【STARのIFTを世羅多フィルタに使う】
真空管用IFTだから真空管式のラジオでも・・・とご期待されていたお方には少々申し訳ないかもしれません。 今まで世羅多フィルタを真空管機に取り込む検討は十分ではなかったようの思います。 ニーズは少ないように感じていたからでした。
検討を始めて、真空管回路に使おうとすればIFTそのものを理解する必要に迫られます。それでSTARのIFTを調べ始めたような訳なのですが、目的に対して必ずしも適切なIFTではなかったようです。 手元のジャンクからピックアップしたのでやむを得ませんが、このIFTは廉価版なのでそれなりの工夫もしてあって、あまり改造向きとは言えない感じです。
しかしハイゲイン指向のIFTなので上手に使えば高一中一くらいでも交信に使える実用受信機ができるかも知れません。 もちろん家庭用ラジオとは違うので必要な感度を得るための配慮が必要でしょう。 例えばIFアンプにはややHigh-gmな6BA6クラスの球を登場させることになります。 コンバータ管も6BE6よりも変換コンダクタンス:gcが大きなものが良いでしょう。 ペンタグリッド管の自励コンバータで考えると選択肢が限られてしまいますからOSC+MIXerで考えると有利す。例えば6U8や6GH8Aなどいくらでも候補はあります。
# 受信機の設計となると他にも種々考慮する事項があります。ここでは世羅多フィルタの活用に絞った部分について考えています。
世羅多フィルタの終端インピーダンスはCW用が約100Ω、SSB用が約300Ωになります。 それに対して真空管回路では、IFT部分のインピーダンスは低いもので50kΩくらい、高いものでは200kΩを越えることもあります。
従って何らかのインピーダンス変換を行わないとまったく使い物になりません。 このあたりが、世羅多フィルタを使ってみたいと思っても真空管式受信機に利用されていない理由でしょう。 もちろん回路を良くお判りのお方が旨く工夫されている事例を拝見したことがあります。 回路のエキスパートには無用な情報かもしれませんが、真空管回路でも使って頂きたいので検討しておくことにしました。 既成受信機の改造にも役立つでしょう。
左の回路図で、Fig.1は当初から考えた方法です。 真空管用IFTを改造してC分割によるインピーダンス変換を行う方法です。 コンデンサによる分割比を求めるためにはIFTの特性と回路の動作状態を知る必要がありました。 調べた結果から、STARのA4・IFTをC分割式で改造するには図のような容量になりました。 C分割すると容量比で信号振幅は小さくなってしまいます。 従ってフィルタの出力側にはインピーダンス・マッチングしながら昇圧機能を持っているトランス(IFT)を使うと有利です。 トランスT2がそのためのこので、製作については別途Blogで扱うつもりです。
Fig.2は、IFTを改造しない方法です。 Fig.1のようにC分割でマッチングするには厳密に言うと事前にIFTの評価が必要になります。 部品数は増えてしまいますがIFT間の結合を加減できるようトリマコンデンサを入れておき、組み立て後に調整で追い込む方法があります。 結果が良ければOKと言う簡易手法と言えそうですが、アマチュア的にはこの方が楽でしょう。 T101はもとの真空管用IFT、この場合はSTARのIFTと言う事になります。T103が追加するIFTで、これは出力側T102と同様にトランジスタ回路用の小型IFTを使います。小さなIFTなのであまり場所は取らないでしょう。T103とT102の製作についても別途扱うつもりです。
CW用世羅多フィルタの場合、インピーダンス変換比が大きかったので分割容量は4,300pFにもなりました。 ここのコンデンサもHigh-Qなものが良いので同じくスチロールコンデンサを使いました。
4,300pFは1個で得られなかったので2,100pF2個と100pFを並列にしました。 なお、もともとの同調容量(100pF)も少し大きくすべきですが、追加すべき量は計算上約2pFなのでIFTのコアを微調整すれば済む範囲です。 インピーダンス整合にもわずかな影響しかないのでそのままで済ませることにします。 回路図中のFig.1におけるT1の部分がその部分です。
IFTが異なれば、当然この4,300pFと言う値も異なります。 いつでも4,300pFにすればマッチングする訳ではありません。 同調容量、Qと共振インピーダンスなどから改めて適した値を求めることになる訳です。
このSTARのIFT(A4・B4)でも、SSB用の世羅多フィルタ(インピーダンスは約300Ω)に使う際には約2,500pFに変更する必要があります。 少々インチキな方法ですが、3,500pF程度にして兼用すると言う方法もありそうです。(笑)
IFTの内部に追加したコンデンサを入れてしまいます。 コンデンサの接続点を引き出す必要があえいますが、このIFTには余分な脚がないのでリード線を絶縁して引き出しておきました。
車載用など振動の多い環境でもなければ、このような宙ぶらりんな状態で使っても問題はないでしょう。
なお、世羅多フィルタの必要がなくなったら、引き出したリードは遊ばせてしまい、もとの端子(GとFの端子)を使えば従来通りになります。 うまく作れば世羅多フィルタのON/OFFをスイッチで切換えできるでしょう。(帯域外減衰特性が劣化する可能性があるので、スイッチ切換式はあまりお薦めしません)
これで「STARのIFT」と言うテーマは終わりです。 次回はこのテーマとの関連で定番のLA1600に適した世羅多フィルタ用IFTを検討する予定です。 従来は既成のFCZコイル:10M455で間に合わせていましたが、最適なものを検討したいと思います。
(つづく)
(Bloggerの新仕様対応済み。2017.04.02)
14 件のコメント:
おはようございます。
IFTの検証は球受信機に世羅多フィルタを使うためだったのですね。
回路的にはIFTの改造が簡単で調整箇所も少なそうですが、
実際にはIFTの評価や高価(笑)なIFTを改造する事を考えると
2番目の方法も良さそうに思えます。
球受信機の選択度を上げようとすると国際のメカフィルなどが定番ですがその代わりに世羅多フィルタが使えればFBですね。
壊れたメカフィルのケースの中に組み込めば見た目も良さそうです。^^
TTT/加藤さん、おはようございます。
目的の所が見えてきました。
ありがとうございます(^^)
しかし、数百Ωを数百KΩまで変換するというのは、理屈では理解できても本当にうまくいくのかな?と感じてしまいます。巻数比が4:143で本当に昇圧できるのかな~?なんて。
でも、やはり理屈どおりなんでしょうね!?
コア材や線径、コイル径、巻き方等にノウハウがあるのではないかと思っています。
コイルの製作別途に期待しています。
LA1600用も期待大です。
自作機「神護」で使っていますので、性能改善が期待できそうです。
当局の方は、この所の出張続きで疲れのせいか自作への意欲が盛り上がってきません(^^;
JE6LVE 高橋さん、おはようございます。
早速のコメント有難うございます。
> 2番目の方法も良さそうに思えます。
そう思います。 はじめは最初の方法だけで考えていたのです。量産品なら部品が少ない方が良いですけれど難易度の低いカット&トライ式も悪くないと思いました。
> 代わりに世羅多フィルタが使えればFB・・・
なによりも、好きな帯域幅のフィルタが作れるのが良いと思っています。 それにずいぶん経済的ですので。(笑)
見た目は工夫で何とでもなると思います。各自ウデの見せどころでしょう。hi hi
JN3XBY 岩永さん、おはようございます。
コメント有難うございます。
> うまくいくのかな?と感じてしまいます。
対比が大きいトランスなので理想通り(計算通り)ピッタリとは行かないのですが、実測評価に基づき加減して最適化しています。 もちろん旨く行きますよ。(笑)
> 巻き方等にノウハウがあるのではないかと・・・
あるような、ないような・・・。IFTの製作自体はは難しくないですよ。
> LA1600用も期待大です。
こちらの方がニーズは大きいと思います。 真空管用は新規の製作よりも既存受信機の改造用が主でしょう。
出張続きでお疲れのようですが、お休みをゆったりお過ごし下さい。 きっと自作のアイディアも湧いてきますよ。hi
IFTを題材にされているので、どの様な展開になるのかなと思っておりましたが、よもや世羅多フィルターの真空管受信機への適用とは思いもしませんでした。
Cを分割してインピーダンスをマッチングさせる方法もあったのですね。以前BC-342へ世羅多フィルターの組み込んだ際にはTr用のIFTを流用するしか思いつきませんでした。
閑話休題
上記受信機でのQSOも数十局となりましたよ。もちろん送信機は以前このブログで紹介されたものです。先月に、このRXとTXの組み合わせでカムチャッカの局とQSO出来ました。
自作機でのQSOを楽しんでいます。
JO7WAI 高橋さん、こんばんは。
コメント有難うございます。
> よもや世羅多フィルターの真空管受信機へ・・・
最近、真空管式のRXにフィルタを付けたいと思ったもので・・・。 ありきたりの既製フィルタではなくて世羅多フィルタが良いかと思った次第です。(笑)
> BC-342へ世羅多フィルターの組み込んだ・・・
高橋さんのアイディアあふれる改造はFBでしたね。 細部は拝見しておりませんがFig.2に近い方法でしょうか?
> 上記受信機でのQSOも数十局となりましたよ。
やはり混んでいる今の7MHz帯ではCWフィルタが欲しいでしょうね。 自作送信機+WWⅡ受信機改で交信の数々とはVYFBです! これこそHAMと言う感じ。ご活躍されて下さい!
お早うございます。土日と仕事でしたので今日はお休みです。
はい、Fig-2の形式です。
但しGNDは適当なCで直流的に浮かしてAGCを確保しました。
1st-IFの6K7は6BA6に換えましたが、同時にカソード抵抗も150Ω程度に下げてゲイン・アップを計りました。
一方VFOとBFOのQRHに悩まされています。30分以上経たないと安定しません。この受信機を使っていると交信は一期一会、交信中に相手を見失わない様に必死です。これも楽しみの一つですネ。
交信中にRXがBC-342だとアナウンスしても今一つピンと来ていない様子、カードが手元に届いてから驚いてもらいましょう(笑)。
JO7WAI 高橋さん、こんばんは。
コメント有難うございます.
> はい、Fig-2の形式です。
やはりそうでしたか。 多分、類似の回路だろうと思っておりました。 うまく動作しているようですね。
> VFOとBFOのQRHに悩まされています。
たしか、局発の球をLCボックスの中に収容してわざわざ暖めていたのではないかと思いますが・・・。 WWⅡのころの通信を基準に考えた受信機ですからある程度やむを得ないと思います。 第一局発可変のシングルスーパですから30分のウオームアップで使えるなら立派なものかも知れません。 切れの良いCW用世羅多フィルタ装着なんですからね。(笑)
> カードが手元に届いてから驚いてもらいましょう
製作されてから60年以上経過していると思います。QSLカードに簡単な説明を書いておくとFBではないでしょうか?
わたしがSWLに入門したころでさえ、米軍放出のリグでオンエアするHAMは稀だったと思います。 1960年代の初頭にHAMだったOMさんでもないとBC342と言われてもピンと来ないでしょうね。(笑)
TTT/hiroさんに以前お送りしたJO7WAI/QRPのカードデザインに、BC-342の内部写真とフィルタの説明を加えたカードを製作してありますよ。
こんな受信機でQSOすると現代のトランシーバの有り難さが良くわかります。
JO7WAI 高橋さん、こんばんは。
コメント有難うございます。
> BC-342の内部写真とフィルタの説明を加えた・・・
それはFBです。 頂いているカードは左にBC-342、右にNRD-525、その上に2SC696のTXが載っている写真があります。 BC-342は真っ黒ですから良くわからないのがちょっと残念ですね。hi hi
こうやって並べてみると増分大きな受信機だったのですね。 BC-779などは巨大でしたが、BC-342はずっとコンパクトなRXだと思っていました。(爆)
> 現代のトランシーバの有り難さが良くわかります。
安定・確実でとってもラクチンですけれど、その分、スリルのようなものが失われたように思ってしまいます。(笑)
お楽しみになって下さい。楽しい思い出になるでしょう。
JR2ATU 澤村です。
Cタップはどういうわけか日本の製作記事ではあまり見かけませんね。Wの有名キットで使われているのは知っていましたが。
当方真空管にはあまり興味が無いのですが、(0-V-1、5球スーパーまでは大昔作りました)実は真空管受信機の残骸がいくつかあり何とかこれらの筐体やコイル類を生かして半導体機を作る予定(何時になることやら)があります。IFTなどはソースフォロアで受ける位しか考えてなかったのですが、これにも使えそうですね。IFTの評価やらCタップやら随分アイディアを戴きました。ありがとうございます。
のんびりというか、ダラダラと手を入れていた錆だらけのNRD-525がやっと動き出しましたので、後オークションで入手したCWフィルタを入れて落ち着いたら、6R-4の箱(コイルパックとIFTは残っています)に何か組んでみようと思っています。
JR2ATU 澤村さん、こんばんは。
コメント有難うございます。
> 日本の製作記事ではあまり見かけませんね。
カット&トライでは追い込みにくいので例が少ないのだろうと思います。 コイルのタップが出せればそれでも良いのですが球IFTの構造では難しいですね。 別途リンクを巻くと言う方法もあります。但し計算では巻数は求まりません。
> 筐体やコイル類を生かして半導体機を作る・・・
FETを使えば、球用のコイルパックやIFTが流用できます。 旨く活かして自作を楽しまれて下さい。
> 錆だらけのNRD-525がやっと動き出しました・・・
完成おめでとうございます。 錆だらけとは、海の方で使われていたのでしょうかね。 6R4の箱もあるようですから、面白い半導体機が出来そうですね。hi hi
>錆だらけとは、海の方で使われていたのでしょうかね。
多分そうだと思います。天板に12V-24VのDC-DCコンバータが直付けしてありました。(笑)一部潮を吹いていたところもありました。当初から何とか受信はできていたのですが、プチプチというノイズが出っ放しでした。水洗いはする気が起きなかったので綿棒とワイヤブラシでこまごまと掃除、さるOMがQRPプラザで推奨されていたシリコンスプレーと接点復活剤を使い分けて仕上げました。外装は再塗装。一番手間取ったのはメインダイアル。イモネジの孔にCRCを吹き込んではHEXで力を掛け、を数週間繰り返したのですが、ついに緩みませんでした。(HEXレンチが折れた!)結局オーバーサイズのドリルで抜いたのですが、それでもダイアルは外れませんでした。エンコーダのシャフト(アルミ系)とダイアルのねじ部(真鍮系)で電解腐食を起こしているのでしょう。エンコーダ回りがいかれたらシャフトを切るしかないでしょうね。(泣)そんな訳でまあまともな船ならそもそもこんな受信機は積まないでしょうし、レジャーボートか密漁船辺りかと。(笑)話題違いでSRI。
JR2ATU 澤村さん、こんばんは。
コメント有難うございます。
> 一部潮を吹いていたところもありました。
JRCのこのシリーズは、HAMやBCLで使われた以上に補助的な受信機として漁業関係で使われていたと言う話しも聞きます。 実際どんな所で使っていたのかはわかりませんが、たぶんそうした中の一台だったのでしょうね。
プロ用受信機と比較すればかなり安価ですから使い捨て感覚だったのかも知れません。(笑)
漁船上がりで業務用のNRD-XXも結構潮風にやられてます。 C-MOSやLEDなどが腐食でいかれた例などたくさんあります。 海の上の環境は電子機器にとって厳しいことがわかりますね。 メンテナンスご苦労様でした。
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