新しい高周波用ICを紹介するPart 2である。 前回:
Part 1の
アナログなチップにつづき、今回は
デジタルなチップを扱う。 既にお馴染みの機能を持つICばかりだが一段と高性能化されている。

【
μPB1509GV】
シンプルなプリスケーラ用ICである。 分周数は1/2、1/4、1/8に切換えできる。 PLLのプログラマブル・デバイダを想定したものではないらしくシンプルな分周比である。 従ってフリップ・フロップが三段並んだ単純な構造だ。
上限周波数は分周数で変化する。 1/2分周のとき、700MHzまで、1/4のとき800MHz、1/8では1,000MHzである。 なお保証された下限周波数は50MHzとなっている。 実際にはそれぞれマージンがあって入力電圧次第ではさらに広い周波数で使える。(左図のグラフ参照) ピン・ピッチは0.65mmである。 ハンダ付けは少し厳しいが変換基板でも何とかなる。 理想を言えば専用の基板設計だが敷居が高いだろうか?
【μPB1509GVの応用例】
単純なプリスケーラのICなので、左図を見れば容易に使えるはずだ。 SW1とSW2端子のON/OFFで分周比を切り替える。 分周数を切り替えないなら固定設定で良い。
電源電圧は2.2〜5.5Vと広く消費電流は5.3mA(5Vの標準値)と小さい。1GHzまで分周可能なプリスケーラとしては随分省エネである。昔のECLプリスケーラ(11C05とか?)はパッケージが熱くなるほど電流を喰らった。たったの5.3mAだから電池電源の機器にはとても有利だ。
微細加工で作った小型でfTの高いトランジスタが使ってある。少ない電流で高性能を得るには微細化が有利なのだ。 そのかわり外部からの電気的ストレス、例えば静電気放電にはデリケートだから注意深く払うべきだろう。 もちろんAC電流がリークしてるようなハンダ鏝(真空管用?・笑)は厳禁だ。
【MB1507】
富士通製のPLL-ICである。8ビットのパルス・スワロー型プリスケーラを内蔵しており2GHzまで直接扱うことができる。 プログラマブル・カウンタは11ビットである。合計で19ビットカウンタとなる。 基準周波数(リファレンス)のカウンタもプログラマブルになっており、14ビットでN=8〜16383が選べるほかプリスケーラのON/OFF SWも付いている。 基準用の水晶発振回路も内蔵する。(外部供給も可)
いすれも分周数はシリアルデータとして送り込んでセットするが、PICなりAVRマイコンとのインターフェースは簡単な3線式で済む。 データ転送のプロトコルもシンプルだからマイコン側のデータ転送プログラムも単純なものになる。

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MB1507の応用回路】
見ての通り、標準的なPLL用ICである。 使い方においては旧世代と違いはない。 左図では内部と外部のチャージポンプを切換えられるようにしている。 真意はわからないのだが、C/Nの関係で少しでも電圧を高くした外部回路を使う方が有利なのかも知れない。このあたりはどの程度の違いがあるのか要確認だ。 CATVチューナではC/Nが良いようにVCOのバリキャップ部分に24V電源を使うこともあるのでそのような想定なのかも知れない。
電源電圧は5Vで良く標準的なマイコン回路と直結できる。 消費電流も標準で18mAだから省エネである。バイポーラICの超高周波特性とC-MOSの高集積度を活かしたBi-CMOS構造で作られている。このあたりは富士通のお得意分野らしく、他にも様々なPLL用ICが開発されている。
図の様にこのMB1507とループフィルタ、そしてVCOを外付けすればPLL式周波数シンセサイザの完成だ。 DDS全盛であるが高い周波数ではまだPLLの方が有利なので補完しながら適材適所で使われて行くのであろう。

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LVCO2408T】
LVCO2408TはICと言うよりも回路モジュールと言うべきだ。 400MHz前後の周波数を発振するVCOモジュールである。 430MHzのハムバンドもカバーするから目的周波数をいきなり発振させて数ステージで送信機が作れる。 FM変調の専用変調端子があるので変調も簡単に掛けられる。
もちろん、VCO回路自身は自励発振回路なので周波数の安定度は期待できない。PLL回路を構成する必要がある。 VHF帯のVCOは案外部品選定が難しいもので、こうしたモジュールが便利だ。 シールドされコンパクトなのでノイズの誘導も少ないから高C/Nが期待できる。

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LVCO2408TのVCO特性】
メーカーの資料は既にWeb上に無いようで詳細はわからないようだ。 JO3DTY 山本さんから実際にテストした結果のご提供があった。(左図)
図の様にVt=0〜10Vで375MHz〜500MHz以上の周波数可変範囲があるようだ。 チューニング電圧:Vtに対する周波数変化も概ね直線的なのでPLLにおけるループフィルタの設計には好都合だ。
単体での発振実験によればPLLのループ内に入れない状態でも周波数は割合安定しているそうだ。 ごく簡単な信号源に電圧可変型の自励発振器として使う用途も考えられる・・・と言うレポートも頂いている。

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LVCO2408Tの使い方】
企業買収あるいは事業売却が繰り返えされたようでオリジナルのVARIL社は既に消えているようだ。 事業はRFMDと言う会社に継承されている様だが、このVCOは製造が終了している。
左図にわかった範囲の情報を記入しておいた。 実験レポートによれば電源電圧は5V、チューニング電圧:Vtは〜10Vで問題なく使えるようだ。 Gndを含めても5つの端子接続なので扱いは難しくないだろう。
端子ピッチは一般的なICと同じ2.54mmである。リードレスだがパッケージのエッジ部分でハンダ付けできるので実装は難しくない。基板設計して面実装がベストだろうが裏返して生基板上に実装すると言った方法も良いだろう。

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LVCO2408TとμPB1509のテスト風景】
これは一連のRF-ICをご提供頂いたJH9JBI/1山本さんがご自身で実験された基板の様子だ。 中央にLVCO2408Tが見えその右にプリスケーラのμPB1509が実装されている。
400MHz帯を1/8分周して50MHzを得る実験だそうだ。 VCOには変調端子があってFM変調を掛けられるが、1/8分周すると浅い変調になってしまう。 NBFM用として適切か否か確認が必要とのこと。十分な変調度が得られるなら50MHz帯の簡易FM送信機が作れそうだ。
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以上、
Part 1と合わせて、全5種類のRF用IC/モジュールを紹介した。 いずれも移動体通信機器に使われたものだろう。 こうしたRF用ICも現在は一段と高集積化されておりシステムがワンチップ化している。 従って機能ブロックに分けて利用・活用するのは難しくなってしまった。
紹介した5種類のICではまだ機能が分割・独立したブロックになっていた。 このため紹介したような活用も十分可能だった。 多種多様な移動体通信機器が作られ、また専用のICも誕生したので多品種のRF用ICが余剰しているいる筈だ。 それらはいずれも紹介される機会はなく、当然我々の利用実績も皆無なのでまったく着目されないのである。
このあたりのチップが旨く活用できたなら面白い機器が作れるにちがいない。利用者が多くなれば、ジャンク部品の流通も始まるだろう。 おそらく今はそのままゴミとして処分されるばかりだからまったく勿体ない話しだ。
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【新世代RF-ICの配布案内】
こうした部品は触ってみるのが一番だろう。
希望者はご自身の住所・氏名を書き、切手を貼った返信用封筒お送り頂きたい。折り返しPart 1とPart 2で紹介した5種類のチップをお送りする。ICはもちろん無償である。 定形外郵便になるので返信用封筒には切手120円分を。封筒は普通サイズで大丈夫だ。
活用の義務はないが電子部品は使ってこそ意味があるので、単なるコレクションはご遠慮を。 全部使い切るのは大変だが一部を使うだけでも面白いと思う。 もちろんBlogの常連さんだけでなく、どなたでも結構だ。メールの先着順で受け付ける。
返信用封筒(SASE)の送り先はメールに返信してお知らせする。 メールアドレスは『ttt.hiroアットマークgmailドットcom』で、カタカナ部分は半角記号に直して。 タイトルは「RF-IC希望」とでもして頂ければわかり易い。
☆新世代RF-ICのチャレンジャーを求む。==>配布予定数に達したので終了です。(2010.9.19)
(おわり)