2016年7月20日水曜日

【測定】Crystal Impedance Meter and Test Fixture

【測定:クリスタル・インピーダンス・メータとテスト治具】

Crystal Impedance Meterとは?
 クリスタル・インピーダンス・メータ:略してCIメータは水晶発振子(振動子、共振子)の評価を目的とした測定器です。
 写真はAgilent社のE4916AというCIメータです。構造や機能から見て研究開発用の測定器ではなく、水晶発振子の製造ライン向けのようです。

 測定可能な項目は水晶発振子の直列共振周波数とその等価定数です。 モーショナル・インダクタンス:Lm、同キャパシタンス:Cm、同レジスタンス:Rmのほか、並列キャパシタンス:Cpが測定できます。 もちろん、無負荷Q:Quも計算され表示されますが表示器の文字数の関係で一度に表示しきれないため切換え表示になります。 液晶表示器はバックライト付きですが余り見易くありません。製造ラインでは人が直接数値を読むことはなく、GP-IBインターフェース経由で自動測定と自動選別が行なわれていたのでしょう。 測定周波数範囲は1〜180MHzです。

 非常に古くからあるCIメータとは測定法が異なるようで、ネットワーク・アナライザ(VNA)での評価に近い測定方法で水晶定数を求めているようです。 水晶振動子の測定に特化した測定器ですからVNAのような汎用性はありません。 備考:写真で型番の下にLCR Meterとありますがこれはオプションの機能です。

 このCIメータは、Tさんのご好意でテストの機会が持てました。測定用の治具(テスト・フィクスチャ)は付属しないため製作する必要がありました。 その製作のためにテストソケットやアッテネータ用パーツまでご提供頂いたのですが完成までにずいぶん時間が掛かってしまいました。延び延びになり申し訳ないです。

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 一般的ではない測定器を扱っています。 他にも良い方法があるので水晶発振子(振動子,共振子)の評価に不可欠なものとは言えません。 偶々入手されたお方には少しは参考になるかもしれませんが殆どのお方にとって無縁でしょう。 向学の為にご覧頂くのは結構ですが入手をお奨めする意図はありません。 なお、12.5Ω測定治具はネットアナやスペアナ+TGでも役立つ可能性が有ります。製作に興味があれば前のBlog(←リンク)も合わせてご覧下さい。 以下、主として自身のメモですがお暇でしたらお付合いを。

測定用治具を作る!
 正規のテスト治具があれば一番なのですが新品は驚くばかりのお値段です。(笑) 中古品の出物でもあればメンテナンスして使いたいところですが、手動測定用アクセサリは滅多に出てきませんので余り期待できないでしょう。

 せっかくの機会ですが、あまりにも高額な出費になっても困ります。 CIメータのテストに支障のない測定治具を製作することにしました。 もちろん正規の物とは違うので測定精度に何がしかの影響はあると思われます。しかしクリスタル・フィルタの製作に使えるデータが得られれば良いのでその辺りを目標にしてみましょう。

 写真は治具のケースに相当する部分をプリント基板を使って製作しているところです。板取りと穴加工が終わり組み立てる段階です。 組立はハンダ付けによって行ないますが上手に作ると非常にしっかりした物が作れます。 基台部分はt=1.6mmの片面基板を使いサイド部分はt=1.0mmの両面ガラエポ基板を使いました。これは手持ち部材の都合によるものです。

 【テストソケットは重要部品
 こうしたテスト治具では水晶発振子を装着するソケットが非常に重要です。 数回の抜き差しでは済みませんからテスト用に作られた耐久性のあるソケットを使います。

 普通のICソケットを使ったのでは数10回の測定が限度でしょう。 比較的短時間で接触不安定が発生し安定した測定は望めません。 水晶振動子のQは非常に高く、良いものでは直列共振周波数に於けるインピーダンスは数Ωに過ぎません。 従って治具に接触不良があるのは致命的で測定器や測定方法による誤差以前の問題でありきちんとした評価はできないでしょう。

 ここではテスト用として作られたソケットを使っています。 治具の製作用として纏めて入手されたもの分譲して頂いています。 最近販売が始まったaitendoのこれ(←リンク)と類似品ではないでしょうか? 少々高いですが測定の確かさに影響しますから良いソケットを使いましょう。

 【抵抗減衰器で12.5Ωに変換
 水晶発振子の測定には12.5Ω治具を使うのが標準です。 これは一般的なHF帯水晶発振子のRmが小さいため低インピーダンスの治具を使う方が測定し易いからでしょう。 最近の表面実装型超小型水晶では励振電力が非常に小さくRmも大きいためもっと高いインピーダンスの治具を使うそうです。 

 ここでは50Ω→12.5Ω変換回路を使った標準的な12.5Ω治具を作ることにします。もっとも一般的な測定治具です。 アッテネータの製作には高周波特性の良い14.2Ω、66.2Ω、159Ωの抵抗器が必要です。精度も±1%くらいは確保したいところです。

 測定器メーカでは特注によって必要な抵抗器を作らせているでしょう。最初から厚膜印刷抵抗を使ってアッテネータ形式に作ってしまっているかもしれません。 しかし一般には入手できませんからEシリーズの抵抗器を組み合わせで作ることになります。

 実際には14.2Ωの部分に6.8Ωと7.5Ω、66.2Ωの部分に15Ωと51Ω、159Ωの部分には2Ω、75Ω、82Ωの組み合わせで製作しました。 いずれも抵抗器2個あるいは3個の直列で得ています。 誤差1%のチップ抵抗器なので無選別でも良い精度が得られました。 使用周波数はHF帯です。30MHz以上の水晶を扱うことは稀なのでストレー容量に気をつけコンパクトに作れば良いでしょう。
 テストソケット部分とBNCコネクタまでの配線はプリント基板化してストリップライン構造にするのがベストです。ユニバーサル基板では難しいので0.8D-QEVと言う細芯耐熱同軸(50Ω)で配線しました。HF帯ですから効果は同じようなものでしょう。この同軸ケーブルの芯線はかなり細いですがクラッド銅線になっているので適度な強度があります。銅喰われしないよう銀入りハンダを使いました。
 
 【測定治具が完成!
 写真のように完成しました。ネットワーク・アナライザによって周波数特性を確認したところ、概ね50MHzあたりまで減衰特性はフラットでした。治具内部の配線の関係で幾らか位相回りが見られました。

 実際にCIメータで水晶を測定する際にはショート、オープン、ロードの各校正を行なってから使用します。 この治具の素の特性が現れるわけではありませんから精度は十分得られるでしょう。 CIメータ専用と言うわけではなくネットアナ等でも使えますので良い治具ができたと思っています。 30MHzまで安心して使え、気をつけて使えば50MHzあたりまで活用できるようです。

 【CI-Meterで測ってみる
 測定治具を接続するためのコネクタは全て背面にあります。 写真のように使うためには、少々長めの接続ケーブルが必要です。 使用に際してはケーブルも含めた校正を行ないますから極端な長さのケーブルでなければ支障はありません。

 テストソケットに装着可能な水晶発振子の種類・形状は、HC-18/U、HC-49/U、HC-49/USなどです。 足ピンの太いHC-25/Uも無理をすれば装着できますがソケットのヘタリが心配なので別のソケットを介した方が良いでしょう。 HC-6/UやFT-243などの大型水晶を測定するケースは稀だと思いますが直接挿入できないのでそれら専用のソケットを介して測定することになります。 その際はそれぞれのソケットの端子間容量を実測しておき、並列容量Cpから差し引くことで良い精度で測定すことができます。 それほど高い周波数の水晶を測定する訳でもないので神経質になる必要はないと思っています。

 【10MHz水晶の測定例
 10MHzの水晶発振子を測定しているところです。 LCD表示器に各水晶定数が表示されます。 無負荷Q:Quも表示できますが、表示画面の切換えを行なう必要があって少し面倒です。仕様書によればGP-IB経由でデータを取出すことでさらに詳しい情報が得られるようです。

 いずれにしてもラダー型クリスタル・フィルタを作るのでしたら選別のためにEXCELの表に纏める必要があります。 fr、LmとRmからQuは簡単に計算できるのでわざわざ切り替えてE4916Aで表示させなくても良いでしょう。 E4916AのLCD表示ではLmはL1、CmはC1、RmはR1となっています。 また、並列容量:CpはC0で、直列共振周波数:f0はfrの表示となっています。 並列共振周波数fpは表示されませんが、fpは治具などの外部容量によって変化する値なので必要度は低い筈です。 E4916Aの表示で添字の付け方はいずれもIEC標準の標記方法です。 水晶定数の詳細については過去のBlogでも扱っていますのでこちら(←リンク)もご覧を。

 【ネットアナ測定との比較は?
 既存の測定との違いが気になる筈です。 8MHzの水晶発振子についてネットワーク・アナライザ:VNAを使って求めた値とE4916Aで測定した結果を比較してみます。 私のところではVNAによる測定を基準にしています。

 以前のネットアナでの測定では50Ω測定治具を使いました。 従ってCIメータ:E4916Aとは異なる測定治具を使用しています。いずれの測定器にもGPS周波数基準器の10MHzを供給して周波数精度を上げています。これはルビジウム周波数基準器でも良いでしょう。(外部周波数基準は必須ではありません)

 平均値から測定結果を見てみましょう。 まず直列共振周波数:frですが差異は僅かに「1Hz」でした。 周波数基準器の10MHzを与えた効果は十分ありました。 肝心のLmとCmですが、こちらは約-2〜+2.4%の違いになりました。治具の違いや測定器の違いなど考慮するとまずまずの精度で一致しており良い結果ではないでしょうか。

 Rm(=R1)の違いが少し大きくなっています。 これはNo.12とNo.17のクリスタルのR1が特に大きいためのようです。 それに伴って無負荷Q:Quの違いも-3.3%と大きめになりました。 Quの値は直接フィルタの設計計算には使いません。使う水晶の平均値を求め帯域幅との関係から設計補正に使います。従って±10%の違いなら十分な精度です。Quが大きなものを選別してその平均値を求めると言った目的には支障ないでしょう。

 直流:DCや低周波:AFでの測定と違い、僅かなストレー容量や配線インダクタンスが影響する高周波:RFの測定では測定誤差が現れ易くなります。 この比較のように違う測定法による差が2%前後でしたらとても良い再現性と言えます。同じ測定器、同じ治具を使ったとしても±2%程度の違いは容易に現れるからです。

 表はネットアナとの比較です。既にG3UURによる周波数シフト法とネットアナの比較でも精度良く測定できることが確認されています。 ラダー型クリスタル・フィルタの設計・製作に使う水晶はいずれの測定方法で求めても良いことがわかります。

 従ってアマチュア的には周波数シフト法(←リンク)がもっとも手軽と言えるでしょう。 損失抵抗:Rmや無負荷Q:Quを求める必要があるなら紹介済みの書籍:A Tester for Crystal F, Q and R : Doug DeMaw W1FB (W1FB's Design notebook, pp192 to 194)の測定治具がアマチュア的で良いです。自作の治具と手軽な測定器との組み合わせで求めることができます。関連ページ(←リンク)に帰って参照して下さい。(W1FB's Design notebookはネット上に電子データ版があります。おそらく違法なものでしょう)

参考・1:過去にも紹介していますが、測定方法と水晶定数についての比較検討結果はK8ZOAのレポート(←リンク)「Crystal Motional Parameters」に詳しい報告があります。それによると、各種の測定法の間でC1やL1で2〜5% 程度、R1では5〜20%の違いが生じています。 彼とは測定器やテスト治具がまったく異なる私の比較測定でも概ね同等以上の精度が得られています。状況から見て結果は十分信用できると考えています。

参考・2:CIメータは使い方さえわかれば誰でも簡単に水晶定数を求めることができます。便利な測定器ですが、スペアナ+TGあるいはネットアナのように主共振周波数の近傍に存在する有害な副共振の様子を簡単に見極めることはできません。*1  発振用の水晶を使ってフィルタを作ろうとする際にはこれが欠点だと思います。従って、他の方法で予備測定し共振状態を見てから使う必要があります。CIメータだけでは万全ではありません。(*1 E4916Aにはスプリアス測定モードがあります。但し画面で見るようなわかり易さがありません)

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 ラダー型クリスタル・フィルタの話しは一区切りついていたのですが残った課題があったので扱いました。これでクリスタル評価の一通りの方法と道具について済んだと思っています。 まさかCIメータまで試用できるとは思いませんでした。12.5Ω治具もできたので、様々に活用できるでしょう。
 それまで 汎用測定器でどこまで精度良くクリスタルの評価ができるか努めていた所に、CIメータの登場とは正直な話しかなり脅威を感じてしまいました。結果がぜんぜん違ったらどうしようかと心配したのです。(笑) 自身で比較評価してみた結果、いずれの方法でも良い精度の測定ができるとわかりホッとしているところです。
 振り返って見ると良い精度を得るには治具や手順の違いのような部分で差が現れ易いように思います。 慎重に行なえばどの方法でも良い再現性が得られます。当然いずれのデータを用いてフィルタ設計しても大丈夫です。違いはごく僅かなので製作段階に於いて誤差として処理できる程度に過ぎないでしょう。 上手に測定し、ばらつきの少ないクリスタルを集めることでとても良いラダー型クリスタル・フィルタが作れます。

                   −・・・−

 色々実験していると様子(窮状?)を見かねたお方からご好意を頂くことがあります。 有益な情報ばかりでなく物品のご提供を頂くこともあって恐縮しております。 ご不要品を片付けるケース(笑)もあるとは思いますが、多くは使って試して欲しいお気持ちもあるのでしょう。ですからさっそく試して結果をお知らせするのが礼儀なのでしょうね。
 しかし現実はなかなか厳しいものがあります。 私の実験リストには計画項目が溢れています。なかなか優先順位が付けにくくて比較的容易そうなものから始めている状況です。そうでなくてはリストが少しも減ってくれませんからね。 途中の割り込みも多くてもともと何をやっていたのか忘れてしまいそうです。(爆) せっかくのご好意は無駄にしたくありません。気長にお待ち頂けたなら幸いです。いつかきっとやりたいと思っています。 何だか言い訳になってしまいました。w ではまた。de JA9TTT/1

(おわり)fm

2016年7月4日月曜日

【回路】Review on Radio chip TCA440, Part 2

【回路:ラジオ用IC  TCA440のレビューと活用:その2】

TCA440を活かす
 少し間が空いてしまったのでごく簡単におさらいです。
 TCA440は欧州系のAMラジオ用ICです。 1980年前後の設計のようで、等価回路を見るとアナログICとしてあまり洗練されていません。 その為もあってか検波回路が外付けになっているのかも知れません。お陰でHAMの応用には向いているのでした。 Part-1(←リンク)で詳しく検討しています。

 ここでは7MHzのHAM Band専用受信機に使用します。しかも受信モードはCW(無線電信)だけです。 もし中波AMラジオやBCL用のような短波ラジオを製作したいならTCA440よりも洗練されたラジオ用ICがあるのでそちらがお奨めです。 このBlog内にも旧・三洋電機のLA1600、東芝のTA2003P、2SC1815のような汎用トランジスタで作る短波ラジオのページなどがあります。

 TCA440を使った受信機はCW用に開発した「クリスタル・フィルタ」の評価が大きな目的です。 評価は進行中のため、詳細は次回以降になる予定です。 ここでは試作途中のブレッドボードの様子と終わりに受信状態のムービーを掲載しました。 例によって自家用メモです。 お暇ならどうぞ。

試作回路全景
 厳密にはこのブレッドボードの他にDDS-IC:AD9850を使った局発部があるので全景ではありません。 局発部を除いたアナログ部分の全景と言うことになります。

 受信機の主要な機能を司るTCA440は左側手前にあります。 左奥のCWフィルタが大きいので合理的な部品配置には苦労しました。 これでも完全ではないのですが、いずれブレッドボードを脱却するので評価用と言うことでここまでにしています。 受信回路全体では140dB(1,000万倍)くらいのゲインがあります。最初はわずかに回り込みが残ってしまい動作不安定でした。 GNDの取り方ほか配置の入れ替えなど対策を行ない現状では安定した動作が実現できています。

 今回はICを積極的に使用しています。 他にダイオードを数本使いましたがトランジスタは一つも使いませんでした。 そのICも局発部を除けばアナログ部全部で4つだけです。 これだけで高性能な受信機が作れるのですから流石にICです。 以下、部分ごとに見て行きます。

メイン回路
 高周波増幅〜中間周波増幅のメインになる部分です。TCA440には高周波増幅、ミキサー、中間周波増幅、AGCアンプが集積されています。 写真ではほかに外付けのAGC回路が見えます。 AGC用の検波器はゲルマニウムダイオード:1N34Aです。 狭帯域フィルタが実装されているのでこのままでは意味はありませんがAM検波としても動作します。 帯域幅の広いフィルタを使い検波出力を引き出せばAM受信機にもなり得ます。

 CWの検波はダイオードを使ったリング検波器も考えたのですが、復調出力が小さいので低周波アンプを補う必要があります。 BFOも1〜2石必要でしょう。 簡略化の為にもリング検波器はやめてゲインのあるIC-DBMにしました。 IFアンプの出力はAGCによって信号レベルが管理されています。IC-DBMが飽和するほどの信号レベルにはなりません。 CWの復調にIC-DBMを使っても支障はないでしょう。

  SSB/CW受信機のAGC回路はAM受信機と最も違う部分です。時定数のほか効き方をチューニングしたので良い感触が得られました。 保持時間はSlowとFastに切り替えられます。 Sメータの動きも自然です。 TCA440に内蔵のAGC回路だけでは実現が難しいので外付け回路を補っています。

【CW検波回路
 なるべく簡略化する目的で発振回路が付いているIC-DBMを使ってCWを検波します。 SA612/NE612も候補でしたが、ここではTA7310P(東芝)を使いました。 これはTA7310Pが9Vの電源電圧にマッチしていることと、SA612より大きめの信号が扱えるからです。

 TA7310PにはDBMの他にバッファアンプ付きの発振回路が内蔵されています。 その発振回路で水晶発振させてBFOとして使います。 発振出力は内部でギルバートセル型DBMにC結合されています。 発振回路は変形コルピッツ型が構成し易くなっており、ここでは水晶発振子の周波数を下の方へ動かす必要があるのでVXO形式にしました。 なお、TA7310Pにはほかに汎用のRFアンプが内蔵されていますがその部分は使っていません。

 二重平衡型復調回路(DBM)の負荷は単純に抵抗器にしてみました。 製作後に気になったところがあったので動作点の解析をしたところ初期定数のままで丁度良い値になっていました。 パッシブなリング検波と違い検波回路自身にゲインがあります。 検波後は簡単なLPFを通り、音量調整のあと低周波パワーアンプ(NJM386BD)でスピーカが鳴るまで増幅されます。 なお、この検波回路はSSBの復調にも適しています。IFフィルタをSSB用の帯域幅に変更するだけで大丈夫です。

 TA7310Pへ加えるTCA440のIF出力はかなり絞っています。始めは少々絞り過ぎだろうかと思ったのですが全体的な調整が進んだ段階で見ると丁度良かったようです。 もう6dBくらい大きくても復調歪は起こらないと思いますが、ゲインアップした分だけIFアンプで発生するヒスノイズを聞くことになりそうです。従って現状のままがベターでしょう。

低周波アンプ
 電源電圧は9Vです。 低周波アンプには新日本無線製のNJM386BDを使ってみました。これはTI/NS社のLM386Nでも同じです。40dBくらいのゲインで使っています。 無歪で500mWほどしか出ませんが普通に受信する上で支障はありません。

 この部分は単純な低周波アンプなので簡単かと思いきや意外に厄介でした。(笑) よく考えずにやると満足できない性能になってしまいます。 ポイントがわかったので次回は一発でOKでしょう。 コツを掴めば悪くないICですね。 Application Noteそのままの単純な使い方ならともかく、私が思うに案外旨く使えていないことも多いのではありませんか?

DDS-VFO部
 TCA440に内蔵の局発回路は単なるバッファアンプとして使います。 局発としてはAD9850を使った中華DDSモジュールをAVRマイコンでソフトウエア・コントロールします。 周波数ステップは最小10Hz刻みでアナログVFOと同じようにスムースな周波数変化が実現できています。 言うまでもありませんが周波数安定度は抜群です。(笑)

 TCA440を使ったCW受信機の中間周波は約3.58MHzです。(3577.8kHz) 上側に局発周波数を取っています。 LCDにはその分を補正した実際の受信周波数が表示されます。 もともとがCWトランシーバを想定したソフトウエアです。 スイッチひとつで受信している周波数でCWの送信になります。ヘテロダインもせずにトランシーブ可能なのですから、このあたりがDDSの良いところですね。 DDSのあとに数段のパワーアンプを付ければただちにCWトランシーバになります。 詳しくはDDS-VFOのページに帰ってご覧下さい。

 この部分は最終的にパネル取付用に製作しなおす計画です。 この受信機の試作でDDS-VFOが受信機の局発用として良い感触で使えることが実地検証できました。

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【TCA440を受信機の動画】
 ごく簡単に受信している様子を動画に撮影してみました。 夏場の7MHzはあまりコンデイションが良くないのですが、取りあえず音が出ているところをです。 AGCはファーストの時定数になっています。 幾らかノイジーなのは受信信号が弱い為です。(参考:パソコンとブラウザの組み合わせによっては旨く再生できないことがあるようです)


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 突発したアンテナの故障で復旧に精力を取られてしまい受信機の方はあまり進みませんでした。 それでも少しずつ細部を確認しながら回路の完成度を上げてきました。 おおむねチューニングも済んで部品定数も固まってきたのでこの後はハンダ付けで製作する段階です。 テスト受信ではCWフィルタの特性が良く現れておりオンエアしているCW波の質感がストレートに感じられます。これはちょっと凄いかも知れません。幾つか機能を充実させてメイン受信機として作りたくなってきました。

 TCA440は通信型受信機への適性はあったのでしょうか? 所詮はAMラジオのICなのでゲイン不足だろうと思い当初はRFアンプを外付けする設計でした。  しかし検討半ばでRFアンプの追加はやめました。 TCA440はそこそこゲインがあって検波回路にもゲインがあります。 そのためRFアンプはなくても7MHzのCW用受信機として十分な感度があるのです。 メーカー機の様にカタログスペックを飾りたいならRFアンプの追加は効果的でしょう。 例えばS/N比10dBで0.05μVの感度があり・・・とか書けます。 或はHF帯でもハイバンドならRFアンプの効果はあるでしょう。

 しかし7MHz帯のCWを受信して0.05μVの波は外来ノイズの深い底に沈んでしまいます。 誰も聞くことなどできません。 普通に交信できる相手局の信号は5μVどころかもっと大きいのです。 そうなるとゲイン20dBのRFアンプなど意味はないのです。もし付けたなら常にアッテネータをONで使うことになるでしょう。 送信に使えるようなマトモなアンテナを使う限りHF帯のローバンドはこれが現実です。余分なゲインはむしろ有害です。

 現状ではS/N=6dBで1μVくらいですがそれで十分な感度です。 比較に使ったメーカー機に劣らず良く聞こえますし受信フィ−リングも良好でした。良く聞こえない時はメーカー機でも聞こえません。 AGCの設定も快適なところにあります。 Sメータも小気味良く振れてくれます。 TCA440の通信型受信機への適否はもう言うまでもないでしょう。 結局、CW受信機はCWフィルタとAGCの味付けにポイントがあることが再認識されました。de JA9TTT/1

(つづく)nm

2016年6月20日月曜日

【Antenna】 Quad-Band Inverted-V Antenna

【4バンドの逆V型アンテナ】
 長い間使って来たローバンド用のアンテナが故障しました。 5月初めのことでした。 160m〜40mバンド(1.9〜7MHz)を受け持っているアンテナですから、3バンド同時にオンエアできなくなってしまったのです。 なるべく早く復旧したいと思い補修で済ませたいと考えました。

 しかし、降ろして確認したら既にそれで済む状態ではありません。 まったく新しく作り換えることになりました。 以下は、約20年使ったアンテナがどうなったか見た上で、新たに架設したアンテナをレポートしたいと思います。

 始めに書いておきます。限られた敷地から多バンドにオンエア可能なアンテナを作るのが目標です。 低性能に甘んじるつもりはありませんが、必ずしも高性能なアンテナを目指してはいません。 従って、たっぷりの土地に高性能なアンテナ群を建設したいお方が見るべき話題は何もないでしょう。 しかし、出来上がったアンテナは良く聞こえ、なかなかの飛び具合なので満足できるものになりました。

 基本的に自家用の資料であるとともに新設の記念・記録です。他のお方の役立つものではありません。 もしも見解の異なる記述があってもマジになりませんように。(笑) 以下、かなり長いので暇人向きです。その他のお方は時間を浪費せず早々にお帰りを。


 旧ローバンド用アンテナ
 旧ローバンド用アンテナは、1.9MHz、3.5MHz、7MHzのHAMバンドをカバーするトライバンドの逆Vアンテナでした。 東西に延びるエレメントの途中には7MHzと3.5MHzのトラップコイルが入っていました。(写真は在りし日の旧アンテナ)

 7MHzは無短縮のフルサイズ逆Vアンテナとして動作します。3.5MHz帯は7MHzのトラップコイルがローディングコイルとして作用するためエレメント長は短縮されます。 1.9MHzでは更に3.5MHzのトラップコイルがローディングコイルとして加わるため同じく短縮アンテナとして動作します。マルチバンド化が目的なので積極的に短縮しているアンテナではないため短縮率は大きくありませんでした。

 エレメント長は短縮されるとは言っても、1.9MHzで共振させるための追加エレメントは かなり長く必要です。 その長くなる分はさらにローディングコイルを追加して短縮する方法があるでしょう。 この例ではローディングコイルの追加による短縮ではなく、ワイヤーエレメントを付加して一種の「キャパシティ・ハット」のような動作をさせるようにしました。

 広々した土地にフルサイズのアンテナを伸び伸び張ったのとは比較にならないと思いますが、1.9MHzや3.5MHzでも国内局を相手に十分楽しめたアンテナでした。 フルサイズの7MHzはのんびりDXを楽しむにはまずまずと言った感じでした。 新設するとして、この経験を生かしたアンテナを考えたいと思います。

旧アンテナの給電点
 メモ書きによれば、このアンテナの原型を作ったのは1994年末だったようです。 以下、20年以上のあいだ屋外に架設しっぱなしで放置したアンテナの劣化具合を見ておくことにします。 故障の原因になった部分は改良し良好だったところは新設するアンテナでも採り入れたいと思います。

 写真は旧アンテナの給電点部分です。 この部分はタワーの頂部にネジ止めで固定されていました。 バランは自作の「Sortabalun」(ソーターバラン)が入っていました。 これは今なら一般的なトリファイラ巻きのバラン形式にする所ですが、もともとがSloper Antennaだったころの名残です。 だいぶ前のBlogで触れたことがありましたが、もともとスローパーアンテナからスタートし後に逆Vアンテナに変更した経緯がありました。 SloperにはSortabalunが適当と考えられたからです。

 故障の原因は自作バランから出た巻き線・・・テフロン被覆のAgメッキ線・・・をベーク板端部の圧着端子に接続した箇所の断線でした。 φ1mmとやや線径が細かったのと、積極的な防水処理を怠ったことから腐食が進み断線したようです。 なお、アンテナ・エレメントは碍子により別途固定してあり、ここには張力が直接掛からないようフレキシブルな配線で接続してありました。 断線箇所や状態から見ても応力による金属疲労ではありません。 濡れた異種金属間に発生する起電圧による電食によるらしく断線部分で痩せて非常に細くなっていました。 シャックからの観察では最初は接触不良のような症状を示しました。やがて完全に断線状態になりました。同軸ケーブルの芯線側で断線したので殆ど何も受信できない状態になりました。
 電食に対しては両エレメント間でDC的な電位差が発生しない3巻線型のバランを使った方が良かったのかも知れません。 いずれにしても、観測による雨水のphは4.0〜4.5程度とかなり酸性なので異種金属の接合部を濡らさないのが一番なようです。沿海部においては塩害も無視できません。

 断線部分を除けば防水処理が良く効いていたため状態は良好でした。 写真のように同軸コネクタも銀メッキの光沢がそのままでしたので「自己融着テープ」を巻いて処理しておくと20年でも持つことが実証されています。 自己融着テープは少し高い(一巻き¥1,500くらい)のですが藤倉のFB-Wテープと言うものを使ったと思います。 アンテナに安価なビニールテープなど論外です。それでは1年も持ちません。

トラップ・コイル
 20年ものあいだ空中にあったトラップコイルです。これは7MHzのトラップです。 写真左側はコイル部分を覆っていた自己融着テープを剥がした状態です。  自己融着テープも幾分か表面は劣化していますが、その下は良く保護されており、巻き線下のボビンの塩ビ管も初期のような艶がありました。

 巻き線はフォルマール線(PEW線)ですが、この状態も悪くないものでした。 コイル部分の完全な防水処理は困難なのである程度雨水の浸入はやむを得ないと考えるべきです。 表面に水滴が付けば共振周波数に変化が起こりアンテナとしての共振点も下がるのが普通です。 しかし、晴天になれば案外短時間で元の状態に復帰するのでそれほど気にしないことにしていました。

 ボビンに使った塩ビ管は比較的直射日光に強いのですが、それも程度問題で20年も曝されれば表面はだいぶ劣化します。 それでも程々の強度は維持できているようでした。 しかし写真で見るように張力の掛かった部分で割れが発生しています。 もっと厚肉の塩ビ管もあるのですが重量がずいぶん増えるので思案どころでしょうか。 張力が掛かる部分はアンテナ全体で8カ所あった訳ですが割れたのはここだけでしたので薄肉のパイプでも結構大丈夫だとも言えそうです。新しく製作したトラップでは張力が掛かる部分の穴位置を端部から5mmほど奥の15mmの位置に変更して強度対策しておきました。

同調コンデンサ
 この写真は7MHzのトラップコイルです。内部に見える同調コンデンサにはガラスエポキシの両面プリント基板を使っていました。 表裏のパターン面積を加減すれば任意の静電容量が得られ、また銅箔パターンの周辺に十分な絶縁部分を設ければ十分な耐電圧が確保できたからです。

 同調用コンデンサは送信電力が高々10W程度でも1kV以上の耐電圧が欲しいところです。 そうなるとなかなか良いコンデンサがないのが実情でした。 そのため両面プリント基板でコンデンサを自作したのです。

 しかし、以下の2点から両面プリント基板で作ったコンデンサは旨くなかったようです。 まず、建設当初からの問題です。 送信するとSWRが徐々に変化する現象が見られました。 数kWもの電力ではありません。 僅か数10Wのパワーでもチューニングしている途中でSWRがだんだん変化して行くのです。 詳しく観察するとSWRがボトムになる周波数が移動して行くようでした。
 最初は原因不明でしたが結局この同調コンデンサの問題でした。 エポキシ樹脂は優秀な絶縁材ではありますが高周波における誘電体損失は意外に大きいようです。 ガラエポ両面基板で作ったコンデンサのQuは小さいのです。 そのため送信時の電力で損失が発生し発熱による温度変化でコンデンサの値が変化することから共振周波数が変動してSWRが変化するのでした。送信をやめて暫くすれば元に戻るので発熱現象に間違いないでしょう。 ガラエポ基板ではなく高周波特性の良いテフロン基板なら良かったのかもしれませんね。

 もう一点はエポキシ樹脂にはあまり耐候性がないことです。 写真で見るように直射日光に曝されたであろう部分では劣化が進んでいます。 表面にはコーティング材を塗布しておいたのですが効果は薄かったようです。 このように内部のガラス布が見える状態に風化していました。 直ちに絶縁耐圧低下とはならないでしょうが、劣化が進み易い材料は長期的に懸念がある訳です。 そのような訳でトラップの同調コンデンサが新しいアンテナでの課題となりました。

ワイヤーの劣化
 アンテナエレメントのほとんどの部分はφ2.0mmの銅線を使っていました。 しかし、トラップコイルの引出し部分など一部にφ1.6mmの電線も使っていました。

 緑青を噴いており酸化が進んでいますが、目立った太さの変化はないのでエレメントその物はあまり問題なかったようです。 但し接続した部分で断線が何回か発生しその都度補修した経緯があります。 切れるのは決まってφ1.6mmの部分のように思うので1.6mmでは太さが足りないのでしょう。 風による揺れで細い部分に金属疲労が集中したのかもしれません。 単なる逆Vアンテナならともかく、途中にトラップがぶら下がるアンテナは風圧を受け易く重くもなるのでエレメントに太さが必要なようです。

 なお被覆電線を使うと腐食には強くなりますが被覆材料によって波長短縮率に大きな変化が現れます。 波長短縮係数:0.96の計算から求めるエレメント長よりも大幅に短くなります。 被覆材の経年変化や耐久性に疑問があるのでアンテナ線には常に裸銅線を使ってきました。 耐久性の点では鉄芯の上に銅が被せてある「鋼銅線」が良いのですが入手性は良くないようです。 むかし使ったことがあるのですが固くて扱いにくいのであまりお薦めしません。 錆びないステンレス線を使いたい所ですが抵抗値を見てしまうとどうも・・・。 結論として太めの裸銅線が良いようです。

ロープの劣化
 写真はPVロープと称する一般的な荷造り用だと思います。 あまり耐久性はないと思っていましたが、一度も切れたことはありませんでした。 写真は太さ6mmのものです。 主にアンテナエレメントの端部を引くステーに使用していました。

 ただ、写真で見るように表面は紫外線と風雨による劣化が進んでおり柔軟性もなくなっているようです。 表面がササくれてトゲ状に飛び出していたので、素手での撤去作業は危険な状態でした。 それでもかなり長い寿命があるようで感心しました。劣化してもぼろぼろ崩れるようなものではなく、意外に強度も残っていました。断面を見ると中心部分は大丈夫そうでしたから太さの有るものを使っておけば長期間使えそうです。

 樹脂製品は耐候性に劣るものが多くモノによっては1年も持たないことがあります。 例えばポリエチレンやポリプロピレン製のおかず入れはダメな素材の代表です。 あの半透明の容器は安くて加工が容易なのはFBですが紫外線には弱くて屋外に曝し1年も経つとグズグズになります。 アンテナのマッチングボックスなどに使いたくなりますが、屋外に常設するアンテナの部材としては不適当です。 以前、1.9MHzループアンテナのマッチングボックスに使って酷い目に遭いました。 一般的な物としてはベークライト樹脂、ポリカーボネート樹脂や塩ビ材などが比較的安心できる材料です。

                     ☆

 以上、旧アンテナの劣化状況など観察してみました。アンテナの部材の長期的な劣化を具体的に示した例はほとんど見ないのではないでしょうか。いずれ撤去したアンテナは廃棄してしまうので写真を残して記録しておきました。 良く材料を選んでおけば少なくとも10年くらいは安心して使えるアンテナが製作できるのではないでしょうか。 高所作業は危険を伴うので大変です。アンテナ工事で何がいちばん大変だったかと言えば、タワーの天辺まで登ることでした。2回登っただけでもうたくさんです。 頻繁なメンテナンスは避けたいので吟味した材料で作っておきたいものです。 でも、高所がお得意でしょっちゅうアンテナを交換して楽しみたい人には材料の耐久性など関係ないのかもしれませんね。hi hi



新アンテナの製作
新たに製作するのはトラップタイプのインバーテッド・V型アンテナです。旧アンテナと同じ形式です。オーソドックスですが「妙な名前」が付いたアンテナよりも確実でしょう。まあ、どんなアンテナを建てるのかは各局のお好みですけれど。(笑)

 新アンテナは4バンドで製作することにしました。 従来の1.9MHz、3.5MHz、7MHzに加え10MHzを追加します。 基本的な構造は踏襲します。 バンドが一つ増えるのでトラップが2個追加されます。 3バンドでも調整は厄介なのに4バンドではさらに製作・調整の手間は増えることになります。 各バンドともにあまり短縮されていないためコンパクトなアンテナではありません。 従って市販の多バンドアンテナと比べて輻射効率はかなり良好です。 手間は増えてもきちんと調整すれば実績のある間違いのないアンテナです。

 ここ暫く10MHzは付け足し程度にオンエアしていました。 別のロケーションでグランドプレーンアンテナを建てていたこともあるのですが、何故か10MHz帯のアンテナ整備が疎かになっていたのです。 間に合わせに傾斜型のDPアンテナを上げていたのですがいま一つなようでした。 実は「いま一つ」には大きな理由があったのですが、原因がわかったのはこのアンテナを作り始めてからでした。対策を行なって試したところ非常に改善されたのでもっと早く気付けば良かったのですが・・・。 新しいアンテナでは10MHz帯の冷遇状態を改善するために4バンドで行くことにします。

以下は新しいアンテナの製作過程を撮影したものです。 

トラップコイルの製作
 旧アンテナを継承して外径60mmの塩ビ管(薄肉)をボビンに使用しました。 入手容易な材料でありながら、耐久性があってしかも高周波特性も優秀だからです。

 写真は10MHzのトラップ用に巻いたコイルです。 巻き線にはφ1.6mmのフォルマール線(PEW線)を使いました。 写真の10MHz用はQu=450くらいあって非常に良いコイルになりました。塩ビ管のボビンは見かけは良くありませんが高周波特性は良好です。

 今回の4バンド逆Vアンテナでは、10MHzと7MHzのトラップコイルにφ1.6mmのPEW線を、インダクタンスが大きく巻き数が多くなる3.5MHzのトラップにはφ1.2mmのPEW線を使いました。 密着巻きを避けスペース巻きにし巻き径と巻き幅の比率が1:1〜1:2の範囲になるようにしてQが高くなるようにしています。 7MHz用がQu=480、3.5MHz用がQu=440になりました。何れも2個のコイルの平均値です。 せっかくコイルのQが高くても、同調コンデンサのQが低くてはトラップとしての性能は低下します。 良いコイルができたら、こんどは同調コンデンサの選定が非常に重要でした。

トラップに使うコイルとコンデンサ
巻き線が終わったコイルは自己融着テープを巻いて耐候性を向上させます。 コイルに密着する物体によってはQの低下を招くことがあります。

 比較テストによれば自己融着テープの影響は大きく見ても数%に留まるようです。 Qもインダクタンスも影響は僅かでした。 従ってこのようなRF部分にも安心して巻くことができます。(以上はHF帯での考察です。V/UHF帯以上では再評価を要します)

 上に並んだ同軸ケーブルは同調コンデンサとして使用します。 50Ωの5D-2Vですから100pF/mの容量を持っています。 やや長めに作っておき次項のような周波数調整の際に徐々に短くカットして行き目的周波数にチューニングします。 コイルの方を加減するよりも容易です。

 トラップに使う同調コンデンサには耐圧が高く損失の少ないもの・・・Quが高いもの・・・が必須です。 新アンテナの製作では真っ先にトラップに使うコンデンサの検討から開始しています。 最初、高耐圧のセラミック・コンデンサを検討してみました。 頂いた物を含め、手持ちから幾つも試したのですが残念ながらいずれもHF帯ではQが小さいのです。ガラエポ基板のコンデンサと似たようなもので、この目的に対しては使い物にはなりません。どれもQu=150〜250くらいでした。同じセラミック・コンデンサでも温度補償系の誘電体材料を使っているものならQは高いようです。しかし、十分な耐電圧の手持ちはありませんでした。秋葉原で手に入る高耐圧セラコンは基本的にRF回路にはダメだと思った方が良いようです。(バイパス・コンデンサ用には良いが、共振回路やフィルタ等には使わない方が良い)

 一般的なコンデンサとしてはディップド・マイカコンデンサがHigh-Qでした。 但し耐電圧500Vのものしか手持ちにありません。 ハイパワー局ではなくても耐圧数kVは欲しいところです。 今の時代ですから希望の部品はネット通販でたいてい入手可能です。 しかしお値段を見てビックリです。 高耐圧のマイカコンを必要数購入したらメーカー製のアンテナが買えてたっぷりおつりが来るほどでした。(笑)

 あっさり同軸ケーブルの採用に決めました。 同軸ケーブルはコンデンサではありませんが使用されている絶縁材のポリエチレンは非常に高周波特性の良いものです。 そうでなくては途中の誘電体損失でケーブルロスが馬鹿にならないでしょう。 信頼できるメーカーの同軸ケーブルを使えば安心できます。私は藤倉製の5D-2Vを使いました。

 実際に同軸ケーブルで作ったコンデンサのQを評価したところ、少なくともQu>1000はありそうなので目的に対して十分でした。まあ、そんなこともあって採用した訳なんですが・・・。 耐電圧も5D-2Vでしたら5kVくらいは楽々です。 切断した末端の加工を工夫すれば放電してしまうことはまずありません。  問題は網線(編組)への雨水の浸入です。 これに対しては接着性が良く耐候性のあるシリコーン系のシーラント(セメダイン8051N)で防水処理を行ない、さらに自己融着テープを巻いて対策しておきました。(注:耐電圧はメーカー保証値ではなくユーザーとしての期待値・笑)

参考:テフロン同軸ケーブルも良好でしたが、細い物しか手持ちがなかったので採用しませんでした。 適度な太さが有れば優秀な「コンデンサ」として使えます。


トラップの共振周波数調整
 合計で6個のトラップについて共振周波数を調整しなくてはなりません。 塩ビ管に巻いたコイルと同軸ケーブルで作ったコンデンサをハンダ付けしたら個々に共振周波数を調整します。

 調整にはデジタル表示付きのグリッド・ディップ・メータ:GDMなどが最適です。 アナログ目盛りのGDMの場合、必ず無線機でディップ点の周波数を確認します。 トラップが所定の周波数で共振するようにコンデンサ(同軸ケーブルの長さ)で調整します。 非常に良くディップしますのでGDMのコイルとトラップを過度に結合させないように注意します。 あまりラフに作ると目的のHAMバンド内でSWRが下がってくれません。

ネットアナで共振周波数調整
 なにも高級な測定器が必要な訳ではありませんが、あるものを温存して活用しないのでは勿体ないです。 GDMでも十分なのですがこの際ネットアナの稼働率を上げることにしました。 写真は7MHzのトラップを調整している様子です。

 グラフィカルに表示されますから調整は容易です。写真の横軸:中心周波数は7MHzで横軸1目盛りは50kHzです。 黄色のトレースが伝達特性でトラップにより共振点で60dB以上のアイソレーションが得られそうなことがことがわかります。 当然ですが共振周波数を外れるとアイソレーションは悪くなります。 SWR特性にも影響が及んできますがマルチバンドアンテナなので割り切りが必要です。

 共振周波数は正確に合わせるべきです。 私の場合、10MHzのトラップが10.125MHzで、7MHzのトラップは7.070MHz、3.5MHzのトラップは3.530MHzに共振するよう調整しました。 せめて±10kHzくらいには合わせたいと思います。  共振の鋭さからトラップコイルの良さが判断できます。 これはGDMでもすぐわかります。 良いトラップは共振周波数でとても鋭くディップします。 ディップがブロードならそのトラップはイマイチでしょう。

完成したトラップコイル
 調整が済んだトラップコイルです。 高耐圧コンデンサの代用にした同軸ケーブルですが、写真のようにループ状に纏めてしまっても殆ど影響が無いことを確認しています。 ここに使う束線バンドは耐候性のあるものにします。 屋内配線用の束線バンドでは1〜2年で必ずダメになるでしょう。

 よく見てもらうとわかりますが、同軸ケーブルの先端部分は芯線側を長く残しています。 ある程度芯線の部分を残して編組(網線)の部分を切り詰めて行き共振周波数合わせをします。 このようにすれば芯線と編組の間で十分な沿面距離が稼げるので耐電圧を保つことができます。 芯線と網線をプッつり同じ位置で切断したのでは沿面距離が足らず耐電圧が下がってしまいます。

 なお、コンデンサ(同軸)とコイルとの接続ですが、同軸の芯線がアンテナの給電点寄りで網線側がアンテナの給電点から見て外側のエレメントに接続されるようにするのがコツです。 そうしないと周波数の高いバンド側で周辺の物体の影響を受け易くなるようです。

参考:このトラップのアイソレーションは非常に良好です。建設途中でトラップを出た外側のところでエレメントの切断事故が発生しました。 それでもトラップ内側のバンド(周波数が高い側のバンド)の共振周波数変化はごく僅かでした。 これが意味するところは高い方のバンドから共振点をジャストに調整して行けば良いと言うことです。 低いバンドをいじっても高い方のバンドに影響は及ばないので調整を逆戻りする必要は無い訳です。もちろん逆方向はダメです。

給電点は市販のバランで
 給電点には市販のバランを使用しました。 耐候性や防水性能など構造を考えると自作品も相応の部材費用がかかります。 バランを作ることが目的ではないので、今回は手っ取り早く市販品で済ませることにしました。

 内蔵されているバラン回路は一般的な平衡型アンテナ用のバラン形式になっています。 たいへんオーソドックスなものでトリファイラ巻きの一つの巻き線がIN/OUTの所でライン間を結んでいる形式です。 同軸ケーブルの不平衡をアンテナ側の平衡に変換するインピーダンス比1:1の標準的な形式です。 外観から一見するとトロイダルコアが使ってあるように見えますが、棒状のフェライトコアが使ってあります。 トロイダルコアでは容易に磁気飽和してしまうため安心して大電力を扱えません。 開磁回路になるため磁束は漏れますがこの種のバランでは飽和しにくい棒状のフェライトコアを使うのが常套手段なのです。(ラジオ用バーアンテナのコア材でも良いバランが作れます)

 このバランの耐電力は1kW(PEP)だそうです。 そんなにハイパワーは要りませんが機械的な強度が十分ありそうなので形状が大きなコレを選びました。 シリコーン系のシーラントでネジ止め部分を耐水処理しておきました。 こうすれば長期間持ってくれる筈です。
 エレメントにはすべてφ2.0mmの銅線を使いました。裸銅線は入手しにくいため屋内配線用VVFケーブルの被覆を除去して使っています。 バランを出た両側で電線の被覆が30cmほど残してありますが、これはタワーとのショートを防ぐ意味からです。しかし十分な距離が取れたのであまり意味がありませんでした。

                   ☆ ☆ ☆

【製作資料について】
 コイルの諸元やエレメントの長さなどの詳しい製作データは別のBlog(←リンク)に纏めてあります。 もし同種のアンテナを計画されているようでしたら合わせご覧ください。(2016.08.03)



新アンテナの架設と評価
 トラップタイプの4バンド逆Vアンテナです。 簡単にイメージできるアンテナですので簡単な紹介にとどめます。 約15mのタワー頂部に滑車を固定し、滑車に通したロープに給電点のバランを結んであります。

 旧アンテナでは給電点はタワーの天辺にボルト止めでした。 アンテナの両端がロープで上下できたので、調整はそれほど困難ではありませんでした。 それでもハイバンド側(7MHz)の調整では調整ヒゲの部分が地上まで降りて来ないのでタワー途中まで何回も登りました。 今度のアンテナは10MHzを含むので前よりも高い所まで登る必要が出てきます。 作業性を考えて両端だけでなく給電点も滑車で上げ下げ自在にしておくことにしました。長期間信頼できそうなステンレス製の滑車は意外に高価(¥3.5k)でした。w

アンテナの調整について
 調整にはアンテナ・インピーダンス・ブリッジ(自作)とSWRメータ(自作)を主に使用しました。 昨今流行のアンテナ・アナライザがあればFBなのですが、頻繁にアンテナを上げる訳でもないので私にはかなり勿体ない感じです。hi

 写真のような自作の道具でも特に不満は感じませんでした。手前のプログラム電卓はコイルの設計・確認用です。 一般に給電点の複素インピーダンスを求める必要は殆どありません。調整作業に於いて要は共振点をHAMバンド内へ追い込むだけです。やることはごく単純です。 おおよそ共振点のインピーダンス(純抵抗分だけになる)が読めれば普通は十分です。
 HAMが使うアンテナのほとんどは輻射エレメントを使用周波数に共振させて使います。 非共振型のアンテナ・・例えばT2FDなど・・は効率が良くないからでしょう。 GDM+SWRブリッジのような簡単な道具でもエレメントの共振点は容易に見つけられます。それで概略のインピーダンスもわかりますからアンテナの調整には十分使えると思います。

 必ず長めのエレメント長から始めます。従って調整初期には共振点がHAMバンド内にはありません。SWR計で探ることはできませんからインピーダンス・ブリッジを使ってどこで共振しているか見つけます。変な共振点にさえ気をつければフィーダーの手元(シャック側)で観測しても大丈夫です。 まずは適当な長さを切り詰めて共振周波数の変化量から共振点がバンド内にくる切断量を比例計算してみます。
 一気に切断はせず、それよりやや少なめに切って様子を見ます。 共振点がバンド内に入ったらSWR計も併用して微調整します。必ず最終的な架設状態と同じ条件で共振点を確認するようにします。 このような繰り返しを高い周波数のバンドから低い方へ向かって順番に行なうことになります。 最終的には全体を再チェックして終了となります。

 一つのバンドあたり3〜5回の上げ下げが必要です。 今回は給電点が上下できるので調整は容易でしたが、バンド数が増えたため以前にも増した手数を要しました。 調整とは言ってもやることは単純です。 しかし、エレメントが建物や植木に干渉するため、一気に上げ下げできないため厄介でした。 ロープを押さえる役目を家内に手伝ってもらったのですが、意味がわからない者にはただ同じことの繰り返しで目に見える進捗が感じられず如何にも無駄な作業に思えたようでした。(笑) それでも何んとか初期の目標に合ったアンテナができたようです。 完成後はビールが旨い!・・・と言う何時ものパターンでお祝いしました。(笑) 以下、架設された状態です。

アンテナの概略構造
 ワイヤーアンテナは写真に写りにくいので「見える化」処理を行なっています。(笑) タワーの最上部付近から東西の両方向へ傾斜型にエレメントを張っています。 従って、いくらか南の方向へ指向性が発生しているようです。このあとのテストでもそのような傾向が感じられました。
 頂角は約100度くらいでしょうか。 狭角の逆Vアンテナなので給電点のインピーダンスは75Ωよりもずっと低めになっているようです。インピーダンスはバンドによっても変わりますが50Ω系の5D-FBケーブルで給電しています。

 10MHz、7MHz、3.5MHzの部分は補助柱まで素直に引き降ろすことができます。 しかしその先の1.9MHz分のエレメントはまっすぐ延ばしたら敷地内に納めることができません。 そのため何らかの短縮手段が必要です。 その辺りの構造は以下の写真で説明します。

(1)10MHzは短縮なしのフルサイズで而も給電点が地上高約λ/2になる関係で打ち上げ角が低くDXには有利でしょう。 後のテストでもダイポール系のアンテナとしてマズマズの飛びのようです。

(2)7MHzはやや短縮型になります。しかし15%程度の短縮ですからフルサイズに遜色ないと考えられます。 トラップタイプなのでバンド幅がとれないのはやむを得ない感じです。 予想通り200kHzフルカバーは無理でした。 中心周波数を7050kHzあたりにしてCWバンドを含むバンド下側に合わせておきました。

(3)3.5MHzも20%少々の短縮なのでまずまずのようです。SWRが良好なバンド幅はやや狭いのですがHAMバンドその物が75kHz幅しかないのである程度割り切って使えば問題ありません。 SWRのボトムは3530kHz付近ですが、もう僅かにアップしても良さそうです。 上の方に点在する3.8MHz帯へのオンエアは無理そうですね。

(4)1.9MHzはバンドが5kHzしかないので良く調整すれば簡単にフルカバーできます。 国内局が相手なら現状で十分満足できます。  DX局の多い1.8MHz帯は課題ですが、どうしても出たくなったら応急にエレメントを足してオンエアすることにしましょう。ワニ口クリップ付きの補助銅線を先端に足せば簡単に共振周波数を下げられます。

各バンドのSWR特性
 各バンドのSWR特性をグラフ化してみました。 1.9MHzはバンド幅が狭いので横軸の1目盛りを1kHzにしています。他のバンドは10kHzです。

 短縮していない10MHzはSWRのボトムがバンドのもう少し上の方にあるようです。 しかしSWRはバンド全体で十分低いためこのままでも良さそうです。

 7MHzはバンド幅が広いので下半分しかカバーできていません。トラップの共振周波数とエレメントの共振周波数の関係でSWR特性が少しうねっています。CWを主に運用するならまずまずでしょうか。 7.2MHz付近のAMに出たくなったら少しエレメントをカットしましょう。(笑)

 3.5MHzもCWを主にオンエアするなら丁度良いところで共振していると思います。バンド上端の方は常連さんがいつも出ているようですからこれで丁度良いでしょう。

 1.9MHzはバンド幅がわずか5kHzしかありません。 共振点は丁度バンド内に入っているので全般にSWRは良好です。 短縮アンテナで、しかも折曲げている関係から共振点でもSWR=1になりませんが、SWR=1.5以下なのでまったく支障ありません。

 特に7MHzと3.5MHzではSWRの立ち上がりが急峻でバンド幅が狭いように感じるかもしれません。 これはトラップ形式で尚かつ短縮型のアンテナなのでやむを得ません。短縮率の大きなメーカー製マルチバンドDPや5バンドGPアンテナではもっと急峻なカーブを描きます。 このアンテナはあまり短縮していないのでずいぶんマシです。 従って、こうしたアンテナは自作品、市販品を問わず自身の運用状況に合わせた周波数に良くチューニングする必要があります。

 今ではRigに内蔵のアンテナチューナを併用してオンエアするのが普通なので、概ねSWR=3程度まで使用可能範囲と考えています。 実際にSWR=1に旨くチューニングできますし、その状態で飛び具合も良好です。 ケーブルには少々定在波が立ってはいますが・・。(追記:2016.06.20)

アンテナの端部の状態
 上の全体写真では良くわからなかったと思います。 この写真では、アンテナの給電点(タワー)は画面とは背中の方向にあります。 写真のように端部まで引き下ろしたら、1.9MHzのエレメントはこのように折り返しています。 敷地面積が不足しているのですから1.9MHzの分は何とか短縮する必要がある訳です。

 余ってしまうエレメントの短縮にはローディングコイルを入れる手があります。 おおよそ数10μHのHigh-Qコイルを入れてやれば「調整ヒゲ」で共振調整できるようになるでしょう。 しかし、そのようにすると1.9MHzで非常にHigh-Qなアンテナになり、5kHzのバンド幅でさえカバーが難しくなることがあります。 また数10Wのパワーでさえ先端放電が起こることがあります。 このようにエレメントを折曲げると輻射効率は悪化すると思われますが一種の「キャパシティ・ハット」のような短縮作用で共振させることにしました。

折り返し部分の全体は以下の写真に示しておきました。

1.9MHzの折曲げ部分
 1.9MHzの折曲げ部分を全体で見た所です。 このようにジグザグになっています。 このようにするとアンテナとしては不利なのですがやむを得ません。 こちらは西側のエレメントですが東側のエレメントもほぼ同じ構造です。 建物や樹木の影響など東西のエレメントに対して均等ではありませんがSWRは良く下がっており、見る範囲では特に悪い影響は感じません。

 このような形状のアンテナですからSWRは下がっても飛びは悪いかと言えばそのような感じは受けません。 電波の輻射に寄与する「電流腹」の部分が地上高のあるタワーの所ですから意外に良く波が出るのでしょう。 6つのトラップコイルは分散したローディングコイルの構造と等価なので短縮型アンテナではあっても幾分有利なのかもしれません。

 ダイポール系のアンテナですから接地型アンテナよりも周辺のノイズに対しては間違いなく有利なようです。 ローバンドアンテナは大きくて大変ですがこんな方法もあると言う一例です。 国内局相手に普通に飛べば良しとして高性能を狙ったものではありませんがその目標は達成できていると思います。

 余談ですが135kHzのアンテナはなかなか困難で、今のところこの逆V-ANTをT字型に結んで接地型アンテナとしてオンエアするしかありません。非常に低性能ですが仕方ありません。なにしろ波長2200mですから住宅地ではマトモなアンテナは不可能に近いです。 475kHzバンドならずっと楽なんですが・・・。

10MHzの飛び具合
 お空のコンディションは時々刻々で変化しています。 図はWSPR(←WSPRnetにリンク)を使って飛び具合の様子を見ているところです。

 WSPRは標準5Wで送信することになっています。オーバーパワーになっては旨くありません。測定誤差も考えられますが終端電力計でPo=5Wにセットしてからテスト・オンエアしました。

 あまりコンディションの悪い時では参考にならないのでバンドがオープンして来たころの様子を見ました。 画面は2016年6月14日、JSTで言えば17時17分のものです。 夏至も近いので日没まであと一時間半くらいと言った時刻です。(参考:2016年の夏至は6月21日、日没19時4分@当地)

 6月のこのバンドは日の出から午前中はほとんど遠方へ飛ばないようです。時刻によっては関東平野を出るのも難しいほどでした。 昼を過ぎると少しずつ良くなり日没前から夕刻・夜半に掛けてかなり開けてきます。 僅か5Wの波ですが米フロリダやオーストラリア南部まで届いている模様です。

参考:時々0.5Wにパワーダウンしてオンエアしています。かなり良く飛んでいます。

 WSPRは誤り訂正機能を持った通信形式でノイズレベル以下から信号の復調ができます。CWのような旧式の電波が5Wで届くと言う意味ではありません。それでもパスが存在することがわかります。 なお、条件が異なる他局のデータを並べる訳にも行かないので自局の飛び具合のみ参考として示しておきました。 リアルタイムにバンドの状況を調べたいならWSPRnetに直接アクセスして下さい。

 感想として標準的な10MHzアンテナだと言う印象を持ちました。 給電点が高くなった分、前に使っていた傾斜型DPよりは良さそうです。 常にオーストラリア方向が良好そうでしたが南に傾斜している関係で幾らか指向性が出ているようです。 このバンドで適度に遊ぶのには良さそうです。 まあ、ダイポール系のアンテナですからビームANTには敵いませんけれどネ。(笑)

注意:WSPRのオンエアには所定の電波形式で免許申請が必要です。送信はせずワッチのみでSWLレポート送る参加方法もあります。ネットの常時接続が必要です。

7MHzの飛び具合
 こちらもWSPRでやってみました。 昼間は国内程度の近距離しか飛びません。 これは他のWSPRオンエア局の様子を見ても同じような感じでした。 夏場の昼間は頑張っても中国大陸までと言った感じです。

 日が落ちて夜になると電離層のD層・E層での減衰が少なくなりF層による反射で遠方まで良く飛ぶようになってきます。 左図は2016年6月13日、JSTで言えば21時11分の様子です。 夏場の7MHzですからあまり飛ばないと言う先入観がありましたが、メキシコ湾岸の局やタスマニアの局あたりまで飛んでいるようでした。 北極圏が白夜になっているためかEuへのパスは開けにくいようです。暫く様子を見ていましたが、何とか北欧あたりまでと言った感じでした。

 冬場になればアフリカやEu方面も十分期待できるのではないでしょうか。 フルサイズではなくなったので少しバンド幅は狭くなりましたが、飛び具合は以前とあまり違わない感じです。短縮率から考えてもそれほど輻射効率に違いはないのでしょう。SSBでは苦しいでしょうがCWならDXingも不可能ではありません。(笑)

                    ☆

 3.5MHzと1.9MHzは主に夜間にワッチしてみました。 今の季節、DXは最初から期待していませんが国内各局の信号がFBに聞こえてきます。 それぞれ交換しているレポートなどを参考にすると似た感じに聞こえているのではないかと思いました。 弱い局も良く拾えているようです。 このあと少し落ち着いて来たらじっくりオンエアしてみたいと思っています。  さらに半年先の晩秋からのローバンドシーズンが楽しみと言ったところです。

                   ☆ ☆

 リグのバンド切換えだけで4バンドにオンエアできるアンテナはなかなか便利です。 10MHzも含めたことで一段と多バンド化しましたが旧アンテナと遜色ない程度のアンテナに仕上がったように思います。 問題であった送信電力によるSWRの変動も感じられませんから今度のトラップコイルは成功のようです。 このアンテナの完成で1.9MHz〜1200MHzの全バンドのアンテナが揃いました。

 今の季節、晴天ともなれば強烈な日差しです。なるべく曇天を選んで屋外作業を行ないました。それでも汗だくですっかり日焼けしてしまいました。 急な建て替えなのでやむを得ませんがアンテナは春先や晩秋のころ建てるのが良いようです。真夏や真冬はやめましょう。hi このアンテナ、また10年くらいメンテナンスフリーで働いてくれれば有難いと思っています。こうしたアンテナの製作〜建設は精緻な部分とおおざっぱな作業が混在するのでなかなか面白いと思いました。ではお空で会いましょう。 de JA9TTT/1

つづき)←詳しい製作データを掲載したつづきにリンクします。fm

2016年6月5日日曜日

【部品】Capacitance on Breadboard

 以下の記述は雑誌トランジスタ技術:2014年3月号に掲載された記事のベースになったものです。雑誌の発売から少々時間が経過したため読んだ人でも記憶は薄れてしまったことでしょう。 このBlogではブレッドボードで高周波回路の試作・実験を頻繁に行なっています。ブレッドボードのストレー容量のようなRF特性に関係する特性を把握しておくことは非常に重要です。Blog記事として公開しておくことにしました。以下、2014年時点での作成に基づくため細部に現在と幾分違う状況があるかも知れません。(2016.6.5)

                     ☆

【ブレッドボードの静電容量について】

ブレッドボードの問題点とは?
 暫く前までブレッドボードは何となく好きになれませんでした。 それは構造的に高周波回路に向かないと感じていたからでした。 それが変化したのは評価してみて高周波回路も結構行けそうだと思えたからです。

 前々からブレッドボードで気になっていることを実測してみました。 その結果を以下簡単に纏めておくことにします。

 ブレッドボードはその構造上、隣接した列の間でコンデンサが形成されています。 回路図にはない余分なストレー容量になる訳です。 低周波回路ではほとんど問題にはならないかも知れませんが、高周波回路ではとても気になるのです。 それは実際にどの程度の大きさなのでしょう?

 測定が難しいわけでもないので既にどこかの誰かさんが実測しているようにも思うのですが、具体的な数値はこれまで目にしたことはありませんでした。 そこでブレッドボードに寄生するコンデンサの容量値を実測によって確かめておくのがこのBlogの目的と言うことになります。

 写真は測定場所の一例を示しています。 写真でピン端子が2つ挿入してある場所が測定対象になります。

備考:数pFとは言え低周波アンプでも高域特性に影響が出ることがあります。 主に高周波回路(RF回路)で問題になりますが低周波回路(LF回路)とて無縁とは言えません。



隣接列間の静電容量
 もっとも基本となる隣接した列の間の容量値測定から始めましょう。

 簡単に測定方法を書いておきます。 測定器にはLCRメータを使いました。(DE-5000) 測定周波数は1kHzです。100kHzでも測定しましたが、大きな違いはありませんでした。ブレッドボードの絶縁材料はHF帯くらいなら誘電体損失が問題になるような素材ではないようです。 測定には写真のようなSMD用プローブを使いました。

 測定に先だって、プローブはオープンとショートのキャリブレーションを行ない、測定配線の静電容量やインダクタンスが影響しないようにしておきます。 これは小さな静電容量を精度良く測定する際には必須の手順です。

さっそく隣接する列間の静電容量を測定してみました。

隣接列間の静電容量・実測値
 隣接した列と列の間の静電容量は約3.1pFでした。

 この値は意外に少ないと感じました。 もっと大きくて、少なくとも5pF以上、へたをすれば10pF近くもあるのではないかと思っていましたので意外な数字でした。

 測定値は微少容量の領域にあるので測定の信頼性が気になります。 方式の違う別の小容量計でも同様の測定を行なってみました。 その結果、測定器相互の差異は0.1pF程度でしたから十分信頼できる数字だと思って良さそうです。

備考:測定は複数箇所で行なっていますが、平均値をとると大差はないため代表的な数字を示しておきました。以下同様です。



一つ置いた列間の静電容量
 間に入った列を浮かせた状態で、その両脇の列と列の間の静電容量を測定してみましょう。 この測定の場合、予測ではコンデンサ:Cの2個直列と概ね等価になるので上記の半分程度の容量値になるでしょう。




 
一つ置いた列間の静電容量・実測値
 予想通り約半分の1.7pFになりました。

 完全に半分にならないのは、台座の金属板を介した容量などが関係するからでしょう。 それでも大よそ半分になると言うことが確認できました。 Cによる結合を防ぎたいなら間を空けると良いと言う当たり前の結果となります。

 実際の回路を組立てる際、結合を防ぐには挟まれた列をオープンにするのではなくGNDすると非常に効果的です。 各列ともにGND間の静電容量は増加することになりますが結合は格段に少なくできます。 要するにGND配線でシールドすることになる訳です。



挟まれた列の静電容量
 両側を挟まれた場合の静電容量を測定してみましょう。

三列のうち両端を写真の赤色のジャンパー線でショートしておきます。 その片端と中央の列との間の容量を実測することにります。




挟まれた列の静電容量・実測値
 隣接した列間の2倍よりも小さいが、1.5倍よりも大きくなりました。4.9pFです。

 列の間が3.1pFと小さかったので、このように挟まれてもそれほど大きな静電容量にはならないことがわかります。 しかしHF帯のLC同調回路などで5pFが余分に入れば、同調範囲の上端の伸びが悪くなるなどの弊害が生じるでしょう。 VHF帯ならなおさらで同調範囲はずいぶん狭くなってしまいます。 数pFのストレー容量が効いてくるような回路の場合は十分気にしておく必要があります。

 なお、LCRメータの上側表示が「OL」となっているのは並列のレジスタンス(抵抗分)が測定範囲外と言う意味です。要するに絶縁抵抗がたいへん高くて測定範囲外であり、静電容量のみだと考えて良いことを示しています。




二つおいた列間の静電容量
 間に入った二列を浮かせた状態で、その両脇の列間の静電容量を測定してみます。 この測定の場合、コンデンサ:Cの3個直列と概ね等価になるので隣接の場合の1/3程度になる筈ですね。






二つおいた列間の静電容量・実測値
 1.3pFになりました。 隣接列の値が3.1pFだったので、この場合も概ね予想通りでした。 1/3よりやや大きめなのは、台座の金属板を介した容量などが関係するからでしょう。

 当たり前ですが、離せば結合を防ぐ効果は大きくなると言うことになります。 もちろん、このような使用しない列をたくさん作ると搭載できる部品が減ってしまうので無闇に行なうと回路を載せ切れなくなってしまいます。 ポイントを押さえて要所で使う必要があります。 



中央を跨いだ列間の静電容量
 写真の様に中央のミゾを跨いだ列の間の静電容量を測定してみましょう。 距離が離れるうえ、間に導体を挟まないので容量は少なくなると予想できます。







中央を跨いだ列間の静電容量・実測値
 予想通り0.9pFと小さな静電容量でした。

中央のミゾで隔てると、回路間の結合は少なくできるのです。 従って、結合を嫌う回路の場合にはレイアウトを工夫するとかなり効果的になります。 蛇の目基板の回路でも無造作に部品レイアウトすればすぐに結合は起こるので、ブレッドボードが不利だとは一概に言えないようでした。




これはなんでしょう?】(オマケ)
 部品はコンデンサ2つとFETが1つだけ。

 各列どおしの静電容量を測定しましたが、列を作っている金属片はある程度の長さを持つのでインダクタンス分も存在しています。

 よく見てもらうとわかると思いますが、ジャンパー線と列の金属とで渦巻き状のぐるぐる巻きのコイルを構成していいます。 そのコイルにタップを設けハートレー型LC発振回路を構成してみました。(笑)

はたしてこの回路は発振するものか? 発振するなら周波数はどれくらいになるのでしょう?

VHF帯で
 このように発振します。 周波数はVHF帯の約56MHzになりました。

 列の金属はそれなりの長さがあり、インダクタンスを持っているのでぐるぐる巻きのパターンを作ると当然のように立派なコイルになるわけです。

 各列の静電容量だけでなくインダクタンスにも考慮すべきななのです。特にGND系の配線列は長くなるので注意が必要でしょう。 配線の引き回しによっては、思わぬコモンモード結合が起こるので注意しなくてはなりません。

等価の回路
 上記はこんな等価回路になって発振しています。

 ストレー容量(20pFていど)+同調容量(100pF)から考えて、コイルのインダクタンスは約70nH(ナノ・ヘンリー)くらいのようです。 これは列を形作る金属端子のインダクタンス、さらにそれを結ぶジャンパー線のインダクタンスの合計です。

 70nHと言うのは、意外に小さなインダクタンス値だと思います。 なお、発振に使ったFET、2SK544E(三洋:ONセミ)は2SK241Y(東芝)の同等品です。ご参考まで。

                     ☆

 どの程度の周波数を扱う回路までブレッドボード上で構築できるのか? それを見極める手掛りとしてストレー容量を測定してみました。 列間の3.1pFと言うのは、確かに高い周波数では無視し得ない値です。 計算してみますと、3.1pFと言えば10MHzでは5kΩ少々のリアクタンスです。 低インピーダンスな回路と言えども無視すると痛い目に合うかも知れない値ですね。 そのあたり良く考慮しながら回路を作って行けば意外に高い周波の回路でも使えそうな感触が得られました。概ねHF帯なら支障なく、上手に使えばVHF帯でも何とかなるでしょう。 これは実際に使用してみた感触と良く一致していると思います。 ブレッドボードは数pFのストレー容量や結合容量が存在していることを意識して製作すればHF帯でも結構使えると言う結論で良いのではないでしょうか。

                   ☆ ☆ ☆

 今回のBlogは雑誌記事に転用したため公開をペンディングにしていたものです。 記事から時間が経ったとことと、あまり着目されなかったので加筆の上で公開することにしました。(臨時テーマとして公開したのは後述の事情もあります・笑) トラ技誌はRFの雑誌ではありませんからRF関連の記事はあまり読まれていないように思っています。 反面このBlogではブレッドボードをRF回路に頻繁に使っているので高周波で重要な項目を明確にしておく意味を感じました。 雑誌記事をご覧になったお方には既知だったと思われますがご了承ください。記事化したテーマはBlogで詳しく扱うことはないのでたぶん今回限りの特例です。(特例が多いのは歓迎だなんて言わないで下さいね・笑)

                     ☆

アンテナのトラブル
 TCA440を使った受信機の経過レポートをもう一度先送りしました。 最近になって長年使って来たLow-Band用のアンテナが不調になってしまい急遽復旧作業を始めたからです。 受信機の試作その物はかなり進んでいたのですが、実際に7MHzのアンテナに接続したテストができていません。他のバンドのアンテナ代用では厳しさに差が出てしまいます。意味のある受信評価には不適当なのです。

 問題のアンテナは1.9MHz、3.5MHz、7MHzをカバーするトラップコイル形式の自作インバーテッドVアンテナです。 架設から年月が経過したため給電部分の配線が腐食断線していました。 写真は問題の箇所です。状態を観察すると防水処理が漏れた部分でした。 屋外に長期間放置されるアンテナの材質選定や耐候処理は難しいものです。降ろして確認してみたら約20年の経過で給電点だけに留まらず全体的にかなり劣化が進んでいました。

 アンテナの不調は徐々に発生し、数年前から気になっていたのですが使えない訳でもなかったのでやや問題アリと感じつつも放置していたのでした。 しかし、今回のトラブルでもはや簡易な補修では済まないと感じ全体の作り替えを開始しています。トラップコイルを始め結局全面的な作り替えになりました。 アンテナのないHAM局は翼のない鳥みたいなものです。早く直さなくてはね。 アンテナの工事は大仕事ですから暫く回路系の試作・実験はペンディングです。 それに実際のアンテナに繋いだ時の確認に支障がありますからアンテナのリニューアルは急務です。・・・と言うことで、リニューアルが済めば次回のBlogはアンテナの話題になりそうです。 ではまた。de JA9TTT/1

(おわり)nm

2016年5月22日日曜日

【測定】NEO-6M Battery replacement

【GPS Module NEO-6Mのバッテリ交換】
電池不良のNEO-6M対策
  NEO-6MモジュールはGPS周波数基準器だけでなく、様々な用途に使える便利なGPS受信機です。 ところが、残念なことに毎回初期状態で起動すると言う不具合のある物が出回っているようなのです。今年になって私が再度購入した物にも問題がありました。

 起動の都度コールドスタートの初期状態になってしまい、衛星の捕捉まで長い時間が掛かるほか、例えばタイムパルス出力の周波数(周期)などユーザー設定しても記憶されないと言う不具合が発生するのです。

 この件に関して数個続けて購入したがどれも同じ症状だったと言うお話がありました。 雑誌の通りに動作しないのでは「オマエの記事は出鱈目だ!」なんて言われかねませんからね。まったく困ったものです。(笑)

 対策については既にニュースとして流していますが、ここでは不具合対策について私が実施した方法を具体的に説明したいと思います。 以下、このモジュールの活用を目的としていてトラブルに遭遇しているお方に向けた内容です。一般性はありませんがあしからず。

                      ☆

NEO-6Mモジュールの回路図
 毎回初期状態で起動すると言うトラブルの原因の一つとして、基板に搭載のバッテリの不良が考えられます。 あるいは、バッテリの搭載状態の方に問題があって旨く充電されていないのかもしれません。

 いずれにしても、このバックアップ用のリチウム2次電池が働かないと、通電の度に初期状態からの起動になります。 最後に電源がオフされた位置情報などが記憶されず、必ずコールドスタートになるため衛星の捕捉までに長い時間が掛かるようになるのです。 また、タイムパルスの出力も初期状態の1Hzで20%デューティ比に戻るのです。いくら設定しても電源を切ったら元に戻ってしまいます。

 図は、市販されているu-blox社のNEO-6Mが搭載されたGPS受信機モジュールの回路図です。 この回路図には多少現物とは違うところがあります。 例えばLEDの搭載個数のほかバッテリの種類も違っているのですが、実際に交換してみるまで電池の違いについては気付きませんでした。 回路図によればバックアップ用のバッテリはMS621FEと言う充電可能なリチウム2次電池のようです。

MS621FE:交換用電池
 MS621FEと言うのは公称電圧が3Vで5.5mA/Hの容量を持ったマンガン・シリコン型のリチウム2次電池です。

 昔はNiCd電池などが使われていた用途に使われているようです。 NiCd電池よりも自己放電が少ないため、データ保存状態で放電し切ってしまうと言うトラブルは少ないようです。液漏れしにくいのも特徴のようです。

 基板にハンダ付けするようにタブが溶接された形で販売されているようでした。 しかし、かなり特殊な電池ですから普通の電気屋さんやホームセンターで入手するのは難しいでしょう。

 【秋月電子通商で入手
 電池の不具合と言うことはわかっても、交換用の電池が手に入らなくては対策は厄介になります。 比較的短期間のバックアップで良いなら電気2重層コンデンサで代替するアイデアがあるでしょう。

 あるいは、データ保持状態での消費電流は僅かなので、リチウム1次電池で間に合わせると言う手もありそうです。 その場合は間違って1次電池に充電してしまわぬための対策が必要です。バックアップ回路の変更が必要になります。

 対策を考えていて試しにネットで検索したところ回路図に書いてある番号の電池が秋月電子通商で販売されていることがわかりました。単価は120円とお手頃です。 これなら購入して交換するのがいちばん手っ取り早いですね。 これで問題解決と思ったのですが・・・。

 【電池交換の実際
 ネットでサーチしてみるとNEO-6Mモジュールには幾つか種類があるようです。 いま秋葉原で手に入る物は電池のサイズが小型化された物が多いようでした。

 そのため、MS621FEでは大きすぎるのです。 ハンダ付けランドのパターンも合っていません。 従ってそのまま単純に乗せ換えはできないのです。

 ハンダ付けランドのハンダを奇麗に除去し、基板パターンとショートしないように絶縁フィルムで不要部分を覆うように対策しておきます。 写真で電池の下に黄色く見えるフィルムはそのためのものです。 その上でMS621FEの端子を少し曲げて旨くランドに合わせてハンダ付けすれば交換完了です。

 写真のように電池が基板からはみ出るのですが機能上の支障はありません。 写真では隣のUSBインターフェース基板と干渉しているように見えますがやや浮いているので支障はありませんでした。  実装してから端子電圧を測定してみたらちゃんと3Vあたりを示したのでこれで電池交換は成功です。交換前の端子間電圧は0.1Vくらいしかありませんでした。 さて、うまく直ったでしょうか?

Sky View
 写真はNEO-6Mを窓際で暫く運転していた状態です。 Sky Viewがちゃんと表示されるのは勿論ですが、電源の再投入から衛星を捕捉するまでの時間は正常な迅速さになりました。今度は再通電から数秒くらいで捕捉します。

 肝心のユーザー設定の保持ですが、こちらも正常になっています。 タイムパルスの出力を10kHzに設定するなど「GPS周波数基準器の製作」に必要な設定もきちんと保持されます。

 短時間の電源ON/OFF繰り返しだけでなく、10日間ほど放置してから再度通電してみました。 今度は設定を「忘れてしまう」ことはありません。 電池電圧も前後で違いはなく正常に維持されていましたから、どこかに電流リークしていて電池容量を無駄に消耗しているようなこともないようです。

 摘出した電池は直径4.8mmくらいの小さな物です。 特に意味のありそうな型番などの表示はありませんので正体不明です。 間違って1次電池を実装してしまった可能性がありますし、不良の2次電池を搭載してしまった可能性もあるでしょう、 見たところは同じでも正常動作するGPS受信モジュールもあるのですから、電池その物に原因があるとすれば特定の時期に生産したモジュールの電池に集中して不良があったのではないでしょうか?

                     ☆

 その後、外した電池を単独で充電してみたら電圧が復帰する傾向が見られたので基板実装に問題があった可能性もありそうです。 基板パターンが適切でないため、電池の両端をショートもしくは電流リークするようなハンダ付け状態になっていたのかも知れませんね。

 安価だったNEO-6Mも品薄になるほどの人気のためか値上げされてコストパフォーマンスは少々落ちたように見えます。 しかし性能は悪くないので有用性は相変わらず高いでしょう。 ちゃんと使えれば悪くないGPSモジュールです。
 後継のNEO-7やNEO-M8Tにも同じ機能がありますし、受信感度のような衛星の捕捉性能は改良されています。 そろそろこのモジュールだけに目を向けず他のユニットも検討してみる必要がありそうです。

 ここでは再購入したNEO-6Mが不良だったことからその対策方法をご紹介してみました。もしも類似の症状が現れるようでしたら電池交換を検討してみては如何でしょうか? 旨く直るかもしれません。(もちろん、直ることを保証するものではありません。自己責任でやって下さい)

 そもそも不具合のあるような物品を販売することこそ根本的な問題なのですが、中華クオリティが横行している現状では安く手に入る物を旨く使って行くと言うユーザー側の工夫も必要かも知れません。 製品品質は格段に向上したがお値段の方も鰻登りと言うのでは詰まりませんからね。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

参考:このBlogに関連のもと記事は以下になります。(各記事へリンク)
(1)GPS周波数基準器の製作記事紹介→Making GPS Frequency Standard
(2)GPS受信機NEO-6Mの紹介→GPS-RX NEO-6M


追記:前回予告のTCA440のCW受信機は開発継続中のため少々お待ちを。