2020年11月30日月曜日

【回路】Try the germanium transistor! Part 2

回路検討:ゲルトラで作るパワー・アンプ

abstract
Making an RF Power Amplifier with Germanium Transistors. Germanium transistors are vulnerable to high temperatures, so they are mounted on a large heat sink. The Π605 is made in the Soviet Union, so I had to make a little effort to mount it on a heat sink. Now that it went well, let's try a collector grounded type RF Power Amplifier. (2020.11.30 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

Π605でパワー・アンプ
 前回のPart 1(←リンク)では水晶発振回路を試作してみました。大きめの石(トランジスタ)を使えば100mWくらいの発振出力なら十分可能そうでした。

 7MHzの送信機として目標パワーは3〜5Wです。発振から一段の増幅で一気に3W以上得られたら良いのですが、それには終段パワー・アンプのゲインがどれくらい取れるのかが課題になります。

 パワー・アンプも旧ソ連製のトランジスタ「Π605(P605)」で作ります。Π609Aよりコレクタ耐圧が高く電流もたくさん流せるからです。これらはパワーを出すための条件とも言えるものです。但しfTが低いのでのでパワー・ゲインは小さめでしょう。

 2000年ころ作ったゲルトラの送信機でも終段の石が問題でした。何とか100mWが得られる2SA127という石を見つけて目標のパワーが出せたのですが、それが限界でした。
 Π605は遥かに大きな規格のトランジスタです。コレクタ耐圧:VCBO=-45V、コレクタ電流:Ic=-1.5Aです。コレクタ損失:Pcも3Wありますから上手に使えば数Wは可能なはずです。 fTはΠ609Aの120MHzより低いのですが、それでも30MHz以上あるので7MHz送信機のファイナル(終段増幅器)なら何とかなるでしょう。あとはどれくらいのパワー・ゲイン(PG)が得られるのか、具体的に言えばどれくらいのドライブ電力が要るのかがこの実験のテーマとなります。

                    ☆

 20年前ならもっと「ヤル気」に満ちていたかも知れませんね。最近はボチボチじっくり楽しもうという方向で進めるようになってしまいました。たった2〜3ステージのシンプルなCW送信機に何ヶ月も掛けていてはしょうもないのですが、遅々としているのが現実です。私なんか待っていないで「ヤル気」に満ちたお方はどんどん先に行ってください。じっくり楽しみながら追い付きますから。(笑)

 ゲルトラの送信機など自作のテーマとしてもは特殊ですし、さしたる意味がある製作とは思えません。実用的な送信機なりトランシーバはシリコンの高性能なトランジスタやFETで作るべきです。 物好きな製作がお好みならこの先も宜しいかも知れませんが、あまり興味がなければ早々にお帰りください。大したことは書いてありませんし。 暮れは何かと慌しいもの、いたずらに時間を浪費されませんように。


黒いΠ605
 入手できたΠ605には黒いものもありました。この黒いΠ605はさらにリード線がハンダ付けされていました。ソ連時代の機器の何か決められた目的・用途に使う物だったのかも知れません。

 地金色の無塗装でリード線付きのΠ605も売られているのを見たので、色の違いにさしたる意味はないのかも知れません。 しかし何となく気になりました。本体部分の形状はまったく同じですが、黒く塗装されていてリード線が付いているなど選別品を加工した可能性もありそうです。 ひょっとしたら電気的な特性に違いがあるかも知れません。可能な範囲で調べてみることにしました。

 今回のようなRFのパワー・アンプで気になるのはコレクタ耐圧とトランジション周波数:fTの違いです。 耐圧が高ければより高いコレクタ電圧を印加できるため増幅効率が良くなり、大きなパワーが得られる可能性があります。 逆に耐圧が低ければ目的のアンプには不適当になるでしょう。 またfTが高ければRFのパワー・アンプには有利ですが、逆に低ければ十分なゲインが得られません。使いにくい石になってしまいます。

 調べた結果から言うと大した違いはありませんでした。ロットの違いによるバラツキ以上の差異はなさそうです。 黒い方がややfTが低めでしたが10%くらいの違いです。 コレクタ耐圧はほとんど同じでした。 耐圧の実測ではいずれの石も規格値よりも高かったので好都合です。電源電圧:Vcc=-12VのCW送信機なら十分安全に使えそうです。

こうしたデバイスの特性を比較する時にはカーブトレーサがあると重宝します。


Π605の外形寸法図
 Π605に限らず、前回のBlogで発振回路に使ったΠ609Aも同じ形状です。 この形状はソ連時代のパワー・トランジスタではポピュラーなようです。

 今回はパワー・アンプなので十分な放熱が必要ですから寸法図に従って、本格的なヒートシンクに穴あけ加工を行なって取り付けることにします。

 ソ連は米国と違ってメートル法を採用していたようです。 そのためこうした電子部品の寸法もmm単位になっています。 その点は米国のインチ法よりも扱い易いのですが、手加工するとなるとなかなか細かいところは思うように行かないものです。


ハンコは廃止の方向ですが
 上記の図面に従って精密な穴加工ができると良いのですが、手工具だけではなかなか精度が出せません。せめて重要な寸法の部分だけでも正確な位置にセンターポンチを打って精度を出したいものです。

 精密にけがいて位置決めできたら良いのですが、なかなか精度が出ません。手っ取り早い方法として「現物合わせ」で行くことにしました。
 足ピンに太さが有りしっかりしていますから、スタンプの要領で朱肉を付けてピンの位置を正確に写し取ることができました。 あとは写し取った紙片を切り抜いてヒートシンクの所定の場所に貼り付け、正確にセンターポンチを打ってやればOKでしょう。 この方法は精度もよく大成功でした。

 足ピン3本の穴加工が成功したら、止め金具の穴位置を決めます。 トランジスタの足ピンが開けた穴のセンターに来るように粘着テープで仮に固定します。 止め金具を載せて固定する位置を確定します。こちらの穴はφ3mmのビスに対して、最初から遊びがあるため多少ラフでも支障ないでしょう。


穴加工終了
 穴加工がうまくできました。 押さえ金具の位置合わせは多少やり難かったのですが大丈夫でした。 金具の方に遊びがあるのでそれなりの加工精度でもうまく行くようです。

 日本で一般的なパワー・トランジスタなら取り付け穴加工が済んでいるヒートシンクが容易に手に入ります。自ら穴加工する必要はあまりありません。 また、最近は樹脂モールドタイプのパワトラが殆どですから穴加工も一つだけで済むため簡単です。 まさかソ連製のトランジスタ用にヒートシンクの穴加工をするとは思いませんでした。


取り付けてみる
 さっそく仮に取り付けてみました。思ったよりも上手く行きました。
 ピン足の穴あけ位置は十分良い精度が得られています。 ピン足の穴は初めφ2mmで開けました。位置的にも精度的にも問題はないようでした。 しかしリード線をハンダ付けするなどの都合を考えると余裕がないのでφ2.5mmに追加工して終了にしました。

 押さえ金具の固定にはヒートシンクにタップを立ててネジ穴加工を行ないました。これでM3のネジで直接止めることができます。

 Π605はケースがコレクタに接続されています。 従ってこのような止め方ではコレクタとヒートシンクの絶縁が保てないことになります。 しかし、これは支障ありません。 はじめからコレクタをアース・GNDする回路形式で設計しているからです。(後ほど回路図あり)
 トランジスタのケースを直接ヒートシンクに密着することで最良の放熱効果が得られます。また、コレクタとヒートシンク間のキャパシティも発生しなくなります。 コレクタがケースに接続されているRF用パワー・トランジスタの使い方として確立された回路形式です。


組立構造を考える
 どのように組み立てるのか考えた結果、ナマ基板の上に作ることにしました。周波数は7MHzですから神経質になる必要もないのですが、RF的(高周波的)に安定な構造が間違いないでしょう。

 ヒートシンクに固定用のタップを立ててあります。 基台となる生基板にねじ止めで固定します。 ヒートシンクもGNDに直結されますから高周波的にも安定すると思います。
 回路部分は生基板の上にランドとなる基板片を瞬間接着剤で貼り付けて組み立てます。 何しろ実験的な一品料理ですから何でもアリです。

 さて、今回のPart 2はここまでの作業でおしまいです。 RFアンプとして組み立ててゲインの測定や可能なパワーなど見極めるのは次回以降になります。 今のところ、トランジスタ単体での事前評価では十分なゲインが得られ、パワーも出てくれるように思います。 ただし、RF用のゲルトラで数Wと言った「ハイパワー(?)」を扱った経験はありません。 ゲルトラは思いのほか脆い(もろい)という印象もあるので、パワーが出るのはほんの一瞬ですぐに壊れてしまう・・・と言った結末もないとは言えません。 大きな・・・過剰そうにも見える・・・ヒートシンクを奢っているのも少しでも安全かつ確実なパワーを期待してのことです。 それでも、このソ連製ゲルトラのS/B領域はどの程度なのかと言った情報はないので気が抜けません。


実験回路(案)】
 最終設計ではないことをあらかじめ書いておきます。 まずはRFパワー・アンプ部単独でテストします。回路はこのような物を考えていますが、まだ最終的なものではありません。

 ゼロ・バイアスのC級増幅ではなく、B級あるいはAB級バイアスも可能なように考えてあります。 ただし、ゲルトラの場合ゼロバイアスであっても僅かなコレクタ電流:Icoが流れています。これはベース漏れ電流:ICBOの影響によりるものです。普通、シリコンのトランジスタでは殆ど無視できる電流です。ところが、ゲルマニウム・トランジスタではそれが無視できません。 従って常に完全なゼロバイアスではない訳で、特にリニヤ・アンプ的な動作を望まないのであれば、外部に特別なバイアス回路は必要ないのかも知れません。VBEも0.2V位と小さいですし。このあたりも含めて、実際に製作して最適化したいと思っています。 ゲルトラのRFパワー・アンプはまだまだ未知の部分が多いのです。 だからこそじっくりとスリルも味わいつつ製作を楽しみたいものです。

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 少し間が空いてしまったらすっかり気が抜けてしまいました。やるべきことは沢山あるのですが、なかなか捗りませんでした。取り敢えずはどんな回路で作るのかを決め、それに合ったようにヒートシンクの加工から始めました。ここまでは何とか進んだのですがその先がストップしています。パワー・アンプとしての回路定数も未定の部分があります。そこが肝心だったりしますが・・。(笑)
 何事も心がけ次第ですね。気が抜けてしまうと遅々としてしまいます。この先はパワー・アンプのゲインを測定したらドライバ・ステージへ戻って必要なパワーが得られるよう設計を進めましょう。ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm
 

2020年11月15日日曜日

【測定】Simple Transistor Curve Tracer.

測定:簡単カーブトレーサ・アダプタの試作法

abstract
This Blog explains how to make a simple curve tracer adapter. This curve tracer adapter was designed in the 1970s. So, there is no IC in it. Instead, this is a very good use of UJT. The circuit is simple, but I think it still works well today. I also dealt with how to modify the cheap oscilloscope, which is an essential part of the curve tracer. Even a simple oscilloscope may work well. How do you like it for your shack? (2020.11.15 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

これだけの回路でできる
 カーブトレーサはトランジスタやFETと言った半導体の特性をビジュアルに表示するための装置です。 そんなカーブトレーサ(アダプタ)の製作と言うと何だか難しそうですが、写真のたったこれだけでも機能します。 もちろん、シンプルなだけに機能や性能は限定されたものですが「有るのと無いのとでは別世界」なのは間違いないです。(私見です・笑)

 これで殆どの小信号用トランジスタの観測ができます。 ただし特性カーブを描き出すための表示装置としてオシロスコープを使います。オシロまで自分で作るのは大変なのでこれだけは用意しましょう。 難しいことを言わなければ、後ほど説明するような安価なオシロスコープでも十分役立ってくれます。 オシロスコープなんて持っていないと言わずにローカルなジャンク市とかメルカリやジモティーで目的に最適な出物が見つけられるでしょう。

                   ☆

 うまく説明できなかったようでカーブトレーサにご興味を示すお方は限られたようです。・・と言うか、使用経験のないものには反応もないですよね。 予想通りPart 0で終了しても良さそうでしたが、それでは収まりが悪そうです。 そこで予備調査の段階で検討したとても簡単なカーブトレーサ・アダプタを雑誌記事から紹介しておきたいと思います。 今は興味がなくてもいつか欲しくなるかもしれません。そんな時には思い出して下さい。 もちろんその可能性はなければここでお帰りがお勧めです。

試作の元はこれ
 ネットで探すとカーブトレーサ(アダプタ)の製作は結構引っかかります。 しかしごく簡単なものが大半で、画面にトランジスタの特性は描き出せるもののオモチャ程度の物が多いようでした。
 そうかと言って「測定器」として通用しそうな物は高級すぎて製作も大変です。 その中で参照したこの記事はオモチャ以上に役立ちそうに見えました。しかも、見ての通り回路もかなり簡単です。

 古い記事なのでシンプルとも言えますが、旨く纏められていると思います。これくらいなら誰でも作れそうな回路規模でしょう。 実際に試作は手持ちの部品でほとんど間に合ってしまいました。(手持ち部品に合わせ多少は工夫した)

 前回のBlog(←リンク)の写真に写っている大きな電源トランスは手持ちの都合です。過剰なサイズですからもっと小さな物で十分でしょう。たくさんあるスイッチ関係が一番厄介かもしれません。 スイッチのような機構部品は正規に購入すると意外に高価です。しかし秋葉原や日本橋で探せば適当なものが見つけられるはずです。(参考:例えば2回路11接点のスイッチは、東測のRS400N2-2-11APなど。@¥2,500ーくらい) 手持ちのジャンクを有効活用すれば経済的でしょう。回路の詳細はこのあと説明します。

 なお、ここで参照した雑誌記事の全文がここ(←リンク)に置いてありますので、製作されるのでしたら是非ダウンロードして下さい。製作方法だけでなく特徴や詳しい使い方も解説されています。英文ですが一般読者向けの内容ですし、たった3ページですから読むのも困難ではありません。わからなければ質問でもどうぞ。(もしリンク先のファイルが開けない・ダウンロードできないなどトラブルがあれば言って下さい。メール添付で送ります)

回路の説明
 カーブトレーサ(アダプタ)として非常に基本的な回路です。 それでもベース電流のステップ数が任意に変えられるほか、NPNトランジスタだけでなくPNPトランジスタの観測もできるようになっています。なかなか本格的ですね。
 また2SK192Aのような小信号FETの特性もわかります。 古い設計なので最近のMOS-FETのようなエンハンスメント型には対応していませんが、ちょっと改造すれば原理的にそれも観測できるはずです。

 回路は主に2つの部分でできています。 一つ目はメインとなる回路で、ベース電流を段階的に増加させて流すための「階段波発生器」です。この部分はUJT(ユニ・ジャンクション・トランジスタ:単接合型トランジスタ)を非常にうまく使った回路になっています。詳しい動きは過去に実験したことがあるのでそちら(←リンク)も参照して下さい。

 1V刻みの階段状の波形を作っています。オリジナルの回路のままだと6段程度が限度でした。6段でも十分実用にはなりますが、もう少しだけ段数を増やしたかったので単純に電源電圧をアップして対応しました。これで8〜9段が得られるはずです。使用しているトランジスタやUJTの定格から見て電源電圧20Vなら支障のない範囲です。(左図はBT-33Fのピン配置図)

 なお、わざわざ電圧の高いトランスを購入までして対応する意味は少ないです。手持ちにトランスがあるなら回路図通りに作っても良いでしょう。 試作では+20Vの安定した電圧を与えてやりました。整流したあと3端子レギュレータなど使って安定した電圧を与えるようにすれば確実な動作が期待できます。

 半導体の代替方法は回路図に注釈しておきました。肝心のUJT:BT-33Fはイーエレ(←リンク)で購入しましたが、Aliexpress(中華通販)でもたいへん安価に売られています。BT-33Fは中国のUJTですが2N1671の代替品として支障なく使えます。手に入るなら国産のUJT:2SH12とか2SH21などでも良いでしょう。 他のトランジスタは2SC1815GRと2SA1015GRで十分です。わたしは中華モノの2N3904と2N3906(どちらも互換品)を使ってみました。たいへんうまく動作します。

 もう一つはコレクタ電源です。これは測定対象のトランジスタに(スイープされた)コレクタ電圧を与えるための電源部です。ゼロVから最大電圧まで任意に加減できる必要があって、この回路図ではワット数の大きなボリウム(可変抵抗器)を使って電圧を加減するようになっています。(R27の部分)ここはだいぶ電流が流れますから普通の500Ωのボリウムではまったくダメです。数W(ワット)以上が定格の巻線型ボリウムを使うと安全です。 わたしは手持ち部品の都合で別の回路(手前にある謎の回路)で試しましたが、シンプルなこの回路図のような方法で十分だと思いました。

 もともとパワートランジスタ向きの設計ではありませんので、電源トランスなどいずれも小型のもので十分使い物になります。これでなくてはいけないという部品はUJTくらいのものですから、手持ちを有効活用する方向で検討すると良いです。 電源部で難しい部品はないと思いますが、ダイオードは逆耐電圧が100V以上あって1Aくらい流せるものなら何でもOKです。 電源トランスですが、12V巻線が3つ付いた規格品は見掛けませんが、トヨデンのHTR-2405のようなトランス(24V途中タップつきが2巻線:各0.5A)で代替できるでしょう。安定した20Vを作るのにも好都合なトランスです。東栄変成器にも同様なトランスがあります。 もちろん都合の良い巻線が2つ付いたトランスが見つからなければ小型のトランスを2つ使う方法でもかまいません。各自が工夫できる部分です。

階段波発生回路の製作例
 階段波発生回路の様子です。 同じような機能を得るために、今でしたらデジタルな回路を作るとかOP-Amp.で行くとか別の方法があると思います。いくつか簡単そうな方法も考えました。 しかし必要な性能があってしかもシンプルな回路となると、このUJTを使った回路は捨て難いものでした。

 測定対象のトランジスタのベースにこの階段状の電圧から直列の高抵抗を経由して加えます。トランジスタのVBEはほぼ一定ですので、概ね階段状に変化する「定電流」でドライブされることになります。

 回路のかなめであるUJTこそ少々特殊な部品ですが、中国製のUJT:BT-33Fが安価で手に入るので支障はないでしょう。以前購入した物を使いましたが、今でも問題なく手に入ります。 価格も安いですから心配ありません。 UJTと言うと凡人は電子メトロノームや雨垂れ睡眠器のようなアプリしか思い浮かびませんが、こうした測定回路にも使えるのですね。考えたお方は素晴らしいです。

 写真には可変抵抗器(半固定抵抗)が3つ写っています。 そのうち一つ、1V Stepの調整用VR(R4)は製作後の初期調整用です。操作パネルに出す必要はありません。 他の二つはパネル面に出してツマミをつけて下さい。 使用中は時々加減する必要があります。

 配線は少々長くなっても支障はありません。何しろ低周波の50Hzとか60Hzを扱うだけですので。 ただし、被測定トランジスタのベースへの配線に電源からのAC電圧が誘導すると波形が揺れてしまいます。またコレクタに印加する電圧は100または120Hzの脈流なのでこれの誘導にも注意します。いずれもベースへの配線と密着させて長く引き回さなければ大丈夫です。あとは特に難しいことはないでしょう。部品配置もラフで大丈夫です。案外雑に作っても動作します。

重要:トランジスタを壊さないように
カーブトレーサは測定対象のトランジスタを(簡単に)壊す能力があります。トランジスタに加えられる最大電圧や、流せる最大電流を超えた測定ができるからです。従って扱いを間違えると貴重なトランジスタやFETを瞬時に壊します。測定を始める時には、必ずコレクタ電圧を絞った状態で装着します。さらに、ベース電流も小さな設定から様子を見ながら順次増やして行くようにします。 NPNとPNPの区別はもちろんですが、コレクタ、ベース、エミッタの電極を間違えて装着すると「イチコロ」の可能性があるので十分気をつけます。これはどんなカーブトレーサでも同じです。 どうか虎の子の貴重な石を壊しませんように!

CO-1303Gの使い方
 だんだん使い道がなくなって来たようなオシロスコープ:CO-1303DやGも十分使えます。ただし少し改造した方が使い易くなるでしょう。

 写真は、無改造のCO-1303Gに表示させて見たものです。 測定しているのはNPNトランジスタの2SC1815Yです。写真のように第3象限に波形が描かれるようになります。(画面を180度回転したようになる訳です) これはカーブトレーサ・アダプタの回路構成上、コレクタ電流は負方向の電圧として現れるためです。(←NPNトランジスタの場合) また、コレクタ電圧は正方向に出るのですが、このCO-1303Gの外部入力(X軸入力)は偏向方向が逆なのです。プラスの電圧を与えると輝点が右ではなく左に動くのです。(逆に動くなんて、こんなのもあるんですねえ!・笑)これら2つの理由のため写真のように反転したような表示になってしまう訳です。

 慣れの問題なのでこのまま使っても支障ないかも知れませんが、できたらNPNトランジスタの特性は第1象限に現れて欲しいものですね。

近代的オシロなら改造不要
  カーブトレーサ・アダプタ側で回路的に解決することも可能です。しかし幾らか複雑化しますし、このシンプルなアダプタはこのままが良いと思います。 それと、もう少し高級な(近代的な)オシロスコープならこうした問題は回避できるのが普通です。 今では2現象以上のオシロスコープが一般的だと思います。 そうしたオシロでは、ほぼすべての物にチャネル2(Y軸になる)の極性反転スイッチがあるはずです。このスイッチをONすればコレクタ電流の表示極性を反転できます。これで上方向が正(+方向)の表示になります。 また、チャネル1がコレクタ電圧を示す横軸(X軸)になるのですが、正方向の電圧で右に(+方向に)振れるのが常識でしょう。 従って、CO-1303G/Dでは表示が反転する問題がありますが、もう少しマシなオシロならカーブトレーサ・アダプタの側はそのままで何も問題ないのです。

 そのようなことから、回路的に対策するのはやめておきました。シンプルなままが良いです。

CRTの極板を入れ替えればOK
 CO-1303G/Dの場合、ではどうすれば良いか? 答えは案外簡単に見つかりました。 要するにCRT(ブラウン管)の偏向方向を変えてやれば良いわけです。 偏向極板の極性を入れ替えれば、輝点の動きは逆になりますから簡単に反転できるのです。バカみたいに単純な方法ですが、何でもSimple is the Bestですから。

 もっと高級なオシロでは、そう簡単ではないかも知れませんがシンプルなCO-1303Gのようなオシロならごく簡単に対策できます。 現象から見て、X軸、Y軸ともに反転する必要があります。 回路図と現物を確認したら容易に可能でした。 まず、Y軸ですが背面に直接軸入力用の切り替えスイッチが付いていました。 そのスイッチを流用して偏向極板の極性を入れ替えます。極板からの配線もそのスイッチまで来ています。 X軸の方はおあつらえ向きのスイッチは付いていませんから、2回路のスナップ・スイッチを追加して写真のように配線の途中に切り替えを設けました。

 恒久的にカーブトレーサにするなら配線を変更して(入れ替えて)しまえば良いとは思いますが、PNPトランジスタを測定することなども考えるとスイッチで反転・非反転が切り替えられた方が使い勝手は良いでしょう。

良い感じに
 偏向方向の反転スイッチを設けてやるとこのようにわかり易い表示になります。これは2SC373の特性を測定しています。 安価なオシロですから、表示の有効面積が小さくCRTも内面目盛ではありません。それでも十分使い物になります。縦x横で6x8目盛分の有効範囲があります。 簡易型のカーブトレーサ・アダプタとは言え小信号トランジスタを測定する範囲においては本格的なものとさして違いのない能力があると感じました。手持ちオシロの活用範囲を拡大できるアダプタとして面白い製作ではないでしょうか?

 オシロスコープのY軸とX軸の感度を校正しておきます。 CO-1303GのY軸には感度の調整ツマミが付いていますから、例えば0.1V、0.2V、0.5Vで1目盛になるポジションにそれぞれ印を付けておくと便利です。そうすれば0.1Vのところで管面の1目盛が1mAのように直接読み取ることができます。 感度ツマミ右のアッテネータ(V.ATT)と併用すれば高級なオシロと遜色ない程度に使えます。 X軸も感度調整のツマミに1Vで1目盛、あるいは2Vとか5Vで1目盛といったポジションに印を付けておくと便利です。校正は電圧可変型のDC電源とデジタルマルチメータなどを使えば簡単にできます。

もちろんもっと良いオシロを使えばさらにFBです。 CO-1303Gで説明を進めましたが、もしオシロスコープの購入を考えているならもっと良いものを手に入れてください。 きちんとしたオシロならX軸・Y軸ともに校正さていますからコレクタ電圧やコレクタ電流の読み取りも確かです。50MHzや100MHzと言った広帯域なオシロの必要はまったくないので、10MHzや20MHzと言った人気のない機種が十分役立ちます。従って、この用途に適した中古品でしたらかなり安価に手に入るでしょう。

                  ☆ ☆

 初めは約束通りPart 0でお仕舞いにしても良いかと思ったのです。何だか傍観者ばかりの現状ではこれ以上話しを進める意義は感じられませんでした。 しかし、簡単な紹介くらいしておくことにしました。 尻切れのようでは後味が悪いですからね。hi
 私が試作したものは記事のままではなくVer.1.0.1と称して仕様を変更したり、いくつか手持ちパーツの都合で工夫した箇所もあります。しかし既に解体済みで説明が面倒なので本来の記事にある範囲にとどめておきました。それで実用上の支障はないからです。Ver.2の話もまたいつか何かのご縁でもあればにします。多分、それもありません。

 たいへんシンプルなカーブトレーサ・アダプタですが、原理的にはTEKTRONIXの本格的なカーブトレーサとさしたる違いはありません。 雑誌記事のままだと幾つかの欠点がありますし扱いにくさも感じますが、まずまず実用になるはずです。百聞は一見にしかず、管面に描き出されたリアルなトランジスタの特性を見ればそれはわかりますね。

 もし、これで満足できなくなったらもっと高級なものに手を出しても遅くはないでしょう。 最初から高級すぎる物を目指して挫折するよりもずっとマシです。まずはシンプルなものを存分に使いこなすのが賢明かも知れません。 これでカーブトレーサのお話はおしまいです。次回はいつもの路線(?)に戻ります。  ではまた。 deJA9TTT/1

(おわり)nm

2020年10月31日土曜日

【測定】Transistor Curve Tracer. Part 0

【トランジスタ・カーブトレーサ:調査編

abstract
I'm going to make a simple curved tracer. A curve tracer is a measurement device to easily investigate the characteristics of semiconductors such as transistors or FETs.
It is difficult to make a full-scale curve tracer. However, if the functions are limited and the performance is limited to the required range, it is not too difficult to make it.
I will briefly explain the significance of a curve tracer and investigate your interest. If there is a lot of demand for it, I will explain in detail how to make it. (2020.10.31 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

カーブトレーサって?
 ご存知でしょうか? 測定器の一種なのですが、滅多に使う機会のない測定器でしょう。 一言で言うと、カーブトレーサはトランジスタやFETと言った半導体の特性をビジュアルに表示するための装置です。 シンプルなカーブトレーサ(のオシロスコープ用アダプタ)を試作したので紹介してみたいのですが、そもそも詳しい話にご興味はあるのでしょうか? そこで今回は「調査編」としてどんな測定器なのかザクっとおさらいしてみたいと思います。

                   ☆

 半導体に限りませんが、電子デバイスの電気的な特性を知ることは回路設計を行なう上でとても大切です。例えばトランジスタの場合、ベース電流をパラメータとしたコレクタ電圧とコレクタ電流の関係は基本的なものでしょう。 そうした特性図はメーカーから発表されていますからユーザーはカタログのデータを参照すれば済んでしまいそうです。
 ところが、カタログに掲載されているデータ(グラフ)できちんと設計できるか少し疑問もあるのです。例えば、ポピュラーなトランジスタ:2SC1815なら次項のようなグラフがカタログに載っています。 これで小信号増幅回路が適切に設計できるでしょうか?
 まあ、たいていの場合、既に設計済みの回路を作りますし、設計者の頭の中には常識的な特性なら入っていますから支障はないのかも知れません。 しかし、自分が知りたいと思った詳細なところがデータシートにはないことも多いのです。

 カーブトレーサは馴染みのなさそうな測定器です。どなたにでもお薦めするつもりはありませんが、トランジスタやFETと言った半導体デバイスの特性に興味があるなら簡単なものが一台あっても良いかも知れません。詳細な特性の測定はもちろんですが他にも様々な用途があります。例えば、怪しそうなデバイスの良否判定、特性がよく揃ったマッチド・ペアの選定、コレクタ耐圧やhFEでの選別のほか、購入したデバイスの真贋を見極めると言ったような使い道もあります。本質的に半導体は特性がばらつくため、少々高級な電子回路の製作には必需品とも言えるくらいです。 ま、OP-Amp.やマイコン専門でディスクリート部品(BJTやFET,etc)にご縁がなければ必要はないのかもしれませんが。

 毎度難解なBlogをご覧頂くのも大変かもしれません。熱心にご覧いただき感謝です。 しかし私ももうそれほど続けられない齢になりました。大してニーズもなさそうなテーマを深追いするほど老い先永くもありません。 ここは様子を見たいと思っています。 取り敢えず準備は始めていますが、ご要望次第でこの先Part 1以降へと進みます。 RFの測定器ではありません。デバイスの特性にまで興味を持つようなHAMは限られるとは思いますが、何か感ずるものでもあれば熱い(笑)コメントをどうぞ。質問もOKです。コメントなど限られる様でしたらPart 0で終了にしましょう。

2SC1815Yの静特性
 図は非常にポピュラーなトランジスタ:2SC1815のコレクタ電圧とコレクタ電流の関係を示す特性図です。メーカーのカタログから転載しました。 この特性図を作るのは難しいことではなく、簡単な道具を用意し、あとは根気よく測定しグラフにすれば良いわけです。(実際はそれほど容易ではないです・笑)

 2SC1815は汎用品(はんようひん:特定の用途を決めず幅広く使えるもの)なので、使い方も様々です。例えば、比較的大きな電流を流してスイッチのような動作をさせたいなら、この図は重要な情報になります。 しかし、マイクアンプのような小信号増幅回路の設計にはあまり役立ちません。 そのような増幅回路ではコレクタ電流:Ic=1mAとかせいぜい5mAくらいで使います。 このグラフではそうした小電流の範囲がよくわからないのです。

 もし、小電流領域の特性を知りたいなら次項のような測定回路で求めることができます。でも、グラフにするのは大変かも知れませんね。私はあまりやりたくありません。

静特性の測定回路
 トランジスタの静特性は、一定のベース電流を流した状態でコレクタ電圧を変えながら加えて行き、その加えた電圧ごとに流れるコレクタ電流の大きさを読み取ってグラフにプロットすれば良いわけです。

 具体的には、まずはベース電流を設定します。続いて、徐々にコレクタ電圧を上げながらコレクタ電流を読み取って行きましょう。 ベース電流は、例えば10μA、20μA、30μA・・・のように10μAずつ増やして行けば良いでしょう。 ただし何μAずつ増やして行くべきかは、被測定トランジスタの性能(直流増幅率:hFE)に依存します。従って綺麗なブラフにするためには様子を見ながら加減して測定する必要があるでしょう。

 私が工学部の学生だったころ、トランジスタ特性を求める学生実験でこうした測定を行なったことがあります。実測してグラフ化すれば確かに勉強にはなりますが非常〜〜に厄介でした。 何しろトランジスタは温度に敏感で特性の変動が大きいため、まごまごしていると温まってしまいどんどん状態が変化してしまうのです。

 怪しげな実測データを無理やりグラフ化して実験レポートは提出しましたが、教科書通りにはならず「考察」を書くのに四苦八苦したことを思い出します。(笑)

シンプル・カーブトレーサで観測
 左は最初の写真のブレッド・ボードに作ったカーブ・トレーサ・アダプタで観測した2SC1815Yの特性です。小電流の範囲で観測してみました。hFEは約145であることも読み取れるでしょう。輝線はほぼ等間隔ですからリニヤリティの良さも直感できます。

 最初の写真には写っていませんが、ブレッドボード上の回路の他にオシロスコープを使います。オシロスコープはXYモードにします。XYモードに切り替えて画面に現れる輝線から、横軸(X軸)の目盛りでコレクタ電圧を、縦軸(Y軸)の目盛でコレクタ電流を、それぞれ読み取ります。
 カーブトレーサを使えば、こうしたトランジスタやFETの電圧と電流の関係が一発で観測できるのです。便利なことこの上ありませんね。

 写真ではベース電流を20μAステップで与えていますが、これはある程度任意の刻みで変えることができます。被測定トランジスタのhFE(直流増幅率)によって見易いように加減が必要だからです。一般的なカーブ・トレーサでは1-2-5の刻みで設定できることが多いようです。例えば、1μA-2μA-5μA-10μA-20μA-50μA-100μA・・・と言った感じです。 また、輝線の表示本数は写真ではゼロを含めて6トレース分ですが、この簡易版でも8トレース分まで増やすことができます。

 例えば刻みを20μAにセットしましょう。いま、6トレース分だけ表示させるとします。そうすると、IB=0、20、40、60、80、100μAの6種類のベース電流を流した状態が観測できます。その設定でコレクタ電圧を徐々に上げて行くとコレクタ電圧と電流の関係曲線(トレース)が6本分だけ画面に表示されます。こうして左の写真のようになります。

 ブレッド・ボードの試作品ではコレクタ電圧は0から40Vの範囲で加減できますが、必要な最高電圧が得られる電源トランスを用意すればずっと高い電圧まで拡張できるでしょう。 しかし、それに伴い高電圧用の部品が必要になり、保護回路も大掛かりなものが必要になってきます。せいぜい50V程度までが作り易いと思われます。
 現状ではコレクタ電流の範囲は100mAまでです。これも拡大は可能ですが、拡大に伴い大電流の配慮が必要なので作るのは大変になって行きます。(できないわけではありません)
 従って、手軽な範囲として2SC1815のような小信号トランジスタの観測用に限定すれば非常に作りやすくなります。 ここでは、そのような範囲で作ることを前提にしたいと思っています。具体的にはコレクタ電圧で最大60V、最大コレクタ電流は200mA程度の範囲を考えています。また、hFEがあまりにも小さいトランジスタは対象外にしたいと思います。

 なお、写真ではNPNトランジスタを測定していますが、PNPトランジスタも可能です。 さらにFET(電界効果トランジスタ)もN-ch、P-chが測定できます。 その他、ダイオードの順方向特性を調べたり、ツェナー・ダイオードのブレークダウン特性を調べるのもいたって容易です。

 もちろん機能を欲張ると接続切り替えのスイッチが増え、同時に配線もたくさん必要になります。 それだけ便利にはなりますが製作は大変でしょう。ですから、実用性を損なわぬ範囲であまり使わないような仕様は省略するなど作りやすさを優先し、あまり欲張らないのが現実的だと思っています。

プロフェッショナルなカーブトレーサ
 写真はメーカー製の代表的なカーブトレーサです。かつてTEKTRONIX 576は名器として市場に君臨していました。半導体の評価や解析に不可欠の装置でしたから、昔の職場ではよく使ったものでした。

 小信号用トランジスタからパワートランジスタまで幅広くカバーするため、非常に大掛かりな回路になっています。最高峰を目指すとこのようになるのはわかりますが、アマチュアが手出しできる範囲ではないでしょう。

 TEKTRONIX 576はあればデバイスの評価・解析に重宝すると思いますが、巨大で非常に重たい測定器です。またかなり古いため既に故障が頻発している筈です。 安価な中古品は間違いなく何らかのトラブルを抱えているでしょう。メンテが行き届き程度の良いものは非常に高額です。既にメーカーは面倒を見てくれませんから、性能の維持は大変でしょうね。 もちろん、持っていませんし巨大なコレに手を出すつもりもありません。

#それに、このBlogの趣旨は「自分で作ろうよ!」なんですからね。hi

真空管だって
 写真はほんのお遊び程度のものですが真空管(12AU7)の静特性を観測している様子です。 管面に典型的な三極管のEp-Ip特性が描かれているのが見えるでしょう。

 現状ではトランジスタ用に設計してある関係で印加可能な最大プレート電圧が低くて真空管にはあまり適当ではありません。それも含む設計にすれば十分な可能性がありそうです。

 このように自身が必要とする程度のカーブトレーサ・アダプタなら大して費用も掛からず作れてしまいます。 割り切れば技術的な困難もあらかた回避できます。 もしそれで何か不足に感じたら拡張・改造も自在です。 この例を拡張して真空管の測定に特化した実用品も作れるでしょう。むしろ真空管にPNPやP-chの物はないので専用の設計にすればシンプルになります。ちょっと感電が怖いですけれど。w

 この写真のテストでは管面表示器に遊休品になりつつあったトリオのオシロ:CO−1303Gを使ってみました。以前のBlog(←リンク)でオイルコンを交換して修理したたいへん古いものです。 管面が丸型3インチ(75mm)なので見易いとは言えませんが、こうしたチープなオシロスコープでもXY表示のモードがあれば使うことができます。 古くてあまり使い道のなかったオシロもこうして活きる道もありそうです。 なお、写真のCO-1303Gはごく簡単な改造を行なっています。

                   ☆ ☆

 急に思い立って以前から構想の有ったカーブトレーサ・アダプタを実験的に製作してみました。幾つかある構成案から、まずは最もシンプルなタイプを試みました。仮にバージョン1.0 (Ver.1.0)と称しています。 その結果、機能と測定範囲を絞ればあまり難しくなく製作可能なことがわかりました。 基本的なものならブレッドボード上に製作できるのです。 ただし簡略型なので扱いにやや難しさがあると言った欠点もあります。 そのため使い方に多少のコツを要します。
 この先、Ver.2.0ではあまり複雑化させずに可能な改良は試みたいとは思っていますが、自身では現状でも結構満足してしまいました。 実験テーマとしては完結したと言っても良いくらいでしょう。
 現状は使用経験のないお方には扱いにくそうですから、できたら改良したいところです。しかしまあ、これもご興味次第のこと、自家用ならVer.1.0のこれでもマズマズなんですけれど。 私のニーズにはかなり役立ちそうです。そのまま箱に入れても良いくらいだと思っています。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1


つづく)←リンク fm

2020年10月17日土曜日

【回路】Try the germanium transistor! Part 1

ゲルトラで作る送信機

(abstract)
An experiment in making a transmitter using Soviet-era germanium transistors. There are no germanium transistors in the Western world that can outout a lot of power in RF. The Western world, including Japan and the U.S., gave up on germanium transistors too early. The Soviet Union had them. I'm going to make a practical CW transmitter with germanium transistors of Soviet era, which I got from Ukraine. First of all, let's test the crystal oscillator circuit. (2020.10.17 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

ゲルトラだって使って欲しい
 ゲルマニウム・トランジスタを使って送信機を作りたいと思います。 「ああ、あの蒸し返しね」って思ったお方は20年来のお客様です。hi 20世紀に忘れてきたゲルトラで7MHzの送信機を作ってオンエアする企画でした。 これから作るのはたぶん違うものになる筈です。

 ゲルマニウム・トランジスタを受信機に使う話は何度か登場しています。 シンプルなストレート受信機(←リンク)だけでなく、スーパー・ヘテロダインのほか、ごく最近も再生式受信機の検討の中で扱いました。 短波付きの2バンド・トランジスタ・ラジオがゲルトラで大量生産できたのですからHAMが交信に使うような「通信型受信機」ができても不思議ではありません。JA1AYO丹羽OM執筆の「トラ活」には製作実例がありました。しかし送信機ともなるとハードルが高いのです。 扱うのが数10mWといったローパワーなら、工夫次第で受信機用のトランジスタが使えます。 しかし高周波で数100mW、数Wという「ハイパワー」がハンドリングできるゲルマニウム・トランジスタはほとんど望めなかったのです。例えトランジスタ規格表には存在しても手には入りません。

                   ☆

 今となってはデバイスそのものが特殊です。同じものを再現するだけでも容易ではないでしょう。 製作は取り敢えずやめておき、ご覧になるだけがお勧めです。これはあらかじめ書いておきたいと思います。いつか機会が訪れたら試してください。

 数年前からロシア製・・正しくいえばソ連製ですが・・の半導体が手に入るようになりました。西側では1960年代でゲルマニウム・トランジスタの時代は終わりましたが、東側の世界ではもうしばらく続いたようなのです。そのため、ある程度大き目のパワーが扱えるRF(高周波)用のゲルトラが生産されたようでした。 それらが今になって余剰品放出されているのでしょう。 おかげで、あのころ実現できなかったような「ハイパワー」なゲルトラ送信機の可能性が見えてきたのです。
 写真・右の2つは国産のゲルマニウム・トランジスタです。左の大きなものがロシア(ソ連)製です。 これらを使ってまずは送信機の製作に適するような水晶発振回路の実験から始めたいと思います。

水晶発振回路
 ゲルマニウム・トランジスタで作る水晶発振器です。
 周波数は7MHzで、回路としては何の変哲もないありふれた「ピアース・CB型」の水晶発振回路です。
 同じ水晶発振回路でも送信機用は少し違います。 受信機用なら普通数mWもあれば十分ですが、送信機にはなるべく大きめの出力が欲しいのです。 もし発振器のパワーが十分あればその後の増幅段数を減らすことができます。増幅段が少なく済めば回路が簡潔になるのは当然で寄生発振(パラスティック)など不測のトラブルも少ないのです。

 発振回路から大きな出力を取り出すには、それが可能なデバイスが必要です。一般的なラジオに使うような高周波用ゲルマニウム・トランジスタでは〜10mWくらいがせいぜいでしょう。 テストに使ったトランジスタは一般的なRF用小信号トランジスタよりもパワフルなものです。 ここでは50mW以上の発振出力を目標にしました。きわどいトランジスタの使い方ではなく、安全に取り出せなくてはなりません。

 後ほど詳細は写真付きで説明しますが、テスト条件や得られた結果など左図にまとめておきました。

簡単な電信(CW)用送信機
 もっともシンプルな7MHz CW送信機は左図の(A)でしょう。 水晶発振器のあと電力増幅を行なっておしまいです。 電力増幅にゲインのあるトランジスタを使えば(A)のような2ステージの構成でも数Wのパワーが可能です。例えば以前試作したシンプルなトランジスタ送信機(←リンク)がそれです。リンク先の例では2ステージで3Wを得ており、QRP送信機としてはまずまず遊べるだけのパワーでした。(シリコンTrを使用)

 ゲルトラで作る場合も、終段電力増幅のトランジスタが十分なゲインを持っていれば2ステージで同様のパワーが得られるかも知れません。 しかし、過去の例を参考にしたいと思っても情報は何もないのです。定格(規格)が大きなゲルマニウム・トランジスタの扱い方も良くわかっていません。ゲルトラでそれだけのパワーが出せるものは手に入らなかったからです。 ちょっと参考になる話として、Yさんの実験によれば入力容量が大きい・・・従って入力インピーダンスがだいぶ低くてドライブ困難だったと言う例があるのみです。もう少し詳しく伺っておけば良かったと思っています。 これから自身でやってみるのですが、ドライブが難しいとなると2ステージで数Wは困難かも知れません。従って(B)の3ステージ構成になりそうです。(A)の構成で100mW程度を得ても目標には不足ですから、必然的に(B)の形式になります。

 20年前の実験ではたったの100mWと言うアウトプットを補う意味で水晶発振をVXO形式にしました。 QRPクラブのオンエア・ミーティングに参加するのが目的なら水晶制御の7003kHzだけの送信機でも十分かも知れません。 しかし少しでもオンエアの幅を広げたいのなら、やはりVFOやVXOは必須でしょう。機構部品の入手難からVFOは製作困難ですからVXOあるいはセラミック発振子を使ったVXO形式が有望でしょう。その場合、発振回路から大きなパワーを取り出す設計は得策ではありません。周波数安定度を良くするには消費電力を抑えた弱めの発振が好ましいからです。従って(C)のような構成が最低限のものになります。このさき実験してみた様子でどんな構成にするか決めたいと思います。

参考:QRPクラブのオンエアミーティングについて
 毎日曜日の朝、JST 08:30より7003kHz±のCWでシグナルレポートの交換が行なわれています。ただし近年参加していないので以前のような形式で行なわれているのか不明です。ちょっと前にワッチした際にはその時刻あたりになると何局かのQRPerが聞こえていました。たぶん、今でも日曜朝にオンエアされるQRPerは多いのでしょう。だとすれば、みなさん聞き耳を立てていますから自作QRP送信機を試す良いチャンスになるはずです。クラブ員でなくとも5W以下のQRPerなら誰でも参加できます。

2SA245で水晶発振
 2SA245は一般的なラジオ用ゲルマニウム・トランジスタよりパワフルなトランジスタです。但しパワフルとは言ってもコレクタ電流は-30mAが最大ですし、コレクタ耐圧も25Vしかありません。それでもラジオ用では-10mAさえも流せない石が多いのですからだいぶパワフルなのです。2SA245は実際にHF帯のトランシーバでプリドライバとして使われた例も見るので送信機への適性があるのでしょう。

 バイアス抵抗:R2とエミッタ抵抗:R3を加減し無理のない範囲でパワーが出るようにしました。もう少し行けそうでしたが、安全を見て発振時に-10mAくらい流すにとどめます。コレクタ電圧も安全を見て-9Vにしました。これで約15mWが得られます。トランジスタの規格からみてまずまずのパワーでしょう。 なお、2SA245はfTが非常に高いため、発振出力に含まれる高調波は多めでした。周波数特性を加減し、高調波を減らす目的でコレクタの配線にフェライトビーズを挿入しています。FB-!0!-#43を2個いれてまずまずになりました。

 2SA245クラスのトランジスタでは、シングルで50mWは困難そうです。コレクタ耐圧が低いのも不利です。2つパラに使って-30mA(2本分で)くらい流してやれば何とかなるでしょう。周波数特性は非常に良いため、もっと高い周波数・・・例えば21MHzや50MHz・・・の発振も可能でしょう。ただし周波数が高くなれば徐々に効率は落ちるはずで、得られるパワーも減ってくるものです。

Π609Aで発振させる
 2SA245の実験で何となく感触が掴めてきました。一段とパワーアップするためにΠ609A(P609A)で実験を進めましょう。

 Π609Aは幾分高い耐圧が見込めたので、Vcc=-12Vでテストしました。コレクタ電流もだいぶ余裕ができたので、発振している状態でIc=-30mAで動作させます。Ic=-30mAでは最大コレクタ電流に対して小さいため、fTがまだ十分に伸びていない可能性が考えられました。そこで、Ic=-30mAで実測して見ると150MHz以上あるので7MHz用としては十分すぎるほどでした。そのためコレクタのフェライト・ビーズは2SA245と同様に必要です。

 上記の条件でパワーは約80mWが得られました。コレクタ電流をアップし、出力側のマッチング回路を最適化すれば発振段で100mW以上も十分可能そうです。その場合、放熱フィンを付けて幾らかでも放熱してやれば安全でしょう。ゲルトラはシリコントランジスタの感覚で扱ったら壊してしまう危険性があるのです。

 それくらいの発振パワーがあれば2ステージでも数Wが期待できるかも知れません。もっとも、これは終段増幅器のパワーゲイン次第ですが。 従ってゲインの取れるファイナル用の石が欲しいところですが、なかなか甘くはないようです。このあたりの事情は続編で検討したいと思っています。hi

Π609Aはどんなデバイスか
 Π609Aの用例は見掛けないので、正確な目的や用途は不明です。どうやら高速スイッチング用のようで、民生用ではなく軍用品でしょう。
 コレクタ・ベース間耐圧:VCBO=-30V、コレクタ電流:Ic=-300mA(Peakで-600mA)です。コレクタ損失:Pc=1.5Wですが、これは放熱なしの状態でしょう。1.5Wは案外大きいように感じますが、ゲルマニウム・トランジスタですから接合部温度:Tj(max)=70℃であり、放熱しなければ許容コレクタ損失はだいぶ小さくなります。
 トランジション周波数:fTは標準値で120MHzとなっています。コレクタの接合容量は50pFです。これはかなり大きいですが、パワーが大きな石ですから当然でしょう。開封すればはっきりしますが、チップサイズはかなり大きいように思います。なお、ネットの検索では2SA374が相当品とありますが、実際はかなり違う特性のようで規格表で2SA374の項を見ても参考になりませんでした。Π609AはMesa型構造のように思います。

 形状は見ての通りです。パッケージの直径は約25mmです。太さ1mmの足ピンが出ており、コレクタはケースに接続されています。このままではブレッドボードに装着できないため、テストでは細いメッキ線をハンダ付けしました。 発振回路用ではなく、C級電力増幅器として使いフルに性能を発揮させたいなら十分な放熱が必要です。残念ながら耐圧(VCE)が-25Vと低く、Icも-300mAですから最大入力で3Wくらいまでが安全な範囲でしょう。 従って出力として1.5Wくらいが見込めそうです。(コレクタ飽和電圧:VCE(SAT)が大きいので効率は良くても50%くらいでしょう) Π609Aはより大きな終段増幅器をドライブする「励振増幅段」に適するかも知れません。fTが高いことから7MHzのアンプなら高いパワーゲインも期待できます。

参考:印刷されたロゴから、Π609AはLatvia(旧ソ連邦)のRigaにあるALFA社で製造されたトランジスタのようです。

2SA417で慎ましく
 最後に2SA417を試します。 2SA417もラジオ用のゲルトラではありません。スイッチング・スピードが早いコンピュータ用です。ゲルトラの場合、高速スイッチングさせるにはfTを高くなるように作るのが効果的だそうです。 2SA417は高速スイッチング用ですから必然的にfTが高くなったようです。ただし耐圧が低いのが難点です。VCBOは-15Vくらいしかありません。現物の実測もしてみましたが、耐圧の余裕はありませんでした。なお、コレクタ電流はIc(max)=-200mAと十分な大きさです。

 コレクタ電圧:Vcc=-7V、コレクタ電流:Icc=約-2mAで使ってみました。これはVFOやセラミック発振子のVXOを想定するもので、どちらかと言えば慎ましい動作です。 最大コレクタ電流が大きめですから、Ic=-2mAではfTが立ち上がらない懸念がありました。Mesa構造のゲルトラは小さめのチップでも意外に電流が流せるらしく、しかもfTの立ち上がりは早いようです。(実測:380MHz at Ic=-2mA)従って良好に発振しますが、発振波形を見てコレクタのフェライト・ビーズは必須でした。1kΩ負荷に2.75Vppが得られました。VXOのような送信機用ではなく、クリコンなどの局発用としても適当でしょう。
 なお、そのような受信機用でしたら、コレクタの同調回路はタップを使わず、全巻線を使う方が発振波形の点で好ましいようでした。少ないコレクタ電流なので、負荷インピーダンスは高めの方が良いわけです。受信機用の回路にはそのように最適化した方が好ましいでしょう。

                   ☆


 電子工学は実用の科学だと思っています。ですから今さらゲルマニウム・トランジスタなど持ち出したらナンセンスでしょう。 ここは趣味のサイトと割り切って頂くしかありませんね。(笑)

 趣味の世界ですからHAMの電子工作にも様々な考えがあると思います。 メーカー製のようなトランシーバや受信機を目指すのもFBでしょう。立派な目標だと思います。 ただ、高性能・高機能な市販品がまずまずのお値段で登場している現在、それと似たようなものを作ってもあまり面白味はないように感じています。(作ったこと自体はすごいと思いますが) むしろメーカーはやらないような(商売ベースで見たら少々ナンセンスな・笑)製作の方が楽しいように思うのです。ですからゲルトラや真空管で作るのもその一つかも知れませんね。 さらに単なる懐古趣味で古いモノを再現するのではなく、何か新しい要素も加えつつ楽しめたら良いなあ・・・と思っています。何か新たな工夫を加えたいですね。 ゲルトラは既に忘れられたテクノロジーでしょう。あえてそれで作っても大した価値はないに違いありません。しかし数Wのパワーが得られれば国内に留まらずDXと交信することも可能かも知れません。ゲルトラで数Wはかなり画期的です。(100mWではKH6とKL7とできましたが、西海岸はダメでした・笑) 今度は大きなゲルマ色の波で、あの時の西海岸のリベンジを果たしたいですねえ。(爆)

 最近はお空のコンディションがまずまずなこともあって、QSOに時間を取られがちです。電子工作の方は大分おろそかになっています。予定は遅々としている状況です。 しかもそろそろ初冬のコンデイションですからローバンドの飛びも期待できそうです。どうやら、そちらへ靡いてしまいそう。ですから次回のBlog「更新」は省略になりそうな雰囲気も。w 秋も深まり、夜も長くなってきました。そろそろお炬燵で蜜柑でも食べながら過去のBlogでも遡ってお楽しみください。読み返すと気付かなかった発見があるかも知れません。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンク nm

2020年10月2日金曜日

【その他】Repar the DM-330MV Power supply

ALINCO DM-330MVの修理

abstract
I repaired an Alinco DM-330MV power supply. The failure of that power supply was mainly due to overheating and unstable output voltage.
I got the cooling fan from amazon and replaced it. I also corrected the contact failure. The method is very simple. Switch a few times. Let the variable resistor slowly rotate a few times. This is the only way to solve the problem.
Now I will be able to use this power supply again for a while.(2020.10.02 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)


DM-330MV Switching Power Supply
  この夏の暑いある日、暫く使って来た直流電源装置が不調になりました。 動作が不安定になり、出力電圧も上昇したようです。どうやら暑さでやられたようでした。

 ヒートシンクに触れて見たら触れない程の熱さです。 背面にある小さなクーリングファンが止まってしまったようでした。 小さなファンですし、あまり効いていないように感じてはいたのですが、やはりまったく冷却がなければ厳しいのでしょう。 スイッチング電源とは言っても、かなり大容量ですし軽い負荷状態でもそれなりの消費電力があるのでしょう。空冷なしの自然冷却では周囲温度が高くなると間に合わないようです。

                    ☆

  この電源もだいぶ愛用したのでこの際に買い替えが良いのかもしれません。 しかし内部の様子など確認したらまずまず綺麗です。 簡単なメンテナンスを行なえばもう暫く使えるように思えます。それに容量の大きな電源はそれほど安くはありません。(実売2万円程度) ここでは止まってしまったファンモータを交換し、同時に簡単な整備を行なって復帰を図りたいと思います。高級な事は何もしていませんから本格的に壊れた「故障品修理」の参考にはなりません。悪しからず。(笑)

24V Cooling Fan
  使われている冷却ファンは40mm角のごく標準的なもののようでした。仕様電圧は24V-DCです。 固着気味だったので羽を手で回してやったり、何とか回り出さないか試みたのですがチョロチョロしか回らずダメそうです。 そこで手持ちの在庫を探したですが生憎12V用しかありませんでした。これは24V用ですから12V用で代用するのは少々無謀でしょう。 

 大して風量のないチャチな冷却ファンですが、まったく通風が無いのとでは大違いなのでしょう。やはり伊達に付いているだけの冷却ファンではないと思うべきでしょうね。(当たり前ですが・笑)

 手持ちがないとなると購入するしかありません。近所に売っているところも無さそうですから通販で調達することにしました。

 いくつかサーチしてみたらamazon.jpで安価に売っているのを見つけました。 2つも要らないのですが2個725円とお手頃です。送料も無料でした。 購入者の評価を見たらイマイチだったのですがダメモトで注文してみました。 ただし、注文した後から気付いたのですがお届けまでの日数がだいぶ掛かるとなっていたのが何となく怪しそうでした。(その理由は後でわかりました・笑) 

TDK RM12-27RGBで代替
 常用していた電源がなくなるとすぐに困ってしまいます。調べたら遊休状態のICOM製安定化電源(IC-PS15)があったのですが最近のRigは大食いなのでだいぶ容量不足を感じます。 それにトランス式のシリーズ電源なので結構大型で重量もあり置き場所にも困ります。

 あれこれ思案していたら、12Vの大容量スイッチング電源があったことを思い出しました。 調べたら少しだけ定格容量は小さめですが、当座の間に合わせには十分使えそうです。 ALINCO電源と比べると仕様上は余裕がないのですが50Wくらいでのオンエアにはマズマズ支障ないはずです。(ALINCO電源は間欠的な負荷が前提でしょう。TDKのこれは連続定格です) 交換用の冷却ファンが届くまでのピンチヒッターとして使うことにしました。 

                   ☆

 このTDKの電源ですが優秀なものでした。レギュレーション(電圧安定度)が良好なのは当然ですが、まず第一にノイズが少ないのです。 ALINCOの電源もHAM用を意識してそこそこローノイズにできています。 しかし受信していると所々の周波数でスポット的なノイズが出ているのがわかります。 まあ、そんな時のためにスイッチング周波数を微調整して受信の邪魔にならぬようノイズを動かして逃すツマミが付いています。 大抵はそれで逃れられるので支障はないのですが、何となくノイズっぽいのはスイッチング電源の宿命的なものなのでしょうね。hi

 しかし、ピンチヒッターのこれはなかなか優秀です。ノイズっぽさをほとんど感じません。 もう少し容量があったならケースに入れてシャックで本格的に使いたいところです。 しばらく前に買った新品・出物です。詳しいことは忘れていますが、確か定価ではALINCOの3倍以上だったと思います。性能優良なのも当たり前でしょうか?(笑)

 こんなことを言ったら古い人間と言われそうですが、気持ちから言えば無線機にはトランス付きのシリーズ・レギュレータ式が最良だと思うのです。 スイッチング電源をリグに使うのは何となく気持ち悪かったのですが、最近はすっかり慣れました。 軽量小型ですし使っていてあまり実害はないからです。でもやっぱり・・・。(笑)

交換用のファン到着
 三週間くらいかかって交換用の冷却ファンが届きました。amazon.jpで購入したのですが、何と台湾から発送されたのです。時間が掛かる理由がわかりました。(笑)

 並べて見たらサイズもバッチリOKなようです。さらに消費電流を確認したら使ってあった物よりも少なめです。交換することで回路に無理がかかることもないでしょう。さっそく交換作業に入りました。底板と前後のパネルを外すとやり易かったです。(参考:底板はヒートシンクが熱いうちは抜けにくいです。冷めるとスルリと引き抜けました)

  標準的な冷却ファンのようですから、厚みも4隅の取り付け穴も完全な互換性がありました。 従ってあとは回らなくなったファンを入れ替えれば作業完了です。 冷却ファンの配線は基板の表面にハンダ付けされています。 購入したファンの電線は適宜カットし、赤色を+(プラス)の、黒色を−(マイナス)のそれぞれ基板の元あった箇所にハンダ付けします。

 購入した24Vファンは最近流行りの3Dプリンタの交換部品として売られていたものです。 静音型ということで風量はやや少なめな気もします。 しかし止まったままよりはずっとマシでしょうから交換して暫く様子を見ましょう。 どうしても風量不足なようでしたら買い直そうと思います。(参考:交換後かなり暑い日もありましたが大丈夫そうでした)

 【DM-330MVの内部
 DM-330MVの内部はこのようになっています。レギュレータのICチップはμPC494Cが使われています。TL494CNのセカンドソースでしょうか? ポピュラーなICを使った標準的な設計の電源のように思います。 これで実売¥2万なら安いと感じます。

 ざとした点検では致命的な故障は見当たりませんでした。ファンを交換して清掃を行なっておきました。 何となく動作不安定なように感じたのは背面の切り替えスイッチやプリセット電圧の設定用ボリウムの接触不安定が原因だったようです。あまり上等とは言えないスイッチや半固定ボリウムなのでやむを得ないでしょう。

  ホコリを取り除き、スイッチを数回往復し、ボリウムもゆっくり数回往復したら安定になりました。プリセット電圧を再設定したらOKなようです。 「修理」とも言えませんが、こうした作業で不調は取り除くことができたようです。

                    ☆

 接触不良と言うと、すぐに「接点復活剤」や「CRC-556」のような物を大量に噴射するお方があるようです。 それで当座は解決するように感じるのかも知れませんが、これらの噴霧剤は必ず残渣が残ります。噴霧したあとの部分は何となく油ぎった感じがするのがわかるでしょう。 特にこの電源のように冷却ファンが付いた機械ではその油分に吸い込んだホコリが付着します。 あげくはそれが固着し機器の寿命を縮める原因になってしまいます。 どうしても「接点復活剤」を使いたいなら要所にのみ、ごく少量を楊枝の先や綿棒に取って塗布するようにしましょう。 私も多めに噴射することがありますが、その場合は必ず入念に洗浄して残渣が残らないようにしています。(洗うもの次第ですがアルコール系洗浄剤と超音波洗浄器を使います。基本的に分解修理の部分洗いでのみで実施しています) なお、潤滑を要しない箇所については、残渣の残る心配のない「洗浄剤」の使用が良いと思います。

フロントの出力が不安定
 DM-330MVの前面パネルにはワンタッチ型の出力端子が2つ付いています。 HF帯のハイパワーRigのように消費電流が大きなものは背面のバインディング端子にがっちり配線すべきです。 前面の端子からは大きな電流は取れませんが10WクラスのRigには重宝です。 

 しかし、何となくこの出力端子の状態は不安定でした。開腹して確認しところこの出力端子の裏側にある小基板への配線がハンダ不良でした。 使ってある配線材(赤の太い線)はハンダの回りが良くないものでした。十分確認しないとハンダ不良になり易い電線なのです。 写真は修正済みですが、小基板のスルーホールに挿入された配線が簡単に抜けてきたのです。天ぷらハンダになっていました。(メーカー製なのに情けない・笑)

 容量の大きなコテで十分なハンダ付けを行なって修正しておきました。 これで何となく不安定だった状態は解消したようです。 同様の症状が必ず起こるとも思えませんがもし疑われるなら配線のハンダ付け状態を確認するのも良さそうです。 目視だけではなく、配線を引っ張ってみるなどしてハンダ付けの状態を確認します。

応急措置もアリ?
 この対策は恒久的な対応とは言えそうにありませんが、緊急対策にはなるかも知れません。 止まってしまった冷却ファンの銘板シールを剥がすと、軸受の部分が見えてきます。この部分に少量の潤滑剤を塗布したらまずまず快調に回転するようになりました。

 この電源の冷却ファンは少し温まってくると回転を始め、あとはずっと回っていることが多いようです。長い時間使ったための油切れだったのかも知れません。 見るからにチャチな冷却ファンですから、吸い込んだホコリなどの固着で回らなくなったのでしょうか。 軸受への潤滑はとりあえず交換用が届くまでの応急措置に使える手かも知れません。 何れにしても長くは持たない対策だと思います。予備を用意しておき回りが悪くなったらマメに交換するのが良いでしょう。こうしたファンは一種の消耗品です。従って予備品は必ず新品を確保しておくと安心です。

                    ☆

 必ずしも電気的な故障品ではなかったので「修理」とは言えないかも知れません。それでもちょっとしたメンテナンスだけで過熱・温度上昇で不調になった電源を現役復帰させることができました。 この電源はベストセラーらしくお使いのHAM局も多いようです。 簡単にできるメンテナンスの一つとして紹介しておきました。 もし確認して冷却ファンの働きが思わしくないようならそろそろ交換用を準備しましょう。 作業にあたって、感電や火傷のような事故に十分気をつけます。スイッチング電源の内部は高電圧の箇所も多く思いのほか危険なものです。 特に通電しながらの確認には十分な注意が必要です。事故のないよう修理を楽しまれてください。 ではまた。 de JA9TTT/1

 (おわり)fm