【I-Fアンプとマーカー発振器を兼ねる工夫:1AB6/DK96】
Introduction
Communication receivers require a calibration function for the readout frequency. I am designing a receiver using vacuum tubes, but I will add the calibration function without increasing the number of tubes. To achieve this, I experimented with a circuit that serves as both a second intermediate frequency amplifier and a marker oscillator. The marker oscillator circuit I tested, using a 200kHz crystal oscillator, worked extremely well. With this, all components for the battery-powered tube receiver have been experimentally verified. I have summarized them in a block diagram.(2025.12.20 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【周波数マーカーは必須の装備】
電池管を使って受信機を創るプロジェクトです。 コリンズタイプのダブル・スーパ受信機を作ります。
前回のBlog(←リンク)では第2周波数変換を扱いました。 これで主要な構成要素の検討は終わりました。 おおむね実用になりそうな性能が得られるでしょう。
受信周波数の安定度は第2局発でほとんどが決まります。 周波数の読み取りもその部分で行なうことになります。 ダイヤル面に7000〜7200kHzの200kHz幅を展開する予定ですが、アナログ読取りで行くことになります。 したがって最低限の機能としてバンドエッジを知るためのマーカーオシレータは必須です。 今回のBlogは第2IFアンプとマーカーオシレータを兼用する回路の実験を目的とします。
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半導体技術が進歩した現在、周波数の読み取りはデジタル技術を使えば楽々可能です。せっかく通信型受信機を作るならそうすべきなのかもしれません。しかしここではできるだけ「電池管」(乾電池用の真空管)だけを使って『使い物になりそうな』受信機を目指したいと思っています。 同時にできるだけ少ない球数で実現したいものです。 従って普通の受信機設計ではやらないようなことをやらねばなりません。まさかIFアンプとマーカーオシレータを兼用するなんてねえ。 写真はそんな実験の様子です。(笑)
まあ、大したお話ではないので興味がわかないとお感じならこの先はパスされてください。すでに年末です。あなたの貴重な時間を大切に使いましょう。
【低い周波数の水晶発振子】
例えば1MHzとか10MHzのような高い周波数の水晶発振子で発振させ、それを分周して100kHzや25kHzを得ると言った手は使え(使い)ません。 電池管でもおそらく分周器の製作は不可能ではありませんが、球数ばかり増えてしまって「何のこっちゃ」ってなります。(笑)
ですから基本周波数が100kHzと言った低い周波数の水晶発振子を使うことになります。
写真は100kHzと200kHzの水晶発振子です。 HC-13/U型の100kHzでも良いのですが、もう少し小型の200kHzで行こうと思います。周波数が倍になってだいたい半分のサイズです。
【100kHz:HC-13/Uは不安定】
大きな水晶発振子に共通と思われますが、HC-13/U型の100kHz水晶には欠点があります。受信機のマーカーオシレータくらいなら使えるのですが、周波数基準用としては不安定です。例えば周波数カウンタのタイムベースには不向きでしょう。温度係数もありますが『姿勢誤差』が問題です。
具体的には発振子を縦にするのか横にするのか、あるいは寝かせるのかなど姿勢を変えると周波数が変わるのです。 周波数が低いため水晶板そのものが大きくできています。そのため重力の影響を受けわずかに「たわむ」のでしょう。地球上にある限り重力から逃れられず姿勢で周波数が動くわけです。個体差もありますが実際に100kHzのHC-13/Uでは数Hzの変化が認められます。(於・7MHzの校正点) 低い周波数でも腕時計に使うような音叉型小型水晶発振子なら大丈夫なのですが・・・。
200kHzのHC-6/Wでも『姿勢誤差』と無縁ではないのでしょうが顕著にはわかりません。100kHz/HC-13/Uより有利です。
【I-Fアンプとマーカー発振を兼ねる回路】
5グリッド七極管:1AB6/DK96を使って、I-Fアンプ(中間周波増幅器)とマーカー発振器を兼ねる回路です。 マーカー発振器の周波数は200kHzです。
フィラメント、第1グリッド、第2グリッドの3つで構成される三極管で水晶発振を行ないます。 これがマーカー発振器になります。 中間周波信号は第3グリッドに加えられ普通に増幅されます。 1AB6/DK96の相互コンダクタンス:gmは専用の五極管:1AJ4/DF96よりもやや小さいのですが、受信機としてはI-Fアンプを2段にすることで十分なゲインが得られます。 なお、第1I-Fアンプ部にこの回路を使うとマーカー発振の漏洩が後続のI-F増幅段に影響します。 従ってこの回路は第2I-Fアンプの部分に使います。
発振の確実性を得る目的で第2グリッドには概略200kHzに同調したLC共振回路(タンク回路)を置きます。最適な発振状態を得るため、そのLC回路の共振周波数は調整する必要があります。200kHzよりやや高い周波数に合わせます。ここではコイルのコアで共振を加減しています。 発振波形ですが、第1グリッド側はきれいな正弦波です。ここからマーカー信号を取出し小容量:2pFで結合してRFアンプに導きます。
水晶発振子は上記で説明どおり200kHz、HC-6/W型です。 LC共振回路(タンク回路)には7mm角の可変インダクタを使いました。(東光:7PLA型) 発振周波数の微調整は第1グリッド側の可変コンデンサ:C2で行ないます。 これでJust 200kHzに合わせられます。 真空管は1AB6/DK96を使いましたが、1R5あるいは1R5-SFで作ることもできます。次項を参考にしてください。
【AN/GRC-9/RT-77のマーカ・I-Fアンプ部】
ここで試作したマーカ発振を兼ねるI-Fアンプ回路は米陸軍の野戦用無線機:AN/GRC-9/RT-77の受信部を参考にしています。第二次大戦から朝鮮戦争で多数使われたポピュラーな軍用無線機です。
AN/GRC-9/RT-77は2〜12MHzをカバーするHF帯の移動用AM/CW用トランシーバで、電池管を主体に構成されています。受信部は高1中2のシングル・スーパでI-Fは456kHzです。そのダイヤル目盛りの校正用として200kHzのマーカ発振器が付いています。 小型化と省電力を目的に最低限の球数で構成されています。 そのためマーカ発振器とI-Fアンプを兼ねたのでしょう。そうすることでマーカ発振用の真空管が省けます。(トランジスタなんて存在しなかった時代の苦肉の設計ですから・笑)
図の回路でモードスイッチをCALのポジションにすると、1R5・第1グリッドのGNDが解除されます。同時に第2グリッドの高周波バイパスが解除されてマーカーが発振開始します。そのマーカ信号をRFアンプのグリッドへ結合して200kHz毎の校正ポイントが得られます。
参考までにAN/GRC-9/RT-77の送信部は、直熱送信管:2E22がファイナル管で、AMで7W、CWで15Wを得ています。AMは2E22のサプレッサ・グリッド変調という珍しい形式です。送信可能な周波数は受信部と同じで、可変周波発振器:VFOのほか水晶発振(Band毎2ch内蔵)も選べます。なお、外観写真をはじめ詳細な情報はネット上にたくさん存在します。
【発振波形を観察する】
発振波形を観察してみました。 1AB6/DK96の第1グリッドを測定しています。
第2グリッド・・・発振三極管のプレート相当・・・にも200kHzの信号が現れますが、プラス側の半サイクルが圧縮された歪み波形になっています。 マーカー回路の趣旨から言えば波形に歪みがあって高調波が豊富な方が望ましいと思います。 しかし実際には波形のきれいな第1グリッド側(写真の観測ポイント)からマーカー信号を取り出しています。
マーカー信号は受信信号と比較すれば極めて強力です。当然RF-Amp.で歪むはずですからそれで良いのかもしれません。
【マーカーの周波数を合わせる】
回路図のC2で周波数を200kHzちょうどに合わせられます。
受信周波数の読取り精度はマーカーの周波数が決めます。 従って良く合っていて安定していなくてはなりません。初期精度を上げるためには周波数調整を行ないます。 少し通電エージングしてから周波数合わせします。
第1グリッドに周波数カウンタのプローブを当てて測定するとプローブを外したとき誤差を生じます。最も良いのはマーカー発振器の高調波と標準電波・・WWV/WWVHなど・・を別の受信機で受信しながらC2でゼロビートを得る方法が良いでしょう。
200kHzという低い周波ですから発振周波数は十分安定しています。 ただし、実際の校正周波数である7000kHzや7200kHzでは高調波を利用しますから、35〜36倍で効いてきます。マーカー発振器の周波数安定度はたいへん重要です。
【消費電流を観察する】
回路の全電流を実測しています。 B+が50Vのとき約780μA流れました。 これはマーカーが発振した状態における全電流です。
単なる第2IF-アンプとして動作しているときの消費電流は異なります。 これは発振していると第1グリッドで自己整流が起こって負バイアスが発生するからです。 負バイアスのためプレート電流も、第2グリッド電流も抑制されます。
マーカーの発振を止めて単なるI-Fアンプとして動作させたときの消費電流は約935μAに増えます。 使用した1AB6/DK96(手持品のNo.1)での電流値であり、球が変わったり発振状態が変化すると電流も違ってきます。もちろん大きく変わるものではありませんが。
【YEWの3201型テスター】
写真に写っている「3201型回路計」はYEW:横河電機のスタンダードモデルです。電気工作が趣味の一般的なアマチュアは三和や日置のテスターを買いました。YEWのテスターは計測のプロの持ち物で研究室などで見かけるものです。 JIS規格品ですし、その信頼性が買われたからでしょう。(それだけに高額でした) アナログ好きの私は100kΩ/Vに惹かれてしまい持っておりましたが、あまり使い勝手が良いとは言えず滅多に使っていません。 堅牢そうにできていますが大きくて狭い実験机ではかなり持て余し気味だからです。(笑)
結局のところいつも使っている三和のFX-110が使いやすいしスケールも読みやすいように感じます。比較してみても指示精度に違いはありませんでしたから、三和のテスターで不満はないのです。 デジタル時代の今更ではありますが日本製のアナログテスターはどれもたいへん良くできています。(もちろん今どき安価なDMMが最も実用的ですけれど・・・)
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【電池管受信機の最終構成】
今回のマーカー回路を兼ねるI-Fアンプで計画している受信機に必要な全ての要素について実験は済みました。
まとめの意味でブロック・ダイヤグラムに書き落としてみます。 この図でご覧のように電池管を7球使ったダブルスーパ・ヘテロダイン受信機になりました。 図にありませんが受信選択度を決める帯域フィルタにはメカニカルあるいはセラミック・フィルタを使うつもりです。 もしゲイン不足を感じるようならあきらめてLC回路のIFTで済ますかもしれません。 このあたりはまだ少しだけ検討を要する部分です。
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しばらくお休みしているBlogですが、尻切れのようでいかにも纏まりに欠けます。予定に残っていたマーカー発振器の実験を追加した上で、目標の受信機として「まとめ」を行なうことに致しました。 さして状況も変わっていないので、すぐ製作に進むのは難しいと思っています。 いつか展望がひらけてきたら再始動するという約束でこの「電池管で作る通信型受信機」というテーマを終えましょう。 もちろん新たなテーマによるBlogの再始動もぼちぼち考えているところです。何かできそうなことから始めましょう。 未来に乞うご期待。(笑) 2025年の師走も押し詰まって参りました。皆様にとって2026年(令和八年)が輝ける一年でありますように! ではまたいつかお会いしましょう。 de JA9TTT/1
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(おわり)nm
【乾電池で働く真空管で通信型受信機を創る・バックナンバー】(リンク集)
この特集では主に欧州系の省エネ型ラジオ用電池管を使って実戦的な通信型受信機の製作を目指します。全7球で省エネ・高性能な管球式ダブル・スーパー受信機に纏めます。
第1回:(初回)欧州系コンバータ管:1AB6/DK96で周波数変換回路を試す→ここ
第2回:欧州系バリミュー管:1AJ4/DF96でI-Fアンプを試す・含1T4-SF→ここ
第3回:日本独自の省エネコンバータ管:1R5-SFで周波数変換回路を試す→ここ
第4回:オーディオ・アンプ用複合電池管:1D8GT(豪州製)の紹介→ここ
第5回:複合電池管:1D8GTでまな板スタイルのオーディオ・アンプを作る→ここ
第6回:省エネコンバータ管:1R5-SFでプロダクト検波を詳細に検討→ここ
第7回:電池管で作る高性能受信機を構想してみる・含1AB6/Dk96のプロ検→ここ
第8回:欧州系コンバータ管:1AB6/DK96でクリスタル・コンバータを試す→ここ
第9回:ペンタ・グリッド管:1AB6/DK96で第2周波数変換を試す(その1)→ここ
第10回:ペンタ・グリッド管:1AB6/DK96で第2周波数変換を試す(その2)→ここ
第11回:(最終回)I-FアンプとマーカOSCの兼用回路と受信機まとめ→いまここ







