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2015年12月25日金曜日

【回路】X-tal CW Filter Design

回路:音の良いCW用クリスタルフィルタ
 【クリスタルフィルタの自作
 同じ周波数の水晶発振子(水晶振動子、水晶共振子)を複数並べることで、ある通過帯域幅をもった帯域フィルタ(BPF)を作ることができる。それがラダー型(クリスタル)フィルタである。 HAMの自作では、SSB用の帯域幅2〜3kHzのものと、CW用の帯域幅が数100Hzのものが主な製作対象になる。


 ラダー型フィルタと言えばSSB用を作る例が多いように思うが、既製品の手持ちがあったので必要性はそれほど感じなかった。 それに、既製品を超えるフィルタが作れなくてはいま一つ張り合いがない。 幸い、普通に手に入る水晶発振子で優れた特性のSSBフィルタも目処がついてきたので次のテーマと言ったところだろうか。  これまでラダー型フィルタの製作ではSSB用よりもCWフィルタの方に興味を持っていた。単なるCWフィルタではなく「音の良い・・・・」である。

 昔の無線機ではCW用フィルタは オプション設定になっていた。あまり選択肢は無くて、せいぜい2〜3種類の帯域幅が選べるくらいだった。昨今のようにDSP化されるまではメーカーが設定した範囲で選択するしかなかった。
 HF帯Low-Bandの混信を考えると、できるだけ狭帯域の方が良さそうに感じる。 しかし500Hz幅のフィルタでは混信するからと言って200Hz幅にすれば済む訳でもない。 確かに選択度の向上は感じられるが、受信していて肝心の了解度が思ったほど改善しないことに気付く。 またバックグラウンドのノイズを含む音色が癖を持つようになり聞いていて疲れを感じるようにもなった。 特に帯域幅が狭いフィルタになると顕著になってくる。 狭いほど良い訳ではないのだ。

 このBlogの過去記事(←リンク)で低周波帯のCWフィルタを扱ったことがある。 特徴は切れの良い狭帯域だけではなかった。 ごく狭い帯域幅であっても信号の過渡応答性を重視したものが製作でき、実際に使ってみると音の良さが感じられる。 もしも、これと同じような「音の良いCWフィルタ」が受信機用のクリスタルフィルタで可能なら、CW用受信機のフィーリングも一変するのではないかと思った。

                   ☆

 何かの記事を読んでいたとき、誰かがPhase系のX-tal Filterを自作して受信機に使ったら「フィーリングはExcellentだ!」と言う一文が目に止まった。 そのフィルタはEquiripple Error n°と言う特性らしかった。そんなのを誰もが作れる訳はない。だから地味な記事だったが画期的な意味があった。 波形忠実性に優れたリニヤ位相系のフィルタがHF帯のクリスタルフィルタでも可能なことを示していたのだから。詳細不明でも「そう言うものが作れた」と言うのは極めて重要な情報なのである。方向さえ間違わなければ可能なことが約束されたわけだ。(注:ここで作ったフィルタもリニヤ位相系のフィルタであって親戚にあたる) 低周波と高周波と言う周波数の違いだから、理屈上はHF帯でも製作可能だろう。ではどうすれば作れるのかは見当がつかなかった。

                  ☆ ☆

 それから暫く時が過ぎた。CWフィルタのことばかり考えていた訳ではないが機会があれば情報や資料を集めてきた。 DJ6EVとG3JIRによる『Dishal(論文の著者)の論文に基づくフィルタ設計ソフト』は期待していたが必ずしも解決策ではなかった。 しかしアウトプットを解析して行く過程で大きなヒントが得られたと思う。設計したフィルタで起こる現象を理解することは「音の良いCW用フィルタ」を実現するための道筋を照らしてくれた。

 何かしてみて「まったくの無駄骨」だった等と言うのも稀である。何でもやってみるべきだ。起こった現象を振り返って何故そうなるのかを考えることから次の一歩が始まる。何時か見た景色も螺旋階段をもう一回り登れば見え方も違ってくる。

 このように個人的な興味と目標が発端であった。そして、何とか目的の「音の良いCWフィルタ」が完成できた記念としてこのBlogを綴ることにする。 ごめんなさい、設計・製作法は分量過大なので機会を改めます。

写真説明:手前の大きなクリスタルを使ったフィルタがここで扱った「音の良いCW用クリスタルフィルタ」だ。 奥にある小さい方が一つ前のBlogで扱った12.8MHzのSSB用フィルタである。

 【使用した水晶発振子
 以前の水晶定数を測定するBlogに登場した3579.545kHzのアナログ時代のカラーTV用の水晶発振子を使った。 理由は無負荷Q:Quが高かったからだ。 これから作ろうとするフィルタは、きちんとした特性を出すためにQの高い水晶振動子が必須だ。

 Qが高いものを6個選んだが、それでも足りないので「事前特性補正型」の設計を行なうことにした。「事前特性補正型」と言うのは私の意訳である。 Predistorted Design・・・事前歪ませ設計・・と言うものだが、「歪み」と書くと信号が歪むのかと誤解されそうなので「事前特性補正型」にした。他所では通用しないだろう。 無理に日本語化せずに「プリディストーテッド・フィルタ・デザイン」としておくのが良いかも知れない。 ネットサーチしたが良い日本語表現はないように思った。JAではあまり紹介されない設計なのかも知れない。もちろん専門家は良くご存知のはず。

 水晶振動子のQuが理想よりも小さいことによって通過帯域特性がダレるとか、エッジが丸くなることを見込んで設計する。 ダレるのを見越して通過帯域の外に向かって持ち上がるような特性に設計する訳だ。 この設計を行なうためには水晶定数のうち無負荷Q:Quも揃っている必要がある。 個々の水晶の大きなバラツキまで補正するのは容易でない。 だからQuが極端にばらついた水晶振動子は旨くない。 なお、出来上がったフィルタの頂部が丸いのはここで言う特性の補正とは意味が異なるので勘違いなきように。もともとリニヤ位相系フィルタの通過帯域は蒲鉾型なのである。フィルタの形式と通過帯域の形状については以下のリンクを参照。→700HzのBPF
 
 【半自動設計
 手計算でも設計は不可能でない。最初のころは殆ど手計算(=電卓)で算出していた。 しかし計算間違いが起こり易い。 途中の間違いはシミュレーションで気付くこともできるが、そもそも発生しにくいように機械的な計算はパソコン(=プログラム)に任せる方が良い。

 仕様と水晶定数をインプットしてやれば全て計算してくれるような全自動ソフトではない。しかし幾つかのパラメータを個々に入力すればあとは計算結果が出るようなプログラムを書いた。計算させるまでの準備に少し手間は掛かるが設計の自由度は高い。 単純な四則演算の繰り返しと、細かい刻みで値を追い込むような試行錯誤型ルーチンも存在する簡易なものだが、得られる数字は十分に実用的だ。 設計ソフトと言うよりも、設計支援のちょっとしたツールと言った感じだろうか。

 振り返ってみれば、こうした設計法(設計・製作手順)が確立できるまでにずいぶん過ぎてしまった。 設計・計算・製作のヒントは案外身近に転がっていて、それに気付かなかっただけのように思う。資料も集めただけではダメだ。良く読んで理解しないとその価値になかなか気付けない。断片的な情報も多いので様々を纏めて考えを導く必要もあった。 そのあたり、早く気付けば4〜5年前に確立できたかも知れないので反省している。(でも、できて良かった・笑)

 【CWフィルタ基本設計】
 プログラムで得られた数値を回路図に書き込んでみた。 前に設計したSSB用の6-poleフィルタと基本的には同じであるが、目標のCWフィルタを実現するために少し違いがある。

 この設計では、中心線から見て左右対称な数値になっていない。 従って左から5番目の水晶振動子(図ではX-No.03のところ)にも直列コンデンサ:CS5が必要だ。 また、非対称回路なので入力側:Rinと出力側:Routのインピーダンスが異なる。なお、インピーダンスは異なるが信号経路は可逆性がある。 この設計で良いのか様々な検討を行なった。回路シミュレータも活躍した。 出来上がったフィルタの通過帯域幅:Bw(-3dB)にやや誤差を生じる傾向は残るが概ね確立できたと思う。製作の方も同様だ。

)図は特定の水晶発振子を使うことが前提の設計だ。同じ周波数の水晶でも、他のものには適用できない。数値そのままで作りませんように。

 【シミュレーション
 周波数特性のシミュレーションを行なっている。 これもLT-Spiceを使っており、水晶定数は上図の左下にある数値をインプットした。設計帯域幅:Bw(-3dB)は200Hzである。

 水晶振動子間の「結合容量:Cjk」は設計プログラムで求めた値をそのまま使った。 より結合容量が小さな・・・例えば高い周波数で帯域幅が広いフィルタでは配線のストレー容量と水晶振動子のホルダと端子間のキャパシタンスを補正する(差し引く)必要がある。
 シミュレータに分布容量は存在しないので設計通りの値でシミュレーションする。 実際に作る際は目に見えない容量を考慮してコンデンサの値を加減する。この例のように3.58MHzのCW用では各容量が大きいので分布容量の影響は顕著でない。

 【実測特性
 実際のフィルタはこのようになった。 横軸全体で3kHz、従って一目盛りは300Hzである。 縦軸は一目盛りが10dBで、全体で100dBの範囲で見ている。

 帯域外の裾の部分がなだらかになっているが、これは測定器と測定方法の限界だ。 完璧な入出力間のアイソレーションは不可能なので現実的なところに落ち着く。

 とても良く切れるフィルタだと思う。 6-poleだが、中心軸から見てほぼ左右対称なのは狭帯域フィルタだからだ。 (参考;3.58MHzでSSB用を作ると非常に非対称が目立つ。これはBw(-3dB)との比較でfsとfpの間隔が狭いため)

 通過帯域幅は-3dBのところで見て225Hzとなった。 少し広めなのは水晶振動子にパラの15.5pFを省略したためである。 設計次第では省略できないが、ここでは様子を見て支障が無ければ 省こうと思っていた。 結果はこのように満足の行くものであり、省部品を優先してC1〜C6は取り付けなかった。(省略を見越して設計したと言えなくもない)

 中心のピークから6dB下がったところで傾斜が変化して折れ曲がっている。 この-6dBから上の部分がGaussian特性(Besselと類似)である。こうした特性は、入力信号の形状が時間軸で見た時に良く保たれるのである。 その外側の裾野の部分はButterworth特性になっておりいくらか急峻になっている。 このように、Bessel特性よりも急峻でありながら入力信号の形状が良く保たれるのがこの形式のフィルタ:Transitional Gaussian Responce to 6dB型の特徴だ。 ほぼ設計通りの通過帯域特性になっていることが確認できた。

過渡応答特性
 写真は受信されたCW(無線電信)の短点に相当する信号がフィルタから出てきたところだ。シミュレーションではなく実測である。 これで約200Hz幅と言う狭帯域フィルタの通過後なのだから、なかなか素晴らしい。

 立ち上がりもスムースであり、オーバーシュートもほんのわずかだ。 また、余韻(残響)も少しだ。 一般的な狭帯域のCW用クリスタルフィルタでこの特性が実現できるものは無いだろうと思う。 過去に種々測定した経験ではお目にかかったことは無かった。

 このフィルタの帯域幅Bw(-3dB)は225Hzで、中心周波数foは3577.800kHzである。いわゆるフィルタQ:QfはQf=3577800/225=15,901もある。 Qが1万をかなり超えたフィルタで、これほど良好な過渡応答特性が得られるとは信じ難いほどだ。

 まだ出来上がったばかりだ。実際の受信機で試していないが大いに期待できると思う。このフィルタでワッチするのが楽しみである。

                  ☆

 SSB受信機以上にCW用の受信機は難しいように感じてきた。単に音が自然であるとか、そう言う話しではなく、狭いフィルタで快適な受信フィーリングが課題である。 空いているバンドなら、過度に狭くないフィルタの方が心地よい。しかし、混んだバンドともなると耳フィルタを鍛えた熟練者でもなければ帯域を狭めるしかなかった。

 低周波処理のCWフィルタは受信機用としては本格的なものにはなり得ない。 しかし、実験してみて良い音色とフィーリングが実現できることに感心した。 その特性をそのままに受信機のIFフィルタが製作できたなら・・・その答えがいまここにある。

 DSP処理のフィルタでも同じことはできる筈だ。いずれどのトランシーバにも波形再現性に優れたリニヤ位相系のCWフィルタが 内蔵されるであろう。 その時こそ時間軸上の特性に目覚めるときだ。 通過帯域がフラットなものがベストでないことも理解してもらえるだろう。

 完全DSP処理のトランシーバも登場したが、完全アナログ処理の受信機にも良さがあると思う。こうしたCWフィルタが活躍する受信機もまだまだ現役だろう。 CW専用のように書いたが、データ通信系のモードにも最適だ。

 何年も掛かってやっと彼我のレベルに追付いただけ(注1)とも言えるが、まずは目標達成でこのテーマを終えることができる。市販品で得られぬものが作れるのは意義がある。次は活用の段階だ。

# いつか受信フィーリングを報告したい。
# 最後のBlogである。ご愛読感謝。 良いお年をお迎え下さい。de JA9TTT/1

つづく)←11MHz帯の高性能SSB用フィルタの開発にリンク。 

(注1)「彼我のレベルに追付いただけ」かも知れないが、彼我の話し(記事)の中ではどんな物が出来たか具体的に示されてはいない。だからフィルタの特性や時間軸上の波形再現性の実測データなど目にしたことはなかった。今のところ具体的に実測例を示しているのはこのBlogだけではないか。この例に続く製作の登場を期待している。

2015年12月11日金曜日

【回路】8-pole X-tal Ladder Filter +1

【回路:8素子ラダー型クリスタルフィルタ+1】

12.8MHz 8-pole SSB Filter
 前のBlog(←リンク)では実際に新しい方法で作ったラダー型フィルタの製作例を示してその設計法も簡単に説明した。 6素子の例で示したが、8素子ラダー型フィルタも基本的に同じである。

 左図は「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」(以降は簡易設計ソフトと略)を走らせた状態だ。
使用した水晶発振子は表示周波数が12.8MHzのもので形状はHC-49/Uである。 たくさん測定した中から無負荷Q:Quが高い物を8個選んだ。 水晶定数はそれら選んだ物8個の平均値で与える。

 具体的には以下の通りだ。
・Lm=7.989mH
・fs=12794.857kHz
・Cp=3.49pF
・・・である。

 右側の特性図を見ると、中心周波数の上下を見た場合の対称性が6素子よりずいぶん良くなっている。また、おなじ0.1dB−Chebychev型でも一段と急峻になった。追加の2素子はずいぶん効果的だ。 6素子のSSBフィルタでも実用にはなるが、できればこのくらいの特性が望ましい。

初期設計から実用設計へ
 この図は前回の再掲載である。 上記の設計で得られた値を書き込んだのが(A)である。 数値に端数が付き過ぎているのと、平均値計算なのでそのまま作るのには適さない。

(B)は、実際に使用う水晶発振子をどの位置に何番を使うのか具体的に選んで「格子周波数の同調」・・・Mesh Tuneを行なった。 「簡易設計ソフト」の上部メニューバーから「Xtal」をクリックするとチューニング用小プログラムが現れる。 使い方はソフト付属HELPファイル:eDishalHelp.pdfのAppendixにある"Xtal Tuning"の項に詳しく書いてあるので参照を。

 さらに(C)は数値を丸めて製作し易くした。 どこまで丸めてしまって良いのだろう。 各コンデンサの値をばらつかせて特性がどの様に変化するのかを検証した資料を見ると±5%程度ではほとんど影響はない。 従って、計算値から5%以内の誤差になるように選んでやれば十分そうだ。 心配なら最終値でシミュレーションしてみる。(実際、それをしてみたらいろいろなことがわかったのだが・・・)

LT-Spiceでシミュレーション
 すでに設計ソフトのところでシミュレーションしたフィルタ特性がグラフで表示されている。あらためてシミュレーションする意味はあるのだろうか?

 「簡易設計ソフト」のシミュレーションでは不完全なのである。 それは以下の結果から良くわかる。

 ここで使ったLT-Spiceは非常に有名である。半導体メーカーのリニア・テクノロージー社が無償提供している回路シミュレータだ。無償とは言え非常に高機能かつ高性能である。それまで世の中にあった有償の回路シミュレータが淘汰されてしまったくらいのインパクトがあった。更新が継続されているのも素晴らしい。 同社のサイトからダウンロード(←該当ページへリンク)して使うべきだろう。

 ネットをサーチすれば使い方も何となくわかると思うので、あえて参考書籍のお薦めは書かない。 情報提供しても「高いものを買わされた」などと反感を持たれたらアホらしい。倹約は美徳かも知れないが吝嗇は進歩に結びつかず。投資したなら、その分じゃぶり尽くそう。(笑)

 この画面コピーは上記の8素子ラダー型フィルタをシミュレーション用に書いてみたものだ。 水晶振動子そのものを書くのではなく、Lm、Cm、Ch、(Rm)に分けて回路図を作成する。 あとはRunボタンを押してから、観測プローブを出力端子に当ててやればグラフィカルに特性が表示される。

参考:私が作ったシミュレータ用ファイルをここ(←リンク)に置いておく。なお、再配布はしないでください。(注意:LT-Spiceがないと意味は無いのでクリックしませんように)

Dishalのシミュレーションを再確認
「簡易設計ソフト」の右側に表示されるグラフと同じものが得られるのか最初に確認しておく。 左図はLT-Spiceによる同条件での結果である。

 各Lm、Cmは設計に使用したのと同じく平均値をインプットする。 またRmはシミュレータのデフォルト値・・・確か10ミリΩだったはず・・・をそのまま使う。 Dishalの設計ソフトと同じく、Quは非常に大きい状態でのシミュレーションと言うことになる。

 同じような結果が得られている。 LT-Spiceでもきちんとしたシミュレーションができている。 まあ、ちゃんとできて当たり前なのだが、これで以降の結果も信用してもらえると良いが。

現実的な水晶でやってみる
 何が「現実的」なのかと言えば、損失抵抗:Rmの値を実際の値としてインプットしている。平均のRm=4.07Ωである。 Quで言えばQu=約158,000と言うことになる。 このQuの数字自体悪いものではない。むしろごく普通の水晶発振子としては優秀な方である。

 さっそく通過帯域の特性に注目しよう。 遮断域に向かう角(カド)の部分が丸くなり、通過帯域は平坦でなく山形で、なおかつ凸凹している。それに、すこし右下がり気味の特性だ。

 「簡易設計ソフト」は水晶発振子は無損失であると想定した結果だ。 現実はなかなか厳しい。 最初の特性グラフを見て「しめしめ、これでフィルタのエキスパート」なんて思ったら残念でしたということに。(爆)

それどころか、さらに現実は厳しいことが次の結果を見れば明らかに。

使用する水晶の実態とは
 これも再掲載だが、念のためにもう一度アップしておこう。 この後で登場する実際の製作に使用した現実の水晶そのものの特性である。 念のため書いておくが、この表の水晶振動子はそもそも選別品であって良く揃ったものを集めてある。無造作に・・まったくランダムに・・・選んだ水晶発振子ではないことを特筆しておく。要するに良いものを選んであるわけだ。

 次のシミュレーションで使った数字もこの表からピックアップした。 従って、これから作ろうとするフィルタの「実態に即した特性」がシミュレーションできるわけだ。水晶を良く選んで作ったんだから、当然良い結果を期待したい。

作ったらこうなるに違いない!
 これは予め書いておくが、シミュレーションよりも現実の方が良くなるのは稀なので、この状態では製作しなかった。 それにシミュレーションを行なう意味は、明らかな失敗作を回避するのも目的の一つだ。

 通過帯域の様子を見れば一目瞭然だろう。 ずいぶん凸凹があって、ずいぶん右肩下がりの特性だ。 最初に見たDishalの設計とかなり違っている。

 入念に水晶を選んでから、(A)〜(C)の手順を踏んで製作してもこのような結果になることがあるのだ。 「きちんと」やったんですが、旨く行かないのは何故なのでしょうね?・・・の、答えがここにある。(C)のところまでやってハンダ鏝を握ったらこうなっただろう。 何が問題なのか?・・・本質的には水晶振動子のバラツキである。

参考:(製作する方への助言)
 Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトで設計・製作する場合、水晶振動子(発振子、共振子)のバラツキを抑えるのがもっとも重要です。 これは、直列共振周波数:fsだけでなく各水晶定数についても言えます。 合わせて、なるべく無負荷Q:Quの大きな水晶を使うことにあります。 そのようにして製作すれば旧来の設計では得られなかったような素晴らしいラダー型フィルタが作れます。これは、原理的に正しいことなので確実に行なえば誰でも再現できます。そうならなかったら何かが不十分と言う意味です。



私の試作例
 試作品はこんな感じに出来上がった。 写真から何となく実感が湧くかも知れない。

 8素子用の基板に組み立てた状態である。 流石に専用基板だけあってうまく纏めることができた。 基板設計の段階ではすこし窮屈な印象もあったが製作に支障はなかった。 コンパクトに纏まっているので使い易いユニット部品になった。

 以下の特性はシミュレーションではなく、このフィルタを測定器で評価した結果である。 今のところ試作品レベルだが、忘れてしまう前に途中経過を測定しておく。 当然ながら対策は行なっており、上記のシミュレーションのまま作った訳ではない。 対策の効果を検証するのが以下の測定の目的だ。

参考8素子用基板はまだ幾らか残っているので頒布は可能。 ←品切れです。ご希望があるようなら再製作します。(2015/12/11現在)

概要評価
 横軸のひと目盛りは1kHzである。全体では10kHzと言うことだ。 また縦軸はひと目盛りが10dBになっている。100dBの範囲で観測している。

 通過損失は測定用のマッチング回路のロスが含まれている。マッチング回路のロスを除いた正味の通過損失は10dB以内であった。 通過帯域から約80dB下がったところに少し盛り上がりはあるが、十分な帯域外減衰量だと思う。 中心軸から見た左右の特性は概ね対称になっている。 これは8素子にしたのが効果的だった訳だが、12.8MHzと周波数が高くなったのも有利だ。周波数に比例して水晶発振子のfsとfpの間隔が広くなるためだ。

 但し、周波数が高いのは良いことばかりではない。 中心周波数と帯域幅で考える「フィルタQ」が大きくなることから、High-Qな水晶振動子が不可欠になる。 現実にはQuが不十分な水晶で作ることになるから通過帯域が弓なりになりエッジが丸くなってしまう。改善は可能だが一段と高級な設計・製作になる。

製作者への助言:Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトウエアによる設計でもここまで行ける。もしこのように行かないなら、それは本質的に水晶振動子(発振子)のバラツキによるものだ。 まずは使う水晶を精度よく測定することと水晶定数の「バラツキを抑える」ことがフィルタ作りの原点である。良い水晶を選別することで誰でも設計ソフトを頼ってこの特性に至ることは可能だ。

-6dB帯域幅
 中心部分から見て、-6dBの帯域幅を測定してみた。 設計値では2.76kHzだったが、2.55kHzに減少している。 約7.6%の減少なので、違いはそれほど大きくもないが幾らか広めに設計した方が良かったようだ。6素子でも同様の減少傾向があった。

 使用した水晶振動子の無負荷Q:Quがやや小さかったことによる「帯域幅減少」だろう。肩の部分の丸味も同じ理由だ。もちろんQuの問題が原因の全てではない。 通過帯域はフラットとは言えないけれどずまずかも知れない。 

-60dB帯域幅
 上の-6dB帯域幅と。この-60dB帯域幅でシェープ・ファクタ(形状比)を計算してみよう。

 -6dBが、2.55kHzで、-60dBが4.312kHzであった。 従ってシェープ・ファクタ:k=Bw(-60)/Bw(-6)=4.312/2.55=1.691である。 理想はk=1であるが、2以下であれば一般的なSSB用クリスタル・フィルタとしては合格点だと思う。

 SSB送信機において逆サイドの漏れは気にならないだろう。 受信機に使っても切れの甘さを感じることも無いだろう。

キャリヤ周波数は
 実際に使うときに必要なキャリヤ周波数を測定しておこう。 幾らか不満はあっても、いきなりジャンクにはせず、SSBジェネレータにでも使ってみたい。

 USB側が:f(USB)=12,795.075kHz
 LSB側が:f(LSB)=12,797.962kHz
 ・・・となった。

 どちらのキャリヤも発生させ易い周波数だ。 参考までに、両キャリヤポイントの中心をフィルタの中心周波数とすれば、fc=12,796.520kHz(概略)となる。 送受信機の設計では、フィルタの中心周波数はこの周波数で行けば良い。

あらためて、通過域の特性を見る
 「試作品」と言うのは、この特性に少々不満があるからだ。 画面のマーカーはピークから3dB下がったところ。 一応、急峻な部分にはあるのだが・・・。

 横軸はひと目盛りが500Hz、縦軸はひと目盛りが1dBの拡大目盛りになっている。 だから、通過帯域の平坦度が誇張されて蒲鉾型に見えているのではあるが・・・。 もちろん、「ちゃんと」やっているので右肩下がりもほぼ解消している。

 これで現実のRm=4.07Ωを考慮した状態でシミュレーションした結果と等価と言ったところだ。 注目すべきはDishalの論文準拠の(簡易)設計ソフトでもここまでは行けるということ。もちろん、それ以上は設計を変えないと無理だが・・・。

本当の0.1dB Chebychev型はこんなに丸くないのだ。(笑)

帯域外減衰を見る
 通過帯域外の減衰状態を見ておく。 横軸は全体で100kHzである。 縦軸は全体で100dBだ。

 通過域を画面の上端に合わせて見ている。 従って、フロアの部分は約-90dBと言うことになる。 多少左右で異なるが、まずまず支障のない性能だと思って良い。

 基板設計が悪いとこのように良好な性能が得られない。 無用な信号の結合が起こらないようにコンデンサと水晶の配置を入念に調整して頂いたのでその効果があったようだ。この性能から専用基板の出来がわかる。 コンパクトに纏めた構造を考慮して優秀な方だと思う。 あとは回路への実装に気をつけて、特性が劣化しないようにしたい。

                   ☆

 「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」だけで見ていたのでは完全な設計にはならないことがご理解頂ければBlogの意味があったことになる。 特定の状態を前提にした設計では、得られた結果が予想外になったとしても不思議ではない。まったくバラツキのない水晶発振子など無いのだから。 もちろん、旨くないなら手だてはある。見た通り、手だてを行なえばかなりまで行けるのだから有用性がないわけではない。だからもう過去の設計に戻る必要はないのである。

 検討を進める過程で、きちんとした製作にはある程度マトモな道具が必要なこともわかってきた。 (シンセサイザ式の)SSGとRF電圧計(=RFミリバル)くらいでも、何とかなるが効率は低いだろう。それさえ用意できないと「闇夜で手探り」になってしまう。 できたらTG付きのスペアナやネットアナがあると良い。それら測定器も物を選ぶ必要がある。 製作のハードルは高くなってしまうが現実である以上、甘言を退けて正直に書いておく方が良さそうだ。 道具とそれを使いこなす技術は欠くことができない。

 それと水晶定数はLmとCmだけでは不十分だ。損失抵抗:Rmの値も掴んでおかないと確認のシミュレーションができない。必ずシミュレーションしてから作る方が良い。 LmやCmは発振周波数シフト法で良い。Rmの方は「W1FB's Design Notebook」にある様な測定治具が欲しい。
 高性能なフィルタ作りともなればイージーにとは行かないのは当たり前かもしれない。80%くらい確立できたと思っているが、もう一度整理し直そうと思っている。さらに幾つかフィルタを作ってみる必要があるだろう。今も検証は進んでいる。de JA9TTT/1

つづく)←音の良いCWクリスタルフィルタにリンク。