【HAM Band モノコイル】
すっかり懐かしい部品になってしまったが、モノコイルがテーマだ。
正しくは、「ハムバンド・モノコイル」と言うらしいが、自作HAMの間では(東光の)モノコイルで通っていた。
FCZコイル以前の時代に幅を利かせていたトランジスタ回路用の既製コイルであった。
3.5MHz、7MHz、14MHz、21MHz、28MHz、そして50MHz用の6種類が販売されていた。他のバンドの物は発売されなかったと思う。 160mバンド用のニーズは少なかったのと、この構造では作りにくかっただろう。 またWARCバンドは未だ許可されていなかった。 144MHzには構造上向いていないのだろう。 50MHz用でさえ無負荷Q:Quの低下が見られるからVHF帯には適さないようだ。 なお、VHF帯には別の「RF-Coil」(←参考リンク)と言う専用品が販売されていた。
モノコイルはいずれも巻線部分のボビン外径がφ8mmで、5本のピンが付いた台座が一体になった構造だ。材質はベークライトだ。 オリジナルの物では巻線ボビン部分にスリットが入っていて、ねじ付きコアを挟んでおさえる構造になっている。(次の写真参照) この写真の自作例では、スリットなしの緩いボビンなので、ねじコアとボビンの隙間にゴム紐の弛み止めが入れてある。
残念ながらオリジナルは見つからなかったので、写真は7MHz用:SCN-5948Aのレプリカである。7MHz QRP送信機の製作に使った写真の再掲載だ。(写真上の立っているものがホンモノの構造に近い)
【モノコイルのカタログ】
今でもモノコイルを探す人がいるのでどんな物だったか仕様書を貼っておく。 これは、1970年代中頃に東光が無料で配っていた「市販品カタログ」の1ページである。 広告であって、雑誌記事ではないので公開しても支障はないと思う。
インダクタンス、巻き数、同調容量、無負荷Qが載っており、タップ位置もわかるので同等品を作るためは極めて有用なデーターだ。(ファイルサイズを大きくして細部まで見えるようになっている)
☆ ☆ ☆
自作する際には、巻き始めの位置や巻き方向をオリジナルと同じよう揃えておくと何かと都合が良い。 同調側の巻線、すなわち1番ピンと3番ピン間の巻線を台座に近い側に巻く。 4番ピンと6番ピン間のリンクはその上側に巻くことになる。 これはコアを調整して抜いて行った時でも結合度が下がらないようにする為だ。 自作する際も同じように巻くべきだ。 なお、5番ピンは一般に欠ピンである。
オリジナルでは絹巻線が使ってあるが入手しにくいと思う。 そこでポリウレタン電線を巻くことにする。 太さはφ0.2mm〜0.4mm程度が良いようだ。私はφ0.32mmをよく使っている。 自作品を実測してみて無負荷Qの値などオリジナルと比べ顕著な性能差はないように感じる。 従って同等に使える筈だ。
参考)このコイルを作っていた東光(株)は(株)村田製作所の子会社になっている。
【自作代替品の材料に】
自分でモノコイルの代替品を作るためには材料が必要である。 写真は「モノコイル」ではなく、どれも秋葉原のお店で見つけたジャンク品だ。 これらは用途不明で安価に売っていた。ジャンク詰め合わせ袋に入っていた物もある。
そのままで旨く使えることもあるが、自分で巻き換えてしまえば良い。コイル巻きの材料として使う訳だ。コイルを巻くボビン部分の外径は同じくφ8mmである。 東光モノコイルの仕様はわかっているから自分で巻けば同じ物が作れる。
ボビンや台座はともかくとして、入っているコアの種類・材質は気になるだろう。コア材には何種類かあるようで、厳密に言えば周波数帯ごとに最適な材質がある筈だ。 しかし写真の様に数回〜10回程度の巻線がしてあるものはどれも同じような特性だった。
試してみると、モノコイルの巻き数と同じで良いか、せいぜい1〜2割くらい加減すれば良い程度だった。どれもHF帯には十分使える。 ボビンだけの品より、このような巻線のある物の方が何となく用途がわかるので好都合だ。 上左の物を除きどれもTV用かFMラジオ用、すなわち比較的高い周波数向きであろう。
【巻線構造】
巻線をどのように足ピンにハンダ付けしているのかは見た通りだ。 他に、台座を貫通したピンの上部にハンダ付けするタイプもある。(どちらかと言えば古い形式)
巻線の固定には、熱で溶ける「マジックハンダ」と言う物が使ってある。 昔は少量の入手は難しかったが、いまではサトー電気で売っている。 私もJH1FCZ大久保さんに頂いて以来長年愛用している。 更に巻線したあとには「高周波ワニス」を塗っておくとなお良い。サンハヤトから小瓶入りが出ている。(残念ながら高周波ワニスは販売終了のようです)
「マジックハンダ」、「高周波ワニス」ともにたくさん使う物ではない。無くても巻線はできるし、他の物で代用しても良い。しかし、すこしあれば重宝するのでコイル巻きにはぜひ揃えておきたい補助材料だ。
さらに調整後のコアが動かぬよう止めるためのパラフィン・ワックス(蜜蝋のようなもの)もあると良い。ゴム紐の弛み止めだけでは不足である。車載用や移動用のリグなど振動を伴うポータブルなリグでは調整後のコアの固定は絶対に必要である。
【SWバンド用局発コイル】
写真の様に巻き数の多い物も見かける。 ジャンクで用途がはっきりわかる物は珍しいのだが、これは短波付きトランジスタ・ラジオの局発コイル(短波バンド用)である。
巻線構造を見ると、同調側にエミッタもしくはベースにフィードバックするためのタップが設けてあるのですぐわかる。
このような短波ラジオ用局発コイルに使ってあるコアは、どちらかと言えば透磁率μが大きめである。 またVHF帯には向かないことが多いので注意を。 HF帯の低い方で使うにはむしろ都合が良いことも多い。 一応、参考まで。
【シールド・ケース】
FCZコイルが隆盛になった理由の一つに、シールド付きだったことがあげられるだろう。 モノコイルは、ネジコアしか入っておらず、開磁構造なので磁束はモレモレだから2つのコイルを密着して並べれば磁気結合してしまう。
FCZコイル或は10Kコイルのように壷型コアとネジコアの構造のように閉磁構造(に近い)ものとはかなり違う。 コイルの配置には十分な注意が必要だ。 不用意にアンプの入・出力コイルを接近させると発振の原因になる。 発振しないまでも共振特性が変化してしまうので要注意だ。
写真は「マルチ・ケース」と言う名前のシールド・ケースである。モノコイルのシールドに使える物だ。 もともと15mm角のFMマルチプレックス・コイルのシールドだった物をケースだけ市販していた。 他にこれよりやや大きめのモノコイル用として「ビデオ・ケース」と言う名前の専用シールドケースも市販されていた。 シールドしたい時にはぜひとも欲しいが、入手は望めないと思う。 構造は単純だから工夫で乗り切る必要がありそうだ。 コイルの間にシールド板を立てるだけでも効果的なことも多い。
もちろん、開磁構造なのはディメリットばかりではない。 閉磁型よりもコアは磁気飽和しにくいので、ずっと大きなパワーを扱える。 周波数にもよるが数Wまで大丈夫なのでQRP機ならファイナル・アンプ部にも使うことができる。 ちなみにFCZコイルでは0.5Wでさえやめた方が良い。せいぜい0.1Wであろう。 モノコイルにもメリットはあるから適材適所で行きたいものだ。
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FCZコイルも無くなってしまい、時おり懐かしい東光のモノコイルを求める声が聞こえてくるようになった。 或は、近ごろのCQ誌の記事にRF物の製作なんか稀だから、やむなく自作HAMは大昔の製作記事を紐解いているのかも知れない。 そんな懐かしい記事にはモノコイルが使ってあるのだろうか。(笑) モノコイルはもう市販されることも無いだろう。ならば自作で行くしかない。材料はまだ何とかなるようなので、自作用の資料をアップしておくことにした。
暑い暑いと言っているうちに、もうお彼岸になった。 「暑さ寒さも彼岸まで」とは良く言ったもので、秋分を過ぎたら急に涼しくなった。 あれほど喧しかった蝉の声も何処へやら・・・。 墓参のお寺に静けさが戻ってきたようだ。
このままでは9月のBlogが無くなってしまいそうだ。 10MHzのQRP送信機に手をつけ始めたので、そのコイル巻きに関連したお題でご勘弁を。(笑) de JA9TTT/1
(おわり)
10 件のコメント:
かとうさん、こんばんは。
モノコイルは昔の記事をあさるとよくでてきますが、私が見るのはFCZコイルが普及してからのものが多いので終段に使われて定数が回路からは判りにくく、何で代替してよいかが判りませんでした。このあたりの事情はM○○Tコイルでも同じで、今回の広告は良い資料になりました。どうもありがとうございます。
もっとも、最近はspiceを使うと50MHzあたりまでなら容易に入手できるモデルであれこれとシミュレートできたりもするわけで、そういういみでは良い時代になったとも言えます。
JH9JBI/1 山本さん、こんばんは。
さっそくのコメント有難うございます。
> 昔の記事をあさるとよくでてきます・・・
今も昔も、コイルの自作は敬遠されますね。それに既製コイルを使うと製作再現性が良くなります。それで良く利用されていました。
暫くはFCZコイルと並売されていましたが、需要が減って作らなくなったようです。 積極的に扱かっていたトヨムラの調子が悪くなったのも関係しているようですね。
> M○○Tコイルでも同じで・・・
こちらが『RF-Coil」と言われるものですね。 いずれテーマにしましょう。(笑)
RF回路にコイルは付き物ですので資料がお役に立てば幸いです。 データがあればシミュレーションもやり易くなるでしょう。hi
加藤さん、おはようございます。
東光モノコイルとはまた懐かしいですね。
S5962Aが1個だけ手持ちにありました。
似たようなコア入りコイルを多数持っていますので規格の公開は役に立ちます。ありがとうございます。
VHF用のコイルは今でも入手できますが、モノコイルを今探している人がいるのはちょっとびっくりです。
高周波ワニスも在庫限りなんですね。
松ヤニをアルコールで溶かして自作しましょうか?(笑)
JE6LVE/3 高橋さん、こんばんは。
いつもコメント有難うございます。
> 東光モノコイルとはまた懐かしいですね。
FCZコイル以前の部品ですからホントに古いですよね。 現役で使っていたなんて言うと、歳がバレバレなのでコメントも少ないだろうと思ってます。(爆)
> 規格の公開は役に立ちます。
少々材料は違っても、だいたい同じように巻けば同じくらいのコイルになるのでぜひお試し下さい。
> 今探している人がいるのはちょっとびっくり・・・
リバイバル製作をお楽しみなのではないかと思います。AYO丹羽さんの古い製作記事でも参照されているのでしょうか?
> 松ヤニをアルコールで溶かして自作しましょうか?
それって、基板用のフラックスじゃなかったでしたっけ?? でも、何となく効果は同じに有りそう。hi hi
以前に紹介頂いた3W-QRP-TX、その後は一旦解体してしまいましたが、今月初旬に再製作
しました。今回の御題のモノコイル、勿論
使っています。
と、言うのも・・・・・
連日の猛暑の中、QSO数を着実に伸ばしてきて
おりましたが、ついに常用のIC-703がダウン
し送信できなくなりました。
蓋を開けて中身を観ましたが、SMD部品ばかり
で弄るのはとても無理。修理に出したら諭吉
さんが何枚か飛んで行くのは確実。
お金は無いし、電波は出したしで再製作した
次第です。
3W出力を自作ブースタで50Wに持ち上げ、
受信機はIC-703の受信部をそのまま使用。
送受信の度にスイッチを切り替えるのは御愛
嬌です。
複式電鍵--TX--ブースタ--
アンテナカプラ--LPF--バラン--
竹竿逆Vアンテナ
こと送信系に関しては完全自作となりました。
JO7WAI 高橋さん、こんばんは。 ご無沙汰でしたね。 お元気そうで何よりです。
コメント有難うございます。
> 今回の御題のモノコイル、勿論使っています。
再製作されたとは驚きました。 確か、件の送信機は例の地震の直後にも活躍したんでしたよね。
> 常用のIC-703がダウンし送信できなくなりました。
それはお気の毒でした。 放熱が悪い設計なんでしょうか?
> ・・・で再製作した次第です。
なるほど。 そう言う訳で再製作されたのですね。
> こと送信系に関しては完全自作となりました。
それは素晴らしい!! でも、いつかIC703の修理にも挑戦されて下さい。 飛んだファイナルの交換なら何とかなるのではないでしょうか?(中を見た訳ではないのですけれど) 復活できることを祈っています。
全自作のラインナップと交信できたらFBですね。 いずれお願い致します。
ja8czx/矢北です。
加藤さん、皆さん久しぶりの投稿(東光?)になります、ご無沙汰しております。
モノコイルですか・・・久しく使っていませんが大昔(汗)はお世話になっておりました。
ジャンク箱をごそごそしましたら似たようなボビンが十数個出てきましたが「もどき」のようでした。
フロントエンドには使う気がしませんでしたがちょっとしたモノには重宝していましたね。
今ならトロイダルコアに巻くのが現実的でしょうし、
10Kボビンもまだ在庫がありますので、この手のボビンに巻くことはあまりなさそうです。
でも懐かしい!!
JA8CZX 矢北さん、こんばんは。
コメント有難うございます。
> 大昔(汗)はお世話になっておりました。
はい、ずいぶん昔の部品ですよね。 私も80年代にもなれば10Kコイルに移行していましたので・・・。(笑)
> ちょっとしたモノには重宝していましたね。
10Kコイル以前は、他にあまり良い物もなかったのでトランジスタ回路には普通に使っていました。ただ、その頃と言えば半導体で作る人はまだ少数だった頃でした。hi hi
> この手のボビンに巻くことはあまりなさそうです。
ところが、意外に用途があります。 やはりパワーを扱う部分にはこれが良いですよ。トロイダルも良いのですが、インダクタンスの可変ができませんので・・・。
リバイバルして活用しましょう。(笑)
FCZコイルが無くなった時ショックでしたが
無しでもなんとかなるなと思う今日このごろです。
一方ヨーロッパ(GQRP)ではTOKOの人気が高く
未だにClubSalesで扱われていたりします。
http://www.gqrp.com/coil_data.pdf
まだ流通在庫?同等品製造が続いているのならこちらは残りますように、、。
JL1KRA 中島さん、おはようございます。
コメント有難うございます。
> 無しでもなんとかなるなと思う今日このごろです。
そうですね。 代替手段もありますので、自作をする上では大きな支障はないように思います。
> 一方ヨーロッパ(GQRP)ではTOKOの人気が・・・
少し調べてみました。 これは下記のお店で扱っているTOKOの代替品と言う位置付けらしいですね。お店へのリンクを貼っておきます。
http://www.spectrumcomms.co.uk/Components.htm
TOKOナンバーの10Kタイプの代替品を売っています。FCZコイルとはまったく別の独自規格のようですね。2次側のリンクも1〜3回巻きと、少なくできています。 何種類かあって面白いです。Euでも既製コイルのニーズがあるのですね。hi hi
> 同等品製造が続いているのなら・・・
秋葉原で売られているFCZコイルの同等品に相当するようなコイルなのでしょうか。 いずれもニーズが続けば継続されるのではないでしょうか。
面白い情報有難うございました。
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