2012年6月20日水曜日

【回路】Application of the AD9850 DDS unit.

DDSユニットの活用
 AD9850 DDSユニットの有効な活用を模索している。 これはその第一弾となるものだ。 この写真の基板1枚で発振器として成り立つものを考えている。(未だ配線途中・笑)

 安価な中華DDSユニットもそれ単独では使えない。 ユニットの外からデータをセットしなくては何ら機能しないのだ。 要するに何らかのコントローラが必要と言うこと。

 しかし安価なものなのだから難しい目的ばかりでなく、ごく単純な用途に使っても悪くない筈だ。それでも十分ペイするだろう。そのためにはシンプルなものほど良い。

 引き合いに出されるのは秋月電子通商のDDS基板であろう。 あれは少々不便ではあっても単独でも使い得るものになっている。 この中華DDSモジュールで同等のものを目指すことはもちろん可能だ。 しかし本当に任意周波数が発生可能でなくてはならぬものだろうか? 多数のスイッチを並べればできることだが、その必要は少ないと感じる。 ここでは、任意ではないがプリセットされた周波数に切換えができる発振器で検討してみよう。

                 ☆ ☆ ☆

 どんな物にも「コンセプト」は重要だ。 何か考え始めるととかく高級指向に陥りがちである。 しかし、ここはシンプル指向で行こう。 予めマイコンのROMにセットされた周波数の幾つかが取り出せるだけのごく単純な発振器にこそニーズがあると思う。 例えば自作ラダー型フィルタのUSBとLSBのキャリヤ発振に使いたいとか、CW用BFO周波数を種々切り替えてみたい・・など。 或はオークションで手に入れた特性優良なる高性能SSBフィルタをぜひとも本格的に使ってみたい・・とか、そうした目的なら数波もあれば十分である。 しかし今どき水晶発振子の特注には時間も費用もかかる。 そんな時こそこのDDSユニットだ。ワンチップ・マイコン、そして僅かな部品の付加で容易にニーズを満たせる。 ちろん微妙なキャリヤポイントの加減も「お手のもの」。(笑)

 このところシャックの整理とか雑事に忙しかった。このままでは6月のBlogが無くなってしまいそうになってきた。 取りあえず今夜は予告編と言うことで。   de JA9TTT/1

つづく)←リンク


2012年5月27日日曜日

【回路】Two 125MHz OSC Module


 つの125MHzクロックオシレータ」

【Chinese DDS Modules】
 中国製の600円DDSモジュールである。既に以前のBlogで紹介済みのものだ。もうこの話題は終わった筈だったのだが・・・。

 写真の2つの購入時期は異なっているが同じサプライヤーから購入した同じ製品だ。 しかし、よく見るとちょっと違うことに気付く。 まずはLEDの色が違うことは誰でもすぐわかる。 他にもよく見ると左右のコネクタ部分にあるシルク印刷にも違いが見られる。

 印刷マーキングの色が違うので別物と思うかもしれないが、搭載されたDDS-ICはどちらもAD9850BRSである。Lotは違うが同じメーカーの同じICである。 また消費電流ほかによる判定ではどちらもホンモノのICのようだ。 印刷マーキングの違いは単純にサプライヤーが入手したLotが違っただけだろう。

 要するに、僅かな違いはあるにしても基本的に同じ物だと思って良さそうだ。 これまで、そう思って左の黄色いLED基板を主に評価して来たのであった。 これは単に先に入手した物で始めたからにすぎない。

 左のモジュールが2011年12月末ころ最初に購入した物で,右の方は約1ヶ月ほどあとの2012年1月末ころになって追加で購入した物である。 仮に、黄色のLEDのモジュールをNo.1、赤色のLEDのモジュールをNo.2と呼ぶことにしよう。

 【125MHzのクロック発振器】
 写真はDDSモジュールに搭載されていた125MHzのクロック発振器だ。 先のBlogによる評価のように、ノイジーで使い物にならないのは次の写真の通りであった。

 左が黄色いLEDの基板、即ちNo.1から外した物で、右が赤色のLEDの基板No.2から外したものだ。

 どうだろうか? 写真をクリックして拡大して見てもらえたらと思う。 それで、外観で区別はつきますか?? よくよく見ても右のユニットが多少光沢が無く、くすんだ感じに見え文字のマーキング位置が僅かに下方気味のように見える程度だ。 しかしそれとて言われなければわからないだろう。 ロットNo.の様な印刷は裏面にもないし、メーカーもまったく不詳である。 文字のフォントも同じなのだから同じ所で作られた同じ種類のクロック発振器なのだろう。 誰しもそれを疑がわないように思うのだが・・・。

 【125MHzクロック発振器の特性】
 毎度こんな写真ばかりで恐縮だ。 これは125MHzを中心に、2MHzのスパンで見たスペクトラムである。 改めてNo.1の方を測定してみたが前に見たものと同じようなものだ。(観測した個体は前とは異なる)

 125MHzから約150kHz離れたあたりで、-56dBcのノイズ・サイドバンドがある。 けして褒められたような性能ではなく、こんなクロックを元にDDS-ICを使うのは宜しくない。 当然、DDS-ICからのアウトプットにもスプリアスが感じられた。

 その対策として別のクロック発振器に載せ換えたり、自作のクロックを製作した訳だ。その辺りの経緯は前のBlogに帰って確認して欲しい。 安価なDDSモジュールと言う諦めもあるが、少し残念な所だった。

 【125MHzのクロック発振器・裏】
 上の写真の裏側である。そっくりに見えたクロック発振器だが、裏面を見ると少なくとも異なったLotであるらしいことがわかる。

 見ての通り、底面の3カ所にある半球状の突起の色が違うのだ。 「だからどうなのだ?」と言われそうだが、見た目もともかく実は大きな違いがあったのである。

 左が、No.1のDDSモジュールから、右がNo.2のDDSモジュールからのものだ。 要するに、右のNo.2の方はあとから購入したものなのである。 同じ時期に購入した同一グループ内ではすべて同じ色であった。 即ち先に買った黄色LEDのグループはすべて白色、あとから買った赤色LEDのグループはすべて黒色なのである。 私の持っている物では混じっていることは無かった。

 なお、赤色LEDの基板で裏に黒い半球のあるクロック発振器が載っているからと言って、以下の性能が保証できるとは言えないだろう。 私の手持ちで単にそうした共通点が見られたと言うだけの話しだ。 実際に信号を見て確認する以外に確実な方法はないと思う。 慌て者は早とちりしないよう要注意だ。 オークションの出物も出品者のコメントを鵜呑みにせず用心したい。

 【No.2のスペクトラム】
 上の写真と同じく、125MHzを中心に、2MHzのスパンで観測している。

 言われるまでもなく、その違いは一目瞭然だと思うが、如何だろうか?

 125MHzの近傍にはノイズ・サイドバンドがあって、少し盛り上がっているが、キャリヤから見て-78dBc程度のものである。

 既製品のクロック発振器としては、それほど悪いものではないと言えそうだ。マズマズと言って差し支えない性能だと思う。 「奇麗で素晴らしい」とまでは言えそうにないが、まず使えそうなノイズレベルだと感じられる。

【No.2のキャリヤ近傍スペクトラム】
 そうなると、近傍のスペクトラムも気になってくると言うものだ。

 写真は125MHzを中心に50kHzのスパンで観測している。 全体にノイズフロアも下がっているが、これはスペアナのRBWを狭くしているからだ。

 キャリヤ(125MHz)から約7kHzほど離れた位置に-72dBcのスプリアスが存在する。 それほど大きいとは言えないがやや気になるレベルである。 5th Overtone水晶発振回路で自作した125MHz発振器には見られなかったものだ。

 結局、かなり良いとは言ってもこのクロック発振器はやはりPLL式なのであろう。 実際にDDSからの信号を見て良し悪しの判断をする必要がありそうだ。 気になるスプリアスがあるとは言え、実用になる性能が得られるなら使い物にはなるのだから。
 
【15MHzのスペクトラム】
 DDSから出て来た信号を観測している。前回の評価と同じように、15MHzを中心に50kHzスパンで観測してみた。

 クロック発振器にあったスプリアスの影響は感じられず、まずまずなスペクトラムと言えよう。 ノイズフロアも十分低いから奇麗な信号と思って良い。

 どうやら、No.2のクロック発振器ならDDSのクロックとして使えそうだ。 ただ、本当に大丈夫なのか、幾つかの周波数を発生させて様子を見ることにした。 もしもスプリアスが強く出る周波数のようなものがあるなら注意しなくてはならない。

【7MHzのスペクトラム】
 7MHzを中心に50kHzスパンで観測してみた写真である。

 左に小さく見えるスプリアスは、測定環境によるものだ。 測っている場所には7MHzのアンテナほか引き込んであるので、どうしても外来信号が大きく見えることがある。

 実際に受信機を使い、ビートを掛けてモニタして見たが良くできた水晶発振器と区別がつかない良い「音」に聞こえた。 様々に周波数を変えて行くとスプリアスの発生も見られたが、それはDDSの仕組みによるものであって奇麗なクロックを与えても生じるものである。このクロック発振器固有の問題ではなさそうだった。

【No.3のキャリヤ近傍スペクトラム】
 No.3と言うのは間違いではなくて、No.2とおなじLotの、別のクロック発振器、即ちNo.3の測定結果だ。

 赤色LED基板に載ったクロック発振器は良好だとわかったが、念のために「別のもの」も評価してみる必要がある。 ひょっとしたら単なる発振器のバラツキなのかも知れない。

 -72dBc程度と言うスプリアスレベルは、No.2と同じようなものであったが、キャリヤからみたスプリアスの位置が違うようであった。 こちらは約9kHz離れている。 このように、すこし様子が異なるのはPLLの仕組みによるものではないだろうか。理由の解明にはまだ至っていない。 もちろん、スプリアスレベルに差はないのでDDSから得られる信号も奇麗なものだった。 DDSモジュールを使う上で少々の違いは気にしなくても良さそうである。

【自作クロックOSCのスペクトラム】
 再掲載になるが、これは自作クロック発振器のスペクトラムである。

 5次オーバートーン発振器で作ったものなので、PLL式のようなキャリヤ近傍のノイズサイドバンドや変なスプリアスは現れない。 明らかに奇麗な信号であって、いまだ自作するメリットは大いにあると感じられる。

 ただ、DDSモジュールから得られた信号が実用上支障のないものであるなら、あえて自作する必要は無いのもその通りだ。 もちろん黄色のLEDが付いて来たDDSモジュールの方は奇麗なクロック発振器への交換が必須である。 こうした自作クロックを供給するか、別の奇麗な発振器に載せ換える必要がある状況に違いは無い。

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 この話しの発端はBlogに頂いたJE1UCI冨川さんのコメントである。また、別途メールも頂いていた。 曰く、クロック発振器(外観)を見た感じでは有意な差はないが、出てくる信号は私の評価と違って十分奇麗だと言うのである。 まさかと思いつつも、ずっと気になっていた。 近日、冨川さんが購入されたDDSモジュールを持参されると言う話しにもなっていたほどだ。

 見かけの違いがないので、おおいに先入観をもって判断していた。基板から外さなければ違いなど無いと思うのが普通だろう。 しかしクロック単体で新旧の比較測定くらいはやってみる必要を感じていたのであった。 3月頃から作業環境改善の為に部屋の整理整頓など大々的に行なっていたのでだいぶ遅くなってしまった。今になってやっと確認することができたのであった。

 結論は言うまでもないだろう。貴方が入手したDDSモジュールはどうだったのだろうか?  de JA9TTT/1

つづく)←クロック発振器の話しは一旦終わってDDSモジュールの活用編へリンク。


2012年5月4日金曜日

【測定】Repair a Tektronix 466

Tektronix 466 オシロの修理
 かなり古いオシロなので廃棄処分も考えたのであったが、 一応見てからダメそうならと思って始めたら案外簡単に直ってしまった。

 Tektronix 466は1970年代後期から1980年代に掛けて製造されたストレージ・オシロスコープである。 今のデジタル・オシロとは違って、CRT(ブラウン管)そのものに波形記憶機能を持たせたものを使っている。(直視形蓄積管と言うもの) もはやそんな特殊な電子管(CRT)が作られることは無いに違いないから、電子計測器の歴史遺産でもあるだろう。しかし、デジタルストレージのようにアンチ・エイリアス/デシメーションフィルタなど入っていないので常にフル帯域でストレージでき、例えば100MHzなら100MHz帯域幅なりの「真の波形」が記録できると言った大きなメリットがあるのだか・・・。

 もちろんストレージ機能を使わずに使えばごく普通のオシロスコープである。 通常はそのような使い方をしていて一般的な100MHzのアナログ・オシロスコープと同じように使える。 もともと非常に高額なオシロであったから数は少ないと思う。ヤスモノの単なるアナログ・オシロなら修理などしなかっただろう。

 10年くらい前に時間軸が揺らぐと言う不調な中古品を購入して直したものであった。 外観はマズマズだったが雨ざらしになった事があるようで、内部の程度はけして良くはなかったが修理したら意外にも快調そのものであった。 それがちょっと前にまた壊れたのであった。使っていたら少し煙が出てトレースも消えた。 持病の再発だろうか?

基板がリーク
 基板が炭化しており電流リークしていた。 根本の原因は良くはわからない。 可能性としては、(1)基板の汚染によるトラッキング、(2)ケミコンの電解液漏れなどであろうか。 写真のケミコンは、前の修理でも交換していた。 この部分には元々タンタルコンデンサが使ってあったと思うが、焼損しており交換を行なってあった。

 最初に焼損したタンタルコンの熱で基板の炭化が始まっており、それが拡大した可能性もありそうだ。パターン配線間の電位差が大きかった関係で炭化が進行したのかも知れない。 炭化したお陰で隣接のパターン配線との間に無用なパスができてしまい正常動作しなくなってしまった訳だ。 場所は水平軸アンプなので変なバイアスが掛かってトレースが何処かに飛んでしまったのであろう。

 炭化部分を削ってなるべく除去し、付近の配線パターンは切断して迂回退避することにした。 写真の緑と白のジャンパー線がそのバイパスである。 これでめでたく正常な動作に戻った。 捨てる筈だったものが直ったのでもう暫く使うことにしよう。 既にメインはデジタルオシロに交代しているのだが、デジタルにはない良さがあるのでアナログも捨て難いものがある。(笑)

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ゴールデンウイークの前半はコテやパドルも握らず、キーボードも打たず美術館とか史蹟の見学に出掛けていた。自宅にいる時は主に自室の整理をしていた。 その部屋の片付けの一環でこのオシロも処分しようかと思っていたのだ。 ただ、使っていて故障した際の状況から予想して比較的簡単に修理可能ではないかと思っていた。ざっと見てダメそうならば・・と思い、今日はドライバとコテを手にしてみた。大掛かりな修理に拡大しそうなら早々にやめるつもりで。

 最初に疑われたのは電源回路部分である。 前回の修理でも電源の一部が故障していたからだ。 このころ(1970〜80年代)のテクトロのオシロと言えばタンタルコンが壊れるので有名だ。 しかし今度はどうもそうでは無いようであった。 各電源の電圧を当たっても概ね正常そうだし、目視では発見できなそうである。やれやれこれは厄介な修理になりそうだと感じた。 しかし、何となくガラエポ基板がこげる独特の「焦げ臭さ」を感じた。それで嗅覚を働かせて匂いの元を特定しようとしてみた。 そしてその匂いがする付近でほんの一瞬だが赤い光点を見たのである。 それが手掛りになって故障箇所が特定でき、一気に修理が進んだのだ。(赤い光点は微小に基板の『炭』が燃えたのである)

 『匂い+光』で修理できた訳だ。修理には五感を十分に働かせる大切さを感じた次第。 まあ、また壊れそうなこんな物を修理しても仕方がないのかも知れないけれど・・・。直れば何となく嬉しい。 de JA9TTT/1

(おわり)

2012年4月14日土曜日

【部品】Russian Transistor 1T329B

Russian Transistor】ロシアのトランジスタ
 ロシアのと言うよりも、ソ連のトランジスタと言うべきかもしれない。そんなトランジスタを頂いた。 珍しいので少し調べてみた。

 1985年3月、ゴルバチョフがソ連の共産党書記長に就任した。1986年になって『ペレストロイカ』を提唱して体制の立て直し・再建を模索する。しかし民族主義の台頭もあってソ連邦崩壊への道に続いて行く。1991年ついにソ連は崩壊し再びロシアに戻った。 これはそんな激動の時代に作られたトランジスタだろうか。

 ソ連のエレクトロニクスと言えば、西欧のコピーものばかりで見るべきものは何も無いと言われてきた。もちろんそうした面もあったろうが、それは多分に米国的、西側的なバイアスの掛かった見方だろう。 事実、軍事や宇宙航空など科学技術部門では高度な成果も見られる。いまやISSへの往復には(40年も前の!)ソ連時代のソユーズが頼りにさえなっている。 もちろん西欧的な合理主義から見たら不経済極まりないシステムや意味不明の工業製品に映ることも多いのだが・・・。

 1980年代、ゲルマニウムでRFトランジスタの性能を極めようする考えそのものが既に日米欧の半導体工業では通用しなかった。 従って幾らfTが1GHzに及ぶ物が作れるとは言っても、研究者の趣味ならともかく・・・と言ったレベルの話しである。 もはやゲルマニウムの超高周波トランジスタなど存在しはしなかったのである。 写真のトランジスタ:1T329Bはそんな時代のソ連製だ。ゲルトラで1GHzとは、まるで「趣味の品」のようだ。(笑)


1T329B Pin connection
 1T329Bのピン接続は写真の様になっている。 用途はVHF〜UHF帯の高周波アンプであったから、ストリップラインに実装し易いパッケージになっている。

 ちょうどNECのクロスパッケージ型:2SC2367や2SC3358と同じような用途に合った実装を意図したものである。 但しゲルマニウムトランジスタはプラスチック(樹脂)パッケージでは信頼性が得られない。金属とガラスのハーメチックシール構造にならざるを得なかった。日本でもFMラジオ初期(1960年代)のVHF用ゲルトラ、例えば東芝の2SA239/240は金属パッケージであった。(50MHzあたりで使いたかったが、出始めはかなり高価だった思い出がある)

 1T329BはNPN型である。 fTはネット上に散見された資料によると1.6GHzのようだ。但し曖昧な資料が多くて1.6GHzと言うのはfabの可能性もある。 fT=800MHzなのかもしれない。それでも十分高いと言える。先のFM用2SA239/240はfT=200MHzだったのだから。

 1960年代に日米で開発されていたRF用ゲルマニウムトランジスタはPNP型が多かった。NPN型の研究もあったろうが、Mesa或はEpitaxial mesaと言った構造はゲルマニウムの場合PNPが作り易かったのだ。 もちろんゲルマでNPNのRF用も市販に無い訳ではない。しかしもう一世代前:2T73/2SC73(SONY)等のGrown型くらいのものだった。もちろん、Grown型はNPNが作り易かったからだ。

 1T329Bがどの様な構造かはわからないが、ゲルマニウムでNPN型の超高周波用と言うのは珍しい。 西欧とは異なるソ連独特の考え方・価値観で1980年代まで開発・製造が続けられていたのだろう。確かに結晶中の電子移動速度はゲルマニウムの方が早いのだが・・・。

1T329Bの静特性
 観測のあとから規格の数字を見たので、すこし最大定格オーバーして測定しているようだ。もちろん壊さぬ範囲でやめている。 実測ではこのような静特性である。2つ測定したがhFEに少し差があった他はほぼ同じ特性だった。 おそらくネット上を探してもこんなデータはあるまい。お持ちのお方(?)は参照を。(笑)

 最大コレクタ・エミッタ間電圧:Vce=5Vだそうである。実測でもVce=5Vを越えるあたりからブレークダウンへ向かう様子が見えている。Vcesは10V以上ありそうだが、Vcboは5V程度と見ておく方が良さそうだ。 従ってRFアンプや発振器などL負荷の回路を作るとして電源電圧:Vccは3Vくらいが安全な範囲かもしれない。CR結合アンプならVcc=6Vくらいまでだ。Vsatも小さいから低電圧に向いている。(低電圧でしか使えないが) 観測した範囲で、コレクタ電流のリニヤリティは良さそうだ。小信号RFアンプとしてはやや大きめだが歪みを考えてIc=5mAあたりで使うのも良さそうである。なお、NFは4〜6dBとのこと。(測定周波数は不明)

 金属パッケージに入っているからと言ってもこのトランジスタは小信号用である。コレクタ許容損失:Pcは50mWしかないし、コレクタ電流:Icも20mAが最大だ。 数〜10mWも取り出せれば良い方だろう。パワー向きではない。おとなしく受信機のRFアンプに使うくらいがせいぜいだ。

 シリコンでも同じだが、高周波特性を良くしようとすればベースをごく薄く作り加速電界を持たせることになる。副作用でジャンクション耐圧は低くなる。 この1T329Bも拡散系の超高周波トランジスタらしく耐電圧は非常に低い。 特にベース・エミッタ間の逆方向耐圧:Vebは資料によっては0.5Vになっている。 RFアンプに使うならアンテナからの過大入力を保護すべきだ。くれぐれも定格オーバーさせないように。簡単に死んでしまいマス。 ゲルマだからと言ってエフェクタに使おうとする輩もあるかもしれない。定格オーバーで即死させぬようくれぐれもご用心を。(いざのとき壊れたら困るだろうから使わぬが良い。別の低周波用のゲルトラを。)

ネット上のデータ:一例
 GT329B/Vと言うのも類似品らしい。 細部は少し違っているようだが、いずれも同じような数字である。

 実測データからも1T329B=GT329B/Vはほぼ同じように考えて良さそうだ。 何かの機会にソ連製の電子機器を入手され、補修に困ったなら参考にされたい。

 1T329BあるいはGT329Bはe-Bayなどに登場しており一つ1〜数ドルくらいのようだ。実用デバイスとして見たらそれでも高いと言えるがゲルトラ趣味ならまあ良かろう。 ソ連時代の部品が使われなくなって放出されたものだ。他にも多様な「東側デバイス」がネットに溢れ出しており、旧ソ連のテクノロジーを賞味してみるには良い機会なのかもしれない。

               ☆ ☆ ☆

 電子デバイスとしてみたら明らかにシリコン・トランジスタが優れている。使用上限温度が倍も違っては「何か」よほどのメリットでもなければゲルマニウムに意味は無い。ではこの1T329Bにその「何か」があったろうか?

 その超高周波を極めたシリコン・トランジスタもGaAs-MES-FETやHEMT、さらには安価で高性能な方向としてSiGeへテロジャンクション・トランジスタの時代になっている。 しかも単体トランジスタと共振回路でRFアンプを構成する時代は過ぎてしまい、RF回路と言えばMMICが当たり前になってしまった。 ・・・と言う訳で、次回はわたし流にMMICでも扱うつもりだ。 de JA9TTT/1

(おわり)

2012年4月1日日曜日

【書籍】Mobile HAM Magazine

モービルハム誌さし上げます
  シャックの整理をしている。物品を減らすことが目的だ。 使いそうにないRigも順次整理しているが、もちろん雑誌もその例外ではない。

 電波実験社の『モービルハム』誌は2000年3月号で終刊になったそうだ。 つい最近のことだったように思っていたが、整理しながらずいぶん年月が過ぎたことを感じた次第だ。

 もともと書店で立ち読みして面白そうなら買っていた。従って全部揃ってはいなかった。それでも1980〜90年代ころは面白そうな記事も多かったので、意外にたくさん持っていた。 しかし、10数年前にCQ誌などと一緒に大量に処分してしまった。 そのとき特に面白そうな記事が載っていた号だけをピックアップしておいたのが写真のこれだ。 従って、ここに残っていたものはそれなりに面白い記事があると思う。

 もし良かったら引き取りませんか? もちろんタダで。 写真にあるもので全部です。 今週末(2012年4月7日)のQRP懇親会には出席の予定なので参加者で欲しい人でもあれば持って行きたい。 重たいから持ち帰りはご免なので予め欲しい人はご連絡を。 このまま引き取り手が無ければ古紙回収業者に持って行ってもらうことになる。

:Facebookの方でも希望者を探している。そちらで先に決まった場合は悪しからず。(Facebook優先ではないので、こちらが先ならそれで〆切ることもあり)

追記:お陰さまで、さっそく行き先が決まりました。(2012年4月2日)

                 ☆ ☆ ☆

 モービルハム誌はその名の通りアウトドア指向でカジュアルな香りのするHAM誌だった。 CQ HAM Radiio誌やハムジャーナル誌の様に妙にかしこまったりはしない。 ユニークな記事、ちょっと怪しい系の記事も多かったと思う。 私も何回か記事を書かせてもらった。

 何回校正しても回路図のトレースが不完全で、あげく時間切れでそのまま出版されてしまったり・・・と言う思い出がある。 よく見たらわかるが全般に図面ミスも多いので参考に何かを作るなら要注意だった。(^_^) トレースミスだけでなく、筆者の思い込みや独り善がりの記事も多くて(それって、ワタシのことかな?・笑)こちらも要注意だが、まあそれが面白かったように思っている。

 CQ誌のように『日本のHAMを背負って立つ!』と言うような気負いも無かったようで、HAM局数の減少傾向が鮮明になって先が見えない時代になったら潔く終刊してしまった。 先を見る確かな目があったのだろう。賢明な判断だと思ったものだ。 de JA9TTT/1

(おわり)