【回路:逆RIAAアンプを製作する】
【BB-Styleのプロトボード】
前回のBlog(←リンク)のテーマ、逆RIAA特性のアンプを「ハンダ付け」して作ってみました。 恒久的に使うにはブレッドボードのままと言う訳には行きません。以下簡単にその様子をまとめました。
☆
導体パターンがブレッドボードのようになっている試作用基板(写真上段)に組み立てました。 この試作用基板はブレッドボードで試作してうまく行ったらそれをそっくりそのままのレイアウトで移植すると言った想定で販売されているのだと思います。
電子工作を始めたばかりなら旨く行ったものはそのままそっくりの部品配置や配線のままで「恒久化」したいと思うものです。 こうしたボードは写真上側のものだけでなく様々なサイズの製品(←リンク)が販売されるようになってきました。 昨今はマイコン工作を含めて電子回路の試作と言えばブレッドボードを使うのが一般化したためでしょう。
写真下段は逆RIAAアンプをそうしたボードに載せてみたものです。 比較すれば明らかですが前回のブレッドボード製作と同じ部品レイアウトではないことにお気づきでしょう。 もちろん回路の方は前回のBlog(←リンク)そのままです。 ブレッドボードでの試作は回路規模をつかんだり部品配置の参考にはなりますがそのまま移植するのは必ずしも適当でないと感じました。 もちろん基板サイズがやや小さいこともあります。レイアウトを見直し余白の部分を減らして全体を詰め込んだ訳です。
一般的な試作用基板(蛇の目基板)では部品は表面側に載せますが、配線はパターン側(裏面)で行なうのが普通です。しかしここではブレッドボードでの試作と同じように部品面にジャンパーピンを刺す形式で配線しています。もちろん基板裏面のランドパターンのところでハンダ付けを行ないます。 そうした作り方はいかがなものかと思ったのですが意外に旨くまとめられました。見ばえもまずまずでしょう。 裏面パターンはわかっていますから部品面から配線を追うのも比較的容易です。
【裏面の配線は最低限で】
部品面から配線を追い易くするため裏面の配線はなるべく避けたかったのですが、一本だけ発生してしまいました。
表の面でジャンパー線を複数回経由すればこの一本も無くすことは可能そうでしたが無理をしないほうが合理的でしょう。或いはフレキシブルなワイヤで表側で配線しても良かったかもしれません。 黒色の配線のほかに、何箇所か隣のランドパターンとの間で裏面のジャンパーがあります。
一般的な試作用基板では、穴の周りにハンダ付け用の丸いランドパターンがあるだけです。 それに対して、こうしたブレッドボードスタイルの基板は電源用のラインはもちろんとして縦の5つの穴の間が繋がった「ブレッドボードと同じランドパターン」になっています。 このように穴の間が繋がっているのは部品配置の自由度が損なわれるので好ましくないと思っていました。 しかしうまく部品配置することでワイヤーによる配線を減らす効果があります。ブレッドボードでの製作に慣れてくると上手く部品配置もできそうです。 買ってはみたものの少々持て余し気味だったブレッドボードパターン基板も意外に使い易く感じられたのです。
もっと部品実装密度を上げるにはどうしてもパターンカットが発生します。数カ所ならともかくあまりにもカットの箇所が多くなるようでしたら普通の蛇の目基板に組み立てる方が合理的でしょう。
【OP-Amp.はLF356Hで】
OP-Ampはソケットにしたので交換可能です。 取りあえず設計通りのLF356Hを実装しておきました。
周波数特性をとってみましたが、前のBlogで使ったOP-16GJと違いません。RIAAネットワーク部分の部品はブレッドボードからそのままそっくり移植しましたのでこれは当たり前でしょうけれど。
1回路入りのOp-Ampは種類が限られますが、いくつかこうした用途に向いた品種もありますので、交換してみるのも面白いかもしれません。 電気的性能ではLF356Hでなんら問題ないので、測定用治具の扱いの本機はこのままで大丈夫です。
このあとは箱に収納しなくてはなりませんが、電源部は内蔵せず外付けで行こうと思っています。AC電源を内蔵しておくと使うときには便利ですが大掛かりになるので外付けで行こうと思っています。 もちろん左右のチャネル分を製作してオーディオ用として常用するのでしたら電源内蔵に限りますね。
☆
こんど秋葉原に出たときにでもちょうど良さそうな「箱」を調達してきたいと思っています。 それまでには入出力の端子や電源コネクタに何を使うか決めておきましょう。 ケースや外装パーツを決めたら次は板金加工が待っています。(板金加工は苦手)
ブレッドボードの製作は思いついた回路の検証にはたいへん便利です。 しかし上手く行っても恒久的なモノにはなりえません。 あらためてハンダ付けで作る必要がある訳です。 複数台作るつもりがあれば専用基板を起こすのが近頃のトレンドでしょうか。 綺麗にできますし数名で作るプロジェクトには専用基板化は最適です。 ここはごく個人的な興味だけでやってますのでお手軽さが最優先です。こうした試作用ボードが旨く活用できました。基板の納期を待つ必要もありません。 性能的にはなんら支障はありませんので写真のように作って旨く恒久化することができました。ではまた。 de JA9TTT/1
(おわり)fm
2018年3月17日土曜日
【回路】Reverse RIAA Amp.
【回路:逆RIAA特性のアンプを作る】
【レコード再生には】
若い人たちのあいだでレコード盤が密かなブームになっているそうです。 年配者には懐かしいだけかもしれませんが、若い人はあのころを何も知りませんから「古いものは新しい」のでしょう。残念ながら私は古い方の人です。(笑)
久しぶりにレコードを再生してみたくなりました。 昔のオーディオセットをメンテナンスするのは楽しいと思います。だいぶ年数が経過したのでうまく復活するでしょうか?
昔よりいくらか知識も増えたのでここは一つ「シンプルなイコライザ・アンプでも作ろうか」と思いはじめました。 真空管も良しディスクリートも良し・・・OP-Ampが高性能化したのでそれで作るのがトレンドでしょうか? 構想を巡らせるのは楽しいものです。(写真はLP盤とPhono Cartridge:昔のままです・笑)
今は半導体回路が進歩したので、DC点火も容易になっています。少し注意すればブーンというハム音に悩まされることもないので真空管を持ち出しても良いでしょう。 しかしどうも大掛かりになってしまう感じです。 そうかと言ってICで作ったら面白くないですし・・・。 ディスクリートのトランジスタ回路で懐かしい回路をリバイバルしてみましょうか。 あまりレコード盤は持っていませんので深入りしない程度の製作が安全だと思っています。
☆
はじめに断っておきます。イコライザ・アンプの設計製作は次の機会にしました。 まずは逆RIAA特性を持ったアンプを作ってみたいと思います。 NF型のイコライザ・アンプを設計していて、RIAA特性の負帰還ネットワークを計算していてたら逆特性の回路も簡単にできると思ったからです。 もし良いものができればネットワーク・アナライザと組み合わせて自作したイコライザ・アンプのフラットネスが管面から直視できるでしょう。ネットアナがなくても逆RIAAアンプを挟んだ周波数特性の平坦度を見ればよいわけで、RIAAイコライザ・アンプの評価はごく簡単にできるようになります。ちょっと面白そうなのでイコライザ・アンプの前に作ってみることにしました。
オーディオが趣味でも逆RIAAアンプなんかに興味を持つ人は稀でしょう。 良い音の追及というよりも回路的な興味が優先したテーマです。 いくらかでもご興味を引かれたようでしたらご覧ください。 Hi-Fi再生に無関係でもありませんから。
【RIAA特性とは】
昔々、エジソンが蝋管蓄音機を発明した頃は拾った音をそのまま録音していたのかも知れません。 しかし、やがてレコード盤に記録するようになり、歪みなくしかもS/Nが良い記録方法を追及するようになりました。
レコード盤に音の振動を記録するにあたって様々な研究が行われました。 その結果、レコード盤の物理的な限界やカートリッジの機械電気変換メカニズム、レコード針の特性などからフラットな周波数特性で記録したのでは最適ではないことがわかってきます。このあたりの詳しいことは電気音響工学の専門書を読んでいただくとして、ごく簡単にまとめておきます。
再生を考えたとき、針飛びが起こりやすい低音の振幅を抑えた方が有利です。録音時に抑えた分だけ再生回路の方でブーストするわけです。 逆に盤面ノイズは高音域で耳につくため録音時に高域を強調しておきます。再生時にその分を抑えれば改善します。 従って録音時に低域を低減し高域を強調しておけば再生を考えた最適化ができるわけです。 ただし各社が好き勝手に低減や強調をやったらレコード盤の互換性がなくなってしまいます。(実はそういう時代もありました。後述)
RIAA特性というのは米国のレコード工業会(Recording Industry Association of America:RIAA)が決めたレコード盤の録音特性のことです。その規格に従って低域の減衰と高域の強調がなされたレコード盤が製造されました。日本でも同等な特性を規格としてJISで規定しました。一般的にこの特性に従ったレコード盤が発売されていますから、再生側もそれに合わせる必要があります。
レコード再生ではRIAA特性で録音されたレコード盤から平坦な周波数特性を引き出す必要があるわけです。 そのため、レコード・ピップアップに続くプリアンプ部分をRIAA特性に従って録音時と逆の周波数特性を持つように設計します。
図はJISによるRIAA特性のグラフと周波数特性の一覧表です。録音側と再生側について規定されていますが、数値を見るとまったくの逆特性になっています。 レコード再生に使うプリアンプはこの特性が基本となるため非常に重要です。 市販のステレオアンプでもRIAA特性との偏差はこの数値との比較で示されています。
市販ステレオアンプでは誤差が±0.5dBならかなり優秀であり、±1.0〜2.0dBくらいがスペックになっているものが多いようです。スペックが省かれているような(書くことができない?)製品も多いようでした。 一般にかなり甘い規格になっているのでしょう。
【逆RIAA特性のアンプ】
逆RIAA特性を持ったアンプの回路です。 詳しくはありませんが、レコード・カッターで録音するときにもカッティング・アンプのどこかにこう言った特性を持った回路が使われているのではないかと思います。
逆RIAA特性ですから、低域は減衰し高域は強調される特性になっています。 回路図のC1、C2、R1、R2がRIAA特性を決めるRIAA特性ネットワークです。 R3は高域で効き過ぎないようにするためのオプションですが入っている場合が多いと思います。 全体のゲインはR4で変えられます。 ここでは1kHzにて0dB(=1倍)になるように設計してあります。
また、R4と並列のC6(=47pF)は重要で、アクティブな回路で逆RIAA回路を構成した場合には不可欠です。 これが無いと可聴域の外で想定以上に特性の盛り上がりが起こり場合によっては発振します。必ず入れておきます。
このアンプは測定用が目的です。あまり「音楽性」は追及しないため汎用のOP-Ampを使っています。 高域が上昇する周波数特性ですが、たかだか25dB程度のゲインなのでオープンループゲインの周波数特性が問題になることはないでしょう。 J-FET入力のLF356Hを使っています。 出力部にはアッテネータが付けてあります。 このアンプの後にくる測定対象の「プリアンプ」はハイゲインですから減衰させておく必要があります。
なお、この逆RIAAアンプの目標精度は上表の逆RIAAカーブに対して±0.5dB以内としておきます。アンプ部のゲインは1kHzにおいて0dBとしました。レコード・ピックアップの出力に合わせ、減衰された出力も用意しておきます。
【シミュレーションしてみる】
理屈ではうまく行くはずでも、シミュレーションしておくと安心です。 おおよその様子が製作する前につかめますので・・・。
RIAAネットワーク部分の部品定数が細かく書いてありますが、これは実際に製作することを目的に部品集めをした結果を反映したものです。 計算値どおりの定数を持った部品を揃えるのは難しいため、極力誤差が少なくなるように選別した上で妥協するわけです。 それでも設計値との違いは0.2%くらいになっています。
RIAAネットワークの設計方法は次回にでも扱いたいと思います。 簡単に言うと、まずは必要なゲインおよび回路動作から考えて不合理が起こらないように考えます。 ここではC1を最初に選ぶ方法で出発しています。 C1には表示が4020pF(誤差2%)というスチコンを使いました。このC1が実測で4035pFでしたので、それを計算の出発点にして他の部品定数を求めるわけです。その計算結果に基づいてC2、R1、R2、R3を集めました。(注:文中の部品番号はシミュレーション用の回路図のものではなくて一つ上の図面のものです)
部品定数が決まったところで、例によってLT-SPICEに図のように回路をインプットします。 OP-AmpはLF356Hがライブラリにはないため、同等以上のLT社製品を選んでいます。 可聴域ですからOP-Ampの違いがシミュレーション結果に現れる可能性はほとんどありません。気になるようなら別のOP-Ampに置き換えてやってみたらよいでしょう。
【カーブ・プロット】
シミュレーション結果です。 先に見たJISの特性一覧表と比較検討します。 図のようにカーソルを2つ表示して簡単に読み取ることができます。
1kHzにてゲインがほぼ0dB(=1倍)になるようにR4を決めてあります。 R4にパラの47pFの効き方などシミレーションで確認しておきました。 可聴域の上にある盛り上がりをもう少し抑えたいところですが、これ以上やるとRIAA特性の高域に影響が出るのでこの程度にしておきました。
シミュレーション結果を見ると綺麗な逆RIAA特性が得られることがわかりました。 設計したRIAAネットワークは(1)入力側の信号源インピーダンスはゼロである、(2)出力側の負荷インピーダンスもゼロである、・・という前提のとき最高性能を発揮します。 OP-Ampでドライブしますので信号源インピーダンスはわずか数Ωですし負荷側はOP-Ampのイマジナリ・ショートですからインピーダンスはほぼゼロと考えられます。 したがってかなり理想に近い状態です。 よい性能が得られるのでしょう。
【逆RIAAアンプを試作する】
シミレーションだけでは絵に描いた餅の状態です。 実際に試作してみましょう。
簡単な回路なので短時間で組み立てられました。 OP-AmpにはOP-16というPMI社(現ADI社)の製品を使っていますが、これはLF356Hの同等品(改良型)です。 在庫を探していたら最初に出てきたので使ってみたまでで特に意味はありません。 回路図通りにLF356Hで十分だと思います。
なおU1はかなり容量性の負荷になるため容量性負荷でも安定なOP-Ampを使う必要があります。 ほかのOP-Ampに代替可能ですがC-MOS OP-Ampの一部には容量性負荷に弱いものがあるので注意します。 本格的に2チャンネル分製作して自作プリアンプの試聴用に使いたいのでしたら、LF356Hだってけして悪くはないのですが一段と音響特性に優れると言われるOP-Amp・・・例えばLME49720(LM4562NA)、NE5532、JRCのMUSEシリーズなどがお薦めできます。
【RIAAネットワークがキーポイント】
何と言ってもRIAAネットワークがキーポイントです。 この部分の誤差が特性にそのまま現れます。OP-Amp部分は低周波ですから理想のアンプに十分近いため影響はほとんどないのです。
コンデンサ:C1とC2にはスチコン(スチロール・コンデンサ)を使いました。C2は容量合わせのためにディップド・マイカを補っています。 いずれにしても電気的にも音響特性的にも優れたコンデンサです。 抵抗器も金属皮膜抵抗を使いLCRメータなどを用いて実測しながら2本あるいは3本の合成で必要な値を得ています。ここではコンデンサ、抵抗器ともに±0.2%以下の誤差に合わせ込んであります。
いずれ(逆ではない)RIAA特性を持ったプリアンプを製作しますが、その際にもそのまま使えるような部品定数を選んでおきました。 プリアンプはステレオで作りますので2つのチャネル間で特性差がでないように2組をよく合わせてやらねばなりません。
【1,000Hzを発生する】
テスト信号の発生にはシンセサイザ式のレベルジェネレータを使いました。 熱電型のレベル安定回路を内蔵しているため周波数を変えても安定した信号レベルが得られます。
1,000Hzが基準になります。 ここでは-10dBm(600Ω)あるいは、0dBm(600Ω)を基準に測定しています。 測定周波数範囲は30Hz〜20kHzです。 一般的なRC発振器でも大丈夫ですが、周波数によってレベル変動がないことを確認してください。 あるいは入出力のレベル比較法によって周波数特性を求めるようにしないと正しい評価ができません。 レベル計は比較だけの目的に使い、アッテネータの読みからゲインを求めるといった方法も必要になるかもしれません。 測定精度が悪いとシビアに部品を選んだ効果がわからなくなくなってしまいます。
【1,000Hzのゲイン調整】
測定の便から、1,000Hzにてちょうど0dB(=1倍)のゲインに調整することにしました。 R3の一部をVR(可変抵抗器)にして1,000Hzでゲインを微調整します。
相対値で比較してもよいので、ゲインは無調整でも大丈夫です。1kHzにおけるゲインを測定しておいて後で差し引けば良いわけです。 1kHzでゲイン=0dBになっていれば読み取るだけで良いため面倒がないというだけの話です。
次項の写真のように2針式の電子電圧計を使うことにして、IN/OUTの信号レベルを常に監視して測定しました。
【1,000Hzのゲインは0dB】
アナログなレベル計では読み取り可能な数字はせいぜい3桁です。(それもかなり難しい) 測定を終わってからデジタル表示のレベル計を使えばよかったと思ったのですが結果的にはこれでもまずまずでした。
なお、この2針式の電子電圧計は修理・校正を行なったばかりです。 2つのチャネルとも周波数の平坦度は良好でチャネル間も良く揃っていました。この辺りがきちんとしていないと何をやっているんだか・・・となってしまいます。
(参考)写真の電圧計は経年劣化のためレンジ切り替えのリレー接点が不安定になっていました。 オープン型のリレーではまた劣化するため、接点が密閉されているマイクロリードリレーに置き換える改造を行ないました。そのあとで周波数特性を合わせてあります。安価な電子電圧計なので部品のクオリティが低いのはある程度やむを得ませんが多少の改造でグレードアップできます。
【逆RIAA特性の誤差は】
わかりやすくするためにRIAA特性表の数字と実測値との差をグラフにしてあります。 最初の方にある一覧表では0.01dBの桁まで数字が書いてありました。 アナログな電圧計ではそこまでは読めないので、0.05dBくらいの読み取りで我慢しました。
ご覧のように想定していた±0.5dBの目標誤差範囲は簡単にクリアできました。 20kHzで少し悪くなってきますが、それでも-0.3dBくらいのようです。 悪くない結果が得られています。 RIAAネットワークの部品誤差を小さくした効果が十分現れています。
この逆RIAA特性のアンプはプリアンプのRIAA特性を測定するときに使います。従って可能な限り誤差が小さい方が好ましく、このグラフくらいの特性が得られていればまずまずだろうと思います。 本格的に製作しても大丈夫でしょう。 いろいろ調査していたら米国ではこうした逆RIAA特性のフィルタがマニア向けに市販されているようでした。ただし誤差についてのSpecがないものが多いのは不思議です。ざっと見て±0.5〜1dBの誤差はありそうでした。アバウトでも十分だと思っているのかも知れませんね。(参考:0.5dBの誤差はパーセントでいえば、約6%の誤差になります)
【参考:RIAA特性以前】
RIAA特性の調査の過程でRIAA特性に統一される以前の録音特性データが見つかりました。 RIAA特性は1954年にRCA社が開発したLP盤、EP盤共通の録音再生特性:New Orthophonic特性に基づいて決めたものだそうです。(図の下段中央の特性) この時代はRCA社がラジオやオーディオの世界に君臨していましたからね。長いものに巻かれたのでしょう。w 私がオーディオに興味を持ったのは45/45方式ステレオレコードのEP盤やLP盤が全盛の1960年代ですから既にRIAA特性に統一されていました。
統一された初期の頃はまだ以前の特性のままプレスされていたレコード盤も存在したようです。 原音再生マニアはそうした特性に合わせたイコライザを用意していたと言う話を聞いた(読んだ)ことがあります。 メーカー製品ではイコライジング・ネットワークの部分をプラグイン式にして交換可能にしたものもあったようでした。 おそらくどんな音源でも正しく再生する必要のあるプロフェッショナル・オーディオでの話しでしょうね。 その後はRIAA特性に統一され補正曲線の形を意識する必要もなくなりました。それはいまでも続いています。 以上、参考までに。
☆
CD盤が登場したころ同じ内容のレコード盤と聴き比べたことがありました。 確かにS/Nは抜群ですし、ホコリや傷によるスクラッチノイズも皆無とあって素晴らしいことはわかりました。チープなステレオセットやラジカセで音楽を聴いていたような層には非常に満足できるメディアだったでしょう。しかし良質のレコード・カートリッジと高性能ステレオ・コンポでのレコード盤再生と比べるとCD盤はなぜか生気が失われたように感じられたのです。
同じように感じた人も多かったようでCDの音の悪さについては可聴域外の特性が影響するからだとか様々に言われたものでした。 おそらく音楽メーカーもCD盤という記録メディアに慣れていなかったのでしょう。 いまはずっと良くなっていて、かなり聞き込んでも不満は感じられなくなりました。CD盤に向いた音作りが上手になったと言うことかも知れません。扱いが楽なのでレコード盤よりも良いです。 いやいや、それどころか最近はシリコンチップの音を聞いているありさまです。
若かったころ聞いたレコード盤の音を懐かしく思います。その当時からプリアンプは変遷を続けていました。 オーディオから遠ざかる直前には差動増幅2段のOP-Ampの内部回路に近い形式のプリアンプになっていました。そうした形式のアンプは物理的な特性は素晴らしく向上していたと思います。
しかし本当に耳に残っているのは後世のそれではありません。もう少し前の球や石で作った2〜3段増幅のプリアンプだと思うのです。もちろんDCアンプ形式ではありません。 それが本当に良い音だったのか自信はありませんが・・・。ただ懐かしく耳に残っているだけですから。
性能の良いデバイスの登場もあって当時のプリアンプ回路を再現するのは容易でしょう。ぜひ確かめてみたいと思います。 案外そうした回路のアンプの方が良かった・・・なんていうことになるかも知れませんよ。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1
「つづき」があります。(→こちら)
(おわり)nm
注:計測可能な電気的性能はともかくとして、音楽性など感性に関わる話しは単に筆者個人の感想や主観であって普遍的なものではありません。一つの見方や考え方を書いたものであって、他者に対して強制あるいは推奨する意図は含まれていません。オーディオは単なる趣味ですから各人がそれぞれに楽しめば良いはずです。
【レコード再生には】
若い人たちのあいだでレコード盤が密かなブームになっているそうです。 年配者には懐かしいだけかもしれませんが、若い人はあのころを何も知りませんから「古いものは新しい」のでしょう。残念ながら私は古い方の人です。(笑)
久しぶりにレコードを再生してみたくなりました。 昔のオーディオセットをメンテナンスするのは楽しいと思います。だいぶ年数が経過したのでうまく復活するでしょうか?
昔よりいくらか知識も増えたのでここは一つ「シンプルなイコライザ・アンプでも作ろうか」と思いはじめました。 真空管も良しディスクリートも良し・・・OP-Ampが高性能化したのでそれで作るのがトレンドでしょうか? 構想を巡らせるのは楽しいものです。(写真はLP盤とPhono Cartridge:昔のままです・笑)
今は半導体回路が進歩したので、DC点火も容易になっています。少し注意すればブーンというハム音に悩まされることもないので真空管を持ち出しても良いでしょう。 しかしどうも大掛かりになってしまう感じです。 そうかと言ってICで作ったら面白くないですし・・・。 ディスクリートのトランジスタ回路で懐かしい回路をリバイバルしてみましょうか。 あまりレコード盤は持っていませんので深入りしない程度の製作が安全だと思っています。
☆
はじめに断っておきます。イコライザ・アンプの設計製作は次の機会にしました。 まずは逆RIAA特性を持ったアンプを作ってみたいと思います。 NF型のイコライザ・アンプを設計していて、RIAA特性の負帰還ネットワークを計算していてたら逆特性の回路も簡単にできると思ったからです。 もし良いものができればネットワーク・アナライザと組み合わせて自作したイコライザ・アンプのフラットネスが管面から直視できるでしょう。ネットアナがなくても逆RIAAアンプを挟んだ周波数特性の平坦度を見ればよいわけで、RIAAイコライザ・アンプの評価はごく簡単にできるようになります。ちょっと面白そうなのでイコライザ・アンプの前に作ってみることにしました。
オーディオが趣味でも逆RIAAアンプなんかに興味を持つ人は稀でしょう。 良い音の追及というよりも回路的な興味が優先したテーマです。 いくらかでもご興味を引かれたようでしたらご覧ください。 Hi-Fi再生に無関係でもありませんから。
【RIAA特性とは】
昔々、エジソンが蝋管蓄音機を発明した頃は拾った音をそのまま録音していたのかも知れません。 しかし、やがてレコード盤に記録するようになり、歪みなくしかもS/Nが良い記録方法を追及するようになりました。
レコード盤に音の振動を記録するにあたって様々な研究が行われました。 その結果、レコード盤の物理的な限界やカートリッジの機械電気変換メカニズム、レコード針の特性などからフラットな周波数特性で記録したのでは最適ではないことがわかってきます。このあたりの詳しいことは電気音響工学の専門書を読んでいただくとして、ごく簡単にまとめておきます。
再生を考えたとき、針飛びが起こりやすい低音の振幅を抑えた方が有利です。録音時に抑えた分だけ再生回路の方でブーストするわけです。 逆に盤面ノイズは高音域で耳につくため録音時に高域を強調しておきます。再生時にその分を抑えれば改善します。 従って録音時に低域を低減し高域を強調しておけば再生を考えた最適化ができるわけです。 ただし各社が好き勝手に低減や強調をやったらレコード盤の互換性がなくなってしまいます。(実はそういう時代もありました。後述)
RIAA特性というのは米国のレコード工業会(Recording Industry Association of America:RIAA)が決めたレコード盤の録音特性のことです。その規格に従って低域の減衰と高域の強調がなされたレコード盤が製造されました。日本でも同等な特性を規格としてJISで規定しました。一般的にこの特性に従ったレコード盤が発売されていますから、再生側もそれに合わせる必要があります。
レコード再生ではRIAA特性で録音されたレコード盤から平坦な周波数特性を引き出す必要があるわけです。 そのため、レコード・ピップアップに続くプリアンプ部分をRIAA特性に従って録音時と逆の周波数特性を持つように設計します。
図はJISによるRIAA特性のグラフと周波数特性の一覧表です。録音側と再生側について規定されていますが、数値を見るとまったくの逆特性になっています。 レコード再生に使うプリアンプはこの特性が基本となるため非常に重要です。 市販のステレオアンプでもRIAA特性との偏差はこの数値との比較で示されています。
市販ステレオアンプでは誤差が±0.5dBならかなり優秀であり、±1.0〜2.0dBくらいがスペックになっているものが多いようです。スペックが省かれているような(書くことができない?)製品も多いようでした。 一般にかなり甘い規格になっているのでしょう。
【逆RIAA特性のアンプ】
逆RIAA特性を持ったアンプの回路です。 詳しくはありませんが、レコード・カッターで録音するときにもカッティング・アンプのどこかにこう言った特性を持った回路が使われているのではないかと思います。
逆RIAA特性ですから、低域は減衰し高域は強調される特性になっています。 回路図のC1、C2、R1、R2がRIAA特性を決めるRIAA特性ネットワークです。 R3は高域で効き過ぎないようにするためのオプションですが入っている場合が多いと思います。 全体のゲインはR4で変えられます。 ここでは1kHzにて0dB(=1倍)になるように設計してあります。
また、R4と並列のC6(=47pF)は重要で、アクティブな回路で逆RIAA回路を構成した場合には不可欠です。 これが無いと可聴域の外で想定以上に特性の盛り上がりが起こり場合によっては発振します。必ず入れておきます。
このアンプは測定用が目的です。あまり「音楽性」は追及しないため汎用のOP-Ampを使っています。 高域が上昇する周波数特性ですが、たかだか25dB程度のゲインなのでオープンループゲインの周波数特性が問題になることはないでしょう。 J-FET入力のLF356Hを使っています。 出力部にはアッテネータが付けてあります。 このアンプの後にくる測定対象の「プリアンプ」はハイゲインですから減衰させておく必要があります。
なお、この逆RIAAアンプの目標精度は上表の逆RIAAカーブに対して±0.5dB以内としておきます。アンプ部のゲインは1kHzにおいて0dBとしました。レコード・ピックアップの出力に合わせ、減衰された出力も用意しておきます。
【シミュレーションしてみる】
理屈ではうまく行くはずでも、シミュレーションしておくと安心です。 おおよその様子が製作する前につかめますので・・・。
RIAAネットワーク部分の部品定数が細かく書いてありますが、これは実際に製作することを目的に部品集めをした結果を反映したものです。 計算値どおりの定数を持った部品を揃えるのは難しいため、極力誤差が少なくなるように選別した上で妥協するわけです。 それでも設計値との違いは0.2%くらいになっています。
RIAAネットワークの設計方法は次回にでも扱いたいと思います。 簡単に言うと、まずは必要なゲインおよび回路動作から考えて不合理が起こらないように考えます。 ここではC1を最初に選ぶ方法で出発しています。 C1には表示が4020pF(誤差2%)というスチコンを使いました。このC1が実測で4035pFでしたので、それを計算の出発点にして他の部品定数を求めるわけです。その計算結果に基づいてC2、R1、R2、R3を集めました。(注:文中の部品番号はシミュレーション用の回路図のものではなくて一つ上の図面のものです)
部品定数が決まったところで、例によってLT-SPICEに図のように回路をインプットします。 OP-AmpはLF356Hがライブラリにはないため、同等以上のLT社製品を選んでいます。 可聴域ですからOP-Ampの違いがシミュレーション結果に現れる可能性はほとんどありません。気になるようなら別のOP-Ampに置き換えてやってみたらよいでしょう。
【カーブ・プロット】
シミュレーション結果です。 先に見たJISの特性一覧表と比較検討します。 図のようにカーソルを2つ表示して簡単に読み取ることができます。
1kHzにてゲインがほぼ0dB(=1倍)になるようにR4を決めてあります。 R4にパラの47pFの効き方などシミレーションで確認しておきました。 可聴域の上にある盛り上がりをもう少し抑えたいところですが、これ以上やるとRIAA特性の高域に影響が出るのでこの程度にしておきました。
シミュレーション結果を見ると綺麗な逆RIAA特性が得られることがわかりました。 設計したRIAAネットワークは(1)入力側の信号源インピーダンスはゼロである、(2)出力側の負荷インピーダンスもゼロである、・・という前提のとき最高性能を発揮します。 OP-Ampでドライブしますので信号源インピーダンスはわずか数Ωですし負荷側はOP-Ampのイマジナリ・ショートですからインピーダンスはほぼゼロと考えられます。 したがってかなり理想に近い状態です。 よい性能が得られるのでしょう。
【逆RIAAアンプを試作する】
シミレーションだけでは絵に描いた餅の状態です。 実際に試作してみましょう。
簡単な回路なので短時間で組み立てられました。 OP-AmpにはOP-16というPMI社(現ADI社)の製品を使っていますが、これはLF356Hの同等品(改良型)です。 在庫を探していたら最初に出てきたので使ってみたまでで特に意味はありません。 回路図通りにLF356Hで十分だと思います。
なおU1はかなり容量性の負荷になるため容量性負荷でも安定なOP-Ampを使う必要があります。 ほかのOP-Ampに代替可能ですがC-MOS OP-Ampの一部には容量性負荷に弱いものがあるので注意します。 本格的に2チャンネル分製作して自作プリアンプの試聴用に使いたいのでしたら、LF356Hだってけして悪くはないのですが一段と音響特性に優れると言われるOP-Amp・・・例えばLME49720(LM4562NA)、NE5532、JRCのMUSEシリーズなどがお薦めできます。
【RIAAネットワークがキーポイント】
何と言ってもRIAAネットワークがキーポイントです。 この部分の誤差が特性にそのまま現れます。OP-Amp部分は低周波ですから理想のアンプに十分近いため影響はほとんどないのです。
コンデンサ:C1とC2にはスチコン(スチロール・コンデンサ)を使いました。C2は容量合わせのためにディップド・マイカを補っています。 いずれにしても電気的にも音響特性的にも優れたコンデンサです。 抵抗器も金属皮膜抵抗を使いLCRメータなどを用いて実測しながら2本あるいは3本の合成で必要な値を得ています。ここではコンデンサ、抵抗器ともに±0.2%以下の誤差に合わせ込んであります。
いずれ(逆ではない)RIAA特性を持ったプリアンプを製作しますが、その際にもそのまま使えるような部品定数を選んでおきました。 プリアンプはステレオで作りますので2つのチャネル間で特性差がでないように2組をよく合わせてやらねばなりません。
【1,000Hzを発生する】
テスト信号の発生にはシンセサイザ式のレベルジェネレータを使いました。 熱電型のレベル安定回路を内蔵しているため周波数を変えても安定した信号レベルが得られます。
1,000Hzが基準になります。 ここでは-10dBm(600Ω)あるいは、0dBm(600Ω)を基準に測定しています。 測定周波数範囲は30Hz〜20kHzです。 一般的なRC発振器でも大丈夫ですが、周波数によってレベル変動がないことを確認してください。 あるいは入出力のレベル比較法によって周波数特性を求めるようにしないと正しい評価ができません。 レベル計は比較だけの目的に使い、アッテネータの読みからゲインを求めるといった方法も必要になるかもしれません。 測定精度が悪いとシビアに部品を選んだ効果がわからなくなくなってしまいます。
【1,000Hzのゲイン調整】
測定の便から、1,000Hzにてちょうど0dB(=1倍)のゲインに調整することにしました。 R3の一部をVR(可変抵抗器)にして1,000Hzでゲインを微調整します。
相対値で比較してもよいので、ゲインは無調整でも大丈夫です。1kHzにおけるゲインを測定しておいて後で差し引けば良いわけです。 1kHzでゲイン=0dBになっていれば読み取るだけで良いため面倒がないというだけの話です。
次項の写真のように2針式の電子電圧計を使うことにして、IN/OUTの信号レベルを常に監視して測定しました。
【1,000Hzのゲインは0dB】
アナログなレベル計では読み取り可能な数字はせいぜい3桁です。(それもかなり難しい) 測定を終わってからデジタル表示のレベル計を使えばよかったと思ったのですが結果的にはこれでもまずまずでした。
なお、この2針式の電子電圧計は修理・校正を行なったばかりです。 2つのチャネルとも周波数の平坦度は良好でチャネル間も良く揃っていました。この辺りがきちんとしていないと何をやっているんだか・・・となってしまいます。
(参考)写真の電圧計は経年劣化のためレンジ切り替えのリレー接点が不安定になっていました。 オープン型のリレーではまた劣化するため、接点が密閉されているマイクロリードリレーに置き換える改造を行ないました。そのあとで周波数特性を合わせてあります。安価な電子電圧計なので部品のクオリティが低いのはある程度やむを得ませんが多少の改造でグレードアップできます。
【逆RIAA特性の誤差は】
わかりやすくするためにRIAA特性表の数字と実測値との差をグラフにしてあります。 最初の方にある一覧表では0.01dBの桁まで数字が書いてありました。 アナログな電圧計ではそこまでは読めないので、0.05dBくらいの読み取りで我慢しました。
ご覧のように想定していた±0.5dBの目標誤差範囲は簡単にクリアできました。 20kHzで少し悪くなってきますが、それでも-0.3dBくらいのようです。 悪くない結果が得られています。 RIAAネットワークの部品誤差を小さくした効果が十分現れています。
この逆RIAA特性のアンプはプリアンプのRIAA特性を測定するときに使います。従って可能な限り誤差が小さい方が好ましく、このグラフくらいの特性が得られていればまずまずだろうと思います。 本格的に製作しても大丈夫でしょう。 いろいろ調査していたら米国ではこうした逆RIAA特性のフィルタがマニア向けに市販されているようでした。ただし誤差についてのSpecがないものが多いのは不思議です。ざっと見て±0.5〜1dBの誤差はありそうでした。アバウトでも十分だと思っているのかも知れませんね。(参考:0.5dBの誤差はパーセントでいえば、約6%の誤差になります)
【参考:RIAA特性以前】
RIAA特性の調査の過程でRIAA特性に統一される以前の録音特性データが見つかりました。 RIAA特性は1954年にRCA社が開発したLP盤、EP盤共通の録音再生特性:New Orthophonic特性に基づいて決めたものだそうです。(図の下段中央の特性) この時代はRCA社がラジオやオーディオの世界に君臨していましたからね。長いものに巻かれたのでしょう。w 私がオーディオに興味を持ったのは45/45方式ステレオレコードのEP盤やLP盤が全盛の1960年代ですから既にRIAA特性に統一されていました。
統一された初期の頃はまだ以前の特性のままプレスされていたレコード盤も存在したようです。 原音再生マニアはそうした特性に合わせたイコライザを用意していたと言う話を聞いた(読んだ)ことがあります。 メーカー製品ではイコライジング・ネットワークの部分をプラグイン式にして交換可能にしたものもあったようでした。 おそらくどんな音源でも正しく再生する必要のあるプロフェッショナル・オーディオでの話しでしょうね。 その後はRIAA特性に統一され補正曲線の形を意識する必要もなくなりました。それはいまでも続いています。 以上、参考までに。
☆
CD盤が登場したころ同じ内容のレコード盤と聴き比べたことがありました。 確かにS/Nは抜群ですし、ホコリや傷によるスクラッチノイズも皆無とあって素晴らしいことはわかりました。チープなステレオセットやラジカセで音楽を聴いていたような層には非常に満足できるメディアだったでしょう。しかし良質のレコード・カートリッジと高性能ステレオ・コンポでのレコード盤再生と比べるとCD盤はなぜか生気が失われたように感じられたのです。
同じように感じた人も多かったようでCDの音の悪さについては可聴域外の特性が影響するからだとか様々に言われたものでした。 おそらく音楽メーカーもCD盤という記録メディアに慣れていなかったのでしょう。 いまはずっと良くなっていて、かなり聞き込んでも不満は感じられなくなりました。CD盤に向いた音作りが上手になったと言うことかも知れません。扱いが楽なのでレコード盤よりも良いです。 いやいや、それどころか最近はシリコンチップの音を聞いているありさまです。
若かったころ聞いたレコード盤の音を懐かしく思います。その当時からプリアンプは変遷を続けていました。 オーディオから遠ざかる直前には差動増幅2段のOP-Ampの内部回路に近い形式のプリアンプになっていました。そうした形式のアンプは物理的な特性は素晴らしく向上していたと思います。
しかし本当に耳に残っているのは後世のそれではありません。もう少し前の球や石で作った2〜3段増幅のプリアンプだと思うのです。もちろんDCアンプ形式ではありません。 それが本当に良い音だったのか自信はありませんが・・・。ただ懐かしく耳に残っているだけですから。
性能の良いデバイスの登場もあって当時のプリアンプ回路を再現するのは容易でしょう。ぜひ確かめてみたいと思います。 案外そうした回路のアンプの方が良かった・・・なんていうことになるかも知れませんよ。(笑) ではまた。 de JA9TTT/1
「つづき」があります。(→こちら)
(おわり)nm
注:計測可能な電気的性能はともかくとして、音楽性など感性に関わる話しは単に筆者個人の感想や主観であって普遍的なものではありません。一つの見方や考え方を書いたものであって、他者に対して強制あるいは推奨する意図は含まれていません。オーディオは単なる趣味ですから各人がそれぞれに楽しめば良いはずです。
2018年3月2日金曜日
【回路】10V Reference and Voltage Generator
【回路:10V電圧基準と電圧発生器】
【真空管時代の電圧基準は】
シャックの周波数基準はかつてのJJY/WWVの時代から、GPSやRb-OSC周波数基準器の発展で飛躍的に進歩しています。 「では電圧の基準は?」どうなのかというテーマも時々議論されますが、未だこれぞと言った解決策はないようです。
真空管時代は遠い昔のことになりましたが、その時代に基準電圧の発生に使われたのが「電圧標準管」 でした。定電圧放電管の一種ですが電圧の再現性がよく長時間にわたり放電電圧が安定しているのが特徴です。 電圧標準管を単独で使うことは稀で電圧発生装置(ある種の電源装置)の基準として使われたようです。
写真は代表的な「電圧標準管」で、5651と85A2です。5651は米国系、85A2は欧州系でしょう。国産品もあって写真の5651はNEC日本電気製、85A2は東芝製です。 いずれも約84〜86Vの電圧を発生します。 標準菅とは言っても何かバチっと決まった電圧が発生できる訳ではありません。電圧そのものは数Vの範囲でバラつきます。ただしその得られた電圧は安定しているのが特徴です。従って、絶対値は何らかの手段を使って知る必要があります。
使い方は一般的な定電圧放電管と同じですが一定電流(標準2.5mA)を流して使うのが基本であり電流は取り出さないのが正しい使い方です。要するに放電管に流れる電流を常に一定した値に保つわけです。 0A2/VR-150MTや0B2/VR-105MTなどとはその点が違います。 短い時間で見ると±20mV程度の安定性があるようです。また使用寿命(数千時間)までの電圧変動は0.2%とのことです。
☆
回路実験では可変できてなおかつ安定した電圧が発生できる「電圧発生装置」が欲しいことがあります。 そうした装置を持っていたのですが、大きくて重いうえメンテナンスが必要になったので手放してしまいました。 いまではあまり大掛かりでなく手軽に使える発生装置が欲しいと思っています。 コンパクトなメーカ製中古品も出回っています。製作はそれなりに面倒なので購入してしまうのも手かもしれません。
出費の抑制もありますが既製品の装置類をあまり増やしたくないので我慢できる範囲で簡略化して自作することを考えています。あまり『高精度病』にならない程度に楽しみながら手作りするためのメモです。例によって手持ちパーツの有効活用も目的の一つです。従って最適な部品選択にはなっていないかも知れません。 以下、製作へ向けて検討や実験を扱います。対象は高周波ではなくて直流(DC)です。RF回路に造詣の深いお方が多いようなので、ご興味とはちょっと違うかもしれません。まあ、お暇があればお付き合いでも。 DC回路だってそれなりに興味深いものがあります。
【5651を使った安定化電源】
電圧標準管を登場させた手前、実用例を紹介しておく必要がありそうです。 RCAのデータシートに載っていた5651を使った安定化電源の例を左図に示します。
ほぼ固定した250V前後の電圧を取り出すための真空管式安定化電源です。直列制御管が6080ですから結構大電流が取り出せます。 ただしあまり大幅に電圧を可変できないので趣旨とは少し違う電源装置ではありますが、電圧標準管はこのような回路で使うことが多かったと思います。 実際、こうした電源回路は発振が起きやすく思った以上にノウハウが必要だそうです。もし手を出すなら位相補償の方法など良く研究する必要があるでしょう。
単純に安定した電圧だけが欲しいニーズ(電流いらない)では、前段に普通の定電圧放電管:例えば0A2/VR-150MTなどを使い、一旦安定した電圧を得てから5651や85A2に与えると言った2段階の回路構成にします。 そのようにして得られた電圧を既知の値と比較校正し基準電圧として使ったのでしょう。 標準電池や電位差計そしてガルバノメータが登場しそうな世界です。 分圧抵抗に流す電流は一定と考えて放電管に一定電流が流れるよう調整しておけば使い物になるかもしれません。
しかし85Vでは半導体時代にはそぐわない電圧ですし、電圧標準管と言っても300ppmくらい変動するようなので半導体を使う方法には及びません。特にメリットもないのでこれ以上の深入りはやめておきます。 でも図のような大掛かりではなく、機会があれば簡単なものを5651で作ってみたいと思っています。
【温度補償型ツェナ・ダイオード】
半導体時代の電圧基準と言えば温度補償型のツェナ・ダイオードでしょう。 手持ちにあったものをいくつか並べてみました。 手前のRD6.2EB2はごく普通のツェナ・ダイオードで比較用の見本です。
金色のM322-1というのは、いまの秋月電子通商が「信越電機商会」だったころしばらく売られていたものです。 買った覚えのある人も多いでしょう。モトローラ製ですがどこかのハウスナンバー(特定顧客向け品番)のようです。 安価な(@100円だった)わりに安定していたので安定化電源の基準用に使ったことがあります。
こうしたダイオードは規定の電流をきっちり流して使う必要があります。 写真のM322-1や1S552は10mAちょうど流します。 1SZ47では1mAです。 したがって不安定な電圧のところから単純に抵抗器を経由して流したのでは性能を発揮できません。 ある程度安定化してある電圧のところから流します。あるいは定電流回路を併用します。 得られるツェナ電圧(端子間電圧)はある範囲でバラツキます。ただし、その電圧はたいへん安定しているのがこうしたツェナ・ダイオードの特徴です。 このあたりは電圧標準菅と同じですね。
後ほど温度補償型ツェナ・ダイオードを使って10.000Vを発生させる回路例があります。
【温度係数は加減できるか?】
電流をきっちり流すとは言っても規定値の前後で少し振ってやると温度係数が加減できそうです。 温度補償型ツェナの温度係数は流す電流の関数になっているようなのです。 従って電流値を加減してやれば温度係数がほぼゼロの動作状態に追い込むことができるのではないでしょうか。
もちろん、どのように評価するのかと言うのが最も難しいと思います。 数Vのところで1ppm以下の変動がわかるような評価手段は限られるからです。温度再現性の良い恒温槽も必要になるでしょうね。
図は1SZ47の例ですが、規定の1mA前後でわずかに振ってやれば最小の温度係数のポイントにチューニングできるかもしれません。 少々オキテ破りな方法ですけど、エンジニアならチャレンジしてみるものです。(爆)
【温度補償ツェナで10.000Vを作る】
発生電圧が10.000Vでその温度係数として±20ppm/℃くらいを狙った基準電圧源を考えてみました。 いずれも温度補償型ツェナ・ダイオードを使っています。
いきなり10.000Vが得られる電圧基準用のツェナ・ダイオードはないので、OP-Ampを使って10.000Vになるよう増幅してやる必要があります。(注:10.000Vを発生する調整済みのモジュールなら既製品が存在します。後述)
これら回路のポイントは増幅度を決める抵抗器にあります。 OP-Ampにドリフトの小さなものを使うのはもちろんですが、それ以上に重要なのは抵抗器です。温度係数の小さな抵抗器を使わないと意味がありません。抵抗器の性能で温度特性のほとんどが決まってしまいます。 Fig.1、Fig.2のいずれも作ったことがありますが、どちらかと言うとFig.1の方が好みです。性能もいくらか良いと思います。
この回路に使ったOP-AmpのOP-07は大して高価なものでなく簡単に手に入ります。(単品で購入しても100円前後です) それに比べて抵抗器の方が大問題です。 できれば±数ppm/℃といった温度係数の小さな抵抗器が欲しわけですが入手は難しいのです。 パーツショップで普通に売られている金属皮膜抵抗器では不十分です。ものにもよりますが100ppm/℃くらいの温度係数があります。さらに10倍くらいの温度係数を持つカーボン抵抗器などは論外でしょう。
ゲインは抵抗比で決まるので相対値の方を押さえれば良いためワンパッケージになった上質な集合抵抗をうまく使って温度係数を相殺するなどの工夫が有効そうです。もちろん調整用の可変抵抗器も問題になるのでなるべく調整範囲を狭く設計します。 回路は簡単ですが素材を選ぶので作るのが難しい回路といえます。
【バンドギャップ電圧基準IC】
最近ではツェナ・ダイオードは時代遅れかも知れませんね。 写真はバンドギャップ・リファレンス(←リンク)を使った基準電圧発生用の素子です。
右の金属パッケージはバンドギャップ・リファレンスそのものが入っており、発生電圧は1.23Vです。外付け回路で必要な電圧になるよう加工して使います。 真ん中のμPC1060Cはバンドギャップを基準にして出力電圧がちょうど2.5V(±1%)になるような回路が組み込まれたICです。温度係数は40ppm以下です。10〜12bitのA/DやD/Aコンバータの基準用として作られたものでしょう。
左のTL431Cは外付け抵抗器を変えることで広範囲な定電圧が得られるように工夫された3端子のICです。 基準電圧発生(標準2.495V)にも使えますがどちらかと言えば一般的なツェナ・ダイオードの置き換えを目的にしたデバイスです。 それでも常温付近なら±50ppm/℃くらいの安定性はありそうですから普通のツェナ・ダイオードよりもずっと優秀です。 ツェナ・ダイオードを電圧ごとに多品種揃えておくよりも合理的な素子です。外付け抵抗器が2本必要ですがこれ一つで約2.5v〜30Vのツェナダイオードを置き換えできます。
バンドギャップ・リファレンスの欠点はノイジーなところにあると思っています。2つのPNジャンクションに電流差を持たせると順方向電圧の温度係数を相殺できる電位差が発生できるポイントがあると言う原理に基づいています。 電圧発生にPNジャンクションの順方向電圧の特性を使うわけです。 発生できる電位差はごく小さいので結果として必要な電圧を得るためにはたくさん増幅することになります。
PNジャンクションに順方向電流を流すとショットノイズが現れまずが、結果としてそのノイズもたくさん増幅することになります。 出てくるのはノイジーな電圧になるわけです。 このあたりを回路的に工夫してノイズを減らすように考えなくてはなりません。 ただし超低周波の揺らぎ(フリッカノイズ)はなかなか取り切れるものではありません。
【力ずくだがこれがベストか?】
LM399HとLM3999Zは普通に市販品が購入できる電子部品としては究極の電圧基準ツェナ・ダイオードかも知れません。
ツェナダイオードを温度補償型に作ってもわずかに温度係数が残ってしまいます。周囲温度が変化すれば電圧が変わるのは当たり前だ・・と言うのを、それならダイオードの温度を一定にしてしまえば良いと発想したわけです。 基準電圧ツェナ・ダイオードを恒温槽に入れてしまいました。一つのICチップ上に恒温槽も作り込むと言う力わざですが、効果的な改善策と言えるでしょう。 左のLM399Hは熱的に遮蔽されたパッケージに入っています。 安価な LM3999Zの方は普通のパッケージ構造なので使用時に熱遮蔽の工夫を要します。
恒温槽のための余分な電力が必要ですが周囲温度の影響は非常に軽減されます。 安価な方のLM3999Zでさえ標準で±2ppm/℃の温度係数です。 LM399Hの方は標準で±0.3ppm/℃と言う素晴らしさです。ワーストケースでも±2ppmですから流石ですね。少なくとも10倍以上良くなっています。 恒温槽が定温に達するまでウオームアップタイムが必要ですが、出力電圧がほぼ安定したと言えるまでに30秒も掛かりません。
【LM399Hで10.000Vを発生】
LM399Hの使い方は一般的な温度補償型ツェナ・ダイオードと同じです。(もちろん恒温槽機能のヒータ加熱部分は違いますが) 上記の10.000V発生回路で行けます。写真ではFig.1の回路で作りましたが、帰還抵抗の値などの関係で調整方法は変更しています。OP-AmpにはOP-07CZを使いました。OP-07CZのオフセット電圧ドリフトはmax1.8μV/℃(typ0.5μV/℃)ですからほとんど問題になりません。微小電圧ではなく、10Vを扱うこのような用途には十分な性能です。
OP-Amp部分のゲインを決める帰還抵抗にはアルファエレクトロニクスの金属箔抵抗器があったので使ってみました。手持ちにあった物を使ったので抵抗値は理想的とは言えませんがまずまずな結果が得られています。 電圧微調整部分には普通の金属皮膜抵抗器を使っていますが、可変範囲はごく狭いので温度係数に及ぼす影響は数ppm/℃以下が見込めるようです。 ブレッドボードの簡易実験ではありますが金属箔抵抗器の性能が優れているらしくたいへん安定した10Vが得られました。得られた10.000Vは10ppm/℃を切る温度係数におさまっているようです。 きちんと作って十分なエージングも実施すればアマチュアレベルとしてはかなり優秀な基準電圧源になるでしょう。
期待どおりLM399Hは安定で温度補償型ツェナ・ダイオードと比べて一桁くらい性能アップする感じです。 ほかの温度補償型ツェナ・ダイオードと違ってツェナ電流と温度係数の関係は顕著ではないため幅広く選べますがここでは1mA少々流しています。 LM399Hに内蔵されているツェナ・ダイオードは表面下ブレークダウン型と言う構造で長期安定度とノイズ特性に優れたものです。揺らぎもあまり感じませんでした。
これだけ高安定度なのはたいへん素晴らしいのですが、LM399Hで発生できる電圧は標準で6.95Vです。さらに6.95Vにはバラツキがあります。お気付きのように重要なのは必要とする10.000Vに校正する手段をどうするのかと言うところでしょうね。 せめて0.0001V(100μVの桁)まで合わせたいところですけれど10Vレンジが±10ppmの絶対精度で保証できる電圧計なんてそうそうありませんから・・・。
【既成の10.000V基準を評価してみる】
まずは安定している基準となる電圧を作ってそれをもとに分圧するなどの方法で必要な電圧を作って行けば良いわけです。
検討してきたいずれかの方法で10.000Vを得て、あとは分圧して行こうと思います。
たまたまパーツボックスを探していたら既製品の10.000V発生用ICが出てきました。 試してみたら流石にメーカ製だけあって良くできています。ほぼ無調整で10.000Vが得られるのですから・・・。
特にバーブラウン(現TI社)のREF-10KMは初期精度も良く温度係数も標準で±1ppmだそうです。一般的に入手可能なデバイスとしては非常に優秀です。 それなりに高価な部品ですが部品集めや回路を組んでから校正で苦労するよりも良いかもしれません。 (REF-10KMはディスコンです。代替としてREF-102などがあります) AD584KHだって常温付近なら±3ppm/℃くらいですから結構な高性能です。 AD584KHは現行品です。 データシートによれば、REF-10KMはツェナ・ダイオードを基準にしておりAD584KHはバンドギャップ・リファレンスが基準です。
実際に回路を組んで様子をみましたが非常に安定していると感じました。 観察するとREF-10KMの方がフラつきが少ないようです。 Specを見ると多少劣るようですがAD584KHの方だって十分安定していると感じました。なお、AD584KHは10Vのほかに、2.5V、5V、7.5Vが発生できるのは便利です。 いずれにしても出力電圧の微調整を設けると今度は校正が問題になってしまいますけれど・・・。 外付け回路で不安定さを持ち込まないように注意が必要でしょう。 上記のほか類似デバイスとしてはリニアテクノロジ社のLTC1236ACN、MAXIM社のMAX6176AAなどがあります。
#こうした精密と言える基準電圧発生用のICが使えるなら楽かも知れません。しかし、あまり追求すると『高精度病』の再発になってしまいますね。(笑)
【簡易な電圧発生器を作る】
大掛かりにならない装置が製作目標です。従って少々Poorなところは我慢するとして図のようなものを考えてみました。10.000V基準電圧の部分は既出の発生回路のどれを使ってもOKです。
残念なことに分圧に使うポテンショメータのリニヤリティに依存するため、せっかく高精度な基準電圧が活かしきれません。LM399Hを使った電圧基準を使ったのでは勿体ないでしょう。 この程度の物でも私の実験目的には十分使えそうだと思っています。
だいたい1%以内のところに電圧設定できれば良いので何とか使えるでしょう。 小さな電圧に絞った時に精度が劣化すると思います。 しかし大半の用途では問題にならないはずです。 設定精度も大切ですが安定していることの方がもっとも重要だからです。
【ヘリポットがポイント】
10.000Vはそれなりに合わせるとして、それ以下の電圧は分圧するポテンショメータ(写真)の特性が全体の性能を支配します。
写真のものはヘリポット(←参考リンク)と呼ばれる精密な可変抵抗器でCOPAL製の10回転型です。リニヤリティは0.2%とのことです。 10Vの0.2%は20mVなのでそれほど優秀とは言えないかも知れません。 それでも一般的な可変抵抗器に比べれば雲泥の差です。 どうしてもそれ以上の精度が必要なときは電圧の実測で合わせこめば良いと思います。 なお、ヘリポットの多くは巻線構造のため微細にみると電圧はステップ状に変化します。分解能は有限ということになります。
ポテンショメータの後のバッファアンプはここでもOP-07を使うつもりです。 オフセット電圧ドリフトなど考えても概ね十分な安定度だと思います。 μA741クラスでは少々心もとないかもしれません。 もしOP-07で不十分ならチョッパ安定型を使うことになりますがそこまでは必要ないでしょう。 何しろポテンショメータが0.2%精度ですので。
【中華製もあるが・・】
きちんと性能が保証されているポテンショメータはそれなりのお値段です。 上記のCOPALのものはダイヤル込みで¥3kくらいだったと思います。
少々怪しいとは思いますが中華製(←リンク)なら200円で買えます。 激安なので性能はそれなりとは思いますが普通の可変抵抗器よりもずっとマシでしょう。 簡易な用途でしたら支障なく使えるのではないでしょうか。 なお、リニヤリティは±0.3%だそうですがなんとなく怪しそうに思えます。(笑)
専用のカウンタ・ダイヤルも売っていたように思います。シャフトはφ4mmなので注意が必要です。 写真のものはお試しにaitendoで購入しました。 過度な期待をせず手軽に使うには安くて良いと思います。 もう少しお小遣いが許せばBournsの製品(←リンク)も買えるようです。安心を取るならそちらの方が良いかも知れません。ダイヤルと合わせて1,500円で買えます。(秋月電子通商にて。2018年3月現在)
注意:こうしたヘリポットの多くは巻線構造なので何がしかのインダクタンスを持っています。インダクタンスがあっても直流回路(DC回路)では支障ありませんが、オーディオ機器など交流回路(AC回路)には適当ではありません。 もちろん、高周波回路(RF回路)には使えません。 ごく低周波なら大丈夫そうですが、変な周波数特性が現れても困るのでもし使うとしても数100Hz以下が無難なところだと思っています。
☆
10.000Vの基準電圧を作る部分を集中的に扱ったようになってしまいました。 アナログ的にやるなら後は適切に分圧して行けば良いと思うからです。 精密に数値設定することは難しいのですが、概ね正しい電圧で安定していてくれたら十分だと考えればアナログ的な方法も悪くないと思います。 まずは簡単なポテンショメータ式でやってみようかと思い始めています。
【やっぱりデジタルでしょ】
ステップ式に・・・デジタル的に数値で出力電圧を切り替えられたら便利なことがあります。 一つの方法として高精度なD/Aコンバータを使うのも手です。
写真の黒い箱は長いあいだ死蔵してきたDAC-169-16Dという16bitのD/Aコンバータです。これは9.999Vフルスケール、1mV分解能です。 一般的な16bitのD/Aコンバータはバイナリ(2進)で設定しますが、このD/AコンバータはBCDで4桁の入力になっています。従って後述するデジスイッチで直接出力電圧を設定できます。(ディスコンの製品です)
今の時代ですから高分解能なD/Aコンバータとマイコン+ロータリエンコーダを使えば同じような機能が簡単に実現できます。設定はバイナリで行ない電圧はLCD表示器に10進で(真値で)行なえば良いでしょう。 安価で高分解能なD/Aコンバータはほとんどがオーディオ用です。そのためDC的な安定性を保証するものは稀なようですが実験してみる価値はありそうです。 写真のようなモジュールは入手困難ですからそうした手段で実現するのが現実的です。
【BCD-DACをテストしてみる】
DAC-169-16Dはもともとがジャンクだったように思います。 壊れているのでジャンクになったのかもしれません。 まずは生きているのか簡単なチェックが必要でしょう。 ブレッドボードにテスト回路を作ってみました。
左側にずらりと並んだスイッチ部分にデジスイッチを使うわけです。 D/Aコンバータはトリミングされているのでそれなりの初期精度になっていますがゼロ点とフルスケールの調整は欠かせません。 結局のところこの場合でも高精度な測定手段が必要ということになってしまいますね。
【安定度を評価しょう】
9000を数値セットして精度と安定性を見ています。 簡単にオフセット調整とフルスケールを調整してあります。 調整用の可変抵抗器(VR)は多回転型を使うべきでした。 普通の半固定抵抗器ではうまく調整しきれません。220μVくらいのオフセット電圧が残ってしまいました。
テストなので少々不完全な調整ですが、とりあえずここまでとして安定性や再現性を評価しました。 内部の回路が複雑なためでしょうか、いくらかノイジーな印象があります。また10μVの桁あたりで漂動も見られますが使い物にはなりそうです。 もっとも評価手段の方もそれなりの問題があると思っています。 ラフなテスト方法ですからノイズの混入などで漂動するのはある程度やむを得ないでしょう。 きちんとやらないと本当の性能はわかりませんね。
#まずは長期在庫品のD/Aコンバータも使えそうということで選択肢に入れておきます。
【デジスイッチで簡単に】
マイコンと16bitのI/Oポートを使った方が良いのかもしれませんが、このスイッチも長期在庫部品です。 いま使わないと将来も使う機会はないでしょう。 ということでこの際使ってしまおうと思います。
D/Aコンバータの入力仕様がTTLレベルなので、スイッチとの間にHC-MOSをバッファとして挟んで使う方が良さそうでした。 そうでないとプルアップやプルダウンの抵抗値をかなり小さくしないと旨くありません。
こうしたシャフトタイプのデジスイッチは珍しいと思いますが、サムホイールスイッチに適当なものがあって代替できます。 マイコン時代なのでサムホイールスイッチもあまり見かけなくなった気もしますが、まだ手に入るでしょう。 それと機械的なスイッチは意外に高いのでマイコンとロータリエンコーダで構成した方が安く上がるはずです。
デジタルな手段だと数値設定して使うのには便利そうです。 アナログな方法で作るか、デジタル式で行くか自身の使用状況を想定しながら決めたいと思います。 例によって手持ち部品の活用も製作目的の一つですから幾らか不合理なところも生じます。 しかし電子部品は死蔵ではなくできるだけ活用してやりたいものです。
参考・1:PWM式電圧発生器
基準となる安定した電圧が必要なのは上記の例と変わりませんが、ポテンショメータやD/Aコンバータではなくデジタル的に高精度な分圧比を得る方法があります。時分割で分圧された電圧を発生する方法です。 過渡応答は良くありませんが、抵抗器などで分圧する代わりに10VがONの時間と0VになるOFF時間の比率を変えるのです。 例えば0.9秒は10V、0.1秒が0Vという繰り返しパルスならその平均値は9Vちょうどになります。
このような仕組みで、ON時間とOFF時間の比率をステップ的に細かく変えてやれば細かく精度の良い電圧を得ることができます。 デジタル式で可変型の基準電圧発生器を作るのでしたら、高精度D/Aコンバータや分圧抵抗器などの必要がないPWM式が最も合理的だろうと思います。 ある種のD/Aコンバータとも言えますね。 ワンチップ・マイコンのPWM機能をそのまま使ったのではあまり高精度にはなりませんが、C-MOSの標準ロジックで性能の良いものが作れます。 基準電圧の部分を除けば汎用部品で済むため費用もかからないはずです。(参考リンク:こちらにこの方式の詳しい実験レポートがあります)
参考・2:公的な機関で校正する
公的な機関で電圧基準器を持っているところがあって時間利用ができます。そうしたところで校正してくれば十分信用できる「電圧基準器」になります。公的機関ですから利用料は大したことはありません。出力電圧を電圧計で直接測ったのでは精度が出ませんから、精度が保証された基準器と比較測定を行なって校正します。
☆
何となく10.000Vの基準電圧を作るというのがテーマのようになってしまいました。安定していてはっきりした電圧が得られればまずはそれが基準になるわけです。 残念ながら絶対値の校正手段がないので高分解能な電圧計で合わせ込んでも結局のところ「我が家基準」でしかありません。(笑) それでも測定器を総動員して比較したら0.1%くらいの絶対精度はありそうに思えます。日常的な用途にはまずまずだろうと思います。 あとは如何に分圧して必要な電圧を得るかということになります。 周波数の基準を得ることはずいぶん容易になりましたが、未だ電圧の基準は容易ではないことがわかります。
デジタルな時代なので4桁くらいの数字が表示される測定器は普通に手に入ります。 しばらく前のことですが、社員が日常的に使っているマルチメータ(デジタルの)を集めて精度を調べたことがありました。ほとんどはハンディな3・1/2桁表示のものです。 評価にはトレーサビリティ付きの校正装置を使いました。
もっとも基本となるDC電圧の測定レンジでさえ、アナログなテスタに劣るデジタルマルチメータが幾つも見つかって驚きました。 抵抗測定レンジや交流電圧測定ではいわんやでした。 購入直後はまずまずでも、しばらく使っていると随分ズレてくるようでした。
あまりにも酷いものはその測定モードや測定レンジの使用を禁止したほどです。 安価なマルチメータは再校正できないので全体的にダメなものは捨ててもらうしかありませんでした。一見良さそうに見えても嘘の数字を示す測定器はないよりたちが悪いものです。hi hi
たくさん数字が表示されてもその数値が信用できるのか、ほんとうの精度はどうなのか意識して臨みたいと思います。 何気なく使っているマルチメータも信用ならないかもしれませんから。 ではまた。 de JA9TTT/1
「つづき」があります。(→こちら)
(おわり)fm
【真空管時代の電圧基準は】
シャックの周波数基準はかつてのJJY/WWVの時代から、GPSやRb-OSC周波数基準器の発展で飛躍的に進歩しています。 「では電圧の基準は?」どうなのかというテーマも時々議論されますが、未だこれぞと言った解決策はないようです。
真空管時代は遠い昔のことになりましたが、その時代に基準電圧の発生に使われたのが「電圧標準管」 でした。定電圧放電管の一種ですが電圧の再現性がよく長時間にわたり放電電圧が安定しているのが特徴です。 電圧標準管を単独で使うことは稀で電圧発生装置(ある種の電源装置)の基準として使われたようです。
写真は代表的な「電圧標準管」で、5651と85A2です。5651は米国系、85A2は欧州系でしょう。国産品もあって写真の5651はNEC日本電気製、85A2は東芝製です。 いずれも約84〜86Vの電圧を発生します。 標準菅とは言っても何かバチっと決まった電圧が発生できる訳ではありません。電圧そのものは数Vの範囲でバラつきます。ただしその得られた電圧は安定しているのが特徴です。従って、絶対値は何らかの手段を使って知る必要があります。
使い方は一般的な定電圧放電管と同じですが一定電流(標準2.5mA)を流して使うのが基本であり電流は取り出さないのが正しい使い方です。要するに放電管に流れる電流を常に一定した値に保つわけです。 0A2/VR-150MTや0B2/VR-105MTなどとはその点が違います。 短い時間で見ると±20mV程度の安定性があるようです。また使用寿命(数千時間)までの電圧変動は0.2%とのことです。
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回路実験では可変できてなおかつ安定した電圧が発生できる「電圧発生装置」が欲しいことがあります。 そうした装置を持っていたのですが、大きくて重いうえメンテナンスが必要になったので手放してしまいました。 いまではあまり大掛かりでなく手軽に使える発生装置が欲しいと思っています。 コンパクトなメーカ製中古品も出回っています。製作はそれなりに面倒なので購入してしまうのも手かもしれません。
出費の抑制もありますが既製品の装置類をあまり増やしたくないので我慢できる範囲で簡略化して自作することを考えています。あまり『高精度病』にならない程度に楽しみながら手作りするためのメモです。例によって手持ちパーツの有効活用も目的の一つです。従って最適な部品選択にはなっていないかも知れません。 以下、製作へ向けて検討や実験を扱います。対象は高周波ではなくて直流(DC)です。RF回路に造詣の深いお方が多いようなので、ご興味とはちょっと違うかもしれません。まあ、お暇があればお付き合いでも。 DC回路だってそれなりに興味深いものがあります。
【5651を使った安定化電源】
電圧標準管を登場させた手前、実用例を紹介しておく必要がありそうです。 RCAのデータシートに載っていた5651を使った安定化電源の例を左図に示します。
ほぼ固定した250V前後の電圧を取り出すための真空管式安定化電源です。直列制御管が6080ですから結構大電流が取り出せます。 ただしあまり大幅に電圧を可変できないので趣旨とは少し違う電源装置ではありますが、電圧標準管はこのような回路で使うことが多かったと思います。 実際、こうした電源回路は発振が起きやすく思った以上にノウハウが必要だそうです。もし手を出すなら位相補償の方法など良く研究する必要があるでしょう。
単純に安定した電圧だけが欲しいニーズ(電流いらない)では、前段に普通の定電圧放電管:例えば0A2/VR-150MTなどを使い、一旦安定した電圧を得てから5651や85A2に与えると言った2段階の回路構成にします。 そのようにして得られた電圧を既知の値と比較校正し基準電圧として使ったのでしょう。 標準電池や電位差計そしてガルバノメータが登場しそうな世界です。 分圧抵抗に流す電流は一定と考えて放電管に一定電流が流れるよう調整しておけば使い物になるかもしれません。
しかし85Vでは半導体時代にはそぐわない電圧ですし、電圧標準管と言っても300ppmくらい変動するようなので半導体を使う方法には及びません。特にメリットもないのでこれ以上の深入りはやめておきます。 でも図のような大掛かりではなく、機会があれば簡単なものを5651で作ってみたいと思っています。
【温度補償型ツェナ・ダイオード】
半導体時代の電圧基準と言えば温度補償型のツェナ・ダイオードでしょう。 手持ちにあったものをいくつか並べてみました。 手前のRD6.2EB2はごく普通のツェナ・ダイオードで比較用の見本です。
金色のM322-1というのは、いまの秋月電子通商が「信越電機商会」だったころしばらく売られていたものです。 買った覚えのある人も多いでしょう。モトローラ製ですがどこかのハウスナンバー(特定顧客向け品番)のようです。 安価な(@100円だった)わりに安定していたので安定化電源の基準用に使ったことがあります。
こうしたダイオードは規定の電流をきっちり流して使う必要があります。 写真のM322-1や1S552は10mAちょうど流します。 1SZ47では1mAです。 したがって不安定な電圧のところから単純に抵抗器を経由して流したのでは性能を発揮できません。 ある程度安定化してある電圧のところから流します。あるいは定電流回路を併用します。 得られるツェナ電圧(端子間電圧)はある範囲でバラツキます。ただし、その電圧はたいへん安定しているのがこうしたツェナ・ダイオードの特徴です。 このあたりは電圧標準菅と同じですね。
後ほど温度補償型ツェナ・ダイオードを使って10.000Vを発生させる回路例があります。
【温度係数は加減できるか?】
電流をきっちり流すとは言っても規定値の前後で少し振ってやると温度係数が加減できそうです。 温度補償型ツェナの温度係数は流す電流の関数になっているようなのです。 従って電流値を加減してやれば温度係数がほぼゼロの動作状態に追い込むことができるのではないでしょうか。
もちろん、どのように評価するのかと言うのが最も難しいと思います。 数Vのところで1ppm以下の変動がわかるような評価手段は限られるからです。温度再現性の良い恒温槽も必要になるでしょうね。
図は1SZ47の例ですが、規定の1mA前後でわずかに振ってやれば最小の温度係数のポイントにチューニングできるかもしれません。 少々オキテ破りな方法ですけど、エンジニアならチャレンジしてみるものです。(爆)
【温度補償ツェナで10.000Vを作る】
発生電圧が10.000Vでその温度係数として±20ppm/℃くらいを狙った基準電圧源を考えてみました。 いずれも温度補償型ツェナ・ダイオードを使っています。
いきなり10.000Vが得られる電圧基準用のツェナ・ダイオードはないので、OP-Ampを使って10.000Vになるよう増幅してやる必要があります。(注:10.000Vを発生する調整済みのモジュールなら既製品が存在します。後述)
これら回路のポイントは増幅度を決める抵抗器にあります。 OP-Ampにドリフトの小さなものを使うのはもちろんですが、それ以上に重要なのは抵抗器です。温度係数の小さな抵抗器を使わないと意味がありません。抵抗器の性能で温度特性のほとんどが決まってしまいます。 Fig.1、Fig.2のいずれも作ったことがありますが、どちらかと言うとFig.1の方が好みです。性能もいくらか良いと思います。
この回路に使ったOP-AmpのOP-07は大して高価なものでなく簡単に手に入ります。(単品で購入しても100円前後です) それに比べて抵抗器の方が大問題です。 できれば±数ppm/℃といった温度係数の小さな抵抗器が欲しわけですが入手は難しいのです。 パーツショップで普通に売られている金属皮膜抵抗器では不十分です。ものにもよりますが100ppm/℃くらいの温度係数があります。さらに10倍くらいの温度係数を持つカーボン抵抗器などは論外でしょう。
ゲインは抵抗比で決まるので相対値の方を押さえれば良いためワンパッケージになった上質な集合抵抗をうまく使って温度係数を相殺するなどの工夫が有効そうです。もちろん調整用の可変抵抗器も問題になるのでなるべく調整範囲を狭く設計します。 回路は簡単ですが素材を選ぶので作るのが難しい回路といえます。
【バンドギャップ電圧基準IC】
最近ではツェナ・ダイオードは時代遅れかも知れませんね。 写真はバンドギャップ・リファレンス(←リンク)を使った基準電圧発生用の素子です。
右の金属パッケージはバンドギャップ・リファレンスそのものが入っており、発生電圧は1.23Vです。外付け回路で必要な電圧になるよう加工して使います。 真ん中のμPC1060Cはバンドギャップを基準にして出力電圧がちょうど2.5V(±1%)になるような回路が組み込まれたICです。温度係数は40ppm以下です。10〜12bitのA/DやD/Aコンバータの基準用として作られたものでしょう。
左のTL431Cは外付け抵抗器を変えることで広範囲な定電圧が得られるように工夫された3端子のICです。 基準電圧発生(標準2.495V)にも使えますがどちらかと言えば一般的なツェナ・ダイオードの置き換えを目的にしたデバイスです。 それでも常温付近なら±50ppm/℃くらいの安定性はありそうですから普通のツェナ・ダイオードよりもずっと優秀です。 ツェナ・ダイオードを電圧ごとに多品種揃えておくよりも合理的な素子です。外付け抵抗器が2本必要ですがこれ一つで約2.5v〜30Vのツェナダイオードを置き換えできます。
バンドギャップ・リファレンスの欠点はノイジーなところにあると思っています。2つのPNジャンクションに電流差を持たせると順方向電圧の温度係数を相殺できる電位差が発生できるポイントがあると言う原理に基づいています。 電圧発生にPNジャンクションの順方向電圧の特性を使うわけです。 発生できる電位差はごく小さいので結果として必要な電圧を得るためにはたくさん増幅することになります。
PNジャンクションに順方向電流を流すとショットノイズが現れまずが、結果としてそのノイズもたくさん増幅することになります。 出てくるのはノイジーな電圧になるわけです。 このあたりを回路的に工夫してノイズを減らすように考えなくてはなりません。 ただし超低周波の揺らぎ(フリッカノイズ)はなかなか取り切れるものではありません。
LM399HとLM3999Zは普通に市販品が購入できる電子部品としては究極の電圧基準ツェナ・ダイオードかも知れません。
ツェナダイオードを温度補償型に作ってもわずかに温度係数が残ってしまいます。周囲温度が変化すれば電圧が変わるのは当たり前だ・・と言うのを、それならダイオードの温度を一定にしてしまえば良いと発想したわけです。 基準電圧ツェナ・ダイオードを恒温槽に入れてしまいました。一つのICチップ上に恒温槽も作り込むと言う力わざですが、効果的な改善策と言えるでしょう。 左のLM399Hは熱的に遮蔽されたパッケージに入っています。 安価な LM3999Zの方は普通のパッケージ構造なので使用時に熱遮蔽の工夫を要します。
恒温槽のための余分な電力が必要ですが周囲温度の影響は非常に軽減されます。 安価な方のLM3999Zでさえ標準で±2ppm/℃の温度係数です。 LM399Hの方は標準で±0.3ppm/℃と言う素晴らしさです。ワーストケースでも±2ppmですから流石ですね。少なくとも10倍以上良くなっています。 恒温槽が定温に達するまでウオームアップタイムが必要ですが、出力電圧がほぼ安定したと言えるまでに30秒も掛かりません。
【LM399Hで10.000Vを発生】
LM399Hの使い方は一般的な温度補償型ツェナ・ダイオードと同じです。(もちろん恒温槽機能のヒータ加熱部分は違いますが) 上記の10.000V発生回路で行けます。写真ではFig.1の回路で作りましたが、帰還抵抗の値などの関係で調整方法は変更しています。OP-AmpにはOP-07CZを使いました。OP-07CZのオフセット電圧ドリフトはmax1.8μV/℃(typ0.5μV/℃)ですからほとんど問題になりません。微小電圧ではなく、10Vを扱うこのような用途には十分な性能です。
OP-Amp部分のゲインを決める帰還抵抗にはアルファエレクトロニクスの金属箔抵抗器があったので使ってみました。手持ちにあった物を使ったので抵抗値は理想的とは言えませんがまずまずな結果が得られています。 電圧微調整部分には普通の金属皮膜抵抗器を使っていますが、可変範囲はごく狭いので温度係数に及ぼす影響は数ppm/℃以下が見込めるようです。 ブレッドボードの簡易実験ではありますが金属箔抵抗器の性能が優れているらしくたいへん安定した10Vが得られました。得られた10.000Vは10ppm/℃を切る温度係数におさまっているようです。 きちんと作って十分なエージングも実施すればアマチュアレベルとしてはかなり優秀な基準電圧源になるでしょう。
期待どおりLM399Hは安定で温度補償型ツェナ・ダイオードと比べて一桁くらい性能アップする感じです。 ほかの温度補償型ツェナ・ダイオードと違ってツェナ電流と温度係数の関係は顕著ではないため幅広く選べますがここでは1mA少々流しています。 LM399Hに内蔵されているツェナ・ダイオードは表面下ブレークダウン型と言う構造で長期安定度とノイズ特性に優れたものです。揺らぎもあまり感じませんでした。
これだけ高安定度なのはたいへん素晴らしいのですが、LM399Hで発生できる電圧は標準で6.95Vです。さらに6.95Vにはバラツキがあります。お気付きのように重要なのは必要とする10.000Vに校正する手段をどうするのかと言うところでしょうね。 せめて0.0001V(100μVの桁)まで合わせたいところですけれど10Vレンジが±10ppmの絶対精度で保証できる電圧計なんてそうそうありませんから・・・。
【既成の10.000V基準を評価してみる】
まずは安定している基準となる電圧を作ってそれをもとに分圧するなどの方法で必要な電圧を作って行けば良いわけです。
検討してきたいずれかの方法で10.000Vを得て、あとは分圧して行こうと思います。
たまたまパーツボックスを探していたら既製品の10.000V発生用ICが出てきました。 試してみたら流石にメーカ製だけあって良くできています。ほぼ無調整で10.000Vが得られるのですから・・・。
特にバーブラウン(現TI社)のREF-10KMは初期精度も良く温度係数も標準で±1ppmだそうです。一般的に入手可能なデバイスとしては非常に優秀です。 それなりに高価な部品ですが部品集めや回路を組んでから校正で苦労するよりも良いかもしれません。 (REF-10KMはディスコンです。代替としてREF-102などがあります) AD584KHだって常温付近なら±3ppm/℃くらいですから結構な高性能です。 AD584KHは現行品です。 データシートによれば、REF-10KMはツェナ・ダイオードを基準にしておりAD584KHはバンドギャップ・リファレンスが基準です。
実際に回路を組んで様子をみましたが非常に安定していると感じました。 観察するとREF-10KMの方がフラつきが少ないようです。 Specを見ると多少劣るようですがAD584KHの方だって十分安定していると感じました。なお、AD584KHは10Vのほかに、2.5V、5V、7.5Vが発生できるのは便利です。 いずれにしても出力電圧の微調整を設けると今度は校正が問題になってしまいますけれど・・・。 外付け回路で不安定さを持ち込まないように注意が必要でしょう。 上記のほか類似デバイスとしてはリニアテクノロジ社のLTC1236ACN、MAXIM社のMAX6176AAなどがあります。
#こうした精密と言える基準電圧発生用のICが使えるなら楽かも知れません。しかし、あまり追求すると『高精度病』の再発になってしまいますね。(笑)
【簡易な電圧発生器を作る】
大掛かりにならない装置が製作目標です。従って少々Poorなところは我慢するとして図のようなものを考えてみました。10.000V基準電圧の部分は既出の発生回路のどれを使ってもOKです。
残念なことに分圧に使うポテンショメータのリニヤリティに依存するため、せっかく高精度な基準電圧が活かしきれません。LM399Hを使った電圧基準を使ったのでは勿体ないでしょう。 この程度の物でも私の実験目的には十分使えそうだと思っています。
だいたい1%以内のところに電圧設定できれば良いので何とか使えるでしょう。 小さな電圧に絞った時に精度が劣化すると思います。 しかし大半の用途では問題にならないはずです。 設定精度も大切ですが安定していることの方がもっとも重要だからです。
【ヘリポットがポイント】
10.000Vはそれなりに合わせるとして、それ以下の電圧は分圧するポテンショメータ(写真)の特性が全体の性能を支配します。
写真のものはヘリポット(←参考リンク)と呼ばれる精密な可変抵抗器でCOPAL製の10回転型です。リニヤリティは0.2%とのことです。 10Vの0.2%は20mVなのでそれほど優秀とは言えないかも知れません。 それでも一般的な可変抵抗器に比べれば雲泥の差です。 どうしてもそれ以上の精度が必要なときは電圧の実測で合わせこめば良いと思います。 なお、ヘリポットの多くは巻線構造のため微細にみると電圧はステップ状に変化します。分解能は有限ということになります。
ポテンショメータの後のバッファアンプはここでもOP-07を使うつもりです。 オフセット電圧ドリフトなど考えても概ね十分な安定度だと思います。 μA741クラスでは少々心もとないかもしれません。 もしOP-07で不十分ならチョッパ安定型を使うことになりますがそこまでは必要ないでしょう。 何しろポテンショメータが0.2%精度ですので。
【中華製もあるが・・】
きちんと性能が保証されているポテンショメータはそれなりのお値段です。 上記のCOPALのものはダイヤル込みで¥3kくらいだったと思います。
少々怪しいとは思いますが中華製(←リンク)なら200円で買えます。 激安なので性能はそれなりとは思いますが普通の可変抵抗器よりもずっとマシでしょう。 簡易な用途でしたら支障なく使えるのではないでしょうか。 なお、リニヤリティは±0.3%だそうですがなんとなく怪しそうに思えます。(笑)
専用のカウンタ・ダイヤルも売っていたように思います。シャフトはφ4mmなので注意が必要です。 写真のものはお試しにaitendoで購入しました。 過度な期待をせず手軽に使うには安くて良いと思います。 もう少しお小遣いが許せばBournsの製品(←リンク)も買えるようです。安心を取るならそちらの方が良いかも知れません。ダイヤルと合わせて1,500円で買えます。(秋月電子通商にて。2018年3月現在)
注意:こうしたヘリポットの多くは巻線構造なので何がしかのインダクタンスを持っています。インダクタンスがあっても直流回路(DC回路)では支障ありませんが、オーディオ機器など交流回路(AC回路)には適当ではありません。 もちろん、高周波回路(RF回路)には使えません。 ごく低周波なら大丈夫そうですが、変な周波数特性が現れても困るのでもし使うとしても数100Hz以下が無難なところだと思っています。
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10.000Vの基準電圧を作る部分を集中的に扱ったようになってしまいました。 アナログ的にやるなら後は適切に分圧して行けば良いと思うからです。 精密に数値設定することは難しいのですが、概ね正しい電圧で安定していてくれたら十分だと考えればアナログ的な方法も悪くないと思います。 まずは簡単なポテンショメータ式でやってみようかと思い始めています。
【やっぱりデジタルでしょ】
ステップ式に・・・デジタル的に数値で出力電圧を切り替えられたら便利なことがあります。 一つの方法として高精度なD/Aコンバータを使うのも手です。
写真の黒い箱は長いあいだ死蔵してきたDAC-169-16Dという16bitのD/Aコンバータです。これは9.999Vフルスケール、1mV分解能です。 一般的な16bitのD/Aコンバータはバイナリ(2進)で設定しますが、このD/AコンバータはBCDで4桁の入力になっています。従って後述するデジスイッチで直接出力電圧を設定できます。(ディスコンの製品です)
今の時代ですから高分解能なD/Aコンバータとマイコン+ロータリエンコーダを使えば同じような機能が簡単に実現できます。設定はバイナリで行ない電圧はLCD表示器に10進で(真値で)行なえば良いでしょう。 安価で高分解能なD/Aコンバータはほとんどがオーディオ用です。そのためDC的な安定性を保証するものは稀なようですが実験してみる価値はありそうです。 写真のようなモジュールは入手困難ですからそうした手段で実現するのが現実的です。
【BCD-DACをテストしてみる】
DAC-169-16Dはもともとがジャンクだったように思います。 壊れているのでジャンクになったのかもしれません。 まずは生きているのか簡単なチェックが必要でしょう。 ブレッドボードにテスト回路を作ってみました。
左側にずらりと並んだスイッチ部分にデジスイッチを使うわけです。 D/Aコンバータはトリミングされているのでそれなりの初期精度になっていますがゼロ点とフルスケールの調整は欠かせません。 結局のところこの場合でも高精度な測定手段が必要ということになってしまいますね。
【安定度を評価しょう】
9000を数値セットして精度と安定性を見ています。 簡単にオフセット調整とフルスケールを調整してあります。 調整用の可変抵抗器(VR)は多回転型を使うべきでした。 普通の半固定抵抗器ではうまく調整しきれません。220μVくらいのオフセット電圧が残ってしまいました。
テストなので少々不完全な調整ですが、とりあえずここまでとして安定性や再現性を評価しました。 内部の回路が複雑なためでしょうか、いくらかノイジーな印象があります。また10μVの桁あたりで漂動も見られますが使い物にはなりそうです。 もっとも評価手段の方もそれなりの問題があると思っています。 ラフなテスト方法ですからノイズの混入などで漂動するのはある程度やむを得ないでしょう。 きちんとやらないと本当の性能はわかりませんね。
#まずは長期在庫品のD/Aコンバータも使えそうということで選択肢に入れておきます。
【デジスイッチで簡単に】
マイコンと16bitのI/Oポートを使った方が良いのかもしれませんが、このスイッチも長期在庫部品です。 いま使わないと将来も使う機会はないでしょう。 ということでこの際使ってしまおうと思います。
D/Aコンバータの入力仕様がTTLレベルなので、スイッチとの間にHC-MOSをバッファとして挟んで使う方が良さそうでした。 そうでないとプルアップやプルダウンの抵抗値をかなり小さくしないと旨くありません。
こうしたシャフトタイプのデジスイッチは珍しいと思いますが、サムホイールスイッチに適当なものがあって代替できます。 マイコン時代なのでサムホイールスイッチもあまり見かけなくなった気もしますが、まだ手に入るでしょう。 それと機械的なスイッチは意外に高いのでマイコンとロータリエンコーダで構成した方が安く上がるはずです。
デジタルな手段だと数値設定して使うのには便利そうです。 アナログな方法で作るか、デジタル式で行くか自身の使用状況を想定しながら決めたいと思います。 例によって手持ち部品の活用も製作目的の一つですから幾らか不合理なところも生じます。 しかし電子部品は死蔵ではなくできるだけ活用してやりたいものです。
参考・1:PWM式電圧発生器
基準となる安定した電圧が必要なのは上記の例と変わりませんが、ポテンショメータやD/Aコンバータではなくデジタル的に高精度な分圧比を得る方法があります。時分割で分圧された電圧を発生する方法です。 過渡応答は良くありませんが、抵抗器などで分圧する代わりに10VがONの時間と0VになるOFF時間の比率を変えるのです。 例えば0.9秒は10V、0.1秒が0Vという繰り返しパルスならその平均値は9Vちょうどになります。
このような仕組みで、ON時間とOFF時間の比率をステップ的に細かく変えてやれば細かく精度の良い電圧を得ることができます。 デジタル式で可変型の基準電圧発生器を作るのでしたら、高精度D/Aコンバータや分圧抵抗器などの必要がないPWM式が最も合理的だろうと思います。 ある種のD/Aコンバータとも言えますね。 ワンチップ・マイコンのPWM機能をそのまま使ったのではあまり高精度にはなりませんが、C-MOSの標準ロジックで性能の良いものが作れます。 基準電圧の部分を除けば汎用部品で済むため費用もかからないはずです。(参考リンク:こちらにこの方式の詳しい実験レポートがあります)
参考・2:公的な機関で校正する
公的な機関で電圧基準器を持っているところがあって時間利用ができます。そうしたところで校正してくれば十分信用できる「電圧基準器」になります。公的機関ですから利用料は大したことはありません。出力電圧を電圧計で直接測ったのでは精度が出ませんから、精度が保証された基準器と比較測定を行なって校正します。
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何となく10.000Vの基準電圧を作るというのがテーマのようになってしまいました。安定していてはっきりした電圧が得られればまずはそれが基準になるわけです。 残念ながら絶対値の校正手段がないので高分解能な電圧計で合わせ込んでも結局のところ「我が家基準」でしかありません。(笑) それでも測定器を総動員して比較したら0.1%くらいの絶対精度はありそうに思えます。日常的な用途にはまずまずだろうと思います。 あとは如何に分圧して必要な電圧を得るかということになります。 周波数の基準を得ることはずいぶん容易になりましたが、未だ電圧の基準は容易ではないことがわかります。
デジタルな時代なので4桁くらいの数字が表示される測定器は普通に手に入ります。 しばらく前のことですが、社員が日常的に使っているマルチメータ(デジタルの)を集めて精度を調べたことがありました。ほとんどはハンディな3・1/2桁表示のものです。 評価にはトレーサビリティ付きの校正装置を使いました。
もっとも基本となるDC電圧の測定レンジでさえ、アナログなテスタに劣るデジタルマルチメータが幾つも見つかって驚きました。 抵抗測定レンジや交流電圧測定ではいわんやでした。 購入直後はまずまずでも、しばらく使っていると随分ズレてくるようでした。
あまりにも酷いものはその測定モードや測定レンジの使用を禁止したほどです。 安価なマルチメータは再校正できないので全体的にダメなものは捨ててもらうしかありませんでした。一見良さそうに見えても嘘の数字を示す測定器はないよりたちが悪いものです。hi hi
たくさん数字が表示されてもその数値が信用できるのか、ほんとうの精度はどうなのか意識して臨みたいと思います。 何気なく使っているマルチメータも信用ならないかもしれませんから。 ではまた。 de JA9TTT/1
「つづき」があります。(→こちら)
(おわり)fm
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