2015年7月2日木曜日

【回路】8MHz Ladder Filter Design

【8MHzのラダー型クリスタル・フィルタの試作と評価】

 【安価な8MHz水晶発振子】
 自作無線機に適したクリスタル・フィルタの市販品は限られています。 そもそも無線機を自作する人は限られて来たので、必然的にニーズも減ってしまったからでしょう。 その一方で、性能の優れた水晶振動子(発振子)はCR部品並の価格で巷に溢れています。その水晶を素材にしたラダー型フィルタの手作りに今は絶好の状況になっているのです。

 写真の水晶発振子(=クリスタル)もその一つです。2008年ころ、そろそろ中華パーツが日本に流入しだしたころ購入したものです。性能は半信半疑で買った覚えがありますが、100個で1,400円でした。購入先はaitendoとは別の中華系パーツを扱うAI HKと言うお店でした。通販のページは残っているようですが、いまも同じものが手に入るのかわかりません。

 ラダー型クリスタル・フィルタの自作ブームもすっかり落ち着きましたが、いまではフィルタは「買うもの」から「作るもの」にすっかり定着したようです。 円安なので中華パーツを含めた輸入品は値上がり傾向にありますが、aitendoをはじめとしてこうした水晶発振子が@10円少々で売られているのを目にします。 安い水晶を見つけるとついつい買い込んでしまうのが習慣化していましたが、いつでも買えるとなれば食指も動かなくなっていました。(笑)

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 前回のBlog(←リンク)では入手容易なパーツで構成したSSBジェネレータを扱いました。唯一、手に入りにくい部品として既製品クリスタル・フィルタを使いました。いずれ「自作で対応しますよ」と言い訳して済ませてしまったのです。だったら「すぐに対応せよ」との声も聞こえる?・・ので久しぶりにラダー型フィルタを扱うことにします。放置されたままだった中華クリスタルを消費する絶好の機会になりそうです。

 今回は少しだけ・・・否、全面的に新しい手法で行くことにしました。 従来のCohn minimum loss型(コーン最少損失型)の自作は言わばお子様向けコースです。さしたる道具も要らず、特にアタマも使わずに行けます。取りあえず実用的なモノは作れるのですが、不満があったのも事実でした。 そこで、もう少し進めてみることにしました。 もはや目新しくもないのですが、JAでは殆ど紹介されたことがない設計法です。諸外国では既にポピュラーになっており、すっかり世界の動向から取り残されてしまった感があります。 さっそく安価な素材を元にその新手法で始めてみることにしましよう。

 そもそも「フィルタの特性とは?」あるいは関連用語の解説等をいちいちやっていたらキリがありません。フィルタの常識は持っている前提で進めたいと思います。 平易に書くつもりはありませんので、わからないことは自分で勉強してみるくらいのおつもりがないならこの先には進むべからずです。(笑)

 【8MHz水晶発振子の特性】
 良い性能のクリスタル・フィルタを作るための基本は水晶振動子の特性にあります。 写真は上記の8MHz水晶発振子の特性です。HC-49/USのケースはGNDして測定しています。 直列共振周波数:fsと並列共振周波数:fpの間隔は10.35kHzです。3kHz幅くらいのSSB用フィルタは十分行けるでしょう。

 参考:フィルタ回路に使う水晶片のことを水晶振動子または水晶共振子と言います。発振回路に使う水晶片は水晶発振子と言います。水晶振動子はフィルタ用の配慮をしてありますが、もちろん発振にも使えます。一方、発振用はフィルタに使うための考慮はしていません。しかし本質的に両者は同じものと思ってもあながち間違いではありません。実際、ここでは発振用の水晶発振子でフィルタを作ろうとしています。 もちろんフィルタへの適否は自身で見分ける必要があります。

 この8MHzの水晶発振子は、主共振の近傍に有害そうな副共振はみられないのでフィルタ用として好都合な特性でした。 購入した100個を測定してみたところ、損失が異常に大きいと言う特性不良が3個見つかりました。3%の不良など日本製では信じられない不良率です。 しかし良品の特性はまったく問題なくてfsのバラツキも±σの幅で見て300Hz以内に十分おさまっていました。 ごく簡単な「従来型」のラダー型フィルタには選別なしでも行けるくらいです。

 選別が済んだら、あとで紹介する参考書などを参照して「水晶定数」を計算で求めておきます。細かく選別・分類してあれば全数の詳細測定は不要でサンプリングで十分そうでした。 水晶定数の参考ドキュメント(←リンク:英文pdfファイル:550kB)

 【ラダー型クリスタル・フィルタの設計】
 6素子で試作してみることにします。設計段階ではButterworth特性(バターワース特性)、Chebyshev特性(チェビシェフ特性)3種類で計算し、シミュレーションをしてみました。図はChebyshev(0.1dB)特性の回路定数例です。

 素子数を増やせばButterworth特性も良さそうでしたが、6素子ではSSB用としてやや物足りないようです。 Chebyshev特性で行くことしました。 わずか0.1dBの通過帯域リプルを許容するだけで、Butterworth設計では得られない急峻な減衰特性が得られるからです。 もう2素子増やした8素子にすれば一段と良くなるのは間違いありませんが、設計再現性の判定が目的の試作でもあるため様子見の意味もあってここでは6素子で行くことにしました。 なお、CW用フィルタではまた別の視点が必要でですがここでは将来のテーマとしておきます。

 図中の水晶定数は、ここで使った8MHzの水晶発振子の実測から求めた数値です。世間一般の8MHz水晶発振子がどれでもこれと同じになるわけではありません。 実際、メーカーが違えば、同じ周波数でもかなり異なるのが普通です。たとえ形状は同じでもずいぶん違いが見られます。 入手したものを必ず実測した上でその数値を設計・製作に用いないと所望の特性から大きく外れるでしょう。 手抜きをせずに必ず実測評価するようにします。 この水晶の場合、Cmが小さ目で、Lmが大きい特性でした。但しRsも大きいのでQuはあまり大きくならず標準的な範囲(Qu=約12.6万)です。

 今回はLSB型で作りましたがUSB型で作ることも可能です。但し、水晶屋さんは直列共振周波数:fsの方で管理しているらしく、並列共振周波数:fpの方はバラツキが大きいのです。従って並列共振周波数:fpを利用するUSB型フィルタは水晶振動子の選別が厄介になります。特別な意味でもあるなら別ですが、他人と違うものをやりたいと言う程度の切っ掛けでしたらUSB型での製作はお奨めしません。多くの製作例がLSB型を選択しているのには相応の理由があるのです。

 これは余談ですが、写真のような小さなHC-49/US型ではなく背の高いHC-49/Uの方が有利です。 実際、測定していてHC-49/USではドライブ・レベルがちょっと大きめになるだけで飽和する傾向が見られます。水晶片の物理的なサイズが小さいので大きな信号は扱えないのです。フィルタになっても同じことなので注意しましょう。(要するに小さい水晶を使ったフィルタはIMDが発生しやすいのです)

 【6素子ラダー型クリスタル・フィルタの試作】
 SSBジェネレータに搭載する際にはもっとコンパクトに組み立てます。 ここでは設計値と実際がどの程度一致するのか確かめるのが目的です。 部品の交換をしながら評価がしやすいように製作しました。ちょっと雑な作りですがご勘弁を。w

 少々部品のリード線も長めですが、8MHzなのであまり影響はないでしょう。ストレー容量はそれほど増えません。 評価が済んだら解体してそのままの部品を使ってコンパクトに組み直すつもりです。 コンデンサにはNP0特性(CHもしくはCG特性)の温度補償系セラミック・コンデンサを使いました。

 当然ですが、再組み立てに当たってクリスタルの順番は変えてはなりません。特性が変わってしまいます。 なお、初期の実測において設計のままでは特性に不満があったので多少チューニングしました。 試行錯誤的になりますが、部分的にmesh周波数をチューンすれば改善できることが確認できたのです。 幾分行き当たりばったり的ではありますが、チューニングで加減できるのはメリットでしょう。 詳細は後に紹介する参考資料を参照されて下さい。そのあたりも詳しく書かれています。ディープなクリスタル・フィルタの世界が待っています。

【6素子ラダー型クリスタル・フィルタの評価・1】
 まずは、全般的な特性を見ています。 横軸は全体で10kHzです。 かなり拡大して見ているので、富士山型の特性に見えると思いますがSSB用のフィルタとして悪くない性能です。 Bw60/Bw6によるシェープ・ファクタは2.43くらいです。 単純なCohn型よりも通過帯域が平坦で肩の部分が急峻なのがわかるでしょう。この辺りが今回の改善ポイントです。 上側周波数の傾斜が急なのは直列共振周波数:fpの影響があるからでラダー型である以上やむを得ません。対称性の改善策もあるのですが複雑化するのが欠点です。一番簡単な解消方法は素子数を増やすことです。

 -3dB帯域幅は2.7kHzで設計していますが、実測では2.575kHzとなりました。水晶振動子の無負荷Qが有限なために帯域幅減少しているようです。 fcをBw3で除した、いわゆるフィルタQfは約3,000です。 水晶振動子の無負荷Qは約12万ですから約40倍あります。 0.1dB Chebyshev型(6素子)では理想を言えばフィルタQの90倍くらい欲しいと言うことなので少々の特性の崩れはやむを得ないでしょう。

 損失のある「有限のQ値の素子」を使って所定の特性を得る方法もあります。一段と踏み込んだ設計法になるのですが、十分な理解なしにやれば収拾がつかなくなるに違いありません。既に所定の性能が得られたので、取りあえず深入りしないことにしました。 要するに今は実用性能のフィルタが作れれば良いことにするのです。(笑)

【6素子ラダー型クリスタル・フィルタの評価・2】
 通過帯域の特性を拡大して見ています。 通過帯域に多少の凸凹があるのは、それを許容する設計だからです。 トレードオフの関係で減衰特性の急峻さ(ロールオフ)を追求したのですからやむを得ません。水晶振動子の無負荷Q:Quが理想の値よりもだいぶ小さいのも関係しています。

 しかし、この程度の通過帯域内リプルはかなり優秀な方でしょう。 先のSSBジェネレータで使ったCB無線機用のクリスタル・フィルタは通過帯域内で数dBの変化がありました。 HAM用の無線機に使ってあるものでもこれに及ばないものを見掛けます。 なかなか良い特性にできたと思っています。 従来型のラダー型フィルタでは得難かった特性ですから新手法は効果的だったようです。

【6素子ラダー型クリスタル・フィルタの評価・3】
 帯域外減衰特性を示しました。主にスプリアスの評価が目的です。100kHz幅で見ていますが、1MHz幅に拡大しても同様でした。 写真では80dB弱の帯域外減衰しか得られていないように見えますが、測定器(スペアナ)のノイズフロアによる制限です。 測定は抵抗器でマッチングする方法なので多少測定のダイナミックレンジが減少するのは仕方ありません。

 別の方法によれば90dB程度得られていますから、実際にハイゲインなIFアンプで使ってもフィルタ帯域外の信号が通り抜けるような心配はありません。 むしろ良好な帯域外減衰が実現できるようフィルタの実装に注意を払うべきです。 この特性もCB無線機用の7.8MHzクリスタル・フィルタよりもずっと良好です。

 このように市販品のクリスタル・フィルタと同等以上のものが自分で作れるので、既製品のクリスタル・フィルタが淘汰されてしまうのも宜なるかなと言ったところです。 手間は掛かりましたがコンデンサも含めた材料費は500円も掛かっていません。 選別した100個の水晶発振子で、6素子のFBな特性のクリスタル・フィルタが10個くらい作れそうです。余った水晶発振子もキャリヤ発振器に振り向けることができますから無駄にはなりません。(材費や手間賃はともかく、測定器の費用は償却できないだろうと言う陰の声あり。ごもっともです・笑)

【設計試作の参考資料】
 具体的な設計方法はネグってしまいましたが、興味が湧いて来たなら参考書を参照されてください。Blog一回分の分量ではとても説明しきれないボリュームです。原著を読んでもらった方が良いです。平易な内容の記事もあれば、専門的な感じの記事もあります。わかり易いものから読み始めたら良いでしょう。 フィルタ設計の本質を平易に知ることができる書籍はこれくらいしか無いのです。プロ用の専門書は荷が重すぎるでしょう。以下は比較的入手し易い書籍のはずです。

注目すべき記事は:(順番は重要度とは無関係)

(1)Refinements in Crystal Ladder Filter Design:Wes Hayward W7ZOI (QRP Power, ISBN:0-87259-561-7, $12- ,pp5-8 to 5-13)

(2)Designing and Building High-Performance Crystal Ladder Filters:Jacob Makhinson N6NWP(QRP Power, pp5-14 to 5-28)

(3)A Unified Approach to the Design of Crystal Ladder Filters:Wes Hayward W7ZOI  (W1FB' Design notebook , ISBN:0-87259-320-7, $10- , pp179 to 185)

(4)Designing and Building Simple Crystal Filters:Wes Hayward W7ZOI (W1FB's Design notebook, pp186 to 191)

(5)A Tester for Crystal F, Q and R : Doug DeMaw W1FB (W1FB's Design notebook, pp192 to 194)

 いずれも絶版になっている可能性もありますが、米国の古書店では流通していますのでネット経由による入手も容易でしょう。痛み具合など程度次第ですが数ドルから手に入るようです。他にも興味深い記事が多いので持っていて損はないと思います。「More QRP Power」と言う続編の方がヒットし易いですが間違って購入しないようにして下さい。Moreの方は改訂版ではないのでまったく別の内容になっています。それなりに面白いですがフィルタ関係の記事は載っていません。なお書籍の貸し出しや記事のCopyなどのご要望にはお応えできませんので悪しからず。

 まずは水晶定数LmとCmの求め方から研究することをお奨めします。 幾つか方法があってそれぞれ一短一長があります。 測定器として発振器+周波数カウンタにオシロスコープあるいはRF用電圧計があれば十分可能です。 W1FBのデザイン・ノートにはそのあたりのアマチュアライクで具体的な話しが詳しく書かれています。 私はスペアナと10MHz周波数基準器などを使いましたが、それらが本質的に必要なものとは言えません。 細かく周波数が読める発振器と信号の最大値がわかる測定器があれば水晶定数を求めるには十分だからです。 数pFと言った小容量を精度良く測定する必要があって、LCRメータ:DE-5000(←リンク)が活躍するチャンスでもあります。

 水晶定数が求まったら、あとはフィルタ理論の初歩を学びつつ数表と関数電卓、あるいは最近では専用計算アプリも登場しているのでそれに当てはめれば設計はできます。闇雲にやっても訳がわからなくなりそうですからまずはフィルタの初歩くらいは知っておくべきでしょう。  水晶振動子のバラツキを吸収しチューニングする方法なども参考書には詳しく書いてあります。 同じラダー型フィルタでも今までのCohn minimum loss型のように作りっぱなしでは予定の性能まで到達しないでしょう。チューニングが不可欠なようです。 本当はこうした内容を日本語で読めたら良いのですが、あまりにも硬派の記事は読者を引きつけません。手作り卒業済みのお爺ちゃん読者がメインの趣味誌には荷が重そうです。JAでは紹介される機会は訪れないのかもしれません。まあ英語なら何とかなるからそれで良いのでしょう。(笑)

                    ☆

 CQ Hamradio誌の連載でラダー型フィルタを扱ったのは2006年でした。もすぐ10年になる訳です。 その間にJAのラダー型フィルタ作りが進歩したと言う話しはあまり聞きません。 あの連載の後、機会があれば「おとなバージョン(笑)」のラダー型クリスタル・フィルタをやりたいと思いつつ、年数だけが過ぎてしまいました。 フィルタ理論に根ざしているだけに、その扱いナシでは済まないので「作りました→動きました」式の記事では駄目でしょう。
 そうこうしているうちに米国やEuはどんどん進歩してしまい、いまどきCohn minimum loss型でラダー型フィルタを作ろうなんて言うのは時代遅れになりました。 超古い「SSBハンドブック」(=JAの)やHJ誌にあったようなラダー型を有り難がっているようではナンセンスになっています。 あの時、続きをやっておけば良かったとつくづく反省の日々です。(爆)de JA9TTT/1

(つづく)←リンク                   

2015年6月17日水曜日

【回路】Diode Balanced Modulator

【回路:ダイオードを使ったバランスド・モジュレータ】
 【ダイオードを使ったバラモジ】
 写真はゲルマニウム・ダイオード:1N34Aを4つ使ったリングモジュレータです。バランスド・モジュレータの一種です。真空管の時代から愛用されて来たバラモジ回路です。 十分研究し尽くされていて性能は安定しており、IC-DBM全盛の時代にあっても有用な回路です。 これを避けて通る訳には行きません。もちろん過去に実験済みですがBlogで改めて採り上げることにしました。

 ここで使うダイオードはゲルマニウムのポイント・コンタクト型(←リンク)に限りません。ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)あるいは高速スイッチング用Siダイオードでも良いです。 ゲルマニウムが有利なのは注入キャリヤのレベルが小さめで良いことくらいです。但し内部抵抗の小さい他のダイオードの方が信号損失は少なくなります。

 HAM用の無線機では、八重洲無線は1S1007(JRC製)をTRIO/Kenwoodは1N60(東芝)を好んで使っていました。 1S1007はゲルマニウム・ダイオードですが、ゴールド・ボンド型と言うものです。 ポイント・コンタクト型の1N60を使うよりも幾分損失は少ないようですが大差はないのでどちらも同じようなものだと思って良いでしょう。(もちろん混ぜて使うのはNGですが)
 ここでは1N34A(日立)を使っています。無理に同じものを探す必要はなくて1N60や1K60でも良いです。海外製では1N270が代表的Ge-Diです。 あるいは1SS86や1SS97のようなRF用ショットキー・ダイオードでもまったく同じように使えます。(注:電源整流用のショットキー・ダイオードは接合容量が過大で高周波には不適当です)

 以下、オーソドックスな回路も扱う意味でテストしています。 一般的過ぎる回路には興味をそそられないかもしれません。 確かにその通りで、特別なことは何も書いていありませんので妙なご期待をされているようなお方は早々にお帰りがお勧めです。 わかりきったことに貴重な時間を浪費する意味はないでしょう。さあさ、自作する気のない人は帰った帰った。(笑)

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【SSBジェネレータの形に纏める】
 ダイオード・バラモジを扱っただけでは面白くもないので、SSBジェネレータの形でテストしています。 キャリヤ発振器との繋ぎ方や、マイク・アンプから信号の加え方のような「回路の扱い」の部分も明確にしておく方が後々の活用の為に意味があるでしょう。

 前回のFETを使ったSSBジェネレータ(←リンク)を改造して使っています。 同じく7.8MHzのクリスタル・フィルタを使うので、キャリヤ発振回路は基本的に同じものです。 但しダイオード・バラモジの特性に合わせて小変更しました。 キャリヤ・レベルは小さめで良いのですが、インピーダンスが低いのでそれに合うよう部分的に変更しています。

 マイク・アンプも逆相出力は不要で単純なアンプで済むため簡略化しました。 その結果、FETを使った前例よりも部品数は少なく済んでいます。空白面積が増えたのが写真からもわかるでしょう。

【7.8MHz SSBジェネレータ:全回路】
 バラモジ(Balanced Modulator)の部分と、マイク・アンプを大幅に変更しています。 キャリヤ発振回路は概ね同じですが出力部分を小変更しました。見た目では違いがわからないかも知れません。

 キャリヤ発振回路はUSB発生用に7797.5kHz、LSB発生用に7802.5kHzを発生します。 USB/LSBの周波数切換えはトランジスタ・スイッチで行なっています。回路の詳細は前回の記事(←リンク)を参照して下さい。 ここで変更したのは2SK544Eを使ったバッファ・アンプ部分です。インピーダンスの低いダイオード・バラモジに対応するため、出力部の7.8MHzトランス:T1を作り替えました。Q4:2SK544Eのドレインもトランスの中点タップに接続します。バラモジへは約2Vrmsを与えています。 なお、2SK544を2カ所で使っていますが、これらは2SK241あるいは2SK439でも良いです。代替は2SK544E=2SK241Y=2SK439E、2SK544F=2SK241GR=2SK439FでOK。最近はニセモノの2SK439が出回っているようですが、本物は足の並び方が他とは逆順なので十分な注意を。 偽物の中身は案外2SK544なのではありませんかね? なお、上記の回路では2SK192Aでの代替はできません。 そのほか2SC372Yは2SC1815Yで代替できます。

 バラモジはオーソドックスな、所謂「コリンズ型」と称するものです。 他の形式を試したこともありますが、この回路が性能的に最も安定していて確実だと思います。 キャリヤのバランス・ポイントが明確にわかり、バランス調整も容易です。 振幅と位相の両方を調整できるので良好なキャリヤ・サプレッションが得られます。 なるべくシンメトリーに部品を並べて作るのは常識ですが、少々アンバランスなレイアウトでもそれなりにバランスしてくれます。調整範囲が広いのです。 ダイオードに1N34Aを使ったのは手持ちの関係なので、1N60でも1K60でも何でも良いです。今どきゲルマニウム・ダイオードの時代でもないですから、RF用のショットキー・ダイオードでも良いでしょう。 ゲルマDiの場合、テスタで順方向抵抗と逆方向抵抗を実測して揃えてやると気休め以上の効果があります。 但しそれほどシビアではないのでダイオードの選別は程々でも十分です。測ることで不良品のリジェクトに意味があるくらいでしょう。 部品レイアウトや調整の方がむしろ影響度は大きいです。

 マイク・アンプはOPアンプを使っています。現在ではオーディオ・プリアンプ用のIC(例えばTA7063P)よりも入手は容易です。性能も十分ですからOPアンプの採用がお奨めです。 ここではNECの通信工業用:μPC151Cを使っています。 但しμPC151Cの中身は一般的な「741型」と等価なのでそれで代替すれば良いです。 今さら741タイプなんて古典的だと思うならもっと近代的なOPアンプを使って下さい。ごく一般的なOPアンプならたいてい使えると思って良いです。 なお、今回の回路ではハイ・インピーダンス型ダイナミック・マイクロフォンに適するように回路設計してあります。ロー・インピーダンス型のマイクロフォンを使いたいなら前回Blogを参照して下さい。 #まあ、ミスマッチにはなりますがそのままでも十分使えるのであんまり神経質にならなくても良いのかも知れません。

 ポストアンプとフィルタ部分は前回Blogとまったく同じです。

 見直してみて、マイク・アンプ部分もバラモジ部分も昔懐かし「熊本シティ・スタンダード」SSBジェネレータのようになってしまいました。意識した訳でもないのですが、まあオーソドックスとはそう言うものなんでしょう。熊本C-STDは地方で入手容易なパーツを主体に実現していたものでした。RF用パーツが乏しくなってきた現状はそれと似た状況に追い込まれて来たのです。結局作り易さを追求すると行き着く先は同じようになってしまいます。もちろん秋月の10Kボビンなど望めませんからトロイダル・コアにコイル巻きで現代風にアレンジしています。(笑)

 IFアンプに検波回路と低周波アンプを追加して要所をダイオード・スイッチで切り替えてやれば熊本C-STD同様の送受信ユニットにもなり得ますので、あとは各自で自由研究されてください。w

 全電流は約23mA(@Vcc=12V)となり、FETをバラモジに使ったものよりも幾分少なくなりました。これはパッシブなデバイスのバラモジなのとOPアンプが1回路で済んでいるからです。 SSBジェネレータ出力は約400mVppが得られています。これは歪みに対して多少マージンを見た値です。後続のミキサーには適当な大きさでしょう。

注:U1(μPC151C)のピン接続にミスがあったので図面修正しました。(2017.06.30)

 【バラモジとマイク・アンプ部分】
 ブレッドボードにダイオード・リング形式のバラモジは載せにくかったです。 未だ最適レイアウトではないと思っています。(笑) 実用品の製作時にはプリント基板上にハンダ付けで作ることになります。従って此処での多少のまずさは支障ないので妥協してしまいました。 それでもキャリヤ・バランスは奇麗にとれているのでまずまずでしょう。

 バラモジ部分に使ったバイファイラ巻きのトランス:T2はコモンモード・チョークとして製作された既製部品です。 フェライトコアにバイファイラ巻きになっており巻き線のバランスが良く周波数特性も十分だったので試用しています。 自作するなら例によってコアにはフェライトビーズ:FB-801-#43を使い、φ=0.2mmのポリウレタン電線を2本良くよじったものを6回巻きます。まったく同じように使えます。なお、T2を省いてT3のみでバラモジ回路を作ることも可能です。 キャリヤの注入レベルなど多少検討を要するかもしれませんが概ね同じような性能が得られる筈です。

 マイク・アンプにとって、バラモジの入力インピーダンスは低すぎるので過負荷にならぬよう直列抵抗(回路図:R7=1kΩ)で対応しています。 バラモジが必要とするオーディオ信号のレベルは数100mVppで十分ですから直列抵抗=1kΩによる対策で支障ありません。 この直列抵抗はOPアンプが直接容量性負荷にならないようにする意味もあります。OP-Ampを"発振器"にしない為にも必要です。 なお、マイク・アンプの入力部分でRFの回り込み対策を行なっています。 

 キャリヤ・バランスは可変抵抗器:VR2とトリマ・コンデンサ:C24を交互に調整してキャリヤ漏れが最少になるように追い込みます。 VR2は単独のVRでは調整がクリチカル過ぎるので、100ΩのVRを使い両端に470Ωを入れると言った回路形式にした方が良いようです。 部品に問題がなくレイアウトが悪くなければ、VRのほぼ中央で奇麗にバランスがとれます。

 【7.8MHzトランスの巻き方】
 このSSBジェネレータでは7.8MHzのトランスを2つ使っています。 FCZコイル:10S9(9MHz用)などを使っても良いのですが、Qの高いコイルが作れるのと、2次側リンクコイルの巻き数を自在にできることからトロイダルコアに巻いています。既成のコイルよりも安価に高性能で最適なコイルが得られます。

 写真はキャリヤ発振回路の出力部分にあるT1の製作例です。 最初に15回+15回の同調側(1次側)を巻きます。 写真ように15回巻きの部分から中点タップを引き出しておきます。 2次側はT1の製作例では4回巻きです。 ポストアンプの入力部にあるT3も1次側は同じように15+15回巻きますが、2次側は8回巻きにします。 トロイダルコア:T-25は外径6.35mmの小さなサイズなので最初は巻きにくいかもしれません。しかしちょっと慣れれば簡単に巻けます。 巻き線は余り太いと巻きにくいのでφ0.2mm程度(AWG32相当)が適当でしょう。作業性を考えてポリウレタン電線(記号:UEW)を使うのは常識ですね。 外付けのコンデンサ:68pFとmax50pFのトリマコンデンサで7.8MHzに同調させます。 だいたい7.5〜10MHzあたりまで可変できます。参考リンク→トロイダルコアでFCZコイルを代替

 【ブレッドボード対応】
 ブレッドボードで試作するために小さな基板に載せておきます。 写真の4×4=16穴の小基板は秋月電子通商で売っているものを使いました。 細ピン・ピンヘッダをカットしたものを足ピンにしています。

 トロイダル・コアに巻いたコイルは磁束漏れが少ないので隣接したコイルと結合しにくいためシールドケースは不要です。 コイル同士を密着でもさせない限りまず問題にはなりません。

 ブレッドボードでの製作ではFCZコイルのような10Kボビンは扱いにくいです。この例のように小基板に実装しておけばトロイダル・コアに巻いたコイルも便利です。 大きなコアに巻くと巨大化するので、小さなT-25くらいのサイズが良いと思います。 送信機のようなパワーを取り出すアンプ回路を除けばこのような小型コアで十分です。

 【バラモジの出力波形】
 2kHzのシングルトーンで変調しています。 2kHz変調波はバラモジの手前、RFチョーク:L2の部分で470mVppです。 写真のバラモジ出力はDSB信号であり、4kHz離れた2トーン信号の状態です。 このようにエンベロープが2kHzの正弦波と相似の波形が観測されます。

 バラモジ入口部分のインピーダンスは約400Ωでありかなり低めです。(測定は置換法による) VR2(1kΩ)の値やキャリヤ信号の注入レベルによって変化しますが、数100Ωと言った低めのインピーダンスであることに注意を要します。 出力インピーダンスの高いマイク・アンプ回路ではバラモジを歪みなくドライブできていない場合があるのです。 ここではOPアンプの負荷ドライブ能力の関係から直列抵抗:R7(1kΩ)を入れて対処しています。 以前の実験でバラモジを強力にドライブできるようLM386で作ったマイクアンプを使ってみたことがありました。 元々の回路がだいぶ悪かったのか、交換によって延びのある変調が掛かるようになった覚えがあります。  この回路例のような方法でも特に支障はありません。オーディオ帯全般で概ねフラットなインピーダンス特性だからです。

 非同調なトランスを使った形式なので、バラモジの出力にはスイッチングによって発生する高調波等が見られます。写真のような波形として観測されました。 高調波など不要波はポストアンプのLC同調回路:T3であらかた除去されるほか、クリスタル・フィルタで濾波されるので外には出てきません。 もちろん、リニヤリティの良くない増幅回路に多信号を加えたら旨くないので,ポストアンプはできるだけリニアな動作範囲で使うことが肝心でしょう。

【シングルトーン】
 上記のDSBをポスト・アンプで増幅し、クリスタル・フィルタを通ったあとの信号です。 反対側のサイドバンド・・・この例ではLSB側が除去されたシングルトーンとして観測されます。

 ここでキャリヤ漏れや逆サイドの漏れが大きいと、このような奇麗な帯状の波形として観測されません。 帯の幅が凸凹した波形になるのでバラモジ〜フィルタまでの善し悪しはオシロで見ただけでも良くわかります。 マイク端子に加えている低周波発振器の周波数を変えても、写真のように奇麗な帯状の波形が観測されれば良好なSSB波が得られています。

【スペクトラム観測】
 上記のシングルトーンをスペクトラム分析してみました。 低周波信号:2kHzの高調波が見られますが、キャリヤ漏れや逆サイドの漏れはたいへん小さくなっています。

 キャリヤ・サプレッションは68dBなので、そのまま送信機にしても十分な数字です。 ブレッドボードの試作ではあっても、振幅と位相を入念に調整してバランスできたため、良い値が得られています。 実際に基板等に製作してもこの程度は容易に得られます。 逆サイドの漏れ(=-71dB)は主にフィルタの帯域外減衰特性によるものです。 フィルタ単体で測定した値がそのまま現れています。

 この程度の漏れであれば、ハイパワー局のスーパーローカルでもなければ、まずわかりません。 -70dBと言う数字は、極端かもしれませんが、もしも10kWでオンエアしたとして逆サイドのパワーはたったの1mWです。 同様にキャリヤの漏れの-68dBの方も1.6mWに過ぎないので少し離れた局なら何も感じられないでしょう。 流石にフィルタ・タイプのSSBジェネレータです。安直に作ってもなかなか良い性能が得られます。

 そうなると、スペクトラムに見える2kHzの2次高調波(=4kHz)が気になって仕方が無いかもしれませんね。 これも歪み率で言えばわずかに0.22%です。 ダイオード・バラモジと言う非線形なスイッチング回路でSSB(DSB)を得ている関係で高調波の発生はある程度やむを得ません。 IC-DBMでも大同小異ですから気にするまでもないでしょう。 マイクアンプが悪くてもっと高調波が出ているRigもあるくらいです。自局の帯域内に落ちる信号であって、IMDによるスプラッタではないから程々に拘れば十分です。 実際に受信機を通して耳で聞いた感じも良く澄んだ奇麗なトーンでした。

                  ☆

 オーソドックスな回路は面白くないかもしれません。 しかし、オーソドックスと呼ばれるだけの理由があります。作り易くて良い性能が得られるからこそ「定番」の地位にあるのです。 ダイオードを使ったリング変調器はSSBの黎明期からありました。それ以来様々な機器に使われて来ただけの訳があります。

 ICを使ったDBMの方がモダンで良さそうに感じるかもしれませんが、ギルバートセル型DBMは電源電圧を上下の差動回路で分け合う構造から、ダイナミックレンジの点では不利なのです。 少しでも過大な入力を加えると酷い歪みを見ることになります。 ダイオード・バラモジも過大入力で飽和することに違いはありませんが、IC-DBMのように電源電圧で制限される訳ではないので歪み方はずっと緩やかです。 そのような利点があるので今でも使われているのでしょう。

 この回路例に見るように各入出力端子を明確に終端しなくても大丈夫です。50Ωと言ったインピーダンスに固定化されている訳ではありません。思ったよりも使い易い回路です。 バラモジ回路そのものはかなり前に実験済みでしたが、改めて製作して確実性の高さを再確認しています。 回路の見直しで重要なポイントの存在もわかって意義深かったです。 珍しいだけの妙な回路を試す以前に「スタンダード」から始めてみたらどうでしょうか? きっと良い結果が期待できます。

 バイポーラ・トランジスタ(BJT)、FET、そしてダイオードを使ったバラモジと続けて3種類を扱いました。 では、どれが一番のお奨めなのかと問われれば、総合的に見てダイオード・バラモジが良いのではないでしょうか? それではつまらないお方はBJTなりFETなりで試されたら良いでしょう。 いずれにしてもIC-DBMに劣るものではありません。 要するに品薄のIC-DBMを頼ることなく十分な性能を持ったSSB送信機は作れるのです。 de JA9TTT/1

注意:同じように作ってみたが、「旨く動かない」等のご相談には対応できないのでそのおつもりで。 同じように作ったと言いつつ、ご自身の判断で色々代替し、その挙げ句ぜんぜん同じじゃない・・・など、良くあって凡人の私ではとても面倒を見切れません。 ましてメールでの対応は困難です。 もしご近所なら拝見させて頂いてご一緒に悩みたいと思います。お気軽にご持参下さい。

(おわり)

2015年6月3日水曜日

【回路】Transistor Balanced Modulator, Part 2

【回路:トランジスタを使ったバランスド・モジュレータ・FET編】
【SSBジェネレータに仕上げる】
  このBlogでは電子回路の部分要素を扱うことが多いです。大規模な回路も要素の集まりですが、ポイントとなる回路は案外限られています。そのポイントを十分理解しておくことが全体の理解にも繋がると思っています。 しかし、回路の一部分ばかり弄っていたのでは目的物の完成にはほど遠いと感じるでしょう。

 今回もIC-DBMではなくて再びトランジスタを使ったバランスド・モジュレータを扱いますが、部分回路に留まらず「SSBジェネレータ」の形にするまでを扱うことにしました。SSBジェネレータとして実用性能を目標にしたのでそのままSSB送信機に使えます。

 写真は最終的な回路構成をブレッドボードで検証中の様子です。 入手が容易なトランジスタを使ったバラモジの一環として検討していますから、入手しにくい半導体は使っていません。 IC-DBMを使うよりも継続して製作可能だろうと思っています。 以下、部分的な回路を扱うだけでは済まないので少々長くなりましたが興味があれば順を追って頂ければと思います。 もちろん、何時ものように主な目的は自家用の備忘録であり、同じ情報が役立つ可能性があるのは何がしか自分の手で作ろうとする人だけでしょう。

                     ☆

【クリスタル・フィルタとキャリヤ発生用水晶】
 フィルタ・タイプのSSBジェネレータを作るには「SSBフィルタ」が必要です。 同時に、フィルタ特性に合わせたキャリヤ発生用の水晶発振子も必要になります。

 最初は自作のラダー型フィルタで行く予定でしたが時間がなかったので既製品を使うことにしました。 一般的なSSBジェネレータは8〜12MHzあたりで作るのが適当です。 昔のようにダブル・コンバージョン(2回周波数変換)で目的周波数を得るのなら、もっと低い周波数も良いです。 しかし簡略化のためにシングル・コンバージョンで目的周波数を得るには8〜12MHzくらいが適当です。 それ以上高いと良い特性のフィルタが得にくくなってきます。
 9MHzのフィルタもあったのですがキャリヤ発振用の水晶発振子が見つからなかったので7.8MHzのフィルタを使うことにしました。 1970年代の中頃、車載用CBトランシーバの輸出ブームがあって、そのために使われたクリスタル・フィルタです。ブームの終息後にたくさん放出されたので今でも持っている人は多いと思います。

 SSB用フィルタは手に入ってもキャリヤ発振用のクリスタル(水晶発振子)が揃わないことも多いものです。そのときはDDSオシレータ(←リンク)を使って発生させる手もあります。(注・1) ここでは7.8MHzのフィルタに適した水晶発振子が見つかったのでそれを使うことにしました。 但し、CBトランシーバのキャリヤ発振は特有の工夫がしてあるので予め検討が必要です。

 写真の水晶発振子を使う前提で真っ先にキャリヤ発振回路から検討することにしました。 旨く行くようならこれらの水晶発振子を使います。 写真左の2個の水晶発振子(HC-25/U)は本来のキャリヤ発振用で、右の2個(HC-18/U)は不良になったフィルタ(7.8MHzの)を解体して得たものです。 最終的な話しになりますが、どちらも旨く使えることを確認しました。なおHC-25/Uはブレッドボードに刺せないので専用ソケットを併用します。

注・1:キャリヤ発振に使う水晶発振子がないなら率先してDDSモジュールを使うべきではないかとのご意見はごもっともです。他に解決手段がなければ勿論それが選択肢です。しかし、DDSモジュールの問題は消費電力が大きいことにあります。わずか数mAでは働きません。

【クリスタル・フィルタの特性】
 CB用クリスタル・フィルタは帯域幅が広いことが知られています。あらためて評価してみました。 -3dB帯域幅で見て4kHz以上あるのがわかります。 従って、正しく使うためにはマイクアンプにローパスフィルタ:LPFを入れて3kHz以上の音声をカットする必要があります。実際にCBトランシーバでも簡単なLPFが入っていました。 まあ男声なら素のままでも大丈夫そうなのですが・・・。

 実測したのは正しいキャリヤ・ポイントを知るためと特性の変化が見られないか確認するためです。 なにしろ作られてから10年どころではない年月が経過していますから、新品のように見えても劣化していて何ら不思議ではありません。 メーカーが保証する水晶振動子の寿命はせいぜい10年だそうです。 水晶振動子の固まりであるクリスタル・フィルタの寿命も同じようなものでしょう。(実際はもっと持つようですが徐々に故障率は高くなる)ちなみに、このフィルタはハーフラティス3段の構成で、水晶振動子を6個使っています。

 写真の2個のフィルタを評価してみましたが、幸い大丈夫そうでした。あまり性能の良いフィルタとは言えませんがSSB発生用として十分な特性です。 精密に評価してみてUSB用のキャリヤ・ポイントは7797.5kHz、LSB用は7802.5kHzで良いことがわかりました。 音声は少々ローカット気味になりますが、フィルタの特性なのでやむを得ないでしょう。

 SSBフィルタも自作で行くことを考えて8MHzの中華クリスタルを使ったラダー型フィルタも検討しています。いずれ機会があれば扱うつもりです。 設計に折り込み済みなので8〜9MHzのSSBフィルタならSSBジェネレータの回路はそのまま使えます。(新しい設計によるラダー型フィルタの製作へリンク→ここ)

【キャリヤ発振回路の検討】
 CBトランシーバでは、常にコストダウンが課題でした。他の部品より高価な水晶発振子を1枚でも少なくするために様々な工夫が行なわれていました。 例えばLSBを作っておいてから、キャリヤを逓倍した信号と差のヘテロダインをとってサイドを反転し、USBを得るといった怪しい方法さえも見られたほどです。(おわかりですか?) チャネル用水晶発振をPLLシンセサイザ式にしたのも水晶減らしが目的でした。

 図の回路は自作ハムならすぐにわかると思いますが、LSB用の水晶発振子を使ってVXO式にUSB用キャリヤも作る方法です。 1個の水晶発振子を2個分働かせる訳ですね。 実際にこれと類似の方法がCBトランシーバで使われていました。 VXOコイルに相当するL1(22μH)が回路のポイントです。しかし、わずか数kHz下に動かせば良いだけなので難しくはありません。もちろん、L1のインダクタンスの値は用いる水晶発振子に適した値があるので、実際に使う物で加減してみます。 但し既成品のマイクロ・インダクタを幾つか交換しながら良い値を見つける程度で済むようでした。

 なお、このようにするとLSBとUSBでは発振レベルに違いが出ます。 あまり極端に変わらなければ大丈夫だと思って良いです。 発振レベルを揃えるためにALCを掛ける手もあって実験してみましたが、複雑化する割に効果が少ないので採用しませんでした。 単純明快な回路の方が優れていると思います。 発振強度はVXOコイルの品質によっても影響を受けるので、変化が大きいようなら別の物に交換してみます。

【キャリヤ発振回路の製作例】
 写真は、あとで出てくるSSBジェネレータの回路で試作している様子です。 主な違いはUSB/LSBの切換えスイッチの部分にあって、機械的なスイッチではなくトランジスタ・スイッチを使っています。

 機械的なスイッチでは配線を長く延ばせないのでリレーを使う必要があります。トランジスタ・スイッチに置き換えれば直流的に切り替えられるので配線を長く延ばしても大丈夫です。

 VXO式は周波数安定度が気になるかもしれませんが、実用上まったく支障のない性能が得られます。 VXOコイルのインダクタンスを無闇に大きくせず必要最低限に留めるのがポイントです。 わずか数kHzの変化で良いのですからVFOの代わりに使うようなVXOとは違います。大きなインダクタンスは必要ありません。 その結果VXO形式であっても周波数安定度は良好です。

 ここでは、不良になったクリスタル・フィルタを分解して得た周波数:7801kHzくらいの水晶振動子を使ってみました。 他にキャリヤ発振用に作られた7801.5kHz水晶発振子に交換してもほぼ同等でした。 参考までに50pFのトリマコ・ンデンサを使った場合、周波数の可変範囲はUSB側が7790.35〜7802.98kHz、LSB側は7801.27〜7803.40kHzが得られました。USB側はまだ調整範囲が広すぎるように感じます。 実際にはUSB用に7797.5kHz、LSB用には7802.5kHzになるよう調整します。

参考:8000kHzの水晶を使った場合、USB側:7994.81〜8000.14kHz、LSB側:7999.12〜8000.12kHzの可変が可能でした。 同じ水晶発振子でラダー型フィルタを作った場合、通過帯域は下側に4kHzくらいずれるので、概ね使い得る可変範囲にあると考えられます。

【キャリヤ発振の発振波形】
 Q1:2SC372Yのエミッタ波形です。 このように歪んだ波形ですが、確実な発振をさせるためには正帰還量を大きめにしなくてはならないので、この程度でやむを得ないでしょう。

 実際には、このあとで同調回路を含むバッファ・アンプを置いたので心配はいりません。 手持ちの関係で発振用トランジスタには2SC372Yを使いました。 代替品として2SC1815Y、2SC945等のほか、専用の高周波用であれば2SC1923Yや2SC2668Yなどが良いと思います。 周波数も8MHzあたりなので小信号用トランジスタに使えるものはたくさんあります。 どうしても発振しないのはたいてい水晶発振子に原因があります。 FT-243型のような古典的な水晶発振子はアクティビティが下がっていて、幾ら頑張っても発振してくれないことがあります。お爺ちゃんの遺品活用も程々に。hi hi

【バラモジに与えるキャリヤ発振】
 バラモジに与えるキャリヤ信号は、写真のように奇麗なものになります。 これはバッファ・アンプに同調回路を含む形式を採用したからです。 2SK544E(2SK241Y同等品)を使っていますが、入力インピーダンスが高く、帰還容量も小さいのでドレイン側同調回路の調整で周波数が引っ張られるようなこともありません。 2SK241等は小信号RFアンプ用と思われていますが、こうした発振回路のバッファ・アンプにも最適なデバイスです。

 具体的な回路は次項を参照して頂くとして、このようなキャリヤでバラモジの2SK544F(2SK241GR相当)×2をドライブします。 振幅はすこし大きめですが、試作なのでこれでやってみることにしました。 5Vppくらで十分だと思いますが、これで概ね支障はないようです。

【7.8MHz SSBジェネレータ:全回路】
 このBlogのタイトルはトランジスタを使ったバラモジのPart 2なのですが、今回はFETを使うことにして7.8MHzのSSBジェネレータの形に纏め上げることにしています。 なお、バイポーラ・トランジスタ:BJTを使ったPart 1はこちら(←リンク)

 以下、簡単に回路の説明をしておきましょう。

 キャリヤ発振回路は既に実験済みのVXO式を採用し、1個の水晶発振子でUSBとLSB用を発振しています。 周波数調整は幾らか相互に影響します。USB/LSBを切り替えながら数回調整を繰り返して所定の周波数に合わせます。 一旦合わせた後の周波数安定度は良好なので暫く再調整は不要な筈です。 Q2:2SK544Eのドレイン側同調:T2の部分はT2のリンク側をオシロで見ながら最大に調整すれば良いです。バルボル+検波プローブでピークに合わせても良いでしょう。T2はアミドンのトロイダルコア:T25-#2にφ0.2mm UEW線を1次側30回、2次側(リンク)は15回巻きます。

 マイクアンプは2回路入りのOPアンプを使いました。RC4558は汎用品(はんようひん)であって、たいへんポピュラーなものです。JRC製のNJM4558でも良いです。同等品は他にもあって一つ100円くらいで買える有難いパーツです。 性能は申し分ないので対抗するつもりで下手なディスクリート回路など持ち出しても勝ち目はありません。hi  但しLM358系OPアンプで代替するのは宜しくありません。(まあ、実験的なら可ですが・笑) マイクロフォンとしてはローインピーダンス型が適しています。 ダイナミック・マイクロフォンのほかECMも使えます。 通常その必要は考えにくいのですが、どうしてもマイクゲインが不足するようならR2(50kΩのVR)を100kΩに変更します。

 バラモジはFETを2つ使ったシングル・バランド・モジュレータ(SBM)です。 この部分が本来のBlogメインテーマです。 FETは2SK241GR(東芝)や2SK544F(三洋・ONセミ)あるいは2SK439F(日立・ルネッサス)のいずれでも良いです。(もちろん、それらの表面実装型でも良いですが具体的型番は省略します) 2SK19や2SK192のようなJ-FETも使えますが、キャリヤ信号をそれらに合わせて最適な大きさに調整する必要があってすこし面倒です。 従って上述のようなMOS型の高周波用FETが使い易いです。
 ほかにDual-Gate MOS-FET(例えば3SK73など)のゲートG1とG2を結んだものでも代用できます。 なお、2N7000等のN-ch MOS-FETの採用も考えられますが、これらは小信号用でもRF用ではないため電極間容量が極めて大きので違った観点から検討しなおす必要があります。エンハンスメント型なのでプラス電圧のゲートバイアスを掛ける必要があるので注意を要します。

 バラモジを出たあと、2SK544F(2SK241GR同等)を使ったポストアンプを通ってからクリスタル・フィルタで不要な側のサイドバンドが除去されます。 電源電圧は12Vで、全体の消費電流は約30mAです。なかなか省電力にできました。 後続のヘテロダイン・ミキサの入力にちょうど良い、約400mVppのSSB波が得られます。

【バラモジとマイクアンプ部分】
 バラモジには2SK544Fを2つ使っています。 事前にチェックして、Idssがほぼ同じものを選んでおきました。 非常にうまくキャリヤ・バランスが取れるので、調整用VR(VR1)の可変範囲はもっと狭くても良いくらいです。

 バラモジの出力側トランスには既製品のRFトランスを使ってみました。 ミニ・サーキット社のADT4-1WTと言うものです。 流石に巻き線のバランス状態は良好です。 自分で巻くのは手間がかかると思うなら、購入するだけの価値はあると思います。 なお、手持ちにあった物を使ったので、表面実装型を足付きに変換して試作に使っています。 最初から足付きDIP形状のRFトランスを使えば手間いらずです。

 マイクアンプは2回路入りのOPアンプ:4558型を使っています。 オーディオ・アンプにも使える性能があるので、HAM用のSSBジェネレータには十分すぎる性能です。 トランジスタで作ると3〜5石は必要なので、ここはICを使った方が有利です。 部品に拘るお方は"Muse"なり、音響用OPアンプが差し替え可能なので使われたら宜しいでしょう。(笑)

【バラモジ出力トランスの構造研究】
 ミニ・サーキット社のADT4-1WTは写真(下側)のような構造になっています。 各巻き線の結合度を上げ、なおかつ平衡度を確保するためにメガネ型のフェライトコアに巻き線しています。

 写真で見ると大きそうに見えますが、米粒のようなサイズのフェライトコアです。そのため各巻き線のインダクタンスが小さいのであまり低い周波数には適さず、下限周波数は2MHzとなっています。逆に高い方の周波数特性は十分延びていて仕様書の上限周波数は775MHzです。

 なお、ブレッドボードで試作する関係で、写真のような16穴の小型ユニバーサル基板に実装し、ピンヘッダを立てて使用しました。使うのがHF帯なので支障はないです。 ICのように小さな部品なので、ディスクリート部品で作ったバラモジとは言えかなりコンパクトに作れます。

【自作トランスでも良い】
 前回のBlogのように自作のTrifiler(トリファイラ)巻きトランスでもまったく同じように動作します。 性能に違いは無かったので巻くのが面倒でなければ自作を推奨したいと思います。巻線方法は前回のBlog(←リンク)を参照。

 ミニ・サーキット社の小型RFトランス:ADT4-1WTは単品買いでは$15-程度、20個まとめ買いでも単価$3-くらです。 しかし自分でフェライト・ビーズに巻けば100円も掛からずに作れます。 性能もこの例のように数MHzで使うのであればまったく同等でした。 面倒で無ければ自作するのが経済的です。実際に比較試験でも違いは見られなかったので心配はいりません。

【マイクアンプの出力波形】
 Push-PullになったFETのゲートに音声信号を加えて変調しています。 音声信号の一方は位相反転し、両方のFETのゲートを各々逆位相の音声信号で変調します。

 一方のFETのみに音声信号を加える「片肺」でも十分に変調は掛かるのですが、歪み特性上あまり好ましくないことがわかりました。

 このあたりは簡略を求めるのか、少しでも良い特性を追求するのかによって、どちらの回路を採用するか分かれる部分です。 歪みが増えるとは言っても了解に支障があるほどではないので「片肺」の簡略型でも良いのかもしれません。

 最初は片肺でやっていたのですが、波形を見ているとどうも気になったので、途中から両方のゲートをドライブする形式に変更しています。 耳で聞いた範囲では片肺でも行けそうではあったのですが・・・。(笑)

【バラモジの出力波形】
 1kHzのシングルトーンで変調しているので、バラモジの出力では2トーン信号のような波形になっています。 要するにまだDSBの状態です。

 バラモジの出力に非同調の広帯域トランスを使っているので含有する高調波などが干渉した波形が見られます。 実際にはこのあと同調回路で7.8MHz付近の信号だけを取り出すので特に支障はありません。

 ただ、他のデバイスを使ったバラモジよりもスプリアスは大きめな感じもします。 実用上の支障はないようですが、多少キャリヤのレベルなどを加減してみても良いのかもしれません。 波形の谷の部分がシャープなのでキャリヤ漏れは十分抑えられていることがわかります。

 変調信号を徐々に大きくして行くと、バラモジの部分で歪んで来ますが、その前にポスト・アンプの方が歪んでしまいます。従って、バラモジの方は常にリニヤな範囲で動作させられます。

【ポストアンプとクリスタル・フィルタ】
 バラモジの後にはポストアンプを置くと有利です。 フィルタとインピーダンス・マッチングが容易になるからです。 ポストアンプの入力部分にあるトランス:T3はアミドンのトロイダルコア:T25-#2にφ0.2mm UEW線を同調側30回(中点の15回でタップを出す)、バラモジに接続するリンク側は8回巻きます。


 ここでALCを掛けられるようにしておきました。 但し、あまり強くゲインを抑さえてしまうと、アンプのダイナミックレンジが狭くなってしまいます。 マイクゲインなど加減しつつ、オーバードライブにならない程度にピークを抑えると言った目的でALCを掛ける方が良いです。

 写真のクリスタルフィルタはEF-Johnsonブランドですが、これはCBトランシーバの納品先が同社だったのでそのシールが貼ってあるのでしょう。 クリスタル・フィルタのメーカーはNDKとかHzと言ったおなじみの日本の会社です。

【シングルトーン】
 フィルタを出たシングルトーンです。 単純なシングルトーンでさえ、奇麗に出てこないSSBジェネレータもあるくらいなので、この程度の信号が出てくればまずまずと言ったところでしょう。

 AF発振器の周波数を変えながら周波数特性を見たら、あまりフラットではない感じを受けました。 リニヤ目盛りで見ているからでdBで見たらそんなに悪くもない訳です。 フィルタの通過帯域特性がそのまま出てくるのだから仕方が無いでしょう。 耳で聞いてみるととても自然な感じの音なのでまったく支障ないどころか、良い音のジェネレータだと言っても良さそうでした。

【スペクトラム観測】
 ブレッドボードの限界を測定しているような感じです。 やはり完全なGNDが取りにくくて、信号が干渉し易いのです。 従って、キャリヤ・サプレッションは不十分でした。

 このあたりは、きちんとハンダ付けで基板に組み立ててやれば簡単に解決するから心配はいりません。少なく見ても20dBくらい改善されるでしょう。

 低周波アンプのゲインを少な目にしたので、フィルタ帯域内のノイズは少なくてS/Nの良いSSBジェネレータに仕上がっています。 音声帯域内に発生する2次高調波も十分小さいです。このあと目的周波数にヘテロダインし、アンプして行くことになりますが「静かな」SSBジェネレータになったと思います。

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 このBlogには集計機能があって、どの記事がどんなキーワードにより参照されたのかがわかります。(誰がアクセスしかはわかりません) 無線の自作なんて言う奇特なHAMも珍しいようですが、意外に「SSBジェネレータ」をキーワードに検索されるお方もあるようです。 Blog内には20kHzのLCフィルタを使ったSSBジェネレータがありますが、あまりにも特殊な例でしょう。回路図も公開していません。 そのため、以前からHF帯の送信機なりトランシーバに使えるようなSSBジェネレータを扱う必要がありそうだと思ってきました。 それがやっと実現したような訳です。

 入手性が悪くなって来たIC-DBMは使わない方針でFETを使ってみることにしました。バラモジにFETを使う例はJA1APT金平OM(故人)のかなり古い記事(3SK22Y×2使用)くらいで、他にあまり例を見ないないようです。どのような性能なのか自身で確認したいと思っていました。 SSB送信機の要(かなめ)にあたる部分なのでイージーに製作できるとは言いにくい箇所もありますが、多少電子回路の製作経験があれば難なく作れるでしょう。特に難しいと言った部分はありません。写真を見ながら感触を掴んでもらえば十分行けるはずです。

 入手が難しくなって来たのは既製品のクリスタル・フィルタくらいでしょう。これは自作のラダー型フィルタ(←リンク)で解決できます。 使うICはOPアンプと3端子レギュレータくらいと割り切って設計しておけばこの先10年くらいは製作可能な回路になります。もちろん、実際に使う部品は表面実装型になって行くかもしれませんが・・・。
 FETには2SK544のEとFを使っていますが、2SK241や2SK439でも良くて、Idssランクもどれをどこに使っても良いです。但し、バラモジの部分は同じランクのものを使います。もし手持ちに数があって可能ならばIdssが近いものを二つ選んで使うと良いです。Idssの測定法は以前のブログ(←リンク)で扱っています。上記FETには、それぞれ表面実装型の同等品が登場しています。

  ごく初めの頃ARRLのアマハンなども参考にしてみましたが、どう考えても旨くない所が幾つも出て来て満足な性能は得られないようでした。ARRLのアマハン記事ともあろうことが・・と言う感じでした。 そのお陰で各回路部分を数種類試すなど思っていた以上に手間と時間が掛かってしまいました。 記事の能書きとは違い、実際やってみないとわからない部分などあって、ここで公開した10倍どころではないデータを採っています。 バラモジの部分に限ればIC-DBMを使う方が幾らか安直なのですが、それとは違った面白さもありました。 可能な範囲の検討は行なっておいたので製作の再現性はまずまずだと思っています。de JA9TTT/1

注意:同じように作ってみたが「旨く動かない」等のご相談には対応できませんので予めそのおつもりで。 同じに作ったと言いつつ、実はぜんぜん同じじゃなかった・・・など良くあって、凡人の私ではとても面倒を見切れません。ましてメールでは無理な話しです。 もしご近所なら拝見させて頂いてご一緒に悩みたいと思います。お気軽にご持参下さい。

(つづく)←ダイオードDBMを使うSSBジェネレータへリンク.

2015年5月18日月曜日

【回路】Transistor Balanced Modulator, Part-1

【回路:トランジスタを使ったバランスド・モジュレータ】

 【トランジスタでバラモジを】
 SSB送受信機でおなじみのバラモジ(Balanced Modulator:平衡変調器)と言えば、ICを使った物が人気です。 古くはMC1496Gがあり、その後はSN76514NやSN16913P、国産ではTA7310PやTA7320Pがありました。そしてSA612まで様々なものが登場しました。 しかし、その殆どが生産中止品になってしまいました。

 では、IC-DBMを使う以外に方法はないのでしょうか? もちろん、Quad-Diodeを使ったリング・モジュレータも良く知られていますが、どうも人気がないように思うのです。解説記事を読むと入出力端子の終端インピーダンスが決められていて、キャリヤ信号にパワーが必要といった「使いにくそう」な印象を受けるのが敬遠の理由かもしれません。(実際はそうでもないのですが・・・)

 IC-DBMが品薄ならダイオードDBM(←別のBlogにリンク)をお薦めしたいところですが、トランジスタやFETを使ったアクティブ・タイプのバラモジがあるのを忘れてはいけないでしょう。 ここでは、ちょっと珍しくなったトランジスタ式のバラモジを再評価してみました。 トランジスタ式は入出力インピーダンスに自由度があり、ゲインもあることからキャリヤ入力も変調信号も小さくて済みます。これはIC-DBMの使い易さに通じるものです。ですからもっと着目しても良いと思うのですが・・・。

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 このBlog、オンエア用の話題作りが目的ではありません。口ばっかしで自作は一切しない人なんてお呼びじゃないのです。そう言う目的のお方は早々にお帰り願いたいものですね。逆に電子回路を作って遊んでみたい人はこの先も是非お付き合いください。(笑) 

【トランジスタ式バラモジのテスト回路】
 簡単に作れて性能が良く、しかも特殊部品を使わない回路を考えてみました。  バラモジで最も重要なのはキャリヤ・バランスにあります。まずはデュアル・トランジスタを使うことで平衡度を確保する作戦です。

 ここでは往年の銘トランジスタ:2SC1583(三菱)を使ってみました。hFEランクはFです。 この差動回路になった上段のトランジスタに変調信号・・・即ち音声信号を加えます。 下段のキャリヤ入力側トランジスタにはこれまた往年の銘トランジスタ:2SC372Y(東芝)を使っています。但し、沢山あったから使ったまでで2SC1815Y(東芝)でもOKです。もちろん2SC945(NEC)や2N3904(Fairchildほか)なんかでも大丈夫です。

 IC-DBMと違ってバイアス回路が要るので外付け抵抗器が多くなります。それでもMC1496Gを使うと思えば同じか、やや少ないくらいでしょう。意外に簡単な回路で済むことがわかります。

 この回路はシングル・バランスド・モジュレータ(SBM)です。 DBM(ダブル・バランスド・モジュレータ)と何が違うのかと言えば、キャリヤ(搬送波)はバランスして出力に現れませんが、音声信号(変調信号)の方はバランスしないところです。Q1aとQ1bのコレクタ側に増幅されて出てきます。 しかし、それで支障はありません。アウトプット・トランス:T1は高周波用なので低周波は通しません。従って低周波の音声信号は出力端子には現れないのです。 この例のように9MHzのキャリヤ信号と低周波の音声信号のように周波数が離れていればDBMではなくても支障なくSSB送信機に使える訳です。目的如何ですが、DBMではなくてSBMで十分なことも多いでしょう。

 【DSB出力】
 テストは9MHzで行なっています。 ブレッドボード製作では少々辛くなってくる周波数です。 それでもこの程度のDSBは十分得られています。 40dB弱と言ったところでしょうか。キャリヤ・サプレッションもまずまずと言った感じなのはおわかりでしょう。 GNDの配線が合理的にできる専用プリント基板や、ユニバーサル基板で製作すればキャリヤ・サプレッションは一段と良くなります。ベタGNDの基板上に作るのも良いです。

 トランジスタのベース変調を基本とするので、幾らか変調のリニヤリティが悪い感じもしますが、実際のところIC-DBMとさした違いは無いようです。 キャリヤ入力も変調信号も100mVpp少々与えてやれば良いのでとても使いやすいです。 例えば、マイクにECMでも使えば1石マイクアンプで十分変調が掛かります。 キャリヤの方も同じで簡単な水晶発振回路で十分でしょう。バッファ・アンプを付ける必要もないと思います。 トランジスタを使ったSBMをきちんと作ったことはありませんでしたが、これは意外にイケル感じです。

 【失敗は成功のもと】
・・・とは良く言ったものです。これは失敗作の方です。何が違うのかと言えば、アウトプット・トランスが同調形式になっています。 その部分のみ上記回路図とは違います。

 同調トランスを使うと(1)高調波の抑制などスプリアス特性が良くなる、(2)インピーダンスが高めになるので大きめの出力が取り出せる、などのメリットがあります。 ですから昔の回路例を見ると同調トランス形式になっているものが多いのです。 しかし、この形式で試作して思ったような成果が得られなかった人は多いのではないでしょうか。 要するにキャリヤ・バランスがどうもうまく取れないのです。 キャリヤ漏れが多くてはバラモジ失格ですから「使えない回路」と思ってしまうでしょう。

 【アウトプット・トランスが肝】
 トランジスタの左右。即ちQ1aとQ1bのバランスが確保できるようにデュアル・トランジスタを使うくらいですから、アウトプット・トランスのバランスもたいへん重要です。

 実は、この部分が最も難しいのです。 写真は東光の13Kと言うボビンに巻いたものです。 13Kは10Kと良く似た構造ですが、外側の壷型コアがないのと巻き溝が大きくできているのが特徴です。1次側と2次側の巻き線が緩く結合するトランスも作ることができます。 複同調型IFT向きと言った感じのコイル形式です。 ずいぶん前に秋月電子通商(信越電機時代かも)で売られていたTV用のIFTジャンクと思われるものを改造して製作しました。

 一つは2本をよじった線でバイファイラ巻きで作りました。 もう一方は13Kコイルの構造を旨く使い、中点タップが維持されるよう巻き溝を交互に使う形式です。 これが良好な性能だったなら製作方法を詳しく説明するところなのですが・・・。

 平衡度についてよほど周到に考え、なおかつそれが実現できるような巻き方を実現しないと思ったような結果が得られないのです。 もちろん、そうしたトランスが作れない訳ではありません。しかしけして易しくないのです。イイカゲンは通用しないので万人向きのコイル作りとは言えないのです。 失敗作ではありましたが、この部分が性能を決めることが良くわかったのは収穫でした。良く考察すれば「失敗は成功のもと」になります。(笑)

【フェライトビーズにトリファイラ巻きが良い】
 同調形式のアウトプット・トランスに未練も残るところですが、ここはあっさり写真の形式で行くことにします。 フェライトコア(フェライト・ビーズ)にトリファイラ巻きで製作します。既に多くの実績がある方法です。

 この形式で作ったトランスの平衡度はかなり良好です。製作のポイントは(1)透磁率:μの大きなコア材を使うこと、(2)巻き数はそこそこ多めにする、(3)巻き線は3本を良くよじったものを使う、(4)引出し線の長さも揃える・・・と言ったところです。

 なお、透磁率:μの小さなTシリーズのトロイダルコアで、同調形式で行く方法もあり得ますが、上の13Kを使った例と同じ問題に遭遇する可能性もあって得策とは言えないと思います。ここは平衡度のみを追求する方が製作は容易です。(1)〜(4)を実現する方が良い選択と言えます。 上の写真のDSB信号はこのトランスを使った例です。 このフェライトビーズは容易に手に入るので13Kコイルに巻くよりも普遍性があります。見ての通り巻き方も難しくなく、コストが安いのも有難いです。 ここではわかり易いように3色を使いましたが、単色の巻き線でも間違えないように結線すれは大丈夫です。

 昔の設計でこうしたコアを使ったトランスの使用例が少ないのは、巻くためのコア材の入手が一般化していなかったからです。 μ(ミュー)の大きなトロイダルコアが手軽に入手できていたなら非同調形式のアウトプット・トランスも積極的に採用されていた筈です。その方が作り易いのですから。 今ではフェライトビーズ:FB-801-#43が通販で全国どこからでも手に入るようになっています。FTシリーズのトロイダルコアに巻いても良いのですが、フェライトビーズで代用すればお値段も数10円とお手軽です。

 【デュアル・トランジスタでなくても】
 そうは言っても、デュアル・トランジスタなんか持っていないよと言われそうですね。 もちろんトランジスタの平衡度も大切だからデュアル・トランジスタを使うに越したことはありません。 三菱電機の2SC1583は安くて良い石だったのですが既に生産中止品です。 オーディオ・アンプでの需要もあったのですっかり枯渇していています。

 しかし諦める必要はありません。同じ型番のトランジスタで、hFEランクが同じものを2つ使えば十分キャリヤ・バランスがとれます。デュアル・トランジスタでなくても大丈夫です。 この回路ではどちらかと言えば、アウトプット・トランスの平衡度の方が支配的なのです。 この写真のように同じ銘柄の石を2個使えば十分良い性能のバラモジが作れることがわかりました。 もちろん写真のようなレトロな石ではなく高周波用の2SC1923や汎用品の2SC1815ほか、シリコンの小信号用なら大抵のものが使えると思って良いです。(実はゲルトラでも作れます)

 万全を期したいなら、hFEを実測して選別し、良くマッチしたものを2つ見つけたら良いでしょう。 まあそこまでしなくても写真のようにYなりGRなり、hFEランクを合わせてやれば実用上支障は無いです。
 昨今はリード線付きのトランジスタは廃番ばかりになっています。リード付きデュアル・トランジスタの入手は難しいかもしれません。しかし表面実装用トランジスタには良さそうなデュアル・トランジスタがあります。 直接専用基板に搭載するのが理想ですが、455kHzはもちろん9MHzあたりのHF帯でも変換基板で十分行けます。選別の手間を省き、デュアル・トランジスタでやりたいなら試してみると良いでしょう。調べたらROHM社のトランジスタに安くて良いものがあるようでした。

参考:デュアル・トランジスタ(2つの特性が良くマッチした2個入りトランジスタ)を使うのは温度の変化など環境の変化で個々の特性に違いが現れないようにするのが目的です。従ってバラモジには有利です。しかし実際に個別のトランジスタで組んでも十分使えるのも事実です。それが現実的な手法と言えます。もちろん精神衛生重視や、理屈重視ならデュアル型を使うべき。

【オマケ】
 東芝のハカマ付きトランジスタを見ると「萌える」お方が多いそうなので、オマケ写真を付けておきます。(笑)

 この形式のトランジスタは「Eパック」と言う組み立て方法で作られています。(製造工程の呼び方は各社で異なる) シルクハット型キャップを治具に裏返して並べ、キャップの穴にリード線の先にトランジスタチップが付いたものとエポキシ樹脂を挿入して固めるのです。今のTO-92型パッケージとはまったく違った組み立て方法で作られていました。シリコンのチップに機械的なストレスを与えにくい良い組み立て方法に思えますが、量産性では劣っていたために廃止されたのです。

 自作も長いので、こんな旧型トランジスタがまだたくさん在庫されているので積極的に使うことにしています。そうしないととても消費しきれません。カタチは旧式でも性能は十分なので困ることはありません。もちろん、旧式をわざわざ探すまでもなく現行品トランジスタで代替して支障はないです。安くて性能が良いトランジスタがたくさん登場しています。

                   ☆

 バイポーラ・トランジスタを使ったバラモジ(SBM)はなかなか良さそうです。 ありふれたトランジスタ3つで作れるのが良いです。 かなめになるアウトプット・トランスも安価なフェライトビーズの活用で誰でも容易に製作可能です。 IC-DBMのような使い易さが実現できるのでもっと採用したい回路です。 昔々、同調トランス形で製作して旨く行かなかった人にもリベンジのチャンスでしょう。 いずれSSBジェネレータの形に纏めようと思っています。

 生産中止になった部品を必死に求める人がおられるようです。機器の交換修理用ならやむを得ませんが、新規製作ならもう少し柔軟に考えては如何でしょうか? ダイオードDBMも使い方しだいで扱い易くもなります。 あるいはここで紹介したような、トランジスタを使ったSBMでも十分な性能が得られることがわかります。ポイントをわかって製作すれば失敗することもないでしょう。 姿を消したような部品を探し求めるよりも、回路の機能を理解して同じように使えるもので工夫したら良いです。同じ機能実現の為の手段は無数にあると思うべきです。de JA9TTT/1

(つづく)←FETを使うSBMで作ったSSBジェネレータへリンク

2015年5月4日月曜日

【回路】FLT-U2 Sine wave Oscillator

【FLT-U2と言うICを使った低ひずみ正弦波発振器】
【FLT-U2】
またまた「部品が手に入らない!」シリーズ。(笑)

 FLT-U2と言うのはフィルタを作るためのICです。スイッチド・キャパシタ・フィルタはまだ登場せず、OP-Ampを並べて組むにもアクティブ・フィルタはちょっと面倒だった時代に作られました。セラミック基板に作られたハイブリッドICで白いセラミックの蓋が被せてあります。特定のユーザー向けではなくて一般市販部品でした。日経エレ誌やトラ技誌等でメーカーのPRを見掛けましたがこのICはそれほど使われなかったように思います。

 フィルタ製作を容易にすることが目的のICです。 しかし今どき次数の低いフィルタなど設計も製作も簡単です。 ですからこのICは完全な遊休部品になっていました。 何かフィルタが欲しいときに無理して使ったとしてもさしてメリットはなさそうです。 たくさん持っている訳でもないので積極的に消費を考える理由もありません。そのまま遊休品でも良かったのですが・・・。

                    ☆

 ずいぶん長いこと部品箱に眠っていたものが整理中に発掘されたのでこの機会に試してみることにしよう・・・と言うことで、普通はご縁のない部品でしょう。 今回も自家用情報を纏めた話しになりそうです。 ただ、少し回路がわかるお方ならざっと回路図をご覧頂くと代替手段はいくらでもあることにすぐ気付くはずです。 このFLT-U2を探すこともなく、まったく同じことは十分できる訳なのです。そのあたりの情報もおまけしておきました。:-)

                    ☆

【FLT-U2の内部は】
 State variable Filter(状態変数型)と呼ばれるアクティブ・フィルタが手軽に構成できるよう便利に出来たハイブリッド構造のICです。 4つのOP-Ampのほかに、精度の良い1000pFのコンデンサが2つ、トリミングされている抵抗器が5つ内蔵されています。小さめのコンデンサ容量:1000pFで幅広い遮断周波数をカバーできるよう工夫された部品定数になっているのがこのICの特徴です。もちろん1000PFでは足りないなら外付けで補えます。 OP-Ampのうち1つは予備用であり、ノッチフィルタなどの応用に使えるようになっています。 各OP-Ampの電源は予備のOP-Ampを含めて内部で共通のピンに接続されています。 従って予備のOP-Ampを使わないとしても電源を供給しないと駄目です。

 既に過去のデバイスでありe-Bayでも丹念にウオッチすれば別ですが普通は手に入らないでしょう。 詳しく書いても仕方がありませんが簡単な四則演算だけで低域濾波器(LPF)、高域濾波器(HPF)、帯域濾波器(BPF)の設計ができます。 遮断周波数やフィルタのQも簡単に求められます。 あとは計算値に基づいて外付けで抵抗器を数本選べば所望のフィルタの完成です。 ただしあまり高級なフィルタはこれ一つでは無理です。 従って用途も限定的と言えます。

【可能なフィルタの特性】
 言葉ではわかりにくいので、グラフで示しておきます。

 このような3種のフィルタが得られるのですが-20dB/ディケードもしくは-40dB/ディケードの傾斜なのでだいぶなだらかです。 要するに-6dB/octあるいは-12dB/octのなだらかなフィルタなのです。 Qを大きく取ってやれば良さそうなものですが、そうなると通過帯域の端にピークが出来てあまり面白くありません。 従って今となってはHigh-Qなピークフィルタや、ごく狭いノッチフィルタに特化させた使い方くらいしか思い浮かばないのです。

 この形式の類似フィルタは前にノートン・アンプ(←リンク)を扱った時にも登場しています。設計が簡単なのは良いのですが、使うOP-Ampの数にしてはシンプルなフィルタしか作れないのが弱点と言ったところでしょうか。 

【低ひずみ発振器に使ってみる】
 メーカーのアプリケーション・ノートの記述はあくまでもフィルタとしての使い方のみです。このICの目的からして当然でしょう。発振器への応用など一切触れられてはいません。 しかし多くのフィルタ回路は少し回路を変更すれば発振器にすぐ変身できます。これはこのICに限ったことではありません。

 左図はそのような考えから正弦波の発振回路に使ってみた例です。 FLT-U2はフィルタ用ですから発振器に最適とは言えないところがあります。外付け部品定数の選び方に工夫が必要です。 さらに、できるだけ低ひずみな正弦波発振器を作りたいのでOP-Ampをもう一つ付け足すことにしました。 わずかに歪が増えても良いのならFLT-U2の単独で発振回路を構成することもできます。

 内部の等価回路も含めて書いておきました。 IC内部の部品も含め全部を外付けパーツとし、同じ回路構成にすれば一般的なOP-Ampで作れるわけです。FLT-U2がなくてもCRが数個増えるだけに過ぎません。 バイアス電流:Ibが小さいOP-Ampを使えばFLT-U2内部にあるr4とr5(それぞれ100kΩ)に相当する抵抗器は不要です。各In+端子は直接GNDに接続すれば良いです。
 このように回路例では珍しいICを使っていますが、代替手段があるので一般性があるわけです。 実際、自分が次に作る時にはFLT-U2はもう無いのですから普通のOP-Ampを並べることになります。 OP-Ampを良く選んでやれば性能は同じかむしろ向上する可能性さえあります。

 可変抵抗:VR101はひずみ率計やFFTアナライザがあれば入念に調整すべきですが、なければ中央の位置のままにしておけば良いです。それでも十分低ひずみなはずです。 オシロスコープで観測して、もし目で見て歪みがわかるようならR109(2kΩになっている)を1kΩに減じてみると良いでしょう。2SK246GRのバラツキで振幅制御が旨く掛からないことがあるのです。 振幅制限さえきちんと掛かっていれば既にひずみ率は十分小さくなっています。 発振振幅はR110(2.2MΩ)で変えることができます。抵抗値を大きくすると発振振幅が小さくなります。但し10Vpp以下にしない方が良いと思います。5MΩで10Vppくらいです。(この振幅調整の部分はこのような高抵抗を使わず済むよういずれ変更の予定・・・簡単にできるのですが)

【試作状況】
 外付け部品も少ないことから簡単に組み立てできます。

 使用したFLT-U2は非常に古い在庫品だったのでリード線の表面が錆びていました。 それで接触不安定が発生しました。 最初それに気付かず経年劣化したのではないかと思いました。

 帰還ループを切ってフィルタとして動作させ、ICの各ピンで信号の通り具合を見て追跡しました。 その結果、信号が到達しない所があったので接触不良だとわかったのです。 どうやら保管状況が良くなかったようでリード線表面の酸化が進んだのだと思います。 足を磨いてやった後は順調でした。 幾つか部品定数を追い込んで概ね上記の回路図のような定数に落ち着きました。

【FLT-U2の部分】
 これを作ったメーカー:DATEL社は高性能なモジュール型A/D・D/Aコンバータなどを製造していました。以前は日本支社もありましたが撤退したようです。 Date Codeは7832だから古さがわかりますね。(笑)

 比較的安価に高性能なモジュールを提供してくれる有難い会社でしたが時代の波に飲み込まれ数回身売りされて転々としました。 日本では村田製作所がその事業の一部を継承しているらしいです。 メーカーのサイトから過去の製品の情報は得られないようでした。 幸いネット上にデータ・シートがあったので助かりました。 こうした機能が特化した電子部品は資料がなくてはまったくのお手上げです。

【LF356H】
 追加したOP-Ampです。 別段これに限る理由はありませんので、他のもので代替は可能でしょう。 ただし、FLT-U2は±15V電源で使う前提です。同じ耐電圧のOP-Ampを選ぶ方が良いです。

 引出しから出て来たので使ってみたのですが、高速性は要求しないのでもっと消費電力の少ないOP-Ampに置き換えたいところです。 LF356Hはいま見ても優秀なOP-Ampだと思いますが±15Vで使うと発熱が多いのがちょっと気になります。まあ放熱器が必要な程でもないのですが・・・もちろん壊れはしません。

【2SK246GR】
 発振波形が歪まないように振幅を自動制御しなくてはなりません。 それに使う電圧制御可変抵抗素子としてはJ-FETの2SK246GRを使ってみました。 2SK30ATM-GRでも良いのですが幾らかでも新しい品種でと言うことで・・・。こうしたデバイスもいずれ面実装品を使うことになるのでしょう。IdssランクはYやBLでも良いですが、部品定数の変更を要する場合があります。

 ひずみ特性に影響があって、J-FETにも幾つか候補はありますが2SK30と2SK246ならまずまずの性能が得られるので悪くない選択だと思います。 手持ちがなければ2SK192AやJ310なんかでも取りあえず使えるので試してみたら良いです。多少悪化したとしてもオシロスコープで見てわかる程のひずみ率にはなりません。 MOS-FETの2SK241とか2N7000(要回路変更)などは使えなくもないのですが、こうしたデリケートな低周波回路にはやめておいた方が良いです。なるべくJ-FETを使うべきです。一時の間に合わせならともかく、良い性能を目指すなら適材適所で行くべきです。

【きれいな正弦波】
 オシロスコープで見ても「とても奇麗なサインウエーブ」としかわからないでしょう。純正正弦波の教科書的な波形と言ったところでしょうか。(笑) 発振振幅はある程度任意に加減できますが、アンプノイズとの関係から大きめの方が良いようでした。あまり絞ってしまうと残留ノイズとの関係でひずみ率が悪く出るようになるのです。

 ここでは22Vppで発振させていますが、±15Vと言う電源電圧から考えてこの程度が最大と思った方が良さそうです。

 周波数安定度は外付けの抵抗器:R102とR103、さらにはFLT-U2に内蔵の1000pF(2個)に依存します。 FLT-U2の内部コンデンサは良い物が使ってあると思います。 外付け抵抗器はせめて金属皮膜型の1%誤差で温度係数が小さいものを使いたいです。 なお発振周波数をもっと低い方・・例えば100Hz等に変更するなら内蔵の1000pFを補うだけでなく、振幅制御ループの時定数を決めているC101とC102の値も再検討せねばなりません。 発振の上限周波数は内蔵するOP-Ampのスルーレートで決まってきます。FLT-U2では可聴域が限度です。

【波形ひずみ測定】
 回路図に書いてある計算式よりも2〜3Hz低く発振しました。部品の誤差とストレー容量に原因があります。 R102と R103を微調整すればちょうど1kHzに合わせられます。どちらか一方の抵抗だけで加減しても大丈夫な範囲と思います。 もちろんR102とR103は同じ値になるよう調整した方がより良いでしょう。 サイン波とコサイン波を同時に取り出したいときはR102とR103をよくマッチさせた方が良いです。もちろん内部のコンデンサのマッチも必要なのですが・・・。

 ひずみ率は0.0012%くらいなので、測定している環境など考えるとそろそろ限界に近いところです。 特別に「低ひずみでローノイズ」とは言えないフィルタ専用のIC:FLT-U2を使った割にはかなり好結果が得られたと思います。回路がコンパクトに纏まっているのは有利なのでしょう。 データシートによれば中身のOP-Ampの種類はわかりませんがアナログ回路用に吟味したものを使っているようです。使っているのはノイズが10nV/√Hz以下、GB積は3MHzの高性能OP-Ampだそうです。今ならこの程度はごく平凡なものと言えますが1970年代にどんな種類のOP-Aampを内蔵したのでしょうか? (開発年代や種々のパラメータから私の推測ではRC4558またはその選別品ではないかと・・・)

 FLT-U2と類似の回路は個別OP-Ampと精度の良いCRを集めればそのまま製作可能です。 いまはローノイズで低ひずみをセールスポイントにする非常に性能の良いAudio用と称するOP-Ampが登場しています。LME49720NAやLM4562NAなどこのような用途にはうってつけです。ちょっと下がってNJM4580やLM833あたりでも十分かもしれません。1000pFのコンデンサはQが高く温度特性も良好なスチコンかディップド・マイカを使いましょう。もちろん実測して2つを良くマッチングさせます。

                    ☆

 何時か使おうと思って集めた部品も様々な事情から忘れられてしまうことがあります。 FLT-U2はフィルタ設計が簡単ではなかった時代には重宝でした。 今ではコンピュータ設計や回路シミュレータが一般化してフィルタ専用ICの価値は下がってしまいました。 もう使うこともないだろうと思っていた部品です。 たまたま低ひずみ発振器の回路が頭の隅にあったので活用を思いついたようなものです。 回路をわかっている人の目で見たら発振器にできて当たり前なのですが・・・。

 それでもこのくらいの低ひずみともなれば、実際にやってみないとわからないところは多いです。机上の検討だけで済むもんじゃありません。ひずみの多い発振器にフィルタで対処など机上アイデアなのはやってみたらわかりますから・・・。最初っから奇麗な発振をさせるのがベストです。 まあ、こんなBlogなんかいくら眺めていたところで貴方に本当のことなどわかるはずはありません。想像で語ってる他人の意見など何の役にも立ちません。まずは画面を離れて自身の手を動かすことです。

 状態変数型フィルタを使った発振回路は設計が簡単になるような部品定数が選ばれるのが普通です。 FLT-U2を使おうとすると厄介な部分があって少し工夫が必要でした。フィルタとして使い易く工夫された部分が発振回路には少々不都合なのでした。 幸いうまく解決できたので好結果が得られました。 これで概ね発振回路として確立できたと思っています。 FLT-U2も低ひずみ発振器用のICと考えれば新たなニーズも生まれてきます。もう何個かあったなら・・・などと思ってしまいました。 ここは一つしかないからスポット周波数の製作になるのは仕方ありませんね。de JA9TTT/1

☆関連があるBlog内のページにリンク:(低周波の低歪み発振器関係)
1・低ひずみ正弦波発振→ここ
2・ウイーン・ブリッジ発振回路→ここ
3・RC移相シフト型正弦波発振器→ここ
4・超低ひずみ正弦波発振器→ここ 

(おわり)

☆実験やBlog作成にあたり参照した情報:
(1)はじめてのトランジスタ回路設計、1999年5月1日初版、黒田徹、CQ出版社、ISBN4-7898-3280-5、¥2,500−、絶版だがCD-ROM版あり(¥1,903-)
(2)OPアンプ活用100の実践ノウハウ、1999年8月1日第2版、松井邦彦、CQ出版社、ISBN4-7898-3281-3、¥2,100-:絶版
(3)OPアンプによる実用回路設計、2007年2月1日第4版、馬場清太郎、CQ出版社、ISBN978-4-7898-3748-4、¥2,800-:販売中
(4)発振回路の完全マスター、昭和63年9月20日第1版、稲葉 保、日本放送出版協会、ISBN4-14-072035-2、¥1,900-:絶版
(5)FLT-U2 Micro-electoronic Universal Active Filter、DATEL社、仕様・取扱説明書

ほか、各社の半導体のデータブックなどを参照。 アナログ関係の良書が絶版ばかりなのは残念です。