【8MHz Ladder Filter用のキャリヤ発振器】
【8MHz Ladder Filterの特性とキャリヤポイント】
製作したラダー型フィルタはSSB用のものです。(参考:フィルタ製作編←リンク) SSB送受信機にはキャリヤ発振器が必要ですが、その周波数が問題です。
市販のクリスタル・フィルタなら仕様で中心周波数が決まっていて、キャリヤポイントの周波数も決められているのが普通です。 例外的に昔々の国際電気のHAM用メカフィルのように、個々に実測特性データが付属していてキャリヤポイントもそれぞれ違っていたなどと言う例もありましたが、普通はキャリヤポイントの周波数は仕様項目でしょう。
自作のラダー型クリスタル・フィルタの場合、使用する水晶振動子(水晶発振子)の特性によってフィルタの中心周波数は異なってきます。 また、通過帯域幅を幾らで設計するのか、ポール数(水晶の数)は幾つなのかによってもキャリヤポイントの最適周波数は異なるものです。 従って、出来上がったフィルタについて実測によって決めなくてはなりません。一般的にキャリヤポイントは通過帯域の平坦部から20dB下がったところに置くことになっています。 傾斜の急峻な「良く切れるフィルタ」なら-15dBあたりに決めることもありますが、普通は-20dBが無難な所でしょう。あまり通過帯域側に寄せてしまうと逆サイドの漏れが目立ってしまいます。
写真の例は、8MHzの中華クリスタルを使って製作した6ポールのSSB用クリスタルフィルタの特性です。通過帯域幅は2.7kHz(@-3dB)で設計しています。写真のように、USB用のキャリヤ周波数は7998.633kHz、LSB用のキャリヤ周波数は8002.013kHzでした。 これらの周波数が得られるような発振器を用意することになります。 参考:-20dBのポイントに於ける帯域幅(周波数差)は実測で3350Hzでした。これは設計ソフトで得られた数字と一致しており設計精度と製作再現性の良さがわかります。
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ところで、自作のラダー型フィルタでSSBジェネレータを製作すると問題に遭遇することが多いようです。即ちフィルタと同じ水晶を使うと希望のキャリヤ周波数で発振できないと言う問題です。
以下は自家用の備忘資料なので数値は直接役に立たないかも知れませんが手法は使えるはずなので困った時には思い出して下さい。 もちろんフィルタの自作などされないお方には無意味なので以下を読む価値はありません。 例によって興味本位で覗き見する必要はありませんから早々にお帰りを。ご経験もないのにヨソで蘊蓄ばなしをされても困りますので。(笑)
【SSBジェネレータの回路変更】
フィルタを製作したものと同じ水晶振動子(発振子)でキャリヤ発振を行なうためには発振回路の工夫が必要になることが殆どです。 左図はそれに対応した変更回路です。ここでは一例としてダイオード・バラモジを使ったSSBジェネレータを示していますが、バラモジにトランジスタやFETを使ったSSBジェネレータにも同じように適用できます。
USB用にはかなり下の方へ動かさなくてはならないのが普通です。 この例でも8000kHzよりも約2.4kHzほど下げなくてはなりません。単にトリマコンデンサをかませて調整しただけではそこまで下げるのは難しいですからコイル:Lを付加した回路が必要です。C6+C7を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、7996.738〜8001.016kHzが可変できました。USB用としては7998.633kHzが必要なので可変範囲にあります。
また、LSB用には約2kHzほど上で発振させる必要があります。 USB用の回路を兼用する方法ではそこまで上げられないので、この例では独立した回路にしています。 もちろん標準的な負荷容量では8000kHzで発振してしまうので、かなり小さめの負荷容量にする必要があります。C10を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、8000.789〜8002.379kHzが可変できました。LSB用の方は8002.013kHzが必要ですが、多少のマージンがあるので問題はありません。事前になるべく周波数が高い方へばらついた水晶振動子を見つけておくと有利でしょう。
発振回路をスイッチする形式で周波数の切換えを行なっています。このように水晶発振子は2つ必要になってしまいますがやむを得ません。 回路の切換えはバイアス回路の切換え式なので遠隔のスイッチで操作できます。 それぞれの発振出力はダイオードスイッチで切り替えています。 これはこの種の切換えでは常套的な方法でありメーカー製のRigでも良く見かける手法です。
この切換えのダイオードは1SS53を使っていますが一般的な小信号用のスイッチング用ダイオードなら何でも良いです。(例:1S1588、1S2076A、1N4148など)
言うまでもないとは思いますが、トランジスタは2SC372Y→2SC1815Y→2SC2458Yなど小信号用なら代替できるもの多数です。 またFETは2SK544E→2SK241Y→2SK439Eで良いです、2SK19Yや2SK192AYは不適当です。もし2SK19Yや2SK192AYを使うなら中和回路が必要になるので面倒でしょう。カスコードアンプにしても良いですが部品数が増えて面白くないと思いますから、指定の物とその代替候補がお奨めです。
今回はマイクアンプを低インピーダンス型マイクロフォン用に変更しておいたのでご参考まで。 その他、このSSBジェネレータ全般に関しては前のBlogを参照して下さい。
【試作で確認する】
使用する水晶発振子の特性によって最適な回路定数は異なって来ますから部品定数を追い込む目的で試作してみました。
概ね机上設計のままでも大丈夫でしたが、細部の定数を最適化しています。 上記の回路図は試作結果を反映したものになっています。 自分自身の部品事情に合わせた回路なので各自の事情で幾らか加減は必要でしょう。 また、この例では8MHzですが、±1MHz以上違った周波数で作るなら見直しが必要になるかもしれません。
特に、USB用の発振回路にあるインダクタ:L1(22μH)は最適値を探す必要があるはずです。 どんな場合でも同じ部品定数で良い訳ではないのでそのおつもりで参照して下さい。もちろん、個別の事情による周波数変更のご相談には応じきれないので各自で検討をお願いします。回路は決まっていますから、そんなに難しいことではありません。
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市販のクリスタル・フィルタには組み合わせて使うためのキャリヤ発振用の水晶発振子が用事されていました。 たとえば、9MHzのSSBフィルタなら、8998.5kHzと9001.5kHzの水晶発振子でした。 そのような水晶なら指定の回路でちょうど良い周波数に合わせられます。まあ、これは当たり前のことでしょう。 しかし、自作したクリスタル・フィルタにはそんなに都合の良いキャリヤ発振用の水晶がある筈もなく、意外に苦労させられたと言う話しを良く耳にします。
ここで紹介した方法が万能だとは思いませんが、USBなりLSB用の周波数を得るための例として試作候補にでもしてもらえたら幸いです。 なお、CW用のBFOではフィルタの中心周波数より500〜800Hz程度離すだけで良いのでずっと容易です。 SSB/CW兼用のRigならこの例と同じ方法で3種の周波数に切り替えられるよう設計するとよいでしょう。
SSB用のバランスド・モジュレータから始まって、自作のクリスタル・フィルタとそれに合わせたキャリヤ発振回路の検討まで進んで来ました。取りあえずこのシリーズはおしまいにします。 IC-DBMの活用がまだではないかと言うご意見はあるでしょう。しかし、それらは一般に標準使用例がデータシートに記載されていて目標にすべき数値も規格で示されています。 従って試作していて何か新しい知見でも見いだせた時には扱ってみたいと思いますが、標準的な用法は省略させてもらいます。 今回のBlogテーマに限らず、一連の関係記事に対するご意見、ご感想、ご要望などお待ちしています。de JA9TTT/1
(おわり)
10 件のコメント:
TTT 加藤さん、おはようございます。
今日はまた蒸し暑くなりそうです。
OSC回路はUSB、LSBで専用になりましたね。エミッタ側にダイオードを入れて切り替えるのが常套手段ですか。
メーカーさんも使っていたということで、参考になります。
当局はまだUSB用を検討していないのですが、LSB用はトリマに小容量を使用して強引に発振周波数を上げちゃいました。そこから進んでいないのですが。
おはようございます。夜はだいぶ過ごしやすくなりました。
今回のシリーズの最後ですね、待っていましたよ!
ちょうど私もIF=9MHzの受信機をやっていたので、このキャリア発振器を参考に実験してみます。7MHzのUpーConタイプなので、VXOの検討が必要でした。VXOも中々奥が深くて、やり始めると、そちらにはまってしまいそうです。今回はセットに纏めることを第一目標でやってます。そうしないと、前に進みません。
8月はいろいろと行事が多くて中々はかどりません。しかも世の中に反して?今日も会社ということで、電車の中から書き込みしてます。電車はガラガラです。
JN3XBY/1 岩永さん、おはようございます。 どんよりした空模様ですね。既に蒸し暑いです。
さっそくのコメント有り難うございます。
> USB、LSBで専用になりましたね。
はい、クリスタルは2個になりますが独立した方が相互の影響が少ないので良いです。
> エミッタ側にダイオードを入れて切り替えるのが・・・
一種のダイオードスイッチなのですが、トランジスタ自身を流れる電流でバイアスされると言う合理的な方法です。
> LSB用はトリマに小容量を使用して強引に・・・
まあ、考え方は同じですね。 共用だと難しいのでUSB/LSBを独立させただけですので。(笑)
岩永さんのジェネレータを楽しみにしています。
JK1LSE 本田さん、おはようございます。 今日もお仕事なのですね。
いつもコメント有り難うございます。
> 待っていましたよ!
お待ち頂き、有り難うございます。hi
> IF=9MHzの受信機をやっていたので・・・
そうでしたか! 何か参考なれば幸いです。 意外にキャリヤ発振は悩むところなので選択肢を用意しておきたいものです。
> やり始めると、そちらにはまってしまいそうです。
VXOは奥が深いですね。 安定度と変化範囲はトレードオフなのですが、同じ変化幅でも出来・不出来で周波数安定度はずいぶん違いますから・・・。その辺りが楽しい部分なのでしょう。
> そうしないと、前に進みません。
どこかで妥協しないと実験で終わってしまいますからね。(笑)
> 電車はガラガラです。
帰省列車と高速道は大混雑のようですが通勤列車は空いてますよね。ご苦労様です。
7MHz→9MHzにUP-Convだそうで、本田さんの受信機も楽しみにしています。
加藤さん、こんにちは。暑中お見舞い申し上げます。
精力的な実験及び成果発表で皆さんを触発なさっておられますね。
私は何かやっては壊し でなかなか実用的結果を得られません。
ところでフィルター製作でいつも困るのが希望する周波数で製作出来ない事
ではないでしょうか?
例えばFT-101Z/FT-901シリーズではIF周波数 特にCW用は半端な値です。
これを単に沢山ある9メガの水晶でやってもfcが下がりませんね。
L/Cを適当な値で入手して接続すればいける事もありますがそのL/Cも半端な
値になるのでこれも厄介です。
前に9メガの水晶で えいやっと組んで観測したら約15kHzも上になりました。
最初にフィルターの周波数ありき なら別に問題ないですが、実機に充当するにはなかなか難しいのが現状です。
何か 上手なやり方 又は簡便な設計法はないのでしょうか?
猛暑の中 煩わせて申し訳ないです。
JO1LZX 河内さん、こんにちは。 ご無沙汰いたしておりますが、お元気そうで何よりです。
コメント有り難うございます。
> 希望する周波数で製作出来ない事・・・
経済性を無視すればクリスタルの特注で希望周波数のものも不可能ではありません。十分良い物が作れますよ。hi hi
既成のクリスタルでも幾分か動かすことはできますが、水晶板の物理的な寸法で決まった共振現象ですから自ずと限界があります。9MHzあたりではせいぜい数kHz(上に)といったところになります。 もちろん製作はずいぶん煩雑になりますのであまりお奨めはしません。 しかし、ごく僅かでしたら動かせる訳です。
> 実機に充当するにはなかなか難しいのが現状です。
そう言うニーズでしたら中古品のフィルタを入手されるか専門メーカーに特注されるのが一番間違いないでしょう。
ここで試みているのは安価に手に入る水晶を使って高性能なフィルタを作ることなので既製のリグ用は目的ではありません。悪しからず。(笑)
加藤さん、皆さん今日は、、、今日はここ札幌も蒸し暑くて参ります。
今回のフィルタ、私のジャンク水晶(8.3MHZ)で製作して見ました。
加藤さんには個別でデータをメールしましたが計算値にかなり近い物が出来たと思います。
頭頂部のフラットさにはちょっと驚きました。
ちなみにこのジャンク水晶のLmは52.6mHと計算しています。
新しい情報を公開された加藤さんに感謝、感謝です。
有難う御座いました。
JA8NVJ 長田さん、こんばんは。
コメント有り難うございます。
> 計算値にかなり近い物が出来たと思います。
資料は拝見しております。 とても旨くできたと思います。 良かったですね!
> 頭頂部のフラットさにはちょっと驚きました。
そうでなくてはこの設計に移行した意義が有りませんので。(笑)
> 感謝、感謝です。
さっそく追試までして頂き、こちらこそ有り難うございました。
加藤さん、こんにちは。
お盆休みもあと2日ですね^^
昔からジャンクフィルターを入手できてもキャリア用水晶は入手できないことが多く悩みの種ですね。
同じフィルターが数個入手できたら一つをばらして入っている水晶をキャリア用に使うという方法も聞きますが、貧乏性なのでなかなか実行できません(笑)
水晶の発振周波数をVXOであげるのは結構難しそうなのですが2~3KHzぐらいは上がるのですね
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんばんは。 お休みと言うのは早く過ぎてしまうものですね。hi
コメント有り難うございます。
> キャリア用水晶は入手できないことが多く・・・
HAMフェアももうすぐですが、フィルタは結構出ていてもキャリヤ用水晶付きと言うのは滅多に有りません。付いてないのを買うと後で困るんですよね。w
> 一つをばらして入っている水晶をキャリア用に・・・
特性が悪くなった不良品でもあれば別ですが、ちゃんと使えるフィルタをバラすのは気が引けます。 そうそう都合良く不良品のフィルタなど無いので困りますよね。 結局、DDSのお世話になることに。(笑)
> 2~3KHzぐらいは上がるのですね・・・
クリスタルにもよりますが、8MHzあたりでしたら2〜3kHzはやり方次第で可能なんですよ。下げる方はVXOでやれますから良いのですが、どちらかと言うと上げる方が厄介なんです。今回はうまく行きました。
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