【第2周波数変換をテストする】(活用編)
Introduction
In the Collins-type receiver I designed in my last blog, the second local oscillator determines the frequency stability. I use a self-converter circuit to save power in my design using battery tubes. I use a 1AB6/DK96 battery tube in the converter circuit, but the local oscillator coil is the most important part. The first core material I used with high permeability didn't have good temperature characteristics. So I decided to wind an air core coil.(2025.05.27 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【ペンタ・グリッド管の第2コンバータ】
電池管を使って受信機を創るプロジェクトを進めています。 コリンズタイプで受信機を作る方向で検討を続けます。
前回のBlog(←リンク)では第1コンバータであるクリスタル・コンバータ部をテストしました。今回はそれに続く第2コンバータを検討します。
写真はテスト途中のものです。まずは局発コイルを巻き、オシレータ・トラッキングの設計を検証しています。必要なカバレッジが得られるか確認しているところです。 もちろんここは周波数安定度を決めますからとても重要な部分です。その検討も行ないました。
バリコンは予定通りFM3連・AM2連のタイプを使います。カバーする周波数の範囲が250kHzと、ごく狭いことから、容量の小さい方のFM用3連バリコンの部分を使うことにしました。
☆
詳しくはこれ以降の部分で明らかになりますが一般的にアマチュアが作るコリンズタイプ受信機の後半部分は単なるシングルスーパと等価なものです。要するにシンプルな短波ラジオのようなものですから周波数帯こそ違いますが中波BCバンドのラジオとさしたる違いはないわけです。 周波数カバー範囲は短波帯ではありますが、一般的に2〜3MHzあたりのごく低い方を選ぶので難しい周波数帯でもありません。
シンプルなラジオ並みの設計ですからあまり興味の対象ではないかも知れませんね。 今回も暇人専用コンテンツです。あなたの貴重なお時間を大切に!
【第2コンバータの周波数関係】
すでに前々回のBlog(←リンク)においてブロック図で検討していますが、もう少し具体的な設計に踏み込んでみます。
まず、受信周波数範囲ですが7MHzのHAMバンドをフルカバーする設計で考えます。 7.000〜7.200MHzのカバーが必要ですが、上下に多少のマージンを設けます。
従ってカバレッジの設計としては25kHzずつのマージンを設けて6.975〜7.225MHzとしましょう。可変範囲としては7.100MHzを中心に250kHz幅になります。
なぜもっと広い周波数範囲にしないのかと言う疑問もあるでしょう。例えば7.000〜7.500の500kHz幅にするとか、7.0〜8.0MHzの1MHzでも良いのではと思われるでしょう。
これはダイヤル機構が関係します。 しっかりしたダイヤル機構が構築できるなら500kHzや1MHzでも良いのです。(要スプリアス検討) ここでは簡略にする必要からなるべく狭く設計したいと思っています。 ダイヤルスピードがSSBやCWのチューニングに適することも大切です。
具体的には、バリコン付属の減速ギヤ+ボールドライブを考えているのでカバー範囲をあまり広くするとダイヤルがクリチカル過ぎて操作性が低下してしまいます。 まあ選択度も良くないのでAMの受信なら少々クリチカルなダイヤルでも大丈夫なのですが・・・ここではSSB/CWも受信対象ですので。
バリコンは最初の写真にあるものを使い周波数範囲を決めクリスタルコンバータの局発周波数を5.12MHzとして第2コンバータの具体的な周波数設計を行なってみました。左図で確認してください。
【第2コンバータの回路設計】
左図は具体的な第2コンバータ回路です。 コンバータ管には1AB6/DK96を使います。
受持つ周波数範囲は1.855〜2.105MHzと中波のちょっと上ですし、カバー範囲も狭いのでコンバータ管は1AB6/DK96ではなくて1R5(-SF)でも大丈夫でしょう。
周波数も低いですから引っ張り現象(Pull-in)もほとんど問題にならない筈です。 ただし多少なりとも有利な1AB6/DK96を使います。もし手持ちがあるなら1L6や1U6も適する筈です。1U6は1AB6/DK96同様に25mAフィラメントの省エネ管です。(どちらも1AB6/DK96と互換球ではないので回路変更を要する)
1stコンバータ・・・クリコン部の出力には強力な局発の成分:5.12MHzがかなり漏れて来ます。 そのため第2コンバータが入力オーバーで飽和しないよう、入力部に2段の同調回路を置きます。
それ以外はBC帯の自励式コンバータ回路と違いはありません。 この回路もキーポイントは局発回路で、特にコイルにあります。 まずはその試作から始めました。 最初の写真はコア入りのボビンに巻いて試作した局発コイルで局発部分の動作を確認している様子です。
【発振波形で確認】
最初にコア入りの小型ボビンで試作した局発コイル(OSC Coil)で発振を確認します。
巻数比が適正か否かの確認が先決でそれは発振々幅の観測からわかります。他にもグリッド抵抗:R1=27kΩを流れるグリッド電流で確認する方法もあります。
写真のように第1グリッドで見て8Vpp得られていますからマズマズと言えるでしょう。電源電圧が低いためか、やや発振が弱い感じもしますが取り敢えず使えそうです。
具体的には東光製の「10PA」と言う形式のコイルボビンに巻いています。ツヅミ型の芯コアと外側の調整式ツボ型コアという構造になったものです。
いずれのコア材も透磁率:μが大きいらしく少ない巻き数で大きなインダクタンスが得られます。そのため作り易いメリットがあります。また一次側巻線と二次側巻線の結合度が高くて発振コイル用には向いています。
しかしこのコイルは少量の入手が難しいのでこれ以上の詳細は省きます。是非とも欲しいお方には差し上げますので連絡ください。少量なら手持ちがあります。
類似のコア材としてaitendoの「IFTきっと」があって同じように使えます。(巻き回数は異なる。未製作ですが、1次側:39回、2次側:10回で良いはず)
【発振はするが・・】
発振周波数を確認しています。2310kHzというのは受信機としての受信周波数で言えば低端にあたる6975kHzになります。(-455+2310+5120=6975(kHz))
トラッキング回路の設計検証と周波数安定度の様子を見るのが目的です。
表示周波数の下位桁が文字化けしていますが、カメラのシャッターが開いている間に周波数変動があって数字が多重露光になっているためです。
1Hz以下の部分ですし、何のシールドもされていないブレッドボード製作ですから常に微小な周波数変動があっても不思議ではないでしょう。 水晶発振ではなくてLC発振ですから。(笑)
短時間の周波数安定度を見ていて、概ね実用できそうな感触をもちました。 そのため通電のまま暫く放置して変動を観察してみました。
目的の周波数帯:7.000〜7.200MHzが逃げてしまうほどの周波数変動はありませんでしたが、思ったより大きな変化があるようでした。 電源ONから数時間で10kHzくらいの変化するようです。 通電初期の変動は大きいのですが、すぐに安定してきて変動量が減って行きます。しかしジワジワした変動は残るようです。
通電したままでエージングが進めばもっと安定してくる可能性もありますが、どうもミュー:μの大きなコア材を使ったコイルは周囲温度の変動に敏感な感じでした。透磁率μの温度係数がかなり大きいのでしょう。 未検討ですがaitendoの「IFTきっと」を使う方が幾らかマシかも知れません。
☆
周波数カバレッジには問題はないようです。 トラッキング回路の設計・計算は大丈夫として周波数安定度はもう少し何とかしたいと思いました。 コア入りの局発コイルは調整に便利なのですが・・・思いきって空芯コイルを試すことにしました。
【マヂック・ハンダ?】
部材ストックからステアタイト製のボビンを見つけました。直径は1インチ:2.54mmで長さは63mmなので、2・1/2インチのようです。
すっかり忘却していて出所不明ですが、おそらく自励発振式のLC-VFOを作るつもりでストックしておいたのでしょう。 使わなければいずれ不燃ごみの運命ですから使ってやることにしました。
ところで「マヂック・ハンダ」って知ってますか? コイル好きでしたらバーアンテナとかコイルの端に巻線を止めるための樹脂が塗ってあったのを覚えているでしょう? いえいえ、コイル全体に塗る高周波ワニスのことではありませんよ。
見知ってはいたのですが、どんな「物質」でどう「扱う」のかは知りませんでした。 インターネット時代になってから知識が広まり、あるとき材料の入手と使い方の情報がもたらされました。(情報源はJA2EP/JH1FCZ・大久保OMのところだったように思います)
タイトボビンに空芯コイルを巻くなんて滅多にありませんのでコレを使うこともほとんどありません。この機会に「マヂック・ハンダ」を活用してみましょう。
棒状の樹脂が販売されていて使い方は簡単です。 ハンダ鏝のような高温のコテ先で溶かして塗布するだけです。(サトー電気で売っていた(いる?)との情報あり)
ただし専用コテならともかく、ハンダ鏝をそのまま使うとコテ先が傷んでしまいます。 滅多に使うものではないので応急的にハンダ鏝の先にアルミ・フォイルを巻きつけて使いました。 一般的なハンダ鏝のような300℃以上にもなるようでは高すぎるのですが、よく溶けて作業性は悪くありません。 ただし高温のまま放置するとコテ先に残った樹脂がコゲてくるようでした。
【巻数は?】
マヂック・ハンダはうまく使えて、コイルの巻線固定に使えました。 綺麗に仕上げるにはちょっとコツがいるようですが・・・
空芯コイルの巻数とインダクタンスの関係は昔から計算式が良く知られています。 長岡氏係数表を使って形状寸法から計算できます。
経験からかなり高精度で算出が可能なこのとはわかっていますが、可能なら実寸法を求めてから計算する方がより精度よく求められます。 ここでは60回巻いて寸法を求めてから計算してみることにしました。もちろんインダクタンスの実測も行ないます。 巻線にはφ0.4mmのポリウレタン銅線(ウレメット線:UEW線とも言う)を使います。 周波数が低いことから大きめのインダクタンスが必要なので密着巻きで作ります。
数えながら手巻きしたのですが、最終的には現物の巻線を数えて確認しました。写真に撮って画像拡大して数えると容易です。59回巻きでしたね。(笑) ノギスなど使って巻き幅も実測しておきます。 これらの寸法はコイル設計に使います。 59回巻きのコイルのインダクタンスは実測で約63μHありました。計算値とほぼ一致です。
参考:寸法形状からインダクタンスを求める方法を左図に示します。 寸法を実測して電卓で計算すればかなり高精度にインダクタンス値が求まります。 空芯のコイルに限ります。コア入りのインダクターには適用できませんのでご注意を!
【コイル設計】
ステアタイト・ボビンに密着巻きしますのでコイルの内径はボビン径の25.4mmです。
さて、何回巻いたら目的のインダクタンス・・・この例では52μHが得られるのでしょうか?
巻線の直径、内径、巻幅などを計算ソフトにインプットすればインダクタンスが計算できます。 これは自作の計算アプリですが、ほかにもWeb上のコイル計算サイトがあるようですから利用すれば簡単に求められます。
形状の実測から寸法を求めていますのでかなり精度の良いインダクタンス計算ができるでしょう。 計算と実測での比較検証によれば誤差1%くらいの精度があるようでした。なかなかの高精度ですね。 ここでは51回巻けば目的とする52μHのコイルが作れそうです。
【コイルを巻く】
実測による補正で52〜53回巻きで目的のインダクタンス付近になりました。 1〜2回違いですから計算通りと言えるでしょう。
現実のコイルには分布容量があって、単純に共振周波数を見つけるだけではそれが分離できません。 従って高精度のコンデンサと合わせて共振点を求めて計算したところでインダクタンスは正確には得られません。
正確なインダクタンスを求めるには2〜3つの共振周波数から計算するのが良いでしょう。未知のインダクタンスのほか実際に分布容量も含めて計算で求められます。 磁気コア入りコイルの場合、コアの周波数特性が現れるので精度が落ちます。 しかし空芯コイルなのでコアは空気ですから周波数特性は概ね無視できます。従ってかなり高精度で計算できます。数個の既知の容量値のコンデンサとそれらとによる実測の共振周波数から、未知の分布容量とインダクタンスを連立方程式で計算します。角周波数:ωなど入ってきますが計算そのものは中学生レベルの算数ですね。ww
ちなみに4種の精密な値のコンデンサを使い、得られた4つの共振周波数から求める方法で計算した結果、このコイルのインダクタンスは52.4μH、分布容量は4.23pFでした。53回巻きでちょうど良かったようです。
しかしながら実際に回路に入れて使う場合、配線によるインダクタンスや回路自体の分布容量とか真空管の管内容量もあって影響の完全な予想は困難です。コイル単体ではほどほどの所へインダクタンスが収まれば申し分ないはず。 最終的には周波数の微調整で追い込むわけです。 今回はインダクタンスの加減が容易ではないのでパッディング・コンデンサの方で周波数カバレッジを調整します。
写真のようにフィードバック用コイルも巻いて完成させました。 フィードバックコイルの巻き数は決めかねたのですが、やや多めの13回巻きでやってみます。巻線の間隔は約2mmです。
このBlogの作成時点では実回路に入れた検証は済んでいません。従ってもし旨くないようでしたら巻き直す可能性があります。 空芯コイルは本来再現性が良くて同じ材料さえあれば作り易い筈なのですが2次巻線があるとなかなか厄介なものですね。
☆
中波ラジオのコンバータ回路と同じような製作ですが周波数安定度を決めますので重要度の高い部分です。 肝心の局発コイルはコア入りボビンを使うと製作・調整が容易ですが温度係数は大きくなりがちです。 φ1インチのタイト・ボビンで空芯コイルを作るのは少々やりすぎかも知れませんが興味のおもむくままに製作してみました。あとはきちんと発振してくれたら良いのですが・・・もちろん周波数安定度も気になります。 乞うご期待。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1
*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
この下にある「コメント」の文字をクリックすると入力画面が現れます。
→ご要望など私で可能な範囲で対応いたします。
(つづく)nm
2025年5月27日火曜日
2025年5月13日火曜日
【電子管】Testing the Battery Tube X-tal Converter : 1AB6 / DK96
【1AB6 /DK96でクリスタル・コンバータを】(活用編)
Introduction
I have made a prototype crystal converter circuit using a 1AB6/DK96 battery tube. This circuit is located at the top of the Collins-type receiver and has a significant impact on the receiver's performance. I made a prototype for design verification. The results obtained were good. When the antenna was connected, it was found that the received signal in the 7 MHz band could be received with good sensitivity. This is a step forward to the production of the receiver.(2025.05.13 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【ペンタ・グリッド管のクリコン】
いわゆるコリンズ・タイプと称する形式で受信機の検討を進めています。(前回のBlog←リンク参照) コリンズ社が考案者という訳ではないのですが、メカトロニクスの粋を結集し一つの受信システムとしてまとめ上げた功績からそう呼ばれるようになったようです。
入力信号は水晶発振器を使った局発により周波数変換されます。 その後、可変I-Fの第1中間周波を経たのち再度周波数変換されて固定周波数の第2I-Fに変換されます。 今回のBlogではこの最初の周波数変換、1st コンバータを扱います。
第1周波数変換は受信機のはじめの方にありますので真っ先にローノイズな性能が求められます。 RFアンプを前置するのは当然ですが、全体のノイズ性能を左右するのでやはりローノイズなコンバータ回路が望まれるのです。 特にHF帯のハイバンド以上では空間ノイズが低下することからローノイズ・コンバータ(ミキサー)は必須です。
ここでは5グリッド管の自励式コンバータをテストします。 目的は7MHz帯の通信用受信機のコンバータとして必要な性能を備えているか否かを判断するためです。 もちろん最適な動作条件(回路の部品定数)を得るのも目的です。
常識的に言えば水晶発振の局発を用意し五極管のグリッド注入型ミキサーとするのが良いでしょう。ローノイズでゲインも十分得られるからです。(ただし2球必要です) ここでは球数の削減を目的に5グリッド管(7極管:コンバータ管)で自励式コンバータ回路を試みます。(もちろん局発は水晶発振ですけれど) 5グリッド管を使えば単球で済みますが、これで性能は大丈夫でしょうか?
☆
ケチケチ設計のコリンズ・タイプ受信機になってしまいそうです。w マトモな設計の受信機を作るつもりならそもそも電池管なんかやめた方が賢明です。普通の球を使って作る方が報われやすいです。電池管はデバイスとしての性能が違い過ぎですね。
例えば米軍用トランシーバ:RT-66〜68シリーズの基本設計は電池管式です。ただし高周波増幅だけは6AK5を使っています。たぶん電池管の1T4とか1L4では性能不十分なのでしょう。このRTシリーズがHF帯ハイバンドからVHF帯というのも関係ありますけれど。
すべて電池管で作ると性能は期待できませんが7MHz帯ですから何とかなるんじゃないかと思ってテストしています。 つまらんと思ったらこの先はおやめください。 上っ面をざっと眺めたところで貴方が企んでいる高性能受信機設計にはほとんど役に立たないでしょう。 まあ考え方次第ですが。 私は得るものはあると信じています。(笑)
【七極管クリコン回路】
「クリコン」とはクリスタル・コンバータの略で、クリスタル・・・水晶発振子のこと・・・を使った発振器を使うコンバータ回路のことです。 真空管としては1AB6/DK96だけでなく1R5-SFで作ることもできます。 1R5(-SF)でも水晶発振で使えば引き込み現象も実用上問題にならないはずです。 実際に水晶発振のテストまでは進めてあります。
今回は1AB6/DK96で試すことにしました。 1AB6/DK96でも問題なく水晶発振が可能でした。 発振回路はピアースPG相当(無調整回路)で周波数は5.12MHzです。のちに写真がありますがきれいな正弦波(第1グリッド側で観測)で発振しています。
第4グリッドはB+直結の回路になっていますが、追加の試験によるとドロッパ抵抗(100kΩ)とバイパス・コンデンサ(0.01μFくらい)を挿入しておく方が良いようです。ドロッパ抵抗を挿入すると状態が変わるため各実測値は異なってきます。 回路図のまま作っても支障はないため、図中の数値や以下の評価結果はドロッパ抵抗なしの例で示しました。
入力の同調回路で昇圧された7MHz帯の受信電波は第3グリッドに加えられ、局発の5.12MHzと混合され差のヘテロダインで1.88〜2.08MHzに周波数変換されます。 なお、今回はコンバータ回路の要素実験なのでRFアンプなしのコンバータ単独でテストします。
実際の受信機ではコンバータの前に高周波増幅(RFアンプ)を設けます。 またこの第1周波数変換の後ろは、おなじく1AB6/DK96を使った第2周波数変換が続く予定です。
今回は第1周波数変換単独でテストする都合から、そのままテストできるよう便宜的に低インピーダンスにステップダウンして変換出力を取り出しています。そのため変換利得は犠牲になってしまいます。
既存のジェネカバ受信機で1.88〜2.08MHzを受信してみることで実際に7MHzのHAMバンドがどのように周波数変換されて聞こえるのか、コンバータ回路としての性能が感覚的にわかるはずです。
従って製作する受信機とはT2(出力同調回路)の部分が異なります。 受信機では2段の同調回路を重ねた形の可変同調回路を予定します。 その構成なら50Ωにステップダウンはしませんから2つの同調回路の結合損失程度の僅かなロスで済むはずです。 第1周波数変換回路としてはプラスのゲインになるでしょう。
【キーポイントは水晶発振】
やはりキーポイントは水晶発振にあります。 確実な発振が起こらなければ周波数変換はなされません。 第1グリッド、第2グリッド(プレートに相当)とフィラメント(カソード)の三極によるスタンダードな水晶発振回路を構成します。
ただし電池管はgmが低いため発振回路の部品定数を最適な状態に選ぶ必要があります。 たいへんポピュラーなラジオ用五極管:6BA6と同じような部品定数では発振してくれないことがあります。
発振強度はC4(10pF)とC6(27pF)によって加減します。 この定数は比較的強力に発振するように選んであります。 もう少し弱い発振でも大丈夫そうですが強めに発振するよう選びました。もちろん選び方が悪いと発振してくれません。 さらに1R5-SFとではかなり異なりました。
水晶発振子は5.12MHzですが、これは手持ちの都合です。 幸いスプリアスがバンド内に入ることはありません。 周波数の選び方が悪いとスポットでスプリアスが現れることがあります。
5.12MHzの水晶発振子は市販品があります。使ったものの形状はHC-49/Uです。他の形状の水晶発振子でも大丈夫ですが発振子によっては回路定数の見直しを要する場合があります。gmが低い電池管はゲインが低いため部品定数選びは幾分シビアというのが大まかな印象です。
【発振波形を見る】
第1グリッド側で発振波形を観測してみました。
19Vppあって、かなり大きいように感じるかもしれません。 これくらいで支障はないようです。 むしろ変換コンダクタンス:gcの点から見てこれくらい必要なようでした。 これが小さいとだんだん変換ゲインが低下してきます。
プローブを当てると対GND間のキャパシタンス:Cが増えたのと等価になります。 C4(10pF)が数pFくらい増えたことになります。 その結果、やや発振振幅は大きくなる(発振が強くなる)方向の影響が出ています。(グリッド電流Ig1を測りながらプローブを当ててみると影響がわかります)
【Philipsのデータシートでは?】
いくら低性能なコンバータ管とは言っても諦めずにフルに性能を発揮させたいものです。 動作状態確認のためPhilips社の1AB6/DK96のデータシートを参照しましょう。
横軸には第1グリッドに加えられる局発の電圧がとってあります。 描かれたカーブは変換コンダクタンス、プレート抵抗、第1グリッド電流です。
このうち、変換コンダクタンスに着目しましょう。 それによると局発の電圧が5Vrmsあたり(=14Vpp程度)でピークになります。それより小さくても大きくても変換コンダクタンスは低下します。 ただし大きい方の変化は緩やかです。
周波数が固定の水晶発振器ですから最適化はだいぶ容易です。 何か条件が変わって発振振幅が変動しても影響が少ないようにやや大きめの局発が加わるようにします。
グラフを読むと変換コンダクタンス:gcはだいたい300μ℧くらいになります。 6BE6の変換コンダクタンス:gc≒475μ℧と比べたら小さいのですがこれが電池管コンバータの実力です。 むしろ五十分の1にも満たない陰極(フィラメント or カソード)の加熱電力で300μ℧が得られるとは驚きとも言えます。
【受信してみよう】
RFアンプなしのコンバータ単体ですが、実験的にそのままアンテナを繋いで受信してみました。
7,000kHzが1,880kHzに周波数変換されますから、7006.64kHzを受信していることになります。 実際には局発の5120kHzに+250Hzほど誤差があるため、その分だけ高い周波数を受信しています。まあ、わずかですが。
スペクトラム表示を見てもらうとわかりますが、HAM局の電波が並んで結構良く聞こえます。 すこしノイズっぽい感じもしますが、コンバータ管直結ですからこんなものなのでしょう。 RFアンプをつければ間違いなく実用性能になります。 7MHzは空間ノイズのレベルが高くてNF≧20dBの受信機でも支障ないくらいです。 低性能な電池管で作った自称「通信型受信機」ではあってもまずまずの実力を発揮するでしょう。
定性的な評価だけでなく定量的なゲイン測定も試みました。 簡易な測定ですが、はじめにSSGで7010kHzで40dBμを与えます。 そのときのIC-756のSメータの読みを精密に記録(記憶)しておきます。 その後、IC-756にSSGから変換された周波数とおなじ1890kHzを直接与えて同じだけSメータが振れるようSSGの出力を加減します。 その読みと先の40dBμとの差からゲインがわかります。 簡易ですがこれである程度の精度でゲインが測定できます。
各部のインピーダンスが正確に50Ωではないと言った誤差要因はありますが10dBも狂うことはないでしょう。 実測によれば-4dBくらいのゲインになりました。 T2がステップダウントランスなので20dBくらいゲインを低くしている訳です。
☆
コンバータ管で「周波数変換できるのは当たり前だよ」 確かにそうなのですが、クリコンの製作例が見当たらなければ当たり前のことでも自身で確かめてみるのが近道です。 机上の検討だけでなく要素実験しておけば設計の確度はアップします。 今回は受信機の感度に関して重要なポイントになりそうな第1周波数変換回路(クリスタル・コンバータ)をテストしておきました。 意外に良い成績だったと思います。 まずまず使い物になる感触が得られました。
次回もHAM用受信機に向けた回路要素を検討したいと思っています。電池管を活用した通信機の可能性が広げられたらだんだん面白くなってきます。 ではまた。 de JA9TTT/1
*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
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→ご要望など私で可能な範囲で対応いたします。
(つづく)←リンクfm
Introduction
I have made a prototype crystal converter circuit using a 1AB6/DK96 battery tube. This circuit is located at the top of the Collins-type receiver and has a significant impact on the receiver's performance. I made a prototype for design verification. The results obtained were good. When the antenna was connected, it was found that the received signal in the 7 MHz band could be received with good sensitivity. This is a step forward to the production of the receiver.(2025.05.13 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【ペンタ・グリッド管のクリコン】
いわゆるコリンズ・タイプと称する形式で受信機の検討を進めています。(前回のBlog←リンク参照) コリンズ社が考案者という訳ではないのですが、メカトロニクスの粋を結集し一つの受信システムとしてまとめ上げた功績からそう呼ばれるようになったようです。
入力信号は水晶発振器を使った局発により周波数変換されます。 その後、可変I-Fの第1中間周波を経たのち再度周波数変換されて固定周波数の第2I-Fに変換されます。 今回のBlogではこの最初の周波数変換、1st コンバータを扱います。
第1周波数変換は受信機のはじめの方にありますので真っ先にローノイズな性能が求められます。 RFアンプを前置するのは当然ですが、全体のノイズ性能を左右するのでやはりローノイズなコンバータ回路が望まれるのです。 特にHF帯のハイバンド以上では空間ノイズが低下することからローノイズ・コンバータ(ミキサー)は必須です。
ここでは5グリッド管の自励式コンバータをテストします。 目的は7MHz帯の通信用受信機のコンバータとして必要な性能を備えているか否かを判断するためです。 もちろん最適な動作条件(回路の部品定数)を得るのも目的です。
常識的に言えば水晶発振の局発を用意し五極管のグリッド注入型ミキサーとするのが良いでしょう。ローノイズでゲインも十分得られるからです。(ただし2球必要です) ここでは球数の削減を目的に5グリッド管(7極管:コンバータ管)で自励式コンバータ回路を試みます。(もちろん局発は水晶発振ですけれど) 5グリッド管を使えば単球で済みますが、これで性能は大丈夫でしょうか?
☆
ケチケチ設計のコリンズ・タイプ受信機になってしまいそうです。w マトモな設計の受信機を作るつもりならそもそも電池管なんかやめた方が賢明です。普通の球を使って作る方が報われやすいです。電池管はデバイスとしての性能が違い過ぎですね。
例えば米軍用トランシーバ:RT-66〜68シリーズの基本設計は電池管式です。ただし高周波増幅だけは6AK5を使っています。たぶん電池管の1T4とか1L4では性能不十分なのでしょう。このRTシリーズがHF帯ハイバンドからVHF帯というのも関係ありますけれど。
すべて電池管で作ると性能は期待できませんが7MHz帯ですから何とかなるんじゃないかと思ってテストしています。 つまらんと思ったらこの先はおやめください。 上っ面をざっと眺めたところで貴方が企んでいる高性能受信機設計にはほとんど役に立たないでしょう。 まあ考え方次第ですが。 私は得るものはあると信じています。(笑)
【七極管クリコン回路】
「クリコン」とはクリスタル・コンバータの略で、クリスタル・・・水晶発振子のこと・・・を使った発振器を使うコンバータ回路のことです。 真空管としては1AB6/DK96だけでなく1R5-SFで作ることもできます。 1R5(-SF)でも水晶発振で使えば引き込み現象も実用上問題にならないはずです。 実際に水晶発振のテストまでは進めてあります。
今回は1AB6/DK96で試すことにしました。 1AB6/DK96でも問題なく水晶発振が可能でした。 発振回路はピアースPG相当(無調整回路)で周波数は5.12MHzです。のちに写真がありますがきれいな正弦波(第1グリッド側で観測)で発振しています。
第4グリッドはB+直結の回路になっていますが、追加の試験によるとドロッパ抵抗(100kΩ)とバイパス・コンデンサ(0.01μFくらい)を挿入しておく方が良いようです。ドロッパ抵抗を挿入すると状態が変わるため各実測値は異なってきます。 回路図のまま作っても支障はないため、図中の数値や以下の評価結果はドロッパ抵抗なしの例で示しました。
入力の同調回路で昇圧された7MHz帯の受信電波は第3グリッドに加えられ、局発の5.12MHzと混合され差のヘテロダインで1.88〜2.08MHzに周波数変換されます。 なお、今回はコンバータ回路の要素実験なのでRFアンプなしのコンバータ単独でテストします。
実際の受信機ではコンバータの前に高周波増幅(RFアンプ)を設けます。 またこの第1周波数変換の後ろは、おなじく1AB6/DK96を使った第2周波数変換が続く予定です。
今回は第1周波数変換単独でテストする都合から、そのままテストできるよう便宜的に低インピーダンスにステップダウンして変換出力を取り出しています。そのため変換利得は犠牲になってしまいます。
既存のジェネカバ受信機で1.88〜2.08MHzを受信してみることで実際に7MHzのHAMバンドがどのように周波数変換されて聞こえるのか、コンバータ回路としての性能が感覚的にわかるはずです。
従って製作する受信機とはT2(出力同調回路)の部分が異なります。 受信機では2段の同調回路を重ねた形の可変同調回路を予定します。 その構成なら50Ωにステップダウンはしませんから2つの同調回路の結合損失程度の僅かなロスで済むはずです。 第1周波数変換回路としてはプラスのゲインになるでしょう。
【キーポイントは水晶発振】
やはりキーポイントは水晶発振にあります。 確実な発振が起こらなければ周波数変換はなされません。 第1グリッド、第2グリッド(プレートに相当)とフィラメント(カソード)の三極によるスタンダードな水晶発振回路を構成します。
ただし電池管はgmが低いため発振回路の部品定数を最適な状態に選ぶ必要があります。 たいへんポピュラーなラジオ用五極管:6BA6と同じような部品定数では発振してくれないことがあります。
発振強度はC4(10pF)とC6(27pF)によって加減します。 この定数は比較的強力に発振するように選んであります。 もう少し弱い発振でも大丈夫そうですが強めに発振するよう選びました。もちろん選び方が悪いと発振してくれません。 さらに1R5-SFとではかなり異なりました。
水晶発振子は5.12MHzですが、これは手持ちの都合です。 幸いスプリアスがバンド内に入ることはありません。 周波数の選び方が悪いとスポットでスプリアスが現れることがあります。
5.12MHzの水晶発振子は市販品があります。使ったものの形状はHC-49/Uです。他の形状の水晶発振子でも大丈夫ですが発振子によっては回路定数の見直しを要する場合があります。gmが低い電池管はゲインが低いため部品定数選びは幾分シビアというのが大まかな印象です。
【発振波形を見る】
第1グリッド側で発振波形を観測してみました。
19Vppあって、かなり大きいように感じるかもしれません。 これくらいで支障はないようです。 むしろ変換コンダクタンス:gcの点から見てこれくらい必要なようでした。 これが小さいとだんだん変換ゲインが低下してきます。
プローブを当てると対GND間のキャパシタンス:Cが増えたのと等価になります。 C4(10pF)が数pFくらい増えたことになります。 その結果、やや発振振幅は大きくなる(発振が強くなる)方向の影響が出ています。(グリッド電流Ig1を測りながらプローブを当ててみると影響がわかります)
【Philipsのデータシートでは?】
いくら低性能なコンバータ管とは言っても諦めずにフルに性能を発揮させたいものです。 動作状態確認のためPhilips社の1AB6/DK96のデータシートを参照しましょう。
横軸には第1グリッドに加えられる局発の電圧がとってあります。 描かれたカーブは変換コンダクタンス、プレート抵抗、第1グリッド電流です。
このうち、変換コンダクタンスに着目しましょう。 それによると局発の電圧が5Vrmsあたり(=14Vpp程度)でピークになります。それより小さくても大きくても変換コンダクタンスは低下します。 ただし大きい方の変化は緩やかです。
周波数が固定の水晶発振器ですから最適化はだいぶ容易です。 何か条件が変わって発振振幅が変動しても影響が少ないようにやや大きめの局発が加わるようにします。
グラフを読むと変換コンダクタンス:gcはだいたい300μ℧くらいになります。 6BE6の変換コンダクタンス:gc≒475μ℧と比べたら小さいのですがこれが電池管コンバータの実力です。 むしろ五十分の1にも満たない陰極(フィラメント or カソード)の加熱電力で300μ℧が得られるとは驚きとも言えます。
【受信してみよう】
RFアンプなしのコンバータ単体ですが、実験的にそのままアンテナを繋いで受信してみました。
7,000kHzが1,880kHzに周波数変換されますから、7006.64kHzを受信していることになります。 実際には局発の5120kHzに+250Hzほど誤差があるため、その分だけ高い周波数を受信しています。まあ、わずかですが。
スペクトラム表示を見てもらうとわかりますが、HAM局の電波が並んで結構良く聞こえます。 すこしノイズっぽい感じもしますが、コンバータ管直結ですからこんなものなのでしょう。 RFアンプをつければ間違いなく実用性能になります。 7MHzは空間ノイズのレベルが高くてNF≧20dBの受信機でも支障ないくらいです。 低性能な電池管で作った自称「通信型受信機」ではあってもまずまずの実力を発揮するでしょう。
定性的な評価だけでなく定量的なゲイン測定も試みました。 簡易な測定ですが、はじめにSSGで7010kHzで40dBμを与えます。 そのときのIC-756のSメータの読みを精密に記録(記憶)しておきます。 その後、IC-756にSSGから変換された周波数とおなじ1890kHzを直接与えて同じだけSメータが振れるようSSGの出力を加減します。 その読みと先の40dBμとの差からゲインがわかります。 簡易ですがこれである程度の精度でゲインが測定できます。
各部のインピーダンスが正確に50Ωではないと言った誤差要因はありますが10dBも狂うことはないでしょう。 実測によれば-4dBくらいのゲインになりました。 T2がステップダウントランスなので20dBくらいゲインを低くしている訳です。
☆
コンバータ管で「周波数変換できるのは当たり前だよ」 確かにそうなのですが、クリコンの製作例が見当たらなければ当たり前のことでも自身で確かめてみるのが近道です。 机上の検討だけでなく要素実験しておけば設計の確度はアップします。 今回は受信機の感度に関して重要なポイントになりそうな第1周波数変換回路(クリスタル・コンバータ)をテストしておきました。 意外に良い成績だったと思います。 まずまず使い物になる感触が得られました。
次回もHAM用受信機に向けた回路要素を検討したいと思っています。電池管を活用した通信機の可能性が広げられたらだんだん面白くなってきます。 ではまた。 de JA9TTT/1
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