【1AB6 /DK96でクリスタル・コンバータを】(活用編)
Introduction
I have made a prototype crystal converter circuit using a 1AB6/DK96 battery tube. This circuit is located at the top of the Collins-type receiver and has a significant impact on the receiver's performance. I made a prototype for design verification. The results obtained were good. When the antenna was connected, it was found that the received signal in the 7 MHz band could be received with good sensitivity. This is a step forward to the production of the receiver.(2025.05.13 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【ペンタ・グリッド管のクリコン】
いわゆるコリンズ・タイプと称する形式で受信機の検討を進めています。(前回のBlog←リンク参照) コリンズ社が考案者という訳ではないのですが、メカトロニクスの粋を結集し一つの受信システムとしてまとめ上げた功績からそう呼ばれるようになったようです。
入力信号は水晶発振器を使った局発により周波数変換されます。 その後、可変I-Fの第1中間周波を経たのち再度周波数変換されて固定周波数の第2I-Fに変換されます。 今回のBlogではこの最初の周波数変換、1st コンバータを扱います。
第1周波数変換は受信機のはじめの方にありますので真っ先にローノイズな性能が求められます。 RFアンプを前置するのは当然ですが、全体のノイズ性能を左右するのでやはりローノイズなコンバータ回路が望まれるのです。 特にHF帯のハイバンド以上では空間ノイズが低下することからローノイズ・コンバータ(ミキサー)は必須です。
ここでは5グリッド管の自励式コンバータをテストします。 目的は7MHz帯の通信用受信機のコンバータとして必要な性能を備えているか否かを判断するためです。 もちろん最適な動作条件(回路の部品定数)を得るのも目的です。
常識的に言えば水晶発振の局発を用意し五極管のグリッド注入型ミキサーとするのが良いでしょう。ローノイズでゲインも十分得られるからです。(ただし2球必要です) ここでは球数の削減を目的に5グリッド管(7極管:コンバータ管)で自励式コンバータ回路を試みます。(もちろん局発は水晶発振ですけれど) 5グリッド管を使えば単球で済みますが、これで性能は大丈夫でしょうか?
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ケチケチ設計のコリンズ・タイプ受信機になってしまいそうです。w マトモな設計の受信機を作るつもりならそもそも電池管なんかやめた方が賢明です。普通の球を使って作る方が報われやすいです。電池管はデバイスとしての性能が違い過ぎですね。
例えば米軍用トランシーバ:RT-66〜68シリーズの基本設計は電池管式です。ただし高周波増幅だけは6AK5を使っています。たぶん電池管の1T4とか1L4では性能不十分なのでしょう。このRTシリーズがHF帯ハイバンドからVHF帯というのも関係ありますけれど。
すべて電池管で作ると性能は期待できませんが7MHz帯ですから何とかなるんじゃないかと思ってテストしています。 つまらんと思ったらこの先はおやめください。 上っ面をざっと眺めたところで貴方が企んでいる高性能受信機設計にはほとんど役に立たないでしょう。 まあ考え方次第ですが。 私は得るものはあると信じています。(笑)
【七極管クリコン回路】
「クリコン」とはクリスタル・コンバータの略で、クリスタル・・・水晶発振子のこと・・・を使った発振器を使うコンバータ回路のことです。 真空管としては1AB6/DK96だけでなく1R5-SFで作ることもできます。 1R5(-SF)でも水晶発振で使えば引き込み現象も実用上問題にならないはずです。 実際に水晶発振のテストまでは進めてあります。
今回は1AB6/DK96で試すことにしました。 1AB6/DK96でも問題なく水晶発振が可能でした。 発振回路はピアースPG相当(無調整回路)で周波数は5.12MHzです。のちに写真がありますがきれいな正弦波(第1グリッド側で観測)で発振しています。
第4グリッドはB+直結の回路になっていますが、追加の試験によるとドロッパ抵抗(100kΩ)とバイパス・コンデンサ(0.01μFくらい)を挿入しておく方が良いようです。ドロッパ抵抗を挿入すると状態が変わるため各実測値は異なってきます。 回路図のまま作っても支障はないため、図中の数値や以下の評価結果はドロッパ抵抗なしの例で示しました。
入力の同調回路で昇圧された7MHz帯の受信電波は第3グリッドに加えられ、局発の5.12MHzと混合され差のヘテロダインで1.88〜2.08MHzに周波数変換されます。 なお、今回はコンバータ回路の要素実験なのでRFアンプなしのコンバータ単独でテストします。
実際の受信機ではコンバータの前に高周波増幅(RFアンプ)を設けます。 またこの第1周波数変換の後ろは、おなじく1AB6/DK96を使った第2周波数変換が続く予定です。
今回は第1周波数変換単独でテストする都合から、そのままテストできるよう便宜的に低インピーダンスにステップダウンして変換出力を取り出しています。そのため変換利得は犠牲になってしまいます。
既存のジェネカバ受信機で1.88〜2.08MHzを受信してみることで実際に7MHzのHAMバンドがどのように周波数変換されて聞こえるのか、コンバータ回路としての性能が感覚的にわかるはずです。
従って製作する受信機とはT2(出力同調回路)の部分が異なります。 受信機では2段の同調回路を重ねた形の可変同調回路を予定します。 その構成なら50Ωにステップダウンはしませんから2つの同調回路の結合損失程度の僅かなロスで済むはずです。 第1周波数変換回路としてはプラスのゲインになるでしょう。
【キーポイントは水晶発振】
やはりキーポイントは水晶発振にあります。 確実な発振が起こらなければ周波数変換はなされません。 第1グリッド、第2グリッド(プレートに相当)とフィラメント(カソード)の三極によるスタンダードな水晶発振回路を構成します。
ただし電池管はgmが低いため発振回路の部品定数を最適な状態に選ぶ必要があります。 たいへんポピュラーなラジオ用五極管:6BA6と同じような部品定数では発振してくれないことがあります。
発振強度はC4(10pF)とC6(27pF)によって加減します。 この定数は比較的強力に発振するように選んであります。 もう少し弱い発振でも大丈夫そうですが強めに発振するよう選びました。もちろん選び方が悪いと発振してくれません。 さらに1R5-SFとではかなり異なりました。
水晶発振子は5.12MHzですが、これは手持ちの都合です。 幸いスプリアスがバンド内に入ることはありません。 周波数の選び方が悪いとスポットでスプリアスが現れることがあります。
5.12MHzの水晶発振子は市販品があります。使ったものの形状はHC-49/Uです。他の形状の水晶発振子でも大丈夫ですが発振子によっては回路定数の見直しを要する場合があります。gmが低い電池管はゲインが低いため部品定数選びは幾分シビアというのが大まかな印象です。
【発振波形を見る】
第1グリッド側で発振波形を観測してみました。
19Vppあって、かなり大きいように感じるかもしれません。 これくらいで支障はないようです。 むしろ変換コンダクタンス:gcの点から見てこれくらい必要なようでした。 これが小さいとだんだん変換ゲインが低下してきます。
プローブを当てると対GND間のキャパシタンス:Cが増えたのと等価になります。 C4(10pF)が数pFくらい増えたことになります。 その結果、やや発振振幅は大きくなる(発振が強くなる)方向の影響が出ています。(グリッド電流Ig1を測りながらプローブを当ててみると影響がわかります)
【Philipsのデータシートでは?】
いくら低性能なコンバータ管とは言っても諦めずにフルに性能を発揮させたいものです。 動作状態確認のためPhilips社の1AB6/DK96のデータシートを参照しましょう。
横軸には第1グリッドに加えられる局発の電圧がとってあります。 描かれたカーブは変換コンダクタンス、プレート抵抗、第1グリッド電流です。
このうち、変換コンダクタンスに着目しましょう。 それによると局発の電圧が5Vrmsあたり(=14Vpp程度)でピークになります。それより小さくても大きくても変換コンダクタンスは低下します。 ただし大きい方の変化は緩やかです。
周波数が固定の水晶発振器ですから最適化はだいぶ容易です。 何か条件が変わって発振振幅が変動しても影響が少ないようにやや大きめの局発が加わるようにします。
グラフを読むと変換コンダクタンス:gcはだいたい300μ℧くらいになります。 6BE6の変換コンダクタンス:gc≒475μ℧と比べたら小さいのですがこれが電池管コンバータの実力です。 むしろ五十分の1にも満たない陰極(フィラメント or カソード)の加熱電力で300μ℧が得られるとは驚きとも言えます。
【受信してみよう】
RFアンプなしのコンバータ単体ですが、実験的にそのままアンテナを繋いで受信してみました。
7,000kHzが1,880kHzに周波数変換されますから、7006.64kHzを受信していることになります。 実際には局発の5120kHzに+250Hzほど誤差があるため、その分だけ高い周波数を受信しています。まあ、わずかですが。
スペクトラム表示を見てもらうとわかりますが、HAM局の電波が並んで結構良く聞こえます。 すこしノイズっぽい感じもしますが、コンバータ管直結ですからこんなものなのでしょう。 RFアンプをつければ間違いなく実用性能になります。 7MHzは空間ノイズのレベルが高くてNF≧20dBの受信機でも支障ないくらいです。 低性能な電池管で作った自称「通信型受信機」ではあってもまずまずの実力を発揮するでしょう。
定性的な評価だけでなく定量的なゲイン測定も試みました。 簡易な測定ですが、はじめにSSGで7010kHzで40dBμを与えます。 そのときのIC-756のSメータの読みを精密に記録(記憶)しておきます。 その後、IC-756にSSGから変換された周波数とおなじ1890kHzを直接与えて同じだけSメータが振れるようSSGの出力を加減します。 その読みと先の40dBμとの差からゲインがわかります。 簡易ですがこれである程度の精度でゲインが測定できます。
各部のインピーダンスが正確に50Ωではないと言った誤差要因はありますが10dBも狂うことはないでしょう。 実測によれば-4dBくらいのゲインになりました。 T2がステップダウントランスなので20dBくらいゲインを低くしている訳です。
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コンバータ管で「周波数変換できるのは当たり前だよ」 確かにそうなのですが、クリコンの製作例が見当たらなければ当たり前のことでも自身で確かめてみるのが近道です。 机上の検討だけでなく要素実験しておけば設計の確度はアップします。 今回は受信機の感度に関して重要なポイントになりそうな第1周波数変換回路(クリスタル・コンバータ)をテストしておきました。 意外に良い成績だったと思います。 まずまず使い物になる感触が得られました。
次回もHAM用受信機に向けた回路要素を検討したいと思っています。電池管を活用した通信機の可能性が広げられたらだんだん面白くなってきます。 ではまた。 de JA9TTT/1
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(つづく)←リンクfm
4 件のコメント:
ローバンドでしたらBPFの後に直接Mixでも良さそうな気もするのですが、やはり電池管ですと全体のゲインが不足気味になるのでしょうか?
もっともそれを確認するための実験と製作だとは思うのですが。Hi
しかし電池管、B電圧はそれほど低くは感じないのですが電流の少なさは凄いですね。
JE6LVE/JP3AEL 高橋さん、こんにちは。 今日は完全に初夏の陽気ですね。既に28℃。
さっそくのコメント有難うございます。
> 全体のゲインが不足気味になるのでしょうか?
データシートにノイズフィギャの記載がないのではっきりしませんが、おそらくNF≧20dBでしょうね。 RFアンプつければNF=10dBくらいにできると思っているんです。ゲインも欲しいですし。hi hi
> 電流の少なさは凄いですね。
そう感じますねえ。 4球ポータブルラジオでも全部で10mAくらいなのでかなり省エネです。 高価な積層乾電池が+B電源なのであまり流れると電池代がかさみますから・・・・(笑)
加藤さま
JH6WOF/JO4FSM 宮原です。
7極管クリコンの記事楽しく読ませていただきました。今から50年以上前ですが、高1中2の21MHzでの低感度と不安定性を克服すべく簡易型のクリコンを試作しました。その時の回路がまさに今回実験されている回路とほぼ同等でした。6BE6にHC-6U(6.8MHz付近)水晶の自励発振の第2高調波利用で1st. IF 7.4MHz付近のいい加減なものでした。それでもクリコンの安定度は抜群で、高1中2での直接受信とは雲泥の差があったことを鮮明に記憶しています。
JH6WOF/JO4FSM 宮原さん、おはようございます。 蒸し暑い北関東です。
いつもコメントありがとうございます。
> 簡易型のクリコンを試作しました。
高1中2も14MHzあたりまでが良いところで、HF帯のハイバンドは厳しかったです。TRIOからはSM-5/Dが売られていたくらいですから。hi hi
> それでもクリコンの安定度は抜群で・・・
そうですよね。 クリコンの安定した受信状態には感激します。 私は6mのクリコンを作ったのを思い出しますね。6R-HH2のRFアンプだったと思います。 ミキサは6CB6だったかも・・・
クリコン付加で受信機をコリンズタイプに改造(改良)するのが流行ったのを思い出しました。
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