< Abstract >
[A phasing type SSB exciter]
I would like to introduce a Phasing type SSB exciter. This exciter targets the same quality SSB signal as the filter type. Unfortunately, it didn't reach that level of performance.
The most important AF-PSN (Audio frequency phase shift network) is the 10th order Allpass type; the phase error of the AF-PSN is less than 0.046 degrees by design. The actual performance obtained is a phase error of ≤ 0.1 degree. As a result, the unwanted reverse sideband suppression ratio is about 50 dB.
The circuit is divided into four parts. It consists of (1) a microphone amplifier and filters (HPF and LPF), (2) an AF-PSN, (3) a carrier oscillator with RF-PSN (Radio-frequency phase shift network), and (4) a balanced modulator. The schematic and actual protoboard examples are shown in the photos. (2020.03.24 de JA9TTT/1 Takahiro Kato)
【SSBジェネレータを試作する】
何回かフェージング・タイプSSB送信機の心臓部、AF-PSN(低周波移相器)について検討してきました。
AF-PSNとしてそこそこの性能が得られることはわかったのですが、では実際にSSBの発生に使ったらどうなるの?・・・と言う疑問が湧いてきて当然です。 いくら良さそなAF-PSNができても、やはり実際のSSB発生に使ってみなくては話は完結しないでしょう。
新型コロナウイルス禍のおり、何を能天気な話を・・・と言われそうです。 状況はもちろん承知しておりますが、今更それを書いてもどうにかなる訳でもなし、ここは気晴らしでもする方が良くありませんか?(笑)
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以下は過去に製作したフェージング・タイプのSSBジェネレータを紹介します。 試作からだいぶ時間が経過しているので、どうだろうかと思ったのですが、まずまずのようでした。 過去の評価結果はどうだったのか、記録を読み返すと現状の再評価とあまり違わないようです。 経年変化が心配されたのですが、意外に調整はズレていませんでした。 少し再調整を要したのはキャリヤ・バランスくらいでした。これも保管場所と室温との差が影響した感じでした。 この基板群はもうすぐ整理してしまうつもりなので、その前に簡単に紹介しておこうと思います。
素晴らしい性能のSSBジェネレータができた訳ではありません。贔屓目に見てもマアマアと言ったところでしょう。 お勧めするようなものではないことを予め強調しておきたいと思います。 一つの実験結果として見てもらえたら十分ですし、そこから何か僅かでも参考にしていただければ幸いです。 より良いものが作れる可能性は大いにあるはずです。
はなから「フェージング・タイプのSSBなんて使い物にならん」と思うお方に、以下は全く無意味です。 時間の無駄にならぬよう、ここでお帰りを。 でも、今でもフェージング・タイプのSSBに夢を描いているなら、何か少しは参考になるかも知れません。 どこか良さそうなところでも見つかれば摘み食いなどされてください。そんな感じの話です。(笑)
【Mic. Amp.とHPF、LPF・回路図】
以下、最初の写真の基板ユニットごとに説明して行きます。
左図はマイクアンプとそれに続くハイパス・フィルタ(HPF)とローパス・フィルタ(LPF)です。 HPFはカットオフ周波数:fc=250Hz、LPFはカットオフ周波数:fc=3.7kHzになっています。 フィルタの減衰傾度は十分だと思いますが、実用を考えると通過域をもう少し狭く設計すべきでした。 例えば、HPF=300Hz、LPF=2800Hzと言ったところが良いでしょう。
◎具体的には:
(1)HPFは、C9、C10、C11を0.1μFから0.082μFに変更します。もし0.082μFが得にくい場合、0.047μFと0.033μFをパラ(並列)にしても良いでしょう。
(2)LPFは、C12、C13、C14、C15を2700pFから3300pF(=0.0033μF=3.3nF=332)に変更します。これで3000Hzくらいになりますが、2800Hzにしたいなら3300pFとパラに330pFを加えます。 以上、LPFとHPFは標準的なフェージング・タイプの送信機にはこのくらいが良いと思います。もし新規に作るとすればその様にするでしょう。
マイクアンプ部分は十分なゲインがあるので、ダイナミック・マイク(ハイ・インピーダンス型)やエレクトレット・マイクが使えます。 ローインピーダンス型のマイクを使いたいのでしたら良質の昇圧トランスを外付けします。 600Ω:10kΩ〜50kΩくらいの小型マイク・トランスが良いでしょう。(山水電気のドライバ・トランスの流用でも十分です)
【Mic. Amp.とHPF、LPF】
上記回路の試作製作例です。
大きな青い部品はフィルム・コンデンサです。 たまたまの手持ちを使ったものなので、一般的なマイラ・コンデンサのようなもので十分でしょう。 その方が小型化できます。
OP-Amp.は4回路入りのローノイズ汎用品であるTL074CNを使いました。 TL084CNなどでも良いでしょう。 あるいは2回路入りを2個使う方法もお勧めです。 この写真には写っていませんが、電源の中点電位を作る「フローティング・グラウンド」の作成には汎用のOP-Amp.が使えます。 製作例ではTL022CPを使いましたが、回路図通りの741型でもまったく支障ありません。
【Allpass型のAF-PSN・回路図】
肝心のAF-PSN部分です。Allpass型になっています。
広帯域特性を目指して、10次のAllpass型で設計しています。 設計では位相誤差:Δφ≦0.046度、振幅誤差:ΔG≦0.2%です。 なお、下限:100Hz、上限:7kHzで設計してありますがこれはかなり過剰でしょう。 余裕を見ても200Hz〜4kHzくらいの設計で十分ですので、前のBlogの設計例にならって製作すれば十分だと思います。 同じ位相誤差で次数が減らせるので幾らか作り易くなります。
先のBlog(←リンク)のように移相回路の部分は使用するコンデンサを実測し、それに合わせて抵抗器を加減する方法で製作しています。この形式が優れているのは各位相シフター(Allpassフィルタ回路)の動作が独立していることにあります。 そのため、各段の時定数さえ設計通りになれば良いため、CRの選び方にはかなりの自由度があります。 図のようにストレー容量やOP-Amp.の入力容量ができるだけ誤差として影響しないような設計ができる訳です。その代わりとして、精密な精度や比率が要求される部品の数はだいぶ多くなってしまいます。
例によって必要以上に細かい数字が書いてあります。 回路図の部品定数は標準値ですので、実際には部品を実測してから補正計算を行なって製作します。 補正計算のやり方は先のBlog(←リンク)の「その3」に計算例を示しておいた通りです。 なお、検討の結果OP-Amp.は汎用のTL074CNでも十分なのことがわかりました。部品定数を選べば支障ない訳です。そこで実装密度の関係もあって、LF356HからQuad OP-Amp.のTL074CNへ変更しています。TL074CNは高性能とは言えませんが、安価でこの用途に対して十分な性能を持ったOP-Amp.です。
【Allpass型AF-PSN】
10次のAllpass型ともなると、かなり大掛かりになります。 ここでは、4回路入りのOP-Amp.であるTL074CNを3つ使いコンパクトにまとめました。
なお、写真では最終段のOP-Amp.にブースタ・トランジスタが付けてあります。 これは低インピーダンスなバランスド・モジュレータを十分ドライブできるようにするためのものです。(先のBlog参照)
しかし、後のダイオード・バラモジに関する検討によるとそのようなブースタは必要とせず、出力端子から直列抵抗(1kΩ程度)を挟んでドライブすれば十分であることがわかっています。要するにダイオード・バラモジを電圧的にではなく、どちらかと言えば電流的にドライブして変調することになる訳です。それで何も支障はありません。 従って、上記に示した回路図ではブースタ・トランジスタの部分は省略しています。 新たに製作する場合、写真よりもう少し簡潔にできます。
# AF-PSNの単体評価によると設計帯域の殆どで、90度±0.1度に入っていました。 ただし一番誤差の大きな300Hz付近で0.1度をやや超えるようです。 設計通りの位相誤差≦0.046度にはできませんでしたが、≦0.1度ならマズマズでしょう。 計算上では逆サイドのサプレッションは60dB以上が期待できます。 なお、 フィルム・コンデンサを主体に使った関係で幾分か温度係数は大きめでした。 同じフィルム・コンデンサでもスチコンかポリカーボネート型を使えばより良かったようです。
930kHzでSSBを発生します。 これは使用する予定のVFOとの周波数関係からです。 まずは3.5MHz帯へオンジエアするつもりでした。 フェージング・タイプのSSBはある程度任意の周波数で発生でき、例えば455kHzなり、3MHz帯なり好きな周波数が選べます。
あらためて作るとすれば、3MHz帯か8MHz帯で製作したいと思います。 そのようにすればメーカー製トランシーバのSSBジェネレータ部分を置き換えたテストができます。 例として、3395kHzでTRIOのトランシーバ、3180kHzで八重洲のトランシーバなどです。 そのようにすればファイナル部まで含めた送信機の全部を作ることなくフェージング・タイプSSBを堪能できるでしょう。 いまでしたら、DDSを使ったキャリヤ発振器にすればきめ細かい周波数設定が可能になります。
【Carrier OSC】
キャリヤ発生部です。 930kHzの水晶発振子を使っています。
発振回路からある程度大きな出力が取り出せるように、やや大きめのトランジスタ:2SC3668Yを使って発振させています。 これは使った水晶発振子がもともと2SC32を使った発振回路のもので、大きめな発振レベルで使える物だったからです。
最近一般的なHC-49/Uでしたら小信号トランジスタ:2SC1923Yなどで発振させ、さらに軽く1段アンプすれば良いでしょう。 なお、発振回路の出力には簡単なローパス・フィルタとレベル調整用のアッテネータが付いています。 その後RF-PSNへ行きます。
【RF-PSNとBuffer Amp.】
RF-PSN(高周波移相器)とバッファ・アンプ部分です。
移相器はオーソドックスなLCR型です。 逆サイドの打ち消調整はコイルのインダクタンスを加減する方法で行ないます。 写真の例ではインダクタンスが不足気味でした。 そのためベストなところまで完全に追い込むことができませんでした。 RF-PSNの部品定数はある程度カット&トライが必要なように思います。
低インピーダンスなバランスド・モジュレータとインターフェースする関係で高速OP-Amp.を使ったバッファ・アンプが設けてあります。 もっと高い周波数でSSB発生するならより高速なOP-Amp.を必要とします。
なお、このRF-PSNの以前に高速C-MOSを使ったデジタルタイプの移相器を試しました。 4MHzのオシレータを使い1MHzでSSBを得る設計でした。 一応の性能は得られたのですが不満がありました。 C-MOSの内部構造に起因するらしい微妙な移相誤差が残ってしまい、挙句はアナログ的な調整を追加する必要があってどうもスッキリしませんでした。無調整なはずのデジタル式なのに・・・です。
また、どうしてもジッターが残る感じでキャリヤの濁りが見られるようです。これはデジタル回路固有の問題のように思います。 結局、オーソドックスなLCRタイプに回帰した経緯があります。 ざっと耳で聞いた程度ではデジタル移相器もまずまずだったので、あまり難しく考えず妥協して良いのかもしれません。 また、デジタル式のRF移相器も数100kHzと言った低い周波数ならジッターも目立たないようです。 要は使い方でしょう。
どうせ微調整が必要ならアナログ式でも同じですし、こうした回路ならジッターもフリーなので安心できます。 もしデジタル式でやるのならC-MOSやTTLロジックではなく、アナログっぽい動作をするECL-ICが良さげです。 ただし未だ試してはいませんが。(笑)
◎ ECL-ICを使ったデジタル式高速移送器をテストしました。 その顛末はこちらのリンクからどうぞ。
【Balanced Modulator・回路図】
バランスド・モジュレータ部分です。 公開初期の図面に2箇所配線の書き忘れがあったので追加・修正しました。:最新版Ver.1.0.1:2020.03.29
オーソドックスな4ダイオード型のDBMを2回路使います。 出力をパワー・コンバイナで合成して必要なサイドバンドを得るようにしています。
サイドバンドの切り替えはオーディオの入れ替えで行ないます。 ただし、現実的な話をするとジェネレータ部ではサイドバンドの切り替えはせずに固定し、ヘテロダインの段階で切り替える方が良いと思われます。 ジェネレータでサイドを切り替えると、どうしてもUSBとLSBでサイドバンドの抑圧比に差が出てくるからです。
ほか、このDi-DBMの前にIC-DBMである:SN16913Pを2つ使ったタイプを試しました。 そこそこの性能が得られたのですが、最良に調整してもキャリヤ・リークがやや大きかったのと少し大きめな入力ですぐ歪みやすいため変更した経緯があります。 キャリヤリークを考えると、なるべく大きなオーディオ変調信号を与えたいのです。 しかしそうすると歪んでしまうと言ったジレンマがありました。 キャリヤ・サプレッションの良いフィルタ・タイプなら普通は起こらない悩みなのです。w
【Balanced Modulator】
このダイオード式はキャリヤ・バランスが非常にうまくとれます。長く維持はできませんが、瞬時的なら80dBくらいは楽々です。 ただし、無信号時とオーディオ信号を加えたときとではバランス点がいくらか変わります。 ダイオード・DBMは他でも実験していますが、これはある程度やむを得ない現象のようです。
# キャリヤリークが目立つのは無信号時ですからその状態でバランス調整すれば良いでしょう。 音声が入った状態なら耳で聞いてキャリヤの漏れは感じられなくなります。
1SS97(2)と言うNECのショットキー・バリヤ・ダイオード(SBD Diode)を使いました。他社の高周波用SBDでも良いでしょう。 あるいはポイント・コンタクト型のゲルマニウム・ダイオードも使えます。 さらには安直にメーカー製の既製品DBMユニットを使うのも良いでしょう。 その場合、フェージング・タイプのSSBジェネレータには必ずバランス調整が可能なタイプを使います。
上記の信号の有無によるキャリヤ漏れの問題とバランス点の温度変化などから考えて、ND487-C1(NEC)のようなクワッド・ダイオードを使うと改善されそうです。 ここではバイファイラ巻きとトリファイラ巻きのトランスはフェライトビーズ:FB-801-#43に巻いて自作しました。 製作例では7回巻きしましたが、巻き数は周波数帯に応じて加減すべきです。 #43材のメガネ型コアを使うのも良いです。
【Output Spectrum】
各ユニットを組み合わせて、SSBジェネレータとして動作させてみました。(最初の写真の状態)
写真は1kHzの正弦波を加えて測定した様子です。 逆サイドの抑圧比は51.8dBでした。 低周波信号の周波数を変えて行くと抑圧比も幾らか変化します。 例えば300Hzでは48dBくらいに劣化します。 しかし500Hz以上ならおおよそ50dB以上が得られているのでまずまずのように思います。 なお、RF-PSNの調整しろいっぱいの状態なので「調整用コイル」を作り変えればもう少し良いところまで追い込めるのかもしれません。
スペクトラムを見ると、変調波の3次高調波(3kHzに相当)がやや大きいのが気になります。 原因は究明していませんが、主信号と比べて約-44dBですから歪率で言えば0.6%と言ったところです。 音質にあまり影響はないのでこれでも良いのかもしれません。あるいはもう少し原因を究明すべきか・・・。たぶん改善の余地はあると思います。
不要サイド側には変調信号の高調波の分も漏れてきます。 こうしたことはフィルタ・タイプならまずないことです。 この辺もフェージング・タイプの難しさを意味しているように感じます。 しかし主信号と比べて-50dBはクリアできていますので、まずまずの性能でしょうか。 これくらいでしたら実際のオンジエアにおいて何も支障はないはずです。 それにしても、数値だけ見たらチープなクリスタル・フィルタを使ったSSBジェネレータ(試作記事→ここ)にさえ及ばないのは厳しい現実ですね。 まあ、フェージング・タイプにも数値で割り切れない音色とか自然さのような、それなりのメリットはあるのかもしれませんけれど。 もちろん、それには他局の迷惑にならないとか法令遵守のような最低限のマナーは必要です。
オンジエアするときには以下のような注意をします:
(1)オーディオアンプやAF-PSNで歪ませないこと。
(2)オーディオ信号の与え過ぎでバラモジを飽和させないこと。
・・・の2つにあります。
そのような状態にするとフィルタ・タイプなら「音が悪い」で済んだのですがフェージング・タイプでは不要輻射を撒き散らす汚いSSB波になってしまいます。 キャリヤ・サプレッションではやや損をしますが、マイクゲインを絞り、抑え気味の音声信号レベルで使うのがコツのようです。 フェージング・タイプのSSBジェネレータは製作だけでなく使い方でも細心の注意を要しますから、初心者向きとはとても言えないようですね。
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精密なAF-PSNを作ったところで「それでどうした?」でしょう。 やはりSSB発生の段階まで進まなくては話が完結しません。 まだまだ追い込み不足だとは思いましたが、試作例を紹介しておきました。 紹介の基板群はだいぶ前に作った関係もあり、ああすれば良かった、こうすれば・・・とか改善ポイントも多々ありますが、ざっと見渡したので一区切りにしたいと思っています。 細かく詰めてゆけばもう少し良くできるでしょう。
テストしていてこの段階でストップしてしまったのは、目指したほどの性能が得られなかったからです。 例えば、逆サイド抑圧は最低60dB以上と言った、今になって思えばずいぶん思い上がった願望を持ったものです。 さらには、いろいろやってみて結局のところ良いSSB用フィルタがあるならそれが良質なSSB発生の決め手であると認識したからでもありました。 あるいは今風のデジタル的に処理を完結する方法でしょうか?
いずれ機会でもあれば、良い特性を持ったフィルタを使ったSSBジェネレーターをご紹介できたらと思っています。 これでフェージング・タイプSSBの話は「すべて」おしまいにしましょう。 熱心にご覧いただきどうもありがとうございました。 ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)nm