2010年11月14日日曜日

【Audio】Dome Tweeter 25HP03

【ドーム・ツゥイータ:25HP03】
 スピーカ修理の話しである。 写真はART Audioと言う聞いたことのないブランドのチープなDome型Tweeterである。Tweeterが高音域用スピーカなのはオーディオをやらなくても知っているだろう。

 後ほど登場するが、2-Wayスピーカの高音域を受け持つTweeterが片側断線してしまった。音域を広くするためかデリケートなユニットらしい。過大な入力とかではなくても(経年変化で?)故障するようだ。 しかも古いものなのでメーカーも面倒は見てくれない。やむをえないので市販ユニットに交換して修理を試みることにした。

 このTweeterはφ25mmのドーム型である。断線したのはもう少し大きなφ30mmである。どちらもソフト・ドームなので音色は類似しているはずだ。またクロスオーバー周波数も3kHz(12dB/oct)と高めにとってあるから再生域に心配はない。φ25mmのドーム型ツゥイータの再生下限は2kHzあたりにあるからクロスオーバーとの関係も丁度良い。(実は、この安物ツゥイータには何にも仕様書が付いていないのだ・笑)

 音色のほか気になるのはインピーダンスと音響効率であろう。 インピーダンスは公称6Ωだが周波数によって変化するものだ。従って公称値がほぼ同等なら支障はない。 むしろ音響効率の方が重要だ。低域側スピーカと違い過ぎるとクロスオーバー周波数でうまく繋がってくれない。効率は振動系の質量や磁気回路の性能でかなり違って来る。 Tweeterの方が高効率ならアッテネータで合わせる事は可能だ。それが逆だと厄介であるが普通はあるまい。

【25HP03のマグネット】
 フェライト・マグネットが使ってある。ネオジム・マグネットだそうだが、見た目は普通のフェライトなのでどうもウソっぽい。(笑) 通販品が届いたとき、余りにも軽いので心配になった。 φ25mmの高音用なので大きなマグネットは必要ないと言えばそれまでだろう。しかしスピーカの磁気回路は強力な方が効率が良いのも確か。

 これが振動系の質量が大きな低域用スピーカならダンピングにも関係するのでマグネットは大きい方が明らかに有利だ。コーン紙の口径ばかり大きくても、マグネットが貧弱ならそのスピーカは安物だろう。

 秋葉原で見かける無名スピーカ・ユニットにも時々良いものがある。コーン型SPならエッジ部分とマグネットに着目する。それでそのスピーカの性格(用途)がわかるくらいだ。 無線機に良いスピーカは不要と言う人がいるが、正しく音質レポートを返すためにもクセのない良いものが欲しい。 逆にCW専門なら妙な共振さえなければフィルタ的な周波数特性が良いのかもしれないが。 なお、これから修理するのは無線機用ではなくて一応はHi-Fi用だ。(笑)

 秋葉原に出掛ける暇がなかったのでコイズミ無線の通販を利用した。どんなTweeterなのか現物を見るまでは心配だったが単体テストしてみたら思ったよりも良さそうだ。表から見た感じも悪くない。(@¥1,450-) 交換したらあらためてレポートしてみたい。 de JA9TTT/1 

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2010年11月9日火曜日

【書籍】The ARRL Handbook 88th ED

【ARRL Handbook 2011】
 2011年版ARRLハンドブックが届いた。先日Amazon.co.jpに注文しておいたものだ。円高の恩恵を受け、¥3,837(税込み)であった。ここで言う税金とは消費税のことである。送料は無料だ。

 現在、米ARRLのWebではボーナス・プライスの$49.95-でハードカバー版(通常$59.95-)が購入できる。もしハードカバーが欲しいなら直輸入も良いだろう。しかしソフトカバーで良いなら、送料いらずのAmazon.co.jpからの購入がお得だ。

 肝心の中身だが、前のHandbookを買ってから10年以上経過しているなら非常に目新しく感じるはずだ。 しかし昨年購入したのなら代わり映えしないのでガッカリするかもしれない。ARRL Handbookは2010年版から編集方針が大きく変化した。2011年版はその方針を継承している。おもに情報を追加したマイナーチェンジ版のイメージである。分厚い電話帳のようなボリュームの1,416ページだ。

 現在のアマハンは各章ごとにハンドブック(=便覧)らしくまとめられている。以前のような『製作記事』は少しになり『無線機製作読本』の性格は薄くなっている。(もちろん、非常に面白い製作記事も依然残ってはいるのだが・・・)


【Do-It-Yourself:Wireless Technology】
 Handbookとして力を入れている部分はどこか? 要するに便覧(ハンドブック)らしく自作や HAM局の運用に必要な幅広い情報が掲載されている部分だろう。 あたかもハンドブックを見ればHAMの大抵の事がわかることを目指しているような総合的な解説書の色合いが強くなった。

 回路理論の解説は勿論だし電子デバイスの基礎も網羅している。 そして新しい所では表面実装部品の扱い方も詳しい。それに合わせた基板ランドパターンの例なども載っている。温故知新な記事もない訳ではないが、新しい情報にも結構敏感なのだ。

 もちろん昔ながらの同軸コネクタの結線方法も健在だ。どこぞの国のようにM型コネクタさえマトモに組立てられないHAMの大量発生を防ぐ配慮であろうか。(笑)

 裏表紙:Do-It-Yourselfのフレーズはアマチュア無線を的確に表現していると思う。 電気通信が進歩した現代において、単に機器を入手し通信するだけならスマートフォンやi-Padの方が気が利いている。 では何がアマチュア無線の面白味かと言えばD-I-Yにある。たとえ無線機は購入したとしても、より良く通信するにはアンテナと言った部分にD-I-Yは不可欠だ。

 免許や法令の範囲内とは言え、電波形式、周波数、電力・・・そしてアンテナの素材・構造や通信機器の内部に至るまで、自身で幅広くチョイスできるのはアマチュア無線:Ham Radioだけである。 D-I-Yした無線機でオンエアなんてプロの通信士にも認められていない。 その部分を捨ててしまったのでは面白さも一緒に捨てたに等しいと言うことなのだろう。 de JA9TTT/1

(おわり)

2010年10月30日土曜日

【部品】X-tals to small, too small !

20MHzのクリスタル
 電子部品の小型化は著しい。つい最近まで小型部品と思っていた物がいまではすっかり巨大な部品になっている。

 水晶振動子(Quartz Crystal/X-tal)の世界も例外ではない。写真に大きく写っているHC-18/U型もFT-243型やHC-6/U型よりもずっと小型化された「半導体時代」のクリスタルだと思っていた。

 さらに内部構造は研究改良され、おなじATカット水晶片でも小さな短冊状に作れるようになる。左のHC-49/USにはそうした振動子が使われている。コンピュータを使った振動解析の成果が活かされた結果だという。(HC-18/Uには大きな円板形水晶片が使われている)

 いまではコンピュータ設計と微細加工の技術進歩により一層の小型化が進行しており、写真中央の面実装型ですら最先端ではないのだ。 こうなってしまうと扱いにもピンセットが必要でハンダ付けも容易ではない。もはや手作りでは対処できなくなりつつある。 まさしく" too small "なサイズだ。 ちなみに外形サイズは3.2×2.5×1.0(mm)である。


リール巻き
 表面実装部品になった小型水晶振動子はこのようにテーピングされており、機械で実装するのが常識だ。 この振動子は京セラキンセキ社製だったと思うが、各社共通の形状寸法で供給されている。 特殊な物ではなく移動体通信機器用の共通仕様の部品なのだ。 そして今では秋葉原の秋月電子通商でも扱っているごく普通の電子部品になっている。

 一般に周波数精度は良好であり、バラツキも少なく出来ている。昔の通信機の様に組立て後に周波数調整する製造工程は省略されているので初期精度(バラツキ)が厳しく抑さえられているのだ。いまの携帯電話機には大きなトリマ・コンデンサを載せる余地などまったくありませんからネ。

 従って我々が使う際には有利な筈で無選別でも良い性能の「ラダー型フィルタ」が作れる。 もちろん表面実装用の基板を製作し結合コンデンサにも表面実装型を使う。そのように作れば指先サイズで「高性能クリスタル・フィルタ」が作れそうだ。 表面実装部品を毛嫌いせず、ジャンク屋を覗いたら良く探査しておくと得をする。

 もっとも小型水晶振動子は良いことばかりではない。 大きな信号レベルは不得意だ。発振回路に使う際は過剰な水晶電流が流れぬよう十分な注意が必要だ。 真空管回路などもってのほかだろう。 トランジスタ回路でさえもVcc=12Vは危険かもしれない。最悪、振動子が物理的に破損してしまう。

 同様にフィルタに使う際も信号レベルはデリケートだ。 水晶振動子はあくまでも機械的な振動である。強力な信号では振動子がリニヤな振動範囲を超えてしまい非直線歪みが発生する。 即ち強い多信号がフィルタを通過するだけでIMDが発生してしまうわけだ。 特に物理的に厚みが薄くなる高い周波数の水晶振動子は結晶が「強電界」に曝されてしまう不利がある。そうした意味でも最新のクリスタルは" too small "なのだ。

 Kenwoodの最新トランシーバ:TS-590Sのルーフィング・フィルタが低い周波数に移っているのも、あながちコストの問題だけではなく、その裏に「(安価で)高い性能の実現」があるのかもしれない。(もちろんこれは想像なんだが・笑)
 低い周波数で「ルーフィング・フィルタ」なんて気取ってみても、昔のTS-820やFT-901の時代に帰って、1st-Mixer直後の狭帯域フィルタじゃないの?・・・なんて笑い声も聞こえてくる。まあ、それもそうなんだが1st-Loを複雑なPLLはやめてC/Nの良いDDSで直接得るとか、無線機としての進化を感じさせてくれる。

(おわり)

2010年9月26日日曜日

【回路】Staircase waveform Gen.

UJT:Uni Junction Transistor
 UJTとはその名の通り「単接合トランジスタ」あるいは「ダブル・ベース・ダイオード」とも呼ばれる半導体素子だ。1950年代半ばに米General Electric社によって研究開発された。

 増幅用素子ではなくもっぱらパルス回路で使われる。 もともとはSCR(サイリスタ)の点弧パルス(トリガーパルス)の発生がおもだった用途であった。従って、今でもSCRを使った簡単な調光器回路などで見かける事がある。

 また、数個のCRとUJT単独で「弛張発振器」(しちょうはっしんき)が構成できるので簡単な発振器に使う例も多い。 UJTの2つのベース:B1とB2の間にDC電圧を与えておくと、エミッタ:EとB1間の電圧電流特性に負性抵抗特性が見られるようになる。 その負性抵抗特性を使って弛張発振させる。発振波形はCRの充放電によるノコギリ波あるいは狭いパルス状である。(正弦波ではない)

 弛張発振器の原理は、鹿脅し(ししおどし)の動作原理と似ている。細い流水が竹筒に溜まり、水位がある限界点を越えると一気に排水されると言う動作を繰り返す。同じように竹筒に相当するコンデンサと言う「容器」に電流を流すと電荷が蓄積し電位が上昇して行く。その電位が敷居値を越えると電荷を一気に放電させる仕組みが働き容器(コンデンサ)は空になる。蓄積した電荷を一気に放電させる仕組みをUJTが掌っている。そして再び電荷の蓄積と放電を繰り返す。これが弛張発振である。(追記:2013.04.29)

 昔は重宝だったデバイスもICの発展とともにすっかり廃れてしまった。 それはSignetics社が開発したTimer 555(NE555)のような便利なICが安価に供給されたからである。 回路設計の自由度が高いばかりか発振回路に使って得られる波形も良好なためUJTが使われなくなったのはもっともだろう。

 写真は、NEC製の2SH12と中国製のBT33Fと言うUJTである。何れも類似の用途に使えるがピン接続は異なっている。 現在ではすっかり『珍し系の半導体』になってしまった。 同じ目的・用途に対して今では他の手段がたくさんあるのでUJTで無くてはならぬ用途は僅かだろう。 しかしごく簡単な目的には使い道もあると思いつつ少量の手持ちがある。 どうも出番はない感じなのだが。

Staircase waveform generator:階段波発生器
 UJTを使った教科書的な「弛張発振器」は幾らでも目にするので目新しくもない。 しかしこの例では階段波の発生に使っていて、どの様に動作するのか興味を覚えた。

 Staircase waveform :階段波とは、例えばある一秒間が1V、次の一秒間2V、その次の一秒間が3V・・・と言うような時間に対してステップ状に電圧が変化する波形のことだ。オシロスコープで見るとまさしく階段状の波形が観測できる。 ある段数に達するとリセットされて最初の段から再び繰り返すことが多い。 もちろん下り方向の階段や、天辺あるいは谷底に到達すると戻ってアップ・ダウンする階段波もある。

回路動作の概要】 2つのUJTをそれぞれ異なった用途に使っている。
 1つ目のUJT:Q1は階段1段あたりの時間を決める弛張発振器である。 一定間隔で狭い幅のパルスを発生するのが目的だ。この例では10mSごとに発生する。 この狭いパルスによってPNPトランジスタ:Q2の定電流スイッチを駆動する。 Q2を通った瞬時の一定電流は電荷QとしてコンデンサC2にチャージされる。 V=Q/Cでチャージが繰り返される毎にC2の端子電圧Vは階段状に上昇して行くことになる。
 2つ目のUJT:Q3は階段の段数を決める役目だ。 C2の端子電圧Vがある電圧を越えた瞬間にQ3のE・B1間が導通し溜まっていたC2の電荷を瞬間的に放電する。 瞬時に階段はリセットされて最初の段から再び始まることになる。その階段の段数はVR3で加減する。
 Q4とQ5はC2の端子電圧を取り出す為のバッファアンプである。コンデンサに溜まった電荷を引き出す・・即ち電流を取り出すとサグが発生してしまう。その影響を軽減する為にダーリントン接続になっている。 ダーリントン接続でもベース電流はゼロではないが、C2の電圧降下はごくわずかなので支障無いわけだ。いまならバッファ・アンプにFET入力のOP-Ampなどを使えばベストであろう。

 なお、この回路は1970年代始めころのものである。未だICは一般的でなかった時代なので当時得られたデバイスを巧みに使い、ごく僅かな素子(部品)で目的の波形を得る工夫には面白味を感じる。IC万能の現代に於いてはむしろ新鮮でさえある。

ブレッド・ボードで試作
 この回路の具体的な活用はあまり意図しないので取りあえずブレッド・ボードで試作してみた。 実際旨く動作するのか興味を覚えたからだ。 ブレッド・ボードの扱いはあまり慣れてないので部品配置の真似はしないように。(笑)

 左の光っているトランジスタが弛張発振器のQ1である。 電流スイッチ:Q2はマイラ・コンデンサC2の影になって見えにくい。 その右の方にある光ったトランジスタがリセット用のUJT:Q3である。 一番右の黒いトランジスタがQ4 とQ5である。 この試作では内部でダーリントン接続になっている2SC982を使っている。従って見かけ上はトランジスタ1本で済んでいる。 回路図のように2SC1815を2つ使ってダーリントン接続してもまったく同じだ。

 こんな回路を作る人もまれとは思うが検索で来るお方もあるので、以下念のために書いておく。 この回路の部品入手は思ったよりも容易である。 唯一珍しい部品であるUJT:BT33Fは「イーエレ」と言うお店から通販で購入した。 このUJTは中国製であるが、大陸方面では広く流通しているらしい。 同店で現在でも単価110円で購入できる。

 もちろん国産のUJTでも良いが殆どがディスコンなので入手しにくいと思う。幾つかのお店に在庫があるようだが100円では買えないようだった。 むしろ2N型番の米国製の方が入手容易かも知れない。いまでも生産している会社があるからだ。2N2646ならRSコンポーネンツにもあるようだ。 なお必ずNベースのUJTを買うこと。(PベースのUJTは珍しいようだが・・) UJT以外で集めにくい部品は無いと思う。 部品を揃えて1時間くらいで完成できる。(ブレッド・ボードに製作の場合)

出力波形
 5段の階段波形である。 1段あたりの高さは1Vになるように合わせた。この高さは回路図のVR2で加減できる。 また1段あたりの時間は10mSであるが、これはVR1で加減できる。

 階段の段数はVR3で変えられるが、1段あたりの電圧を1Vにした場合、正常に動作するのは6〜7段までであった。 もっと段数が必要な場合は、回路定数を見直すか1段あたりの電圧を1Vよりも小さくする必要がある。 一番下の段もUJTのONオン抵抗の関係でゼロまでは下がり切らない。オフセットを持っているのでDC結合で使う場合は目的によって注意が必要だ。

 写真のように、オシロスコープでの観測ではなかなか奇麗な階段波が得られている。 階段波は簡易なA/Dコンバータの構成要素に使われるほか、ステップ状の電圧が欲しい用途では一般的に使われている。 DCアンプのリニヤリティ判定に使うこともあるようだ。 無線での用途は特に思い付かないが、エレクトロニクスの分野ではそれなりのニーズがある。

 ところで写真を見るとまずまず良さそうなのだが、もとがUJT式では性能の限界を感じる。 たった5石の簡単な回路なので仕方ないだろう。 もし改善を目指すならこの回路の高級化ではなく、D/Aコンバータをベースにしたデジタル・アナログな回路の方が最適化し易い。

 すぐに役立つような物でもないが、回路実験としてはUJTの動作がわかってなかなか面白かった。同時に先人のアイディアには感心させられた。 パーツボックスにあったUJTを見ていて、何か面白そうな活用方法はないかと思った次第。 こうした「真面目な回路」(?)よりも昔からある玩具のような電子回路に向いているように思えた。

【追記】アイディアの源泉は?
 この回路の前には別の階段波発生回路があった筈だ。たとえば普通のTr(=BJT)だけで考えるとすれば、まずは2石の「アステーブル・マルチバイブレータ」で連続した矩形波を発振させる。その矩形波を「CR回路で微分」し狭いパルスをつくる。その狭いパルスで「電流スイッッチをON/OFF」すれば上記回路図のQ1とQ2の部分に相当するので階段波が作れる。段数を決めるリセット回路はTrを使った「差動コンパレータ」+「リセット・スイッチ」が良いだろう。なお途中にシュミット回路を入れる必要があるかもしれない。このようにすればまったく同じことは可能なのだが部品数は遥かに多い。こうした階段波発生回路の構成にUJTをうまく適用する方法はなかなかのアイディアなのである。(2010.10.15)

(おわり)

2010年9月18日土曜日

【部品】Modern RF ICs :Part 2

 新しい高周波用ICを紹介するPart 2である。 前回:Part 1アナログなチップにつづき、今回はデジタルなチップを扱う。 既にお馴染みの機能を持つICばかりだが一段と高性能化されている。

μPB1509GV
 シンプルなプリスケーラ用ICである。 分周数は1/2、1/4、1/8に切換えできる。 PLLのプログラマブル・デバイダを想定したものではないらしくシンプルな分周比である。 従ってフリップ・フロップが三段並んだ単純な構造だ。

 上限周波数は分周数で変化する。 1/2分周のとき、700MHzまで、1/4のとき800MHz、1/8では1,000MHzである。 なお保証された下限周波数は50MHzとなっている。 実際にはそれぞれマージンがあって入力電圧次第ではさらに広い周波数で使える。(左図のグラフ参照) ピン・ピッチは0.65mmである。 ハンダ付けは少し厳しいが変換基板でも何とかなる。 理想を言えば専用の基板設計だが敷居が高いだろうか?

μPB1509GVの応用例
 単純なプリスケーラのICなので、左図を見れば容易に使えるはずだ。 SW1とSW2端子のON/OFFで分周比を切り替える。 分周数を切り替えないなら固定設定で良い。

 電源電圧は2.2〜5.5Vと広く消費電流は5.3mA(5Vの標準値)と小さい。1GHzまで分周可能なプリスケーラとしては随分省エネである。昔のECLプリスケーラ(11C05とか?)はパッケージが熱くなるほど電流を喰らった。たったの5.3mAだから電池電源の機器にはとても有利だ。

 微細加工で作った小型でfTの高いトランジスタが使ってある。少ない電流で高性能を得るには微細化が有利なのだ。 そのかわり外部からの電気的ストレス、例えば静電気放電にはデリケートだから注意深く払うべきだろう。 もちろんAC電流がリークしてるようなハンダ鏝(真空管用?・笑)は厳禁だ。

MB1507
 富士通製のPLL-ICである。8ビットのパルス・スワロー型プリスケーラを内蔵しており2GHzまで直接扱うことができる。 プログラマブル・カウンタは11ビットである。合計で19ビットカウンタとなる。 基準周波数(リファレンス)のカウンタもプログラマブルになっており、14ビットでN=8〜16383が選べるほかプリスケーラのON/OFF SWも付いている。 基準用の水晶発振回路も内蔵する。(外部供給も可)

 いすれも分周数はシリアルデータとして送り込んでセットするが、PICなりAVRマイコンとのインターフェースは簡単な3線式で済む。 データ転送のプロトコルもシンプルだからマイコン側のデータ転送プログラムも単純なものになる。

MB1507の応用回路
 見ての通り、標準的なPLL用ICである。 使い方においては旧世代と違いはない。 左図では内部と外部のチャージポンプを切換えられるようにしている。 真意はわからないのだが、C/Nの関係で少しでも電圧を高くした外部回路を使う方が有利なのかも知れない。このあたりはどの程度の違いがあるのか要確認だ。 CATVチューナではC/Nが良いようにVCOのバリキャップ部分に24V電源を使うこともあるのでそのような想定なのかも知れない。

 電源電圧は5Vで良く標準的なマイコン回路と直結できる。 消費電流も標準で18mAだから省エネである。バイポーラICの超高周波特性とC-MOSの高集積度を活かしたBi-CMOS構造で作られている。このあたりは富士通のお得意分野らしく、他にも様々なPLL用ICが開発されている。

 図の様にこのMB1507とループフィルタ、そしてVCOを外付けすればPLL式周波数シンセサイザの完成だ。 DDS全盛であるが高い周波数ではまだPLLの方が有利なので補完しながら適材適所で使われて行くのであろう。

LVCO2408T
 LVCO2408TはICと言うよりも回路モジュールと言うべきだ。 400MHz前後の周波数を発振するVCOモジュールである。 430MHzのハムバンドもカバーするから目的周波数をいきなり発振させて数ステージで送信機が作れる。 FM変調の専用変調端子があるので変調も簡単に掛けられる。

 もちろん、VCO回路自身は自励発振回路なので周波数の安定度は期待できない。PLL回路を構成する必要がある。 VHF帯のVCOは案外部品選定が難しいもので、こうしたモジュールが便利だ。 シールドされコンパクトなのでノイズの誘導も少ないから高C/Nが期待できる。

LVCO2408TのVCO特性
 メーカーの資料は既にWeb上に無いようで詳細はわからないようだ。 JO3DTY 山本さんから実際にテストした結果のご提供があった。(左図)

 図の様にVt=0〜10Vで375MHz〜500MHz以上の周波数可変範囲があるようだ。 チューニング電圧:Vtに対する周波数変化も概ね直線的なのでPLLにおけるループフィルタの設計には好都合だ。

 単体での発振実験によればPLLのループ内に入れない状態でも周波数は割合安定しているそうだ。 ごく簡単な信号源に電圧可変型の自励発振器として使う用途も考えられる・・・と言うレポートも頂いている。

LVCO2408Tの使い方
 企業買収あるいは事業売却が繰り返えされたようでオリジナルのVARIL社は既に消えているようだ。 事業はRFMDと言う会社に継承されている様だが、このVCOは製造が終了している。

 左図にわかった範囲の情報を記入しておいた。 実験レポートによれば電源電圧は5V、チューニング電圧:Vtは〜10Vで問題なく使えるようだ。 Gndを含めても5つの端子接続なので扱いは難しくないだろう。

 端子ピッチは一般的なICと同じ2.54mmである。リードレスだがパッケージのエッジ部分でハンダ付けできるので実装は難しくない。基板設計して面実装がベストだろうが裏返して生基板上に実装すると言った方法も良いだろう。

LVCO2408TとμPB1509のテスト風景
 これは一連のRF-ICをご提供頂いたJH9JBI/1山本さんがご自身で実験された基板の様子だ。 中央にLVCO2408Tが見えその右にプリスケーラのμPB1509が実装されている。

 400MHz帯を1/8分周して50MHzを得る実験だそうだ。 VCOには変調端子があってFM変調を掛けられるが、1/8分周すると浅い変調になってしまう。 NBFM用として適切か否か確認が必要とのこと。十分な変調度が得られるなら50MHz帯の簡易FM送信機が作れそうだ。

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 以上、Part 1と合わせて、全5種類のRF用IC/モジュールを紹介した。 いずれも移動体通信機器に使われたものだろう。 こうしたRF用ICも現在は一段と高集積化されておりシステムがワンチップ化している。 従って機能ブロックに分けて利用・活用するのは難しくなってしまった。

 紹介した5種類のICではまだ機能が分割・独立したブロックになっていた。 このため紹介したような活用も十分可能だった。 多種多様な移動体通信機器が作られ、また専用のICも誕生したので多品種のRF用ICが余剰しているいる筈だ。 それらはいずれも紹介される機会はなく、当然我々の利用実績も皆無なのでまったく着目されないのである。

 このあたりのチップが旨く活用できたなら面白い機器が作れるにちがいない。利用者が多くなれば、ジャンク部品の流通も始まるだろう。 おそらく今はそのままゴミとして処分されるばかりだからまったく勿体ない話しだ。

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

新世代RF-ICの配布案内
 こうした部品は触ってみるのが一番だろう。

 希望者はご自身の住所・氏名を書き、切手を貼った返信用封筒お送り頂きたい。折り返しPart 1とPart 2で紹介した5種類のチップをお送りする。ICはもちろん無償である。 定形外郵便になるので返信用封筒には切手120円分を。封筒は普通サイズで大丈夫だ。

 活用の義務はないが電子部品は使ってこそ意味があるので、単なるコレクションはご遠慮を。 全部使い切るのは大変だが一部を使うだけでも面白いと思う。 もちろんBlogの常連さんだけでなく、どなたでも結構だ。メールの先着順で受け付ける。

 返信用封筒(SASE)の送り先はメールに返信してお知らせする。 メールアドレスは『ttt.hiroアットマークgmailドットcom』で、カタカナ部分は半角記号に直して。 タイトルは「RF-IC希望」とでもして頂ければわかり易い。

新世代RF-ICのチャレンジャーを求む。==>配布予定数に達したので終了です。(2010.9.19)

(おわり)