イヤフォンは大きく分けて二種類があります。一つは、この写真のような圧電型のイヤフォンで、もう一つはマグネチック・イヤフォンです。 TVやトランジスタ・ラジオの付属品だったのは後者のマグネチック型で、スピーカと切り替える使い方に向いています。
写真の圧電型イヤフォンはクリスタル・イヤフォンとも言われています。しかし現在はほとんどが同じ圧電体でもクリスタルではなく圧電セラミックスを使って作られています。・・・と、ここまでならどこのサイトにも書いてあるでしょう。
クリスタル・イヤフォンの「クリスタル」即ち「結晶」とはロッシェル塩:酒石酸カリウム・ナトリウムの単結晶のことです。 酒石酸なる名前の由来は葡萄酒樽の沈殿物から発見されたからだそうです。 単結晶は飽和水溶液に種結晶を浸して育成します。 ロッシェル塩特有の苦労もあるようですが、考え方としては明礬(ミョウバン)や食塩(NaCl)の結晶育成と同じような方法です。(参考リンク:ロッシェル塩の単結晶育成)
大きな結晶に育成したらケロシンの中で水に濡らした糸を引いて薄板に切って行きます。 これは結晶が水に非常に良く溶けるからです。 薄板にしたものを電極板で挟み、屈曲方向にカンチレバー(Cantilever:片持ち梁)を設け振動板と結合したものがクリスタル・イヤフォンです。
イヤフォンより大きめの結晶板を使い大きな振動板に結合したクリスタル・スピーカなるものも存在しました。 音質は思わしくなかったのですが小電力でも大きな音が出たのでチープなラジオに使われていたようです。おそらく今では骨董品でしょうね。 カンチレバーの先にレコード針を付けたクリスタル・ピックアップやダイヤフラム(振動板)を付けたクリスタル・マイクもあったのですが、もうすっかり廃れています。(考えてみたらラペル型クリスタル・マイクがあったように思うのですが保管場所を思い出せません)
写真のイヤフォンは圧電型ではありますが、上述のロッシェル塩を使ったクリスタル型ではありません。チタン酸ジルコン酸鉛という金属酸化物の焼き物(セラミックス)で作った圧電体を使った「セラミック・イヤフォン」です。 金属板とセラミック板からなるユニモルフ(Unimorph)を直接振動させる構造であって、内部構造も大きく異なっています。
ロッシェル塩は大きな圧電定数が得られるので、イヤフォンに使うと少ない電圧で大きな音が出せます。その為に盛んに使われたのですが、弱点は結晶が脆いことにありました。大気中の水分を吸収して溶解してしまう潮解性があります。また乾燥した環境下では粉末状に分解しまう風解性もあって扱いにくい材料なのです。 防湿材料で結晶薄板を包み、外気に直接さらされないようにして劣化対策します。しかしこうした防湿対策も程度問題なので長年の間にはほとんどが劣化してしまいます。やがて寿命がくるのです。
その点で圧電セラミックスを使った「セラミック・イヤフォン」は耐候性では遥かに優れているので安心できます。 同様に,息が掛かって湿気を帯びるマイクロフォンもセラミック型なら心配ありません。
すでに良く知られているようですが、イヤフォンの耳穴挿入部を外して、内部を覗いたとき、写真のようにフラットな板状に見えれば、これはセラミック型です。ユニモルフの金属板側が見えるのです。
ロッシェル塩を使うクリスタル型は内部を覗くと振動板に突起状の物が見えるのですぐにわかります。 アルミ振動板の下にロッシェル塩の結晶板があり、振動板との間をカンチレバーで繋いであります。 そのカンチレバーの先端を振動板の中心に止めた突起が見えるのです。白くペイント(接着剤?)されているものが多いようです。
クリスタル型とセラミック型の優劣については様々な意見があるようです。 どちらもあまり音質は優れないので、比較するとすれば「感度」になるでしょう。 同じ音声電圧を加えたときどちらが大きな音がするのでしょうか? 幾つか比べた範囲では、あまり違わないように思います。
この種のイヤフォンは秋葉原やDIYショップのホビーコーナーで良く見かけますが、メーカー不詳で、もちろん規格もわかりません。 以前と今日買ったものが同じと言う保証さえも無いのです。 従って厳密な比較は無理があります。 バラツキも大きいようで、当たり外れもあるので外れを掴むと×の判定をしてしまうでしょう。 電気的特性においては端子間静電容量に大きな違いがありますが、実際に使う上ではその差ほどの違いはないようです。単純な静電容量での比較では不十分であり、圧電定数も含めて感度や音圧レベルで考えるべきなのでしょう。
わたし的には「セラミック型」の方が良さそうに思います。クリスタル型は数年で劣化してしまうことが多く、構造上落下などの衝撃にも弱いからです。 セラミック型でも音圧は十分あるからゲルマニウム・ラジオや簡単な1石ラジオに使えます。 これはDELICAのミニ・ブリッジM1Aの付属品が劣化したので交換に買っておいたものです。この種のイヤフォンは高感度なので、ゲルマニウム・トランジスタを使ったブリッジバランス検出用アンプのヒスノイズがうるさく聞こえるほどでした。(普通メーターを読むのでイヤフォンは使いませんが、一応付属品なので用意してあります・笑)
あまり音の良くないイヤフォンですが多少なりとも良い音にするヒントを一つ。 圧電型・イヤフォンは定電圧駆動で使うと独特のクセのある音がします。 定電流駆動に近い使い方だとずっと良い音になるのです。 ハイ・インピーダンスの部分から高抵抗を通して駆動する方法が良い訳です。(驚くほど違いがありますよ) de JA9TTT/1
(おわり)
(Bloggerの新仕様に対応済み。2017.04.03)
(おわり)
(Bloggerの新仕様に対応済み。2017.04.03)
12 件のコメント:
JA9MAT 小町です。
おはようございます。
こちらはセラミック型と、クリスタル
型とを使い分けています。
圧電型はどうも中音域が得意のようで
"深夜便"に、そしてクリスタル型は高
音域まで出ますので、音楽や"アクセス
トーク"にと、NHKと民放に固定した二
台のGe-Radioを、寝床で聞いています。
感度は変わりませんが、クリスタル型
は"シャリシャリ"とした感じの音で、
なんか疑似HiFiになったような気がし
ます。Hi
クリスタルはこれで10年間鳴らしっ
ぱなしですが、今のところ経年変化は
見られません。
でも、先週に耳あてキャップを掃除し
ようと回転させましたら、根元のネジ
の部分に亀裂が入り修理しました。
ゲルマラジオでも、定電流駆動ができ
れば、トライしたいと思います。
いずれにしろ、懐かしい部品ですね。
JA9MAT 小町さん、おはようございます。
さっそくのコメント有難うございます。
> セラミック型とクリスタル型とを使い分けています。
どちらも可聴域に共振(共鳴)特性があるようで、音色に違いがありますね。 お書きのように純正クリスタルの方がシャリシャリ感があります。 セラミック型は端子間Cの関係で高音域がバイパスされるのも音色の違いを生じるように思います。
> 今のところ経年変化は見られません。
それは当たりですね。モノによっては1〜2年で目立って感度低下するものがありました。
> ゲルマラジオでも、定電流駆動ができれば・・・
厳密に調べてみた訳ではありませんが、ゲルマラジオはAF信号源のインピーダンスが高めで、それに近いかも知れません。
今も子供のころと変わらない形で売っているので懐かしい部品ですね。なぜどれも肌色なのか不思議です。hi hi
おはようございます。
最近、この部品には何かとお世話になっています。
クリスタルピックアップといえば、その昔「クリスタル」イヤフォンを分解してピックアップを自作し、ピックアップが不良になった真空管式レコードプレーヤのフォノモータと組み合わせてレコードを再生していました。イヤフォンをかなり無駄にしましたが、左右の音質が同じにならず往生しました。
その後、このピックアップはコンデンサマイクを分解して作った「静電型」に進化(?)しました。いずれもアンプは半導体式でした。Hi.
Hi-Fi装置を買ってもらえなかったがゆえの選択でしたが、その後アルバイトをして買った安物レコードプレーヤと音質が天と地ほど違わないのにはショックでした。Hi.
定電流駆動といえば昔、クリスタルイヤフォンをマイク代わりにして半導体式アンプにつなぐと音が甲高くなり、真空管式アンプにつないだときには比較的まともな音が出たという経験をしたことがあります。
昔はこれと並んでハイインピーダンス型のマグネチックイヤフォンもよく見かけましたが、最近はほとんど見かけませんね。トランジスタのコレクタ回路へそのまま接続できるので結構便利だったのですが、Icを増やし、32Ωあたりのイヤフォンを力ずくでドライブするのが今風(?)の設計でしょうか。
少なくとも、昔は8Ωのタイプを無理矢理ドライブした例もあったようですが…
JG6DFK/1 児玉さん、おはようございます。
コメント有難うございます。
> 最近、この部品には何かとお世話に・・・
トランジスタ1石くらいのアンプでもガンガン鳴ってくれますから部品節約と電池の消耗が少なくできるたいへん便利なイヤフォンですね。 移動用のリグには向いてるように思っています。
> イヤフォンを分解してピックアップを自作し・・・
そこまでやりましたか。hi hi 2枚を90度の角度でゴムダンパーで結合配置して・・・細工が細かくて大変だったでしょうね。 流石にDFK研究所さんです。hi
> 安物レコードプレーヤと音質が天と地ほど違わないのにはショック・・・
レコードプレーヤも様々でしたね。本格的に良い音に出会えたのはMC型カートリッジからだったと思います。MM型はクセがあって音楽を選ぶように感じたのです。
> 真空管式アンプにつないだときには比較的まともな音が・・・
クリスタル(セラミック)マイクは非常にハイインピーダンスで受けないとLowが出ません。 信号源と直列に数100pFのCが入った等価回路なので、負荷抵抗が低いとハイパスフィルタになってしまいます。入力抵抗が高い真空管がFBだったのもわかります。
> 32Ωあたりのイヤフォンを力ずくでドライブするのが今風(?)・・・
100均のイヤフォンにも幾つか種類がありますね。 感度が良くて音も良いマグネチック型もありました。インピーダンスが高いものが使い易いように思うのですが・・・。
音質云々を言い出すと、今どきはダイナミック型のヘッドフォンになるのでしょうねえ。
こんにちは。
クリスタル・イヤフォンはゲルマダイオードなどと一緒に
生まれて初めて購入した電子パーツです。(笑)
セラミックタイプはまだ入手できますがアマチュア以外の用途があるのでしょうか?
手持ちのロッシェル塩クリスタル・イヤフォンは10円玉にケーブルをこすりつけるとまだガリガリ音が出ました。hi
http://twitpic.com/18h8ph
クリスタル・イヤフォンも絶滅危惧パーツでしょうか。
JE6LVE/3 高橋さん、こんにちは。
コメント有難うございます。
> 生まれて初めて購入した電子パーツです。
そう言うラジオ少年は多かったでしょうね。 私も小学生のときキットで購入したゲルマラジオに付いていましたっけ。(笑)
> アマチュア以外の用途があるのでしょうか?
たぶん、ホビー用が主だろうと思います。 キットの類いが販売されているうちは用途があると言うことになるのでしょう。
> まだガリガリ音が出ました。hi
接触電位でガリガリが聞こえる訳ですね。写真は純正クリスタルイヤフォンですね。 あと、マイクの方がちょっと痛々しい感じ。ラペル型ですね。(笑)
> 絶滅危惧パーツでしょうか。
圧電ブザーに近い構造のセラミックタイプは残りそうですが、ロッシェル塩の方は結晶育成〜組み立てまで、労働集約型の家内工業的なので何れ作られなくなりそうです。でも、ローテクで作れるようなので、案外中国とかで残りますかね??
今日は暖かくいい天気になりました。
このまま春になって欲しいです。hi
>マイクの方がちょっと痛々しい感じ
どちらも古い電子ブロックの付属品です。
マイクは何か突っ込まれたみたいで破れていました。Hi
>何れ作られなくなりそうです。
ロッシェル塩のクリスタル・イヤフォンってまだ入手可能なのですか?
JE6LVE/3 高橋さん、再度こんにちは。
今日はこちらもとても暖かでしたよ。4月の陽気です。
> マイクは何か突っ込まれたみたいで・・・
そうでしたか。 中身の探求のために剥がしたのかと思いました。 まだマイクの機能があるかも知れませんね。
> クリスタル・イヤフォンってまだ入手可能なのですか?
細々と生産されているらしく、稀に入手できるようです。 セラミックとの価格競争で負けると終わりそうですけれど・・。 買い置きして価値がでるような部品でもないのですが、また見つかれば1〜2個欲しい気もします。(笑)
私も初めてのクリスタルイヤフォンはゲルマラジオでした。
ハイインピーダンスドライブ用に山水のST-30というオートおtランスがありましたね。
最近自作で使うことは少なくなりましたが、ハイインピーダンスなので簡易シグナルトレーサ的に使うことがあります。
電話屋さんが回線開通試験に使っていたのをみたことがありますが、アナログ回線でしか使えませんね。
JA1ELQ 高橋さん、こんにちは。
コメント有難うございます。
> 山水のST-30というオートトランスがありましたね。
トランジスタで増幅する場合は,ST-30との組み合わせが一番多かったと思います。 ST-30はもともとクリスタル・イヤフォンを想定したトランスではなかったでしょうか。
> ハイインピーダンスなので簡易シグナルトレーサ的に・・
インピーダンスが高くて回路への影響が小さいうえ、感度も高いので回路の途中を探るには便利でした。 オシロも何も無いころはよく使った手です。(笑)
> 回線開通試験に使っていたのをみたことが・・・
上記と同じ理由で、回路に影響を及ぼさずにテストするには向いていたのだと思います。今はデジタルですからね。(笑)
そうした五感に頼ったテスト技術も廃れたようですね。 高級な測定器ではわからない状態が感触で掴めることもあって、ウデを磨くには良かったものです。しかし、いかにも職人的な手段は廃れて行くのも時代なのでしょう。
JA1BVA 齊藤です。
こういう話題になると、私も一筆啓上です。
クリスタルイヤホンの最初の使用は、
フォックストンの鉱石ラジオ。50kW放送局から80kmの所で、天井裏の配電線にエナメル線を巻きつけた電灯線アンテナ。
イヤホンから大きな音が出ましたが、家族5人で一緒に聞くために工夫しました。
肉厚のどんぶり(瀬戸物)の上に割り箸を2本渡し、その隙間にイヤホンはサカサマ・・・耳に入れる部分をどんぶりの底へ向ける・・・にすると、イヤホンの音がドンブリ内で反射して
家族の耳を同時に楽しませてくれました。
このイヤホンはまだ健在ですが、年齢相応の感度、音質になっています。
懐かしい話題をありがとうございます。
JA1BVA 齊藤さん、こんばんは。
今日はJARL埼玉支部大会でのご講演ご苦労様でした。 あいにく歯医者の予約があって途中退場で拝聴できず残念でした。
コメント有難うございます。
> 家族5人で一緒に聞くために工夫しました。
この、丼鉢をホーンにするというお話は良く聞いておりますが、自身ではやったことはありません。 埼玉県はハイパワー局に近いので、大きな音が鳴るのでエコなラジオに良さそうですね。(笑)
> 年齢相応の感度、音質になっています。
イヤフォンもそうですが、クリスタルマイクもだんだん痩せた冴えない音色になるのはやむを得ないようですね。 拙宅に大昔のアイワの砲弾型クリスタルマイクがあるのですが、貧相な音がします。(笑)
コメントを投稿