値段もまちまちでお店の信用度もそれぞれ異なるようです。 ここはお試しですから私が検索した時点で一番安いお店にチャレンジしてみることにしましょう。 いちばん怪しそうなお店で買ってみようと言うわけです。(笑)
 左の写真を見てもらえばわかりますが、10個で$2.88-で単価は$0.288-ですから換算して一つ40円もしないことになります。いまや中国の物価もずいぶん高くなっているのでかなり安いといえるでしょう。

 AD603は汎用のICと違ってもともと安くないチップです。送料は別ですがこのようなお値段でマトモな商品を送ってくるのか少々スリルがあります。 しかし総額で2,000円ほどの買い物ですし、いちおう購入者保護の仕組みもありますから恐れる必要もないでしょう。さっそくやってみることにしました。

参考:画面は購入したショップを後日アクセスした際にキャプチャしたものです。ご覧のようにAD603は既に売り切れです。 しかし他のショップでもたくさん販売されていました。今ならもっと安いお店もあるかもしれません。もし興味があったら検索してください。 もちろん海外通販を推奨する意図はありませんし、何かあってもご自身の責任でお願いします。 購入者保護の仕組みは、商品が届かなかったり輸送過程で破損していたことへの対処でしょう。トラブルなく届いた物品の性能や品質云々までカバーされるとは思わない方が良いようです。

 以下、中華通販で買ってみただけのお話しなので技術的要素はほとんどありません。 Blog更新がこんなお正月早々にかち合うとマトモな実験が進むはずもありません。ごく軽い話題でまとめてみることにしました。もし良かったらお正月の暇つぶしにでもどうぞ。w

 【国際書留は追跡できる
 電子部品は軽量なものが多いことから送料無料のお店も多いようです。 私が購入したお店は無料ではなく$2.11-ほど掛かりました。 注文したAD603は国際書留郵便で発送されました。
 写真はその追跡画面です。 中国国内の扱いも含めて通過履歴がわかるようになっています。 但し日本国内ほど細かい追跡はされないようです。 このように自宅に配達されるまで逐一状況をつかむことができました。 配達予定の都合が悪ければ局留めにしてもらうこともできてなかなか便利です。

 なお、件のお店ですが、注文を入れてから発送されるまで1週間ほど掛かりました。Aliexpressの規定では1週間以内に商品発送の手続きが取られないと自動的にキャンセルになったと思います。そのギリギリになって駆け込みで発送したようでした。 12月〜2月ころまではクリスマスや中華圏の春節などの行事があり、通販や郵便は大混雑するでしょう。タイミングが悪いと予定外に時間が掛かることも考えなくてはなりません。 日本郵便(JP)はかなり信頼できますが海外は必ずしも信用できないところもあるようです。海外の通販ではある程度の慎重さや寛容さは必要かもしれません。はなから日本と同じサービスは期待できないと考えた方が腹もたちません。(笑)

小さな封筒で届く
 手のひらサイズの小さな封筒で届きました。 薄くて軽いのでこの中に本当にICが入っているとは思えないくらいです。

 表面実装型のICですから予想ではキャリヤ・テープに封入された状態のICが届くのだろうと思っていました。 ですから、こんなに薄くて小さな封筒は予想を裏切るものでした。

 全部で20gで物品の価値はUS$で$3-となっています。この程度ですと日本国内で消費税を徴収される可能性は低いような気がします。 しかしたとえわずかでも徴収される可能性がないとは言えません。 今回は徴収されませんでした。 Digi-keyほか米国の部品商社経由で数千円以上のお買い物をするとほぼ確実に消費税を取られますね。

 【バラ詰め・笑
 封筒の厚みがない理由がわかりました。 写真のように「バラ」の状態で送られてきたのです。 レールあるいはキャリヤ・テープから外された裸の状態です。

 チップマウンタで基板に搭載する訳ではありませんから、バラでも支障はありません。 しかしこのような状態だとどんな扱いをされたのかが心配になります。 例えばきちんと静電気対策してハンドリングしているのか・・など気にするとキリがありません。(笑)

 表面実装用のICの場合、簡単に差し替えて確認することはできません。 従って扱いや輸送状態に信頼が持てないと基板にハンダ付け実装して大丈夫なのか心配になってしまうのです。 まあこのあたりが最安のお値段で売られていた理由なのかも知れませんね。

細かいことを気にする人は、もっとマトモそうなお店で買うに限ります。

ロットもバラ・笑
 印刷された型番は間違いないようですし簡易検査(後述)によれば中身もちゃんと入っているようでした。 しかしロット番号と思われる数字はバラバラなのでした。

 おなじロット番号のチップも数個ずつ有るにはありましたがロットはバラバラと言って良いくらいです。 どうすればこのようなことになるのかちょっと想像できません。

 ただしニセモノ制作業者がでっち上げたフェイク品ならわざわざ手間をかけてロット番号をバラバラに印刷する理由はないでしょう。 ロットは揃っていませんが、むしろこれってホンモノだと思って良いのかもしれませんね。

使えるんだろか?
 幾つかピン間の抵抗値を測定比較する方法でホンモノなのか・・・中身が入っているのか・・・推測することができます。 比較対象は間違いなく動作している本物を使います。

 もちろん、その程度では微妙な特性ズレのような不良ICを見付けることはできません。 しかし正規の製造工程を流れてきたICなら表面に捺印・印字するのは最終工程のはずです。 たぶん既に何回かの検査工程は経ています。 したがって印刷されていて中身がAD603であるとすれば良品である可能性はかなり高いでしょう。 たんなる昔IC屋の勘ですけれど。hi

 電源ピンとGNDピン、電源ピンとCommonピンなどの抵抗値をホンモノと比較して送られてきたものはすべてAD603が中に入っているらしいことが推測できました。 なお、このような確認をする際には、測定する端子間に使用時とは逆極性になるような電圧を加えてはいけません。条件によっては壊す可能性があります。 
コラム:抵抗測定の極性について
テスタで抵抗を測定するときにテスト棒の両端に発生する電圧の極性について説明します。 テスタで抵抗測定するときには、内蔵の電池から測定したい抵抗器や回路に電圧または電流を加えています。そのとき流れる電流あるいはテスト棒の間に発生する電圧から抵抗値を読み取っています。 たとえばデジタル・テスタの場合、赤色のテスト棒の方にプラスの極が出ています。アナログ・テスタでは逆に黒色のテスト棒の方にプラスの極が出ています。まあ、これは常識かもしれませんが使うテスタによって違うので極性には十分注意して下さい。 なお「×1Ωレンジ」は大きな電流が流れるので使わない方が無難です。
もちろんそれだけでは不安です。写真のように変換基板に搭載してIFアンプに装着しました。 バラツキのためかゲインが幾らか高いようにも感じましたが正常な動作が確認できたのです。

 ざっと見ただけでも大丈夫そうでしたが、定量的に見ないと見落とす可能性があります。 わかり易い例として、AGCの効き方が不連続になるなどの不具合はないか入力を変えて特性をとってみました。 ゲインの制御特性はSメータ出力(電圧)に如実に現れます。 もしどこか途中の段のアッテネータがNGなら不連続が現れるでしょう。 得られたグラフで見ると入力信号のLogに対してきれいに比例する直線を描きました。AD603のAGCが効く範囲内に不連続はありません。 これは良好な特性と見て良いでしょう。

 バラバラの状態で送られてきたうえロット番号までバラバラでしたから到着した時はちょっと驚きました。 どうやら使えそうなAD603が届いたようです。なんだかホッとしました。

オマケ?:一つ上の写真の右上にAD8307AとN5534Aと言うICが写ってます。この2つはAD603に混じって送られてきたものです。 間違って混入したわけではないように思えます。AD603の方は注文した数だけきちんと入っていましたから・・・。ではこれってオマケなんでしょうかね? こちらの部品もいかが・・って言うPR用?? とっても謎です。ww

                   ☆

 なぜこんなに安価だったのでしょうか? 鉛フリー品ではなかったので売ることができず処分されたメーカの不良在庫かも知れません。本来なら廃棄処分されるところを横流しされたのでしょう。あるいは一度は処分されたものを拾ってきたのかもしれません。 そうではなくて、チップマウンタから搭載ミスでこぼれたゴミを拾ってきて分別した可能性だってありえます。
 いずれにしても、もともとタダ以下の品物だったのではないでしょうか? 思い切り安くしても売れさえすれば利益を生じるでしょう。 あくまでも想像ですがそんなことを考えました。 早々に品切れになったのも出モノが底をついたからでしょうか。

 使う立場のアマチュア無線家としては鉛フリーの必要はほとんどありません。 むしろハンダ付け性が良い有鉛品の方が嬉しいくらいです。 変換基板に実装してみた感じではその点も合格でした。 安いので半信半疑でしたが、どうやらお買い物を楽しむことができました。 いろいろ想像を交えて書いてみましたが、本当のところはぜんぜん別なのかもしれません。少なくとも普通のパーツショップで買うのとは違うと思った方が良さそうですね。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)

2017年12月18日月曜日

【回路】High Level Diode-DBM,Part 1

ハイレベル・ダイオードDBM:第1回
 【Diode DBM
 高性能IFアンプの次はミキサー回路というわけでもないのですが、久しぶりにダイオードDBMがテーマです。 写真はRFトランスを2つ、ダイオードを4本使ったDBMです。

 4ダイオードのDBMなんて、なんの変哲もないように見えるのですが、大きな信号が扱えて、IMD歪みが小さく高IIP3が期待できるそうです。 また、出力側の終端条件が緩いので負荷の自由度が高いともいわれています。 一度は実験してみたいと思っていました。

 ダイオードを使ったDBMといえば市販品も多く、今では定番化しています。 ゲインの無いパッシブな回路なので比較的大きな信号まで歪みなく扱えるのですが、昨今は無線機のミキサー回路といえばFETを使ったスイッチングタイプが全盛になっています。おなじようにパッシブな回路ですがダイオードDBMでは達成できない高IIP3が実現できるからでしょう。 しかし、入力トランスの構造を変えた(工夫した)このDBMは従来型のDiode DBMより高性能だというレポートがあります。 普通の受信機用ミキサならIIP3>20dBmくらいあればまずまず優秀といえますが、実力はどんなものでしょうか。

 どの程度の性能が得られるのか、まずは試作のポイントなどをまとめておきたいと思います。実用例も見ておきましょう。 詳しい評価は年明けに行なうつもりです。 大晦日もせまってきました。 暮れは忘年会を楽しむとか、年賀状書き、大掃除など年越しの行事に励むことにしましょう。(笑)

試作回路
 左図のような試作回路でテストします。 この回路の特徴は信号入力側のトランス(T1)が、ペントファイラ巻きになっていることにあります。 「ペントファイラ」とは5つの巻線が並列に巻かれたことをいいます。

 参照したオリジナルの回路図には明確なことが書かれていないため部品や構造の詳細はわかりません。しかし、平衡度を保つためには各巻線が均一で良くバランスしてコアに巻かれていなくてはなりません。それでペントファイラ巻きにするわけです。 各巻線の結合度を上げるためには透磁率:μの大きなコアを使います。コアの形状もトロイダル型よりもメガネ型がベターです。 試作に使ったコア材についてはのちほど説明があります。

 回路をよく見ると標準的なDiode DBMの入力側トランスの巻線を2つに分けただけともいえます。 従って動作も同じように考えられますから解析は容易です。 そう見ると従来型とさした違いはないのかも知れませんが、まあやってみることにしましょう。 巻線が増えたので、くれぐれもその位相関係を取り違えないようにします。 あたり前ですが接続を間違えたら正常に動作してくれません。

 ダイオードは、逆耐電圧が高いRF用のショットキ・バリヤ・ダイオード(SBD):1SS97(2)を4本使います。このDBMでは大きめの局発を与える可能性があるため逆耐電圧が高いものを選びました。SBDによっては逆耐電圧が数Vしかないものがあります。また、順方向の抵抗値(ON抵抗)が低く逆方向の抵抗値が高いほど良いはずなのでGe-Diは不適当です。 HF帯で使うのなら高速スイッチング用のダイオードでも良くて、必ずしもSBDでなくても良いのかもしれません。このあたりもあとから比較してみましょう。 局発入力端子の抵抗器:R1、R2は180Ωから実験を始めます。

 出力側のトランス(T2)はトリファイラ巻きのトランスです。これはごく一般的な構造なので改めて説明の必要はないでしょう。自作も容易ですが、ここでは手持ちの既製品を使います。

 このDiode DBMは、信号の入力と出力端子は互換性があります。どちら側から信号を加えてもうまく働きます。しかし局発の端子はそれ専用です。 また、局発の端子を決めてしまうと、低周波から入力可能なポートはなくなります。そのため平衡変調器:バランスド・モジュレータ(バラモジ)には適さないことになります。高周波信号のミキサー回路専用になります。

 実際の使用例としては、米軍用の野戦用ポータブル・トランシーバPRC-74Bの送・受信ミキサ回路があります。以下、RT-794 / PRC-74Bについて触れておきます。

 【RT-794/PRC-74Bとは
 2〜17.999MHzをカバーするSSB/CWトランシーバです。 周波数は1kHzステップの水晶式シンセサイザになっていてTCXO内蔵で校正を行なった後の周波数精度は1.5ppm以内(-30℃〜+50℃において)です。

 中間周波(キャリヤ周波数)は1,750kHzでSSBはUSBモードのみです。AF発振器を内蔵しその発振器をキーイングするA2J(J2A)モードでCWの運用も可能ですが、補助的なものかも知れません。 出力は15W(PEP)です。 1960年代なかばの設計らしいのですが、全半導体式でほぼすべての回路がシリコン・トランジスタ化されています。(その当時の日本ではゲルマニウム・トランジスタが全盛期でした) 電源電圧は標準+12Vで、10.5〜17Vが仕様範囲です。 アンテナチューナを内蔵していてホイップアンテナのほか様々なアンテナで運用できます。製造はヒューズ社です。

 おもに野戦用のポータブルなトランシーバーで、写真では底部に乾電池ボックスが装着されています。比較的ハイパワーなので乾電池では寿命が短く「銀電池」を使うのが標準のようです。 スピーカ出力はなくヘッドフォンで受信します。 装備としてマイクと太ももに装着する形式の電鍵が付属します。 以前、このBlogでは非常用のRigとして扱ったことがありました。1993年10月末ころFair Radio Sales Co.より入手したものです。軍用無線機の研究目的には面白いのですが、HAM局のオンエアには使いにくいと思います。


受信部・ブロック図
 PRC-74Bの受信部を見てみましょう。受信部はIF周波数が1750kHzのシングルスーパになっています。

 RFアンプの後の周波数変換はダイオードDBMです。(ここが問題のDBMです) その局発は1kHz、10kHz、100kHz、1MHzステップで発振する水晶発振器の出力をミキシングすることで1kHzおきの周波数を得る水晶発振式の周波数シンセサイザです。たくさんの水晶発振子を使った贅沢な方式です。

 ダイオードDBMにつづき1段のバッファアンプを通ったあと、USB用のクリスタルフィルタに入ります。 IFアンプは2段でRFアンプとともに手動でゲイン調整できるようになっています。 SSB/CW検波回路はトランジスタ1石のプロダクト検波です。 検波後は簡単な低周波アンプになっておりヘッドフォンを鳴らします。

 特徴的なことはAGC回路が無いことです。 その代わりたった一つのツマミで広範囲に渡ってスムースにゲイン調整ができます。 低周波アンプのゲインは固定ですが、RFアンプとIFアンプのゲインを連続的に変えることで適切な受信音量に加減できるようになっています。SSBトランシーバはこのような方法が合理的だという考えなのでしょう。  これは、このトランシーバの使用想定から、電離層反射波を使う遠距離通信はあまり考えておらず、地表波による近距離交信が主だからでしょう。 交信相手との距離とともに信号強度が下がるのをゲイン調整で加減しつつ使うようになっているのでしょう。一対一の交信を想定しているようです。

 ゲイン調整はRFアンプ及びIFアンプの両方にいわゆる「フォワードAGC用トランジスタ」を使って行ないます。2N3339と言うMIL規格のNPNトランジスタです。 フルゲインから最低感度まで、Logリニヤ的にゲイン調整できるため非常にスムースです。
 シャックでの受信テストではAGCがないと不都合があるため低周波駆動式のAGC回路を付加して実験していました。 1kHzステップのチャネル式ですからHAMバンドのワッチには向きませんがDX局もけっこう良く聞こえます。 フォワードAGC特有と言うか・・・なかなかスムースなAGC特性が得られました。

 7MHz帯の大きなアンテナを繋いでも特に混変調なども感じず良く聞こえました。ミキサー回路の性能が活きているのでしょう。 近接して多数の電波が飛び交う環境で使われる可能性もありますから多信号特性を考慮した設計なのでしょう。

RFアンプとミキサー回路
 RFモジュールの回路を詳しく見ましょう。 入力信号は2段の入力同調回路で選択されたあと高周波増幅されます。 この高周波増幅回路は先の説明のようにマニュアルでゲイン調整できます。 RFアンプの後にもう1段の同調回路が入ります。

 RFアンプのあとが問題のダイオードDBMです。 このDBM回路はメーカーであるヒューズ社の部品番号が書いてありユニット部品化されています。おそらく市販された部品ではありません。 詳細は良くわからないと言った方が良いのですが、例えばLA8AK(Jan-Martin Ning. 故人)の記事にあるLA7MI (Stein Trop)のレポートによれば高性能が得られたとあります。HAM関係の書籍で見掛けた記憶もあったのですが発見できませんでした。良く見掛けるDi-DBM回路との違いが気になるところです。

 PRC-74BはNATO軍向けに技術供与されたらしく、ネット情報によれば英Redifon社のGR-345Bと言う型番で生産されたようです。 回路は基本的に同じですので、ここではオリジナルであるPRC-74Bの回路図を参照しました。

 このRFモジュールには局発の最終段アンプがあり、スプリアスを低減する目的から増幅周波数は受信同調と連動するようになっています。 また、件のミキサーは送信時にはIFユニットから来る1,750kHzを搬送周波数とするUSB信号を送信周波数に変換するためにも使われます。 信号の流れは双方向と言うことになります。 送信時にもRFアンプは使われ増幅後は送信パワーアンプユニットへと送られます。このRFアンプは送信時にはALCが掛かるようになっています。

 PRC-74Bですが、かなり少ないデバイス数で実用的な性能を得ています。 周波数シンセサイザ部を除けばゴテゴテしていないのは私好みといえます。HAMがSSBトランシーバを自作する際にもたいへん参考になる回路構成です。 今の時代ですからシンセサイザ部をDDSで簡潔にし、HAMバンドにしぼってカバーするように設計すれば面白いRigになりそうです。もちろんIFやRFアンプには2SC1855のような専用トランジスタを使ってフォワードAGCを掛けましょう。

 【トランス:T1のコア材
 ペントファイラ巻きのトランスを作るにはメガネ型コアが欠かせません。
 ここではBLN-43-2402(米Amidon社の型番)というメガネコアを使いました。 メガネコアを使う人は珍しいらしく米国からの通販を除けば入手できるところは限られます。 幸い、BLN-43-2402が秋葉原の斉藤電気商会(ラジデパ3F)で入手できました。

 しばらく前に購入したもので店頭には#43材とだけ書いてあったように思います。 実測寸法からBLN-43-2402で間違いなさそうですが、フェライトの材質を確認するために巻線してからインダクタンスを測定しました。 3回巻きで18μHくらいでしたので計算よりもやや大きめですが#43材(または同等品)と思って大丈夫そうでした。

 メガネコアはこうしたトランスには最適ですからパーツボックスにいくつか忍ばせておくと役立つことがあるでしょう。 コアの仕様を簡単にメモしておきました。


DBMに使うトランス
 ペントファイラ巻きのトランスといいましたが、実際にはテトラファイラ巻きの2次側+単独巻きの1次巻線の構造で作りました。

 平衡度が重要なのは2次側にある4つの巻線です。 広帯域特性は求めないため1次側を別巻きにしても支障はないという判断です。 実際に5本もの巻線をよじって巻くと間違いやすいのでこのような形式のほうがいくらか容易です。もしダメな場合は巻き直す必要があるかも知れません。 写真の物はインダクタンスから考えて3.5MHz帯あたりまでが良くて1.8MHz帯には4〜5回巻きに増やす必要があります。

 今後、評価の際に平衡度は局発のサプレッションとなって現れるでしょう。好結果を期待したいと思います。 例によってブレッドボードでテストしますので小型基板に実装しておきました。このようにしておくと取扱いが容易です。 このトランスは位相関係が極めて重要ですので絶対に間違いが生じないように十分確認しながら配線します。組み上がってからの再確認はかなり厄介です。(間違いを見つけて修正するのはほぼ絶望的なので巻き直した方が手っ取り早い)

 出力側のトランス:T2はごく普通のトリファイラ巻きのトランスです。 自作品でも良いのですがここには既製品を使うことにしました。

 ミキサー回路として455kHzといった低い周波数への周波数変換も考えています。 アウトプットの周波数が低くなればトランスは大きなインダクタンスが必要です。 たくさん巻かなくてはならないので自作は厄介です。 たまたま十分なインダクタンスを持った既製品があったので使ってみます。 使用する周波数に応じたものを巻けば良いのですからHF帯に周波数変換するなら作りやすくなります。 このような既製品がなくても実験できます。

 なお、このミニサーキット社のトランス:TT1-6に使ってあるコア材は何でしょうね? 透磁率:μ(ミュー)の大きなコア材を使っているはずです。 コア材によっては信号レベルが大きくなるとトランス自身でIMDが発生するかも知れません。 様子を見ながら必要に応じて交換しながら確認したいと思っています。

                   ☆

 何だか予告編のようになってしまいました。 回路検討とトランスを巻いただけで年内はおしまいです。 取りあえずDBMとして動作していることまでは確認しました。 このあとは周辺回路や測定機器の準備が幾つか必要なので評価は年明けにしましょう。 うまく行ったら良いのですが、お正月にでもじっくり取り組んでみたいですね。 2017年も終わります。良いお年をお迎えください。 ではまた。 de JA9TTT/1

(つづく)

追記(2018.0730):
 種々検討を行なってきました。 テスト結果を踏まえた結論は、ダイオード形式はFETスイッチ式/Bus-SW式に及ばないことがかなり明白になりました。 従って一旦は中止し、何らかのメリットが見出せるようなら改めて再開することにします。 未だにご期待を込めて再訪されるお方が居られるので追記致しました。


追記・2(2022.0926):
 受信機のフロントエンドを検討する過程で、このハイレベル・ダイオード・ミキサをテストする機会がありました。 FETスイッチ式/高速Bus-SW式に遜色のない結果が得られています。 2トーン信号でテストした比較結果がありますので以下のリンクをたどってご覧下さい。まずまず有望なミキサと言えそうです。

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(おわり)

2017年12月4日月曜日

【回路】AD603 IF-Amp. Design

回路:AD603を使った高性能IFアンプの設計
 【AD603とは?
 AD603は表面実装型の8ピンICです。ピン・ピッチは1.27mmですからハンダ付けは難しくありません。

 このICをご存知なら一度は高性能な受信機の自作を志したことがあるのでしょう。 低歪みでローノイズ、しかも利得の可変範囲が広く、通信型受信機の中間周波増幅回路(IF-Amp,)にピッタリなICチップだからです。

 写真の上段は15年以上前のもので、下段は最近になって中華経由で入手されたものです。 比較してみましたが、どちらも同じように使えました。

 2002〜3年頃だった思います。 AD603がAnalog Devices社から発表されると、いち早く入手されたお方がありました。(たしかJA2EQP鈴木さんでしたか・・) カタログの検討から高性能な受信機に使えるとお考えになったのでしょう。同好者の試用をご期待されたらしく数名のお方に分配されたようです。それで私にも3つほど届いたようでした。
 面白そうなチップとは思ったのですが、当時は正規のサンプル入手しか方法はなく、しかも結構高価らしいとあって、さして興味を持てませんでした。(他の方法もある訳ですし) 幾らFBなチップでも入手が難しければ多くの人にとって絵に描いた餅です。製作・実験レポートも単なる自慢話で終わってしまうかも知れません。活用のための情報が不足していたこともあって、すっかり忘れてしまったのでした。いま頃なにですが申し訳なかったです。

                   ☆

       (あんなこと、こんなこと、色々あってこの間15年以上)

                   ☆

 ところが、最近になって中華系の通販ショップに格安なお値段で出回っているとの話しが舞い込んできました。 それで纏めて購入されたと言う自作好きの仲間から再びサンプルを頂く機会があったのです。写真下段がそれです。(VY-TNX ! JA6IRK 岩永さん) AD603と言う型番に記憶があったので、パーツボックスを掻き回したら写真上段の物も見つかりました。 コストや入手性と言った課題が改善されたのであれば試用してみる価値も生まれてきます。 旨くすれば自作用の標準パーツにできるかも知れません。 いま頃になって検討してみたのがこのBlogのお話です。

                   ☆

 最初にまとめ(感想)を書いてしまいます。 このICは、はなから高性能を目指した受信機にこそ採用すべきです。 ごく簡易に使うことも可能ではありますが真価を発揮しないでしょう。 非常に高性能なAGC特性を持ったIF-Amp.が作れますが、それは同時にハイゲインと言う事でもあるため、うかつに扱えば発振などのトラブルで手がつけられません。 特性上クリチカルな所もあるので初心者向きとも言いかねます。

 ある程度の自作経験をお持ちでしたら、以下の試作結果は通信型受信機製作のヒントくらいにはなるやも知れません。 例によって自身の備忘がおもな目的のためわかり易さは考慮されていませんが、もし興味があればどうぞ。

 【AD603の内部構造
 まずはAD603の中身を理解することにします。 メーカーの資料によるとAD603の内部は左図のようになっています。 入力部分に可変型の減衰器(アッテネータ:ATT)が置かれ、そのあとに利得固定のアンプが置かれています。 このアッテネータは6dB刻みで7段に切り替えられます。(計42.14dB) 切換えはAGC入力端子の電圧によりステップ状に行なわれます。 なお、利得固定のアンプは外付け抵抗でゲイン(増幅度)をプリセットすることができます。ゲインの設定範囲は約31〜51dBです。

 入力と出力端子間の増幅度は入力部のアッテネータによってのみ可変することができます。アンプ部分のゲインは半固定されており変わりません。 いまアンプ部のゲインを40dBにセットしたとすると、AD603一つで-2.14dB〜+40dBのゲインに可変することができます。

 アッテネータもアンプも広帯域であるため、AD603自体も広帯域です。 カタログによれば低周波帯から90MHzまでカバーするとのことです。 広帯域な可変利得アンプとして使うことも可能ですが、通信機への応用では狭帯域なアンプとして使うのが普通でしょう。 また、このIC一つでは50dB程度(300倍くらい)のゲインしか得られません。高性能な受信機のためには2段増幅する(2個使う)必要があります。なお、1段当たりのゲインを落として3個使う方法もありますが、その必要性は低いと思います。

 回路はアンプの前に置いた可変アッテネータでゲインを変える形式です。アンプ回路部分の動作状態を変えてゲインを絞る方式ではないため多信号特性に対しては有利です。 アンプは広帯域のOP-Amp.と同じような負帰還増幅器になっているようですから歪み特性は優れます。 アッテネータ部分は拡散抵抗ではなく薄膜抵抗で作られているようなので歪みの発生はわずかでしょう。 このようなことから歪みの少ない可変利得のIF-Amp.が実現できます。特に入力信号が大きくなった時に有利です。

 R-2R抵抗網を使ったアッテネータを入力部に置く形式なのでゲインを絞った状態でのNF(= Noise Figure:ノイズ・フィギャ)は絞っただけ悪くなる筈です。 しかしIF-Amp.として使う時は元々狭帯域ですし、対象の入力信号が大きいからゲインを絞るのですからNF劣化によるS/N低下が問題になることは稀でしょう。 実際に2段カスケードのIF-Amp.で観測してみてもこの種のハイゲインアンプとしてはローノイズです。

# 平たく言えば、AD603は入力の所にボリウムが付いたアンプ用のICと言う訳です。その入力部のボリウムは電圧で加減できるのですね。hi

 【AD603の使い方
 メーカーの資料に出ている2段アンプの例です。 広帯域アンプの設計で、AGC回路も付いているためこの回路から実験を始めるのが普通でしょう。

 示唆に富んでいるのはAGCの掛け方にあります。 多段アンプを使い広範な入力信号の大きさに応じて、自動利得調整:AGCを行なう場合、全部の増幅段を同じように利得制御するのは得策ではありません。

 増幅回路のNFを最小にし、S/Nを良くするには、信号が小さい部分の増幅度を大きくすべきです。 例えば、2段アンプで60dBのゲインを得る場合、前段30dB+後段30dBとするのではなく、40dB+20dBのようにすると有利なのです。

 低ノイズのアンプでもゲインを絞るとNFは劣化します。従って多段アンプの場合は前段の利得はなるべく絞らないのが設計上のコツになります。

 この回路例は2段増幅になっており全体で約80dBのゲインになっています。 信号が大きくなって行くと、まずは後段からゲインを絞って出力が一定になるように制御されます。 入力がどんどん大きくなると、後段はややマイナスゲインの所に落ち着きます。
 さらに入力が大きくなると今度は前段のゲインが40dBから絞られて行くようになります。 非常に大きな信号が加わると、最終的に全体で0dB(1倍)を下回るゲインに近付くよう動作して広範囲の入力電圧変化に対して出力電圧が一定になるように制御されます。もちろん自ずと限界はあって、試作例によればおよそ120dBμV(アンプ入力では0.5Vrmsあたり)を超えた所に限界がありました。(さらりと書きましたが、これはすごいダイナミック・レンジです)

 このように、シーケンシャルにゲインが制御される仕組みは実際の受信機でも有効ですから実用のIF-Amp.でも採用すべきでしょう。 その効能などメーカーのデータシートに詳しく書かれていました。

 なお、この回路図にはたいへんシンプルなAGC回路が記載されていますが、データーシートにあるように旨く動作させるのは難しいようでした。それに、あまり調整のしようがないのです。 受信機におけるAGC回路は非常に重要であり、立ち上がり特性、レリーズ時間、またAGC回路自身の制御ゲインなど任意に加減できる必要があります。 そのため、例示されたような簡易なAGC回路では不十分と考え、独自の設計で行くことにしました。

                   ☆

目標性能
 何も目標や方針がなければただの駄文になってしまいます。最終的にHAM局用の受信機として纏めるため、大まかですが以下を方針に実験しましょう。

(1)ゲイン:高感度な受信機として必要な80〜100dBを得る。
(2)AGC特性:入力の変化80dB(1万倍)に対して、出力の変化は6dB(2倍)以下。
(3)低ノイズ:IFアンプ単体として、NF=10dB以下が目標。
(4)IF周波数は、455kHz〜15MHzの範囲で任意に選べること。
(5)一目盛りが約6dBになるようなSメータ回路。
(6)電源電圧は12V以下。単電源で動作。消費電流は少ないほど良い。
・・・などです。

想定する受信機の一例
 このBlogでは受信機全体を扱う訳ではありません。 従って目的や用途が少々イメージし難いかもしれないので想定する受信機の一例をブロック図にしておきましょう。 

 Blogでは主に色塗りされた回路部分について書かれています。青色の部分がAD603を使った中間周波増幅:IF-Amp.の部分で、AGC回路とともにこのBlogのメインテーマです。 緑色の部分はSSB/CWの復調と低周波アンプで、ここはオマケ程度の内容です。もちろん、オマケではあっても十分実用になります。(笑)

 この例ではシングルスーパの回路構成になっています。 中間周波は12.8MHzで、選択度を決めるフィルタとしては過去のBlogで扱った「8素子のラダー型クリスタル・フィルタ」を想定します。  中間周波が高いので、十分なイメージ信号除去比が得られますから50MHz帯以下の受信機であればダブルスーパの必要性はありません。 PBTなどアクセサリを付加する目的でもあれば別ですが、このままの回路構成で十分な性能を発揮できるでしょう。

 もちろん他の回路構成も考えられますので目的に応じて変更すべきです。 ことにフィルタより前の部分は色々考えられます。 例えば選択度を決めるメインフィルタが5MHz以下の場合はダブルスーパ構成にした方が良い筈です。 特に50MHzの受信機など、受信周波数が高い場合は必ずそうすべきでしょう。 このブロック図は説明用ですから、これにとらわれる必要はなく設計の自由度は高いと思います。

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 【AD630 IF-Amp.の試作
 例によってブレッド・ボード(BB)で試作しています。 100dB近いゲインの高周波回路の実験には向いていないのは重々承知の上です。 しかし逆に言えばBBで安定に動作させることができたなら、基板化した時にも十分安定に働くでしょう。(参考:100dBは電圧比で言えば10万倍)

 初めて使うデバイスでしたから、最初は「発振」などの不安定な動作に悩まされました。 しかし、現在はこの状態でたいへん安定して動作しています。安定動作のための秘訣などを交えながら話しを進めたいと思います。

 このBBの状態で以下に示す回路図の全ての部分を含んでいます。 受信機として完成させるには、この回路の前にIFフィルタやミキサー回路、高周波増幅などが必要です。

 またSSB/CW用受信機を想定しているので、この後ろにSSB検波器や低周波増幅回路も必要です。その部分については後ほど簡単な一例があります。

# 受信機全体は、前出の「通信型受信機のブロックダイヤグラム例」も参考にどうぞ。

AD603 IF-Amp.回路図
 AD603を2つ使い、約90dBのゲインを持つIF-Amp.の設計例です。 電源電圧は10Vの単電源で設計しました。 高性能なAGC回路を構成しています。 後ほど実測データで示しますが、入力信号が100dB(10万倍)変化しても、出力はわずか4.3dB(1.65倍)しか変化しません。

 AGCはFastとSlowの時定数に切換えできます。 Slowはやや短めの時定数になっていますが、C21: 4.7μFを大きくすれば長くできます。 立ち上がり時間は早めの設定ですが、こちらはAGC制御系の安定性が関係するため現状が良いところです。 併せてRFアンプにもAGCを掛ける際には、全般的な見直しが必要になる可能性も有ります。

 お薦めなのは、せいぜい20dB程度のゲインにとどめた・・・但し少々では歪まない強力なRFアンプと、低損失なミキサーを前置し、IFフィルタも良くインピーダンスマッチングを行なってロスが多くならないようにすることです。 このIFアンプは十分なゲインを持っていますから、少なくともローバンドでは感度不足を感じることはないでしょう。

 回路にはSメータ駆動回路も含まれます。 Sメータは上手に設定すれば概ねLogリニヤな指示をします。S一つあたり、約6dB刻みが実現できます。250〜500μA程度の電流計を使います。 ラジケータでも良いですが振れ方がリニヤでないので振れに合わせた目盛板を製作する必要があります。

 基板化する際は、GNDパターンを広く取り・・・できたら片面は全部GNDにするとか・・・RF回路の配慮を行ないます。 また理想を言えばAD603は各段がGNDで囲まれるようにすればベストでしょう。 Pin4、Pin8番の回りに接続されているバイパス・コンデンサは各ピンに最短距離で実装し十分な面を持ったGNDに最短距離で接続します。

使用デバイス情報:AD603ARZ・・・Aliexpressのお店で通販できますが、希望されるお方に実費で(安価にて)頒布します。メールをください。 LMC6484AIN・・・LMC6482AINを2個で代替可。 1N270・・・Ge-Diです。1N60等で代替可。 1S2076A・・・SW用Si-Di。1SS270Aまたは1N4148等で代替可。 AN8005・・・3端子レギュレータ、78L05で代替可。 以上はAD603を除き秋月電子通商にあります。

 【AD603の初期テスト状態
  最初はAGCのことは考えないで2段の電圧可変ゲイン型のアンプとして実験を始めました。 左上のVR(青い角形)でAGC端子の電圧を変え、ゲインを可変します。

 この状態では安定な増幅は困難でした。 2段増幅で最大ゲインは80dB以上得られるようでした。 しかしプローブであたって観測しようとすれば発振が起こります。 いろいろ工夫してみたのですが、このままではほとんど使い物になりません。

 もちろん、ブレッドボードなのも宜しくないのですが、安定でないのは本質的な問題と言えましょう。 基板化してもレイアウトに多少の不備があったら発振に至る危険性は常にあるでしょう。従って実用にするには何らかの手だてが必要なのは間違いありません。

 【AD603のバイパス・コンデンサ
 基板化して各足ピンの直近にバイパス・コンデンサが付けられればこのような実装は必要ありません。 但し、バイパス・コンデンサの入れ方はかなり重要であることがわかりました。

 上記のようなブレッドボードの実験でも、もちろんなるべく最短距離で電源端子などがバイパスされるように考慮しています。 しかし変換基板内のパターン長やブレッドボードにおける配線の取り回しでは、バイパス・コンデンサが効果的に働かないのです。 ブレッドボード上で回路的に同じになるようにコンデンサを入れても安定しません。 結局、変換基板上に直接バイパス・コンデンサを搭載しました。 特にピン4番(Common)とピン8番(VPos)間のパイパス・コンデンサが効くようです。

 これで安定動作の50%は確保できたような感じでした。 AD603を単体で使っている限り発振も起こらず安定した増幅をしてくれます。しかし2段増幅ともなればこれだけの対策では済まないのです。

AGC回路
 AGCについて、詳しく始めるとキリがないのでざっと説明しておきます。 実はこの種のSSB/CW用受信機では最も奥深い部分です。その良し悪しによって受信フィーリングは全く異なるほどです。

 AM受信機のように、入力信号に搬送波(キャリヤ)が存在する場合は「平均値AGC」が使われます。 これは、キャリヤの強さに比例したAGC電圧を得て、平準化してAGC信号とすれば良いので回路はごく簡単です。 AMラジオや昔の高1中2のようなAM時代の受信機でお馴染みの方式です。

 しかし、SSBやCWで良く効くAGCを考えると、断続するキャリヤあるいはそもそもキャリヤの無い信号でAGCを効かせなくてはならず簡単には済みません。 一般に、入力信号の最大値(尖頭値)を検出し、その信号電圧を元にAGCを効かせた上で、一定時間だけ保持するような動作が必要です。

 ここでは、ダイオード検波した信号を30倍くらい増幅し、さらに一種の整流回路でピーク値を検出します。 その電圧で速やかにコンデンサをチャージし、そのチャージをゆっくり放電することで必要な戻り特性を得ています。 さらに、AD603のAGC特性に合わせて、電圧変化の方向を合わせるとともに、電圧最適化のためオフセットを掛けています。

 使用しているOP-Amp.:LMC6484AIN(写真)はC-MOS構造の4回路入りOP-Amp.です。レールトゥレールの入出力特性を持っており、片電源のDCアンプ回路には最適なものです。 他のC-MOS OP-Amp.でも良いのですが、容量性負荷に対する安定性など必ず検討した上で代替するようにします。 使用している抵抗器の大きさや、電荷の保持容量などの関係でバイポーラ入力のOP-Amp.、例えばLM324などでは大幅な回路定数の見直しや回路そのものの再検討が必要になるでしょう。回路図どおりのLMC6484または2回路入りのLMC6482を2つ使うと間違いありません。

段間にフィルタを入れる
 安定動作の話しの続きです。 AD603の2段アンプを安定に動作させるもう一つの秘訣は、段間にフィルタを入れることにあります。 要するに広帯域な2段アンプではなくするのです。
 1段ごと独立ならまったく安定に動作することから、広帯域のままカスケードに接続するのが宜しくないと結論づけられました。 頭を冷やして考えればゲインが80〜100dBにもなる高周波広帯域アンプを安定に働かせるのが難しいのはすぐわかるでしょう。

 フィルタの周波数はある程度任意に選べるはずですが、最初は10.7MHzのFMラジオ用セラフィルを段間に入れて実験していました。それでとても安定して動作するようになったのですが、当然ながら10.7MHzのアンプになってしまいました。10.695MHzのSSB用クリスタル・フィルタをお持ちならそのまま行けますけれど・・・。

 そこでセラフィルに代わり、2素子のラダー型クリスタル・フィルタに置き換えることにしました。IF-Amp.の入力部に置く本格的なメインフィルタは製作済みの12.8MHzのSSB用ラダー型フィルタ(←リンク)を使うと想定し、途中のフィルタをそれに合わせる訳です。もちろん、他の周波数のフィルタを使いたいならそれに合わせます。

 図は、AD603の段間用に12.8MHzの水晶を2素子で作る簡単なラダー型フィルタを設計している様子です。 Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト(←リンク)を使います。 このBlogでは既にお馴染みのものですが、こうした検討にはかなり重宝します。 素子数を少なくしているのは、途中のロスを少なくすると言う意味もありますが中間のフィルタによる信号遅延を小さくするのが目的です。ここで遅延が大きくなるとAGCの時定数設定に影響が及びます。 応答性に優れ、深いAGCを掛けることが難しくなります。 途中のフィルタはせいぜい2〜3素子くらいのごく簡易なものにすべきでしょう。 旨く設計すればLCフィルタでも行けます。

 【12.8MHz ラダーフィルタ
 写真は実際の段間フィルタの様子です。 インピーダンス・マッチングは抵抗器で行ないます。 AD603の出力インピーダンスは非常に低くて数Ωしかありません。 また、入力インピーダンスは約100Ωです。

 フィルタの帯域幅などを旨く選んで、なるべくAD603の入出力インピーダンスに近いように設計するのがコツでしょう。もちろん、メインフィルタよりも帯域幅は広くなくては旨くありません。 この12.8MHzのフィルタでは、帯域幅3kHzの設計で入出力インピーダンスは約120Ωになりました。 従って、フィルタの入力側・・・即ち、前段のAD603の側に120Ωを入れ、フィルタの出力側・・・後段のAD603の側には22Ωの抵抗器を直列に入れてマッチングを取っています。 このようにして旨くインピーダンス・マッチングするとともに数dBの通過損失に収まっています。

 直列容量や結合容量(C28〜C30)は水晶の数が少なく、目的とするフィルタ特性がシビアではないため、簡易設計ソフトで得られた値をそのままを使って大丈夫です。 2素子でしたらMesh-Tuneもまったく不要です。(必要ありません) また、コンデンサは近似の標準値に丸めても支障無いことが多い筈です。

 なるべく同じ特性の水晶を2つ選ぶのが秘訣です。 またメインフィルタとの中心周波数合わせを行なう必要があるでしょう。 まずは仮組みして、中心周波数がどのくらいずれているかを見てから旨く合うように水晶を交換して周波数を合わせます。 参考ですが、私の製作例では段間フィルタの方が約350Hzほど中心周波数が低かったので、350Hzくらいfsが高い水晶に(2つとも)入れ替える必要がありました。

 【AD603 IF-Ampの特性
 AD603を2つ使ったIF-Amp.の入出力特性を示します。 約10dBμVからAGCが効き始めます。 10dBμVは約3μVですが、これはEMFですから、アンプに実際に加わるのはその半分です。 1.5μV(rms)あたりからAGCが効き始める訳です。 その後は、110dBμVまでほぼ直線的にAGCが掛かるのがわかります。

 アンプ自身のノイズフロアは測定していませんが、なかなか低ノイズです。 グラフからわかるように-20dBμV・EMF(0.05μV)の入力でもノイズによる盛り上がりは見えません。AGCの掛からない小信号領域では90dB超のゲインがあることから考えても低ノイズと言えます。 途中にフィルタが有ることは広帯域なノイズを抑えるのに効果的なのでしょう。

 例えば、標準的な設計の受信機を想定すれば7MHz帯のようなローバンドでは、アンテナから来る受信信号自体のノイズフロアが10μVあたりにあるのでアンテナを繋げば常にAGCが効いた領域で動作することになります。(もちろん、これは送信にも使えるようなマトモなアンテナを繋いだ場合です) フロントエンド部分が旨く設計されていれば、十分な感度とS/Nが得られます。

 青のラインは、Sメータ用出力の特性で、直線的に変化する部分を旨く使ってやれば良い感触のメーターの振れ方が実現できます。設定次第ですが1Sユニット=約6dBにできそうです。

 同時に、出力電圧は入力電圧が大幅に変化しても、約300mVpp程度にAGCで制御されていることがわかるでしょう。 このIF-Amp.の後ろにはSSB/CW検波回路が続きますが、おおよそこの程度の電圧が得られることを前提に回路設計します。 次項にTA7310Pを使った検波回路の一例を示しますが、TA7310Pにはそのままではやや大きすぎるので1/3から半分くらいに絞ってやれば丁度良くなります。

# 概ね目標とした性能は実現できていると思います。

SSB/CW検波回路の例
 この回路に限った訳ではないので、お好みの検波回路を使えば良いです。 AD603の出力インピーダンスは低いので、直列抵抗などでインピーダンス合わせを行なった上で、ダイオード・リング検波などを使っても良いでしょう。

 左図の回路は、BFO兼用で検波も行なえるTA7310Pを使ったSSB/CW検波器と、それに続く簡単な低周波アンプの例です。 TA7310Pの入力部にある抵抗器、R8:2.2kΩで信号の大きさを加減します。 十分な検波出力が得られる範囲で、検波器への信号は小さめに留めるのが良い受信感触を得るコツです。大きな音が出れば良い訳ではありません。(笑)

コラム;受信サイドバンドについて
上記回路図ではBFOの発振周波数はフィルタの通過帯域から見て下側になっています。従ってUSB側を復調することになります。 7MHzの受信の場合、受信機の局発周波数を上側(19.8000MHz〜)に取ればヘテロダイン時にサイドバンドの反転が起こります。従ってLSBモードの運用局はUSBに変換されて正常に復調できます。3.5MHz帯も同様です。 また14MHz帯以上の受信では局発を下側に取ればそのままUSB受信となります。 局発はDDSを想定するため、このような自由度があってBFOの周波数を変更することなくUSBあるいはLSBの受信が可能です。(追記:2017.12.10) 

 TA7310Pの手持ちがあったので使いましたがお店では入手困難になっているようです。 けっこう出回ったICなので、自作好きのお友達なら幾つか持っているかもしれないので聞いてみるのも良いでしょう。 もし手に入らなければ類似機能のICを使えば同じように作れます。工夫してみて下さい。 LM386の方は普通に手に入ります。

 高級な受信機にはもっと凝った回路が良いのかも知れませんが、この程度の回路でも実用上の大きな不満はないのも事実です。 低周波ばかり凝っても仕方ありませんが、必要に応じてグレードアップしたら良いでしょう。

                  ☆ ☆

 重要なことを少しだけ補足します。 AD603のAGC特性ですがゲインを下げる方向・・・即ちAGC電圧を下げて行くと、ある電圧から減衰特性が反転するようになります。 要するに、信号が大きくなったのでゲインを絞ろうとしているのに逆に大きくなってしまう現象が起こるのです。 これは入力信号がたいへん大きくなってAGCが深く掛かったところでしか起こりません。 しかし、一旦そうなると信号がなくならない限り膠着状態に陥ってしまいます。 それを防ぐ目的でクランプ回路が設けてあります。

 120dBμV(1Vrms)を超えるような信号がIF-Amp.に加わる可能性はたいへん小さいと言えます。しかし間違って強力なノイズのようなものが加わる可能性が絶対に無いとも言い切れません。 誤動作を防ぐため最初はダイオードを使ったクランプを入れたのですが、幾らか温度特性が悪くなるのとAGCの直線性も損なわれるため現在のバージョンに変更しました。しかしダイオード式だったVer.1.0.3でも実用上の差はありませんでしたからそのままでも良かったのかも知れません。

 上記グラフの右方にこの2段IF-Amp.の限界が見えます。VSMや出力電圧が急上昇するところです。この領域はAD603のAGC範囲を超えている部分です。入力部アッテネータの減衰範囲を使い果たしたのです。もうこれ以上入力信号を絞れません。ゲインは固定されるため入力の変化がそのまま現れてしまう訳です。 しかし通常の受信状態ではまず起こりえない領域ですから支障はありません。 これを回避するには、フロントエンド部分に独立して掛かる「RF-AGC」のような仕組みを設けなくてはなりません。 近接して強力な電波を発射される危険性のあるプロ用受信機ではそのような対策がなされているのを見ます。

コラム:AD603はなぜ流行らなかったのか?
このICを試用していて、過去の用例を探したのですが中途半端なものしか見つけられませんでした。むしろ参考になるような情報はほとんど無いくらいです。 何故でしょうねと言うご質問も頂きました。 たぶん、一つに高コストがありますが、もう一つは「使う為の情報不足」だと思います。 CQ誌の2004年頃の記事を思い出したので見たのですがメーカーのテスト回路を試しただけの内容でした。具体的なAGC回路には話が及んでおらず実用設計には至りません。事情はわかりませんが、リソース枯渇で至れなかったのでしょう。期待した読者は多かった筈ですが、理念だけが空転した企画でしたから仕方ないでしょうね。 その後はチャレンジされるお方もわずかで、本当に使いこなしておられるのは「良くわかっているごく少数の人」にとどまったように見えました。従って実用になっている例もごく稀です。 このBlogを切っ掛けに少しずつでも研究が進むことを期待したいと思います。

                ☆ ☆ ☆

 でき上がった回路を見たら「なーんだ、こんなものなんだ」と思うでしょうね。でも、その「なーんだ」の回路が浮かばないから一向に活用が進まないんだと思います。 拙い作例とは思いますが、まずは真似てみることからでも始めて頂き、貴方のオリジナルへと発展させて頂けたらVY-FBだと思っています。

 AD603を使ったIF-Amp.は設計の自由度があって面白いのですが、どうしても本格化する傾向に陥ります。 高性能な受信機を指向するなら当然進むべき方向なのかも知れませんが、他のIF-Amp.でも同様の成果は十分に期待できます。例えばMC1350P/MC1490Pを使い上手に設計したIF-amp.ならさしたる違いはありません。 概略評価の段階ですがフォワードAGCトランジスタを使ったIF-Amp.もかなり有望そうでした。まだまだ他の形式もあります。 通信機に必要なIFアンプのトータルゲインやAGC特性は凡そ決まっており、いずれのデバイスでも達成可能だからです。 従って、AD603が最優先でお奨めできるデバイスとは言い切れないでしょう。 それでも、IC化の威力で高性能なIF-Amp.がかなり確実に作れるメリットはあります。受信機やトランシーバを構想中でしたら試してみる価値はありそうです。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)

追記;高性能受信機のIF-Amp.ともなれば結構大掛かりなテーマです。書くべき話が網羅できているか自信はありません。書き忘れたこともずいぶんあるでしょう。 ご質問や疑問などありましたらコメントを頂ければと思います。内容は何でも結構ですがBlog記事の範囲内でお願いします。 主義主張のようなコメントも結構ですが、ここは個人のBlogであってパブリックなものではないので節度を持ってお願いです。(笑)

参考:AD603を中国から輸入する購入記があります。(→こちら

2017年11月18日土曜日

【回路】Design of an Eight Transistor Radio

【回路デザイン:8石ラジオの設計】

8石ラジオ
 中波帯(BCバンド)のラジオなんて、自作HAMにはいま一つ興味が湧かないかも知れません。 このBlogは8石ラジオを作ることが主目的ではありません。ですからBlogのタイトルと内容がマッチしていないかも知れませんね。 トランジスタ・ラジオあるいは受信機に必要な自作の中間周波トランス:IFTを作り易いよう再検討するのが第一の目的です。その再設計の検証のために8石ラジオを作ります。

 このBlogテーマの元、対象となるトランジスタ・ラジオの回路やIFTの具体的な製作方法についてはトランジスタ技術誌:2015年10月号(p66〜p82)に詳しい記事があります。 以下の内容は、同誌の記事を参照されていることが前提なのですが、もしお手持ちでなくても何とかなるくらいの内容にはなっています。ご心配なく(笑) 参考:出版社及びamazonにバックナンバーあり。

参考:上記のトランジスタ技術誌2015年10月号の拙記事に加筆再校正を行なって収録した書籍がCQ出版社より新発売されました。AM/FMラジオ&トランスミッタの製作集(←出版社へリンク)この書籍にはコイル作りほかラジオ製作の詳しい情報があります。トラ技誌のバックナンバーをお求めになるより新刊の方をお薦め致します。 (2021年4月・追記)

                    ☆

 局発コイルやIFTをすべて自作して、トランジスタ・ラジオを製作すると言った記事は珍しかったらしく、私が思っていたよりもたくさん読んで頂けたようです。どうも有り難うございます。 トラ技編集部が用意した記事連動の「製作部品キット」を求めるお方も結構あったんだそうです。

 実際にどれくらいのお方がIFTを巻いたのかはわかりませんが、小さなコアと細い巻き線で格闘されたであろう様子が思い浮かびます。 少し大変だったかも知れませんね。 巻線にはφ0.08mmのポリウレタン電線(UEW電線、ウレメット電線とも言う)を使います。もう少し細い方が良いのですが、切れ易いのと入手性の問題から手作りの材料としてはこの程度が限界だろうと思っています。

 巻き芯(フェライトのツヅミ型コア)の大きさから考えて、ギリギリ巻ききれる程度の巻き数になっていますが、特に検波段のIFT3は2次側の巻き数が多いため巻き難かったと思われます。 巻き芯のサイズに収まらず、やや山盛りの状態になってしまったかも知れません。調整用コアの内径にゆとりがあるので幾らか山盛りでも支障はないのですが、もう少し何とかしたいと思っていました。

 同調容量を大きくして巻き数を減じれば良さそうなものですがそう単純でもありません。 基本的にIFTの再設計が必要になります。使用デバイスの入出力インピーダンス、コイルの共振特性、利得配分、選択度などの条件から各IFTの巻き数を決定する訳です。 再設計は難しくはありませんが、意外に手間がかかるので先送りして来ました。しかし、記事の登場後はずっと気になっていたので改めて設計・検証を行なうことにしたのです。 そう言う意味では、記事のフォローBlogとも言えます。

 もちろん既にトラ技記事の内容を参考に製作され、旨く動作しているのでしたらそのままで支障ありません。あらためて巻き直す必要はありませんのであわてずにお願いします。旨く行っているものを巻き直すメリットは何もありません。 以下の内容はこれから新規に1からやってみたいお方へのフォローです。

8石ラジオの回路図
 回路図がないのは寂しいので、まずは検証のために製作したラジオの回路図です。 トラ技の記事では6石ラジオでした。 基本的に同じなのですが、そのまま転載したのでは能がないので低周波回路を再設計しています。

 標準的な6石ラジオと言えば、低周波増幅部はトランス結合になっています。 昔々、トランジスタが高価だった時代にはトランス結合のアンプは合理的でした。 小型トランスの方がトランジスタよりも安価だったからです。トランス結合の低周波アンプならトランジスタの使用数も最小限(3つ)で済みました。実用十分な音量も得られます。それでトランス結合の低周波アンプが標準として定着したのでしょう。当時はOTL形式がまだ完全には確立していなかったと言う事情もありそうです。

 しかし、今ではまったく逆転しています。 ラジオに使うようなトランジスタなら数円〜数10円で買えますが、トランスは結構なお値段なのです。 特にアマチュアがトランスを単品買いするような時には顕著です。 従って、トランジスタの数は少々増えてもなるべくトランスを使わない設計の方が合理的(経済的)になりました。 コンプリメンタリ・ペア(相補対)のPNP/NPNトランジスタも普通に売っていますからITL-OTL回路も簡単に実現できます。(ITL-OTL :Input Transformer Less & Output Transformer Less)

 そのような状況から、本来の原点である6石ラジオの設計にあまり縛られずに行くことにしました。 2石増えた分はいずれも低周波回路に割り当てています。 従って、周波数変換(コンバータ)回路、中間周波増幅(IF-Amp)の高周波部分は6石ラジオとまったく同じです。そのため感度や選択度に大きな違いはありません。 それに高周波部分を変えてしまったらIFTの検証になりませんからね。 受信周波数は520kHz〜1620kHz、中間周波数は455kHzの標準的な設計です。

コラム:なぜ「6石」にこだわったのか?
電波が強い都会地から、放送局から遠い山間僻地まで実用になるトランジスタ・ラジオと言えば6石スーパーでした。それが最小限のトランジスタ数です。1石でも削れば何がしかの性能が大きく後退します。逆に7石や8石になれば一段と有利ですが石数が多くなるほど高額でした。 そのような意味で日本全国ほとんどの地域で実用になる「6石ラジオ」はどれほどの性能だったのか知る意味もあって「6石」に拘った訳です。 6石使って性能の良いラジオが作れないならウデが悪いのです。(笑) 今のように電子部品が安価で豊富な時代にあっては、性能本意で言えば7〜8石使う方が「ゆとり」が生まれます。さらには専用のICを使えば一段と高性能なラジオになります。

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使用トランジスタについて
 例によって2SC1815Y、2SA1015Yと言ったポピュラーなトランジスタを使います。但し、低周波アンプの出力部分(Q6とQ8)には電流容量が足りません。このため、一回り大きなトランジスタ:2SC735Y(2SC1959Yが同等)と2SA562Y(2SA562TMYが同等)を使います。これらのトランジスタが入手し難いようでしたら、2SC735Yの部分は2SC1815Yを2本並列にし、2SA562Yの部分は2SA1015Yを2本並列にして代用することも充分可能です。 コレクタ電流が500mAあたりまで流せるトランジスタなら、他のPNP/NPNのペアでも大丈夫です。なるべくhFEが大きなランクのものを選びます。

 2SC1815Yや2SA1015Yの部分は、他の汎用トランジスタに置き換えることも可能でしょう。 試作では主に2SC372Yと2SA495Yを使いました。 中波帯のラジオですから交換しても変化は感じられません。 もちろん、トランジスタ個々に直流電流増幅率:hFEは異なるので、コレクタ電流の流れ方に違いが出ますから適宜調整します。回路図に記入してある各段のコレクタ電流値と±30%以上異なるようなら、付きの抵抗器(R1、R11、R20)の値を加減して電流を調整します。何れも抵抗値を大きくすると各コレクタ電流は減少する方向です。

 【IFTの巻数一覧表
 これが主題のIFTの製作データです。 新たに3種類の設計例を示します。 最上段が実際にこの8石ラジオの試作で使ったものです。 中段は幾らかゲインが大きめで、選択度も良くなるよう設計した例ですが、上段とあまり差はないでしょう。 下段は、秋葉原などで一般に市販されているトランジスタ用IFTと概ね同じ仕様の物を作るための参考データです。

 なお、左図においで各IFTの端子番号はメーカー製のTr用IFTに合わせてあります。従って全て底面から見た図になっています。これは常識かと思っていましたが、ご質問をいただきましたので注釈をつけた図面に差し替えました。 もちろん自作する場合は上面図だと思って巻いても良いでしょう。各端子の接続が回路図の通りになっていれば大丈夫です。

 IFTの共振周波数はすべて455kHzで設計してあります。また、同調容量はいずれも330pFを使います。IFTそれぞれの1番と3番の端子(ピン)間に取り付けます。設計において回路のストレー容量として10pFを見込んでありますが、IFTを使う人は特にそれを意識する必要はありません。
 一般的なトランジスタラジオ用IFTでは同調容量として100〜200pFあたりが使われています。 必要な共振インピーダンスを得るためにたくさん巻き線する必要があるからです。これは、使ってあるフェライト・コア材の特性によるもので、無負荷Qが低いのをインダクタンスの大きさでカバーすると言った考え方です。また、市販のIFTでは同調容量を内蔵する都合からサイズの制限があってコンデンサの容量をあまり大きくできないのも理由なのでしょう。

 しかし、ここで使っているaitendoの「IFTきっと」(←リンク)のコア材は高いQが得られます。従って、やや少ない巻き数でも(=少なめのインダクタンスでも)充分な共振インピーダンスが得られます。 そのため330pFと言った大きめの同調容量でも支障無く設計できる訳です。 それにコンデンサは外付けしますから物理的なサイズの制限もありません。 同調容量を大きくした結果、AGCが掛かった時に起こるトランジスタの特性変動によるIFT同調ズレが軽減されると言った副次的なメリットもあります。(参考:このaitendoの「IFTきっと」のコア材は1MHz以下で使うものです。それ以上の短波帯ではQが急激に低下するのでご注意を。一般的に言って短波帯の使用には向きません)

 全体に巻き数が少なくなったので作り易くなったと思います。2次側巻き数が多いIFT3も巻き溝から溢れることなく巻き切れるようになりました。

 巻線の端子接続も変更しています。 これは巻き易さの点で、4番ピンと6番ピンの接続を入れ替えた方が合理的な様に思えたためです。 もしトラ技誌の記事と互換にしたいなら、巻始めと巻き終わりの接続を変えて下さい。4番ピンと6番ピンを入れ替えてもIFTとしての性能は違いません。

 巻線はφ0.08mmのポリウレタン電線です。全般に巻き数は減っていますが太さφ0.1mmでは必要な回数だけ巻けません。(80回弱しか巻けない) トランジスタ・ラジオのIFTとしては、これ以上同調容量を大きくするのは適当でないので、設計どおりの巻き数で巻線にはφ0.08mmを使うようにします。

 【コンバータ部分
 周波数変換回路のアップ写真です。 トランジスタは2SC372Yになっていますが、もちろん2SC1815YでもOKです。 赤いコアは局発コイルです。 これは最大容量が275pFの等容量2連ポリバリコン用に巻いた自作品です。巻線仕様はトラ技の記事(p71、b図)の通りです。(参考:新刊書籍の場合、135ページの図7を参照) 使用するポリバリコンに合わせた物を使います。

 IFTは上表の上段のデータに従って巻きました。 実際のラジオ回路にて性能を確認しましたが、同調容量に220pFを使ったタイプと違いはありません。もちろん、これは同じようなゲインや選択度になるよう再設計しているからです。

 ブレッドボードにIFTを搭載するための変換基板は、JR2FNK/1鶴田さんが製作されたものを使ってみました。 最近ではaitendoでも類似の変換基板が手に入りますが、HAMが作っただけあって、鶴田さんの基板の方が高周波的に有利なようです。 まあ、ここでは455kHzと周波数が低いので顕著な違いは感じられないかも知れませんが。(笑)
 トラ技記事の写真のような、端子を片側に引き出す変換基板(aitemdo)よりもボード上のレイアウトがわかり易いと言ったメリットもあります。 IFTの同調容量:330pFはすべて変換基板の端子部分(上面)にハンダ付けしてあります。(写真ではIFTの金属缶の陰で見えませんが)

 【従来型の低周波アンプ
 この写真は別にテストした「6石ラジオ」の低周波アンプの様子です。使っているトランジスタは合計3石です。 回路は教科書どおりのシンプルなものです。

 この例では全て2SC1815Yを使っておりバイアスの温度補償には小信号用シリコンダイオードを使っています。 回路図は示しませんが、トラ技2015年10月号(p72)の記事そのままです。 少ないトランジスタ数で済むのは良いのですが、意外にトランスが場所をとります。それほどコンパクトには組めません。 また、こうした小型トランスではインダクタンスが小さいので数100Hz以下の低い周波数が延びないため低音が出てくれず、いわゆる「トランジスタラジオ」らしい音がします。低音域で無理にドライブしてもトランスが磁気飽和して歪むのがオチです。(笑)

 ディスクリート構成(個別半導体による回路構成)に拘らないのなら、 LM386のような低周波アンプ用のICを使うと簡単でしょう。 コンパクトな回路が組めますし周波数特性もずっと良いので大きめのスピーカを使うと意外に良い音が楽しめます。 あるいはディスクリート構成でやるなら、SEPP-OTLアンプを構成すると良いです。(SEPP-OTL : Single-ended Push-Pull - Output Transformer Less・・・ITL-OTL回路の一形式)

SEPP-OTLの例
 最大出力Po(max)=250mW程度のパワーアンプをSEPP-OTL形式で構成した例です。(上記8石ラジオの回路) トランスは必要なくなりましたが、比較的容量の大きな電解コンデンサが増えました。 それでも上手にレイアウトすればずいぶんコンパクトに作れます。

 トランス結合のアンプよりも周波数特性はずっと優れていて大きめのスピーカを使ってやれば音楽も楽しめるでしょう。 SEPP-OTL形式はトランスのコストが削減できるだけでなく、音質も向上することからお薦めです。 2石増えて6石トランジスタ・ラジオではなくなってしまいましたが・・・。

参考:低周波アンプ出力段のバイアス回路にトランジスタを使うのは好みの問題です。私はバイアスの調整範囲が広いので好んで使っています。回路例では手持ちのPNPトランジスタを消費する目的で2SA1015Yを使っていますが、NPNの2SC1815Yを使う設計も可能です。 もちろんSi小信号用ダイオード2本と可変抵抗器一つに置き換えることもできます。性能も違いません。そうすれば1石減って7石トランジスタ・ラジオになりますね。(笑)

 以上、IFTの再設計がテーマなのでラジオの作り方や調整についてはだいぶ省きました。雑誌記事や他のBlog記事を参照してもらえば大丈夫だと思っています。 試作した8石ラジオは感度も良く音質もマズマズなことから実用品として纏めるのも面白いです。 大きめのバーアンテナを搭載すれば高感度で受信できるでしょう。 さらに短波ラジオの設計(←リンク)を取り入れて2バンド8石スーパーに挑戦するのも楽しそうです。

                  ☆ ☆ ☆

 製作してみた感じではIFTの再設計で幾らかですが作り易くなっているようです。 入手容易な素材でオリジナルなラジオ用パーツが作れるのは有難いと思っています。 有効に活用したいものです。 コイル巻きは好まれませんが、RF回路ではある程度やむを得ないでしょう。 送信機を作ったらLPFが必要でトロイダルコアに巻いて自作する必要があります。自作HAMにとってコイル巻きは避けられません。

 ラジオ受信機ではなるべくコイルレスの設計が進んでいて、たとえばこのBlogでも紹介したことがあるTA2003P(←リンク)のようにIFTを一つも使わないICラジオもあります。 但し、単なる普通のラジオならコイルレスも可能かも知れませんがHAMが使うような「通信型受信機」では数個のコイルはどうしても必要でしょう。

 書き出しのように、8石ラジオなんて・・と思うかも知れませんが、作ってみると意外に遊べます。 ラジオはありふれていますから、電子回路としては目新しくもないでしょう。 でもトランジスタ・ラジオを作ったのはずいぶん昔だったのではありませんか? もしスーパー形式で作ったことがなければ、8石スーパーは大人が十分楽しめる製作だと思います。IFTから手巻きすればなおさらでしょう。あまりなめて掛かると完成しません。(笑)

 コイル巻きも適切な材料と製作に必要な情報が手に入ればそれほど難しくありません。 トランジスタ回路用のコイルはごく小さいので、最初は悪戦苦闘かも知れませんが少し慣れれば要領を得て手早く作れるようになります。 コイルが巻ければ自作RF回路の幅がずいぶん広がります。ぜひ習得したい自作の技術です。 オリジナリティを活かしたような製作も可能になるでしょう。 たまたま手に入ったFBなSSB用フィルタを自作回路に活かしたいと言ったニーズにも対応できるようになります。

 JARL主催の自作品コンテスト出品作品を拝見する機会があったのですが、最適なコイルを自分で工夫して巻くと言ったワザも重要な製作ノウハウの一つであるように感じました。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)

2017年11月4日土曜日

【測定】Repair the TR5821 universal counter

測定器修理:TR-5821型ユニバーサル・カウンタ
 【TR5821
 年代物のユニバーサル・カウンタを修理する話です。

 TR5821はAdvantest社製のユニバーサル・カウンタで1980年代の製品です。 既に30年以上経過していますから、だいぶ古い測定器と言えるでしょう。
 しかし、カウンタとしての機能や性能は今のものとほとんど変わりありません。 1980年代にはユニバーサル・カウンタは十分完成された測定器になっていたからです。

 ユニバーサル・カウンタは単純な周波数カウンタとは違います。周波数が測定できるのはもちろんですが、その他に入力信号の周期や2つの周波数の比を求めたり、パルス信号の時間差などの計測が可能です。 しかし、アマチュア無線の用途では殆どの場合「周波数の測定」のみが使われるようです。 様々な機能があっても使わないのではちょっと勿体ないかも知れませんね。(笑)

 TR5821は廉価版ではありますが、もともとプロ用ですからそれなりのお値段(¥128k)でした。しかし、長い年月を経ているので、中古品の価格は十分にこなれており、もし機能・性能に支障さえなければお買い得だと思います。 ここでは、15年ほど愛用したTR5821のメンテナンスの様子をレポートします。もう使っている人は少ないでしょうね。

 【プッシュ・スイッチが弱点
  底部にある4本の長ネジを外すと中身を見ることができます。 TR5821は専用IC化が進んでおり、しかもマイコン採用とあって意外なほどあっさりしています。

 筐体は隙間がない構造です。従って、年数は経過していても内部のプリント基板は奇麗な状態でしょう。使ってある半導体に問題がなければまだまだ十分使える筈です。 古くても実稼働時間はそれほど長くないでしょうから劣化の進んでいない機体も多いでしょう。

 しかし、プッシュ・スイッチだけは別です。 この時代のAdvantest社製の測定器に使ってあるプッシュ・スイッチは甚だ品質が悪く、途中で交換修理してないなら100%へたっている筈です。 押した感触がないばかりか、切換えもスムースにできないでしょう。

 私が持っているこれも、ご多分に漏れずプッシュ・スイッチは全滅でした。 幸い交換用のスイッチ(対策済みの部品)が知人を通じて入手できたので取り替えることにしました。 なお、交換用スイッチはYahoo等のオークションにて「ADVANTESTスイッチ」で検索するとヒットするとのこと。 あとはご自身で確認されてください。 Advantest製品の修理サービス会社は修理以外のサービスはしていないはずです。 部品の入手について問い合わせてもご迷惑をかけるだけでしょう。やめた方が良いです。

 表示・操作パネルは筐体下部と嵌め込み式になっており手前側に外すことができます。 写真は操作パネルの裏側にあるプリント基板です。 この基板にプッシュ・スイッチが付いています。 左側の2個を外したところで撮影しました。ちょっと面倒臭かったのですが、全部交換したら快調そのものです。もっと早く交換すれば良かったと思いました。

                    ☆

以下、せっかくの機会なので簡単にTR5821の特徴的なところを書いてみましょう。

A入力で1kHzを観測
 TR5821にはA入力とB入力があります。

 A入力はごく普通の周波数カウンタです。1kHzを入力し、1秒ゲートで測定すると写真のように「1.002kHz」のように表示されます。分解能は1Hzと言う訳です。

 なお、A入力の上限周波数はSpecでは120MHzとなっています。 標準信号発生器:SSGを使って試したところ、120MHzを超えると幾らか感度は悪くなる傾向が見えましたが180MHzまで測定できました。 測定精度も問題ないようです。 アマチュア局の場合、144MHz帯まで測定できれば活用範囲が広がるのでFBだと思います。 個々にバラツキはあると思いますが、故障さえなければ150MHz以上測定できるのではないでしょうか。

 【B入力で1kHzを観測
 TR5821の特徴はB入力ではないかと思います。

 写真は、上記と同じ1kHzをB入力に加え、同じ1秒ゲートの設定で周波数を測定している様子です。

 B入力は「レシプロカル・カウンタ」になっていて、入力信号の周期から逆算して周波数を計算する形式です。 従って、比較的低い周波数を短時間で高精度に読み取ることが可能になっています。 この例では、1mHz(ミリヘルツ:1/1000Hz)まで1秒ごとのサンプリングで読み取ることができます。 もしも上記と同じように、普通のカウンタでこれだけの桁数を読もうとすれば。1回毎の測定に1,000秒(17分近く)掛かることになります。

 このように、TR5821は比較的低い周波数の信号を高精度に測定するときに威力を発揮しますが、自作のプリスケーラを前置して測定する場合にも非常に効果的です。 なお、B入力の最高周波数は、Specでは50MHzですが実測では約88MHzまで可能でした。

 レシプロカル・カウンタの測定原理や固有の測定精度の問題に関しては、取扱説明書(ネットで入手可能)に書かれています。詳細はそちらを参照して下さい。


B入力で10Hzを観測
 「レシプロカル・カウンタ」の効果は上記の例で既に明らかですが、10Hzと言った低い周波数ではより顕著になります。

 もしA入力で測定すれば「10」としか表示されません。 左写真のように読もうとすれば「10万秒」が必要です。 それだけ掛かったら測定しているうちに被測定物の周波数がずいぶん変動してしまうかも知れませんね。(笑)

 TR5821の中古品を求めるなら、ぜひともB入力に着目したいと思います。 もしレシプロカル・カウンタの機能が使えないなら価値は半減以下ではないでしょうか? 目的次第かも知れませんが、ぜひとも押さえておきたいポイントの一つです。 TR5821の姉妹機には1.3GHzまでのプリスケーラが内蔵された機種(TR5823)やOCXO付き(TR5823H)もあって狙い目かも知れません。なお、TR5822はGP-IB付きです。但しいずれも機能的に同じですからTR5821で十分でしょう。精度や測定範囲は外付けで補えますから。 これらの上位シリーズにはTR5824/5825もありましたが、レシプロカル・カウンタの機能はなかったかも知れません。(要確認です)

 なお、内蔵の基準発振器が普通の水晶発振器の機種では良く校正しておけば誤差1ppm程度の精度になるようです。常温の環境で通電してから1時間後の精度です。 また、校正次第ですが基準発振器がOCXOならもう1〜2桁精度は良くなります。もちろんOCXOは常時通電されていなくてはダメですけれど。
 どれも外部基準入力端子(10MHz)が付いているので、写真のようにルビジウム原子周波数基準器なり、GPS周波数基準器から10MHzを与えれば測定精度の画期的な向上が図れます。 外部基準器としては、通電から30分程度で必要充分な精度に達するルビジウム原子周波数基準器がお薦めできると思います。

                   ☆ ☆

 アマチュア無線家にとって周波数の高精度な測定手段を持つことは夢の一つでした。 ラフな測定なら吸収型周波数計やディップメータが役立ちますが、精度1kHz以下ともなればヘテロダイン周波数計くらいしかありませんでした。 ヘテロダイン周波数計は扱いに技量を要するうえ、周波数カウンタのような手っ取り早い測定は無理でした。 1960〜70年代の話です。

 1970年代に入って、高速なTTL-ICやECL-ICが入手できるようになると周波数カウンタの自作が流行しました。 私もさっそく自作し、上限周波数は50MHzくらいではありましたが、無線機の自作にたいへん活躍してくれたことを思い出します。 初代のTTL+ニキシー管を使った5桁表示の周波数カウンタは既に引退していますが、C-MOS LSIと高輝度LEDで作った2代目はいつでも使える状態です。

 かつて高性能な周波数カウンタを作ることは自作テーマの一つだったのですが、既に興味も薄れました。 組み込み用マイコン式カウンタには未だにニーズもありますが、独立した測定器としてのカウンタは別です。 流石にメーカーの製品は良くできています。まあ、これは当たり前ですが、中古品ならリーズナブルに入手できるのですから自作する面白みは何だか失われてしまった感じですね。 良かったら、貴局の周波数カウンタの思い出など教えて下さい。 ではまた。de JA9TTT/1

(おわり)

参考:最近の中華製ユニバーサル・カウンタにはレシプロカル・カウンタの機能が搭載されているものがあります。使用経験はないので使い勝手の良し悪しは不明ですが、新品が欲しい場合は検討対象にするのも良さそうです。