2012年7月16日月曜日

【回路】Bye bye HAM-Band Crystals !

チャネル式DDS発振器:部品面
 DDS モジュールの活用編である。 先月の予告編で紹介したDDSを使ったスイッチ式の発振器が概ね完成した。

 あとで回路図をご覧頂くとわかるが、部品は少ないので伴って配線もわずかだ。 従ってハードウエア的にはごく簡単な製作と言える。

 特にクログラム書込み済みチップを使い、外部の5V電源で動作させれば写真よりずっと簡略化できる。 選択可能な周波数(チャネル数)は873あるが、全部を必要とするケースは稀だろう。 特定の数波だけで良ければ、DIPスイッチも省略し数個のスイッチで十分で、一層簡略化される。 そうしたケースではLCD表示器も不要なはずだ。

チャネル式DDS発振器:配線面
 開発用の基板なので、全チャネルの選択が可能でLCD表示器とプログラム書込み用のISPコネクタも設けてある。 そうした配線の分量があるので、多少複雑そうに見えるが、部品が揃えば半日も掛からずに完成できるだろう。

 配線にはφ0.32mm/UEW線とAWG32のテフロンワイヤを用いている。 UEW線を使った配線は頼りなさそうに見えるが、被覆も丈夫で鋭利な刃物のような物で傷を付けなければショートするようなことはない。

 細いので引き回しは楽である。予備半田の際に半田コテ先で被覆が簡単に除去できるので作業性はたいへん良い。最近はよく使っているが、後からのチェックが厄介なので配線は間違えないように。

マイコンはLCDの下
 この基板1枚で完結させたかったので、部品の配置が多少窮屈であった。 実際に使う際においてLCD表示器は必須ではない。しかしプログラムの開発中は無いと捗らないから不可欠である。 マイコンをまたぐように搭載した。

 スイッチを読取るためのポート数から、28pinのATmegaX8シリーズを使うことでプログラム開発を始めた。 なるべくたくさんのピンがあった方が有利なので、クロック発振は内蔵8MHzを使い外付けクロックに割り当てられるピンもポートB6、7として活用した。 既に余剰のピンは無いので機能拡張は難しいが、その前にプログラムメモリの問題も発生している。(次項参照)

ATmega328P-PUを使う
  DDS式VFOと同じく、最初はATmega168-20PI(次の写真)を使って開発を進めたが、メモリをたくさん積んでいるマイコンチップの方が有利なので、途中から写真のATmega328P-PUに交代した。 同じ回路のまま差し換えできるしプログラムの互換性も高いから同じATmegaX8シリーズでの乗換は極めて容易である。

 ATmega328P-PUは32kバイトの(フラッシュ)メモリを内蔵している。 現状に於けるメモリ使用率は99%となっており、何か機能追加するには周波数データの数を削減する以外に方法は無いのである。記憶する1つの周波数あたり4バイト(32bit)分ずつメモリを消費するので周波数データだけでもかなりの量になっている。 おまけに高級言語コンパイラを使った開発なのでメモリ喰いなのはある程度やむを得ないと思う。見かけプログラムは巨大であるが、実行速度が落ちない方法を考えた。従って各動作はスムースである。

 【ATmega168-20PIでも動く
 前のようにBASCOM-AVRコンパイラのバグ問題が発生している訳ではないので、プログラムメモリが16kバイトの ATmega168-20PIでももちろん快適に働いてくれる。

 但し、収容可能なチャネル数はおおよそ40%程度の379になってしまう。 多くの場合、それでも十分なので自家用としては支障無く使える。用途次第とは思うが、自身はこれを積極的に使うつもりだ。

なお末尾で案内する『頒布用』には汎用性を考えて、上のATmega328Pの方を使うことにした。

 【動作ささせてみる
 外付けが必要なのは、10kΩBカーブの可変抵抗器だけである。 これは、各チャネルの上下、約1.2kHzの範囲を10Hz刻みの周波数可変ができるからだ。 VRはその可変の為に使う。しっかりしたVRにきちんとしたツマミを付けると扱い易い。

 もし、周波数可変は初期調整のみ、即ち半固定でも良ければ半固定VRを使っても良い。 或はマイコンに行く端子に電源電圧Vccの半分、即ち1/2Vccを与えてやればチャネルの中心周波数に固定されるのでそのように使っても良いだろう。

 【チャネル切換えスイッチ
 左の2つが2ビット分のスライド・スイッチである。 この2つのスイッチで0〜3の4つのバンクの切換えを行なう。(SW-3)

 2つあるロータリースイッチの左側が16あるセグメントを切り替えるスイッチである。(SW-2) その右のスイッチで各セグメント内の16のチャネル(予めセットしてある周波数)を切り替える。(SW-1)

 合計では4×16×16=1024チャネルとなる筈であったが、マイコンのメモリ量の制限でATmega328Pで873、ATmega168では379チャネルの内蔵となった。 これだけのチャネル数があると、かなりの汎用性を持った発振器になる。マズマズ満足なものと思う。

 【クロック周波数の誤差補正
 各チャネルの周波数精度は、DDS基板に搭載されているクロック発振器(写真右下の銀色の四角いハコ)の周波数精度と安定性で決まってしまう。初期誤差は下記の回路図・1〜3ではF-ADJと書いてあるVRで合わせ込むことができる。なお、常時調整するような物ではないので半固定抵抗器で十分だ。

 一般に、こうしたクロック発振器の初期周波数精度はあまり良くないので、何らかの補正を行なわないとジャストな周波数発生はできない。

 ここでは、DDS-VFOで採用したのと同じように、内部のプログラム処理により数値的にクロック周波数の誤差を補正する方法を採用している。 残念ながら中華DDSモジュールに搭載のクロックは誤差が大きいため、このVRだけでは補正できない場合があって個々に補正値を焼き込む方法も併用している。互換性が問題になるがやむを得ないだろう。 動作中の周波数安定度は一般的な水晶発振なみと言った感じで、まずまずである。

追記(参考):10MHzが出るチャネル「0DF」でウオームアップ後に10,000,000Hzジャストに合わせ込んで様子を見ている。1Hzの桁が少し動く程度であって、室温があまり変化しなければ1ppmには十分入る程度の周波数安定度のようだ。(ATmaga168版では「1FX」または「2XX」)

 【チャネルの上下に周波数可変でできる
 発生可能な周波数は873あるいは379チャネルであるが、どのチャネルもそこを中心に±1.2kHzだけ周波数可変できる。下記の回路図・1〜3に±TUNEと書いてあるVRで周波数可変する。常時周波数操作したいなら写真のような可変抵抗を使いパネル面に出しておく。滅多にいじらないなら半固定抵抗でも良い。

 VRの中央位置でチャネルの設定周波数になる。 単純な固定周波数発振器ではなく、多少なりとも周波数を上下できるようになっているので、ゼロインすると言った使い方も可能である。 なおVRの周波数分解能は10Hz刻みである。

 後ほど周波数一覧表を見てもらうとわかるが、HF帯のハムバンドのかなりを1kHzもしくは2kHzおきのチャネルでカバーしている。 従って、このVRを併用することで事実上、ハムバンド内が(10Hz刻みに)連続してカバーできることになる。

 【周波数表示
 積極的に周波数可変の機能を使うなら、LCD表示器があった方が良いだろう。 表示上段には実際の発生周波数が表示されている。 表示下段には周波数移動量が表示される。

 写真の表示例では、チャネルの周波数は7005kHzであり、それを上の写真で示したVRの調整で0.4kHzだけ下に移動している様子を示している。 VFOほど任意ではないが、完全なチャネル式のようにまったく融通が利かないわけではなく、かなり「任意」に動くことも可能だ。

 【デジスイッチ
 使用したものは写真左上の物である。 こうしたロータリー型の場合は必ず負論理型のスイッチを使う必要がある。 要するにポジションが「0」の時に、コモン端子と全部の端子が繋がり、ポジション「F」の位置で全部の端子がオープンになる形式の物を使うこと。

 これはマイコンのポートを内部でPull-UPしているからだ。もしも正論理のスイッチの場合はPull-Downしなくてはならないが、マイコン内部でそれはできない。 従って外付けの部品(抵抗器)が8個も増えてしまう。 もちろん、プログラム的に論理を反転しても良いのだが、今度は負論理のスイッチは使えなくなるので結局同じことだ。

 左下の青い物は秋月で売っている物で、ノブが付属しているので使い易そうだ。こうしたスイッチは正論理と負論理の両方が売られているので型番を良く見て購入する必要がある。(:写真は正論理の方なのでノブの部分が赤色の負論理の物を購入すること!)

 写真右側のスライドスイッチ形式の物はそうした注意は特に要らないだろう。 但し、ON/OFFの関係でツマミの位置が上でONの時にゼロ、下のOFFで1になるから直感的でないがやむを得ないだろう。(まあ、ノブが下でONになるよう、スイッチを上下逆さまに付ければ良い訳なのだが・笑)

回路図・1
 DDSモジュールの出力にLPFも付加した満載バージョンである。 実際には、写真の基板に全部品を載せるのは無理があって、次のLPF省略型にした。

 使用周波数が決まっているなら、周波数にマッチしたLPFを載せるか、同調形式の狭帯域アンプなどを付加すべきだろう。左図回路例では20MHzのLPFになっている。他の周波数にするには、こちらのリンクの参照を。 DDSオシレータの原理上、スプリアスはかなり有るので用途が決まっているなら外付けは広帯域アンプでない方が良いと思う。 なお、負荷は50Ωとしている。 この回路を含め下記のいずれの回路でもDDSモジュール基板上のR5(200Ω)は除去して使用する必要がある。 マイコン(MPU)はATmega8と書いてあるが、ATmega168あるいはATmega328も同じピン接続である。

注:モニタLEDはDDSモジュールへデータ転送が行なわれている瞬間のみ点灯する。なにも変化の無い状態では消灯が正常である。
  
回路図・2
 取りあえず、DDS基板上のLPFに依存し、出力には200Ωを50Ωに変換する為のRFトランスを付加してある。

 実用に際して、信号レベルは低いから別途増幅するとともに、スプリアスを除去するために適宜フィルタも付加する必要がある。 LCD表示器は無くても良いが、周波数調整のツマミを設けるならあった方が使い易い。 逆に固定した数波を得たいだけなら、最初に周波数を合わせるだけなので、LCD表示器は無くても実用になる。マイコン(MPU)はATmega8と書いてあるが、ATmega168あるいはATmega328も同じピン接続である。


 【回路図・3
 最も簡略的に使用する例である。 LCD表示器は設けず、電源も外部からの5Vに依存する。 もちろん、プログラムの書込みも別の基板で行なうので、書込み用のISPコネクタも付いていない。マイコン(MPU)はATmega168と書いてあるが、ATmega328も同じピン接続である。

本来、ごく簡単な用途に使いたいだけならこのくらい簡略に使う方が良いかもしれない。 マイコンのポートに付いているスイッチも、必要なビットの部分だけにしてしまい、あとはGNDするかOpenにしたままで良い。 SSBジェネレータのキャリヤ発生用ならせいぜい2〜3ビット切り替えるだけで良い筈である。 水晶発振器の代替として使うなら簡単な物ほど良い。

周波数一覧表
 使うためには周波数表がなくてはならない。 左図は、そのごく一部である。周波数はHz単位で書いてある。(例:7MHz=7000000)(下記リンク更新済み:2017.12.13)

頒布済み品の一覧表(Ver.1.0.2)は:ここ(←リンク)
次回予定品の一覧表(Ver.1.0.3)は:ここ(←リンク)

 上記の一覧表はPDF形式のファイルで、印刷すればA4用紙で8ページになる。自作ラジオのファンや自作HAMが欲しくなりそうな周波数が目いっぱい詰め込んでみた。どうしてもダウンロードできないときはメールでも。メール添付でお送りする。たった1個のマイコンとわずかな部品,そしてDDSモジュールで800個以上の水晶発振子が手に入るわけだ。(笑)

 見てもらうとわかるが、左端に縦に並んだ「バンク0」は主に一般のラジオ工作に向いたテストオシレータ用である。 BC帯が9kHzおきにフルカバーされている。 短波帯もかなり細かく発生できるので、多バンドラジオの調整などにも使えると思う。 なお、バンク0の「セグメント0」には低周波も含まれるが、上の回路例のようなRFトランス結合では旨くないので、ここを使いたい場合はOP-Ampなどを使ったバッファアンプに変更する必要がある。その場合、DDSモジュール:9番ピンのSINA端子から信号を取り出すと良い。

 中央の2列、バンク1とバンク2はまずは135kHz帯のHAMバンドに始まって、HF帯の各HAMバンドをかなり細かくカバーしている。 特に各バンドのCWバンドは1kHzもしくは2kHzおきになっているので、即ちこれでハムバンド用クリスタルとはBye byeできるのだ。(笑)

 一番右の列、バンク3は、28MHzを粗くカバーするほか、セグメント2には著名なQRP用周波数をインプットしておいた。またポピュラーなSSB/CWフィルタに適したキャリヤ発振器にできるよう周波数を入れてある。7.8MHzや9MHzと言った市販のフィルタのほか、往年のFT-101やTS-520、TS-820などのフィルタに合ったキャリヤ発振ができる。 ほかUser-A〜Fという場所があって、頒布する際に幾らかでも希望者のリクエストにお応えする部分である。ご希望の周波数があれば個々に書込んでお送りするつもりだ。(次回以降の頒布は、Ver.1.0.3で11.2735MHzや10.695MHzのフィルタにも対応したバージョンになる。2012.07.29)

 周波数リストは確定的なものではない。 これだけは外せないと言うような周波数でもあれば、コメント欄あるいはメールなどでお知らせ頂ければぜひ盛り込みたいと思う。 「Blogの視聴者参加(笑)」の部分なので遠慮せず希望周波数のお知らせを。   ←現在は個々の希望周波数は受け付けていない。(管理がたいへんなため。頒布は上記一覧表のもののみ。2013.04.15)

              ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 自身で使うなら「回路図・3」で使うのではないかと思う。 なにしろ、部品が少ないので、ごく単純な発振器としては扱い易いだろう。 大抵の場合、+5V電源も用意されているので、放熱の苦しいオンボードレギュレータよりも有利だろう。

 逆に、スイッチやLCDもフルに実装して、簡易な調整用発振器として使うのも悪くないだろう。 AMラジオの調整には変調が掛かっている方が良いが、簡単な方法で可能そうなので後ほど報告したいと思う。 AMバンド全域をカバーするのでワイヤレスマイクのような用途もありそうだ。

 DDS-VFOのような可変型の発振器とともに、固定周波数型の発振器のニーズも高いので、こうした形式の発振器も用意しておく必要があると思う。 HAMバンドをカバーするチャネルは、シンプルな送信機の実験や、ダイレクトコンバージョン式の受信機実験にも便利そうだ。 昔懐かしい逓倍形式のCW/AM送信機のVFO代わりにもなるだろう。 ふらつくVFOでオンエアするよりもずっと安心だと思う。 いずれ、TX-88AやTX-88Dで遊んでみたいと思うので、その時にはVFO-1の代わりに、言わばFT-243型ハムバンド水晶の代用品として使ってみたい。 de JA9TTT/1

参考:このDDSコントローラの「活用のヒント」(←リンク)を纏めたページを追加。(2012.08.05)

頒布案内
 近ごろミニブームなので「中華DDSモジュール」を買ってはみたが、持て余し気味だろうか。 そうしたお方には朗報になるかもしれない。 AD9850を使った中華DDS 基板を制御するための「プログラム済みマイコン」をお分けする。あくまでも自家用の目的だが、だからこそ安易に妥協などせず動作は十分吟味したものだ。 ATmaga328P-PUバージョンで、上記回路図の1〜3のいずれでも動作するもの。制御対象のDDSモジュールは写真の物だけでなくaitendoの青色DDS基板でも可。(DDSクロックは125MHzあるいは64MHzのいずれか。希望を明記のこと。あとから修正は不可)

 商売ではないので頒布は相当の物品との物々交換で行なう。思い付かなければ金千円でも可。手間を省くため¥120分の切手を貼って宛名を書いた返信用封筒(SASE)もお送り願う。既に「おまけ」DDSモジュールは完了。マイコン+28pinソケットのみ頒布中。ATmega328Pは当分市販されると思うので頒布は継続できそう。「プログラム済みマイコン」の希望はメールで。メールは「ttt.hiroアットマークgmailドットcom」で届く。カタカナ部分は英数小文字に直すこと。

*SASE到着済みのお申し込みに対しては、すべて発送済み。(2013年4月14日)

(参考:プログラムおよびリストの公開予定はありません)

(おわり)

2012年6月20日水曜日

【回路】Application of the AD9850 DDS unit.

DDSユニットの活用
 AD9850 DDSユニットの有効な活用を模索している。 これはその第一弾となるものだ。 この写真の基板1枚で発振器として成り立つものを考えている。(未だ配線途中・笑)

 安価な中華DDSユニットもそれ単独では使えない。 ユニットの外からデータをセットしなくては何ら機能しないのだ。 要するに何らかのコントローラが必要と言うこと。

 しかし安価なものなのだから難しい目的ばかりでなく、ごく単純な用途に使っても悪くない筈だ。それでも十分ペイするだろう。そのためにはシンプルなものほど良い。

 引き合いに出されるのは秋月電子通商のDDS基板であろう。 あれは少々不便ではあっても単独でも使い得るものになっている。 この中華DDSモジュールで同等のものを目指すことはもちろん可能だ。 しかし本当に任意周波数が発生可能でなくてはならぬものだろうか? 多数のスイッチを並べればできることだが、その必要は少ないと感じる。 ここでは、任意ではないがプリセットされた周波数に切換えができる発振器で検討してみよう。

                 ☆ ☆ ☆

 どんな物にも「コンセプト」は重要だ。 何か考え始めるととかく高級指向に陥りがちである。 しかし、ここはシンプル指向で行こう。 予めマイコンのROMにセットされた周波数の幾つかが取り出せるだけのごく単純な発振器にこそニーズがあると思う。 例えば自作ラダー型フィルタのUSBとLSBのキャリヤ発振に使いたいとか、CW用BFO周波数を種々切り替えてみたい・・など。 或はオークションで手に入れた特性優良なる高性能SSBフィルタをぜひとも本格的に使ってみたい・・とか、そうした目的なら数波もあれば十分である。 しかし今どき水晶発振子の特注には時間も費用もかかる。 そんな時こそこのDDSユニットだ。ワンチップ・マイコン、そして僅かな部品の付加で容易にニーズを満たせる。 ちろん微妙なキャリヤポイントの加減も「お手のもの」。(笑)

 このところシャックの整理とか雑事に忙しかった。このままでは6月のBlogが無くなってしまいそうになってきた。 取りあえず今夜は予告編と言うことで。   de JA9TTT/1

つづく)←リンク


2012年5月27日日曜日

【回路】Two 125MHz OSC Module


 つの125MHzクロックオシレータ」

【Chinese DDS Modules】
 中国製の600円DDSモジュールである。既に以前のBlogで紹介済みのものだ。もうこの話題は終わった筈だったのだが・・・。

 写真の2つの購入時期は異なっているが同じサプライヤーから購入した同じ製品だ。 しかし、よく見るとちょっと違うことに気付く。 まずはLEDの色が違うことは誰でもすぐわかる。 他にもよく見ると左右のコネクタ部分にあるシルク印刷にも違いが見られる。

 印刷マーキングの色が違うので別物と思うかもしれないが、搭載されたDDS-ICはどちらもAD9850BRSである。Lotは違うが同じメーカーの同じICである。 また消費電流ほかによる判定ではどちらもホンモノのICのようだ。 印刷マーキングの違いは単純にサプライヤーが入手したLotが違っただけだろう。

 要するに、僅かな違いはあるにしても基本的に同じ物だと思って良さそうだ。 これまで、そう思って左の黄色いLED基板を主に評価して来たのであった。 これは単に先に入手した物で始めたからにすぎない。

 左のモジュールが2011年12月末ころ最初に購入した物で,右の方は約1ヶ月ほどあとの2012年1月末ころになって追加で購入した物である。 仮に、黄色のLEDのモジュールをNo.1、赤色のLEDのモジュールをNo.2と呼ぶことにしよう。

 【125MHzのクロック発振器】
 写真はDDSモジュールに搭載されていた125MHzのクロック発振器だ。 先のBlogによる評価のように、ノイジーで使い物にならないのは次の写真の通りであった。

 左が黄色いLEDの基板、即ちNo.1から外した物で、右が赤色のLEDの基板No.2から外したものだ。

 どうだろうか? 写真をクリックして拡大して見てもらえたらと思う。 それで、外観で区別はつきますか?? よくよく見ても右のユニットが多少光沢が無く、くすんだ感じに見え文字のマーキング位置が僅かに下方気味のように見える程度だ。 しかしそれとて言われなければわからないだろう。 ロットNo.の様な印刷は裏面にもないし、メーカーもまったく不詳である。 文字のフォントも同じなのだから同じ所で作られた同じ種類のクロック発振器なのだろう。 誰しもそれを疑がわないように思うのだが・・・。

 【125MHzクロック発振器の特性】
 毎度こんな写真ばかりで恐縮だ。 これは125MHzを中心に、2MHzのスパンで見たスペクトラムである。 改めてNo.1の方を測定してみたが前に見たものと同じようなものだ。(観測した個体は前とは異なる)

 125MHzから約150kHz離れたあたりで、-56dBcのノイズ・サイドバンドがある。 けして褒められたような性能ではなく、こんなクロックを元にDDS-ICを使うのは宜しくない。 当然、DDS-ICからのアウトプットにもスプリアスが感じられた。

 その対策として別のクロック発振器に載せ換えたり、自作のクロックを製作した訳だ。その辺りの経緯は前のBlogに帰って確認して欲しい。 安価なDDSモジュールと言う諦めもあるが、少し残念な所だった。

 【125MHzのクロック発振器・裏】
 上の写真の裏側である。そっくりに見えたクロック発振器だが、裏面を見ると少なくとも異なったLotであるらしいことがわかる。

 見ての通り、底面の3カ所にある半球状の突起の色が違うのだ。 「だからどうなのだ?」と言われそうだが、見た目もともかく実は大きな違いがあったのである。

 左が、No.1のDDSモジュールから、右がNo.2のDDSモジュールからのものだ。 要するに、右のNo.2の方はあとから購入したものなのである。 同じ時期に購入した同一グループ内ではすべて同じ色であった。 即ち先に買った黄色LEDのグループはすべて白色、あとから買った赤色LEDのグループはすべて黒色なのである。 私の持っている物では混じっていることは無かった。

 なお、赤色LEDの基板で裏に黒い半球のあるクロック発振器が載っているからと言って、以下の性能が保証できるとは言えないだろう。 私の手持ちで単にそうした共通点が見られたと言うだけの話しだ。 実際に信号を見て確認する以外に確実な方法はないと思う。 慌て者は早とちりしないよう要注意だ。 オークションの出物も出品者のコメントを鵜呑みにせず用心したい。

 【No.2のスペクトラム】
 上の写真と同じく、125MHzを中心に、2MHzのスパンで観測している。

 言われるまでもなく、その違いは一目瞭然だと思うが、如何だろうか?

 125MHzの近傍にはノイズ・サイドバンドがあって、少し盛り上がっているが、キャリヤから見て-78dBc程度のものである。

 既製品のクロック発振器としては、それほど悪いものではないと言えそうだ。マズマズと言って差し支えない性能だと思う。 「奇麗で素晴らしい」とまでは言えそうにないが、まず使えそうなノイズレベルだと感じられる。

【No.2のキャリヤ近傍スペクトラム】
 そうなると、近傍のスペクトラムも気になってくると言うものだ。

 写真は125MHzを中心に50kHzのスパンで観測している。 全体にノイズフロアも下がっているが、これはスペアナのRBWを狭くしているからだ。

 キャリヤ(125MHz)から約7kHzほど離れた位置に-72dBcのスプリアスが存在する。 それほど大きいとは言えないがやや気になるレベルである。 5th Overtone水晶発振回路で自作した125MHz発振器には見られなかったものだ。

 結局、かなり良いとは言ってもこのクロック発振器はやはりPLL式なのであろう。 実際にDDSからの信号を見て良し悪しの判断をする必要がありそうだ。 気になるスプリアスがあるとは言え、実用になる性能が得られるなら使い物にはなるのだから。
 
【15MHzのスペクトラム】
 DDSから出て来た信号を観測している。前回の評価と同じように、15MHzを中心に50kHzスパンで観測してみた。

 クロック発振器にあったスプリアスの影響は感じられず、まずまずなスペクトラムと言えよう。 ノイズフロアも十分低いから奇麗な信号と思って良い。

 どうやら、No.2のクロック発振器ならDDSのクロックとして使えそうだ。 ただ、本当に大丈夫なのか、幾つかの周波数を発生させて様子を見ることにした。 もしもスプリアスが強く出る周波数のようなものがあるなら注意しなくてはならない。

【7MHzのスペクトラム】
 7MHzを中心に50kHzスパンで観測してみた写真である。

 左に小さく見えるスプリアスは、測定環境によるものだ。 測っている場所には7MHzのアンテナほか引き込んであるので、どうしても外来信号が大きく見えることがある。

 実際に受信機を使い、ビートを掛けてモニタして見たが良くできた水晶発振器と区別がつかない良い「音」に聞こえた。 様々に周波数を変えて行くとスプリアスの発生も見られたが、それはDDSの仕組みによるものであって奇麗なクロックを与えても生じるものである。このクロック発振器固有の問題ではなさそうだった。

【No.3のキャリヤ近傍スペクトラム】
 No.3と言うのは間違いではなくて、No.2とおなじLotの、別のクロック発振器、即ちNo.3の測定結果だ。

 赤色LED基板に載ったクロック発振器は良好だとわかったが、念のために「別のもの」も評価してみる必要がある。 ひょっとしたら単なる発振器のバラツキなのかも知れない。

 -72dBc程度と言うスプリアスレベルは、No.2と同じようなものであったが、キャリヤからみたスプリアスの位置が違うようであった。 こちらは約9kHz離れている。 このように、すこし様子が異なるのはPLLの仕組みによるものではないだろうか。理由の解明にはまだ至っていない。 もちろん、スプリアスレベルに差はないのでDDSから得られる信号も奇麗なものだった。 DDSモジュールを使う上で少々の違いは気にしなくても良さそうである。

【自作クロックOSCのスペクトラム】
 再掲載になるが、これは自作クロック発振器のスペクトラムである。

 5次オーバートーン発振器で作ったものなので、PLL式のようなキャリヤ近傍のノイズサイドバンドや変なスプリアスは現れない。 明らかに奇麗な信号であって、いまだ自作するメリットは大いにあると感じられる。

 ただ、DDSモジュールから得られた信号が実用上支障のないものであるなら、あえて自作する必要は無いのもその通りだ。 もちろん黄色のLEDが付いて来たDDSモジュールの方は奇麗なクロック発振器への交換が必須である。 こうした自作クロックを供給するか、別の奇麗な発振器に載せ換える必要がある状況に違いは無い。

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 この話しの発端はBlogに頂いたJE1UCI冨川さんのコメントである。また、別途メールも頂いていた。 曰く、クロック発振器(外観)を見た感じでは有意な差はないが、出てくる信号は私の評価と違って十分奇麗だと言うのである。 まさかと思いつつも、ずっと気になっていた。 近日、冨川さんが購入されたDDSモジュールを持参されると言う話しにもなっていたほどだ。

 見かけの違いがないので、おおいに先入観をもって判断していた。基板から外さなければ違いなど無いと思うのが普通だろう。 しかしクロック単体で新旧の比較測定くらいはやってみる必要を感じていたのであった。 3月頃から作業環境改善の為に部屋の整理整頓など大々的に行なっていたのでだいぶ遅くなってしまった。今になってやっと確認することができたのであった。

 結論は言うまでもないだろう。貴方が入手したDDSモジュールはどうだったのだろうか?  de JA9TTT/1

つづく)←クロック発振器の話しは一旦終わってDDSモジュールの活用編へリンク。


2012年5月4日金曜日

【測定】Repair a Tektronix 466

Tektronix 466 オシロの修理
 かなり古いオシロなので廃棄処分も考えたのであったが、 一応見てからダメそうならと思って始めたら案外簡単に直ってしまった。

 Tektronix 466は1970年代後期から1980年代に掛けて製造されたストレージ・オシロスコープである。 今のデジタル・オシロとは違って、CRT(ブラウン管)そのものに波形記憶機能を持たせたものを使っている。(直視形蓄積管と言うもの) もはやそんな特殊な電子管(CRT)が作られることは無いに違いないから、電子計測器の歴史遺産でもあるだろう。しかし、デジタルストレージのようにアンチ・エイリアス/デシメーションフィルタなど入っていないので常にフル帯域でストレージでき、例えば100MHzなら100MHz帯域幅なりの「真の波形」が記録できると言った大きなメリットがあるのだか・・・。

 もちろんストレージ機能を使わずに使えばごく普通のオシロスコープである。 通常はそのような使い方をしていて一般的な100MHzのアナログ・オシロスコープと同じように使える。 もともと非常に高額なオシロであったから数は少ないと思う。ヤスモノの単なるアナログ・オシロなら修理などしなかっただろう。

 10年くらい前に時間軸が揺らぐと言う不調な中古品を購入して直したものであった。 外観はマズマズだったが雨ざらしになった事があるようで、内部の程度はけして良くはなかったが修理したら意外にも快調そのものであった。 それがちょっと前にまた壊れたのであった。使っていたら少し煙が出てトレースも消えた。 持病の再発だろうか?

基板がリーク
 基板が炭化しており電流リークしていた。 根本の原因は良くはわからない。 可能性としては、(1)基板の汚染によるトラッキング、(2)ケミコンの電解液漏れなどであろうか。 写真のケミコンは、前の修理でも交換していた。 この部分には元々タンタルコンデンサが使ってあったと思うが、焼損しており交換を行なってあった。

 最初に焼損したタンタルコンの熱で基板の炭化が始まっており、それが拡大した可能性もありそうだ。パターン配線間の電位差が大きかった関係で炭化が進行したのかも知れない。 炭化したお陰で隣接のパターン配線との間に無用なパスができてしまい正常動作しなくなってしまった訳だ。 場所は水平軸アンプなので変なバイアスが掛かってトレースが何処かに飛んでしまったのであろう。

 炭化部分を削ってなるべく除去し、付近の配線パターンは切断して迂回退避することにした。 写真の緑と白のジャンパー線がそのバイパスである。 これでめでたく正常な動作に戻った。 捨てる筈だったものが直ったのでもう暫く使うことにしよう。 既にメインはデジタルオシロに交代しているのだが、デジタルにはない良さがあるのでアナログも捨て難いものがある。(笑)

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ゴールデンウイークの前半はコテやパドルも握らず、キーボードも打たず美術館とか史蹟の見学に出掛けていた。自宅にいる時は主に自室の整理をしていた。 その部屋の片付けの一環でこのオシロも処分しようかと思っていたのだ。 ただ、使っていて故障した際の状況から予想して比較的簡単に修理可能ではないかと思っていた。ざっと見てダメそうならば・・と思い、今日はドライバとコテを手にしてみた。大掛かりな修理に拡大しそうなら早々にやめるつもりで。

 最初に疑われたのは電源回路部分である。 前回の修理でも電源の一部が故障していたからだ。 このころ(1970〜80年代)のテクトロのオシロと言えばタンタルコンが壊れるので有名だ。 しかし今度はどうもそうでは無いようであった。 各電源の電圧を当たっても概ね正常そうだし、目視では発見できなそうである。やれやれこれは厄介な修理になりそうだと感じた。 しかし、何となくガラエポ基板がこげる独特の「焦げ臭さ」を感じた。それで嗅覚を働かせて匂いの元を特定しようとしてみた。 そしてその匂いがする付近でほんの一瞬だが赤い光点を見たのである。 それが手掛りになって故障箇所が特定でき、一気に修理が進んだのだ。(赤い光点は微小に基板の『炭』が燃えたのである)

 『匂い+光』で修理できた訳だ。修理には五感を十分に働かせる大切さを感じた次第。 まあ、また壊れそうなこんな物を修理しても仕方がないのかも知れないけれど・・・。直れば何となく嬉しい。 de JA9TTT/1

(おわり)

2012年4月14日土曜日

【部品】Russian Transistor 1T329B

Russian Transistor】ロシアのトランジスタ
 ロシアのと言うよりも、ソ連のトランジスタと言うべきかもしれない。そんなトランジスタを頂いた。 珍しいので少し調べてみた。

 1985年3月、ゴルバチョフがソ連の共産党書記長に就任した。1986年になって『ペレストロイカ』を提唱して体制の立て直し・再建を模索する。しかし民族主義の台頭もあってソ連邦崩壊への道に続いて行く。1991年ついにソ連は崩壊し再びロシアに戻った。 これはそんな激動の時代に作られたトランジスタだろうか。

 ソ連のエレクトロニクスと言えば、西欧のコピーものばかりで見るべきものは何も無いと言われてきた。もちろんそうした面もあったろうが、それは多分に米国的、西側的なバイアスの掛かった見方だろう。 事実、軍事や宇宙航空など科学技術部門では高度な成果も見られる。いまやISSへの往復には(40年も前の!)ソ連時代のソユーズが頼りにさえなっている。 もちろん西欧的な合理主義から見たら不経済極まりないシステムや意味不明の工業製品に映ることも多いのだが・・・。

 1980年代、ゲルマニウムでRFトランジスタの性能を極めようする考えそのものが既に日米欧の半導体工業では通用しなかった。 従って幾らfTが1GHzに及ぶ物が作れるとは言っても、研究者の趣味ならともかく・・・と言ったレベルの話しである。 もはやゲルマニウムの超高周波トランジスタなど存在しはしなかったのである。 写真のトランジスタ:1T329Bはそんな時代のソ連製だ。ゲルトラで1GHzとは、まるで「趣味の品」のようだ。(笑)


1T329B Pin connection
 1T329Bのピン接続は写真の様になっている。 用途はVHF〜UHF帯の高周波アンプであったから、ストリップラインに実装し易いパッケージになっている。

 ちょうどNECのクロスパッケージ型:2SC2367や2SC3358と同じような用途に合った実装を意図したものである。 但しゲルマニウムトランジスタはプラスチック(樹脂)パッケージでは信頼性が得られない。金属とガラスのハーメチックシール構造にならざるを得なかった。日本でもFMラジオ初期(1960年代)のVHF用ゲルトラ、例えば東芝の2SA239/240は金属パッケージであった。(50MHzあたりで使いたかったが、出始めはかなり高価だった思い出がある)

 1T329BはNPN型である。 fTはネット上に散見された資料によると1.6GHzのようだ。但し曖昧な資料が多くて1.6GHzと言うのはfabの可能性もある。 fT=800MHzなのかもしれない。それでも十分高いと言える。先のFM用2SA239/240はfT=200MHzだったのだから。

 1960年代に日米で開発されていたRF用ゲルマニウムトランジスタはPNP型が多かった。NPN型の研究もあったろうが、Mesa或はEpitaxial mesaと言った構造はゲルマニウムの場合PNPが作り易かったのだ。 もちろんゲルマでNPNのRF用も市販に無い訳ではない。しかしもう一世代前:2T73/2SC73(SONY)等のGrown型くらいのものだった。もちろん、Grown型はNPNが作り易かったからだ。

 1T329Bがどの様な構造かはわからないが、ゲルマニウムでNPN型の超高周波用と言うのは珍しい。 西欧とは異なるソ連独特の考え方・価値観で1980年代まで開発・製造が続けられていたのだろう。確かに結晶中の電子移動速度はゲルマニウムの方が早いのだが・・・。

1T329Bの静特性
 観測のあとから規格の数字を見たので、すこし最大定格オーバーして測定しているようだ。もちろん壊さぬ範囲でやめている。 実測ではこのような静特性である。2つ測定したがhFEに少し差があった他はほぼ同じ特性だった。 おそらくネット上を探してもこんなデータはあるまい。お持ちのお方(?)は参照を。(笑)

 最大コレクタ・エミッタ間電圧:Vce=5Vだそうである。実測でもVce=5Vを越えるあたりからブレークダウンへ向かう様子が見えている。Vcesは10V以上ありそうだが、Vcboは5V程度と見ておく方が良さそうだ。 従ってRFアンプや発振器などL負荷の回路を作るとして電源電圧:Vccは3Vくらいが安全な範囲かもしれない。CR結合アンプならVcc=6Vくらいまでだ。Vsatも小さいから低電圧に向いている。(低電圧でしか使えないが) 観測した範囲で、コレクタ電流のリニヤリティは良さそうだ。小信号RFアンプとしてはやや大きめだが歪みを考えてIc=5mAあたりで使うのも良さそうである。なお、NFは4〜6dBとのこと。(測定周波数は不明)

 金属パッケージに入っているからと言ってもこのトランジスタは小信号用である。コレクタ許容損失:Pcは50mWしかないし、コレクタ電流:Icも20mAが最大だ。 数〜10mWも取り出せれば良い方だろう。パワー向きではない。おとなしく受信機のRFアンプに使うくらいがせいぜいだ。

 シリコンでも同じだが、高周波特性を良くしようとすればベースをごく薄く作り加速電界を持たせることになる。副作用でジャンクション耐圧は低くなる。 この1T329Bも拡散系の超高周波トランジスタらしく耐電圧は非常に低い。 特にベース・エミッタ間の逆方向耐圧:Vebは資料によっては0.5Vになっている。 RFアンプに使うならアンテナからの過大入力を保護すべきだ。くれぐれも定格オーバーさせないように。簡単に死んでしまいマス。 ゲルマだからと言ってエフェクタに使おうとする輩もあるかもしれない。定格オーバーで即死させぬようくれぐれもご用心を。(いざのとき壊れたら困るだろうから使わぬが良い。別の低周波用のゲルトラを。)

ネット上のデータ:一例
 GT329B/Vと言うのも類似品らしい。 細部は少し違っているようだが、いずれも同じような数字である。

 実測データからも1T329B=GT329B/Vはほぼ同じように考えて良さそうだ。 何かの機会にソ連製の電子機器を入手され、補修に困ったなら参考にされたい。

 1T329BあるいはGT329Bはe-Bayなどに登場しており一つ1〜数ドルくらいのようだ。実用デバイスとして見たらそれでも高いと言えるがゲルトラ趣味ならまあ良かろう。 ソ連時代の部品が使われなくなって放出されたものだ。他にも多様な「東側デバイス」がネットに溢れ出しており、旧ソ連のテクノロジーを賞味してみるには良い機会なのかもしれない。

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 電子デバイスとしてみたら明らかにシリコン・トランジスタが優れている。使用上限温度が倍も違っては「何か」よほどのメリットでもなければゲルマニウムに意味は無い。ではこの1T329Bにその「何か」があったろうか?

 その超高周波を極めたシリコン・トランジスタもGaAs-MES-FETやHEMT、さらには安価で高性能な方向としてSiGeへテロジャンクション・トランジスタの時代になっている。 しかも単体トランジスタと共振回路でRFアンプを構成する時代は過ぎてしまい、RF回路と言えばMMICが当たり前になってしまった。 ・・・と言う訳で、次回はわたし流にMMICでも扱うつもりだ。 de JA9TTT/1

(おわり)