【ラダー型フィルタ設計ソフト】
既に見て来たような「素晴らしい特性」のラダー型フィルタを作るには、従来は面倒な手計算あるいはBASICなどで自作の補助プログラムを書かなくてはなりませんでした。
それでも製作は可能だったのですがかなり面倒でした。間違いも起こり易いことから「設計+特性シミュレーション」の機能を併せ持ち、ビジュアルに結果を確かめることができる「決定版」とも言えるラダー型クリスタル・フィルタの設計用ソフトウエアが開発されました。 そのお陰で、新ラダー型フィルタ設計製作のハードルは大きく下がったと言えるでしょう。 そうでなければ大半の人は古くさいCohn(コーン)型での設計に甘んじるしかなかったのです。画期的と言って良いでしょう。
これはドイツ人のエンジニア・ハムであるDJ6EV:Horst Steder氏によるものでARRLの技術誌であるQEX誌の2009年冬号において「 Crystal Ladder Filters for All」とタイトルされた記事とともに紹介されました。 今でも自由にARRLのWeb siteからダウンロードすることができます。ソフトウエアはQEX誌のサポートファイルの場所にあって、2009年度のフォルダの中にあるので、左写真のものを見つけてダウンロードします。
【使うのは簡単!】
ARRLのWeb siteに置いてあるものは、.zip形式で圧縮されたものです。 ダウンロードしたら早速解凍しましょう。
解凍すると「11x09 Steder-Hardcastle」というフォルダが現れ、中に4つのファイルが入っています。 「DishalHelp」というpdf形式のファイルが使い方の説明書です。 平易な英文なので読むのは難しくありません。一度はどんな内容が書いてあるのか目を通しておくべきです。 多彩な機能が簡潔に紹介されているのであとは使いながら参照して行けば良いと思います。
プログラム本体は左写真の「Dishal2026」と言うものです。これをダブルクリックすれば起動します。 残念なことにWindows用のアプリケーションなのでMacでは使えません。 それほど高性能なPCは必要としないのでWindows XPの時代のマシンでも十分実行可能です。 私はWindows7が平行して走っているMac-miniで起動しましたが快適に動作しています。
フォルダ内には更新履歴やバージョン情報などのテキストファイルが入っていますが特に見る必要は無いと思います。
参考:Warrington Amateur Radio Club(英国)のサイトに、Jack Hardcastle, G3JIRによって最新バージョンDishal2031がアップされています。あまり違いは無いようですが、Windows OSによっては新バージョンの方が良いこともあるのでリンクしておきます。→ここから. (追記:2015.08.25)
【テスト用データがなくては!】
起動したらさっそく確かめてみたいのが人情でしょう。 しかし、幾ら優れたソフトウエアでも必要なデータを与えなければ意味のあるアウトプットは得られません。
必要なデータと言うのはこれから実際にフィルタ製作で使用する水晶振動子の「水晶定数」のことです。 「水晶定数」については前回のBlogでも出て来ていますので、既におなじみかもしれません。 測定方法も紹介しているので既に求めている人もあるでしょう。 ですが、まだ何も手をつけていない人が大半だと思いますから、私が実測した水晶振動子の「水晶定数」を再度掲載しておきます。プログラムを動かす「お試し用」に使って下さい。 フィルタ仕様の一例も書いておきましたのでさっそく設計して試すことができるはずです。同じ結果が得られたならソフトウエアの確認は終了です。
【さっそく使ってみよう】
ビジュアルにわかり易くできているので、起動して一目見ただけでわかってしまうかもしれません。 ごく簡単に手順を追って説明してみましょう。
①水晶定数をインプットする:このソフトが設計計算で必要とする「水晶定数」は(a)モーショナル・インダクタンス:Lmの値あるいはモーショナル・キャパシタンス:Cmのどちらかの値と(b)実測で求めた直列共振周波数:fsの値、そして(c)水晶振動子の並列キャパシタンス:Cpの値でです。 この3つを上欄の入力窓にマウス・カーソルを合わせてクリックしてからインプットします。 Lm或はCmは水晶定数の測定用治具などを使って予め実測し算出しておきます。 設計計算に必要な「水晶定数」はネットの検索で見つかるようなものではありませんので、手元にある水晶振動子を実際に調べる必要があります。また、並列容量:CpもLCRメータなどを使って精度良く実測しておきます。 直列共振周波数:fsは無調整水晶発振回路における発振周波数で代用しても殆ど誤差は生じません。
②フィルタの仕様をインプットする:必要なフィルタの仕様項目は、(a)フィルタの-3dB帯域幅:B3dB(単位はkHz)、(b)通過帯域に許容するパスバンド・リプル:PB Ripple(単位はdB)のほかに、(c)使用する水晶振動子の数:# of xtals(単位は個)の3つです。 パスバンド・リプルはゼロをインプットすることもでき、その場合はバターワース特性で設計することになります。 ただしバターワース特性は通過帯域から減衰領域への肩の特性が丸くなり、減衰の傾斜が緩やかになります。 0.1dBなり0.5dBのパスバンド・リプルを認めたチェビシェフ特性で設計したほうが総合的に見て良いフィルタになると思います。 このあたりリプルの値を変えたり、水晶振動子の数を変えながら試してみたらビジュアルに変化がわかるでしょう。なお高度な特性ほど実際の製作が困難になるのは当然です。
③特性表示の設定:結果は表とグラフで表示されます。グラフにするとわかり易いですが、細かく見るのか大まかに見るのか、通過帯域の特性を詳細に見たいのか、帯域外の特性を見たいのか・・・など、ニーズは様々でしょう。 グラフ表示の周波数幅を変えられるので上覧の右端の窓にkHz単位でインプットしておきます。 図の例では中心周波数から±5kHz・・全体で10kHzの範囲で表示しています。
以上、左の図中にも説明を書いておいたので参照して下さい。 これらの必要項目のインプットが済んだら、画面右上の隅にある「Calculate」(計算)ボタンをマウスでクリックすれば計算されて結果が直ちに表示されます。 通過帯域幅を変えてみる、水晶振動子の個数を変えてみるなど部分的な変更をしたなら再度計算させてみれば変化の様子が手に取るようにわかるでしょう。
もちろん、特性シミュレーションを幾らしたところで、現実のクリスタル・フィルタにしなくては「絵に描いた餅」の域を出ません。 左の中段にラダー型フィルタを製作する際に必要なコンデンサの設計値が表示されるので、それに従って製作することになります。 値は0.1pFまで細かく表示されますが、たいていの場合、近似のE系列の数値から選んだコンデンサの単独あるいは、2個の並列で値を実現すれば十分だと思います。 テスト用データで示したフィルタの製作例ではそのようにして選定した実際に使用するコンデンサの値が記載してあります。
いろいろ試しながらあとはどんなフィルタに仕上げるのかそれぞれで試行錯誤してみたら面白いでしょう。 他に水晶定数を求めるための補助プログラムなども内蔵されていますが、説明は省略しました。補助機能の使い方はHELPファイルに書いてあるので参照して下さい。
【頒布基板の注意】
前のBllogで案内しましたが、フィルタ専用基板が完成したので既に頒布を開始しています。 何名かのお方にはさっそく頒布していますが、使う時にすこし注意が必要なので写真説明しておきます。(
スルーホール付き両面基板で製作しましたが、表側のランドパターン少し大き過ぎるようです。 水晶振動子を密着して基板にハンダ付けするとリード線のランドパターンがケース(GNDに接続する)と短絡状態になる恐れがあります。 水晶振動子を0.5〜1.0mmくらい浮かせてハンダ付けすれば大丈夫です。水晶振動子を手芸用のガラスビーズのような絶縁材で浮かせるのも良いでしょう。 製作される際には注意して下さい。 コンパクトで作り易いので市販のクリスタル・フィルタのように扱えるフィルタ・モジュールが製作できます。
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気の早い人はご自身で探索し、既に設計ソフトウエアを走らせているようです。 真っ先にソフトウエアの在処をお知らせしても良かったのですが、水晶定数がなくては試すことすらできませんし、製作事例がなくては具体的イメージも湧かないでしょう。 逆に「完成品」の方から紹介して、どんなクリスタル・フィルタが作れたのか目で見てもらった方がインパクトもありそうです。
そのような訳で、設計ソフトウエアの紹介が最後になってしまいましたが、走らせるだけなら誰でもできますし、ごく簡単なことです。しかしフィルタ特性に関して一切の造詣も持たないのではその意味も意義も理解してもらえないでしょう。 そのような意図があったことをご理解頂けたらと思っています。 先回りされるのも結構ですが、順を追ってご覧頂いた方が論点が明確になるよう心掛けているつもりです。 性急に結果だけを求めていたのでは、本質がどこにあるのかを見失いかねません。
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一連のBlogですが、著明OMの執筆を理由に未だに古色蒼然たる記事を有り難がるようなお方には関係ない話題かもしれません。 しかし世の中は常に進歩しています。 ご紹介したような有益かつ実践的な研究成果がJA-HAMに広がらないのは実に悲しいことだと思っています。 アマチュア無線コードにもあるように、「アマチュアは、進歩的であること」を実践したいものです。 結局、平易とは言え英文の記事しかないのが問題なのでしょう・・・と言うことで、このBlogで簡単に紹介した内容に加えて、より詳しい内容で雑誌への掲載も予定されているのでもう少し具体化したらお知らせしましょう。 ココまで書いて思い出したのですが、チューニングの話しが飛んでしまいました。ww そちらも纏めて記事でやるしかありませんね。お楽しみに。(爆)de JA9TTT/1
(おわり)
続編あり→こちら
追記: