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LM-21型・米海軍用ヘテロダイン周波計とは】
既に、シャックにはGPS周波数基準器やルビジウム原子周波数標準器が入っています。 いまどき『ヘテロダイン周波計』でもないかもしれません。
ところが、意外に人気があるらしいので少しだけ紹介してみることにしましょう。
左の写真は米海軍の『
LM-21』と言う、ヘテロダイン周波計です。 この『LM型』は米海軍の標準的な装備品だったようで、長いあいだ継続生産され、マイナーチェンジ版が多数存在しています。 それらの中でLM-21は最後期型らしく性能的にも完成しているようです。
日本のHAM局には米陸軍用の
BC-221(→参考
リンク)の方がポピュラーだったようですが、回路を見ると基本的に同じようなものでしょう。 なお、BC-221はMetal/GT管化されましたが、LM型は最後まで使用管はST管のままだったようです。
心臓部である検波管はLM-21では6A7と言う7極管が使われています。 BC-221の後期型では心臓部は6K8と言う6極・3極複合管になっています。
ヘテロダイン周波計を使った周波数の測定は未知周波数信号と、内蔵の『校正された発振器』(補間発振器と言う)とをヘテロダイン検波してゼロ・ビートを求めることで行ないます。
但し補間発振器は2バンドしかないのでその高調波を積極的に利用します。 ちなみに補間発振器はLow Bandが125kHz〜250kHz、High Bandが2.0MHz〜4.0MHzを発振します。 高調波とのビートは当然弱くなります。 しかし、むしろ高調波とのビートの方がゼロビートの幅が狭くなり検出精度が上がるため有利と言えます。 そのように使うのが標準的な用法です。2MHz以下の測定にはLow Bandを使い、2MHz以上の測定ではHigh Bandの方を使います。
その補間発振器の校正には、内蔵の水晶発振器を用いています。 従ってその水晶発振器の周波数精度と安定度がLM-21全体の測定精度を決めることになります。 金属容器に封入された1000kHzの水晶発振子を使った校正用水晶発振器は、仕様によれば1ppm/℃以内の安定度を持っているようです。(オーブン無しなのだから、なかなか優秀だと思います)
周波数カウンタ以前の時代においては、「ヘテロダイン周波計」は精密周波数測定の決め手でした。 しかし、いまどきヘテロダイン周波計の使い方を詳述しても仕方がないと思いますから、このへんでやめておきましょう。
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LM-21の内部構造】
むしろ、興味があるのは内部や回路の方ではないでしょうか。
回路図を見ると5球式ですが、そのうち2本は中央に見える『991』と言うネオン管です。 但しこれでも一応『定電圧放電管』なのです。(放電電圧=約60V)。 従って実質は3球構成です。
上部の横になった真空管が、補間発振器の5極管77です。 これは3ペン式真空管ラジオ(俗に並三ラジオとも言われる)で有名な6C6の前身のような五極管です。 発振回路はカソード・タップ式のハートレー型です。
その右下が、ヘテロダイン検波を行なう6A7と言う5グリッド管(7極管)です。 もともとスーパーヘテロダイン受信機のコンバータ回路に使う目的で開発された真空管です。 この球で校正に使う1000kHzの水晶発振も行なっています。水晶発振子はATカットで1000kHzにて±10Hzの誤差となっています。(@20℃)
左の球は76と言う3極管です。この時代の代表的な中ミュー3極管です。 ヘテロダイン検波で得られた低周波の増幅を行ない、ヘッドフォンを鳴らしています。 なお、切換えで約500Hzの低周波発振器として動作し、補間発振器に変調を掛けることができます。この機能は主としてヘテロダイン周波計をRF信号源として用いる時に使います。
シャシ下の中央やや右に光った頭部が見える円筒が金属容器に密封された1000kHzの校正用水晶発振子です。
回路構成は『ダイレクトコンバージョン受信機』にたいへん良く似ていますが、入力信号を選り分けるアンテナ同調回路はありません。 また、一般に感度は受信機ほど良くはありません。低周波増幅部のゲインが少ないからです。
左に回路図を示しますが、図面を見るとごく簡単な装置であることがわかるでしょう。(この回路図はLM-18型のものです。ほぼ同等です)
測定精度を決めるのは回路と言うよりも部品にあります。 容量が安定していて設定の再現性が良く、温度係数が小さい精密なバリコンと、良く防湿処理された安定な空芯コイルを使ったLC発振器(=補間発振器)が回路のキモと言えるでしょう。
また、同時にそれを駆動するダイヤルメカの精度もたいへん重要です。 もちろん組み立て後のエージングと周波数校正作業がこの測定器に魂を吹き込むことになります。
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校正表】
ダイヤルが校正された結果は、このようなCalibration Bookにタイプされています。 もちろん一台ごとに微妙に違う筈で、実測して一つずつ作っていたのでしょう。(実は、このCalibration Bookにも結構タイプミスがあると聞いたことがあります・笑)
ゼロビートを得た時のダイヤル目盛を読んで、このCalibration Bookから周波数を得るのです。 アナログダイヤルから、5桁を読み取ろうとするのですから、なかなか大変な装置であることがわかると思います。如何でしょうか? (上手に測定すればDIALからもう一桁分読取れる) 今では周波数の測定はごく簡単にできますが、この装置は半世紀以上も前の1951年製なのですから・・・。
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1000kHzの水晶発振にやや経年変化が見られました。 GPS周波数基準器と周波数カウンタを使って1000kHzの再校正を行なってから、Calibratio Bookと『既知信号』(GPS周波数基準器を元に発生。±0.001ppmくらい)を比較して精度を調べてみました。
長波から15MHzあたりまで調べましたが、良く精度が維持されていました。 仕様書の規格による測定精度は、100ppm(2MHz以下は200ppm)とあります。 100ppmの精度と言うのは、1MHzで100Hz、10MHzで1kHzの誤差です。 いま考えるといささか甘いとも感じられますが、アナログな手段でここまでの精度を出すことができたとは素晴らしいと思います。 同時に57年後の今でも十分その機能と精度が維持できていることは驚きでもありました。
さて、今時の機械は50年後にこれだけの機能を保っことができるでしょうか?
本機はJO1LZX河内さんに頂いたものです。貴重な体験ができました。VY-TNX!
(おわり)」2017.03.18一部改訂
(Boggerの仕様変更に対応済み。2017.03.18)