【簡単なHAMバンド用受信機:1968スタイル】
【1968年式シンプル受信機】
ちょっとネタ切れなので、JARLアマチュア無線ハンドブックの第2版:1970年版から簡単な受信機回路をピックアップして題材にします。1970年版ですが実際には1968年2月の印刷物です。従って1968年式と言った方が適切でしょうか?
この受信機は米国はARRLハンドブックに毎年掲載されていた球数のごく少ないシンプルな受信機をお手本にしたものですが、日本人らしく細部まで高性能化が試みられています。 日本のHAMは大半が高級指向であり、そのニーズに応えたと言えるでしょう。 しかし、そもそもの良さである「シンプルさ」がかなり損なわれたように感じます。本来、たかが5球スーパのごときモノに高級を求めてはいけないのです。(笑)
高性能を目指すのであれば、無理に球数を絞らず高1中2形式に土台を置いた方が総合性能は良くなったのではないでしょうか。製作に要する費用も手間もさして違わないでしょう。それよりも、むしろ複合管の多用は配線が難しくなるだけではないでしょうか。各段を別個の球に分けて最適な配置にした方が製作は容易になるはずです。図の回路は見かけの球数は少なくても製作はかなり難しくなっています。真似て作るならそのあたりを考慮した方が良いでしょう。
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1968年と言えば、もうすぐ50年になりますが著作権は残っていますので残念ながら記事の全文は紹介できません。しかし、ざっと説明しますのでわかる人には十分な情報だと思います。
受信周波数帯は3.5MHzと7MHzに絞っています。ダイヤル機構に扇形のダイヤル面を持ったフリクション減速型を用いるからです。この形式のダイヤルはあまり減速比が取れないのでジェネカバのような受信範囲にしてしまうと実用的なHAM用受信機になりません。
既成のコイル・・・例えばトリオのSシリーズコイルなど・・は使わず、エアダックスコイルを使って2バンドカバーにしています。 アンテナ同調回路はボトムカップリングのBPF形式で、イメージ比を良くすることを目的とした回路です。同調バリコンに松下電器産業製(現パナソニック)のECV-2DX18と言う最大容量198pFの2連周波数直線型・・いわゆるF直バリコン・・・を使って短波受信機として最適化してあります。 局発(同調)バリコンとは連動しないので別のツマミでプリセレクタ形式の操作となります。
局発コイルもエアダックスです。周波数のカバー範囲が狭いので小容量の2連VC・・ECV-2RW20を使っています。これは通信機用で容量直線型max17.5pFの2連型です。周波数安定度に影響するためポリバリコンではなくて、エアーバリコンです。 バンド切換えは局発コイルのタップ切換えのみであり、アンテナ同調回路は切り替えません。 バンドを移るにはアンテナ同調のツマミを大きく回す必要があります。
いきなり同調回路の話しに入ってしまいまたが、改めて回路の話しをしましょう。真空管4本を使ったシングルスーパです。中間周波は定番の455kHzです。 この受信機のコンセプトは最少の球数で実用性能を持った受信機を作ることにあったはずです。 整流管は使っていないので球数だけで言えば家庭用スーパと同じです。 しかし、複合管や半導体を積極的に使って8〜9球分の高性能化を図っています。
まずはミキサーと局発です。6GJ7と言うTVのチューナ回路用に開発されたフレーム・グリッドの高性能管を使っています。家庭用スーパでおなじみの6BE6より高いゲインを期待し、S/Nの改善も狙っています。 局発回路はハートレーではなくて、周波数安定度に優れたVackar回路を採用しているのも通信機の拘りでしょう。 ミキサは第1グリッド注入型です。 6GJ7のHigh-gmと相まって、低NFとハイゲインの両立を図っているフロントエンドです。
中間周波増幅(IF-Amp)はセミリモートカットオフ管の6EH7です。これもカラーTV用に開発されたフレーム・グリッドの高性能管です。 ハイゲイン故に自己発振の懸念はありますが、1段増増幅なので何とかなるのでしょう。 IFフィルタにロスが大きめの国際電気のメカフィルを使っているのでゲイン不足の対策として6EH7を採用したものと思います。 なお、検波回路との関係もあってAGCは掛かっていません。カソード抵抗を可変する手動ゲイン調整が付いています。 受信中は手動ゲイン調整を頻繁に操作する必要がある筈です。
検波回路は6BL8の5極管部分を使ったグリッド検波型です。SSB/CWの受信時には同じ6BL8の3極部でBFOを発振させて注入します。 但し、管内容量によるBFO注入のようで意図的な注入はしていません。 ここにゲインのあるグリッド検波を使ったのは、ステージ数が少ないことによるゲイン不足を補うためでしょう。ダイオード検波だとゲインはマイナスになりますが、グリッド検波ならプラスのゲインが稼げます。 BFOは安定度の良いプレート同調型発振回路を採用しています。
低周波増幅は6AB8の3極部と5極部の2段構成です。低周波ゲインのボリウムのあとすぐにダイオードを使ったクリッパ回路が入っているのはAGCが無いための対策です。 プレート電圧が低いこともあって1.4Wとあまりパワーは出ませんが、受信音をスピーカの近傍で聞くHAM局には十分な電力です。入力部のクリッパが無いと突然強い局が出て来たとき耳をつんざく大音響の危険があります。
なお、カソードが共通になっていて使いにくい6AB8を使うメリットは少なさそうに思います。6AW8のような球にした方が良いのではないでしょうか。6AB8の採用はパワートランスのヒータ電流に余裕が無いことによる窮余の策なのかもしれません。
電源回路はシリコンダイオード2個を使った両波整流です。 大食いの低周波出力管をケチったので僅か50mAの容量で間に合わせています。 電源部が小さいと発熱も少なくなるので悪くない手法だと思いますが、外付けのアクセサリ類に供給する余力がないのが気になります。
感度としてS/N=10dBで0dBμ(=1μV)の感度があると言いますので、家庭用の5球スーパとは一線を画す高感度が得られています。 3.5MHzや7MHzと言ったローバンドには十分な受信感度です。 ハイバンドにはクリスタルコンバータ(クリコン)の付加で対応すれば良いでしょう。
非常な拘りを持って設計製作された受信機ですが、やはりAGCが無いのは欠陥だと思います。AGCはぜひとも付加すべきです。そうすればAGC電圧を読む形式で、Sメータも付加することができるので一段と通信型受信機の体裁が整います。AGCの付加は研究課題でしょう。
【コイル】
アンテナコイルにはエアダックスコイル:200509を使用しています。 左図はコイルの仕様です。もし持っていればカットして作ります。 200509は直径20mmで、巻線の線径は0.5mm、巻きピッチ0.9mmです。アンテナコイル(34回巻き)のインダクタンスは10.2μHです。 局発コイルの方は200816を使います。 同じく直径20mm、巻線の線径は0.8mm、巻きピッチは1.6mmです。 局発コイルのインダクタンスは3.5MHzの時(42回)が10μHで7MHz(24回)が5.3μHとなっています。
各エアーダックスコイルの入手はかなり難しいので、今となってはアンテナコイルはトロイダルコアに巻くのが良いでしょう。
局発コイルは周波数安定度が問題になるので良い物を使うべきです。 ボビンに巻線して自作する方法があるので何とかするしかありません。 タイトボビンも入手不可能ではありません。
左図にはないL4ですが、0.1μHのインダクタを使います。この受信機が設計された当時なら、TV用パーツとして市販品がたくさん売られていました。 いまならμ(ミュー)の小さなトロイダルコアに巻くか、空芯コイルを巻けば良いでしょう。同調コイルとの関係で最適値が変わるので2つのコイルがクリチカル・カップリング〜ややアンダーカップリングになるようインダクタンスを調整します。インダクタンスを大きくし過ぎると双峰特性になってしまうので旨くありません。少なければ選択性は良くなりますが通過損失が増えます。
他のコイルですが、受信選択度はメカフィルで決まってしまうので、IFTは何でも良いでしょう。High-C気味のIFTの方が自己発振を回避し易いです。どうしても発振する時は抵抗器をかませてQダンプするしかありません。 BFOコイルはIFTの改造で何とかなりそうです。 アウトプット・トランス、電源トランス、平滑チョークコイルは今でも市販品があるので支障はないでしょう。
【製作へのヒント】
まず、真空管ですが初段の6GJ7に多少問題はありそうです。 他の球は困難なく手に入るでしょう。ソケットを購入するのを忘れずに。全て9ピンのノーバー管用(9Pin−mt管用)です。周波数から見て、ステアタイトの必要は無くベークモールド型でも良いです。
後で触れますがDDS化などで局発は別途用意するつもりなら、初段は6EJ7の採用をお薦めします。 低周波アンプの6AB8は6AW8Aがお奨めです。同等管もたくさん存在します。 検波の6BL8も同等に使える類似管がたくさんあって、6U8系や6GH8系でも良いのであまり支障はないでしょう。IFアンプの6EH7は6BZ6や6GM6などで代替する手があるほか、ポピュラーな6BA6でも極端な違いは無いと思います。電源整流のシリコンDiはあまた存在するのでお好みで。1N4007などが手頃です。
選択度を決めるメカフィルの入手に困る可能性があります。中古のメカフィルは劣化している危険性があります。代替案として、いまならまだ手に入るCollins製にマッチングトランスを付加して使う方法が考えられます。もっと安価に行きたいなら、5素子の世羅多フィルタでも十分良い選択度が得られます。メカフィルにひけを取らないのでお薦めの一案です。IF周波数は455kHzより少し低くなりますが支障はないでしょう。
アンテナバリコンは指定の周波数直線型は入手困難です。 しかし、ここは等容量2連型の(ポリ)バリコンでも何とかなると思うので試してみる価値は十分あります。 局発回路のバリコンは何とか類似の市販品が手に入るようなので頑張って探すしかありません。指定の型番に囚われないで、FMラジオ用の2連バリコンを入手すれば代替できます。最大容量20〜30pFの物が多かったはずです。もちろん、エアーバリコンがベストです。
一番厄介なのはダイヤル機構の部分でしょう。 丸形の大型バーニヤダイヤルを工夫して代替する方法があります。 あとは糸掛けダイヤルくらいしか思いつきません。 ジャンク品やオークションの出物は運が良ければ手に入りますが、確実性が無いのが難点です。 最近見掛ける安易なギヤダイヤルではバックラッシュが多くて使いにくい受信機になってしまいます。
いっそのこと、局発は思い切って近代化を図ってしまってはどうでしょうか? DDSオシレータ+ロータリエンコーダ+デジタル周波数表示にすれば、ダイヤルの読み取り、操作性、周波数安定度のすべてが一挙に解決できます。ミキサー管のグリッドに4Vpp程度の局発を与えれば良いので簡単な回路で行けます。 DDS化はシャシ上の回路レイアウトにも自由度が生まれ製作しやすくなります。 DDSを使ってはいても信号系はすべて球ですかられっきとした真空管受信機です。(笑)
☆ ☆ ☆
FBな市販品が溢れていますし、中古の無線機でさえ紹介した回路よりもずっと高級だったりします。 受信することだけが最終目的なら購入してしまうのが一番手っ取り早いでしょう。 しかし、手作り受信機で自分だけのオリジナルな無線局を構成したいなら再び注目しても良いのかもしれません。 ダイヤルメカなど入手性に問題のある部分は近代的な技術でカバーしてしまえば、メインの部分に真空管を残したまま高性能で実用的な管球式通信型受信機を自作することは十分可能です。 いろいろ構想を膨らませながら昼休みのひと時の息抜きになったなら幸いです。de JA9TTT/1
(おわり)
2015年10月13日火曜日
2015年9月28日月曜日
【測定】Crystal Motional Parameters , Plus
【測定:水晶の等価定数の比較測定】
【周波数シフト法による水晶定数測定】
水晶の等価回路:Lm、Cm、Rmよりなる直列共振器と直列に容量:C1を入れると共振周波数が変化します。各記号の意味などは前回のブログ(←リンク)を参照して下さい。
fo=1/(2*π*√(Lm*Cm))が、
CmがC'=Cm*C1/(Cm+C1)になることから、
fo'=1/(2*π*√(Lm*C'))と変化します。
C1は既知であり、foもfo’も実測で求まるから、Cmが計算できるのです。 Cmの値を算出できたら、さらに直列共振周波数:foから計算することでLmを求めることができます。 なお、実際には電極間容量及び、ホルダ容量も影響しますのでそれらの合計容量である:Chも実測によって求めておきます。
C1が直列になった時の発振周波数をf1とし、C1をショートした時の発振周波数をfoとすれば、Cmは以下の計算式で求めることが出来ます。
Cm=(2*(C1+Ch))*(f1-fo))/fo・・・・・(1)
なお、コンデンサ:C1、Ch、Cmの単位はファラド、周波数:fo、f1の単位はHzです。
また、Lmは、Cmとfoから計算できます。
Lm=1/((2*π*fo)^2*Cm)・・・・・・・(2)
Lmの単位はヘンリです。Cmはファラド、foはHzの単位で計算します。
必要な測定器は周波数カウンタと数pFが精度良く測定できる容量計(Cメータあるいは、LCRメータなど)です。 周波数カウンタも測定値の安定さ・・・すなわち、基準がふらつかなければ十分なので絶対精度はそれほど必要としません。 少しウオームアップしてから使用すれば十分でしょう。 むしろ、1Hzの桁まで読み取れる測定分解能が必須です。 一般的な周波数カウンタであれば殆どのものが条件を満たすでしょう。 従って、ごく普通の周波数カウンタと小容量が測れるCメータがあれば水晶定数を求めることができます。
発振部はオリジナルのG3UURのものと同じです。 続くバッファ・アンプは単なるエミッタフォロワよりも、図の回路の方が良いです。 少々感度の悪い周波数カウンタでも十分な信号を与えることが出来、測定が安定します。 発振用トランジスタ:Q1には2SC2668Yを使いましたが、これは2SC1923Yが同等品です。 2SC945や2SC1815も使用可能です。hFEランクは何でも大丈夫です。 バッファ・アンプのトランジスタ:Q2は2SK544Eを使っています。これは、2SK241Yでも良く2SK439E(ピン配置に注意)でも大丈夫です。 9VのZennerダイオードで電源を安定化していますが、大元の電源に安定化電源を使用すれば省略可能です。 回路図のスイッチ:SW1の部分は、実際にはスイッチではなくジャンパ・ピンの抜き差しで代用します。その方が無用のストレー容量が増えず好ましいからです。(次項以降の写真参照)
【重要:C1の値は実測値を使うこと】
この例では、C1=22pFを使っています。 しかし、Cmの計算式でC1=22pFとすれば、誤差が大きくて旨くありません。
かならず、C1を測定回路に実装した状態で実測しておきます。 数回計測して、平均値を用いています。この例では、C1=25.75pFでした。
もちろん、コンデンサの誤差やブレッドボードの分布容量が効いてくるので、22pFのコンデンサを使ったからと言って同じ値にはならないので、各自が実測しなくてはなりません。 ひいてはCmやLmの精度にも多大な影響があるので入念な測定が求められます。
ここでは、LCRメータ:DE-5000(←参考リンク)と専用の「SMDパーツ用プローブ」を組み合わせて使い、ショート・オープン校正を行なってから測定しています。LCRメータの測定周波数は100kHzを選ぶと分解能が高くなります。
【foの測定】
最初はC1を短絡(ショート)した状態で発振させます。 そのときの周波数をfoとして記録します。
ブレッドボードに作った測定回路は不安定ではないかと懸念するかもしれません。 もちろんこれから長く使おうと思うならプリント基板にハンダ付けで作ることをお奨めします。
その際は、測定するクリスタルを挿入するソケットにはスムースで接触の良い物を使うべきです。 普通のICソケットでは、たくさんの抜き差しには耐えられずヘタってしまうでしょう。 その点、ブレッドボードは抜き差しが容易であり、接触もまずまず安定しているので良いと思います。 実際に作ってみると、発振周波数の不安定も見られないので、心配は要らないと思います。測定再現性もまずまずでした。
なお、このブレッドボードは底面にプリント基板を使ったGND板が貼付けてあります。 GND板は回路のGNDラインと結んであります。このあたりの配慮が安定測定のためのノウハウの一つです。
【f1の測定】
クリスタルにC1が直列に入った時の周波数を測定します。
C1を短絡(ショート)していたピンを抜き去れば良いです。 C1が直列に入ると、発振周波数の上昇が見られるでしょう。
なお、「発振周波数が安定しない」、「予定の周波数から大幅に外れている」、「周波数のふらつきが大きい」などは、測定している水晶発振子の不良が考えられます。 実際に、秋葉原で入手した水晶発振子では発振しない物や、発振はしても数値がばらついて不安定な物が見られました。 そのような水晶発振子は水晶発振器に使えないのはもちろんですが、よりシビアな性能が要求されるフィルタ用にはまったく使い物になりません。×印でも付けて除外しておきましょう。
【12800kHzの測定例:VNAを使ったもの】
比較の基準には、ネットワーク・アナライザ(VNA)を使って測定した水晶定数を使用することにします。
図は、12.8MHz・HC-49/U水晶発振子についてネットワーク・アナライザを使って-3dB法でLm、Cm、Rmを求めた結果です。 以下、いずれの測定でもネットワーク・アナライザを使った測定結果を取りあえずの基準としています。
いずれも平均値ですが、Lm=7.965(mH)、Cm=19.428(fF)です。
【12800kHzの測定例;発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=8.0709(mH)、Cm=19.174(fF)です。
上記のVNAによる測定値を基準とすれば、周波数変化法で求めたLmは+1.33%であり、Cmは-1.31%の違いとなりました。 それぞれの標準偏差を比較しても大きな違いは無いことがわかります。
【9000kHzの測定例(1):VNAを使ったもの】
この水晶発振子は、aitendoで10個150円で売られているものです。形状はHC-49/USです。 期間を置いて20個ずつ過去2回購入しています。 まずは、最近購入した20個についてネットワーク・アナライザで測定した例を示してきます。
いずれも平均値ですが、Lm=39.9492(mH)、Cm=7.8352(fF)でした。
この水晶発振子は、周波数:foのバラツキはまずまず少ないものの、損失抵抗:Rmのバラツキが大きいです。 それに伴い、無負荷Q:Quの値も大きくバラついています。 σが186000もあるのは発振用としても支障がありそうです。実際に、次項のように発振周波数法では発振できないものがありました。 非常に良い水晶も混じっているので、フィルタで使用するにはピックアップすべきです。玉石混淆と言った水晶発振子でした。
【9000kHzの測定例(1);発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は再測定しても同じであったため、25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=40.299(mH)、Cm=7.767(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+0.88%、Cmは-0.87%の違いです。
【9000kHzの測定例(2):VNAを使ったもの】
上記と同じ9MHzの水晶発振子です。 購入したのも同じaitendoで、形状も同じHC-49/USです。 但し、購入時期が異なっており、数ヶ月間を置いています。 数ヶ月では在庫品が回転していない可能性もあるので、個体に刻印されていたロットを示すと思われる記号をしらべてみました。(左欄外に記載) 共通したロット番号もありましたが、異なるものも含まれたので先の20個とは混ぜずに測定してみました。 もちろん大きな差が見られなければフィルタに使う際には混合してしまうつもりです。
いずれも平均値ですが、Lm=40.477(mH)、Cm=7.735(fF)でした。
こちらのグループもRmに大きなバラツキがあり、従って無負荷Q:Quも大きくバラついています。 σでみても163000ですから、上記のグループと似たようなものと言えそうです。 直列共振周波数:foで比較しても平均値では僅か3Hzしか違わないので同じグループとして扱っても支障なさそうです。 いずれにしても、選別して使えば良いフィルタも可能でしょう。
【9000kHzの測定例(2);発振周波数変化法】
同じように、発振周波数変化法で測定してみました。 既に2例を見ているので、同じような結果が得られると推測できますが結果はどうだったでしょうか?
いずれも平均値ですが、Lm=40.930(mH)、Cm=7.651(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+1.12%、Cmは-1.09%の違いです。 予想通り同じような結果になりました。
【測定法による水晶定数の違い】
以上、ネットワーク・アナライザを使って水晶定数を求める方法と、直列容量の有無による発振周波数変化から水晶定数を求める方法の比較を行なってみました。
ネットアナによる方法は、直列共振周波数:foにおいてLmとCmが打ち消し合って、Rmが求められることを原理とします。Rmの値と測定治具における共振特性からLmの値を求めて行く方法です。 一方、後者の直列に容量を付加する方法は、付加した容量による共振周波数の変化からCmの値を求める方法です。 このように測定原理は異なっています。
それぞれの方法で求めてみて、原理の異なる測定法から得られたLmとCmが2%以内の違いで求められることがわかりました。 このことから、簡略な方法でありながら周波数変化法で求めたLmやCmも十分信頼できる精度が得られていると推測できます。 標準偏差の比較でも大きな違いは見られませんでした。
ここには示しませんでしたが、3周波数法や、±45度法など他の方法と比較しても概ね1〜2%程度の違いしかありませんから、いずれの測定法でもまずまずの精度でLmやCmが求まることがわかりました。 これは得られた数値に基づくフィルタ特性のシミュレーションや、製作したフィルタそのものの実測特性からも得られた数値の正しさが実証できていると思います。 わずか2%程度の違いではフィルタ設計の結果に何ら差異は認められません。従って目的に対して十分な測定精度です。
もちろん、直列容量:C1の値を実測から精度良く求めるほか、個々の水晶発振子の並列容量:Chも実測で求めるなど相応の注意は必須です。 それでも自作好きのHAMならたいてい持っていそうな測定器・・・周波数カウンタとCメータだけでLmやCmが良い精度で求められることは嬉しい結果でしょう。
☆ ☆ ☆
【おまけ:G3UUR法によるRmの測定】
上記の比較検討は既に紹介したARRLの出版物:「QRP POWER」(←参考リンク)に囲み記事があった「G3UURによる水晶定数の求め方」に基づいています。 十分良い精度でモーショナル・インダクタンス:Lm、及びモーショナル・キャパシタンス:Cmが求められることがわかりました。
しかし、残念ながら動的な損失抵抗;Rmを求めることが出来ませんでした。そのため、無負荷Q:Quの値も計算できません。Dishalに基づく簡易フィルタ設計ソフト(←参考リンク)を使う上ではRmの値は必要としませんが、RmやQuは水晶の良し悪しに関わるので気になる人も多いでしょう。 ちなみに、Rmがわかれば、無負荷QはQu=ωo*Lm/Rmで計算することが出来ます。(ωo=2*π*foなのは言うまでもないでしょう)
Rmが求められない不都合に対応する解決法を見掛けたので要約して説明しておきます。 これはG3UUR自身の記事であり、QRP-ARCI(QRP Amateur Radio Club International)の季刊誌、The QRP Quarterlyの2010年10月号に掲載されたものです。 なお、図の回路で発振とバッファ・アンプに使うトランジスタはオリジナルではBC108あるいはBC182となっています。いずれもfT=200MHzくらいの小信号用汎用品なので、2N3904や2SC1815のような代替品で大丈夫です。ダイオードD1とD2は筆者はOA47と言うMullard製のゲルダイを使っていますが、代替として1N60や1K60などのゲルマニウム点接触型を使えば良いでしょう。 またVR2は無くても良さそうです。コンデンサの単位;1nFと言うのは1000pF(=0.001μF)のことです。
以下、G3UURの発振回路でRmを求める手順を箇条書きに纏めてみました。 測定は1個の水晶発振子ではなく、複数個のグループについて行なうことを前提としています。
(1)準備:
検波ダイオードの先にあるMとGと言う端子間にデジタル・マルチ・メータ:DMMを接続して電圧が読めるようにしておく。また、O/P端子とGの間に周波数カウンタを接続する。
(2)foとVoscの測定:
水晶発振子を挿入する。スイッチS1とS2を閉じて発振周波数:foの測定を行なう。 そのときに、foと共にDMMに表示される電圧Vosc;(発振電圧の相対値)を記録しておく。Voscの測定で周波数カウンタ接続の影響が見られるなら一時的に接続を外すこと。
(3)f1の測定:
スイッチS1を開き、S2を閉じたままで発振周波数:f1を測定する。
測定したfo、f1からLmとCmを算出しておく。(これは、上で行なった方法と同じ)
(4)水晶ペアの作成:
測定した水晶発振子のグループから、DMMで読み取った発振電圧:Voscが近くて(5%以内)、なおかつ周波数;foがなるべく近い(100Hz以内)ものを2つ選ぶ。 もしもそのグループ内でDMMで読み取った電圧:Voscが大きくばらついているようなら、Vosc電圧が大きいもの2個のペアと、小さいもの2個のペアの2種類を作るのが良い。
(5)測定:
作ったをペアをハンダ付けして並列にしたものを発振回路に入れる。スイッチ1、2ともに閉じた状態でDMMの電圧;Voscを読み取る。
水晶が単独だった時よりもDMMの電圧;Voscは大きくなるでしょう。
(6)発振電圧の調整;
S2を開いて、VR1=100Ωを加減して水晶発振子が単独だった時の発振電圧:Voscと同じになるように調整する。 ペアにした2個で個々のVosc電圧が異なるなら平均値を用いる。
(7)Rxの測定:
水晶発振子を取り除いてから、TP1とTP2の間にDMMを抵抗計に切り替えて接続し、R1(100Ωの可変抵抗器)の抵抗値;Rxを読み取る。
その抵抗値:Rxの2倍がRmの値です。(ペアにした2個のRmの平均値)
発振電圧が大きいペアと、小さいペアの2種類について上記の測定を行なえば、そのロットのRmについて、大きなものと小さながわかることになります。他はその間にあるでしょう。 全体の平均値はその中間あたりでしょうか? 誤差±10%くらいの測定精度があるそうですが、これは十分設計に役立つデータになります。
☆上記の方法以外にも、例えばARRL発行のハンドブック:2010年版 ARRL Handbook のCrystal Filter section (11.6)にも簡易ながらもう少し良い精度で求める方法が掲載されています。上記とはまた異なった方法で面白いです。お持ちなら参照を。 以上、【おまけ】の項は資料に基づいた解説です。理屈の上では旨く行きそうに思いますが、やってみたわけではありませんからあとは各自で実験して下さい。
☆ ☆ ☆
【エピローグ】
誰しも良い測定器や良い環境があればと望むものです。 もちろん、それが可能ならベストに違いありませんが、時として本末転倒になってしまうことがあります。 FBなメーカー製Rigが何台も買えるほど投資した挙げ句、出来上がったモノと言えばまったくの初心者レベルだった・・・では笑話しにしかならないでしょう。 ならばなるべく少ない出費で楽しむのが賢明と言うものです。それに何でも高級な方法が格段に優れるわけでもありません。(以上、自戒を込めて・笑)
しかし、簡単な方法には不安があるのも常です。何となく高級な道具を使った方が良さげに見えるものです。 だから誰かが比較して有効性の検証をしておけば簡単な方法も安心できるでしょう。これで簡易な方法も自信を持ってお奨めできると思います。de JA9TTT/1
(おわり)
追記:
比較用にデータ付きクリスタルを無償頒布する・・・と言う話しは一旦ペンディングにさせてもらいます。周波数変化法で良い精度の測定ができることがわかったので、比較用のクリスタルは必要ないでしょう。それに希望されるお方も少ないようです。(2015.09.28)
【周波数シフト法による水晶定数測定】
水晶の等価回路:Lm、Cm、Rmよりなる直列共振器と直列に容量:C1を入れると共振周波数が変化します。各記号の意味などは前回のブログ(←リンク)を参照して下さい。
fo=1/(2*π*√(Lm*Cm))が、
CmがC'=Cm*C1/(Cm+C1)になることから、
fo'=1/(2*π*√(Lm*C'))と変化します。
C1は既知であり、foもfo’も実測で求まるから、Cmが計算できるのです。 Cmの値を算出できたら、さらに直列共振周波数:foから計算することでLmを求めることができます。 なお、実際には電極間容量及び、ホルダ容量も影響しますのでそれらの合計容量である:Chも実測によって求めておきます。
C1が直列になった時の発振周波数をf1とし、C1をショートした時の発振周波数をfoとすれば、Cmは以下の計算式で求めることが出来ます。
Cm=(2*(C1+Ch))*(f1-fo))/fo・・・・・(1)
なお、コンデンサ:C1、Ch、Cmの単位はファラド、周波数:fo、f1の単位はHzです。
また、Lmは、Cmとfoから計算できます。
Lm=1/((2*π*fo)^2*Cm)・・・・・・・(2)
Lmの単位はヘンリです。Cmはファラド、foはHzの単位で計算します。
必要な測定器は周波数カウンタと数pFが精度良く測定できる容量計(Cメータあるいは、LCRメータなど)です。 周波数カウンタも測定値の安定さ・・・すなわち、基準がふらつかなければ十分なので絶対精度はそれほど必要としません。 少しウオームアップしてから使用すれば十分でしょう。 むしろ、1Hzの桁まで読み取れる測定分解能が必須です。 一般的な周波数カウンタであれば殆どのものが条件を満たすでしょう。 従って、ごく普通の周波数カウンタと小容量が測れるCメータがあれば水晶定数を求めることができます。
発振部はオリジナルのG3UURのものと同じです。 続くバッファ・アンプは単なるエミッタフォロワよりも、図の回路の方が良いです。 少々感度の悪い周波数カウンタでも十分な信号を与えることが出来、測定が安定します。 発振用トランジスタ:Q1には2SC2668Yを使いましたが、これは2SC1923Yが同等品です。 2SC945や2SC1815も使用可能です。hFEランクは何でも大丈夫です。 バッファ・アンプのトランジスタ:Q2は2SK544Eを使っています。これは、2SK241Yでも良く2SK439E(ピン配置に注意)でも大丈夫です。 9VのZennerダイオードで電源を安定化していますが、大元の電源に安定化電源を使用すれば省略可能です。 回路図のスイッチ:SW1の部分は、実際にはスイッチではなくジャンパ・ピンの抜き差しで代用します。その方が無用のストレー容量が増えず好ましいからです。(次項以降の写真参照)
【重要:C1の値は実測値を使うこと】
この例では、C1=22pFを使っています。 しかし、Cmの計算式でC1=22pFとすれば、誤差が大きくて旨くありません。
かならず、C1を測定回路に実装した状態で実測しておきます。 数回計測して、平均値を用いています。この例では、C1=25.75pFでした。
もちろん、コンデンサの誤差やブレッドボードの分布容量が効いてくるので、22pFのコンデンサを使ったからと言って同じ値にはならないので、各自が実測しなくてはなりません。 ひいてはCmやLmの精度にも多大な影響があるので入念な測定が求められます。
ここでは、LCRメータ:DE-5000(←参考リンク)と専用の「SMDパーツ用プローブ」を組み合わせて使い、ショート・オープン校正を行なってから測定しています。LCRメータの測定周波数は100kHzを選ぶと分解能が高くなります。
【foの測定】
最初はC1を短絡(ショート)した状態で発振させます。 そのときの周波数をfoとして記録します。
ブレッドボードに作った測定回路は不安定ではないかと懸念するかもしれません。 もちろんこれから長く使おうと思うならプリント基板にハンダ付けで作ることをお奨めします。
その際は、測定するクリスタルを挿入するソケットにはスムースで接触の良い物を使うべきです。 普通のICソケットでは、たくさんの抜き差しには耐えられずヘタってしまうでしょう。 その点、ブレッドボードは抜き差しが容易であり、接触もまずまず安定しているので良いと思います。 実際に作ってみると、発振周波数の不安定も見られないので、心配は要らないと思います。測定再現性もまずまずでした。
なお、このブレッドボードは底面にプリント基板を使ったGND板が貼付けてあります。 GND板は回路のGNDラインと結んであります。このあたりの配慮が安定測定のためのノウハウの一つです。
【f1の測定】
クリスタルにC1が直列に入った時の周波数を測定します。
C1を短絡(ショート)していたピンを抜き去れば良いです。 C1が直列に入ると、発振周波数の上昇が見られるでしょう。
なお、「発振周波数が安定しない」、「予定の周波数から大幅に外れている」、「周波数のふらつきが大きい」などは、測定している水晶発振子の不良が考えられます。 実際に、秋葉原で入手した水晶発振子では発振しない物や、発振はしても数値がばらついて不安定な物が見られました。 そのような水晶発振子は水晶発振器に使えないのはもちろんですが、よりシビアな性能が要求されるフィルタ用にはまったく使い物になりません。×印でも付けて除外しておきましょう。
【12800kHzの測定例:VNAを使ったもの】
比較の基準には、ネットワーク・アナライザ(VNA)を使って測定した水晶定数を使用することにします。
図は、12.8MHz・HC-49/U水晶発振子についてネットワーク・アナライザを使って-3dB法でLm、Cm、Rmを求めた結果です。 以下、いずれの測定でもネットワーク・アナライザを使った測定結果を取りあえずの基準としています。
いずれも平均値ですが、Lm=7.965(mH)、Cm=19.428(fF)です。
【12800kHzの測定例;発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=8.0709(mH)、Cm=19.174(fF)です。
上記のVNAによる測定値を基準とすれば、周波数変化法で求めたLmは+1.33%であり、Cmは-1.31%の違いとなりました。 それぞれの標準偏差を比較しても大きな違いは無いことがわかります。
【9000kHzの測定例(1):VNAを使ったもの】
この水晶発振子は、aitendoで10個150円で売られているものです。形状はHC-49/USです。 期間を置いて20個ずつ過去2回購入しています。 まずは、最近購入した20個についてネットワーク・アナライザで測定した例を示してきます。
いずれも平均値ですが、Lm=39.9492(mH)、Cm=7.8352(fF)でした。
この水晶発振子は、周波数:foのバラツキはまずまず少ないものの、損失抵抗:Rmのバラツキが大きいです。 それに伴い、無負荷Q:Quの値も大きくバラついています。 σが186000もあるのは発振用としても支障がありそうです。実際に、次項のように発振周波数法では発振できないものがありました。 非常に良い水晶も混じっているので、フィルタで使用するにはピックアップすべきです。玉石混淆と言った水晶発振子でした。
【9000kHzの測定例(1);発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は再測定しても同じであったため、25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=40.299(mH)、Cm=7.767(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+0.88%、Cmは-0.87%の違いです。
【9000kHzの測定例(2):VNAを使ったもの】
上記と同じ9MHzの水晶発振子です。 購入したのも同じaitendoで、形状も同じHC-49/USです。 但し、購入時期が異なっており、数ヶ月間を置いています。 数ヶ月では在庫品が回転していない可能性もあるので、個体に刻印されていたロットを示すと思われる記号をしらべてみました。(左欄外に記載) 共通したロット番号もありましたが、異なるものも含まれたので先の20個とは混ぜずに測定してみました。 もちろん大きな差が見られなければフィルタに使う際には混合してしまうつもりです。
いずれも平均値ですが、Lm=40.477(mH)、Cm=7.735(fF)でした。
こちらのグループもRmに大きなバラツキがあり、従って無負荷Q:Quも大きくバラついています。 σでみても163000ですから、上記のグループと似たようなものと言えそうです。 直列共振周波数:foで比較しても平均値では僅か3Hzしか違わないので同じグループとして扱っても支障なさそうです。 いずれにしても、選別して使えば良いフィルタも可能でしょう。
【9000kHzの測定例(2);発振周波数変化法】
同じように、発振周波数変化法で測定してみました。 既に2例を見ているので、同じような結果が得られると推測できますが結果はどうだったでしょうか?
いずれも平均値ですが、Lm=40.930(mH)、Cm=7.651(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+1.12%、Cmは-1.09%の違いです。 予想通り同じような結果になりました。
【測定法による水晶定数の違い】
以上、ネットワーク・アナライザを使って水晶定数を求める方法と、直列容量の有無による発振周波数変化から水晶定数を求める方法の比較を行なってみました。
ネットアナによる方法は、直列共振周波数:foにおいてLmとCmが打ち消し合って、Rmが求められることを原理とします。Rmの値と測定治具における共振特性からLmの値を求めて行く方法です。 一方、後者の直列に容量を付加する方法は、付加した容量による共振周波数の変化からCmの値を求める方法です。 このように測定原理は異なっています。
それぞれの方法で求めてみて、原理の異なる測定法から得られたLmとCmが2%以内の違いで求められることがわかりました。 このことから、簡略な方法でありながら周波数変化法で求めたLmやCmも十分信頼できる精度が得られていると推測できます。 標準偏差の比較でも大きな違いは見られませんでした。
ここには示しませんでしたが、3周波数法や、±45度法など他の方法と比較しても概ね1〜2%程度の違いしかありませんから、いずれの測定法でもまずまずの精度でLmやCmが求まることがわかりました。 これは得られた数値に基づくフィルタ特性のシミュレーションや、製作したフィルタそのものの実測特性からも得られた数値の正しさが実証できていると思います。 わずか2%程度の違いではフィルタ設計の結果に何ら差異は認められません。従って目的に対して十分な測定精度です。
もちろん、直列容量:C1の値を実測から精度良く求めるほか、個々の水晶発振子の並列容量:Chも実測で求めるなど相応の注意は必須です。 それでも自作好きのHAMならたいてい持っていそうな測定器・・・周波数カウンタとCメータだけでLmやCmが良い精度で求められることは嬉しい結果でしょう。
☆ ☆ ☆
【おまけ:G3UUR法によるRmの測定】
上記の比較検討は既に紹介したARRLの出版物:「QRP POWER」(←参考リンク)に囲み記事があった「G3UURによる水晶定数の求め方」に基づいています。 十分良い精度でモーショナル・インダクタンス:Lm、及びモーショナル・キャパシタンス:Cmが求められることがわかりました。
しかし、残念ながら動的な損失抵抗;Rmを求めることが出来ませんでした。そのため、無負荷Q:Quの値も計算できません。Dishalに基づく簡易フィルタ設計ソフト(←参考リンク)を使う上ではRmの値は必要としませんが、RmやQuは水晶の良し悪しに関わるので気になる人も多いでしょう。 ちなみに、Rmがわかれば、無負荷QはQu=ωo*Lm/Rmで計算することが出来ます。(ωo=2*π*foなのは言うまでもないでしょう)
Rmが求められない不都合に対応する解決法を見掛けたので要約して説明しておきます。 これはG3UUR自身の記事であり、QRP-ARCI(QRP Amateur Radio Club International)の季刊誌、The QRP Quarterlyの2010年10月号に掲載されたものです。 なお、図の回路で発振とバッファ・アンプに使うトランジスタはオリジナルではBC108あるいはBC182となっています。いずれもfT=200MHzくらいの小信号用汎用品なので、2N3904や2SC1815のような代替品で大丈夫です。ダイオードD1とD2は筆者はOA47と言うMullard製のゲルダイを使っていますが、代替として1N60や1K60などのゲルマニウム点接触型を使えば良いでしょう。 またVR2は無くても良さそうです。コンデンサの単位;1nFと言うのは1000pF(=0.001μF)のことです。
以下、G3UURの発振回路でRmを求める手順を箇条書きに纏めてみました。 測定は1個の水晶発振子ではなく、複数個のグループについて行なうことを前提としています。
(1)準備:
検波ダイオードの先にあるMとGと言う端子間にデジタル・マルチ・メータ:DMMを接続して電圧が読めるようにしておく。また、O/P端子とGの間に周波数カウンタを接続する。
(2)foとVoscの測定:
水晶発振子を挿入する。スイッチS1とS2を閉じて発振周波数:foの測定を行なう。 そのときに、foと共にDMMに表示される電圧Vosc;(発振電圧の相対値)を記録しておく。Voscの測定で周波数カウンタ接続の影響が見られるなら一時的に接続を外すこと。
(3)f1の測定:
スイッチS1を開き、S2を閉じたままで発振周波数:f1を測定する。
測定したfo、f1からLmとCmを算出しておく。(これは、上で行なった方法と同じ)
(4)水晶ペアの作成:
測定した水晶発振子のグループから、DMMで読み取った発振電圧:Voscが近くて(5%以内)、なおかつ周波数;foがなるべく近い(100Hz以内)ものを2つ選ぶ。 もしもそのグループ内でDMMで読み取った電圧:Voscが大きくばらついているようなら、Vosc電圧が大きいもの2個のペアと、小さいもの2個のペアの2種類を作るのが良い。
(5)測定:
作ったをペアをハンダ付けして並列にしたものを発振回路に入れる。スイッチ1、2ともに閉じた状態でDMMの電圧;Voscを読み取る。
水晶が単独だった時よりもDMMの電圧;Voscは大きくなるでしょう。
(6)発振電圧の調整;
S2を開いて、VR1=100Ωを加減して水晶発振子が単独だった時の発振電圧:Voscと同じになるように調整する。 ペアにした2個で個々のVosc電圧が異なるなら平均値を用いる。
(7)Rxの測定:
水晶発振子を取り除いてから、TP1とTP2の間にDMMを抵抗計に切り替えて接続し、R1(100Ωの可変抵抗器)の抵抗値;Rxを読み取る。
その抵抗値:Rxの2倍がRmの値です。(ペアにした2個のRmの平均値)
発振電圧が大きいペアと、小さいペアの2種類について上記の測定を行なえば、そのロットのRmについて、大きなものと小さながわかることになります。他はその間にあるでしょう。 全体の平均値はその中間あたりでしょうか? 誤差±10%くらいの測定精度があるそうですが、これは十分設計に役立つデータになります。
☆上記の方法以外にも、例えばARRL発行のハンドブック:2010年版 ARRL Handbook のCrystal Filter section (11.6)にも簡易ながらもう少し良い精度で求める方法が掲載されています。上記とはまた異なった方法で面白いです。お持ちなら参照を。 以上、【おまけ】の項は資料に基づいた解説です。理屈の上では旨く行きそうに思いますが、やってみたわけではありませんからあとは各自で実験して下さい。
☆ ☆ ☆
【エピローグ】
誰しも良い測定器や良い環境があればと望むものです。 もちろん、それが可能ならベストに違いありませんが、時として本末転倒になってしまうことがあります。 FBなメーカー製Rigが何台も買えるほど投資した挙げ句、出来上がったモノと言えばまったくの初心者レベルだった・・・では笑話しにしかならないでしょう。 ならばなるべく少ない出費で楽しむのが賢明と言うものです。それに何でも高級な方法が格段に優れるわけでもありません。(以上、自戒を込めて・笑)
しかし、簡単な方法には不安があるのも常です。何となく高級な道具を使った方が良さげに見えるものです。 だから誰かが比較して有効性の検証をしておけば簡単な方法も安心できるでしょう。これで簡易な方法も自信を持ってお奨めできると思います。de JA9TTT/1
(おわり)
追記:
比較用にデータ付きクリスタルを無償頒布する・・・と言う話しは一旦ペンディングにさせてもらいます。周波数変化法で良い精度の測定ができることがわかったので、比較用のクリスタルは必要ないでしょう。それに希望されるお方も少ないようです。(2015.09.28)
2015年9月13日日曜日
【部品】Crystal Motional Parameters
【部品:水晶の等価定数と評価】
「はじめに水晶定数ありき」です。新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計(←リンク)には水晶の等価定数を知る必要があります。そして設計ソフトに与える定数の精度でフィルタ設計が決まってしまいます。 水晶振動子(発振子、共振子)は水晶板の機械振動ですが、外部から電気的な特性を眺めるとLC共振器と等価な「回路」として見ることができます。
等価回路は、LCRが直列になった「直列共振回路」とそれに並列に容量Chが入った回路としてみることができます。 LCRが直列になった部分が水晶板が機械振動しているそのものであり、このLCRをモーショナル(動的)定数と言います。 それぞれ添字を付けて、Lm、Cm、Rmと言います。並列に入ったコンデンサは、主に水晶板を挟む電極板によるキャパシタンスと、水晶板を保持し保護するための外周器によるストレー容量です。ホルダー(容器:Holder)容量の意味で、添字としてhを付けてChと呼ばれることが多いようです。或はパラレルの意味で、Cpとする例も良く見掛けます。
このBlogの読者であればラダー型クリスタル・フィルタの話しの中で、何度となく登場している記号なので周知のことと思います。纏める意味であらためて書いておきました。 常識はずれの添字を付けてしまうと話しが混乱し易くなるので、なるべく従った方が良いと思っています。
参考:International Electrotechnical Commission Standard : IEC STDによれば、水晶振動子の等価モーショナル定数はC1、L1、R1とし、並列容量をC0としています。また、直列共振周波数(resonance frequency)をfr、並列共振周波数を反共振周波数(anti-resonance)と呼びfaで示すのを標準としています。学会の論文など執筆のお方はこれに従うのが良いでしょう。このBlogも従った方が良いのかもしれませんが、過去のBlog全部の書き換えは容易でないのでそのままで行くことにします。w
☆
以下は自家用メモとして纏めておいたものです。 多少は参考になる可能性もありますが、個々の数値そのものはあまり役には立たないと思ってもらった方が良いでしょう。あえて役立つとすれば、一般に手に入る可能性がある水晶の良し悪しが統計的に判断できることくらいでしょう。 もしも、この先もご覧ならそのような意味で眺めて頂ければと思います。
(参考)だれでも「標準水晶」のような「水晶定数がわかっている物」が容易に手に入れば良いのですが難しいでしょう。そう言う物があれば、自身の測定の確かさの検証がきるのですが・・・。 もし私の測定結果で良ければ「チェック用の水晶」として・・・もちろん基準などと言うつもりはなくて単なる目安ですが・・・頒布(無償)も考えています。 ご興味の有無でもコメントしてもらえたらと思っています。
【aitendoの15円水晶:8MHz】
秋葉原のaitendoで現在でも販売されている8MHzの水晶発振子です。 通販でも買い求めることが出来ます。 10個単位で売られており、2015年7月ころ150円で購入して来たものです。 2袋購入し、20個について水晶定数を求めました。 安物水晶の典型と言えそうですが、お手軽なのは有難いです。
【aitendo 8MHz水晶の特性一覧】
直列共振周波数:foのバラツキは標準偏差でみて、75Hzほどでした。 悪くない数字だと思います。
無負荷Qの価;Quを水晶振動子の良さと考えると、平均で128,000くらいあるので、悪くない数字でしょう。 但し、Quのバラツキはかなり大きいようです。 標準偏差で24,000もあるので、Quが低い物をフィルタに使うと思うような特性が出ないかもしれません。 従って、良いラダー型フィルタを作るためには、必ず実測してQuの小さい物を除く必要があるでしょう。 そのほか、ロットの混合が原因と見られるLmのばらつきも見られるので、Lmをなるべく揃えると言った選別も行なうべきです。 それでも、20個も購入すれば、特性良好なSSB用フィルタが作れるのは間違いないようでした。
【NDK製NTSCクロマ発振用;3579.545kHz】
HC-6/Uと同じサイズで溶接で組立られたタイプです。HC-48/Uと言う形状です。 リード線は細くて長いハンダ付けタイプです。 3579.545kHzと言うのは、TV受像機がアナログだった時代のカラー復調用サブキャリヤの周波数です。
NTSC方式なら、どんなカラーTVにも必ず一つは入っていたものでした。同様にVHSやβマックス方式のVTRでも使われていました。(4倍の14.318MHzを使う例も多いようです)
この水晶発振子はずいぶん前にIさんに頂いた物だったと思います。 大きくて使いにくいのでやや持て余し気味でしたが、実測してみたらなかなか良い物でした。 Quが大きいのです。
【NDK 3549.545kHz水晶の特性一覧】
他に使った記憶は無いので、全部で14個頂いたようです。 但し、測定していて2個は不良品でした。 1個は電極間の絶縁抵抗が低下しています。 もう1個は水晶板がケースに接触しているらしく機械的損失:Rmが異常に大きいのです。 そのため、これらの2個は除外して表に纏めておきました。
この水晶発振子の特徴は無負荷Q:Quが高いことにあります。 平均で20万を超えていて、低いものを除去すれば平均25万くらいになるので、かなり良い特性のフィルタが作れます。但しSSB用のような帯域幅の広いフィルタでは、中心周波数から見た上下の非対称性が目立つため不向きではないかと思われます。対策としてfpを移動させる方法で対称化を図る方法もありそうです。 CW用の狭帯域フィルタには最適です。高いQuを必要とする100〜250Hz幅くらいのTransitional gaussian to 6dB型で設計してみたいと思っています。良い音のCW受信機が作れるでしょう。
【Toyocom製ボーレート用:11059.2kHz】
ボーレート・ジェネレータ用のクリスタルでしょう。コンピュータ時代らしい周波数の水晶発振子です。 同一ロットで無開封の袋入りが非常に安価に売られていたので纏めて購入した記憶があります。
日本のメーカー名が入っているので、そこそこ良好ではないかと思って購入した覚えがあります。 たしかに、中華クリスタルのように100個に3個も不良が混じっていると言うようなことはありませんでした。
【Toyocom 11059.2kHz水晶の特性一覧】
流石に日本メーカの水晶発振子と言いたい所ですが、直列共振周波数のバラツキは思ったよりも大きかったです。 8MHzの水晶よりもバラツキの絶対値は大きくなるのは当然ですが、それを考慮しても大きいようです。
ただ、無負荷Q:Quの価はバラツキが少なかったです。 残念なのは、そのQuの平均値が小さいことにあります。 平均で10万少々と言うのは、発振用には支障ありませんがフィルタ用としては少々物足りないのです。 無損失の水晶振動子を前提としたDishal準拠の簡易設計ソフトでは現実との乖離が大ききくなる傾向がありそうです。 なるべく、Quが大きいものを選別して使用すると幾らかでも有利でしょう。
【NDK製時計用水晶:4194.304kHz】
HC-49/U型のこの水晶発振子は2^22Hzの水晶です。22段のバイナリ・カウンタ(2進カウンタ)で分周すれば1Hzが得られるので、おそらく置き時計などの用途に使っていたものと思います。
周波数はやや低めですが、SSB用フィルタは十分可能です。 まだ評価の途中なのですが、無負荷Q:Quは20万近くありそうなので有望だと思います。 HC-49/USよりも水晶板が大きいのも有利な筈で、あとはバラツキが少なければフィルタ用として最適でしょう。 以前はたくさん流通していたので持っている人は多いと思いますが?
一例であるが:
fo=4193.174kHz
Rm=16.7Ω
Lm=125.5mH
Cm=11.48fF
Qu=198,000
【朝日電波製12.8MHz:その1】
12.8MHz=2^7×100kHzの汎用水晶発振子と思います。 最近はより小型の20MHzあたりが標準的な汎用水晶発振子のようですが、以前は12.8MHzでした。
そのまま発振回路に使われるケースが殆どだと思いますが、TCXOに組み込まれたものもあるでしょう。但し、TCXO用と一般発振用は温度特性の決め方には違いがあります。 この水晶発振子がどちらなのかはわかりません。 次項の12.8MHzの方を先に評価したので、こちらは後回しになっています。一応、概略の価を書いておくに留めます。 形状はHC-49/Uを一回り小さくしたものです。
fo=12.797744MHz
Rm=12.2Ω
Lm=19.4mH
Cm=7.97fF
Qu=128,000
なお、念のために書いておきますがfFというのは、フェムト・ファラドのことです。 フェムトとは10^-15で、1ピコ(p)は1^-12であるから、1fFは0.001pFのことです。 mHは1/1000ヘンリーなのは言うまでもないでしょう。Quは単位無しの無名数です。
【朝日電波製12.8MHz:その2】
同じ12.8MHzの汎用水晶発振子ですが、ユーザー名が印刷された専用品です。 形状はHC-49/Uのようですが、何となくケースに厚みがあるように感じます。すこし違うのかもしれません。
数年前ですが、オークションに大量に登場したことがあって、数名のお方と一緒に分けて頂いたことがありました。その後もオークションに登場しているそうで、これは別途落札したものだそうです。 前から有った手持ちと比較したら、ロット番号が違っているようでした。 その他は同じようです。 ICOMと書いてありますが、無線機でおなじみのICOMなのかどうかは不明です。どんな場所に使っていたのでしょう? また、なぜ大量にオークションに登場するのでしょうか? 朝日電波と言う会社は既に存在しない(?)ようなので、整理されたとき流出したのだろうか?
【ASAHI 12.8MHz水晶の特性一覧】
偶々なのかもしれませんが、無負荷Q:Quが高くて、周波数:foのバラツキも小さいのが特徴です。 Quは平均で15万を超えます。標準偏差も1万以下なので良く揃っていると思って良いでしょう。 もちろん、選別すれば安心です。 次項に示した表は選別の一例を示しています。
【ASAHI 12.8MHz水晶の選別例】
8素子のラダー型フィルタを目的に選別してみました。 まずは、Quの大きさで並び替えを行ないます。 その後、周波数順に並び替えを行なったあとで、周波数差が一番小さい8個の組を選んでいます。 このように並べ替えた物を使って設計することになります。
これらの一覧表はMS-Excelで作成しているので並べ替えはお手のものです。 もちろん、水晶定数も必要項目だけをインプットすればあとは自動的に求まります。平均値や標準偏差の計算も同様です。ラダー型フィルタの製作では水晶定数をたくさん計算しなくてはならないので、いちいち電卓をたたいていたのでは日が暮れてしまうでしょう。(笑)
Dishal準拠の簡易設計ソフトには平均値を入れてやれば良いです。 この水晶はQuが大きいので肩部分のダレも少なくて良いフィルタになるでしょう。 どんな物が作れるのか、気になるお方は表の数値を設計ソフトにインプットして遊んでみてはいかがですか?
【水晶定数の測定について】
水晶定数の測定は幾つかの方法で試しています。 結論から言うと、どの方法で測定しても大差はないようでした。 写真では、ネットアナを使っている様子です。 おなじネットアナを使う方法でも、-3dB法と±45度法があります。スペアナ+TGでやるなら-3dB法と言うことになるでしょう。
さらに、まったく別の方法として発振させ直列容量の有無による周波数シフト量から求める方法もあります。 まだ他にも方法があって、同じ水晶発振子についてそれぞれに基づき測定し計算してみました。 その結果、測定方法の間でせいぜい1〜2%くらいの違いしか見られずかなり良く一致しました。
そのような結果から、特別高級な測定器を用いなくても十分良い精度で水晶定数が得られることが確認できました。 従って、もっとも手軽な発振周波数のシフト量を測定する方法・・・G3UURの方法・・・がアマチュア向きでしょう。 安価な手段で実現できなくてはフィルタを製作する意味も薄れるので、これはたいへん良い結果です。
注意すべきは、直列に挿入する容量値を発振回路に実装した状態で実測から求め、その数字に基づいて計算することです。例えば30pFのコンデンサを使ったからと言って、30pFで計算するのではなく回路に入れた状態で実測した数値を使用します。測定にはLCRメータDE-5000(←リンク)とSMD部品用測定プローブを使うと容易でした。
それさえ行なえば良い精度で水晶定数の算出ができるでしょう。 周波数シフト法ではRmが求められませんが、Dishal準拠の簡易設計ソフトを使った設計ではRmの数値は必要としないので殆どの製作者にとって欠点にはならないでしょう。 もちろん、それ以上を目指すならW1FBの測定治具などを検討すべきですが・・・。 G3UURの方法についての比較と考察などは別のBlog(←リンク)で扱っています。ぜひ参照して下さい。
☆
自家用情報なので、数値そのものは殆どの人に役立たなかったでしょう。 それに、外観形状を見ただけでは良否の判定は出来ませんから写真と似ていると言って、類似の性能が保証されるわけではありません。フィルタへの適否は個々の測定によらねば判断できません。
参考までですが、SSB用フィルタを作る際の判断はQu>100,000と考えています。これは最低限の数字です。 もしQu>150,000ならなかなか良い水晶です。もちろんQu<100,000でもSSBフィルタは作れますが設計通りに行かないのはやむを得ないでしょう。思惑とはずいぶん異なる可能性も有ります。
発振用に作られた水晶発振子をクリスタル・フィルタ用として使うのはリスクがあるのではないかと思う人もありそうです。 しかし実測値で示したように、良く吟味すれば非常に良い水晶振動子が安価に手に入るのですから、クリスタル・フィルタはやっぱり「自作するもの」と言えるのではないでしょうか? de JA9TTT/1
(おわり)
「はじめに水晶定数ありき」です。新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計(←リンク)には水晶の等価定数を知る必要があります。そして設計ソフトに与える定数の精度でフィルタ設計が決まってしまいます。 水晶振動子(発振子、共振子)は水晶板の機械振動ですが、外部から電気的な特性を眺めるとLC共振器と等価な「回路」として見ることができます。
等価回路は、LCRが直列になった「直列共振回路」とそれに並列に容量Chが入った回路としてみることができます。 LCRが直列になった部分が水晶板が機械振動しているそのものであり、このLCRをモーショナル(動的)定数と言います。 それぞれ添字を付けて、Lm、Cm、Rmと言います。並列に入ったコンデンサは、主に水晶板を挟む電極板によるキャパシタンスと、水晶板を保持し保護するための外周器によるストレー容量です。ホルダー(容器:Holder)容量の意味で、添字としてhを付けてChと呼ばれることが多いようです。或はパラレルの意味で、Cpとする例も良く見掛けます。
このBlogの読者であればラダー型クリスタル・フィルタの話しの中で、何度となく登場している記号なので周知のことと思います。纏める意味であらためて書いておきました。 常識はずれの添字を付けてしまうと話しが混乱し易くなるので、なるべく従った方が良いと思っています。
参考:International Electrotechnical Commission Standard : IEC STDによれば、水晶振動子の等価モーショナル定数はC1、L1、R1とし、並列容量をC0としています。また、直列共振周波数(resonance frequency)をfr、並列共振周波数を反共振周波数(anti-resonance)と呼びfaで示すのを標準としています。学会の論文など執筆のお方はこれに従うのが良いでしょう。このBlogも従った方が良いのかもしれませんが、過去のBlog全部の書き換えは容易でないのでそのままで行くことにします。w
☆
以下は自家用メモとして纏めておいたものです。 多少は参考になる可能性もありますが、個々の数値そのものはあまり役には立たないと思ってもらった方が良いでしょう。あえて役立つとすれば、一般に手に入る可能性がある水晶の良し悪しが統計的に判断できることくらいでしょう。 もしも、この先もご覧ならそのような意味で眺めて頂ければと思います。
(参考)だれでも「標準水晶」のような「水晶定数がわかっている物」が容易に手に入れば良いのですが難しいでしょう。そう言う物があれば、自身の測定の確かさの検証がきるのですが・・・。 もし私の測定結果で良ければ「チェック用の水晶」として・・・もちろん基準などと言うつもりはなくて単なる目安ですが・・・頒布(無償)も考えています。 ご興味の有無でもコメントしてもらえたらと思っています。
【aitendoの15円水晶:8MHz】
秋葉原のaitendoで現在でも販売されている8MHzの水晶発振子です。 通販でも買い求めることが出来ます。 10個単位で売られており、2015年7月ころ150円で購入して来たものです。 2袋購入し、20個について水晶定数を求めました。 安物水晶の典型と言えそうですが、お手軽なのは有難いです。
【aitendo 8MHz水晶の特性一覧】
直列共振周波数:foのバラツキは標準偏差でみて、75Hzほどでした。 悪くない数字だと思います。
無負荷Qの価;Quを水晶振動子の良さと考えると、平均で128,000くらいあるので、悪くない数字でしょう。 但し、Quのバラツキはかなり大きいようです。 標準偏差で24,000もあるので、Quが低い物をフィルタに使うと思うような特性が出ないかもしれません。 従って、良いラダー型フィルタを作るためには、必ず実測してQuの小さい物を除く必要があるでしょう。 そのほか、ロットの混合が原因と見られるLmのばらつきも見られるので、Lmをなるべく揃えると言った選別も行なうべきです。 それでも、20個も購入すれば、特性良好なSSB用フィルタが作れるのは間違いないようでした。
【NDK製NTSCクロマ発振用;3579.545kHz】
HC-6/Uと同じサイズで溶接で組立られたタイプです。HC-48/Uと言う形状です。 リード線は細くて長いハンダ付けタイプです。 3579.545kHzと言うのは、TV受像機がアナログだった時代のカラー復調用サブキャリヤの周波数です。
NTSC方式なら、どんなカラーTVにも必ず一つは入っていたものでした。同様にVHSやβマックス方式のVTRでも使われていました。(4倍の14.318MHzを使う例も多いようです)
この水晶発振子はずいぶん前にIさんに頂いた物だったと思います。 大きくて使いにくいのでやや持て余し気味でしたが、実測してみたらなかなか良い物でした。 Quが大きいのです。
【NDK 3549.545kHz水晶の特性一覧】
他に使った記憶は無いので、全部で14個頂いたようです。 但し、測定していて2個は不良品でした。 1個は電極間の絶縁抵抗が低下しています。 もう1個は水晶板がケースに接触しているらしく機械的損失:Rmが異常に大きいのです。 そのため、これらの2個は除外して表に纏めておきました。
この水晶発振子の特徴は無負荷Q:Quが高いことにあります。 平均で20万を超えていて、低いものを除去すれば平均25万くらいになるので、かなり良い特性のフィルタが作れます。但しSSB用のような帯域幅の広いフィルタでは、中心周波数から見た上下の非対称性が目立つため不向きではないかと思われます。対策としてfpを移動させる方法で対称化を図る方法もありそうです。 CW用の狭帯域フィルタには最適です。高いQuを必要とする100〜250Hz幅くらいのTransitional gaussian to 6dB型で設計してみたいと思っています。良い音のCW受信機が作れるでしょう。
【Toyocom製ボーレート用:11059.2kHz】
ボーレート・ジェネレータ用のクリスタルでしょう。コンピュータ時代らしい周波数の水晶発振子です。 同一ロットで無開封の袋入りが非常に安価に売られていたので纏めて購入した記憶があります。
日本のメーカー名が入っているので、そこそこ良好ではないかと思って購入した覚えがあります。 たしかに、中華クリスタルのように100個に3個も不良が混じっていると言うようなことはありませんでした。
【Toyocom 11059.2kHz水晶の特性一覧】
流石に日本メーカの水晶発振子と言いたい所ですが、直列共振周波数のバラツキは思ったよりも大きかったです。 8MHzの水晶よりもバラツキの絶対値は大きくなるのは当然ですが、それを考慮しても大きいようです。
ただ、無負荷Q:Quの価はバラツキが少なかったです。 残念なのは、そのQuの平均値が小さいことにあります。 平均で10万少々と言うのは、発振用には支障ありませんがフィルタ用としては少々物足りないのです。 無損失の水晶振動子を前提としたDishal準拠の簡易設計ソフトでは現実との乖離が大ききくなる傾向がありそうです。 なるべく、Quが大きいものを選別して使用すると幾らかでも有利でしょう。
【NDK製時計用水晶:4194.304kHz】
HC-49/U型のこの水晶発振子は2^22Hzの水晶です。22段のバイナリ・カウンタ(2進カウンタ)で分周すれば1Hzが得られるので、おそらく置き時計などの用途に使っていたものと思います。
周波数はやや低めですが、SSB用フィルタは十分可能です。 まだ評価の途中なのですが、無負荷Q:Quは20万近くありそうなので有望だと思います。 HC-49/USよりも水晶板が大きいのも有利な筈で、あとはバラツキが少なければフィルタ用として最適でしょう。 以前はたくさん流通していたので持っている人は多いと思いますが?
一例であるが:
fo=4193.174kHz
Rm=16.7Ω
Lm=125.5mH
Cm=11.48fF
Qu=198,000
【朝日電波製12.8MHz:その1】
12.8MHz=2^7×100kHzの汎用水晶発振子と思います。 最近はより小型の20MHzあたりが標準的な汎用水晶発振子のようですが、以前は12.8MHzでした。
そのまま発振回路に使われるケースが殆どだと思いますが、TCXOに組み込まれたものもあるでしょう。但し、TCXO用と一般発振用は温度特性の決め方には違いがあります。 この水晶発振子がどちらなのかはわかりません。 次項の12.8MHzの方を先に評価したので、こちらは後回しになっています。一応、概略の価を書いておくに留めます。 形状はHC-49/Uを一回り小さくしたものです。
fo=12.797744MHz
Rm=12.2Ω
Lm=19.4mH
Cm=7.97fF
Qu=128,000
なお、念のために書いておきますがfFというのは、フェムト・ファラドのことです。 フェムトとは10^-15で、1ピコ(p)は1^-12であるから、1fFは0.001pFのことです。 mHは1/1000ヘンリーなのは言うまでもないでしょう。Quは単位無しの無名数です。
【朝日電波製12.8MHz:その2】
同じ12.8MHzの汎用水晶発振子ですが、ユーザー名が印刷された専用品です。 形状はHC-49/Uのようですが、何となくケースに厚みがあるように感じます。すこし違うのかもしれません。
数年前ですが、オークションに大量に登場したことがあって、数名のお方と一緒に分けて頂いたことがありました。その後もオークションに登場しているそうで、これは別途落札したものだそうです。 前から有った手持ちと比較したら、ロット番号が違っているようでした。 その他は同じようです。 ICOMと書いてありますが、無線機でおなじみのICOMなのかどうかは不明です。どんな場所に使っていたのでしょう? また、なぜ大量にオークションに登場するのでしょうか? 朝日電波と言う会社は既に存在しない(?)ようなので、整理されたとき流出したのだろうか?
【ASAHI 12.8MHz水晶の特性一覧】
偶々なのかもしれませんが、無負荷Q:Quが高くて、周波数:foのバラツキも小さいのが特徴です。 Quは平均で15万を超えます。標準偏差も1万以下なので良く揃っていると思って良いでしょう。 もちろん、選別すれば安心です。 次項に示した表は選別の一例を示しています。
【ASAHI 12.8MHz水晶の選別例】
8素子のラダー型フィルタを目的に選別してみました。 まずは、Quの大きさで並び替えを行ないます。 その後、周波数順に並び替えを行なったあとで、周波数差が一番小さい8個の組を選んでいます。 このように並べ替えた物を使って設計することになります。
これらの一覧表はMS-Excelで作成しているので並べ替えはお手のものです。 もちろん、水晶定数も必要項目だけをインプットすればあとは自動的に求まります。平均値や標準偏差の計算も同様です。ラダー型フィルタの製作では水晶定数をたくさん計算しなくてはならないので、いちいち電卓をたたいていたのでは日が暮れてしまうでしょう。(笑)
Dishal準拠の簡易設計ソフトには平均値を入れてやれば良いです。 この水晶はQuが大きいので肩部分のダレも少なくて良いフィルタになるでしょう。 どんな物が作れるのか、気になるお方は表の数値を設計ソフトにインプットして遊んでみてはいかがですか?
【水晶定数の測定について】
水晶定数の測定は幾つかの方法で試しています。 結論から言うと、どの方法で測定しても大差はないようでした。 写真では、ネットアナを使っている様子です。 おなじネットアナを使う方法でも、-3dB法と±45度法があります。スペアナ+TGでやるなら-3dB法と言うことになるでしょう。
さらに、まったく別の方法として発振させ直列容量の有無による周波数シフト量から求める方法もあります。 まだ他にも方法があって、同じ水晶発振子についてそれぞれに基づき測定し計算してみました。 その結果、測定方法の間でせいぜい1〜2%くらいの違いしか見られずかなり良く一致しました。
そのような結果から、特別高級な測定器を用いなくても十分良い精度で水晶定数が得られることが確認できました。 従って、もっとも手軽な発振周波数のシフト量を測定する方法・・・G3UURの方法・・・がアマチュア向きでしょう。 安価な手段で実現できなくてはフィルタを製作する意味も薄れるので、これはたいへん良い結果です。
注意すべきは、直列に挿入する容量値を発振回路に実装した状態で実測から求め、その数字に基づいて計算することです。例えば30pFのコンデンサを使ったからと言って、30pFで計算するのではなく回路に入れた状態で実測した数値を使用します。測定にはLCRメータDE-5000(←リンク)とSMD部品用測定プローブを使うと容易でした。
それさえ行なえば良い精度で水晶定数の算出ができるでしょう。 周波数シフト法ではRmが求められませんが、Dishal準拠の簡易設計ソフトを使った設計ではRmの数値は必要としないので殆どの製作者にとって欠点にはならないでしょう。 もちろん、それ以上を目指すならW1FBの測定治具などを検討すべきですが・・・。 G3UURの方法についての比較と考察などは別のBlog(←リンク)で扱っています。ぜひ参照して下さい。
☆
自家用情報なので、数値そのものは殆どの人に役立たなかったでしょう。 それに、外観形状を見ただけでは良否の判定は出来ませんから写真と似ていると言って、類似の性能が保証されるわけではありません。フィルタへの適否は個々の測定によらねば判断できません。
参考までですが、SSB用フィルタを作る際の判断はQu>100,000と考えています。これは最低限の数字です。 もしQu>150,000ならなかなか良い水晶です。もちろんQu<100,000でもSSBフィルタは作れますが設計通りに行かないのはやむを得ないでしょう。思惑とはずいぶん異なる可能性も有ります。
発振用に作られた水晶発振子をクリスタル・フィルタ用として使うのはリスクがあるのではないかと思う人もありそうです。 しかし実測値で示したように、良く吟味すれば非常に良い水晶振動子が安価に手に入るのですから、クリスタル・フィルタはやっぱり「自作するもの」と言えるのではないでしょうか? de JA9TTT/1
(おわり)
2015年8月30日日曜日
【電子管】Making a stable valve VFO
【真空管で作る安定なVFO】
【真空管も良いんだが】
さるBlog筆者によれば、私は真空管に冷たいのだそうです。確かに、真空管と言うだけで好意的に扱うことなんかしませんから愛好家から見たら冷淡だと感じるのかもしれません。だからといって真空管が嫌いなわけではないのです。 いや、むしろ逆でしょう。(笑)
ただ、昨今のように球(タマ)なら何でも有り難がる風潮は看過できないと思っています。 良い物は良いですが駄球は何時になってもやっぱり駄目です。 無知につけ込んだ駄球の高額販売は購入者のお気の毒が目に浮かぶようです。まあご本人が納得していればそれも良いのかもしれませんが。(笑)
☆
閑話休題(それはさておき)今どき真空管のVFOなんかどうするの?・・・と言われそうですね。 発熱があって安定するまでに時間がかかるから、SSBトランシーバではVFO部は早々に半導体化されたのでした。 TS-510が然り、それに続いたFTDX-400もFETを使った半導体式VFOになってずいぶん安定になったのを感じたものです。少なくともウオームアップは格段に早まったと思います。 FETなり普通のトランジスタなりの自己発熱は少ないのですからVFOの発振周波数はすぐに安定します。そう考えてVFOと言えば半導体式が全盛になって行ったのです。
☆
半導体は消費電力が少ないから発熱も少ない・・・と言うのは本当でしょうか? 何を馬鹿なと言われそうですね。 しかし意外に消費電力はあるものです。 FETを使ったVFOで考えてみましょう。Vcc=9Vで、普通の発振回路ならドレイン電流:Id=3mAくらい流したいです。 ソース抵抗が入っているとそこでの消費分もありますが、単純に考えるとしてFETでの消費電力はP=Vcc×Idですから27mWと言うことになります。『なーんだ、たったの27mWかよ・・・』と言うなかれ。
FETの熱容量は小さいのです。FETの内部チップは思いのほか温度上昇します。2SK192Aで考えてみましょう。規格表によれば熱抵抗から計算して1mWあたり1.25℃ほど上昇するようです。 だから27mWで34℃くらい上昇する計算ですね。少ないとは言え、スイッチオンからしばらく周波数変動するのは自己発熱→FET自身の温度上昇が原因なのでしょう。
では温度で何が変動するのでしょう? 変化するのはゲート・ソース間容量とか、ドレイン・ソース間容量のような電極間の静電容量でしょう。 それぞれ3〜10pFくらいあって温度係数を持っています。 他にドレイン電流Idも温度で変化があって、FETの特性からIdが変わればgmも変化し、gmが変化すればミラー容量も変化することになります。 ですら単純な帰還容量:Crssの温度変化よりも影響はずっと大きくなります。このように意外にも半導体式VFOのウオームアップ・ドリフトは小さくないのです。 FETで考えましたがバイポーラ・トランジスタでも同じような物です。
☆
真空管式VFOのウオームアップ・ドリフトが大きいのは常識でしょう。 なにしろ発熱が大きいからです。よく使われた6BA6クラスの球でもヒーターだけで6.3V/300mAですから2W近いです。プレート損失の方も、150Vで5mAなら0.75Wですからスクリーン損失など合わせたら合計で3〜4Wくらいの発熱はあるでしょう。
自身の熱膨張による電極間容量の変化もあるでしょうが、周囲のCやLがモロに熱せられてしまいます。良く出来たVFOでさえ30分以上のウオームアップ・タイムを要するのは仕方ないでしょう。 ただ、真空管自身の電極間容量は意外に小さくて自己発熱さえ少なければ・・・と考えて、1T4や3S4と言うような電池管を使ったVFOが試みられたこともありました。 しかし電池管はgmが低いので周波数安定に有利な発振回路の定数を選びにくいとか、直熱管なのでマイクロフォニック・ノイズが大きいと言うような固有の欠点もあったのです。 それに、それらの球も少ないとは言え100mWくらいの発熱はあるので、半導体の登場もあって試みる人も現れなくなりました。
長く忘れられていた電池管のVFOでしたが、英国のHAM、G4OEPは面白い球に着目しました。 彼が見つけたのは「補聴器用」の球です。 トランジスタの登場ですぐに廃れましたが、真空管を使った補聴器もあったのです。 補聴器はコンパクトな必要がありますから小さな乾電池の寿命は実用上たいへん重要でした。そのようなニーズから電池寿命を延ばすためにフィラメントの消費電流が極度に小さな真空管が作られたのです。 G4OEPはHivac社(英国)のXFY43と言う真空管を使いプレート電圧も12Vで済むVFOを完成させたのです。
☆ ☆ ☆
しばらく前にG4OEPのWebsiteを見て、面白いなあと思っていました。 私と同じように面白いと思ったらしく、彼に続いてG0UPLも試作したようで、こちらも興味深い内容です。 ただXFY43と言う球はことに入手困難らしく代替の球ではEp=12Vで発振してくれません。 いろいろ試してもG4OEPの再現はついに出来なかった様でした。
以下、だいぶ前置きが長くなりましたがG4OEPとG0UPLの試作例を紹介しながら私の試作結果も紹介したいと思います。 なお、限られた貴重な真空管が本当の自作HAMに渡るよう、興味本位のお方は手を出さないのがマナーでしょう。
優れたVFOは真空管があれば作れる訳ではありません。 温度特性に優れたコイルやバリコンと言った主要パーツのほか、ダイヤル減速メカなどVFOの製作に不可欠な機構部品の入手はほぼ絶望的です。従って球だけ手に入れてもまったくもって無駄でしょう。 以下写真で見て鑑賞するだけに留められたいと思います。 もちろん、既にVFO用のパーツをお持ちなのでしたらぜひお試し下さい。
写真説明:左の横に寝たサブミニチュア管が「補聴器」用に開発された真空管:6418と6088です。いずれもJAN(Joint Army and Navy Standard:陸海軍統一規格) 規格品ですが、軍隊が補聴器を大量に必要とする筈はなく、低消費電力を活かし電子兵器用として転用されたものでしょう。なお、右のミニチュア管:6AN5WAは大きさの比較用であり、補聴器の球ではありません。
【G4OEPのハイブリッドVFO】
G4OEP Dr.Andrew Smith氏が製作したVFOの回路です。G4OEPのWebsite(←リンク)で作品の写真もご覧になって下さい。 この回路図には記載はありませんが温度補償のためにバイメタルを使った小容量コンデンサを付加するなど興味深い実験記事があります。 周波数安定度の良い自励式発振器を実現するための非常に示唆に富んだ記述があるのでお奨めします。
発振回路はColpitts(コルピッツ)型です。 ごく一般的な発振回路ですが、周波数安定を問題にすると真空管の電極間に入っているコンデンサ、回路図で言えばC4やC5を大きくしなくてはならず、発振させるためには真空管は相応のゲインが得られるものが必要です。
XFY43のフィラメント電圧・電流はEf=1.25V/If=10mAです。またプレート電圧:Ep=12Vでもそこそこ大きなgmがあるらしく、図のような回路定数で確実に発振するのだそうです。 但しこの発振回路はXFY43なら再現可能かもしれませんが、他の球では難しそうなのです。 実際、私もほぼ同じ回路定数で試してみましたがまったく発振してくれません。 真空管はXFY43と同じような補聴器に使うためのもので、Raytheon社の6418と6088を試しました。
【G0UPLのVFO回路集】
同じく英国のHAM:Hans Summers氏が製作したVFOの回路です。G4OEPの製作にinspireされたのは間違いないでしょう。 まず最初は左図のFig.1から始めたようですが、プレート電圧:Ep=12Vでは発振せず、少なくともEp=25V以上が必要でした。発振管はXFY43と同じく補聴器用のCK512AXでフィラメント電圧・電流は0.625V/20mAです。
フィラメント・パワーが小さい球は「パービアンス」が小さく、当然gmも小さいのです。従ってゲインは低いのです。 それで幾らかでもgmが大きそうな6088を使って試したのがFig.2です。6088のフィラメント・パワーはCK512AXの2倍あります。 発振回路は同じくColpitts型です。 しかしこれもEp=12Vでは発振しません。少なくともEp=27V以上が必要で、これではCK512AXと同じような物でしょう。
おなじ6088を使いながら回路変更したものがFig.3です。Colpitts回路をやめてFranklin(フランクリン)回路に変更しています。Franklin回路は2球使うのでゲインは2段の積になるので有利なはずです。 しかし、同じくEp=12Vでは発振しないのでした。 同調回路との結合が疎になることから、むしろEpは高い必要がありました。よく見ると1段目の6088の負荷は1kΩですからゲイン・アップどころかむしろ減衰器になっています。
彼はEp=12Vに拘らなかったようで、これで満足した模様でした。 実際、ヘテロダイン型VFOに纏めて実用にしていますが、他の部分に普通の球を使っているため必ずしもEp=12Vである必要はなかったのでしょう。 精力的な実験過程が写真とともに纏められています。G0UPLのWebsite(←リンク)も訪問されることをお奨めします。
私からのコメントですが、実は6088があまり良くなかったのではないかと思います。フィラメント・パワーはCK512AXや6418よりも倍も大きいのですが、Ep=12Vではgmが急に低下してしまうらしく、ゲイン不足なのでしょう。これは、後ほどの私の実験でも確認されています。
【私もVFOを試作中】
発振しないVFOは価値がありません。まずは確実に発振させることを優先に実験を進めました。 どんな発振回路でも発振はできる筈と思うかも知れませんが、それはまったくの幻想です。ゲインの低い球を使うと回路の選択が悪ければ発振しません。
最初はG4OEPと同じColpitts発振回路から始めました。発振管は6418と言う補聴器用です。 6418は補聴器用としては最終世代らしく、フィラメント電圧・電流は1.25V/10mAです。プレート電圧:Epが低くてもgmはそこそこの大きさがあるのですが、Ep=12Vではぜんぜん発振してくれませんでした。
次に、発振回路にはColpitts型の変形であるGouriet - Clapp(グーリエ・クラップ)型も試してみましたが同じように発振起動できません。 これらの発振回路は非常にポピュラーですが、意外に発振条件が厳しいようでした。 発振回路の数値的な解析はTESLA研究所Vačkář氏の執筆によるTesla Technical Report(Dec.1949)(←リンク)に詳しいのですが、他を試みた方が有望そうでした。
そこでおなじColpitts型の変形であり、Vačkář氏のレポートにあるいわゆる「Vackar型」でやってみることにしました。 発振条件の厳しさに大差はないものの、回路定数を良く選んでやれば確実に発振させることに成功したのです。発振管は6418で、もちろんプレート電圧:Ep=12Vです。
写真手前に見えるステアタイト・ボビンに巻いたコイルが周波数安定度の点では有利ですが、その左に見えるトロイダル・コアに巻いたコイルも悪くありません。旨く行った発振回路は次項に示しました。
【私のハイブリッドVFO回路】
先に書いたように発振回路はVackarです。 Vackar発振器はヨーロッパ生まれなので、米国技術圏の我が国ではあまりポピュラーにはなれませんでした。これは米国でも同じでした。いわゆるNIH(Not Invented Here)と言うやつです。
Vackar回路は一時期、驚異的な性能(周波数安定度)の「チェコ・テスラ発振器」として注目されたことがありました。(JA-CQ Hamradio 1968年8月号pp170〜174の記事など。下記のコラム参照を。) TESLA研究所のレポートで詳しく解説されていた関係で、「TESLA発振回路」などと呼ばれましたが、論文の発表当時ならともかく、今では正しくはVackar(バッカー)型と言うべきでしょう。
正規のVackar回路は発振管とLC共振器との結合ができるだけ疎になるように設計されています。しかし、ゲインの小さな補聴器用の球では同様の回路定数では発振不能です。 従って、Tesla Technical Reportにあるような回路定数の選び方はできません。 例えば容量比:C4/C3=6が推奨値ですが、それでは発振できないのです。そのような訳で各部の定数はかなり弄ってありますから、もはやTTT式Vackar回路と言うべきものになっています。(笑)
6MHz帯のVFOを例示していますが、3〜8MHzで概ね類似の回路定数で行けます。 もちろん周波数が高くなるほど発振は難しくなるので、1〜2MHzくらいの低い周波数で設計すると非常に有利でした。 逆に10MHz以上で発振させるのは徐々に困難になります。
#Vackar回路VFOとチェコ・テスラ発振器(実はVackar回路と同じもの)については、今でも情報を求める人があるのでこの機会に私の調査結果を纏めておきました。これは一私見ですがGouriet -Clapp回路よりも安定度に優れるように思います。
【発振管は6418】
発振管の話しをしましょう。6418は補聴器の出力管です。音響効率の良いイヤフォンに数mWのパワーを送り込むために作られました。この6418の前段にはマイクロフォニック・ノイズに留意した6419が使われ、補聴器としては2段増幅になっていたようです。なお6419のフィラメント・パワーはさらに小さいですがgmもずっと低いので発振管には不適当と思われます。
6418はフィラメントが改良されています。僅か12.5mWのフィラメント・パワーでEp=15Vでgm=200μ℧が得られるのは素晴らしいと思います。プレート電圧:Ep=12Vではプレート電流とスクリーングリッド電流を合わせて200μAも流れません。従って、トータルの消費電力はせいぜい15mWです。これは先に書いたようにFETを使った発振回路をかなり下回る数字です。(しかし、6418は電子デバイスとして見れば恐ろしく低性能です)
15mWの消費電力でこの大きさのデバイスの温度上昇は僅かでしょう。もちろん、内部は真空ですしフィラメントの輻射熱で電極は加熱されるに違いありません。しかし、物理的な大きさから見てすぐに熱放散されてしまうでしょう。 おそらく数℃の温度上昇も無いはずです。 ですから電源のON/OFFでもすぐにもとの周波数で発振を始めます。
ウオームアップ・タイムが短いだけでなく、周囲温度の影響を受けにくいと言うのも大きなメリットでしょう。半導体の電極間容量は温度の影響を受け易く、自身の温度上昇だけでなく周囲温度の影響も大きく受けます。真空管の場合は、基本的にガラスや電極の熱膨張による物理的な寸法変動に起因する変化のみでですから、半導体のジャンクション容量のような大きな温度変化はないと考えられます。
従って、生活環境程度の周囲温度の変化では真空管の各電極間容量はあまり変化しないと考えて良いでしょう。 補聴器用電池管を使ったVFOの周波数変動はその殆どがコイル:Lやバリコンを含むコンデンサ:Cの温度変化によるものと考えて良さそうでした。従って、良いLCを使えばそれだけでかなり良好な周波数安定度が得られることになります。
参考:gm=200μ℧の球に1kΩの負荷でアンプを作るとゲインは0.2倍です。要するに減衰器になってしまいます。10kΩの負荷でもゲインはたったの2倍です。 だからと言って数MHzの高周波で100kΩの負荷インピーダンスを実現するのは結構難しいのです。それに球自身のプレートインピーダンスも低下してきます。だからVFOは発振困難になるのです。
【バッファアンプは2SK544F】
周波数安定にとって発振回路とともにバッファ・アンプも重要なポイントでしょう。ここでは2SK544Fを使っています。
VFOではソース・フォロワを重ねる形式のバッファ・アンプを良く見掛けますが、この種のFETでは図の形式の方が有利です。2SK544は帰還容量が非常に小さいのでこうした形式の方がゲインもあって有利なのです。
このBlogで何度も書いているように、2SK544F(三洋)は2SK241GR(東芝)や2SK439F(日立)でも良いです。2SK19や2SK192Aのような帰還容量:Crssが大きなFETは同じ回路では使えないので注意して下さい。代替できません。
アウトプット・トランスは非同調形式です。概ね50〜100Ω程度の負荷が適しています。増幅している関係で大きめのパワーが得られるので後続のステージに十分な発振勢力を供給できます。 トランスは写真のような既製品ではなく、自作のトリファイラ巻きでも十分です。代替品の製作方法は回路図に書いておきます。具体的な巻線方法はBlogを前の方に辿ってもらえば写真入りで説明されています。
【光るんだろうか?】
6418のフィラメント・パワーはたったの12.5mWです。真空管と言えばオレンジ色に燃えるヒータ/カソードをイメージするでしょう。フィラメントから熱電子を放射させるためにそれなりの温度にはなっているはずですから・・・。
流石にわずかでも明るいと、光っては見えませんが暗黒の状態で注意深く観測すれば写真のように赤く光るのが確認できました。 無機質なガラスと金属片で出来た電子デバイスもこうして光る様子を見ると息吹が感じられるから不思議なものです。
☆ ☆ ☆
周波数安定性を重視するVFOですからスイッチ・オンから周波数変化の時間経過を示す必要があります。 周囲温度の変化に対する変動も観測しなくてはなりません。 それらは、このあと丈夫な箱に入れてVFOの形にしてから行ないたいと思います。 ただ、BBでの試作であっても周波数が安定しているのは十分実感できました。
まず、ウオームアップ・タイムは非常に短いです。 しばらく通電しておいてから、電源をOFF・・・もちろんフィラメントもOFF・・して、5分ほど経過後に電源再投入してみます。 周囲温度の変動や風の流れも変わるので完全にもとの周波数には戻らないこともあります。しかし、数秒で殆どもとの周波数に復帰するのが観測できました。
連続した周波数変動の観測では周囲温度が最大の変動要因でした。 真空管による変動は殆ど無いのでそれとは無関係にコイルやコンデンサの温度変化がそのまま現れます。 ですからG4OEPがバイメタルを使った「コンデンサ」で温度補償しているような手法が有効なのでしょう。 きちんとした箱に入れ、LCに直接風が当たるのを避け周囲温度の影響が緩やかになるようにしたうえで「温度補償コンデンサ」を採用すればウオームアップ・タイムが短く、周囲温度による変動が少ない周波数安定なVFOが完成します。
#少々趣旨がぼやけてしまいましたが、要は「消費電力の極めて少ない真空管を活かしたVFOは半導体式に勝る」かもしれない・・・と言うお話しです。真空管好きが球を贔屓にすると言った話題ではなくて、電子デバイスの特性を十分活かす話しがテーマです。
☆ ☆
実用的なVFOは回路技術だけでは完結できません。ギヤダイヤルのようなバリコンの減速メカは必須です。 温度特性の良いコイル作成のためには良質のボビンも必要でしょう。 もちろん、スムースで温度特性の良いエアー・バリコンも必須のパーツです。 すでにそうしたパーツは市場から姿を消してしまいました。 こうした真空管と回路的な工夫で周波数安定なVFOの可能性が開けたとしても、実用品に纏め上げるにはまだまだ様々なハードルが待ち受けているのです。de JA9TTT/1
(おわり)
【真空管も良いんだが】
さるBlog筆者によれば、私は真空管に冷たいのだそうです。確かに、真空管と言うだけで好意的に扱うことなんかしませんから愛好家から見たら冷淡だと感じるのかもしれません。だからといって真空管が嫌いなわけではないのです。 いや、むしろ逆でしょう。(笑)
ただ、昨今のように球(タマ)なら何でも有り難がる風潮は看過できないと思っています。 良い物は良いですが駄球は何時になってもやっぱり駄目です。 無知につけ込んだ駄球の高額販売は購入者のお気の毒が目に浮かぶようです。まあご本人が納得していればそれも良いのかもしれませんが。(笑)
☆
閑話休題(それはさておき)今どき真空管のVFOなんかどうするの?・・・と言われそうですね。 発熱があって安定するまでに時間がかかるから、SSBトランシーバではVFO部は早々に半導体化されたのでした。 TS-510が然り、それに続いたFTDX-400もFETを使った半導体式VFOになってずいぶん安定になったのを感じたものです。少なくともウオームアップは格段に早まったと思います。 FETなり普通のトランジスタなりの自己発熱は少ないのですからVFOの発振周波数はすぐに安定します。そう考えてVFOと言えば半導体式が全盛になって行ったのです。
☆
半導体は消費電力が少ないから発熱も少ない・・・と言うのは本当でしょうか? 何を馬鹿なと言われそうですね。 しかし意外に消費電力はあるものです。 FETを使ったVFOで考えてみましょう。Vcc=9Vで、普通の発振回路ならドレイン電流:Id=3mAくらい流したいです。 ソース抵抗が入っているとそこでの消費分もありますが、単純に考えるとしてFETでの消費電力はP=Vcc×Idですから27mWと言うことになります。『なーんだ、たったの27mWかよ・・・』と言うなかれ。
FETの熱容量は小さいのです。FETの内部チップは思いのほか温度上昇します。2SK192Aで考えてみましょう。規格表によれば熱抵抗から計算して1mWあたり1.25℃ほど上昇するようです。 だから27mWで34℃くらい上昇する計算ですね。少ないとは言え、スイッチオンからしばらく周波数変動するのは自己発熱→FET自身の温度上昇が原因なのでしょう。
では温度で何が変動するのでしょう? 変化するのはゲート・ソース間容量とか、ドレイン・ソース間容量のような電極間の静電容量でしょう。 それぞれ3〜10pFくらいあって温度係数を持っています。 他にドレイン電流Idも温度で変化があって、FETの特性からIdが変わればgmも変化し、gmが変化すればミラー容量も変化することになります。 ですら単純な帰還容量:Crssの温度変化よりも影響はずっと大きくなります。このように意外にも半導体式VFOのウオームアップ・ドリフトは小さくないのです。 FETで考えましたがバイポーラ・トランジスタでも同じような物です。
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真空管式VFOのウオームアップ・ドリフトが大きいのは常識でしょう。 なにしろ発熱が大きいからです。よく使われた6BA6クラスの球でもヒーターだけで6.3V/300mAですから2W近いです。プレート損失の方も、150Vで5mAなら0.75Wですからスクリーン損失など合わせたら合計で3〜4Wくらいの発熱はあるでしょう。
自身の熱膨張による電極間容量の変化もあるでしょうが、周囲のCやLがモロに熱せられてしまいます。良く出来たVFOでさえ30分以上のウオームアップ・タイムを要するのは仕方ないでしょう。 ただ、真空管自身の電極間容量は意外に小さくて自己発熱さえ少なければ・・・と考えて、1T4や3S4と言うような電池管を使ったVFOが試みられたこともありました。 しかし電池管はgmが低いので周波数安定に有利な発振回路の定数を選びにくいとか、直熱管なのでマイクロフォニック・ノイズが大きいと言うような固有の欠点もあったのです。 それに、それらの球も少ないとは言え100mWくらいの発熱はあるので、半導体の登場もあって試みる人も現れなくなりました。
長く忘れられていた電池管のVFOでしたが、英国のHAM、G4OEPは面白い球に着目しました。 彼が見つけたのは「補聴器用」の球です。 トランジスタの登場ですぐに廃れましたが、真空管を使った補聴器もあったのです。 補聴器はコンパクトな必要がありますから小さな乾電池の寿命は実用上たいへん重要でした。そのようなニーズから電池寿命を延ばすためにフィラメントの消費電流が極度に小さな真空管が作られたのです。 G4OEPはHivac社(英国)のXFY43と言う真空管を使いプレート電圧も12Vで済むVFOを完成させたのです。
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しばらく前にG4OEPのWebsiteを見て、面白いなあと思っていました。 私と同じように面白いと思ったらしく、彼に続いてG0UPLも試作したようで、こちらも興味深い内容です。 ただXFY43と言う球はことに入手困難らしく代替の球ではEp=12Vで発振してくれません。 いろいろ試してもG4OEPの再現はついに出来なかった様でした。
以下、だいぶ前置きが長くなりましたがG4OEPとG0UPLの試作例を紹介しながら私の試作結果も紹介したいと思います。 なお、限られた貴重な真空管が本当の自作HAMに渡るよう、興味本位のお方は手を出さないのがマナーでしょう。
優れたVFOは真空管があれば作れる訳ではありません。 温度特性に優れたコイルやバリコンと言った主要パーツのほか、ダイヤル減速メカなどVFOの製作に不可欠な機構部品の入手はほぼ絶望的です。従って球だけ手に入れてもまったくもって無駄でしょう。 以下写真で見て鑑賞するだけに留められたいと思います。 もちろん、既にVFO用のパーツをお持ちなのでしたらぜひお試し下さい。
写真説明:左の横に寝たサブミニチュア管が「補聴器」用に開発された真空管:6418と6088です。いずれもJAN(Joint Army and Navy Standard:陸海軍統一規格) 規格品ですが、軍隊が補聴器を大量に必要とする筈はなく、低消費電力を活かし電子兵器用として転用されたものでしょう。なお、右のミニチュア管:6AN5WAは大きさの比較用であり、補聴器の球ではありません。
【G4OEPのハイブリッドVFO】
G4OEP Dr.Andrew Smith氏が製作したVFOの回路です。G4OEPのWebsite(←リンク)で作品の写真もご覧になって下さい。 この回路図には記載はありませんが温度補償のためにバイメタルを使った小容量コンデンサを付加するなど興味深い実験記事があります。 周波数安定度の良い自励式発振器を実現するための非常に示唆に富んだ記述があるのでお奨めします。
発振回路はColpitts(コルピッツ)型です。 ごく一般的な発振回路ですが、周波数安定を問題にすると真空管の電極間に入っているコンデンサ、回路図で言えばC4やC5を大きくしなくてはならず、発振させるためには真空管は相応のゲインが得られるものが必要です。
XFY43のフィラメント電圧・電流はEf=1.25V/If=10mAです。またプレート電圧:Ep=12Vでもそこそこ大きなgmがあるらしく、図のような回路定数で確実に発振するのだそうです。 但しこの発振回路はXFY43なら再現可能かもしれませんが、他の球では難しそうなのです。 実際、私もほぼ同じ回路定数で試してみましたがまったく発振してくれません。 真空管はXFY43と同じような補聴器に使うためのもので、Raytheon社の6418と6088を試しました。
【G0UPLのVFO回路集】
同じく英国のHAM:Hans Summers氏が製作したVFOの回路です。G4OEPの製作にinspireされたのは間違いないでしょう。 まず最初は左図のFig.1から始めたようですが、プレート電圧:Ep=12Vでは発振せず、少なくともEp=25V以上が必要でした。発振管はXFY43と同じく補聴器用のCK512AXでフィラメント電圧・電流は0.625V/20mAです。
フィラメント・パワーが小さい球は「パービアンス」が小さく、当然gmも小さいのです。従ってゲインは低いのです。 それで幾らかでもgmが大きそうな6088を使って試したのがFig.2です。6088のフィラメント・パワーはCK512AXの2倍あります。 発振回路は同じくColpitts型です。 しかしこれもEp=12Vでは発振しません。少なくともEp=27V以上が必要で、これではCK512AXと同じような物でしょう。
おなじ6088を使いながら回路変更したものがFig.3です。Colpitts回路をやめてFranklin(フランクリン)回路に変更しています。Franklin回路は2球使うのでゲインは2段の積になるので有利なはずです。 しかし、同じくEp=12Vでは発振しないのでした。 同調回路との結合が疎になることから、むしろEpは高い必要がありました。よく見ると1段目の6088の負荷は1kΩですからゲイン・アップどころかむしろ減衰器になっています。
彼はEp=12Vに拘らなかったようで、これで満足した模様でした。 実際、ヘテロダイン型VFOに纏めて実用にしていますが、他の部分に普通の球を使っているため必ずしもEp=12Vである必要はなかったのでしょう。 精力的な実験過程が写真とともに纏められています。G0UPLのWebsite(←リンク)も訪問されることをお奨めします。
私からのコメントですが、実は6088があまり良くなかったのではないかと思います。フィラメント・パワーはCK512AXや6418よりも倍も大きいのですが、Ep=12Vではgmが急に低下してしまうらしく、ゲイン不足なのでしょう。これは、後ほどの私の実験でも確認されています。
【私もVFOを試作中】
発振しないVFOは価値がありません。まずは確実に発振させることを優先に実験を進めました。 どんな発振回路でも発振はできる筈と思うかも知れませんが、それはまったくの幻想です。ゲインの低い球を使うと回路の選択が悪ければ発振しません。
最初はG4OEPと同じColpitts発振回路から始めました。発振管は6418と言う補聴器用です。 6418は補聴器用としては最終世代らしく、フィラメント電圧・電流は1.25V/10mAです。プレート電圧:Epが低くてもgmはそこそこの大きさがあるのですが、Ep=12Vではぜんぜん発振してくれませんでした。
次に、発振回路にはColpitts型の変形であるGouriet - Clapp(グーリエ・クラップ)型も試してみましたが同じように発振起動できません。 これらの発振回路は非常にポピュラーですが、意外に発振条件が厳しいようでした。 発振回路の数値的な解析はTESLA研究所Vačkář氏の執筆によるTesla Technical Report(Dec.1949)(←リンク)に詳しいのですが、他を試みた方が有望そうでした。
そこでおなじColpitts型の変形であり、Vačkář氏のレポートにあるいわゆる「Vackar型」でやってみることにしました。 発振条件の厳しさに大差はないものの、回路定数を良く選んでやれば確実に発振させることに成功したのです。発振管は6418で、もちろんプレート電圧:Ep=12Vです。
写真手前に見えるステアタイト・ボビンに巻いたコイルが周波数安定度の点では有利ですが、その左に見えるトロイダル・コアに巻いたコイルも悪くありません。旨く行った発振回路は次項に示しました。
【私のハイブリッドVFO回路】
先に書いたように発振回路はVackarです。 Vackar発振器はヨーロッパ生まれなので、米国技術圏の我が国ではあまりポピュラーにはなれませんでした。これは米国でも同じでした。いわゆるNIH(Not Invented Here)と言うやつです。
Vackar回路は一時期、驚異的な性能(周波数安定度)の「チェコ・テスラ発振器」として注目されたことがありました。(JA-CQ Hamradio 1968年8月号pp170〜174の記事など。下記のコラム参照を。) TESLA研究所のレポートで詳しく解説されていた関係で、「TESLA発振回路」などと呼ばれましたが、論文の発表当時ならともかく、今では正しくはVackar(バッカー)型と言うべきでしょう。
正規のVackar回路は発振管とLC共振器との結合ができるだけ疎になるように設計されています。しかし、ゲインの小さな補聴器用の球では同様の回路定数では発振不能です。 従って、Tesla Technical Reportにあるような回路定数の選び方はできません。 例えば容量比:C4/C3=6が推奨値ですが、それでは発振できないのです。そのような訳で各部の定数はかなり弄ってありますから、もはやTTT式Vackar回路と言うべきものになっています。(笑)
6MHz帯のVFOを例示していますが、3〜8MHzで概ね類似の回路定数で行けます。 もちろん周波数が高くなるほど発振は難しくなるので、1〜2MHzくらいの低い周波数で設計すると非常に有利でした。 逆に10MHz以上で発振させるのは徐々に困難になります。
コラム:「チェコ・テスラ発振回路の実験」記事の顛末
JA-CQ誌1968年8月号に掲載されたこの記事はJA1DXG加藤 丘さんの執筆で、元ネタは同誌の1961年4月号「技術展望」の短い記事です。 残念なことにその「技術展望」のさらに元になった米誌(米CQ誌Dec.1960:"Czech Tesla Oscillator")に重大な間違いがあったのでした。もっとも、この米誌の記事もルーマニアのアマ無線の雑誌からの引用らしいのでどこで間違えたのか今となってはわかりませんが・・・。 そのため当初の実験では異常発振して正常に動作しませんでした。良く回路を考察して半信半疑で部品の入れ替えを行なって取りあえずの成功を見ています。「な〜んだ、これってVackar回路じゃん!」と言うオチでした。(当時すでにVackar回路は既知でしたので) 引用して記事化する際に具体的に言えば回路図のC3とC4を誤植したのが元凶でした。原本のTesra Technical Reportにはもちろん誤りはありません。原典を参照しない引用記事の危うさと言ったものを感じます。もっとも、当時はInternetのような強力な情報収集手段はなかったのですからやむを得なかったでしょう。 そのほか、Vackar回路VFOに関してはJA1FG:梶井謙一OT(故人)執筆による「送信機の設計と製作」CQ出版社1964年12月10日発行:pp57〜64に写真入り製作例があります。いずれも真空管式です。Vackar-VFOは半導体時代にも通用する発振回路です。
#Vackar回路VFOとチェコ・テスラ発振器(実はVackar回路と同じもの)については、今でも情報を求める人があるのでこの機会に私の調査結果を纏めておきました。これは一私見ですがGouriet -Clapp回路よりも安定度に優れるように思います。
【発振管は6418】
発振管の話しをしましょう。6418は補聴器の出力管です。音響効率の良いイヤフォンに数mWのパワーを送り込むために作られました。この6418の前段にはマイクロフォニック・ノイズに留意した6419が使われ、補聴器としては2段増幅になっていたようです。なお6419のフィラメント・パワーはさらに小さいですがgmもずっと低いので発振管には不適当と思われます。
6418はフィラメントが改良されています。僅か12.5mWのフィラメント・パワーでEp=15Vでgm=200μ℧が得られるのは素晴らしいと思います。プレート電圧:Ep=12Vではプレート電流とスクリーングリッド電流を合わせて200μAも流れません。従って、トータルの消費電力はせいぜい15mWです。これは先に書いたようにFETを使った発振回路をかなり下回る数字です。(しかし、6418は電子デバイスとして見れば恐ろしく低性能です)
15mWの消費電力でこの大きさのデバイスの温度上昇は僅かでしょう。もちろん、内部は真空ですしフィラメントの輻射熱で電極は加熱されるに違いありません。しかし、物理的な大きさから見てすぐに熱放散されてしまうでしょう。 おそらく数℃の温度上昇も無いはずです。 ですから電源のON/OFFでもすぐにもとの周波数で発振を始めます。
ウオームアップ・タイムが短いだけでなく、周囲温度の影響を受けにくいと言うのも大きなメリットでしょう。半導体の電極間容量は温度の影響を受け易く、自身の温度上昇だけでなく周囲温度の影響も大きく受けます。真空管の場合は、基本的にガラスや電極の熱膨張による物理的な寸法変動に起因する変化のみでですから、半導体のジャンクション容量のような大きな温度変化はないと考えられます。
従って、生活環境程度の周囲温度の変化では真空管の各電極間容量はあまり変化しないと考えて良いでしょう。 補聴器用電池管を使ったVFOの周波数変動はその殆どがコイル:Lやバリコンを含むコンデンサ:Cの温度変化によるものと考えて良さそうでした。従って、良いLCを使えばそれだけでかなり良好な周波数安定度が得られることになります。
参考:gm=200μ℧の球に1kΩの負荷でアンプを作るとゲインは0.2倍です。要するに減衰器になってしまいます。10kΩの負荷でもゲインはたったの2倍です。 だからと言って数MHzの高周波で100kΩの負荷インピーダンスを実現するのは結構難しいのです。それに球自身のプレートインピーダンスも低下してきます。だからVFOは発振困難になるのです。
【バッファアンプは2SK544F】
周波数安定にとって発振回路とともにバッファ・アンプも重要なポイントでしょう。ここでは2SK544Fを使っています。
VFOではソース・フォロワを重ねる形式のバッファ・アンプを良く見掛けますが、この種のFETでは図の形式の方が有利です。2SK544は帰還容量が非常に小さいのでこうした形式の方がゲインもあって有利なのです。
このBlogで何度も書いているように、2SK544F(三洋)は2SK241GR(東芝)や2SK439F(日立)でも良いです。2SK19や2SK192Aのような帰還容量:Crssが大きなFETは同じ回路では使えないので注意して下さい。代替できません。
アウトプット・トランスは非同調形式です。概ね50〜100Ω程度の負荷が適しています。増幅している関係で大きめのパワーが得られるので後続のステージに十分な発振勢力を供給できます。 トランスは写真のような既製品ではなく、自作のトリファイラ巻きでも十分です。代替品の製作方法は回路図に書いておきます。具体的な巻線方法はBlogを前の方に辿ってもらえば写真入りで説明されています。
【光るんだろうか?】
6418のフィラメント・パワーはたったの12.5mWです。真空管と言えばオレンジ色に燃えるヒータ/カソードをイメージするでしょう。フィラメントから熱電子を放射させるためにそれなりの温度にはなっているはずですから・・・。
流石にわずかでも明るいと、光っては見えませんが暗黒の状態で注意深く観測すれば写真のように赤く光るのが確認できました。 無機質なガラスと金属片で出来た電子デバイスもこうして光る様子を見ると息吹が感じられるから不思議なものです。
☆ ☆ ☆
周波数安定性を重視するVFOですからスイッチ・オンから周波数変化の時間経過を示す必要があります。 周囲温度の変化に対する変動も観測しなくてはなりません。 それらは、このあと丈夫な箱に入れてVFOの形にしてから行ないたいと思います。 ただ、BBでの試作であっても周波数が安定しているのは十分実感できました。
まず、ウオームアップ・タイムは非常に短いです。 しばらく通電しておいてから、電源をOFF・・・もちろんフィラメントもOFF・・して、5分ほど経過後に電源再投入してみます。 周囲温度の変動や風の流れも変わるので完全にもとの周波数には戻らないこともあります。しかし、数秒で殆どもとの周波数に復帰するのが観測できました。
連続した周波数変動の観測では周囲温度が最大の変動要因でした。 真空管による変動は殆ど無いのでそれとは無関係にコイルやコンデンサの温度変化がそのまま現れます。 ですからG4OEPがバイメタルを使った「コンデンサ」で温度補償しているような手法が有効なのでしょう。 きちんとした箱に入れ、LCに直接風が当たるのを避け周囲温度の影響が緩やかになるようにしたうえで「温度補償コンデンサ」を採用すればウオームアップ・タイムが短く、周囲温度による変動が少ない周波数安定なVFOが完成します。
#少々趣旨がぼやけてしまいましたが、要は「消費電力の極めて少ない真空管を活かしたVFOは半導体式に勝る」かもしれない・・・と言うお話しです。真空管好きが球を贔屓にすると言った話題ではなくて、電子デバイスの特性を十分活かす話しがテーマです。
☆ ☆
実用的なVFOは回路技術だけでは完結できません。ギヤダイヤルのようなバリコンの減速メカは必須です。 温度特性の良いコイル作成のためには良質のボビンも必要でしょう。 もちろん、スムースで温度特性の良いエアー・バリコンも必須のパーツです。 すでにそうしたパーツは市場から姿を消してしまいました。 こうした真空管と回路的な工夫で周波数安定なVFOの可能性が開けたとしても、実用品に纏め上げるにはまだまだ様々なハードルが待ち受けているのです。de JA9TTT/1
(おわり)
2015年8月14日金曜日
【回路】8MHz Carrier Oscillator
【8MHz Ladder Filter用のキャリヤ発振器】
【8MHz Ladder Filterの特性とキャリヤポイント】
製作したラダー型フィルタはSSB用のものです。(参考:フィルタ製作編←リンク) SSB送受信機にはキャリヤ発振器が必要ですが、その周波数が問題です。
市販のクリスタル・フィルタなら仕様で中心周波数が決まっていて、キャリヤポイントの周波数も決められているのが普通です。 例外的に昔々の国際電気のHAM用メカフィルのように、個々に実測特性データが付属していてキャリヤポイントもそれぞれ違っていたなどと言う例もありましたが、普通はキャリヤポイントの周波数は仕様項目でしょう。
自作のラダー型クリスタル・フィルタの場合、使用する水晶振動子(水晶発振子)の特性によってフィルタの中心周波数は異なってきます。 また、通過帯域幅を幾らで設計するのか、ポール数(水晶の数)は幾つなのかによってもキャリヤポイントの最適周波数は異なるものです。 従って、出来上がったフィルタについて実測によって決めなくてはなりません。一般的にキャリヤポイントは通過帯域の平坦部から20dB下がったところに置くことになっています。 傾斜の急峻な「良く切れるフィルタ」なら-15dBあたりに決めることもありますが、普通は-20dBが無難な所でしょう。あまり通過帯域側に寄せてしまうと逆サイドの漏れが目立ってしまいます。
写真の例は、8MHzの中華クリスタルを使って製作した6ポールのSSB用クリスタルフィルタの特性です。通過帯域幅は2.7kHz(@-3dB)で設計しています。写真のように、USB用のキャリヤ周波数は7998.633kHz、LSB用のキャリヤ周波数は8002.013kHzでした。 これらの周波数が得られるような発振器を用意することになります。 参考:-20dBのポイントに於ける帯域幅(周波数差)は実測で3350Hzでした。これは設計ソフトで得られた数字と一致しており設計精度と製作再現性の良さがわかります。
☆
ところで、自作のラダー型フィルタでSSBジェネレータを製作すると問題に遭遇することが多いようです。即ちフィルタと同じ水晶を使うと希望のキャリヤ周波数で発振できないと言う問題です。
以下は自家用の備忘資料なので数値は直接役に立たないかも知れませんが手法は使えるはずなので困った時には思い出して下さい。 もちろんフィルタの自作などされないお方には無意味なので以下を読む価値はありません。 例によって興味本位で覗き見する必要はありませんから早々にお帰りを。ご経験もないのにヨソで蘊蓄ばなしをされても困りますので。(笑)
【SSBジェネレータの回路変更】
フィルタを製作したものと同じ水晶振動子(発振子)でキャリヤ発振を行なうためには発振回路の工夫が必要になることが殆どです。 左図はそれに対応した変更回路です。ここでは一例としてダイオード・バラモジを使ったSSBジェネレータを示していますが、バラモジにトランジスタやFETを使ったSSBジェネレータにも同じように適用できます。
USB用にはかなり下の方へ動かさなくてはならないのが普通です。 この例でも8000kHzよりも約2.4kHzほど下げなくてはなりません。単にトリマコンデンサをかませて調整しただけではそこまで下げるのは難しいですからコイル:Lを付加した回路が必要です。C6+C7を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、7996.738〜8001.016kHzが可変できました。USB用としては7998.633kHzが必要なので可変範囲にあります。
また、LSB用には約2kHzほど上で発振させる必要があります。 USB用の回路を兼用する方法ではそこまで上げられないので、この例では独立した回路にしています。 もちろん標準的な負荷容量では8000kHzで発振してしまうので、かなり小さめの負荷容量にする必要があります。C10を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、8000.789〜8002.379kHzが可変できました。LSB用の方は8002.013kHzが必要ですが、多少のマージンがあるので問題はありません。事前になるべく周波数が高い方へばらついた水晶振動子を見つけておくと有利でしょう。
発振回路をスイッチする形式で周波数の切換えを行なっています。このように水晶発振子は2つ必要になってしまいますがやむを得ません。 回路の切換えはバイアス回路の切換え式なので遠隔のスイッチで操作できます。 それぞれの発振出力はダイオードスイッチで切り替えています。 これはこの種の切換えでは常套的な方法でありメーカー製のRigでも良く見かける手法です。
この切換えのダイオードは1SS53を使っていますが一般的な小信号用のスイッチング用ダイオードなら何でも良いです。(例:1S1588、1S2076A、1N4148など)
言うまでもないとは思いますが、トランジスタは2SC372Y→2SC1815Y→2SC2458Yなど小信号用なら代替できるもの多数です。 またFETは2SK544E→2SK241Y→2SK439Eで良いです、2SK19Yや2SK192AYは不適当です。もし2SK19Yや2SK192AYを使うなら中和回路が必要になるので面倒でしょう。カスコードアンプにしても良いですが部品数が増えて面白くないと思いますから、指定の物とその代替候補がお奨めです。
今回はマイクアンプを低インピーダンス型マイクロフォン用に変更しておいたのでご参考まで。 その他、このSSBジェネレータ全般に関しては前のBlogを参照して下さい。
【試作で確認する】
使用する水晶発振子の特性によって最適な回路定数は異なって来ますから部品定数を追い込む目的で試作してみました。
概ね机上設計のままでも大丈夫でしたが、細部の定数を最適化しています。 上記の回路図は試作結果を反映したものになっています。 自分自身の部品事情に合わせた回路なので各自の事情で幾らか加減は必要でしょう。 また、この例では8MHzですが、±1MHz以上違った周波数で作るなら見直しが必要になるかもしれません。
特に、USB用の発振回路にあるインダクタ:L1(22μH)は最適値を探す必要があるはずです。 どんな場合でも同じ部品定数で良い訳ではないのでそのおつもりで参照して下さい。もちろん、個別の事情による周波数変更のご相談には応じきれないので各自で検討をお願いします。回路は決まっていますから、そんなに難しいことではありません。
☆
市販のクリスタル・フィルタには組み合わせて使うためのキャリヤ発振用の水晶発振子が用事されていました。 たとえば、9MHzのSSBフィルタなら、8998.5kHzと9001.5kHzの水晶発振子でした。 そのような水晶なら指定の回路でちょうど良い周波数に合わせられます。まあ、これは当たり前のことでしょう。 しかし、自作したクリスタル・フィルタにはそんなに都合の良いキャリヤ発振用の水晶がある筈もなく、意外に苦労させられたと言う話しを良く耳にします。
ここで紹介した方法が万能だとは思いませんが、USBなりLSB用の周波数を得るための例として試作候補にでもしてもらえたら幸いです。 なお、CW用のBFOではフィルタの中心周波数より500〜800Hz程度離すだけで良いのでずっと容易です。 SSB/CW兼用のRigならこの例と同じ方法で3種の周波数に切り替えられるよう設計するとよいでしょう。
SSB用のバランスド・モジュレータから始まって、自作のクリスタル・フィルタとそれに合わせたキャリヤ発振回路の検討まで進んで来ました。取りあえずこのシリーズはおしまいにします。 IC-DBMの活用がまだではないかと言うご意見はあるでしょう。しかし、それらは一般に標準使用例がデータシートに記載されていて目標にすべき数値も規格で示されています。 従って試作していて何か新しい知見でも見いだせた時には扱ってみたいと思いますが、標準的な用法は省略させてもらいます。 今回のBlogテーマに限らず、一連の関係記事に対するご意見、ご感想、ご要望などお待ちしています。de JA9TTT/1
(おわり)
【8MHz Ladder Filterの特性とキャリヤポイント】
製作したラダー型フィルタはSSB用のものです。(参考:フィルタ製作編←リンク) SSB送受信機にはキャリヤ発振器が必要ですが、その周波数が問題です。
市販のクリスタル・フィルタなら仕様で中心周波数が決まっていて、キャリヤポイントの周波数も決められているのが普通です。 例外的に昔々の国際電気のHAM用メカフィルのように、個々に実測特性データが付属していてキャリヤポイントもそれぞれ違っていたなどと言う例もありましたが、普通はキャリヤポイントの周波数は仕様項目でしょう。
自作のラダー型クリスタル・フィルタの場合、使用する水晶振動子(水晶発振子)の特性によってフィルタの中心周波数は異なってきます。 また、通過帯域幅を幾らで設計するのか、ポール数(水晶の数)は幾つなのかによってもキャリヤポイントの最適周波数は異なるものです。 従って、出来上がったフィルタについて実測によって決めなくてはなりません。一般的にキャリヤポイントは通過帯域の平坦部から20dB下がったところに置くことになっています。 傾斜の急峻な「良く切れるフィルタ」なら-15dBあたりに決めることもありますが、普通は-20dBが無難な所でしょう。あまり通過帯域側に寄せてしまうと逆サイドの漏れが目立ってしまいます。
写真の例は、8MHzの中華クリスタルを使って製作した6ポールのSSB用クリスタルフィルタの特性です。通過帯域幅は2.7kHz(@-3dB)で設計しています。写真のように、USB用のキャリヤ周波数は7998.633kHz、LSB用のキャリヤ周波数は8002.013kHzでした。 これらの周波数が得られるような発振器を用意することになります。 参考:-20dBのポイントに於ける帯域幅(周波数差)は実測で3350Hzでした。これは設計ソフトで得られた数字と一致しており設計精度と製作再現性の良さがわかります。
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ところで、自作のラダー型フィルタでSSBジェネレータを製作すると問題に遭遇することが多いようです。即ちフィルタと同じ水晶を使うと希望のキャリヤ周波数で発振できないと言う問題です。
以下は自家用の備忘資料なので数値は直接役に立たないかも知れませんが手法は使えるはずなので困った時には思い出して下さい。 もちろんフィルタの自作などされないお方には無意味なので以下を読む価値はありません。 例によって興味本位で覗き見する必要はありませんから早々にお帰りを。ご経験もないのにヨソで蘊蓄ばなしをされても困りますので。(笑)
【SSBジェネレータの回路変更】
フィルタを製作したものと同じ水晶振動子(発振子)でキャリヤ発振を行なうためには発振回路の工夫が必要になることが殆どです。 左図はそれに対応した変更回路です。ここでは一例としてダイオード・バラモジを使ったSSBジェネレータを示していますが、バラモジにトランジスタやFETを使ったSSBジェネレータにも同じように適用できます。
USB用にはかなり下の方へ動かさなくてはならないのが普通です。 この例でも8000kHzよりも約2.4kHzほど下げなくてはなりません。単にトリマコンデンサをかませて調整しただけではそこまで下げるのは難しいですからコイル:Lを付加した回路が必要です。C6+C7を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、7996.738〜8001.016kHzが可変できました。USB用としては7998.633kHzが必要なので可変範囲にあります。
また、LSB用には約2kHzほど上で発振させる必要があります。 USB用の回路を兼用する方法ではそこまで上げられないので、この例では独立した回路にしています。 もちろん標準的な負荷容量では8000kHzで発振してしまうので、かなり小さめの負荷容量にする必要があります。C10を50pF(max)のトリマコンデンサとして可変範囲を調べたら、8000.789〜8002.379kHzが可変できました。LSB用の方は8002.013kHzが必要ですが、多少のマージンがあるので問題はありません。事前になるべく周波数が高い方へばらついた水晶振動子を見つけておくと有利でしょう。
発振回路をスイッチする形式で周波数の切換えを行なっています。このように水晶発振子は2つ必要になってしまいますがやむを得ません。 回路の切換えはバイアス回路の切換え式なので遠隔のスイッチで操作できます。 それぞれの発振出力はダイオードスイッチで切り替えています。 これはこの種の切換えでは常套的な方法でありメーカー製のRigでも良く見かける手法です。
この切換えのダイオードは1SS53を使っていますが一般的な小信号用のスイッチング用ダイオードなら何でも良いです。(例:1S1588、1S2076A、1N4148など)
言うまでもないとは思いますが、トランジスタは2SC372Y→2SC1815Y→2SC2458Yなど小信号用なら代替できるもの多数です。 またFETは2SK544E→2SK241Y→2SK439Eで良いです、2SK19Yや2SK192AYは不適当です。もし2SK19Yや2SK192AYを使うなら中和回路が必要になるので面倒でしょう。カスコードアンプにしても良いですが部品数が増えて面白くないと思いますから、指定の物とその代替候補がお奨めです。
今回はマイクアンプを低インピーダンス型マイクロフォン用に変更しておいたのでご参考まで。 その他、このSSBジェネレータ全般に関しては前のBlogを参照して下さい。
【試作で確認する】
使用する水晶発振子の特性によって最適な回路定数は異なって来ますから部品定数を追い込む目的で試作してみました。
概ね机上設計のままでも大丈夫でしたが、細部の定数を最適化しています。 上記の回路図は試作結果を反映したものになっています。 自分自身の部品事情に合わせた回路なので各自の事情で幾らか加減は必要でしょう。 また、この例では8MHzですが、±1MHz以上違った周波数で作るなら見直しが必要になるかもしれません。
特に、USB用の発振回路にあるインダクタ:L1(22μH)は最適値を探す必要があるはずです。 どんな場合でも同じ部品定数で良い訳ではないのでそのおつもりで参照して下さい。もちろん、個別の事情による周波数変更のご相談には応じきれないので各自で検討をお願いします。回路は決まっていますから、そんなに難しいことではありません。
☆
市販のクリスタル・フィルタには組み合わせて使うためのキャリヤ発振用の水晶発振子が用事されていました。 たとえば、9MHzのSSBフィルタなら、8998.5kHzと9001.5kHzの水晶発振子でした。 そのような水晶なら指定の回路でちょうど良い周波数に合わせられます。まあ、これは当たり前のことでしょう。 しかし、自作したクリスタル・フィルタにはそんなに都合の良いキャリヤ発振用の水晶がある筈もなく、意外に苦労させられたと言う話しを良く耳にします。
ここで紹介した方法が万能だとは思いませんが、USBなりLSB用の周波数を得るための例として試作候補にでもしてもらえたら幸いです。 なお、CW用のBFOではフィルタの中心周波数より500〜800Hz程度離すだけで良いのでずっと容易です。 SSB/CW兼用のRigならこの例と同じ方法で3種の周波数に切り替えられるよう設計するとよいでしょう。
SSB用のバランスド・モジュレータから始まって、自作のクリスタル・フィルタとそれに合わせたキャリヤ発振回路の検討まで進んで来ました。取りあえずこのシリーズはおしまいにします。 IC-DBMの活用がまだではないかと言うご意見はあるでしょう。しかし、それらは一般に標準使用例がデータシートに記載されていて目標にすべき数値も規格で示されています。 従って試作していて何か新しい知見でも見いだせた時には扱ってみたいと思いますが、標準的な用法は省略させてもらいます。 今回のBlogテーマに限らず、一連の関係記事に対するご意見、ご感想、ご要望などお待ちしています。de JA9TTT/1
(おわり)
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