【MC34063Aで高電圧を作る】
モトローラ(現・ONセミ)のDC/DCコンバータ用のICを使って昇圧電源を作ってみました。 まずは目論み通りの物ができたようです。 目的はNIXIE管点灯用の高圧電源です。
スイッチング形式の電源が一般化したので、DC/DCコンバータ用のICにはたくさんの種類があります。 ここで使ったのはMC34063Aという8pinのICです。 使い易いためか様々な機器に使われているようです。 MC34063Aはチョッパー型のDC/DCコンバータ用ICです。 このICは降圧スイッチング電源に使われることが多いようですが、この例のように昇圧にも使えるほか、極性反転型の電源も作れます。 研究の価値があると思います。
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DC/DCコンバータと言えば真空管式の機器を車載などDC電源で使うために使っていました。 しかし真空管の時代も遠い昔の話になってしまいました。今では少数の愛好家が使うくらいのものでしょうか?(笑) 自身も電池管で作った送信機を移動運用するために作ったことがあります。 トランジスタを2石使ったジェンセン型でした。
うまく昇圧はできるのですが、電圧は負荷状態によって変動して成り行き任せでした。 簡単な回路なので仕方がなかったと思います。 設計も厄介ですし昇圧トランスの巻線も昇圧比が大きいので2次側にたくさん巻いて・・・。w
電流容量が必要ならロイヤーやジェンセンのような昔の形式も悪くないと思いますが、ここではせいぜい10mAも取れればよいので簡単にできる方式を模索することにしました。 以下は自家用の備忘です。 用途自体が特殊ですから興味のないお方には意味はなさそうです。 真空管式の無線機に使うにはかなりノイズ対策が必要です。対策できるとは思いますが大変でしょう。
【180V DC/DCコンバータ回路図】
MC34063Aがよくできているので、回路はかなり簡単です。 出力電流が少ないので、昇圧コイルは親指の先ほどのサイズの既製品で十分間に合います。 電力として数Wが昇圧できれば良いため変換効率は追求していません。 昇圧比が大きいためか、だいたい70%程度のようでした。
数10Vへの昇圧ならMC34063Aの単独で可能ですが、ここでは180Vへ昇圧します。そのためIC内部のスイッチング・トランジスタでは耐圧が足りません。 耐圧の高いスイッチング・トランジスタを外付けします。 最初の写真で上の方に簡単なヒートシンクとともに見えるのが外付けしたPower-MOS FETです。 あまり熱くはなりませんが連続運転するならヒートシンクを付けた方が安心です。
外付けトランジスタは耐圧の高いNPN型トランジスタでも良いのですが、いまではPower-MOS FETが最適でしょう。 入手が容易なうえ丈夫で壊れにくいからです。 少々大げですが、耐圧:500Vで電流容量:10Aの2SK1248を使いました。これは手持ちの都合です。 ドレイン・ソース間耐圧が400V以上で電流容量が5AくらいのN-Ch MOS-FETで、なるべくON抵抗が低いものが適しています。 2SK1248は入手しにくいので代替品として秋月電子通商で売られているTK10A60D(東芝)など良さそうです。(@¥100-)
昇圧コイルは240μHのインダクタを使いました。テスタで測った巻線抵抗は約0.4Ωです。 このコイルは変換効率に影響が大きいので良いものを使うべきです。 良いものとは、巻線抵抗が小さく、コアが大きくて磁気飽和しにくいDC/DCコンバータに向いたコイルです。 インダクタンスは220μH〜330μHくらいのものを使います。なるべく巻線の抵抗値が小さいものを使ってください。テスタの抵抗レンジで測定して1Ω以下のものが適当です。1A以上、2Aくらい流せるものにします。
だいぶ前の話しですが、回路図にインダクタンス値のみ書いておいたら、非常に小さな外観形状のインダクタ(=コイル)を使われたお方がありました。 「アンタの言うようにならないぞ」というクレームがあったのです。 回路の動作は考えずにインダクタンス値にのみ着目したのでしょう。 お使いになったインダクタは巻線抵抗が大きくて抵抗器の作用も併せ持っていたのです。 小さく作りたいと言う意図はわかったのですが、小型のインダクタは巻線抵抗が大きいと言うことをご存知なかったんでしょうね。 DC/DCコンバータのコイルに豆粒のようなサイズを使う人はいないとは思いますが、インダクタンスだけでなく巻線抵抗や電流容量にも気を配ってください。
整流用のダイオードは高速タイプが向いています。 1N4007などの50/60Hz用のダイオードも取りあえず使えます。 しかし整流する周波数が高いので高速整流用ダイオードを使うとロスが減らせます。 ここでは10DF8という手持ちを使いました。 類似のものは秋月電子通商などで安価に手に入ります。(例:PS2010Rなど) 逆耐電圧が400V、電流容量が1Aくらいの高速整流用ダイオードなら何でも良いです。
Power-MOS FETのゲートとGND間に入っているPNPトランジスタを使った回路は非常に重要です。 Power-MOS FETのゲートとソース間には大きな静電容量が存在します。 そのため、OFFになったらゲートに残存している電荷を急速放電してやらないとスイッチングのロスが発生します。 件の回路はこれを改善するためのもので、OFFになったときゲートに残った電荷を強制的に放電する働きをします。 NPNトランジスタのようなバイポーラ型のパワートランジスタでは無くても良かったのですが、Power-MOS FETを使うためには必須の回路です。 1kΩをゲートとGND間に入れただけでも動作はしますが変換効率が悪くなります。 2SA495Yは2SA1015Yで代替できます。 特殊な部品は使っていないので必ず入れておきます。
昇圧後の平滑コンデンサ:C4=2.2μFはできればスイッチング電源用が良いです。スイッチング電源は整流周波数が高いことから数10kHzで等価直列抵抗(ESR)が小さいものが適しています。ここでは実験なので一般的なアルミ電解コンデンサで様子を見ました。
暫く動作させてみた範囲では、発熱など認められないので実験的には支障はないようでした。しかし長時間連続して運転するような機器では、このコンデンサによって機器の寿命が左右されるので専用品が適当です。
MC34063Aは通販ほか秋葉原でも安価に購入できます。 私はしばらく前に購入したONセミ製を使いました。 2018年10月現在、秋月電子通商でHTC製のセカンドソースが40円で売られています。同じように使えるはずです。 ¥100均グッズに使われているという情報も聞きました。(シガレットライター型の車載用USB電源アダプタらしい?) 分解すると調達できるかもしれません。 上位互換品にNJM2360A/新日本無線があって、秋月電子通商で70円です。 ほかにIR3M03A/シャープも互換品なので手に入れば使えます。
# 他に難しそうな部品はないと思います。 簡単に集められるでしょう。
【負荷テスト】
いくつか負荷抵抗の値を変えて電圧変動を確認しました。 だいたい10mAくらいの容量があれば十分なので最終的には18kΩを負荷にしてテストしてみました。 無負荷状態と比較して1.3Vくらい電圧降下が認められましたが、実際に予定している負荷は写真のようなNIXIE管ですからまったく支障はないでしょう。
実際の負荷電流は約1.5mA×桁数なので、6桁としても9mAくらいです。10mA以内ですから支障ありませんね。 しかも私は4桁で済ませるつもりですので。(笑)
うかつに触ると感電する電圧なのでおっかなびっくり測定しました。 昔は真空管回路など平気でいじったんですが、昨今は高くても50V止まりです。 低圧回路のつもりで無造作に扱うと感電したり火花が散るので神経を使いました。 通電表示にネオン管でも点灯させておく方が良さそうです。 高い電圧に慣れなていないお方は特に気をつけてください。 球のリニヤアンプから見たら180Vなんて低圧電源ですが、触ればちゃんとシビレますので。(笑)
【180Vが得られる】
調整式にしてキッチリ合わせても良いのですが、用途が放電管用ですから少々の違いは支障ありません。 固定抵抗で作っても良いでしょう。
ここではR2=3.3kΩ、R3=470kΩで作りました。ほぼ計算通りの電圧です。 MC34063Aの内蔵基準電圧(1.25V)のバラツキもあるので数%の違いは予想されますが、無調整で実用上の支障はありません。
もし調整式にするなら、R2として2.7kΩと1kΩの可変抵抗器を直列にしておけば良いでしょう。 神経質に180Vに拘る必要はないので固定抵抗で作って出力電圧を確認しておけば十分だと思います。
【リプル波形】
リップルの波形です。 負荷が軽いと間欠的な動作になるようで、うまく同期が掛からないので綺麗な波形として観測できませんでした。 150〜200μS周期のリプル波形が認められます。
波高値は0.3Vpp程度ですから、180Vに対するリプル含有率は0.17%くらいになります。 用途に対しては全く支障のないリプル含有率です。 しかし、受信機など通信機用の電源に使うなら一段と綺麗にする必要があるでしょう。 50/60Hzの高調波と違ってずっと高い周波数成分が含まれています。 ノイズの原因になるのでDC/DCコンバータ自体をよくシールドしたうえで、入・出力の部分にLC回路によるノイズフィルタを設けないと実用にならないはずです。
このままだとこの電源を使った機器の周囲にノイズを撒き散らす可能性もありますが製作する際には幾らか対策を行なおうと思います。 ラジオにノイズが入ったら困ります。
【ソ連製のNIXIE管】
負荷に予定しているソ連時代に作られたらしいニキシー管を点灯してみました。 型番は「ИН-12Б」です。 西欧のアルファベット表記では「IN-12B」になるようです。
このNIXIE管はよほどたくさん作られたらしく、今でもかなり目にします。 容易に手に入るようですが、ぜひともソケット付きで手に入れておくようにしましょう。 ピン数が多いのでソケットの工夫は意外に厄介だと思います。
180V電源で使い、電流制限抵抗(負荷抵抗)は33kΩでテストしています。 この状態で約1.5mAくらい流れます。 文字欠けなどないので良さそうです。 規格表を見ると最大電流は2mAのようですが、キリル文字の仕様書は良く読めないのでこんな程度にしておこうと思います。 NIXIE管の常識的な使い方ですので大丈夫でしょう。 hi
デコーダ・ドライバには懐かしのSN74141Nを使うつもりですが、果たして40年モノのICが無事なのかちょっと心配がありますね。ソ連製のセカンドソースも手に入るようです。
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数年前だったと思うのですが、NIXIE管がブームになったとき纏めて入手されたという球を譲っていただきました。 近頃は貴重品扱いですから、そのまま使わずに保管しておけばいつかお宝に化けるかも知れません。 しかし使いにくいし半導体と違って寿命は短めですからそのうち見向きもされなくなるかも知れません。 このあたりどうなるか先が読めませんね。(笑)
大切に保管すると言うのも一つの考えかも知れませんが、例によって「電子デバイスは使ってこそ価値がある」と思うので使うための検討から始めることにしました。 AC電源が前提なら、ニキシー管用に高圧巻線のある電源トランスを使うのが一番簡単です。 しかし、大した電流でもないので12Vあたりから昇圧できたら扱い易いかも知れません。 わざわざ特殊なトランスを購入しなくて済みます。 試してみたら簡単に必要な電圧と電流が得られることがわかりました。 なんだか面倒だなあと思っていた昇圧コイルも手持ちの既製品で間に合いそうです。 これなら高圧電源のことで悩まずニキシー管が使えそうですね。 ではまた。 de JA9TTT/1
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【追記:t-on/t-off比拡張回路の実験】2018.10.31
【t-on/t-off比の拡張回路とは?】
MC34063Aを使った昇圧電源回路の電流容量はコイルやトランジスタの大きさ(容量)だけでは決まりません。
もちろん、過小な容量のパーツを使ったなら電流が取り出せなくて当然でしょう。 しかし、それ以外にスイッチング・トランジスタ・・・この場合Power-MOS FETですが・・・のオン時間(t-on)とオフ時間(t-off)の比が一定の値で頭打ちになることから取り出せる電流が制限されるようなのです。
最初に示した回路でも今回の目的には十分だったのですが、もう少し余裕が欲しいと思って幾つか実験していました。 例えばコイルを替えてインダクタンスを最適化する、スイッチング周波数を変更してみるなど色々試みたのですがさしたる違い(改善)はありませんでした。 むしろ無闇に変更すれば効率の低下や、かえって取り出せる電流が減少するなどの副作用も目立ちました。 とりあえずの目的には間に合ったのでそれで一旦はオシマイにしたのです。
Blogの公開から間もなくJA7LGC阿部OMよりコメントを頂きました。 それによりますと、類似の回路で実験されたようですがずっと大きな電流が取り出せているようなのです。 何が違うのか気になったのでお尋ねしたところ、ON-Semi社のサイトにあるApplication Note:AN920/D(←リンク)を参照してくださいとのご返事でした。 参照して改良点はわかったのでさっそく試すべきでしたが、あいにく実験回路は解体した後でした。 そこでもう一度製作してテストしたのがこの「追記」です。 あらためて、阿部OMありがとうございました。
効果のほどはOMがコメントでお書きの通りで、ずっと大きな電流を取り出せるようになりました。 今回の製作ではそれほど大きな電流は必要としないため、概略の様子を見る程度でやめておきました。 初めから大きな電流を狙って部品の吟味を行なえば真空管式の受信機や小型送信機を動作させることも可能そうです。 この写真のままでは10mA以上の電流を取り出しての連続運転は適当でありません。 Power MOS-FETの放熱が不足しており昇圧コイルの容量も足りません。 もしNIXIE管の用途以外を目指すなら部品を選ぶ必要があります。
【改良した回路図】
アプリケーション・ノート:AN920/Dのp21〜p22で示された回路を参考にしています。 MC34063Aの3番ピンとGND間に付いているコンデンサ:C1の放電を早くするような回路を追加する訳です。 PNPトランジスタ:Q3とダイオード:D3の回路がそれです。 この回路はスイッチング・トランジスタ:Q1のゲートに残存した電荷をOFF時に強制放電させて効率をアップする回路と同じように働きます。
MC34063Aの発振回路は回路的な制約からスイッチング波形のデューティ比はある決まった範囲内でしか変化できないのでしょう。 そのためデューティ比を変えて負荷電流を増やそうとしても頭打ちになるようです。 そのため、周辺の部品を変えても取り出し得る電流は増加しなかったのです。 追加したトランジスタとダイオードにより、C1の放電が強制的に行なわれるようになることから取りうるデューティ比の範囲が広くなります。その結果ずっと大きな電流が取り出せるようになります。
回路を追加する部分(Pin 3の周り)の電圧が低いためか、使用するトランジスタとダイオードはゲルマニウム型が指定されています。 AN920/Dによれば、2N524と1N270が使われています。 1N270は手持ちがあったので良いとして、かなり旧式な2N524など手に入れるのは難しいでしょう。 スイッチング回路の一種と考えてゲルマニウムの高速スイッチング用である2SA417で試してみました。 これで十分な改善が見られ2〜3倍の電流(180Vで20〜30mA以上)は容易そうでした。
しかし2SA417や1N270を探し回る人が発生しても申し訳ないので、もう少し入手性の良いトランジスタで比較してみました。 その結果、このQ3の部分は特に高速トランジスタである必要はなく、むしろhFEが大きめのトランジスタの方が良さそうです。 幾つか試したのですが、2SB77(日立)や2SB56(東芝)のような低周波用のトランジスタでもhFEが100前後あるものなら十分そうでした。
ゲルマニウム・トランジスタの特性上、あまりhFEが大きなものはベース遮断電流:Icboの関係からコレクタの漏れ電流が大きくなります。 そうなるとMC34063Aの発振回路は発振できなくなって旨くありません。 hFEが50以上150くらいまでのPNP型ゲルマニウム・トランジスタなら何でも良さそうです。可能ならコレクタ漏れ電流(Iceo)を確認しておけばベストです。
またQ3のベース・エミッタ間に入っているダイオード:D3はQ3がゲルマニウム型なのでゲルマニウム・ダイオードにすべきです。 1N270はゴールド・ボンド型のゲルマニウム・ダイオードなので、国産品で同種の1S73Aや1S1007などが適当と思われます。 しかし入手が難しいので1N60や1K60でもテストしました。 これも支障なく代替可能でしたから入手容易な1N60や1K60で大丈夫です。 比較しても差は見られないので1N270を使う必要はありません。 もし選別して使用するなら逆方向の漏れ電流が小さいものが適当です。
回路を最適化するため、コンデンサ:C1の値は2,200pF から3,300pFに変更しました。 追加したQ3のおかげで放電が早まってt-offの長さが固定されるためか変換効率はやや悪くなるようです。 負荷電流が大きい方で効率が良くなるのは好都合ですが、同じ部品を使っていても前よりも5〜10%ほど効率は下がるようでした。 DC抵抗の小さなコイルに交換するなどある程度の効率アップ対策は可能と思われます。
【エクステンダ回路のトランジスタ】
追加したトランジスタとダイオードです。 たったこれだけの追加で取り出せる電流が倍増(倍以上も可)します。
ゲルマニウム・ダイオードはまだ幾らでも手に入りますが、ゲルマニウム・トランジスタがネックかもしれません。 しかし、PNP型でhFEさえある程度の大きさがあれば何でも大丈夫そうですから何とか手に入るでしょう。 トランジスタカタログを調べて2SA、2SBのトランジスタから適当なものを探してください。 拙宅では昔々自作に使った名残の足の短い2SB77とか2SB56などが出てきました。 まさかこんな用途で再活用するとは思いもしませんでした。(笑)
写真の2SA417は見かけは良いのですが、トランジスタの構造上hFEが低いので最適とは言えませんでした。 Mesa型なので飽和電圧が大きいのもよくないのかも知れません。 見かけではなく性能(hFE)で選ぶべきです。 電圧の低い回路部分で使っていますので耐圧やコレクタ損失などは特に気にしなくても大丈夫です。
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MC34063Aを使った高電圧なDC-DCコンバータは部品も少なく変換効率もまあまあだったので、もう少し電流が取れたらFBだと思っていました。 Blogに頂いたコメントのお陰で電流アップできました。 これでもう少し幅広い用途に使える可能性も出てきたように思います。 ノイズ対策はそれなりに厄介かもしれませんが、0-V-1とかQRPpな送信機くらい動作できるかも知れません。 12Vの電源なら自動車から取り出すこともできるのでフィールドで真空管式の無線機を楽しむことができるかもしれませんね。 ではまた。 de JA9TTT/1
(実験するお方は、くれぐれも高い電圧に気をつけてください)
参考:ニキシー管の活用法にリンク→こちら。
(おわり)nm