2020年8月19日水曜日

【測定】Prescaler Kit for Agilent 53132A Counter

測定器:Agilent 53132Aにプリスケーラ追加
<abstract>
I built a prescaler kit. This kit is for the Agilent Universal Counter Model 53132A.It is distributed by AKC, a group of Japanese amateur kit developers. This kit includes all components as well as a dedicated printed circuit board. It is designed to achieve high performance with fewer parts and is easy to assemble.  The 53132A with the kit was able to count up to the frequency over 4GHz. I am very satisfied with it. (2020.08.19  de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

Agilent 53132A
  少し前の機種ですが、このAgilent 53132A型ユニバーサルカウンタには満足しています。高精度な測定が短時間で可能だからです。もちろん「高精度」を実現するためには外部から十分な精度を持った基準を供給する必要があります。 上限周波数は225MHz(公称)ですが、私が必要とする周波数測定はほとんどがそれ以下ですから支障はありませんでした。

 しかし、稀にVHF/UHF帯の周波数を測りたいこともあって、上限周波数に物足りなさを感じていたのも事実です。 オプションには3GHzまでのプリスケーラがあって、それを追加すれば上限を伸ばすことが可能です。 オプションの動作原理は単純そうですから、比較的容易に作れそうです。どうしても必要なら手作りでも・・・と思っていました。

以下、キット開発者グループ(AKC)会員のJR1KDA岩崎さんが開発されたプリスケーラキットを53132Aに付加する話です。 わたし的にはかなり満足できました。

 【Chinese Option 030
 5年ほど前に必要に迫られて53132Aを購入しました。 中古品を購入したのですが何もオプションの付いていないものでした。 中途半端な精度の周波数基準は内蔵されていなくても支障はありません。 外部から高精度を供給すれば良いのですから。 ただ、第3チャネル(Ch3)のプリスケーラはあれば良かったと思いました。

 ある時、中華通販を見ていたらアジレント製測定器のオプションが様々売られていることに気づきました。 調べてみたら53132A用のプリスケーラ・オプションもあったのです。 その当時も7千円弱だった筈ですから案外安いとも言えますが、使用頻度を考えると直ちに必要とも言えないためそのまま先送りになっていたのです。  いずれ中華モノを購入するか、1.2GHzくらいまで測定可能な物を自作しようと思っていました。

 【Option 030 Kit
 Facebookから時々案内のメールが来ることがあります。

 少し前ですが、誰か知り合いのお誕生日とかで案内のメールが来たのでした。 それで久しぶりにアクセスしてみたら、偶然にJR1KDA岩崎さんの投稿が目に入りました。

 Agilentの53181A用のプリスケーラをキット化したというアナウンスでした。 確か、53181Aと53132Aは共通のオプションが使えたはずです。 そこで、さっそく頒布希望を表明しておいたのでした。 その後すぐ、詳しい案内があって頒布も始まりました。

 さっそく入手したのがこのプリスケーラ・キットです。 カウンタに組み込むためのすべてのパーツが揃っています。面実装部品が殆どのため、紛れないように個々に包装してあるなどとても丁寧なキットだと思いました。 岩崎さんのサイトから資料をダウンロードして組み立て開始です。

 【Kit Schematic
 回路は合理的なものです。 上の方の中華通販で購入できるものは、おそらくAgilentオリジナルのコピー品でしょう。写真を見るとかなりたくさんの部品が載っています。

 しかし頒布のキットも機能は同じです。 少ない部品で済むのは恐らく開発された時代が違うからでしょう。 今では数GHzで動作する広帯域アンプやプリスケーラのチップは非常にポピュラーになりました。 移動体通信関係の進歩も貢献しています。 信号系にはわずか2つのICが使われているだけです。 広帯域アンプと1/64分周できるECLプリスケーラです。 あとは定電圧電源のICが一つだけという簡潔なものです。 ほとんどの部品が面実装型ですが製作はそれほど困難ではないでしょう。

 【Mount CR Parts
 手順に従ってチップコンデンサとチップ抵抗をハンダ付けしました。 少々ハンダの盛り過ぎの感じもしますが、確実に付いているようなので良しとしました。

 あいにくφ0.5mmのハンダしか無かったのでどうしても多めにハンダが付いてしまうのです。 もしハンダを購入するならφ0.3mmの細いものを使うとよいでしょう。 あるいはクリームハンダを塗布し、面実装部品を全部載せてから基板全体を加熱して一気にハンダ付けするという方法もあります。 しかし、部品数は少しですから手載せ・手ハンダでも困難はないです。

 【Mount μPB1507GV
 おそらく、プリスケーラのチップ:μPB1507GVの搭載が一番難しいでしょう。 組み立て説明書にも書いてあります。 足ピッチが狭くピン数も多いからです。

 慣れは必要でしょうが非常に先が細いハンダ鏝と細いハンダを使えば1ピンずつハンダ付けして行くことも可能です。 私の方法は1ピンずつではなく纏めてハンダ付けする方法です。 やや先の太いハンダ鏝と太めのハンダしかないので、1ピンずつのハンダ付けは難しいのです。 慎重にやってもどこかでハンダブリッジが発生します。 そこで、ハンダブリッジは気にせず、確実なハンダの回りを重視します。 後からハンダ吸い取りリボンを使って余分を除去すればうまく行きます。 写真はそのようにしてハンダ付けした様子です。 ここが製作最大のポイントなので入念に確認しておきます。

 【SMA Connector
 SMA型コネクタ(オス)に細い同軸ケーブルをハンダ付けします。 BNCコネクタの組み立てに慣れていれば何と言うことはありません。 しかしHAMの多くはM型(UHFタイプとも言う)がお馴染みですから、だいぶ違うこれは迷うかも知れませんね。

 写真のような順にパーツを挿入します。シールドの網を広げて長さを切り揃えたら先端のピンをハンダ付けします。 その後、ハウジング(外側の金具)に挿入してケーブル側の押さえを十分に締め付ければ完成です。 但し、どうしてもスッポ抜け易いのでケーブルを強く引っ張るのはやめたほうが良いでしょう。 圧着で組み立てられたコネクタつきのケーブルを買ってくると面倒がないんでしょうが、まあコネクタくらい自分で組み立てましょうね。hi 

All Units
 両端に角形のコネクタがついているフラット・ケーブルは完成品が付属しています。 SMAコネクタが付いたケーブルの他端は芯線とシールド網を分けて短めに切ってハンダ上げしておきます。 それをパネル面用のBNCコネクタの端子にハンダ付けしておきます。
 このBNCコネクタはインピーダンス不整合型ですが、周波数カウンタなので大丈夫でしょう。心配なら別のものを使えば良いですが実際に支障はなかったです。

 プリント基板は部品の未装着はないか確認します。 さらに電源のラインほか信号ラインもGNDパターンなどへ短絡していないか拡大鏡で十分な目視をしておきます。 私は仮配線で5Vの3端子レギュレータの動作や消費電流を確認するなどカウンタ本体への装着前に可能な確認はなるべくやっておきました。 従って、何の心配もなく装着することができました。

 【Prescaler
 写真のようにカウンタ内部に装着します。 カウンタのフレーム金具にはオプション装着を想定した穴加工がされています。 従って、プリスケーラ基板の取り付けのための穴加工などは必要ありません。

  いまでは特殊な工具では無いかもしれませんが、カウンタ本体からケースを外すためにトルクスネジ用のレンチあるいはドライバが必要です。 ケースは背面のパネルの左右両端と、背面下側のネジ1本の計3本のトルクスネジで止まっています。

 基板を浮かせるスタッド・ボルトをフレーム金具にナット止めし、写真のような位置に基板をビス止めすれば基板の装着は完了です。ネジ止めの部分には必ずスプリング・ワッシャも入れておくことをお勧めします。もしあればネジロック(商品名)を少量塗布すれば完璧でしょう。 あとはフラット・ケーブルと同軸ケーブルを取り付ければ装着は完了となります。

 部品の確認から始め、基板の組み立てやカウンタへの装着などおおよそ4時間くらいでした。 初心者の場合、もっと入念な確認を行ないながら組み立てる方が良いかも知れません。しかし休日を1日も使えば十分完成できるはずです。

Maximum Count Frequency
 最後に最高カウント周波数や感度などの測定を行なっておきました。 写真のように約4.1GHzくらいまで測定可能でした。 3GHz以上を目標としたキットのようですが、信号の大きさなど測定条件が良ければ4GHzくらいまで計測可能になるようです。

 少し注意が必要なのは、何も信号は入力せず・・・要するにCh3はオープンのまま・・・だと自己発振のような、ランダムな周波数表示になることです。 これはプリアンプなどと合わせて、ECLプリスケーラが高感度なためのようです。 個体差はあると思いますが、私の製作例では2.6GHzくらいでランダムな表示をします。 もちろん、規定の大きさの信号を与えてやればきちんと測定できるので心配はいらないでしょう。 このような現象は以前作ったECLプリスケーラでも同じように起こったのでこうしたプリスケーラでは固有の現象のようです。

 1GHzの測定例ですが、最小で-30dBm、最大で-5dBmあたりまでが適当な範囲です。 これ以上大きな信号を与えると2倍あるいは3倍の周波数を表示します。 おそらくプリアンプもしくはECLが飽和してしまい、自身で発生する高調波をカウントするようになるのでしょう。 十分な感度があるので、必要に応じてアッテネータを付加するなど使い方を工夫したいと思います。  これで430MHz、1.2GHz、2.4GHzの機器など製作するとき周波数の確認ができるようになりました。

                   ☆

 最近はあまり見に行かなくなったFacebookですが、たまたま覗いてみてよかったと思います。 せっかくのKit頒布を見逃したら残念だったでしょうからね。hi hi

 だからと言ってFacebookを頻繁にアクセスするつもりはありません。たぶん時々覗くくらいでしょう。 全部と言う訳ではないんですが、あそこは何となくリア充の自慢合戦の場のような雰囲気があって私にはチョッと場違いに感じるのです。(爆) 文字数制限はありますが構造的にtwitterの方が幾分マシな感じなので時々覗くことがあります。 まあ、そちらもあまりアクティブではないんですけれどネ。SNSは色々あってどれが合うのか人それぞれですしお好みもあるんでしょう。(笑)

 何だか最後は変な方向へ行ってしまいました。(SRI) このプリスケーラ・キットはHAMフェアのようなイベントでの頒布もお考えだったのかも知れません。しかしコロナの現状ではイベント開催も難しそうです。 せっかくのキットが埋れてしまうのは勿体ないと思っています。 ご紹介したプリスケーラ・キットには満足しています。作りやすく、しかも十分な性能を持っていると思います。 JR1KDA岩崎さんFBなキットありがとうございました。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2020年8月4日火曜日

【Antenna】160m Band Antenna , Fixed

アンテナ:160mバンドアンテナを最終調整
 <abstract>
This article is a continuation of the low band antenna modification. I've been experimenting with this antenna for two months now with a temporary response. As the result was good, I completed the modification. I soldered the extension of the antenna element. As a result, the operation was very stable. It seems that a proper response is still necessary.   (2020.08.04 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

恒久化完了
 160m Band用アンテナを改造する話の続きです。 前のBlog(←リンク)では様子見の意味もあって、仮の対応で1.8MHz帯に出られるようにしました。 仮設の意味は、バンドの拡張分をミノムシ・クリップで挟んだ電線で応急的に対処していたからです。
 さすがにいつ迄もそのままという訳には行きません。 ミノムシ・クリップはやめてきちんとハンダ付けすることにしました。

                   ☆

 拡張された1.8MHz帯に約2ヶ月ほどオンエアしてみました。 なにぶん既に初夏ですからこのバンドは旬ではありません。 それでも物珍しさもあってか意外にオンエア局も多いようでした。 まあ多いとは言ってもメジャーなバンドじゃありませんから、オンエアしている局数は限られます。 昨今ではみんな交信済みになってだいぶ飽和してきた感じです。 FT-8モードの交信がまったく飽和てしまったら今度はCWにオンエアしようと思案しているところです。

 このアンテナ、オンエアしていて国内局相手ならマズマズ飛ぶ感じなので「ミノムシ・クリップで挟んだ電線」から脱却して恒久化することにしました。 今回のBlogは自身の作業メモなので役立つお方はまずないでしょう。 おヒマじゃなければとりあえずスルーしてください。(爆)

 【170m用になる?
 従来の1.9MHz帯は160mバンドと呼ばれてきました。 確かに、1910kHz±2.5kHzの波長は157mくらいですから、まあ160mバンドで良いんでしょう。(笑)

 今回はエレメントを延長して1.8MHz帯のアンテナに改造します。 中心周波数は1837.5kHzで、波長は163mです。そのまま160mでも良いのかもしれませんが、1800kHzでは167mになります。 何となく170mのイメージに近くなってきました。 170mバンドと言うのはここだけの冗談としても、だいぶ低い方へシフトした感じです。(笑)

 ざっと考えて72.5kHzほど共振周波数を下げることになります。 前回の仮設工事では約65cmの被覆電線を追加して1940kHzあたりに共振するようにしたのです。 でも、みの虫クリップで挟んだだけではどうしても不安定さが残るように感じていました。 一応、共振はするようですがアンテナ・チューナの挙動を観察すると何となくぎこちなくて怪しげです。(笑)
 そろそろ潮時と考えて仮設を脱却することにしました。 銅線を用意しハンダ付けするだけの簡単な作業です。  始めてみると仮設とは言え自己融着テープで防水処理しておいたので雨水の侵入もなく初期状態に近い良い状態でした。 しかしミノムシ・クリップでは点接触のようなもので、どうしても不安定ですから今度はがっちりハンダ付けしておきます。

 【小刻みに追い込む
 足りなくて何回も追加するのは面倒ですから長めに追加しました。 追加する電線は古いアンテナの残骸からリサイクルで調達しました。 実測で128cmの電線を2本用意し、端部を5cmほど磨いてハンダ付け部分にします。 従って有効な延長量は123cmとなります。(123cmずつ左右エレメントの両端にそれぞれ追加)

 123cm追加した状態で共振周波数を測定したら1800kHzちょうどでした。 これではだいぶ低すぎますから共振点がバンドの中央付近(=1837.5kHz)に来るようカットして追い込んで行きます。次項のように測定画面で観察しながらカットして行きました。

 初めはやや大胆に15cmとか20cmずつカットします。 だんだん良いところに近付いたら5cmずつ小刻みに調整して行きました。 最終的に、追加した長さが65.5cmになる所まで切り詰めてほぼ目標のところに来ました。 不足を警戒した最初の123cmはだいぶ長すぎたようです。切れ端がたくさんできてしまいました。(笑)

 【最終特性は?
 左は調整を追い込んだところです。 1837kHzでSWR=1.2くらいになっています。 バンドの下端と上端ではSWR>3になりますが、あまりバンドエッジにはオンエアしませんから支障はないでしょう。

 もう暫くのあいだオンエアのメインはFT-8だと思うので良く使うのは1840kHzあたりでしょう。 また、交信の合間にオンエアしているWSPRなら1836.6kHzです。 この先オンエアする予定のCWは1815kHz辺りかと思うのですが、国内局相手がメインになりそうな当局はもう少し上の方に出る方が良いでしょうか?   そんなことを考えながら概ねバンドの中心付近でSWRが一番下がるように調整して終了しました。 なお、この観測は下記のTEST-2のパターンでやりました。(厳しい方になります)

 画面の右の所に1910kHz±2.5kHzの位置を記入しておいたのですが、 流石にSWRが高すぎて使い物にはなりません。 どうしても戻りたくなったら足した分を切断するしかないようです。 延長コイルの逆で、短縮コンデンサを入れるって言う手があったように思うのですが、あらかじめそれなりの構造を考えておかなくてはダメなようです。将来の研究課題にしておきましょう。hi

参考・1:160mバンドのバンドプラン
1800kHzから1830kHzがCW、1830kHzから1845kHzがCWと狭帯域データ(例:FT-8など)。1845kHzから1875kHzが狭帯域の全電波形式。なお、1907.5kHzから1912.5kHzは従来通りCWと狭帯域データのみ。(2020年8月:JARLサイトによる)

参考 ・2:2020年8月19日(水)にSSB(J3E・旧A3J)などの電話モードでのオンエアが特別な申請なしに可能になりました。このバンドの免許があれば事後報告的に(遅滞なく)電話モードでのオンエアに関して届け出れば良いのだそうです。なお、詳細は必ず官報など参照されてからオンエアしてください。(2020.08.19:追記)

 【全バンドの評価・1
 左は前回のBlogの評価と同じ方法で観測した4バンド逆VアンテナのSWR特性です。

 概ね同じように調整を追い込んだだけですから、160mバンド以外の特性に変化はないようです。 まあ、そうでなくては困るのですが。(笑)  今回は30mバンドの特性も見えるように測定しました。 30mバンドは無短縮ですから帯域幅も広く取れています。 SWRのボトムはややバンドの上の方に外れているようですが、バンド内のSWRは1.5以下なので支障はないでしょう。実際に飛びも悪くありません。コンデイションさえ良ければ南米とかEuと交信できています。

 80mと40mのSWRボトムはやや低すぎる感じもしますが、デジタルモードやCWでのオンエアがメインなのでまあまあでしょうか? SSBに出るならもう少し高い方へ調整すると良さそうです。 ただし40mバンドは200kHzに広がったのでフルカバーするのはそれなりに大変です。 80mバンドも上の方の「飛び地」にオンエアするのは難しいですね。 従って各バンドとも主にオンエアするモードに従い共振点を合わせて妥協するしかありません。

全バンドの評価・2
 上の測定と何が違うのかと言うと、測定系の途中に入っている物が違うのです。 実際の運用では上のような状態になっています。 こちらの方は途中に入っているダミーロードとSWR計を兼ねた機器をパスしているのです。

 どちらかと言えばこの状態の方が実際なのかもしれません。 アンテナ系としては余分な機器がないのでシビアに特性が現れているようです。 個々の周波数の共振特性を見ると綺麗なようですし特性もわかり易いように感じました。 それで160m Bandの調整もこちらで行なってみたわけです。 ただしバンド内に限れば極端な違いはありません。

 きちんとハンダ付けしてエレメントを延長した結果、ATUのチューニングの挙動も安定したように感じます。 アンテナは屋外にある関係で、季節や気象条件などによって微妙に変化が現れるものです。 しかし仮設と比べてその時々の変動は少なくなったように思います。

                   ☆

 私が開局した当時、OMさんから「無線局はアンテナだよ」と言われたものです。 そのころはよくわかっていなかったこともあって「無線局はヤッパリ無線機」だろうと思ったものでした。(笑) しかし、いくら高性能な無線機があってもアンテナがPoorなら性能は活きてきません。 リニヤアンプを付けたところで輻射効率が悪ければせっかくのハイパワーも熱に化けるだけです。 無線局にとってアンテナが大切なことはOMが言われた通りです。 その上で高性能なリグを揃えればベストなんでしょうね。 狭い敷地に何とか工夫して上げたようなアンテナばかりの当局には夢のようなお話なんですけれどネ。(笑)

 仮設の状態でもテストにはなったので十分意味はありました。 しかし何となく不安定さが感じられ気になってきたのです。 ローバンドが本格化する秋まで待っても良いかと思っていたのですが、暑さと蚊の来襲を我慢し作業して良かったと思います。 短縮+折り曲げエレメントなので160m Bandはあまり飛ばないのですが、何とか国内くらいならカバーできそうです。 電波が届いておりましたら是非コールしてください。 なお、アンテナや無線局にまつわる逸話でもあればお気軽にコメントをどうぞ。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2020年7月21日火曜日

【回路】Making an AM-Radio with MC3340P

MC3340Pを使ったAM Radioの試作
 <Abstract>
I built a prototype AM radio using Motorola's IC: MC3340P in the AGC circuit. The purpose of this is to test if the MC3340P electronic attenuator can be used for radio and wireless communication devices.
The MC3340P is a low-frequency device. As a result of my trial, I found out that it can be used for high frequency circuits as well.
 I think it is possible to make a receiver with good AGC characteristics by applying it well.  (2020.07.21  de JA9TTT/1  Takahiro Kato)

AM-Radio 機能試作・1
 二つ前のBlog(←リンク)でモトローラ/ONセミ製のMC3340Pと言う電子ボリウムを扱いました。 MC3340Pは低周波用のデバイスですが、周波数特性が伸びていることから、低周波のAGCアンプだけでなくラジオのIFアンプへの応用も示唆されたのです。
 そこで、さっそくMC3340Pを使ったAMラジオを試作しました。 まずは中間周波増幅器(IFアンプ)として思ったように動作するのか、ごく基本的な実験から始めました。 優秀なAGC特性・・・端的に言えば広いAGC範囲と低歪みな特性・・・を持ったIFアンプの製作はなかなか難しいものです。MC3340Pを使うことでそれが可能になるか確かめました。結果はかなりFBなようです。

                   ☆

 シンプルにAMラジオで試してみましょう。もちろん単なるAMラジオを作るのが目的ではないので専用のラジオ用ICチップは使いません。ラジオは作りますが、今回は「ラジオ作り」そのものが目的ではありませんので。
 ここでは電子ボリウム用のMC3340Pがラジオや通信機のAGC回路にうまく使えるのか実際にテストしてみます。 まずはAMラジオで様子を見ますが、より本格的な通信機に使えるかどうかも検討したいと思っています。
 MC3340Pの可能性が確かめられれば良いのでなるべく手間を省いて実験します。便利なICを多用することにしました。実験回路はそのままラジオとして使うことも十分可能ですが、実用品にするならもう少し改良したら良くなる所もありそうです。今回はありきたりのラジオ製作がゴールではありませんのでそのつもりでどうぞ。
 
AM-Radio 3340 Schematic
 さっそく実験回路です。中間周波が455kHzのスーパー・ヘテロダイン形式のAMラジオです。 6石ラジオの途中にMC3340Pを付け加えたような回路でも良いのですが、遊びの意味もあって新規のラインナップで考えました。

 周波数変換(コンバータ)はデュアルゲート・MOS-FET:BF998を使った自励式コンバータです。 DG-MOS-FETをこうしたAMラジオのコンバータ回路に使う例は見ませんでしたが旨く動作してくれるようです。感度もまずまずですからもっと使われても良いのではないでしょうか。

 コンバータに続くIFフィルタ(中間周波フィルタ)は中心周波数が455kHzで通過帯域幅が15kHzのセラミック・フィルタを使いました。ここでラジオの選択度が決まります。使ったフィルタは選択度が良い(特にスカート特性が良い)ため混信もなく、また十分な通過帯域幅があってAMラジオながら再生音域も広く得られます。市販のラジオが3kHzくらいまでしか再生できないのに対して7kHz以上の再生音域が得られそれだけHi-Fi(ハイファイ)になります。もしアマチュア無線用(AM波対象)なら帯域幅6kHzくらいのフィルタが適当ですが、AMラジオの受信にはずっと広い方が良いでしょう。混信さえなければ20kHzくらいでも良いくらいです。(但し夜間は9kHzのビート音の可能性があってノッチなどで対処が必要)

 セラミック・フィルタの次はMC3340Pです。ここにAGCを掛けます。AGC回路はFETを併用する方式にしました。  検波出力が小さめなので、AGCの効きを良くする目的でカットオフ電圧が小さい2SK544Fを使います。通信機なら増幅型AGCも考えるのですが、単なるAMラジオなのでシンプルに済ませました。 MC3340Pの後はLA1221と言う差動アンプ形式のIF-Amp.用ICを2つ使って十分なゲインを得ています。LA1221はCanパッケージのトランジスタのような形をした4ピンのコンパクトなICです。 MC3340Pを含めたIFアンプ全体で50dBくらいのゲインがあります。 検波回路はゲルマニウム・ダイオード:1N34Aを使った標準的なものです。検波した電圧を平滑してAGC電圧としています。

 初めはIFアンプ+検波器だけで実験していました。 セラミック・イヤフォンで聞いていたのですが、使い物になりそうだったので低周波アンプを追加しました。 低周波アンプは定番のLM386タイプです。 LM386にも少々飽きてきたので別のICでも・・・と思ったのですが、あえて凝る意味もないのであっさり定番で済ませました。(笑)

 全体の消費電流はICを多用したため少し大きめです。無信号状態で約27mAでした。上手に作った6石ラジオなら10mA程度で済むのですが、MC3340Pを試すのが目的ですから省エネ方向の追求はしませんでした。各部が安定して動作してくれたらテストには十分だと思います。

 【Converter : BF998
 コンバータには少し前のBlog(←リンク)でテストしたBF998型デュアル・ゲートMOS-FETを使いました。 また、別のBlogではDG-MOS-FETで自励コンバータ形式(←リンク)のクリスタル・コンバータを試したのですがなかなか旨く働いてくれました。 これらの実験結果に基づき、今回は水晶発振ではなく変形ハートレー型のLC発振回路を使った自励式コンバータを構成してみました。これはとても旨く動作しています。

 BF998はヨーロッパ系のDG-MOS-FETですが秋葉原や通販で安価に手に入ります。 国産品で代替するなら3SK35ほかディプレッション型のデュアル・ゲートMOS-FETならほとんどのものが使えます。(例:3SK35、2SK41、3SK45、3SK51、3SK59、3SK65、3SK73など候補はたくさんあります)

 アンテナコイルには、フェライト・バーアンテナを使いました。試作品では長さ120mm、直径10mmのものを使いました。このバーアンテナだけで十分な感度があります。 基本的に外部アンテナは不要でしょう。 外部アンテナは遠距離受信に効果がありますが、このラジオはローカルの放送局を良い音で聴くのが仕様です。

  市販のAMラジオ用局発コイルが使えると自分で巻いて作る手間が省けます。 性能など検討の結果、市販の既製品も支障なく使えましたが、後ほど局発コイルとIFTを手作りするための図面・資料があります。詳しくはそちらで。

 【OSC Level : at BF998 Source
 DG-MOS-FETの第1ゲート部分を使った変形ハートレー型の局部発振回路です。 ゲート部分に入れたダイオード(Si-Di)の整流作用で自動的にバイアスが掛かって発振振幅が安定します。 D1:1N914は重要な役割があるので省略しないでください。1N914の代替には一般的な小信号用シリコン・ダイオードなら大抵のものが使えます。1N4148、1S2076A、1S1588、1SS53、1SS178などなど。

 受信周波数範囲は520〜1620kHzなので、局発の発振周波数は+455kHzの975〜2075kHzです。 その範囲で発振振幅は概ね一定に保たれています。 写真では1Vppですが、もう少し小さめに調整しても良いようでした。 組み立てが済んでからVR1:10kΩで発振レベルあるいは変換ゲインを見て加減します。

(注:写真は未調整の段階で撮影したため上記の周波数範囲をやや外れています。ただし範囲調整後も発振振幅に変化はありませんでした)

 【AMR-3340 : Making Coils
 局発コイル(T2)と検波回路部分のIFT(中間周波トランス:T3)の作り方です。 aitendoで売っている「IFTきっと」を使って製作しました。 巻線はφ0.08mmのポリウレタン被覆電線(UEW電線)を用意します。 ここでは最大容量が275pFの等容量型2連バリコン(ポリバリコン)を使う前提で局発コイルを設計しました。 この図のコイルの足ピンの番号はすべてコイルを底面(足ピンのある側)から見た時のものです。

 しかし、市販品の局発コイルやIFTも十分使えます。 バーアンテナ・コイルなどと一緒にバリコンも合わせて購入すればコイル製作の手間は掛かりません。 AMラジオ用のコイル類は秋葉原あるいはラジオ部品の通販サイトで購入できます。 もちろん「IFTきっと」を使って自分で巻けば非常に経済的です。手間か費用かの選択と言うことですね。

 なお、一般的に市販されているAMラジオ用のポリバリコンはアンテナ同調側が約140pF、局発側が約82pFのトラッキングレス型が多いようです。 従って局発コイルもそれにあったものを購入します。局発コイルとしてはインダクタンスが約360μHくらいのものが良いはずです。(SLV-C01と言う型番の市販品がある)なお、こうした市販の局発コイルを使うときには回路図のC5:330pFは不要なので除去(取り除き短絡)します。 またバーアンテナ(T1)の方はインダクタンスが550μHくらいあるものを選ぶことになります。入手しやすい市販品として例えばSL-55X(あさひ通信)などが良いでしょう。バーアンテナはフェライトコアが大きなものが高感度です。(一般的にはコアが大きい方が良いが、コアの材質・種類にもよる)

参考:コロナのクラスタ発生もあり秋葉原には行きにくい状況にありますが、「東京ラジオデパート」のシオヤ無線電機商会あたりに行けばこのラジオの製作に必要なコイルとバリコンが一式揃うはずです。(残念ながら、シオヤ無線電機商会さんは、2023年8月31日に閉店しました。もう手に入らないコイル類は手作りする必要があります) KBF-455R15Aと類似特性のセラミックフィルタは秋月電子通商で手に入ります。

IF-Filter and IF-Amp
 選択度を決めるIFフィルタには「セラミック・フィルタ」を使いました。 写真・左側に見えるブルーの箱型がIFフィルタです。 京セラ製のKBF-455R15Aを使っています。これは製造中止品のようですから手に入ったもので代替すれば良いでしょう。村田製作所の製品が入手しやすいようです。 使用するフィルタの終端インピーダンスに合わせてR5とR6を変更します。(回路図では1.5kΩ) 一般的に終端インピーダンスは1〜2kΩのものが多いです。手に入ったフィルタのインピーダンスがわからないときは回路図のまま作っても良いでしょう。 このラジオの場合、セラミック・フィルタがないからと言ってIFTで代替すると選択度不足になるのでお勧めできません。

 AGC回路に使うMC3340Pの詳細は前のBlog(←リンク)を参照してください。ここでは455kHzの中間周波増幅回路のところに使っていますが考え方は低周波の場合と同じです。 但し、周波数特性を伸ばすためPin.6はオープン状態で使います。
 MC3340Pだけではゲインが足りません。LA1221と言うIFアンプ用のICを2つ使ってさらに2段増幅しました。 LA1221はちょっとしたRF/IFアンプには便利なのですが、かなり旧式なのでおそらく入手は困難です。 IFアンプ部分で40〜60dBのゲインが得られればどんな方法でも良いです。 手に入った部品で代替すれば十分です。トランジスタやFETでも良いですが、いまでしたら高速OP-Amp.の採用も有りでしょう。拙宅ではLM359NもIFアンプの候補でした。

 LA1221はもともとFM受信機用のICです。そのため、あまり大きな信号を扱うとリミッタ特性が現れてうまくありません。しかしこの例のように2段増幅ならリニアに増幅する範囲内でした。従ってAMやSSBのような振幅変調系のIFアンプに使っても支障はありません。同じ回路で試したいお方に差し上げますのでお問い合わせを。
 
 【Detector
 検波回路はゲルマニウム・ダイオード:1N34Aを使ったオーソドックスなものです。  IFT(=中間周波トランス)を使わぬ形式も可能ですが普通のトランジスタ・ラジオと同じ回路にしました。検波ダイオードは1N60や1K60も使えます。1SS97などのRF用ショットキ・バリヤ・ダイオード(SBD)でも大丈夫です。 ここで使用したIFTは自作品ですが、市販で見かけるSLV-C04(コアは黒色)が同じように使えます。

 IF信号を検波することで得られる直流(DC)電圧の成分は概ね信号の大きさに比例します。 図の回路では負のDC電圧が得られますのでその電圧を平均化してからAGC制御用のFET:2SK544Fのゲートに与えます。 AMラジオでは常識的な平均値型のAGC回路になっています。 なお、2SK544Fの代替として2SK241GRと2SK439F(ピン配置要注意)がありますが、この用途の場合2SK19GRや2SK192AGRもほぼ同じように使えます。

 【Audio Amp.
 初めの頃はセラミック・イヤフォンで実験していました。 しかし、イヤフォンは鬱陶しいのでスピーカを鳴らすことにしました。 100mWくらいのパワーがあれば実験には十分です。 アンプ回路は何でも良かったのですが、オーソドックスに「386型IC」を使いました。

 回路はメーカーの資料に「ラジオ用」として紹介されているものを参照しました。入力部のLPFや出力部のRFCで高周波の回り込みを防ぐ工夫がされています。

 写真のものはJRC製のNJM386BDですが、一般的なLM386Nでも支障ありません。 BlogではJRC製が頻繁に登場していますが単に手持ち在庫の都合に過ぎません。

 もちろん、他の低周波アンプ用のICでも良いのですが、電源電圧=9Vに適当な物となると意外に選択肢は少ないように思います。 ディスクリートで作っても良いのですが、今回はあえて部品数を増やす意味を感じなかったので定番の「386」で済ませました。 386なら秋葉原や通販で容易に手に入るのも良いところです。

AM-Radio 3340 EVX-2
 以上で全てです。 MC3340PのIF-AGC回路への適性を見極めるのが目的です。 IFアンプ部分だけを作って測定器による評価だけでも良かったのかも知れません。

 しかし、なるべく具体的な応用例があった方が実感が湧きやすいものです。そう思ってAMラジオの形に纏めてみました。 試作したラジオが非常に優秀だとは思いませんが、良くAGCが効いているのは実感できました。 感度的にもマズマズなので実用品として使うことも十分可能でしょう。 何れにしてもMC3340Pが受信機のIFアンプ回路に旨く使えるかの確認になりました。 AGC特性については下記の参考・3に概略の評価結果を追記しました。

                 ☆  ☆

参考・1このラジオの調整について
このラジオはスーパーヘテロダイン型なので、トラッキング調整が必要です。
◎次のような道具を用意します: 周波数カウンタ、テストオシレータ、DMM、調整用ドライバ、ジェネカバ・受信機(=周波数カウンタの代わり) 、直流安定化電源

☆以下の手順で調整します。
(1)製作の確認:電源を与える前に部品の付け忘れや誤配線がないか入念に確認します。
(2)消費電流の確認:DMMを使います。まず電源電圧を9Vにセットし、電源から流れる電流が測れる状態に配線します。電源を加えたら素早く電流値を読み取ります。回路図に書かれた値と大幅に違う場合(±50%以上)は誤配線やショート、配線もれなどが考えられるので一旦電源を切って再確認します。
(3)IFTの調整:テストオシレータを使います。アンテナ端子から変調をかけた455kHzの信号を与えます。周波数は正確である必要があります。60dBμ以上加える必要があるかもしれませんが、信号が聞こえたらIFT:T3を調整して一番大きな音が聞こえる様にします。最大のところがわかりにくい時はテストオシレータの出力を適宜加減します。
(4)受信範囲の調整:周波数カウンタを使います。Q1:BF998のソース電極:S端子の部分に周波数カウンタを接続します。 (A)バリコンを最大容量の位置(一番低い周波数側)にします。発振周波数が975kHzになるように局発コイル:T2のコアを調整します。 (B)次にバリコンを最小容量の位置(一番高い周波数のところ)にします。発振周波数が2075kHzになるように、半固定コンデンサ:C4を調整します。 上記の(A)と(B)を交互に繰り返します。両端で概ね5kHz以内まで合って来たら最後に(B)を行なって終了します。これで520kHz〜1620kHzが受信できるようになります。 なお、周波数カウンタは測定可能な範囲でなるべく小容量で結合させると精度良く調整できます。 ジェネカバ受信機を使って調整しても良いです。その場合、受信機からのアンテナ線を作ったラジオのコンバータ部:BF998のあたりに近付けます。SSBモードで受信すると発振の存在がわかり易いです。上と同じ手順で(A)975kHzと(B)2075kHzの周波数でビート音が聞こえるよう局発コイルと半固定コンデンサを調整します。
(5) アンテナ回路の調整:テストオシレータを使います。テストオシレータの出力はワンターンコイルでバーアンテナに結合すると良いです。 (C)まず変調した600kHzをアンテナ端子へ加えます。バリコンを回してテスト信号を受信します。その状態でバーアンテナ上の同調コイルをフェライトコア上でスライドさせ一番よく聞こえる位置に仮固定します。テスト信号が強すぎるとわかりにくいのでテストオシレータの出力を適宜加減します。 (D)テストオシレータの周波数を1400kHzにします。バリコンを回しその信号が受信できたら更によく聞こえるようにトリマコンデンサ:C3を調整します。 これら(C)とD)を交互に繰り返します。どちらでもよく聞こえるようになったら最終的に(D)の調整で終了します。 パラフィンなどでバーアンテナの同調コイルを固定して完了です。

# なお、テストオシレータが用意できない場合、(3)のIFT調整は後回しにします。(5)のアンテナ回路の調整は実際にラジオ局を受信しながら行なうこともできます。その場合、低い方は500〜600kHz、高い方は1200〜1500kHzのローカル放送局を2つ選んで調整します。例えば関東の場合はNHK第1(594kHz)とニッポン放送(1242kHz)などが良いでしょう。高い方はRFラジオ・日本(1422kHz)が良いのですが地域によっては受信困難です。 (3)を飛ばしたとき、IFTの調整は受信できるラジオのうち、弱めの局を聴きながらよく聞こえるように合わせておきます。

 このラジオはアンテナコイル(バーアンテナ)への負荷効果が小さいため、アンテナ同調回路における選択度はかなり良好です。同様に感度的にも有利です。これはDG-MOS-FETを使った効果です。 ただし完全な調整を行なわないと本来の感度が得られません。手順に従い入念に調整します。

参考・2Sメータの付け方(簡易版)
 同調点表示器と言ったほうが良いかも知れませんが、簡単にSメータが付けられます。FET:Q2 2SK544FのソースとGND間に入っている抵抗:R10(820Ω)のGND側を切ってGNDとの間にラジケータを挿入します。ラジケータの極性はR10側がプラス、GND側がマイナスです。 ラジケータの内部抵抗がわかればその分だけR10を減らすとなお良いです。 このSメータは逆振れ型で500μA程度のラジケータがよく振れます。 無信号のとき振り切れる場合はラジケータとパラに抵抗を入れて一杯に振れるよう加減します。ごく簡易なものですがメータがあるとラジオもサマになります。(笑)


参考・3:AGC特性(追記:2020.07.25)
測定器を使ったAGC特性の評価結果です。入力として変調信号が400Hzで変調度30%の1000kHz・AM信号で評価してみました。 強さを変えて採った代表的な特性ですが、AGCの有効範囲は約60dB程度でした。 60dB(1000倍)の入力変化で検波出力の変化は12.8dB(約4.4倍)に収まります。6石スーパと比べはるかに優秀です。 なお、IFアンプ自体はさらに大きな入力信号を扱えるのですがコンバータ段が先に飽和しました。しかし大電力放送局の至近でもなければ心配ないでしょう。コンバータ段は感度か大入力特性優先なのかを考えてバイアス調整すると効果的でした。 アンテナがバーアンテナなので測定には「テストループ」を使うべきですが、今回は使用せず簡易評価です。従って絶対感度は求めていません。現状で強弱の違いはありますが関東一円の民放局が受信できます。 これは当たり前ですが、MC3340Pの特性をフルに発揮させるには受信機全体のレベル配分がとても重要です。さらに高性能化するための指針としては、IFアンプのゲインをもう10dB程度アップするかDCアンプを付加して増幅型のAGCにしたいところです。ラジオではなく通信型受信機なら間違いなくそうすべきでしょう。

                   ☆

 もともとMC3340Pを使ってみるのが目的です。 AMラジオではあまり見たことのないようなデバイスを多用した「変わったラジオ」になりました。 前から研究テーマの一つだったDG-MOS-FETを使った自励式コンバータも実験できました。この自励式コンバータは短波帯でも十分使えそうです。  あえて珍しいようなデバイスを使ってAMラジオを作る意味はないかもしれませんが気分転換にはなりましたね。(笑) MC3340Pを試して受信機のAGC回路への適性があることもわかったのは収穫です。 今回は455kHzでテストしましたが、もう少し高い周波数でもかなり使えそうです。
 さらに使い方を工夫してちょっと高級な受信機でも試用してみたいと思っています。 既に良好なAGC特性を持ったIFアンプとしてはAD603を使ったものをテスト済みです。一方、MC3340Pの特徴はその扱い易さにあります。特に低い周波数のIFアンプには有利でしょう。それ自体は低ゲインですから発振しやすいと言ったトラブルもありませんから。

 AMラジオは何回も作ったので、ありきたりのデバイスで作っても面白くありません。 あまり定番にとらわれず手持ちの部品を積極的に使ってみました。従って実験した回路は必ずしも理想的ではない部分もありますが、少し変わった部品でラジオを作ってみたいなら面白いかも知れません。定番の部品を使ったラジオを卒業したら試してみてはいかがですか? ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2020年7月5日日曜日

【回路】Frequency Counter kit from China

回路:中華カウンタとプリアンプ
<abstract>
I made a kit for a frequency counter. This kit was purchased by mail order from China. It was only $2.9-.
The frequency counter was lacking in input sensitivity as it is. So I will build a pre-amp to increase the sensitivity. I put an amplifier on it and it started counting at an input of about 100mV. This is very practical.  (2020.07.05  de JA9TTT/1  Takahiro Kato)

お手軽カウンタキット
 しばらく前から秋葉原のお店で周波数カウンタのキットが安価に売られるようになりました。PICマイコンを使ったもので、5桁のLED表示になっています。キットをよく見ると中国製のようでした。そこでAliexpressで検索したら写真のようなキットが売られていました。価格はわずかに$2.90-です。どうやら秋葉原の商品と類似品のようです。送料無料なのと相まって、あまりに安いのですがちゃんとしたのが届くんでしょうか?

                   ☆

 HAMの自作にはテスタだけでは不十分です。 何もなかったころの「昔風の製作」を信条とするならともかく、いまなら周波数カウンタは欲しいものの一つでしょう。 ここでは中華通販で買った周波数カウンタとそれに付加するプリアンプを試作してみました。本格的な測定器の代わりとして結構役立ちそうなので紹介することにします。もし周波数カウンタを持っていないなら一つ作ってみては如何ですか?

 既に周波数カウンタを持っていても、この中華カウンタは役立つかも知れません。IF周波数が455kHzの受信機(例:9R59Dとか)はもちろん、それ以外に任意のオフセット値を加減算するカウンタにもなります。VFOとか局発の周波数を読んで送・受信周波数をデジタルで直接読み取る「周波数表示器」としても使えそうです。 機能の詳細については省きますので、設定方法など詳しい使い方はネットにある取扱説明書を参照してください。 プリアンプの付加はそうした「ラジオ・カウンタ」などの用途にも有用です。 以下、もしも興味を覚えたらご覧を。 今回の電子工作はビギナーでも難しくありません。

 【キットが届く
 注文してから約40日ほど掛かって到着しました。安価なキットですし、送料も無料ですから最も安価な輸送手段で発送されたのでしょうか? 台湾からのようですから、ひょっとしたらVia AirではなくてSurfaceだったのでしょうか?

  現在はコロナ禍の影響があって中華通販は滞り気味です。昨秋の購入なので約40日でしたが、いまはもっと掛るかも知れません。気長に待つしかないでしょう。 少し高くてもよければ秋葉原のお店で購入するのが手っ取り早いです。あるいは国際通販に不安があるなら国内の通販も良いかも知れません。Amazonにも売っているようです。 購入場所や時期によって幾らか基板のバージョンに違いが見られるようですが、基本的にどれも同じだと思います。

(備考)中華通販はあまりに安い(約330円)ので、ひょっとしてプログラムの書かれていないPICマイコンでも・・なんて疑いました。しかしこれは余計な心配であり、きちんとプログラムは書いてありますし基板も綺麗なものです。部品の過不足もありませんでした。ただし、組み立て説明書のような資料類は一切付いてきませんから自力でネットから探すことになります。でも、簡単に見つけられました。

 【組み立ては簡単
 部品数も少なくて簡単なキットです。まずは部品の不足がないか確認しましょう。もっとも、もし不足があってもお店にクレームを入れるよりも足りない分を自身で補う方が手っ取り早いです。もちろんLED表示器やPICマイコンのような主要部品の欠品は致命的ですが。

 抵抗器はカラーコードが5本の1%誤差のものが付属していました。5本なのでカラーコード4本の抵抗器に慣れていると戸惑うかも知れません。先頭の3本で有効数字を表します。(注・1) 各部品は浮かせたりせずに写真のように基板にぴったり付けて実装するのをお薦めします。

 この周波数カウンタキットは、クリスタル・テスタを兼ねています。このクリスタル・テスタは水晶発振子を発振させてテストするための機能です。 しかし不良品でもないのに発振できない水晶発振子が多くていま一つのようでした。 もし手持ちに2〜20MHzくらいの水晶発振子があれば装着してみます。 うまく発振してくれれば発振周波数が表示されます。
 周波数カウンタとしての基準は基板上に20MHz水晶発振子が載っています。その周波数調整用のトリマコンデンサも付いています。 正確に周波数がわかっている発振器があれば校正できますが、もしなければとりあえずそのままでも良いでしょう。 いずれ 機会を改めて校正すれば良いです。

 写真は外部の発振器から999.99kHzを水晶発振子の測定端子のところへ与えてみたものです。(1MHz以下の測定では小数点が点滅します) 残念ながらこの方法は感度が悪くて実用性に乏しいことがわかりました。かなり大きめの信号を与えないと計測してくれません。 要するにこの基板単体では周波数カウンタとして感度が悪すぎるのです。 さらに水晶発振子の端子からではなく、その右側のコネクタにある「IN」端子経由で試しても同様でした。(IN端子はもっと感度が悪い。ここは論理信号レベルの矩形波に限るようでした) そこで、外付けのプリアンプが是非とも必要だと思ったわけです。

(注・1)中国製抵抗器の精度:
日本メーカーの抵抗器は非常に優秀で、1%精度の抵抗器の実力は0.5%くらいです。1%を超えることはまずあり得ません。 これに対して中国製は1%精度の物でも数%以上の誤差を持つこともあるようです。中国製はあまりアテにはなりません。 但しこの周波数カウンタ・キットの場合、抵抗器の誤差は±10%でも支障ないので選別などせずに使って大丈夫です。  悲しいことですが、中国製抵抗器の精度が悪いのは半ば常識のようになっています。

 【プリアンプと接続法
 電界効果トランジスタ(FET)と普通の高周波用トランジスタ(BJT)を使った2石の簡単なプリアンプです。 カウンタ基板との接続方法も書いておきました。

 アンプはFETを使って高い入力インピーダンスを実現しています。 これは測定対象の回路にカウンタを接続した際の影響をなるべく小さくするためです。  入力された信号はまずFETで増幅されます。さらにそれに続くトランジスタで十分に増幅されます。その結果、30MHzあたりまで約100mVの入力感度が得られました。100mVの感度があればトランジスタ・ラジオの局発回路のような発振電圧が小さな所の測定もできます。 さらに高感度に・・と言うご希望もあるかも知れませんが、製作は難しくなってしまいます。簡単さも考慮すればこれくらいが適当でしょう。

 入力部のFET:Q1は2SK544Fを使います。代替として2SK241GRあるいは2SK439Fでも良いです。ただし2SK439Fは足の並びが逆順なので注意します。2段目のトランジスタ:Q2は高周波特性の良いトランジスタに限ります。ここでは2SC1424と言うfTが2GHzくらいあるトランジスタを使いました。2SC1424は大して高価なものではありませんが代替として中華トランジスタの「S9018H」(←関連Blogにリンク)が使えます。これなら単価10円くらいです。安くても性能十分です。

 回路はごくシンプルなものです。キーポイントはQ2に周波数特性の良いトランジスタを使うことにあります。「ピーキング」と言った広帯域アンプの周波数特性を伸ばす手は使いませんでした。再現性が必ずしも良くないため測定器を持っていないと調整や確認が難しいからです。 しかし、この回路ならバイアス調整のみ行なえばOKです。図の*1の抵抗器:R5を加減して、トランジスタ:Q2のコレクタとGND間の電圧が2.4〜2.6Vくらいになるよう調整します。測定は普通のテスタなら何でも可です。電圧が低すぎるなら抵抗値を大きくします。高すぎるなら逆にします。 同じ種類のトランジスタを使ったとしても調整は必ず行ないます。入力端子をGNDへ短絡し無信号の状態でやります。この調整は入力感度に影響するので必須です。

参考:合理的な調整方法
100kΩの可変抵抗器(ボリウム)を用意します。可変抵抗器は半固定型でも良いです。R5を取り除き仮に可変抵抗を配線します。電源を加え、Q2のコレクタとGND(電源マイナス側)との間の電圧を測定します。その電圧が約2.5Vになるよう可変抵抗器を調整します。そのまま可変抵抗器を取り外し、DMM(アナログ・テスタも可)で可変抵抗器の抵抗値を読み取ります。 その抵抗値になるべく近い抵抗器を標準品から選んでR5とします。交換したらQ2のコレクタ電圧をもう一度測定して確認します。2.4から2.6Vの範囲にあればOKです。やや低すぎるなら抵抗値を大きくし、高すぎるなら小さくします。あまり厳密である必要はありません。抵抗はE12系列から選べば十分でしょう。

注意:大き過ぎる信号を加えないよう注意します。例えばハイパワーな送信機の出力や真空管発振器のように発振電圧がたいへん大きな回路をそのまま測定すると入力部のFETを壊します。なるべく小容量の結合コンデンサを介して測定するとか「ワンターン・ループ」のような結合を加減しやすい測定プローブを作ってなるべく弱く結合して測定します。送信機のアンテナ端子を直結で測定するなどもってのほか。あんがい良く知った風のOMサンがやらかしてますのでご注意を。(笑)  アンプの入力部分にダイオード(2つ)を使った保護回路を追加するのも良いでしょう。ただし保護回路は万能ではないので測定の注意は同様です。

 【プリアンプを試作
 恒久的に使うならユニバーサル基板にハンダ付けで組み立てるべきでしょう。 専用のプリント基板を起こしても良いのですが、何台も作るわけではないので・・・。 とりあえず回路の動作確認のためにブレッド・ボード(BB)に組み立てました。

 部品数もわずかですから簡単にテストできます。 組み立ての注意は「なるべく部品の足を短く」です。 高周波回路ですからリード線が必要以上に長いとうまく動作しません。 配線を短くコンパクトに組み立てると高性能化できます。 写真はあまり上手な例とは言えませんのでユニバーサル基板に組み立てる際はもっとコンパクトに作りたいと思います。

 【カウンタ基板小改造
 一箇所だけ基板側の改造が必要ですが、魔改造ではありませんから誰でも簡単にできます。 基板端面の水晶発振子の測定端子の上側にある「102」と書いてあるコンデンサを取り除きます。それだけです。(笑)

  もしクリスタル・テスタの機能も残しておきたい場合は、コンデンサを外した場所にピンソケットのような物をハンダつけしておくと良いでしょう。(写真) ソケットにコンデンサを戻せばクリスタル・テスタになります。 周波数カウンタとして使う時はコンデンサを抜いておけば良いわけです。 ここでは1列型のピンソケットをカットしてコンデンサがあった場所にハンダ付けしました。 センターのピンが邪魔なのでカットしておきます。 写真はそのソケットに「102」のコンデンサを戻した状態です。外付けのプリアンプを付加して周波数カウンタとして使うときには「102」を抜き去ります。

テスト-1・455kHz入力
 この周波数カウンタはなかなかよくできています。5桁の表示器をうまく利用するためにオートレンジになっています。

 この例では約455kHzを測定している様子です。写真のように999.99kHzまでは10Hzの分解能で測定できます。 また、99.999kHzまでは2Hzの分解能です。(1Hzではありませんでした。まあ、支障はないですけれど) このように、有効桁数が活かせるようにレンジが自動で切り替わり、それに連れて小数点の位置も変化しますから読み取る際には良く確認します。 なお、表示値がkHz単位になるときには小数点がブリンク(点滅)します。MHz単位のときはブリンクしません。

テスト-2・30MHz入力
 参照した説明書によると50MHzまでカウントするそうです。 詳しい確認はしませんでしたが、それくらいまで可能なようでした。 ただし周波数の上昇と共に感度は悪くなります。プリアンプのゲインが下がってくるのもその原因です。

 それでも周波数特性の良いトランジスタを使ったおかげで、30MHzも100mV(rms)以下の入力で十分カウントできるようです。 もしQ2に2SC1815のような汎用トランジスタを使うと高い周波数でがっくり感度が落ちてしまいます。高周波用トランジスタの効果が実感できます。
 30MHzあたりまで100mVの感度があれば、ほとんどのトランジスタ回路の発振周波数が測定できます。自作した発振器の周波数を調整すると言った用途には十分活用できるでしょう。

 10MHz以上の測定では最小分解能は1kHzになります。 やや物足りないところですが、これはやむを得ないところでしょう。 レンジがホールドできればオーバーレンジさせて下の桁を読むと言ったこともできるのですが、オートレンジしかないのでそれもできません。 330円のカウンタに多くを望むのは酷でしょうか。hi

(参考)この周波数カウンタは、DL4YHFと言うドイツのHAMが開発した回路/ソフトウエアが元になっているようです。それを基板化し、発振回路を付け加えたものでしょう。リンク先にはオリジナルの記事があります。

                   ☆

 何でこのキットを作ったのかという話です。 しばらく前なのですが「短波ラジオの製作」を記事にしたいと言うようなお話がありました。でもそのお話はお断りしました。 たしか初心者向けの内容をご希望されたように思います。そうなると調整に使う「道具」が問題でした。 まさかシンプルな「短波ラジオ」を作るのに周波数カウンタや信号発生器(テストオシレータなど)を一式買ってくれとは言えませんからね。「短波ラジオ」は中波のラジオのようには行かないのです。

 幾らか工夫は必要ですが、満足に働く周波数カウンタが300円少々で手に入れば道は開けるかも知れません。加えてシンプルな発振器でも自作しその周波数が正確に読めれば信号発生器の代用品も得られます。道具さえ揃えば「短波ラジオ」の調整がちゃんとできるようになるでしょう。このキットにそれを期待しました。作ったあとラジオの周波数表示器としても使えますから。(ラジオのノイズ源になることがあって、良くシールドするとか使い方の工夫が必要になることもあります)

 こんなチープな測定器でも使いこなせば効果絶大です。逆にいくら高級な機器も有効に使わなければシャックのお飾りでしょうね。所有するだけでは価値は生まれません。手元の道具は有効に使いたいものです。これは自戒を込めて。(笑)

 何でも売ってる時代です。昔に比べれば、様々な測定器が安価に手に入る良い時代です。しかし入門向けの製作なのに測定器が何台も必要では製作意欲もそがれます。手作り+安価な市販品を道具として旨く活用し「ラジオ作り」が長く楽しめる趣味になって欲しいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

(参考)本格的な周波数カウンタを自作したいならこちら(←リンク)の連載でどうぞ。

2020年6月21日日曜日

【回路】Audio AGC Amp.

MC3340Pを使った低周波AGCアンプ
 <Abstract>
I made an Audio-frequency AGC amplifier with MC3340P, an IC for electronic volume control made by Motorola. Even if the input signal changed by 60dB, the change in output was limited to only 6dB.
It would be suitable for a direct conversion receiver (DC-RX) or an Audio frequency amplifier for an Autodyne receiver. And it can also be used as a compression amplifier to increase the average power of the SSB transmitter.
 I bought MC3340Ps from China Mail Order, I received were all used, but everything worked fine. (2020.06.21  de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

MC3340Pを購入
 MC3340Pはモトローラ/ONセミ製の電子ボリウム用ICです。電子ボリウムというのは電気的に入力信号の大きさを加減することができる電子部品です。 これを使うと大きさを加減したいオーディオ信号などの配線を長く引き回すことなく、遠隔から、あるいは他の回路の出力のような電気的な手段で制御することができます。 なんでもリモコンで制御する時代なので、様々なICメーカーから同種のICが登場しています。 MC3340Pはシンプルで使いやすそうなので購入してみました。

                   ☆

 電子ボリウムは普通のボリウム代わりに使うこともできますが、それだけでは面白くありません。 ここで使った電子ボリウムは扱える信号のダイナミックレンジが広く、ゲインの制御範囲も広いことから低周波のAGCアンプの用途に適当そうです。 多くのダイレクトコンバージョン式受信機(DC-RX)やオートダイン受信機にはAGC(自動利得調整器)が付いていません。そのため、受信中の信号の近くで強力なローカル局がオンエアを始めると爆音状態になります。あるいはブロックされて無音になってしまうこともあります。手動で頻繁にボリウムを加減すれば済むのですが、AGCアンプを付ければもっと扱いやすいでしょう。 低周波のAGCアンプは色々難しいことも多いのですが、制御回路の時定数など適当に選べばうまく使える可能性があります。 ここでは基礎実験として、MC3340Pを使った低周波のAGCアンプを試作してみました。 自家用の実験資料ですが、もしも暇を持て余しているようなら眺めてみてください。

 【中古品に違いない
 たまたまネットを散策していたらMC3340Pを使ったAGCアンプの記事が目にとまりました。 どんなICなのか調べたところ、外付け部品が少なくて使いやすそうなICでした。 他にも幾つか活用法が思い浮かんだのでさっそく購入してみました。

 国内のパーツショップでは見つけられなかったので例によって中華通販を利用します。 安価で売られていたのは良かったのですが、届いたものはすべて中古品のようです。 写真のようにハンダ付けの痕跡が残っていたり、足ピンがカットされていました。 安いので仕方がないとも言えますが、わざわざプリント基板から剥がして清掃するという手間をかけて割りに合うのでしょうかね? ちなみに10個で2ドル弱でした。幸い、簡単にチェックしたら全部支障なく使えそうでした。 こうした中古部品を販売目的の製品に使うのはどうかと思いますが、アマチュアが実験して遊ぶには何ら問題ないでしょう。

 【MC3340Pの特性
 MC3340Pの基本的な特性です。 2番ピンとGND間の抵抗値を変えると、右のグラフのようにゲインをコントロールできます。 ゲインをコントロールするのにボリウム(可変抵抗器)を使ったのでは、何だか意味がないなあ・・・と思われるかもしれません。

 しかし、このボリウム(図ではRc)には加減したい信号は流れていません。 配線を長く引き伸ばしてもブーンと言うハム(HUM)音の誘導はありません。 また、このRcは機械的なボリウムでなくてもよく、例えばFETのドレインとソース間の等価的な「抵抗」であっても構いません。  ボリウムをFETに置き換えてやり、FETの内部抵抗(ドレイン・ソース間抵抗)を電気的に制御してやればゲインが電圧によって制御されるようなアンプになるでしょう。

(参考)FETを使わずに、まず出力電圧を整流・平滑しOP-Ampで増幅した上で、その電圧によってMC3340Pのゲインを制御すると言った方法もあります。

【低周波AGCアンプの回路図】(Ver1.0.1)
 低周波AGCアンプの実験回路です。 ネットの探査で見つけた回路を真似ていますが、FETのコントロール部分を見直しています。ここがこの回路のキーポイントです。  オリジナルのままだと、信号の大きさによっては猛烈なハンチング(一種の発振現象)を伴うようでした。それでは旨くありません。

 こうしたAGCアンプは自動制御の一種なので、制御ループの時定数が適当でないと旨く動作しません。 使用するFETの伝達特性とも関係するので、Q1:2SK19Yを変更するなら時定数の見直しが必要です。 2SK19Yは廃品種ですが、同等品の2SK192AYがまったく同じ様に使えます。 MC3340Pの後段のアンプは40dBくらいのゲインが得られればなんでも良いでしょう。ここでは旧式なμA741Cを使っています。 単純な低周波アンプですから他のOP-Ampでも支障はありません。

 後ほど入出力特性のグラフがありますが、入力が60dB(1000倍)変化しても出力は約6dB(約2倍)しか変化しません。 ただし、自動制御ですから入力信号の大きさ変化に対して必ず過渡的な応答があります。 概ね受信機に良さそうな時定数に選んでありますが、実際の受信機に組み込んでから必要に応じて*1の部分を加減すると最適化できます。  現状では案外早く応答し、ややゆっくり戻る特性になっています。

 【AGCアンプを試作
 ブレッドボードに試作してみました。 ダイオード:D1とD2との結合コンデンサ、C5:0.33μFは漏れ電流のないものが必要です。 ここではマイラ・コンデンサを使ったのですが、巨大なのでイマイチでした。 良質な電解コンデンサか、タンタル・コンデンサに置き換えると良いでしょう。

 整流回路のダイオードはゲルマニウムの1N34Aを使いましたが、よく見かける1N60や1K60でも同じです。ゲルマ・ダイオードが手持ちに無ければシリコンの小信号用を使って試すのも良いです。多少出力電圧の大きさは変わりますが、同じようなAGC特性が得られるはずです。

 利得制御ループの時定数コンデンサ、C3:4.7μFはタンタル・コンデンサあるいは低リークな良質の電解コンデンサにします。 極性はGNDに接続される側が+(プラス)なので間違えないように配線します。  このコンデンサと直列の抵抗器、R2:100Ωは位相補償(遅れ補償)用の抵抗器です。 もし制御系がハンチングを起こすようなら幾らか加減してみます。小幅な加減で済むはずです。

 【入出力特性の測定
 測定器を見せても仕方がないのですが、電子電圧計(ミリバルとも称する)を使って入力と出力の関係を観測しました。

 測定に使う信号源は歪みの少ない1kHzの発振器を使いました。 入力信号の大きさを適宜変えながら出力の変化を観測します。

 MC3340Pは思ったよりもローノイズでした。 また入力は0.5V(rms) あたりまで加えられます。 従って十分に広いダイナミックレンジがあるので、入力信号の大きさが広範に変化するようなHAMバンド用の受信機にも適しているでしょう。

 【波形確認
 入力に10mV(rms)を与えた時の出力波形です。 OP-Amp. U2の出力で観測しています。

 このようにまずまず綺麗な波形が得られています。 入力電圧が0.5V(rms)を超えるあたりまでこのような波形が得られます。 こうした電子ボリウムをHi-Fiの用途にも使いたくなります。 写真のように見た感じ綺麗な正弦波で測定すると1〜3%程度の歪み率です。まずまず良好と言えます。 HAM用の受信機やAMラジオくらいならまったく支障はないのですが、純然たるHi-Fiの用途にはもう一歩歪み特性が良くないのが残念なところです。

 もちろんHAMバンドの、そもそもノイジーで歪んだ受信音なら十分すぎる性能なので受信機への採用に何も問題はありません。 むしろAGCアンプの付加でDC-RXも扱いやすくなれば本格的な受信機の地位が得られるやも知れません。(笑)

AGC特性は
 AGCアンプはグラフのような特性になりました。 入力の信号が1mV(rms)くらいからAGCが効きはじめます。 その後は1Vあたりまで綺麗に制御されるのがわかります。入力信号の60dB(1000倍)の変化を約6dB(約2倍)に圧縮できます。 どうやらMC3340Pのゲイン制御特性をうまく活かすことができたようです。

 DC受信機あるいはオートダイン受信機に使う場合、このアンプの前に20〜30dB(10〜50倍)程度のゲインを持ったローノイズなプリアンプを置くと良いでしょう。 例えば、2SC1815GRを1〜2石で作ったプリアンプなど適当です。 この低周波AGCアンプを出たところに受信音量を加減する(従来型の)音量調整用ボリウムを置き、さらにスピーカあるいはヘッドフォンを鳴らす簡単なアンプを付けてラインナップ完成です。 音量調節のボリウムをあまり頻繁に加減することなく受信可能な使い易い受信機が期待できそうです。

                   ☆

 MC3340Pはもともと低周波のボリウム・コントロールを目的に開発されたICです。 今回の実験のような目的には最適でしょう。 他に、送信機用のマイクコンプレッサのような用途もあります。 さらに、データシートを見ますと意外に周波数特性が伸びていました。 流石にHF帯は無理そうですが、おおよそ2MHzあたりまでフラットに伸びています。その上の方はだら下がりの周波数特性です。 したがって、AMラジオのような455kHzのIF-Ampに使い、広いAGC特性持たせると言った用途も十分考えられるでしょう。 むしろ、こちらの方向に興味を覚えたような感じです。 いずれ機会を見つけてIF-Ampへの活用も検討したいと思います。 では、また。 de JA9TTT/1

(おわり)nm