2010年4月18日日曜日

【部品】MEMS Silicon Microphone

【Silicon Microphone:シリコン・マイクロフォン】
 シリコン・マイクとは何であろうか? これは半導体素子と同じように、シリコンの薄板(ウエファ)の上に微細加工で作ったマイクロフォンである。

 市販されているものは、写真のような形状をしている。 小さな穴が音響を取り込む部分である。 内部にはシリコンで作ったマイクエレメントとその出力を増幅するアンプが集積されている。

 マイクロフォンの形式としては「コンデンサ・マイク」である。コンデンサ・マイクは空気または真空を挟んだ2枚の薄板で構成されている。その電極板の間に直流電圧を与え電荷:Qを保持させておく。 音圧を与えると電極板の間隔が微小変化し、これはとりもなおさず電極間の静電容量:C(コンデンサの値)の変化を意味する。
 電極間の電圧:Vは、V=Q/Cであるから、Qは一定であってCが変化すれば電圧Vも変化することになる。 その微小電圧変化:ΔVがまさしく音声信号そのものである。 原理はいたってシンプルだ。(極板間で構成されるコンデンサCには高抵抗Rを通して電圧Vを加えてあるため、瞬時的な電荷Qの移動はなく一定と考える。逆に考えれば極板コンデンサと高抵抗Rの値で電気的な低域カットオフ周波数fLが決まってくる)

【Knowles SP0103N】
 これは、ノウルズ社のSP0103Nと言うシリコン・マイクロフォンの内部ブロック図である。

 左のマイクエレメントがシリコンのMEMS技術で作られたシリコン・マイク本体である。 電源端子に与えられたDC電圧からチャージポンプ式に高い電圧を作りマイクの電極板間に加えている。高い電圧とは言っても約11Vらしい。

 一般的なコンデンサマイクでは数10Vから100Vくらいの高い電圧を印加している。 シリコン・マイクがたったの11Vで済むのは対向する電極板の間隔がごく狭いからであろう。同時にアンプを直近に置くことでマイク出力が小さくても直ちに増幅すればS/Nの劣化を防げる。

 アンプはC-MOSアナログICだそうだ。極小マイクエレメントの静電容量は小さいのでアンプの入力インピーダンスは高いものが求められる。従ってMOS-FETのゲートで受けているのではないだろうか。 マイクで拾った音声信号はアンプで増幅され大きくなっている。また出力インピーダンスも低くなっているので誘導ハム(Hum)にも強い。扱いの感触は従来のエレクトレット・マイクと同じで良さそうだ。

 ずいぶん前からMEMS(メムス)技術(所謂マイクロマシン技術)を使うと、微小なマイクロフォンが作れるのではないかと思っていた。 これはシリコンの異方性エッチングと言う技術を使い非常に薄い膜(=ダイヤフラム)を作れるからだ。しかも半導体回路技術を使いアンプを含めた周辺回路も取り込むことができる。(現状は完全ワンチップ型ではなく、マイク部と増幅部は別個になった2チップ構成とのこと)
 音波の波長に比べ極小なダイヤフラム(振動板)を作ることよって、振動板の共振を可聴域外に追いやることができるだろう。そうすればクセのない良い音のマイクロフォンが実現できる筈だと思っていた。 しかし半導体技術を使うのでは莫大な設備コストが掛かるからよほどの量産が出来なければ実現性は乏しいと思ったものである。

 今になって登場したのは携帯電話に代表される移動体通信機器の過激なコストダウンと薄型化の要求による。今や電話機だけでなくパソコンほか何にでもマイクロフォンが内蔵されている。
 従来のエレクトレット・マイクは構造上熱に弱いことから他の電子部品と一緒にハンダ付け(表面実装)出来なかった。 しかし後から別に付けていたのでは製造行程が増えてコストは不利になる。 また従来のエレクトレット・マイクを薄くするには限界があった。
 そのような市場のニーズから一気に開発が進んだようだ。 もちろんモバイル機器は膨大な数量だから量産効果も十分期待でき価格も急落する。

 さて、我々が気になるのはお値段と音質であろう。お値段の方はだいぶ安くなってる。例によって秋月電子通商で小売りしている。2個入りで300円と400円のものがある。(2010年4月現在)
 初期不良が多いと聞くが、まあ2個のうち1個は使えるだろうと言う販売形態なのだろうか? 或は表面実装品を手付けで試している例も多いから過熱で劣化させているのかも知れない。
 肝心の音質だが無線用には十分なようだ。いま市販されているものはHi-Fiには今一歩らしいが、実際に確かめるべきだろう。 NHK技研が試作した同種のシリコン・マイクはとても良いので将来はナマ録(?)の分野でも大いに期待出来るかも知れない。

# このあと使ってみるのでその実体を報告したいと思っている。

参考:シリコンマイクSP0103NについてCQ出版社発行の月刊紙「トランジスタ技術誌」2015年1月号の付録冊子:トラ技Jr誌18号pp30〜35に評価レポートが掲載されました。 なお、トラ技Jr誌を纏めたCD-ROM版(No.1〜No.22)(←リンク)が発売されています。 SP0103Pの評価レポートはCD-ROM内のPDF版No.18号pp28〜33に収録されています。 トラ技Jr(紙版)のバックナンバーが入手困難な場合はCD-ROM版をご覧下さい。(2016.05.12追記)

(おわり)

12 件のコメント:

JR2WZQ 河野 さんのコメント...

 こんなマイクロフォン・エレメントが流通しているとは知りませんでした。
 中学生だった頃「図解ワイヤレス・マイク製作集」(泉弘志先生主筆)に載っていた超小型のワイヤレス・マイクを作ってみたいと思ったものですが、超小型のマイクロフォン・エレメントが入手できず(値段も中学生にとっては高すぎたし、そもそも入手先がわからなかった)、あきらめたことがありました。使用されていたトランジスタは、マイクロディスクの2SC183と2SC185でした。
 このマクロフォン・エレメントがあれば、チップ部品を使って、中学生の頃の夢を実現できそうです。まあ、何で今さら、などという気もしますが。

TTT/hiro さんのコメント...

JR2WZQ 河野さん,おはようございます。

さっそくのコメント有難うございます。
> 流通しているとは知りませんでした。
私も他の部品を探していて何気なく見つけました。比較的最近になって販売を始めたのではないかと思います。半年くらい前からでしょうか?

> マイクロディスクの2SC183と2SC185でした。
小さくて使いにくかったマイクロディスクTrも最近の表面実装用トランジスタと比べたらずいぶん大きいですね。

> 中学生の頃の夢を実現できそうです。
十分可能でしょう。乾電池が一番大きな部品かも知れませんね。小さなリチウム電池が欲しくなります。

最近の部品は性能も素晴らしいのですが、何でも小さくなっているので手で扱うのが難しいのが難点です。hi hi

T.Takahashi JE6LVE/JP3AEL さんのコメント...

おはようございます。

今日も快晴でただいまの外気温は19度です。^^;

ちょっと前のムーバなどをばらしたときには小型のECMが使われていましたが、最近の携帯にはこのマイクが使われているのでしょうか。
小型はもちろんチップマウンターでマウント出来るのがメリットなのでしょうね。
小型のTRXを作るときに便利そうですが端子の形状を見るとハンダ付けが難しそうです。

秋月もTCXOが無くなったりとこれからは平面実装部品が主流になってくるのでしょうね。
部品はどんどん小さくなるのに、どんどん小さい物が見えづらくなってくるのは悲しい物があります(笑)

TTT/hiro さんのコメント...

JE6LVE/3 高橋さん、おはようございます。 今朝は日差しも眩しい久しぶりの快晴なんですが風がちょっと冷たい感じです。

コメント有難うございます。
> 最近の携帯にはこのマイクが使われている・・・
そのようですね。 他にノートPCなどにも。 まだ比較的新しい部品のようで従来のECMよりお値段は高いのではないかと思います。薄型を求める機器に使うのでしょうね。

> 形状を見るとハンダ付けが難しそうです。
秋月の広告では、手付け可能と書いてありますがかなり小さいので大変そうですよ。基板を作った方が良さそうです。hi hi

> 秋月もTCXOが無くなったりと・・・
そうなんです。 昨晩思わずtwitterでつぶやいてしまったのですが、リード付き部品もだんだん無くなって行きますね。(残念です)

> どんどん小さい物が見えづらくなってくく・・・
昨今は部品の小ささもあって、ヘッドマウントのルーペが必需品になってしまいました。見えないだけでなく、細かい作業はだんだん根気が続かなくなって来ますよ。(悲し)

JG1EAD 仙波 さんのコメント...

マイクエレメントがシリコンチップ化ということは、スピーカーもいずれシリコンチップに??

われわれの用途だとマイクまで無理して基板直付けの必要もあまりなさそうなので、裏面の端子にリード線をハンダ付けして使うことになりそうですね。

TTT/hiro さんのコメント...

JG1EAD 仙波さん、こんばんは。

コメント有難うございます。
> スピーカーもいずれシリコンチップに??
コンデンサ・スピーカやコンデンサ・ヘッドフォンもありますので十分可能性はありますね。 インナーイヤー型で小型のHi-Fiなものができるかも。補聴器みたいな? そう言えば、このシリコン・マイクは補聴器にも使ってるそうです。

> 端子にリード線をハンダ付けして使うことに・・・
ハンディ機なら基板付けになりそうですけど、デスクマイクならリード線式でしょうね。そう言う方法で試してみようと思ってます。 小さいのでリード線のハンダ付けは大変そうですよ。hi hi

dty山本 さんのコメント...

こんばんは
小さいマイクですね 最近は部品が小さくなって拡大鏡がないとハンダ付けできません
もっとも 小さくなくても老眼鏡が必須です

秋月のTCXO無くなったんですね
一週間前に見たときはまだあったんですが
今確認してきてびっくりです。
いっぱい使ってるのにどうしましょう

TTT/hiro さんのコメント...

JO3DTY 山本さん、こんばんは。 ご無沙汰でしたね。

コメント有難うございます。
> 最近は部品が小さくなって拡大鏡がないと・・
昨今の面実装部品は1005どころか0603とか0402など過激に小さいのでどうにもなりません。このマイクはまだ大きい方かも知れませんね。hi hi

> 秋月のTCXO無くなったんですね・・
一時的な品切れなら良いのですが、オシマイになると困りますね。 周波数安定度が良くて発振周波数が微調整できる発振器はたいへん有用なものでした。数ppmの安定度を持つ水晶発振器の自作は結構難しいので価格以上の価値があったので残念です。

時代遅れになったパーツはいつか無くなるものです。嘆いても仕方がないので代替手段を考えてみようと思っています。

dty山本 さんのコメント...

>嘆いても仕方がないので
これから作る物はいくらでも代替え手段があるのですが

今までに安くて便利なのでこれを使ってたくさんつくっているので保守用が困ります。

TTT/hiro さんのコメント...

DTY山本さん、了解ですよ。

秋月TCXOを前提に基板まで作ってあると同等の代替品がないと困ってしまいますね。

 以前聞いた話しですが、あのTCXOも最初はメーカーの余剰品だったそうです。しかし、その後も人気があったので、新たに作って貰っていたと言うような話しです。要するにジャンク部品ではなかったと言うような・・・。(真偽不明ですが)
 もしそうなら、あんなに大きなTCXOは時代遅れも甚だしいので、ついに作ってくれず調達はできなくなったのかも知れませんね。 たぶんポケベル全盛時代の部品ではなかったかと思います。

良い代替手段が見つかることを祈ります。

DTY山本 さんのコメント...

>良い代替手段が見つかることを祈ります。
ありがとうございます。
とりあえず必要な数量は確保しているのでゆっくり代替え品を探します。

この形の水晶発振器はパーソナル無線機やコードレス電話の親機の中で使っているのをよく見ました 

TTT/hiro さんのコメント...

JO3DTY 山本さん、おはようございます。

> パーソナル無線機やコードレス電話の・・・
そうでしたね。私もパーソナル無線機の中で見たことがありました。それだけ古い部品だと言うことですね。

> とりあえず必要な数量は確保している・・・
使い切る前に旨い方法を考えて下さい。(笑)