妙なタイトルですが「STARのIFT」の続きです。
STARのA4・B4はこのように絹巻き線で3段バンク巻きになっており、μ(ミュー)同調形式です。 コアの上下で455kHzに同調するよう調整します。 写真はA4の内部ですが、左のB4の中身もまったく同じ構造なのです。 寸分違わないと言って良いでしょう。 2つともまったく同じと言う件は次回の評価編ででも触れたいと思います。
写真は整備済みのものです。 コイルは交換する訳にも行かないので、コンデンサだけでもと思い良いものに交換しておきました。 目視確認のレベルではありますが、巻き線の防湿処理もまだ効いているようで劣化も感じられませんでした。 中古品だった訳ですが、このIFTが使われていたラジオは用済みになってから雨ざらしにされたようなこともなかったようで、コイルの状態は悪くありませんでした。
使ってあった同調コンデンサは、100pFのマイカ・コンデンサでした。 いまでは死語になっていますが、「MICADON」と表示されたものが使ってありました。 それだけでもこのIFTの年代を感じさせます。 もう少し後のIFTでは安価でしかもQの高い円筒型「チタコン」が使われるようになります。
マイカドンと言うのは、マイカ・コンデンサの一商品名であり、米Dubillier社(いまはCornell Dubilier Inc.)が1920年代に発売した製品の名称でした。 高周波用コンデンサは他に良いものがない時代だったのですぐさまその用途を独占してしまったと言います。 そのため「マイカドン」がマイカ・コンデンサを意味する一般名称になったのでした。 昔のラジオ本を読むと「・・・グリッドリークと並列に250μμFのマイカドンを・・云々」と言う記述を目にしました。 一般化していたことが良くわかります。(なおマイクロ・マイクロ・ファラド:μμFと言うのはpFのことで、昔はピコ(p)と言う単位は殆ど使わなかったようです)
過去にも度々書いて来きましたが、この形式のマイカ・コンデンサは「鋳込みマイカ」(モールド・マイカ)と言うもので、リード線の引出し部分から湿気が侵入しやすい問題部品なのです。 長年の間に絶縁低下するもの多数でした。 或は引き出し部で断線するらしく、容量が失われることもあります。 ランダムなノイズの発生源になることもあります。従ってなるべくなら使わぬ方が良いでしょう。(いや、使用禁止にしたいくらいです) マイカ(雲母)は鉱物なので湿気くらいで劣化しませんが電極金属がイオン化して移行するのが原因のようです。 もしマイカ・コンデンサに交換するなら是非とも「ディップド・マイカ」と言う新形式の物を使うべきです。 構造上、鋳込みマイカよりずっと耐湿性に優れています。
マイカドンのことを酷く書きましたが、使ってあった物は取りあえず大丈夫そうでした。 密閉された部品箱の中にあったので保存環境が良かったのでしょう。 測定してみたら101pF〜106pFの範囲にあったから目立って劣化していないようでした。 ただ、過去のレストアでは次々に壊れるマイカ・コンデンサに手を焼いたので古いマイカは交換するのが方針です。どうしても再利用したいなら「絶縁試験」くらいは済ませてからが良でしょう。
こちらが貴方もお好きな「すっちー」だ。(笑)
交換に使ったスチロール・コンデンサです。 100pF/125V耐圧のごく普通のものです。 IFTは共振特性が鋭いとは言っても、125Vppもの電圧がコイル両端に発生することは考え難いので十分な耐電圧でしょう。
誤差記号はKで±10%精度だったので容量計で確認してから使いました。 最大5%以内の誤差だったので、そのまま使っても大丈夫だったようです。きちんと保存されていたがそれなりに古いので念のために確認してから使いました。
スチロールと言うのはドイツ語で、英語では(ポリ)スチレンだそうです。 たいへん優秀な誘電体材料なのでQの高いコンデンサが作れます。 しかし昨今はあまり使われなくなりました。 スチロール樹脂は耐熱性に劣り面実装にはまったく適さないからです。 まして高温になる鉛フリー実装ともなればどうにもならないでしょう。 高性能なLCフィルタなどには是非とも使いたいコンデンサですが、上手に手付けする必要があって量産品への採用は難しいと思います。 もっともアナログでフィルタを作るのは無くなっていますから、プロフェッショナルな電気の世界では重要度も下がったように思います。昔の高性能アナログ回路では多用されたのですが・・・。
なお、縮めて「スチコン」と呼ばれることはあっても「すっちー」とは言わないのでご用心を。 このBlogの外じゃ通用しませんから。(^_^;;
今でもスチコンは入手できると思いますが、難しいようならNP0(=CH)特性のセラミック・コンデンサでも良いでしょう。 温度補償系ではないセラコン(=高誘電率系セラコン)は温度特性が悪いだけでなく、中にはQが極端に低いものがあるので共振回路に使うべきではありません。 セラコンを使うなら必ず温度補償系の物を使って下さい。
IFTのレストアと言ってもアルミの外箱を磨いて済ませる訳にも行きません。内部の点検と怪しくなってきた部品を交換してリニューアルしておきました。 あとは性能の確認をしておけば、取りあえずIFTとしての整備は終了です。安心して再利用できるでしょう。de JA9TTT/1
6 件のコメント:
JR2ATU 澤村です
SBコイルなどについてくるパディングコンデンサーもマイカでしたね。キャラメルって呼んでました。高周波で小容量のものはチタコンかマイカ、低周波ではオイルコンが多かった記憶があります。
スチコンもまだ手に入りますがディスコンですよね。ポリプロなどの一部のフィルムコンも減ってきてるようですし。
それより、メーカー商品は耐圧やら容量の関係で大型になるもの以外は抵抗もコンデンサーも表面実装部品ばかりで、リード部品は生き残るのでしょうか。老眼にはきついので(悲)
JR2ATU 澤村さん、こんばんは。
さっそくのコメント有難うございます。
> キャラメルって呼んでました。
写真のものはこげ茶色で黒っぽいですけど、森永キャラメルと色かたちまでソックリなマイカコンもありましたねえ。(笑)
> リード部品は生き残るのでしょうか。
ある程度の需要があるうちは供給されると思うのですが、採算が取れるうちでしょうね。いずれ無くなってしまいそうです。 高耐圧の特殊な部品以外はそろそろダメかもしれませんね。 低グレードな部品でも良ければ外国製はリード付きも暫く残ると思います。
> 老眼にはきついので(悲)
仕事では1005サイズを多用してますが、厳しいサイズです。最近は0603サイズなんかもありますが・・・。(笑)
こんばんは。
マイカドンと言う記述を以前どこかで見たときは書き間違えだろうと思っていましたがそう呼ばれていたのですね。^^
以前入手したFT-101ESの高圧カットのマイカドン(どんぶりみたいですね 真烏賊丼^^)がショートしていて安定化基板を壊してしまいました。
スチコンは低周波用と言うイメージがあるのですが共振回路にも使えるのですね。
コンデンサは抵抗と違って適材適所が難しいです。^^;
で、何が出来るのでしょうか?(笑)
JE6LVE 高橋さん、おはようございます。
いつもコメントを頂き感謝致しております。
> そう呼ばれていたのですね。^^
俗称なのでしょうけど、皆さんに使われて一般化したのだと思います。いま受ける印象は古臭いイメージしかありませんが、当時はモダンで高性能な部品のイメージだったのだと思います。
> FT-101ESの高圧カットのマイカドン・・・
八重洲無線はマイカドンがお好きだったようで、他のトランシーバでもトラブルの元凶になっていますね。TRIOは同じ部分をセラコンで済ませていますのでそれでも良かったのでしょうに。事故もずっと少ない感じですし。(笑)
> スチコンは低周波用と言うイメージが・・・
ご覧のように、構造はアルミフォイルの巻回型なので残留インダクタンスがあるためあまり高い周波数には向きません。一応HF帯なら使えるようです。温度特性が良いのでVFOなどにも使われていましたが、リード線が貧弱なので振動で揺れないように固定する工夫が必要でしたね。マイカコンをVFOに使うと周波数飛びが発生するのですが、それがないのも良かったです。今ではNP0のセラコンでも十分良いものができると思っています。
> で、何が出来るのでしょうか?
案外地味な実験です。(冷汗)
いつも亀レスになってしまいます。
ついこの間の事ですが、SSG:URM-25の変調がかからず修理を行いました。SW-ON当初はOKでも暫くすると変調がかからずという故障でした。
原因は変調OSCに使われていたマイカコンのリーク。常温でリーク電流を測定すると正常なのですが、ドライヤーで暖めるとみるみるリーク電流が流れ始めました。
現代のフィルムコンに交換して一件落着となったのですが、日本製ならいざ知らず・・・アメリカ製の、しかも軍用に使われている部品類には信頼を置いていたのでビックリしました。
マイカコンは結構溜め込んでいるんです。
何だか大半は廃棄しなければならなくなりそうで残念・・・です。
JO7WAI 高橋さん、こんばんは。 だいぶ日が短くなりました。既に真っ暗です。hi
コメント有難うございます。
> 暖めるとみるみるリーク電流が流れ・・・
暖まるとダメになると言うのもありますね。 ほか、高抵抗がパラに入ったような状態になるもの、容量抜けになるものなどがあります。 一番厄介なのは、ノイズを出すもので発見しにくいです。
> 軍用に使われている部品類には信頼を・・・
国産機ですと八重洲のリグが有名ですが、米軍用の機械でもかなり不良が見られます。 一例では、R392/URRに使ってあったピンク色っぽいケースのマイカコンがNGで、レストア中に次々に交換して行き大半をディップドマイカとNP0のセラコンにしました。 MFPで防湿防黴処理されてましたがダメだったようです。 米軍用の部品も必ずしも高信頼とは言えないようで、湿気には日本製の普通の部品の方が強いようです。
> 大半は廃棄しなければならなくなりそうで・・・
鋳込みマイカの買溜めは程々が良いでしょう。 原因は湿気ですから、密閉した容器に入れてシリカゲルで防湿しておくと良いかも知れません。 保存は良いとして、使い始めてからの対策はあまり無いので困りますね。 これからはディップドマイカをお薦めします。
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