2012年2月19日日曜日

【部品】making FCZ Coils with Toroidal cores

トロイダルコアを使ったFCZ-Coilの自作
 CQ Hamradio誌2011年9月号では、直接FCZコイルを代替できる自作コイルの製作を扱った。

 写真はその続編である。昨日:2012年2月18日発売の同誌3月号に掲載されている。(CQ誌は毎月19日が発売日だが、今月は日曜日なので18日に前倒しとか)

 コイルが苦手な自作HAMにとっては既製品が有難いに違いないが、いま売っている互換品と称する『FCZ-Coil』も長くは続かないかもしれない。 コアや巻枠と言ったコイルの製作に必要な部材の調達が安定しないのだそうだ。(それが原因で継続できなかったと言う。JH1FCZ大久保OM談) そのため互換品と言いつつも違う特性のものになっている可能性も有る。販売店の言い分を鵜呑みにせず、同調可変範囲や無負荷Q:Quなどを自身で確認してみるくらいの注意は必要そうに思う。また、自分で巻くなら少々怪しげなボビンキットよりも素性のわかった素材を買って巻く方が安心だろう。もちろん再現性も良い筈だ。

 そのような状況にあって、全国どこから何時でも入手できる素材を使ってFCZコイルと機能・性能ともに同等以上のものが作れるように検討しておきたいものだ。 そうした意図で実際に材料を入手し、多数のコイルを試作して得た結果を纏めたのが表記の雑誌記事である。

 各FCZコイルの製作について、いちいち細かく記述していたのでは誌面がとても足りない。 そのため表を使った製作の一例を挙げたあと、ほかは巻くためのデータとして一覧表にギュッと纏めてある。たぶん難しくはない筈だが、表の使い方がわからなければ資料として役に立たないだろう。 このBlogは記事をサポートするのが目的なので、もしご覧になって解り難いようなら補足したいと思う。 率直なご意見を頂けたらと思う。或はご自身で製作してみてのご感想なども大歓迎だ。

 申し訳ないが記事そのものをいきなりBlogに掲載することは筆者としても御法度である。 大半の地域では、昨日2月18日には発売になった筈なので書店でお手に取って頂ければ幸いだ。前から1/3あたり、102ページから107ページの全6ページである。 3月号はまたもや品切れになるかも・・・なのでお急ぎどうぞ。(まさか・笑) 以下、記事をお手元に置いてページを開きながら読んで頂けたらVY-FBだ。

参考:発売日から時間が経過すると一般書店では入手できなくなるだろう。その場合、amazonなどのオンライン書店、あるいはCQ出版社に直接あたるのも良い。ほか公立図書館にも一定期間は置いてあるだろう。確実なところでは大塚駅南口から徒歩5分のJARL資料室が良いだろう。またバックナンバーが品切れになればCQ出版社に該当ページのコピーサービス(有料)を依頼する方法もある。

#1材は少し入手しにくいかも
 低い周波数ではコア材に#1材を使っている。後から気付いたのであるが、#1材は少し入手が難しいかもしれない。その点申し訳なかった。それで以下に対処方法など書いておくことにした。

 国内で入手できない訳ではないが、何処にでも置いてあるものではないようだ。 今後需要が増えれば扱うお店も増えてくるかもしれない。 調べた範囲では、T25-#1とT37-#1はマイクロ電子(←リンク)で在庫している模様だ。ほかに円高のおり海外通販もお薦めできる。(写真はT37-#1コアと、バイファイラ巻き途中の様子。コア塗色はくすんだ青である)

 #1が入手できないなら#2材にたくさん巻く方法がある。手間が増えるのをいとわないならお薦めできる方法だ。性能も#1材に巻くよりも良いくらいだ。(#1コア材は性能が良くないのであまり使われないのも事実) 他にフェライト材のFTシリーズのうち#61、#67、#68材を使う手がある。何れも5MHzあたりまでの周波数なら共振回路にも十分使用できる。しかも比透磁率μsが大きいので少ない巻き数で済む。 温度特性などカーボニル鉄系のTシリーズより不利な面もある。普通の同調回路には良いがVFOやVXOなど安定度を要する用途には検討を要する。

 #1材が入手しにくい場合にはこのような方法で代替する事をお薦めしたい。 代替で作ったコイルのQuは#1材で作るよりも高くなるので代替は悪くない選択である。(注:コア材が違えば記事掲載の巻数データは使えないので各自で検討されたい) 他のコア材は入手容易なので問題ないだろう。

トロイダルコアは経済的
 トロイダルコアは高価と言うイメージがあるようだ。 意外かもしれないが、T25やT37と言った小さなサイズのコアは@100円前後のお値段だ。秋葉原の幾つかの部品店に揃っているが、私はサトー電気(←リンク)の通販で購入した。上記の#1材を除く、T25、T37サイズで#2、#6、#10材の全種類が手に入る。単価はそれぞれ105円〜126円だった。 後述するトリマ・コンデンサも数10円である。 他に抱き合わせる固定コンデンサや巻線材料を合わせても、オリジナルのFCZコイルより安価に作れる。特別な場合を除きシールドケースに入れる必要もない。

 従って私のコスト試算では一つあたり150円ほどと言った感じだ。あとはわずかな手間がかかるのみである。 オークションでFCZコイルに高額入札するよりもトロイダルコアを使った代替品の製作をお薦めしたい。何しろオリジナルのFCZコイルよりもだいぶ経済的なのだから。

テスト用RFアンプについて
 FCZコイルにおいてリンクコイルの巻き数は重要なテーマであろう。 記事ではオリジナルそのままのものを作る例と、こうしたRFアンプに適した例を示している。

 但し、記事はRFアンプを扱うのがテーマではないので回路の解説などは省いている。 見ての通りの簡単なRFアンプなので説明の必要はなさそうだが、簡単に捕捉しておこう。 回路図が掲載されていると、そちらの方が気になってしまうお方もあるらしいので。

 写真は抵抗器数個を除いて主要部品を並べレイアウトの様子を見ているものだ。左のBNCコネクタ近くにあるのがFCZ-7相当のコイルだ。 RF(プリ)アンプなので50Ωと整合するようにリンク巻線を減じてある。コイルの巻き方などは記事に詳しく書いた。得られた選択度特性は後ほど紹介している。

トリマ・コンデンサ
 トロイダルコアで作ったコイルのインダクタンスを可変するのは厄介だ。せいぜい巻線間隔を寄せたり広げたりするくらいしかできない。巻線の移動では共振周波数の可変はあまりできないのだ。

 そこで共振周波数の可変には「可変コンデンサ」を使うことになる。 常に共振調整をしたいならバリコンやバリキャップを使うことになる。一度合わせたら滅多に調整しない用途なら半固定コンデンサ(トリマ・コンデンサ)を使う。

 トリマ・コンデンサにも各種があるが、FCZコイルの代替用途には安価で小型のものがお薦めだ。写真右手前にある色をした4種類は東京秋葉原ほか大阪日本橋でも見かけるポピュラーな品だ。 さらに秋月電子通商(←リンク)で4個100円で買えるから全国どこからでも通販で安価に入手できる。(裏を返せば、これら4つで100円のトリマコンデンサを使う前提で試作している)

 他にも各種のトリマコンデンサがあるがHF帯(〜30MHz)で使うならどれも大差はない。手持ちを活用できるだろう。 なお、最大容量:C(max)が大きなものは最小容量:C(min)も大きい傾向がある。C(min)が大きいと周波数可変範囲の上端が伸びなくなってしまう。また容量変化が大きいと同調調整もクリチカルになる。固定コンデンサを併用して適度な容量のトリマコンデンサを使うのが製作のコツと言える。

RFアンプの出力トランス
 写真はRFアンプの出力側に使ったRFトランスだ。FT37-#43コアにφ0.32mm/UEW線を6回トリファイラ(Trifiler)巻きしてある。こちらはフェライトコア:FTシリーズのコアを使った広帯域トランス形式である。 アンプの出力部分に共振回路を使うことも可能だが、負荷インピーダンスとの関係からFCZコイル及びその代替コイルは適当ではない。 

 選択度を追求するなら出力側も同調形式にすべきだが、タップ位置は中点では旨くない。最適なタップ位置を求めてドレインへ行くように引き出す。実験を要するので少し面倒だろう。もしもより鋭い選択度を必要とするなら入力側の共振器を2〜3段重ねる方が良いのではないだろうか。従ってアンプの出力側は扱いの楽な広帯域トランス型をお薦めしておく。広帯域設計でもミキサー前のプリアンプとして、多過ぎるくらいのゲイン:約28dBが得られている。

RFアンプのデバイス:2SK241
 記事では2SK241Yを代表例として書いてある。 オーソドックスな高周波増幅回路である。 実際2SK241Yで特性評価を行なった。 IdssランクはYでもGRでも良いような回路設計にしたので記事中の指示に従い、バイアス調整のVR1を加減してもらえば良い。

 適宜調整すればIdssランクはY、GRのどちらを使っても個々のバラツキ以上の差は現れない。特定のIdssランク品を血眼になって探すのはまったくのナンセンスだ。 なお、Idssが10mAを越えるものを使うとVRを絞っても10mA以下に調整できない事がある。 その場合はソース抵抗(106ページの回路図ではR2:10Ω)を47Ωか100Ωに交換してみる。以上の調整方法は2SK241だけでなく代替品を使う際にも当てはまる。

 2SK241の供給は今のところ心配なさそうであるが、こうした足付き部品は総じて各メーカーともに非推奨品種になっている。表面実装型以外のニーズが激減しているからだ。いま持っているモールド金型が寿命になったら更新をせずに該当品種はすべて廃番になるのかもしれない。 長い意味で見たら将来に供給の不安は残っている。しかし暫くは心配いらないと思っている。膨大な流通在庫があるし、手持ちを持っている人も多い筈で欠乏して困る事にはなるまい。いずれ台湾か中国メーカーの安価な互換品が登場するだろう。むしろ過剰な買い溜めは損である。

RFアンプのデバイス:2SK439
 こちらの2SK439(旧・日立製作所/現・ルネサスエレクトロニクス)を使っても良い。 IdssランクはE、Fのいずれでも可だ。 調整してしまえば同様に性能の差はないから手持ちがあれば使うと良い。
 なお、捺印面から見た時の足の並び方は、2SK241とは裏返しになっていて逆なので注意が必要だ。 写真の様になっているので良く確認して間違えないように!

 2SK439の供給状況だが、すでに新規生産はなくて流通在庫品に頼る状態になっている模様だ。製造会社の状況が二転三転しているから儲からない製品が整理されてしまうのは仕方がないのだろう。 まだ入手は出来るが価格は上昇気味なのであえてこれに拘らなくても良いと思う。必死になって探しまわるのは『素人丸出し』と言うもので、足モトを見られ高く買わされるのがオチだ。 RFアンプを含めて、発振回路ほか多くの用途で上記の2SK241か、次項で扱う2SK544を使えば十分だと思う。 拙宅でも手持ち在庫はわずかだが買い足すつもりはない。新規の製作に採用することもないだろう。

RFアンプのデバイス:2SK544
 三洋セミコンダクター社(現:ONセミコンダクターグループ)の2SK241互換品である。 厳密にはIdssランクの区分けの仕方が異なるが、おおよそ2SK544(E)=2SK241(Y)で、2SK544(F)=2SK241(GR)と思えば良い。 足の並び方もまったく同じなのでそのまま差し換え可能だ。 なお、写真のものは2.54mmピッチになるようリード線をフォーミング(成形加工)してある。 未加工でストレート足のものもあって電気的には同等品である。

 2SK544の方が早くからディスコン(生産終了)になっていると思っていた。実際はいまでも部品販売会社から購入できる。但し秋葉原の半導体小売店では見ないようだ。 単品の価格は2SK241と同程度であるが、最近になって数量割引のディスカウント販売で安く買うことができた。商社の在庫一掃セールなのかもしれない。 そのような共同購入プロジェクトが2回ほどあったので纏め買いの数量稼ぎに参加させてもらった。 お陰で十分以上の在庫になったので、これからは2SK544を定番に考えなくてはなるまい。

 なお、電気的特性が似ているので2SK241の代替には2SK544が良い。電極間容量やgm等は非常に近い値だ。差換えに向く特性である。2SK241の互換品を作る意図で開発されたFETではないかと思っている。但し多少浅いバイアスでカットオフする特性のようだ。従ってAGC感度は高めになる。 パナソニック社の事業再編もあって旧・三洋電機の半導体部門はONセミコンダクターのグループに移った。  今後も安定供給が継続するならHAMの自作にお薦めしたいFETだ。 しかし三洋セミコン社のサイトでも、ONセミ社のサイトでも正規の検索では型番がヒットしないのが心配なところだ。 手に入るのは流通在庫品のみで、既に生産中止している可能性も高そうだ。(残念)

RFアンプの周波数特性・詳細
 RFアンプの周波数特性である。 記事では概略のみ示したが、帯域特性はリンク2tでこのようになった。 あくまでもRFアンプであって『プリセレクタ』と言わなかったのは選択度の関係からだ。
 この程度の選択度ではプリセレクタと言ったらウソだろう。 もちろんオリジナルのFCZコイルではさらに選択度が悪いので『プリセレクタ』などと言ったら大ウソである。(笑)

 オリジナルのFCZコイルのまま小容量の直列コンデンサで工夫すると言う手もあるが、副共振が現れることがあり、共振特性も崩れるので本質的ではないと思う。巻き換えなしでは他に簡単でうまい方法はなかったのだろうが・・・。

 写真では同調の中心を7050kHzに合わせている。 このようにHAMバンドの中心に合わせて使えば良いだろう。 シビアな事を言えば受信周波数が動いたら同調を取り直すべきかもしれない。しかし中心部とのゲイン差はごく僅かだ。 このようにリンク2tなら固定同調の無調整式でも良いのではないかと思う。

                ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 より高選択度の真の『プリセレクタ』を作るには、より一層無負荷Q:Quの高いコイルを作る必要がある。さらには同調回路の段数も重ねなくてはならない。 そう言えば昔はエアダックスコイルを使って作ったものだった。シールドは厄介だったがアレはなかなか良いコイルだったのを思い出す。

 短波帯RF回路の重要パーツ、コイルはエボナイト・ボビンに手巻きから始まりプラグイン・ボビン、モノコイル、FCZコイルそしてトロイダルコアへと変化して来た。部品や回路の変化に伴い進化して来たが、それぞれの時代にマッチした製作で対応してきた訳だ。 すべてデジタル処理するような通信機でさえ、アンテナに繋がるIn/Outの部分にはLCフィルタが残る。これからもコイルを使った共振回路のノウハウは重要なようだ。

 最後の方は少々主題から外れてしまった感じもするがこんなところで。 一連のFCZコイル関連記事が長く参照されるなら幸いである。  de JA9TTT/1

記事へのご質問などあれば順次ここに追記の予定。

(おわり)

2012年2月17日金曜日

【部品】more Chinese DDS Modules


中華DDSモジュールを活かす
 写真は安価な中国製DDSモジュールだ。単価は600円程度のものである。そのまま使うと信号純度に難があって用途は限定されてしまう。このあたりの経緯は前回のBlogに書いた通りだ。

 出力信号の純度に問題はあるが、マイコンでコントロールすれば快適に動作してくれる。チャイナクオリティだと諦めてしまうのでは勿体ない。うまく活用する術(すべ)を考えてみたいと思う。

 問題の本質は搭載されているクロック発振器にあるのは間違いない。よくよく見れば基板のパターンも気になるが、大勢はクロックの問題に帰結するだろう。 もしも基板パターンに改良の余地があるなら銅箔テープでGNDを強化するなどの手もある。 その前にまずはクロック発振器の問題からだ。


代替クロックを探す
 最も良いのは同じ125MHzで信号のきれいなクロック発振器に載せ換えることだ。そのつもりで秋葉原を散策してみた。

 結果から言えば、この安価なDDSモジュールに見合った125MHzのオシレータは見つけられなかった。 もちろん数千円以上のお値段なら特注で可能そうだ。しかしもとが600円そこそこのモジュールにはマッチしない。そもそも水晶発振子の特注を回避するためにこのモジュールを使おうと言うのに、オシレータを特注するのでは本末転倒ですらある。

 そこでなるべく高い周波数のクロック発振器を見つけた。その結果、そのまま載せ換え可能な形状寸法の64MHzと、少々大きい100MHzのクロック発振器が調達できた。 他に手持ちの66MHzや48MHzもあったがポピュラーな物に限って紹介してみよう。

 64MHzは秋月電子通商の店頭で@150円、まったく同じ物が千石電商で@100円だった。また100MHzは鈴商で@400円だった。他にも店頭では50MHzとか48MHzのモジュールも見かけた。なるべくなら高い周波数のものが良い。発生できる上限周波数が高くなるからだ。逆に低周波専門で高い周波数は要らないなら、もっと低い周波数のクロック発振器でも良い。クロック周波数を下げると消費電流も減少すると言うメリットがある。それに適した数MHzのクロック発振器が幾らでも売っている。


64MHzクロックを試す
 まずは、64MHzクロック発振器を試してみた。単価100円のクロック発振器なのでひょっとしたらPLL式も疑われたが、幸いそうではなかった。

 写真は64MHzそのものを見たスペクトラムである。前のブログで見た125MHzとは違い、十分綺麗なクロックだと言える。すこしだけノイズサイドバンドが見えるがこの程度ならまずは支障ないはずだ。供給電源を綺麗にしてやれば改善される可能性もある。さっそくこれでDDS-ICを駆動してみよう。

 なお、クロック周波数が64MHzに低下したことからDDSの発生上限周波数は約20MHzあたりとなる。上手にLPFを作って25MHzくらいが実用範囲だろう。(注:写真では秋月の@150円と千石電商の100円が併記してある。後に購入した安価な方を優先し、説明では100円としている)


64MHzクロックで作った15MHzを見る
 写真は64MHzクロック発振器に載せ換えて、15MHzを発生させた様子だ。右の方に見えるスプリアスは測定している環境に由来する物なので気にしなくて良い。

 どうだろうか? 前のBlogで見た汚い125MHzクロック発振器で発生させたときとはうって変わった状態だ。 このくらいなら上手に作った水晶発振器のスペクトラムとさして違わない。

 もちろん周波数安定度も良好だし、受信機でモニタしてみてもピュアなトーンに聞こえてくる。どうやら乗せ換え作戦は成功のようだ。これなら用途を限定せずに水晶発振器の代替として立派に使える。20MHz以下の用途ならこの方法で決まりだろう。


100MHzクロックで試す
 小型形状ではないのでそのまま乗せ換えはできないが、100MHzのクロックでも試してみた。この100MHzクロック発振器はAD9834のオーバークロック用にも良さそうに思って購入した。もちろんAD9850にはオーバーではなく使える。

 さっそく100MHzのスペクトラムであるが写真のように綺麗だった。これもPLLではないクロック発振器に思える。周波数が高いことから少し心配したが大丈夫そうだ。国産N社製である。(追記:スペクトラムを詳細に見るとリファレンス・フィードスルーのような僅かなスプリアスが見える。ひょっとしたらPLL式かも知れぬがデキは良さそうだ。開けて見れば判明するが、ちゃんと使えるし数が無いのに分解は勿体ない・笑:2012.02.20)

 100MHzのクロックを与えた時の発生上限周波数は30MHzあたりまでだろう。上手にLPFを作って35MHzあたりまでと言った感じだ。 少しでも高い周波数が必要ならこの@400円の発振器に価値がある。これでそのまま乗せ換えできるサイズならもっと良いのだが・・・。


100MHzクロックで作った15MHzをみる
 写真は100MHzクロック発振器からクロックを供給して同じく15MHzを発生させた様子だ。

 64MHzのときと同じく、右の方に見えるスプリアスは測定環境に由来するので無視して欲しい。綺麗なクロックを与えているのだから64MHzの時と同じように綺麗なスペクトラムになるのは自明かもしれない。その予想に違わずなかなかである。

 64MHzクロックよりも僅かに出力信号レベルが高いのは、レベルがクロック周波数との関係で低下する特性があるからだ。このDDS-ICを使う限り仕方が無い。従って、なるべくフラットな信号レベルを得たいならクロック周波数は高い方が良い。

 なお、それぞれクロック発振器を交換したら15MHz用のデータは変更する必要がある。私はDDS-VFOのプログラムを使っているので定数の書き換えだけで済むから簡単だ。しかし単純なテストプログラムで実験しているなら少し厄介かもしれない。


さらに125MHzを自作のクロックで
 安価な125MHzクロック発振器が無いなら自作してしまおう。 図の回路は自作したクロック発振器だ。 おおよそ100〜160MHzのオーバートーン発振に適している。私を含めて数名で試作し、みな旨く行っている。簡単で実績のある回路だ。

 何の変哲も無い水晶発振器に見えるが、高次オーバートーン発振に向くよう回路定数と部品を選んである。こうした高次オーバートーン発振の成否は発振用トランジスタの選定にあると思う。発振用トランジスタには十分高いfTをもった石を使うことだ。

 発振周波数が125MHzだからといって、fT=500MHzあたりの石で頑張ろうとすれば、確実な発振を得るのは簡単でない。3次オーバートーン発振なら何とかなっても5次とか7次のオーバートーン発振ともなるとずっと厳しくなる。ぜひfT=数GHzのトランジスタが欲しい。ここでは旧式化しているがfT=7GHzの2SC2367を使った。ほか2SC3355シリーズも同様に使える。2SC2407もなかなか良かった。

 今どきfT=数GHzのトランジスタは幾らでもある。これに拘る必要は無い。拙宅の在庫の都合で使っているに過ぎない。 これはバッファアンプに使ったMMIC:μPC1651Gも同じである。 趣味の製作だから手持ちをうまく活用して楽しんでいる。

 使ってある石が旧式だとかクレームなど付けずに類似の手持ち品で試して欲しい。具体的な部品名がある方がイメージし易いので型番を書いている。手持ちがなければ要件にあった代替品を求めればまず大丈夫だ。

 意外に大切なのはエミッタのトリマコンデンサとコレクタ側の同調回路だ。高価な部品は使っていないので、なるべくその通りの部品で作ると確実だ。十分な検討をせずに変えてみた揚句に『あいつの回路はうまく動かない』と言われても迷惑なので。(笑) 

 使用する水晶発振子もポイントになる。適さない水晶で苦労しても良い結果は得られない。秋月の25MHz(HC-49/US)は確認済みだ。(注1) 他に手持ちの24.576MHz(HC-49/US面実装型)も良かった。この24.576MHzはSASEをお送りいただければ差し上げる。5次オーバートンで約123MHzを発振する。125MHzに比べ2%ほど低いが不都合はないだろう。良く発振するのでお薦めだ。(注1:秋月は同じ部品でも調達先が変わることがある。昨年:2011年の夏頃10個購入したものでテストした。販売中の物が同じ時期に仕入れた物かどうかは不明だ。そう言う意味で上記の24.576MHzは安心だ)


調整とスペクトラムの確認
 調整にはオシロスコープと周波数カウンタが欲しい。オーバートーン発振の次数を取り違えないためと、安定で確実な状態に調整するためだ。 帯域100MHzくらいのオシロでも調整に十分役立つのでぜひとも用意したい。(むしろオシロは必須と言える)

 エミッタのトリマコンデンサを中央にしておいて、コレクタ側のトリマコンデンサで同調をとる。どこかで発振を始めるはずだ。とりあえず発振振幅が最大になるところで発振周波数の確認を行なう。もし予定の周波数でないなら、再度ゆっくりトリマコンデンサを回して希望の周波数で発振するポイントを見つける。なお調整には非磁性のセラッミクドライバがお薦めだ。

 周波数が予定通りになっていることが確認できたらエミッタ側のトリマコンデンサを調整して振幅最大点を求める。そのときもし発振停止するようならコレクタ側のトリマコンデンサを微調整すれは発振再開するだろう。

 そうやって発振振幅最大点を求めたら、コレクタ側のトリマコンデンサをゆっくり左右に回してみる。 振幅最大点からの変化がなだらかな回転方向と、急に振幅が下がって発振停止する回転方向がある筈だ。 なだらかな回転方向に少し回して、最大振幅よりやや下がったところで調整終了する。最大振幅の点に合わせて終わるのではないから注意を。

 その後、電源のON/OFFで確実に発振が始まり、発振振幅もすぐ元に安定することを確認する。更に電源電圧を4V程度まで下げても発振が停止しないことも確認して調整完了である。

 自作発振器から得られた125MHzのスペクトラムは写真のように良好であった。バラック状態の実験中に観測した関係で少しだけ電源50Hzの高調波ハムが乗っているが実際に使うときには除去できるはずだ。 また電源ノイズを低減すると言った対策も可能なので自作クロックならではの工夫もできる。

 レベル不足を補うのと発振部への影響軽減の目的でバッファアンプが付いている。こうしたMMICの利用が手っ取り早い。これも手持ちの有効活用なので、この型番(μPC1651G)に拘らず代替の工夫をお奨めする。μPC1651G(NEC)は100円くらいで売っていたが既に廃止品種なので入手しにくいかもしれない。120MHz付近で約20dBのパワーゲインがあれば良いから代替手段は色々ある。なおDDS-ICとのインターフェース部分は使うMMICによって変更を要する。

 自作したクロック発振器は少し温度係数を持っている。水晶発振子と直列に温度補償コンデンサを入れるなど、補償すれば周波数安定度は向上する。もちろん現状でも1ppm/℃程度なので支障なく実用できる。普通の水晶発振器なみと言うことだ。それ以上を求めるなら各自でジックリ検討してTCXOなみを目指して欲しい。


自作125MHzクロックで作った15MHzをみる
 写真は自作した125MHzクロック発振器で発生させた15MHzのスペクトラムである。

 クロック発振器の位相雑音が出力信号に及ぼす影響は:20log(出力周波数/クロック周波数)の関係となる。 上記で見た通り、125MHzのクロックは非常に奇麗であり、それを元に発生した15MHzはさらに18dB以上奇麗になる計算だ。7MHzではさらに7dB程度改善される。 まあ,このあたりの信号純度にもなればクロック由来のノイズだけでは決まらぬ領域にあるから計算通りにはならないだろう。

 中国製クロック発振器だったときのスペクトラムと比べれば一目瞭然である。クロックが良ければこの程度まで行くことが確認できた。

 発振に使ったトランジスタ:2SC2367はマイクロウエーブ帯のLNA(ローノイズアンプ)用であり、もともと優れて低ノイズである。さらに増幅段のデバイス:μPC1651GもNF=5dB(@125MHz)とまずまずの性能である。 自作したことで、図らずもたいへんローノイズな、C/Nに優れたクロック発振器が出来上がった訳だ。 これなら通信機用あるいは信号処理用として十分な性能を持ったDDS発振器として活用できるだろう。

 自作の125MHzクロック発振器でAD9850をフルに活用できる。発生可能な上限周波数も約40MHzにアップする。上手にやれば50MHz近くまで行けるかもしれない。更に150MHzくらいのオーバークロックも十分できそうな感じだった。

 手持ち部品を集めて作ったが、全部品を新たに購入したとしても上手に調達すれば500円くらいのものだろう。経済性も悪くないのでクロック発振器の自作もお奨めの一方法だ。

               ☆  ☆ ☆ ☆ ☆



 【エピローグ
 安価なDDSモジュールには問題があった。しかし何が問題点なのかはっきりしているからそれに対処すれば良い。チープなモジュールのダメ出しは面白いのかもしれない。しかしそれだけでは建設的とは言えないだろう。エレクトロニクスは実用の科学なので旨く使う工夫こそ大切だ。

 もちろんダメなものを無理して使ったあげく不経済になるなら不合格である。 経済性も合わせ考えながら工夫するのが見せどころだろう。上手なシェフが安価な素材でおいしい料理を作るのに似ている。

 そう思いつつ試して幾つか良さそうな手が見つかった。 発生上限周波数は半分になるが@100円のクロック発振器に交換する方法は手軽で確実だ。あまり高い周波数の必要がなければこれが一番簡単である。 半減するとは言っても20MHzくらいまで行けるから秋月DDSの代替に不足はないだろう。 あるいは100MHzのクロック発振器や自作の125MHz発振器の外付けでAD9850の規格上限まで活用できる。こちらも費用が掛からない手軽な方法だ。

 600円にプラス数100円で使い物になるなら相変わらず「超お買い得なDDSモジュール」だと感じる。この中華DDSモジュールを活用しない手はない。 ここまで安価になればもはや水晶発振子の特注は不要になったとさえ感じる。納期も掛からずに必要な水晶発振子(と同じ様なもの)が即作れるわけだ。 この先このDDSモジュールを旨く使った製作例を取り上げてみたい。de JA9TTT/1

(おわり)

☆続きあり==>こちら。(このモジールを買った人は必見)2012.5.27

2012年2月16日木曜日

【部品】Low cost DDS Modules from China


中国から安価なDDSモジュール
 あきらかに中国製と思われるDDSモジュールが秋葉原の中華系のお店に登場している。それ以来、中国通販のサイトを時々ウオッチしていた。面白そうなグッズが様々に登場しているからだ。もっと安く買うには中国から直接調達だ!!(笑)

 写真はそうして見つけた一つだ。 まずはお値段を見て欲しい。USドルで$36.05-のDDSモジュールだ。約3000円では少しも安く無いではないかと思うだろう。しかし更に良く見て欲しい。1ユニットは5個単位なのである。要するに5個で$36.05-なのだ。日本へ送料は$2.13-となっているので、合計$38.18になる。為替レートを約80円として、約3,054円である。単価は610円と言うことになる。

 秋月のDDS基板を6,400円で(もちろん1枚で)買っていたころを思えばまさしく価格破壊だ。少々リスキーでもこれを見過ごすのは惜しい。さっそく友人を誘って4ユニット輸入してみた。しかも最初に4ユニット注文した当時はキャンペーン中で送料も無料だった。


中国から届く
 うっかり住所をキーインミスしていたので危うく荷物は行方知れず=返送されそうになった。幸いEMSをトラッキングしていたので無事に入手できた。それ以外トラブルはなかった。カード支払いも最近の確認方式を採用しているのは安心できる。注文から到着までおおよそ10日であった。

 梱包はお世辞にも上手とは言えず、未だに商品と言う意識は薄いように思われた。但し荷痛みしないような配慮は十分感じられたので厳しいことを言うのはやめておこう。Made in Japanだって昔はこんなものだった筈だ。ただ、こうした電子回路が剥き出しの基板で静電気対策に配慮が無いのは気になるところなのだが・・・。

 届いた20枚の動作確認をしてみた。すべて問題なかったので、さっそく共同購入の仲間に分配して安価なDDSモジュールの入手作戦は終了した。 各自それぞれに評価してもらったところ「これは良さそう」との好評価で、その後6ユニット(30枚)の追加発注を行なった。そちらも既に無事到着している。他のお方も同じサイトで買物しているが中国からの通販ではあってもトラブルにはなっていない。もちろん、これからを保証するものではないのだが・・・。(利用するお方は自己責任で)


DDSコントロールは順調だったのだが
 テストプログラムではOKだったので、次にDDSコントロールのプログラム開発を進めていた。出力信号は周波数精度と安定度くらいしか見ていなかった。DDS-VFOが目的なので、周波数可変の滑らかさなど機能的なところをトランシーバでモニタしながら進めていた。

 前にも書いたように同じDDSのAD9834用プログラムで十分検討済みであった。従って特に問題も無くスムースな動作確認ができた。 機能の変更はわずかにRITの可変範囲を広げた程度である。DDS-ICへのデータ転送部分はシーケンスが違うのでAD9834用とは異なっている。しかしそれは内部的な処理であって、表から見た操作には現れてこない。実際、DDSチップは違っても使用感に違いは感じられない。機能を統一したのだから当たり前だろう。

 プログラムの開発もひと段落してきたところでふと気が付いた。信号をウオッチしていてどうもトーンの濁りを感じることがあるのだ。最初は他の信号との干渉とか外来ノイズの影響かもしれないと思ったのだが・・・


信号純度が?!
 7MHz近辺と10MHzでDDS出力の精度・安定度を見ていた。 信号の「綺麗さ」が気になって来たのでスプリアスを見ることにした。

 まずは7MHzで見たのだが少々気にはなるがそれほどでも無いように思えた。発生周波数が高くなるほど近傍雑音は不利になるから15MHzにアップして様子を見ることにした。

 写真はその状況だ。主信号に対して-70dBより大きなスプリアスは無いので、極端に酷いわけではない。しかし明らかな「お子様連れ」の信号である。しかも子だくさんだ!(笑)  他の周波数でも見たが、どうも旨くないようだった。 AD9850と言えば二世代前で旧式の感もあるDDS-ICなのでこんな物かと思いつつも、それにしても良くないなあ・・・と言うのが率直な感想であった。


基(もと)が悪けりゃダメなはず
 基準のクロック発振器は見たところ普通の缶入りオシレータのようだ。まさか以前評価したプログラマブル・クリスタル・オシレータでもあるまい。そうした先入観があった。

 一応念のためと言うことでクロック発振器そのもののスペクトラムを見たらご覧のような有様だった。 観測中心周波数は125MHzでスパンは5MHzに取っている。 主信号の上下に広がる裾野はノイズサイドバンドだ。ジッターも伴っているように見える。

 流石に基準となるクロックがコレでは綺麗な信号が出てこないのも道理であろう。 スペクトラムを仔細に見ると(できの良くない)PLLで125MHzを作っているらしいことがわかる。(以前扱ったプログラマブル・クロック・オシレータとは異なるPLL方式だと思う) PLLの比較周波数は100kHzあたりのようだ。リファレンス・フィードスルーも見える。またループフィルタのカットオフもかなり高いようだ。恐らく確実なロック(だけ)を優先したPLLであって信号純度は気にしていないのだろう。

 この程度のクロック発振器でも支障ない用途もあると思うがDDSの基準にはいただけない。高次オーバートーン発振器や最新の水晶発振子製造技術を使ったVHF帯クロック発振器はコスト的に使えないのであろう。そこで安価に出回っていたPLL式発振器に頼ったのではないだろうか。ヤスモノの悲哀を感じてしまった。

                  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


やっぱりこれは中華品質だ
 今や生活の隅々にまで中国製品が氾濫している。こうしてDDSモジュールさえも中国に頼ろうとする現実に愕然とする思いだ。

 しかし、流石に中華品質の安物モジュールだった。これでは用途が限定されてしまう。特注水晶の代替として有望な手段を提供してくれると大いに期待していただけにがっかりな結果だ。

 とても無線のオンエアには使えない。送信機に使えば「お子様連れ」でローカルさんの顰蹙(ひんしゅく)を買うに決まっている。受信機の局発にしても妙なスプリアス受信やトーン&音声に濁りを感じてしまいそうだ。 アンテナ・ブリッジのような簡易測定器の信号源くらいしか適当な用途は思い浮かばない。

結局のところ「ヤスモノ買いの・・・・」になってしまった。
う〜ん、残念だなあ。 de JA9TTT/1

(おしまい)


☆これで「おしまい」じゃちょっと悲しい。もちろん続きます(笑)。←続きへリンク

☆さらに続きあり==>こちら。(このモジールを買った人は必見)2012.5.27

2012年1月4日水曜日

【回路】AD9850/51 DDS Control Part2

【AD9850/51を使ったDDS-VFO】
 正月気分も程々にAD9850とAD9851を使った安価なDDSモジュールでDDS-VFOのテストをしている。昨年から懸案になっていた実験だ。 VFOのプログラムは「AD9834を使ったDDS-VFO」のものを移植している。 同じようにうまく動いてくれた。何とか正月の休み中に終わってホッとしている。

 プログラムのおもな相違点はDDSへのデータ転送の部分である。VFOとしての機能に関わる部分はほとんど変えていない。回路もDDSモジュールの接続部分を除き共通だ。もしDDS-VFOの機能について再確認したいなら前のBlog(←リンク:DDS-ICにはAD9834を使っている)を参照してもらえたらと思う。 ここではマイコンにATmega328P-PUと言う比較的新しいチップを使ってテストしている。 このあたりの事情は文末のあたりで触れたいと思う。

 機能の違いはないが発生可能な上限周波数はアップした。 前のBlogのAD9834-DDSよりもDDS-ICに与えるクロック周波数がアップしているためだ。AD9850/125MHzクロックで約40MHzあたりまで、AD9851/180MHzクロックで約55MHzあたりまでである。 また、このテストで使用したDDSモジュールはDDS出力がDC結合になっているので極端な話し、1Hz以下まで発生可能だ。(オシロスコープで確認済み・笑)  もちろん通信機のVFOとしては意味がないのでプログラム的に下限も制限している。 通信機の発振器(VFO)ではなくて、低周波を含む広範囲な発振器の製作も可能だ。汎用発振器としてVFOのプログラムを簡略化したものも作りたいと思っている。

(注)以下の話しでは、三種類の「クロック」が登場する。1つはマイコン自身が動作するためのクロックで、マイコン内部の発振器で作っているもの。1MHzあるいは8MHzである。2つ目は、DDS-ICが出力信号を作るために使うクロックで、AD9850では125MHz、AD9851では180MHzである。AD9851では30MHzのクロックオシレータを使い内部で6逓倍している。3つ目はマイコンからDDS-ICへデータを送る時に歩調を合わせるためにつかうクロックである。(シリアル)シフト・クロックとも言う。これらの三種類を混同するとワケが解らなくなるかもしれない。なるべくわかり易く書いているが意識して読んでいただけたら幸いだ。

AD9850-DDSモジュールのテスト回路】
 のちほど説明するプログラムを走らせるためのテスト用回路である。 マイコンにはATMEL社のAVRマイコンから、ATmegaX8シリーズを使う。 このテストの目的ならATmega8、ATmega48(P)、ATmega88(P)、ATmega168(P)、ATmega328(P)のいずれでも良い。 作業手順であるが、基板を作成したらプログラミングのために、BASCOM-AVRコンパイラの初期設定を行なう。(初期設定の方法は→こちら)その後、下記で説明のプログラムを書込むことになる。

 マイコンのクロックはマイコン自体に内蔵のRCオシレータを使う。下記のプログラムを走らせるだけのテスト目的に限れば、ヒューズビットの書き換えは不要である。初期値である1MHzのクロックで十分だ。 従ってこのあとのテスト・プログラムを書込むだけで良い。 なお上の写真の様にDDS-VFOにするならヒューズビットを書き換えてクロックを8MHzにアップする必要がある。これはダイヤルやスイッチの状態を逐次監視し連続処理する必要があるからだ。 具体的には、ヒューズバイト:Lowを、ATmega8なら「E1」から「E4」へ、他のATmega48〜ATmega328Pでは「62」から「E2」に書き換える。それで8MHzクロックに切り替わる。(ヒューズビット/バイトの書き換えに関しては→こちら

 DDSモジュールへの配線方法は、手元の2種類の基板について纏めて書いておいた。 これは、次の写真のような2種類を同じプログラムでテストするためだ。 従って、自分が入手した方のモジュールに合わせた配線をすれば良い。マイコンからはDDSデータ、シフト・クロック、Fq_UDの各信号を配線する。また電源+5Vも供給する。従ってDDSモジュールへはGNDを含めて5本の配線で済む。

 プログラムを走らせてDDSモジュールから信号が出てくればテストの目的は達成だが、マイコン部分はDDS-VFO化したり他の目的にも使える。マイコンの回りは余裕を持たせて場所を開けておく方が良いかもしれない。

いろいろあるAD9850/51 DDSモジュール
 アナログ・デバイセス社製のDDS-ICを使い、使い易くモジュール化したものが多数販売されている。 いずれも中国製のようだ。 おそらく何か簡易な測定器あるいは通信機などの電子機器を製造する目的で開発したモジュールであろう。 写真の形状以外にも何種類か目にした。

 左は、既に紹介済みのものだ。AD9850版なら秋葉原でも手に入る。写真はAD9851版だが基板の見かけはまったく同じである。搭載されるクロック・オシレータの周波数とDDS-ICだけが異なっている。 AD9850版もAD9851版も基板の機能は互換である。(制御も殆ど同じなのでほぼ共通のプログラムで行ける)

 右はさらにローコストなモジュールとして売られていたものだ。今のところAD9850版だけらしい。左の基板よりも簡略化されているが同様に使えることがわかった。 こうした物は「数割」があるので自作好きの皆さんと共同購入している。今回は私が買う番で、少々海外通販のスリルを感じつつも纏め買いしてみた。(幸い問題なし・笑) なお、このDDSモジュールに関しては別のBlog(←リンク)で詳しく扱っている。注:数割=数量割引。いっぱい買うと安くしてくれる。

AD9850/51 DDS-ICのテストプログラム
 プログラム言語はBASCOM-AVRである。DDS-ICのテストプログラムとはなっているが、上記のDDSモジュールが対象だ。 前のAD9834のときと同じように基本的なことを確認するためのものだ。プログラムを走らせてDDS基板から7MHzが出てくればテストは完了である。
 しかし、DDS-ICを使うためのエッセンスはすべて詰まっている。この短いプログラムが動作しないようでは以後どんなプログラムでも旨く行かないだろう。 DDS-VFOなり汎用オシレータなりを開発するにあたっては、真っ先にこうした基本的な動きを確認しておきたいものだ。手に入れたDDSモジュールに異常はないか基本的な確認にもなる訳だ。

 周波数データは純2進数の32ビットで与える。DDS-ICに与えるクロック周波数と関連するので送るべき2進データ値を求めるには計算が必要だ。 リストの300番台の行にその方法を書いておいた。 同じ周波数を発生させるにも、AD9850とAD9851ではクロック周波数が異なるので送るべきデータ値は異なってくる。それぞれの計算方法を示しておいた。
 
 WindowsあるいはMacintoshに備えられた電卓を使うと簡単に純2進データを作ることが出来る。 何か試してみて欲しい。そうすればプログラム・リストの例(7MHz)とは異なった周波数が発生できる。 まずは電卓を起動したら関数電卓に切換え、それを使い式の通り十進演算で答えを求める。続いてそのまま2進電卓のモードに切り替えればそこに現れる数字が2進表現の「答え」なので2進変換はごく簡単である。(笑) なお、DDS-VFOではもちろんこうした演算はマイコン内蔵のプログラムで行なっている。もしもこうして発生した周波数に実測で誤差が認められるなら、DDSクロック・オシレータに周波数誤差があるのだ。計算するときに、ちょうど125MHzや180MHzではなく、実際のクロック周波数で計算すれば良く合うようになる。クロックと得られた周波数は比例関係なので、実測した周波数の誤差分を使って換算すればクロックの正確な周波数が求められる。クロックその物を実測する必要などない。

 上記の計算で得られた純2進データをDDS-ICに転送する部分はAD9834との違いが大きい。但し、転送方法そのものはむしろ易しい感じだ。 周波数データの列を分割して2回に分けて送る・・と言うような細工は必要ない。 単純に32ビットの周波数データを送ればよい。 さらに続けてDDSチップへのコマンド列:8bit(1バイト)を送って終了だ。 合計で40bitデータを送ることになる。

 最初に書くべきだったが、電源を与えたら真っ先にDDS-ICを初期化してシリアル(直列)データモードにする必要がある。周波数の設定などはその後だ。AD9850/51は、パワーオンの初期値は8bit単位のパラレル・データモードになっている。シリアル形式でデータを送るためにはモードを切り替えなくてはならない。リストの「Init_dds」と言うサブルーチンがその切換え部分だ。電源投入後の初期に一回だけ行なえば良い。 詳細は次項を参照。

AD9850/51をシリアル・モードに切り替える方法
 DDS-ICの初期化の部分である。 メーカーの資料に詳しく書いてあるが、説明はやや難解に思えたので自身の備忘として書いておこう。

 8bitのデータバスからコマンドで行なうことが出来るが、そもそもパラレルモードで使っていなければモードの切換えはできない。 そこで、左記のような方法がとれるようになっている。

 AD9850/51から引き出されているデータバス:D0〜D7の下位3ビット、即ちD0、D1、D2を図のように配線しておく。 そのうえで、1発だけシフト・クロック(Wclk)与える。そのあとで直ちにFq_UDパルスを1発与えるとシリアル・モードに切り替わる。

 なお、説明を読んでいてReset端子の操作が必要そうに感じた。試したらReset端子はLow、即ちGNDレベルに固定したままでも良いことがわかった。 電源を加えたあとで、上記のシーケンスさえ行なえばシリアル・モードに入ってくれる。 従って、DDS-ICとマイコンの間はデータと制御の配線3本の他、+5V電源とGNDを合わせても5本の配線でインターフェースできる。

 シリアルモードに切り替わったら、直ちに32ビットの周波数データと、8ビットのDDSコマンドを送ってやる。 周波数データとDDSコマンドの与え方は次項を参照。

AD9850/51へシリアル・データを送る方法
 一旦シリアル・モードに入れば,あとは32bitの周波数データと8ビットのコマンドデータ、合計で40bitのデータを送ってやれば良い。 Fq_UDパルス(周波数のアップデートパルス)を送ると、送ったデータが直ちに反映され新しい周波数が出力される。

 ここで注意すべきなのは、ビット列の送出順序である。 AD9834ではビット列の上位側、即ちMSB側から送出していた。 しかし、AD9850/AD9851ではビット列の下位側(LSB)を先頭にして送る必要がある。 これは8ビットのDDSコマンド(位相情報を含む)も同じである。

 一見難しそうであるが、BASCOM-AVRではShiftoutコマンドの後のパラメータでLSBファーストにもMSBファーストにも簡単に切換えできるから心配いらない。 パラメータの詳細はBASCOM-AVRのshiftoutコマンドの説明に丁寧に書いてあるので参照を。

 なお、AD9851には、外部から与えたDDSクロックを6逓倍する機能がある。その機能のON/OFFがDds_cmdのLSBにあって、「1」でON、「0」でOFFである。 OFFの場合はAD9850と同じように動作する。 AD9851を使った基板では30MHzのクロック・オシレータが載っていた。 従って6逓倍をONすれば180MHzのクロックで動作し、より高い周波数まで発生可能になる。 但し、逓倍に起因するらしいジッターがやや多くなるので、高級な通信機の局発にはイマイチかも知れない。 もちろんテスト・オシレータや周波数特性測定装置などの信号源には不安なく使える。

 AD9851は本質的にAD9850よりも高いクロック周波数を許容すると思われる。従って、内部6逓倍ではなく、外部から直接180MHzを与えてやれば出力信号品質を維持しつつ、より高い周波数の発生が可能なる筈だ。高次オーバートーンで180MHz付近を直接得てクロックとして与えたら面白そうだと思っている。

DDSモジュールをテストしてみる
 電源は+5Vを与える。 DDSモジュールの消費電流は実測の平均で110mAくらいであった。 +5Vの3端子レギュレータは放熱なしでも何とかなる範囲であるが、他への供給を考えて簡単なヒートシンクを付けておこう。 この程度のヒートシンクでは300mAくらいまでと思った方が良い。 いくら1Aタイプのレギュレータを使っていても、放熱が悪ければ遥かに少ない電流までしか許容できない。

 DDS基板には約70MHzをカットオフ周波数とするLPF(低域濾波器)が実装されている。 しかし、AD9851/180MHzならともかく、AD9850/125MHzクロックにはカットオフ周波数が高過ぎる。40MHzあたりが適当な所だ。 チップ部品の載せ換えでカットオフの変更も可能だが少量のチップ部品入手は難しいかもしれない。従って、DDSモジュールの外で増幅+フィルタを行なう方が良さそうだ。 簡単な実験程度なら、このままでも良いが実用にするならもっと目的に適したフィルタを外付けしないと旨くないと思う。 もしスペアナが利用できるなら良くスペクトラムを観測しておこう。

 搭載されているこうしたクロック・オシレータには周波数誤差があることを前に書いた。このDDSモジュールでも例外ではなく最大では+13ppmくらいの誤差があった。  初期周波数の誤差はプログラムによってソフト的に補正してしまうので何ら支障はない。 問題になるのは温度による周波数変動の方である。室温の変化から様子を見ていたら1〜2ppm/℃程度なのでまずまず安定と言えそうである。 もちろん自励発振器やVXOなど目ではない。 安価なDDSモジュールとは言え、周波数シンセサイザの威力を十分に発揮してくれる。

               ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


エピソード:プログラム開発中のトラブル
 あらかじめ書いておくが、このBlogに掲載した簡単なテスト・プログラム(上記)ならまったく問題なく動作するから以下のことは心配はいらない。問題ない用途へなら古いチップもどんどん使うべきだ。

 実は、AD9850/51 DDS-VFOのプログラム開発作業で半日トラブった。 もともとAD9834用に開発したDDS-VFOプログラムをベースに開発していた。 ところが、手を加えてもいない部分でコンパイラのエラーが続出したのであった。 具体的にはTimer割り込みと内蔵のA/Dコンバータの部分である。 それぞれ割り込みコマンドやA/D変換のステートメントが未定義であると言うエラーが出たのだ。

 結論から言えば、BASCOM-AVRが少し古いチップをサポートしていないのが原因であった。写真奥のATmega168は既に5年以上前のチップだ。いま出ているのはサフィックスにPの付いた、ATmega168P-PUである。 ATmega168Pならエラーなくコンパイルできるのに、Pなしの旧型チップは不完全なチップ定義ファイルらしく未定義エラーが続発するのであった。結局、写真手前の新型チップ、ATmega328Pに変えたらコンパイル一発でノーエラーである。あっけなくAD9850版のDDS-VFOが完成した。(笑)

 もちろん、単純なポート操作程度のプログラムなら問題なかったのだろう。しかし、割り込みと言った少し高級な処理をともなうと古いチップに対するBASCOMの対応は不完全なようである。 原因がわかったから良かったようなものだが、エラーに悩んでお正月の半日分を損した気分である。(-_-)

 結局、こうしたマイコンのような部品は買い溜めたらダメである。 少々割高でも必要な分をその都度購入するに限る。そして余分に買ったら早めに使い切ろう。 BASCOMのエラーから教えられた教訓であった。(いつものことだ・笑) de JA9TTT/1

(終わり)
             ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

【追記】ATmega168(8,48,88のPナシ含む)への対処方法:(備忘:2012.1.9)
 まずはBASCOMのフォルダを開いてみよう。BASCOM-AVRをアップデートすると、以前のチップ定義ファイル(例えば:m168def.dat)は「BACKUP」と言う名前のフォルダに保存される。(自動的に保存されている) このBASCOMフォルダのトップレベルには同名の新しいチップ定義ファイル:(この例では:m168def.dat)が置いてあって、コンパイル時にはこちらの新しい方が使用されるようになっている。

 上記の問題はこの新しい方のチップ定義ファイルに問題があるのは明らかだ。従って、新しい方のチップ定義ファイルをどこかに一旦退避させた上で、「BACKUP」フォルダ内にある前のチップ定義ファイルをトップレベルに持ってくることで解消できる。 これでPなしのATmega168,etcでも問題なくコンパイルでき、正常な動作が確認できた。従って、現在はATmega168-20PIで動作させている。もちろん快調である。(BASCOM-AVRも一旦、Ver.1.12.0.0に戻している)

 そもそも、それほど新しい機能を使っている訳でもないので古いバージョンのBASCOMのままでも良かった訳だ。 無闇にバージョンアップしないと言うのも教訓かもしれない。これで買い置きのATmega168-20PI,etcを無駄にせずに済む。 コンパイルできて書込みさえ出来れば別段P付きの新チップでなくても何ら支障はない。 もしも同じ問題に遭遇してしまい、旨く行かないならメールでも頂ければと思う。遠慮なくどうぞ。

(めでたし、めでたし)

続編:「安価な中華DDSモジュールについて」へつづく(←リンク)

2011年12月1日木曜日

【回路】Freq. Response of Filter on DDS Module

DDSモジュールのフィルタ・シミュレーション
 DDSでは原理上折り返し信号(スプリアスとなる)が発生するため、出力側に良く切れるフィルタの付加は必須である。 AD9850/AD9851 DDS-ICを使ったDDSモジュールには有極型の7次低域濾波器(7th order Low-pass Filter)が構成されている。

 左図はそのフィルタ部分を抜き出して回路シミュレータ用に書き出したものだ。 DDS-ICから見た負荷が100Ωになるよう設計されているため、負荷を分け合う形からフィルタの設計インピーダンスは200Ωになっている。なお、4:1のインピーダンス変換トランスを外付けし、50Ω出力にして使う際には基板上のR7(=200Ω)は除去する必要がある。言うまでもないと思うがR9(=200Ω)の方は取ってはいけない。

 なぜフィルタが200Ωの設計かと言えば、DDS-ICのD/Aコンバータが電流出力型であって、コンプライアンス電圧はわずかに1Vしかないからだ。 従ってD/AコンバータのI(max)=10mAとすれば、負荷抵抗RL=100Ωが最大となる。 またIC自身の出力インピーダンスは電流出力型ゆえにかなり高い。そのためIC直近の負荷を200Ωとし、さらにフィルタ後の負荷を200ΩとすることでDDS-ICから見たら100Ω負荷となるようにするとともに、In/Out対称型としてフィルタの設計が容易になるよう考慮している。(以上、私の解析)

DDSモジュールのフィルタ特性
 シミュレーションの結果は左のグラフのようになった。部品には誤差があって、基板にはストレー容量や配線インダクタンスも存在する。 従って、現実にはシミュレーションの理想通りにはならないかも知れぬ。 しかし概ね同じようになるはずだ。

 もっと通過帯域の「うねり」が大きいのではないかと予想していたが、意外に良好である。 約73MHzで-3dBであり、だいたい70MHzまでは平坦に通すよう設計されている。減衰域も-70dBくらい得られそうなのでマズマズだ。

 シミュレーション結果が悪ければD/Aコンバータ以降の回路はすっかり作りなおそうと思っていたが、その必要もなさそうだ。 もっとも、もっぱら低い周波数で使うのであれば、さらにカットオフ周波数の低いフィルタを付加すべきだ。 DDS-IC出力には折り返しノイズだけでなく、非高調波成分など広帯域で多様なノイズが含まれる。必要帯域幅に絞って使うのが旨く使うコツである。 なんでも広帯域ならよい訳ではない。

 基板上のLPF部分に目をやってみよう。部品はすべてチップ型なので物理的なサイズは十分小さい。配置もコンパクトだ。これならシミュレーションとさして違わぬ特性が得られそうだ。折り返しスプリアスを心配せずに十分使えそうである。

                 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 まずは、DDSモジュールから信号を・・が先ではないかと言う声もあろう。 その件は既に他のお方(JE6LVE/3高橋さん)が先行確認されてるので、いずれ問題になりそうなDDS出力の低域濾波器(LPF)を探ってみることにした。 DDSモジュールのLPF部分を直接ネットワーク・アナライザで見てしまうのも良かろう。しかし設計特性もしっかり押さえておけば思わぬ測定結果にも慌てずに済む。  de JA9TTT/1

つづく)←続きへリンク