【DG-FET RF-Amp. : 2ゲートFETでRFアンプ設計】
【表面実装型2ゲートMOS-FETを使う】
台風19号の被害もなくホッとしているところです。台風一過でさっそくアンテナも復帰しました。
さて、予定通りの話題で行きましょう。 しばらく前になるのですが、Dual Gate FET(2ゲート電界効果トランジスタ)について簡単に扱ったことがあります。(過去のBlogにリンク)
2SK241のような使いやすいシングルゲート型のFETが登場した結果、2ゲート型FETの用途はだいぶ限られてきたという話でした。 それが覆る訳でもないのですが調べていたら思ったよりもたくさん手持ちがありました。買っておいたものや頂きものなど様々です。 こうした引き出し在庫を有効活用しないのは勿体ないでしょう。性能が悪いのなら仕方ありませんがそんなこともありません。 そこで実際に試用して使い方の道筋を付けておきたいと思います。
以下は、様々な文献などにも載っているような話ですが、残念ながら本格的に高周波回路の設計を扱った書籍は絶版ばかりです。個別半導体で設計する機会も減ったため売り上げが見込めないことから新版の登場も期待できません。 いまでは設計法や使用例を見つけるのも一苦労になってしまいました。 ここでは理論的な説明はひとまず脇に置きましょう。もちろん理論を無視した訳ではないのですが、もっぱら実践的な内容にまとめておきたいと思います。 例によって自身の製作メモに過ぎませんが機会があれば試してみてください。使い方の一助にでもなれば幸いです。
写真:今回はおもに表面実装型の2ゲートMOS-FETを使います。 パッケージが小さくてリード線も付いていないためこれまで試用の機会もありませんでした。 今回、試しに変換基板に実装してみたところ意外に好成績でした。扱いが容易になったのも評価のきっかけになりました。 写真は3SK294と3SK144Rです。この3SK294(←秋月電子通商にリンク)は現在も安価に販売されており、新規の採用にも向いています。同ショップで売られている3SK291も同様のデバイスです。リード線付きの2ゲートMOS-FETは姿を消していますが、表面実装型ならまだ十分手に入ります。有効に活用したいものです。
【RF-Amp.で動作点を探る】
評価を行なったのは:3SK294、3SK144、3SK103です。いずれもDual Gate MOS-FETです。 なお、評価は面実装型に偏りましたが、予め評価済みだった金属缶パッケージ型(古い形状)のDual Gate MOS-FETとの違いは感じませんでした。どちらも同じように使うことができます。手に入り易いものを活用するのがベストでしょう。
それぞれのデータ・シートを見比べると、こうしたMOS-FETはゲート電極へのバイアス電圧の掛け方(加え方)から見て、以下のような3つのグループに大別できることがわかります。
(1)ディプレッション型:第1ゲートのバイアス電圧をソース電極に対して負の方向に掛けて使うタイプ。規格表でIdssが比較的大きくて10〜数10mA以上のものがこれです。五極管の特性に近いイメージがあって旧来はほとんどがこれでした。例:3SK35、3SK41、3SK45、3SK48、3SK51、3SK59、3SK73、etc. 他にもたくさんあります。 正の範囲までバイアスを掛けることもできますが、ドレイン電流を流しすぎて許容ドレイン損失をオーバーしないように注意します。(Depletion mode:減少型 / Normally ON type)
(2)完全なエンハンスメント型:第1ゲートにソース電極に対して正方向のバイアス電圧を掛けて使うものです。負あるいはゼロのバイアス電圧ではドレイン電流がほとんど流れません。規格表でIdssがゼロあるいはそれに近いものはこのタイプです。例:3SK291、3SK294、3SK108、etc . 比較的新しいものが多いようです。負方向のバイアスが要らず、電源電圧も低くて済むためでしょう。AGCも掛け易いです。(Enhancement mode:増大型 / Normally OFF type)
(3)上記両者の中間的なもの:第1ゲートに加えるバイアス電圧がゼロではあまりドレイン電流は流れず、通常の増幅回路に使うには幾らか正の方向にバイアスを掛ける必要のあるものです。規格表で見たときIdssはゼロではないものの最大でも数mA以下のものはこれです。上記(1)の品番でもIdssが小さなランク品はこれに当たります。例:3SK144、3SK103、3SK107、etc 意外にたくさんあります。Idssで使うとゲインは低めですが、バイアスの掛け方次第で高性能も期待できます。(D+E mode)
これらの3種類を考慮していずれの特性のFETでも使えるようなバイアスの自由度が高い回路を考えてみたいと思います。 適正なバイアスさえ掛けて使えばどの分類でも大差ない性能が得られるはずです。 写真はそのテスト風景です。
【2ゲートMOS-FETのRF-Amp.回路】
2ゲートMOS-FETの使い方の基本は高周波増幅(RFアンプ)でしょう。IFアンプも類似回路です。 左図の回路は3タイプいずれのFETにも適用できます。 要するに万能型です。バイアスの自由度が高く作ってあります。
電源電圧:Vddは9Vの設計です。第2ゲートには標準的なバイアスが掛かるように、Vddの半分の電圧・・・+4.5Vが掛かっています。ここには固定したバイアス電圧を掛けておきます。 なお、ソース電圧がGNDに対して+1Vになるよう設計しているので、実質的な第2ゲートの電圧はソースに対し+3.5Vになります。 このように第2ゲートにはソースに対して+3〜4Vの電圧をかけて使うのが基本です。 この部分にリバースAGCを掛けることもできます。
組み立てたら、ソース端子とGND間の電圧:Vsを測りながら、第1ゲートのバイアス電圧を調整します。 Vs=1.0Vになるように可変抵抗:VR2を調整すればOKです。 こうしたMOS-FETのRFアンプではおおよそ10mAのドレイン電流:Idを流して使うのが基本です。 これで標準的な動作状態になります。ゲインは十分得られノイズフィギャ(NF)も概ねオプティマイズされます。 そのように調整を行なった時の、第1ゲートのバイアス電圧:VG1を実測した結果を図中の表に示します。
各FETの特徴がよく表れていると思います。 このVG1は調整後の結果であって、予めこの電圧をG1に掛けて使うという意味ではないので注意して下さい。たまたまそのFETでId=10mA流すのに必要なVG1がこの電圧だったという結果に過ぎません。従って個々のFETで異なるわけです。(もちろん、同一品種、同一ランクのFETなら類似の電圧になりますけれど・・・個々には微妙に違うはずです)
VG1が実測値と近似の電圧になるよう、可変抵抗をやめて固定抵抗に置き換えても良いでしょう。 頻繁な調整の必要がないところは固定抵抗に置き換えるほうが安定です。一般的に可変できる部品は自然に変化する(劣化する)可能性も高いからです。
なお、ドレイン電流:Idは10mA前後が標準ですが、必ずしもそこまで流さなくても大丈夫です。ノイズ・フィギャやゲイン、さらには負荷インピーダンスなど考慮しながら定格の範囲内でかなり自由に決めることができます。
バイアス調整が済んだら、信号発生器あるいはアンテナからの信号などを頼りに入力同調回路:T1の同調をとればRFアンプの完成です。 ゲインのピーク値は図中の表に示しますが、どのFETでも25dBを超える好成績が得られました。 HF帯からVHF帯のRFアンプとして十分なものです。
入力回路は、Lマッチ形式ではなく単純なトランス形式にしました。 概ね良好なNFが得られる巻き数比が選んであります。 実測はしませんでしたがNF≦2dBくらいはごく普通に得られます。このアンプは回路例の7MHz帯などローバンドではとてもローノイズで、必要以上に低いNF値と言えます。RFアンプはNF=0dBを理想としますが、空間ノイズが極めて大きな7MHz帯ではNF=20dBでも支障ないくらいですので・・・。 50MHzあるいは144MHzではLマッチ形式を使うとNFの最適化が容易です。 ただし30MHz以下のHF帯では図のように選択度を優先した回路の方が望ましいようです。
(参考:上図には3SK144や3SK294の実測した性能一覧があります。他のリード線タイプの2ゲートMOS-FETたとえば、3SK35あるいは3SK59などの実測結果は続編(←リンク)でまとめ一覧表にしてあります。合わせて参照を)
【3SK294でテスト】
3SK294でテストしている様子です。 ドレイン負荷の高周波トランスにはMini Circuits Lab.社の製品を使いました。これは自作品のトリファイラ巻きトランスでもよくて、後ほど製作例があります。 性能的にも違いはないので自分で巻くと安上がりです。 ドレイン負荷に同調回路を置く形式も可能ですが、最適な同調コイルの設計はやや難しいので非同調のトランス負荷式をお勧めします。 得られるゲインもほとんど違いません。 選択度は入力側で稼げば良いと言う考え方です。
入力のトランス(同調回路)はT25-#2というトロイダルコアにφ0.2mmUEW線を巻いて作ったものです。巻き数はアンテナ側が2回、同調側が30回です。 FCZコイル(同等品含む)も使えなくはないのですが、アンテナ回路用としては巻き数比が最適でないため多少性能は悪くなるでしょう。トロイダルコアに自身で巻くとQの高いコイルが作れるのでFBです。製作する周波数に応じてコア材は変更します。巻き数比は概ね同じで良いでしょう。
3SK294は面実装型6ピン・パッケージをDIP化する変換基板に載せてあります。 このようにすると、高周波特性が幾分悪くなって損です。しかしリード線付きパッケージのFET と比べて大差はないため十分使い物になります。 3本並んだ真ん中の無接続になるピンは必ずGNDして使います。 50MHzあたりまでなら問題なく行けそうですが、144MHz以上では真面目に基板化したほうがFBでしょうね。 MCL社の出力トランスは数100MHzまで使える優秀なものなのでHF帯〜VHF帯でFBに使えます。
【ゲインと周波数特性】
3SK294で作ったRF-Amp.(7MHz用)の周波数特性です。 中央少し上を横切る赤いラインがゲイン0dBです。縦軸のひと目盛りは10dBです。 横軸は左端が1MHzで右端は20MHzのLog目盛りになっています。 マーカーの位置がゲイン最大のポイントで、この例では27.4dBのゲインが得られています。
入力部に同調回路が一つあるだけですから、選択度はあまり良くありません。 必要に応じて入力部に2〜3段の同調回路を置くか、バンド・パス・フィルタ(BPF)形式にするとベストです。 ゲイン、NFともにゆとりがあるのが普通ですから、少しロスは増えても入力部分でなるべく帯域幅を絞る設計にしたいものです。
ご存知のお方も多いと思いますが、こうしたRF-Amp.は入力同調回路による昇圧利得がその多くを占めます。 FETそのものによるゲインは意外に小さいのです。 FETによってゲインに数dBの違いがありますが、これはドレイン電流10mAにおけるトランスコンダクタンス:gfsの違いによるものです。(昔風に言うと相互コンダクタンス:gmの違い) ややゲインが低めの石でもドレイン電流を加減すると大きくすることは可能です。 ドレイン損失をオーバーさせない範囲で試してみるのも面白いでしょう。 しかし、一般的にはId=10mA程度で使うと良さそうでした。数dBのゲインを追求しても意味は小さいかも知れません。
結論として、試作回路のような方法でいずれの2ゲートMOS-FETもうまく使えます。得られた性能もほとんど違いません。 従って特定のFETを探すまでもなく、手に入り易い品種で代替すれば大差ない結果が得られることもわかりました。
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【GaAs MES-FET : SGM2006Mを試す】
ついでと言っては可愛そうですが、これから試すのはシリコンではなく、化合物半導体のガリウム・ヒ素を使った2ゲート型FETです。 GaAs MES-FETと言います。 このガリヒソFETについては過去にBlog(←リンク)で扱ったことがありました。
ゲート部分は酸化膜(オキサイド)絶縁のMOS構造ではなく、ショットキー接合の構造になったFETです。 MOS型ではなくメタル・セミコンダクタ接合(MES)になっている・・・ジャンクション型FETの一種と言えるでしょう。 当然ですがゲートは順方向にバイアスしてはいけないため、正方向のゲート電圧はほとんど許容できません。 完全なディプレッション型の特性です。 プラス方向のゲート電圧についてはデータ・シートにはどこまで許容できるか詳しく書かれていませんが、せいぜい+0.3Vくらいまででしょう。(実際に測定してみても順方向電圧は0.45Vくらいしかない) もしゲートが順方向にバイアスされるとゲート電流が流れ急激に入力インピーダンスが低下します。
この形式のFETでは3SK121(東芝)がアマチュアの間で有名でした。メーカー製のUHF無線機に使われたからのようです。 GaAs MES-FETは1974年にNEC日本電気によって実用化されました。主にマイクロ波帯の通信機用として供給されたものです。 UHF帯でもローノイズかつ混変調特性も良好なため、民生品用としても各社から登場して一時期はもてはやされたものでした。しかし半導体素材が特殊なのと、1979年のHEMT(富士通)の登場とその後の実用化、さらにはRF回路のMMIC化が進んだため今ではほとんどが製造中止になりました。
このSGM2006Mは秋月電子通商で長いあいだ販売されていたSONY製のGaAs MES-FETです。 表面実装型のためアマチュアには使いにくいことから人気は今ひとつのようでした。しかし性能はなかなか優秀です。(現在は販売終了)
このようにGaAs MES-FETはMOS構造ではないため、もっぱらゲートは負のバイアスで使います。 何となく似ているように見えますが、MOS型のFETとはだいぶ使い方が違います。 以下にもっともシンプルな使い方を示しておきました。
【SGM2006MでRF-Amp.】
GaAs MES-FETで作ったRF-Amp.です。
第2ゲートのバイアスはゼロボルトで良いため、ソースに直結するだけで済みます。 とても簡単です。
また、第1ゲートのバイアスはソースとGND間の抵抗(ソース抵抗)による自己バイアスで得るのが最も簡便です。 ドレイン電流を測定しながらソース抵抗を加減して10mAになるよう調整すれば完了です。VRの抵抗値を実測して固定抵抗に置き換えておくのも好ましいことです。 なお、GaAs MES-FETはドレイン・ソース間の耐電圧が低いため電源電圧に注意します。コイルやトランスのようなインダクタンス負荷においては必ず6V以下の電源で使います。 この例では5Vにしましたが十分なゲインが得られています。
ごく簡単な回路ですが28.5dBと言う十分なゲインが得られました。 NFも小さく、混変調特性も優秀ですがVHF帯以上でこそ本領を発揮するのでしょう。 もちろん、HF帯で使っても支障はありません。温存して死蔵になるよりマシですから積極的に使いたいものです。 シングルゲートのFETと同じように使えるので思ったよりも使い易く重宝なデバイスです。
ゲートを正にドライブするような荒っぽい使い方はまずいと思いますが、発振回路のような用途では大きな振幅を扱う可能性もあります。 ゲートに電流を流し過ぎて壊さないようなるべく慎ましく使いたいものです。 低めの電源電圧でもよく働くので電圧を落とした使い方も悪くないです。 なお、ゲート部分がショットキー構造のため静電気に弱いので扱いに注意します。半田コテのリーク電流も大敵です。(高周波特性の良いデバイスでは一般的な注意事項です)
GaAs MES-FETはお店からほとんど姿を消していますが、手持ちがあるなら有効活用したいデバイスの一つです。 容易に使え、V/UHF帯でLow NoiseなRFアンプが実現できます。 比較的ポピュラーなものとしては、SGM2006M(SONY)のほか、3SK97(松下/Panasonic)、3SK113(日立)、3SK121(東芝)、3SK129(Panasonic)、3SK240(東芝)などがありました。これらの使い方はいずれも同じです。
【トリファイラ巻きRFトランス】
RF-Amp.のテストではドレイン負荷に既製品のRFトランスを使いました。使いやすく実験試作には便利ですがコストは高めです。
写真のようにフェライトビーズ:FB-801-#43に自分で巻くと安上がりです。 性能も良いのでお勧めです。 3本の線を軽くよじったものをコアの穴に6回通してから、写真のように配線すれば完成です。この例ではわかり易いように3色の線を使いました。 写真の製作例はトリファイラの6回巻きですから30MHz以下で使うのが適当でしょう。
30MHzくらいから上の周波数では3回巻きに減らします。さらにはもっと小型のフェライトビーズ:FB-101-#43を使い、巻き数も3回くらいにします。 引出し線をなるべく短く実装すればVHF帯も十分行けます。
コア材にメガネ型コアを使う方法もあって、なかなか優秀なトランスが作れます。巻き方と結線方法は同じです。写真を見ながら間違わないように結線します。 写真のPin番号は既製品のRFトランス:ADT4-1WTに合わせてあります。 従って回路図のPin番号通りに接続すればそのまま置き換えOKです。
# 多少手間は掛かりますがRFトランスの自作はお勧めです。
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RF-Amp.は測定器でテストしたあと、実際にシャックの無線機でも試しました。 受信系のトータルゲインが過剰になるのは承知です。 ただしいくらかでも緩和するためアンプの出力に10dBのアッテネータを入れました。 強い電波がひしめく7MHzはそもそも厳しいのですが、まずまず使いものになりそうです。 もちろん、既に十分なゲインを持っている市販の無線機に追加するのは無意味であり、むしろ有害と言うべきかも知れません。 後付けRF-Amp.の意味があるのは、もともとRF-Amp.が付いていなかったり、トータルのゲインが不足しているような受信機でしょう。そのような場合はたいへん効果的です。ここで扱ったようなRFアンプなら何れもノイズが少なくゲインも適当です。
自作機の場合、ゲインのあまりないミキサに前置する使い方がFBです。ゲインのあるミキサでは時にオーバーゲインになってミキサの部分で飽和してしまいます。 昔の真空管機ではRF-Amp.で40dB近いゲインを得ている例もあったようですが、電源電圧が低い半導体の場合、せいぜい20dBくらいが適当なようです。ゲインはその程度にして、ローノイズ(低NF)であることを重視します。 テストしたようなRF-Amp.ならどれもその目的に使えるでしょう。ミキサがDiode-DBMならRF-Amp.との間に3dBのPADを挟むのも上手な使い方です。 もし、アンプ自体のゲインが過剰と感じられる場合は入力コイルの部分でタップダウンするのも良い方法です。
☆ ☆
【3SK294で7MHzクリコン】
RF-Amp.以外の用途として、少し前のBlog(←リンク)で扱ったクリコン+再生検波式の受信機に3SK294を使ってみました。 元々は3SK35GRを使っていましたが、エンハンスメント型の3SK294に置き換えます。
次項に回路図を示しますが、 検討した結果、第1ゲートの部分に抵抗器を一本追加するだけで同じように動作します。 ほか、いくらか調整のマージンを得るためにバイアス調整回路の抵抗値を変えたほうがよさそうでした。
調整は3SK35GRの時と同じように行ないます。 ソース電極で波形を観測して水晶発振の発振振幅が 2Vppになるようにバイアス調整します。 受信しながら良く聞こえる状態にセットしても良いでしょう。
感度など違いは感じられませんので、3SK35GRの部分は3SK294に置き換えることができます。 写真ではクリコン部分のみ交換していますが、原理的に第1ゲートに正のバイアスを掛ければ良いだけですから同様に再生検波回路も3SK294に置き換えできます。
【3SK294クリコンの回路】
先に作った再生式受信機のクリコン回路部分を3SK294に置き換えて作った回路です。
抵抗器が一本追加になりましたが、他の部分はほぼそのままです。 3SK35GRはディスコン(製造中止品)ですから、手に入るDual Gate MOS-FETに交換すると作り易いです。
なお、変換基板に実装してから判明したのですが、3SK35のような金属缶タイプの2ゲートMOS-FETとは裏返しのピン配置になります。 従ってそのまま差し換えて試すことはできません。注意が必要です。 面実装した変換基板を裏返しにすれば同じピン配列にできますが、実装したデバイスが見えなくなると何となく不安なので行ないませんでした。 本番のプリント基板実装なら裏面(パターン面)に搭載すれば辻褄が合います。(笑)
☆
Dual Gate MOS-FETが活躍するのは、シンプルな1石クリコンや再生検波回路くらいかもしれません。 しかし、性能が悪いわけではないので使わずに死蔵するのも勿体無いと思います。 ただし、どうしても部品数が増えてしまいますからなるべく2つあるゲートが活かせるようなアプリケーションに使うとスッキリしそうです。 今回の実験では、RF-Amp.と1石式のクリコンを試しました。 他には第2ゲートに局発を注入する形式のミキサー回路もなかなか旨く働いてくれます。 類似の用途ではダイレクト・コンバージョン受信機の検波器があります。
もちろん他の回路への応用も可能なのですが、あまり必然性のない使い方になってしまうでしょう。他に適当なデバイスがなければ別なんですが・・・という感じです。 でも、優秀なデバイスを埋もれたままにしては勿体ないです。機会を見て使って行きましょう。
時代に連れて色々なデバイスを使ってきました。その当時は便利で優秀と思って買い貯めたデバイスも後にはさらに良いものが登場して一気に陳腐化することも度々です。 半導体の進歩は留まるところを知りませんからね。 程々に買い置きして、自作に支障のないようにしておくくらいが丁度良いのかなあ・・・と思っています。 そうは言っても過去に買い貯めた「しがらみ」から容易に抜けられず、いつまでもレトロな路線ではそのうち誰からも相手にしてもらえなくなりそうです。(爆) ではまた。 de JA9TTT/1
参考:FET(電界効果トランジスタ)について、このBlogには関連した話題がたくさんあります。もし興味を覚えたらBlog画面の上部左側にある検索窓に「FET」とインプットして検索でご覧を。ほか、何か疑問とかあれば遠慮なくコメントして下さい。
おすすめ・追加情報:ヨーロッパ系のデュアルゲートMOS-FET:BF998を比較測定した続編のBlog(←リンク)があります。 3SK35や3SK59,etcとの比較用実測データもあり。
(おわり)
2019年9月29日日曜日
【回路】7MHz VXO Design
【7MHzのVXOをテストする】
【トランジスタを使ったVXO】
シンプルなWSPR機を作ろうと思っています。 WSPR(←リンク)は数Wのパワーでしかも固定した周波数で送受を繰り返すだけです。 意外にシンプルな仕組みで済みそうですから、あとはいかに簡潔に実現するのかが工夫のしどころでしょう。
☆
Rigが空いている時を見計らってWSPRにオンエアしています。 自身がバンドの伝搬状況を掴む目的もありますが、他地域からの把握にも幾らか役立って欲しいと思っています。オンエアはWSPR専用送信機による送りっぱなしの一方通行ではなく、待機時は受信してレポートをアップする「送受信が揃った形態」が望ましいようです。 簡単に行なうにはメーカー製トランシーバが適当ですがメーカー機は送受ともに消費電力が大きすぎるように感じます。 そこで省エネなWSPR機はできないものか考え始めたわけです。 もちろん、既にそのようなKitとか製品も登場していますがなるべくなら自身の手で・・・それもシンプルさ優先で試してみたいものです。
ー ・・・ ー
ダイレクト・コンバージョン形式を考えるのでまずは検波用の発振器を作ろうと思います。 都合よくマッチする水晶発振子は手持ちにありません。いまどき特注も面倒です。 なるべく少ない消費電電力にしたいので近い周波数の水晶発振子を使ったVXOで何とかならないものでしょうか・・・。
21世紀になって20年も過ぎた今ごろVXOでもあるまいに・・・という呟きも聞こえてきそうです。(笑) 発振器と言えばDDSやPLLの時代ですからVXOなんて有用ではないかもしれません。 しかし周波数の可変は必要なく目的周波数の水晶発振子がないならVXO形式で周波数をちょっと引っ張るのも悪くないでしょう。 目論見通りWSPRの復調がうまく行くか、受信レポートに現れる周波数安定度は大丈夫なのか、それぞれ確かめましょう。 VXOなんて語り尽くされた昔話のようなものです。 息抜き程度にでもご覧ください。
【7MHz帯のVXO:実験回路】
まずは受信からでもと思ってシンプルなダイレクト・コンバージョン機を構想します。 高級な路線は狙わず、検波したら増幅してパソコンに接続という単純な形式で行きたいと思います。 そんな思いつき実験のために、7038.6kHzの発振器が欲しくなった訳です。 しかしそんな中途半端な周波数の水晶発振子は持っていません。 でも7040kHzあたりの水晶発振子ならジャンク箱にあったような。
引き出しを探したらそれらしい水晶発振子が出てきました。 表面の捺印からでは正確な発振周波数はわかりません。何のメモも付いていませんでした。 そこで、さっそく共振特性を調べたら発振周波数は少し高い7045kHzのようです。 どうやら目的周波数に対して6.4kHzほど高いようです。 残念ながら7MHzあたりの水晶発振子はトリマコンデンサを抱かせた調整でそれだけ下げられません。 でも、VXO式なら6.4kHz(約0.1%)など至極簡単です。それにその程度のVXO量なら周波数安定度もまずまずではないでしょうか。図のようなVXO回路でテストすることにしました。見ての通り回路そのものはオーソドックスなものです。 大きく周波数を可変させるVXOとの違いは直列のインダクタ(VXOコイル)の大きさだけです。
発振回路はクラップ型LC発振器と等価なものです。 発振デバイスはfTの高いRF用トランジスタを使いました。VXOと言えばFET(電界効果トランジスタ)を使う例が多いのですが、バイポーラ・トランジスタでも容易に発振できます。 むしろゲインが高いのでエミッタとGND間は単なる抵抗器で済んでしまいます。 図では発振に2SC207を使っていますが、ここはRF用小信号トランジスタなら何でも可です。安価な中華トランジスタの:S9018Hなど最適でしょう。 バイアスは無調整で大丈夫だと思いますが、必要ならベース抵抗:R1=330kΩを加減してコレクタ電流が2mAくらい流れるようにします。
VXOでいつも問題になるのはいわゆる「VXOコイル」ですね。 事前の見積もりでは68μHくらい必要そうです。 あとは作ってから実験的に決めることにしました。 その結果が図の定数(L1=47μH)です。 6.4kHzではなく、もっとたくさんVXOさせたいならL1は68μHくらい必要そうでした。 ここではそんなに引っ張る必要はないし少ないインダクタンスで済ませた方が周波数の安定度は優れます。安定なVXOを作るには必要最低限のコイル(=インダクタンス)で済ませるのがコツです。 稀にQの高いコイルを使うと異常発振するかも知れません。そのときはコイルと並列に10kΩくらいの抵抗を追加してみます。
なお、水晶発振子に並列のコンデンサ:C3=5pFは温度特性の良いものに限ります。 NP0特性(エヌピーゼロとくせい)のセラコンかディップド・マイカが適当です。 このコンデンサはVXO量に大きく影響します。大きくすると少なめのインダクタンス(VXOコイル)でたくさんVXOできますが、発振の起動特性や周波数安定度から考えて10pF以下で済ませる方が良いでしょう。私は3〜5pF程度にしています。
バッファアンプは近ごろ定番のFET:2SK544F(三洋/ONセミ)を使いました。2SK241GR(東芝)でも良いですし足の並びに気を付けて2SK439F(日立)も使えます。この回路の場合、帰還容量(Crss)が大きな2SK192A、BF256などは不適当です。 VXO発振部の出力波形はあまり綺麗ではありません。発振波形の綺麗さよりも確実な発振を優先しているからです。 そこでバッファアンプはドレイン側に同調回路を挿入した形式にします。これだけでだいぶ綺麗な出力波形になります。 2SK544Fの出力で5dBmくらい得られました。
参考:VXOコイルのインダクタンス見積もり方
以下はたいへんアバウトなものですが、初めに目星をつけておけばVXOコイルの製作はずっと容易になります。 上記回路図のように水晶発振子にC3を並列に入れる形式のVXOついて計算します。 いま、水晶発振子の端子間容量:Cpは2pF程度と見込めます。また、設計値から並列容量:C3は5pFで計算します。 C=Cp+C3=7(pF)となります。 VXOコイルは、概略でこの7pFとで水晶発振子の周波数:Fに共振するようなインダクタンス値にします。 この例では、水晶の周波数:Fは7045kHzで、C=7pFとすれば、コイルのインクタンス:Lは以下の計算で求められます。誰でもできる算数レベルの計算ですけれど・・・。w
左図のようにL=約73μHと求まります。 近似値の標準的なインダクタは68μHなのでそのあたりの値からテストしてみることになります。あるいはそのくらいのインダクタンスが得られるようなコイルを巻いて試すことにします。
VXOコイルが用意できたら、回路図のC4とC5の部分を最大容量が100pF程度のバリコンに置き換えます。発振させて十分な周波数変化が得られるかによってVXOコイルが最適か否かを判断します。 最適ならバリコンをいっぱいに回して水晶の表示周波数の約0.5%くらいの変化量が得られます。 この例で言えば水晶発振子は7045kHzですから、35kHzくらいの変化量が得られればちょうど良いインダクタンスです。
インダクタンスが変えられるコイル(コア入りのコイルなど)を使って試すと、最適量に近付くと急に大きな周波数変化量が得られるようになるのがわかります。インダクタンスの最適値はかなり狭い範囲にあります。 なお、0.5%以上の変化が得られることも多いのですが、周波数安定度がだんだん悪くなるので実用的ではなくなってきます。周波数安定度との兼ね合いなどを考えて概ね表示周波数の0.5%程度を目標にしています。
言うまでもないと思いますが発振周波数は表示周波数よりも下側に変化して行きます。7045kHzの水晶ではバリコンが最小容量のとき約7045kHzで発振し、容量の増加とともに発振周波数も下がって行きます。バリコンが最大容量のとき約7010kHzまで下げられればVXOコイルは最適と言えるでしょう。
もちろん水晶発振子には個体差があって、この計算値の「半分または2倍くらい」になる可能性もあります。得ようとする周波数変化量によっても必要なインダクタンスは違います。しかし闇雲にコイルを巻き始めるよりも計算すれば遥かに見通しは良くなります。
俗に言う水晶を2つパラにする「スーパーVXO」でやりたい時は、Cpの値を2倍にして計算します。 試すとわかりますが「スーパー」にしなくても水晶一つに並列のコンデンサ:C3を加えるだけで十分にVXOできます。 過去にスーパーVXOを試したこともありますが、あまりその必要性を感じなかったので最終的に採用しませんでした。 今回も必要とする変化量はわずかですから水晶一つで十分です。
【VXO部分】
使用した水晶発振子とVXOコイルの部分です。 VXOコイルは既製品のマイクロインダクタで済ませました。 今回の目的におけるインダクタンスの最適値は47μHよりもう少し小さいところにありそうでしたが、そこまで追い込まなくても十分でした。
VFOの代わりに使うような「たくさん引っ張るVXO」を作るなら是非ともVXOコイルを最適化すべきです。 ここではたった6.4kHzだけ引っ張れれば十分ですから既製品のインダクタで済ませたのです。(参考:写真で使用している中華製のRFCは温度特性がよくありませんでした。周波数安定度に大きく影響するので要検討です。)
同じ周波数の水晶発振子が3つあったので再現性の比較をしてみました。 どれもほとんど違いはないようです。 メーカーやロットが違えば最適インダクタンスも異なる可能性はあります。でも極端に違うことはないはずなので、33〜68μHあたりからテストを始めます。
写真のように発振に2SC207という金属缶タイプのトランジスタを使いました。 実測で1GHzを超えるfTがあってFBな石なのにパーツボックスの肥やしに成り下がっていたのです。 fTがある程度高いRF用のトランジスタならなんでも可ですから型番にとらわれず手持ちをドンドン試してみましょう。 周波数は7MHzですから汎用トランジスタ(2SC1815など)でも十分行けるのではないでしょうか。
【出力波形】
2SK544Fのバッファアンプを出たところの波形です。 ちょっと見たらきれいな正弦波ですが、スペアナでみるとけっこう高調波が含まれます。 しかしそのままオンエアに使う訳ではありませんからこの程度で十分でしょう。 それにまずは受信用ですからね。
途中の回路ロスなど考えて、もう少し大きめのパワーが欲しい気もするので出力部分のコイルを作り替えるかアンプの追加を考えています。 低消費電力の観点からはなるべくアンプは増やさずに行きたいところです。 この先は検波回路とバンドパス・フィルタなどを検討したいと思います。 旨くすればさっそくWSPRで受信テストができるかもしれません。
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ダイレクト・コンバージョン形式の受信機を作るには受信周波数の発振器が必要です。まずはその手当をしてからその先を進めましょう。 手持ちにちょうど使えそうな水晶発振子があって良かったです。 さらに探したら10140kHzの水晶発振子も見つかりました。 10MHz帯のWSPRは10138.7kHzです。 こちらはVXOせずに調整だけで行けるかもしれないほど近い周波数です。 7MHzのテストが済んだら10MHz帯もやってみましょう。 でも、複数の周波数発生にはDDSが一番かも知れませんね。周波数管理も楽ですから。そっちの方向へ行ってしまう可能性もゼロじゃありません。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク
【トランジスタを使ったVXO】
シンプルなWSPR機を作ろうと思っています。 WSPR(←リンク)は数Wのパワーでしかも固定した周波数で送受を繰り返すだけです。 意外にシンプルな仕組みで済みそうですから、あとはいかに簡潔に実現するのかが工夫のしどころでしょう。
☆
Rigが空いている時を見計らってWSPRにオンエアしています。 自身がバンドの伝搬状況を掴む目的もありますが、他地域からの把握にも幾らか役立って欲しいと思っています。オンエアはWSPR専用送信機による送りっぱなしの一方通行ではなく、待機時は受信してレポートをアップする「送受信が揃った形態」が望ましいようです。 簡単に行なうにはメーカー製トランシーバが適当ですがメーカー機は送受ともに消費電力が大きすぎるように感じます。 そこで省エネなWSPR機はできないものか考え始めたわけです。 もちろん、既にそのようなKitとか製品も登場していますがなるべくなら自身の手で・・・それもシンプルさ優先で試してみたいものです。
ー ・・・ ー
ダイレクト・コンバージョン形式を考えるのでまずは検波用の発振器を作ろうと思います。 都合よくマッチする水晶発振子は手持ちにありません。いまどき特注も面倒です。 なるべく少ない消費電電力にしたいので近い周波数の水晶発振子を使ったVXOで何とかならないものでしょうか・・・。
21世紀になって20年も過ぎた今ごろVXOでもあるまいに・・・という呟きも聞こえてきそうです。(笑) 発振器と言えばDDSやPLLの時代ですからVXOなんて有用ではないかもしれません。 しかし周波数の可変は必要なく目的周波数の水晶発振子がないならVXO形式で周波数をちょっと引っ張るのも悪くないでしょう。 目論見通りWSPRの復調がうまく行くか、受信レポートに現れる周波数安定度は大丈夫なのか、それぞれ確かめましょう。 VXOなんて語り尽くされた昔話のようなものです。 息抜き程度にでもご覧ください。
【7MHz帯のVXO:実験回路】
まずは受信からでもと思ってシンプルなダイレクト・コンバージョン機を構想します。 高級な路線は狙わず、検波したら増幅してパソコンに接続という単純な形式で行きたいと思います。 そんな思いつき実験のために、7038.6kHzの発振器が欲しくなった訳です。 しかしそんな中途半端な周波数の水晶発振子は持っていません。 でも7040kHzあたりの水晶発振子ならジャンク箱にあったような。
引き出しを探したらそれらしい水晶発振子が出てきました。 表面の捺印からでは正確な発振周波数はわかりません。何のメモも付いていませんでした。 そこで、さっそく共振特性を調べたら発振周波数は少し高い7045kHzのようです。 どうやら目的周波数に対して6.4kHzほど高いようです。 残念ながら7MHzあたりの水晶発振子はトリマコンデンサを抱かせた調整でそれだけ下げられません。 でも、VXO式なら6.4kHz(約0.1%)など至極簡単です。それにその程度のVXO量なら周波数安定度もまずまずではないでしょうか。図のようなVXO回路でテストすることにしました。見ての通り回路そのものはオーソドックスなものです。 大きく周波数を可変させるVXOとの違いは直列のインダクタ(VXOコイル)の大きさだけです。
発振回路はクラップ型LC発振器と等価なものです。 発振デバイスはfTの高いRF用トランジスタを使いました。VXOと言えばFET(電界効果トランジスタ)を使う例が多いのですが、バイポーラ・トランジスタでも容易に発振できます。 むしろゲインが高いのでエミッタとGND間は単なる抵抗器で済んでしまいます。 図では発振に2SC207を使っていますが、ここはRF用小信号トランジスタなら何でも可です。安価な中華トランジスタの:S9018Hなど最適でしょう。 バイアスは無調整で大丈夫だと思いますが、必要ならベース抵抗:R1=330kΩを加減してコレクタ電流が2mAくらい流れるようにします。
VXOでいつも問題になるのはいわゆる「VXOコイル」ですね。 事前の見積もりでは68μHくらい必要そうです。 あとは作ってから実験的に決めることにしました。 その結果が図の定数(L1=47μH)です。 6.4kHzではなく、もっとたくさんVXOさせたいならL1は68μHくらい必要そうでした。 ここではそんなに引っ張る必要はないし少ないインダクタンスで済ませた方が周波数の安定度は優れます。安定なVXOを作るには必要最低限のコイル(=インダクタンス)で済ませるのがコツです。 稀にQの高いコイルを使うと異常発振するかも知れません。そのときはコイルと並列に10kΩくらいの抵抗を追加してみます。
なお、水晶発振子に並列のコンデンサ:C3=5pFは温度特性の良いものに限ります。 NP0特性(エヌピーゼロとくせい)のセラコンかディップド・マイカが適当です。 このコンデンサはVXO量に大きく影響します。大きくすると少なめのインダクタンス(VXOコイル)でたくさんVXOできますが、発振の起動特性や周波数安定度から考えて10pF以下で済ませる方が良いでしょう。私は3〜5pF程度にしています。
バッファアンプは近ごろ定番のFET:2SK544F(三洋/ONセミ)を使いました。2SK241GR(東芝)でも良いですし足の並びに気を付けて2SK439F(日立)も使えます。この回路の場合、帰還容量(Crss)が大きな2SK192A、BF256などは不適当です。 VXO発振部の出力波形はあまり綺麗ではありません。発振波形の綺麗さよりも確実な発振を優先しているからです。 そこでバッファアンプはドレイン側に同調回路を挿入した形式にします。これだけでだいぶ綺麗な出力波形になります。 2SK544Fの出力で5dBmくらい得られました。
参考:VXOコイルのインダクタンス見積もり方
以下はたいへんアバウトなものですが、初めに目星をつけておけばVXOコイルの製作はずっと容易になります。 上記回路図のように水晶発振子にC3を並列に入れる形式のVXOついて計算します。 いま、水晶発振子の端子間容量:Cpは2pF程度と見込めます。また、設計値から並列容量:C3は5pFで計算します。 C=Cp+C3=7(pF)となります。 VXOコイルは、概略でこの7pFとで水晶発振子の周波数:Fに共振するようなインダクタンス値にします。 この例では、水晶の周波数:Fは7045kHzで、C=7pFとすれば、コイルのインクタンス:Lは以下の計算で求められます。誰でもできる算数レベルの計算ですけれど・・・。w
左図のようにL=約73μHと求まります。 近似値の標準的なインダクタは68μHなのでそのあたりの値からテストしてみることになります。あるいはそのくらいのインダクタンスが得られるようなコイルを巻いて試すことにします。
VXOコイルが用意できたら、回路図のC4とC5の部分を最大容量が100pF程度のバリコンに置き換えます。発振させて十分な周波数変化が得られるかによってVXOコイルが最適か否かを判断します。 最適ならバリコンをいっぱいに回して水晶の表示周波数の約0.5%くらいの変化量が得られます。 この例で言えば水晶発振子は7045kHzですから、35kHzくらいの変化量が得られればちょうど良いインダクタンスです。
インダクタンスが変えられるコイル(コア入りのコイルなど)を使って試すと、最適量に近付くと急に大きな周波数変化量が得られるようになるのがわかります。インダクタンスの最適値はかなり狭い範囲にあります。 なお、0.5%以上の変化が得られることも多いのですが、周波数安定度がだんだん悪くなるので実用的ではなくなってきます。周波数安定度との兼ね合いなどを考えて概ね表示周波数の0.5%程度を目標にしています。
言うまでもないと思いますが発振周波数は表示周波数よりも下側に変化して行きます。7045kHzの水晶ではバリコンが最小容量のとき約7045kHzで発振し、容量の増加とともに発振周波数も下がって行きます。バリコンが最大容量のとき約7010kHzまで下げられればVXOコイルは最適と言えるでしょう。
もちろん水晶発振子には個体差があって、この計算値の「半分または2倍くらい」になる可能性もあります。得ようとする周波数変化量によっても必要なインダクタンスは違います。しかし闇雲にコイルを巻き始めるよりも計算すれば遥かに見通しは良くなります。
俗に言う水晶を2つパラにする「スーパーVXO」でやりたい時は、Cpの値を2倍にして計算します。 試すとわかりますが「スーパー」にしなくても水晶一つに並列のコンデンサ:C3を加えるだけで十分にVXOできます。 過去にスーパーVXOを試したこともありますが、あまりその必要性を感じなかったので最終的に採用しませんでした。 今回も必要とする変化量はわずかですから水晶一つで十分です。
【VXO部分】
使用した水晶発振子とVXOコイルの部分です。 VXOコイルは既製品のマイクロインダクタで済ませました。 今回の目的におけるインダクタンスの最適値は47μHよりもう少し小さいところにありそうでしたが、そこまで追い込まなくても十分でした。
VFOの代わりに使うような「たくさん引っ張るVXO」を作るなら是非ともVXOコイルを最適化すべきです。 ここではたった6.4kHzだけ引っ張れれば十分ですから既製品のインダクタで済ませたのです。(参考:写真で使用している中華製のRFCは温度特性がよくありませんでした。周波数安定度に大きく影響するので要検討です。)
同じ周波数の水晶発振子が3つあったので再現性の比較をしてみました。 どれもほとんど違いはないようです。 メーカーやロットが違えば最適インダクタンスも異なる可能性はあります。でも極端に違うことはないはずなので、33〜68μHあたりからテストを始めます。
写真のように発振に2SC207という金属缶タイプのトランジスタを使いました。 実測で1GHzを超えるfTがあってFBな石なのにパーツボックスの肥やしに成り下がっていたのです。 fTがある程度高いRF用のトランジスタならなんでも可ですから型番にとらわれず手持ちをドンドン試してみましょう。 周波数は7MHzですから汎用トランジスタ(2SC1815など)でも十分行けるのではないでしょうか。
【出力波形】
2SK544Fのバッファアンプを出たところの波形です。 ちょっと見たらきれいな正弦波ですが、スペアナでみるとけっこう高調波が含まれます。 しかしそのままオンエアに使う訳ではありませんからこの程度で十分でしょう。 それにまずは受信用ですからね。
途中の回路ロスなど考えて、もう少し大きめのパワーが欲しい気もするので出力部分のコイルを作り替えるかアンプの追加を考えています。 低消費電力の観点からはなるべくアンプは増やさずに行きたいところです。 この先は検波回路とバンドパス・フィルタなどを検討したいと思います。 旨くすればさっそくWSPRで受信テストができるかもしれません。
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ダイレクト・コンバージョン形式の受信機を作るには受信周波数の発振器が必要です。まずはその手当をしてからその先を進めましょう。 手持ちにちょうど使えそうな水晶発振子があって良かったです。 さらに探したら10140kHzの水晶発振子も見つかりました。 10MHz帯のWSPRは10138.7kHzです。 こちらはVXOせずに調整だけで行けるかもしれないほど近い周波数です。 7MHzのテストが済んだら10MHz帯もやってみましょう。 でも、複数の周波数発生にはDDSが一番かも知れませんね。周波数管理も楽ですから。そっちの方向へ行ってしまう可能性もゼロじゃありません。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク
2019年9月14日土曜日
【回路】Regenerative Receivers (6)
【再生式受信機・その6 クリコン+再生検波式】
【クリコン+再生検波式受信機】
再生式受信機をテーマにした第6回目です。 前回(←リンク)はクリスタル・コンバータ(クリコン)をテストしました。
今回はクリコンで低い周波数に変換された受信信号を再生検波回路で復調する部分から後を作ります。 再生検波回路で復調された音声信号はそのあと十分に低周波増幅されます。クリコン+再生検波式の受信機になります。 単純な再生式受信機と比べて複雑そうに感じるかも知れませんが、実際はかなりシンプルです。
毎回同じような写真ですが、これはクリコン+再生検波式で製作した7MHz帯の受信機です。ブレッドボードの試作状態ですが成績しだいで本製作へ進みたいと思っています。
使用デバイスはDual-Gate MOS-FETが二つと低集積度のICが一つです。アクティブ素子はこの三つだけです。 電源電圧は9Vで設計しました。MOS-FETはあまり低い電源電圧に向かないからです。ただし6Vくらいまで下げてもまずまず聞こえます。 なお、再生式受信機と言いつつ、スーパ・ヘテロダイン式でもありますからクリコン部分の水晶発振が停止してしまうとまったく聞こえなくなります。この点は注意すべきところです。
☆
SSBも受信できる性能の再生式受信機として低い周波数で再生検波を行なう形式で試作します。セラミック発振子を使ったタイプと比較してみましょう。 QSO(無線交信)に使えそうな「実用的な性能」がとりあえずの目標といったところでしょうか。 SSBが聞こえる性能を目指してはいますがSSBトランシーバのような用途は意図していません。SSBの送信部は簡単ではないからです。また、再生式受信機はトランシーブ操作には向きません。 従ってCWでの交信に実用性があればまずはゴールだと思っています。周波数安定度の観点からSSBが受信可能ならCWにも十分なはずですから。 以下、引き続きシンプルな(しかし実用性能の)受信機がテーマですがもしご興味でもあればご覧ください。
【クリコン+再生検波式受信機・回路図】
3つの部分から構成されています。 シンプルですが受信機に必要な機能は備えています。 以下、アンテナ側から順を追って行きます。
アンテナから入った信号は可変抵抗器:VRを使った簡易なアッテネータを通ったあと、7MHzの同調回路に加わります。 7MHz帯の入力信号は2ゲートMOS-FETの3SK35GRで周波数変換されます。周波数変換のための局部発振は5.12MHzの水晶発振器です。 7MHzの入力信号は低い周波数へ周波数変換されます。 7MHzのHAM Bandは7.0〜7.2MHzの200kHzあって、1.88〜2.18MHzへと周波数変換されることになります。 第2ゲートのバイアスはVR2で可変できます。変換ゲインが十分得られるポイントにセットします。乾電池を電源にする場合、電源電圧が6V程度に下がっても発振停止しないことも調整の条件です。 一旦セットすれば頻繁な再調整は不要なので固定抵抗に置き換えて支障ありません。ここまでは前回のBlog(←リンク)で検討した部分です。
周波数変換された信号は検波コイル:T2と小容量で結合されます。 再生検波回路もDual-Gate MOS-FETの3SK35GRを使っています。この再生検波回路はRCA社のアプリケーション・ノートが元になっています。(後述) RCAの資料では3N187というMOS-FETになっていました。(3N187は軍用・工業用で、民生用の40673と同じ特性) 3SK35GRを使いましたが規格を比較して大差はないようです。 回路定数も特に変える必要を感じないため基本的に資料を踏襲しています。
ハートレー型発振器と等価な再生検波回路です。テストしてみるとスムースな再生調整が可能で感度的にも良好でした。 なお、検波コイルはタップ式ではなく二次コイル式になっています。 このようにすると帰還量の加減が連続的にできるようになります。この工夫はJA1FG梶井OM(故人)が執筆された古いCQ誌の記事を参考にしました。 後ほどコイルの製作方法とともに詳しいデータがあります。 このコイルの構造はこの受信機のキーポイントの一つとも言える重要な部分です。
検波で得られた低周波信号は音量調整のVRを通ったあと低周波増幅されます。 今回はスピーカは目的とせず、セラミック(またはクリスタル)・イヤフォンを鳴らすようにしてみました。 従って単純な電圧増幅だけで済むため増幅素子にシンプルなICを使いました。 LA3020は三洋電機の旧式な2段増幅用ICです。 いつごろ買ったか忘れてしまいましたが、通販で買ったバーゲン品の残りです。たぶん入手は困難なので後ほど代替の3石アンプがあります。そちらに換える方がローノイズでFBです。
低周波増幅された受信信号はセラミック・イヤフォンで音にします。 なお、セラミック・イヤフォンはインピーダンスが高いためトランスによる昇圧ができます。 具体的には山水のST-30を使うと約6dBの感度アップになります。その様子も後ほど示しました。
以上ですべてです。 スピーカを鳴らす必要がないので低周波のパワー・アンプは不要です。そのため消費電流はだいぶ少なくて5〜6mAで済みました。 006P型乾電池でかなり長く受信できます。
以下、各部の様子を写真とともに見て行きましょう。
【クリスタル・コンバータ部】
クリコン部は前回のBlog(←リンク)と基本的に同じです。
3SK35GRの第1ゲートの部分を使ってコルピッツ型と等価の水晶発振回路を構成しています。 水晶発振子はHC-49/U型で周波数は5.12MHz(基本波)です。 発振が弱すぎると変換ゲインが低下し、強すぎればスプリアス特性が悪化します。ちょうど良い範囲があるので第2ゲートのバイアス電圧で発振状態をコントロールします。 変換すべき信号は第2ゲートに加えられます。 なお、アンテナコイルはスペースの都合で10K型ボビンに巻いたものを使いました。 前回のBlogのようなトロイダルコイルに巻いたものでももちろんOKです。
ドレイン側は抵抗負荷です。一般的なクリコンでは同調回路を入れて必要信号のみ取り出すようにします。 ここでは次段が再生検波器なので検波コイルの部分に十分な選択度があります。抵抗負荷で支障ありません。 抵抗負荷にするとゲインの点ではやや損ですが、再生式受信機では感度のほとんどが検波回路で決まるため、クリコン部分のゲインはそれほど重要ではありません。7.0〜7.2MHzのHAMバンドは1.88〜2.18MHzに周波数変換されます。SSBのサイドバンド転換はありません。
【再生検波部】
1.88〜2.18MHzを受信(復調)する再生検波回路です。 再生検波回路にもDual-Gate MOS-FET(2ゲートMOS型電界効果トランジスタ)を使いました。 この回路はJA1FGご自身が実際に製作され、再生検波回路として優れているとして推奨されたものです。(興味があればCQ Hamradio 1977年8月号 pp232〜239を参照)
オリジナルは次項で説明の米国RCA社の半導体アプリケーションノートに掲載された回路です。 基本的に同じ回路ですが、検波コイルの部分に梶井OM独自の工夫が行なわれています。 再生検波回路はFETのソースを検波コイルのタップに接続するハートレー型発振器と等価なものです。普通の回路ではコイルのタップ位置を変えて最良の検波状態が得られるように加減します。従ってタップ位置の調整はかなり厄介でした。
JA1FGの回路では検波コイルに別の帰還用巻線を巻いてタップを引き出す代わりとします。 その帰還用巻線の結合度はコアの出し入れで連続的に可変できるようになっています。 その結果、たいへん面倒なタップ位置のカットアンドトライが不要になります。
やってみますと、実際には帰還用巻線は巻き数の加減が必要でした。多少の試行錯誤は必要です。 しかしある程度良さそうな巻き数が見つかれば後の加減はスムースでした。コイルの巻き数や構造については後ほど詳しい図面があります。
重要:結合度調整用コアの働きについて
結合の加減に使う「コア」の位置によって巻線間の結合度が変わります。結合度が変わることで正帰還の大きさが変わって再生の掛かり方が加減されるわけです。 帰還用巻線と同調コイルの両方にまたがるような位置にコアがあると結合は最も密になります。 ただしコアを動かして結合度を変えると同調コイルのインダクタンスも変わってしまいます。 当然ですが受信周波数範囲も変わります。 その同調コイルのインダクタンス変化は反対側にあるもう一つのコアによって補正できます。 このように結合度の加減は受信周波数範囲の調整とともに行なうことになります。 二つのコアを持ったコイルを調整することになりますが、それほどクリチカルではないので難しくはありませんでした。
参考:使用するMOS-FETについて
実験では3SK35GRを使いました。比較のため3SK45B、3SK65、3N201Bなど幾つか交換して確認しています。 再生が始まるバイアス電圧に幾らか違いが見られましたが、それを除けば検波器としての性能に違いは見られません。他のFETでも代替できるでしょう。
【RCAの再生検波回路例】
JA1FG梶井OMが参照したRCAのアプリケーションとはどんなものなのか興味があったので調べてみました。
たどり着いたのは左図のような回路と説明です。 Dual-Gate MOS-FETのアナログ的なアプリケーションを全般に扱う記事の一部です。 その中で左図のような短い説明と簡単な回路図だけが該当の箇所でした。 なお、説明文には一部ほかの回路図の説明と取り違えているような記述があるようですね。
具体的な成績などは何も書いてありませんが、JA1FGの記事によれば真空管を使った再生検波回路と同様の好成績が得られたとあります。 実はこの検波回路は25年くらい前にテストしたことがありました。 負荷抵抗を低周波チョークに替えてゲインを欲張る設計に変更して試しました。 その結果、かなり高感度が得られたのですが同時に低周波発振にも悩まされた記憶があります。 今回はオリジナル通りに抵抗負荷でやってみましたが後続する低周波増幅のゲインをその分だけアップすれば同様の感度が得られます。あえて低周波チョークを使う必要はなかったようですね。
参考:RCAのアプリケーションノートが必要なお方はご連絡を。あまり綺麗ではありませんがPDF版のコピーがあります。なかなか面白いアプリケーションが載っています。
【検波コイルの製作図】
1.88〜2.18MHzを受信するためのコイルを巻きます。 JA1FGの記事には記述のない周波数ですから自身で仕様を決める必要がありました。 同調コイル側のインダクタンスは40μH(リアクタンスは約500Ω)くらいが適当と考えて製作します。(インダクタンスはもっと大きくても良いのですが巻き数もそれだけ増えます)
巻き数は同調コイル側が100回です。 帰還用の巻線は20回巻きます。 図のように13K型コイルの巻き枠には12段の巻き溝があります。 下側(足ピンの側)の10段の溝に各段に10回ずつ合計で100回巻きます。 ほかの回路への用途も考えて、途中の50回目にタップを設けてありますが、必ずしも必要としないので省いて良いです。
巻き方向は統一しておけばどうでも良いのですが、ここではコイルを上側から見て反時計回りになるよう巻いて行きました。 上側に2段の溝が残るはずです。その2段に各段10回ずつ計20回巻きます。 詳しくは図も参照を。巻き始めの位置と巻き方向を違えると再生が起こりません。
巻線には直径0.16mmのポリウレタン電線(記号:UEW)を使いました。 巻き数が多いので幾らか大変ですが製作は難しくないです。周波数が低いのでたくさん巻くのもやむを得ませんね。hi
設計の趣旨から、上下に二つのコアがある東光の13K型ボビンが適当です。 現在はRF回路でもコイルレスが進んでいるので入手は難しいかもしれません。 昔からジャンク部品を扱っているようなショップに売れ残っている可能性があります。 ほかに455kHzの真空管用IFTを巻き直す方法でも製作可能でしょう。 必ずしも形状や構造に拘る必要はありませんので、各自工夫して設計の趣旨にあったコイルを巻けば良いと思います。
【東光 13Kコイルの構造】
写真左が完成状態です。 右はボビンとして活用した10.7MHzのIFTです。これは過去にジャンクで入手しておいたものです。信越電機商会だったかも知れませんが、もちろん今はもう売っていません。
写真のようにボビンは13mm角のアルミケースに入っています。 下部のツメでシールドケースと固定されていますので、アルミケースの裾を少し持ち上げてやると簡単に外せます。 その後で既に巻かれている巻線をすべて除去してしまいます。 台座の部分に同調用のコンデンサが内蔵されているのでこれも除去します。
巻き溝には高周波ニスが塗布してあるかもしれません。薄い刃物などで溝をキレイに掃除しておくのがスムースな巻線のコツです。少々手間はかかりますが事前の準備(お掃除)が肝心でした。
【巻線の様子・途中】
同調コイル側の巻線を完了した状態です。 写真のように下側の10段に各段10回ずつ巻いて合計で100回巻きます。
巻線はφ0.16mm/UEWですが巻き溝ちょうどくらいの太さです。 もう少し細い方が巻き易いかもしれません。 しかし慎重に行なえば難しくもないです。
このあと上部2段の溝に帰還用のコイルを巻きます。 帰還用は各段に10回ずつ合計20回です。 巻き方の要領は同調コイル側に同じです。 引出し線を巻き溝サイドの縦溝に沿わせ台座方向へ持ってくると綺麗に作れます。 もし高周波ワニスがあれば塗布しておくと防湿になってFBです。 実験的にはそこまでしなくても良いと思いますが・・・。巻き終わったらシールドケースにもどして完成です。
参考:ジャンク屋を巡ったりローカルの自作好きに尋ねるなど、いろいろ努力しても13Kコイル(または類似品)が手に入らないようならご相談を。少量でしたら対応できます。
【低周波アンプ部】
同じICが手に入る可能性は低いので書いても無意味かもしれません。 写真は使用した低周波増幅用のICです。 中身はNPNトランジスタ2つと抵抗器5本だけという非常にプリミティブなICです。 おそらく1960年代の末ころ習作のようなICとして製造したものと思われます。
上記の回路図にあるように内部は2段直結の簡単な低周波アンプです。 ほかのICで代替しても良いですし、スピーカを鳴らせるようLM386Nなどのアンプを使っても良いでしょう。 あえて探して使うようなデバイスではないことを強調しておきたいと思います。 「使う機会がないのも勿体ないから使ってみた」という程度の話ですので・・・。
LA3020のアンプは、回路図の×印の部分をカットし、コンデンサ:C23(22μF)を点線のように接続するとオープンループとなってフルゲインの状態になります。(ゲイン:約54dB) コンデンサ:C19は増幅帯域を制限するために標準値よりもかなり大きくしてあります。こうするとノイズカットになり聴感上かなり効果的でした。 集積度の低いICですがこうした低周波回路くらいなら活きる道もありそうです。
参考:LA3020はまだ余ってます。使ってみたいお方に差し上げますので連絡してください。骨董品のICはどんなものか試してみると面白いかも・・・。
【昇圧トランスとセラミック・イヤフォン】
低周波増幅器(LA3020)の後にセラミック・イヤフォンを直結しても良く聞こえます。
必ずしもトランスで昇圧する必要はないのですが、消費電流を増やすこともなく2倍の感度にすることができます。 山水のST-30型トランスを入れると音量アップできます。 手持ちがあったらトランスで昇圧を試してください。それだけで感度アップになります。
セラミック・イヤフォンはインピーダンスが高く、端子間に掛かる「低周波電圧」で音量が決まる特性のためトランスでの昇圧が有効なわけです。 ただし、トランスには周波数特性が付き物ですからHi-Fi用途には向きせん。しかし再生式受信機には悪くないです。
【代替の3石低周波アンプ・回路図】
LA3020の代替に使う低周波増幅器の例です。ICと同じように2石で設計しても良いのですが1つ足しました。 トランジスタは安価ですから、3石にすると出力インピーダンスが下げられるなど扱い易くなります。 再生式受信機専用というわけではなく、多目的に使える低周波アンプです。
試作にはBlogで紹介済み(←リンク)の中国製のトランジスタ、C1815GRを使いました。もちろん東芝の2SC1815GRでもOKです。 組み立てたらテスト端子:TP1の電圧を確認します。GND間で測って4.5±0.5Vの範囲にあればそれ以上の調整は不要です。 もし範囲を外れているようならR7:1.1MΩを加減します。 TP1の電圧が4.5Vより高いときはR7を大きくします。4.5Vよりも低いときはR7を小さくしてやります。こうした調整を行なえば2SC1815Yでも大丈夫です。直流増幅率:hFEが200〜400の低周波小信号用トランジスタならほとんどのものが使えます。
周波数特性はC2:100pFで加減できます。 現状の100pFだと再生式受信機には必要以上に高域が伸びています。-3dBが約25kHzなので伸びすぎでしょう。従って100pFよりもずっと大きくした方が良いです。耳で聞きながら幾つか試します。 逆にC7を33pFくらいにすればHi-Fi用にも使えるほど伸びます。位相補償の意味もあるのでゼロにはしない方が無難です。
回路図の状態でゲインは約100倍(40dB)になっています。R8(現状36kΩ)を大きくするとゲインをアップできます。R8を取ってしまうとオープンループになり、約1,600倍(64dB)のゲインとなります。これがこのアンプの最大ゲインです。 必要に応じてゲインを加減して使います。
【3石低周波アンプ】
上記の3石アンプを試作している様子です。 ICを使うよりも部品は増えますが、回路自体が簡単なので作るのは容易です。 トランジスタがローノイズなので旧式のICて作るよりもずっとローノイズなアンプになりました。
受信機のほか送信機のマイクアンプ回路のような用途にも活用できます。 なお、600ΩのヘッドフォンをドライブするときはR6:1.5kΩを470Ωくらいまで小さくしトランジスタ:Q3の電流を増やしてやります。 また、8Ωのへッドフォンは直接ドライブできないので1kΩ:8Ωくらいの低周波トランスを介して接続します。
☆
受信成績を書き忘れていました。(笑) 作ったら何となく満足してしまったからです。 感度的にはセラミック発振子を使った回路と同程度でした。 低周波アンプのゲインをもう少しアップすると良さそうでしたが、LA3020ではオープンループでも54dB程度が限界でした。3石アンプの方がその点でも有利でしょう。 しかしかなり良く聞こえるのでなかなか使えそうな再生式受信機です。 バリコンの回転角に対する周波数の伸び方は単なるLC同調回路ですから素直でした。 セラミック発振子のVXO形式ではバリコンの容量が大きい方で周波数の伸びが縮んでしまうといった欠点があります。 周波数安定度は周波数が低いので良好です。周波数の引っ張り(Pull-in)現象も周波数が低いことが幸いするようで許容範囲にありました。これは目論見通りでした。従ってSSBも良く聞こえます。CW用としても不満はありません。 以上のような感じです。
作り方しだいで十分に実用になる再生式受信機が作れることがわかりました。 感度、周波数安定度ともにまずまずと言ったところです。 選択度は再生を強めて発振状態で使うCWの受信なら上々です。正帰還でQが高くなって良い選択度になっています。 もちろんシングル・シグナルではないので発振の上下の局が聞こえるのはやむを得ません。 前にも書きましたが、弱い信号は小さな音で、逆に強い信号は大きく聞こえます。 AGC(自動利得調整)がないのでやむを得ませんが、弱い局の受信中に不意に強い局にオンエアされると耐えられない音量になることがあります。 爆音を防ぎ耳を保護する意味からもピーク・リミッタを付加すべきだと感じました。 低周波のバンドパス・フィルタがあれば快適になりますが必須ではないように思います。 低周波増幅器の周波数帯域を制限しておけばそれだけでもかなり効果的でした。
ブレッドボードを脱却して製作するのはクリコン+再生検波式で行こうと思います。ユニット交換式に作っておけば取り替えて楽しむこともできるかもしれません。製作時に構造を含めて考えておきましょう。 問題は周波数の読み取りにありそうです。なんなら周測計をお供に受信しても面白そうです。
まだ真空管式などやってみたいことは幾つかあるのですが、ずいぶん長くなったのでとりあえずまとめの意味で「おわり」にしておきます。再生式受信機なんてとっくにオワコンかと思ってましたが、なかなか奥深かったですね。 de JA9TTT/1
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【クリコン+再生検波式受信機】
再生式受信機をテーマにした第6回目です。 前回(←リンク)はクリスタル・コンバータ(クリコン)をテストしました。
今回はクリコンで低い周波数に変換された受信信号を再生検波回路で復調する部分から後を作ります。 再生検波回路で復調された音声信号はそのあと十分に低周波増幅されます。クリコン+再生検波式の受信機になります。 単純な再生式受信機と比べて複雑そうに感じるかも知れませんが、実際はかなりシンプルです。
毎回同じような写真ですが、これはクリコン+再生検波式で製作した7MHz帯の受信機です。ブレッドボードの試作状態ですが成績しだいで本製作へ進みたいと思っています。
使用デバイスはDual-Gate MOS-FETが二つと低集積度のICが一つです。アクティブ素子はこの三つだけです。 電源電圧は9Vで設計しました。MOS-FETはあまり低い電源電圧に向かないからです。ただし6Vくらいまで下げてもまずまず聞こえます。 なお、再生式受信機と言いつつ、スーパ・ヘテロダイン式でもありますからクリコン部分の水晶発振が停止してしまうとまったく聞こえなくなります。この点は注意すべきところです。
☆
SSBも受信できる性能の再生式受信機として低い周波数で再生検波を行なう形式で試作します。セラミック発振子を使ったタイプと比較してみましょう。 QSO(無線交信)に使えそうな「実用的な性能」がとりあえずの目標といったところでしょうか。 SSBが聞こえる性能を目指してはいますがSSBトランシーバのような用途は意図していません。SSBの送信部は簡単ではないからです。また、再生式受信機はトランシーブ操作には向きません。 従ってCWでの交信に実用性があればまずはゴールだと思っています。周波数安定度の観点からSSBが受信可能ならCWにも十分なはずですから。 以下、引き続きシンプルな(しかし実用性能の)受信機がテーマですがもしご興味でもあればご覧ください。
3つの部分から構成されています。 シンプルですが受信機に必要な機能は備えています。 以下、アンテナ側から順を追って行きます。
アンテナから入った信号は可変抵抗器:VRを使った簡易なアッテネータを通ったあと、7MHzの同調回路に加わります。 7MHz帯の入力信号は2ゲートMOS-FETの3SK35GRで周波数変換されます。周波数変換のための局部発振は5.12MHzの水晶発振器です。 7MHzの入力信号は低い周波数へ周波数変換されます。 7MHzのHAM Bandは7.0〜7.2MHzの200kHzあって、1.88〜2.18MHzへと周波数変換されることになります。 第2ゲートのバイアスはVR2で可変できます。変換ゲインが十分得られるポイントにセットします。乾電池を電源にする場合、電源電圧が6V程度に下がっても発振停止しないことも調整の条件です。 一旦セットすれば頻繁な再調整は不要なので固定抵抗に置き換えて支障ありません。ここまでは前回のBlog(←リンク)で検討した部分です。
周波数変換された信号は検波コイル:T2と小容量で結合されます。 再生検波回路もDual-Gate MOS-FETの3SK35GRを使っています。この再生検波回路はRCA社のアプリケーション・ノートが元になっています。(後述) RCAの資料では3N187というMOS-FETになっていました。(3N187は軍用・工業用で、民生用の40673と同じ特性) 3SK35GRを使いましたが規格を比較して大差はないようです。 回路定数も特に変える必要を感じないため基本的に資料を踏襲しています。
ハートレー型発振器と等価な再生検波回路です。テストしてみるとスムースな再生調整が可能で感度的にも良好でした。 なお、検波コイルはタップ式ではなく二次コイル式になっています。 このようにすると帰還量の加減が連続的にできるようになります。この工夫はJA1FG梶井OM(故人)が執筆された古いCQ誌の記事を参考にしました。 後ほどコイルの製作方法とともに詳しいデータがあります。 このコイルの構造はこの受信機のキーポイントの一つとも言える重要な部分です。
検波で得られた低周波信号は音量調整のVRを通ったあと低周波増幅されます。 今回はスピーカは目的とせず、セラミック(またはクリスタル)・イヤフォンを鳴らすようにしてみました。 従って単純な電圧増幅だけで済むため増幅素子にシンプルなICを使いました。 LA3020は三洋電機の旧式な2段増幅用ICです。 いつごろ買ったか忘れてしまいましたが、通販で買ったバーゲン品の残りです。たぶん入手は困難なので後ほど代替の3石アンプがあります。そちらに換える方がローノイズでFBです。
低周波増幅された受信信号はセラミック・イヤフォンで音にします。 なお、セラミック・イヤフォンはインピーダンスが高いためトランスによる昇圧ができます。 具体的には山水のST-30を使うと約6dBの感度アップになります。その様子も後ほど示しました。
以上ですべてです。 スピーカを鳴らす必要がないので低周波のパワー・アンプは不要です。そのため消費電流はだいぶ少なくて5〜6mAで済みました。 006P型乾電池でかなり長く受信できます。
以下、各部の様子を写真とともに見て行きましょう。
【クリスタル・コンバータ部】
クリコン部は前回のBlog(←リンク)と基本的に同じです。
3SK35GRの第1ゲートの部分を使ってコルピッツ型と等価の水晶発振回路を構成しています。 水晶発振子はHC-49/U型で周波数は5.12MHz(基本波)です。 発振が弱すぎると変換ゲインが低下し、強すぎればスプリアス特性が悪化します。ちょうど良い範囲があるので第2ゲートのバイアス電圧で発振状態をコントロールします。 変換すべき信号は第2ゲートに加えられます。 なお、アンテナコイルはスペースの都合で10K型ボビンに巻いたものを使いました。 前回のBlogのようなトロイダルコイルに巻いたものでももちろんOKです。
ドレイン側は抵抗負荷です。一般的なクリコンでは同調回路を入れて必要信号のみ取り出すようにします。 ここでは次段が再生検波器なので検波コイルの部分に十分な選択度があります。抵抗負荷で支障ありません。 抵抗負荷にするとゲインの点ではやや損ですが、再生式受信機では感度のほとんどが検波回路で決まるため、クリコン部分のゲインはそれほど重要ではありません。7.0〜7.2MHzのHAMバンドは1.88〜2.18MHzに周波数変換されます。SSBのサイドバンド転換はありません。
【再生検波部】
1.88〜2.18MHzを受信(復調)する再生検波回路です。 再生検波回路にもDual-Gate MOS-FET(2ゲートMOS型電界効果トランジスタ)を使いました。 この回路はJA1FGご自身が実際に製作され、再生検波回路として優れているとして推奨されたものです。(興味があればCQ Hamradio 1977年8月号 pp232〜239を参照)
オリジナルは次項で説明の米国RCA社の半導体アプリケーションノートに掲載された回路です。 基本的に同じ回路ですが、検波コイルの部分に梶井OM独自の工夫が行なわれています。 再生検波回路はFETのソースを検波コイルのタップに接続するハートレー型発振器と等価なものです。普通の回路ではコイルのタップ位置を変えて最良の検波状態が得られるように加減します。従ってタップ位置の調整はかなり厄介でした。
JA1FGの回路では検波コイルに別の帰還用巻線を巻いてタップを引き出す代わりとします。 その帰還用巻線の結合度はコアの出し入れで連続的に可変できるようになっています。 その結果、たいへん面倒なタップ位置のカットアンドトライが不要になります。
やってみますと、実際には帰還用巻線は巻き数の加減が必要でした。多少の試行錯誤は必要です。 しかしある程度良さそうな巻き数が見つかれば後の加減はスムースでした。コイルの巻き数や構造については後ほど詳しい図面があります。
重要:結合度調整用コアの働きについて
結合の加減に使う「コア」の位置によって巻線間の結合度が変わります。結合度が変わることで正帰還の大きさが変わって再生の掛かり方が加減されるわけです。 帰還用巻線と同調コイルの両方にまたがるような位置にコアがあると結合は最も密になります。 ただしコアを動かして結合度を変えると同調コイルのインダクタンスも変わってしまいます。 当然ですが受信周波数範囲も変わります。 その同調コイルのインダクタンス変化は反対側にあるもう一つのコアによって補正できます。 このように結合度の加減は受信周波数範囲の調整とともに行なうことになります。 二つのコアを持ったコイルを調整することになりますが、それほどクリチカルではないので難しくはありませんでした。
参考:使用するMOS-FETについて
実験では3SK35GRを使いました。比較のため3SK45B、3SK65、3N201Bなど幾つか交換して確認しています。 再生が始まるバイアス電圧に幾らか違いが見られましたが、それを除けば検波器としての性能に違いは見られません。他のFETでも代替できるでしょう。
【RCAの再生検波回路例】
JA1FG梶井OMが参照したRCAのアプリケーションとはどんなものなのか興味があったので調べてみました。
たどり着いたのは左図のような回路と説明です。 Dual-Gate MOS-FETのアナログ的なアプリケーションを全般に扱う記事の一部です。 その中で左図のような短い説明と簡単な回路図だけが該当の箇所でした。 なお、説明文には一部ほかの回路図の説明と取り違えているような記述があるようですね。
具体的な成績などは何も書いてありませんが、JA1FGの記事によれば真空管を使った再生検波回路と同様の好成績が得られたとあります。 実はこの検波回路は25年くらい前にテストしたことがありました。 負荷抵抗を低周波チョークに替えてゲインを欲張る設計に変更して試しました。 その結果、かなり高感度が得られたのですが同時に低周波発振にも悩まされた記憶があります。 今回はオリジナル通りに抵抗負荷でやってみましたが後続する低周波増幅のゲインをその分だけアップすれば同様の感度が得られます。あえて低周波チョークを使う必要はなかったようですね。
参考:RCAのアプリケーションノートが必要なお方はご連絡を。あまり綺麗ではありませんがPDF版のコピーがあります。なかなか面白いアプリケーションが載っています。
【検波コイルの製作図】
1.88〜2.18MHzを受信するためのコイルを巻きます。 JA1FGの記事には記述のない周波数ですから自身で仕様を決める必要がありました。 同調コイル側のインダクタンスは40μH(リアクタンスは約500Ω)くらいが適当と考えて製作します。(インダクタンスはもっと大きくても良いのですが巻き数もそれだけ増えます)
巻き数は同調コイル側が100回です。 帰還用の巻線は20回巻きます。 図のように13K型コイルの巻き枠には12段の巻き溝があります。 下側(足ピンの側)の10段の溝に各段に10回ずつ合計で100回巻きます。 ほかの回路への用途も考えて、途中の50回目にタップを設けてありますが、必ずしも必要としないので省いて良いです。
巻き方向は統一しておけばどうでも良いのですが、ここではコイルを上側から見て反時計回りになるよう巻いて行きました。 上側に2段の溝が残るはずです。その2段に各段10回ずつ計20回巻きます。 詳しくは図も参照を。巻き始めの位置と巻き方向を違えると再生が起こりません。
巻線には直径0.16mmのポリウレタン電線(記号:UEW)を使いました。 巻き数が多いので幾らか大変ですが製作は難しくないです。周波数が低いのでたくさん巻くのもやむを得ませんね。hi
設計の趣旨から、上下に二つのコアがある東光の13K型ボビンが適当です。 現在はRF回路でもコイルレスが進んでいるので入手は難しいかもしれません。 昔からジャンク部品を扱っているようなショップに売れ残っている可能性があります。 ほかに455kHzの真空管用IFTを巻き直す方法でも製作可能でしょう。 必ずしも形状や構造に拘る必要はありませんので、各自工夫して設計の趣旨にあったコイルを巻けば良いと思います。
【東光 13Kコイルの構造】
写真左が完成状態です。 右はボビンとして活用した10.7MHzのIFTです。これは過去にジャンクで入手しておいたものです。信越電機商会だったかも知れませんが、もちろん今はもう売っていません。
写真のようにボビンは13mm角のアルミケースに入っています。 下部のツメでシールドケースと固定されていますので、アルミケースの裾を少し持ち上げてやると簡単に外せます。 その後で既に巻かれている巻線をすべて除去してしまいます。 台座の部分に同調用のコンデンサが内蔵されているのでこれも除去します。
巻き溝には高周波ニスが塗布してあるかもしれません。薄い刃物などで溝をキレイに掃除しておくのがスムースな巻線のコツです。少々手間はかかりますが事前の準備(お掃除)が肝心でした。
【巻線の様子・途中】
同調コイル側の巻線を完了した状態です。 写真のように下側の10段に各段10回ずつ巻いて合計で100回巻きます。
巻線はφ0.16mm/UEWですが巻き溝ちょうどくらいの太さです。 もう少し細い方が巻き易いかもしれません。 しかし慎重に行なえば難しくもないです。
このあと上部2段の溝に帰還用のコイルを巻きます。 帰還用は各段に10回ずつ合計20回です。 巻き方の要領は同調コイル側に同じです。 引出し線を巻き溝サイドの縦溝に沿わせ台座方向へ持ってくると綺麗に作れます。 もし高周波ワニスがあれば塗布しておくと防湿になってFBです。 実験的にはそこまでしなくても良いと思いますが・・・。巻き終わったらシールドケースにもどして完成です。
参考:ジャンク屋を巡ったりローカルの自作好きに尋ねるなど、いろいろ努力しても13Kコイル(または類似品)が手に入らないようならご相談を。少量でしたら対応できます。
【低周波アンプ部】
同じICが手に入る可能性は低いので書いても無意味かもしれません。 写真は使用した低周波増幅用のICです。 中身はNPNトランジスタ2つと抵抗器5本だけという非常にプリミティブなICです。 おそらく1960年代の末ころ習作のようなICとして製造したものと思われます。
上記の回路図にあるように内部は2段直結の簡単な低周波アンプです。 ほかのICで代替しても良いですし、スピーカを鳴らせるようLM386Nなどのアンプを使っても良いでしょう。 あえて探して使うようなデバイスではないことを強調しておきたいと思います。 「使う機会がないのも勿体ないから使ってみた」という程度の話ですので・・・。
LA3020のアンプは、回路図の×印の部分をカットし、コンデンサ:C23(22μF)を点線のように接続するとオープンループとなってフルゲインの状態になります。(ゲイン:約54dB) コンデンサ:C19は増幅帯域を制限するために標準値よりもかなり大きくしてあります。こうするとノイズカットになり聴感上かなり効果的でした。 集積度の低いICですがこうした低周波回路くらいなら活きる道もありそうです。
参考:LA3020はまだ余ってます。使ってみたいお方に差し上げますので連絡してください。骨董品のICはどんなものか試してみると面白いかも・・・。
【昇圧トランスとセラミック・イヤフォン】
低周波増幅器(LA3020)の後にセラミック・イヤフォンを直結しても良く聞こえます。
必ずしもトランスで昇圧する必要はないのですが、消費電流を増やすこともなく2倍の感度にすることができます。 山水のST-30型トランスを入れると音量アップできます。 手持ちがあったらトランスで昇圧を試してください。それだけで感度アップになります。
セラミック・イヤフォンはインピーダンスが高く、端子間に掛かる「低周波電圧」で音量が決まる特性のためトランスでの昇圧が有効なわけです。 ただし、トランスには周波数特性が付き物ですからHi-Fi用途には向きせん。しかし再生式受信機には悪くないです。
【代替の3石低周波アンプ・回路図】
LA3020の代替に使う低周波増幅器の例です。ICと同じように2石で設計しても良いのですが1つ足しました。 トランジスタは安価ですから、3石にすると出力インピーダンスが下げられるなど扱い易くなります。 再生式受信機専用というわけではなく、多目的に使える低周波アンプです。
試作にはBlogで紹介済み(←リンク)の中国製のトランジスタ、C1815GRを使いました。もちろん東芝の2SC1815GRでもOKです。 組み立てたらテスト端子:TP1の電圧を確認します。GND間で測って4.5±0.5Vの範囲にあればそれ以上の調整は不要です。 もし範囲を外れているようならR7:1.1MΩを加減します。 TP1の電圧が4.5Vより高いときはR7を大きくします。4.5Vよりも低いときはR7を小さくしてやります。こうした調整を行なえば2SC1815Yでも大丈夫です。直流増幅率:hFEが200〜400の低周波小信号用トランジスタならほとんどのものが使えます。
周波数特性はC2:100pFで加減できます。 現状の100pFだと再生式受信機には必要以上に高域が伸びています。-3dBが約25kHzなので伸びすぎでしょう。従って100pFよりもずっと大きくした方が良いです。耳で聞きながら幾つか試します。 逆にC7を33pFくらいにすればHi-Fi用にも使えるほど伸びます。位相補償の意味もあるのでゼロにはしない方が無難です。
回路図の状態でゲインは約100倍(40dB)になっています。R8(現状36kΩ)を大きくするとゲインをアップできます。R8を取ってしまうとオープンループになり、約1,600倍(64dB)のゲインとなります。これがこのアンプの最大ゲインです。 必要に応じてゲインを加減して使います。

上記の3石アンプを試作している様子です。 ICを使うよりも部品は増えますが、回路自体が簡単なので作るのは容易です。 トランジスタがローノイズなので旧式のICて作るよりもずっとローノイズなアンプになりました。
受信機のほか送信機のマイクアンプ回路のような用途にも活用できます。 なお、600ΩのヘッドフォンをドライブするときはR6:1.5kΩを470Ωくらいまで小さくしトランジスタ:Q3の電流を増やしてやります。 また、8Ωのへッドフォンは直接ドライブできないので1kΩ:8Ωくらいの低周波トランスを介して接続します。
☆
受信成績を書き忘れていました。(笑) 作ったら何となく満足してしまったからです。 感度的にはセラミック発振子を使った回路と同程度でした。 低周波アンプのゲインをもう少しアップすると良さそうでしたが、LA3020ではオープンループでも54dB程度が限界でした。3石アンプの方がその点でも有利でしょう。 しかしかなり良く聞こえるのでなかなか使えそうな再生式受信機です。 バリコンの回転角に対する周波数の伸び方は単なるLC同調回路ですから素直でした。 セラミック発振子のVXO形式ではバリコンの容量が大きい方で周波数の伸びが縮んでしまうといった欠点があります。 周波数安定度は周波数が低いので良好です。周波数の引っ張り(Pull-in)現象も周波数が低いことが幸いするようで許容範囲にありました。これは目論見通りでした。従ってSSBも良く聞こえます。CW用としても不満はありません。 以上のような感じです。
作り方しだいで十分に実用になる再生式受信機が作れることがわかりました。 感度、周波数安定度ともにまずまずと言ったところです。 選択度は再生を強めて発振状態で使うCWの受信なら上々です。正帰還でQが高くなって良い選択度になっています。 もちろんシングル・シグナルではないので発振の上下の局が聞こえるのはやむを得ません。 前にも書きましたが、弱い信号は小さな音で、逆に強い信号は大きく聞こえます。 AGC(自動利得調整)がないのでやむを得ませんが、弱い局の受信中に不意に強い局にオンエアされると耐えられない音量になることがあります。 爆音を防ぎ耳を保護する意味からもピーク・リミッタを付加すべきだと感じました。 低周波のバンドパス・フィルタがあれば快適になりますが必須ではないように思います。 低周波増幅器の周波数帯域を制限しておけばそれだけでもかなり効果的でした。
ブレッドボードを脱却して製作するのはクリコン+再生検波式で行こうと思います。ユニット交換式に作っておけば取り替えて楽しむこともできるかもしれません。製作時に構造を含めて考えておきましょう。 問題は周波数の読み取りにありそうです。なんなら周測計をお供に受信しても面白そうです。
まだ真空管式などやってみたいことは幾つかあるのですが、ずいぶん長くなったのでとりあえずまとめの意味で「おわり」にしておきます。再生式受信機なんてとっくにオワコンかと思ってましたが、なかなか奥深かったですね。 de JA9TTT/1
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2019年8月30日金曜日
【回路】Regenerative Receivers (5)
【再生式受信機・その5 スーパ・ヘテロダインとの融合】
【SSBが受信できる性能】
再生式受信機の第5回です。 再生式受信機については過去にも散発的な実験を行なってきました。 なるほどCWやAMの受信には十分な可能性(実用性?)がありそうです。 しかしSSBの受信となるとあまり芳しい感触は得られませんでした。 ちゃんと「聞こえる」とは言えないように感じたのです。かろうじて可能かなあ・・というレベル。
ところが巷ではSSBも結構イケるとの話もあり、これは是非とも確認しなくては・・・と思ったことも再生式受信機を改めて取り上げた切っ掛けでもあります。
参考:写真はSSBの「イメージ画像」であって、本文の内容とは関係ありません。 これはSSB送信機に2トーン信号を加えて変調を掛けた状態で撮影したものです。 もしシングルトーンで変調するとこのようにはならず、CWと同じ幅が一定の「帯状の波形」にしかなりません。初めてSSB送信機を作ったときシングルトーンを加え、DSB状態の波形をみて勘違いしやすいのがこの波形のようです。
☆
【結局は周波数安定度が鍵】
いくつか実験してきてかなりわかってきました。 SSBの受信(復調)で一番のポイントは周波数安定度です。 何を今さらバカなと言われそうですが。 CWなら周波数変動は復調音の音調変動でしかありません。極端でなければかなり許容できます。 しかしSSBでは変動が大きいと音質どころかマトモな音声にすらなりません。SSBではせいぜい20〜30Hzの変動に抑えないとお話になりません。 CWでの実用性とは雲泥の差です。当たり前のことを認識した訳ですが方向もそれなりに見えてきました。
再生式受信機の周波数変動に関しては2つのものがあります。一つは普通の意味としての周波数ドリフトです。これは一般的な発振器と同じ対策をとれば効果は自ずと現れます。 もう一つは周波数の引き込み(Pull-in)で、こちらの方はかなり厄介です。強い信号に周波数が引き込まれる現象はどんな発振器にも多かれ少なかれ存在するからです。
(1)Qを高める: それらの改善策もだんだん見えてきました。 対策の一つは再生検波回路の共振器(同調回路)のQを高めることです。 できるだけQの高いコイルを巻き良いバリコンと組み合わせると効果があります。 例えばプロ用受信機:RAL(←第2回参照)のような行き方です。実現はなかなか大変ですが効果的です。これは周波数変動のどちらにも効果があります。
また、水晶発振子ほどではありませんがセラミック発振子のQは普通のLC共振回路と比べたら数倍〜数10倍くらい高いのです。そのため引き込みに強いのでしょう。セラミック発振子を使った再生検波回路が好成績なのはそのQ(無負荷Q:Qu)の高さにあるはずです。
(2)周波数を下げる:さらに受信周波数が低いことも有利に働きます。低い周波数の発振器は絶対値としての周波数変動量が小さいのは当たり前でしょう。再生検波回路においても同様です。 引き込まれかたも周波数が低い分だけ小さくなります。 従って、周波数変換を行なって低い周波数になってから再生検波すればそれだけでずいぶん有利になります。
ー・・・ー
このところ続けて再生検波式の受信機を扱っています。 第4回(←リンク)ではセラミック発振子を使った再生検波回路を試みました。 思った以上に良好な成績が得られたので本製作の有力候補です。 ただし手に入ったセラミック発振子の周波数で受信周波数の範囲が決められてしまうという弱点があります。 クリコン式ならその弱点はないのでテストしておきたいと思います。
前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、多分に自身の興味だけで進めていますので一般性のない話ばかりです。手持ちを使うので部品の入手性も考慮されていません。当然ですがお薦めするような話でもないことを予めお断りしておきます。 しかし、お暇でもあればこの先もどうぞ。いつものようにコメントも歓迎です。
☆
【クリコン+再生検波の可能性】
既に再生検波式受信機にセラミック発振子を利用すると効果的なことは確認しました。 今回はもう一つの方向である、受信信号を周波数変換して低い周波数で再生検波する形式を検討してみたいと思います。例えば7MHzでそのまま再生検波するのではなく、いったん周波数変換して1.5MHzのような低い周波数で検波する方法です。
こうした形式があることは昔から知ってはいましたが、ヘテロダインするくらいなら完全なスーパー受信機にした方が合理的ではないかと思っていました。 しかし再生検波式受信機の性能を改善する手段として考えるのであれば意味も違ってきます。 さっそく試したいと思います。それにはまず周波数変換回路を作らねばなりません。
今回は真空管式も併せて試します。 周波数変換部分は次項で見るような三極五極管(球は6U8)を使う方法もありますが、ここでは専用の変周管であるペンタグリッド・コンバータ管を試すことにしました。なるべく簡潔な回路が目標です。
左の写真はペンタグリッド(5つのグリッドを持った)コンバータ管の一例です。 右端の12BE6は家庭用の5球スーパでお馴染みです。左の2つはカーラジオ用に作られた特殊な球でヒータだけでなくプレート電圧の方も12.6Vで動作します。 12AD6は12BE6に類似でAM〜短波帯で使うものでしょう。 実例を目にしたことはありませんが12FX8AはたぶんFMラジオを意識したものです。RFアンプ用の三極管が複合されています。
さっそく「ペンタグリッド管は等価雑音抵抗が高くノイジーだから・・・云々」という有難いご教示を頂きそうです。hi その通りなのですが、いま考えている7MHz帯はノイズフロアが高いのでコンバータノイズが問題になることはありません。 ここは回路の簡単化のために使ってみます。 そうでもしないと実験用に買い込んでおいたカーラジオの球が登場する機会は中々やって来ませんから。 なんだか変な球を使うのが目的のようになってしまいました。(笑)
【JA1FGのクリコン+再生検波RX】
1960年ころでしょうか、米ARRLのアマハン(ARRL RAHB 1960 pp115〜)にビギナー向けのシンプルな受信機(RX)が掲載されていたことがあります。 1.7MHzのシングル・クリスタル・フィルタにコンバータを組み合わせた2バンド受信機で、"SimpleX Super"という愛称でした。整流管を含めてもわずか4球(複合管が主体ですが)の入門用受信機です。周波数構成を工夫することで局発を共用してうまく2バンドカバーするよう考えられていました。
それを受けJA1FG梶井OM(故人)がJA局向きとして推奨されたのが図の受信機です。これも原型はアマハンにあるようですがクリコンに再生検波を組み合わせた回路構成です。シンプルさを維持しつつ十分なゲインが得られるよう考えられています。 OMはアマハンのようなクリスタル・フィルタ付きスーパではゲイン不足だとお考えになったのでしょう。同じ球数なら高ゲインが期待できるクリコン+再生検波式が有利とのご判断だったのでしょう。
クリスタル・コンバータですから周波数安定度は良好です。 また再生検波回路も1.5MHzあたりの中波帯近くの低い周波数ですから安定度はかなり有利です。 この回路が推奨された当時はCWとAMの時代です。シンプルでありながら実用性十分な受信機が実現できたと思います。
時代から考えてSSBを意識したものではなかったはずです。しかし周波数安定度は当時の高1中2受信機より優れる可能性もあります。 その後普及したSSBの受信でも意外な実用性があったかも知れません。 しかし基本は再生検波式受信機ですから選択度はいま一つです。シングルシグナルにもなりません。このあたりはバンドが混んでくると大きな欠点になったでしょう。早晩廃れたのもやむを得ません。 ただ昨今のようにHAM局が減少傾向でバンドも拡張されるなら実用性は改善される方向かも知れませんね。
このまま作るつもりはないのでこれ以上の追求はしませんがシンプルで実用的な受信機の実現手段として一考してみる価値はありそうです。
【シンプルなクリコン・球で作る】
クリコン+再生検波形式の受信機の実現のため、まずはクリコン(クリスタル・コンバータの略)の検討から始めます。
いくつかの回路を検討しました。後ほど半導体でも試みますが、まずはカーラジオ用の球で試してみます。 こうした球で難しいのは低いB電圧(プレート電源の電圧)にあります。 高抵抗が直列に入って大きく電圧降下するような回路形式は正常な動作が期待できません。自ずと動作させやすい回路は決まってしまう感じでした。
コンバータ管には12AD6を使います。規格表の動作例はカソードタップ式ハートレー型の発振器を意図したものです。 LC発振ができるなら水晶発振だって可能なはずですが具体的な回路例は見たことがありません。 そこで幾つか検討したところ変形ピアース型あるいはグリット・プレート型の水晶発振回路が良さそうでした。
まずはカソードを直接あるいは低抵抗でGNDできる変形ピアース型が有利と見て図のようにしてみました。 12AD6の発振部はgmがあまり高くないのですが図の部品定数でうまく発振してくれます。図の発振周波数は5.12MHzですが他の周波数でもOKでした。
発振の強さが適切になるようにC5:68pFを加減します。12AD6の活きの良さにもよるので、0pF〜220pFの範囲で変えてみます。こうしたごく低電圧で使う球はバラツキが大きいようです。 テスト例では68pFあたりが適当そうでした。 また、プレート負荷抵抗:R4(100kΩ)は個々の球によって変更を要します。 プレート電圧を実際に測定し、7〜9Vあたりになるよう加減します。 球によってはR4=47kΩくらいにする必要があるでしょう。 変換コンダクタンス:gcが小さいため高性能とは言い難いのですがまずまず使えるコンバータ回路が作れます。
バッファ・アンプの2SK19Yはテストの都合で便宜的に付加したものです。 このコンバータの後ろに再生検波回路を置くなら2SK19Yの部分は不要です。 C7を数pFにして直結すれば良いでしょう。 変換ゲインを考えると12AD6の負荷インピーダンスはなるべく高くする必要があります。 そうなるとコンバータ回路だけでテストするのは難しくなります。2SK19Yの部分はインピーダンスを下げテストを容易にする目的で付加したものです。 2SK19Yは2SK192AYあるいはBF256BなどのFETで代替できます。
【12AD6を使ったクリコン】
水晶発振回路が発振しなくてはコンバータは機能しません。まずは確実な発振が目標になります。 変形ピアース回路は昔から発振させ易かった印象があります。 その印象の通りたった12.6Vの電源電圧でも簡単に発振してくれました。
発振振幅も十分でスクリーングリッド(G2+G4)とGND間のコンデンサは68pFが適当でした。 このCを大きくすると発振は弱くなります。逆に小さくすると強くなり、ゼロにした状態が最大になります。 様子から見てグリッド・プレート型回路でも発振できそうでしたが変形ピアース型で旨く行ったので追試しませんでした。
プレート負荷抵抗を100kΩとかなり高く選んでいますが、それでも変換ゲインは低めです。おそらく数倍か下手をするとマイナスゲインでしょう。 プレートに出力周波数に同調するLC回路を入れるとゲインアップします。 しかし再生検波回路との干渉を嫌って抵抗負荷で行くことにしました。受信機回路の一部分であって独立したクリコンではないからです。
今回はなるべく少ないデバイス数で簡単な回路構成を目標にしています。 もし性能優先で独立した付加装置としてクリコンを作るのなら12AD6の前にRFアンプを置くべきでしょう。 さらに12AD6の負荷を同調回路形式とし、二次側のリンクコイルから受信機へ導くと言った回路形式にすべきです。
ここではそれが目的ではないのでコンバータ部のみ試しました。 意外に少ない部品で作れるものです。 ただしゲインが低いのと真空管なので消費電流が大きいのは如何ともしがたいです。 まあ使えない訳ではありませんからこの結果を活かして真空管を主体にした再生式受信機も構想の一つに入れておきたい・・・と思いつつテストを終了しました。
参考:12AD6と12BE6のピン接続は同じです。交換して試したのですが残念ながら使えませんでした。12BE6にとって12.6Vのプレート電圧はあまりにも低すぎるのでしょう。 なお、12AD6の代用として12EG6が同じように使えそうでした。12FX8Aの7極管部も使えます。(12AD6などはAntique Electronic Supplyで購入。ただしかなり前です)
雑談:6BE6のような7極管は「Heptode:ヘプトード」とはあまり言わないようです。「Penta-Grid Converter:ペンタグリッド・コンバータ」と呼ばれることが多いのです。「ペンタ」は5つを意味しますから「5グリッド変周管」ですね。しかしなぜグリッドの数で言うのでしょうか。一つの習慣なんでしょうね。
☆ ☆ ☆
【FETを使ったクリコンの検討】
続いて半導体式のクリコンを検討します。 左図はFET(電界効果トランジスタ)を積極的に使ったクリコンの回路例です。(過去のBlogで既出)
真面目に設計すると図のような回路になるでしょう。 余分な機能が付いている訳ではなく、各部品はクリコンとして必要なものばかりです。冗長な設計という訳ではありません。
もし省略できるとすれば入力の同調回路を1段にする、HF帯の低い方で使うならRFアンプは取ってしまう・・・と言ったくらいでしょうか。 それでも半導体は2石必要ですしコイルもまだかなり多いのです。
そもそも再生式受信機はシンプルなのですから、性能が破綻しない程度にできるだけ簡略なクリコン回路が望ましいと思うのですが・・・ 少し工夫してみたいと思います。
【米誌・英誌にも紹介された回路】
うっすらとですが、Dual-Gate MOS-FET(2ゲートMOS-FET)で作った1石クリコンが記憶にあったのです。 CQ Hamradio誌の記事だったはずですが、ずいぶん前に処分してしまったので情報は得られませんでした。
たまたま別件でサーチしていたら左図の回路が目にとまりました。 読んでみるとオリジナルはJAのCQ誌のようで、それにWのHAMが目をつけ、さらに回り巡って英誌に紹介されたようです。地球を一周した回路ですね。
だんだん思い出してきたのですが、記憶ではJA1AYO丹羽OMの記事にあった回路でしょう。 クリコンの簡略化を意図されたのだと思いますが、Dual-Gate MOS-FET 1石でうまくまとめられています。 この回路なら十分な性能が得られそうです。 ただ、コイルが三つも必要で巻くのは厄介そう。 手堅い設計ですからクリコンとしてはFBな設計ですが、ちょっと面倒臭く感じてしまいました。 コイルは嫌いじゃないんですが私だって少なく済めばそれに越したことはないのです。hi
参考:JA1AYO丹羽OMの1石コンバータ回路の研究は、CQ Hamradio誌1990年3月号pp400〜404に掲載です。(後日調査により判明:AYO_No.11参照)
【シンプルなクリコン・石で行く】
そこで再生検波回路に前置する前提で思い切り簡略化したクリコンを考えてみました。 同じくDual-Gate MOS-FETを使う設計です。 レトロですが3SK35GRを使います。 もちろん他のDuai-Gate MOS-FETでも行けるでしょう。試すなら3SK35は廃番ですから他のDual-Gate MOS-FET(←参考リンク)を探してください。
水晶発振はコルピッツ発振器と等価の回路になっています。コイルの要らない無調整型水晶発振器の一種です。 周波数変換すべき7MHz帯の入力信号は第2ゲートの方に加えます。 第1ゲートに比べ、第2ゲートに信号を加える方法は少し性能が(ゲインが)落ちます。 しかし過去の実験では致命的な差があるとも思えませんでした。特に信号の強い7MHz帯なら大丈夫でしょう。
水晶発振回路は無調整型ですからコイルは不要です。その代わり発振波形が悪くならないように発振レベルを調整します。ソースの波形を観察して綺麗な発振状態にセットしました。頻繁な調整は不要ですからVR1の部分は固定抵抗に置き換えられます。 また、周波数変換出力の方(=ドレイン側)も次段が再生検波回路ですから抵抗負荷で済ませました。これは検波回路との干渉を防ぐ意味もあります。 もちろん同調回路を省くと5.12MHz-1.88MHz=3.24MHzのイメージ成分が現れますが必要な信号の7MHz〜やIF信号となる1.88MHz〜とは離れているので支障になりません。
周波数関係さえ悪くなければ、このようにコイルを減らして簡略化したクリコンでも十分行けそうです。 結果として、どうしても必要なコイルは一つだけになりました。 入力部のコイルは感度に影響するので省けません。 FCZ-10S7のような既製品(同等品可)でも役立つので買って済ませることもできます。 ただし図のようにトロイダルコアに自分で巻く方が優れます。
先の真空管式と同様に2SK19Yのバッファはクリコン回路の単独テスト用です。次段が再生検波回路ならC7を数pF(1〜5pF程度)の小容量に選んで直結すればOKです。2SK19Yのバッファアンプは不必要です。なお、3SK35GRのドレインとGND間に入っているC11(47pF)は水晶発振に関係するので(なくても発振するかもしれませんが)省いてしまうのは適当でありません。
【3SK35GRを使ったクリコン】
まずは水晶発振が上手くできるのかテストを始めました。 これはまったく問題なくて、あとはうまく周波数変換できるのか確かめればOKです。
入力の同調回路を省くとさすがに低感度で旨くありません。しかし周波数変換の動作は確認できました。 そこで7MHzの同調回路を追加してやったら感度的にもFBになりました。 ゲインもまずまず取れるので12AD6のクリコンより遥かに良さそうです。 3SK35のようなデュアルゲートMOS-FETはgmが高いため変換コンダクタンス:gcもかなり大きいのでしょう。 簡単かつ十分な性能ということで、3SK35GRを使ったクリコンは有望な候補です。
参考:バイポーラ・トランジスタ(要するにFETではなくて普通のトランジスタ)を使った1石コンバータ回路もテストしています。なかなか旨く動作しますが、水晶発振の漏れは大きめでした。防ぐには入力の同調回路を2段にする必要があります。 ここでテストしたDual-Gate MOS-FETの回路は発振回路部分と信号入力端子が分離しているためアンテナ側への発振の漏洩はごくわずかです。
☆
第5回ではクリコン+再生検波式受信機の検討を始めてみました。 再生式受信機というよりもスーパ・ヘテロダイン式受信機の一種と捉えるべきなのかもしれません。 しかし周波数変換部分をごく簡単にまとめられたので高周波増幅付き再生式受信機とさして違わぬ回路規模にできそうです。 再生検波式の受信機はせっかく回路が簡単なのですから、付加する回路もできるだけシンプルにしたいものです。 接続される前後の回路を考えてやり、無くても済みそうな部分を省くと言った工夫をすればずいぶんシンプルになります。
一方で、再生式受信機ならスーパ受信機に付き物の「スーパ・ノイズ」や「スプリアス受信」から逃れられるものを「逆戻り」ではないかという意見もあるでしょう。 確かにその一面はあります。 ただし目的の受信周波数帯(7MHz帯)はかなりノイジーなので「スーパ・ノイズ」は感じられませんでした。 特にMOS-FETを使った1石コンバータ回路のノイズ・フィギャ(NF)は目的に対して十分なのでしょう。 スプリアスは確かにありますが目的を7.0〜7.2MHzの受信に限れば問題は感じられませんでした。 詳しくは続きで改めて。
次回は再生検波回路ほかの部分を付加して受信機のかたちにまとめるつもりです。 再生式受信機が仕上がる前に夏休みシーズンも終わってしまいましたね。 秋の夜長にじっくりワッチできるような受信機が作れたら良いのですが。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
【SSBが受信できる性能】
再生式受信機の第5回です。 再生式受信機については過去にも散発的な実験を行なってきました。 なるほどCWやAMの受信には十分な可能性(実用性?)がありそうです。 しかしSSBの受信となるとあまり芳しい感触は得られませんでした。 ちゃんと「聞こえる」とは言えないように感じたのです。かろうじて可能かなあ・・というレベル。
ところが巷ではSSBも結構イケるとの話もあり、これは是非とも確認しなくては・・・と思ったことも再生式受信機を改めて取り上げた切っ掛けでもあります。
参考:写真はSSBの「イメージ画像」であって、本文の内容とは関係ありません。 これはSSB送信機に2トーン信号を加えて変調を掛けた状態で撮影したものです。 もしシングルトーンで変調するとこのようにはならず、CWと同じ幅が一定の「帯状の波形」にしかなりません。初めてSSB送信機を作ったときシングルトーンを加え、DSB状態の波形をみて勘違いしやすいのがこの波形のようです。
☆
【結局は周波数安定度が鍵】
いくつか実験してきてかなりわかってきました。 SSBの受信(復調)で一番のポイントは周波数安定度です。 何を今さらバカなと言われそうですが。 CWなら周波数変動は復調音の音調変動でしかありません。極端でなければかなり許容できます。 しかしSSBでは変動が大きいと音質どころかマトモな音声にすらなりません。SSBではせいぜい20〜30Hzの変動に抑えないとお話になりません。 CWでの実用性とは雲泥の差です。当たり前のことを認識した訳ですが方向もそれなりに見えてきました。
再生式受信機の周波数変動に関しては2つのものがあります。一つは普通の意味としての周波数ドリフトです。これは一般的な発振器と同じ対策をとれば効果は自ずと現れます。 もう一つは周波数の引き込み(Pull-in)で、こちらの方はかなり厄介です。強い信号に周波数が引き込まれる現象はどんな発振器にも多かれ少なかれ存在するからです。
(1)Qを高める: それらの改善策もだんだん見えてきました。 対策の一つは再生検波回路の共振器(同調回路)のQを高めることです。 できるだけQの高いコイルを巻き良いバリコンと組み合わせると効果があります。 例えばプロ用受信機:RAL(←第2回参照)のような行き方です。実現はなかなか大変ですが効果的です。これは周波数変動のどちらにも効果があります。
また、水晶発振子ほどではありませんがセラミック発振子のQは普通のLC共振回路と比べたら数倍〜数10倍くらい高いのです。そのため引き込みに強いのでしょう。セラミック発振子を使った再生検波回路が好成績なのはそのQ(無負荷Q:Qu)の高さにあるはずです。
(2)周波数を下げる:さらに受信周波数が低いことも有利に働きます。低い周波数の発振器は絶対値としての周波数変動量が小さいのは当たり前でしょう。再生検波回路においても同様です。 引き込まれかたも周波数が低い分だけ小さくなります。 従って、周波数変換を行なって低い周波数になってから再生検波すればそれだけでずいぶん有利になります。
ー・・・ー
このところ続けて再生検波式の受信機を扱っています。 第4回(←リンク)ではセラミック発振子を使った再生検波回路を試みました。 思った以上に良好な成績が得られたので本製作の有力候補です。 ただし手に入ったセラミック発振子の周波数で受信周波数の範囲が決められてしまうという弱点があります。 クリコン式ならその弱点はないのでテストしておきたいと思います。
前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、多分に自身の興味だけで進めていますので一般性のない話ばかりです。手持ちを使うので部品の入手性も考慮されていません。当然ですがお薦めするような話でもないことを予めお断りしておきます。 しかし、お暇でもあればこの先もどうぞ。いつものようにコメントも歓迎です。
☆
【クリコン+再生検波の可能性】
既に再生検波式受信機にセラミック発振子を利用すると効果的なことは確認しました。 今回はもう一つの方向である、受信信号を周波数変換して低い周波数で再生検波する形式を検討してみたいと思います。例えば7MHzでそのまま再生検波するのではなく、いったん周波数変換して1.5MHzのような低い周波数で検波する方法です。
こうした形式があることは昔から知ってはいましたが、ヘテロダインするくらいなら完全なスーパー受信機にした方が合理的ではないかと思っていました。 しかし再生検波式受信機の性能を改善する手段として考えるのであれば意味も違ってきます。 さっそく試したいと思います。それにはまず周波数変換回路を作らねばなりません。
今回は真空管式も併せて試します。 周波数変換部分は次項で見るような三極五極管(球は6U8)を使う方法もありますが、ここでは専用の変周管であるペンタグリッド・コンバータ管を試すことにしました。なるべく簡潔な回路が目標です。
左の写真はペンタグリッド(5つのグリッドを持った)コンバータ管の一例です。 右端の12BE6は家庭用の5球スーパでお馴染みです。左の2つはカーラジオ用に作られた特殊な球でヒータだけでなくプレート電圧の方も12.6Vで動作します。 12AD6は12BE6に類似でAM〜短波帯で使うものでしょう。 実例を目にしたことはありませんが12FX8AはたぶんFMラジオを意識したものです。RFアンプ用の三極管が複合されています。
さっそく「ペンタグリッド管は等価雑音抵抗が高くノイジーだから・・・云々」という有難いご教示を頂きそうです。hi その通りなのですが、いま考えている7MHz帯はノイズフロアが高いのでコンバータノイズが問題になることはありません。 ここは回路の簡単化のために使ってみます。 そうでもしないと実験用に買い込んでおいたカーラジオの球が登場する機会は中々やって来ませんから。 なんだか変な球を使うのが目的のようになってしまいました。(笑)
【JA1FGのクリコン+再生検波RX】
1960年ころでしょうか、米ARRLのアマハン(ARRL RAHB 1960 pp115〜)にビギナー向けのシンプルな受信機(RX)が掲載されていたことがあります。 1.7MHzのシングル・クリスタル・フィルタにコンバータを組み合わせた2バンド受信機で、"SimpleX Super"という愛称でした。整流管を含めてもわずか4球(複合管が主体ですが)の入門用受信機です。周波数構成を工夫することで局発を共用してうまく2バンドカバーするよう考えられていました。
それを受けJA1FG梶井OM(故人)がJA局向きとして推奨されたのが図の受信機です。これも原型はアマハンにあるようですがクリコンに再生検波を組み合わせた回路構成です。シンプルさを維持しつつ十分なゲインが得られるよう考えられています。 OMはアマハンのようなクリスタル・フィルタ付きスーパではゲイン不足だとお考えになったのでしょう。同じ球数なら高ゲインが期待できるクリコン+再生検波式が有利とのご判断だったのでしょう。
クリスタル・コンバータですから周波数安定度は良好です。 また再生検波回路も1.5MHzあたりの中波帯近くの低い周波数ですから安定度はかなり有利です。 この回路が推奨された当時はCWとAMの時代です。シンプルでありながら実用性十分な受信機が実現できたと思います。
時代から考えてSSBを意識したものではなかったはずです。しかし周波数安定度は当時の高1中2受信機より優れる可能性もあります。 その後普及したSSBの受信でも意外な実用性があったかも知れません。 しかし基本は再生検波式受信機ですから選択度はいま一つです。シングルシグナルにもなりません。このあたりはバンドが混んでくると大きな欠点になったでしょう。早晩廃れたのもやむを得ません。 ただ昨今のようにHAM局が減少傾向でバンドも拡張されるなら実用性は改善される方向かも知れませんね。
このまま作るつもりはないのでこれ以上の追求はしませんがシンプルで実用的な受信機の実現手段として一考してみる価値はありそうです。
【シンプルなクリコン・球で作る】
クリコン+再生検波形式の受信機の実現のため、まずはクリコン(クリスタル・コンバータの略)の検討から始めます。
いくつかの回路を検討しました。後ほど半導体でも試みますが、まずはカーラジオ用の球で試してみます。 こうした球で難しいのは低いB電圧(プレート電源の電圧)にあります。 高抵抗が直列に入って大きく電圧降下するような回路形式は正常な動作が期待できません。自ずと動作させやすい回路は決まってしまう感じでした。
コンバータ管には12AD6を使います。規格表の動作例はカソードタップ式ハートレー型の発振器を意図したものです。 LC発振ができるなら水晶発振だって可能なはずですが具体的な回路例は見たことがありません。 そこで幾つか検討したところ変形ピアース型あるいはグリット・プレート型の水晶発振回路が良さそうでした。
まずはカソードを直接あるいは低抵抗でGNDできる変形ピアース型が有利と見て図のようにしてみました。 12AD6の発振部はgmがあまり高くないのですが図の部品定数でうまく発振してくれます。図の発振周波数は5.12MHzですが他の周波数でもOKでした。
発振の強さが適切になるようにC5:68pFを加減します。12AD6の活きの良さにもよるので、0pF〜220pFの範囲で変えてみます。こうしたごく低電圧で使う球はバラツキが大きいようです。 テスト例では68pFあたりが適当そうでした。 また、プレート負荷抵抗:R4(100kΩ)は個々の球によって変更を要します。 プレート電圧を実際に測定し、7〜9Vあたりになるよう加減します。 球によってはR4=47kΩくらいにする必要があるでしょう。 変換コンダクタンス:gcが小さいため高性能とは言い難いのですがまずまず使えるコンバータ回路が作れます。
バッファ・アンプの2SK19Yはテストの都合で便宜的に付加したものです。 このコンバータの後ろに再生検波回路を置くなら2SK19Yの部分は不要です。 C7を数pFにして直結すれば良いでしょう。 変換ゲインを考えると12AD6の負荷インピーダンスはなるべく高くする必要があります。 そうなるとコンバータ回路だけでテストするのは難しくなります。2SK19Yの部分はインピーダンスを下げテストを容易にする目的で付加したものです。 2SK19Yは2SK192AYあるいはBF256BなどのFETで代替できます。
【12AD6を使ったクリコン】
水晶発振回路が発振しなくてはコンバータは機能しません。まずは確実な発振が目標になります。 変形ピアース回路は昔から発振させ易かった印象があります。 その印象の通りたった12.6Vの電源電圧でも簡単に発振してくれました。
発振振幅も十分でスクリーングリッド(G2+G4)とGND間のコンデンサは68pFが適当でした。 このCを大きくすると発振は弱くなります。逆に小さくすると強くなり、ゼロにした状態が最大になります。 様子から見てグリッド・プレート型回路でも発振できそうでしたが変形ピアース型で旨く行ったので追試しませんでした。
プレート負荷抵抗を100kΩとかなり高く選んでいますが、それでも変換ゲインは低めです。おそらく数倍か下手をするとマイナスゲインでしょう。 プレートに出力周波数に同調するLC回路を入れるとゲインアップします。 しかし再生検波回路との干渉を嫌って抵抗負荷で行くことにしました。受信機回路の一部分であって独立したクリコンではないからです。
今回はなるべく少ないデバイス数で簡単な回路構成を目標にしています。 もし性能優先で独立した付加装置としてクリコンを作るのなら12AD6の前にRFアンプを置くべきでしょう。 さらに12AD6の負荷を同調回路形式とし、二次側のリンクコイルから受信機へ導くと言った回路形式にすべきです。
ここではそれが目的ではないのでコンバータ部のみ試しました。 意外に少ない部品で作れるものです。 ただしゲインが低いのと真空管なので消費電流が大きいのは如何ともしがたいです。 まあ使えない訳ではありませんからこの結果を活かして真空管を主体にした再生式受信機も構想の一つに入れておきたい・・・と思いつつテストを終了しました。
参考:12AD6と12BE6のピン接続は同じです。交換して試したのですが残念ながら使えませんでした。12BE6にとって12.6Vのプレート電圧はあまりにも低すぎるのでしょう。 なお、12AD6の代用として12EG6が同じように使えそうでした。12FX8Aの7極管部も使えます。(12AD6などはAntique Electronic Supplyで購入。ただしかなり前です)
雑談:6BE6のような7極管は「Heptode:ヘプトード」とはあまり言わないようです。「Penta-Grid Converter:ペンタグリッド・コンバータ」と呼ばれることが多いのです。「ペンタ」は5つを意味しますから「5グリッド変周管」ですね。しかしなぜグリッドの数で言うのでしょうか。一つの習慣なんでしょうね。
☆ ☆ ☆
【FETを使ったクリコンの検討】
続いて半導体式のクリコンを検討します。 左図はFET(電界効果トランジスタ)を積極的に使ったクリコンの回路例です。(過去のBlogで既出)
真面目に設計すると図のような回路になるでしょう。 余分な機能が付いている訳ではなく、各部品はクリコンとして必要なものばかりです。冗長な設計という訳ではありません。
もし省略できるとすれば入力の同調回路を1段にする、HF帯の低い方で使うならRFアンプは取ってしまう・・・と言ったくらいでしょうか。 それでも半導体は2石必要ですしコイルもまだかなり多いのです。
そもそも再生式受信機はシンプルなのですから、性能が破綻しない程度にできるだけ簡略なクリコン回路が望ましいと思うのですが・・・ 少し工夫してみたいと思います。
【米誌・英誌にも紹介された回路】
うっすらとですが、Dual-Gate MOS-FET(2ゲートMOS-FET)で作った1石クリコンが記憶にあったのです。 CQ Hamradio誌の記事だったはずですが、ずいぶん前に処分してしまったので情報は得られませんでした。
たまたま別件でサーチしていたら左図の回路が目にとまりました。 読んでみるとオリジナルはJAのCQ誌のようで、それにWのHAMが目をつけ、さらに回り巡って英誌に紹介されたようです。地球を一周した回路ですね。
だんだん思い出してきたのですが、記憶ではJA1AYO丹羽OMの記事にあった回路でしょう。 クリコンの簡略化を意図されたのだと思いますが、Dual-Gate MOS-FET 1石でうまくまとめられています。 この回路なら十分な性能が得られそうです。 ただ、コイルが三つも必要で巻くのは厄介そう。 手堅い設計ですからクリコンとしてはFBな設計ですが、ちょっと面倒臭く感じてしまいました。 コイルは嫌いじゃないんですが私だって少なく済めばそれに越したことはないのです。hi
参考:JA1AYO丹羽OMの1石コンバータ回路の研究は、CQ Hamradio誌1990年3月号pp400〜404に掲載です。(後日調査により判明:AYO_No.11参照)
【シンプルなクリコン・石で行く】
そこで再生検波回路に前置する前提で思い切り簡略化したクリコンを考えてみました。 同じくDual-Gate MOS-FETを使う設計です。 レトロですが3SK35GRを使います。 もちろん他のDuai-Gate MOS-FETでも行けるでしょう。試すなら3SK35は廃番ですから他のDual-Gate MOS-FET(←参考リンク)を探してください。
水晶発振はコルピッツ発振器と等価の回路になっています。コイルの要らない無調整型水晶発振器の一種です。 周波数変換すべき7MHz帯の入力信号は第2ゲートの方に加えます。 第1ゲートに比べ、第2ゲートに信号を加える方法は少し性能が(ゲインが)落ちます。 しかし過去の実験では致命的な差があるとも思えませんでした。特に信号の強い7MHz帯なら大丈夫でしょう。
水晶発振回路は無調整型ですからコイルは不要です。その代わり発振波形が悪くならないように発振レベルを調整します。ソースの波形を観察して綺麗な発振状態にセットしました。頻繁な調整は不要ですからVR1の部分は固定抵抗に置き換えられます。 また、周波数変換出力の方(=ドレイン側)も次段が再生検波回路ですから抵抗負荷で済ませました。これは検波回路との干渉を防ぐ意味もあります。 もちろん同調回路を省くと5.12MHz-1.88MHz=3.24MHzのイメージ成分が現れますが必要な信号の7MHz〜やIF信号となる1.88MHz〜とは離れているので支障になりません。
周波数関係さえ悪くなければ、このようにコイルを減らして簡略化したクリコンでも十分行けそうです。 結果として、どうしても必要なコイルは一つだけになりました。 入力部のコイルは感度に影響するので省けません。 FCZ-10S7のような既製品(同等品可)でも役立つので買って済ませることもできます。 ただし図のようにトロイダルコアに自分で巻く方が優れます。
先の真空管式と同様に2SK19Yのバッファはクリコン回路の単独テスト用です。次段が再生検波回路ならC7を数pF(1〜5pF程度)の小容量に選んで直結すればOKです。2SK19Yのバッファアンプは不必要です。なお、3SK35GRのドレインとGND間に入っているC11(47pF)は水晶発振に関係するので(なくても発振するかもしれませんが)省いてしまうのは適当でありません。
【3SK35GRを使ったクリコン】
まずは水晶発振が上手くできるのかテストを始めました。 これはまったく問題なくて、あとはうまく周波数変換できるのか確かめればOKです。
入力の同調回路を省くとさすがに低感度で旨くありません。しかし周波数変換の動作は確認できました。 そこで7MHzの同調回路を追加してやったら感度的にもFBになりました。 ゲインもまずまず取れるので12AD6のクリコンより遥かに良さそうです。 3SK35のようなデュアルゲートMOS-FETはgmが高いため変換コンダクタンス:gcもかなり大きいのでしょう。 簡単かつ十分な性能ということで、3SK35GRを使ったクリコンは有望な候補です。
参考:バイポーラ・トランジスタ(要するにFETではなくて普通のトランジスタ)を使った1石コンバータ回路もテストしています。なかなか旨く動作しますが、水晶発振の漏れは大きめでした。防ぐには入力の同調回路を2段にする必要があります。 ここでテストしたDual-Gate MOS-FETの回路は発振回路部分と信号入力端子が分離しているためアンテナ側への発振の漏洩はごくわずかです。
☆
第5回ではクリコン+再生検波式受信機の検討を始めてみました。 再生式受信機というよりもスーパ・ヘテロダイン式受信機の一種と捉えるべきなのかもしれません。 しかし周波数変換部分をごく簡単にまとめられたので高周波増幅付き再生式受信機とさして違わぬ回路規模にできそうです。 再生検波式の受信機はせっかく回路が簡単なのですから、付加する回路もできるだけシンプルにしたいものです。 接続される前後の回路を考えてやり、無くても済みそうな部分を省くと言った工夫をすればずいぶんシンプルになります。
一方で、再生式受信機ならスーパ受信機に付き物の「スーパ・ノイズ」や「スプリアス受信」から逃れられるものを「逆戻り」ではないかという意見もあるでしょう。 確かにその一面はあります。 ただし目的の受信周波数帯(7MHz帯)はかなりノイジーなので「スーパ・ノイズ」は感じられませんでした。 特にMOS-FETを使った1石コンバータ回路のノイズ・フィギャ(NF)は目的に対して十分なのでしょう。 スプリアスは確かにありますが目的を7.0〜7.2MHzの受信に限れば問題は感じられませんでした。 詳しくは続きで改めて。
次回は再生検波回路ほかの部分を付加して受信機のかたちにまとめるつもりです。 再生式受信機が仕上がる前に夏休みシーズンも終わってしまいましたね。 秋の夜長にじっくりワッチできるような受信機が作れたら良いのですが。 ではまた。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
2019年8月15日木曜日
【部品】Chinese Transistors
【中国製トランジスタの話】
【アキバ名物10円トランジスタ】
秋葉原で手に入る安価なトランジスタの一つに中国製のS9018H(←リンク)があってこれは暫く前に紹介しています。 高周波用としてなかなか優秀なのですでに活用していますが、今回はそれとは違う汎用トランジスタの話です。
言うまでもないかと思いますが「汎用トランジスタ」と言うのは特定の用途を定めず様々な目的に使える、ある意味で「万能なトランジスタ」のことです。世間で最もたくさん使われている『たいへんポピュラーなトランジスタ』と言えるでしょう。
半世紀も前の話で恐縮ですが、写真は1967年ころのCQ Hamradio誌(’67年8月号)の特集記事です。 面白い記事ではありますが、今となっては内容そのものはほとんど意味を持たないでしょう。 ジャンクなお買い得トランジスタが秋葉原で売られていて、それらを実際に使ってみたら・・・と言う話です。詳しい中身はやめておきます。何しろ大昔の話ですから。hi ただ、このBlogを書くにあたって、記事が登場したころ興味深く読んだことが思い出されたのでした。
1960年代といえば、まだまだ真空管も全盛期でした。しかしトランジスタ・ラジオは輸出の花形でしたからトランジスタ自体も珍しい存在ではなくなっていました。 ただし子供の小遣いで気軽に買えるほど安くもなかったのです。(CQ誌が180円で買えた時代)
それに真空管と違って「使い方が悪いとイッパツでお釈迦になる!」と脅されているとあっては気軽に使える部品ではありませんでした。 だから正規に買えば100円から1,000円もするトランジスタが、わずか10円で買えるならその素性に興味津々だったのです。記事の話をもとに秋葉原を探査したのを思い出します。結局、筆者と同じような美味しい石には遭遇できませんでしたけれど・・・。
☆
つまらない昔話から始めてしまいましたが、いまでは10円トランジスタなど珍しくもありません。少しまとめて買えば単価10円以下のトランジスタなどゴロゴロしています。 つくづく電子工作を楽しむには有難い時代だと思ってしまいます。 このところ特集している再生式受信機のお話も半ばですが、少々夏休みを頂いて今回は「中国製のセカンドソース・トランジスタ」の雑談にしましょう。前回のBlogでもちょっとだけ触れた話題です。リラックスしてヒマつぶしにでもご覧ください。
【中国製のセカンドソース・トランジスタ】
もうしばらく国産品も十分手に入ると思うのであえて中国製のセカンドソースに手を出す必要はないのかもしれません。 しかし、写真のようなリード線付きトランジスタの国産品は次々に生産終了しています。 なお、「セカンドソース」とは簡単に言ってしまうと他社製の完全な「互換品」のことです。
写真は左からC1815GR、A1015GR、2N3904、2N3906です。どれも中国製のセカンドソース(互換品)です。2N3904と2N3906はあまり馴染みがないかもしれませんが、米国ではたいへんポピュラーなトランジスタで、日本に於ける2SC1815や2SA1015のような存在です。米QST誌など見ていると良く目にします。
足つき部品はブレッドボードでの試作だけでなく、ちょっとした回路の手作りには未だなくてはならない存在でしょう。 いつまでホンモノが流通するのかわからない状況になってきたので、中国製のセカンドソースを評価しておくことにしました。 たまたま目にした中華通販で、ものすごく安く売られているのを目にしたからでもあります。hi
# ポイントはどれくらい「オリジナル(=ホンモノ)」に近いのか?という一点のみです。 以下「2S」を除いた型番で書いてあるものは中国製セカンドソースの意味です。
◎結論を言ってしまうと:
(1)左のC1815GRとA1015GRは東芝製のオリジナル品によく似ており、ほぼ同等といえます。 2SC1815GRや2SA1015GRで設計された既存の回路にそのまま使ってもなんら支障はなく、得られる特性も違いはないでしょう。 バラツキの少なさではホンモノ以上に優秀でした。
(2)右の2つ、2N3904と2N3906は足ピンの並びこそ左のC1815GRやA1015GRとは違いますが、電気的な特性は非常に良く似ています。 むしろオリジナル(=米国製のホンモノ)の2N3904や2N3906よりも2SC1815や2SA1015に類似しています。 この点はQST誌など米国の雑誌記事の回路を中国製のセカンドソースで代用すると再現性が問題になるかもしれません。少し注意が必要でしょう。 しかし、汎用のNPNやPNPトランジスタとしては優秀ですから幅広く活用できるはずです。
参考:(C1815GRと2N3904の類似性)
例えば高周波特性に影響のあるトランジション周波数:fTを実際に測定して比較してみました。コレクタ電流:Ic=1mAに於いてC1815GRはfT=113 MHz、2N3904の方は112MHzです。fTのピークはC1815GRが220MHz、2N3904も220MHzで、いずれもIc=15mAのときです。 またPNPトランジスタのA1015GRと2N3906もたいへん良く似た特性でした。 このようなことから、それぞれ同じシリコンのチップを使い足ピンの接続だけを変えたまったく同一特性のトランジスタのように思えます。
入手先:(中国製1円トランジスタの入手は?)
2019年の夏現在、これらのトランジスタは、いずれも100個単位で1ドル以下で手に入ります。購入先はAliexpressで送料無料のショップもあります。 Aliexpressへ入ったら「2SC1815GR」で検索してみます。 円換算で言えばいずれも単価は1円以下なので、これはもう昔のアキバ名物を超えてます。
# トランジスタを山ほど使った製作がフトコロ具合を気にせず楽しめます。w
【トラ技Jr誌・No.38で】
このC1815GRとA1015GRについて詳しく調べた結果を「トラ技Jr誌:No.38:2019年夏号」に掲載して頂くことができました。 評価が可能な電気的特性について、それぞれオリジナルとの比較で表やグラフで示してあります。 もし詳しい比較結果にご興味があればご覧いただけたら嬉しいです。
トラ技Jr誌は「トランジスタ技術」誌とは別の小冊子です。おもに電気・電子系の学生さん先生がたを対象に工業高校や大学工学部などへ配布されているとのこと。 以前はトラ技誌の付録だった記憶もあるのですが現在はそうではありません。普通の書店に並ばないのは残念ですがCQ出版社のTech Villageで電子版および印刷版が入手できるそうです。なんだか雑誌のPRのようになっちゃいましたね。hi
☆
再生式受信機の試作でも中国製のセカンドソースを試しています。 個性が現われやすい再生検波回路でもホンモノとの違いは感じられませんでした。 なかなか良くできているセカンドソースという印象です。 非常に安価なので、初めは「怪しい部品」を疑ったのですが杞憂にすぎなかったようです。 プロフェッショナルな視点で見たら長期的な寿命など未知数の部分もありますが、少なくとも我々が実験や製作を楽しむのでしたら心配なく使えます。性能も申し分なくバラツキも少ないため再現性の良い製作が期待できます。
中国製の電子部品というだけで何となく怪しさを感じてしまいそうです。 事実、ネット通販ではニセモノをつかまされたという話もよく聞きます。 しかし、中国製の半導体が本質的に怪しい訳ではないでしょう。もしそうだとすれば巷に溢れている中国製電子機器が軒並み怪しことになります。現実には十分な実用性を持った製品が殆どです。
ではなぜニセモノに騙されるのでしょうか? 恐らく、探してもどこにも残っていないような「いにしえのデバイス」をたとえ「高額を支払ってでも手に入れたい!」と思う人がいるからでしょう。 形状が似たヤスモノの型番を書き換えて高額で売りつけられれば業者はウハウハです。 素人にはどうせわかりっこないと思えばご希望の品をこしらえてホンモノのように送ってくるわけです。あとはクレームがこなければ丸儲けでしょうね。 私もチャレンジすることがあります。面倒ですが到着次第ただちに真贋を確認し、もしダメならクレームを入れて返金させています。(笑)
紹介したC1815GRとA1015GRは型番を偽装したものではなく、初めから代替を目的に製造したセカンドソース品でしょう。まともなセカンドソースであるためにはオリジナルと違わぬ性能が要求されます。 うまくそれが実現されたトランジスタだと思いました。 中国製の評価は国産品の終息に備えるという意味もありますが、安くて良いものなら今から使っても損はないはずです。 de JA9TTT/1
(おわり)fm
【アキバ名物10円トランジスタ】
秋葉原で手に入る安価なトランジスタの一つに中国製のS9018H(←リンク)があってこれは暫く前に紹介しています。 高周波用としてなかなか優秀なのですでに活用していますが、今回はそれとは違う汎用トランジスタの話です。
言うまでもないかと思いますが「汎用トランジスタ」と言うのは特定の用途を定めず様々な目的に使える、ある意味で「万能なトランジスタ」のことです。世間で最もたくさん使われている『たいへんポピュラーなトランジスタ』と言えるでしょう。
半世紀も前の話で恐縮ですが、写真は1967年ころのCQ Hamradio誌(’67年8月号)の特集記事です。 面白い記事ではありますが、今となっては内容そのものはほとんど意味を持たないでしょう。 ジャンクなお買い得トランジスタが秋葉原で売られていて、それらを実際に使ってみたら・・・と言う話です。詳しい中身はやめておきます。何しろ大昔の話ですから。hi ただ、このBlogを書くにあたって、記事が登場したころ興味深く読んだことが思い出されたのでした。
1960年代といえば、まだまだ真空管も全盛期でした。しかしトランジスタ・ラジオは輸出の花形でしたからトランジスタ自体も珍しい存在ではなくなっていました。 ただし子供の小遣いで気軽に買えるほど安くもなかったのです。(CQ誌が180円で買えた時代)
それに真空管と違って「使い方が悪いとイッパツでお釈迦になる!」と脅されているとあっては気軽に使える部品ではありませんでした。 だから正規に買えば100円から1,000円もするトランジスタが、わずか10円で買えるならその素性に興味津々だったのです。記事の話をもとに秋葉原を探査したのを思い出します。結局、筆者と同じような美味しい石には遭遇できませんでしたけれど・・・。
☆
つまらない昔話から始めてしまいましたが、いまでは10円トランジスタなど珍しくもありません。少しまとめて買えば単価10円以下のトランジスタなどゴロゴロしています。 つくづく電子工作を楽しむには有難い時代だと思ってしまいます。 このところ特集している再生式受信機のお話も半ばですが、少々夏休みを頂いて今回は「中国製のセカンドソース・トランジスタ」の雑談にしましょう。前回のBlogでもちょっとだけ触れた話題です。リラックスしてヒマつぶしにでもご覧ください。
【中国製のセカンドソース・トランジスタ】
もうしばらく国産品も十分手に入ると思うのであえて中国製のセカンドソースに手を出す必要はないのかもしれません。 しかし、写真のようなリード線付きトランジスタの国産品は次々に生産終了しています。 なお、「セカンドソース」とは簡単に言ってしまうと他社製の完全な「互換品」のことです。
写真は左からC1815GR、A1015GR、2N3904、2N3906です。どれも中国製のセカンドソース(互換品)です。2N3904と2N3906はあまり馴染みがないかもしれませんが、米国ではたいへんポピュラーなトランジスタで、日本に於ける2SC1815や2SA1015のような存在です。米QST誌など見ていると良く目にします。
足つき部品はブレッドボードでの試作だけでなく、ちょっとした回路の手作りには未だなくてはならない存在でしょう。 いつまでホンモノが流通するのかわからない状況になってきたので、中国製のセカンドソースを評価しておくことにしました。 たまたま目にした中華通販で、ものすごく安く売られているのを目にしたからでもあります。hi
# ポイントはどれくらい「オリジナル(=ホンモノ)」に近いのか?という一点のみです。 以下「2S」を除いた型番で書いてあるものは中国製セカンドソースの意味です。
◎結論を言ってしまうと:
(1)左のC1815GRとA1015GRは東芝製のオリジナル品によく似ており、ほぼ同等といえます。 2SC1815GRや2SA1015GRで設計された既存の回路にそのまま使ってもなんら支障はなく、得られる特性も違いはないでしょう。 バラツキの少なさではホンモノ以上に優秀でした。
(2)右の2つ、2N3904と2N3906は足ピンの並びこそ左のC1815GRやA1015GRとは違いますが、電気的な特性は非常に良く似ています。 むしろオリジナル(=米国製のホンモノ)の2N3904や2N3906よりも2SC1815や2SA1015に類似しています。 この点はQST誌など米国の雑誌記事の回路を中国製のセカンドソースで代用すると再現性が問題になるかもしれません。少し注意が必要でしょう。 しかし、汎用のNPNやPNPトランジスタとしては優秀ですから幅広く活用できるはずです。
参考:(C1815GRと2N3904の類似性)
例えば高周波特性に影響のあるトランジション周波数:fTを実際に測定して比較してみました。コレクタ電流:Ic=1mAに於いてC1815GRはfT=113 MHz、2N3904の方は112MHzです。fTのピークはC1815GRが220MHz、2N3904も220MHzで、いずれもIc=15mAのときです。 またPNPトランジスタのA1015GRと2N3906もたいへん良く似た特性でした。 このようなことから、それぞれ同じシリコンのチップを使い足ピンの接続だけを変えたまったく同一特性のトランジスタのように思えます。
入手先:(中国製1円トランジスタの入手は?)
2019年の夏現在、これらのトランジスタは、いずれも100個単位で1ドル以下で手に入ります。購入先はAliexpressで送料無料のショップもあります。 Aliexpressへ入ったら「2SC1815GR」で検索してみます。 円換算で言えばいずれも単価は1円以下なので、これはもう昔のアキバ名物を超えてます。
# トランジスタを山ほど使った製作がフトコロ具合を気にせず楽しめます。w
【トラ技Jr誌・No.38で】
このC1815GRとA1015GRについて詳しく調べた結果を「トラ技Jr誌:No.38:2019年夏号」に掲載して頂くことができました。 評価が可能な電気的特性について、それぞれオリジナルとの比較で表やグラフで示してあります。 もし詳しい比較結果にご興味があればご覧いただけたら嬉しいです。
トラ技Jr誌は「トランジスタ技術」誌とは別の小冊子です。おもに電気・電子系の学生さん先生がたを対象に工業高校や大学工学部などへ配布されているとのこと。 以前はトラ技誌の付録だった記憶もあるのですが現在はそうではありません。普通の書店に並ばないのは残念ですがCQ出版社のTech Villageで電子版および印刷版が入手できるそうです。なんだか雑誌のPRのようになっちゃいましたね。hi
☆
再生式受信機の試作でも中国製のセカンドソースを試しています。 個性が現われやすい再生検波回路でもホンモノとの違いは感じられませんでした。 なかなか良くできているセカンドソースという印象です。 非常に安価なので、初めは「怪しい部品」を疑ったのですが杞憂にすぎなかったようです。 プロフェッショナルな視点で見たら長期的な寿命など未知数の部分もありますが、少なくとも我々が実験や製作を楽しむのでしたら心配なく使えます。性能も申し分なくバラツキも少ないため再現性の良い製作が期待できます。
中国製の電子部品というだけで何となく怪しさを感じてしまいそうです。 事実、ネット通販ではニセモノをつかまされたという話もよく聞きます。 しかし、中国製の半導体が本質的に怪しい訳ではないでしょう。もしそうだとすれば巷に溢れている中国製電子機器が軒並み怪しことになります。現実には十分な実用性を持った製品が殆どです。
ではなぜニセモノに騙されるのでしょうか? 恐らく、探してもどこにも残っていないような「いにしえのデバイス」をたとえ「高額を支払ってでも手に入れたい!」と思う人がいるからでしょう。 形状が似たヤスモノの型番を書き換えて高額で売りつけられれば業者はウハウハです。 素人にはどうせわかりっこないと思えばご希望の品をこしらえてホンモノのように送ってくるわけです。あとはクレームがこなければ丸儲けでしょうね。 私もチャレンジすることがあります。面倒ですが到着次第ただちに真贋を確認し、もしダメならクレームを入れて返金させています。(笑)
紹介したC1815GRとA1015GRは型番を偽装したものではなく、初めから代替を目的に製造したセカンドソース品でしょう。まともなセカンドソースであるためにはオリジナルと違わぬ性能が要求されます。 うまくそれが実現されたトランジスタだと思いました。 中国製の評価は国産品の終息に備えるという意味もありますが、安くて良いものなら今から使っても損はないはずです。 de JA9TTT/1
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