2015年8月30日日曜日

【電子管】Making a stable valve VFO

【真空管で作る安定なVFO】
真空管も良いんだが
 さるBlog筆者によれば、私は真空管に冷たいのだそうです。確かに、真空管と言うだけで好意的に扱うことなんかしませんから愛好家から見たら冷淡だと感じるのかもしれません。だからといって真空管が嫌いなわけではないのです。 いや、むしろ逆でしょう。(笑)

 ただ、昨今のように球(タマ)なら何でも有り難がる風潮は看過できないと思っています。 良い物は良いですが駄球は何時になってもやっぱり駄目です。 無知につけ込んだ駄球の高額販売は購入者のお気の毒が目に浮かぶようです。まあご本人が納得していればそれも良いのかもしれませんが。(笑)

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 閑話休題(それはさておき)今どき真空管のVFOなんかどうするの?・・・と言われそうですね。 発熱があって安定するまでに時間がかかるから、SSBトランシーバではVFO部は早々に半導体化されたのでした。 TS-510が然り、それに続いたFTDX-400もFETを使った半導体式VFOになってずいぶん安定になったのを感じたものです。少なくともウオームアップは格段に早まったと思います。 FETなり普通のトランジスタなりの自己発熱は少ないのですからVFOの発振周波数はすぐに安定します。そう考えてVFOと言えば半導体式が全盛になって行ったのです。

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 半導体は消費電力が少ないから発熱も少ない・・・と言うのは本当でしょうか? 何を馬鹿なと言われそうですね。 しかし意外に消費電力はあるものです。 FETを使ったVFOで考えてみましょう。Vcc=9Vで、普通の発振回路ならドレイン電流:Id=3mAくらい流したいです。 ソース抵抗が入っているとそこでの消費分もありますが、単純に考えるとしてFETでの消費電力はP=Vcc×Idですから27mWと言うことになります。『なーんだ、たったの27mWかよ・・・』と言うなかれ。

 FETの熱容量は小さいのです。FETの内部チップは思いのほか温度上昇します。2SK192Aで考えてみましょう。規格表によれば熱抵抗から計算して1mWあたり1.25℃ほど上昇するようです。 だから27mWで34℃くらい上昇する計算ですね。少ないとは言え、スイッチオンからしばらく周波数変動するのは自己発熱→FET自身の温度上昇が原因なのでしょう。

 では温度で何が変動するのでしょう? 変化するのはゲート・ソース間容量とか、ドレイン・ソース間容量のような電極間の静電容量でしょう。 それぞれ3〜10pFくらいあって温度係数を持っています。 他にドレイン電流Idも温度で変化があって、FETの特性からIdが変わればgmも変化し、gmが変化すればミラー容量も変化することになります。 ですら単純な帰還容量:Crssの温度変化よりも影響はずっと大きくなります。このように意外にも半導体式VFOのウオームアップ・ドリフトは小さくないのです。 FETで考えましたがバイポーラ・トランジスタでも同じような物です。

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 真空管式VFOのウオームアップ・ドリフトが大きいのは常識でしょう。 なにしろ発熱が大きいからです。よく使われた6BA6クラスの球でもヒーターだけで6.3V/300mAですから2W近いです。プレート損失の方も、150Vで5mAなら0.75Wですからスクリーン損失など合わせたら合計で3〜4Wくらいの発熱はあるでしょう。
 自身の熱膨張による電極間容量の変化もあるでしょうが、周囲のCやLがモロに熱せられてしまいます。良く出来たVFOでさえ30分以上のウオームアップ・タイムを要するのは仕方ないでしょう。 ただ、真空管自身の電極間容量は意外に小さくて自己発熱さえ少なければ・・・と考えて、1T4や3S4と言うような電池管を使ったVFOが試みられたこともありました。 しかし電池管はgmが低いので周波数安定に有利な発振回路の定数を選びにくいとか、直熱管なのでマイクロフォニック・ノイズが大きいと言うような固有の欠点もあったのです。 それに、それらの球も少ないとは言え100mWくらいの発熱はあるので、半導体の登場もあって試みる人も現れなくなりました。

 長く忘れられていた電池管のVFOでしたが、英国のHAM、G4OEPは面白い球に着目しました。 彼が見つけたのは「補聴器用」の球です。 トランジスタの登場ですぐに廃れましたが、真空管を使った補聴器もあったのです。 補聴器はコンパクトな必要がありますから小さな乾電池の寿命は実用上たいへん重要でした。そのようなニーズから電池寿命を延ばすためにフィラメントの消費電流が極度に小さな真空管が作られたのです。 G4OEPはHivac社(英国)のXFY43と言う真空管を使いプレート電圧も12Vで済むVFOを完成させたのです。

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 しばらく前にG4OEPのWebsiteを見て、面白いなあと思っていました。 私と同じように面白いと思ったらしく、彼に続いてG0UPLも試作したようで、こちらも興味深い内容です。 ただXFY43と言う球はことに入手困難らしく代替の球ではEp=12Vで発振してくれません。 いろいろ試してもG4OEPの再現はついに出来なかった様でした。

 以下、だいぶ前置きが長くなりましたがG4OEPとG0UPLの試作例を紹介しながら私の試作結果も紹介したいと思います。 なお、限られた貴重な真空管が本当の自作HAMに渡るよう、興味本位のお方は手を出さないのがマナーでしょう。

 優れたVFOは真空管があれば作れる訳ではありません。 温度特性に優れたコイルやバリコンと言った主要パーツのほか、ダイヤル減速メカなどVFOの製作に不可欠な機構部品の入手はほぼ絶望的です。従って球だけ手に入れてもまったくもって無駄でしょう。 以下写真で見て鑑賞するだけに留められたいと思います。 もちろん、既にVFO用のパーツをお持ちなのでしたらぜひお試し下さい。

写真説明:左の横に寝たサブミニチュア管が「補聴器」用に開発された真空管:6418と6088です。いずれもJAN(Joint Army and Navy Standard:陸海軍統一規格) 規格品ですが、軍隊が補聴器を大量に必要とする筈はなく、低消費電力を活かし電子兵器用として転用されたものでしょう。なお、右のミニチュア管:6AN5WAは大きさの比較用であり、補聴器の球ではありません。

 【G4OEPのハイブリッドVFO
 G4OEP Dr.Andrew Smith氏が製作したVFOの回路です。G4OEPのWebsite(←リンク)で作品の写真もご覧になって下さい。 この回路図には記載はありませんが温度補償のためにバイメタルを使った小容量コンデンサを付加するなど興味深い実験記事があります。 周波数安定度の良い自励式発振器を実現するための非常に示唆に富んだ記述があるのでお奨めします。

 発振回路はColpitts(コルピッツ)型です。 ごく一般的な発振回路ですが、周波数安定を問題にすると真空管の電極間に入っているコンデンサ、回路図で言えばC4やC5を大きくしなくてはならず、発振させるためには真空管は相応のゲインが得られるものが必要です。

 XFY43のフィラメント電圧・電流はEf=1.25V/If=10mAです。またプレート電圧:Ep=12Vでもそこそこ大きなgmがあるらしく、図のような回路定数で確実に発振するのだそうです。 但しこの発振回路はXFY43なら再現可能かもしれませんが、他の球では難しそうなのです。 実際、私もほぼ同じ回路定数で試してみましたがまったく発振してくれません。 真空管はXFY43と同じような補聴器に使うためのもので、Raytheon社の6418と6088を試しました。

 【G0UPLのVFO回路集
 同じく英国のHAM:Hans Summers氏が製作したVFOの回路です。G4OEPの製作にinspireされたのは間違いないでしょう。 まず最初は左図のFig.1から始めたようですが、プレート電圧:Ep=12Vでは発振せず、少なくともEp=25V以上が必要でした。発振管はXFY43と同じく補聴器用のCK512AXでフィラメント電圧・電流は0.625V/20mAです。

 フィラメント・パワーが小さい球は「パービアンス」が小さく、当然gmも小さいのです。従ってゲインは低いのです。 それで幾らかでもgmが大きそうな6088を使って試したのがFig.2です。6088のフィラメント・パワーはCK512AXの2倍あります。 発振回路は同じくColpitts型です。 しかしこれもEp=12Vでは発振しません。少なくともEp=27V以上が必要で、これではCK512AXと同じような物でしょう。

 おなじ6088を使いながら回路変更したものがFig.3です。Colpitts回路をやめてFranklin(フランクリン)回路に変更しています。Franklin回路は2球使うのでゲインは2段の積になるので有利なはずです。 しかし、同じくEp=12Vでは発振しないのでした。 同調回路との結合が疎になることから、むしろEpは高い必要がありました。よく見ると1段目の6088の負荷は1kΩですからゲイン・アップどころかむしろ減衰器になっています。
 彼はEp=12Vに拘らなかったようで、これで満足した模様でした。 実際、ヘテロダイン型VFOに纏めて実用にしていますが、他の部分に普通の球を使っているため必ずしもEp=12Vである必要はなかったのでしょう。 精力的な実験過程が写真とともに纏められています。G0UPLのWebsite(←リンク)も訪問されることをお奨めします。

 私からのコメントですが、実は6088があまり良くなかったのではないかと思います。フィラメント・パワーはCK512AXや6418よりも倍も大きいのですが、Ep=12Vではgmが急に低下してしまうらしく、ゲイン不足なのでしょう。これは、後ほどの私の実験でも確認されています。

 【私もVFOを試作中
 発振しないVFOは価値がありません。まずは確実に発振させることを優先に実験を進めました。 どんな発振回路でも発振はできる筈と思うかも知れませんが、それはまったくの幻想です。ゲインの低い球を使うと回路の選択が悪ければ発振しません。

 最初はG4OEPと同じColpitts発振回路から始めました。発振管は6418と言う補聴器用です。 6418は補聴器用としては最終世代らしく、フィラメント電圧・電流は1.25V/10mAです。プレート電圧:Epが低くてもgmはそこそこの大きさがあるのですが、Ep=12Vではぜんぜん発振してくれませんでした。

 次に、発振回路にはColpitts型の変形であるGouriet - Clapp(グーリエ・クラップ)型も試してみましたが同じように発振起動できません。 これらの発振回路は非常にポピュラーですが、意外に発振条件が厳しいようでした。 発振回路の数値的な解析はTESLA研究所Vačkář氏の執筆によるTesla Technical Report(Dec.1949)(←リンク)に詳しいのですが、他を試みた方が有望そうでした。

 そこでおなじColpitts型の変形であり、Vačkář氏のレポートにあるいわゆる「Vackar型」でやってみることにしました。 発振条件の厳しさに大差はないものの、回路定数を良く選んでやれば確実に発振させることに成功したのです。発振管は6418で、もちろんプレート電圧:Ep=12Vです。

 写真手前に見えるステアタイト・ボビンに巻いたコイルが周波数安定度の点では有利ですが、その左に見えるトロイダル・コアに巻いたコイルも悪くありません。旨く行った発振回路は次項に示しました。

 【私のハイブリッドVFO回路
 先に書いたように発振回路はVackarです。 Vackar発振器はヨーロッパ生まれなので、米国技術圏の我が国ではあまりポピュラーにはなれませんでした。これは米国でも同じでした。いわゆるNIH(Not Invented Here)と言うやつです。

 Vackar回路は一時期、驚異的な性能(周波数安定度)の「チェコ・テスラ発振器」として注目されたことがありました。(JA-CQ Hamradio 1968年8月号pp170〜174の記事など。下記のコラム参照を。) TESLA研究所のレポートで詳しく解説されていた関係で、「TESLA発振回路」などと呼ばれましたが、論文の発表当時ならともかく、今では正しくはVackar(バッカー)型と言うべきでしょう。

 正規のVackar回路は発振管とLC共振器との結合ができるだけ疎になるように設計されています。しかし、ゲインの小さな補聴器用の球では同様の回路定数では発振不能です。 従って、Tesla Technical Reportにあるような回路定数の選び方はできません。 例えば容量比:C4/C3=6が推奨値ですが、それでは発振できないのです。そのような訳で各部の定数はかなり弄ってありますから、もはやTTT式Vackar回路と言うべきものになっています。(笑)

 6MHz帯のVFOを例示していますが、3〜8MHzで概ね類似の回路定数で行けます。 もちろん周波数が高くなるほど発振は難しくなるので、1〜2MHzくらいの低い周波数で設計すると非常に有利でした。 逆に10MHz以上で発振させるのは徐々に困難になります。

コラム:「チェコ・テスラ発振回路の実験」記事の顛末
 JA-CQ誌1968年8月号に掲載されたこの記事はJA1DXG加藤 丘さんの執筆で、元ネタは同誌の1961年4月号「技術展望」の短い記事です。 残念なことにその「技術展望」のさらに元になった米誌(米CQ誌Dec.1960:"Czech Tesla Oscillator")に重大な間違いがあったのでした。もっとも、この米誌の記事もルーマニアのアマ無線の雑誌からの引用らしいのでどこで間違えたのか今となってはわかりませんが・・・。 そのため当初の実験では異常発振して正常に動作しませんでした。良く回路を考察して半信半疑で部品の入れ替えを行なって取りあえずの成功を見ています。「な〜んだ、これってVackar回路じゃん!」と言うオチでした。(当時すでにVackar回路は既知でしたので) 引用して記事化する際に具体的に言えば回路図のC3とC4を誤植したのが元凶でした。原本のTesra Technical Reportにはもちろん誤りはありません。原典を参照しない引用記事の危うさと言ったものを感じます。もっとも、当時はInternetのような強力な情報収集手段はなかったのですからやむを得なかったでしょう。 そのほか、Vackar回路VFOに関してはJA1FG:梶井謙一OT(故人)執筆による「送信機の設計と製作」CQ出版社1964年12月10日発行:pp57〜64に写真入り製作例があります。いずれも真空管式です。Vackar-VFOは半導体時代にも通用する発振回路です。

Vackar回路VFOとチェコ・テスラ発振器(実はVackar回路と同じもの)については、今でも情報を求める人があるのでこの機会に私の調査結果を纏めておきました。これは一私見ですがGouriet -Clapp回路よりも安定度に優れるように思います。

 【発振管は6418
 発振管の話しをしましょう。6418は補聴器の出力管です。音響効率の良いイヤフォンに数mWのパワーを送り込むために作られました。この6418の前段にはマイクロフォニック・ノイズに留意した6419が使われ、補聴器としては2段増幅になっていたようです。なお6419のフィラメント・パワーはさらに小さいですがgmもずっと低いので発振管には不適当と思われます。

 6418はフィラメントが改良されています。僅か12.5mWのフィラメント・パワーでEp=15Vでgm=200μ℧が得られるのは素晴らしいと思います。プレート電圧:Ep=12Vではプレート電流とスクリーングリッド電流を合わせて200μAも流れません。従って、トータルの消費電力はせいぜい15mWです。これは先に書いたようにFETを使った発振回路をかなり下回る数字です。(しかし、6418は電子デバイスとして見れば恐ろしく低性能です)

 15mWの消費電力でこの大きさのデバイスの温度上昇は僅かでしょう。もちろん、内部は真空ですしフィラメントの輻射熱で電極は加熱されるに違いありません。しかし、物理的な大きさから見てすぐに熱放散されてしまうでしょう。 おそらく数℃の温度上昇も無いはずです。 ですから電源のON/OFFでもすぐにもとの周波数で発振を始めます。

 ウオームアップ・タイムが短いだけでなく、周囲温度の影響を受けにくいと言うのも大きなメリットでしょう。半導体の電極間容量は温度の影響を受け易く、自身の温度上昇だけでなく周囲温度の影響も大きく受けます。真空管の場合は、基本的にガラスや電極の熱膨張による物理的な寸法変動に起因する変化のみでですから、半導体のジャンクション容量のような大きな温度変化はないと考えられます。

 従って、生活環境程度の周囲温度の変化では真空管の各電極間容量はあまり変化しないと考えて良いでしょう。 補聴器用電池管を使ったVFOの周波数変動はその殆どがコイル:Lやバリコンを含むコンデンサ:Cの温度変化によるものと考えて良さそうでした。従って、良いLCを使えばそれだけでかなり良好な周波数安定度が得られることになります。

参考:gm=200μ℧の球に1kΩの負荷でアンプを作るとゲインは0.2倍です。要するに減衰器になってしまいます。10kΩの負荷でもゲインはたったの2倍です。 だからと言って数MHzの高周波で100kΩの負荷インピーダンスを実現するのは結構難しいのです。それに球自身のプレートインピーダンスも低下してきます。だからVFOは発振困難になるのです。

 【バッファアンプは2SK544F
 周波数安定にとって発振回路とともにバッファ・アンプも重要なポイントでしょう。ここでは2SK544Fを使っています。

 VFOではソース・フォロワを重ねる形式のバッファ・アンプを良く見掛けますが、この種のFETでは図の形式の方が有利です。2SK544は帰還容量が非常に小さいのでこうした形式の方がゲインもあって有利なのです。

 このBlogで何度も書いているように、2SK544F(三洋)は2SK241GR(東芝)や2SK439F(日立)でも良いです。2SK19や2SK192Aのような帰還容量:Crssが大きなFETは同じ回路では使えないので注意して下さい。代替できません。

 アウトプット・トランスは非同調形式です。概ね50〜100Ω程度の負荷が適しています。増幅している関係で大きめのパワーが得られるので後続のステージに十分な発振勢力を供給できます。 トランスは写真のような既製品ではなく、自作のトリファイラ巻きでも十分です。代替品の製作方法は回路図に書いておきます。具体的な巻線方法はBlogを前の方に辿ってもらえば写真入りで説明されています。

るんだろうか?
 6418のフィラメント・パワーはたったの12.5mWです。真空管と言えばオレンジ色に燃えるヒータ/カソードをイメージするでしょう。フィラメントから熱電子を放射させるためにそれなりの温度にはなっているはずですから・・・。

 流石にわずかでも明るいと、光っては見えませんが暗黒の状態で注意深く観測すれば写真のように赤く光るのが確認できました。 無機質なガラスと金属片で出来た電子デバイスもこうして光る様子を見ると息吹が感じられるから不思議なものです。

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 周波数安定性を重視するVFOですからスイッチ・オンから周波数変化の時間経過を示す必要があります。 周囲温度の変化に対する変動も観測しなくてはなりません。 それらは、このあと丈夫な箱に入れてVFOの形にしてから行ないたいと思います。 ただ、BBでの試作であっても周波数が安定しているのは十分実感できました。

 まず、ウオームアップ・タイムは非常に短いです。 しばらく通電しておいてから、電源をOFF・・・もちろんフィラメントもOFF・・して、5分ほど経過後に電源再投入してみます。 周囲温度の変動や風の流れも変わるので完全にもとの周波数には戻らないこともあります。しかし、数秒で殆どもとの周波数に復帰するのが観測できました。
 連続した周波数変動の観測では周囲温度が最大の変動要因でした。 真空管による変動は殆ど無いのでそれとは無関係にコイルやコンデンサの温度変化がそのまま現れます。 ですからG4OEPがバイメタルを使った「コンデンサ」で温度補償しているような手法が有効なのでしょう。 きちんとした箱に入れ、LCに直接風が当たるのを避け周囲温度の影響が緩やかになるようにしたうえで「温度補償コンデンサ」を採用すればウオームアップ・タイムが短く、周囲温度による変動が少ない周波数安定なVFOが完成します。

少々趣旨がぼやけてしまいましたが、要は「消費電力の極めて少ない真空管を活かしたVFOは半導体式に勝る」かもしれない・・・と言うお話しです。真空管好きが球を贔屓にすると言った話題ではなくて、電子デバイスの特性を十分活かす話しがテーマです。

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 実用的なVFOは回路技術だけでは完結できません。ギヤダイヤルのようなバリコンの減速メカは必須です。 温度特性の良いコイル作成のためには良質のボビンも必要でしょう。 もちろん、スムースで温度特性の良いエアー・バリコンも必須のパーツです。 すでにそうしたパーツは市場から姿を消してしまいました。 こうした真空管と回路的な工夫で周波数安定なVFOの可能性が開けたとしても、実用品に纏め上げるにはまだまだ様々なハードルが待ち受けているのです。de JA9TTT/1

(おわり)

2015年8月14日金曜日

【回路】8MHz Carrier Oscillator

【8MHz Ladder Filter用のキャリヤ発振器】
 【8MHz Ladder Filterの特性とキャリヤポイント
 製作したラダー型フィルタはSSB用のものです。(参考:フィルタ製作編←リンク) SSB送受信機にはキャリヤ発振器が必要ですが、その周波数が問題です。

 市販のクリスタル・フィルタなら仕様で中心周波数が決まっていて、キャリヤポイントの周波数も決められているのが普通です。 例外的に昔々の国際電気のHAM用メカフィルのように、個々に実測特性データが付属していてキャリヤポイントもそれぞれ違っていたなどと言う例もありましたが、普通はキャリヤポイントの周波数は仕様項目でしょう。

 自作のラダー型クリスタル・フィルタの場合、使用する水晶振動子(水晶発振子)の特性によってフィルタの中心周波数は異なってきます。 また、通過帯域幅を幾らで設計するのか、ポール数(水晶の数)は幾つなのかによってもキャリヤポイントの最適周波数は異なるものです。 従って、出来上がったフィルタについて実測によって決めなくてはなりません。一般的にキャリヤポイントは通過帯域の平坦部から20dB下がったところに置くことになっています。 傾斜の急峻な「良く切れるフィルタ」なら-15dBあたりに決めることもありますが、普通は-20dBが無難な所でしょう。あまり通過帯域側に寄せてしまうと逆サイドの漏れが目立ってしまいます。

 写真の例は、8MHzの中華クリスタルを使って製作した6ポールのSSB用クリスタルフィルタの特性です。通過帯域幅は2.7kHz(@-3dB)で設計しています。写真のように、USB用のキャリヤ周波数は7998.633kHz、LSB用のキャリヤ周波数は8002.013kHzでした。 これらの周波数が得られるような発振器を用意することになります。 参考:-20dBのポイントに於ける帯域幅(周波数差)は実測で3350Hzでした。これは設計ソフトで得られた数字と一致しており設計精度と製作再現性の良さがわかります。

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 ところで、自作のラダー型フィルタでSSBジェネレータを製作すると問題に遭遇することが多いようです。即ちフィルタと同じ水晶を使うと希望のキャリヤ周波数で発振できないと言う問題です。
 以下は自家用の備忘資料なので数値は直接役に立たないかも知れませんが手法は使えるはずなので困った時には思い出して下さい。 もちろんフィルタの自作などされないお方には無意味なので以下を読む価値はありません。 例によって興味本位で覗き見する必要はありませんから早々にお帰りを。ご経験もないのにヨソで蘊蓄ばなしをされても困りますので。(笑)

 【SSBジェネレータの回路変更
 フィルタを製作したものと同じ水晶振動子(発振子)でキャリヤ発振を行なうためには発振回路の工夫が必要になることが殆どです。 左図はそれに対応した変更回路です。ここでは一例としてダイオード・バラモジを使ったSSBジェネレータを示していますが、バラモジにトランジスタやFETを使ったSSBジェネレータにも同じように適用できます。

 USB用にはかなり下の方へ動かさなくてはならないのが普通です。 この例でも8000kHzよりも約2.4kHzほど下げなくてはなりません。単にトリマコンデンサをかませて調整しただけではそこまで下げるのは難しいですからコイル:Lを付加した回路が必要です。C6+C7を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、7996.738〜8001.016kHzが可変できました。USB用としては7998.633kHzが必要なので可変範囲にあります。

 また、LSB用には約2kHzほど上で発振させる必要があります。 USB用の回路を兼用する方法ではそこまで上げられないので、この例では独立した回路にしています。 もちろん標準的な負荷容量では8000kHzで発振してしまうので、かなり小さめの負荷容量にする必要があります。C10を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、8000.789〜8002.379kHzが可変できました。LSB用の方は8002.013kHzが必要ですが、多少のマージンがあるので問題はありません。事前になるべく周波数が高い方へばらついた水晶振動子を見つけておくと有利でしょう。

 発振回路をスイッチする形式で周波数の切換えを行なっています。このように水晶発振子は2つ必要になってしまいますがやむを得ません。 回路の切換えはバイアス回路の切換え式なので遠隔のスイッチで操作できます。 それぞれの発振出力はダイオードスイッチで切り替えています。 これはこの種の切換えでは常套的な方法でありメーカー製のRigでも良く見かける手法です。

 この切換えのダイオードは1SS53を使っていますが一般的な小信号用のスイッチング用ダイオードなら何でも良いです。(例:1S1588、1S2076A、1N4148など)
 言うまでもないとは思いますが、トランジスタは2SC372Y→2SC1815Y→2SC2458Yなど小信号用なら代替できるもの多数です。 またFETは2SK544E→2SK241Y→2SK439Eで良いです、2SK19Yや2SK192AYは不適当です。もし2SK19Yや2SK192AYを使うなら中和回路が必要になるので面倒でしょう。カスコードアンプにしても良いですが部品数が増えて面白くないと思いますから、指定の物とその代替候補がお奨めです。

 今回はマイクアンプを低インピーダンス型マイクロフォン用に変更しておいたのでご参考まで。 その他、このSSBジェネレータ全般に関しては前のBlogを参照して下さい。

試作で確認する
 使用する水晶発振子の特性によって最適な回路定数は異なって来ますから部品定数を追い込む目的で試作してみました。

 概ね机上設計のままでも大丈夫でしたが、細部の定数を最適化しています。 上記の回路図は試作結果を反映したものになっています。 自分自身の部品事情に合わせた回路なので各自の事情で幾らか加減は必要でしょう。 また、この例では8MHzですが、±1MHz以上違った周波数で作るなら見直しが必要になるかもしれません。

 特に、USB用の発振回路にあるインダクタ:L1(22μH)は最適値を探す必要があるはずです。 どんな場合でも同じ部品定数で良い訳ではないのでそのおつもりで参照して下さい。もちろん、個別の事情による周波数変更のご相談には応じきれないので各自で検討をお願いします。回路は決まっていますから、そんなに難しいことではありません。

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 市販のクリスタル・フィルタには組み合わせて使うためのキャリヤ発振用の水晶発振子が用事されていました。 たとえば、9MHzのSSBフィルタなら、8998.5kHzと9001.5kHzの水晶発振子でした。 そのような水晶なら指定の回路でちょうど良い周波数に合わせられます。まあ、これは当たり前のことでしょう。 しかし、自作したクリスタル・フィルタにはそんなに都合の良いキャリヤ発振用の水晶がある筈もなく、意外に苦労させられたと言う話しを良く耳にします。

 ここで紹介した方法が万能だとは思いませんが、USBなりLSB用の周波数を得るための例として試作候補にでもしてもらえたら幸いです。 なお、CW用のBFOではフィルタの中心周波数より500〜800Hz程度離すだけで良いのでずっと容易です。 SSB/CW兼用のRigならこの例と同じ方法で3種の周波数に切り替えられるよう設計するとよいでしょう。

 SSB用のバランスド・モジュレータから始まって、自作のクリスタル・フィルタとそれに合わせたキャリヤ発振回路の検討まで進んで来ました。取りあえずこのシリーズはおしまいにします。 IC-DBMの活用がまだではないかと言うご意見はあるでしょう。しかし、それらは一般に標準使用例がデータシートに記載されていて目標にすべき数値も規格で示されています。 従って試作していて何か新しい知見でも見いだせた時には扱ってみたいと思いますが、標準的な用法は省略させてもらいます。 今回のBlogテーマに限らず、一連の関係記事に対するご意見、ご感想、ご要望などお待ちしています。de JA9TTT/1

(おわり)

2015年7月31日金曜日

【回路】8MHz Ladder Filter Design , Plus+

【8MHzのラダー型クリスタル・フィルタを作る:プラス+】
 【ラダー型フィルタ設計ソフト
 既に見て来たような「素晴らしい特性」のラダー型フィルタを作るには、従来は面倒な手計算あるいはBASICなどで自作の補助プログラムを書かなくてはなりませんでした。

 それでも製作は可能だったのですがかなり面倒でした。間違いも起こり易いことから「設計+特性シミュレーション」の機能を併せ持ち、ビジュアルに結果を確かめることができる「決定版」とも言えるラダー型クリスタル・フィルタの設計用ソフトウエアが開発されました。 そのお陰で、新ラダー型フィルタ設計製作のハードルは大きく下がったと言えるでしょう。 そうでなければ大半の人は古くさいCohn(コーン)型での設計に甘んじるしかなかったのです。画期的と言って良いでしょう。

 これはドイツ人のエンジニア・ハムであるDJ6EV:Horst Steder氏によるものでARRLの技術誌であるQEX誌の2009年冬号において「 Crystal Ladder Filters for All」とタイトルされた記事とともに紹介されました。 今でも自由にARRLのWeb siteからダウンロードすることができます。ソフトウエアはQEX誌のサポートファイルの場所にあって、2009年度のフォルダの中にあるので、左写真のものを見つけてダウンロードします。

使うのは簡単!
 ARRLのWeb siteに置いてあるものは、.zip形式で圧縮されたものです。 ダウンロードしたら早速解凍しましょう。

 解凍すると「11x09 Steder-Hardcastle」というフォルダが現れ、中に4つのファイルが入っています。 「DishalHelp」というpdf形式のファイルが使い方の説明書です。 平易な英文なので読むのは難しくありません。一度はどんな内容が書いてあるのか目を通しておくべきです。 多彩な機能が簡潔に紹介されているのであとは使いながら参照して行けば良いと思います。

 プログラム本体は左写真の「Dishal2026」と言うものです。これをダブルクリックすれば起動します。 残念なことにWindows用のアプリケーションなのでMacでは使えません。 それほど高性能なPCは必要としないのでWindows XPの時代のマシンでも十分実行可能です。 私はWindows7が平行して走っているMac-miniで起動しましたが快適に動作しています。

 フォルダ内には更新履歴やバージョン情報などのテキストファイルが入っていますが特に見る必要は無いと思います。

参考:Warrington Amateur Radio Club(英国)のサイトに、Jack Hardcastle, G3JIRによって最新バージョンDishal2031がアップされています。あまり違いは無いようですが、Windows OSによっては新バージョンの方が良いこともあるのでリンクしておきます。→ここから. (追記:2015.08.25)

 【テスト用データがなくては!
 起動したらさっそく確かめてみたいのが人情でしょう。 しかし、幾ら優れたソフトウエアでも必要なデータを与えなければ意味のあるアウトプットは得られません。

 必要なデータと言うのはこれから実際にフィルタ製作で使用する水晶振動子の「水晶定数」のことです。 「水晶定数」については前回のBlogでも出て来ていますので、既におなじみかもしれません。 測定方法も紹介しているので既に求めている人もあるでしょう。 ですが、まだ何も手をつけていない人が大半だと思いますから、私が実測した水晶振動子の「水晶定数」を再度掲載しておきます。プログラムを動かす「お試し用」に使って下さい。 フィルタ仕様の一例も書いておきましたのでさっそく設計して試すことができるはずです。同じ結果が得られたならソフトウエアの確認は終了です。

 【さっそく使ってみよう
 ビジュアルにわかり易くできているので、起動して一目見ただけでわかってしまうかもしれません。 ごく簡単に手順を追って説明してみましょう。

①水晶定数をインプットする:このソフトが設計計算で必要とする「水晶定数」は(a)モーショナル・インダクタンス:Lmの値あるいはモーショナル・キャパシタンス:Cmのどちらかの値と(b)実測で求めた直列共振周波数:fsの値、そして(c)水晶振動子の並列キャパシタンス:Cpの値でです。 この3つを上欄の入力窓にマウス・カーソルを合わせてクリックしてからインプットします。 Lm或はCmは水晶定数の測定用治具などを使って予め実測し算出しておきます。 設計計算に必要な「水晶定数」はネットの検索で見つかるようなものではありませんので、手元にある水晶振動子を実際に調べる必要があります。また、並列容量:CpもLCRメータなどを使って精度良く実測しておきます。 直列共振周波数:fsは無調整水晶発振回路における発振周波数で代用しても殆ど誤差は生じません。

②フィルタの仕様をインプットする:必要なフィルタの仕様項目は、(a)フィルタの-3dB帯域幅:B3dB(単位はkHz)、(b)通過帯域に許容するパスバンド・リプル:PB Ripple(単位はdB)のほかに、(c)使用する水晶振動子の数:# of xtals(単位は個)の3つです。 パスバンド・リプルはゼロをインプットすることもでき、その場合はバターワース特性で設計することになります。 ただしバターワース特性は通過帯域から減衰領域への肩の特性が丸くなり、減衰の傾斜が緩やかになります。 0.1dBなり0.5dBのパスバンド・リプルを認めたチェビシェフ特性で設計したほうが総合的に見て良いフィルタになると思います。 このあたりリプルの値を変えたり、水晶振動子の数を変えながら試してみたらビジュアルに変化がわかるでしょう。なお高度な特性ほど実際の製作が困難になるのは当然です。

③特性表示の設定:結果は表とグラフで表示されます。グラフにするとわかり易いですが、細かく見るのか大まかに見るのか、通過帯域の特性を詳細に見たいのか、帯域外の特性を見たいのか・・・など、ニーズは様々でしょう。 グラフ表示の周波数幅を変えられるので上覧の右端の窓にkHz単位でインプットしておきます。 図の例では中心周波数から±5kHz・・全体で10kHzの範囲で表示しています。

 以上、左の図中にも説明を書いておいたので参照して下さい。 これらの必要項目のインプットが済んだら、画面右上の隅にある「Calculate」(計算)ボタンをマウスでクリックすれば計算されて結果が直ちに表示されます。 通過帯域幅を変えてみる、水晶振動子の個数を変えてみるなど部分的な変更をしたなら再度計算させてみれば変化の様子が手に取るようにわかるでしょう。

 もちろん、特性シミュレーションを幾らしたところで、現実のクリスタル・フィルタにしなくては「絵に描いた餅」の域を出ません。 左の中段にラダー型フィルタを製作する際に必要なコンデンサの設計値が表示されるので、それに従って製作することになります。 値は0.1pFまで細かく表示されますが、たいていの場合、近似のE系列の数値から選んだコンデンサの単独あるいは、2個の並列で値を実現すれば十分だと思います。 テスト用データで示したフィルタの製作例ではそのようにして選定した実際に使用するコンデンサの値が記載してあります。

 いろいろ試しながらあとはどんなフィルタに仕上げるのかそれぞれで試行錯誤してみたら面白いでしょう。 他に水晶定数を求めるための補助プログラムなども内蔵されていますが、説明は省略しました。補助機能の使い方はHELPファイルに書いてあるので参照して下さい。

頒布基板の注意
 前のBllogで案内しましたが、フィルタ専用基板が完成したので既に頒布を開始しています。 何名かのお方にはさっそく頒布していますが、使う時にすこし注意が必要なので写真説明しておきます。(頒布に関しては前のBlogを参照下さい)←頒布終了しました。2015.08.11

 スルーホール付き両面基板で製作しましたが、表側のランドパターン少し大き過ぎるようです。 水晶振動子を密着して基板にハンダ付けするとリード線のランドパターンがケース(GNDに接続する)と短絡状態になる恐れがあります。 水晶振動子を0.5〜1.0mmくらい浮かせてハンダ付けすれば大丈夫です。水晶振動子を手芸用のガラスビーズのような絶縁材で浮かせるのも良いでしょう。 製作される際には注意して下さい。 コンパクトで作り易いので市販のクリスタル・フィルタのように扱えるフィルタ・モジュールが製作できます。

                 ☆

 気の早い人はご自身で探索し、既に設計ソフトウエアを走らせているようです。 真っ先にソフトウエアの在処をお知らせしても良かったのですが、水晶定数がなくては試すことすらできませんし、製作事例がなくては具体的イメージも湧かないでしょう。 逆に「完成品」の方から紹介して、どんなクリスタル・フィルタが作れたのか目で見てもらった方がインパクトもありそうです。

 そのような訳で、設計ソフトウエアの紹介が最後になってしまいましたが、走らせるだけなら誰でもできますし、ごく簡単なことです。しかしフィルタ特性に関して一切の造詣も持たないのではその意味も意義も理解してもらえないでしょう。 そのような意図があったことをご理解頂けたらと思っています。 先回りされるのも結構ですが、順を追ってご覧頂いた方が論点が明確になるよう心掛けているつもりです。 性急に結果だけを求めていたのでは、本質がどこにあるのかを見失いかねません。

                 ☆

 一連のBlogですが、著明OMの執筆を理由に未だに古色蒼然たる記事を有り難がるようなお方には関係ない話題かもしれません。 しかし世の中は常に進歩しています。 ご紹介したような有益かつ実践的な研究成果がJA-HAMに広がらないのは実に悲しいことだと思っています。 アマチュア無線コードにもあるように、「アマチュアは、進歩的であること」を実践したいものです。 結局、平易とは言え英文の記事しかないのが問題なのでしょう・・・と言うことで、このBlogで簡単に紹介した内容に加えて、より詳しい内容で雑誌への掲載も予定されているのでもう少し具体化したらお知らせしましょう。 ココまで書いて思い出したのですが、チューニングの話しが飛んでしまいました。ww そちらも纏めて記事でやるしかありませんね。お楽しみに。(爆)de JA9TTT/1

(おわり)

続編あり→こちら

追記:フィルタ基板はまだ幾らか頒布可能なので希望のお方はお早めにどうぞ。(2015.08.10現在、あと1名で終了)←頒布終了しました。たくさんのご要望有り難うございました。ぜひとも有効活用されてください。2015.08.11

2015年7月16日木曜日

【回路】8MHz Ladder Filter Design , Plus

【8MHzのラダー型クリスタル・フィルタを作る・プラス】

完成したラダー型フィルタ
 写真は使用する状態に組立てた8MHzのラダー型クリスタル・フィルタです。

 前のBlog(←リンク)のようなテスト用の構造では実際に使う時には不便でしょう。 小型化してモジュールのように作っておくと扱い易くなります。 水晶振動子のケースは端子から絶縁されていて、浮いているので必ずアースしておきます。 ニッケル鍍金なのでややハンダの載りが悪いですから事前にハンダ付け部分を磨いておくとハンダが容易です。 過度に加熱して水晶振動子の特性が変化でもしたら元も子もありませんから・・・手早くやります。

 このように独立したモジュール化は必ずしも必要ではありません。水晶振動子やコンデンサをSSBジェネレータ基板に直接組み付けてしまっても良いでしょう。 その方がスペースも小さくて済むし性能も出し易いように思います。 ここでは、単独で性能評価する都合でモジュール化しておくことにしました。他へ流用するのにも便利ですので。

参考:この部品配置でパターン化した専用の「フィルタ基板」を製作しています。両面スルーホール、グリーン・レジスト、シルク印刷付きです。少量で申し訳ないが頒布できる見込みです。もし入手希望があればコメント欄やE-mailにて表明を。基板製作はJR2FNK/1鶴田さんにお願いしました。配線パターンには私の要望も反映されてます。

基板完成:2015.7.25】
 追記です。 発注していたフィルタ基板が完成しました。写真のようになっていて、旨く出来上がったようです。

 両面スルーホール基板ながら、片面のみベタGNDにしたので不要なストレーキャパシタの付加は最少限になっています。 但し「おもて面」で水晶振動子の足の回りのパターンと水晶のケースとのクリアランスが不足しているようなので、水晶振動子はやや浮かせてハンダ付けする必要がありました。それ以外はまったく問題ないです。標準的な1.6mm厚の基板にしたのでフニャフニャせずしっかりしています。

 端子は細ピン・ピンヘッダの5ピン分から途中を抜いた3ピンがマッチしますのでソケット形式のフィルタにすることもできて便利です。もちろん、2.54mmピッチの蛇の目基板に搭載することもできます。 それほど枚数がないので先着順で予定数量に達するまで頒布します。 もちろん、従来型のラダー型フィルタの製作にも使えるので持っていたら便利でしょう。

 頒布ですが希望者にお一人3枚ずつ(フィルタ3つ分)で行ないます。例によって、SASE+余剰部品あるいはワンコイン(¥500)と交換でお送りします。 商売ではありませんので利益などは考えていませんが、無償では死蔵するだけのお方が申し込むそうなので低額の有償にさせてもらいました。 基板化したことで性能が出し易くて、均質性に優れたフィルタが作れるでしょう。 まずはメールを。(注:SASEとは返信用封筒のことで、自分の住所氏名を書き82円切手を貼ったものです)←頒布終了しました。2015.08.11

測定用セットアップ
 出来上がったフィルタの特性を見ておきたいと思います。

 写真のような測定アダプタを製作してみました。 このようなものは必須ではなく、測定の都合に合わせて作ったに過ぎません。 端子は2.54mmピッチになっているので、同じピッチのインライン型ソケットをカットして使用しました。

 BNCコネクタとの間に入っている抵抗器は、スペアナの入力インピーダンスとフィルタのインピーダンスを合わせるための補正抵抗です。 これを入れずに直接接続してしまうと、正しい周波数特性が測定できません。

評価結果
 コンパクトに纏めて製作しましたが、前のBlogで得られた特性が再現できていると思います。 組立て構造に問題はなかったようです。

 往々にして、コンパクトに組みなおすと特性が変わってしまうことがあるので注意が必要でしょう。 特にこうしたフィルタのように入出力の端子間で100dBものアイソレーションが必要なものでは十分気をつけなくてはなりません。

 測定時にも注意が必要で、強い信号が出ている部分を覆うなどの工夫を行なわないとこのように奇麗な特性が得られないことがあります。 測定技術が問題になるので十分な経験を積んでおきたいものです。同じ道具があっても誰でも同じに測定ができる訳ではありません。

SSBジェネレータに搭載
 既製品と交換に製作したラダー型フィルタを搭載してみました。 やや基板サイズは大きめでしたが旨く搭載することができました。

 次項のように、まずはキャリヤ発振器の周波数をこのフィルタ用に合わせることから始めなくてはなりません。 USBなりLSBのキャリヤ周波数に調整が済んだら、次は各同調コイルを8MHzに合わせます。 その後でバランスド・モジュレータのキャリヤ・バランスを調整しキャリヤリークが最少になるように追い込みます。 もとが7.8MHzなので周波数が近いことから簡単に調整できました。 キャリヤ・バランスも殆ど再調整の必要はないくらいでした。

 マイク入力端子に低周波発振器を接続して周波数特性を評価してみました。 流石にSSB用に作ったフィルタなので必要以上に帯域幅が広いこともなく、なかなかFBなSSB波が得られました。 通過帯域内のレベル変動もCB用クリスタル・フィルタよりずっと小さいのは予想通りでした。USB側では不要サイドバンドのサプレッションがやや甘いのですが、これはフィルタの特性なのでやむを得ません。8素子でやれば改善できるのは確かです。 他の性能は7.8MHzの時と基本的に違いはありません。 十分実用的なSSBジェネレータになっています。

キャリヤ発振器の変更
 上にも書きましたが、キャリヤ発振器の周波数変更が必要です。 水晶発振子はフィルタ製作の余りを活用します。 もちろん不良品では駄目で、発振は問題ないけれど、他と周波数が合わないのでフィルタにはできなかったような水晶を使いましょう。 ここでは、上の方に少しずが大きかったものを使いました。 VXO形式の発振回路なのでそれで支障ありません。むしろフィルタの通過帯域特性から見てLSB用のキャリヤ発生に有利なように選んだつもりです。

 まずはUSB用に周波数調整して評価してみました。 そのままの回路ではLSB用の周波数に調整できなかったので回路の見直しました。 修正した回路でうまく行っています。 このあたり、使用する水晶発振子の特性とも関係するので個々のケースで対応方法が違います。 フィルタの方は簡単にできたのにキャリヤ発振器の方で思ったよりも手こずることがありそうです。 フィルタと同じ水晶振動子を使ったキャリヤ発振器はSSBジェネレータの製作には必須です。 幾つか試しているので、良さそうな回路が纏まって来たら公開するかもしれません。追記:(2015.08.14)キャリヤ・オシレータのBlog(←リンク)を公開しました。

                  ☆

 フィルタを作ってみましたと言うだけでは検証として不十分でしょう。 実際にSSBジェネレータに搭載し評価が済んで始めて実用性の確認ができたことになります。 ブレッドボードでの試作なので、どうしても構造から来る性能限界があって難しいところもあります。 実験の容易さの点では悪くはないのですが、ハンダ付けで作る前のテストとしては不完全なところがあると思っています。 そのあたりはブレッドボード特有の考察が必要になってくる部分でしょう。
 実際にキャリヤの回り込みあるいは、直接飛び込みのような現象があってGNDポイントを変えてみるなどの修正が必要でした。 ただ、ブレッドボードであまり苦労してもそのまま実用にする訳ではないですから見極めが付いた段階で早めに基板化に移行した方が賢明です。

                −・・・−

新設計でアプローチ
 道具さえあればしめたもの・・とは行かないのですが、設計ツールの話しがまだでした。次回はそのあたり具体的に見たいと思います。宿題を増やしてしまったようですが、慌てずにボチボチやりましょう。興味を惹かれたら継続してお付き合い下さい。コメントもお待ちします。例によって浮気して予告と違う方へ行くかも知れませんが悪しからず。(笑)

                 ☆

 クリスタル・フィルタは機器全体から見たら単なる部品に過ぎません。 幾ら良いものが作れたとしても、活かしてこそ初めて意味も出てきます。 アナライザの画面とにらめっこしながら「良いフィルタができた」と悦に浸るのもオツなものですが、ぜひともFBな電波を出したり、受信機から心地よい音を響かせてみたいものだと思います。 そうでなくては機器への投資も製作に注いだ努力も活きてこないだろうなあと・・・。 de JA9TTT/1

つづく)←リンク

2015年7月2日木曜日

【回路】8MHz Ladder Filter Design

【8MHzのラダー型クリスタル・フィルタの試作と評価】

 【安価な8MHz水晶発振子
 自作無線機に適したクリスタル・フィルタの市販品は限られています。 そもそも無線機を自作する人は限られて来たので、必然的にニーズも減ってしまったからでしょう。 その一方で、性能の優れた水晶振動子(発振子)はCR部品並の価格で巷に溢れています。その水晶を素材にしたラダー型フィルタの手作りに今は絶好の状況になっているのです。

 写真の水晶発振子(=クリスタル)もその一つです。2008年ころ、そろそろ中華パーツが日本に流入しだしたころ購入したものです。性能は半信半疑で買った覚えがありますが、100個で1,400円でした。購入先はaitendoとは別の中華系パーツを扱うAI HKと言うお店でした。通販のページは残っているようですが、いまも同じものが手に入るのかわかりません。

 ラダー型クリスタル・フィルタの自作ブームもすっかり落ち着きましたが、いまではフィルタは「買うもの」から「作るもの」にすっかり定着したようです。 円安なので中華パーツを含めた輸入品は値上がり傾向にありますが、aitendoをはじめとしてこうした水晶発振子が@10円少々で売られているのを目にします。 安い水晶を見つけるとついつい買い込んでしまうのが習慣化していましたが、いつでも買えるとなれば食指も動かなくなっていました。(笑)

                    ☆

 前回のBlog(←リンク)では入手容易なパーツで構成したSSBジェネレータを扱いました。唯一、手に入りにくい部品として既製品クリスタル・フィルタを使いました。いずれ「自作で対応しますよ」と言い訳して済ませてしまったのです。だったら「すぐに対応せよ」との声も聞こえる?・・ので久しぶりにラダー型フィルタを扱うことにします。放置されたままだった中華クリスタルを消費する絶好の機会になりそうです。

 今回は少しだけ・・・否、全面的に新しい手法で行くことにしました。 従来のCohn minimum loss型(コーン最少損失型)の自作は言わばお子様向けコースです。さしたる道具も要らず、特にアタマも使わずに行けます。取りあえず実用的なモノは作れるのですが、不満があったのも事実でした。 そこで、もう少し進めてみることにしました。 もはや目新しくもないのですが、JAでは殆ど紹介されたことがない設計法です。諸外国では既にポピュラーになっており、すっかり世界の動向から取り残されてしまった感があります。 さっそく安価な素材を元にその新手法で始めてみることにしましよう。

 そもそも「フィルタの特性とは?」あるいは関連用語の解説等をいちいちやっていたらキリがありません。フィルタの常識は持っている前提で進めたいと思います。 平易に書くつもりはありませんので、わからないことは自分で勉強してみるくらいのおつもりがないならこの先には進むべからずです。(笑)

 【8MHz水晶発振子の特性
 良い性能のクリスタル・フィルタを作るための基本は水晶振動子の特性にあります。 写真は上記の8MHz水晶発振子の特性です。HC-49/USのケースはGNDして測定しています。 直列共振周波数:fsと並列共振周波数:fpの間隔は10.35kHzです。3kHz幅くらいのSSB用フィルタは十分行けるでしょう。

 参考:フィルタ回路に使う水晶片のことを水晶振動子または水晶共振子と言います。発振回路に使う水晶片は水晶発振子と言います。水晶振動子はフィルタ用の配慮をしてありますが、もちろん発振にも使えます。一方、発振用はフィルタに使うための考慮はしていません。しかし本質的に両者は同じものと思ってもあながち間違いではありません。実際、ここでは発振用の水晶発振子でフィルタを作ろうとしています。 もちろんフィルタへの適否は自身で見分ける必要があります。

 この8MHzの水晶発振子は、主共振の近傍に有害そうな副共振はみられないのでフィルタ用として好都合な特性でした。 購入した100個を測定してみたところ、損失が異常に大きいと言う特性不良が3個見つかりました。3%の不良など日本製では信じられない不良率です。 しかし良品の特性はまったく問題なくてfsのバラツキも±σの幅で見て300Hz以内に十分おさまっていました。 ごく簡単な「従来型」のラダー型フィルタには選別なしでも行けるくらいです。

 選別が済んだら、あとで紹介する参考書などを参照して「水晶定数」を計算で求めておきます。細かく選別・分類してあれば全数の詳細測定は不要でサンプリングで十分そうでした。 水晶定数の参考ドキュメント(←リンク:英文pdfファイル:550kB)

 【ラダー型クリスタル・フィルタの設計
 6素子で試作してみることにします。設計段階ではButterworth特性(バターワース特性)、Chebyshev特性(チェビシェフ特性)3種類で計算し、シミュレーションをしてみました。図はChebyshev(0.1dB)特性の回路定数例です。

 素子数を増やせばButterworth特性も良さそうでしたが、6素子ではSSB用としてやや物足りないようです。 Chebyshev特性で行くことしました。 わずか0.1dBの通過帯域リプルを許容するだけで、Butterworth設計では得られない急峻な減衰特性が得られるからです。 もう2素子増やした8素子にすれば一段と良くなるのは間違いありませんが、設計再現性の判定が目的の試作でもあるため様子見の意味もあってここでは6素子で行くことにしました。 なお、CW用フィルタではまた別の視点が必要でですがここでは将来のテーマとしておきます。

 図中の水晶定数は、ここで使った8MHzの水晶発振子の実測から求めた数値です。世間一般の8MHz水晶発振子がどれでもこれと同じになるわけではありません。 実際、メーカーが違えば、同じ周波数でもかなり異なるのが普通です。たとえ形状は同じでもずいぶん違いが見られます。 入手したものを必ず実測した上でその数値を設計・製作に用いないと所望の特性から大きく外れるでしょう。 手抜きをせずに必ず実測評価するようにします。 この水晶の場合、Cmが小さ目で、Lmが大きい特性でした。但しRsも大きいのでQuはあまり大きくならず標準的な範囲(Qu=約12.6万)です。

 今回はLSB型で作りましたがUSB型で作ることも可能です。但し、水晶屋さんは直列共振周波数:fsの方で管理しているらしく、並列共振周波数:fpの方はバラツキが大きいのです。従って並列共振周波数:fpを利用するUSB型フィルタは水晶振動子の選別が厄介になります。特別な意味でもあるなら別ですが、他人と違うものをやりたいと言う程度の切っ掛けでしたらUSB型での製作はお奨めしません。多くの製作例がLSB型を選択しているのには相応の理由があるのです。

 これは余談ですが、写真のような小さなHC-49/US型ではなく背の高いHC-49/Uの方が有利です。 実際、測定していてHC-49/USではドライブ・レベルがちょっと大きめになるだけで飽和する傾向が見られます。水晶片の物理的なサイズが小さいので大きな信号は扱えないのです。フィルタになっても同じことなので注意しましょう。(要するに小さい水晶を使ったフィルタはIMDが発生しやすいのです)

 【6素子ラダー型クリスタル・フィルタの試作
 SSBジェネレータに搭載する際にはもっとコンパクトに組み立てます。 ここでは設計値と実際がどの程度一致するのか確かめるのが目的です。 部品の交換をしながら評価がしやすいように製作しました。ちょっと雑な作りですがご勘弁を。w

 少々部品のリード線も長めですが、8MHzなのであまり影響はないでしょう。ストレー容量はそれほど増えません。 評価が済んだら解体してそのままの部品を使ってコンパクトに組み直すつもりです。 コンデンサにはNP0特性(CHもしくはCG特性)の温度補償系セラミック・コンデンサを使いました。

 当然ですが、再組み立てに当たってクリスタルの順番は変えてはなりません。特性が変わってしまいます。 なお、初期の実測において設計のままでは特性に不満があったので多少チューニングしました。 試行錯誤的になりますが、部分的にmesh周波数をチューンすれば改善できることが確認できたのです。 幾分行き当たりばったり的ではありますが、チューニングで加減できるのはメリットでしょう。 詳細は後に紹介する参考資料を参照されて下さい。そのあたりも詳しく書かれています。ディープなクリスタル・フィルタの世界が待っています。

6素子ラダー型クリスタル・フィルタの評価・1
 まずは、全般的な特性を見ています。 横軸は全体で10kHzです。 かなり拡大して見ているので、富士山型の特性に見えると思いますがSSB用のフィルタとして悪くない性能です。 Bw60/Bw6によるシェープ・ファクタは2.43くらいです。 単純なCohn型よりも通過帯域が平坦で肩の部分が急峻なのがわかるでしょう。この辺りが今回の改善ポイントです。 上側周波数の傾斜が急なのは直列共振周波数:fpの影響があるからでラダー型である以上やむを得ません。対称性の改善策もあるのですが複雑化するのが欠点です。一番簡単な解消方法は素子数を増やすことです。

 -3dB帯域幅は2.7kHzで設計していますが、実測では2.575kHzとなりました。水晶振動子の無負荷Qが有限なために帯域幅減少しているようです。 fcをBw3で除した、いわゆるフィルタQfは約3,000です。 水晶振動子の無負荷Qは約12万ですから約40倍あります。 0.1dB Chebyshev型(6素子)では理想を言えばフィルタQの90倍くらい欲しいと言うことなので少々の特性の崩れはやむを得ないでしょう。

 損失のある「有限のQ値の素子」を使って所定の特性を得る方法もあります。一段と踏み込んだ設計法になるのですが、十分な理解なしにやれば収拾がつかなくなるに違いありません。既に所定の性能が得られたので、取りあえず深入りしないことにしました。 要するに今は実用性能のフィルタが作れれば良いことにするのです。(笑)

6素子ラダー型クリスタル・フィルタの評価・2
 通過帯域の特性を拡大して見ています。 通過帯域に多少の凸凹があるのは、それを許容する設計だからです。 トレードオフの関係で減衰特性の急峻さ(ロールオフ)を追求したのですからやむを得ません。水晶振動子の無負荷Q:Quが理想の値よりもだいぶ小さいのも関係しています。

 しかし、この程度の通過帯域内リプルはかなり優秀な方でしょう。 先のSSBジェネレータで使ったCB無線機用のクリスタル・フィルタは通過帯域内で数dBの変化がありました。 HAM用の無線機に使ってあるものでもこれに及ばないものを見掛けます。 なかなか良い特性にできたと思っています。 従来型のラダー型フィルタでは得難かった特性ですから新手法は効果的だったようです。

6素子ラダー型クリスタル・フィルタの評価・3
 帯域外減衰特性を示しました。主にスプリアスの評価が目的です。100kHz幅で見ていますが、1MHz幅に拡大しても同様でした。 写真では80dB弱の帯域外減衰しか得られていないように見えますが、測定器(スペアナ)のノイズフロアによる制限です。 測定は抵抗器でマッチングする方法なので多少測定のダイナミックレンジが減少するのは仕方ありません。

 別の方法によれば90dB程度得られていますから、実際にハイゲインなIFアンプで使ってもフィルタ帯域外の信号が通り抜けるような心配はありません。 むしろ良好な帯域外減衰が実現できるようフィルタの実装に注意を払うべきです。 この特性もCB無線機用の7.8MHzクリスタル・フィルタよりもずっと良好です。

 このように市販品のクリスタル・フィルタと同等以上のものが自分で作れるので、既製品のクリスタル・フィルタが淘汰されてしまうのも宜なるかなと言ったところです。 手間は掛かりましたがコンデンサも含めた材料費は500円も掛かっていません。 選別した100個の水晶発振子で、6素子のFBな特性のクリスタル・フィルタが10個くらい作れそうです。余った水晶発振子もキャリヤ発振器に振り向けることができますから無駄にはなりません。(材費や手間賃はともかく、測定器の費用は償却できないだろうと言う陰の声あり。ごもっともです・笑)

設計試作の参考資料
 具体的な設計方法はネグってしまいましたが、興味が湧いて来たなら参考書を参照されてください。Blog一回分の分量ではとても説明しきれないボリュームです。原著を読んでもらった方が良いです。平易な内容の記事もあれば、専門的な感じの記事もあります。わかり易いものから読み始めたら良いでしょう。 フィルタ設計の本質を平易に知ることができる書籍はこれくらいしか無いのです。プロ用の専門書は荷が重すぎるでしょう。以下は比較的入手し易い書籍のはずです。

注目すべき記事は:(順番は重要度とは無関係)

(1)Refinements in Crystal Ladder Filter Design:Wes Hayward W7ZOI (QRP Power, ISBN:0-87259-561-7, $12- ,pp5-8 to 5-13)

(2)Designing and Building High-Performance Crystal Ladder Filters:Jacob Makhinson N6NWP(QRP Power, pp5-14 to 5-28)

(3)A Unified Approach to the Design of Crystal Ladder Filters:Wes Hayward W7ZOI  (W1FB' Design notebook , ISBN:0-87259-320-7, $10- , pp179 to 185)

(4)Designing and Building Simple Crystal Filters:Wes Hayward W7ZOI (W1FB's Design notebook, pp186 to 191)

(5)A Tester for Crystal F, Q and R : Doug DeMaw W1FB (W1FB's Design notebook, pp192 to 194)

 いずれも絶版になっている可能性もありますが、米国の古書店では流通していますのでネット経由による入手も容易でしょう。痛み具合など程度次第ですが数ドルから手に入るようです。他にも興味深い記事が多いので持っていて損はないと思います。「More QRP Power」と言う続編の方がヒットし易いですが間違って購入しないようにして下さい。Moreの方は改訂版ではないのでまったく別の内容になっています。それなりに面白いですがフィルタ関係の記事は載っていません。なお書籍の貸し出しや記事のCopyなどのご要望にはお応えできませんので悪しからず。

 まずは水晶定数LmとCmの求め方から研究することをお奨めします。 幾つか方法があってそれぞれ一短一長があります。 測定器として発振器+周波数カウンタにオシロスコープあるいはRF用電圧計があれば十分可能です。 W1FBのデザイン・ノートにはそのあたりのアマチュアライクで具体的な話しが詳しく書かれています。 私はスペアナと10MHz周波数基準器などを使いましたが、それらが本質的に必要なものとは言えません。 細かく周波数が読める発振器と信号の最大値がわかる測定器があれば水晶定数を求めるには十分だからです。 数pFと言った小容量を精度良く測定する必要があって、LCRメータ:DE-5000(←リンク)が活躍するチャンスでもあります。

 水晶定数が求まったら、あとはフィルタ理論の初歩を学びつつ数表と関数電卓、あるいは最近では専用計算アプリも登場しているのでそれに当てはめれば設計はできます。闇雲にやっても訳がわからなくなりそうですからまずはフィルタの初歩くらいは知っておくべきでしょう。  水晶振動子のバラツキを吸収しチューニングする方法なども参考書には詳しく書いてあります。 同じラダー型フィルタでも今までのCohn minimum loss型のように作りっぱなしでは予定の性能まで到達しないでしょう。チューニングが不可欠なようです。 本当はこうした内容を日本語で読めたら良いのですが、あまりにも硬派の記事は読者を引きつけません。手作り卒業済みのお爺ちゃん読者がメインの趣味誌には荷が重そうです。JAでは紹介される機会は訪れないのかもしれません。まあ英語なら何とかなるからそれで良いのでしょう。(笑)

                    ☆

 CQ Hamradio誌の連載でラダー型フィルタを扱ったのは2006年でした。もすぐ10年になる訳です。 その間にJAのラダー型フィルタ作りが進歩したと言う話しはあまり聞きません。 あの連載の後、機会があれば「おとなバージョン(笑)」のラダー型クリスタル・フィルタをやりたいと思いつつ、年数だけが過ぎてしまいました。 フィルタ理論に根ざしているだけに、その扱いナシでは済まないので「作りました→動きました」式の記事では駄目でしょう。
 そうこうしているうちに米国やEuはどんどん進歩してしまい、いまどきCohn minimum loss型でラダー型フィルタを作ろうなんて言うのは時代遅れになりました。 超古い「SSBハンドブック」(=JAの)やHJ誌にあったようなラダー型を有り難がっているようではナンセンスになっています。 あの時、続きをやっておけば良かったとつくづく反省の日々です。(爆)de JA9TTT/1

つづく)←リンク