2020年1月11日土曜日

【回路】AF-PSN for the WSPR Transmitter

回路:Phasing type WSPR送信機
 【WSPR送信用にSSB送信機を作る
 少し前からテーマにしているWSPR用のリグ(送受信機)を自作する話の続きです。

 WSPRの受信機(←リンク)はダイレクト・コンバージョン形式でも十分行けそうなことがわかりました。

 送信もDSB送信機で済めば作るのはごく簡単なのですがどうなのでしょうか? さっそく調べてみました。 WSPRはF1Dモードの電波ですからDSBだと反対サイドの信号(LSB側)は100%不要輻射(=スプリアス)になってしまうようです。 それではスプリアス輻射に関して規定された無線設備規則を満たせないでしょう。 逆サイドの輻射が十分に抑制されているきちんとした「SSB送信機」を目指さなくてはならないようです。(スプリアス輻射に関する電波法の規定については文末のappendixをご覧ください)

 SSB送信機の構成には大きく分けてフィルタ式とフェージング式(逆位相打消し式)があります。 前者は目的周波数で急峻な特性のフィルタがあれば簡単な回路で済みますが、普通それは望めません。別の周波数でSSB信号を発生させてからヘテロダインで目的周波数へと周波数変換します。当然回路は複雑化します。  一方、フェージング式では低周波と高周波の移相器(フェージング・ネットワーク) が必要で、バランスド・モジュレータも2つ必要という複雑さはありますが、任意の目的周波数でUSB信号(LSB信号も可)が作れると言ったメリットがあります。 QRP機の場合あまりシビアな性能を追求しなければ簡略化も可能そうです。

# なぜ周波数変調の「F1Dモード」なのにSSB送信機なのかと言う説明は省きます。ごくかいつまんで言えば、低周波の1500Hz付近で発生させたFSK信号(F1D)をHF帯へ周波数変換しているからです。 前回のWSPR受信機のところで簡単にWSPRの仕組みに触れています。 良かったら参照を。

                   ☆

 なるべくシンプルな回路構成でQRPなWSPR用送信機を作りたいと思います。 以下、フェージング式の送信機構成の要(かなめ)となる低周波用移相器(AF-PSN)の製作と評価を中心に話を進めたいと思います。(AF-PSN:Audio Frequency Phase Shift Network)

 WSPR用に特化した送信機の製作を目指していますが、多少の変更で他のデジタルモードの送信機としても使えます。 同様に音声通信用のSSB送信機への応用もできるので参考にして頂ければFBだと思います。 なお、例によって自ら手を動かして何かを創造したいお方に向けた発信です。 その気のない人には無意味な情報でしょう。 漫然とただ眺めるだけならここでおやめになって、2度と来ない今日と言う日を有意義にお過ごしください。

 【Phasing type SSB送信機とは
 まずはフェージングタイプのSSB送信機についておさらいです。 左図のモトは音声で通信を行なうSSB送信機のブロック・ダイヤグラムです。

 フェージング方式によるSSB発生の仕組みについて説明するには数式を使った解析が必要です。 あるいはベクトル図を使った理解でも良いと思います。 ここではそうしたSSB発生の仕組みはすでにご存知という前提で進めたいと思います。 SSBハンドブックなど専門書に詳しい解説がありますので、もしお忘れのようでしたら図書館などでご覧になってください。 この後はいきなり実践的な話に入るので、概略の仕組みがわかっていないと意味不明になるかも知れません。

 WSPRの場合、左側のマイクとマイクアンプの部分が異なります。 ここはパソコンのスピーカ出力回路からの信号が加わります。そのためあまり増幅しなくて済みます。 そのあとのAF-PSN部(低周波用移相器)以降は基本的に音声用と同じです。
  WSPRの信号は1500Hz±100Hzなので、音声帯域(一般に300Hz〜3kHz)に含まれるため音声通信用と同じAF-PSNでも大丈夫です。 ただし、このBlogではWSPRに最適化したAF-PSNを設計・試作したいと思います。 WSPR用に特化する目的はより十分な逆サイド成分の抑圧にあります。

# AF-PSN部はWSPR用に設計されていますが、以降の回路は音声通信用と全く同じです。

 【WB9CYYタイプのAF-PSN
 フェージングタイプの要(かなめ)といえば、何と言っても低周波用移相器(AF-PSN)でしょう。 古くからHAMに研究されていて、様々な形式が報告されています。
 AF-PSNが難しいのは、音声帯域という幅を持った周波数帯で常に90度の位相差を持った2つの信号を作らねばならないからです。それだけに様々に工夫されてきたのです。

 最近ではPPSN型(ポリフェーズ型)やOP-Ampを使ったオールパス型のAF-PSNが人気のようです。 他にも懐かしいW2KUJのナガード型、B&W社の2Q4型など様々なAF-PSNがあります。それぞれの試作レポートはネット上にもたくさん見られるようです。 今回は見送りますがナガード型およびその変形タイプについても検討を行なったので、いずれこのBlogでもレポートしたいと思っています。(参考リンクナガード型AF-PSNを扱ったBlogを公開しました。興味があればリンクで飛んでください) 今回はWB9CYYタイプに基づいたAF-PSNを設計・試作します。(WB9CYYタイプというのは私が便宜的に付けた名称です)

 図はJAのHAM雑誌であるCQ Hamradio誌の1977年4月号の記事「技術展望」に掲載されたAF-PSNの設計例です。 このAF-PSNはナガード型などと同じ4次のものですがOP-Ampを積極的に使った形式になっています。 同じ様にOP-Ampを使うAll-Pass型よりも使うOP-Ampの数が少なくて済むメリットがあります。 技術展望の記事は米Ham Radio誌にWB9CYYが執筆した記事の抄訳です。 シングルシグナルの受信機に用いる例として紹介されています。 著作権のこともありますが、すべて転載すると長くなるので左図は核心部分に絞っています。 右側の設計式で図中のnetwork 1の係数を使い、C=0.025μF(*1)として計算・設計した具体例が左側の回路です。 これは音声通信用の設計でSSB受信機の復調用になっています。 もちろん、接続を変更することで送信機用のAF-PSNとしても動作します。

 過去にこの形式で作った製作例は見たことがありません。JAで試した人は珍しいのかも知れませんね。しかし回路シミュレータ(LT-Spice)に掛けてみるとうまく動作しそうなのでこの形式のAF-PSNでやってみることにします。 4次のAF-PSNなので、ナガード型などと同等ですから特に高性能と言うわけではありません。 しかしWSPR用に最適化した設計をすれば目的に対して十分な性能が得られそうです。OP-Ampを使う形式としてもシンプルな回路で済みそうです。

*1参考:実はこの回路図には誤植があります。もともとコンデンサC1〜C4は0.025μFで設計・計算されていますが、図面では0.022μFになっています。抄訳した時の誤りではなくオリジナル記事のミスです。これは検算してみればわかります。 ただし、C1〜C4が0.022μFでも動作しない訳ではありません。 設計帯域全体が14%ほど高いほうへシフトするだけで、概略で340〜4500Hzになるでしょう。

 【AF-PSNの試作回路図
 技術展望の例ではC=0.025μFで設計しています。 ここでは、手持ちにあった0.015μFのスチロール・コンデンサを使う前提で設計します。

 また、WSPRでの使用を目的とし中心周波数を1500Hzとして周波数範囲は700Hz〜2800Hzと決めて位相誤差0.5度くらいを目標に設計してみました。  左図の回路定数で回路シミュレーションしたところ、目的の1400〜1600Hzで振幅誤差:0.01dB、位相差:90度±0.1度が得られそうです。 現実には理想状態には存在しないストレー容量とか部品誤差の累積などもあるため、ここまでの高性能は実現困難でしょう。しかし十分良い性能が期待できそうです。 

# 最終的な目標として逆サイドの抑制は-50dBくらいが希望なので、AF-PSNの位相誤差は0.5度以内、振幅誤差も0.5%以内を目指したいと思います。これらは安定的に得られなくてはなりません。

 OP-Ampは定番のTL074CNを使います。移相回路のコンデンサは上記の様にスチロール・コンデンサを使いました。 抵抗器はすべて金属皮膜型を使い、実測に基づき抵抗器2本の合成で近似値が得られるよう努力します。 重要部品の目標精度は誤差0.1%以内として揃えます。

 回路は+15Vの片電源で動作するようになっています。 AF-PSN部の前には出力インピーダンスの低いバッファアンプが必要なので、OP-Ampを使った簡単なアンプ(ゲイン+6dB)を前置しました。 このAF-PSN回路は入力と出力の間で約15dBの通過ロスがあります。 状況に応じてアンプを後付けする必要があるかもしれません。 また初段のアンプ部分もパソコンの低周波出力との兼ね合いでゲインを加減する必要があるでしょう。 その辺りはこの先バラモジとの組み合わせの際に考えたいと思います。

参考:この回路図では、フローティング・グラウンド(F.G)のライン・・・OP-Amp. U2cの出力端子の7.5Vライン・・・にバイパスコンデンサを入れていませんが安定動作の観点から入れるべきです。GNDとの間に10μF//0.1μFくらいを入れれば良いでしょう。その場合、OP-Amp.U2cは容量性の負荷となるので必ず発振対策を施します。フローティング・グラウンドの発振対策について具体例はこのBlogの他の記事にたくさんの実施例があります。

 【コンデンサを揃える
 同じ容量のコンデンサが4つ必要です。 組み合わせる抵抗値との関係から、0.005〜0.05μFの範囲が適当なようです。 ここでは手持ちのジャンクにあった0.015μF±2%のスチロール・コンデンサをさらに選別して使いました。 具体的には、0.01495μFに揃えてあります。

 選別にはLCRメータ:DE-5000を使いました。 絶対精度はそれほど重要ではありません。 むしろ4つのコンデンサが同じ値であることを重視して選別します。測定の再現性は十分あるので、そのような目的にはDE-5000がたいへん役立ちます。

 まったく同じ容量値のコンデンサ(0.01495μF、もしくは0.015μFで良いが)が揃えられれば、回路図通りの抵抗値で同じ性能が得られます。おそらく実際には難しいでしょう。 しかし、手持ちあるいは入手しやすいコンデンサを適宜4つ選んで抵抗値の再計算を行なえば同じように作れます。
 例えば、0.022μFがあるなら、抵抗:R1、R2、R5、R6の値を、0.01495/0.022=0.67945・・・倍の値に変更(小さく)します。(ここまで精密計算は必要なくて、0.7倍で大丈夫です) R3、R4、R7、R8は計算する必要はなくそのままの値で良いです。

 【抵抗は組み合わせで作る
 抵抗器はすべて金属皮膜型を使いました。 カーボン型でも大丈夫かもしれませんが、温度係数や経年変化などを考えると金属皮膜型が安心です。

 中途半端な値の抵抗器が必要なので、2本を合成して最小の誤差で目的の値になるよう合わせます。 例えば、R1=22.60kΩですが、はじめに22kΩの抵抗器を実測します。 普通の抵抗器には必ず誤差があります。 もし実測値が22.03kΩだったとすれば、組み合わせに必要な抵抗は570Ωです。 実際にはE24系列から、最も近い560Ωを選びます。 その上で選んだ2本を仮に直列接続して抵抗値を測定します。 その結果が22.60kΩの±0.1%以内(22.58〜22.62kΩ)にあれば合格です。 無造作に選んだ560Ωの抵抗器でも組み合わせて合格範囲に十分入ると思います。 他の抵抗値も同様に合成します。
 3本以上組み合わせても良いのですが、煩雑になるのでなるべく2本の組み合わせで済ませるようにするのが実践的な秘訣です。

 R3とR7は少し違った計算を行ないます。 R3の例でいえば、まずはじめにR4を実測します。 ジャスト1kΩなら、R3は9.71kΩで良いのですが、普通はちょうど1kΩではないでしょう。その時は、実測したR4の値を9.71倍した値の抵抗器をR3に使います。 R7もはじめにR8を実測してから同じように計算すればOKです。

 このような方法で抵抗器を揃えるのはアナログ式テスタしかなかった時代には困難でした。 しかし現在は十分な読み取り精度のデジタルマルチメータが一般化していますので0.1%くらいの精度なら大した手間もなく目的の抵抗値を得ることができます。  あとは間違わないように実装すれば目標の性能が得られると思って良いでしょう。

 【組立て開始・半分作って様子を見る
 試作の意味からブレッドボードに製作します。 部品レイアウトの検討にも繋がるので重要な作業です。 同じ形の回路が2つ並びますので、まずは半分だけ作って様子を見ます。

 ご覧のようにスチロール・コンデンサが意外に巨大でレイアウトに苦労しました。 低周波回路ですから少々配線が長くなっても大丈夫です。 0.015μFと容量も大きめなことから、ストレー容量の影響もごく僅かでしょう。 抵抗値も高くないのでハムの誘導などにも強いはずです。 なお、ここで使ったスチコンは赤い帯のある側のリード線に外巻きの側が引き出されています。 外巻きの方を回路のインピーダンスの低い側に接続します。その様にすれば誘導やノイズに強くできます。 なお、上記の試作回路図で●赤丸のある端子が外巻きの側です。(コンデンサの外巻き、内巻きについてはリンクを参照) 

 【試作完成
  部品のレイアウトも良さそうですから、残り半分をシンメトリーに組み上げて完成させます。 4回路入りのOP-Ampを使ったのでやや部品配置は難しくなりましたが、上手く行った方でしょう。

 実用にするには基板上にハンダ付けで組み立てる必要があります。 その前にこの状態でできるだけの評価を行っておこうと思います。 レイアウトの検討にもなるので回り道のようですが無駄ではありません。 万一、致命的な欠陥が見つかってもブレッドボードなら試行錯誤も自在にできるので利便性があります。 ブレッドボードでの製作は仮設のようなものと言えますが、本番前の試作目的にはなかなか役立ちます。

 【1500Hzでリサジュー
 配線の確認が済んだら低周波発振器から1500Hzの正弦波を加え、2つの出力でリサジュー・カーブ(Lissajous curve)を描かせてみましょう。  オシロスコープの管面いっぱいに表示していますが、綺麗な真円が描けているようです。

 昔はAF-PSNの確認に重宝されたリサジュー・カーブですが、これから位相差±1度と言った精度を読み取ることはほとんど不可能です。 ではまったく役に立たないのかと言えば、そうではないでしょう。 少なくとも設計に大きな間違いはなく、組み立ても正しいことの証明にはなってくれるからです。 ここで真円に見えないようなら何かがおかしいに違いありません。 一旦、元に戻って検討しなおす必要があるでしょう。

 理屈の上では2つの出力の位相差が90度ちょうどで、振幅誤差もなければこのような真円が得られるはずです。 しかし、歪みのない綺麗な正弦波でないとジャガイモのようにデコボコした円になります。 ここでは歪率≦0.05%の低周波発振器を使っています。 また、オシロスコープのX軸とY軸の位相と振幅特性が良く揃っていなければ真円は崩れて観測されるでしょう。 簡単なようでも、あらかじめ良く確認して準備しなければ何を調べているのかわからない状態にもなりえます。
 同じ道具があれば誰でも同じ結果が出せる訳ではありません。道具にはそれを使うための技術も必要です。この辺り、ただ見ているだけの人にはご理解頂けないかも知れません。 自分でもまったく同じように「こんなことは簡単にできるはずだ」と錯覚するのです。やって見て、初めてこんなはずではなかったとわかる訳です。(笑)

 【300Hzは帯域外
  設計周波数範囲は700Hz〜2800Hzですから、300Hzはずいぶん下の方へ外れています。

 当然ですが位相差は90度からだいぶ外れてくるので、このような傾いた楕円になります。縦横のサイズから計算で位相差を求めることも可能ですが、90度からおおよそ-17度ほど外れているようです。

  このAF-PSNはWSPR用として作っているため、300Hzではだいぶ位相ズレが発生します。 音声用の場合、これではマズイので設計周波数範囲を変更しなくてはなりません。 当然ですが、このままでは音声が対象のSSB送信機には使えません。

 【5kHzも帯域外
 写真は5kHzのリサジュー・カーブです。 今度は高い方に外れた場合のものです。 90度から-20度くらい外れています。 また、振幅特性もいくらか現れているようで、円が縮んできました。

 当然、この周波数では使いませんが、設計周波数範囲の外側では90度から大きく外れてきます。 音声が相手のPSN式送信機ならマイクアンプの部分に3kHzくらいのLPFと300HzのHPFは必須です。 WSPR用の場合は1400〜1600Hz以外の信号は加わらない筈ですから、簡単なLPFでも設けておけば大丈夫でしょう。 簡単化のためになるべくシンプルな回路構成にしたいものです。

 【1500Hzの波形で位相差観測
 2つの出力を2チャンネルのオシロスコープで観測している様子です。 入力信号は1500Hzです。

 このように管面から位相差を読み取ることもできますが、良い精度は期待できません。 しかし、きちんと動作しているのか否かの確認くらいなら可能です。
 もちろん何も確認しないよりマシです。 一度は見ておくのも悪くないでしょう。 なるほど、このように90度遅れるのだ・・・と。

 【ゲイン・位相差特性(1)】
 最後はネットワーク・アナライザを使った評価を紹介して終わりにしたいと思います。

 2チャネル型のアナライザを使い、十分なウオームアップを行なったあと両チャネルを良く校正しておきます。 入力インピーダンスは1MΩにセットし、10:1のプローブ込みで校正します。AF-PSNへの入力信号は+3dBmとし50ΩでターミネーションしてからC結合で与えます。RBW=30Hzに設定しました。校正を含め各10回のアベレージングを行ないます。このような注意を払うことで精度の高い測定ができるようになります。 最近はネットアナを使うお方もかなり居られるそうなので設定手順など書いておきました。もちろん自身の備忘でもあります。

 まずはアナライザのチャネル AにOutput 1を、チャネル BにOutput 2を加えて測定します。 計測モードはA/Bを選択します。 信号レベルをよく調整し、歪みの出ない範囲でできるだけS/N良く測定できる条件に設定などを加減します。

# 写真のようにマーカーを1500Hzの所に持って行って読み取ると、位相差は91.56度、振幅誤差は-0.210dBという結果です。 

  【ゲイン・位相差特性(2)】
 続いて、アナライザのチャネル AにOutput 2、チャネル BにOutput 1を加えて測定します。チャネルを入れ替える訳です。

 この時は再校正は行なわず、チャネルを入れ替える前と同じ状態のままで測定します。 再校正してしまうと、ネットワーク・アナライザ自身の位相や振幅誤差の校正値が書き換えられてしまう可能性があるからです。 従って、なるべく測定器の状態に変化が起こらないように手短に測定作業を進めます。 一連の測定は周囲温度22℃の環境で行ないました。

# 写真のように位相差は-89.44度で振幅誤差は+0.183dBでした。

考察:入れ替え測定を行なった2つの測定結果から位相とゲインの測定誤差のうち、オフセット分がキャンセルできるように思います。 91.56-89.44=2.12(度)で、この半分が測定に起因のオフセット値でしょう。 従って、最初の測定では91.56-1.06=90.5度となり、あとの測定では-90.5度でしょう。 なお、オフセット分による誤差は補正できましたが「90度」という絶対値には「スケール誤差」が含まれるはずで、真値の確証はありません。 おそらくそれほどのスケール誤差はないと思うので、とりあえずAF-PSNの位相差は90度+0.5度くらい(at 1500Hz)の精度になっていると信じることにしましょう。 同じようにして、振幅誤差は-0.014dBくらい(約0.16%)のようです。 ほぼ目標を満たすAF-PSNができていると思います。 精度よく部品を選別したことでまったく無調整でここまでできました。

 見てきたように測定器を使った確認は設計や製作の検証に効果的です。 しかし、様々な測定器がなければフェージング・タイプの送信機が製作できないと言うことではありません。 最終的に不要な逆サイドの打ち消しがうまくできるように調整すれば良い訳です。 現在は殆どのHAM局が良好な選択度を持った受信機(トランシーバ)をお持ちです。 実際に受信しながら最適な状態を見出せば良いでしょう。 これがSSB黎明期の自作HAM局と比べて決定的に有利なところです。 これ以上は実際にSSBを発生させて調整で追い込むことになります。

                   ☆

 フェージング・タイプのSSBジェネレータにおける逆サイド(不要サイド)の抑圧比はAF-PSNの位相誤差と振幅誤差だけでは決まりません。 RF-PSNの精度や、打ち消し合成回路部分の性能によっても違ってきます。 しかし、AF-PSNの位相誤差が0.5度くらいなら逆サイドの抑圧比は50dB近くが期待できるでしょう。 調整からある程度時間が経過しても40dBくらいなら維持できるのではないかと思います。 appendixにあるように、無線設備規則のスプリアス発射の強度の許容値である 「50mW以下であり、かつ、基本周波数の平均電力よりも40dB低い値」がなんとか実現できるのではないでしょうか。

# フィルタ・タイプのSSBならいともたやすい逆サイド:40dBの抑圧がフェージング・タイプではそれほどイージーではないこともわかってきました。

                  ☆  ☆

appendix電波法の無線設備規則に見る不要輻射の限度(アマチュア局の場合)
WSPRを含む多くのデジタルモードはF1Dの電波形式です。 HF帯におけるF1Dの占有周波数帯域幅は2kHzです。 その外側の周波数帯が「帯域外領域」となり、F1Dでは中心周波数の1kHz外から5kHz外までが相当します。 左図の矢印の範囲です。(帯域外領域は中心周波数の上下に存在します)

 いま、PSN形式で作ったWSPRモードの送信電波で考えましょう。 7MHz帯で考えるとすれば、キャリヤ周波数は7038.6kHzです。 また変調波は1500Hzだとすれば、送信波はUSB側ですので7040.1kHzになります。 この場合の下側の「帯域外領域」は具体的には7035.1〜7039.1kHzの4kHzの間になります。(実際には、変調波は1400〜1600Hzの範囲でオンエア局が任意設定します)

 キャリヤ周波数は7038.6kHzで変調波が1500Hzですから不要な逆サイド(LSB側)は、7038.6kHzより1.5kHz下の7037.1kHzに現れます。 この周波数:7037.1kHzは先ほどの「帯域外領域」にもろに入っていますので「帯域外領域におけるスプリアス発射の強度の許容値」が適用されることになります。
 すなわち「50mW以下であり、かつ、基本周波数の平均電力よりも40dB低い値」である必要があるわけです。 したがって5W出力のWSPR用SSB送信機の逆サイドの抑圧は40dB以上が要求されます。(送信電力が5Wなら、逆サイドの漏れは0.5mW以下)

#  逆サイド(LSB)の漏ればかり論じてきましたが、バランスド・モジュレータのキャリヤ・バランスの崩れによる「キャリヤ漏れ」も同じ基準が適用されます。 注意が必要なのはもちろんです。

                 ー・・・ー

 PSN形式で作ろうとする場合、これらは技術的に見ると短時間なら十分実現可能ですが継続して維持するのは難しいのです。部品のエージングや調整状態の経時変化を考えるとなかなか厳しい数字です。設計段階で逆サイド抑圧50dBくらいを目指したのは幾らかでもマージンを得たかったからです。 何れにしても厳しい数字ですから定期的な調整・確認により性能を維持しつつオンジエアする必要があります。
(*スプリアス発射の強度の許容値は、空中戦電力が1Wを超える送信機の場合についてのものです。1W以下の送信機では一律に100μW以下です。従って送信電力が100μW以下ならDSB送信機でも良いことになるんですが、あまり実用にはなりませんね・笑)

 そのほか、さらに「帯域外領域」の外側周波数である「スプリアス領域」では「50mW以下であり、かつ、基本周波数の尖頭電力より50dB低い値」が要求されます。 より厳しくなっているので送信機の出力にはLPFの付加などの高調波対策も抜かりなく行なう必要があるでしょう。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクfm

10 件のコメント:

JG6DFK さんのコメント...

おはようございます。外は曇っていますが、午後からは晴れるらしいので、それに期待したいです。

AF-PSNの回路として、パッシブのナガード型とオールパス型は知っていましたが、ご紹介の回路は初めて見ました。オールパス型より部品点数(特に能動素子の数)が少なくて済むのはFBだと思います。

オールパス型はずいぶん前に実験しましたが、あれだけの回路規模でもせいぜい300~3000Hzが実用範囲のようで、がっかりしたのを覚えています。通信機器用としてなら十分なのでしょうが、同期検波型のAMラジオなどには不満なレベルです。

通信機器でも昨今の厳しいスプリアス基準をクリアしようと思えば、さらにLPF/HPFを併用しなければならないでしょう。面倒ですね。もっとも、ひっくるめてDSPでやるのが昨今のトレンドなのでしょう。それならソフトウェアだけで済みますし。

精度の高いコンデンサは、チップMLCCならNP0の1%品が入手しやすくなってきているようです。が、JAのアマチュアで手を出したがる人は少数派かも。

一応、オールパス型の抵抗一式をストックしていますが、手を出している暇がありません。

TTT/hiro さんのコメント...

JG6DFK/1 児玉さん、おはようございます。 午後からのお天気は気になりますね。

早速のコメント有難うございます。
> ご紹介の回路は初めて見ました。
昔々のCQ誌の切り抜きがあったのを思い出したので試してみました。WSPR用にアレンジしやすそうなのでなかなか好都合でした。

> せいぜい300~3000Hzが実用範囲のようで・・・
次数を増やすと広帯域化できますが、部品ばかりが増えますね。 それと、計算上は0.05度と言うような精度も実現できますが、実際にはそこまではとても行きません。(笑)

> 同期検波型のAMラジオなどには不満なレベルです。
そう言えば、同期検波のAMラジオもAF-PSNが必要でしたね。 周波数帯域が広いぶん、厄介なんですね。

> さらにLPF/HPFを併用しなければならないでしょう。
音声用の場合は、マイクアンプ部分にかなり急峻なフィルタが欲しい感じです。 まあ、ほどほどのフィルタでも音楽を流したりしなければ実害は少ないとは思いますが・・・。

> ひっくるめてDSPでやるのが昨今のトレンドなのでしょう。
その通りでしょう。 誤差の少ない部品を揃えるといった苦労もなくなりますし・・・。 ただし、低域を伸ばそうとすると演算時間が長くなってアウトプットが現れるまでのディレーが気になってきます。どの程度の高速演算が可能かも問題なのですが、低周波は周波数が低いのでその辺りに信号遅延の本質的な問題があるようです。低域を伸ばすほど遅延も増えるようです。

> JAのアマチュアで手を出したがる人は少数派かも。
ノスタルジックな自作をされるお方はあっても、チャレンジングな製作をされるお方はかなり少なくなるのであまり期待できないでしょうね。悲しい現実です。hi hi

> 手を出している暇がありません。
お忙しいようで、健康に気をつけられて今年もご活躍ください。 また懇親会ででも宜しく。

JR1QJO/矢部 さんのコメント...

加藤さん、以前PSN634でPSNの難しさを知りました。
抵抗を選別するも、指の体温で抵抗値が逃げていくやら、
上手く調整したつもりでも逆サイドのキレが25db止まり
でした。最近ばDSPで簡単にできるようですが、WSPR
送信機は余り資源(部品)を投入せず簡単な回路で済ませる
にはPSNは合理性があると思います。しかも音声帯域では
なく狭い周波数なら逆サイドの追い込みが比較的簡単かと
思います。
2年前WSPR送信機をおがさわら丸に載せてブラジルまで
届いたのに感動した経験があります。 FBなミニマニスト
WSPR送信機に仕上がることを期待しています。ついでに
WSPR受信機に化けてば、お年玉企画です。HIHI

T.Takahashi JE6LVE/JP3AEL さんのコメント...

加藤さん、こんばんは。

昔、クリスタルフィルターなどとても買えないのでSSBハンドブックに載っていたPSN方式を見たときは素晴らしいと思ったのですが、あの中途半端な抵抗の値を求める方法もなく、適当な抵抗を組み合わせてもリサージュを見る測定器もなく、結局フィルター方式の方が安く付くんだなあと言うことを学びましたw

当時アメリカ製のPSNモジュールはかなり微妙な抵抗値を組み合わせていましたが、本当に正しい抵抗値で所定の性能が得られたのでしょうか?w

RF側はSI5351AやDDSを2個使えば位相が90度ずれた信号を取り出せそうですね。

TTT/hiro さんのコメント...

JR1QJO 矢部さん、こんばんは。 本日はFBなアイボール有難うございました。 先ほど無事帰宅です。hi

いつもコメント有難うございます。
> そう言えば、PSN634もPSN式でしたね。 詳しく存じませんがみなさん結構ご苦労されたようですね。hi

> 逆サイドのキレが25db止まりでした。
もう少しゆけそうな気もしますが、帯域が広いと満遍なく逆サイドの打ち消しを行なうのはなかなか困難だったのでしょうね。 せめて30dBくらいは欲しかったですね。

> 簡単な回路で済ませるにはPSNは合理性があると思います。
そこがなかなか難しいところで、あまり簡略化すると目標性能が達成できなくなります。hi

> ミニマニストWSPR送信機に仕上がることを・・・
ご期待にそえたらFBです。きちんと作るとそれなりの回路規模になってしまいそうですね。

> ついでにWSPR受信機に・・・
原理的にはそれほど難しくは無いのですが、DSB受信のダイレクトコンバージョンのような訳には行かないのが悩ましいところですね。 何年先のお年玉になるやら。(爆)

TTT/hiro さんのコメント...

JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんばんは。 夜道を歩いて帰ってきましたが、最近話題のようにオリオン座のベデルギウスが心持ち暗いような・・・。W

いつもコメント有難うございます。
> PSN方式を見たときは素晴らしいと思ったのですが・・・
原理の説明を読むと私も簡単に実現できそうに感じましたね。 しかし実に奥が深い技術です。 それだけに色々楽しめるように思います。hi hi

> 結局フィルター方式の方が安く付くんだなあと言うことを・・・
TRIOの送信機にTX-40S、20S、15Sと言うPSN式のSSB送信機がありました。 謳い文句は安価で実戦的なモノバンド機と言うことになっていましたが、マトモなSSB送信機ではなかったですね。 ヤエスのFR/FL-50の方がまだマシでした。(爆)

> 本当に正しい抵抗値で所定の性能が得られたのでしょうか?w
得られたと思います。 メーカーですので、抵抗器やコンデンサは特注で作らせたのでしょう。 米国ではメーカー製のAF-PSNが一般化したので、あまり自作はされなかったようです。 米国のSSBハンドブックを見ると、AF-PSNは作るものではなくて、買ってくる部品の扱いでした。 $1=¥360-だったので輸入すると高価だったためJAでは自作品が多かったようです。

近代的なPPSNとかAll-Pass式はもっとずっと後の時代になってから流行りました。

JG6DFK さんのコメント...

おはようございます。昨日はお疲れ様でした。

ベテルギウスが話題になっていますか。全然気がつきませんでした。NHKで2011年に放送された「コズミック フロント」で「2012年に爆発するかもしれない」という説が取り上げられてからずいぶん経ちましたが、いよいよでしょうか。

録画したものが残っていたので再確認してみたら、なんでも、爆発直後から3ヶ月後くらいまでは昼間でも存在がわかるくらいに明るくなるそうです。

さて、スーパーカミオカンデは爆発の瞬間をいち早く捉えられるか。関係者はこれまで以上に神経を尖らせているかもしれません。

本題とは関係のない話ですみません。

TTT/hiro さんのコメント...

JG6DFK/1 児玉さん、おはようございます。 昨日は懇親会でアイボール有難うございました。 お持ちになったのはとても面白い超再生式ラジオでしたね。 販売できそうな完成度。

再度のコメント有難うございます。
> ベテルギウスが話題になっていますか。
このところ急に暗くなっているそうです。 比較写真を見ましたが確かに暗くなってました。

> いよいよでしょうか。
もともと変光星だそうで、短周期の変動と長周期の変動があって、重なるとかなり暗くなることもあるようです。 その周期的なものか否かは間もなくわかるでしょうとの話でした。

> 爆発直後から3ヶ月後くらいまでは昼間でも存在がわかる・・・
一生に一度あるか無いかの天体現象なので楽しみにしていますが・・・。 後に残るのは暗い星だそうで、オリオン座の様子も変わってしまうそうです。 それもなんとなく悲しいかな。hi

> スーパーカミオカンデは爆発の瞬間をいち早く捉えられるか。
他に、重力波観測機の方も活躍するかもしれませんね。 そうなったら色々面白そうですが、まあ起こらないだろうと思うのが90%くらいでしょうか。(笑)

地球には何の影響もないそうなので心配は要らないようです。

仲野 直裕/JI1HVI さんのコメント...

加藤さん、今晩は。

まさか、AF-PSNで、周波数別に2つの移相回路を作るとは思いませんでした。周波数の偏差が200Hzなので、1つでもいいかなと思いましたので。
流石に、オールパス型は、部品点数の多さで、作る意欲はわきませんでした。

昔、dSPICのMAX5412を使うと、回路的には簡単になる(プログラムを書く必要はある)みたいですが、最近は、dSPICは、流行らなくなったんでしょうか。

昨日は、アンテナ作成の為のお年玉ありがとうございました。

TTT/hiro さんのコメント...

JI1HVI 仲野さん、こんばんは。 昨日はFBなアイボール有難うございました。 遅くまで秋葉原にいたので帰宅したら24時を回っていました。(笑)

いつもコメント有難うございます。
> 偏差が200Hzなので、1つでもいいかなと思いましたので。
低い方と高い方で14%ほど周波数が違うので、位相差が保てないと思って真面目にAF-PSNを作ることにしました。 オンエアする周波数をスポットにしてしまえば、単純な位相器で済みますね。 それも一つの考え方です。

> dSPICは、流行らなくなったんでしょうか。
DSPでやれば安定したものが作れるのでしょうが、ハードルはだいぶ高くなりそうに思います。 簡単には私の手に負えないのでやめておきます。hi

> お年玉ありがとうございました。
あれくらいの道具がないと恐らくご希望のアンテナは完成できそうにないと感じました。 進呈いたしますので是非とも有効活用されてください。