【回路:中華カウンタとプリアンプ】
<abstract>
I made a kit for a frequency counter. This kit was purchased by mail order from China. It was only $2.9-.
The frequency counter was lacking in input sensitivity as it is. So I will build a pre-amp to increase the sensitivity. I put an amplifier on it and it started counting at an input of about 100mV. This is very practical. (2020.07.05 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【お手軽カウンタキット】
しばらく前から秋葉原のお店で周波数カウンタのキットが安価に売られるようになりました。PICマイコンを使ったもので、5桁のLED表示になっています。キットをよく見ると中国製のようでした。そこでAliexpressで検索したら写真のようなキットが売られていました。価格はわずかに$2.90-です。どうやら秋葉原の商品と類似品のようです。送料無料なのと相まって、あまりに安いのですがちゃんとしたのが届くんでしょうか?
☆
HAMの自作にはテスタだけでは不十分です。 何もなかったころの「昔風の製作」を信条とするならともかく、いまなら周波数カウンタは欲しいものの一つでしょう。 ここでは中華通販で買った周波数カウンタとそれに付加するプリアンプを試作してみました。本格的な測定器の代わりとして結構役立ちそうなので紹介することにします。もし周波数カウンタを持っていないなら一つ作ってみては如何ですか?
既に周波数カウンタを持っていても、この中華カウンタは役立つかも知れません。IF周波数が455kHzの受信機(例:9R59Dとか)はもちろん、それ以外に任意のオフセット値を加減算するカウンタにもなります。VFOとか局発の周波数を読んで送・受信周波数をデジタルで直接読み取る「周波数表示器」としても使えそうです。 機能の詳細については省きますので、設定方法など詳しい使い方はネットにある取扱説明書を参照してください。 プリアンプの付加はそうした「ラジオ・カウンタ」などの用途にも有用です。 以下、もしも興味を覚えたらご覧を。 今回の電子工作はビギナーでも難しくありません。
【キットが届く】
注文してから約40日ほど掛かって到着しました。安価なキットですし、送料も無料ですから最も安価な輸送手段で発送されたのでしょうか? 台湾からのようですから、ひょっとしたらVia AirではなくてSurfaceだったのでしょうか?
現在はコロナ禍の影響があって中華通販は滞り気味です。昨秋の購入なので約40日でしたが、いまはもっと掛るかも知れません。気長に待つしかないでしょう。 少し高くてもよければ秋葉原のお店で購入するのが手っ取り早いです。あるいは国際通販に不安があるなら国内の通販も良いかも知れません。Amazonにも売っているようです。 購入場所や時期によって幾らか基板のバージョンに違いが見られるようですが、基本的にどれも同じだと思います。
(備考)中華通販はあまりに安い(約330円)ので、ひょっとしてプログラムの書かれていないPICマイコンでも・・なんて疑いました。しかしこれは余計な心配であり、きちんとプログラムは書いてありますし基板も綺麗なものです。部品の過不足もありませんでした。ただし、組み立て説明書のような資料類は一切付いてきませんから自力でネットから探すことになります。でも、簡単に見つけられました。
【組み立ては簡単】
部品数も少なくて簡単なキットです。まずは部品の不足がないか確認しましょう。もっとも、もし不足があってもお店にクレームを入れるよりも足りない分を自身で補う方が手っ取り早いです。もちろんLED表示器やPICマイコンのような主要部品の欠品は致命的ですが。
抵抗器はカラーコードが5本の1%誤差のものが付属していました。5本なのでカラーコード4本の抵抗器に慣れていると戸惑うかも知れません。先頭の3本で有効数字を表します。(注・1) 各部品は浮かせたりせずに写真のように基板にぴったり付けて実装するのをお薦めします。
この周波数カウンタキットは、クリスタル・テスタを兼ねています。このクリスタル・テスタは水晶発振子を発振させてテストするための機能です。 しかし不良品でもないのに発振できない水晶発振子が多くていま一つのようでした。 もし手持ちに2〜20MHzくらいの水晶発振子があれば装着してみます。 うまく発振してくれれば発振周波数が表示されます。
周波数カウンタとしての基準は基板上に20MHz水晶発振子が載っています。その周波数調整用のトリマコンデンサも付いています。 正確に周波数がわかっている発振器があれば校正できますが、もしなければとりあえずそのままでも良いでしょう。 いずれ 機会を改めて校正すれば良いです。
写真は外部の発振器から999.99kHzを水晶発振子の測定端子のところへ与えてみたものです。(1MHz以下の測定では小数点が点滅します) 残念ながらこの方法は感度が悪くて実用性に乏しいことがわかりました。かなり大きめの信号を与えないと計測してくれません。 要するにこの基板単体では周波数カウンタとして感度が悪すぎるのです。 さらに水晶発振子の端子からではなく、その右側のコネクタにある「IN」端子経由で試しても同様でした。(IN端子はもっと感度が悪い。ここは論理信号レベルの矩形波に限るようでした) そこで、外付けのプリアンプが是非とも必要だと思ったわけです。
(注・1)中国製抵抗器の精度:
日本メーカーの抵抗器は非常に優秀で、1%精度の抵抗器の実力は0.5%くらいです。1%を超えることはまずあり得ません。 これに対して中国製は1%精度の物でも数%以上の誤差を持つこともあるようです。中国製はあまりアテにはなりません。 但しこの周波数カウンタ・キットの場合、抵抗器の誤差は±10%でも支障ないので選別などせずに使って大丈夫です。 悲しいことですが、中国製抵抗器の精度が悪いのは半ば常識のようになっています。
【プリアンプと接続法】
電界効果トランジスタ(FET)と普通の高周波用トランジスタ(BJT)を使った2石の簡単なプリアンプです。 カウンタ基板との接続方法も書いておきました。
アンプはFETを使って高い入力インピーダンスを実現しています。 これは測定対象の回路にカウンタを接続した際の影響をなるべく小さくするためです。 入力された信号はまずFETで増幅されます。さらにそれに続くトランジスタで十分に増幅されます。その結果、30MHzあたりまで約100mVの入力感度が得られました。100mVの感度があればトランジスタ・ラジオの局発回路のような発振電圧が小さな所の測定もできます。 さらに高感度に・・と言うご希望もあるかも知れませんが、製作は難しくなってしまいます。簡単さも考慮すればこれくらいが適当でしょう。
入力部のFET:Q1は2SK544Fを使います。代替として2SK241GRあるいは2SK439Fでも良いです。ただし2SK439Fは足の並びが逆順なので注意します。2段目のトランジスタ:Q2は高周波特性の良いトランジスタに限ります。ここでは2SC1424と言うfTが2GHzくらいあるトランジスタを使いました。2SC1424は大して高価なものではありませんが代替として中華トランジスタの「S9018H」(←関連Blogにリンク)が使えます。これなら単価10円くらいです。安くても性能十分です。
回路はごくシンプルなものです。キーポイントはQ2に周波数特性の良いトランジスタを使うことにあります。「ピーキング」と言った広帯域アンプの周波数特性を伸ばす手は使いませんでした。再現性が必ずしも良くないため測定器を持っていないと調整や確認が難しいからです。 しかし、この回路ならバイアス調整のみ行なえばOKです。図の*1の抵抗器:R5を加減して、トランジスタ:Q2のコレクタとGND間の電圧が2.4〜2.6Vくらいになるよう調整します。測定は普通のテスタなら何でも可です。電圧が低すぎるなら抵抗値を大きくします。高すぎるなら逆にします。 同じ種類のトランジスタを使ったとしても調整は必ず行ないます。入力端子をGNDへ短絡し無信号の状態でやります。この調整は入力感度に影響するので必須です。
参考:合理的な調整方法
100kΩの可変抵抗器(ボリウム)を用意します。可変抵抗器は半固定型でも良いです。R5を取り除き仮に可変抵抗を配線します。電源を加え、Q2のコレクタとGND(電源マイナス側)との間の電圧を測定します。その電圧が約2.5Vになるよう可変抵抗器を調整します。そのまま可変抵抗器を取り外し、DMM(アナログ・テスタも可)で可変抵抗器の抵抗値を読み取ります。 その抵抗値になるべく近い抵抗器を標準品から選んでR5とします。交換したらQ2のコレクタ電圧をもう一度測定して確認します。2.4から2.6Vの範囲にあればOKです。やや低すぎるなら抵抗値を大きくし、高すぎるなら小さくします。あまり厳密である必要はありません。抵抗はE12系列から選べば十分でしょう。
注意:大き過ぎる信号を加えないよう注意します。例えばハイパワーな送信機の出力や真空管発振器のように発振電圧がたいへん大きな回路をそのまま測定すると入力部のFETを壊します。なるべく小容量の結合コンデンサを介して測定するとか「ワンターン・ループ」のような結合を加減しやすい測定プローブを作ってなるべく弱く結合して測定します。送信機のアンテナ端子を直結で測定するなどもってのほか。あんがい良く知った風のOMサンがやらかしてますのでご注意を。(笑) アンプの入力部分にダイオード(2つ)を使った保護回路を追加するのも良いでしょう。ただし保護回路は万能ではないので測定の注意は同様です。
【プリアンプを試作】
恒久的に使うならユニバーサル基板にハンダ付けで組み立てるべきでしょう。 専用のプリント基板を起こしても良いのですが、何台も作るわけではないので・・・。 とりあえず回路の動作確認のためにブレッド・ボード(BB)に組み立てました。
部品数もわずかですから簡単にテストできます。 組み立ての注意は「なるべく部品の足を短く」です。 高周波回路ですからリード線が必要以上に長いとうまく動作しません。 配線を短くコンパクトに組み立てると高性能化できます。 写真はあまり上手な例とは言えませんのでユニバーサル基板に組み立てる際はもっとコンパクトに作りたいと思います。
【カウンタ基板小改造】
一箇所だけ基板側の改造が必要ですが、魔改造ではありませんから誰でも簡単にできます。 基板端面の水晶発振子の測定端子の上側にある「102」と書いてあるコンデンサを取り除きます。それだけです。(笑)
もしクリスタル・テスタの機能も残しておきたい場合は、コンデンサを外した場所にピンソケットのような物をハンダつけしておくと良いでしょう。(写真) ソケットにコンデンサを戻せばクリスタル・テスタになります。 周波数カウンタとして使う時はコンデンサを抜いておけば良いわけです。 ここでは1列型のピンソケットをカットしてコンデンサがあった場所にハンダ付けしました。 センターのピンが邪魔なのでカットしておきます。 写真はそのソケットに「102」のコンデンサを戻した状態です。外付けのプリアンプを付加して周波数カウンタとして使うときには「102」を抜き去ります。
【テスト-1・455kHz入力】
この周波数カウンタはなかなかよくできています。5桁の表示器をうまく利用するためにオートレンジになっています。
この例では約455kHzを測定している様子です。写真のように999.99kHzまでは10Hzの分解能で測定できます。 また、99.999kHzまでは2Hzの分解能です。(1Hzではありませんでした。まあ、支障はないですけれど) このように、有効桁数が活かせるようにレンジが自動で切り替わり、それに連れて小数点の位置も変化しますから読み取る際には良く確認します。 なお、表示値がkHz単位になるときには小数点がブリンク(点滅)します。MHz単位のときはブリンクしません。
【テスト-2・30MHz入力】
参照した説明書によると50MHzまでカウントするそうです。 詳しい確認はしませんでしたが、それくらいまで可能なようでした。 ただし周波数の上昇と共に感度は悪くなります。プリアンプのゲインが下がってくるのもその原因です。
それでも周波数特性の良いトランジスタを使ったおかげで、30MHzも100mV(rms)以下の入力で十分カウントできるようです。 もしQ2に2SC1815のような汎用トランジスタを使うと高い周波数でがっくり感度が落ちてしまいます。高周波用トランジスタの効果が実感できます。
30MHzあたりまで100mVの感度があれば、ほとんどのトランジスタ回路の発振周波数が測定できます。自作した発振器の周波数を調整すると言った用途には十分活用できるでしょう。
10MHz以上の測定では最小分解能は1kHzになります。 やや物足りないところですが、これはやむを得ないところでしょう。 レンジがホールドできればオーバーレンジさせて下の桁を読むと言ったこともできるのですが、オートレンジしかないのでそれもできません。 330円のカウンタに多くを望むのは酷でしょうか。hi
(参考)この周波数カウンタは、DL4YHFと言うドイツのHAMが開発した回路/ソフトウエアが元になっているようです。それを基板化し、発振回路を付け加えたものでしょう。リンク先にはオリジナルの記事があります。
☆
何でこのキットを作ったのかという話です。 しばらく前なのですが「短波ラジオの製作」を記事にしたいと言うようなお話がありました。でもそのお話はお断りしました。 たしか初心者向けの内容をご希望されたように思います。そうなると調整に使う「道具」が問題でした。 まさかシンプルな「短波ラジオ」を作るのに周波数カウンタや信号発生器(テストオシレータなど)を一式買ってくれとは言えませんからね。「短波ラジオ」は中波のラジオのようには行かないのです。
幾らか工夫は必要ですが、満足に働く周波数カウンタが300円少々で手に入れば道は開けるかも知れません。加えてシンプルな発振器でも自作しその周波数が正確に読めれば信号発生器の代用品も得られます。道具さえ揃えば「短波ラジオ」の調整がちゃんとできるようになるでしょう。このキットにそれを期待しました。作ったあとラジオの周波数表示器としても使えますから。(ラジオのノイズ源になることがあって、良くシールドするとか使い方の工夫が必要になることもあります)
こんなチープな測定器でも使いこなせば効果絶大です。逆にいくら高級な機器も有効に使わなければシャックのお飾りでしょうね。所有するだけでは価値は生まれません。手元の道具は有効に使いたいものです。これは自戒を込めて。(笑)
何でも売ってる時代です。昔に比べれば、様々な測定器が安価に手に入る良い時代です。しかし入門向けの製作なのに測定器が何台も必要では製作意欲もそがれます。手作り+安価な市販品を道具として旨く活用し「ラジオ作り」が長く楽しめる趣味になって欲しいと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)fm
(参考)本格的な周波数カウンタを自作したいならこちら(←リンク)の連載でどうぞ。
2020年7月5日日曜日
2020年6月21日日曜日
【回路】Audio AGC Amp.
【MC3340Pを使った低周波AGCアンプ】
<Abstract>
I made an Audio-frequency AGC amplifier with MC3340P, an IC for electronic volume control made by Motorola. Even if the input signal changed by 60dB, the change in output was limited to only 6dB.
It would be suitable for a direct conversion receiver (DC-RX) or an Audio frequency amplifier for an Autodyne receiver. And it can also be used as a compression amplifier to increase the average power of the SSB transmitter.
I bought MC3340Ps from China Mail Order, I received were all used, but everything worked fine. (2020.06.21 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【MC3340Pを購入】
MC3340Pはモトローラ/ONセミ製の電子ボリウム用ICです。電子ボリウムというのは電気的に入力信号の大きさを加減することができる電子部品です。 これを使うと大きさを加減したいオーディオ信号などの配線を長く引き回すことなく、遠隔から、あるいは他の回路の出力のような電気的な手段で制御することができます。 なんでもリモコンで制御する時代なので、様々なICメーカーから同種のICが登場しています。 MC3340Pはシンプルで使いやすそうなので購入してみました。
☆
電子ボリウムは普通のボリウム代わりに使うこともできますが、それだけでは面白くありません。 ここで使った電子ボリウムは扱える信号のダイナミックレンジが広く、ゲインの制御範囲も広いことから低周波のAGCアンプの用途に適当そうです。 多くのダイレクトコンバージョン式受信機(DC-RX)やオートダイン受信機にはAGC(自動利得調整器)が付いていません。そのため、受信中の信号の近くで強力なローカル局がオンエアを始めると爆音状態になります。あるいはブロックされて無音になってしまうこともあります。手動で頻繁にボリウムを加減すれば済むのですが、AGCアンプを付ければもっと扱いやすいでしょう。 低周波のAGCアンプは色々難しいことも多いのですが、制御回路の時定数など適当に選べばうまく使える可能性があります。 ここでは基礎実験として、MC3340Pを使った低周波のAGCアンプを試作してみました。 自家用の実験資料ですが、もしも暇を持て余しているようなら眺めてみてください。
【中古品に違いない】
たまたまネットを散策していたらMC3340Pを使ったAGCアンプの記事が目にとまりました。 どんなICなのか調べたところ、外付け部品が少なくて使いやすそうなICでした。 他にも幾つか活用法が思い浮かんだのでさっそく購入してみました。
国内のパーツショップでは見つけられなかったので例によって中華通販を利用します。 安価で売られていたのは良かったのですが、届いたものはすべて中古品のようです。 写真のようにハンダ付けの痕跡が残っていたり、足ピンがカットされていました。 安いので仕方がないとも言えますが、わざわざプリント基板から剥がして清掃するという手間をかけて割りに合うのでしょうかね? ちなみに10個で2ドル弱でした。幸い、簡単にチェックしたら全部支障なく使えそうでした。 こうした中古部品を販売目的の製品に使うのはどうかと思いますが、アマチュアが実験して遊ぶには何ら問題ないでしょう。
【MC3340Pの特性】
MC3340Pの基本的な特性です。 2番ピンとGND間の抵抗値を変えると、右のグラフのようにゲインをコントロールできます。 ゲインをコントロールするのにボリウム(可変抵抗器)を使ったのでは、何だか意味がないなあ・・・と思われるかもしれません。
しかし、このボリウム(図ではRc)には加減したい信号は流れていません。 配線を長く引き伸ばしてもブーンと言うハム(HUM)音の誘導はありません。 また、このRcは機械的なボリウムでなくてもよく、例えばFETのドレインとソース間の等価的な「抵抗」であっても構いません。 ボリウムをFETに置き換えてやり、FETの内部抵抗(ドレイン・ソース間抵抗)を電気的に制御してやればゲインが電圧によって制御されるようなアンプになるでしょう。
(参考)FETを使わずに、まず出力電圧を整流・平滑しOP-Ampで増幅した上で、その電圧によってMC3340Pのゲインを制御すると言った方法もあります。
【低周波AGCアンプの回路図】(Ver1.0.1)
低周波AGCアンプの実験回路です。 ネットの探査で見つけた回路を真似ていますが、FETのコントロール部分を見直しています。ここがこの回路のキーポイントです。 オリジナルのままだと、信号の大きさによっては猛烈なハンチング(一種の発振現象)を伴うようでした。それでは旨くありません。
こうしたAGCアンプは自動制御の一種なので、制御ループの時定数が適当でないと旨く動作しません。 使用するFETの伝達特性とも関係するので、Q1:2SK19Yを変更するなら時定数の見直しが必要です。 2SK19Yは廃品種ですが、同等品の2SK192AYがまったく同じ様に使えます。 MC3340Pの後段のアンプは40dBくらいのゲインが得られればなんでも良いでしょう。ここでは旧式なμA741Cを使っています。 単純な低周波アンプですから他のOP-Ampでも支障はありません。
後ほど入出力特性のグラフがありますが、入力が60dB(1000倍)変化しても出力は約6dB(約2倍)しか変化しません。 ただし、自動制御ですから入力信号の大きさ変化に対して必ず過渡的な応答があります。 概ね受信機に良さそうな時定数に選んでありますが、実際の受信機に組み込んでから必要に応じて*1の部分を加減すると最適化できます。 現状では案外早く応答し、ややゆっくり戻る特性になっています。
【AGCアンプを試作】
ブレッドボードに試作してみました。 ダイオード:D1とD2との結合コンデンサ、C5:0.33μFは漏れ電流のないものが必要です。 ここではマイラ・コンデンサを使ったのですが、巨大なのでイマイチでした。 良質な電解コンデンサか、タンタル・コンデンサに置き換えると良いでしょう。
整流回路のダイオードはゲルマニウムの1N34Aを使いましたが、よく見かける1N60や1K60でも同じです。ゲルマ・ダイオードが手持ちに無ければシリコンの小信号用を使って試すのも良いです。多少出力電圧の大きさは変わりますが、同じようなAGC特性が得られるはずです。
利得制御ループの時定数コンデンサ、C3:4.7μFはタンタル・コンデンサあるいは低リークな良質の電解コンデンサにします。 極性はGNDに接続される側が+(プラス)なので間違えないように配線します。 このコンデンサと直列の抵抗器、R2:100Ωは位相補償(遅れ補償)用の抵抗器です。 もし制御系がハンチングを起こすようなら幾らか加減してみます。小幅な加減で済むはずです。
【入出力特性の測定】
測定器を見せても仕方がないのですが、電子電圧計(ミリバルとも称する)を使って入力と出力の関係を観測しました。
測定に使う信号源は歪みの少ない1kHzの発振器を使いました。 入力信号の大きさを適宜変えながら出力の変化を観測します。
MC3340Pは思ったよりもローノイズでした。 また入力は0.5V(rms) あたりまで加えられます。 従って十分に広いダイナミックレンジがあるので、入力信号の大きさが広範に変化するようなHAMバンド用の受信機にも適しているでしょう。
【波形確認】
入力に10mV(rms)を与えた時の出力波形です。 OP-Amp. U2の出力で観測しています。
このようにまずまず綺麗な波形が得られています。 入力電圧が0.5V(rms)を超えるあたりまでこのような波形が得られます。 こうした電子ボリウムをHi-Fiの用途にも使いたくなります。 写真のように見た感じ綺麗な正弦波で測定すると1〜3%程度の歪み率です。まずまず良好と言えます。 HAM用の受信機やAMラジオくらいならまったく支障はないのですが、純然たるHi-Fiの用途にはもう一歩歪み特性が良くないのが残念なところです。
もちろんHAMバンドの、そもそもノイジーで歪んだ受信音なら十分すぎる性能なので受信機への採用に何も問題はありません。 むしろAGCアンプの付加でDC-RXも扱いやすくなれば本格的な受信機の地位が得られるやも知れません。(笑)
【AGC特性は】
AGCアンプはグラフのような特性になりました。 入力の信号が1mV(rms)くらいからAGCが効きはじめます。 その後は1Vあたりまで綺麗に制御されるのがわかります。入力信号の60dB(1000倍)の変化を約6dB(約2倍)に圧縮できます。 どうやらMC3340Pのゲイン制御特性をうまく活かすことができたようです。
DC受信機あるいはオートダイン受信機に使う場合、このアンプの前に20〜30dB(10〜50倍)程度のゲインを持ったローノイズなプリアンプを置くと良いでしょう。 例えば、2SC1815GRを1〜2石で作ったプリアンプなど適当です。 この低周波AGCアンプを出たところに受信音量を加減する(従来型の)音量調整用ボリウムを置き、さらにスピーカあるいはヘッドフォンを鳴らす簡単なアンプを付けてラインナップ完成です。 音量調節のボリウムをあまり頻繁に加減することなく受信可能な使い易い受信機が期待できそうです。
☆
MC3340Pはもともと低周波のボリウム・コントロールを目的に開発されたICです。 今回の実験のような目的には最適でしょう。 他に、送信機用のマイクコンプレッサのような用途もあります。 さらに、データシートを見ますと意外に周波数特性が伸びていました。 流石にHF帯は無理そうですが、おおよそ2MHzあたりまでフラットに伸びています。その上の方はだら下がりの周波数特性です。 したがって、AMラジオのような455kHzのIF-Ampに使い、広いAGC特性持たせると言った用途も十分考えられるでしょう。 むしろ、こちらの方向に興味を覚えたような感じです。 いずれ機会を見つけてIF-Ampへの活用も検討したいと思います。 では、また。 de JA9TTT/1
(おわり)nm
<Abstract>
I made an Audio-frequency AGC amplifier with MC3340P, an IC for electronic volume control made by Motorola. Even if the input signal changed by 60dB, the change in output was limited to only 6dB.
It would be suitable for a direct conversion receiver (DC-RX) or an Audio frequency amplifier for an Autodyne receiver. And it can also be used as a compression amplifier to increase the average power of the SSB transmitter.
I bought MC3340Ps from China Mail Order, I received were all used, but everything worked fine. (2020.06.21 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【MC3340Pを購入】
MC3340Pはモトローラ/ONセミ製の電子ボリウム用ICです。電子ボリウムというのは電気的に入力信号の大きさを加減することができる電子部品です。 これを使うと大きさを加減したいオーディオ信号などの配線を長く引き回すことなく、遠隔から、あるいは他の回路の出力のような電気的な手段で制御することができます。 なんでもリモコンで制御する時代なので、様々なICメーカーから同種のICが登場しています。 MC3340Pはシンプルで使いやすそうなので購入してみました。
☆
電子ボリウムは普通のボリウム代わりに使うこともできますが、それだけでは面白くありません。 ここで使った電子ボリウムは扱える信号のダイナミックレンジが広く、ゲインの制御範囲も広いことから低周波のAGCアンプの用途に適当そうです。 多くのダイレクトコンバージョン式受信機(DC-RX)やオートダイン受信機にはAGC(自動利得調整器)が付いていません。そのため、受信中の信号の近くで強力なローカル局がオンエアを始めると爆音状態になります。あるいはブロックされて無音になってしまうこともあります。手動で頻繁にボリウムを加減すれば済むのですが、AGCアンプを付ければもっと扱いやすいでしょう。 低周波のAGCアンプは色々難しいことも多いのですが、制御回路の時定数など適当に選べばうまく使える可能性があります。 ここでは基礎実験として、MC3340Pを使った低周波のAGCアンプを試作してみました。 自家用の実験資料ですが、もしも暇を持て余しているようなら眺めてみてください。
【中古品に違いない】
たまたまネットを散策していたらMC3340Pを使ったAGCアンプの記事が目にとまりました。 どんなICなのか調べたところ、外付け部品が少なくて使いやすそうなICでした。 他にも幾つか活用法が思い浮かんだのでさっそく購入してみました。
国内のパーツショップでは見つけられなかったので例によって中華通販を利用します。 安価で売られていたのは良かったのですが、届いたものはすべて中古品のようです。 写真のようにハンダ付けの痕跡が残っていたり、足ピンがカットされていました。 安いので仕方がないとも言えますが、わざわざプリント基板から剥がして清掃するという手間をかけて割りに合うのでしょうかね? ちなみに10個で2ドル弱でした。幸い、簡単にチェックしたら全部支障なく使えそうでした。 こうした中古部品を販売目的の製品に使うのはどうかと思いますが、アマチュアが実験して遊ぶには何ら問題ないでしょう。
【MC3340Pの特性】
MC3340Pの基本的な特性です。 2番ピンとGND間の抵抗値を変えると、右のグラフのようにゲインをコントロールできます。 ゲインをコントロールするのにボリウム(可変抵抗器)を使ったのでは、何だか意味がないなあ・・・と思われるかもしれません。
しかし、このボリウム(図ではRc)には加減したい信号は流れていません。 配線を長く引き伸ばしてもブーンと言うハム(HUM)音の誘導はありません。 また、このRcは機械的なボリウムでなくてもよく、例えばFETのドレインとソース間の等価的な「抵抗」であっても構いません。 ボリウムをFETに置き換えてやり、FETの内部抵抗(ドレイン・ソース間抵抗)を電気的に制御してやればゲインが電圧によって制御されるようなアンプになるでしょう。
(参考)FETを使わずに、まず出力電圧を整流・平滑しOP-Ampで増幅した上で、その電圧によってMC3340Pのゲインを制御すると言った方法もあります。
低周波AGCアンプの実験回路です。 ネットの探査で見つけた回路を真似ていますが、FETのコントロール部分を見直しています。ここがこの回路のキーポイントです。 オリジナルのままだと、信号の大きさによっては猛烈なハンチング(一種の発振現象)を伴うようでした。それでは旨くありません。
こうしたAGCアンプは自動制御の一種なので、制御ループの時定数が適当でないと旨く動作しません。 使用するFETの伝達特性とも関係するので、Q1:2SK19Yを変更するなら時定数の見直しが必要です。 2SK19Yは廃品種ですが、同等品の2SK192AYがまったく同じ様に使えます。 MC3340Pの後段のアンプは40dBくらいのゲインが得られればなんでも良いでしょう。ここでは旧式なμA741Cを使っています。 単純な低周波アンプですから他のOP-Ampでも支障はありません。
後ほど入出力特性のグラフがありますが、入力が60dB(1000倍)変化しても出力は約6dB(約2倍)しか変化しません。 ただし、自動制御ですから入力信号の大きさ変化に対して必ず過渡的な応答があります。 概ね受信機に良さそうな時定数に選んでありますが、実際の受信機に組み込んでから必要に応じて*1の部分を加減すると最適化できます。 現状では案外早く応答し、ややゆっくり戻る特性になっています。
【AGCアンプを試作】
ブレッドボードに試作してみました。 ダイオード:D1とD2との結合コンデンサ、C5:0.33μFは漏れ電流のないものが必要です。 ここではマイラ・コンデンサを使ったのですが、巨大なのでイマイチでした。 良質な電解コンデンサか、タンタル・コンデンサに置き換えると良いでしょう。
整流回路のダイオードはゲルマニウムの1N34Aを使いましたが、よく見かける1N60や1K60でも同じです。ゲルマ・ダイオードが手持ちに無ければシリコンの小信号用を使って試すのも良いです。多少出力電圧の大きさは変わりますが、同じようなAGC特性が得られるはずです。
利得制御ループの時定数コンデンサ、C3:4.7μFはタンタル・コンデンサあるいは低リークな良質の電解コンデンサにします。 極性はGNDに接続される側が+(プラス)なので間違えないように配線します。 このコンデンサと直列の抵抗器、R2:100Ωは位相補償(遅れ補償)用の抵抗器です。 もし制御系がハンチングを起こすようなら幾らか加減してみます。小幅な加減で済むはずです。
【入出力特性の測定】
測定器を見せても仕方がないのですが、電子電圧計(ミリバルとも称する)を使って入力と出力の関係を観測しました。
測定に使う信号源は歪みの少ない1kHzの発振器を使いました。 入力信号の大きさを適宜変えながら出力の変化を観測します。
MC3340Pは思ったよりもローノイズでした。 また入力は0.5V(rms) あたりまで加えられます。 従って十分に広いダイナミックレンジがあるので、入力信号の大きさが広範に変化するようなHAMバンド用の受信機にも適しているでしょう。
【波形確認】
入力に10mV(rms)を与えた時の出力波形です。 OP-Amp. U2の出力で観測しています。
このようにまずまず綺麗な波形が得られています。 入力電圧が0.5V(rms)を超えるあたりまでこのような波形が得られます。 こうした電子ボリウムをHi-Fiの用途にも使いたくなります。 写真のように見た感じ綺麗な正弦波で測定すると1〜3%程度の歪み率です。まずまず良好と言えます。 HAM用の受信機やAMラジオくらいならまったく支障はないのですが、純然たるHi-Fiの用途にはもう一歩歪み特性が良くないのが残念なところです。
もちろんHAMバンドの、そもそもノイジーで歪んだ受信音なら十分すぎる性能なので受信機への採用に何も問題はありません。 むしろAGCアンプの付加でDC-RXも扱いやすくなれば本格的な受信機の地位が得られるやも知れません。(笑)
【AGC特性は】
AGCアンプはグラフのような特性になりました。 入力の信号が1mV(rms)くらいからAGCが効きはじめます。 その後は1Vあたりまで綺麗に制御されるのがわかります。入力信号の60dB(1000倍)の変化を約6dB(約2倍)に圧縮できます。 どうやらMC3340Pのゲイン制御特性をうまく活かすことができたようです。
DC受信機あるいはオートダイン受信機に使う場合、このアンプの前に20〜30dB(10〜50倍)程度のゲインを持ったローノイズなプリアンプを置くと良いでしょう。 例えば、2SC1815GRを1〜2石で作ったプリアンプなど適当です。 この低周波AGCアンプを出たところに受信音量を加減する(従来型の)音量調整用ボリウムを置き、さらにスピーカあるいはヘッドフォンを鳴らす簡単なアンプを付けてラインナップ完成です。 音量調節のボリウムをあまり頻繁に加減することなく受信可能な使い易い受信機が期待できそうです。
☆
MC3340Pはもともと低周波のボリウム・コントロールを目的に開発されたICです。 今回の実験のような目的には最適でしょう。 他に、送信機用のマイクコンプレッサのような用途もあります。 さらに、データシートを見ますと意外に周波数特性が伸びていました。 流石にHF帯は無理そうですが、おおよそ2MHzあたりまでフラットに伸びています。その上の方はだら下がりの周波数特性です。 したがって、AMラジオのような455kHzのIF-Ampに使い、広いAGC特性持たせると言った用途も十分考えられるでしょう。 むしろ、こちらの方向に興味を覚えたような感じです。 いずれ機会を見つけてIF-Ampへの活用も検討したいと思います。 では、また。 de JA9TTT/1
(おわり)nm
2020年6月6日土曜日
【回路】MECL Design notes (2)
【ECL ICを使ったRF-PSNの製作】
<Abstract>
I use the ECL of a fast logic IC to make the 90° phase shifter needed to generate a PSN type SSB. It didn't work properly at first because it was built on the breadboard. Even though it was a logic IC, it was accompanied by an oscillation phenomenon.
The cause was unexpectedly simple, ECL-IC is an internal structure like an analog IC. It's like a series of amplifiers, so it's prone to instability. Put a bypass capacitor near the power supply and GND pins. It works stably if I even do it. (2020.06.06 de JA9TTT/1 Takahiro Kato )
【MECL X-tal OSC 2】
まずは前回のBlog(←リンク)の続きです。使用したブレッドボード(BB)が適切でなかったため、配線が未整理でした。 改めて別のパターンのBB上にMECLを使った水晶発振器を組み立てました。 ピン配置の関係から、使うアンプを変更して部品配置を最適化しています。 ちょっとした修正で写真のようにスッキリしました。 後ほど変更後の回路図も掲載しておきました。
☆
モトローラ製のECL-IC、MECLを使ってPSNタイプのSSBジェネレータに使うRF-PSNを作ってみましょう。 MECLは既に廃れたロジック・ファミリです。 入手性は良くありませんので、お勧めはできませんが雑誌記事にもたびたび登場するので一度は試したいと 思っていました。 中華通販など使うことで必要なデバイスが手に入ったので実験を始めました。 例のコロナ禍によって部品到着が遅れたため実際にPSN-SSBエキサイタを使ったテストは間に合いませんでした。 まずはMECLを使ったRF-PSNを安定に動作させるまでを扱います。いつも通り、これは自家用の備忘録です。 かなりお暇なお方のみこの先にお進みを。 忙しいお方はこんなBlogを眺めるのはやめにして、今日という2度と来ない日をもっと有意義なことに費やしてください。
【OSC Frequency】
発振周波数は3.6864MHzにしました。 既に扱ったPSNタイプSSBエキサイタ(←リンク)のキャリヤ周波数は930kHzでした。
一番良いのはその4倍の3.720MHzですが、そう都合の良い水晶発振子は手持ちにはありません。 似寄りの周波数として、3.6864MHzのHC-49/USがあったのでそれを使いました。 今回は周波数調整用のトリマコンデンサもきちんと入れたので、写真のようにほぼジャストの周波数に調整することができます。
しばらく通電して周波数変動の様子を見たのですが、30分間で2〜3Hzの変動でした。まずまず安定な発振周波数が得られるようです。 今となってはECL-ICそのものが特殊ですから、積極的に発振用に使うことも無いとは思いますが十分安定な発振器が作れることがわかりました。 周波数特性が良いことから数10MHz以上のオーバートーン発振も可能なので作ってみるのも面白そうです。 今回の目的には必要ないのでやめておいきますが、覚えておいて何かニーズがあったら実験しましょう。
【MECL X-tal OSC 2 / Schematic】
前回の実験(←リンク)と基本的に同じなので、回路そのものは変わっていません。 ただし、BB上の部品配置が少しでも合理的になるよう、3回路入っている内部のアンプ・ブロックの使い方を変更しています。
また、受端側の都合から出力回路を変更しました。2系統に分配しますが、どちらも終端インピーダンスが50Ωになるよう設計されています。 こちら側もそれに合わせた回路にしてあります。 今回は長い配線を引く必要がなかったので必ずしも50Ωで終端する必要もなさそうでしたが、少しでも良い波形でクロックが伝送できるよう万全を期すことにしました。 もっとも、組み立てがBBなのですからそもそも・・・なのですが。(笑)
なお、R9:510Ωはこの発振部を単独でテストするときには必要です。 テストのあと90°移相器部へクロックを供給する際は除去します。 これは移相器の側に50Ωに終端するための抵抗器が付いているからです。
使用しているMC10116Pはラインレシーバ用のICで、MECL10KファミリのECL-ICです。 いくらか詳しいことは前回のBlogに書きました。必要に応じて遡ってご覧を。
【MECL RF-PSN / HJ No.45】
本題であるECL-ICを使ったRF-PSNの話です。 ECLを使った回路というと、左図のような回路が定番化しているようです。 過去の雑誌記事について調べてみたのですが、基本的に同じ回路でした。
調査しても掴めなかったため、これは想像なのですが、おそらく外誌の記事にオリジナルがあるものと思われます。もし、何かオリジナル記事の情報でもあればお知らせください。
この回路は外部の発振器をクロック源として使う前提になっています。 10dBmの入力があれば良いらしく、3dBのアッテネータを挟んでインターフェースしています。 インターフェース部分のMC10107は右の方にある±90°の位相切り替えに使う電子的なスイッチの余りを便宜的に使ったものであり、必ずしもこれをここに使う必要はないはずです。 ですから、今回のように水晶発振器をECL-ICで作れば直接フリップ・フロップをドライブできます。
後ほど原理図を示しますが、回路はジョンソンカウンタを使った単純なものです。 ただし、それだけでは厳密に位相が揃わないため、出力パルスのエッジを揃える目的で出力部分にもD-FF/MC10131を追加してあります。 このようにすれば、ジョンソンカウンタだけで構成した90°位相器よりも高精度の実現が可能です。
シンプルで良く考えられた回路だと感じます。ここではこの回路を踏襲して実験したいと思います。とりあえず、クロックの供給部分を除けば大きく変更する必要性は思い当たりません。 単純明快な回路なのですから、あえて変える意味はありませんね。
【MECL Logic Symbols】
非常に基本的なことですが、MECLを扱うにあたってまず始めに馴染みのない論理記号が目にとまりました。
論理記号の入出力端子には、何やら矢印のようなものが書かれています。 これは左図によって明らかになるのですが、黒い矢印が付いた端子は正論理、白抜きの矢印なら負論理という意味なのです。 ECL以外では見たことがないので戸惑いました。 しかしMECLの世界では常識なのでしょう。w なお、多くのMECLデバイスは、2つ出力端子があって非反転の他に反転出力が付いています。これは差動回路の両コレクタから出力を取り出せば簡単に可能だからでしょう。
また、論理レベルもTTLやC-MOSに馴染んだ者から見たら異常にさえ感じます。 これは、Vcc端子(+電源の端子)をGNDしていて、マイナスの電圧をVEE端子に与えて使っているからに他なりません。 正論理で言えば、論理「1」の電圧レベルは-0.9Vで論理「0」の電圧レベルは-1.7Vなのです。 確かに-0.9Vの方が-1.7Vよりも高いのですが、絶対値は0.9の方が小さいのでなんとなく混乱しそうになります。 これもECLの独特の世界なのでしょう。論理設計では「0」と「1」で考えて普通は電圧そのものを気にしなくても良いのかもしれません。もちろん正論理なのか負論理なのかは始めに決めて(考えて)おきます。
なお、+電源:Vccの方をGNDにして動作させるのは理由があります。 ECLの回路構成では+電源側の電圧変動に弱いのです。ノイズが乗りやすいという意味でしょう。 そのためベタなGNDパターンを作って電位的に最も安定しているであろうそのGNDの部分を+電源の端子に接続して使う方が有利なのです。 必然的に電源のマイナス側の端子をICのVEE端子(一般に8番ピン)に配線して使うことになります。 もちろんECL-ICを数個しか使わないのなら、VEE端子をGNDして使っても大丈夫です。そんな時は+Vcc側の十分なバイパスを心がけノイズ混入に気を付ければ良いでしょう。
ほとんどのECL-ICは出力回路が抵抗負荷のエミッタ・フォロワになっているのでワイヤード・オア接続が可能です。ECLの論理回路はOR/NORゲート回路を主体に使って設計するもののようです。TTLのようにNANDが基本なのとは勝手が違いますね。まあ、ド・モルガンの法則を適用すれば相互に入れ替え可能なので支障はないのですが・・。 入力インピーダンスは高くベース電流も少ないためファンアウトはたくさん取れます。入力端子の多くは-VEE間にプルダウン抵抗器が入っており、抵抗値は一般に50kΩのようです。 殆どのECL-ICは温度補償されたバイアス電源を内蔵しており、論理振幅はわずかに約0.8Vでそのバイアス電圧:VBBを前後して振れます。
だいたいこう言ったところがECL-ICを使う上での常識的な話のようです。 使ってみると他にも「常識」があったのですが、それはまた後ほどにでも。
【2bit Johnson Counter】
2ビットのジョンソン・カウンタのタイムチャートです。 図のようにD型フリップ・フロップを接続して共通のクロックを与えます。
1段目のQ出力:QAと2段目のQ出力:QBはちょうど入力クロックの1周期分の遅れが現れ、これが出力の全周期に対して90°に相当する位相差になるのです。
この位相差はクロックの周期が一定なら不変なはずで、 QAとQBの出力を使えば正確な90°の位相差を持った信号が得られるのです。 ただし、周波数は1/4になるので、必要周波数の4倍の周波数を持ったクロック信号を与える必要があります。 この回路の特徴を使ったのがデジタルなRF-PSN回路ということになります。
【MECL RF-PSN Schematic】
クロック発生部を除いたデジタルなRF-PSN回路です。 実際の配線に便利なように、詳細な回路図にしておきました。
論理「0」に保つべき端子は、すべて-VEEに接続するように書いてありますが、実際にはオープンにしたままでも動作はするようです。 それでも、きちんと処理した方が望ましいと考えて、実際にも-VEEラインへ繋いであります。入力端子のインピーダンスは高めなので、そうする方が安心でしょう。
なお、この回路図にその例は1箇所しかありませんが、入力端子に論理「1」を与えたい時には注意が必要です。TTLやC-MOSのように電源の+Vccラインへ直結してはいけないのです。 そのまま直結しても動作するケースは多いようですが、確実な動作は保証されません。 論理「1」には必ず-0.9Vくらい「GNDレベル(=+Vcc端子電圧)よりも下がった電圧」を与えねばなりません。 この図で位相の切り替えスイッチの部分にダイオードが一つ入っているのはその電圧降下を得るためです。 電圧降下は-0.7Vでも大丈夫で、簡単にやるにはダイオードの順方向電圧分だけ落としてやります。 もし余ったゲートなどがあれば、その出力端子のうち論理「1」になっている所を利用するのも良い方法です。
各フリップ・フロップに与えるクロック回路は:MC10131Lの9ピン直近で50Ωに終端しています。 これは少しでも綺麗な(確実な)矩形波で駆動するためです。可能であればクロック発生部との間は同軸ケーブルもしくは、ライン・インピーダンスが50Ωになるように設計したストリップラインで接続すべきでしょう。 基板化する際には考慮にあたいします。
【MECL RF-PSN EX-View 1】
上記の回路図をブレッド・ボード(BB)にまとめました。 なるべく最短配線になるよう考えていますが、所詮はブレッド・ボードですから必ずしも理想的とは言えません。でも、まずまず綺麗に仕上がりました。hi hi
電源ラインの各所にバイパスコンデンサを入れてあります。 またベースボード(底板)もGNDラインに接続して高速パルス回路が確実に動作するよう考えてあります。 それにクロック周波数はわずか3.6864MHzですし、一般的なRF回路ならこれでもう十分安定に動作するはずです。 が、しかし・・・。
【Bad output wave form】
マトモに動作してくれません。 この写真はまだマシな方で、初めの頃はもっと酷いものでした。 まったく正常に動作してくれず、出力に現れるパルス波を観測すると理屈のようにクロック周波数の1/4とはならずかけ離れていました。ランダムにバラついており、まるでどこかで自己発振でも起こしているかのようです。
クロックの配線部分で反射が起こって誤動作しているのかと思い、配線の途中にダンピング抵抗を挿入したりターミネーションの条件(終端条件)を変えてみたり・・・。 散々やっても言うことを聞いてくれないのです。まさかECLのデジタル回路ってこんなに難物だとは夢にも思いませんでした。(笑)
☆
【Add Bypass Capacitors】
どんなトラブルもそうですが、わかってみたら案外単純なものです。 それにその理屈は後から幾らでも付いてくるものでしょう。
極意は電源端子:+Vcc1(大半は1番ピン)と-VEE端子 (大半は8番ピン)の間に、最短でバイパス・コンデンサを入れることです。 写真ではグレーの角型の部品がそれで、この例では主にロジック回路でバイパスの目的に使うタンタル・コンデンサが入れてあります。
(多くのECL-ICには電源ピンVccが2つあります。そのうちVcc1の方が効果的です。Vcc2に入れても効果は見られません。これは内部回路から考えても当然でしょう)
はじめ誤動作の主原因は集積度の高いフリップ・フロップ:MC10131L(ここではより高速なMC10H131Lを使っています)だろうと思ったのですが、それだけでは完全ではありませんでした。 位相の切り替えスイッチに使っている:MC10107Lにも必要でした。 また、このBlogの最初のようにクロック発振器もそれ単独の観測では問題なさそうでしたが、実際には同じようにする必要がありました。回路全体で動作させると時折誤動作が見られたのですが、それがピタリとおさまります。
だいぶ回り道をして得られた使い方の秘訣なのですが、これさえ行なってやれば他の論理回路ファミリと同じくらい安定に(確実に)動作してくれます。ブレッド・ボードでも。
【Change to Ceramic Cap.】
ECL-IC個々に入れるバイパス・コンデンサは上の写真のようにそのままタンタル・コンデンサでも良さそうです。 ただしここで使ったコンデンサは少し特殊な物のようでした。
ごく一般的な積層セラミック・コンデンサでも大丈夫なのか確かめました。 写真のような積層セラコンに交換してみます。
積層セラコンのほかに円盤型セラコンでも試しましたがいずれでも大丈夫そうです。 なお、容量は0.1μFです。 回路図にはあらためて書き加えませんが、バイパス・コンデンサを必ず直近に入れておきます。
参考:むかしお仕事でECL-ICを使っていたと言う友人によると、各ICごとに10μFと0.1μFのパスコン入れてたそうです。その頃でも4層基板だったとのこと。(追記:20200609)
【MECL RF-PSN EX-View 2】
まずは安定に動作させることに腐心してしまい、実際にPSN-SSBエキサイタに使って性能確認するまでには至りませんでした。
ちょっと見たところでは最初の方の写真とあまり違いませんが、個別バイパス・コンデンサの効果は絶大で、たいへん安定して動作してくれるようになりました。 やっと各部の動作を確認できる状態になったのです。
冷静になって考えてみると、ECL-ICというのは差動増幅器のかたまりのようなものです。 それを多段に渡って接続するのですから、アンプの従続接続のようなものでハイゲインになるのでしょう。しかもかなりの高速・広帯域回路です。 ECLも確実なバイパスがあってこそ正常な動作が期待できるのだと納得しました。
完全な動作のためにはできたら両面基板を使い、裏面はグランドプレーン(ベタGND)にする必要があるでしょう。 その上で、Vcc端子、特にVcc1端子とVEE端子の間に最短距離でバイパス・コンデンサを配置すべきです。 これは個々のECLチップごとに行なう必要があります。 過去に試してうまく行かなかった経験があるなら、再度見直してチャレンジする意味はあるかもしれませんね。
【Good output wave form】
相変わらずきちんとしたプローブ・チップを付けていないのでプローブのGNDリード線に起因するリンギングが波形に見られます。
それは差し引いて、まずは観測波形はマトモそうになりました。 ここまで持ってくるまでにはだいぶ苦労しましたが実際に作ってこそ得られるものがあったと思います。
気になったので過去の雑誌記事など読み返したのですが、こうしたECL-ICの扱いに関して配慮が見られたのは1例だけでした。(バイパスコンデンサに関する言及はありませんが、配慮は感じられた記事です) あとは単に回路図を掲載しているだけに過ぎません。この辺りは「常識」として片付けているのかもしれませんけれど・・・。 ユニバーサル基板に実配線で作ってはみたものの案外期待外れだったと言うような実験例も多いのかもしれませんね。
これから試すならECL-ICを使う上での勘所はわかったので成功の確率は高くなったかもしれません。 専用基板を起こすのが理想ですが、片面がGNDメッシュになったユニバーサル基板に作っても良いでしょう。その上で、バイパス・コンデンサに留意します。 PSNタイプSSBエキサイタで実験するにはブレッド・ボードを脱却した方が良さそうです。 ナマ基板にデッドバク・スタイルで製作というのもアリでしょう。(笑)
【Output Frequency】
Digital 90°移相器の出力周波数を確認してみました。 もちろん、水晶発振器の1/4になっています。 周波数安定度も良好で、もう不安定な挙動は感じられません。
作ってみた当初は「これはダメかも」と思いました。 中華通販で購入したMECLですから、そもそも不良品なのかも・・・なんて疑ってもみたのです。 しかし、単にECL-ICの扱いに不慣れだっただけで、きちんと使えば問題などないのです。 中華通販でちゃんとした部品が届いたことの証明にもなりましたね。 ユーザーの不慣れで不良品扱いされたら可愛そうでした。(笑)
☆
改めて、こうしたデジタルICを使った90°移相器について考えるとなかなか厳しい条件で動作していることがわかります。 例えば、いま必要とするキャリヤ周波数が1MHzだとしましょう。要するに1MHzでSSBを発生しようと言う訳です。 1MHzの1周期は1μ秒です。そして位相の回転は1μSで360°と言うことになります。 求める位相誤差が90°に対して±0.1°だとすれば、許容される時間誤差は1周期の3600分の1ということになります。
これを実時間で言えば、1μS/3600= 0.0002777・・・(μS)です。 これは≒278pS(ピコ秒)ということですから、スイッチング速度が約2.5nS(ナノ秒)=2,500pSのMECL10KファミリのECLでさえかなり厳しいはずです。 同一パッケージ内に入った2つのフリップ・フロップでさえ、スイッチングのタイミングがどこまで揃うかはわかりません。おそらく数pS〜数10pSの違いはあり得るでしょう。
上記の考察は1MHzのものです。 いきなり周波数を10倍にしたのでは飛躍し過ぎかもしれません。しかし、実際に数MHzの周波数でPSNタイプのSSBを扱うケースは多いものです。あながち誇張し過ぎとも言えないでしょう。
そこで、もしキャリヤ周波数が10MHzだったとすれば0.1°の誤差から許されるタイミング誤差はたったの27.8pSということになります。 この27.8pSと言う時間は実感できますでしょうか? 電線中をパルス波が進む距離はたったの6mmほどです。 電気って案外のろいんですね。w(真空中なら8.34mmですが電線やプリントパターン上では約70%の速さに)
10MHzではたった6mmの配線長の違いが問題になります。 もはや2つのフリップ・フロップのスイッチングタイムがどこまで揃うのかあまりアテにはならないかも知れません。 今更ながらデジタル式の90°移相器は厳しいことがわかります。もっと周波数が高ければ一段と・・・。 逆に1MHzならかなり楽な周波数だったとも言えそうなのです。
ECL-ICですらこれですから、LS-TTLやHC-MOSではもっと厳しいです。 さらに悪いことにそれらICの出力パルスは前縁のライズタイム:trと後縁のフォールタイム:tfが揃いません。 これはデバイスの内部構造上やむを得ませんがtr/tfに関しても、ECL-ICの方が幾らかマシなようです。
結局のところ、デジタルなRF-PSNなのになぜか位相誤差が残ってしまい、アナログな手段(姑息な手段?・笑)で微調整して逃げたなどという笑うに笑えない結末も十分あり得ます。HC-MOSで試作した時はまさしくそんな感じで誤魔化してしまいましたね。(笑)
それくらいでしたら、やや不安定で確実性に欠けるかもしれませんが、すでに実験したようなアナログな・・・L/C/RあるいはR/Cを使った・・・RF-PSNでも十分なのかも知れませんね。調整で追い込めるメリットがありますから。 デジタル式は複雑な回路と大きめの消費電力に見合っていなようにさえ感じてしまいます。 理屈から言えばデジタルなら完璧な90°が得られるはずです。しかし部品のバラツキや有限な配線長が存在する限りなかなか理想通りとはならないのが現実の世界なんです。(笑)
最後は何だか難しい話になってしまいましたが、続きはまたいつか。 de JA9TTT/1
(つづく)fm
<Abstract>
I use the ECL of a fast logic IC to make the 90° phase shifter needed to generate a PSN type SSB. It didn't work properly at first because it was built on the breadboard. Even though it was a logic IC, it was accompanied by an oscillation phenomenon.
The cause was unexpectedly simple, ECL-IC is an internal structure like an analog IC. It's like a series of amplifiers, so it's prone to instability. Put a bypass capacitor near the power supply and GND pins. It works stably if I even do it. (2020.06.06 de JA9TTT/1 Takahiro Kato )
【MECL X-tal OSC 2】
まずは前回のBlog(←リンク)の続きです。使用したブレッドボード(BB)が適切でなかったため、配線が未整理でした。 改めて別のパターンのBB上にMECLを使った水晶発振器を組み立てました。 ピン配置の関係から、使うアンプを変更して部品配置を最適化しています。 ちょっとした修正で写真のようにスッキリしました。 後ほど変更後の回路図も掲載しておきました。
☆
モトローラ製のECL-IC、MECLを使ってPSNタイプのSSBジェネレータに使うRF-PSNを作ってみましょう。 MECLは既に廃れたロジック・ファミリです。 入手性は良くありませんので、お勧めはできませんが雑誌記事にもたびたび登場するので一度は試したいと 思っていました。 中華通販など使うことで必要なデバイスが手に入ったので実験を始めました。 例のコロナ禍によって部品到着が遅れたため実際にPSN-SSBエキサイタを使ったテストは間に合いませんでした。 まずはMECLを使ったRF-PSNを安定に動作させるまでを扱います。いつも通り、これは自家用の備忘録です。 かなりお暇なお方のみこの先にお進みを。 忙しいお方はこんなBlogを眺めるのはやめにして、今日という2度と来ない日をもっと有意義なことに費やしてください。
【OSC Frequency】
発振周波数は3.6864MHzにしました。 既に扱ったPSNタイプSSBエキサイタ(←リンク)のキャリヤ周波数は930kHzでした。
一番良いのはその4倍の3.720MHzですが、そう都合の良い水晶発振子は手持ちにはありません。 似寄りの周波数として、3.6864MHzのHC-49/USがあったのでそれを使いました。 今回は周波数調整用のトリマコンデンサもきちんと入れたので、写真のようにほぼジャストの周波数に調整することができます。
しばらく通電して周波数変動の様子を見たのですが、30分間で2〜3Hzの変動でした。まずまず安定な発振周波数が得られるようです。 今となってはECL-ICそのものが特殊ですから、積極的に発振用に使うことも無いとは思いますが十分安定な発振器が作れることがわかりました。 周波数特性が良いことから数10MHz以上のオーバートーン発振も可能なので作ってみるのも面白そうです。 今回の目的には必要ないのでやめておいきますが、覚えておいて何かニーズがあったら実験しましょう。
【MECL X-tal OSC 2 / Schematic】
前回の実験(←リンク)と基本的に同じなので、回路そのものは変わっていません。 ただし、BB上の部品配置が少しでも合理的になるよう、3回路入っている内部のアンプ・ブロックの使い方を変更しています。
また、受端側の都合から出力回路を変更しました。2系統に分配しますが、どちらも終端インピーダンスが50Ωになるよう設計されています。 こちら側もそれに合わせた回路にしてあります。 今回は長い配線を引く必要がなかったので必ずしも50Ωで終端する必要もなさそうでしたが、少しでも良い波形でクロックが伝送できるよう万全を期すことにしました。 もっとも、組み立てがBBなのですからそもそも・・・なのですが。(笑)
なお、R9:510Ωはこの発振部を単独でテストするときには必要です。 テストのあと90°移相器部へクロックを供給する際は除去します。 これは移相器の側に50Ωに終端するための抵抗器が付いているからです。
使用しているMC10116Pはラインレシーバ用のICで、MECL10KファミリのECL-ICです。 いくらか詳しいことは前回のBlogに書きました。必要に応じて遡ってご覧を。
【MECL RF-PSN / HJ No.45】
本題であるECL-ICを使ったRF-PSNの話です。 ECLを使った回路というと、左図のような回路が定番化しているようです。 過去の雑誌記事について調べてみたのですが、基本的に同じ回路でした。
調査しても掴めなかったため、これは想像なのですが、おそらく外誌の記事にオリジナルがあるものと思われます。もし、何かオリジナル記事の情報でもあればお知らせください。
この回路は外部の発振器をクロック源として使う前提になっています。 10dBmの入力があれば良いらしく、3dBのアッテネータを挟んでインターフェースしています。 インターフェース部分のMC10107は右の方にある±90°の位相切り替えに使う電子的なスイッチの余りを便宜的に使ったものであり、必ずしもこれをここに使う必要はないはずです。 ですから、今回のように水晶発振器をECL-ICで作れば直接フリップ・フロップをドライブできます。
後ほど原理図を示しますが、回路はジョンソンカウンタを使った単純なものです。 ただし、それだけでは厳密に位相が揃わないため、出力パルスのエッジを揃える目的で出力部分にもD-FF/MC10131を追加してあります。 このようにすれば、ジョンソンカウンタだけで構成した90°位相器よりも高精度の実現が可能です。
シンプルで良く考えられた回路だと感じます。ここではこの回路を踏襲して実験したいと思います。とりあえず、クロックの供給部分を除けば大きく変更する必要性は思い当たりません。 単純明快な回路なのですから、あえて変える意味はありませんね。
【MECL Logic Symbols】
非常に基本的なことですが、MECLを扱うにあたってまず始めに馴染みのない論理記号が目にとまりました。
論理記号の入出力端子には、何やら矢印のようなものが書かれています。 これは左図によって明らかになるのですが、黒い矢印が付いた端子は正論理、白抜きの矢印なら負論理という意味なのです。 ECL以外では見たことがないので戸惑いました。 しかしMECLの世界では常識なのでしょう。w なお、多くのMECLデバイスは、2つ出力端子があって非反転の他に反転出力が付いています。これは差動回路の両コレクタから出力を取り出せば簡単に可能だからでしょう。
また、論理レベルもTTLやC-MOSに馴染んだ者から見たら異常にさえ感じます。 これは、Vcc端子(+電源の端子)をGNDしていて、マイナスの電圧をVEE端子に与えて使っているからに他なりません。 正論理で言えば、論理「1」の電圧レベルは-0.9Vで論理「0」の電圧レベルは-1.7Vなのです。 確かに-0.9Vの方が-1.7Vよりも高いのですが、絶対値は0.9の方が小さいのでなんとなく混乱しそうになります。 これもECLの独特の世界なのでしょう。論理設計では「0」と「1」で考えて普通は電圧そのものを気にしなくても良いのかもしれません。もちろん正論理なのか負論理なのかは始めに決めて(考えて)おきます。
なお、+電源:Vccの方をGNDにして動作させるのは理由があります。 ECLの回路構成では+電源側の電圧変動に弱いのです。ノイズが乗りやすいという意味でしょう。 そのためベタなGNDパターンを作って電位的に最も安定しているであろうそのGNDの部分を+電源の端子に接続して使う方が有利なのです。 必然的に電源のマイナス側の端子をICのVEE端子(一般に8番ピン)に配線して使うことになります。 もちろんECL-ICを数個しか使わないのなら、VEE端子をGNDして使っても大丈夫です。そんな時は+Vcc側の十分なバイパスを心がけノイズ混入に気を付ければ良いでしょう。
ほとんどのECL-ICは出力回路が抵抗負荷のエミッタ・フォロワになっているのでワイヤード・オア接続が可能です。ECLの論理回路はOR/NORゲート回路を主体に使って設計するもののようです。TTLのようにNANDが基本なのとは勝手が違いますね。まあ、ド・モルガンの法則を適用すれば相互に入れ替え可能なので支障はないのですが・・。 入力インピーダンスは高くベース電流も少ないためファンアウトはたくさん取れます。入力端子の多くは-VEE間にプルダウン抵抗器が入っており、抵抗値は一般に50kΩのようです。 殆どのECL-ICは温度補償されたバイアス電源を内蔵しており、論理振幅はわずかに約0.8Vでそのバイアス電圧:VBBを前後して振れます。
だいたいこう言ったところがECL-ICを使う上での常識的な話のようです。 使ってみると他にも「常識」があったのですが、それはまた後ほどにでも。

2ビットのジョンソン・カウンタのタイムチャートです。 図のようにD型フリップ・フロップを接続して共通のクロックを与えます。
1段目のQ出力:QAと2段目のQ出力:QBはちょうど入力クロックの1周期分の遅れが現れ、これが出力の全周期に対して90°に相当する位相差になるのです。
この位相差はクロックの周期が一定なら不変なはずで、 QAとQBの出力を使えば正確な90°の位相差を持った信号が得られるのです。 ただし、周波数は1/4になるので、必要周波数の4倍の周波数を持ったクロック信号を与える必要があります。 この回路の特徴を使ったのがデジタルなRF-PSN回路ということになります。
【MECL RF-PSN Schematic】
クロック発生部を除いたデジタルなRF-PSN回路です。 実際の配線に便利なように、詳細な回路図にしておきました。
論理「0」に保つべき端子は、すべて-VEEに接続するように書いてありますが、実際にはオープンにしたままでも動作はするようです。 それでも、きちんと処理した方が望ましいと考えて、実際にも-VEEラインへ繋いであります。入力端子のインピーダンスは高めなので、そうする方が安心でしょう。
なお、この回路図にその例は1箇所しかありませんが、入力端子に論理「1」を与えたい時には注意が必要です。TTLやC-MOSのように電源の+Vccラインへ直結してはいけないのです。 そのまま直結しても動作するケースは多いようですが、確実な動作は保証されません。 論理「1」には必ず-0.9Vくらい「GNDレベル(=+Vcc端子電圧)よりも下がった電圧」を与えねばなりません。 この図で位相の切り替えスイッチの部分にダイオードが一つ入っているのはその電圧降下を得るためです。 電圧降下は-0.7Vでも大丈夫で、簡単にやるにはダイオードの順方向電圧分だけ落としてやります。 もし余ったゲートなどがあれば、その出力端子のうち論理「1」になっている所を利用するのも良い方法です。
各フリップ・フロップに与えるクロック回路は:MC10131Lの9ピン直近で50Ωに終端しています。 これは少しでも綺麗な(確実な)矩形波で駆動するためです。可能であればクロック発生部との間は同軸ケーブルもしくは、ライン・インピーダンスが50Ωになるように設計したストリップラインで接続すべきでしょう。 基板化する際には考慮にあたいします。
【MECL RF-PSN EX-View 1】
上記の回路図をブレッド・ボード(BB)にまとめました。 なるべく最短配線になるよう考えていますが、所詮はブレッド・ボードですから必ずしも理想的とは言えません。でも、まずまず綺麗に仕上がりました。hi hi
電源ラインの各所にバイパスコンデンサを入れてあります。 またベースボード(底板)もGNDラインに接続して高速パルス回路が確実に動作するよう考えてあります。 それにクロック周波数はわずか3.6864MHzですし、一般的なRF回路ならこれでもう十分安定に動作するはずです。 が、しかし・・・。
【Bad output wave form】
マトモに動作してくれません。 この写真はまだマシな方で、初めの頃はもっと酷いものでした。 まったく正常に動作してくれず、出力に現れるパルス波を観測すると理屈のようにクロック周波数の1/4とはならずかけ離れていました。ランダムにバラついており、まるでどこかで自己発振でも起こしているかのようです。
クロックの配線部分で反射が起こって誤動作しているのかと思い、配線の途中にダンピング抵抗を挿入したりターミネーションの条件(終端条件)を変えてみたり・・・。 散々やっても言うことを聞いてくれないのです。まさかECLのデジタル回路ってこんなに難物だとは夢にも思いませんでした。(笑)
☆
【Add Bypass Capacitors】
どんなトラブルもそうですが、わかってみたら案外単純なものです。 それにその理屈は後から幾らでも付いてくるものでしょう。
極意は電源端子:+Vcc1(大半は1番ピン)と-VEE端子 (大半は8番ピン)の間に、最短でバイパス・コンデンサを入れることです。 写真ではグレーの角型の部品がそれで、この例では主にロジック回路でバイパスの目的に使うタンタル・コンデンサが入れてあります。
(多くのECL-ICには電源ピンVccが2つあります。そのうちVcc1の方が効果的です。Vcc2に入れても効果は見られません。これは内部回路から考えても当然でしょう)
はじめ誤動作の主原因は集積度の高いフリップ・フロップ:MC10131L(ここではより高速なMC10H131Lを使っています)だろうと思ったのですが、それだけでは完全ではありませんでした。 位相の切り替えスイッチに使っている:MC10107Lにも必要でした。 また、このBlogの最初のようにクロック発振器もそれ単独の観測では問題なさそうでしたが、実際には同じようにする必要がありました。回路全体で動作させると時折誤動作が見られたのですが、それがピタリとおさまります。
だいぶ回り道をして得られた使い方の秘訣なのですが、これさえ行なってやれば他の論理回路ファミリと同じくらい安定に(確実に)動作してくれます。ブレッド・ボードでも。
【Change to Ceramic Cap.】
ECL-IC個々に入れるバイパス・コンデンサは上の写真のようにそのままタンタル・コンデンサでも良さそうです。 ただしここで使ったコンデンサは少し特殊な物のようでした。
ごく一般的な積層セラミック・コンデンサでも大丈夫なのか確かめました。 写真のような積層セラコンに交換してみます。
積層セラコンのほかに円盤型セラコンでも試しましたがいずれでも大丈夫そうです。 なお、容量は0.1μFです。 回路図にはあらためて書き加えませんが、バイパス・コンデンサを必ず直近に入れておきます。
参考:むかしお仕事でECL-ICを使っていたと言う友人によると、各ICごとに10μFと0.1μFのパスコン入れてたそうです。その頃でも4層基板だったとのこと。(追記:20200609)
【MECL RF-PSN EX-View 2】
まずは安定に動作させることに腐心してしまい、実際にPSN-SSBエキサイタに使って性能確認するまでには至りませんでした。
ちょっと見たところでは最初の方の写真とあまり違いませんが、個別バイパス・コンデンサの効果は絶大で、たいへん安定して動作してくれるようになりました。 やっと各部の動作を確認できる状態になったのです。
冷静になって考えてみると、ECL-ICというのは差動増幅器のかたまりのようなものです。 それを多段に渡って接続するのですから、アンプの従続接続のようなものでハイゲインになるのでしょう。しかもかなりの高速・広帯域回路です。 ECLも確実なバイパスがあってこそ正常な動作が期待できるのだと納得しました。
完全な動作のためにはできたら両面基板を使い、裏面はグランドプレーン(ベタGND)にする必要があるでしょう。 その上で、Vcc端子、特にVcc1端子とVEE端子の間に最短距離でバイパス・コンデンサを配置すべきです。 これは個々のECLチップごとに行なう必要があります。 過去に試してうまく行かなかった経験があるなら、再度見直してチャレンジする意味はあるかもしれませんね。
【Good output wave form】
相変わらずきちんとしたプローブ・チップを付けていないのでプローブのGNDリード線に起因するリンギングが波形に見られます。
それは差し引いて、まずは観測波形はマトモそうになりました。 ここまで持ってくるまでにはだいぶ苦労しましたが実際に作ってこそ得られるものがあったと思います。
気になったので過去の雑誌記事など読み返したのですが、こうしたECL-ICの扱いに関して配慮が見られたのは1例だけでした。(バイパスコンデンサに関する言及はありませんが、配慮は感じられた記事です) あとは単に回路図を掲載しているだけに過ぎません。この辺りは「常識」として片付けているのかもしれませんけれど・・・。 ユニバーサル基板に実配線で作ってはみたものの案外期待外れだったと言うような実験例も多いのかもしれませんね。
これから試すならECL-ICを使う上での勘所はわかったので成功の確率は高くなったかもしれません。 専用基板を起こすのが理想ですが、片面がGNDメッシュになったユニバーサル基板に作っても良いでしょう。その上で、バイパス・コンデンサに留意します。 PSNタイプSSBエキサイタで実験するにはブレッド・ボードを脱却した方が良さそうです。 ナマ基板にデッドバク・スタイルで製作というのもアリでしょう。(笑)
【Output Frequency】
Digital 90°移相器の出力周波数を確認してみました。 もちろん、水晶発振器の1/4になっています。 周波数安定度も良好で、もう不安定な挙動は感じられません。
作ってみた当初は「これはダメかも」と思いました。 中華通販で購入したMECLですから、そもそも不良品なのかも・・・なんて疑ってもみたのです。 しかし、単にECL-ICの扱いに不慣れだっただけで、きちんと使えば問題などないのです。 中華通販でちゃんとした部品が届いたことの証明にもなりましたね。 ユーザーの不慣れで不良品扱いされたら可愛そうでした。(笑)
☆
改めて、こうしたデジタルICを使った90°移相器について考えるとなかなか厳しい条件で動作していることがわかります。 例えば、いま必要とするキャリヤ周波数が1MHzだとしましょう。要するに1MHzでSSBを発生しようと言う訳です。 1MHzの1周期は1μ秒です。そして位相の回転は1μSで360°と言うことになります。 求める位相誤差が90°に対して±0.1°だとすれば、許容される時間誤差は1周期の3600分の1ということになります。
これを実時間で言えば、1μS/3600= 0.0002777・・・(μS)です。 これは≒278pS(ピコ秒)ということですから、スイッチング速度が約2.5nS(ナノ秒)=2,500pSのMECL10KファミリのECLでさえかなり厳しいはずです。 同一パッケージ内に入った2つのフリップ・フロップでさえ、スイッチングのタイミングがどこまで揃うかはわかりません。おそらく数pS〜数10pSの違いはあり得るでしょう。
上記の考察は1MHzのものです。 いきなり周波数を10倍にしたのでは飛躍し過ぎかもしれません。しかし、実際に数MHzの周波数でPSNタイプのSSBを扱うケースは多いものです。あながち誇張し過ぎとも言えないでしょう。
そこで、もしキャリヤ周波数が10MHzだったとすれば0.1°の誤差から許されるタイミング誤差はたったの27.8pSということになります。 この27.8pSと言う時間は実感できますでしょうか? 電線中をパルス波が進む距離はたったの6mmほどです。 電気って案外のろいんですね。w(真空中なら8.34mmですが電線やプリントパターン上では約70%の速さに)
10MHzではたった6mmの配線長の違いが問題になります。 もはや2つのフリップ・フロップのスイッチングタイムがどこまで揃うのかあまりアテにはならないかも知れません。 今更ながらデジタル式の90°移相器は厳しいことがわかります。もっと周波数が高ければ一段と・・・。 逆に1MHzならかなり楽な周波数だったとも言えそうなのです。
ECL-ICですらこれですから、LS-TTLやHC-MOSではもっと厳しいです。 さらに悪いことにそれらICの出力パルスは前縁のライズタイム:trと後縁のフォールタイム:tfが揃いません。 これはデバイスの内部構造上やむを得ませんがtr/tfに関しても、ECL-ICの方が幾らかマシなようです。
結局のところ、デジタルなRF-PSNなのになぜか位相誤差が残ってしまい、アナログな手段(姑息な手段?・笑)で微調整して逃げたなどという笑うに笑えない結末も十分あり得ます。HC-MOSで試作した時はまさしくそんな感じで誤魔化してしまいましたね。(笑)
それくらいでしたら、やや不安定で確実性に欠けるかもしれませんが、すでに実験したようなアナログな・・・L/C/RあるいはR/Cを使った・・・RF-PSNでも十分なのかも知れませんね。調整で追い込めるメリットがありますから。 デジタル式は複雑な回路と大きめの消費電力に見合っていなようにさえ感じてしまいます。 理屈から言えばデジタルなら完璧な90°が得られるはずです。しかし部品のバラツキや有限な配線長が存在する限りなかなか理想通りとはならないのが現実の世界なんです。(笑)
最後は何だか難しい話になってしまいましたが、続きはまたいつか。 de JA9TTT/1
(つづく)fm
2020年5月23日土曜日
【回路】MECL Design notes (1)
【ECL-ICの使い方ノート(1)】
<abstract>
Are you familiar with the logic IC family called MECL? MECL is the nickname of Motorola's ECL-IC family. It is characterized by high speed and low noise generation. I will use MECLs a few times on this Blog. The first time I make a crystal oscillator using a MC10116P. This oscillator will be used as a clock oscillator in next experiment. (2020.05.23 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【MECL ICs】
モトローラ社のECL-ICファミリはMECL(メクル)の愛称で呼ばれています。高速ロジックICといえばECLが唯一だった時代もありましたが、今ではすっかり廃れてしまったようです。 ごくわずかに「プリスケーラ」の用途に残っているくらいでしょう。
アマチュア無線の製作でECLを使うとすれば、周波数カウンタの前に付加して測定上限周波数を拡張するためのプリスケーラくらいです。 そうしたプリスケーラ用ECLは他のロジックICとインターフェースが容易なようにできています。
ECL-ICを使ったRF信号の90度位相器を目的に部品集めを始めました。PSN式SSBジェネレータの続きと言う訳でもないのですが、前から気になっていたので試すことにしました。 MECLは既に廃れたロジック・ファミリですから中華通販が頼りです。古臭くて人気のないICですからフェイクの心配などないでしょう。 あとは希望の型番が手に入るか否かです。 さっそく実験に必要なチップは見つかりました。 しかし新型コロナの影響は深刻です。注文した頃には中華通販は大幅な配達遅延が発生していました。予定した品がまだ届きません。 まずは先に届いた部品で可能な実験から始めることにしました。 初回はMECLを使った水晶発振器を作ってみます。 うまく行けばこの先の実験で信号源に使いたいと思います。
☆
新しい高速ロジック・ファミリが登場しています。いまどきECLでもないかと思ったのですが、興味半分で扱ってみます。 プリスケーラのような専用のECL-ICに馴染みはあっても、汎用のECLファミリーをちゃんと扱うのは初めてでした。 まずは初めて見るような回路記号の理解や異常にさえ感じる電源の与え方などを飲み込むのがスタートポイントでした。 もっぱら自身の興味だけで始めています。 ECLを使った90度位相器や、古臭いロジック・ファミリに興味がなければ、この先は面白くないでしょう。早々にお帰りください。
【BBの接地極を変更】
ECL-ICの常識については次回あたりで詳しく扱いたいと思います。 なぜプラス接地で使うのかと言った話は取り敢えず省きますが、まずは実験への対応をしておきました。
ブレッドボードで高周波や高速ロジックを扱うには、金属製ベースボード(基台)の処理が必要です。購入したままではどこにも接続されず電気的に浮いた状態です。 そのままでは旨くないので、必ず回路のGND側に接続しておきます。 こうした処理は高周波や高速パルス回路だけでなく、ノイズを非常に嫌うオーディオアンプ等の実験でも必須でしょう。
現代ではNPNトランジスタを使うことが多いですから、ほとんどの回路は電源端子のマイナス側が接地された「プラス電源」で設計されています。従ってベースボードは電源のマイナス側に接続します。(写真で言えば黒のターミナル) しかしECLはプラス側を接地して使うのが標準です。C-MOSやTTLに馴染んだ者にとって、ECLの電源はマイナス5.2Vという異常さです。(笑) この対応のため、写真のようにベースボードは電源のプラス端子(赤色)に接続しておきました。これが実験の手始めです。
【ピン列矯正器】
これは写真のMC10116Pに限った話ではありませんが、購入したままのICはピン列の間隔が広すぎます。
色々なピン列矯正器が市販されていますが、写真のものを使いました。 このような道具を使うとブレッドボードへの挿入がスムースに行なえます。
道具がなければ金属板の上で押さえつけて少し曲げてやればOKです。 そうして済ませることも多いのですが、流石に道具を使うと確実ですね。
【MECL Crystal Oscillator】
こんなことを書くと混乱するかもしれませんが、ここで使ったMC10116Pは純然たるECLロジック回路のICではありません。 ゲート回路やフリップ・フロップ回路のような論理回路を司るICではないという意味です。 ラインレシーバのICでどちらかと言えば、アナログICに近い存在です。 もちろんMECL10KファミリのICではあるのですが。
ECLはエミッタ結合ロジック(Emitter Coupled Logic)の意味ですが、もともと差動増幅のリニアICのような回路構造になっています。(だからバイアス端子:VBBなんて言うものが必要なんですが・笑) MC10116Pのようなラインレシーバはそのアナログ的な性格が強く、主に信号伝送回路のインターフェースに使うものです。 内部は増幅作用を持った差動増幅器が基本的な構造ですから、水晶発振子を正帰還ループに入れてやれば発振器になります。 図のようにU1aの出力端子:Pin 3から+入力端子:Pin 5の間に水晶発振子を接続します。 水晶発振子に直列あるいは並列にトリマ・コンデンサを入れれば発振周波数の微調整もできます。
Pin 2の反転出力端子の波形は概ね矩形波になっていますが、さらに波形を良くする目的で、U1bでシュミット回路を構成しています。Pin 6からPin 9へ正帰還を掛けて波形を整えます。 U1cはバッファ・アンプです。出力はこのバッファ・アンプから取り出します。 出力は2つあって、一つは反転出力になっています。 ツイステッド・ペアのような平衡ラインで信号を送るときにはこのコンプリメンタリな出力を使います。
510Ωの抵抗器がやたら目立ちますが、これはIC内部の出力部分のトランジスタがエミッタ・フォロワになっており、しかもエミッタ端子(出力端子)とマイナス電源端子:VEE間に入れる抵抗器が外付けになっているためです。 この回路例のように単独のIC内で信号の授受が完結する場合、外付け抵抗は面倒でしかありません。しかし他の回路部分へ信号を伝送する際には受端側に外付け抵抗器を置けば終端抵抗として機能し良い波形の伝送ができます。このあたりはECLの使い方の基本的なところのようです。
MC10116P自身の消費電流は、標準17mA、最大21mAです。ECLは消費電力が大きいと言われますがその割にこの消費電流は大きくないように感じます。しかし、実際にはたくさんある外付け抵抗の510Ωに流す分が追加されて全体の消費電流はかなり大きくなります。 もし周波数特性が悪くなってもよければ510Ωをもっと大きくしても動作はするようですが、標準はやはり510Ωなのです。(非常古い初期のECLの頃は500Ωでした。その後、E系列の近似値である510Ωが標準になったようです)
発振は容易にスタートしました。 5MHz、8MHz、10MHzなど発振子を交換してテストしましたがどれでも旨く発振しました。 回路を工夫するとオーバートーン発振も可能です。
【YAESU YC-500の入力アンプ】
これは参考です。 左はMC10116のアナログ的なアプリケーションを示す一例です。 八重洲無線の周波数カウンタ、YC-500のインプット・アンプ部分です。
J-FETのソース・フォロワのあと、MC10116を使ったアンプとシュミット回路を使った波形整形回路になっています。 左端のPNPトランジスタはTTLまたはC-MOSとインターフェースするためのレベル変換回路です。
MC10116の高速広帯域な特性を生かしたインプット・アンプになっており十分増幅することでHF帯で高感度が得られるようになっています。 この回路ではECLはたった一つだけなので他のICと共通になるよう+5Vの単一電源で済ませ電源系がシンプルになるよう工夫しています。 周波数カウンタの入力アンプとしてなかなかFBですが消費電流の多さをいとわなければ・・・ですね。
YC-500の詳しいことはメーカーのサイトにある取扱説明書を参照してください。 MC10116のアナログ的な応用例として紹介してみました。 MC10116はこうしたアンプに使えるのですから、水晶発振器にも使える訳です。
【BBで試作】
水晶発振回路を試作しました。 実は使ったブレッドボードがあまり適当ではなかったようです。
最近購入したこれはGNDとVCCラインが中央部分にしかないので、高速パルス回路としての合理的な部品配置ができませんでした。 そのため、無用な配線の引き回しが多くなってしまい、きれいな波形を得るのが困難でした。 部品配置も最適にできません。
とりあえず水晶発振器の実験にはなったのですが、追加のECL回路を組み立てるのは適当ではないと思います。 改めて別のパターンのブレッドボードで作り直すつもりです。 これはあまり良くない見本でしょうね。(笑)
【出力波形】
オシロスコープにプローブを付けて観測しています。しかし、プローブのアースリードが長いまま観測するとこのようにオーバーシュートやリンギングが出てしまいます。
正しい観測は、プローブの先端に専用の接触チップを取り付け、アース側の接続が極力短くなるようにして観測します。 そうしたことはわかっているのですが、ついつい面倒なのでいつものように観測するとこのようになる訳です。(笑)
ECLの論理振幅は0.8Vくらいで約-1.3Vを中心に振れる矩形波です。 他のロジックICでは、おおよそ電源電圧いっぱい近くまで振れるのに対し、ECLはたいへん小さな論理振幅のように感じます。電源電圧5.2Vでたったの0.8Vなのですからね。 電圧ノイズマージンが気になるところですが、平衡伝送で信号を送り、ラインインピーダンスも低くできることからおそらくこれで十分な論理振幅なのでしょう。
基本的に非飽和なA級アンプのような動作をしています。トランジスタが飽和やカットオフを繰り返すスイッチング的な動作とは異なり電源ラインへ漏れるノイズは少ないのでしょう。 簡単に言うとエミッタ側定電流源の電流を切り替えているだけの動作ですから、電源電流の変動は少ないのです。
【Pin 5の波形観測】
U1aのPin 5を観測してみます。 ここはアンプの入力端子に相当します。 バイアス電源である、VBB端子から1kΩを通してバイアスが掛かっています。
U1aの出力端子:Pin 3は矩形波出力ですが、水晶発振子を通った基本波の成分だけが現れるでしょう。 従って正弦波状の波形が見られるはずです。
【Pin 5の波形】
Pin 5の波形はこのように正弦波になります。 プローブへ矩形波の誘導があるためか、少しギザギザしていますが、注意深く測定すればもっと綺麗な正弦波が観測できるはず。
バイアス電圧:VBBは実測で約-1.35Vなのでそこを中心に振れる正弦波が観測されました。 入力端子で約1.2Vppという大きさの振幅なので、ラインレシーバ:U1aで十分に増幅され矩形波になって出力に現れます。 Pin 2の出力はPin 3の出力が反転しただけのものです。 水晶へ行く側と分離することで干渉が少ないようにして発振状態に影響が及ばぬよう考えられた回路になっています。
☆
MECLを使った水晶発振器を作ってみました。 波形観測の手抜きをしたので少々汚い観測波形になってしまいましたが、確実な発振が可能であることは確かめられました。 また、この先のECL回路のテストに必要な論理振幅のクロック源が得られることもわかりました。
PSNタイプのSSBジェネレータ/エキサイタにあった、アナログな移相器に代わるデジタルな位相器を試すのが当面の目的です。 次回は高速フリップ・フロップを駆動して90度位相差の2信号を得る実験をやってみたいと思っています。 それまでに不足している部品が届いてくれたら良いのですが。さて、どうなりますか。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
<abstract>
Are you familiar with the logic IC family called MECL? MECL is the nickname of Motorola's ECL-IC family. It is characterized by high speed and low noise generation. I will use MECLs a few times on this Blog. The first time I make a crystal oscillator using a MC10116P. This oscillator will be used as a clock oscillator in next experiment. (2020.05.23 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【MECL ICs】
モトローラ社のECL-ICファミリはMECL(メクル)の愛称で呼ばれています。高速ロジックICといえばECLが唯一だった時代もありましたが、今ではすっかり廃れてしまったようです。 ごくわずかに「プリスケーラ」の用途に残っているくらいでしょう。
アマチュア無線の製作でECLを使うとすれば、周波数カウンタの前に付加して測定上限周波数を拡張するためのプリスケーラくらいです。 そうしたプリスケーラ用ECLは他のロジックICとインターフェースが容易なようにできています。
ECL-ICを使ったRF信号の90度位相器を目的に部品集めを始めました。PSN式SSBジェネレータの続きと言う訳でもないのですが、前から気になっていたので試すことにしました。 MECLは既に廃れたロジック・ファミリですから中華通販が頼りです。古臭くて人気のないICですからフェイクの心配などないでしょう。 あとは希望の型番が手に入るか否かです。 さっそく実験に必要なチップは見つかりました。 しかし新型コロナの影響は深刻です。注文した頃には中華通販は大幅な配達遅延が発生していました。予定した品がまだ届きません。 まずは先に届いた部品で可能な実験から始めることにしました。 初回はMECLを使った水晶発振器を作ってみます。 うまく行けばこの先の実験で信号源に使いたいと思います。
☆
新しい高速ロジック・ファミリが登場しています。いまどきECLでもないかと思ったのですが、興味半分で扱ってみます。 プリスケーラのような専用のECL-ICに馴染みはあっても、汎用のECLファミリーをちゃんと扱うのは初めてでした。 まずは初めて見るような回路記号の理解や異常にさえ感じる電源の与え方などを飲み込むのがスタートポイントでした。 もっぱら自身の興味だけで始めています。 ECLを使った90度位相器や、古臭いロジック・ファミリに興味がなければ、この先は面白くないでしょう。早々にお帰りください。
【BBの接地極を変更】
ECL-ICの常識については次回あたりで詳しく扱いたいと思います。 なぜプラス接地で使うのかと言った話は取り敢えず省きますが、まずは実験への対応をしておきました。
ブレッドボードで高周波や高速ロジックを扱うには、金属製ベースボード(基台)の処理が必要です。購入したままではどこにも接続されず電気的に浮いた状態です。 そのままでは旨くないので、必ず回路のGND側に接続しておきます。 こうした処理は高周波や高速パルス回路だけでなく、ノイズを非常に嫌うオーディオアンプ等の実験でも必須でしょう。
現代ではNPNトランジスタを使うことが多いですから、ほとんどの回路は電源端子のマイナス側が接地された「プラス電源」で設計されています。従ってベースボードは電源のマイナス側に接続します。(写真で言えば黒のターミナル) しかしECLはプラス側を接地して使うのが標準です。C-MOSやTTLに馴染んだ者にとって、ECLの電源はマイナス5.2Vという異常さです。(笑) この対応のため、写真のようにベースボードは電源のプラス端子(赤色)に接続しておきました。これが実験の手始めです。
【ピン列矯正器】
これは写真のMC10116Pに限った話ではありませんが、購入したままのICはピン列の間隔が広すぎます。
色々なピン列矯正器が市販されていますが、写真のものを使いました。 このような道具を使うとブレッドボードへの挿入がスムースに行なえます。
道具がなければ金属板の上で押さえつけて少し曲げてやればOKです。 そうして済ませることも多いのですが、流石に道具を使うと確実ですね。
【MECL Crystal Oscillator】
こんなことを書くと混乱するかもしれませんが、ここで使ったMC10116Pは純然たるECLロジック回路のICではありません。 ゲート回路やフリップ・フロップ回路のような論理回路を司るICではないという意味です。 ラインレシーバのICでどちらかと言えば、アナログICに近い存在です。 もちろんMECL10KファミリのICではあるのですが。
ECLはエミッタ結合ロジック(Emitter Coupled Logic)の意味ですが、もともと差動増幅のリニアICのような回路構造になっています。(だからバイアス端子:VBBなんて言うものが必要なんですが・笑) MC10116Pのようなラインレシーバはそのアナログ的な性格が強く、主に信号伝送回路のインターフェースに使うものです。 内部は増幅作用を持った差動増幅器が基本的な構造ですから、水晶発振子を正帰還ループに入れてやれば発振器になります。 図のようにU1aの出力端子:Pin 3から+入力端子:Pin 5の間に水晶発振子を接続します。 水晶発振子に直列あるいは並列にトリマ・コンデンサを入れれば発振周波数の微調整もできます。
Pin 2の反転出力端子の波形は概ね矩形波になっていますが、さらに波形を良くする目的で、U1bでシュミット回路を構成しています。Pin 6からPin 9へ正帰還を掛けて波形を整えます。 U1cはバッファ・アンプです。出力はこのバッファ・アンプから取り出します。 出力は2つあって、一つは反転出力になっています。 ツイステッド・ペアのような平衡ラインで信号を送るときにはこのコンプリメンタリな出力を使います。
510Ωの抵抗器がやたら目立ちますが、これはIC内部の出力部分のトランジスタがエミッタ・フォロワになっており、しかもエミッタ端子(出力端子)とマイナス電源端子:VEE間に入れる抵抗器が外付けになっているためです。 この回路例のように単独のIC内で信号の授受が完結する場合、外付け抵抗は面倒でしかありません。しかし他の回路部分へ信号を伝送する際には受端側に外付け抵抗器を置けば終端抵抗として機能し良い波形の伝送ができます。このあたりはECLの使い方の基本的なところのようです。
MC10116P自身の消費電流は、標準17mA、最大21mAです。ECLは消費電力が大きいと言われますがその割にこの消費電流は大きくないように感じます。しかし、実際にはたくさんある外付け抵抗の510Ωに流す分が追加されて全体の消費電流はかなり大きくなります。 もし周波数特性が悪くなってもよければ510Ωをもっと大きくしても動作はするようですが、標準はやはり510Ωなのです。(非常古い初期のECLの頃は500Ωでした。その後、E系列の近似値である510Ωが標準になったようです)
発振は容易にスタートしました。 5MHz、8MHz、10MHzなど発振子を交換してテストしましたがどれでも旨く発振しました。 回路を工夫するとオーバートーン発振も可能です。
【YAESU YC-500の入力アンプ】
これは参考です。 左はMC10116のアナログ的なアプリケーションを示す一例です。 八重洲無線の周波数カウンタ、YC-500のインプット・アンプ部分です。
J-FETのソース・フォロワのあと、MC10116を使ったアンプとシュミット回路を使った波形整形回路になっています。 左端のPNPトランジスタはTTLまたはC-MOSとインターフェースするためのレベル変換回路です。
MC10116の高速広帯域な特性を生かしたインプット・アンプになっており十分増幅することでHF帯で高感度が得られるようになっています。 この回路ではECLはたった一つだけなので他のICと共通になるよう+5Vの単一電源で済ませ電源系がシンプルになるよう工夫しています。 周波数カウンタの入力アンプとしてなかなかFBですが消費電流の多さをいとわなければ・・・ですね。
YC-500の詳しいことはメーカーのサイトにある取扱説明書を参照してください。 MC10116のアナログ的な応用例として紹介してみました。 MC10116はこうしたアンプに使えるのですから、水晶発振器にも使える訳です。
【BBで試作】
水晶発振回路を試作しました。 実は使ったブレッドボードがあまり適当ではなかったようです。
最近購入したこれはGNDとVCCラインが中央部分にしかないので、高速パルス回路としての合理的な部品配置ができませんでした。 そのため、無用な配線の引き回しが多くなってしまい、きれいな波形を得るのが困難でした。 部品配置も最適にできません。
とりあえず水晶発振器の実験にはなったのですが、追加のECL回路を組み立てるのは適当ではないと思います。 改めて別のパターンのブレッドボードで作り直すつもりです。 これはあまり良くない見本でしょうね。(笑)
【出力波形】
オシロスコープにプローブを付けて観測しています。しかし、プローブのアースリードが長いまま観測するとこのようにオーバーシュートやリンギングが出てしまいます。
正しい観測は、プローブの先端に専用の接触チップを取り付け、アース側の接続が極力短くなるようにして観測します。 そうしたことはわかっているのですが、ついつい面倒なのでいつものように観測するとこのようになる訳です。(笑)
ECLの論理振幅は0.8Vくらいで約-1.3Vを中心に振れる矩形波です。 他のロジックICでは、おおよそ電源電圧いっぱい近くまで振れるのに対し、ECLはたいへん小さな論理振幅のように感じます。電源電圧5.2Vでたったの0.8Vなのですからね。 電圧ノイズマージンが気になるところですが、平衡伝送で信号を送り、ラインインピーダンスも低くできることからおそらくこれで十分な論理振幅なのでしょう。
基本的に非飽和なA級アンプのような動作をしています。トランジスタが飽和やカットオフを繰り返すスイッチング的な動作とは異なり電源ラインへ漏れるノイズは少ないのでしょう。 簡単に言うとエミッタ側定電流源の電流を切り替えているだけの動作ですから、電源電流の変動は少ないのです。
【Pin 5の波形観測】
U1aのPin 5を観測してみます。 ここはアンプの入力端子に相当します。 バイアス電源である、VBB端子から1kΩを通してバイアスが掛かっています。
U1aの出力端子:Pin 3は矩形波出力ですが、水晶発振子を通った基本波の成分だけが現れるでしょう。 従って正弦波状の波形が見られるはずです。
【Pin 5の波形】
Pin 5の波形はこのように正弦波になります。 プローブへ矩形波の誘導があるためか、少しギザギザしていますが、注意深く測定すればもっと綺麗な正弦波が観測できるはず。
バイアス電圧:VBBは実測で約-1.35Vなのでそこを中心に振れる正弦波が観測されました。 入力端子で約1.2Vppという大きさの振幅なので、ラインレシーバ:U1aで十分に増幅され矩形波になって出力に現れます。 Pin 2の出力はPin 3の出力が反転しただけのものです。 水晶へ行く側と分離することで干渉が少ないようにして発振状態に影響が及ばぬよう考えられた回路になっています。
☆
MECLを使った水晶発振器を作ってみました。 波形観測の手抜きをしたので少々汚い観測波形になってしまいましたが、確実な発振が可能であることは確かめられました。 また、この先のECL回路のテストに必要な論理振幅のクロック源が得られることもわかりました。
PSNタイプのSSBジェネレータ/エキサイタにあった、アナログな移相器に代わるデジタルな位相器を試すのが当面の目的です。 次回は高速フリップ・フロップを駆動して90度位相差の2信号を得る実験をやってみたいと思っています。 それまでに不足している部品が届いてくれたら良いのですが。さて、どうなりますか。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンクnm
2020年5月7日木曜日
【Antenna】Low Band Antenna Modification.
【ローバンド用アンテナを改造す】
<Abstract>
The low-band antenna I'm using needs to be modified. This is because Japan's Amateur Radio Band (HAM Band) has been changed. The 160m band of the Top Band has been extended to the lower frequencies.
First, I add about 2 feet of test leads to both ends. Then I look at the transfer of the resonant frequency. I modified the antenna according to the results of that test.
The performance of the modified it was quite good and I was able to go on the air immediately. (2020.05.07 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【既設アンテナの160m Band対応】
160m Bandはアンテナがでかいです。市街地に住む私にとって長年の課題でした。まずはじめ設地型の変形バーチカルを建設しました。バーチカル・アンテナならあまり敷地面積を必要としないからです。給電点の根元でマッチング回路を切替えて160mと80mバンドの2バンドに出られるようにしました。切り替えはシャックからリモートでした。
いまのQTHに移ってタワーを建てた際、Low BandはSloperにしました。これも敷地面積の関係です。周辺に店舗や住宅が少ないうちは飛びも聞こえもまずまずでした。やがて新しい幹線道路が開通しコンビニもでき店舗が増えると接地型に近いSloper Antennaはノイズレベルが急上昇です。やむなく平衡型の逆V型に変更したのが現用アンテナの前身です。 トラップタイプのやや短縮型なのでバンド幅は無短縮なアンテナほど取れませんが160m Bandはたった5kHzがカバーできればOKでした。
先日のBlog(←リンク)のように、4月21日からローバンドが拡張されました。従来はDXerの専用のようになっていた1810〜1825kHzでしたが、75kHz幅に拡張されたことからこちらにオンエアできたら面白そうです。 まずは様子を見る目的でアンテナの共振周波数を変更する簡単なテストから始めました。 結果は国内局が相手ならまずまず使えそうです。
☆
160m Bandなんてアンテナが無理だから自分には無縁だよ・・・という声も聞こえます。 もちろん、このバンドの標準的なDXerが建てるであろうフルサイズのDPや逆Vアンテナともなると架設可能な局は限られるでしょう。当局もまったく無理です。 しかしDXはダメでも近くの局を相手にぼちぼち楽しむ程度のアンテナなら意外に可能性があると思うのです。 特にJT-65なりFT8のようなデジタルモードならばアンテナの帯域幅が狭くても支障はありません。特定周波数の3kHzくらいの幅にオンエアしているからです。短縮ホイップのような超短縮アンテナでも目的周波数にきちんとチューンすればかなり使えます。もしLow Bandにも興味がわいてきたら一度試されるのも悪くないと思います。製作過程を含めて思いのほか楽しめるに違いありません。
ここでは応急措置として既設の4バンド逆Vアンテナ(←リンク)の先に「ヒゲ」を追加して共振周波数を下げてみます。 もともとが狭小な庭先にジグザグに折り曲げて何とか架設したアンテナです。 DXingははなから目的としませんが国内局相手にそこそこ飛んでくれたら嬉しいと言った感じでしょうか。 自身の限られた環境から何とか可能な方法を探って悪あがきしてみました・・・とでも申しましょうか。とても自慢になるようなお話ではありません。 しかし何でもそうだと思いますが、やってみないとわからないことって多いものです。 以下、お時間でもあればリラックしてご覧を。(笑)
参考:写真は4バンド逆Vアンテナの160m用折り曲げエレメント部分です。(改造前)
【初期状態のSWR特性】
4バンド逆Vアンテナを改造する訳ですが、まずはその前に現状の共振状態を確認しておきます。
ネットワークアナライザに方向性結合器を付加し、リターンロスを測定します。リターンロスのまま読んでも良いのですが、一般的なHAMにもわかり易いようSWRに変換して画面表示させました。 SWRが5以上の部分は何を意味しているのか怪しいので参照しません。 だいたいSWR<3のあたりまでを参考にします。 画面は左端が1MHz、右端が10MHzで横軸はLog目盛になっています。縦軸は上記のようにSWR表示でひと目盛は「1」間隔です。一番下の赤いラインがSWR=1です。なお、測定は50Ωを基準のインピーダンスとしています。
4バンドの逆Vアンテナですから当然ですが、160m Band、80m Band、 40m Band、30m Bandの4箇所に共振点がみられます。 160m Bandのところにマーカーを当てると1884kHzあたりにSWRのミニマムがあるようです。建設直後の調整時よりやや下がった印象もありますが、その時とは測定方法も異なるので「まあこんなものか」と思います。(笑)
実測の共振点は1910kHzよりやや低いのですが、ハムバンドの1800〜1875kHzには入っていません。 できたら共振点がバンドの中心付近にくるよう調整したいと思います。 あるいは最近になってFT8にオンエアを始めたこともあり、このバンドのFT8のオンジエア周波数である1840kHzを狙ってみるのも良さそうです。 それで、どれくらいエレメントを延長したら良いのでしょうか?
無短縮のDPアンテナあるいは逆Vアンテナなら必要な延長量は計算から見当をつけることができます。 1884kHzの波長をλ1とすれば、λ1≒158.24mで、さらに1840kHzの波長をλ2とすると、λ2≒163.04mです。ざっくり考えて、延長すべき片エレメントの長さがはλ1とλ2の差の4分の1あたりでしょう。λ2-λ1=4.8(m)ですから、両端それぞれに約1.2mくらいずつ延長する必要がありそうです。
ただしここで改造予定のアンテナは短縮型です。そのため先端エレメントの効き方はずっと大きいので、追加の「ヒゲ」はもうちょっと短くても良いはずです。
【テスト・リードを足してみる】
計算である程度様子はわかりました。 わずかな周波数の移動なのに意外に長めの「ヒゲ」を足す必要がありそうです。 アンテナが周囲の影響を受けるのは当然ですから見当をつけたらあとは実験して確かめるのが一番でしょう。
さっそくエレメントの先端をサンドペーパーで良く磨き、ミノムシクリップ付きのテスト用リード線をぶら下げてみました。アンテナの両端に同じ長さのテストリードを付けますが、これは言うまでもないでしょうね。 何ともいい加減なやり方ですが、これで共振周波数の移動くらいならわかるはずです。
このアンテナはメンテナンスの便を考えて両端部分が滑車で上下できるようになっています。 一旦下げてテストリードをくわえたら元も戻しておきます。 こうした短縮アンテは架設環境の変化にデリケートですから最終的に架設する状態で確認しなくてはなりません。
【足した効果は?】
アンテナ・エレメントの両端に同じ長さのテストリードを追加して共振周波数の移動を観測しました。
測定方法は上述と全く同じです。 書き忘れましたが、測定ポイントはシャックに引き込んだ同軸ケーブルの先端です。
要するにリグが接続される部分ということになります。これは従来から行なっている通り、現実に即した測定をしたいからです。 アンテナの研究が目的なら給電点で観測すべきでしょうね。
さっそく共振周波数を確認しましょう。マーカーを当てて見ると1840.8kHzにSWRのミニマムが来ています。 狙ったように目標の周波数ですが、たまたまの偶然です。(笑)
SWR=1にならないのは、共振点でもインピーダンスが50Ωになっていないからです。 このアンテナは短縮型でかなり鋭角の逆V型ですから、50Ωよりも低くなっているはずです。 SWR≒1.5ですから、Z0=34Ωくらいなのでしょうね。(まあ、横着をせずにインピーダンス測定モードで観測したら一目瞭然なんですけどね・笑) オンエアする際はアンテナチューナを使います。 これくらいなら十分カバー範囲ですから支障ありません。 だいたいわかったので黄色いテストリードから脱却するため追加の「ヒゲ」を製作することにしました。単なる電線を用意するだけなので「製作」と呼べるほどのものではないですけど。
【テスト・リードは約55cm長】
足したテストリードの長さは約55cmでした。 もう少し長さが必要かと思ったのですが意外に短めで済みそうです。
使ったのは両端がミノムシ・クリップのテストリードです。 末端部にミノムシ・クリップが付いているため微妙に静電容量が大きくなっている筈です。 端部の大きな導体は効くからです。 たぶん、55cmちょうどのリード線を足したのでは、共振点はやや高めの周波数になるでしょう。
調整しろなども考えて、65cmの長さの「ヒゲ」を用意することにしました。 両端に足しますから2本作ります。
今回はニューバンドの様子を見るのが主目的です。 あまり面白みを感じなければ昔ながらの1910kHz±2.5kHzへ戻ることを考えています。 「ヒゲ」は片端にミノムシ・クリップをつけたものにしました。 「ヒゲ」があまり目立っても困るので、元のエレメントと同化するよう黒い被覆の単線ワイヤを使います。(例によって被覆線ではなく裸の銅線の方が望ましいのですが・・・)
【65cmのリード線を追加】
さっそく足してみます。 あくまでも仮設の延長ですからミノムシ・クリップでくわえているだけです。 ハンダ付けはしていません。
流石にそれだけでは耐候性は皆無です。 自己融着テープを巻いて簡易に防水対策しておきます。 ただしサンドペーパーで磨いてある、相手側の導線もやがて酸化してくるでしょう。 いずれ接触不良が発生するであろうことは目に見えています。
# 恒久的にオンエアすると決めたらいずれ圧着かハンダ付けをしたいと思います。 まずは様子見の仮設ですね。
【リード線追加後のSWR特性】
肝心の160m Bandですが、65cmの「ヒゲ」を足しただけで、1840.7kHzに共振しました。
両端ミノムシ・クリップのテストリードより10cmほど長くしましたが、ちょうど良かったようです。 リード線の太さも違いますし、使った電線の被覆の種類や厚みも違うのでこれくらいの違いは生じるのでしょう。 防水のテーピングも施し、所定の架設高までアップしてあります。 引き上げ用ロープの末端をきちんと固定し直すと言う追加の作業は必要でしたが、エレメントの加減はまったく不要でした。
これで終了なので他のバンドの共振状態も合わせて確認しておきました。
(1)160m Band=1840kHz
(2)80m Band=3508kHz
(3)40m Band=7012kHz
(4)30m Band=(観測対象外)
トラップコイルより下側の周波数でエレメント長を加減しても、その上のバンドの共振周波数に影響は及ばないことがわかっています。 今回は160m Bnadのエレメント両端に各65cmも追加したのですが、80m Band以上への影響は見られませんでした。 これは従来から思っていた通りです。 30m Bandは未計測ですが、このバンドは無短縮なので帯域幅は十分に広いため測定を省きました。10.1〜10.15MHzでSWR<1.5になっていたと思います。
【160m BandのSWRは?】
160mのバンド幅はどれくらいとれそうなのか拡大して詳しく観測してみました。
バンド下端の1800kHzでSWR=2.7、仮の目標の1840kHzでSWR=1.5、さらにバンド上端の1875kHzでSWR=2.9となりました。
短縮型のアンテナなので、どうしても帯域幅は狭くなります。 アンテナチューナで整合して使うため、SWR=3までを使用可能な範囲と考えています。 従って、まずは1800〜1875kHzの全体がカバーできそうなことがわかりました。 ただし、範囲外の1910kHzではずいぶんSWRが高くなって実用できそうにないのはやむを得ません。 これは短縮系のアンテナなのでしかたないでしょう。
無短縮のDPや逆Vアンテナならもうちょっと広い帯域幅が得られると思います。それでも比周波数で考えるとこのバンドの75kHz幅というのはかなり広いです。(離れた5kHzの分も考えたらもっと広い) バンド全体で低いSWRの確保は難しいかもしれませんね。 たった75kHzなのですが、それだけ広いHAMバンドだと言えそうです。 7MHz帯なら300kHz幅くらいに相当しますから。
【早速テストしてみる】
テストを兼ねてオンエアしてみました。 すでに届出済みで、審査も済んでいたため、FT8でオンエアしてみました。
画面は解放された翌日の4月22日夜の状況です。 1日前に解放されたばかりですから閑散としていてさぞや「閑古鳥が」と思ったらさにあらず。 ご覧のようにたくさんの局がオンエアやワッチされている状況でした。これはちょっと驚きです。 それと、そもそもあまり遠方まで飛ばない中波の延長のようなバンドです。それでも夜間なら国内がカバーできそうだというのも新鮮です。(画像は日没から間もない日本標準時:18:52にキャプチャ。当地の日没は18:23)
意外にも160m BandのDXerはたくさんおられて、これまでセパレート周波数での運用を頑張ってこられたのでしょう。 さっそく受信用だった1840kHzのアンテナを送信に転用してオンジエアを始められたのでしょうか。
ただし、やはり160m BnadのHAM人口は少なめのように感じます。 お呼び頂くに任せてQSOしていたらあっという間にほとんどの局が-B4になりました。常連さんはある程度決まっているのですぐに飽和するのでしょう。これは昔々1910kHz±2.5kHzでCWの運用を始めたときもそうでした。(笑) QSLカードはすべてe-QSL(←リンク)へQSO終了後の即時対応で送ってあります。もし紙のカードをご所望でしたらご連絡下さい。
☆
こんなアンテナでのオンエアテストは敷地があってアンテナ張り放題のHAM局からみたら笑い話でしょう。 だいぶ打ち上げ角が高いようで、国内局には届いてもDXはダメそうです。聞こえないし飛びませんね。 ハイパワーに巨大アンテナ局がゾロソロのこのバンドでは対抗できませんしDXが稼げるとも思っていません。 ダミーロードよりマシなアンテナなら合格点です。 屋内にこもりがちの昨今、アンテナのチューニング作業はアウトドア気分なので良い息抜きにもなりました。(笑)
多バンドのアンテナを揃えるのは、何かを製作したとき実験的に欲しいからです。そのような目的ならまずまず使えそうなアンテナができたと思います。 あとはもう少し運用してみてそのまま1800kHz帯に留まるか、1910kHzへ戻るかを考えましょう。 短縮アンテナにローパワーでは大して飛びませんが、か細い電波が聞こえてましたらCallよろしく。 暇なときは伝搬の日変化を見たいと思って1836.6kHzのWSPRにもオンエアしています。さて、Poorなアンテナに5W(WSPRのとき)でどこまで飛ぶのでしょうか? de JA9TTT/1
参考:条件の良い夜間なら何とかKPH(米加州)までWSPRの5Wが届くようです。
(おわり)fm
<Abstract>
The low-band antenna I'm using needs to be modified. This is because Japan's Amateur Radio Band (HAM Band) has been changed. The 160m band of the Top Band has been extended to the lower frequencies.
First, I add about 2 feet of test leads to both ends. Then I look at the transfer of the resonant frequency. I modified the antenna according to the results of that test.
The performance of the modified it was quite good and I was able to go on the air immediately. (2020.05.07 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【既設アンテナの160m Band対応】
160m Bandはアンテナがでかいです。市街地に住む私にとって長年の課題でした。まずはじめ設地型の変形バーチカルを建設しました。バーチカル・アンテナならあまり敷地面積を必要としないからです。給電点の根元でマッチング回路を切替えて160mと80mバンドの2バンドに出られるようにしました。切り替えはシャックからリモートでした。
いまのQTHに移ってタワーを建てた際、Low BandはSloperにしました。これも敷地面積の関係です。周辺に店舗や住宅が少ないうちは飛びも聞こえもまずまずでした。やがて新しい幹線道路が開通しコンビニもでき店舗が増えると接地型に近いSloper Antennaはノイズレベルが急上昇です。やむなく平衡型の逆V型に変更したのが現用アンテナの前身です。 トラップタイプのやや短縮型なのでバンド幅は無短縮なアンテナほど取れませんが160m Bandはたった5kHzがカバーできればOKでした。
先日のBlog(←リンク)のように、4月21日からローバンドが拡張されました。従来はDXerの専用のようになっていた1810〜1825kHzでしたが、75kHz幅に拡張されたことからこちらにオンエアできたら面白そうです。 まずは様子を見る目的でアンテナの共振周波数を変更する簡単なテストから始めました。 結果は国内局が相手ならまずまず使えそうです。
☆
160m Bandなんてアンテナが無理だから自分には無縁だよ・・・という声も聞こえます。 もちろん、このバンドの標準的なDXerが建てるであろうフルサイズのDPや逆Vアンテナともなると架設可能な局は限られるでしょう。当局もまったく無理です。 しかしDXはダメでも近くの局を相手にぼちぼち楽しむ程度のアンテナなら意外に可能性があると思うのです。 特にJT-65なりFT8のようなデジタルモードならばアンテナの帯域幅が狭くても支障はありません。特定周波数の3kHzくらいの幅にオンエアしているからです。短縮ホイップのような超短縮アンテナでも目的周波数にきちんとチューンすればかなり使えます。もしLow Bandにも興味がわいてきたら一度試されるのも悪くないと思います。製作過程を含めて思いのほか楽しめるに違いありません。
ここでは応急措置として既設の4バンド逆Vアンテナ(←リンク)の先に「ヒゲ」を追加して共振周波数を下げてみます。 もともとが狭小な庭先にジグザグに折り曲げて何とか架設したアンテナです。 DXingははなから目的としませんが国内局相手にそこそこ飛んでくれたら嬉しいと言った感じでしょうか。 自身の限られた環境から何とか可能な方法を探って悪あがきしてみました・・・とでも申しましょうか。とても自慢になるようなお話ではありません。 しかし何でもそうだと思いますが、やってみないとわからないことって多いものです。 以下、お時間でもあればリラックしてご覧を。(笑)
参考:写真は4バンド逆Vアンテナの160m用折り曲げエレメント部分です。(改造前)
【初期状態のSWR特性】
4バンド逆Vアンテナを改造する訳ですが、まずはその前に現状の共振状態を確認しておきます。
ネットワークアナライザに方向性結合器を付加し、リターンロスを測定します。リターンロスのまま読んでも良いのですが、一般的なHAMにもわかり易いようSWRに変換して画面表示させました。 SWRが5以上の部分は何を意味しているのか怪しいので参照しません。 だいたいSWR<3のあたりまでを参考にします。 画面は左端が1MHz、右端が10MHzで横軸はLog目盛になっています。縦軸は上記のようにSWR表示でひと目盛は「1」間隔です。一番下の赤いラインがSWR=1です。なお、測定は50Ωを基準のインピーダンスとしています。
4バンドの逆Vアンテナですから当然ですが、160m Band、80m Band、 40m Band、30m Bandの4箇所に共振点がみられます。 160m Bandのところにマーカーを当てると1884kHzあたりにSWRのミニマムがあるようです。建設直後の調整時よりやや下がった印象もありますが、その時とは測定方法も異なるので「まあこんなものか」と思います。(笑)
実測の共振点は1910kHzよりやや低いのですが、ハムバンドの1800〜1875kHzには入っていません。 できたら共振点がバンドの中心付近にくるよう調整したいと思います。 あるいは最近になってFT8にオンエアを始めたこともあり、このバンドのFT8のオンジエア周波数である1840kHzを狙ってみるのも良さそうです。 それで、どれくらいエレメントを延長したら良いのでしょうか?
無短縮のDPアンテナあるいは逆Vアンテナなら必要な延長量は計算から見当をつけることができます。 1884kHzの波長をλ1とすれば、λ1≒158.24mで、さらに1840kHzの波長をλ2とすると、λ2≒163.04mです。ざっくり考えて、延長すべき片エレメントの長さがはλ1とλ2の差の4分の1あたりでしょう。λ2-λ1=4.8(m)ですから、両端それぞれに約1.2mくらいずつ延長する必要がありそうです。
ただしここで改造予定のアンテナは短縮型です。そのため先端エレメントの効き方はずっと大きいので、追加の「ヒゲ」はもうちょっと短くても良いはずです。
【テスト・リードを足してみる】
計算である程度様子はわかりました。 わずかな周波数の移動なのに意外に長めの「ヒゲ」を足す必要がありそうです。 アンテナが周囲の影響を受けるのは当然ですから見当をつけたらあとは実験して確かめるのが一番でしょう。
さっそくエレメントの先端をサンドペーパーで良く磨き、ミノムシクリップ付きのテスト用リード線をぶら下げてみました。アンテナの両端に同じ長さのテストリードを付けますが、これは言うまでもないでしょうね。 何ともいい加減なやり方ですが、これで共振周波数の移動くらいならわかるはずです。
このアンテナはメンテナンスの便を考えて両端部分が滑車で上下できるようになっています。 一旦下げてテストリードをくわえたら元も戻しておきます。 こうした短縮アンテは架設環境の変化にデリケートですから最終的に架設する状態で確認しなくてはなりません。
【足した効果は?】
アンテナ・エレメントの両端に同じ長さのテストリードを追加して共振周波数の移動を観測しました。
測定方法は上述と全く同じです。 書き忘れましたが、測定ポイントはシャックに引き込んだ同軸ケーブルの先端です。
要するにリグが接続される部分ということになります。これは従来から行なっている通り、現実に即した測定をしたいからです。 アンテナの研究が目的なら給電点で観測すべきでしょうね。
さっそく共振周波数を確認しましょう。マーカーを当てて見ると1840.8kHzにSWRのミニマムが来ています。 狙ったように目標の周波数ですが、たまたまの偶然です。(笑)
SWR=1にならないのは、共振点でもインピーダンスが50Ωになっていないからです。 このアンテナは短縮型でかなり鋭角の逆V型ですから、50Ωよりも低くなっているはずです。 SWR≒1.5ですから、Z0=34Ωくらいなのでしょうね。(まあ、横着をせずにインピーダンス測定モードで観測したら一目瞭然なんですけどね・笑) オンエアする際はアンテナチューナを使います。 これくらいなら十分カバー範囲ですから支障ありません。 だいたいわかったので黄色いテストリードから脱却するため追加の「ヒゲ」を製作することにしました。単なる電線を用意するだけなので「製作」と呼べるほどのものではないですけど。
【テスト・リードは約55cm長】
足したテストリードの長さは約55cmでした。 もう少し長さが必要かと思ったのですが意外に短めで済みそうです。
使ったのは両端がミノムシ・クリップのテストリードです。 末端部にミノムシ・クリップが付いているため微妙に静電容量が大きくなっている筈です。 端部の大きな導体は効くからです。 たぶん、55cmちょうどのリード線を足したのでは、共振点はやや高めの周波数になるでしょう。
調整しろなども考えて、65cmの長さの「ヒゲ」を用意することにしました。 両端に足しますから2本作ります。
今回はニューバンドの様子を見るのが主目的です。 あまり面白みを感じなければ昔ながらの1910kHz±2.5kHzへ戻ることを考えています。 「ヒゲ」は片端にミノムシ・クリップをつけたものにしました。 「ヒゲ」があまり目立っても困るので、元のエレメントと同化するよう黒い被覆の単線ワイヤを使います。(例によって被覆線ではなく裸の銅線の方が望ましいのですが・・・)
【65cmのリード線を追加】
さっそく足してみます。 あくまでも仮設の延長ですからミノムシ・クリップでくわえているだけです。 ハンダ付けはしていません。
流石にそれだけでは耐候性は皆無です。 自己融着テープを巻いて簡易に防水対策しておきます。 ただしサンドペーパーで磨いてある、相手側の導線もやがて酸化してくるでしょう。 いずれ接触不良が発生するであろうことは目に見えています。
# 恒久的にオンエアすると決めたらいずれ圧着かハンダ付けをしたいと思います。 まずは様子見の仮設ですね。
【リード線追加後のSWR特性】
肝心の160m Bandですが、65cmの「ヒゲ」を足しただけで、1840.7kHzに共振しました。
両端ミノムシ・クリップのテストリードより10cmほど長くしましたが、ちょうど良かったようです。 リード線の太さも違いますし、使った電線の被覆の種類や厚みも違うのでこれくらいの違いは生じるのでしょう。 防水のテーピングも施し、所定の架設高までアップしてあります。 引き上げ用ロープの末端をきちんと固定し直すと言う追加の作業は必要でしたが、エレメントの加減はまったく不要でした。
これで終了なので他のバンドの共振状態も合わせて確認しておきました。
(1)160m Band=1840kHz
(2)80m Band=3508kHz
(3)40m Band=7012kHz
(4)30m Band=(観測対象外)
トラップコイルより下側の周波数でエレメント長を加減しても、その上のバンドの共振周波数に影響は及ばないことがわかっています。 今回は160m Bnadのエレメント両端に各65cmも追加したのですが、80m Band以上への影響は見られませんでした。 これは従来から思っていた通りです。 30m Bandは未計測ですが、このバンドは無短縮なので帯域幅は十分に広いため測定を省きました。10.1〜10.15MHzでSWR<1.5になっていたと思います。
【160m BandのSWRは?】
160mのバンド幅はどれくらいとれそうなのか拡大して詳しく観測してみました。
バンド下端の1800kHzでSWR=2.7、仮の目標の1840kHzでSWR=1.5、さらにバンド上端の1875kHzでSWR=2.9となりました。
短縮型のアンテナなので、どうしても帯域幅は狭くなります。 アンテナチューナで整合して使うため、SWR=3までを使用可能な範囲と考えています。 従って、まずは1800〜1875kHzの全体がカバーできそうなことがわかりました。 ただし、範囲外の1910kHzではずいぶんSWRが高くなって実用できそうにないのはやむを得ません。 これは短縮系のアンテナなのでしかたないでしょう。
無短縮のDPや逆Vアンテナならもうちょっと広い帯域幅が得られると思います。それでも比周波数で考えるとこのバンドの75kHz幅というのはかなり広いです。(離れた5kHzの分も考えたらもっと広い) バンド全体で低いSWRの確保は難しいかもしれませんね。 たった75kHzなのですが、それだけ広いHAMバンドだと言えそうです。 7MHz帯なら300kHz幅くらいに相当しますから。
【早速テストしてみる】
テストを兼ねてオンエアしてみました。 すでに届出済みで、審査も済んでいたため、FT8でオンエアしてみました。
画面は解放された翌日の4月22日夜の状況です。 1日前に解放されたばかりですから閑散としていてさぞや「閑古鳥が」と思ったらさにあらず。 ご覧のようにたくさんの局がオンエアやワッチされている状況でした。これはちょっと驚きです。 それと、そもそもあまり遠方まで飛ばない中波の延長のようなバンドです。それでも夜間なら国内がカバーできそうだというのも新鮮です。(画像は日没から間もない日本標準時:18:52にキャプチャ。当地の日没は18:23)
意外にも160m BandのDXerはたくさんおられて、これまでセパレート周波数での運用を頑張ってこられたのでしょう。 さっそく受信用だった1840kHzのアンテナを送信に転用してオンジエアを始められたのでしょうか。
ただし、やはり160m BnadのHAM人口は少なめのように感じます。 お呼び頂くに任せてQSOしていたらあっという間にほとんどの局が-B4になりました。常連さんはある程度決まっているのですぐに飽和するのでしょう。これは昔々1910kHz±2.5kHzでCWの運用を始めたときもそうでした。(笑) QSLカードはすべてe-QSL(←リンク)へQSO終了後の即時対応で送ってあります。もし紙のカードをご所望でしたらご連絡下さい。
☆
こんなアンテナでのオンエアテストは敷地があってアンテナ張り放題のHAM局からみたら笑い話でしょう。 だいぶ打ち上げ角が高いようで、国内局には届いてもDXはダメそうです。聞こえないし飛びませんね。 ハイパワーに巨大アンテナ局がゾロソロのこのバンドでは対抗できませんしDXが稼げるとも思っていません。 ダミーロードよりマシなアンテナなら合格点です。 屋内にこもりがちの昨今、アンテナのチューニング作業はアウトドア気分なので良い息抜きにもなりました。(笑)
多バンドのアンテナを揃えるのは、何かを製作したとき実験的に欲しいからです。そのような目的ならまずまず使えそうなアンテナができたと思います。 あとはもう少し運用してみてそのまま1800kHz帯に留まるか、1910kHzへ戻るかを考えましょう。 短縮アンテナにローパワーでは大して飛びませんが、か細い電波が聞こえてましたらCallよろしく。 暇なときは伝搬の日変化を見たいと思って1836.6kHzのWSPRにもオンエアしています。さて、Poorなアンテナに5W(WSPRのとき)でどこまで飛ぶのでしょうか? de JA9TTT/1
参考:条件の良い夜間なら何とかKPH(米加州)までWSPRの5Wが届くようです。
(おわり)fm
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