2022年9月10日土曜日

Fragaria vesca(ワイルド・ストロベリー)

Photo : 2022.09.09 12:43 JST at our Garden

2022年8月27日土曜日

Reciever Frontend Design (1)

受信機のフォロント・エンド設計

RX-FEを研究する
 簡易版のフロントエンドを示して「ハイさようなら!」とも行きませんから、あらためて真面目に受信機のフロントエンドを研究してみます。

 写真はプロ用受信機のフロントエンドです。真空管時代の高性能受信機、例えばR-390A/URRでは連動する同調機構とそれを駆動するギヤとカムで大きな面積・体積・重量を占めていましたが、半導体時代の受信機はなんともシンプルです。基本的にこれですべてと言えるのですから。

 ただいまこのBlogでは「私だけの受信機設計」と言うテーマを継続中です。シンプルで実用的な性能を持った受信の製作を目指しています。プロ用受信機の鑑賞は目的としませんが、その中身の変化を見れば時代に応じた必然があるはずです。大いに参考になるでしょう。

真空管時代のFE
 しかしアマチュアの自作品では真空管時代の構成にも未練が残るものです。長年かかって蒐集した良質の真空管やバリコンなどのRFパーツを是非とも活かしてやりたいのです。
 もちろん、実用十分な性能を持った「通信型受信機」が製作可能ですから(目は少々遠くなったかも知れませんが)諦めずに頑張ってみたいものです。電子部品は使ってこそ生きるものですからね。
 真空管やそれ用のパーツはオークションに出品すれば高値を呼ぶかもしれませんがそれは可哀想です。シャックの大切なお宝だったのですから。ぜひとも自身で灯を入れてやりましょう。

 写真は八重洲無線の真空管時代の受信機:FRDX-400です。エア・バリコンとHigh-gmな6BZ6を使ったRF-Amp.そしてLow-Noiseな三極管ミキサー・・・。1960年代の典型的な受信機構成でした。 昨今の受信機(トランシーバ)のような快適さはありませんが、QSO(交信)に使えるだけの性能は持っています。

ブロック図で見るフロントエンド
 今回は受信機のフロントエンドを扱います。 真空管時代の受信機では「フロントエンド」と言う概念はあまりなくて、中間周波増幅(I-F Amp.)以前はすべて高周波部と言われていたように思います。

 もっと細分化して「高周波増幅部」、「ミキサー部」、「局発部」と言った区分けだったでしょう。連動する同調回路は重要な機構ですが、これら各部の付随品であって独立した存在ではありませんでした。これは真空管を使った回路構成の場合、同調機構は別個に考えるのではなく一体のものとして扱った方が合理的だったからです。

 半導体回路の場合、入力信号を真っ先に選択するため独立したフィルタを構成する方法が合理的です。入力インピーダンスが低く出力インピーダンもあまり高くない特性上、真空管のように同調回路(共振回路)を分散配置する方法では設計しにくいと感じます。 回路構成上、入力フィルタ部を独立させてしまった方が有利です。

 真空管式と半導体式では合理的な設計に違いが見られますが、一応ここでは図のような部分を「フロントエンド」と考えることにしておきます。

                   ☆

 前置きでだいぶ話を引っ張ってしまいましたが、このBlogは「私だけの受信機設計」の第9回になります。(第8回はDDS-VFOの製作←リンク) この先は受信機のフロントエンド部・・・入力フィルタ部、RF-Amp.部(高周波増幅部)とミキサー部など・・・に範囲を絞って研究します。 できたら「自分で作る」ことを前提に探りましょう。

 ご自身で手を動かして受信機やトランシーバ(高級機、簡易型を問わず)を作りたいならいくらか「たし」になるかも知れません。 しかし漫然と眺めていても意味はないと思います。 また興味本位の独自研究であって限られた資料を概観するだけに過ぎませんので「あなたの持論」を持って突っ込まれても困ります。持論も結構ですがお手柔らかにどうぞ。いつも通りコメントは歓迎です。(笑)
 ご覧いただくのは嬉しいですが大半のお方にとって「大切なこと」はもっと他所にあります。どうか時間を大切にされますように。人生はあんがい短いです。そしてこのBlogの先は長いです。(笑) 虫の音も聞こえ始めたシャックにて。

真空管でも新しい試み
 一部の例外的な機器を除き、真空管の時代は終わっていると思います。しかし意外に人気があるのも事実のようです。トランジスタと違って手触りを感じられるだけの物理的な「大きさ」を持ったデバイスだからでしょうか。

 「高1中2」とか「コリンズタイプ」と言った構成で昔ながらの管球式受信機を再現する試みは他所のサイトに任せましょう。過去に素晴らしい良書がありますし設計法は確立されていると思うのです。あとは製作するための部材をどのように調達するのか、手に入らない部品を代用品でいかに工夫するのかと言った課題があるだけです。

 左はRSGBの機関誌に載っていた(真空管)受信機に関するお話です。他誌の記事を参照していて解りにくいかも知れませんが趣旨はわかるでしょう。面白いので文章を含めて転載しておきます。
 半導体式の受信機に比べダイナミックレンジは10dB広いとしています。リニアリティの良い強力な半導体デバイスが入手難だったころの話ですから実際に真空管は有利だったのです。

 図のフロントエンドは他の真空管式受信機と比べてもだいぶ強力なはずです。 何が強力なのかと言えば「大入力信号特性」です。 近傍の周波数に強力なステーションがオンエアしてきたとき支障なく継続した受信が可能か否か・・・という特性のことで、現在の混雑したバンド状況では一段と重要度が増しています。「大入力信号特性」は近代的な受信機に於いて従来の「受信機の3S」に加えて強く求められる特性なのです。

 高周波増幅管7044はコンピュータ用の真空管です。High-gmでプレート抵抗:rpが小さく直線性にも優れています。ただしヒータ電力は大食いでrpが低いお陰でプレート電流もたくさん流れます。まあ、だから良い直線性なのですけれど・・。入力部とRF段とミキサ間の2つのバンドパス・フィルタで不要信号を除いています。 そしてミキサー管はヤッパリ7360の出番なのでしょう。(笑)

強力なRF球と7360
 あいにくですが7044は持っていません。お金を出せばオーディオ系の球屋で買えます。まあ、しかし写真の5687WAでも十分でしょう。こちらもコンピュータ用の球です。どちらも直線性を見れば概ね似たようなものですからね。
 7044もそうですが5687WAのヒータ消費電力はHAMにお馴染みの送信管:807と同じなのです。(6.3Vで0.9A)それが9ピンのミニチュア管なのですから恐ろしいほど高温になります。プレート電流の伸びがよく直線製が良いのはそのあたりにも理由(ワケ)があるのでしょう。

 5687WAと言えばカスコード・アンプを作ってみたことがあります。その直線性を活かしながらゲインを求めた設計でしたがうまく行きませんでした。リニアリティの点で負荷インピーダンスは高く選びたい、しかしそうすると簡単に発振してしまう・・・結局うまく行きません。けして高周波向きとは言えない球ですからねえ。hi hi

 こうした球を使いこなすには上図のようにGG-Amp.形式が無難でしょう。 あまりゲインは得られませんが動作は安定です。 それに7360のミキサはローノイズですから、RFアンプでたくさんゲインを欲張る必要もないのです。 局発の漏洩を防ぎ途中に4つある同調回路のロスを補える程度のゲインがあれば足りるわけです。 なお、各所に33Ωが入っていますが、これはパラ止めの抵抗器です。7044のような球はHigh-gmなので実際に発振しやすくて安定に使うためのコツと言えましょう。

従来型でも高性能は可能だ
 図は従来型の回路設計になっていて既存の部品を活かしやすいです。あるいは旧式化した管球式受信機の改造にも向いているかも知れません。

 RFアンプはHigh-gmな双三極管を使ったカスコードアンプになっています。あまりゲインは必要としないのですがイメージ比を稼いだり近接信号に対する選択度を目的にRF-Amp.を設けているようです。グリッド側とプレート側に同調回路を置きバリコンでチューンする形式ですから昔ながらの真空管受信機用コイルパックと連動バリコンが活かせます。同調回路は2箇所だけですがI-F Amp.の周波数が高い(後述)ので十分なイメージ比が得られます。

 ミキサは同じく7360です。局発回路もそれに合わせてPush-Pull型の発振回路(半導体)になっていて工夫された近代設計です。しかし自励発振の局発ではいまどきHAMの通信用には実用的とは言えないでしょう。 DDSなりPLLで周波数が超安定な発振器を作りC/Nを悪くしないよう上手に増幅してから広帯域トランスで平衡変換して与えるのがベストです。

 この受信機ではI-F Amp.の帯域フィルタに4433kHzの可変帯域型クリスタル・フィルタを使っています。I-F Amp.以降は半導体化されています。フロントエンド部分は真空管も未だに有利との考えですがそれ以降を真空管で構成してもメリットは少ないと言う意味でしょう。 4433kHzの可変帯域型フィルタについては後ほど簡単な説明があります。

高gmカスコード管と7360
 回路図のPCC189はHigh-gmなカスコード・アンプ用の双三極管です。たぶん日本では使われなかったのでしょう。馴染みはありませんが特性的には写真左のECC88/6DJ8に類似です。

 PCC189のgmは12.5m℧でμ=31です。ECC88/6DJ8はgm=12.5m℧でμ=33ですからほとんど同じと言って良いでしょう。 PCC189のヒータは7.6V300mAです。ヒータについてはPCC88/7DJ8と同じです。検索するとECC189/6ES8と言う同特性でヒータが6.3Vの球がヒットしますが見かけない球です。

 ヒータ電圧の違いを除くと、ECC88とPCC189の大きな違いは後者がリモートカットオフ特性になっている所にあります。要はPCC88/7DJ8のリモートカットオフ版と言ったところでしょう。 そのためRFゲインの可変はスムースにできるでしょう。その違いが実用上どれほどの差になるかはわかりませんが。 ピン接続は同じなので差し換えて同じように使えると思います。

バリミュー管が?
 やはりバリミュー管が欲しいでしょうか。ECC189/6ES8はポピュラーではないようです。手持ちにもありませんが類似の球として米国系の6BZ8が見つかりました。(注:5極管の6BZ6ではありません。6BZ8は双3極管です)

 6BZ8のgmは10m℧なのでやや小さめですが同じ様に使えるでしょう。μは45と大きくなっています。 それだけ内部抵抗:rpが高くなるためプレート電流は少なめになります。 しかし決定的に違うと言うほどでもないのでPCC189の代わりとして十分イケる筈です。ピン配置は同じですが差し換えて多少のバイアス調整は必要とします。

 他に双三極管ではありませんが高性能で近代的な球に6CW4があります。最終世代の真空管:ニュービスタ管です。これは単三極管ですから2管使ってカスコードアンプを構成します。 6CW4はリモートカットオフ特性ですから利得調整は同様にスムースでしょう。 6CW4は開発者のRCA社から混変調に関するレポートが出ておりなかなか優秀です。実際にプロ用のハイブリッド構成受信機でRFアンプとして最後まで残った真空管だそうです。 今となってはソケットの入手が難しいと言った問題はありますが真空管で受信機フロントエンドを極めたいなら7360と共に試してみたい球の一つです。 6CW4は低い電圧でも良く働きます。プレート電圧は1管あたり70V以下で使うべきです。寿命の点からプレート電圧の掛け過ぎは禁物です。

                   ☆

 真空管構成のフロントエンドについてまとめて面倒をみました。受信機のフロントエンドについて言えば、まだ真空管が活躍できる場面もありそうですね。お眼鏡にかなったフロントエンドはありましたか?(笑) この先はもう少し現実寄りの半導体構成に移ろうと思います。


半導体らしいFE構成・1
 まずはSSDから参照しましょう。 結構古い書籍ですがHAMが半導体で回路工作を楽しむと言った視点で書かれた書籍です。この書籍の内容に刺激された出版物はどれくらいあったでしょうか?

 Advanced Reciever Conceptsと言う章にある高性能な160m Band用受信機の製作記事です。 この受信機単体で160m Bnadで高性能であるばかりでなく、HF帯ハイバンド用にクリスタル・コンバータを付加することでマルチバンドの受信機を構成します。

 入力部にチューナブルなバンドパス・フィルタを置き帯域外の信号をカットしています。160m Bnadは中波の放送バンドに隣接することから「アタマ」の部分で良い選択度を持たせないと強烈な中波ラジオ局による感度抑圧や混変調から逃れられません。 DX局はノイズレベルギリギリと言った状況もあって実用的な受信機はなかなか難しいものです。(まあ、国内局相手ならいくらか楽なのですけれど・笑)

 インプット・フィルタを切り替えているのはハイバンドのクリコンに対応するためです。 固定した広めの帯域幅を持ったバンドパスに切り替えることで、クリコンを使う時には第1I-Fアンプのチューンの手間を省くわけです。

 RFアンプはオーソドックスなJ-FETのゲート接地型アンプです。 ミキサーは既成のDiode-DBMを使っています。 SRA-1-1はLo=+7dBmで、IIP3=+15dBm程度のごく普通のDi-DBMです。 RFアンプのグレードなどから考えて釣り合いの取れたミキサの選択でしょう。十分良い性能が得られたはずです。

 ミキサの後にはLPF/BPF型のDiplexerが置かれています。ミキサから見た負荷インピーダンスが50Ωから大きく外れないようにしています。 ポストミキサ・アンプはJ-FETを使ったソース結合の差動形式になっていますがI-Fフィルタとのマッチングを考慮したものと思います。同時にゲインも稼いでいてI-F周波数が455kHzのシングルスーパで必要十分なゲインが得られるようになっています。
 後続の帯域フィルタはメカフィルですが、Collins製のメカフィルは通過信号ロスがかなり大きいことからフィルタの後にも+10dBのポストアンプを置いています。そのアンプにはゲインを変えてCWとSSBフィルタのロスを合わせるイコライザ機能があります。

 回路は省略しましたが続くI-F AmpはCA3028Aを2つ使ったオーソドックスなものです。AGCもよく効くように考えられた回路になっています。 通信型受信機の回路はトータルで見るべきものです。興味があれば原著の参照をお薦めします。本書はJARLの資料室でも見掛けました。

参考:SSDとはARRLの出版物で「Solid State Design for the Radio Amateur」(1977初版)の愛称です。W7ZOI Wes Hayward氏とW1FB Doug DeMaw氏の共著です。1986年に2nd Printingが出ています。既に内容的に古くなっていますが米国の自作HAMの間ではバイブル的な書籍でした。

半導体らしいFE構成・2
 上記SSDの筆者:W7ZOIほかが2003年に執筆した大作であるEMRFDから近代的設計の行き方を紹介してみます。より一段と近代化された設計になっていると思います。

 図は汎用設計のモノバンド受信機用フロントエンドです。残念ながら回路定数が入っていませんが、これは受信する周波数帯や使用するI-Fフィルタの周波数によって幾つかの回路部分と部品定数は変更する必要があるからでしょう。  この分厚い書籍をよく読んで行けば自身が望むハムバンドや使いたいI-Fフィルタにマッチした回路設計を見出すことができます。

 RFアンプにゲート接地型を使いミキサにQuadダイオード型DBM(既製品)を使う手法は上記SSDの受信機で確立した方式のようです。 ポストミキサアンプにはバイポーラ・トランジスタ2石で構成されたものを置いています。2石パラにしたのは電流をたくさん流して強力なアンプにするためです。 Diplexerを省いているのは多少気になりますが、ミキサからみた負荷インピーダンスは広い周波数範囲で50Ω付近になるため問題はありません。ポストミキサアンプが十分強力ならそれで支障ないという設計なのでしょう。アンテナからここまでの間にやたらとアッテネータを入れずNFを劣化させぬよう考慮しているのが見て取れます。

 ポストミキサ・アンプの後にはアッテネータを置きI-Fフィルタから見た信号源インピーダンスを安定させています。またポスト・フィルタ・アンプ(=I-Fのプリアンプ)にはPIN-Diを入れて過大な信号を抑えるようになっています。これはハイゲインなI-F Amp.の飽和を防ぐために必要な対策です。

 ラダー型I-Fフィルタもきちんとした設計で行くべきでしょう。設計が簡単なCohn minumum loss型は安直で良いのですが通過帯域のエッジ部分で特性が乱れます。Qが高くて良い性能の水晶振動子を使うほど顕著になってしまいます。過渡応答特性を自在にできないのも欠点です。 回路を見るとメッシュチューンもしているようなので、きちんとした設計のI-Fフィルタが前提なのでしょう。CW用フィルタをベッセル型で作ると言ったことも可能なわけです。

参考:EMRFDとはARRLの出版物で「Experimental Methods in RF Design」(初版:2003)の略称です。W7ZOI、KK7B、W7PUAの共著です。SSDの好評を受けて登場した書籍ですがより高度でプラクティカルな内容も多いため大半のHAMには難し過ぎたようです。しかし一歩進めた自作を目指すHAMにとって他では得がたい書籍でしょう。 分厚い書籍なだけにエラッタ(誤記・誤植)がたくさんあります。修正ファイルはネット上にあります。

半導体らしいFE構成・3
 同じくEMRFDから、より具体的な・・・部品定数付きの・・・回路図を引用してみました。

 これは14MHzの受信機用フロントエンドです。 RFアンプにはバイポーラ・トランジスタ(BJT)・・・要するにFETではなくてNPNトランジスタを使っています。 ミキサのTUF-1は先のもの(SAR-1-1)と同じような性能を持った既成のDi-DBMです。従ってIIP3=+15dBmくらいです。 さらにポストミキサ・アンプは上記よりも簡略なBJTの1石式です。 ・・・こう書くと、なんとなく高性能から後退した設計のように感じるかもしれません。

 しかし、それは違うでしょう。 ここでRFアンプとポストミキサ・アンプに使っているBJTは特別なものだからです。 2SC1815や2N3904のような「ありふれたトランジスタ」を使ったのでは目的に合わぬフロントエンドになってしまいます。 こんな構成で高性能が期待できるのは2SC1252あるいは2N5109がExcellentな性能を持っているからです。素材を選ぶことで回路の方を簡略化したわけですね。 これらのトランジスタなくして高性能は期待できません。(たぶん・笑)

 RFアンプとポストミキサ・アンプは基本的に同じ設計ですが、後者の方が扱う信号レベルが大きくなることからコレクタ電流をだいぶ増やしてあります。従って小型のヒートシンクが必須です。 負帰還形式のアンプ(NFB形式のアンプ)なので入力インピーダンスは50Ωに近く周波数に対するフラットネスも悪くないでしょう。またRFアンプが十分に強力なためミキサとの間に6dBのアッテネータを追加してミキサから見た信号源インピーダンスをより安定させています。

 局発の注入回路は少し変わっていますが送信部もしくは周波数表示部へ信号を供給する便を考えているのでしょう。 パワースプリッタとアッテネータが置かれていますが特別な目的がないのなら簡略化可能です。3dB程度のアッテネータを介して局発を与えれば問題ないはずです。 TUF-1の局発注入レベルは+7dBmが標準です。

 かなりシンプルなフロントエンドですがI-Fフィルタ以降を9MHzと言ったハイフレで設計すれば十分なイメージ比が得られますしIMD特性も優秀なので実戦的な性能が得られるはずです。 他のバンドへの展開も容易だと思われます。簡潔でありながら実用的な受信機の構成に推奨できます。 I-F Amp.にはフォワードAGC用Trを使ったものを考えれば面白くなりそうです。 フォワードAGCの説明とI-F Amp.の検討はこの特集の第5回;中間周波増幅器(1)にあります。(←リンク)

超リニアなBJTはあなどれない
 RFアンプといえばFETに人気があります。 確かにBJTの伝達特性は指数関数的なのに対して、FETのそれは2乗特性に近似です。
 実際にアンプを構成して特性を見ればFETのアンプでは2次の高調波が主体で3次以降の奇数次がたいへん少ないことがわかります。3次の混変調ひずみに対しても有利なわけです。

 しかしバイポーラ・トランジスタにあって、この写真のような石は素晴らしいリニアリティを持っています。 実際に2信号特性を見ても驚くほど優れています。上記の回路例で2SC1252や2N5109がW7ZOIにRecommendedされている理由が良くわかります。

 以前にも書いたことがあったように思いますが、これらのトランジスタはCATVの中継器に使われていたトランジスタです。 光ファイバ伝送になる以前は多チャンネルの高周波信号のまま同軸ケーブルを引き回して伝送していました。同軸ケーブルでの信号減衰を補うため途中に中継器があって、帯域幅が数100MHzもある広帯域アンプで多数の放送波をまとめて増幅していました。 従ってそのアンプに少しでも混変調歪みがあると・・IMD特性が悪いと・・不要波が発生し妨害信号となって妨害を受けたチャネルの画質を著しく劣化させてしまうのです。
 そのためスーパーリニアな広帯域アンプが求められた訳です。その目的のために作られたのがこうしたスーパーリニアなトランジスタです。ですから上述のような受信機フロントエンドに使ってももちろん優れたIMD特性が期待できます。使い方は負帰還アンプ(NFB Amp.)を構成するのが定石です。HF帯ハイバンド用にローノイズを狙うのでしたらいわゆるNorton型ノイズレス・フィードバック形式のアンプで作るのもお薦めです。

 では早速、ネットで探そうと思われたかもしれません。探すのは結構ですが、ダマされないよう十分に注意してくださいね。 何しろプロでさえコロっと騙されてニセをつかまされたという話さえ聞きます。 おそらく中華通販ですぐ見つかるものはほぼ間違いなく怪しいものです。 手元に届くものはNPNトランジスタではあっても全く別の・・・同等の特性とは言えない「ごく平凡な石」に違いありません。たぶんオーディオアンプにでも使うチープな石でしょう。製造終了から年数も経過しておりホンモノの新品がそう易々と見つかる筈もないのです。

 Amp.を作り2信号を加えて測定すればすぐわかりますが、それをせず簡易な判別も可能です。 方法を書いて対策されても困るのでやめておきますが手に入れた石がどうしても気になるならお問い合わせでも。ただし興味本位のご質問はおやめください。

                ー・・・ー

 なお以下は私見です。2SC1252は確かに素晴らしい石ですがそれが全てではありません。写真右の2SC1592も同じような目的の石で既に使った実績があります。 前回のBlog「DDS-VFO」(←リンク)で出力アンプに使った2SC2407もパッケージ違いの2SC1592同等品でした。 最初にあった受信機フロントエンドの写真に写っていた2SC1164もCATV用のトランジスタです。一つの型番だけにとらわれずカタログから探せば目的に適した石が発見(発掘)できるはずです。いまでは表面実装タイプもあります。従って見る目さえあれば怪しいブツをつかまされる恐れもありません。

 それに2SC1815だって何本かパラってやり、リニアリティの良いバイアスで使ってNFBアンプを構成すればかなりイケます。もちろんfTが低いのでフラットな周波数特性こそ望めませんが目的を絞ればそれなりに使えなくもないのです。(笑)

FETのRF-Amp.も有望だ
 そうは言っても「ヤッパリFETでしょう」と言う貴局に受信機のフロントエンドに向いたRFアンプを紹介しておきます。

 J-310や2SK125をゲート接地で使ったRFアンプもなかなか優秀です。見てきたモダンなフロントエンドでも使用例が見られました。

 ゲインを稼ぐのでしたら前のBlog(I-F Amp.第3回←リンク)で紹介した簡易フロントエンドのようなソース接地型のアンプも良いものです。シンプルでありながら悪く無い性能が得られるからです。 実際にフルサイズのHAM用アンテナを繋いでテスト受信していて困るような状況には遭遇しません。

 もちろんFETを使ったRFアンプにも上を目指せば別の世界があります。図はそうした一例を紹介するものです。ご覧になるとわかりますが、IP3が>40dBmとも>50dBmとも書いてあります。(40dBmは10Wですし、50dBmなんか100Wですからねえ!) J-310のような小信号用のFETではなくパワーFETを受信機のRFアンプに使おうと言う試みです。 NFBのかかったアンプ形式で使います。ドレインに20V以上も掛け0.5Aとか0.7Aも流すのですから、もうこれは小信号増幅器ではありませんね。立派なパワーアンプな訳です。NFBの掛かったA級増幅器ですからリニアリティが良くて大きなIP3が得られて当然でしょう。(注:実際にパワーが出るので後続のMixerを燃やさぬよう気を付けないと・・・)

 一般的にパワーが大きなデバイスを微小信号の増幅器に使うと高周波特性の点で満足できないことが多いものです。こうしたFETも大きなチップ面積を持っていて大電流が流せるように作られています。 しかしFETの場合、原理的にPNジャンクション(PN接合)を超えて流れる電流に起因するショット・ノイズはありません。チャネル部分に抵抗性のノイズがあるだけですから意外に悪くないNFが得られます。ゲインもそれほど必要としませんのでローノイズでひずみ特性に優れた受信機用のRFアンプとして十分通用する訳です。

 回路にはいくつかのバリエーションがありますが、ここではソース接地型でゲートに負帰還をかけたタイプを紹介しておきました。メガネ型コアの広帯域トランスを使ったノイズレス負帰還型アンプです。 デバイスにSiliconix社のVMP-4を使うのが定番でした。しかしVMP-4の入手が難しい状況になり現在では他のRF用パワーFETで試みられるようになっています。 ただ、何れにしても高価で入手しにくいデバイスですから将来にわたって一般化することはないでしょう。

                 ー・・・ー

 ところで、こうしたRFアンプが本当に必要なのか疑問に思っています。絶対にへこたれないようなRFアンプには違いありませんが、IP3=50dBmは本当に必要なのでしょうか? だってそれに応えられる様なミキサーはほとんど存在しないでしょう。Di-DBMでは特殊なものでもIP3=+30dBmくらいまでです。普通の構成のDi-DBMではIP3=+15dBmが良いところです。 それ以上ともなると、Quad D-MOS FETのスイッチングタイプや例のH-Mode DBMくらいしか思い浮かばないのです。 そして、超強力なミキサを用意したところで、そのアウトプットに耐えられるようなI-Fフィルタ(クリスタル・フィルタとか、メカフィル)は存在しないのですからナンセンスと言うものです。せいぜい可能なのは信号を二手に分けてフィルタの負担を半分にする対策くらいです。

 絶対強力なRFアンプは精神衛生上宜しいのかもしれません。自慢の種にもなりそうです。しかし受信機のRFアンプが常に放熱器が熱くなるほど電力を喰らうようではエコでないし意味があるとは思っていません。何事も程々がよろしいです。各回路部分の性能的なバランスも大切です。

馬力のあるFETを使うこと
 しかしどんな物か作ってみたくなるのも実験派としての心情と言うものです。 使えそうなデバイスを記念撮影しておきました。

 V-MOS FETのVMP-4はたまたまバラしたプロ用の広帯域アンプに入っていたものです。そうでなければ手に入らなかっただろうと思います。 中古品ですから劣化が心配でしたが問題なさそうです。 受信機用のRFアンプではなくて送信機に使おうかと思うこともあります。そちらが本命の用法だとは思うのですが、IP3>50dBmの誘惑に負けてしまうかもしれません。作ってみたくなります。(笑)

 左端のКП903Б(KP903B)と言うFETはたぶんロシア製でしょう。あるいは旧共産圏のどこかで作られたものかもしれません。これはJH9JBI:山本さんに頂いたものです。 ジャンクション型のFETなのですが準パワーFETと言える仕様です。 ネットで探してみたらロシア語圏のHAMが受信機のフロントエンドに使っている製作実例が見つかりました。詳細な評価データはないのでIMD特性まではわかりませんが意外に有望かもしれません。今の世界情勢を考えると入手には不安もありますが、実際には案外簡単に手に入りそうです。

 右の大きなPower FETは2N6656でSiliconix製のVMP-1と言う有名な石に類似しています。 調べてみたらVMP-1(=2N6657)より少しだけドレイン耐圧が低いだけであとは同じようです。VMP-4のようにRFに向いたパッケージではありませんがHF帯で使うなら大差ないでしょう。先人のテスト結果によればHF帯の広帯域アンプとして十分行けそうに思います。

 実例としてVMP-1(=2N6657)はJR1ING菊川OM(故人)の14MHzトランシーバに使用例(HAM Journal No.45)がありました。受信のRFアンプとしてのみならず送信のパワーアンプにも使う設計です。 写真の2N6656は内臓されたゲート保護用ダイオードの関係でAB級やC級のアンプには適しませんがA級増幅器で作る受信アンプには向いています。 かなりパワフルであってドレインに24V掛けると14MHzで15Wくらい出ました。ただしこれは歪みを考慮した使い方ではないのですけれども。

 必要以上のIP3は意味がないと言う話で水を差してしまいましたが、高IP3を狙うのも一興と思います。いずれ自身でもやってみたいものです。たとえ実用上の意味はない数値としてもそれはそれとして。(笑)

参考:高ダイナミックレンジなフロントエンドの製作記事がQST誌1993年2月号pp23〜28にあります。RFアンプにPP型ノートンアンプ(但しBJTですが)を使い、Quad D-MOS FETのSWタイプミキサを使ったものです。 製作は大変かも知れませんが、より高性能なフロントエンドを目指すお話として興味深く「眺め」ました。なお、記事中のRFトランスの結線に位相のミスがあるらしいです。正帰還になるそうですから真似るならご注意を。

Mixerを考察
 日本の雑誌から受信機のフロントエンドの話題を一つ紹介しておきます。
 これはラジオ技術誌のBCL/SWLコーナーに連載されていた記事です。小山正希さんというお方の執筆です。連載で高性能な受信機製作がテーマになっていて左の号ではDi-DBM以外のミキサに関する考察がテーマです。

 いくつかはRFアンプなしのダイレクト・ミキサ形式になっていて、高性能な受信機を実現する一つの方向だと感じさせてくれます。
 実際、HF帯のLow-BandではRFアンプなど必要ありません。 十分なイメージ比が得られれば良く、あとはできるだけNFが悪くならぬよう低損失に作るだけです。そうすれば大入力特性も向上します。 何しろ存在しないRFアンプは歪みの原因にはなりませんからね。(笑)

 記事の中では「7360ではない」真空管式のミキサに興味を持ちました。 内部抵抗の低い三極管を使い十分なプレート電流を流してやり、スイッチング的に動作させれば高性能が期待できるでしょう。 確か以前OMさんが類似回路で実験されたと言うお話を伺ったことがありましたね。 1stミキサにも様々な形式があるわけです。 受信機のフロントエンドとは奥深いものなのです。

入力フィルタもポイント
 アッパーコンバージョン形式が全盛になってから、入力部にチューナブルな同調回路は置かない設計が多くなったように思います。 流石に1〜30MHzのような、まったくの広帯域では危険があるので分割したバンドパス・フィルタを置く形式が一般化しました。高級機ほど細分化される傾向にあります。

 しかし、バンドパス・フィルタ形式には何となく「頼り無さ」が感じられるものです。やはりRFの同調回路は受信信号にきっちりと同調させてやりたいものです。ちょっと古い考えかもしれませんけれど。

 図はRSGBの機関誌:Rad-commのコラムを引用したものです。この記事の大元はQST誌にあるようですが製作の勘所など話がコンパクトにまとまっています。 同調形式のフロントエンド用フィルタを作るのでしたら、Cohn minimum loss型は比較的作り易いように見えるのですが・・。 しかし実際にはQが十分高いコイルが必須とあって、なかなか難しい現実もあるのですけれどね。hi

 十分にQが大きなコイルを使わないとインサーション・ロス(通過損失)が大きくなってしまいます。だいたい150以上のQuが必要なようで、そのようなコイルを使って初めて6dB程度のロスで済むようです。 ロスが少ないことは重要なのですが、HF帯Low Bandなら6dBが10dBくらいでしたらまあまあ我慢どころかも知れません。 あまり難しく考えないでチャレンジするのも良さそうです。

 以前、似た回路を3.5MHzの受信機に使ったことがあるのですが、まずまず良好だった印象があります。今でもミディアムグレードの自作受信機には悪くない選択だと思っています。受信周波数を変える都度、RFの同調を取り直す手間はありますが、かえって精神衛生上も良いわけで安心感のある受信操作です。(笑)

エアバリだろうか?
 Cohn minimumu loss Filterを作るならエア・バリコンが欲しくなりそう。

 3連あるいは4連のバリコンが良いだろう。 写真手前はAM/FM用ですがFM用セクションは等容量の3連型です。見たところでは、一番左のセクションだけ極板間隔が広いため容量が異なって見えます。しかし容量特性を実測したら他の2つとまったく同じでした。 Cohn minimumu loss型フィルタに支障なく使えます。 ギヤ付きで減速されていてFBなのですが1段ギヤなので回転方向が逆になります。右回転で容量が増えるので同調周波数が下がります。 これを気にせず使うか、もう一段ギヤを使うか糸掛式で方向転換すると良いのかも知れません。(面倒だね・笑)

 Cohn minimumu loss型フィルタは4連のバリコンがあればもう少し楽なコイル製作で済みます。同じインダクタンスを持ったコイルを4つ用意すれば済むからです。 3連バリコンでは中間のコイル2つは2倍のインダクタンスが必要です。これは3連バリコンの中間セクションを一つだけで済ませるためです。 もし4連バリコンなら途中のセクションをパラにして使えますから、どれも同じインダクタンスのコイルを巻けば済むのです。(注:まったく等価な回路になるわけではありません)

可変帯域ラダー・フィルタ
 今回の最後の話題になりますが通過帯域幅可変型のラダー型フィルタを紹介しておきます。

 LSB型ラダー型フィルタの場合、水晶の接続点とGND間に入れる容量(結合容量と言います)を可変すれば可変帯域幅のクリスタル・フィルタになります。 実際にバリキャップを使って可変してやると思った以上にうまく行きます。 厳密なことを言えば終端インピーダンスも可変しなくては不整合になってしまいます。 しかし変化範囲の中心付近に当たるインピーダンスで終端しておけば意外に支障なく使えます。

 図のラダー型フィルタは上の方で紹介した真空管(PCC189と7360)をフロントエンドに使った受信機で使われているものです。フィルタ切り替え式ではなく選択度可変型のI-Fフィルタを採用する例は珍しいと思いました。しかも高性能を狙って管球式のフロントエンドを構成しているくらいの受信機ですからね。

 基本はクリスタル3つの帯域フィルタを3段重ねにした形式のようです。 その最終段の部分のコンデンサを2連バリコンで可変することで可変帯域特性を得ています。2連バリコンはBCバンドラジオ用のトラッキングレス型が適するとのこと。 実際にどんな特性が得られているのか文書ではなくて特性図で見たい気がします。 機会があれば実験してみたいフィルタの一つです。幸いにも同じように使えそうな水晶発振子も見つかりました。

4433kHzはクロマ用水晶
 4433kHz(正確には4433.619kHzです)の水晶発振子はPAL方式のカラーTVで使われていたものです。日本のようなNTSC方式のカラーTVでは3579.545kHzが使われていましたが同じような用途の水晶発振子でしょう。

 日本ではPAL方式は使われていませんから縁がないように思いがちです。しかし家電が輸出の花形だった時代、日本の各社はカラーTV(アナログ式)やVTRをヨーロッパ向けに量産していました。当然PAL方式でした。
 そのお陰でしょう4433kHzの水晶発振子も意外に見かけるようです。 ただアナログ方式のTVやVTRは遠い過去の家電製品です。これから大量にジャンクが出てくる可能性はないかもしれません。しかし用途不明でジャンク屋に転がっている可能性もあります。気にかけておくと手に入ることもあるでしょう。レポートによれば周波数はよく揃っているそうですからラダー型フィルタ向きですね。 周波数がHz単位まで表示された水晶発振子です。周波数の管理は相応にタイトなのかもしれません。(ジャンクですから確認が必要でしょうね)
 もちろんI-Fフィルタは他の周波数で作っても良いのであまりこの周波数にこだわっても仕方ないかもしれませんけれど。

                   ☆

 フロントエンド特集は如何でしたか? たいそうな設計のフロントエンドを作ろうとは思っていませんが、どのような物があったのか少し掘り下げて振り返ってみました。 RF Amp.なんて、たかだか10dB(3倍少々)とか20dB(10倍)と言ったローゲインのAmp.にすぎません。 やたらとRF-Amp.ばかりに血道を上げても仕方がないのかもしれませんが、この部分は高性能受信機の自作マニアにはなかなか人気があります。(笑)
 自身で作るものはまだ決まっていません。製作容易で実用性能なら「良し」としているので、大したもにはならないとは思いますがあれこれ思案するのは楽しいです。 そして何か面白そうなデバイスでもあったら使ってみたいものです。 ミキサーも既製品のDi-DBMばかりじゃなくってIC-DBMやQuad FET-DBMなんかも面白そうですね。さてどうしましょうか? ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)

第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器を作る→ここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用→いまここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ

2022年8月12日金曜日

Sunflower(ヒマワリ)

Photo : 2022.08.04 12:52 JST at Local Garden in Honjo City

2022年7月29日金曜日

Making a DDS-VFO

DDS-VFOを作る:私だけの受信機設計

DDSで作る多用途VFO
 今さらですが通信型受信機の3要素(3S)といえば「感度」「選択度」「安定度」です。ただ、昔と今の受信機ではそれぞれのウエイトはかなり違っています。

 例えば最重要視された「感度」は最近のデバイスを使い設計さえ誤らなければ容易に達成できます。まともな設計なら「感度不足」を心配する必要などないのです。

 「選択度」も水晶振動子の進歩でVHF帯に及ぶ周波数範囲で最適なフィルタが製作できます。フィルタの自作に於いても測定器と設計ツールの発展で先人が想像さえできなかったような画期的な状況にあります。 さらに最近はデジタル処理で任意の特性のフィルタが数値演算的に可能になっておりかつての受信機のような課題も無くなってきました。

 その一方で「周波数安定度」は一段と高度なものが求められています。音声(SSB/FM)や無線電信(CW)ならともかくデジタルモード(FT8など)では安定度の良いことが前提になっているからです。 従って簡易な無線機ならともかく様々な用途で普通に使える「通信型受信機」であるためには周波数安定度を「近代化」する必要があるでしょう。

 「私だけの受信機設計」・第8回ではDDSを使ったVFO(可変周波発振器)を製作します。 DDS-VFOの出力を受信機の局発(Local-OSC)としてミキサ回路に加えます。 そのため受信機の周波数安定度に直結しますから周波数安定度に優れた発振器が製作目標です。スプリアスが少ないことも重要です。DDS-VFOで注意した点など製作の過程を辿ります。

                   ☆

 先日、HAMの仲間とアイボールしたとき「ブレッドボード以外でも作るんですねえ!」なんて言われてしまいました。 確かにハンダ付けで「本格的らしく」製作した作品を見るのは珍しいかも知れないです。(笑)

 実験品ならともかく、やはりある程度実用的に使うものはきちんと製作しないとダメです。いくら上手に作ってもブレッドボードのままでは限界があるでしょう。
 今回のDDS-VFOも実験用ではありますが汎用の発振器として様々な目的に使うつもりです。要所はきちんとハンダ付けして作り「箱」にも収めました。バラックのままでは使い難いですからね。(このDDS-VFOはバラックだったものを箱に入れて纏めたもの)

 なるべく手間と費用を掛けず目的に合ったものを作るのが目標です。可能な範囲で手持ちの基板やユニットを活用します。自身の都合に合わせた設計になっていて、文字通り「私だけの受信機設計」です。ほかの人の役には立たない「プログラム・リスト」は省きました。(継ぎ接ぎだらけの『スパゲッティ状態』なのでお見せできません。笑)

 このDDS-VFOはごく簡単な機能だけで出来ています。肝心のDDS-ICの制御方法はAD9833やAD9834を扱う以前のBlogページ(←リンク)に書きました。 マイコンや書き込みツールを扱えるのでしたらニーズにマッチしたVFOの製作は難しくないでしょう。

 差し当たっての目的は受信機の局発(局部発振器:Local oscillator)です。 従って必要な周波数範囲がカバーされ、周波数が安定していればどんな発振器でも良いわけです。良質な部品の手持ちがあり板金工作のウデに覚えがあればLC発振のVFOを製作するのも面白いです。
 デジタルで行くならPICマイコンやarduinoを使った周波数コントローラを作るなり、DDS-ICの代わりにSi5351Aのようなチップを使う方法もあります。

 とりあえず製作中の「通信型受信機」の実験のために必要なのは7440kHz〜7640kHzの発振器です。50Ωの負荷に2Vppくらい(=10dBm)の出力があれば十分です。 もし局発を下側にとるのであれば発振周波数は6560kHz〜6760kHzでも構いません。

DDS Controler:DDSコントローラ回路図
 図はマイコン:ATmega328P-Uを使って、DDSチップ:AD9833の発振周波数をコントロールするための回路です。LCD表示器に受信している周波数がデジタル表示されます。なお、送受信の制御機能があります。送信モードに切替えると「表示周波数=発振周波数」になります。この機能を使えばごく簡単にCWトランシーバが作れます。

 図面左上部分にDDSチップ用のクロック発振器とDDSチップが載ったモジュールの部分回路が書いてあります。コントローラとの接続を明確化するためこの図面に置きました。

 そのクロック発振器とDDSモジュールはコントローラ部とは別体の基板上に搭載されています。(後述)

 マイコンを使ったDDSコントローラは過去のBlog(←一例にリンク)に何度となく登場しています。 DDSモジュール上のDDSチップ:AD9833に発生すべき周波数のデータを送るのが主な機能です。周波数の可変はロータリ・エンコーダを使いアナログチックに行ないます。 これは受信機の受信周波数を操作するとき最もやり易い方法だからです。 数値的にインプットする方法も可能ですが、バンドを隅からワッチして行くと言った扱いにはアナログチックにダイヤル操作する方法が優っているでしょう。テンキーで数字をインプットするなどと言うのではナンセンスです。

 マイコンチップは何でも良いです。ここではAVRマイコンのATmega328P-Uを使っています。以前のBlogではmega8を使っていましたがチップを乗り換えました。 マイコン自身はチップに内蔵のクロックで動作しています。その方が周辺回路に及ぼすクロックの漏れは少なくて済みます。

 表示器には青色のバックに白抜き文字のLCDを使いました。16文字2行のタイプです。制御はパラレルで4ビットのモードで使っています。 最近は同じAVRマイコンでもarduinoを使う人が多くなっています。その場合は同じようなLCD表示器でもシリアルインターフェースのものを使います。自身が使うコントローラに合わせた表示器を調達します。

 なお、arduinoの互換品を作るわけではありませんが、製作には互換基板を自作するために販売されている部品未実装のプリント基板を「単なるマイコンボード」として流用しました。 この図面はマイコン周辺に接続するスイッチやボリウムなどへの配線を明確にするために書いたものです。互換基板の情報は次項に示します。

arduino互換ボードを活用する
 秋月電子通商で安価に販売されているarduino互換ユニット製作用のプリント基板を流用しています。この基板は28ピンのATmegaX8シリーズのAVRマイコンならどれでも使えます。
 たぶんarduinoの互換品を作るならATmega328P-Uが良いでしょう。しかしこのDDSコントローラに使うだけならATmega8やmega48、mega88、mega168でも支障ありません。これらのATmegaチップのピン配置は基本的に互換だからです。意外に幅広く活用できる基板です。(2022年7月現在、基板は単価150円で販売されています)

 マイコン基板とは言っても、電源のレギュレータや幾つかの部品が実装されるだけです。しかしマイコンのI/Oポート(接続端子)は全て引き出されていますし、コネクタが実装できるようになっているので便利に使えます。ぜんぶ手配線するより楽なので流用しているわけです。LCD表示器やDDSチップとの接続にも基板周辺に装着されたコネクタを使います。

 LCD表示基板やDDS発振モジュールとの接続には端部にピンヘッダが付いた既製品のワイヤを多用しています。従って配線替えも簡単にできます。

 左図は以前のBlog(←リンク)で既出ですが一部をアップデートしてあります。この図には各I/Oポートの接続先が具体的に記載されていますのでモジュール/基板間の布線確認用に使いました。

LCDは青色・白抜き文字型
 この写真も既出です。マイコン基板とLCD表示器の接続テストをしているところです。

 DDS-VFOの筐体内部に収めたのも基本的にこれと同じものです。 表示器には写真のような青色バックに白抜き文字のLCD表示器を使っています。 先ほど登場したコントローラ部の回路図もこのLCD表示器を使うように書き換えてあります。

 以前の定番にしていたLCD表示器はバックライトが暗いためたくさん電流を流す必要がありました。明るいところならバックライト無しでも視認できると言ったメリットはあるのですが既に旧式なので使うのはやめています。 最近は写真のような青色バックに白抜き文字のLCD表示器が安価に出回っています。バックライトの白色LEDの発光効率が良いため少ない電流で十分なコントラストが得られます。

 残念ながら、ここで使ったLCDモジュールのバックライト用LED(白)は劣化が早いようです。連続点灯させると半年もせずに変色と輝度低下が見られます。 例えば時計のように連続して点灯させる機器にはもう少し良い表示器が欲しいでしょう。しかし安価なので止むを得ない感じですね。それに時々使うような機器ならほとんど支障は無いと思いますが。

中国製のロータリ・エンコーダ
 DDS-VFOの操作性を決めるロータリ・エンコーダは中国製のNC制御用と称する物を使いました。

 このエンコーダは1回転あたり100ステップです。以前から使っている1回転24ステップのエンコーダよりも早いダイヤル送りが可能なので受信機に使うと操作性が良くなります。 しかもパルスエッジ検出方式で使い1回転あたり400ステップとして使います。

 1ステップあたりの回転角は360/400(度)なのでわずか0.9度になります。 操作がクリチカルにならないか心配しましたが、ツマミの直径がわりあい大きい(約47mm)ので支障はありませんでした。むしろクイックなダイヤル送りが可能になって使い易さがアップしています。(参考:かなり早めに回したとき幅2mS程度のパルス波が出力される。A/Bの2相を使った4倍速なのでマイコンのUP/DOWN処理は500μS以内に行なう必要がある)

 従来使っていた安価なロータリ・エンコーダでは4倍速に改造しても1回転あたり96ステップにしかなりませんでした。そのため周波数を大幅に変えるにはダイヤル・ツマミをたくさん回す必要がありました。基本は10Hz/Stepなのですが、それを補うためダイヤルスピードを100Hz/Step、1kHz/Step、20kHz/Stepに切り替えるスイッチが設けてあります。
 この中国製エンコーダを使ったことで100Hz/Stepの切り替えは不要になったくらいです。バンド幅が狭いHF帯ローバンドの受信機なら実用上スピード切替はなくてもあまり不便に感じません。 送料込みで単価¥1,000-〜¥1,500-ですから中華モノとしては多少高価な部品です。しかし作りもしっかりしているのでメリットは大きいと思っています。このロータリ・エンコーダには+5Vの電源を与えて使います。(6端子型と4端子型の2種類がありますが4端子型を選びました)

                 ー・・・ー

クリックなし改造方法
 購入したままではクリック付きの100ステップ型です。このDDS-VFOに使うにはクリックを外す必要があります。改造方法は以下に示しますが、わかってやれば簡単にできます。

 改造はダイヤル・ツマミの側から行ないます。(黒い裏面には手をつけません)
 まず、突き出ている早送りノブを外します。続いてツマミの表面に接着されている薄いアルミの飾り板を曲げないよう上手にはがします。両面粘着テープで貼ってあるので少々やり難かったです。
 飾り板を取り除くとネジの頭が3つ見えますのでそれを緩めて取ります。ネジでツマミの部分と目盛のある傘状の部品が一緒に止めてあります。ツマミと傘を除くと「クリック機構」を覆っている細い円弧状の薄い金属製のカバー板が見えてきます。

その薄い金属製カバー板は持ち上げるとわりと簡単に取り除けます。 その中にクリック感を作り出す「ピン」と押さえの「板バネ」が見えるでしょう。φ1.4mm長さ3.5mmくらいの小さな「ピン」をピンセットで引き抜いて取り除けばクリックなしへの改造は終了です。
 板バネはそのまま残しておいて支障ありません。「ピン」を除くだけでOKです。また金属製カバー板は外したまま元に戻さなくても大丈夫でしょう。あとは逆の手順で組み立てれば完了です。
 これでクリックなしのロータリ・エンコーダになりました。改造にあたってJA6IRK/1岩永さんにFBな情報をいただききました。有難うございます。

 簡単な改造ですから失敗しないと思いますが自己責任で実行してください。もちろんそのままクリック付き100ステップのダイヤルとして使っても良いのでお好みで改造されてください。(クリック付きダイヤルのまま使うにはマイコン・アプリも関係しますが詳しいことは省きます)

 このロータリ・エンコーダはパネル面にφ42mmの大きな穴を開ける必要があって少したいへんでしたが奥行きが浅いので厚みのないシャシに収容するには最適でした。

                   ☆


出力アンプ部回路図
 DDSチップ:AD9833の出力は-15dBmくらいです。これは50Ωに変換した後の大きさです。(50Ωの両端に110mVppくらい)

 受信機のミキサ回路に与えるには小さいためパワーアップする必要があります。 汎用の発振器として使うにももう少し大きな出力が欲しいところです。 またAD9833の出力そのままでは折り返しスプリアスが含まれているので、必ずLPF(ローパスフィルタ)を補う必要があります。 ここで使用したAD9833:DDSモジュールとその具体的な使いかたについては以前のBlog(←リンク)に情報があります。

 AD9833は基準となるクロック信号が不可欠です。このDDS-VFOでは81MHzの発振器によって得ています。AD9833に外付けでクロック信号を与える話はこちら(←リンク)にあります。
 AD9833のようなDDS-ICでは実用的な上限周波数はおおよそクロック周波数の40%程度までです。 ここでは81MHzのクロックを与えていますから上限は32.4MHzくらいになります。 ローパスフィルタ(LPF)はその周波数に合わせて設計します。クロック周波数に依存するわけです。 実際にはやや内輪の、カットオフ周波数が30MHzのLPFを使いました。 単なるπ型のLPFでは遮断特性が悪いため有極型で帯域外減衰特性の良いフィルタを作ります。 手持ち部品の都合で設計値を幾らか丸めて作りましたが必要とする性能は十分に得られています。

 LPFの後のアンプには「広帯域アンプ」を使います。 アンプ初段にはNECの広帯域アンプ用MMICであるμPC1651Gを使いました。既に旧式ですが手持ちの都合です。 ゲインは十分なのですが小さな入力でも出力に非対称歪みが見られるようです。 従って図の回路定数よりも*1の部分のアッテネータを大きくする方が好ましいでしょう。 現状は3dBのアッテネータですがこれを6〜8dBくらいにして入力を減衰させると良いです。もちろんその分だけ出力のパワーは低下します。
参考:μPC1651Gの代替方法:現在はBGA2851/NXPセミコンダクタ製などがお薦めできます。秋月電子通商で単価20円で買えます。ゲインの違いはATTで加減できます)

 μPC1651Gのままでは出力0dBmくらいが上限です。 さらにパワーアップのために2段目にはfTの高いトランジスタを使って広帯域アンプを作りました。使った2SC2407(NEC)は500MHzにおいて5mW入力で160mWが得られると言うパワフルな小電力用トランジスタです。 他にも適当なトランジスタはたくさんありますがこうした広帯域アンプにはfTの十分高いものを使うのが秘訣です。2SC1815の様な汎用品では目的に合ったものになりません。
 この設計では放熱を考えてセーブした使い方になっています。 コレクタ電圧10Vでコレクタ電流は30mA流しています。これでだいたい出力電力:Po=50mWまでがリニアな動作範囲になっています。

 ゲインはμPC1651Gで17dB、2SC2407のアンプが21dBです。途中には6dBのアッテネータが入っています。 他にLPFなどのロスもあってアンプ全体のゲインは31dBくらいになりました。(@10MHz)
 DDS-VFOの出力は約+16dBmです。(16dBm≒40mW:50Ω負荷に4Vpp) これくらいパワーがあれば受信機のミキサ回路には十分です。 実際には数dBのアッテネータで減衰させてから受信機のDi-DBM:ADE-1に加えることになります。

 この回路図には記載が漏れていますが+10Vの電圧を作るために3端子レギュレータを使っています。これはこのアンプ部に安定した+10Vを供給するためです。3端子レギュレータには500mAタイプの78M10を使っておりシャシ底面に放熱を兼ねてねじ止めしています。もちろん1Aタイプの「7810」でもOKです。 DDS-VFOのメイン電源には外付けのACアダプタを使っていてDC12〜15Vで300mA程度のものが必要です。通信機に使うことを考慮してスイッチング型ではなくトランス式のACアダブタを使いました。

出力アンプ部で使うコイル
 製作を思い立って面倒に感じたのがコイル巻きです。嫌いではないのですがやはり手間に感じます。

 最初は75MHzのクロック発振器を予定していました。写真の7mm角コイル①はその75MHz用に巻いてあります。(使いませんでした) その後、基本波が27MHzのクリスタル(水晶発振子)が見つかったので81MHzに周波数変更しました。(27MHzx3=81MHz)

 写真にありませんが81MHzの発振器に使ったコイルはトロイダルコア:T25-#10に巻きました。1次側10回で2次側が1回巻きです。巻線はφ0.32mm/UEW線(ポリウレタン電線。ウレメット線とも言う。2UEWと称する物でOKです)を使いました。ちなみに1次側のインダクタンスは0.2μHです。 7mm角のコイルからトロイダルコアに変更したのは組み込みの都合です。基板上の部品の高さを抑えたかったからです。7mm角のコイルでは寝かせて実装せねばならず、そうすると調整が厄介です。

 AD9833を使った小型DDSモジュールにローパスフィルタ:LPFは載っていません。必ず外付けして使います。 そのLPFの設計はDDS発振器に与えるクロック周波数が出発点になります。 出来るだけクロック周波数が活かせるような設計にするわけです。

 上述の通りカットオフ周波数が30MHzのLPFを作ります。LPFに使うコイル(3つ)には適当な既製品がないのでトロイダルコアに巻いて自作します。 1.1μHと0.91μH (2つ)のコイルが必要です。 コア材はT25-#10でφ0.32mm/UEW線を巻きました。 L1用の1.1μHが23回巻き、L2、L3用の0.91μHが21回巻きです。 巻線が重ならぬようにして円周全体に均等に巻きます。使用したコア材の#10材は高い周波数向きでVHF帯まで使えるものです。

 メガネコアに巻いてあるもの②は巻数比が2:1のRFトランスです。 BN-43-2402というコア材に1次側が6回で2次側は3回巻きます。φ0.16mm/UEW線を巻きました。フェライトの素材は#43材です。このメガネコアは秋葉原の東京ラジオデパート3F:斎藤電気商会で手に入ります。
 RFトランスのインピーダンス比は巻き数比の2乗になります。従って負荷となる2次側が50Ωですから200Ω:50Ωとなります。DDSチップ(AD9833)の出力インピーダンスが200Ωなので50Ωへのインピーダンス変換に使います。 このトランスはおおよそ100kHz〜30MHzでフラットな周波数特性が得られるでしょう。巻き方はトリファイラ巻きではなく1次と2次が独立です。トリファイラ巻きが理想ですが配線の引き出しを考えて別個に巻きました。

 もしメガネコアが手に入らなければフェライト・ビーズ:FB-801-#43にトリファイラ巻きしたトランスが同じように使えます。φ0.16mm/UEW線を3本よじったトリファイラで6回巻いて作れます。

出力アンプ部は低背に作る
 このDDS-VFOは使用の便を考えてタカチのYM-200型薄型ボックスに組み込みました。平置きして使いやすいようにしたかったのです。

 そのため配線基板を収納するのが厄介になってしまいました。 はじめにパネル面のデザインを考えてスイッチや表示器のレイアウトを決めたので回路基板の配置が難しくなったのです。

 特にDDSモジュールとLPFなどを含むアナログ回路の組込が課題になりました。 検討の結果、シャシの底面側に直接取り付けてなるべく背丈(厚み)を抑えるようにすれば収納可能そうでした。

 写真のように高さが10mmを超えないように作ります。 DDSモジュールはAD9850を使った物も候補でしたがなるべく薄型にということでAD9833を使った小型モジュールになった訳です。 このAD9833のモジュールは写真のように小型で薄くできています。 こうした組み込みにはうってつけでした。

 ただしAD9833のDDSモジュールは購入したままだと25MHzのクロック発振器で動作します。 そのままでは発生周波数の上限は10MHzあたりになってしまいます。 とりあえず7MHzの受信機のテストには使えるのですがDDS-VFOとしての汎用性が損なわれます。なるべく高い周波数まで使えるよう外付けの発振器からクロックを与えることにします。(モジュールに実装済みの25MHzオシレータは除去します。詳細は以前のBlogで。←リンク) 外付けクロック発生用の27MHz水晶発振子(基本波)は寝かせて取り付けてあります。2SK19Yを使ってオーバートーン発振させ81MHzを得ています。

 トランジスタも寝かせて実装をすればより薄く作れます。そこまでの必要はなさそうなので写真のようになっています。 出力部のトランジスタを銅箔に放熱すればより大きなパワーが取り出せますがDDS-VFOとして必要は感じません。この程度で十分でしょう。

DDSクロックは81MHzで
 以前のBlog(←リンク)にも書いていますが専用の水晶発振子でなくてもオーバートーン発振は可能です。 ここで使用した発振子は27.000MHzのものです。なお、27MHzの水晶発振子には3次オーバートーンで27MHzを得る物があって、それは今回の目的には使えませんので注意が必要です。基本波が27MHzの水晶発振子が必要です。(参考:3次オーバートーンの27MHz水晶発振子は9次のオーバートーン発振が可能かもしれません。但し発振はだいぶ弱いでしょう) 27MHzの基本波水晶発振子が入手困難なら25MHzの発振子でも良いです。25MHzの方が入手し易いでしょう。その場合DDSのクロックは75MHzになります。

 27.000MHzの3倍は81.000MHzですがオーバートーン発振させると発振周波数に誤差を生じます。オーバートーン用に作られた発振子ではないためで、写真のように約74kHzの誤差が出ました。(約0.1%の誤差) マイコンをコントローラとして使ったDDS-VFOの場合、周波数の誤差は演算によって数値的に補正してしまいます。従ってDDSクロックに発振周波数の誤差や端数があっても支障はありません。もちろん発振周波数の調整も必要ありません。要は実際の発振周波数がわかっていればOKです。

(参考:実際には初めにクロックに誤差なしとして所定の周波数を発生させます。その発生させた周波数を周波数カウンタで精密に読み取ってクロック発振器の誤差を推定する方法が合理的です。実際にそうしました。さらに周波数を微調整する機能も持っているので少しならアナログ的な補正もできます)

 しかし周波数の変動があると補正するのは容易でないため気になりました。 周波数カウンタを接続してしばらく観察していたら変動は数ppmに収まりそうです。 ちなみに1ppmの変動は1MHzにおいて1Hz、10MHzなら10Hzです。

 なお、このDDS-VFOの刻みは最小で約0.302Hzです。(0.302Hz ≒ 81.074MHz/ 2^28) 従って、最大でその半分の約0.151Hzの設定誤差が起こり得ます。しかし0.151Hzの誤差ならSSB/CWにおいてはまったく問題になりません。それにそんな僅かなズレなどわからないでしょう。更にデジタルモードでも支障はないと思います。(・・と言っても実際にはダイヤルは最小で10Hz/Stepの設定ですから条件によっては±5Hzの同調誤差が出ます・笑) むしろ周波数変動(ドリフト or QRH)の方が問題かも知れませんね。

 DDS-VFOとして7MHzを発生させ観測していると15〜20Hz程度の初期変動がありました。電源ONの直後から30分経過後における変動量です。 その後は数Hz以内の漂動にとどまるようです。 DDS用のクロック発振器(81MHz)は単なる水晶発振器であり、TCXOやOCXOではないのでこの程度の変動はやむを得ません。それでもVFOとしてはLC-VFOや可変範囲を欲張ったVXOとは比較にならないくらい安定です。SSB/CW用通信型受信機の局発と考えれば満足できる周波数安定度でしょう。

 WSPRやFT-8のようなデジタルモードの受信機には少々物足りなさもありますが一般的な発振器(VFO)としては問題ありません。この先実際に使って様子を見たいと思います。 もしもこれ以上を望むなら外部から安定な周波数基準を与えると言った方法があります。 あるいはTCXOやOCXOを内蔵しそれを逓倍してクロックにすると言った方法になります。 それはちょっと大げさで別の意味の製作になってしまいますね。

DDSで作った汎用VFO完成
 一連の受信機の開発・試作では必要のつど既製品の発振器を使っていました。 しかしそれでは大げさですし、IF周波数分の表示オフセットを与えると言った操作はできません。 どうしても不便がありました。

 しかしシャシ加工を行ない回路を組み込んでDDS-VFOを作るには相応の努力を要します。 特に板金加工は苦手です。なかなか腰は重かったのですが他の事情もあって製作に踏み切りました。

 出来上がってみますとやはり便利です。 もともと受信機やトランシーバの局発回路を考えてありますから使いやすいのは当たり前でしょう。用途に応じてプログラムだけで変幻自在なのも便利です。書き込み用コネクタを設けたので「箱」を開けずに書き換えできます。 得られた信号のC/Nもまずまずで妙なスプリアス受信も感じません。今さらながら作って良かったと思います。

 組込み用VFOとしての機能試験も兼ねています。自作の受信機やトランシーバにも適当そうなので次回の製作は違った構造で作ることになるでしょう。 製作例のように平べったく作るには少し工夫が必要でしたね。hi

 以下はDDS-VFOの使い方メモ。
(1)前回Blog(I-F Amp.第3回←リンク)の簡易フロントエンドでの使用を想定。
(2)ミキサーのADE-1には8〜10dBのアッテネータで減衰させて与えること。
(3)受信モードにおいて出力信号の周波数はLCDに表示の周波数+中間周波数(440kHz)である。従って製作中の受信機ではLCD表示周波数=受信周波数。
(4)局発を上側に取った差のヘテロダインゆえSSBはサイドバンドが反転。
(5)送信モードでは「発振周波数=LCDの表示周波数」になる。RITの値=ゼロである。
(6)周波数範囲は100kHz〜30MHz。ソフトウエア的にリミット。Po=約16dBm/50Ω。
     ・・・以上、自身の備忘として。

                   ☆

 どなたかが「受信機はフロントエンドができれば完成のようなもの」と仰ったとか。 昔の話ですから、たぶんその受信機のフロントエンドというのはRF部だけでなく局発を含んだものでしょう。 確かに「そこ」が出来上がればあとはI-F Amp.以降になります。 周波数は固定していますし、ひたすら増幅すれば良いので完成も近づいたでしょう。

 実は「私だけの受信機設計」ではフロントエンド部分の心配はあまりしていませんでした。もちろん、RFアンプなどに課題もあります。ですが少なくとも「局発」の部分はすでに確立しています。昔の受信機において(大いに)問題だった周波数安定度の心配はいりませんからね。

 次回はもう少しVFO(局発用)の話になるかもしれません。RFアンプなど含むフロントエンド部も考えていますが・・・。AFフィルタ付きの低周波部もまだでした。 ではまた。 de JA9TTT/1

つづく)←リンクnm

私だけの受信機設計・バックナンバー】(リンク集)

第1回:(初回)BFO/ビート発振器の回路を検討する→ここ
第2回:BFO/ビート発振器の実際と製作・評価→ここ
第3回:プロダクト検波器の最適デバイスと回路を研究する→ここ
第4回:プロダクト検波器の実際と製作・評価→ここ
第5回:I-F Amp.中間周波増幅器のデバイスと回路の検討→ここ
第6回:エミッタ負帰還型AGCで高性能I-F Amp.を作る→ここ
第7回:I-F Amp.増強とPIN-Di詳細/(含)簡易フロントエンド・IF-フィルタ→ここ
第8回:DDS-IC・AD9833で周波数安定で便利な局発用発振器→いまここ
第9回:高性能フロントエンドで活きる最適デバイスとその活用の実際→ここ
第10回:フロントエンド・Bus-SWとハイレベルDiミキサを比較する→ここ
第11回:古いAM/FMチューナが高性能なプリミクスVFOに大変身→ここ
第12回:音色が良いAF-CWフィルタと低周波アンプを作る(最終回)→ここ

2022年7月14日木曜日

Yama-Odamaki(黄花ノ山苧環)

Photo : 2022.07.11 17:20 JST at Mt.Ougatou / Utsukushigahara in Matsumoto City