【High precision Syndrome ? :あなたも今日から高精度病 】

【
LPRO-101 ルビジウム発振器】 写真は「ルビジウム原子周波数基準発生器」である。
以前のBlogでも扱ったことがあった。 物々しい名前であるが、お子様用のお弁当箱くらいの大きさと言うコンパクトな物だ。 DC24V電源で動作する。 得られる周波数は、10MHzである。 なお、金属ルビジウムや金属セシウムは水と出会うとかなり危険な物質である。しかしこのユニットのルビジウム放電管の微量ならあまり心配はないだろう。
携帯電話関係の中継器から発生したらしいジャンクが大量に出回っており、数1,000円で入手できることもある。 写真のEFRATOMあるいはDATUMのものはやや古いもので、同じ形番でSymmetricom製もあって幾らか新しいようだ。但し、基本的にどれも同じだからメーカー名を心配する意味は無いと思う。ジャンクなのだから、むしろ個体差の方が大きいに違いない。
入手するなら精度の確認がしてあるものが望ましい。しかし、そんじょそこらの周波数カウンタごときでは精度評価(比較)など容易ならぬことも以下を読んでもらえばわかると思う。そんな驚異的精度の世界なのである。(同時に、驚くべき時間精度の世界でもある)
【ウオームアップ特性・その1】
ユニットに電源を投入して約1時間後の周波数である。10MHzに対して、やや低いようだが観察しているとウオームアップ状態が継続しており、ゆっくりではあるが周波数は上昇して行く。この個体は僅かながら正の温度係数を持つようだ。
拙宅は『標準化機構のラボ』ではないから、絶対精度が保証されたような「周波数基準器」が存在する訳ではない。 比較対象はGPS周波数基準器から発生される「10MHz」である。 GPS周波数基準器(hp Z3801A)は継続運転しており、実力精度はかなり高いように感じるが絶対精度を測る基準がない以上、あくまでもそう思うだけである。
写真のように、通電1時間で既に数10ppt(1ppt=1兆分の1)の範囲まで、GPS周波数基準器に一致してきている。誤差の絶対値で言えば、10MHzに対して-0.232mHz(ミリヘルツ=1/1000Hzのこと)である。
実は、このテストの前に
高級と思われるTCXOを評価していた。十分良い安定度だと思ったが周囲温度の変化を受けて±0.5ppm位の漂動はやむを得ないようであった。(1ppm=100万分の1) しからばRb-OSCはどうなのだろうかとテストを始めたような訳だ。 流石に安くても『原子周波数基準器』である。 TCXOより1,000倍以上も優秀だと言える。 周波数の揺らぎはわずかだ。

【
ウオームアップ特性・その2】
ユニットに電源を投入して凡そ12時間経過した。10MHzに対して、やや高いようだ。 ウオームアップはほぼ終わっているようで、変化はあってもたいへんゆっくりしている。 いまだにやや上昇する傾向があるようにも見えるが、室温の変化など外的なわずかな変化が影響している可能性がある。
見ての通り、誤差は+1.97ppt(=誤差は1兆分の1.97)である。周波数で言えば、比較する10MHzに対して19.7μHz(マイクロHz)の誤差と言うことになる。 もちろん誤差はゼロではないし、この分野に於ける現在の最先端から見たら更に5桁以上も『低精度』なのである。
それにしても、通電12時間程度でここまで行くとは大したものだ。その誤差は、ppmどころかppbの範囲を超えて、pptで云々すべき領域にある。 そして方式の違う二種類の周波数基準器がここまで良く一致したことから、いずれもなかなか良い絶対精度を持つと思っても良さそうだ。

【
ゆらぎ】
これは、この計測に於ける周波数の揺らぎをヒストグラムで示したものである。 ある一面での捉え方にはなるが「揺らぎ」を示しておりその実力はわかるだろう。
周波数分解能を上げる必要から,10秒間の平均化処理を行なっている。その周波数を発生頻度で統計処理したものである。 揺らぎをローパスフィルタを通して測定しているようなものなので、比較的高速な瞬時の変動は除去されている。
揺らぎに埋もれた真の値を求めるには統計的な手段をとらざるを得なくなってくる。 如何なるものも常に真の値からの揺らぎが存在している。 結局のところその「真値」なるものは、揺らぎの中心が存在する位置を統計的に求めた結果に過ぎない。
一般に、高精度になるほど揺らぎは小さくならざるを得ない筈だ。 平均化すれば真値に限りなく近付くとは言っても、瞬時瞬時で見たズレ幅が大きければそれは基準としては使い物にはなるまい。 このRb-OSCの揺らぎは、3σで見て±2mHz(ミリHz)ほどなのだから、十分優れている。(もちろん、この数字は測定系に与えられている「基準の揺らぎ」も加味された結果である) ちなみに、評価の発端となった件の高級TCXOでは揺らぎもあるがそれ以上に環境条件による周波数変動の振幅・・・これも一種の揺らぎには違いないのだが・・・が大きくてRb-OSCと同列に比らべても意味は無かった。

【
LPRO-101のスペック】
あらためてルビジウム原子周波数基準器(Rb-OSC)のスペックを見直してみた。(←コメントを赤字で付記) もちろん、これらは新品として工場を出荷された直後の数字だ。 初期精度とウオームアップ特性に着目してみる。
初期精度は、±5E-11(@25℃)である。50ppt以内の誤差である。誤差は1,000億分の5以内というわずかなものなのだが、これでは一向にピンと来ない。
もし、この10MHzを元にルビジウム原子時計を作ったのなら634年に1秒狂うかどうかと言う性能になる。もっとも、停電もせず故障もせず600年以上も動き続けるデジタル時計などあり得ないが。(笑)
ウオームアップ特性にも着目してみよう。 流石に電源を入れた途端に超高精度にはならない。 それでも10分もすれば±1ppb(10億分の一)の精度に落ち着くとは素晴らしい。 これと競合するであろうオーブン入り水晶発振器(OCXO)は通電後10分では加熱中であって高精度どころか、未だに『低精度発振器』の領域を抜けていない。通電30分で0.1ppmに入れば良い方だ。ダブル・オーブン型OCXOも然りで、真に安定な領域へは何日間と言う時間を要する。
結論めいたものを言うとすれば、もはやルビジウム原子基準器(Rb-OSC)に勝るものはないだろう。GPS-DOのようにヒモ付きでなく、あるいはOCXOのように定期校正や常時通電の必要もない。精度・価格比では言うまでもなく、信号純度も申し分ない。LPRO-101の残存寿命はランプ電圧のモニタ結果で見てもまだまだタップリ残っている。信頼できる所から購入するか校正を頼める友人でもあれば精度の維持も心配はない。
Rb-OSCがもっと安価になれば精度が要る周波数基準はすべて置き換わる可能性がある。消費電力が大きいとは言っても、このLPRO-101でさえ定常状態ではオーブン入り水晶発振器(OCXO)と大差ないレベルにある。 数Wのパワーで動作するものも既に開発されている。

【
評価手段】
このような領域に手を染めるのは、必要性があって相応の知識や経験も持った人だろう。素人が迂闊に手を出すようなものではない。 従って釈迦に説法だから計測手段などクドクドと書くつもりはない。
しかし、あえて「高精度病」の仲間に入るつもりなら、写真のようなユニバーサル・カウンタがお薦めだ。 Agilentの回し者ではないが実際このカウンタは優れている。拙宅の方法でも比較評価は可能であったが易しくない。測定器そのものの扱いとセットアップの容易さでは明らかにこちらが優れている。 そして、もちろん最も重要なことは
基準たる周波数標準をこのカウンタに供給することだ。それなくしては、ただたくさんの桁の数字を表示するだけのしろものだろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
過去を知る人からは「高精度病」を蔓延させた張本人はオマエではないかと言われそうだ。 簡単にその経緯を辿っておく。 当時アマチュアにとって便利な周波数基準であった短波帯のJJYは停波していた。周波数カウンタや無線機の周波数校正に不便を来していたのだった。
既存の技術としてはNTSC-カラーTVのカラーバースト信号から高精度基準を作るくらいしかなかった。既にRb-OSCもあったが未だたいへん高価だった。それに校正手段が伴わなければジャンク品の信頼性は低かった。
もっと良い手段は無いものか探していて、QST誌の「
GPS周波数基準器(GPS-DO)」なるものを発見した。 これについて、まずは
E-Engineers Square(拙掲示板)で活発な意見交換があった。 自作を含めて様々に検討されたが、当時登場したGPS周波数基準用受信機(
hp Z3801A:中古品)の輸入がベストとの結論に至った。GPS-DOは常に校正され続けるから、シャックに於ける究極の周波数基準に思えたのだ。
その後はその受信機の活用方法についてwebで具体例をもって説明した。Z3801A本体の改造と動作確認から始め,アンテナ・カバーの製作、連続運転用電源の製作、基準分配器の製作、そしてTS-680Sを改造して周波数基準を供給し高精度でオンエアするという全5編で構成した。2002年冬〜2003年夏のことである。 当時の周波数高精度への挑戦が「高精度病」の切っ掛けとなりJAのHAMに次第に広まって行った。 その後は安価なルビジウム発振器(ジャンク品各種)の登場もあって、高精度病は一段と蔓延し今に至っている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アマチュアではあっても周波数精度を探求することには意味がある。 実際、昔はオンエア周波数の精度に直結していた。 しかし、今ではそうした「実用」の範囲を遥かに超えていることを認識すべきだろう。 気軽にppbやpptの数字を登場させたが、オンエアにおける周波数精度は、その1,000倍あるいは100万倍も悪いppmのオーダーでも十分すぎる。電波法に於ける無線設備基準では更に緩い精度が認められているのが現実だ。 もちろん私自身も「重傷の高精度病」は懐疑的に感じている。
*参考:電波法ではアマチュア局の周波数精度は500ppm(百万分の五百)以内で良い。必要とされる周波数測定装置の精度はその半分の250ppm以内である。なお、最近免許になった135kHzバンドだけは100ppm以内の精度である。従ってこのバンドでは50ppm以内の精度を持つ測定器(測定手段)が必要だ。このようにアマチュア局に要求される周波数精度はかなり甘く決められている。
結局のところGPS-DOもRb-OSCもここに至っては「高精度病」の範疇にある。そのことを良く理解して議論しないとおかしくなってしまう。 ゼロが10桁以上も並んだからと言って、電波の質が格別良くなるわけでもないし、ましてやオーディオが驚異的に良くなる筈も無い。元がよほどPoorだったならあり得るのかもしれないけれども・・・。 Rbには揺らぎがあるかも・・と書いたら(そんなことは無いのだが)そのまま真に受けてネガティブな噂が広まった。これは要するに判別不能な事実の「端的な証明」なのだろう。
実際Rb-OSCの揺らぎはアラン分散を取ってみても随分と優れている。これは計測結果からも確認済みだ。 もちろんそんじょの手段では検証困難だったのだろう。だから(あらぬ)迷信話しが広まったわけだ。(教訓:怪しげな言葉で先入観を持たないように)
その事実を早くから感じていた某氏と私はやがてわかってきたRb-OSCの真相を知りつつも暫くネットの様子を眺めていたのだった。 (ありもしない)Rbの欠点をまことしやかに語る怪しそうなweb siteが次々登場してなかなか面白かった。 えっ?それって人が悪いって!(爆)
☆ 実際のところは、もう一度Rb-OSCの話題を採り上げるチャンスがなかっただけのこと。それ以上、何か意図があった訳ではないので悪しからず。
(おわり)
参考:ユニットをケースに収納し10MHz分配器も内蔵した
実用編は→
こちら(Blog内でリンク)