【SSB送信機用AF-PSNの研究:その1】
【SSB Handbooks】
2つ前のBlog(←リンク)ではWSPR用のフェージング・タイプSSB送信機を検討しました。 PSN式SSB送信機としての構成は音声交信用と違いません。 ただしフェージング・タイプ送信機の心臓部とも言うべきAF-PSN(低周波移相器)はWSPRモードに特化したものでした。
AF-PSNを検討していて、従来からある音声用のPSNについて興味を覚えました。今回はその「音声用」のAF-PSNを扱います。 特に有名なNorgaard型(ナガードがた)とB&W社の2Q4型はどんな経緯でいつ頃から使われ始めたのでしょう? ここでは寄り道をしてフェージング・タイプのSSB送信機と切り離せない(音声用の)AF-PSNのルーツについて探ってみたいと思います。
# なお、フェージング・タイプSSB送信機の原理など基本的な話は端折っています。全般的な解説が必要でしたら専門書をご覧ください。2つ前のBlogも幾らか参考になるかも知れません。
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現代のHAMはSSBあるいはFMと言ったモードで音声通信を楽しんでいます。それらの仕組みも既に周知のことと思います。 この先はフェージング・タイプSSBの歴史を追うのがメインテーマです。 従ってそうした話題に興味がなければ面白くもないでしょう。
まったくの個人的な興味から寄り道しています。 無理をして興味を持っていただく必要はありませんし無駄に時間を使わせても申し訳ないです。 この辺でのお帰りをお勧めしたいと思います。 2度と来ない今日と言う1日をもっと素晴らしいことに使われますように。 それでも、少しだけ好奇心をくすぐられたようならお付き合い頂くのもFBです。
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写真はARRL発行のSSBハンドブック(初版)と、無線関係の研究者の学会であるIRE(無線学会:Institute of Radio Engineers)が発行したSSB関係の論文特集号です。 ARRLのHBが1954年、IREのSingle Sideband Issueは1956年12月の発行です。 特にIREのSSB IssueはSSB発生の3つの原理についてプロの視点で記述されており、SSBの原典と言われて来ました。 しかしHAMのHandbookの方がプロに先行しているとは面白いですね。
IREの論文集は学術誌ですから具体的な回路のような記述はほとんどありません。HAMの自作目的にはまず用をなしませんが、その内容は噛み砕かれた形で諸誌に転載されてきました。 今日的な視点で見ると原理的なことはもう既に十分周知されていますし、十分な内容の解説書も存在するため顧みる必要はないのかも知れません。 ここではフェージング・タイプのSSB送信機のルーツを探るために参照しました。 なお、ARRLのSSB Handbookの方は対照的に送受信機製作の実技的な内容が主体です。
IREのSSB IssueはJA1AJR 角間OMより頂戴いたしたものです。 貴重な資料ありがとうございました。 蛇足ながらIREは現在のIEEE(←リンク)の前身です。
【QST誌・初期のSSB関連記事】
ARRLのSSBハンドブックは機関紙であるQST誌の記事を寄せ集めて幾らか編集して作られています。 従って、ハンドブックが発行された1954年よりずっと前からSSBは話題になっていたはずです。
調べてみますと、QST誌でSSBが採り上げられ始めたのは1948年(昭和23年)のようです。 SSB紹介の特集が組まれた1月号によれば前年の1947年10月に行なわれた14MHz帯におけるSSBの初交信が切っ掛けだったようです。 本当の意味でのHAMバンドでのSSBは戦前の1930年代から実験されていたようです。 しかし初期の頃は細々としたLow Bandでの「実験」に過ぎなかったようです。DXバンドの14MHzでオンエアがあって初めて衆目を集めるようになったのでしょう。1948年から数年間はSSBの普及に向けた記事がしばしば投稿され、新しい音声通信として脚光を浴び始めたのです。 バンドが混んできたこともあり、混信緩和に効果的なSSBを推進したいというARRLの意図も感じます。 そうしたQSTの記事から目ぼしい物をピックアップしてまとめたのが初版のSSB Handbookと言うわけです。
最初に登場したSSBの発生方式はフィルタ・タイプでした。これは戦前からあった搬送電話の技術を利用したからであり必然だったでしょう。 未だSSB用クリスタル・フィルタやメカニカル・フィルタは存在しなかったのでLC回路で構成してフィルタを作りました。 LCフィルタでSSB発生に必要な急峻な特性を得るには低い周波数でなくてはなりません。記事でW0TQKが紹介しているSSB送信機もLCフィルタを使っています。キャリヤ周波数は9kHzです。特注品のフィルタで9.25kHz〜12kHzのアッパーサイド側を得てから2回ヘテロダインしてHAMバンドまで持ち上げています。製作はなかなか大変だったでしょう。
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フィルタ・タイプのSSBジェネレータは改めて扱いたいと思います。この先はフェージング・タイプのSSBに絞りましょう。
下段はおそらくQST誌上で初めてフェージング・タイプのSSBについて紹介された記事です。 これは同じ1948年の6月号の記事で、AF-PSNでは有名なナガード(Norgaard)氏の執筆です。ただし、のちに有名になったNorgaard型のAF-PSNは未だ使われていません。
掲載されている回路図によると、真空管のプレート側から位相が反転した出力を、カソード側から非反転の信号を取り出し、それらをCRを使った移相回路で結合して行く3段2組のアクティブ型移相器になっています。昨今のオールパス型AF-PSNに類似の構成です。 真空管のPK分割回路はプレート側とカソード側の信号振幅を合わせても内部インピーダンスが同等ではないためあまり理想的とは言えません。AF-PSNのような精密さを求められる用途には最適とは言えなかったでしょう。真空管の特性変動も気になります。
低周波の移相器としては未だ発展途上のように感じられますが、フェージング・タイプの原理は既に確立されています。あとはより確実で信頼できるAF-PSNの登場が待たれる状況でした。
【GE HAM NEWS Vol.5 No.6 1950】
SSBの普及はQST誌が主導して進んだように思っていましたが、GE社が無償で配布していたHAM NEWSもその普及に貢献したようです。 特にフェージング・タイプのSSBジェネレータでは当時これが決定版と言えたかも知れません。
左は該当のHAM NEWS 1950年11・12月号です。 右側の回路図のように簡単な3球式で5WのSSBがいきなりHAMバンドで得られることが示されています。 使われているAF-PSN(低周波移相器)は後にスタンダードとなるナガード形そのものです。 AF-PSNの製作についてかなりの紙面が割かれています。まだAF-PSNの市販品は一般的でなかったからでしょう。
回路の説明です。簡単な低周波アンプの出力をトランス結合で取り出します。トランスの2次側で2対7に抵抗器で分圧してAF-PSNに与えます。 このAF-PSNは出力側の負荷がオープンサーキット・・・要するに非常に高いインピーダンスで接続されることを前提にしたものです。それを前提にしたことで合理的かつ定型化が可能だったと言えるでしょう。 AF-PSNの出力を受ける回路はグリッドリーク抵抗も省いています。AF-PSNの抵抗分で代用してハイ・インピーダンスを実現します。 バランスド・モジュレータも2+2ダイオード式の合理的なものであり、加算・打ち消しの機能を兼ねた形式です。 類型が後の多くの製作例に見られるように良く考えられた合理的な回路になっています。
参考:マイクアンプや水晶発振器/VFO、さらに電源が外付けだから僅か3球で可能なのであり、既存の送信機を持つているHAM局向けのSSBアダプタの位置付けです。それでも僅かなデバイスで上手くまとめ上げてあると思います。
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Norgaard氏のAF-PSN記事はQST誌にあると思っていたのですが、ARRL発刊のSSB Handbookに詳細はありませんでした。 氏の記事はごく初期のフェージング形式に関する解説のみなのです。これは氏のIREの論文と同じような内容です。 なぜSSB HBに具体的なAF-PSNの回路説明や製作例がないのか不思議に思っていました。 調べて行くとGEのHAM NEWSに具体的で詳しい製作記事があることがわかりました。 HAM NEWSとの関係でARRLのSSB Handbookには具体的な話は掲載できなかったのかも知れません。 ですからGE HAM NEWSを見なければ「よく見かける回路」のルーツはわからなかったのです。
【James Millen No.75012】
GE HAM NEWSにはAF-PSNの作り方・・・主に調整方法ですが・・・が詳述されています。 しかし正確な周波数のわかる正弦波発振器とオシロスコープが不可欠です。 当時世界のHAMの先端を行っていた米国のHAMと言えども、そうしたツールは未だにシャックで一般的ではなかったでしょう。
なんでも既製品が重宝されるのが米国です。 カネで解決できればそれが合理的と言う考え方なのでしょうね。 HAM関係のパーツでは有名なJames Millen社がさっそく調整済みのAF-PSNを販売します。 部品定数はGE HAM NEWSのまま、すなわち後に定番となるNorgaard型そのものになっています。 このユニットを手に入れればあとは難しい部品もないので比較的容易にフェージング・タイプのSSBジェネレータが作れることになります。(たぶん・笑)
【Norgaard PSN / GE HAM NEWS】
左図はGE HAM NEWSのAF-PSNです。 どんな構造で作るのかが説明されていて面白いと思ったので転載しました。
4つ必要な抵抗器(100kΩ×2、133.3kΩ×2)は1%誤差の既製品を使うことで無調整で済ませています。特注しても抵抗器は比較的安価だからでしょう。 各抵抗器に直列あるいは並列になるコンデンサの方は内輪の近似容量のマイカコンデンサとマイカトリマ・コンデンサを組み合わせて作ります。
接続を切り離して独立させ、所定の4箇所の調整周波数でリサジュー・カーブを描かせて真円になるよう「精密に」調整するのです。 そのため各CRの組み合わせが独立にできるような構造に作るわけです。 トリマ・コンデンサを使う方法は調整後の変動が気になるので心配もありますが精度の高い容量計が不要でストレー容量を含めた調整ができるので合理的な製作方法だったのでしょう。 もちろん「1950年当時は」と言う意味ですが。 (実際にやってみると、どこが真円なのかを見極めるのは非常に困難です。真の90度に合わせるのはまず無理なのでどこかで妥協になります・笑)
参考:4箇所の周波数=326.7Hz、490.0Hz、1306.7Hz、1960Hz です。
測定系の位相誤差を取り除く方法をはじめ詳細な調整手順が書いてあります。Blogの趣旨から考えると冗長なので省きますが、詳しくお知りになりたいようでしたらHAM NEWSをメール添付でお送りします。メールにてリクエストしてください。 ネットで探すことも可能です。「GE HAM NEWS」あるいは「GE SSB Handbook」で検索してみて下さい。
【Phase Error vs Sideband suplession】
Norgaard型AF-PSNのルーツがわかったところで、位相誤差とサイドバンド・サプレッション(逆サイドの抑圧比)について見ておきましょう。
左図の左側のグラフはNorgaard型AF-PSNの周波数対位相特性です。 これは実測ではなく計算値です。 誤差なく理想的に作られたAF-PSNならこのような周波数特性が得られるわけです。 Useful Range(有用な使用範囲)は200Hzから3kHz少々となっていますが、実際には位相誤差が90度の±1.3度以内の範囲と考えるのが合理的でしょう。 この誤差1.3度と言うのはこの部品定数で作られたNorgaard型AF-PSNの設計値だからです。 従って音声帯域幅は設計周波数範囲である225Hzから2.75kHzが妥当です。 ちなみに、ちょうど90度となる周波数は250、440、1250、2500Hzです。
なお、逆サイドバンドの抑圧比:SはS=20Log(tan(θ/2))で計算できます。θは90度に対するズレです。 Logは常用対数です。Sの単位はdBです。 例として位相誤差が1.3度だとすれば、tan(1.3/2)=0.011345・・・ですから、S=20Log(0.011345)≒-38.9(dB)となります。(注:振幅誤差はゼロとした場合の計算です)
このようにNorgaard型の位相誤差=1.3度の設計では逆サイドの抑圧比は-40dBに届きません。 しかし、これはワースト・ケースでの数値であり、音声帯域全体(例えば250Hzから2.7kHz)で見ると平均して-45dBくらいの逆サイド抑圧比が実現できるので、十分なものであるとしています。 言うまでもないですが雑に作ったら到底そこまでの性能には至りません。 なめてかかる人もいるようですが、フェージング・タイプは下手なフィルタ式よりもよほど難しいです。
前のBlogで扱ったWSPRのようなトーン信号を送出する場合、このままのAF-PSNでは旨くありません。しかしスペクトラムがランダムに分散している音声通信なら実用性十分なSSB波が期待できると言う意味でしょう。 もちろん、楽々-50dB以上の抑圧比が得られるフィルタ・タイプと比べたら見劣りします。 しかし-40dBなら逆サイドの電力は1/10000に過ぎません。 電力効率に関して言えばSSBのメリットは十分発揮できるので合格点と言っても良いでしょう。 ローカル局が少なく、空いているバンドならNorgaard型AF-PSNを使ったフェージング・タイプのSSB送信機もいまだ実用的だと思います。 2020年現在の無線設備規則におけるスプリアス発射に関し「基本周波数の平均電力より40dB低い値」という規定を満たしています。(音声による通信の場合)
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【Model 350 Type 2Q4 AF-PSN】
ナガード型のAF-PSNのルーツがわかってきたところで、かの有名な2Q4の話になります。
既製品のAF-PSNといえばBarker & Williamson社(以下B&W社)の2Q4(正しくはModel 350 Type 2Q4と云います)が余りにも有名です。 James MillenのNo.75012と併売されていた時期もあるのですが、意外に早く置き換わったように見えました。
当時の実勢価格がよくわからないので、置き換わった理由が価格的な優位性にあったのかまではわかりませんでした。 AF-PSN回路の部品定数は少々異なりますが性能的には同じようです。(Specでは、300Hz〜3kHzで90±1.5°) 詳しく見ると2Q4の方がハイ・インピーダンス設計ですから、幾分ストレー容量の影響を受け易いように感じます。 Norgarrd型のNo.75012の方が使用上では有利そうに思えました。
案外、2Q4がオクタル・ベースになっていたことがウケたのかも知れませんね。 際立ってコンパクトになったとは言えませんが、ソケットに刺す形式は何となくスマートです。 一つの2Q4を色々な自作品で使い回すとは考えにくいのですが、容易に取り外せるのは便利そうに感じてしまいます。 結局、理由は良くわかりませんでしたが、ある時期からAF-PSNといえば2Q4が定番化したようです。(注:オクタル・ベースはGT管の足ピンと同じもの)
なお、JAでは2Q4は輸入品になることから高価だったらしく・・・・$1-=¥360-の時代ですから・・・・AF-PSNといえばその後も自作が続きます。先進的なOMのご研究もあって作り易く改良されたからでもありましょう。 逆に米国ではAF-PSNの自作はまったく廃れてしまい2Q4を買ってくるのが常識になったようです。 SSB用のクリスタル・フィルタを買ってくるのと同じような感覚だったのでしょう。 手間を掛けて少々節約するより手っ取り早く買って解決するのが米国流の合理主義ですから。hi
米国で再びAF-PSNの自作が脚光を浴びるようになるのは、CRを多段にラダー配線して作るポリフェーズ型のAF-PSNが登場してからです。 高精度なCRが不要でジャンクなパーツで高性能なAF-PSNが製作可能との触れ込みでPPSN型が登場しました。しかし謳い文句ほど容易ではなかったように思うのですが・・・?。
【Kuranishi P-5 AF-PSN】
国産の既製品の話です。 クラニシといえばHAM用の無線機や測定器も作っていたので昔からのHAMにはおなじみの会社です。 会社名がクラニシ計測器研究所(KKK)と称していたころAF-PSNを売り出したことがありました。国産品も存在した訳ですね。
写真はP-5型と言うAF-PSNです。 特性はNorgaard型と同等のようです。 話が前後しますが、解析してみたところ、部品定数は後ほど示す設計一覧表のNo.3(JA3MDタイプ)に類似でした。 但しC1とC3は2000pFではなく1800pFになっています。それに伴い、R1が67.5kΩ、R3が270kΩになっています。E系列の1800pFの方が入手しやすいからでしょう。 いずれのコンデンサも2%誤差の米サンガモ製マイカ型です。抵抗器は国産の抵抗値特注品でカーボン型のようです。各アームの時定数はNorgaard型とまったく等しいので同じ周波数特性になります。
見えている可変抵抗:VR1kΩは入力信号を2:7に分圧するためのものです。 リサジュー・カーブを描かせたことがありますが、全部を可変抵抗にしてあるので調整が非常にクリチカルでした。 精密な抵抗器を使って2:7になるよう分圧して無調整式にするか、VRによる可変範囲をかなり狭くなるように絞っておくほうが扱い易いでしょう。 この形式のAF-PSNは原理的に厳密な2:7の分圧比でなければ正常に動作しませんので、そもそも大幅に調整できるように作るのは間違いだろうと思います。
なお、これも4次のAF-PSNですからNorgaard型あるいはB&Wの2Q4と同じような性能が得られるはずです。 国産のHAM用パーツとして歴史的な価値があるかも知れません。 しかし同等以上のものが容易に自作できる現在において電子部品としての価値は失われたと思います。それに50年も前のユニットですから使用部品の経年変化も気になります。 使うのはやめておきましょう。
【クラニシの宣伝広告:1964年3月】
クラニシは昔からユニークな会社でした。流行を逸早く採り入れた製品を登場させてきました。 1964年当時はAF-PSNだけでなく、それを使ったSSBエキサイタやSSB送信機も作っていたようです。
しかしHAMのシャックでは自作品が幅を利かせていましたし、目にしたメーカー製品と言えばトリオとSTARがほとんどでした。 クラニシのリグはごく少数の愛好家にとどまったのかもしれませんね。 もちろん見たことはありません。
件のAF-PSN:P-5型は¥1200-です。 この広告が掲載されていた1964年3月号のCQ Hamradio誌の定価は150円でした。 現代人にとってP-5型の1200円はお手軽そうに感じますが当時のHAMの実感としては意外に高価だったのかもしれませんね。 多くのHAMがAF-PSNを自作していた気持ちが何となくわかってきます。
参考:1960〜1970年代のCQ Hamradio誌を調べるとクラニシの他にもAF-PSNの完成品を販売する例が散見されます。しかし、現品が手元にあるわけでもなく、あまりにもマイナーなので省略しました。クラニシのP-5でさえかなりの珍品ですから。
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【AF-PSN Design Table:AF-PSN設計一覧】
Norgaard型も2Q4型もCRを使ったブリッジ形式になっています。 部品定数は異なりますが、CRの時定数で見れば類似していることがわかるでしょう。 使い方も同じです。
書籍や雑誌記事で良く見かけるこのタイプのAF-PSNの部品定数を一覧に纏めておきます。 Norgaard型と2Q4のオリジナルとそれを発展改良されたJAのOMさんの設計例も一覧にしてあります。 JA3MD大津OMの設計例(表のNo.3)はNorgaard型の変形でありまったく同じ特性です。 No.4〜No.9のJA7LK高橋OMの設計は製作しやすさが考慮されたものです。 ただし全体の周波数は約19%ほど低域にシフトした特性ですから、男声向き(OM向き?)にできていると思います。
半導体時代に合わせて、各AF-PSNの部品定数を見直して低インピーダンスに再設計した例を追加しておきました。 OP-Ampを使って構成するのでしたら低インピーダンスの方が幾らか有利になるでしょう。 但し比較的大きな容量のコンデンサが必要になります。
容量誤差が少なく、温度係数や損失特性に優れたコンデンサが望ましいのでその点の注意は必要です。例えば、スチロール型、ディップド・マイカ型、ポリカーボネート型などが最適です。いずれも安価とは言えないコンデンサなので、5%精度の物を必要数だけ購入し、組みになる抵抗値の方で補正する方法もあります。 ほかに、NP0型(エヌピーゼロがた。CH特性とも言う)の積層セラコンも悪くない選択です。
コンデンサの値が整数倍で済む設計のものがお勧めです。 安価な測定器でも同容量のコンデンサを見つけるのは容易であり、その整数倍なら必要数をパラやシリーズにして構成可能だからです。 抵抗器の方は多少端数が付いても支障ありません。今では精度良く抵抗値を読み取れる測定器が容易に手に入ります。 中途半端な抵抗値の実現も心配いらないでしょう。
入力信号を2:7に分圧する分圧抵抗器はこの回路図には記載していません。 これはOP-Ampを使う形式の場合、結合トランスを省いて増幅比で実現するためここに含める必要がないからです。 具体的な回路は次回のBlogに続きます。
トランス結合式で作る場合、入力信号が良い精度で2;7の比率に分圧できるような分割抵抗を入力側に外付けします。(例:200Ω+700Ω、あるいは100Ω+350Ωなど) 2Q4のピン番号で言えば、1番・5番ピンの側に信号の大きな「7」の方を、3番・7番ピンの側へ信号の小さい「2」の方を配線します。(ピン番号は左図参照)
# いくつか試してみましたがどれも旨く機能してくれました。
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(参考)Norgaard型および2Q4型のほかに、W2UNJのDome NetworkというAF-PSNがあります。 このタイプもSSB関係の書籍などで良く見かけますが、あまりお勧めしません。 精密な解析によると、部品誤差なく製作し最良の状態で動作させても位相誤差が大きいので不要サイドの抑制は30dB前後しか得られないようです。部品数も多いため製作上のメリットもないようです。 (2020.02.25)
【次回は?】
今回の続きとして、OP-Ampを使って構成したAF-PSNユニットを紹介します。 ありふれていますが、なかなか旨く動作してくれるようです。 コンパクトで消費電流も少ないですから、シンプルなSSB送信機には好適でしょう。 なるべくトランスを使わない設計です。
旧式のAF-PSNを使ったフェージング・タイプのSSBなど、いまどきあまり興味も湧かないかも知れませんが・・・。w ご希望次第ではありますが、詳しく扱おうと思います。あいにく(?)ですが真空管式ではなくて半導体です。(笑)
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あらためてフェージング・タイプのSSBについて調べてみたのですが、1970年代にもなるとARRLのアマチュア無線ハンドブック(SSB Handbookではなくてアマハンの方)には製作例が掲載されなくなります。フェージング・タイプはブロック図を使った原理だけの説明になってしまいました。 フィルタ・タイプのSSBジェネレータやそれを使った送信機の製作例は幾つも紹介されているのですが・・・。
2Q4のような既製品のAF-PSNを買い求めたところで、製作と調整は意外に面倒です。良い品質のSSB波を継続して得ることが難しいフェージング・タイプのSSB送信機にはもう見切りを付けたという事だったのかもしれませんね。 フィルタ・タイプのSSBが全勢に(スタンダードに)なった訳です。 その後PPSNで復活を果たすまでフェージング・タイプのSSB送受信機はしばし忘れ去られた存在になってしまったようでした。
JAでも自作HAMが減少するとともにフェージング・タイプでSSBにオンジエアするHAM局は珍しくなって行きます。 1970年代の半ばに輸出CB無線機に関連したジャンク部品が登場すると、放出品のクリスタル・フィルタの活用は勿論ですが、多数放出された同一周波数の水晶発振子を使ったラダー型クリスタル・フィルタが製作できるようになりました。 フィルタ・タイプが手軽になれば簡単そうに見えて意外に難しいフェージング・タイプを試そうとするHAMがいなくなるのも当然でしょう。 それでも80mバンドあたりでは良い音のSSBを目指すOM連の中にあえてフェージング・タイプでオンジエアされるお方もあり、その音質などなかなか興味深くワッチさせて頂く事があります。 あれこれ試して遊びたいHAM局にはバンドが広い15mや6mバンドあたりが適当そうですね。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1
お願い:まだまだ重要な話が抜けているだろうと思います。フェージング・タイプなど古いSSBに関する情報や2Q4のような機材に関する資料など頂ければ、追記あるいは改訂したいと思います。 参考になりそうな何かがあればご連絡ください。
(つづく)←リンクfm
22 件のコメント:
おはようございます。今日は晴天ですが寒くなりそうです。これがいつもの冬なのでしょうが(笑)。
体調を崩されたと伺いましたが、どうぞお大事に。
以前に実験したオールパス型は「労多くして報われず」の感があったので、素子感度の問題はありそうですが、この部品点数でこれだけの性能が出るなら、ナガード型の利用価値はまだまだありそうですね。
試作機にはNP0のMLCCが多用されているようで、その方がいいでしょうね。逆に、フィルムコンは温度特性が意外に悪いです。
有線電話の中継回線は早くからSSB化されていたようですが、初期の頃はご紹介のようにAF相当の周波数から徐々にヘテロダインして持ち上げていたようです。
SSBの音質を云々するなら、前後に挿入するAFフィルタも考慮すべきでしょうね。無線設備規則に適合するよう、急峻なLPF/HPFを挿入すれば、当然音質に影響します。
Wのハムはカネにものを言わせるようですが、手間もカネも出し惜しみするJAのハムは棚ぼた頼み!? あわよくば部品を高値転売してボロ儲け!? あ、その際は「確定申告」をお忘れなく。後で見つかって税務署の「カモリスト」に載ると厄介なことになりますよ(爆)。
JG6DFK/1 児玉さん、おはようございます。 北関東も晴天ですが、かなり寒い朝でした。 暖冬だったので平年並みがこたえますね。
早速のコメントありがとうございます。
> どうぞお大事に。
ありがとうございます。 ちょっと喉が痛いので・・・フツーの風邪でしょうね。 もしコロナでも旧型でしょうか。(笑) だいぶ良くなってきました。
> オールパス型は「労多くして報われず」の感が・・・
次回はオールパスの試作例も扱うつもりです。 やはり部品をよく選別しないと良い性能が出ないのはどのAF-PSNでも同じですね。
> ナガード型の利用価値はまだまだありそうですね。
欲張って逆サイドの抑圧>60dBとか目指そうとするとダメですけれど、実用的な>40dBで宜しければ十分使い物になると思います。 まあ、ナメてかかって部品精度を落とすとすぐに20dBとかになっちゃいますけれど。(笑)
> NP0のMLCCが多用されているようで・・・
小型化するにはこれが一番良いようでした。 マイカコンやスチコンも良いのですが、容量が大きくなると大型化します。NP0の積層セラコンは小型化に最適でした。
> フィルムコンは温度特性が意外に悪い・・・
マイラコンデンサで作ったことがあるのですが、室温に馴染むまで安定しなくて困ったことがあります。 ラフな用途なら支障ないのですがAF-PSNにはイマイチでした。
> 徐々にヘテロダインして持ち上げていたようです。
メカフィルの登場まではLCフィルタでしたから低周波に近い方でSSB化して次々にヘテロダインして多重化・・・すべてがアナログ技術ですから大変だったでしょうね。hi hi
> AFフィルタも考慮すべきでしょうね。
厳密にやろうとすると急峻なフィルタが必須ですが、自身の音声だけが目的と割り切れば簡単なフィルタでも大丈夫だと思います。 もちろんそれで音楽を流すなどもってのほかですけれど。
> 手間もカネも出し惜しみするJAのハムは・・・
最近のカムバックHAMのお方はお金もお持ちですから・・・でも、金で解決だと誰でも同じになってしまいます。 最後はロケーションとか「情熱」だけの勝負になってしまうでしょう。 そこに帰結してしまったならあまり面白くもない趣味だと思ってしまいますね。
そういえば確定申告があるんでしたね。 厄介だなあ・・・。w
加藤さん、
アナログPSNのSSBは温故知新の世界ですね。私もARRLのSSBハンドブック(第5版)を持っていますので、調べたらPSN送信機の記事がありました。AF PSNは定番のB&Wの2Q4ではなく26mHの可変インダクタを使っていました。元ネタは 1950年のGE Ham News のS.S.B Jrと備考欄に書かれていました。ただ James Millenのパーツを使っていませんので45年前の当時でも絶版かと推察されます。冒頭に軍放出品のFT-241クリスタルを使ったフィルターの作り方の解説があります。既にMc Coyのクリスタルフィルターが普及していたので、フィルターも完成品を奢る記事が主流でした。
開局当時ローカルでトリオのモノバンドPSN機のTX-15を使っている者が居ましたが、ローカルラグチューの最中、逆サイド漏れやキャリア漏れが起きて絶えず調整が必要でした。同じくローカルがバンド毎にVFOコイルが切り替えるFL-50を使って居たのでQRHが激しく、こちらも絶えず調整が必要でした。
真空管時代は熱で定数が変化しますが半導体なら新な可能性がありますね。デジタル通信のWSPRといにしえのPSNを組み合わせるのは正に趣味人の世界ですね。
JR1QJO 矢部さん、こんにちは。 買い物に出かけたのですが、外気温6℃で寒かったです。
いつもコメントありがとうございます。
> B&Wの2Q4ではなく26mHの可変インダクタを・・・
矢部さん、その右のページを見てください。四角の中に数字が書いてあるでしょう? それが2Q4の端子番号です。その26mHの方はLPFでしょう。hi hi
実際にLC回路を使ったAF-PSNというのもありました。 但しCRで作るよりも厄介なので珍しい存在です。 原理的には可能なのですがLがたくさんあると益々厄介ですからね。hi hi
> フィルターも完成品を奢る記事が主流でした。
今でこそ測定手段が一般的になったのでフィルタの製作は容易ですが、昔はとても高級でした。 SSB用のフィルタは「買うもの」と言うのが常識でしたね。
> トリオのモノバンドPSN機のTX-15を使っている・・・
当局のローカルにも40Sをお使いのOMさんがおりましたがCW送信機としてお使いでした。音声でQSOしたこともありますがマトモなSSB送信機ではないと仰ってましたね。(笑)
> こちらも絶えず調整が必要でした。
FL-50はバンドによってVFOの周波数が非常に高いため不安定でしたね。 でもあの程度のRigでも精一杯だったんです。 AM局にSSB機は羨ましかったですよ。hi
> 正に趣味人の世界ですね。
手抜きをするとマトモにならないのでフェージングタイプは初心者向きではありませんが、アナログな研究テーマとしては面白いです。 ローカルさんと遊ぶくらいなら楽しいテーマでしょうね。 WSPRは5WとQRPですし迷惑にならないと思っています。
ショートブレークです。
GE Ham News のS.S.B Jrは当時のPSNのデファクトなのですね。
記事の本文には肝心のPSNが触れられていなく、VOX回路なので説明など付属回路の説明
ばかりで不思議に思っていました。
>矢部さん、その右のページを見てください。四角の中に数字が書いてあるでしょう? それが>2Q4の端子番号です。その26mHの方はLPFでしょう。hi hi
確かに部品リストにさり気なく J3 Octal Tube Socket (for B & W 350 phase shift net.)と
書かれていますね。これは一本取られましたHiHi
JR1QJO 矢部さん、あらためてこんにちは。 日も傾いてきましたね。夕方の散歩に出かけようと思ってます。 日もだいぶ伸びてきました。
再度のコメントありがとうございます。
> 本文には肝心のPSNが触れられていなく・・・
もうAF-PSNは「買ってくる」が常識になってしまったんでしょうね。 ブラックボックスでも良くなってしまったので中身には触れないのでしょう。hi
> さり気なく J3 Octal Tube Socket (for B & W 350 phase shift net.)と・・・
AF-PSNの部分はもう書かないで済ませるようになってしまったんでしょうね。米国らしいです。
では、散歩に出かけてきます。
加藤さん、こんにちは。
急に寒くなったと思ったら今週末からは春の陽気になるようですね^^;
手持ちの書籍を眺めてみますとCQ出版のS44年発行SSBハンドブックには「フェージングタイプ送信機」という項目が10ページほどとられていてナガード型と2Q4、W2UNJ型のAF PSNが解説されていました。
S42年のアマチュア無線入門ハンドブックには「PSN3球SSB送信機」の製作記事が掲載されていますが、AF PSNは1.5kオームの抵抗器2本と0.1uFのコンデンサ2個という簡易型でした。記事には「自分の音声の周波数に合わせてRの値を調整しろ」と書かれてます、どんな電波が出たのでしょうか?w
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんにちは。 寒いのはこれで終わりで良いです。やはり暖かいほうがFBですね。暑すぎも困りますけれど。(笑)
いつもコメントありがとうございます。
> CQ出版のS44年発行SSBハンドブックには・・・
同じハンドブックをBlogの参考にさせてもらいました。 あとは散発的にHJ誌にもPSNの記事があったと思うんですが、詳しく探してません。 休刊になる頃の号にはPPSNの特集が何回かあったように思います。 PPSNのテーマのときには参照したいです。hi
> ナガード型と2Q4、W2UNJ型のAF PSNが・・・
うんと古い記事には別のタイプの紹介もあるのですが製作例など見当たらず、ほとんど実績はないみたいです。 結局お書きの2種類とその派生型に収斂したんでしょうね。
> ・・・抵抗器2本と0.1uFのコンデンサ2個という簡易型でした。
これ、CQ誌にも掲載されたのでよく覚えてます。 AM送信機しか持ってない(貧乏な?)HAMが手軽に遊ぶ教材だったような。(貧乏というのは私のことです・笑)
> どんな電波が出たのでしょうか?w
実験はしていませんが、DSBよりもSSBぽい波が出せたようですね。 迷惑になるから「ハイパワーはダメよ」って書いてあったような記憶が。(爆)
こうした記事もあったのでいかにも簡単そうに見えたのかもしれませんが、ちゃんとしたSSBでオンジエアにするにはかなり努力が必要だったようですね。 hi hi
再びこんにちは~
僕も寒いのは嫌いなのでこのまま春になって欲しいですw
>あとは散発的にHJ誌にもPSNの記事が・・
HJ誌100号の付録に付いていた記事のDBを「PSN]で検索してみますと#13
#45,#48,#49,#52,#56,#86,#91,#93がヒットしました。
PPSNが多いですが#86の「手作りSSBにチャレンジ!!」や#91の「究極のPSN SSBジェネレータ完成!!」はびっくりマークが2つも付いていますから凄いのかも、まだ見てませんが(爆
>CQ誌にも掲載されたのでよく覚えてます
僕もこれなら作れるかなとおもって記事を何度も読み返していました。
今は簡易型になればなるほどちゃんと測定しないとまともな電波は出ないって事が理解できましたが、新スプリアスでガチガチな今よりも楽しかっただろうなあと思いますw
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、再度こんにちは。
さっそくの調査ありがとうございます。 DBを使う手がありましたね。hi
> #45,#48,#49,#52,#56,#86,#91,#93がヒットしました。
そんなにありましたか! やはり手作派読者が多かったHJ誌には記事も多いですね。
> びっくりマークが2つも付いていますから・・・
あとでじっくり見たいと思います。 ECL-ICを使ったRF位相器とかあったように思うのでそう言う記事でしょうね。hi
> これなら作れるかなとおもって記事を何度も・・・
やっぱり期待しますよねえ!! ずっと後になってフェージング・タイプと第3の方式を実験したのですが、結局のところマトモなSSBは「フィルタ式に限る」と言うのが結論でした。 遊んでみるのは面白いんですが、どうしても不安定なシロモノで。(笑)
> 今よりも楽しかっただろうなあと思いますw
SSBとして申請するとスプリアス規定に引っかかるので、AM送信機として申請すれば良さそうだと思ってます。 ただしあまり本格的なSSB波にしてしまうと帯域幅が足りず旨くないかも知れませんけど・・・。 実験でDSB(A9)や残留キャリヤ(A3H)などを試すには宜しいかと。w
このコメントまで読むお方もあるようなので追記しておきます。
さっそくHJ誌のバックナンバーをザーッとですが・・・見てきたました。
みなさん、PSNがお好きなお方が多いようで非常に努力されている様子が感じられました。 一言で言ってどの記事も「すごい」のです。(笑)
各形式について数学的解法やシミュレーションなど駆使されています。 そのような手段は回路形式の本質を掴む上で非常に有効です。コンピュータ解析は既に常識になりました。 バックナンバーのAF-PSNの解析結果はたいへん勉強になります。
それで、身もふたもないようですが:問題は、机上の(コンピュータ上の)性能が現実の機器でどの程度実現できるのか・・と言うことだと思います。 私も色々実験してきたので実感していますが、よほど注意しても現実は理想に対してかなり及ばない・・・と言った所かと思います。 瞬時的にはなかなか良い数値も得られますが、それをずっと維持するのが特に難しいのです。 フィルタ・タイプならいとも容易いのに・・・です。 結局、良質のフィルタを使ったSSBに軍配といった結論だったことを思い出します。
おそらく、ごく限られた性能で何とかなりそうな WSPR用のQRP機くらいなら可能そうと思います。 音声用を今から試しても多くのお方の期待とはだいぶ違ったものでしょう。
あまり書くと拘りと情熱を持って実験されたOMさん方の失礼になるかもしれませんので程々にしておきましょう。 今さらながらフェージング・タイプは「難しい」のです。(笑)
アナログですべての音声周波数の位相を90度にずらすのは至難の業だと言う事ですね^^;
PSNで綺麗なSSBを出すにはDSPを使用したデジタルPSNが必要ですね。
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんばんは。 今日は散歩日和でした。なかなか清々しかったです。
再々のコメントありがとうございます。
> DSPを使用したデジタルPSNが必要ですね。
原理的にはこれが一番確実な方法だと思います。
ただし、音声帯域を例えば200Hz以下といった低域まで伸ばした上で、位相誤差を極力小さくしようとすれば出力が現れるまでの遅延時間が無視できなくなるように思います。 これはDSPチップの演算速度とは無関係な・・・本質的に音声の周波数が低いのが問題なので改善できないかも知れません。 アナログ式のPSNなら遅延はほとんどゼロなのに・・・。(笑)
やっぱりフィルタ・タイプが一番自作向きだと思ってしまいますね。hi hi
自分の過去Blogを見ていたのですが:
フィルタ・タイプの逆サイドのサプレッションは簡単に60dB以上ですね。 CB無線機用のチャチな7.8MHzのフィルタで作ったSSBジェネレータでも68dBの実測値。 キャリヤに近付くともう少し劣化すると思いますが、それでも50dBを割ることはないでしょう。
50dBを継続して・・・例えば調整後3ヶ月後でも・・・はPSN式では非現実的ですね。
SSBジェネレータを自作するつもりならフィルタ式で作ってください。それが現実的です。
こんばんは。今日は晴れても寒かったです。週の後半は悪天候でも暖かくなるとか。
さて、「FCZの寺子屋シリーズ #129 50MHz PSN SSB送信機」にも、1.5kΩ+0.1μF×2組という超簡易型AF-PSNが使用されていました。
「The FANCY CRAZY ZIPPY No.220」にその技術的背景が掲載されていて、そのルーツは「ハムライフ別冊・SSBマニュアル 2球でSSBを出そう(JA1ZB 松田 功 氏著・電波新聞社 1973年第2版発行)」にあるとのことでした。
ちなみに、このAF-PSN当然(!?)不十分な性能で、確か800Hz近辺以外では位相差が90°にならなかったと思います。
そこで、先の#129では不要なサイドバンドがなるべく出ないようにBPFを入れてあったのですが、私はそのような事情があるとは知らずにAFを広帯域化した「改悪版」を作ってしまい、FCZさんから一喝されたことがあります(笑)。しかも、0.2W近くにQROもしていたので「けしからん!」と(爆)。その後、AFの回路は変更しました。
同誌の「3石トランシーバコンテスト」に触発され、アクティビティを上げ始めた30年ほど前に製作したものですが、その「改悪版」は現存しています。
#129を開発したのは1983年だそうで、当時は今ほどスプリアスの規制は厳しくなかったはずですが、それでも、どこぞの大OM様がその利用者に対してイチャモンを付け、FCZ誌上で論争になったことがありました。
幸い、私自身がイチャモンを付けられたことはなく、音質に関する指摘も特にありませんでした。逆サイドバンドを確認してもらったこともありましたが、一応、SSBの体裁にはなっていたようです。
当然、このAF-PSNが不完全であることは開発当初からFCZさんも十分認識されており、先のFCZ誌には「これから製作するなら、AF-PSNはオペアンプによるもの(たぶんオールパス型)を」という旨の記述があります。
もともと、先の#129は初心者でも簡単に製作できるものを目指したのでしょうが、その調整は「スペシャル級」に難しかったようです。
ご参考まで。
JG6DFK/1 児玉さん、こんばんは。 明日から4月の陽気になって暖かいとか・・・。 こちら今夜はまだ寒いですね。
再度のコメントありがとうございます。
> 1.5kΩ+0.1μF×2組という超簡易型AF-PSNが・・・
FCZさんのKITですから、おそらく、初心者のお方に難しく考えずに挑んで欲しいと言うお考えだったのでしょう。 SSBマニュアルの回路は見たことがあります。 上の方のコメントで超簡易型が話題になりましたが、それとほぼ同一です。
> 800Hz近辺以外では位相差が90°にならなかったと思います。
原理から言って、どこか1箇所の周波数でしか90度にはならない回路ですから仕方ないですね。
> AFを広帯域化した「改悪版」を作ってしまい・・・
まあ、マトモなBPFを入れたところであのPSNじゃそれなりにしかなりませんけれど。hi
> 一応、SSBの体裁にはなっていたようです。
中音域が減衰しますのでそれなりにSSBっぽくなるのは嘘じゃないです。 簡易型ではあっても、AMオンリーのHAM局が試して遊ぶSSB入門には悪くないアイディアだったと思います。 何しろジャンク箱にありそうな部品で全部揃います。
> 「これから製作するなら、AF-PSNはオペアンプによるもの・・・
Allpass型も部品の精度はシビアですから簡単ではないですが、簡易型へのクレーム(論争?)を見て、次にやるならマトモなPSNでと言うアピールだったのでしょうか。
> その調整は「スペシャル級」に難しかったようです。
スペアナとか高級な手段が使えるなら、逆サイドが打ち消される様子が手に取るようにわかります。でも受信機でモニタすると言ったやり方でしょうから簡単ではなかったでしょう。 実はスペアナでやっても良いところを見つけるにはそれなりの工夫が必要ですから。(笑)
面白いお話ありがとうございました。
先日SSB受信のソフトウェアをデジタル信号処理で作った時にヒルベルト変換のフィルタによるPSNベースでやろうかとも思ったことがあります。しかし、フィルタ係数の計算がうまくいかなくて、結局周波数シフトしてバンドパスフィルタに通して逆の周波数シフトをやって戻す、というのをやりました。この場合カットオフが急峻でないと音声の低域が出なくなってしまいますね。送信でこれをやるとなるとセパレーションに影響します。デジタル信号処理ですらこれですから、複数回路の特性の揃わないアナログ回路だと、調整が大変なことになってしまったのではないかと想像します。
PSNでCW受信フィルタを作る、というのがそういえば昔あったような気がします。狭帯域にできるのでOPampのアナログ回路でも実用になったという記事だったように思います。
Kenji Rikitake, JJ1BDX(まだ/3)
JJ1BDX/3 力武さん、おはようございます。 今日は気温上昇するそうですが、朝は寒かったです。
いつもコメントありがとうございます。
> SSB受信のソフトウェアをデジタル信号処理で・・・
送信の方は逆の処理になるのだと思いますが、詳しくないので適切なコメントができません。 しかし、デジタル処理でもそれなりに難しい問題もあるようですね。
> 複数回路の特性の揃わないアナログ回路だ・・・
極力同じになるように2つの回路を作りますが・・・。 例えばOP-Ampは理想部品のように扱いますが、オープンループ・ゲインも内部の位相補償容量もばらつきがあります。 そのため0.何度と言った位相の回転(位相の遅れ)もバラつくのでシビアなPSNでは大問題です。 Allpass型で位相誤差を極力少なくしようと画策して、多段形式にすれば益々部品のばらつきを抱え込むことになってしまいます。
> PSNでCW受信フィルタを作る、というのが・・・
これは記憶にないのですが、帯域幅を狭めてやればPSNでも実現性があるかも知れませんね。
PSNで性能を極めようとすると大変な努力が必要で、それでもなかなか報われないように思います。 だからなおさら皆さんチャレンジされるのでしょうか?(笑)
JR1KDA / 岩崎です。
加藤さん
復刻版 無線と実験 501回路集を見ていたらセントラル・エレクトリック 10B 型主要部としてフェージング・タイプの SSB エキサイターが出ていました。
で、セントラル・エレクトリックを見てみたら PSN タイプのエキサイターや送信機を作っていたようです。
こちらにサイトがあります。
http://www.ce-multiphase.com/sideband-ge.html#top
会社自体はゼニスの子会社になって消滅したようです。
創業者の Wes Schum, W9DYV は、GE の Donald E. Norgaard (W2KUJ / W6VMH)と親しかったらしく、Don から技術情報を受け取っていたようです。
SSB の原理を書いた Don からの書簡がこちらの URL にあります。
http://www.ce-multiphase.com/ssb-schum.pdf
こちらの URL を見ると、
http://www.ce-multiphase.com/tech-info-ssb.html
SIDEBAND SUPPRESSION ISSUES: Central Electronics 100/200V
という記事の中に
A special audio phase shifter was developed, using matched precision components, whose accuracy allowed suppression in the range of 55 to 60dB.
と書かれています。
本当にここまで行くのか分かりませんが、PSN としてはすごいですよね。
こんな会社があったんですね。
JR1KDA 岩崎さん、おはようございます。 今朝は良いお天気です。 花粉が凄いとかで警戒中です。hi hi
いつもコメントありがとうございます。
> フェージング・タイプの SSB エキサイターが出ていました。
メーカー製のSSBエキサイタ/送信機の情報ありがとうございます。 聞くところによればCentral Elec.の機械はSSB黎明期をご存知のOMさんには良く知られていたようです。 無線と実験501回路集に回路図がある10A型はGE HAM NewsのSSB Jr.とほぼ同等ですね。hi
> Don から技術情報を受け取っていたようです。
Norgaardの書簡はフェージング・タイプの原理が詳しく書かれていますね。 手書きなのでちょっと読みにくいですが・・・あとでじっくり追ってみたいです。(笑)
> 本当にここまで行くのか分かりませんが、PSN としてはすごいですよね。
すごいです。 Central 20Aのことらしいですが、10AのNorgaard型を発展させた形式のようで、一段と広帯域で高精度のAF-PSNを使っているようですが・・・。 回路図とか見つからなかったのでなんとも言えません。hi 位相誤差を少なくできれば原理的には50dBとか行く理屈です。 問題は真空管で作っていた時代に、ベストな状態にバッチリ調整してからどれくらいそれが維持できるのか?・・でしょうね。
> こんな会社があったんですね。
一時期はかなり注目された会社だったようですが、ラフに作っても楽々60dBとか行くフィルタ・タイプの有利が確定すると扱いがデリケートな送信機は売れなくなったのではないでしょうか? 技術的には面白いですが、ユーザーは扱いが楽な方を好みますよね。hi
詳しく触れませんでしたがTRIO(現Kenwood)にはPSNタイプ送信機(キット)がありました。 真空管を使い、SSBジェネレータ部はプリント基板化されていて均質化を図っています。 しかし、実際には非常に不安定なシロモノで、逆サイドの抑圧もキャリヤ・サプレッションも褒められたようなものではありませんでした。調整してもすぐズレてくるんです。(笑)
やはりフェージング・タイプで綺麗なSSBを常に発生させるのは難しかったのでしょうね。 モノバンド送信機シリーズのうちTX-20Sがあるので、いずれ写真入りでご紹介でもできたらと思います。
FBなお話ありがとうございました。
JR1KDA / 岩崎です。
もうずいぶん前に会社で定年前の閑職についていた頃、暇に飽かせて Scilab を勉強し、PSN タイプの SSB 信号を計算した事があります。
Scilab だとヒルベルト・フィルターが関数一発で作成でき、配列の掛け算だけで SSB 信号が作れます。これは一定時間だけのシミュレーションだからできる事で、実時間だとフィルター段数分の遅れが入りますから、それが大変ですよね。
それでも、今なら MATLAB で計算して、そのまま DSP ライブラリが使える FPGA に持って行って比較的容易にアマチュアでも SSB 信号を作れるんだろうと思います。
悲しいかな私にはそれを実現するための詳細を論じる知識がありませんけど。
やはり PSN タイプはデジタル信号処理が向いていると思います。
続編、期待しています。
JR1KDA 岩崎さん、こんにちは。 晴天で暖かですが、電離層はまだ春にはなっていない感じです。日が沈むとハイバンドはぜんぜんです。hi
再度のコメントありがとうございます。
> PSN タイプの SSB 信号を計算した事があります。
面白いご経験でしたね。 趣味に役立つ勉強は少々苦労があっても楽しいと思ってしまいます。(笑)
> ヒルベルト・フィルターが関数一発で作成でき・・・
詳しくはないのですが、ツールには関数ライブラリが揃っているようで、一般的なフィルタなど大抵のものは一発で行けるようですね。 そうしたフィルタの一種ですしね。hi
> 実時間だとフィルター段数分の遅れが・・・
そうなんですよね。 VOXを使ってラグチューとかしようとすれば、0.5秒の遅れでも気になってしまいますから無線機では信号処理による遅延はかなり問題なんです。 受信機でもDSP処理のリグはアナログなラジオと比べると音がだいぶ遅れて聞こえてきますし・・・送受で遅延があると結構悲惨です。hi
> 比較的容易にアマチュアでも SSB 信号を作れるんだろうと思います。
もちろん、デバイスの扱いとツールの扱いなど知らないと手出しもできないのでハードルはありますが、そう言う方向がトレンドですよね。 メーカー機もその方向ですし。
いずれArduinoのように費用もかからず誰でも簡単に試せるようなハード/ソフトが登場するように思います。期待したいと思います。
> やはり PSN タイプはデジタル信号処理が向いていると・・・
アナログではどうしても不安定さが残ってしまうので努力しても限界があります。
> 続編、期待しています。
ありがとうございます。 残念ながらデジタルじゃなくってアナログですけど。(笑)
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