2016年10月31日月曜日

【部品】Shopping Guide 2016 part 2

【買い物ガイド 2016 その2】
このBlogの買物ガイドでは見過ごされそうなアイテムを扱っています。
MEMS Oscillator
 MEMS(メムズ)と言うのは、Micro Electro Mechanical Systemsの略です。 MEMS発振器は発振周波数を決める仕組みにMEMSの技術を使った発振器のことです。 基本的には機械共振器を使った発振器であって、昔の音叉(おんさ)発振器と考え方は同じです。 但し、機械的な共振器は非常に微細なためその共振周波数は高周波になります。

 写真は最近になって秋葉原は秋月電子通商で発売された「MEMS発振器:SiT2001B」(←リンク)です。これはSiTime社の製品でこれから扱うのは発振周波数が48MHzのものです。 SiTime社は水晶発振器が常識だった高周波の発振器にMEMS技術で参入しているメーカーです。シリコン・ウエファ上に立体構造を構築する高度な加工技術を使っています。近年のMEMSの進歩には著しいものがあって、水晶発振子や水晶発振器のメーカーにとってはかなりの脅威ではないでしょうか?

 MEMS発振器については2年ほど前に評価したことがあります。その結果はトラ技誌2014年4月号に纏めましたが、水晶発振器と比較して信号品質は未だ及ばずと言った状況でした。(評価したのは別メーカーの製品です) そのため、秋月電子の新商品案内を見てもあまり期待できないだろうと言う先入観を持ったのです。

 SiT2001Bは新世代のMEMS発振器で1MHzから110MHzの範囲で6桁精度の発振周波数が得られているそうです。 誤差10ppm以内の周波数精度がある訳ですね。 秋月電子通商では12MHz、16MHz、20MHz、そして48MHzの発振器が発売されています。いずれも単価100円とお手ごろです。 これまで発売されて来たPLL式のプログラマブル水晶発振器の信号品質があまり芳しくなかったことからその代替品を意図しているのかも知れません。

SiT2001B:48MHz Oscillator
 写真はSiT2001Bを拡大して見たものです。 パッケージはSOT-23サイズの5pinです。 かなり小さいですが、ピン数も少ないことから扱いはそれほど難しくありません。 なるべく先の細いハンダ鏝と良質のハンダを使って実装します。フラックスも併用すると良いでしょう。ピッチ変換基板も発売されています。

 今どきのデバイスですから静電気には気をつけるべきですが、特にデリケートではないらしく単なるICとして扱えます。 このチップをテストする上での注意点は電源電圧の最大値が4Vと低いことにあります。標準的には1.8〜3.3Vの電源電圧で使用することになります。

 以下の実験では、他の回路の都合で大もとの電源電圧が5Vだったので、赤色のLEDを直列に入れて約1.6Vほど電圧を落として供給しました。 消費電流は4.5mA以下ですから同じ周波数の水晶発振器(市販品)よりもだいぶ少ないです。

 内部回路はC-MOSのようで、出力の振幅は電源電圧に連動して変化します。 Vdd=3.4Vのとき無負荷では約3.3Vppが得られました。 周波数が高いことからきっちりした矩形波ではありませんがデジタル回路用として支障のない波形です。

スペクトラムの観測
 波形は矩形波的なので当然ですが奇数次の高調波は多めでした。 写真は48MHzを中心に500kHzの幅でスペクトル観測した様子です。

 主信号よりも40dB以上小さいのですが、無数の不要サイドバンド信号が観測されました。 どのような原因で発生しているのかはわかりませんが、出力周波数を「生成」する過程で何らかのシンセサイザのような仕組みを採り入れているのかも知れません。 ただし少々汚い信号ではありますが、主信号の揺らぎとは違うようなのでクロック信号として使うのなら支障ないかも知れません。

 もちろん、直接信号を扱うような用途にはスプリアス特性が悪くなるので適しません。一例としてはクリスタルコンバータの水晶発振器(局発)の代用のような目的には旨くありません。 用途としてデジタル回路のクロック用を意図しているのは間違いないでしょう。

近傍スペクトラムの観測
 同じく48MHzを中心に10kHzの幅でごく近傍のスプリアスや揺らぎなどを観測してみました。

 スペアナの観測では、主信号の揺らぎは感じられません。 MDAで仔細に見ると幾らか揺らぎがあるようですが、それほど大きくはないので支障ないように思います。 水晶発振だってOCXOでもなければそれなりの揺らぎはあるものです。

 48MHzなのでDDS-ICのクロック用としては少し低めですが確認しておくことにしました。 クロックを供給するDDS-ICはAD9834BRUZです。 結果が良ければ75MHz版をリクエストするなどの展開も考えられます。 期待したいと思います。 もし使えるなら消費電流が少なく無調整なのも好都合でしょう。

AD9834で使ってみる
 AD9834 DDS-ICの実験基板でテストしてみました。 SiT2001Bは左側の小基板に載っています。電源は+5V電源から赤色のLEDを通して与えています。

 赤色LEDの順方向電圧降下は約1.6Vです。 従って、SiT2001BはVdd=3.4V程度で動作することになります。 赤色LEDも流れるのが4.5mAくらいなら支障のない電流値です。

 AD9834とのインターフェースですが、SiT2001Bの電源電圧が5Vよりもかなり低いことから直結はせずにC結合にしました。 出力を1000pFで切ってからAD9834側で約2V(DC)のバイアスを与えてあります。 SiT2001Bのドライブ能力は十分あるのでバイアス回路が負担になるようなことはありませんでした。 これでAD9834を問題なくドライブできます。 ドライブ波形も良好でした。

AD9834 DDS-ICの10MHz出力
 SiT2001Bから48MHzを与えた状態でAD9834BRUZから約10MHzを発生させてみました。

 主信号の近傍10kHzの範囲でスプリアスなどを観測しています。 クロック信号が良くないと近傍の周波数にスプリアスやノイズが現れます。 この例では非常に奇麗な信号になっているようでした。 無線機で信号を聞いてみても奇麗なトーンが確認できます。

 どうやらSiT2001Bの48MHzはDDS-ICのクロック発振器として旨く使えるようです。 周波数安定度も悪くありませんでした。 ごく一般的な水晶発振器と類似の性能ではないでしょうか?  もし75MHz版が登場したら改めてテストしてみたいと思っています。

AD9834 DDS-ICの広帯域スプリアス
 クロック周波数が48MHzなので折り返しスプリアスの周波数も低くなります。 そのほか主信号の高調波など見られます。 しかし、これはSiT2001Bがクロック発振器だから現れるわけではありません。 同じ周波数のクロックなら水晶発振でも同じようなものです。

 良くご覧頂くと7MHzあたりに強いスプリアスが認められます。 最初、これは何だろう?・・・と思ったのですが同じ部屋で運用中のWSPR送信機の信号を拾っているのが原因でした。 DDS-ICからの出力ではありません。 その他にもWSPRの関係で現れているスペクトラムが見えている可能性もあります。(笑)

 SiTime社のMEMS発振器:SiT2001Bは新世代のためなかなか良好な信号が得られるようです。 詳細な比較では未だに良くできた水晶発振器に歩があるようにも感じますが、近い将来には覆るかも知れません。 SiTime社のアナウンスによれば2017年の新製品でTCXOやOCXOの領域までMEMS発振器が進出するそうです。 実力には未知数の部分もありますがかなりの自信作のようです。 いずれ特殊な用途を除き殆どの水晶発振モジュールがMEMS発振器に置き換わるのではないでしょうか。 水晶振動子を必要とするのはクリスタルフィルタの分野くらいになってしまう可能性だってありそうですね。

MEMS発振器は予想外の好結果でした。 DDS-ICだけでなくマイコン関係のクロック発振器にもお奨めできると思います。 デジタル回路全般に向いているでしょう。

MEMS発振器が大きく進化!(→参考リンク




aitendoの正体不明トランス
 先日のことですが、aitendo@秋葉原店で別の小型トランスを探していたのですが自力で見付けることができませんでした。商品の配置にあまり一貫性がない上、何しろ種類が多すぎます。 そこでベテラン店員のお姉さんに置き場所を教えてもらったのです。

 そのとき、「こっちに安いトランスあるよ!」とのセールストークが付いてきました。 そう言われたらそれも見ない訳には行きませんね。(笑) ついでにその「安いトランス」とやらを何個か買ってしまったのでした。商売がお上手です。(爆)

 まあ、見た感じでは得体が知れないものの、ひょっとしたら何かに使えるかもしれないし一つ39円だからダメもとで・・・と思って手にしてみたのでした。

 このHT-2394と言う型番のトランスですが帰宅して調べたら1次側と2次側がある普通のトランスでした。コア材はフェライトです。 従って山水トランスのような低周波用の小型トランスとは異なるものです。 ボビンにTDKの文字があるのでコアとボビンのメーカはTDKかも知れません。 しかし中国にはたくさんのフェイクが出回っていますから模造品の可能性もありそうです。

 オリジナルの用途はわかりませんが、巻き数が少ない方を1次側とすると、2次側の巻き数は数100倍もあるようです。 インダクタンスの関係で50Hzや60Hzのような低周波では使えませんが、数10kHzで使えばかなりの高電圧が発生できるでしょう。 ただし、小さなトランスですから大きな電力は無理です。 何かの放電管とかプラズマボール(?)、あるいはテニスラケット型虫取りネットにでも使うのでしょうかね?? うっかり実験したら感電するのでけっこう「あぶない」トランスです。

 巻き直してコア材として使うことも考えたのですが接着が強固なので奇麗に分解できません。 39円なんだから「駄目でもマアいいか・・」とも思ったのですが、うまい使い道がヒラメキました。(笑)

 トランスとして評価した際にLCRメータでインダクタンスを観測しました。 2次側がかなり沢山巻いてあるので、フェライトコアのトランスとは言え大きめのインダクタンスを持っていました。 しかも無負荷Qが結構高いようなのです。 トランスとして使うのは難しそうですが「インダクタ」として使ったらどうだろう?・・・と思ったのです。hi

CWフィルタに使う
 巻き替えることができないので、そのまま使うしかありません。 そのため、あまり高級なフィルタは作れませんが共振回路が2段になったようなLCフィルタなら製作可能です。

 次項の回路図にあるような回路をシミュレーションしてみたところ良さそうなCWフィルタになります。 左図のようなピーク型のフィルタではなく平坦な通過域を持ったBPFでも設計検討したのですが、LCの素子数とQuの関係から思ったような特性は難しそうでした。 しかし簡単な2段の共振型フィルタならグラフのようなものが実現できそうです。 アクティブ・フィルタではなく、今どき珍しいパッシブな素子によるCWフィルタと言う訳です。(笑)

 定数を変えながら色々シミュレーションしてみました。 概略を決めてから最後は実際にCWを受信しながら部品定数を微調整しました。 次項の回路図はその結果を纏めたものです。 CW受信は好みもあるでしょうから各自でチューニングすればベストです。 チューニング方法は後の方に書いてあります。

再生受信機で試す
 以前のBlog(←リンク)で紹介したことのある「再生式短波受信機」を試作してみました。 単なる外付けのLC-CWフィルタを作っても良かったのですが折角なので簡単な受信機で試してみましょう。その方が面白いでしょう?

 FETを使った無限インピーダンス検波回路と変形コルピッツ型発振回路を組み合わせたセパレートダイン型の再生検波受信機です。 2つに分けると再生の度合いが調整し易いメリットがあります。 オリジナルは英国のHAM:GI3XZMの設計によるものですが幾つか改良を加えました。 改良のポイントは(1)バリキャップを使ったバンドスプレッドの追加(2)低周波アンプのIC化などです。 また、最初から(3)CWフィルタを組み込む前提で設計しています。

 使用する半導体デバイスは国産品に置き換えています。検波のFETは小信号用のディプレッション型なら何でも良くて、最近秋月で売っているBF256Bでももちろん良いでしょう。Idssも幾つでも良いです。再生回路に使っているトランジスタも2SC1815のようなNPNの小信号用なら普通の汎用品で十分です。こちらもhFEランクは何でも大丈夫でしょう。指定品でなくては絶対ダメだなどと難しく考える必要はありません。

 このCWフィルタはなかなか良く切れるので入れっぱなしでは音声の受信には支障がありました。 そのためフィルタをバイパスするスイッチも設けます。 アンテナコイルにはAmidonのトロイダルコアを使います。 6〜11MHzあたりがカバーできるように巻きました。 FCZコイル(および同等品)も使えなくは無いのですがアンテナ側の巻き数が多すぎるように思います。トロイダルコアに自身で巻くことをお奨めします。

 ほとんどの部品は普通に入手できるので問題はないと思います。 唯一、バリキャップ(可変容量ダイオード)のFC54M(富士通)のみ生産中止品です。入手できない時は別のバリキャップで代替を考えましょう。良く見掛ける最大容量が20pF程度のものなら2個並列で使います。(合計で4個使うことになる)
 表面実装型なので少々扱い難いですが秋月電子通商で売っている1SV228(1つのパッケージにバリキャップ・ダイオードが2つ入っているので1個で済む)で代用しても良いでしょう。 なお、バリキャップがどうしても手に入らなければ12〜16V程度のツェナーダイオードで代用してみるのも面白いです。(9V以下のツェナーはだめです)
 もちろんCWフィルタ用のコイル:HT-2394も特殊部品な訳ですが、これがBlogの『お題』なので手に入ったと言う前提です。(笑)

 消費電流は僅かなので006P乾電池でも十分ですが、同調がバリキャップ式なので電源電圧が変動すると影響を受けます。 安定な受信には9Vの安定化電源の使用が望ましいと思います。 なおHAMバンドの受信ではなく、短波の海外放送が目的なら電源電圧変動の影響はあまり感じませんでしたから乾電池でも良いかも知れません。

再生受信機・試作の様子
 CWフィルタの実用性を検証するのが目的ですからブレッドボードに試作しました。 これで全回路です。

 主同調がトリマコンデンサでは同調操作が困難なので実用品にはなりえません。しかしこの仮設状態でも良く聞こえました。 特に短波国際放送はFBです。 6MHz帯〜11MHz帯が受信できるので幾つかの国際放送バンドが含まれます。 放送を捉えたら再生を掛けて行くと感度がグ〜ンとアップするのがわかるでしょう。感度が上がってきたら同調を微調整します。 あまり難しい操作をしなくても放送局の電波は強力ですからとても良く聞こえました。 過度に再生を掛けると発振をともなうようになるので程々にするのがコツです。

 もちろん、ごく簡単な受信機なのですから特にアンテナが重要です。 適当な(数mの)ビニール電線をたらした程度ではあまり聞こえません。 短波国際放送が目的なら屋外になるべく高く張った長さ10m以上の空中線(要するに電線です・笑)と大地アースが欲しいです。大地アースはアース棒を打ち込んだ程度の簡易なものでも十分です。 アパマンでしたらベランダに張ったビニール線と窓枠サッシのアースでも良いと思います。 なお、HAMバンドの受信には目的のバンドに共振したダイポールアンテナが望ましいです。

 HAMバンドはオンエア局数が多い7MHz帯で試しました。アンテナはハーフサイズの「G5RVアンテナ」(←リンク)です。 HAMの電波は放送波よりもずっと弱いので入念な操作が必要です。 それでも、この種の再生式受信機としては旨く聞こえる方です。 バリキャプを使ったバンドスプレッドも程よい感じで7MHzのCWバンドをスムースにウオッチできました。 再生を掛けて感度が上がってきたら、徐々に再生を深く掛けて行くと弱い発振が始まります。 発振が始まればCWのビートが聞こえてくるので聞き易いように同調と再生をさらに加減します。特に強い局を聞くには入力調整で信号を絞ってやる必要がありました。

 目的の「CWフィルタ」ですが、CWの受信にはとても効果的です。 バンドが混んでくると再生式受信機では混信も激しくなります。そんな時はCWフィルタをONするとたいへん聞き易くなります。39円のトランス2個のチープなCWフィルタとは思えない切れ味でした。(笑)

再生検波部分
 検波と再生回路が別建てなのと、バンドスプレッドにバリキャップを使ったので検波回路周辺の部品が増えてしまい、少し複雑になっています。 ただし、バリキャップの部分は電子同調ですからバリコンよりも配置の自由度があります。

 この製作例ではスプレッド同調に10回転のポテンショメータ(可変抵抗器)を使いました。 一般的な可変抵抗器よりもずっと操作は容易になります。少々高価な部品ですがお奨めできると思いました。 主同調のバリコンにはバーニヤダイヤルを付けてやりたいです。糸掛けダイヤルでも良いでしょう。ツマミ直結では同調操作はたいへん困難です。 また「再生調整」は頻繁に操作するのでパネル面の扱い易い場所に配置すべきでしょう。

 SSBの受信も不可能ではありませんが、「入力調整」のツマミを良く加減しやや強めの発振状態でゆっくりダイヤル操作する必要がありました。 CWの受信は簡単ですがSSBの受信は難しいのであまり期待しない方が良いかもしれません。 受信はできても、引き込み(Pull-In)があるので良い音での復調はまずできません。

 AM波の短波放送は非常に良く受信できます。音質も良好でした。 発振直前まで再生を掛け感度が上がったところで受信します。 おなじAMでもHAMの電波は弱いのでそれなりの加減は必要ですが意外に良く聞こえます。 やはり再生式受信機はAMとCWの時代の受信機ですね。

CWフィルタ部分
 aitendoの「正体不明トランス」:HT-2394で作ったCWフィルタの部分です。 HUMの誘導は感じませんでしたから特にシールドする必要はありませんでした。

 回路図のC11:0.0047μFと、C13:0.0047μFを換えるとフィルタの中心周波数を変更できます。 上記回路図の状態では600Hzくらいになっています。 なお、C11とC13はなるべく同じ値にしてください。受信しながら好みに応じて変更すれば結構です。

                  ☆

 @39円トランスが意外にも効果的なフィルタになったので、追加で数個仕入れておこうかと思っているところです。 用途のわからないパーツはほとんど無価値ですがFBな使い道が見つかったことでそれなりの価値が出てきたのではないでしょうか? なお、CWフィルタだけでなく、π型のLPFを作ればAM/SSB向きの低周波ローパスフィルタも作れます。 DC受信機の混信対策に如何でしょうか。

低周波アンプはNJM386BDで
 低周波アンプは定番のIC「386」です。 回路定数の選び方は実績重視でHAM用受信機向きにしています。

 この種のストレート式受信機では低周波ゲインが大きくなるため低周波発振が起こり易くなります。 各部分のデカップリングを入念に行なうなど注意しましょう。 配線の引き回し方によっても影響があります。

 なお、どうしても発振が止められない時には、R10:470Ωを1kΩ程度に大きくすると効果があります。 但し、その分だけゲインが下がるので感度の点ではやや損をすることになりますがやむを得ないでしょう。 発振しなければR10は470Ωよりもっと小さな値にしても結構です。

このBlogには再生式受信機の特集があります。第一回のBlogは:=>こちらから。 

                   ☆

最近の秋葉原から話題の(埋もれた?)パーツを採り上げてみました。

 MEMS発振器はまだまだこれからのパーツと言えそうですが現状でも「使える」性能を持っていると思います。 いま売っている物は周波数が中途半端ですが、50MHzあるいは75MHz版が登場すればAD9834 DDS-ICを正規の上限周波数で使うのに便利かも知れません。 発振器単体としての性能は水晶発振器に劣るようですが、DDS-ICのアウトプットを見た範囲では悪くありませんでした。 そのような用途には十分使える性能なのかも知れません。 自身では清く正しい「水晶のオーバートーン発振器」に未練が残りますが、MEMSの方は小型で無調整なのが大きなメリットだと思います。消費電流が少ないのも好都合です。 喰わず嫌いではなく新しいデバイスを積極的に活用できたらと思います。 そして来年登場予定のTCXOやOCXOの対抗版MEMS発振器が安価なことを期待しましょう。

 中華トランス:HT-2394はネットで検索しても意味のある情報は得られませんでした。 おそらくどこかの電子機器メーカが特注したものの製品の方が予定の生産数量に至らず余剰ジャンクとして流出したのでしょう。 もしも本来の使い方が判明したところで高電圧の発生用ではほとんど使い道がありません。 ここはQが高い「低周波用のインダクタ」として活用を試みた方が応用範囲は広いと思います。 今後このBlogに刺激されて類似の用法が様々試みられるかも知れません。 現時点でもCWフィルタと低周波のLPFに活用できることはわかったので、ジャンク箱に数個入れておくと役立つかも知れませんね。39円が数個でけっこう遊べます。(笑)
 なお、この「HT-2394」はaitendo秋葉原店3Fの店頭販売のみです。仕入れてみたものの見込みがないので「見切り品」になっているようです。店先では完全なジャンク品の扱いですね。hi 地方のお方は東京のお友達に調達を頼むのも手ですが、お店に聞いてみるのも良いと思います。 同じ型番の類似商品はないようですから紛れる可能性は無いでしょう。従って通販での購入に対応してもらえるかも知れません。問い合わせが多くなれば通販リストに載せるかも知れませんね。 aitendoのお姉さん面白いパーツ、どうもありがとう。楽しめました。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

ご注意:このBlogはアフェリエイトBlogではありません。自作を楽しむための情報を提供していますが特定の商品やショップをお奨めする意図はありません。公開している商品情報やリンクは単なる参考です。お買い物は貴方ご自身の判断と責任でお願いします。

2016年10月16日日曜日

【部品】Over Driving an AD9834 DDS-IC

部品:AD9834 DDS-ICのオーバードライブ
 【AD9834はどこまで使えるのか?
 前のBlog(←リンク)では50MHzがクロック上限周波数になっているAD9834BRUZが75MHzで使えるのか?・・と言う疑問からテストしてみました。 その結果、カタログスペックに対して150%ものオーバークロック(=75MHz)で使えることがわかったのは収穫でした。

 しかし、そうなると本当の上限周波数は何処なのかと言う疑問が湧きます。 さらにカタログスペックが75MHzのAD9834CRUZではどうなのかと言う興味も湧いてきました。  ここはやはり限界がどこなのかハッキリさておくべきでしょう。そうでないと何時までもモヤモヤしたものが残ってしまいます。それを解消するのがこのBlogの目標です。 単なる「噂」ではなく根拠のある「事実」として掴みたいと思っています。

                   ☆

 始めにごく簡単に復習しておきます。 AD9834と言うのはアナログデバイセズ社製のDDS-ICです。 低消費電流であり省エネが特徴でしかも比較的安価なDDS-ICです。その代わり上限クロック周波数は低めです。またフェーズ・アキュムレータは28ビット長です。
 DDS-ICは与えられたクロック信号に基づいて正弦波信号を発生します。 発生可能な正弦波の上限周波数は与えるクロックの周波数で概ね決まってしまいます。具体的にはクロック周波数の30〜40%程度です。 従ってなるべく高い周波数のクロックを与えた方が発生可能な正弦波の周波数も高くなります。 AD9834にはAD3834BRUZというクロック上限周波数が50MHzのバージョンとAD9834CRUZと言う75MHzのバージョンがあります。

 50MHzや75MHzと言う上限周波数はカタログに記載された保証値であって実際にはそれ以上の周波数でも動作することが期待できます。  ここでは入手したサンプルについてどの程度のオーバークロックが可能なのか実測によって調査した結果を纏めておきました。 なお発生可能な周波数の刻みはクロック周波数をアキュムレータ長で割った値となります。

 カタログスペックを超えた動作はメーカーが保証しないのは当然です。また、実験されるならご自身の責任と判断でお願いします。結果については何の保証もありません。  プロのお方には釈迦に説法でしょうが商品や製品に使ったら問題が起った時に困るでしょう。カタログスッペク内で慎むべきです。 しかし、アマチュア的には部品の活用範囲が広がるので無視するのは惜しい気がします。多少のリスクは承知して使えば良い筈です。

                   ☆

 このBlogの記述は自身の参照を目的としたものです。 特定の条件とサンプルによって得られた実験結果であり再現性は保証されません。 また、要点を纏めただけなので貴方の知りたい事のすべてが書かれている訳ではないでしょう。 電子回路の製作をされないお方には意味の無い情報なので貴重な時間をロスされませんよう早々のお帰りをお奨めします。

 【オーバークロックのテスト方法
 AD9834 DDS-ICのテストに使ったブレッドボードを流用しました。 具体的には、搭載されていた水晶発振によるクロック発生部分を除去します。 代わりに注入用のトランスを載せ、DDS-ICに対して外部からクロック信号を与えます。 外部信号は汎用の信号発生器を使い周波数と与える電圧の大きさを可変します。

 50MHzから始めて10MHzあるいは5MHzおきに周波数を変えたクロック信号をDDS-ICに与えます。その周波数で正常に動作する条件を求めることにします。 予備実験の結果、正常な動作と異常との判定はAD9834 DDS-ICから出力される信号のスペクトラムを観察するとわかり易いようでした。詳しくは後ほど具体例があります。

 【信号注入トランス
 巻き数比1:2のトランスを使ってクロックを注入しています。  メガネ型コアを使ったトランスを使っていますが手近にあったので使ったまでで、それ以上の意味はありません。 一般的な広帯域トランスなら同じように使える筈です。 但し実用に際して専用のクロック発振回路を搭載する場合にはこのようなトランスは必要ないと思います。広帯域トランスはテスト用の部品です。

 巻き数比からDDS-ICへの信号は約2倍に昇圧されます。 実験当初はDDS-ICが必要とする信号レベルがはっきりしませんでした。十分な電圧が与えられるよう昇圧トランスを使うことにしました。 またクロックの配線が長くなることから動作不安定となって測定の妨げにならぬようトランスで分離すると言う意味もあります。 DDS-ICの入力インピーダンスは容量性で配線を含めても数pFに過ぎません。比較的容易にドライブ可能でした。 なおDDS-ICから見て信号源インピーダンス:200Ωでドライブすることになります。

 このテストは50MHz以上の周波数となるため完全な矩形波を与えるのは難しくなります。 高い周波数のクロックはどうしても正弦波的になってしまいます。 従ってDDS-ICとしても完全な矩形波によるドライブは期待していないでしょう。 リンギング等のない正弦波の方がむしろ望ましいかも知れません。 ここではクロック信号は最初から正弦波で与え直流バイアスを重畳する形式としました。 重畳するバイアス電圧は2V(DC)です。

 【正常動作のスペクトラム
  写真は110MHzのクロックを与えた時のスペクトラムです。出力周波数は約10MHzです。 主信号の周辺に不要なスプリアスは現れずノイズフロアの上昇も見られません。 このようなスペクトラムが得られるなら正常な動作であると判断することにしました。 正常な状態では広帯域で見てもスプリアス特性の劣化は感じられません。 発生周波数の方も幾つか変化させて様子を見ることにしました。

 50MHzから順次周波数をアップしながらこのようなスペクトラムが得られるよう信号発生器の出力レベルを加減します。 奇麗な信号が発生できた時の発振器の出力電圧をその時の周波数とともに記録します。

異常動作のスペクトラム
 クロック信号のレベルが大幅に不足していると出力はまったく出て来ないのですぐにわかります。しかしやや不足した状態にあると、スペクトラムの汚れとなって現れます。
 また、動作はしていても上限周波数を超えているとDDS-ICの出力信号は写真のようになってしまいます。 この例ではクロックに115MHzを与えていますが、この周波数ではクロック信号の振幅を大きくしても正常な動作にはなりません。 従ってこの115MHzは使えない周波数領域です。 さらに周波数を上げても状況は変わりません。

 写真は115MHzのクロックにおけるAD9834の出力です。 このような状態であっても周波数カウンタで測定すると正常そうに見える周波数が表示されるでしょう。しかし実用には適さない状態になっています。 上限に近いクロック周波数で動作させるなら必ずスペクトラムの確認をしておくべきです。 上限近くではクロックの振幅も大きくする必要がありました。 実際の使用に当たっては周波数および振幅ともにマージンを持って与える必要があります。そうしないと温度変化など条件の変化によって正常でない動作に移行する危険性があります。

AD9834のクロック周波数特性
 図はAD9834BRUZとAD9834CRUZについて、クロック周波数を変えながら正常な動作に必要なクロック信号の振幅(大きさ)について測定した結果です。 どちらも50MHzで動作するのは確実なので、それ以上の周波数について測定しました。 なお、周波数も高いことから測定系の周波数特性が幾らか現れている可能性もあります。 但し動作上限周波数には大きな影響は無いと考えます。

 測定結果によれば正常な動作が可能なクロック周波数の上限はBRUZおよびCRUZの何れも110〜120MHzの間にあるようでした。 発振器の振幅を大きくしても〜120MHzあたりに来ると正常な動作はできませんでした。 従って、どちらもこのあたりが上限のクロック周波数のようです。

 グラフで見るとCRUZの方が感度が良さそうに見えますが実際にはわずかな差です。100〜300mVppの違いはバラツキ程度と見ても良いでしょう。 従ってクロック周波数の上限についてはAD9834BRUZとAD9834CRUZで大差はないと言う結論です。どちらも100MHz+αまで動作する可能性が高いでしょう。+αは5〜10MHzと言った所でしょうか。

 実際に使用する際には、このグラフのラインよりも大きな振幅でクロック信号を与えます。 私の設計では2〜3Vppのクロックが与えられるようにしています。 あまり検証せずに決めていましたがグラフの曲線から見て妥当な値になっていました。 ちょうど100MHzのクロックなら上限の周波数に対して幾分かのマージンがあります。2Vppくらいのクロックを与えれば支障なく動作する筈です。 もちろん運悪く100MHzが限界のチップに当たれば正常な動作は期待できませんが・・・。 BRUZで確実性を担保するには75MHzが良いのではないでしょうか。 CRUZでも90MHzあたりまでが安心かも知れませんね。 いずれにしてもカタログスペックよりもずいぶん高い周波数まで動作するようです。

                   ☆

 噂通りAD9834は100MHzのクロックで動作しました。 オーバークロックと言えば汎用CPUで流行ったことがありました。 DDS-ICのオーバークロックを実験していてそんなことを思い出してしまいました。 昔からデジタルICではそのクロック周波数の上限はスペックよりもかなり高いのが普通でした。 ずいぶん前の話しになりますが、初めて周波数カウンタを作ったとき10進カウンタの「SN7490AN」がカタログ上限周波数:35MHzを遥かに超えた60MHzあたりまで動作して喜んだのを思い出してしまいました。AD9834の100MHzも何だか得をした気分です。(笑)

 AD9834 DDS-ICですが、BRUZCRUZは半導体チップの段階ではまったく同じように製造しているのではないかと想像します。 違うとすればBRUZの注文があった時にはテストを簡略化しているのではないでしょうか? 上限の50MHzが保証できる程度にテストを省略するのです。そしてAD9834BRUZと印刷して出荷している・・・のではないでしょうか? ひょっとしたら印刷の違いだけでそんなこともしていない可能性だってありそうです。

 測定して上限周波数で選別すると言う製造方法もあります。ICの製造技術が未熟で性能がギリギリだった時代には多かったように思います。しかし選別品が遥かに高額なら別ですが手数の割に儲からないのが普通です。 従って今となっては中身のICチップはすべて75MHzの上限周波数がごく普通に得られているのではないでしょうか? もしそうだとすれば安価なBRUZでもユーザー自身でテストすれば75MHz以上で十分使い物になるでしょう。 多少リスクはありますが100MHzでも使えそうです。この結果を旨く活用したいと思います。ではまた。 de JA9TTT/1

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第2部:AD9834の更なる可能性について

 ☆ ちょどオーバークロックの実験は終了し上記のようなレポートを纏めていたところでした。 AD9834のクロックについて新たな情報をコメントして頂いたのです。 JH9JBI/1山本さんのコメントで前回のBlogに対して頂きました。 山本さんもクロック周波数はどこまでだろうと言う疑問から実験されたようでした。

 Blogのコメント欄ですから実験の詳細まではわかりませんが、たいへん重要な情報だったのです。 曰く「75MHzはおろか250MHzでも動作していました。」と言うのです!

 これは一大事です!!(笑) すでに実験は終わったつもりで上記のような結論をあらかた纏めていたからです。 もし250MHzでも動作するものを「110MHzまででした!」なんて涼しい顔で書いたら信用に関わるでしょう。(最初から私なんか信用していないとか・爆)

 そこで上記の実験で幾らか気になった部分を修正の上、あらためて実験を行なうことにしたのです。以下にその再実験の状況を簡単に纏めておきましょう。

追試用ブレッドボード
 あまり違いを感じないかも知れませんが、高い周波数向きのレイアウトに変更しています。

 クロックを外部から与える前提で入力部分の位置を右側に移しました。 注入用のトランスには700MHz以上までの特性が保証されているmini-circuits社製のADT4-1WTを使いクロック端子の近くに配置しています。 きちんと2次側で終端を行ない平坦な周波数特性が得られるように考慮しました。 ブレッドボードなので限界はありますが測定に支障のない程度の性能は得られているようです。 実際に前回のテストよりも幾分か周波数特性は良くなりました。

 AD9834のD/A出力側は周波数も低いことからあまりシビアではありませんが、左側に移して最短配線で出力するように変更しています。 前作は既に解体済みでしたので全体に再製作になりました。

では、さっそく信号発生器:SSGからクロック信号を与えてみましょう。 SSGは約1GHzまで信号発生できます。

 【200MHzのクロックで
 もっと高い周波数でも「動く」のですが、200MHzのクロックを与えたときの様子を一例として紹介しておきます。

 写真はAD9834のD/Aコンバータ出力をオシロスコープで観測している様子です。 この波形の周波数は約18.7MHzになっています。 特にこの周波数でなくてはならない理由はありません。 クロック周波数が75MHzの時に7MHzが出力される設定のまま200MHzにアップしたため、自動的に出力周波数も約2.67倍になっただけです。(笑) しかし、もしもここが「特異点」だったら困るので、発生する周波数を18.7MHz以外に変えて見ました。特に問題は見られませんでしたから代表例として支障はないようです。

  この例では200MHzのクロックですが、250MHz以上までず〜っとアップして行っても追随して正弦波の出力が観測されました。 300MHzあたりまで楽々行く感じでしたが最後は出力がなくなります。 これなら「クロックは250MHzでも動作する!」と言う結論も十分納得できますね。 見た目だとLPFが甘いので輝線が少々太っていますが、ちゃんとしたフィルタを入れてやればもっと奇麗に見えますし・・・。

  【しかしスペクトラムが・・・
 さっそく期待を込めて上記の「正弦波」のスペクトラムを観測してみました。

 ・・・・・どうやら残念な状態のようです。 クロック信号のレベルを変えて、かなり大きめに与えてもまったく改善しません。具体的には5Vppをやや超えるあたりまで加えてみました。それでもダメです。良くなってはくれませんでした。 これ以上の大きさではAD9834の最大入力電圧を超えて壊れるかもしれません。限界でしょうね。 最適値がどこか途中にあるのかと思い逆にクロックの電圧を下げて行ってもダメでした。下げ過ぎれば改善する前に信号が消失します。

 アキュムレータなのかD/Aなのかどこかでビット落ちした動作になっているようです。 それらしい出力周波数とオシロスコープの波形にはなっているのですが信号スペクトラムを見たら明らかに異常です。 写真はある瞬間を捉えたもので別の瞬間にはまた違った様子になります。要するにスプリアスはランダムに現れているのです。

 AD9834CRUZだけでなく、AD9834BRUZに交換して確認してみましたが結果に違いはありません。 CRUZとBRUZに差はないことの検証にはなりました。

 この状態では通信機用として使い物にはならないでしょう。 もちろん非常にラフな用途、例えばアンテナインピーダンスメータのような物の信号源なら使える可能性があるやも知れません。 しかしスプリアスが多いと測定誤差の原因にもなり得るのであまりお奨めできないと思います。 たいへん残念ですが私の判定では「使えなさそう」と結論させてもらいました。 JH9JBI/1:山本さん、このような状況ですのでどうぞ宜しく。私からの返信です。 よかったら次回の懇親会の時にでも状況をもっと詳しくお聞かせください。 私の実験に何か重要なポイントが抜けている可能性もありますので・・。(ありえる、ありえる・笑)

                   ☆

  改めて徐々に周波数を下げて行き、約110MHz付近になると誤動作は発生しなくなります。 それ以下の周波数でしたら初めの実験のように奇麗なスペクトラムが得られることが再確認できたのです。 通信機の信号源としては奇麗なスペクトラムが求められています。 従って、最初のように上限周波数は「110MHzあたりである」と言う結論で良いだろうと思っています。まずはこの周波数を目処に活用して行こうと思っているところです。

 ご覧のお方で、さらにテストされ「このようにすれば奇麗なスペクトラムが得られますよ!」というFBな成果が得られたようでしたらご一報ください。コメント欄への投稿でも結構です。AD9834の活用の可能性が飛躍的に広がりますから是非とも追試で確認したいですね。  なお、申し訳ないですが製作された物品の評価依頼などのご要望には応じかねますので予めお断りしておきます。 de JA9TTT/1

(おわり)fm

2016年10月1日土曜日

【回路】AD9834 DDS-VFO Design, Plus

AD9834を使ったDDS-VFOの設計,プラス
 【AD9834BRUZを使ってみる
 AD9834を使ったDDSモジュールと、DDS-VFOについては前のBlog(←リンク)で概ね評価が済んでいます。  ここでは、AD9834を活かす上で更に確認しておきたいことをテストしようと思います。

 既に書いたようにAD9834にはAD9834BRUZと言う50MHz版と、AD9834CRUZと言う75MHz版があります。 クロック周波数の上限が高いほど、発生可能な(実用可能な)周波数も高くなるので75MHz版の方が有利なのは間違いありません。 しかし50MHz版の方ならだいぶ安価に出回っているので、どの程度のオーバークロックで使えるのか実験しておきたいと思います。

 写真は最近入手したAD9834BRUZ(50MHz版)をピッチ変換基板に実装した状態です。 あとはピンヘッダをハンダ付けして完成させるところを示しています。 ピンヘッダのピッチが良く揃うようにユニバーサル基板をテンプレートにしてハンダ付けします。 ピッチ変換基板については前回のBlogに書きました。

                    ☆

 いつものようにこのBlogは自身で参照するための備忘録です。 要点を纏めただけなので貴方が知りたい事のすべてが書かれている訳ではないでしょう。  過去のBlogで扱った内容はかなり省略しています。 不明な点は読み返して頂くと何かわかるかも知れませんが、特にお薦めするつもりもありません。

オーバークロックで使う
 AD9834BRUと言う末尾のZなし旧バージョンをテストした事がありました。 もちろん、クロックの上限周波数は50MHzでした。(注:末尾のZが無いのは鉛フリーではないもので現在では販売されていません。電気的特性はZありと同等です)

 そのときは周波数が67.108864MHzの既製のクロック発振器を使いました。 そのクロック発振器は秋月電子通商で売られていた「旧型」で、現在の「新型」と違ってスペクトラムの奇麗なものでした。 50MHzがスペック上限のAD9834BRUに67MHzなのですから、そのとき既にオーバークロックになっていた訳です。(笑)
 なぜ67.108864MHzなのかと言えば、この周波数が正確ならDDSの発生周波数がジャスト0.25Hz刻みになるため設定プログラムが簡単になるからでした。 しかしそれではクロック周波数の自由度は無くなってしまいます。何らかの対策を考えるべきでしょう。 その後、プログラムの工夫で0.25Hz刻みでなくても近似周波数に旨く設定できるよう改良したため(ある程度)任意のクロック周波数で良くなった経緯があります。 従って現在では67.108864MHzに拘る必要は無くなっています。もしその時のままなら省電流化も進まなかったでしょう。

                    ☆

 写真は前回のBlogで検討した75MHzのクロックを先ほど変換基板に実装したばかりのAD9834BRUZに与えてテストしている様子です。 75MHzと言えば、規格の50MHzに対して150%ものオーバークロックになるのですが何ら支障なく動作してくれました。メーカーの公称値にはかなりマージンが取ってあるようです。 すべてが75MHzまで動作する保証はありませんが、かなりのオーバークロックで使えるらしい事がわかります。 これで安価なAD9834BRUZの価値がグーンと高まります。 活用範囲も広くなるでしょう。

 CRUZと消費電流を比較してみましたが同じくクロックで使う限りほぼ同じ消費電流でした。 具体的にはBRUZの方が100μAほど少ないのですが、これはチップのバラツキの範囲でしょう。 50MHz版を75MHzで使ったからと言って消費電流が急増するようなことはありません。もともと低消費電力なのでチップの温度上昇も感じられないくらいです。

 なお、未確認ですが上限周波数が75MHzのAD9834CRUZの方は100MHzあたりのオーバークロックでも動作すると言う情報があります。必要になった時にテストしてみましょう。

速報:90MHzなら簡単にテストできたので試してみました。 少なくともそのあたりまで正常に動作するようです。 詳細は改めて纏める予定です。(2016.10.4)

参考:AD9834を75MHzのクロックで使う場合、1ビットあたり0.2793967724Hz刻みとなります。従って、発生可能な周波数も0.2793967724Hzおきになるため、完全な連続周波数が発生できる訳ではありません。 しかし0.2793967724Hz刻みなら実際には殆ど連続と感じられるステップなので不連続についてあまり神経質になる必要はないでしょう。もちろん、どんな周波数の発生でも幾ばくかの量子化誤差が残存することは覚えておくべきです。特に精密な用途では重要です。 なお、実際のVFOでは10Hzステップで周波数が変えられるよう設計しています。必要があればもっと細かくできますが一般的な送受信機にはそれくらいの分解能で十分です。
 アナログなVFOなら連続だと思うかも知れませんが、0.3Hz未満の刻みで周波数を維持することなど不可能ですからDDS-VFOの方がよほど優秀です。クロック発振器の周波数さえ安定なら合わせたその周波数で完全に静止できます。

 【AD9834のスペクトラム
 前回のBlogでは未掲載でしたが、あらためてAD9834CRUZで得られた信号のスペクトラムを見ましょう。 なお、オーバークロックで動作させたAD9834BRUZの方もまったく同じでした。

 これはTCA440を使った受信機の局発としてDDS-VFOを構成している例です。 7MHz帯の受信周波数に対し中間周波は3577.8kHzなので局発は10MHz帯となっています。AD9834のクロックは自作のオーバートーン発振器で作った75MHzを与えています。

 写真は信号の上下5kHzずつ、全体で10kHzの範囲を観測した結果です。 ジッターのような揺らぎも無く、90dB下の測定系のノイズフロアまで奇麗に落ちています。 良くできた水晶発振器並みのとても奇麗な信号が得られています。 これなら安心して通信機に使えるでしょう。音色を気にするHi-Fiな(?)SSB送信機のVFOとしても秀逸です。(笑)

 【LPFナシだと・・
 写真はAD9834のDDSモジュール状態のままのスペクトラムです。 要するに不可欠な低域濾波器(LPF)の無い状態です。 0〜100MHzまでの範囲で観測してみました。

 左の大きな信号が主信号です。  右の方にやや大きめの信号がありますが、これが「折り返しスプリアス」と呼ばれるものでDDS発振器では原理的に発生してしまうものです。
  主信号の周波数を上昇して行くと、スプリアスの方はクロックの周波数を起点として逆に下がってきます。 そしてちょうどクロック周波数の半分のところで主信号とスプリアスは一致してしまうのです。 もちろん、その周波数の近くでは両方が接近してしまうので簡単に分離することはできません。 クリスタルフィルタでも使えば可能かも知れませんが非現実的でしょう。

 従って、クロック周波数の半分よりもかなり低い周波数で遮断するようなローパスフィルタ(低域濾波器)をDDSモジュールの後に付加しなくてはなりません。 安全に使える範囲として、クロック周波数の1/3くらいまでと考えています。 75MHzのクロックなら25MHzあたりが間違いないところと言えます。  急峻な良く切れるフィルタを使って30MHzまでと言った所でしょうか。 簡易なπ型2段のフィルタ程度では20MHzでさえやっとです。 簡易なフィルタで上限を欲張るとスプリアスが漏れるので注意が必要です。

 3次の高調波がやや大きめでしたが問題になるほどのレベルではありません。また2つのDAC出力を使ったPush-Pull動作のためか2次高調波は少なめでした。(前回のBlogに回路図があります) DAC出力の片側だけを使うよりも高調波の抑止では有利なようです。

 【LPFの設計
 DDSモジュールをなるべく高い周波数まで使うためには、良く切れるローパスフィルタが必須です。 ここではAD9834を75MHzのクロックで使う想定で設計してみました。 クロックが50MHzならLPFは15〜20MHz程度に設計変更する必要があります。

 終端インピーダンスは50Ωと200Ωで設計しています。50Ωが一般用で、200Ωは受信機の局発用として使う想定です。 なおLPFの遮断周波数は25MHzと30MHzで設計しました。 製作し易さを考えてなるべくE系列の値になるようコンデンサを選んでいます。 そのため、理想の設計値とは多少異なってしまうので、丸めた値を使った回路シミュレーションで特性の確認をしておきます。 一覧表のすべてについてシミュレーションしましたが必要にして十分な性能が得られていると思います。

 精度の良い部品を使いコンパクトに組み立てれば無調整でも行けます。 ここでは測定器を使って調整する前提で可変型のインダクタを使う設計です。 そのため3つのコイルは中途半端な定数になっていますが、概ねその値を目標に巻線すると言う意味です。 組み立てた後でω2、ω4、ω6の各周波数でNullになるようコイルのコアを調整します。 調整にはスペアナ+TGもしくはネットアナを使うのが便利でしょう。 発振器+高感度RF電圧計でも可能な筈です。

 【LPFをシミュレーション・回路図
 各LPFの定数で回路シミュレーションしてみました。 例によって回路シミュレータはLT-Spiceを使います。 LT-Spiceの扱いは専門書(←リンク:一例です)を参照しています。

 回路は簡単ですが製作する前に面倒がらずにシミュレーションしておくと確実です。 図の例は遮断25MHz、入出力インピーダンスは200Ωで設計したLPFです。 同じ形式で25MHz以外の遮断周波数で設計した例がこちら(←リンク)にもあります。

 遮断領域の最低減衰量Aminは70dB以上の設計です。また7次のエリプティック型(連立チェビシェフ型、楕円関数型とも言う)ですからかなり急峻な特性が実現できている筈です。 Blogでは無理があるのでフィルタの設計法は説明しません。詳しく知るには専門書を参照します。

 【LPFをシミュレーション・プロット
 シミュレーション結果の一例です。 減衰極が3カ所にあります。 また最低減衰量Aminは70dB以上が実現できています。 E系列の値に部品定数を丸めていますが、概ね意図したような特性が実現できているようです。 主信号の周波数が25MHzのとき、スプリアスの周波数は50MHzになります。控え目に見ても60dB以上の減衰が期待できるでしょう。十分な特性と言えます。

 なお、DDSの出力信号は発生周波数によって振幅変化があります。 フィルタの通過帯域特性も完全なフラットではありませんが実用上の支障はないだろうと思っています。 もし周波数で振幅が変化しない平坦な特性が必要なら出力アンプを補ってALCを掛けるような設計にする必要があります。 多くの場合、DDS-VFOとしては支障ないと思われますが広帯域な信号発生器やジェネカバの受信機などに活用する場合には考慮しておきます。

                    ☆

 以上、AD9834のオーバークロックの実験とDDSモジュールに外付けするローパスフィルタの特性について検討してみました。 50MHz版のAD9834BRUZが70MHz以上のクロックでも使えることから、ローパスフィルタも25MHzあるいは30MHzの遮断周波数で行けそうです。 活用範囲も広がることからFBだと思っています。

おまけ:低消費電流のLCD表示器
 前回のBlogではLCD表示器のバックライトが問題になりました。 DDS-VFO全体の消費電流が少なくなってくると表示器のバックライトの電流が馬鹿にならなくなって来るのです。

 色々な表示器のスペックを見ていて面白いことがわかりました。 バックライトに白色LEDを使う表示器ならバックライトの電流はかなり少なくて良いようなのです。 例えば、写真の表示器は青地に白抜き文字の表示器ですが、スペックによるとバックライトの電流は20mA(標準)になっています。バックライトには白色のLEDが一つ使われていました。 白色LEDは高輝度なので一つでも十分な明るさが得られるのでしょう。

 実際に点灯してみたところ20mAならかなり明るく、半分の10mAまで減らしてもまずまずのコントラストが得られるようでした。 流石に5mAともなると暗いので常用には向きませんが、夜間のように周囲が暗ければ十分読み取りできました。 むしろ眩しくないので丁度良いくらいです。 省エネには白色LEDのバックライトが使ってあるLCD表示器を使うのがポイントのようです。 周囲の明るさに応じて輝度を加減できるとなお良いと思います。 良さそうに思っていた有機EL/OLED表示器はバックライト不要なのですが、それ自身が50mA以上消費するのでトータルの消費電流はかなり大きめでした。

参考:写真は中華直送で入手されたものを頂きました。2年程度使用していたらLEDの輝度が低下し白抜き文字の色調も黄色味を帯びて来たそうです。 (JA6IRK/1岩永さんによる) 文字表示機能そのものには支障はないようですがバックライトの白色LEDの劣化が進むようです。品質的にいま一つなのかも知れません。 省エネの基本は白色LEDのバックライトにありますから、もう少し信頼できそうな表示器を選ぶのも良さそうです。 また、白色LED一個に20mAも流すのは無理があるようにも感じます。10mA程度で使う方が劣化の進行はかなり遅くなるかも知れません。

                  ☆ ☆ ☆

 AD9834は低消費電流ではたいへん優れていますが、AD9850/51よりもクロック周波数の上限が低いと言う欠点がありました。 安価なAD9834と言うとBRUZになるのですがスペック上のクロック上限は50MHzです。その上限で使ったのでは出力の方はせいぜい20MHzあたりまでになってしまいます。
 以前からかなりオーバークロックが可能らしいことはわかっていました。 50MHz版のAD9834BRUZでも75MHzあたりまで使えればHF帯をフルにカバーすることが可能になります。 そのような期待から実験を始めたのですが、あっさりと75MHzで動くことがわかりました。 150%ものオーバークロックはメーカーの保証外ですが自作品でしたら自己責任で使って行けば良いはずです。  TCA440を使った受信機だけでなくAD9834BRUZを積極的に使って行こうと思っています。 あとはLCD表示器に白色LEDのバックライトが使ってあるものを選べばかなり省エネ効果があります。 これで何とか電池電源のRigにもDDS-VFOが採用できるでしょう。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm