【AF-PSN:作って確かめる】
フェージング・タイプSSB送信機に不可欠なAF-PSN(低周波移相器)の第2回です。 前回(←リンク)は自作のAF-PSNでポピューラーだったNorgaard型と、有名な市販品:B&W社の2Q4のルーツを探ってみました。
それらは1950年代には確立し、一般化したことがわかりました。 1950〜1960年代にはフェージング・タイプのSSB送信機製作も盛んでした。 しかしSSB発生に向いたメカニカル・フィルタやクリスタル・フィルタの発展とともに「性能に限界のある」フェージング・タイプは廃れて行きます。 SSBでは常識化したトランシーバ形式の送受信機の製作にフェージング・タイプはあまり向いていなかったのも理由でしょう。 フィルタの低廉化もあってコストの優位性も薄れてしまい、やがて忘れ去られます。
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フェージング・タイプのSSB発生原理は非常に古く、発明者の名前により、Hartley modulator(ハートレー変調器)と言うそうです。私は知りませんでした。 このHeartley氏はハートレー型LC発振器の発明者でもあります。 Norgaard氏の功績はハートレー変調の原理を使い、実用的な装置としてSSB送信機を実現したことにあると思います。 また、近年はAF-PSNはヒルベルト変換器と呼ばれることがあります。 以上、 参考まで。
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メーカー製は廃れましたが、フェージング・タイプのSSBジェネレータは自作HAMの間で意外に人気が続いているように思います。 残念ながらそれでオンエアしている電波は滅多にお目にかかれないのですが、自作HAMが挑戦するテーマとして何となく魅力的に感じるからでしょう(?) 実際に私も何度も挑んでいますし、こうしてたった今もテーマにしてるんですから。hi
ここでは、もはや合理的なSSB発生法とは言えないかも知れませんが、実際に製作したAF-PSNの性能を探ってみたいと思います。 さらに、少し冷静になってフェージング・タイプでどれくらいの性能を目指すべきなのかも考えてみたいと思います。
例によって、興味本位に進めているだけです。 無線機や電子回路に興味をお持ちでなければ面白くもないでしょう。 作ってみなければ直面する様々な苦労の数々もご想像いただけないはずです。 わかったようなつもりになって頂いても仕方がありません。 ここらでやめて早々にお帰りになればお時間を無駄にされることもありません。 「好奇心をくすぐられた」あなただけがこの先へお進みください。(笑)
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【AF-PSNの基本的使い方】
まず始めはNorgaard型や2Q4型のようなブリッジタイプのAF-PSNの基本的な使い方です。
従来からあって、最も基本的なのはトランス結合でドライブするやり方です。 数kΩ:600Ωくらいの低周波トランスを使います。
この形式のAF-PSNを働かせるためのドライブ・インピーダンス(信号源抵抗)についてはあまり語られたことがないように思います。 極端に高くなければ支障はないようですが、調整時の逆サイド打ち消しの感触に差があるように思うので、低めのドライブ・インピーダンスで駆動するのが良いと思います。
2:7の分圧抵抗器も100Ω:350Ωにすると言った対応も良さそうです。 ただし、そうなると信号の振幅が小さくなってしまうのでその対策が必要になります。 AF-PSNの部分でも約-13dBの信号減衰がありますので、後段のアンプで取り戻す必要があるでしょう。
トランスを使う方法は、一種のハイパス・フィルタを間に置くようなものです。特にトランジスタ回路用の小型トランスは低域特性が芳しくありません。300Hz以下と言った周波数はかなり減衰するでしょう。 それだけならメリットとも言えますが、ちっぽけなトランスに低い周波の大きな信号を通そうとすれば大きな歪みが発生します。 できたらトランスは使いたくない・・・そうした理由がここにあります。
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図の下段はトランスを使わない方法です。 信号が7:2・・・正しくは7対マイナス2になるようOP-Amp.を使って回路を構成します。 図の例では7kΩと2kΩを使っていますが、この抵抗器は高精度が求められます。 絶対値の精度ではなく、7:2という2つの抵抗器間の比率が問題です。 なお、ここで言う「マイナス」の意味は位相が反転していると言うことです。
こうしたOP-Amp.回路は抵抗比さえ正確であれば、増幅度も正確に7:- 2になるよう動作します。これは負帰還増幅器の理論から疑いのないことです。 OP-Amp.自身による誤差はほぼゼロと考えても良いので抵抗比を厳密に合わせるよう可能な限りの努力をします。 調整式に作ることはむしろ本来の性能を実現するうえでマイナスと言っても良いでしょう。
OP-Amp.を使う方法は信号源インピーダンスが数Ωと小さくなることから、AF-PSNを理想通り働かせるためのドライブ条件としても適しています。
(参考)OP-Amp.回路を7:- 2ではなく、2:- 7に作る方法もあります。ただし、AF-PSNへの配線を変える必要があります。 信号が大きな方(マイナス7の方)をCRが直列になったアームの方へ接続し、信号の小さい方(2の方)をCRが並列になったアームへ配線します。 OP-Amp.を飽和させぬよう、信号レベルに注意は必要ですが得られる性能はまったく同じです。
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【その1:シンプルなSSBリグには】
写真はなるべく簡単にフェージング・タイプのSSB送信機を作ろうと考えて試作したマイクアンプを含むAF-PSN回路です。
なるべく簡単という意味は、大掛かりなハイパス・フィルタやローパス・フィルタなしで済ませようという目論見です。 次項に示す回路図のようにごく簡単な回路です。 ローパスやハイパスのフィルタの効果は少々甘いのですが、男声でのQSOならまあまあ使い物になって、迷惑も掛けないであろう・・・というAF-PSNユニットです。
言わば、CR2個ずつの「超簡易AF-PSNで作ったSSBジェネレータ」の現代版とでも言いましょうか? でも、AF-PSNは2Q4とまったく同じですから、きちんと作ればちゃんとした逆サイドの抑圧が可能です。ナメてはいけません。(笑) ちょっと遊んでみるには部品も少なく簡単ですから向いていると思います。 しかし、あまりハイパワーはやめておく方が良いでしょう。
【簡易型の回路】(Ver:1.0.1に改訂)
2回路入りのOP-Amp.を2つ使うだけで何とかしたいと思ったのが出発点です。 それを実現する回路になっています。 4回路入りのOP-Amp.なら一つで済みますが、配線が交錯するのでデュアルOP-Amp.を2つ使うのがお薦めです。
初段のアンプはゲインを高く作ってマイク・アンプを兼用しています。 エレクトレット・マイクのように出力が大きなマイクを使えば、入力端子へそのまま接続しても十分なゲインがあるでしょう。 ゲインは加減することもできます。
回路例で、AF-PSN部分は2Q4型と同等に作りましたが、もちろんNorgaard型でも良いでしょう。 前回のBlog(←リンク)にある一覧表の中から自身が作りやすいと思う物を選ぶことができます。 (注:ただしNo.14は特に低インピーダンスに設計したものなのでこの回路には使えません)
マイク入力端子から出力端子までの間で約300倍のゲインがあります。 一般的なエレクトレット・マイクなら10mVくらいの出力があって、出力端子で約3Vの出力が得られます。 従って、そのままで十分にバランスド・モジュレータ回路をドライブすることができるようになっています。 フェージング・タイプのSSBジェネレータの低周波部分をこの基板一つだけで済ませるようにしたので「簡易型」と称するわけです。
【AF-PSNはプラグイン式】
性能確認がし易いよう、AF-PSN部分はプラグイン式に作りました。 16ピンのICと同じサイズの「プラットホーム」と称するプラグイン部品の上に2Q4型AF-PSNと同じ値のCRを載せてあります。
一つのプラットホームに全部載せることも不可能ではありませんが、2つに分けて写真のようにすれば個々の抵抗やコンデンサを独立してチェックできるので便利です。 ただし、なるべく接触状態が安定しているソケットを使わないと不安定さが懸念されます。 AF-PSNの使い回しも可能ですがそれを狙った訳ではありません。
プラットホームには何気なく、E24系列の抵抗器とコンデン が実装されていますが、実際には容量計やデジタルマルチメータで入念に選別したものを載せています。 1%精度の部品で無選別で作っても、そこそこの性能にはなると思いますが、期待したほどにはならないでしょう。 1%精度が規格の(国産品の)金属皮膜抵抗器は実力的に誤差0.5%くらいの精度があります。無選別でもかなり行けます。 しかし特にコンデンサが問題です。 コンデンサはそのような高精度品は普通手に入りませんから、LCRメータや容量計で良く選別して使います。 ここではNP0(CH)特性の積層セラミック・コンデンサを使いました。
【2対7アンプ部】
写真に見える可変抵抗器はマイク・アンプ部分のゲイン調整用です。 2:- 7の反転アンプ回路は精密に選別した抵抗器を使った無調整式です。
写真では2kΩと(6.8kΩ+200Ω)の抵抗器を使っています。 初めに2kΩの方を実測し、6.8kΩの方に加える抵抗器(200Ωの方)を選んで使います。 200Ωではなくて180Ωあるいは220Ωの方が良い場合もあります。 2:7の比率が0.1%くらいの精度で実現できていればまずまずです。
そのほか、各抵抗器やコンデンサは1%以内の精度に合わせます。(バイパス・コンデンサは除く) 特にAF-PSNを通過した後の2系統の増幅器は相似になるよう作ります。
この回路は選別した部品を使い全般的に無調整で済むよう設計してあるため製作後の調整は要りません。 基本的な性能を確認すればそのままフェージング・タイプのSSBジェネレータに使えます。 使うマイクに合わせてマイク・ゲインのVR(写真)を加減します。 高性能を狙ったものではないので、いくらか欠点もありますが「音声」で交信して実験を楽しむくらいならまずまずだろうと思っています。 このような回路なら思ったよりも手軽にフェージング・タイプのSSB送信機が作れます。
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【その2:2Q4を使う標準回路】
写真は2Q4型のようなブリッジタイプのAF-PSNの性能を見極める目的で試作したAF-PSNユニットです。
ローパス・フィルタやハイパス・フィルタと言った周波数帯域を制限するものは外付けが前提です。 従って、回路そのものは広帯域ですからそのまま単独では使えません。 AF-PSNの素のままの特性がわかるものです。
実は、前に作った記憶があったのでジャンクを漁っていたらそれらしい基板が目に入りました。 どうやら作りかけのようなので、回路図を資料から見つけて最後まで完成させました。 図面から幾らか改造を行ない、AF-PSN部分の信号Lossを補うために後段アンプのゲインを増やしました。さらに出力端子,etcも設けました。 さっそく基本的な動作を調べたのですが問題が発覚したのです。 なぜ途中の状態でストップしていたのかが何となくわかってきました。
正弦波信号を加えて観測すると波形のピークで発振のような現象が見られるのです。 ゲインの低いたいへん「安定しているはず」の回路でなぜだろうと悩んだのですが・・・。
最初の基本的な使い方の図にあるような回路でも部品が「ほんとう」に理想通りなら問題は起こりません。原理的には正しいのです。 しかし、実際にはOP-Amp.のゲインは有限であり、周波数とともに出力インピーダンスは上昇するし位相も遅れます。 そのため「AF-PSN」回路そのものが、反転アンプ側のOP-Amp.回路の帰還ループとして作用するようになってくるのです。 それが無視し得なくなって発振するようになるのです。 詳しく解析すればわかるはずですが、位相が回ってどこかの周波数で正帰還になるのでしょう。 周波数特性が悪かった昔のようなOP-Amp.なら発振しなかったのかも知れませんが・・・。
原因がわかれば対策できたも同然です。 その対策を行なってめでたく完成させました。 出来上がったAF-PSNユニットはなかなか性能も良い・・・2Q4タイプですからそれなりではありますが・・・ので標準的なAF-PSN回路として十分に使いものになります。
【標準型の回路図】
AF-PSNの2Q4タイプを標準的に使うことを考えてあります。 そもそも、開発された当時は真空管の時代です。 そのため、ブリッジ回路の出口の側には真空管のグリッドが接続されることを想定しています。 要するに非常にインピーダンスが高くて、オープン状態と見なせるような負荷でなくてはいけません。
バイポーラ・トランジスタ(ごく普通の2SC1815のような)しか存在しなかった頃は難しかったのですが、FETやFET入力のOP-Amp.が一般化したことで真空管と同じような動作をさせることができます。 半導体を使うことで配線を短くでき、入力端子のキャパシタンスも少なめなのでむしろ真空管を使うよりも有利になっています。
従って、趣味の問題とは言えども、いまどき安定度の良くない真空管で精密な回路を作る理由はまったく無くなったと言えます。 ここでは汎用のFET入力型のOP-Amp.であるTL072CPを使っていますが、ほかのFET入力OP-Ampでも大丈夫でしょう。 2Q4タイプのAF-PSNは最高で770kΩという高い抵抗を使っているので、入力インピーダンスが低いバイポーラ・トランジスタ入力型のOP-Amp.例えば4558などでは位相誤差を生じる可能性があります。バイアス電流によるDCオフセットも幾らか心配です。
上記に書いた発振の問題ですが、この配線図のように入力部のバッファ・アンプ(ボルテージフォロワ):U1aから直接AF-PSNへ配線せず、もう一段バッファアンプ:U4aを置くことで正帰還のループができることを防いでいます。 一見するとU4aは無駄なアンプのように見えますが、このようにすれば、7:- 2のアンプ:U1bの帰還回路とAF-PSNがパラになって正帰還することがなくなるのです。 このようなことから一つ前で紹介した「簡易型」でも同じようにバッファ・アンプを設けた方が好ましいでしょう。簡易型の回路図で×の箇所にボルテージフォロワを入れます。
なお、7:- 2のアンプはゲイン調整式で作ってありますが、これは間違いです。厳密に合わせた7:2の抵抗器で製作することをお勧めします。 ここでは以前の試作のままを継承したため調整式になっています。 VR1は精密に7:2の抵抗比になるようデジタル・マルチメータで測って調整し、以後手を触れないようにしています。 固定抵抗にする方が望ましいのです。
VR2:バランス調整はごくわずかな範囲だけ加減できれば十分です。 図の例では可変範囲が広すぎます。 低周波信号の大きさを精密に読み取れる手段があれば1kHzを加え、Output 1の電圧がOutpur 2と同じになるよう調整します。 後ほどバランスド・モジュレータと接続し、逆サイドの打ち消し調整を行うときに最終的な微調整を行ないます。
(参考)使っていないOP-Ampが2回路もあって勿体無い状態です。 これは発振対策に後からU4を追加したためです。 最初からフローティング・グラウンド(FG)を作るU2にTL072CPを使えば無駄なくOP-Amp.を使うことができます。 半分が余っていたLM358ANは、オーディオ信号を通すのに向かないため新たなOP-Amp.:U4を追加しました。
【AF-PSNは精度を追求】
2Q4タイプのAF-PSNを基板に直接ハンダ付けしています。 上の例と同じようにプラグイン式に作っても良いでしょう。
使用する抵抗器はすべて実測し、2個の組み合わせで高精度に作ります。 コンデンサも組み合わせて高精度を実現します。
例えば、430pFは330pFと100pFの組み合わせで作りますが2つの合成で精度よく430pFが実現できるよううまく組み合わせます。 680pFの方は、実測して680pFちょうどのものを見つけるか、やや下回る値のものを見つけて不足を補うための小容量を並列にして高精度を実現します。 抵抗器も同じような方法で高精度化します。
配線が短く部品も小型であり、コンパクトに組み立ててあるのでオリジナルの2Q4を真空管回路で作るよりも理想的な動作状態に近付いているはずです。 AF-PSNのコンデンサを数pFのオーダーまで精密に合わせても配線のストレー容量や真空管の入力容量などで(推定で)20pF以上もあるのなら「何をやっているのか」と言うことにもなる訳です。(笑)
どうしても「真空管で」と言うのでしたら、上記をヒントにストレー容量を増やさぬような構造を工夫して組み立てると良いでしょう。 エージング済みで特性が十分安定している球を使ってください。特性が良く揃っている必要があります。
【7対-2アンプは調整式】
上でも説明しましたが、7:- 2のアンプ部分です。
一時的にICソケットからOP-Amp.を取り外し、配線も1箇所カットしてから抵抗比が7:2になるよう、精密に合わせて調整を終了します。 はなから7:2になるような抵抗器を作って無調整式にした方が好ましいでしょう。 良い可変抵抗器を使ったところで調整箇所があれば不安定になり易いものです。
この写真には見えませんが、もう一つの可変抵抗:VR2の方は、完成してから信号を加えて調整しました。 正弦波発振器と100kHzくらいまで周波数特性が伸びているデジタル・マルチメータを使い、交流電圧測定レンジ:ACVレンジを使ってOutput 1とOutput2の電圧が同じになるよう精密に合わせておきます。 アナログな電子電圧計(ミリバル)でも良いですが、デジタルな電圧計を使う方がより精密に調整できます。 オーディオ・アナライザがあれば理想的です。 なお、オシロスコープを併用し、出力波形が歪まない範囲でなるべく大きな出力状態で調整します。
# あとは無調整ですからさっそく特性を確認してみましょう。
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【周波数を変えてリサジュー観測の動画】(再生するとBGMが流れます)
100Hzから5kHzまで周波数を変えながらリサジュー・カーブを描かせてみました。 誰でもAF-PSNを製作したら真っ先に確認してみたくなる観測です。 もし、お暇があればご覧を。 この動画で擬似体験できるでしょう。
前のBlogにも書きましたが、リサジューを描かせただけでは精密な位相誤差まで判読するのは無理です。 しかし、おおよその性能ならわかるでしょう。 見た感じで、だいたい300Hzから3kHzくらいの範囲で使えば、それほど悪くない性能が得られそうだと思えませんか? その範囲を通すようなフィルタを付加してSSBジェネレータに使いましょう。 きちんと作ればシンプルな2Q4タイプもまんざらでもないようです。 Norgaardタイプも同様でしょう。
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【その3:Allpass typeで試作する】
いくら上手に作ったところでNorgaard型や2Q4型では設計上の限界があります。 従って逆サイドバンドの抑圧は40dBくらいが得られたら御の字です。
もう少し良い性能を目指すとなるとAF-PSNの設計そのものを変えない限り不可能です。 ここでは位相誤差:±0.2度くらいを目標にAF-PSNを作ってみました。 OP-Amp.を使ったオールパス型の広帯域移相器です。 目標の性能から判断して8ポール形式で作りました。 6ポールでもギリギリ可能な筈です。 実用周波数範囲は300Hz〜3kHzですが、実際にはそれよりも広い範囲で良い位相精度が得られます。(得られるはずです・笑)
OP-Amp.は容量性負荷に強いLF356Hを使っています。 また出力回路の部分はドライブ能力をアップするためトランジスタを使ったブースタが付いています。 これは想定した負荷条件が特殊だったためで必ずしも必要はありません。 試作なのでゆったりと作りましがもっと小型化することは可能です。
【Allpass型の回路:8-Poles】
このユニットもだいぶ前に試作したものなので回路図は手書きです。(笑)
OP-Amp.の非反転入力側に入っている1000pFと2700pFが特に重要です。 誤差0.1%と言った高精度の物を使うか、それが難しいなら相方の抵抗器の方を再計算して位相の推移が設計通りになるように合わせる必要があります。 逆に言えば誤差のあるコンデンサでも抵抗値の補正で対応できるわけです。
# 以下に示しますが、方法は難しくありません。
(1)まず、回路図のCとRの値を読み取リます。
(2)続いて各移相器の段について、f=1/(2×π×C×R)を計算します。
(3)そのfにおいてコンデンサのリアクタンス:Xc=1/(2×π×f×C)と等しく
なるようにRの値を決めます。
例:U1の部分について実際にやってみましょう。
(1)まず、回路図からCは1000pFで、Rは37.455kΩとあります。
(2)上記から、f=1/(2×π×1000×10^-12×37.455×10^3)なので、
f≒ 4249.23(Hz)となります。
(3)もし、自分が使うつもりのコンデンサが1000pFではなく1010pFだとしましょう。
この場合、コンデンサのリアクタンスXcは:
Xc=1/(2×π×1010×10^-12×4249.23)≒37084.17(Ω)です。
従って、実際に使う抵抗器:Rの方を37.084kΩに変更すればOKです。
あるいは、元々のコンデンサが1000pFで、使う方が1010pFですから、抵抗値の方を逆の比率で減らせば良い訳です。 元の抵抗をRとし、使うべき抵抗器の値をR'とすれば:
R'=R×(1000/1010)=37.455×(1000/1010)≒37.084(kΩ)で計算できます。
こちらの方がずっと簡単ですが、意味するところは上記の通りです。
こうした作業を各段について繰り返します。 CR値の有効数字は3桁分もあれば十分ですが回路図には必要以上に細かい数字が書いてあります。 これはコンデンサの実測値に合わせて抵抗値を補正計算する際になるべく精度落ちを生じないよう考慮したためです。 実際に使用する抵抗値は計算値の±0.1%くらいまで合わせれば十分でしょう。 もちろん、ラフに作ると高精度を目指してポール数を多くした意味が失われます。
抵抗値に合わせてコンデンサの方を変える方法もありますが、一般にコンデンサの値は自由度が少ないため、コンデンサに合わせて抵抗器の方を変更する方法が現実的です。
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また、負帰還側の経路にあるすべての10kΩも高精度なものが必須です。特に各段ごとに抵抗値が1:1になるよう比率が重要です。 さらにその抵抗器に並列に入っている47pFも同様に値がよく揃っている必要があり、手抜きはまったく許されません。
Allpass型やPPSN形式は一見すると容易そうに見えるのですが、位相特性や振幅特性に影響のあるすべてのコンデンサ、抵抗器ともに高精度のものや良くマッチングが取れたものを要求されます。 2Q4型ならCRそれぞれ4つと2:7の抵抗器を高精度に実現すれば済んだのに、はるかに多くの部品を選別しなくてはなりません。
机上ではいくらでも高性能な設計は可能なのですが、それが実現できるような回路を現実に形ある物として作るのは容易ではないのです。 もちろん不可能という意味ではないのであとは部品の選択眼と費やす努力次第でしょう。 10dBの改善を目指すのなら更に40dBくらいの努力を要求されます。(笑)
【未調整初期状態】
作りっぱなしの無調整状態ではこのような特性になりました。 縦軸はひと目盛りが0.1度と非常に拡大してあるため性能が悪そうに見えますが、そうではありません。
±0.3度くらいなら無調整のままでも入っているのですから、2Q4やNorgaardの±1.3度など比較する意味もないほど高性能と言えるでしょう。入念に作ればAllpass型でこれくらいの性能は得られるはずなのです。 AF-PSNだけで言えば、90度±0.3度の性能なら計算上では-51dBの逆サイド・サプレッションが得られます。
しかし、右肩下がりの位相特性なのが「かなり」気になりました。 この程度の性能になってくると、多段になったOP-Amp.の位相回りや分布容量などが効いてきて無視できないのでしょう。 幸いリアルタイムな観測手段があったので補正調整して追い込もうと試みます。
【ラフに調整してみる】
お借りした測定器(ダイナミック・シグナルアナライザ)なのでじっくり調整する時間はありませんでしたが、この程度の特性まで補正することができました。
具体的にはP側の位相器のコンデンサに小容量のトリマ・コンデンサ抱かせて良い具合のところに加減します。 位相推移回路が多段直列になっているので一筋縄では行きませんが観測手段さえあれば±0.2度くらいまでなら実現できそうでした。 それでやっと-55dBくらいです。
長期的な安定性となればまた別ですが、どんなに悪くても±0.5度くらいなら維持可能でしょう。 他の要因を考えるとまだまだ難しい課題はあるのですが、逆サイドの抑圧比として-50dBあたりが何となく実現できそうです。 それでもなお、フィルタ・タイプにだいぶ劣ったSpecなんですけれども・・・。 このくらいになると、リサジューを描かせたところで、実際に真円としか見えません。意味ないから動画はやめておきましょう。(笑)
# アナログなフェージング・タイプはフィルタ・タイプの性能を目指すものではないようです。もちろん、ソレ以上を目指すのも個人の自由ですけど・・・。 幾らか・・・じゃないかも知れませんが、数値では劣っても柔らかい音質とか、調整しつつオンエアすると言った「いじる楽しみ」を見出しながら使うもの・・・とでも言ったら言い過ぎでしょうか? 遊びのテーマとしては実に面白いです。 何だか負け惜しみのようですが。
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フェージング・タイプのSSBについて、AF-PSNに集中して検討してきました。 送信機として仕上げるにはRF-PSNを忘れる訳には行きません。バランスド・モジュレータも重要です。 これらも簡単そうに見えて意外に多くの課題があります。 道草も一旦ここまでにしておきますが、いずれ避けては通れないテーマとして浮上してくるでしょう。 その時は改めてじっくり検討してみたいと思っています。
フェージング・タイプのSSBはアナログな実現過程が興味深いため読み物として人気があるのだと思います。 そのためHJ誌などでは何回も記事化されたのでしょう。要するに「売れる記事」だった訳です。 しかし、それを読んで実際に製作されたお方はどれほどあったのでしょうか? 今回のBlogも同様でしょうから読み物として消費され、やがて忘れ去られるのでしょうね。 ちょっと残念に思います。
安定そうな部品を吟味して買い込み、デジタル・マルチメータやLCRメータを駆使しながら実際に製作されるお方は・・・おそらく千人に一人も居られないと思っています。 読んだ知識と実際に手を染めた知見では100倍もの違い・・いや、もっとかも・・・があるかも知れません。 50年前の真空管時代と比べ、いまは部品も測定器も発展してずっと作り易くなっています。 長い間フェージング・タイプSSB送信機の構想を温め続けて来たのでしたら、そろそろ手がけてみては如何でしょうか。 そうです、今でしょ!
これで私の寄り道は終わりです。 ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)nm