2025年4月28日月曜日

【電子管】Planning a Battery Tube receiver

【電池管で受信機をプランする】(計画編)

Introduction
I started thinking about how I could make a receiver using a battery tube. There are two directions for that receiver. One is a single-super heterodyne format. It's just like what you'd find in a home radio receiver. The other is a double-super heterodyne format. The Collins type is especially wonderful in the double-super format. I decided to go for it. I've started looking for parts that I can use for the receiver. I'm really hoping I can find the right parts.(2025.04.28 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【これから造る受信機は:】
 中波BCバンドあるいは短波を含む2バンドのポータブル・ラジオならすでに検討した回路の延長で作れます。 当地は関東地方にあって比較的都会に近いのでラジオ局はみな強力です。スタンダードな4球式電池管スーパーで実用になるのです。「電池管を使ってみたい」という願望に対し、それも一つの回答と言えるでしょう。

 ここではもう一歩踏み込んで通信型受信機と言えそうなRadio Receiverを計画したいと思うのです。 一般的なラジオと何が違うかと言えば、感度、選択度、安定度でしょう。 これらは受信機の3要素と言われるものです。 もう一つ付け加えるとすればダイヤル機構の重要さがあります。

 ラジオ放送局は一般に大電力であり巨大なアンテナで送信しています。それに対して多くのHAM局はせいぜいPo=1kWであってアンテナも貧弱で大したものではありません。 HF帯のLow BandではフルサイズのDPアンテナに100Wが標準でしょうか? それでさえアパマンHAM全盛の昨今では贅沢なくらいかも知れません。

 要するに放送局と比べれば1/100〜1/1000くらいの設備と言えます。電界強度で考えると40dB〜60dBは違うはず。それだけ高感度でなければ満足な受信はできません。十分なゲインを望めば増幅段数は増えます。ラジオ並みの設計では不足です。
(参考:TA2003Pのようなラジオ用ICチップで受信機を作るとHAM用としては不十分な性能になってしまう理由でもあります。やはりラジオ放送用のチップなのです)

 選択度に関しては微妙なところです。 もちろん本格的な通信型受信機を目指すなら受信対象とする電波形式にあった帯域幅のI-Fフィルタを備えねばなりません。それでは簡易な受信機には高級過ぎるでしょう。フィルタのロスを補おうとすれば増幅段数は増えてしまいます。 耳フィルタで頑張る前提で簡略化する必要がありそうです。

 いかなる受信機も周波数安定度は良いに越したことはありません。 しかし電池管の受信機をFT-8の様なデジタルモードで使おうとは思いません。CWとSSBが普通に聞こえれば良いでしょう。 そう考えてLC発振の局発で何とかならないものでしょうか?

 こんな前提から受信機の構成を考え始めました。

                   ☆

 電池管とはどんな電子デバイスなのか?・・・答えはあらかた得られたと思っています。 ラジオを超えた通信型受信機の範囲へ発展させることも十分可能だと思います。可能性がわかったらもう十分なのかも知れません。 あえて低性能な電子デバイスを無理を承知で使って性能の良くない機械を作ったところでだれも感心しません。 物好きと思われるだけです。(笑)
 その通りだとわかっていますが乗りかかった船とも言いますのでもう少しこの方向で検討しておきます。 おヒマでしたらお付き合いを。もちろんさしたるお役には立たんでしょう。 暇人専用、忙しい貴方は時間を無駄にされませんように。

【シングルかダブルか?】
 現実味のない「夢の受信機」を語ることも可能ですが、ここでは実際に手元にある部品を活用する前提で「超現実的な方向」で考えてみたいと思います。

 ラジオを超えた受信機とは言っても、スーパ・ヘテロダイン形式で作る以上基本は同じです。
 一つはそのままシングルスーパを拡張する方向です。 感度や選択度が不足する部分は増幅段数を増す方向で考えます。 低周波を増やせば音量は増えますが感度は良くなりません。感度向上にはRFアンプとI-Fアンプを補います。

 左図の(A)はそうした構成の一例です。 一般的な球を使った高1中2と違うのところは局発回路でしょう。球数をケチるために自励式コンバータで済ませます。 これはプロダクト検波回路部分も同じです。 セラロックを使った自励式BFOのプロダクト検波器として最少の球数で実現します。 周波数安定度に多少の心配はありますが、受信周波数範囲を狭く絞ってやれば実用的な安定度も難しくはないはずです。

 左図の(B)はより発展させた形式です。 いわゆるコリンズタイプのダブルスーパになっています。 ただしここでも最少の球数にこだわっており、第1・第2のいずれの周波数変換も自励コンバータです。 もちろんプロダクト検波も同様です。I-F1段ではゲイン不足かも知れません。想定ではおおよそ5球スーパ以上、高1中2以下になるはずなので少々不満を感じそうです。

 もしも暫くのあいだシャックで実戦的に使いたいのでしたらI-F2段が良いでしょう。 コンバータ部にも変換ゲインはありますから丸々一段分のゲインが不足する訳ではありません。 IFTにもゲインが得られ易いものを使うと言った配慮を行なえばかなりカバーできます。1段少なくして多少なりとも簡略に済ますか、それとも安心を取るのかここは思案どころ。

【部品を吟味:IFT】
 7メガ帯くらいまでなら高1中2形式でも十分な実用性があるでしょう。 しかしラジオの延長のようであまり面白くありません。(笑) 上記(B)のダブルスーパで行きたいと思います。

 球数を減らすと性能が下がるのでホントを言えばI-Fは2段がいいです。その場合IFTはT-11かT-21が良いでしょうね。 メカフィルも良いのですが通過Lossが大きくて電池管1本分のゲインは確実に損します。 無理は承知でこの1段用のIFTを使ったダブルスーパを考えたいと思います。

 写真のTRIO T-6 IFTは昔買ったものです。受信機の計画変更のためお蔵入りなってそのまま時が過ぎました。 最近テストしたところ大丈夫そうですから使ってやりたいと思います。 いちおう選択度重視のIFTですがラジオ放送に対しての重視を意味しますからHAMバンドでは選択度が不足なのは当然です。耳フィルタで頑張りましょう。(爆)

【1段用IFT:TRIO T-6】
 IFT T-6は1段増幅用なのでハイ・インピーダンスの設計になっています。ただしgm =2m℧程度の球、例えば6BD6や6D6が想定です。検波は6AV6あるいは6Z-DH3Aの2極管検波を想定している筈です。IFT-Bのインピーダンス50kΩはそれが前提です。

 電池管:1AJ4/DF96あるいは1T4(-SF)を使うとgmはせいぜい1m℧ですからゲイン半減です。 検波回路の負荷インピーダンスをなるべく高くとって所定の負荷インピーダンスよりも高くなるような使い方を工夫する必要があるでしょう。選択度も良くなる方向なので悪くないはずです。

 図右下の特性曲線に鉛筆書きの選択度が書いてありますが、これは私が東光の簡易メカフィル:MFH-40Kの特性をプロットしたものです。T-6は高選択度型とは言っても簡易メカフィルにさえも負けるくらいですから碌にキレないのです。ラジオ用ですからねえ(爆)

                   ☆

 IFT以外のコイルも必要でTRIOのSシリーズコイルで言えばSE-RF付きがあれば使えそうです。 残念ですが持ってませんし手にも入りませんので何かのボビンに巻いて自製するしかありません。 200〜300kHz幅をカバーすれば良いので難しくはありませんが、周波数安定度を確保する必要からイイカゲンなボビンに巻くと失敗するでしょう。手持ちから検討する必要があって素材のチョイスが肝心です。

【部品を吟味:ギヤ付バリコン】
 コリンズタイプですから第1-IFは周波数可変です。簡単に言えば1.88〜2.08MHzのシングルスーパを作るのと等価です。(実際には250kHzカバーを予定) バリコンを使って局発を可変し第2コンバータの局発と段間同調回路をトラッキングさせます。 この設計は既に済んでいます。

 左写真Bのバリコンを実測したところ、FM用のセクション(3連分ある)の実質的な可変容量は18pFありました。 設計してみるとあまり無理のない定数で可変同調回路が実現できました。 1:3の減速ギヤが付いているので1回転半で周波数範囲をカバーすることになります。

 ダイヤル・ノブ直結でもなんとか実用可能かも知れませんが、かなり同調はシビアになるでしょう。更に1:3のボールドライブ等で減速するのが良さそうですね。 このバリコンを使うと右回転で周波数が下がるダイヤルになってしまいますがこれは止むを得ません。折り返して裏返るという手もありますけれど・・・。

                    ☆

 ダイヤル機構はもう少し考える必要もありそうですが取り敢えずこれ以上思いつきませんのでここまでにしておきます。 モノバンドで考えていますのでバンド切り替えのスイッチは不要です。コイルは切り替えず2〜3バンドカバーなら可能でしょう。 他に必要そうな部品もありますが何とかなると思っています。 プリセレクタのバリコンは電気的に見てポリバリでも大丈夫です。ただし構造からポリバリでは発振が恐ければ上記のエア・バリコンと同じものを使う手もあります。AMセクションを使うとカバー範囲が広く取れます。

 シンプルな路線で行きますので手持ち部品の工夫・流用で何とかしたいものです。

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【1AB6/DK96のプロダクト検波】
 前回ネタ(←リンク)の続きとして同じ5グリッド管の1AB6/DK96でもプロダクト検波器を試作しました。

 1R5-SFの手持ち本数があれば1AB6/DK96での試作は不要でした。 あいにく1本しかなかったので回路設計の自由度をアップする意味で1AB6/DK96でも追試してデータを採っておきました。

 よく似た球ではありますが使い方は異なっています。刺し替えただけでは動作しません。一旦解体して再組み立てしています。写真は試行途中の様子なので部品リードが長いままだったり配置も最適化されていません。

 おなじセラロックを使って試作していますが、最適な回路定数は微妙に異なっており試作して確認する意味がありました。 最適化した上で得られる性能には大差はないようですから、機能ブロックとして置き換えは可能でしょう。

 フィラメント電流:If=50mAの1R5を使っても良いのですが、少しでも省エネに作りたいので1AB6/DK96でも試しておきました。 1AB6/DK96でプロダクト検波を試した人なんて世界中にほとんどいないでしょうね。 ここだけの話し、けっこう使えます。w

【1AB6/DK96のプロダクト検波回路】
  (図面:Ver. 1.0.1 UP 20250504)
 1AB6/DK96が1R5-SFと大きく異なるのは第4グリッドの扱いです。 1R5(-SF)の第2・第4グリッドは内部で結ばれてからピンに引き出されています。従って分離はできません。

 1AB6/DK96ではそれぞれ独立です。 第2グリッドが発振管のプレートに相当します。第4グリッドは五極管のスクリーン・グリッド相当で純粋に電子加速用のグリッドであり加える電圧によって特性は大きく変わります。 電圧を高く掛ける方がIpが大きくなりgm(gc)もアップするようです。

 ただし電圧には制限があります。Ep=85Vで使うときは第4グリッドの電圧を60Vに抑えて使います。逆にプレート電圧も64.5V以下で使うならドロッパ抵抗は不要でプレート電源に直結でも大丈夫です。ここではEp=50Vですから左回路図におけるドロッパ抵抗のR6=120kΩは必ずしも必要なかったようです。(その後の検討によれば第4グリッドのドロッパ抵抗:R6は常に入れる方が良いようです。100kΩを推奨)

 この実験回路の詳しいデータを必要とする人はまずおられないでしょう。今回は省略します。 まったく同一と言うわけではありませんが1R5(-SF)のプロダクト検波器と似たものと思って間違いではありません。もし必要ならあらためて前回Blog(←リンク)の参照を。

                    ☆

 要素実験は済んできたので、そろそろ最終的な着地点を考えないといけません。事前のテストが必要な項目があれば順次進めて行きましょう。 モノバンドのコリンズタイプ受信機を構想して更に考えたいと思います。次回もHAM用受信機に向けた検討を続けます。具体化してだんだん面白くなってきましたかね?(笑) ではまた。 de JA9TTT/1

*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
→私で可能な範囲で対応いたします。


つづく)←リンクnm

2025年4月13日日曜日

【電子管】Testing the Battery Tube Product Detector : 1R5-SF

1R5-SFをプロダクト・検波でテスト(活用編)

Introduction
I tried out a product detector circuit with a pentagrid battery tube. The Battery tube 1R5 is the converter tube of the super receivers. The product detector works on the same principle as the converter circuit. It should work well. I used a ceramic resonator for the BFO, which is essential for SSB/CW detection. While the frequency stability is a bit lower than a crystal oscillator, it's still good enough.(2025.04.13 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【ペンタ・グリッド管のプロダクト検波器】
 1960年代のはじめ日本のHAMは未だ戦後の復興期にありました。そのころのお話です。 ハム再開(1952)から間もないころ、米国で新しい電波型式(モード)が登場しました。

 従来のAM波から搬送波と片側の側波帯(サイドバンド)を取り除いた文字通りSSB:シングル・サイド・バンドが登場したのです。当初、AM波でのオンエアでさえ精一杯だったJAのHAM局にはさして相手にされませんでした。しかし米国での動向を見て(聞いて)DXerから徐々に電話モードSSB化の機運が高まって行ったのです。

 高1中2受信機を持つのが当時のHAM局の標準であり開局予備軍の目標でもありました。そうした受信機でもSSB波を聞くことは可能ではありましたが、もともとAMとCWが前提の受信機です。やはり快適ではありません。

 何が問題だったかといえば検波回路です。それらの受信機ではSSBの復調にもCW用の検波器を使うのですが、一般にダイオード(二極管)検波器にBFOを注入しただけと言った単純な回路だったのです。 CW受信を考えるとBFOはあまり強く注入しません。強いCW波が飽和傾向になる特性を利用したかったからです。

 弱いSSB波なら悪くないものの、59+と言った強い局は飽和して歪みます。場合によって音にすらなりません。結局、RF-IFゲインを絞り、CW検波器への入力をわざと小さく絞ってSSB受信する方法にならざるをえませんでした。 しかもCWでは常識的だったAGC/AVCをOFFする受信法もSSB受信の快適さを損ねていました。

 そのため、CQ誌や無線と実験、電波科学と言った雑誌のSSB関連の記事では既存の受信機に付加するSSB検波器の製作記事が頻繁に登場したのです。まずはSSB化の推進は受信にあって「プロダクト検波器」の付加はその入り口と捉えられていたからでしょう。

 写真は5グリッド管:1R5-SFを使ったプロダクト検波器を実験している様子です。当時、1R5-SFで試した人も居られたかもしれませんが、一般的にはポピュラーな6BE6が使われていました。6BE6は標準的な5グリッド・コンバータ管です。

 今回はそれに倣って電池管の5グリッド・コンバータ管である1R5-SFでプロダクト検波を試します。行く行くは電池管で短波帯の受信機を目指しており、SSBやCWの受信機能は必須です。そのための準備としてテストすることにしました。

                   ☆

 物好きでもなければ、いまさら電池管でプロダクト検波でもありますまい。見たからと言って役立つお方は皆無でしょう。もっぱら自身の興味とこの先のRX開発準備のためにデータを蓄積しています。 一年で最も素晴らしい季節です。お部屋にこもってネットではもったいない。人生長いようでも短いもの。 こんなBlogを眺めるのはもうやめにして部屋を飛び出し春を満喫しましょう。

【七極管プロダクト検波回路】
 6BE6のような5グリッド管(7極管)を使ったプロダクト検波器は雑誌の記事ではたいへんポピュラーでしたが、メーカー製の受信機ではあまり見なかったように思うのです。どちらかと言えば自作HAMが付加装置で使う簡易回路のように感じていました。

・参考リンク:プロダクト検波器(←ここ)

 ですから本格的に製作した経験はありません。三極管3本の回路やリング・ダイオード検波器が本命と思っていました。

 今回テストしてみたのは5グリッド管のプロダクト検波器は復調ゲインが得られることからです。やや低周波アンプのゲインが少ないことから検波器でゲインが得られれば有利です。 どの程度のゲインが得られ、また最適な入力信号の範囲(大きさ)はどれ位なのか検波器として基本的な性能を掴むことを目的とします。

 さっそく実験回路ですが、プロダクト検波器にはBFOが必要です。 電池管で作る意味から言えばできるだけ球数は増やしたくないですから自励式で行くことにします。 最適化にやや難しさもありますが検波管の1R5-SF自体でBFO発振まで行なうわけです。
 簡易な付加装置と考えられていたころはコンバータ管の6BE6をLC発振の自励式BFOで使うケースが多かったように思います。その場合、入力信号が強く(大きく)なるとBFOの発振周波数が「引っ張られて変動するのが問題だ」とされていました。1R5(-SF)でも同じ傾向はあるでしょう。

 そのためBFOは初めから水晶発振式にすることにしました。それで引き込み対策は万全になるはず。 やがて実験しているうちセラミック発振子でも十分な性能が得られることが判明します。それで最終的にはセラミック発振子を使うことにしました。 水晶発振子よりも周波数調整がやりやすいことも理由です。(入手の容易さも大きな魅力です)

 水晶(セラロックですが)発振器としてはピアースPG型(無調整型)に相当します。電池管にセラロックという組み合わせはこれまで見たこともなく回路定数の設定に苦心しましたが結果としてオーソドックスな回路定数に落ち着きました。

 以前、入力信号を中間周波に変換するのがコンバータであり低周波に変換するのがプロダクト検波だと書いたことがありました。 確かにその通りなのですが、1R5(-SF)でプロダクト検波する例など実例がありません。プレート負荷を変えてデータを取る、グリッド抵抗はどうか?・・・ほかにも各部を試行的に追求して決定しています。概ね最適化されたと思っていますが、例えばEp=90Vにすると言った変更の際は見直しが必要かもしれません。

【復調用キャリヤ:BFO】
 SSB/CWの復調にはBFOが必要です。 水晶発振器が最適なのですが455kHz付近の水晶発振子は市販品がありません。 特注という手はありますが納期と費用がかかるでしょう。 写真のようにセラミック発振子を使うことにしました。

 はじめ手持ちに456.5kHzのHC-6/u型水晶発振子があったので、それでテストしていました。

 当たり前ですが周波数安定度も良くBFOとしては最適でしょう。そのまま使っても良かったのですが手元にたくさんあったセラミック発振子(セラロック®︎:CSB455E村田製作所製)でも試してみることにしました。

 少し回路定数を変更する必要はありますが同じように良好な発振が得られています。 さらにセラミック発振子には良い点があって周波数の微調整が容易なのです。使ったセラミック発振子は455kHz用ですがトリマ・コンデンサを抱かせて調整することで±800Hzくらいなら容易に可変できます。

 さらに回路定数も幾分変えてやれば±1.5kHzの可変も可能そうですからSSBフィルタに合わせた復調用キャリヤが得られます。

【BFOの周波数】
 455.000kHzに合わせています。 すこし追い込み不足で4Hz弱の誤差があります。

 この誤差も入念に合わせ込めばゼロに近づけることが可能です。 ただしセラミック発振子には温度係数があって周囲温度の変化で発振周波数が微小に変動します。そのため常に455.000kHzを保つことはできません。 ところが実際に製作し測定していて周波数のふらつきはあまり感じませんでした。 ぞれに少々の変動はあっても実用範囲であれば支障はないのです。 少し検討しておきましょう。

 発振子メーカ:村田製作所の仕様書によると-20〜+80℃の範囲で周波数の変動は±0.3%以内が規格になっています。 同時にグラフの記載があって、おそらく代表的な特性と思われますが、それによると同じ温度範囲で±0.1%くらいが実力値のようです。 これを参考にすると455kHzに対して約9Hz/℃の温度による変化が有りそうなことがわかります。

 この数値だけを見ると高級な受信機ではちょっと課題がありそうです。 しかし実際にテストしていて周波数の不安定さは感じられませんでした。発熱の少ない電池管というもの有利なのでしょう。従って電池管で作る簡易な受信機には合格点です。それにLC発振のBFOと比べたら10倍以上安定していると感じられます。 かなり実用的であることが確認できたのです。 どうしても心配なら水晶発振がベストですがその必要は感じない筈です。

【入出力特性】
 入力信号の大きさと出力に得られる復調電圧の関係です。

 BFOは455.000kHzに合わせてあります。入力信号は455.400kHzですから復調出力は400Hzということになります。

 プロダクト検波器はI-Fアンプの後に置きますので、ある程度大きな入力信号・・・ここではmVオーダから測定を始めました。

 測定を始めて意外だったのは大きな入力電圧まで復調の直線性が保たれることでした。 予想ではせいぜい数10mV程度で飽和してしまい、直線性が失われるだろうと思っていたのです。 実力的に1Vpp、即ち300mV(rms)あたりまで十分直線的ですからずいぶん大きな入力まで使えるわけです。

 高1中2受信機のI-Fアンプ出力は時に10Vにも及ぶことがあって、そのまま加えたら大きすぎるでしょう。 上手な使い方としては1/30〜1/50くらいに絞ってプロダクト検波器へ加えれば良いはずです。 それでもこれは意外な結果でした。 300mVも加えて大丈夫とは・・・。

 ずいぶん前になりますが、ミキサー管の歪みについて検討したことがありました。 ビーム偏向管7360,etcについて評価していたのです。そのとき比較のため6BE6も評価しました。
 2信号を使って評価していたのですが意外にもずいぶん大きな入力までIMD特性は劣化せず、ちょっと誇張して言えば7360と比べて極端な違いはないのではないかと思ったほどです。メーカー製管球式ダブルスーパ受信機で第二ミキサに6BE6を採用する例が多い理由がわかったような次第です。上手に使うとペンタ・グリッド管の歪み特性はなかなか優秀なのです。(ノイジーという欠点はあるのですが・・・)

 もちろんバランス型ではありませんので出力のプレート側で局発やRF入力信号のアイソレーションはありません。ほとんどそのまま出てきます。 しかし受信ミキサやプロダクト検波器なら必要な周波数帯と離れているので支障ありません。 ペンタ・グリッド管のプロダクト検波器は思った以上に良好です。 テストしてみた甲斐がありました。

【出力波形】
 入力として100mVpp(≒35.4mVrms)を加えた時の復調出力波形です。

 BFOは455kHzで入力信号は455.8kHzですから、復調出力は800Hzになります。 このように綺麗な正弦波が得られ、リニヤリティの良さが感じられました。

 同時に復調ゲインは約6.7倍、16.5dBくらい得られることがわかります。(ゲインは復調出力が800Hzのとき) なお、信号のピーク部で輝線がやや太く見えますが、これはBFO(455kHz)のモレが取りきれていないためです。

 LPFを強化すればモレはさらに減らせます。 なにしろBFOの発振振幅は20Vppもあって非常に大きいため完全に除くのも大変なのです。 I-Fアンプ系に漏れないよう十分注意しないとBFOによってAGCが掛かってしまうと言ったトラブルも起こり得るのです。

【復調周波数特性】
 復調出力の周波数特性です。

 BFOは455kHzで、入力信号を455kHzに対して30Hz〜7kHzまで離して周波数特性を測定しました。信号のレベルは100mVppです。

 意外に低い周波数から出力が低下して行きますが、これは回路図のC6とC9が1000pFとやや大きめだからです。 これらを470pFあるいは270pFに交換すれば3kHz程度までフラットにできるので目的次第で選択します。

 一般に男声は低音が豊かであり、この程度の周波数特性でも問題ないです。 必要以上に高音域を伸ばすよりも聴感上のS/Nは有利になります。 好みに応じで変更して構いませんので適宜コンデンサを選びます。

【引込み特性】
 入力信号によってBFOの周波数がどれくらい引き込まれるか(影響を受けるか)実測しました。

 実はほとんど意味のないようなグラフになってしまい、公開すべきか迷ったのですが事実は事実として掲載します。

 測定方法ですが、入力信号として大きさが1Vppというかなり大きめの信号を用意します。信号が大きいほど影響が出やすくて影響度がわかり易いのです。 BFOは周波数カウンタで常に監視しておきます。 その上で、入力信号の周波数をBFOの発振周波数の前後で変えてみて、そのときBFOの発振周波数が影響を受ける度合いを観察します。

 結果として、ほとんど影響を受けないことがわかりました。 精密にいうと0.1Hz以下の引き込み現象は存在するように思います。ただし、発振回路自体の微小な発振周波数変動の影響もあって明確にはわかりません。 入力信号をON/OFFしながらFカウンタを見ていると何となく感覚的にほんの少し引き寄せられるような感じを受けます。しかし復調出力を耳で聞いている程度では、まず判別できないでしょう。 要するに引き込み現象は耳ではまったく感じられないことがわかります。

 実はこれにも伏線があって、以前セラミック発振子を使ったオートダイン式受信機を作ったことがありました。驚いたことに体感できるほどの引き込み現象は存在しなかったのです。 今回の回路も言わば発振器の入力端子に信号を加えているわけでオートダイン検波器と同じような状況です。セラミック発振子を使った発振器は外部信号の影響を受けにくく一定した発振周波数を保つことが良くわかりました。 もちろんこれは水晶発振子でも同じです。 発振子を使うと引き込みを気にせずに使えるプロダクト検波器です。

                   ☆

 以上で1R5-SFを使ったプロダクト検波の評価はおしまいにします。 おもにフィラメント電流が25mAの1R5-SFで実験しましたが、50mAのノーマルな1R5でも違いは感じません。 同じ回路定数で同等の性能が得られると思って良いです。

 電池管の弱点はマイクロフォニック・ノイズです。 1R5はコンバータ管ですから、おそらく低周波で問題になるマイクロフォニック・ノイズは考慮されていないでしょう。そのため、低周波ゲインが存在するプロダクト検波器に使うと問題になるかも知れません。 実際に受信機として纏める際には考慮しておく必要がありそうです。(参考・追記:組み合わせテストを行ないましたが支障ありませんでした)

                  ☆ ☆

 ところで、JAにおけるSSBのその後の普及ですが少なくとも1970年までにはHF帯のすべてがSSB化されました。 もはやごく少数の愛好家がAM(全搬送波・両側帯波)でオンエアするだけになったのです。 同時にメーカ製SSBトランシーバが隆盛になり自作機が主体の時代も完全に終わったと言えるでしょう。 講習会生まれのHAMが大挙して出現し彼ら・彼女らが新たな顧客になったわけです。(6mはもう少しAMの時代が続きました)

【1D8-GTアンプに固定バイアスを】
 これは前回のテーマですが、1D8-GTの低周波アンプを改造しました。

 出力用五極管のバイアス電圧を乾電池で与えるようにしました。 改造前は+B電源の負極側に抵抗器を入れ、電圧降下でバイアス電圧を得る形式でした。

 写真で黒い扁平な容器がバッテリーボックスです。CR2032型リチウムマンガン電池が2個直列になって入っています。実測で6.2Vの起電圧があってグリッド抵抗:470kΩを通して1D8-GTの五極管部・第1グリッドへ加えられています。少し高いように感じますが起電圧まかせなので自由度がありません。 なおバイアスは負電圧ですから電池のプラス極側をGNDに接続しグリッド抵抗側が負極になります。 パワー・アンプはA級増幅器でありグリッド電流はほとんどゼロです。マイナス6Vも掛かっていれば初速電子流によるグリッド電流も完全に遮断されてしまいます。 従って電池の消耗は自己放電程度でしょう。リチウムマンガン電池は自己放電が少ないですからかなり長期間使えるはずです。

 この改造によって+B電源の電流値によってバイアス電圧が影響を受けることがなくなります。+B電源の負極側はそのままGNDへ接続されます。電源利用率も1割近く改善され各段の動作に有利に働きますし結果として電池の持ちも良くなります。 欠点はバイアス電圧に自由度がないことです。幸い1D8-GTの五極管部はだいたい-5〜-6Vのバイアス電圧で良いため十分使い物になりそうです。 なお、使用した中華モノの電池ボックスは作りがちゃちでイマイチでした。もう少し信頼できるような製品はないものでしょうか?(笑)

                    ☆

 コンバータ管から始めて低周波アンプまで一通りの電池管を評価しました。 中波帯(BCバンド)のラジオ作りが目的でしたらそれでお仕舞いですが、目標はHAMが使える受信機です。 HAMバンドで必須となるSSB/CW検波器に絞ってペンタ・グリッド管を使ったプロダクト検波器を追試しました。たいへん有望な結果が得られたと思います。 簡易な受信機だけでなく本格的な「通信型受信機」に使っても支障のない性能が得られています。

 残念ですが1R5(-SF)は電池管なので一般性に欠けています。いまさら電池管の時代じゃありません。 まあ6BE6だってすでに真空管の時代でもないのですが、同じような評価をしておけば有益な設計情報が得られるかも知れません。 もしも機会があったら手がけてみたいと思います。 次回もHAM用受信機に向けた付加機能を検討したいと思っています。電池管の活用が通信機の範囲へと広げられたらだんだん面白くなります。 ではまた。 de JA9TTT/1

*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
→私で可能な範囲で対応いたします。


つづく)←リンクfm

2025年3月29日土曜日

【電子管】Testing the Battery Tube Audio Amp. 1D8-GT

1D8-GTでオーディオ・アンプを作る(製作編)

Introduction
I'm making an audio amplifier with a 1D8-GT, which is a battery tube with a combined diode, triode and pentode. This 1D8-GT has been in my parts box for ages, so let's wake it up!
The 1D8-GT was a vacuum tube made before WW2, so it's not as efficient as the battery tubes made later, but it's good enough for what I need. It should work well enough as an audio-frequency amplifier for a communications receiver using battery tubes, so let's give it a try right away.(2025.03.29 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【2・3・5極の電池管:1D8-GT】
 乾電池を電源に使う真空管・電池管でラジオ(受信機)を作っています。その4回目で今回は低周波アンプ部を検討します。 日本では作られなかったようですからポピュラーとは言えませんが、低周波アンプ(Audio Amp.)に向いた電池管が手元にあります。 たしかネットのどこかで何かの製作例を見て手に入れたように思います。ずいぶん前のことで、1D8-GTは購入当時、高価な球ではありませんでした。 AESの古い2002年版プライスリストには$3.10-とあります。(AES : Antique Electric Supply 米国の部品屋)

 RCA社の真空管データブックを探ると1940年版:RC-14にも記載があって第二次大戦前からあった球とわかります。 フィラメントは1.4Vで100mAです。標準的なプレート電圧は67.5Vあるいは90Vが必要なので電源効率が良いとは言えませんが、これ一本でスーパの第2検波と2段増幅の低周波アンプ部が構成できる便利さがあります。

 後世の改良された電池管と違ってプレート電圧の割にあまりパワーは出ませんが100mWもあれば静かなシャックには十分ではないでしょうか。フィールドに出たら両耳レシーバ(ヘッドフォン)を使えばうるさいほどの音量が得られます。

 mt管を使ったポータブル・ラジオでは「第2検波〜低周波アンプ〜パワー・アンプ」の部分は1S5-3S4のラインナップが標準的です。

 オーソドックスに、これらmt管が確実なのかも知れませんがこの機会に永く死蔵されてきた1D8-GTを試します。 もちろんこれから1D8-GTを探す意味などなくて1S5-3S4のラインナップで十分ですからそちらをお薦めします。 さらに1S5-SFと3S4-SFならフィラメントは1.4Vx75mAで済むので省エネです。5極管の2段アンプになって低周波ゲインもたっぷり得られてラジオの感度もアップするでしょう。

                    ☆

 いまなお真空管アンプには静かながらも熱い人気があって持ち歩けるヘッドフォン・アンプを作りたいお方もあるようです。 電池の部分に工夫を要しますが現代の優れた電池、例えばエネループやリチウム電池,etcを使えば思った以上に長時間鳴らせます。
 1D8-GTにmt管のようなスマートさはなく、かなり無骨ですが巧くやればむしろカッコよく作れそうです。 いまどきラジオなんかに興味はないけど、と言う若い貴方もアンプ作りに挑戦されてはいかが? 発熱しないので3Dプリンタで作った洒落たプラ箱でOKです。

【米国ホビー誌に見る1D8-GT】
 左は1D8-GTを使ったシンプルなラジオの製作記事で、Radio Craftと言うホビー誌の1940年(昭和15年)7月号から引用しています。

 この例では三極部をRFアンプに使っています。その後で二極部で検波して五極管のところでパワー・アンプします。 乾電池を内蔵しポータブルに作っています。持ち運んで聴くときには両耳レシーバの使用が想定です。大きなスピーカとアウトプット・トランスは持ち運びには適さないので外付けにして軽量化を図ったのでしょう。

 そのまま作るのも面白いかも知れませんが低μ(ミュー)な三極管を使ったRFアンプでは碌なゲインは得られず、三極管でTGTP回路は発振の危険もあってちょっと心配のある構成です。 ダイオード(二極管)検波ゆえ負荷インピーダンスが低くて発振などしないのかも知れませんが・・・。 凝ったことにAVCまで掛けてあります。

 米国において1D8-GTは戦前からホビーストに愛されていたようです。他誌にもこれを使ったラジオ記事が見られます。 多くはダイオード部で検波したあと低周波2段増幅する形式のようでした。 この回路例のように三極部をRFアンプに使うのとどっちが良く聞こえるのか比較してみたいところです。 何れにしても短いアンテナだけでは遠方のラジオ受信は無理でもっぱらローカル放送を試すと言ったホビー用です。

 日本の場合、戦前にUX-111/Bと言う空間電荷格子四極管を使ったポータブルラジオが流行ったと言うお話を古老より伺いましたが、こちらも球が特殊なので田舎者に製作は困難だったでしょうね。それとスピーカは無理なのでマグネチック・レシーバで聴くスタイルだったはずです。試してみたくてもUX-111/Bなんて持っていないのが残念なところ。hi
 ポータブルなラジオは日米を問わず昔っから少年たちはに魅力的だったのでしょう。 そう言えば今年2025年はラジオ放送開始から100年でしたね。 真空管式ポータブル・ラジオでノスタルジーに浸るのも感慨深いのかも。

【低周波アンプを作る:1D8-GT】
 図はこれから製作する低周波アンプの回路図です。 1D8-GTを1本だけ使ったシンプルなアンプです。

 1D8-GTには検波用の二極管が内蔵されていますがラジオの高周波部(I-Fアンプ部)とは別体に作る関係で使わない方針です。

 1台のラジオとして纏める場合、1D8-GTをI-Fアンプ(中間周波増幅器)の近傍に置き、あまり配線を引き回すことなく直ちに検波できるよう作ればベストでしょう。
 後ほどラジオの全回路図がありますが純真空管に拘るなら別ですが検波はゲルマニウム・ダイオード(1N34Aなど)がスッキリするように思います。その方が真空管の配置に自由度があって作りやすくなります。1D8-GTの二極部は五極部に「同居」しているのでフィラメント電流が損になることもありません。

 低周波のパワー・アンプの場合、高抵抗をグリッドに入れるだけの「コンタクト・ポテンシャル・バイアス」ではうまくありません。 そのため、B+電池のリターン経路を使って一種のカソードバイアスのような方法でバイアス電圧を得るようにしています。 これは4球ポータブル・ラジオなどにも見るオーソドックスな手段です。ただしB+電源の全電流量の影響を受けるので、具体的に言えば、R4:1.5kΩは抵抗値の加減が必要です。

 1D8-GTの五極管アンプ部(A級アンプ)は-5〜-6Vくらいのバイアス電圧があれば良いので、いまでしたらリチウム・ボタン電池2個で固定バイアスを作ったらスッキリします。 改造したいと思って電池ホルダなど部品を手配しています。 上手にやればこのリチウム電池は殆ど消耗しないのでかなり長期間使えるでしょう。

 話の順序が前後しますが、入力信号は三極部で電圧増幅されます。 1D8-GTの三極部は増幅定数:μ(ミュー)はμ=25くらいしかありません。そのため回路を工夫しても10〜15倍の電圧ゲインが精一杯です。μが70とか100もある6Z-DH3Aや6AV6のようなハイ・ゲインは得られないのです。 三極部で電圧増幅したのち五極部で電力増幅されます。 また、五極管はずっと電圧ゲインは大きいのですが、インピーダンス・マッチングのためにステップダウン・トランスがあってパワー・アンプ部としての電圧ゲインは思ったほどありません。 ただし微弱な入力信号でなければ大丈夫なのでヘッドフォン・アンプのような用途でしたら実用的なアンプとして使うことができます。

 回路は簡単ですが、アウトプット・トランスなど大きな部品があってそれほどコンパクトに作れません。 大してパワーは出ないので、必要なインダクタンスがあれば小型アウトプット・トランスでも十分なのですが市販品はないのでそれほどコンパクトには作れないのです。

【出力トランスはT-600-12k】
 アウトプット・トランスには東栄変成器のT-600から、1次インピーダンスが12kΩのタイプを使います。

 もともと安価なトランスでラジオのような製作に向いたトランスでした。 残念ながら銅が値上がりし、人件費もアップしてきたのでだいぶ値上がってしまいました。 ただ、あまり適当な既製品もない現在、むしろ有難い存在といえるでしょうか。

 使い方に実験的な要素が含まれています。 RCAの資料によれば1D8-GT(五極管部)の最適負荷インピーダンスはプレート電圧:Epによってかなり異なるようです。 一応、Ep=67.5Vで考えていますが、その場合は16kΩとなっています。 あるいは、むしろ低いプレート電圧で使うことも考えていて20kΩあたりが良さそうです。

 動作点(バイアス電圧の大きさ)にも依るので、明確には決めかねていますが2次側の4Ω端子に8Ωのスピーカを接続する場合、1次側は12kΩの端子で使うのが良さそうでした。 一次インピーダンスも上昇しますが、インダクタンスはそのままですから低域の周波数特性は不利になります。 このあともう少し条件を変えながら最適なところを探ってみたいと思っています。

【元祖BBスタイルで】
 真空管が大型なのもありますが、アウトプット・トランスのように重くて大きな部品もあるので、いわゆるブレッドボード(ソルダーレス・ブレッドボード)に作るのはやめました。 ホームセンタにあった端材の加工品を調達してきました。 土台に使います。

 金属板のシャシがないと不安を感じるかも知れません。 しかしローゲインな低周波アンプですから、金属製のシャシに作らなくても支障はありません。 ある程度配線の引き回しを考えてやれば安定に動作します。

 写真は形状の大きな部品の配置を決めて木板に固定して様子を見ている状態です。 もう少しコンパクトに作りたかったのですが売っていた適当な端材に作っている関係で思うようにはなりません。 材質はベニヤ合板で寸法は178x118x15(mm)です。角が丸めてあるなど、切りっぱなしの端材ではないので見栄えも悪くありません。¥200-くらいで買えます。 木板の底面には四隅にクッション材が貼り付けてあります。

余談:ラジオをシャシとアルミのパネルなり、本式の板金ケースに組むのはなるべくやめています。板金が嫌いというものありますが(笑) 実用品はもうたくさん持ってる訳ですし、後に自作のガラクタが残っても処分に困るでしょう。なるべく残さないよう考えています。その趣旨から言えば「木板ブレッドボード・スタイル」も感心しませんが、そのままゴミでも構わないということで採用しました。解体も簡単ですし部品の流用も効きます。木板は可燃物ですから分解すれば危険ゴミも最少で済みます。そんな心配より集まったジャンクを何とかするのが先なんですけど・・・。

【入力ブロック】
 入力の端子にはRCA・ピンジャックが欲しかったのですが、手持ちがありませんでした。 まあ、なんでも良いので3.5mmのイヤフォン・ジャックを使いました。 イヤフォン・ジャックに続いてゲイン調整の可変抵抗器:VRが付きますので入力ブロックとして組み立てました。

 片面紙エポのプリント基板・端材を加工してジャックとVRを取り付けまました。 VRはそのままでは軸が長すぎたので切断してあります。

 木板への固定は大きめのスタッドを使います。 木板に貫通穴を開けて長ビスで固定しています。 このあたりは手持ち部材の都合なので木ねじで止めても良いでしょう。 製作者各自の好みとか部品事情が反映できる部分です。

【USソケット周り】
 回路図には書いてないけれど重要な部品が真空管ソケットです。 真空管ばかり集めてみてもソケットがなかったら使うのに困るでしょう。 真空管集めは転売が目的なんですか?(笑)

 1D8-GTは8ピンのUSソケットと言うものを使います。 幸いなことに8ピンのUSソケットを使う電機部品はいまだに存在しており、プラグイン型リレーやタイマーなどシーケンス制御系の部品として残っています。 もう暫くは入手に困らないのではないでしょうか。

 ソケットの固定には大きめのスタッドを使っています。 これも貫通穴で長ビスによる固定です。 トランスは重いので太めの木ねじで十分な強度が出るように締め付けています。 部品取付に使う平ラグ板も回路図にはない部品です。 これは木ねじで固定しますが、写真は配線を行なう前なのでまだ完全には締め付けていません。 平ラグ板はφ=6mm、h=8mmのベークライト製円筒型のカラーで浮かせてあります。

【端子台とラグ端子】
 電源の供給とスピーカの接続には端子台(ターミナル・ブロック)を使うことにしました。端子台からの配線引出しには圧着端子も考えたのですが、使う配線材が細い関係でハンダ付けすることにします。

 この端子台は秋月電子通商で購入したものです。 作りが良くて構造も悪くないのですが材質がハンダコテの熱で溶けるのが弱点でした。 うっかりコテ先が当たったら溶けてしまいました。 確か国産の端子台はベークライト系の樹脂なので簡単に溶けたりはしなかったと思うのですが・・・。 これはいま流行りの中華部品のようです。安価なのがメリットです。

 ラグ端子(タマゴ・ラグ)は買い置きがありました。 なければ配線をそのままねじ止めすれば良いだけのことなので必須のパーツではありません。 ただし持っていればシャシからGNDを引き出すとか、様々な場所で使えますから揃えておきたい補助パーツでしょう。 地方で手に入りにくければホームセンタで売っている小ぶりの圧着端子で代用できます。

【グリッド・リングは自家製】
 1D8-GT:三極部のグリッド電極は球の頭部に引き出されています。 一般的にグリッド・キャップ(プレートキャップとして売っていることもあります)を使って配線を接続します。

 ちょうど良いサイズのグリッド・キャップの手持ちがなかったのでゼムクリップを加工して自作しました。 グリッド端子の太さは1/4インチで、metricで言えば6.35mmなのでそれに合わせて作ります。φ6.0mmのドリル刃に巻くと丁度良かったです。 (参考:UY-807、6146等のプレート・キャップはφ3/8インチ≒9.53mm。ほかにφ1/2インチ=12.7mmがあり)

 大電流が流れるわけでもなく接触さえ安定していれば良いので自作品で十分です。 材質に適度なバネ性があるのでいい感じにフィットします。 グリッド端子なので触っても感電の恐れはないためカバー付きキャップでなくても危険はありません。

 なお、電池管はぜんぜん熱くならないのでリングと引き出し線の接続はハンダ付けで大丈夫です。秋葉原が近かったら作ったりせずに買いに行くのですけれども・・・遠いです。 中華通販という手もありますが・・・。

【1D8-GTアンプ完成】
 真空管1本だけの簡単な製作ですが、こうした形式で作ることは滅多にありません。 試行錯誤を繰り返しながら午後いっぱい使って楽しみながら配線を終えました。

 昔のブレッドボード・セット(まな板セットとも言う)と言えば太い単線を使って直角配線で仕上げた見事な”芸術品”のような作例が思い浮かびます。 とても真似できないので、そうした作り方には拘らず信号の流れを考えつつあまり不合理にならぬよう配線を心がけました。 まずまず安定に動作するようですからこれでヨシとしましょう。 電池管を使ったラジオや受信機の低周波アンプとして共通に使うつもりです。

 左に写ったミノムシ・クリップの付いたケーブルは他端がφ3.5mmのイヤフォン・プラグ(モノラル用)になっていてアンプへの入力信号の接続に使います。 どこかにプラグ付の作り置きケーブルがあったように思うのですがちょっと探せなかったのでやむなく新規で作りました。 つまらん製作ですが意外に手間が掛かってます。 ケーブル材は細い同軸ケーブル(75Ω)です。75Ωの同軸ケーブルは分布容量が少なくて好ましいのですが芯線が細くて切れやすいのが弱点です。ただし安物のシールド線と違ってシールド効果は抜群です。

【1D8-GTとT-600】
 安定化電源から必要な電源:67.5Vと1.4Vを供給して動作させてみました。

 最初から予想されていたことですが、ちょっと低ゲイン気味です。 まあ、それでも別のブレッドボード(前のBlog参照)に作ってあったコンバータ+I-Fアンプ部の検波出力に接続してみました。

 NHK第1、第2、FEN、東京放送(TBS)、文化放送、ニッポン放送と言った在京の強力局はまずまずの音量で鳴ってくれました。 十分楽しめて普通の聴取に何ら支障はありません。 音の感じはベッドサイドのトランジスタ・ラジオとは違いますし同じアウトプット・トランスを使った真空管式ラジオともまた異なる印象を持ちました。

 もちろんそれぞれスピーカが異なりますし公平な比較ではありません。 耳で聞く感じは悪いものではなくて中域がしっかりしたAMラジオらしい音と言ったら適切でしょうか。 ご贔屓アナのアナウンスが歯切れ良くそれらしく明瞭に伝わってきました。

 残念ながらゲインが足りないため、いつも感度テストに使っているCRTラジオ栃木(1062kHz、足利サテライト、空中線電力:100W)は音量が足りません。 距離は近いんですが、たった100WのAM放送局ですからねえ。w その辺のHAM局にさえ負けそうなパワーです。(笑) 低周波ゲインがもうちょっと欲しかったですね。予想通りでした。

【フィラメントに異常はないが・・】
 1D8-GTは2本手持ちがありました。実はそのうち1本は音が出てくれませんでした。

 ゲッターはしっかり銀黒に輝いていて真空が破れた訳ではないしフィラメント電流も正常値です。 念のため正常に点灯しているのか暗闇に置いて写真撮影してみました。 流石に100mAも流れる球なので暗闇で目を凝らして観察すれば肉眼でも点灯がわかります。 写真の長時間露出ではこのように写りました。

 点灯状態は正常ですしガラス越しにルーペで観察すれば電極への溶接も大丈夫そうに見えます。それに三極部はちゃんとアンプとして動作します。 何でダメなのでしょうか?? 五極管部分にトラブルがあります。

【1D8-GT足ピンのハンダが!】
 アンプ回路に入れて電流を確認してみます。ほとんどプレート電流は流れませんが、観察すると極わずかだけ流れるのでプレートは断線していないようでした。スクリーン・グリッドの電流も流れませんね。

 何故だろうと思いつつ足ピンを拡大したら問題が見つかりました。(写真)
 このピンは五極管のスクリーン・グリッドが引き出されています。 なるほど、スクリーンに電圧が掛かっていなければプレート電流はほとんど流れません。症状から考えてもこれが不具合の原因ですね。

 しっかり接着されていてベース部分は容易に外せそうにありません。 引き出し線の先端部分を良く磨いてハンダ付けを入念に行ないました。 さっそく通電したら今度は快調です。 1D8-GTが2本活きていれば何時かステレオ・アンプが作れるかもしれません。

 mt管とちがいGT管やメタル管は足ピンの部分がハンダ付けで組み立ててあるのでこうしたトラブルが起こるのです。 旨くなかったら足ピンのハンダも観察する必要アリです。

【電池管ラジオに纏める】
 初めて扱う電子デバイスと考えて、特徴的な電池管をそれぞれ個々に動作させて評価してきました。 おおよそその素性は掴めたと思います。

 個々の評価回路を繋ぎ合わせればラジオになる訳ですが、それでは見通しが悪いでしょう。 スーパ・ヘテロダイン形式の電池管式ラジオとして一つの回路図に纏めておきます。 *1は出力管のバイアス電圧発生用の抵抗器で要調整です。バイアス電圧が-5〜-6Vになるよう加減します。
 A4用紙に印刷すると数字が小さくて見辛くなるので可能でしたらA3用紙に印刷されると宜しいです。そのまま画像で参照するのもお薦めです。 この回路はそのまま電池管式のラジオとして通用するはずです。大きなアンテナがあれば夜間になると遠方の局も良く聞こえてきます。

 今回のBlogで扱った1D8-GTを使った低周波アンプ部はあまりゲインが取れませんでした。 そのため低周波部全体の電圧ゲインは2〜4倍程度になってしまいました。それでもスーパ・ヘテロダイン式の威力、検波までに十分なゲインがあってとりあえず実用になるようです。強い局を受信すると検波出力は1Vpp程度得られますから結構大きくて、スピーカから出てくる音量として十分なものでした。

 ローカル放送用としては問題ありませんが、ごく弱いラジオ局を受信する際にはゲイン不足を感じますので一般的な4球スーパ(電池管式)のように低周波アンプは五極管で2段増幅が良いでしょう。 ここではちょっと考えがあって1D8-GTで済ませますが本式に4球ポータブル・ラジオを作りたいのでしたら、オーソドックスなラインナップが間違いなさそうです。
 例えば、1R5(コンバータ)→1T4(I-Fアンプ)→1S5または1U5(第2検波+低周波増幅)→3S4(低周波電力増幅)と言う構成です。 フィラメント点灯用A電池の省エネのためにPhilips/松下のDシリーズ管や国産の-SF管の採用もお薦めです。

                    ☆

 永く眠っていた電池管をAMラジオの回路で試すと言ったテーマで何回かBlogを連載しました。だいぶ様子がわかってきたように思います。 いずれ真空管ジャンクは処分される運命なので、それまでに少しでも通電して遊んでみるのが目標です。 次回はHAM用受信機に向けた付属回路の研究を予定しています。 クリコンとか切れの良いI-Fフィルタなど通信機の範囲へと広げられたら面白いと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

*何かご質問とかご要望などあったらコメント欄でお願いします。
→私で可能な範囲で対応いたします。


つづく)←リンクnm

2025年2月28日金曜日

【電子管】Testing the Battery Tube Audio Amp.

オーディオアンプ電池管:1D8GTを試す(予告編:Preview)

Introduction
I am planning to build a receiver using a battery-powered tube. I have considered the converter and I-F amplifier circuits, so the next step will be the audio amplifier. I intend to use an Australian made composite tube called 1D8GT. I have started to gather the parts and start considering. The circuit and the fabrication will be in the next issue. Please look forward to it! (2025.02.28 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)

電池管:1D8GT
 写真はオーストラリア製の電池管:1D8GTです。

 2-3-5極管という"Three in one"の珍しい複合GT管です。お題のようにもちろん電池管です。 二極部で検波したあと三極部+五極部で低周波2段増幅するために使います。

 デート・コードが読み取れないので明確な製造年代はわかりませんが、第二次大戦中もしくはその直後ではないでしょうか。 Austrarian RCA 製です。

 オーストラリア陸軍にはこの球を使った大戦期のシンプルな無線機が数種類ありました。 彼の国の真空管は珍しいのですが、軍の需要があったため自国内で作っていたようです。

今回はボックスをオープンしてみた写真でおしまいです。

 「ラジオ作りました。よく鳴りました」もいいかも知れませんが、このBlogでは電池管+ラジオをもうちょっと深掘りしてみます。次回をお楽しみに。 ではまた。 de JA9TTT/1

*コメント欄で「雑談」でもお楽しみになって、しばらくお待ちください。(笑)

つづく)←リンクnm

2025年2月12日水曜日

【電子管】Testing the Converter Tube : 1R5/1R5-SF

【コンバータ管:1R5/1R5-SFを試す】

introduction
I returned to the 1R5 on the battery tube to evaluate the converter tube again. This was because I had a few 1R5s on hand and was interested in the differences between 1AB6/DK96 and 1R5. The comparison was done in the same way as in the previous Blog. The results obtained were without difference. Converter tubes are not only suitable for frequency conversion purposes, but also for product detection. I believe that my comparison tests will be useful for the construction of communications receivers.(2025.02.12 de JA9TTT/1 Takahiro Kato) 

【七極管:1R5-SFと1R5】(電池管)
 乾電池を電源とする真空管、すなわち電池管で受信機(ラジオ)を目指す第3回目です。 予定を変更して再びコンバータ管をテストします。対象は:1R5/1R5-SFで電池管のコンバータ管としてポピュラーな球です。 前回のI-F Amp.(←リンク)から一旦コンバータ回路に戻ります。

 mt電池管のコンバータ管は1R5が原型です。 評価済みの1AB6/DK96とそれに対抗する目的で登場した1R5-SFはいずれも1R5が元になっています。 1R5系の手持ちが4本ありました。 受信機(ラジオ)の製作には1AB6/DK96だけでも足りそうですが、場合によっては1R5を使う可能性もあります。 周波数変換(コンバータ)の用途だけでなくプロダクト検波器への適性もあるはずです。 すべて中古の球なので良否の判定を兼ねてテストしておきました。 1AB6/DK96との違いにも興味があります。

 ポータブルラジオでは1AB6/DK96よりも広く使われた1R5/1R5-SFです。 写真は左が1R5-SF(東芝・マツダ)、右はマーキングが消えてますが米国製(RCA or GE?)の1R5です。前者の-SFは専らポータブル・ラジオ用でしょうが、後者のこの1R5はたくさん放出されていた朝鮮戦争のトランシーバ:RT-66/67/68などの軍用無線機で働いていたものかもしれません。無線関係のOMさんが放出した中古の球です。

                    ☆

 真空管、ましてや電池管に興味がなければ退屈なだけ。 以下はお薦めしませんので楽しいサイトへジャンプされて下さい。 もし昔のポータブルラジオの残骸が残っていて、もう一度蘇らせて楽しみたいのでしたら幾らか参考になるかもしれません。その程度の話です。

【七極管:1R5の評価回路】(実測データ一覧)
 1R5/1R5-SFのテスト回路です。 同じ5グリッドの七極管を使ったコンバータ回路ですから、ちょっと見では既出の1AB6/DK96(←第1回にリンク)と同じようです。

 良く回路図を比較したらわかるのですがグリッドの扱いが異なっています。 これは後発の1AB6/DK96が単なる省エネ管ではなくて短波帯での問題点を改善する目的も持っていたからのようです。その代わり刺し換えて交換が可能という互換性はなくなってしまいましたが・・。

 中波帯(BCバンド)のラジオなら1R5で問題ありません。しかし2バンドラジオでは短波帯で局発が強い信号に引き込まれて受信しにくいことがあるそうです。(引き込み:Pull-in現象、または連動:Interloking現象ともいう)

 短波(SW帯)でも数MHzまでなら大丈夫ではないかと思いますが、10MHz以上ともなると厳しいのかもしれません。この辺りは短波ラジオを作るなら検討を要するでしょう。

 ここでは中波のコンバータとしてごく基本的な性能を確認しておきました。 1AB6/DK96と同じように局発コイルがキーパーツです。 同じ仕様の局発コイルが使えるか、興味があったのでそのまま使いました。

 結論から言うと支障なく使えます。 非力な1AB6/DK96で発振できたのですから1R5の方がむしろ有利なはず。さらにフィラメント電流が半分で1R5よりも不利な筈の1R5-SFでも大丈夫でした。1R5-SFも意外に頑張ります。(笑)

 なお、1R5-SFの最低動作電圧も確認しておきました。 局発の発振停止電圧はEp=11.7Vでした。(但しEf=1.4V、fo=1000kHz) これは1AB6/DK96とほぼ同じです。 もちろんこの電圧までラジオとして使用可能と言う意味ではありません。

 図中に実測特性一覧があります。 内容については後の説明も参照してください。

【コンバータ+I-F Amp.で試作】(電池管スーパ)
 I-F Amp.まで組んであります。 そのため、だいぶ雑然としています。(笑)

 データを取っている途中、うっかりI-F Amp.が付いていることを忘れてしまいました。 測定データに影響が出て、あらためてやり直すと言ったミスがありました。独立したテストをやった方が楽だったかもしれません。

 左が評価対象のコンバータ管:1R5です。 1R5が3本、1R5-SFが1本あったので差し替えてデータを採りました。 結果は1R5と1R5-SFで大差はなく意外にも1R5-SFが頑張る印象です。 従って1R5-SFの方がフィラメント電流が半分で済むのでお得です。残念ながら一本しかありませんが・・・。

 第2グリッドの電流がコンバータ回路の全電流の7割近くあって大半を占めることは1AB6/DK96と同じでした。 発振停止がコンバータ管の機能停止につながる訳ですから要点は同じと言うことです。 回路図中の表・1に実測データがまとめてあります。1AB6/DK96との比較では大差ありませんでした。同じように使えます。

 I-F Amp.も合わせて評価していたところ、稀にI-F Amp.が発振することがありました。 1AJ4/DF96や1T4/1T4-SFは意外にCpgが大きい(6BA6の3倍ある)ので負荷インピーダンスによっては発振の可能性があるようです。 I-F Amp.なので同調をずらせて逃げる訳にも行きません。 幾らか負荷インピーダンスを下げる対策をします。 対策は選択度にあまり影響の及ばない検波器側が良いでしょう。IFTに高抵抗を並列に入れシャントする方法にします。 ゲインと選択度を少し損しますが止むを得ません。 I-F Amp.の発振は配線方法や部品の配置にもよるので作り方次第で問題ないかも知れません。 I-F Amp.の件は一応参考まで。

【七極管:1R5のグリッド電流】(=発振強度)
 1AB6/DK96の動作状態は発振電圧・・・第1グリッドのRF電圧で規定されていました。

 それに対して1R5/1R5-SFでは第1グリッドの電流で動作が規定されています。 そのためこの評価ではグリッド電流:Ig1も測定しました。 Ig1の大きさが発振の強さを示します。 もちろん最適な範囲があります。

 測定はマイクロ・アンメータがあれば簡単にできます。 グリッド・リーク抵抗:回路図ではR1のGND側を切ってそこへ電流計を挿入します。メータの極性はGND側が+です。

 その際、必ずバイパスコンデンサを入れ、電流計にRF成分が流れないようにします。 バイパス・コンデンサは0.01μFで良いでしょう。 DC電流計にはRFを流してはいけないのですが、知らぬ人も多くて既に常識ではなくなっているかも知れません。(笑)

 電流計にはアナログ・テスタ(回路計)の電流レンジが使えます。 写真では専用の電流計(YEW製)を使いました。 デジタル・マルチメータでもOKです。測定点にバイパス・コンデンサが必須なのはアナ・デジ共通です。

 ここは初歩のラジオ教室ではないので余計なお世話でしたかね。(笑)

【七極管の動作説明】(RC-14より)
 RCAのチューブ・マニュアルを眺めていると、コンバータ管の動作はTube Applicationの項を参照しろとあります。

 左図はRCAの真空管データブック:RC-14からの引用です。 RC-14はスキャン・コピー版がネット上に出回っているので入手は容易です。 RC-14は1R5の登場当時の版ですが、1940年版と古いためもっと新しい版が良いかも知れません。 ネット上に幾つかの版があって必要に応じDLしておくと真空管の扱いについて有用な情報が見つかります。

 内容はごく一般的な話があるだけでした。 おそらく5グリッド・コンバータ管にあまり馴染みがないユーザ向けの説明なのでしょう。 一言で言えばスーパ・ヘテロダインの周波数変換に必要な機能を一つの真空管にまとめたのがこうしたコンバータ管だとしています。

 左図の回路は6A8・・原型は2A7と言う旧式の5グリッド管の説明になっています。 1R5は6SA7や6BE6と同じ次世代の5グリッド管です。 そのためグリッドの働きが異なっています。少し1R5のことを考察してみましょう。 (言うまでもないですが6SA7や6BE6は五球スーパの定番コンバータ管です)

 まず、第1グリッドと第2グリッド・・ここはプレートとして働く・・とカソードで構成された三極管で局部発振器(Lo-OSC)を構成します。 この第2グリッドと第4グリッドは管内で結ばれています。第4グリッドは電子加速用のグリッドとして働きます。
 じつは、ここに問題があるようです。 本来、発振部と分離されるべき第3グリッドが第2、第4グリッドに挟まれた形になるため、静電容量的に結合(C結合)して局発の引き込み現象が現れるのでしょう。このように1R5を自励発振のコンバータとして短波帯で使うと不利なのです。

 では同じ構造の6SA7や6BE6で引き込み現象があまり問題にならないのは何故でしょうか? これは局発回路の形式が異なるからです。 それらは1R5のようなプレート帰還・グリッド同調の反結合形式ではなくてハートレー型の発振回路なので影響がほとんどないのです。第2・第4グリッドは高周波的にバイパスされGNDレベルなので純粋に加速とシールドの働きをしているためです。
 !R5を短波帯で使うと局発の引き込み現象が目立ってくるのは回路形式が原因です。なお、1R5をハートレー回路で発振させることも不可能ではありません。対策できるはずです。

(残った第5グリッドは普通のサプレッサ・グリッドとして働き、フィラメントのマイナス側に結ばれています)

 ちょっと脱線して引き込みの原因追及になってしまいましたが、1R5の問題点を考える切っ掛けになってくれました。 1AB6/DK96、1L6、1U6が構造を変えて引き込み対策したことがわかります。

【七極管:1R5の標準動作】
 1R5のコンバータ回路の特性を示すグラフです。Tung-Sol社の資料を利用しました。RCAの資料にも同一のグラフがありましたがこちらの方が鮮明なので利用しています。

 プレートと第2グリッドの電圧を幾つか変えて変換コンダクタンス(コンバージョン・コンダクタンス)をグラフ化してあります。 変換コンダクタンスとIFTの共振インピーダンスから、コンバータ回路のゲインが計算できます。(下記参照)

 1R5の変換コンダクタンスはIg1が100〜200μAでピークとなります。 それを目標に動作させますが、電源電圧、第2グリッド電圧、そして局発コイルの巻き数比と1次・2次巻線間の結合度、さらに発振周波数などちょっと考えただけでも様々なパラメータがあります。

 従ってあらゆる条件下での最適化は無理があります。 多少変動しても支障はないようですから確実な局発の発振が起こるようにすれば良いでしょう。 なお、Ig1のミニマムは20μAなので、悪条件が重なってもこれを下回らぬよう検討すべきです。 今回のテストではIg1が少なめでした。これはプレートと第2グリッドの電圧が低いためです。ただし十分実用の範囲にあると感じます。 実際にAMラジオを受信すると良く聞こえます。

IFTの共振インピーダンスとゲインについて
 前回のBlogでも検討したようにLC共振回路の共振インピーダンス;ZはZ=ω・L・Qです。(Z=(1/(ω・C))・Qでも同じ) 言うまでもないですがω=2・π・fです。  IFTの場合、2次側の共振回路も同じ特性で臨界結合状態(k・Q=1)であるとすれれば真空管から見た負荷インピーダンス:Ztは、共振インピーダンス:Zの半分になります。 すなわち、Zt=(1/2)・Zです。

参考:kは結合係数で、2つのコイル間の相互インダクタンスをMとすれば、k=M/(√(L1・L2))です。Q=100とすれば、k=0.01のとき臨界結合状態となります。なお、k>0.01ではIFTは双峰特性となります。一般にAMラジオ用のIFTはk・Q≦1に設計してあります。 なお、相互インダクタンス:Mはインダクタンスメータ(LCRメータ等)があれば比較的精度よく実測から求められます。単層ソレノイドでは計算で概略求めることもできます。

 いま、IFTは複同調形式で、Qが100、共振コンデンサが100pF、周波数は455kHzとしましょう。k・Q=1とします。 共振インピーダンス:ZはZ=(1/(ω・C))・Qですから、Z=(1/(2・π・455E10^3・100E10^-12))・100です。計算しますとZ≒350kΩになります。 従ってコンバータ管の負荷インピーダンス:Ztはその半分の約175kΩです。

 このIFTを変換コンダクタンス:gcがgc=250μ℧の1R5で使うと変換ゲイン:GはG=175E10^3・250E10^-6≒44(倍)が得られる計算です。
 実際にはストレー容量の影響など諸々の原因によるロスなどがあってだいぶ下回るかも知れませんが、20〜30倍の変換ゲインなら得られそうです。(デシベルで言えば:26〜30dB)
 中間周波増幅一段の標準的な電池管スーパのばあい、I-F Amp.で30〜40dBのゲインがあります。 ほかにもアンテナコイルの昇圧利得が20dB(10倍)くらいあります。 従って合計で検波段までに76〜90dBのゲインになる計算です。(概算で6,300〜31,000倍)

 計算を含むと「見る気がしない」お客サンが続出でしょうか? こうしたコンバータ回路の変換ゲインはどの程度なのか?・・・といった興味を満たすために簡単な計算を最低限で行ないました。 つらいものを辛抱してご覧いただきたいへんお疲れさまでした。(笑)

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 以上、コンバータ管:1R5と1R5-SFに関連した話はおしまいです。 先に評価した1AB6/DK96との違いはあまり無いようでした。 配線そのままで刺し替え可能という意味ではありませんが、少なくとも中波帯で使う上では機能は同等と考えて良いでしょう。さらに使う場所を考えてやれば高性能なラジオやもう少し高級な通信型受信機にもうまく使えると思います。 以下は、テスト中に気付いたことなど雑談です。

【275pFのポリバリコン】
 写真は私の定番バリコンです。コンバータ回路の設計で使いました。

 これはジャンクなお店でまとめ購入したものです。 AM/SW用:(max)275pFの等容量2連とFM用:(max)22.5pFの2連が一体になった4連バリコンです。 ほかTVチューニング用:100KΩの可変抵抗器が連動します。 背面に(max)9.5pFのトリマコンデンサが4つ付いてます。(日本製)

 良い買い物でしたが残りを使い切れないので、いずれ頒布アイテムにするつもりです。

【足ピン矯正器:ピン・ストレートナー】
 中古品のmt管は足ピンが曲がっていることが多いです。 そのままソケットへ刺すと感触が悪くてしっくりきません。

 そこで写真のピン矯正器の登場です。これで足ピンを整えてやると挿入がずっとスムースになります。

 TV-7/Uなど真空管試験機には矯正器が付属していて、テスト用ソケットの保護の意味からも矯正器の使用が推奨されていたと思います。

 国内のショップやオークションで探すと高額です。 米国のお店や中華モノを探すか、eBayも良いかも知れません。使ってみたら有難さがわかります。mt管をたくさんお持ちのお方にお薦めです。(これは頒布の対象ではありません・Sorry)

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 電池管の整理を兼ねて在庫確認していたら、1R5系のコンバータ管が意外にありました。 -SF管ならともかく、普通の1R5はフィラメント電流が大きいので積極的に使いたいとも思いません。 しかし乾電池の電源に拘らなければ支障にはなりません。 この機会に評価して活用に備えておくことにしました。 1AB6/DK96、1R5/-SFなどコンバータ管ばかり使い道がない感じですがI-F Amp.にも使えます。 シグナル・グリッド:g3 はリモートカットオフ特性なので工夫で活きます。 もう買い足すつもりはないのであとは工夫あるのみ。w

 いずれ真空管ジャンクは処分される運命なので、それまでに少しでも通電して遊んでみるのが目標です。次回はAFアンプに続く予定です。 用途が限られ性能も芳しくない電池管ですが、徐々に用法が掴めて活用の目処がたつことで幾らか魅力的(?)に感じ始めています。 ではまた。 de JA9TTT/1

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つづく)←リンクfm