【デジタル・モード・トランシーバ:ADX-S製作】
abstract
The ADX-S is a modification by BD2CR Adam Rong of the ADX digital mode shortwave transceiver developed by WB2CBA Barbaros Asuroglu. Both software and hardware are open source and information is available on GitHub. He referred to my Blog article when he improved the ADX-S. I was wondering what part of my Blog he referred to. I contacted the distributor, JL1KRA Nakajima-san, and asked him to distribute it. The reference was a Blog article about a shortwave receiver using the TA2003P chip for radio. Then I received a request from Mr. Rong to improve AGC. I immediately experimented with it and the conclusion is that AGC is not necessary for ADX-S. (2024.04.24 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【ADX-Sキットが届く・・・】
ADX-Sと言うシンプルなトランシーバのキットが好評なようです。JA局へ頒布を仲介されているJL1KRA:中島さんのサイトを拝見していると頒布の開始、すぐ品切れの状況です。
このADX-Sですが聞く所によるとJA9TTTのBlog情報を参考にしているとのこと。どんな所を参考にしているのか興味を覚えたのです。まあ、興味というよりちょっと心配になったと言った方が良いかも知れません。 Blogを参照した「いかなる結果にも責任は負わない」って書いてはいますが気になりました。(笑)
もう昨年のことですが、お問い合わせ致したところJL1KRA:中島さん、開発者のBD2CR:Adam Rongさんのお世話で製作する機会が持てました。どうもありがとうございました。
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勿体ぶってもしょうがないので、さっさと書いてしまいましょう。それは何かと言うと:このBlogにはTA2003Pと言うラジオ用のICチップを使い短波ラジオを作ると言う話(←リンク)があります。それを参考にしたそうです。その短波ラジオにはCWやSSBを聞く目的でBFOが付いています。この辺りが一般の短波ラジオとは違うところですが、それをADX-Sの受信部に採用したようです。
ADX-Sにはその元になるトランシーバが存在します。WB2CBA / Barbaros Asuroglu氏が設計したADXと言うものです。周波数と送受信の制御にAruduinoマイコンを使うものでプログラムほかオープンソースになっています。興味を覚えたようなら検索すればGitHubに情報が見つかります。
ADXも受信部にTA2003Pを使うことは同じですがTA2003Pのミキサ部を検波に使ったダイレクト・コンバージョン形式です。ではADX-Sは何が違うのかといえばADXが検波に使っていたミキサ部を本来の用途であるコンバータ回路として使ったところです。要するにDC受信機からスーパ受信機に発展させたのです。スーパ・ヘテロダインの「S」を付けて型番をADX-Sとしたのでしょう。この改良はBD2CR / Adam Rong氏によって行なわれました。ADX-Sも同じくオープンソースになっています。
ADXがADX-Sになって向上したのは「感度」に違いありません。I-F Ampのゲインが加わるのですから30〜40dBはゲインがアップします。オリジナルのADXの使用経験はありませんが、やはり感度では差が付くのではないでしょうか。 あまり良いアンテナが望めない移動運用に於いてはアップした感度はたいへん有益なはずです。
【メイン基板の製作】
製作方法の詳細を書くのはこのBlogの役目ではありません。作り方や手順はJL1KRA:中島さんの頒布サイト(←リンク)に詳しく解説されています。Kitに付属のドキュメントも良く参照する必要があります。
Kitは始めに部品の過不足がないか確認する作業がとても大切です。確認しながら分類しておくと製作がスムースに進みます。付いてきた部品の形状を把握しておけば実装する際の注意ポイントもわかってきます。 もちろん製作の工程と手順の確認も重要なポイントです。 プリント基板の表裏を間違えると言ったポカミスも防げるはずです。
以前、古くからキット頒布されているお方に伺ったことがあるのですが、こうした基本の作業を怠っていきなりハンダ付けを始める人がいるそうです。
傾向として、ちゃんとやらないのは意外に「OMさん」に多いんだそうです。それでつまらん失敗の挙句、頒布者にクレームが来るんだとか。しかも言うことだけはご立派なくせに、返却品を見たらいい加減なことは一目瞭然だそうで・・・ハンダ付けさえも怪しいとか。大のオトナがみっともないくらいだそうです。(笑)説明書読むのは煩わしいかも知れませんが先ずは読んでみて手順の通りにやった方が確実ですね。恥もかかずに済みます。w
少ないとは言っても写真のような部品があります。 普通の電子回路にはそれほど冗長性はありませんから、ハンダ付けが1ヶ所マズイだけでもきちんと働きません。 適切なハンダコテを使い確実なハンダ付けを心がける必要があります。
両面パターンのスルーホール基板です。一旦ハンダ付けしてしまうと専用のリペアツールが無ければ付け直しは「かなり困難」です。特に足の多い部品は間違えないように挿入します。 ハンダコテは弱い物(ワット数が小さい物)よりもややパワーのある物を使った方が確実です。 弱いコテを長い時間当てるよりもパワーのあるコテで短時間でサッと済ませる方が部品へのダメージも少ないものです。
付属部品の分類・整理を済ませてから、通電・動作テストできる状態までに必要な製作時間は5時間くらいでしょう。これにはLPFモジュール(下記)を1つ作る分も含まれます。私の場合、写真撮影や簡単な測定評価の時間も含んで昼から始めて夕方にはテストできる状態になりました。製作をじっくり楽しみながら実質5時間くらいで作れそうな規模のKitです。
【LPFモジュール製作】
オンジエアする際はLPFモジュールをバンド毎に付け替える必要があります。このLPFモジュール部分の製作が意外に面倒でした。
各モジュール毎に3個ずつコイルを巻く必要があるからです。(全部で4バンド分ですから12個も!) 2つがLPF(ローパスフィルタ)用で、一つがD級アンプの負荷コイルです。
コイルの部分は部品を所定の場所にハンダ付けするだけでは済まないので時間が掛かります。 手際良く進めても1つのバンドあたり30分くらい掛かるでしょう。 だんだんコイル巻きにも慣れてくるので最後の方はもうちょっと早く作れるかも知れませんが・・・。
【ADX-Sの回路】
左の回路図を見れば非常にシンプルなトランシーバとわかるでしょう。
制御回路にArduino nanoマイコンボード、周波数シンセサイザにSi5351ボードと言った既成のモジュールを使い外付け部品が最小限で済むよう工夫されています。
重要な周波数シンセサイザ部は定番のSi5351モジュールで、これ一つで送信、受信局発、BFOの3つの発振器の機能を実現しています。 組立の過程で周波数キャリブレーションを行なって十分な周波数精度が得られるようになっています。 FT-8用としてはマズマズの周波数安定度が得られていると思いました。WSPRには少し厳し感じですかね。
受信部はラジオ用ICのTA2003Pを使っています。TA2003Pはもともと外付けの少ないICですがアンテナコイルを省く、局発は外から与えると言った方法で簡略化しているのがわかるでしょう。TA2003Pの検波出力は何も増幅せずに復調用パソコンのマイク端子へ送られます。
送信部も見ての通り簡単な構造です。 Si5351の出力を高速C-MOSの74ACT244で強化して終段をドライブします。終段アンプはBS170と言う小型Power-MOS FET(3本パラ)を使ったD級アンプになっています。これで高効率に出力電力2〜4Wを得ています。
【LPFモジュールの回路】
ローパス・フィルタ部は小さな基板モジュールになっています。
運用するHAMバンドに応じてメイン基板のコネクタに挿入します。 バンドを変更するたびにLPFを交換しスイッチでバンド設定せねばならないので少し面倒臭いです。
しかしたいへんシンプルな構造のトランシーバですからやむを得ないでしょう。 慣れればそれほど面倒とも感じなくなりそうです。(笑)
【ADX-S完成】
意外に時間がかかったのはプラケースの加工でした。(上記の5時間にはケース加工は含まれません) ポリエチレンで出来た半透明の収納ケースは中途半端に柔らかくて加工しにくいのです。見ての通り出来栄えはあまり宜しくありません。w
たぶん適切な加工用工具と作業方法があるのでしょう。 しかしコツを掴む前に完成してしまいました。(笑)
ADX-Sのバンドごとの出力パワーを測ってみました。
40m Band Po=2.9W 消費電流=510mA
20m Band Po=3.4W 消費電流=550mA
15m Band Po=1.7W 消費電流=390mA
10m Band Po=1.6W 消費電流=410mA
・・・のようになりました。電源電圧は12Vです。負荷は50Ωの終端型パワー計です。
ファイナルのBS170はRFアンプ用ではなくて単なるスイッチング用MOS-FETなのでハイバンドで効率が落ちるのは仕方ないと思います。ドライブも掛かりにくくなってくるのでしょう。
受信感度はなかなか良好で十分実用的だと思います。拙宅ではメインにIC-756proを使っていますが受信状況に大きな違いは感じられませんでした。 超強力なローカル局がオンジエアすると言った環境では厳しいと思いますが、そうしたことさえ無ければ問題はないでしょう。よく聞こえ(見え)ます。
ADX-SはAndroidスマホと組み合わせて使う人が多いようです。アプリにFT8CNを使うと自動交信まで可能だそうです。 まあそこまでして面白いかどうかは別ですが・・・。 Androidスマホが手に入ったら試してみたいと思いますが寝ていて知らぬまに交信済カントリが増えるなんて何か意味ってあるんですかね?(爆)
もちろんWSJT-XやJTDXと言ったパソコン用のアプリでオンジエアすることもできます。心配いりません。アナログ・インターフェースで使います。
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ADX-S製作の話はここでおしまいです。 続いてこの先は改造検討をする話になります。
【AGC回路の検討】
私のBlogにあるTA2003Pを使った短波ラジオの回路ではAGCが効かせてあります。その代わり注入するBFOはなるべく絞って最低限必要な大きさに調整する必要がありました。
Blogで作る短波ラジオのコンセプトは「単なる短波ラジオ」なのでBFOの機能はおまけ程度です。ですからそれでも良かったのですが、HAM専用受信機ともなると事情も変わります。 ADX-Sが組立Kitなのも厄介で製作者個々にBFOの注入レベルを調整しろとは言えないでしょう。 そこでADX-SではBFOをFT-8などの信号復調に十分なだけ(強く)注入しています。
もし、そのままAGCを働かせたなら注入したBFO信号でAGCが掛かってしまいI-F Ampのゲインが抑制されてしまいます。これでは感度が低下してマズイです。そのためADX-Sの回路ではAGCをGNDにバイパスしてその機能を無くしています。常にフルゲインで動作する状態になっています。
BD2CR / Adam Rongさんもこの辺りに課題を感じたらしく、ADX-SにAGCは掛けられないだろうかというご提案をいただきました。 写真はAGC回路の実験の様子です。
【TA2003Pに外からAGCを掛ける】
TA2003Pはオールインワンのラジオ用ICなので回路の途中を切り離すと言った工夫は出来ません。そのためI-F Amp.の終段から信号を取出してAGC用の信号を作る・・・と言ったような手法は不可能です。
可能性があるとしたらオーディオAGCということになります。BCLラジオのようなAM受信機の場合オーディオAGCはうまくありませんが、SSB/CWそしてFT-8などデジタルモードの受信なら十分な可能性があります。
図はADX-SにAGCを付加する回路です。検波出力を十分に増幅し整流したあとOP-Ampのバッファアンプで外からAGCを掛けるというものです。 TA2003PのAGC機能を解析しIC内部の駆動インピーダンスなどを検討して、図のように外部から強引にAGCを掛けても支障ないことを確認してあります。(内部のAGCは抑制されます)
TA2003Pの回路構成上の制限から本格的な通信型受信機のようなAGC特性は望めませんが少なくとも40dB以上のAGCレンジが得られました。 ADX-Sの改良は別としてもTA2003Pでデジタルモードを含めSSBやCWの受信機を作るにはマズマズの方法でしょう。強めのBFOを注入して、しかもちゃんとAGCを効かせられます。Sメータももちろん付けられます。
Rongさんのご要望にはお応えしたつもりなのですが、オーディオAGCはあまりお気に召さなかったようです。 なのでこれ以上進めるつもりもないためラフな手書きのメモでおしまいです。ちょっと見にくいかと思いますがあしからず。(笑)
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通信型受信機に造詣の深いお方がADX-Sの回路を見たら驚愕(卒倒?)するでしょう。 何しろ受信機の3S(感度、選択度、安定度)の2つがないがしろです。 まあ周波数安定度は周波数シンセサイザですから良いとして・・・。
受信のイメージ・レシオはほぼ0dBです。選択度もラジオ用セラフィルですから・・・。
もちろんきちんとした受信機のセオリーから言ったら幾らでもダメ出しができるでしょう。しかし実際に使ってみたら結構な実用性を発揮するわけです。
私は「これはシンプルさを楽しむ手作り品」なのだと納得しました。QRPな送信部には十分すぎる高感度です。 たぶんADX-Sはこのままが良いです。(必ず併用することになるパソコンやスマホアプリの信号処理能力が非常に高いからでもあります)
蛇足になりますがAGCについて付け加えます。 現実の問題としてAGCの付加は必須ではないと思いました。 他局より極端に強いローカル局がオンジエアしているような時にはAGCが掛かって歪みを抑えられます。しかしこれは稀なケースです。 あまりゲインのないTA2003Pの受信部は常にフルゲインであっても歪んで困るようなことは稀なのです。
HAMの電波は「かぼそく」てAMラジオ局のようにバカに強くはありませんからね。 ですからAGCはあっても無くても受信成績にはほとんど差が出ないのです。ならばAGCなんて無くても良いしそれが合理的と言うものです。今のままで良いのではありませんか? ・・・と言うのが私なりの結論です。あなたのお考えは如何でしょうか? ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)fm
4 件のコメント:
加藤さんこんばんは。
TA2003Pを使った短波ラジオでは加藤さんのBlogは数少ない貴重な情報源になってますね。
僕も何度も参考にさせて頂いています^^
FT8のTRX、FT8自体は複雑ですが復変調をPCに任せられるのでTRX部分は逆に簡単になるのが面白いですね。
FT8は各バンドでほぼ運用周波数が決まっているようですから、シンプルな受信部ではAGCを強化するよりも受信部はフルゲインで動作させてフロントエンドのフィルターを強化する方が効果があるような気がします。
このようなシンプルな無線機は楽しそうなのですが6000円も出して保証認定を受けるのが面倒なんですよね、5W以下は包括免許にして欲しいです。Hi
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんばんは。 今日は一日中どんよりしたお天気でした。明日はFBなお天気になるそうです。
さっそくのコメントどうもありがとうございます。
> TA2003Pを使った短波ラジオでは・・・・
実を言うと、TA2003Pの短波ラジオはネタに困ったのです。 同じ作るならディスクリートの方が面白いと思ってましたし・・・。hi hi
しかし意外に人気なのですよねえ・・。海外のお方が見てるケースも多いみたいです。
> TRX部分は逆に簡単になるのが面白いですね。
そうなんですよね。 デジタルモードの仕組みは複雑ですが、フィルタや復調といった処理をパソコンやスマホに委ねた結果、通信用のハードはごく簡単で済みますからねえ。 受信なんてシンプルなDC受信機でも実用十分的ですから・・・。 面白いです。
> フロントエンドのフィルターを強化する方が効果があるような気がします。
運用していて最大の敵は受信帯域内に存在する異常に強力で・・・たいてい波も汚い・・・ステーションですね。 彼らはリニヤのオーバードライブなんでしょう。 困ったことです。
> 6000円も出して保証認定を受けるのが面倒なんですよね・・・
まったく同感ですね!! 仕方がないのでなるべく纏めて申請するように作り貯めておく対策くらいしか考えられません。 完全な包括免許じゃなくても、5W未満は「包括免許的」にして欲しいものですね。 そう言う部分でJARLの活躍が期待されます。 内輪揉めじゃないでしょうに・・・。(悲しい)
Making a ADX-S Digital Modes Transceiverは違和感があります。
"an ADX-S"では?
JA1IXMさん、おはようございます。
気を付けいてたつもりでしたが見落としてました。(冷汗)
さっそく修正しておきました。コメント有り難うございました。
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