【回路:音の良いCW用クリスタルフィルタ】
【クリスタルフィルタの自作】
同じ周波数の水晶発振子(水晶振動子、水晶共振子)を複数並べることで、ある通過帯域幅をもった帯域フィルタ(BPF)を作ることができます。それがラダー型(クリスタル)フィルタです。 HAMの自作では、SSB用の帯域幅2〜3kHzのものと、CW用の帯域幅が数100Hzのものが主な製作対象になっています。
ラダー型フィルタと言えばSSB用を作る例が多いように思いますが、既製品の手持ちがあったので必要性はそれほど感じていませんでした。 それに、既製品を超えるフィルタが作れなくてはいま一つ「はりあい」がありません。 幸い、普通に手に入る水晶発振子で優れた特性のSSBフィルタの製作も目処がついてきたので次のテーマと言ったところでしょうか。 これまでラダー型フィルタの製作ではSSB用よりもCWフィルタの方に興味を持っていました。もちろん単なるCWフィルタではなくて「音の良い・・・・」です。
昔の無線機ではCW用フィルタは オプション設定になっていました。あまり選択肢は無くて、せいぜい2〜3種類の帯域幅が選べるくらいでした。昨今のようにDSP化されるまではメーカーが設定した範囲で選択するしかありませんでした。
HF帯Low-Bandの混信を考えると、できるだけ狭帯域の方が良さそうに感じます。 しかし500Hz幅のフィルタでは混信するからと言って200Hz幅にすれば済む訳でもありません。 確かに選択度の向上は感じられますが、受信していて肝心の了解度が思ったほど改善しないことに気付きます。 またバックグラウンドのノイズを含む音色が癖を持つようになり聞いていて疲れを感じるようにもなっていました。 特に帯域幅が狭いフィルタになると顕著になってきます。 つまり、狭いほど良い訳ではないのです。
このBlogの過去記事(←リンク)で低周波帯のCWフィルタを扱ったことがあります。 特徴は切れの良いフィルタ特性だけではありませんでした。 ごく狭い帯域幅であっても信号の過渡応答性を重視したものが製作でき、実際に使ってみると音の良さが感じられました。 もしも、これと同じような「音の良いCWフィルタ」が受信機用のクリスタルフィルタで可能なら、CW用受信機のフィーリングも一変するのではないかと思ったのです。
☆
何かの記事を読んでいたとき、誰かがPhase系の(CW用)X-tal Filterを自作して受信機に使ったら「フィーリングはExcellentだ!」と言う一文が目に止まりました。 そのフィルタはEquiripple Error n°と言う特性のようでした。そんなのを誰もが作れる訳はありません。ですから地味な扱いの記事でしたが画期的な意味がありました。 波形忠実性に優れたリニヤ位相系のフィルタがHF帯のクリスタルフィルタでも可能なことを示していたからです。 詳細不明でも「そう言うものが作れた」と言うのは極めて重要な情報です。要するに、方向さえ間違わなければ製作可能なことが約束されたわけです。(注:ここで作ったフィルタもリニヤ位相系のフィルタなので親戚にあたります) 低周波と高周波と言う周波数の違いですから、理屈上はHF帯でも製作可能でしょう。ではどうすれば作れるのかは皆目見当がつかなかったのです。
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それから暫く時が過ぎました。CWフィルタのことばかり考えていた訳ではありませんが機会があれば情報収集に努めてきました。 DJ6EVとG3JIRによる『Dishal(論文の著者)の論文に基づくフィルタ設計ソフト』は期待していたのですが解決策ではありませんでした。 しかしアウトプットを解析して行く過程で大きなヒントが得られたように思います。設計したフィルタで起こる現象を理解することは「音の良いCW用フィルタ」を実現するための道筋を照らしてくれたのでした。
何かしてみて「まったくの無駄骨」だったと言うのも稀でしょう。何でもやってみるべきです。 そこで起こった現象を振り返って何故そうなるのかを考えることから次の一歩が始まるのです。何時か見た景色も螺旋階段をもう一回り登れば見え方も違ってきます。
このように個人的な興味と目標が発端でした。そして、何とか目的の「音の良いCWフィルタ」が完成できた記念としてこのBlogを綴ることにしました。 まずは、製作手順などごく大雑把に纏めました。詳しい設計・製作方法は機会があれば改めて扱います。
写真説明:手前の大きなクリスタルを使ったフィルタがここで扱った「音の良いCW用クリスタルフィルタ」です。 奥にある小さい方が一つ前のBlogで扱った12.8MHzのSSB用フィルタです。大きさの違いがわかるでしょう。
【水晶を選ぶ】
以前の水晶定数を測定するBlogに登場した3579.545kHzのアナログ時代のカラーTV用の水晶発振子を使いました。 理由は無負荷Q:Quが高かったからです。 これから作ろうとするフィルタは、きちんとした特性を出すためにQの高い水晶振動子が必須です。
Qが高いものを6個選びましたが、それでも足りないので「事前特性補正型」の設計を行なうことにしました。「事前特性補正型」と言うのは私の意訳あるいは造語です。 Predistorted Design・・・事前歪ませ設計・・と言うものですが、「歪み」と書くと信号が歪むのかと誤解されそうなので「事前特性補正型」にしました。ですから他所では通用しないでしょう。 無理に日本語化せずに「プリディストーテッド・フィルタ・デザイン」としておくのが良いかも知れません。 ネット検索しましたが旨い日本語表現はないように思いました。JAではあまり紹介されない設計なのかも知れません。もちろんフィルタの専門家は良くご存知のはずです。
水晶振動子のQuが理想よりも小さいことによって通過帯域特性のエッジがダレるとか、丸くなることを見込んで設計します。 簡単に言えばダレるのを見越して予め通過帯域の外に向かって持ち上がるような特性に設計するのです。 この設計を行なうためには水晶定数のうち無負荷Q:Quも揃っている必要があります。 個々の水晶の大きなバラツキまで補正することはできません。 ですからQuが極端にばらついた水晶振動子は旨くないのです。 なお、出来上がったフィルタの頂部が丸いのはここで言う特性の補正とは意味が異なるので勘違いなきように。もともとリニヤ位相系フィルタの通過帯域は蒲鉾型です。フィルタの形式と通過帯域の形状については以下のリンクを参照を。→700HzのBPF
【半自動設計】
手計算でも設計は可能です。最初のころは殆ど手計算(=電卓)で数値を求めていました。 しかし計算間違いが起こり易いのです。 途中の間違いはシミュレーションで気付くこともできますが、そもそも発生しにくいように機械的な計算の繰り返しはパソコン(=プログラム)に任せる方が良いでしょう。
仕様と水晶定数をインプットしてやれば全て計算してくれるような全自動ソフトではありません。しかし幾つかのパラメータを個々に入力すればあとは計算結果が出るようなプログラムを書きました。計算させるまでの準備に少し手間は掛かりますが設計の自由度は高いものです。 単純な四則演算の繰り返しと、細かい刻みで値を追い込むような試行錯誤型ルーチンも存在する簡易なものですが、得られる数字は十分に実用的です。 設計ソフトと言うよりも、設計支援のちょっとしたツールと言った感じでしょうか。
振り返ってみれば、こうした設計法(設計・製作手順)が確立できるまでにずいぶん過ぎてしまいました。 設計・計算・製作のヒントは案外身近に転がっていて、それに気付かなかっただけのように思います。資料も集めただけではダメです。良く読んで理解しないとその価値になかなか気付けないものですね。断片的な情報も多いので様々を纏めて考えを導く必要もありました。 そのあたり、早く気付けば4〜5年前に確立できたかも知れないと反省しています。(でも、できて良かった・笑)
【CWフィルタ基本設計】
計算で得られた数値を回路図に書き込んでみました。 前に設計したSSB用の6-poleフィルタと基本的には同じですが、目標のCWフィルタを実現するために少し違いがあります。
この設計では、中心線から見て左右対称な数値になっていません。 従って左から5番目の水晶振動子(図ではX-No.03のところ)にも直列コンデンサ:CS5が必要です。 また、非対称回路なので入力側:Rinと出力側:Routのインピーダンスは異なります。なお、In/Outのインピーダンスは異なりますが信号経路は可逆性があります。 この設計で良いのか様々な検討を行ないました。回路シミュレータも活躍しました。 出来上がったフィルタの通過帯域幅:Bw(-3dB)にやや誤差を生じる傾向は残りますが概ね確立できたと思います。製作の方も同様です。
注)図は特定の水晶発振子を使うことが前提の設計です。同じ周波数の水晶でも、他のものには適用できません。水晶定数を実測し再計算する必要があります。お手持ちに3579.545kHzのクリスタルがあったとしても、表の数値そのままで作りませんように。
【シミュレーション】
周波数特性のシミュレーションを行なっています。 これもLT-Spiceを使っていて、水晶定数は上図の左下にある数値をインプットしました。設計帯域幅:Bw(-3dB)は200Hzです。
水晶振動子間の「結合容量:Cjk」は設計プログラムで求めた値をそのまま使いました。 より結合容量が小さな・・・例えば高い周波数で帯域幅が広いフィルタでは配線のストレー容量と水晶振動子のホルダと端子間のキャパシタンスを補正する(差し引く)必要があります。
シミュレータに分布容量は存在しないので設計通りの値でシミュレーションします。 実際に作る際は目に見えない容量を考慮してコンデンサの値を加減するのです。この例のように3.58MHzのCW用では各容量が大きいので分布容量の影響は顕著ではありませんでした。
☆ ☆ ☆
【実測特性】
実際のフィルタはこのようになりました。 横軸全体で3kHz、従って一目盛りは300Hzです。 縦軸は一目盛りが10dBで、全体で100dBの範囲で見ています。
帯域外の裾の部分がなだらかになっていますが、これは測定器と測定方法の限界です。 完璧な入出力間のアイソレーションは不可能なので実測では現実的なところに落ち着きます。
とても良く切れるフィルタだと思います。 6-poleですが、中心軸から見てほぼ左右対称なのは狭帯域なフィルタだからです。 (参考;3.58MHzでSSB用を作ると非常に非対称が目立ちます。これはBw(-3dB)との比較でfsとfpの間隔が狭いためです)
通過帯域幅は-3dBのところで見て225Hzとなりました。 少し広めなのは水晶振動子にパラの15.5pFを省略したためです。 設計次第では省略できませんが、ここでは様子を見て支障が無ければ 省こうと思っていました。 結果はこのように満足の行くものであり、省部品を優先してC1〜C6は取り付けませんでした。(省略を見越して設計したと言えなくもありません・笑)
中心のピークから6dB下がったところで傾斜が変化して折れ曲がっています。 この-6dBから上の部分がGaussian特性(Besselと類似)です。こうした特性は、入力信号の形状が時間軸で見た時に良く保たれるのです。 その外側の裾野の部分はButterworth特性になっておりいくらか急峻になっています。 このように、Bessel特性よりも急峻でありながら入力信号の形状が良く保たれるのがこの形式のフィルタ:Transitional Gaussian Responce to 6dB型の特徴です。 ほぼ設計通りの通過帯域特性になっていることが確認できました。
【過渡応答特性】
写真は受信されたCW(無線電信)の短点に相当する信号がフィルタから出てきたところです。シミュレーションではありません。 実測です。 これで約200Hz幅と言う狭帯域フィルタの通過後なのですから、なかなか素晴らしいです。
立ち上がりもスムースであり、オーバーシュートもほんのわずかです。 また、余韻(残響)もごく少しでした。 一般的な狭帯域のCW用クリスタルフィルタでこの特性が実現できるものは無いだろうと思います。 過去に種々測定した経験ではお目にかかったことはありませんでした。
このフィルタの帯域幅Bw(-3dB)は225Hzで、中心周波数foは3577.800kHzです。いわゆるフィルタQ:QfはQf=3577800/225=15,901もあります。 Qfが1万をかなり超えたフィルタで、これほど良好な過渡応答特性が得られるとは信じ難いほどなのです。
まだ出来上がったばかりです。実際の受信機で試していませんが大いに期待できると思います。このフィルタでワッチするのが楽しみです。
☆
SSB受信機以上にCW用の受信機は難しいように感じてきました。単に音が自然であるとか、そう言う話しではなく、狭いフィルタで快適な受信フィーリングが課題です。 空いているバンドなら、過度に狭くないフィルタの方が心地よいです。しかし、混んだバンドともなると耳フィルタを鍛えた熟練者でもなければ帯域を狭めるしかありませんでした。
低周波処理のCWフィルタは受信機用としては本格的なものにはなり得ないでしょう。 しかし、実験してみて良い音色とフィーリングが実現できることに感心しました。 その特性をそのままに受信機のIFフィルタが製作できたなら・・・その答えがいまここにあるのです。
DSP処理のフィルタでも同じことはできる筈です。いずれどのトランシーバにも波形再現性に優れたリニヤ位相系のCWフィルタが 内蔵されるでしょう。 その時こそ時間軸上の特性に目覚めるときです。 通過帯域がフラットなものがベストでないことも理解してもらえるでしょう。
完全DSP処理のトランシーバも登場しましたが、完全アナログ処理の受信機にも良さがあると思います。こうしたCWフィルタが活躍する受信機もまだまだ現役でしょう。 CW専用のように書きましたが、データ通信系のモードにも最適です。
何年も掛かってやっと彼我のレベルに追付いただけ(注1)とも言えますが、まずは目標達成でこのテーマを終えることができました。市販品で得られないものが作れるのは意義があります。次は活用の段階です。
# いつか受信フィーリングを報告しましょう。
# 最後のBlogです。ご愛読感謝。 良いお年をお迎え下さい。de JA9TTT/1
(つづく)←11MHz帯の高性能SSB用フィルタの開発にリンク。
(注1)「彼我のレベルに追付いただけ」かも知れませんが、彼我の話し(記事)の中ではどんな物が出来たか具体的に示されてはいません。ですからフィルタの特性や時間軸上の波形再現性の実測データなど目にしたことはありませんでした。今のところ具体的に実測例を示しているのはこのBlogだけではないでしょうか。この例に続く製作の登場を期待しています。
2015年12月25日金曜日
2015年12月11日金曜日
【回路】8-pole X-tal Ladder Filter +1
【回路:8素子ラダー型クリスタルフィルタ+1】
【12.8MHz 8-pole SSB Filter】
前のBlog(←リンク)では実際に新しい方法で作ったラダー型フィルタの製作例を示してその設計法も簡単に説明しました。 6素子の例で示しましたが、8素子ラダー型フィルタも基本的に同じです。
左図は「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」(以降は簡易設計ソフトと略)を走らせた状態です。
使用した水晶発振子は表示周波数が12.8MHzのもので形状はHC-49/Uです。 たくさん測定した中から無負荷Q:Quが高い物を8個選びました。 水晶定数はそれら選んだ物8個の平均値で与えます。
具体的には以下の通りです。
・Lm=7.989mH
・fs=12794.857kHz
・Cp=3.49pF
・・・です。
右側の特性図を見ると、中心周波数の上下を見た対称性が6素子よりずいぶん良くなっています。また、おなじ0.1dB−Chebychev型でも一段と急峻になっています。追加の2素子はずいぶん効果的です。 6素子のSSBフィルタでも実用にはなりますが、できればこのくらいの特性が望ましいでしょう。
【初期設計から実用設計へ】
この図は前回の再掲載です。 上記の設計で得られた値を書き込んだのが(A)です。 数値に端数が付き過ぎているのと、平均値計算なのでそのまま作るのには適しません。
(B)は、実際に使用う水晶発振子をどの位置に何番を使うのか具体的に選んで「格子周波数の同調」・・・Mesh Tuneを行なった結果です。 「簡易設計ソフト」の上部メニューバーから「Xtal」をクリックするとチューニング用小プログラムが現れます。 使い方はソフト付属HELPファイル:eDishalHelp.pdfのAppendixにある"Xtal Tuning"の項に詳しく書いてあるので事前に参照しておきましょう。
さらに(C)は数値を丸めて製作し易くしました。 どこまで丸めてしまって良いのでしょうか? 各コンデンサの値をばらつかせて特性がどの様に変化するのかを検証した資料を見ると±5%程度ではほとんど影響はありません。 従って、計算値から5%以内の誤差になるように選んでやれば十分そうです。 心配なら最終値でシミュレーションしてみましょう。(実際、それをしてみたらいろいろなことがわかったのですが・・・)
【LT-Spiceでシミュレーション】
すでに簡易設計ソフトのところでシミュレーションしたフィルタ特性がグラフで表示されています。あらためてシミュレーションする意味はあるのでしょうか?
「簡易設計ソフト」のシミュレーションでは不完全なのです。 それは以下の結果から良くわかります。
ここで使ったLT-Spiceは非常に有名です。半導体メーカーのリニア・テクノロージー社が無償提供している回路シミュレータです。無償とは言え非常に高機能かつ高性能です。それまで世の中にあった有償の回路シミュレータが淘汰されてしまったくらいのインパクトがありました。更新が継続されているのも素晴らしいです。 同社のサイトからダウンロード(←該当ページへリンク)して使うべきでしょう。
ネットをサーチすれば使い方も何となくわかると思いますから、あえて参考書籍のお薦めは書きません。 せっかく情報提供しても「高いものを買わされた」などと反感を持たれたら詰まりませんから・・・。倹約は美徳かも知れませんが吝嗇は進歩に結びつかずです。投資したなら、その分じゃぶり尽くせば良いのです。(笑)
この画面コピーは上記の8素子ラダー型フィルタをシミュレーション用に書いてみたものです。 水晶振動子そのものを書くのではなく、Lm、Cm、Ch、(Rm)に分けて回路図を作成します。 あとは画面のRunボタンを押してから、観測プローブを出力端子に当ててやればグラフィカルに特性が表示されます。
【Dishalのシミュレーションを再確認】
「簡易設計ソフト」の右側に表示されるグラフと同じものが得られるのか最初に確認しておきます。 左図はLT-Spiceによる同条件でのシミュレーション結果です。
各Lm、Cmは設計に使用したのと同じく平均値をインプットします。 またRmはシミュレータのデフォルト値・・・確か10ミリΩだったはず・・・をそのまま使いました。 Dishalの設計ソフトと同じく、Quは非常に大きい状態でのシミュレーションと言うことになります。
同じような結果が得られています。 LT-Spiceでもきちんとしたシミュレーションができています。 まあ、ちゃんとできて当たり前なのですが、これで以降の結果も信用してもらえると良いのですが・・・。
【現実的な水晶でやってみる】
何が「現実的」なのかと言えば、損失抵抗:Rmの値を実際の値としてインプットしました。 平均のRm=4.07Ωです。 Quで言えばQu=約158,000と言うことになります。 このQuの数字自体悪いものではありません。むしろごく普通の水晶発振子としては優秀な方です。
さっそく通過帯域の特性に注目しましょう。 遮断域に向かう角(カド)の部分が丸くなり、通過帯域は平坦でなく山形で、なおかつ凸凹しています。それに、すこし右下がり気味の特性です。
「簡易設計ソフト」は水晶発振子は無損失であると想定した結果でした。 現実はなかなか厳しいのです。 最初の特性グラフを見て「しめしめ、これでフィルタのエキスパート」なんて思ったら残念でしたということになるでしょう。世の中そんなに甘くありません。(爆)
#それどころか、さらに現実は厳しいことが次の結果を見れば明らかに!
【使用する水晶の実態とは】
これも再掲載ですが、念のためにもう一度アップしておきましょう。 この後で登場する実際の製作に使用した現実の水晶そのものの特性です。 念のため書いておきますが、この表の水晶振動子はそもそも選別品です。従って、良く揃ったものを集めてあります。無造作に・・まったくランダムに・・・選んだ水晶発振子ではないことを特筆しておきます。要するに良さそうなものを選んであるわけです。
次のシミュレーションで使った数字もこの表からピックアップしました。 従って、これから作ろうとするフィルタの「実態に即した特性」がシミュレーションできるわけです。水晶を良く選んで作ったんだから、当然良い結果を期待したいものです。
【作ったらこうなるに違いない!】
これは予め書いておきますが、シミュレーションよりも現実の方が良くなるのは稀ですから、この状態では製作しませんでした。 それにシミュレーションを行なう意味は、明らかな失敗作を回避するのも目的の一つです。
通過帯域の様子を見れば一目瞭然でしょう。 ずいぶん凸凹があって、だいぶ右肩下がりの特性です。 最初に見た簡易設計ソフトのグラフとずいぶん違っています。
入念に水晶を選んでから、(A)〜(C)の手順を踏んで製作してもこのような結果になることがあるのです。 「きちんと」やったんですが、旨く行かないのは何故なんでしょうね?・・・の、答えがここにあります。(C)のところまでやってハンダ鏝を握ったらこうなったでしょう。 何が問題なのか?・・・本質的には水晶振動子のバラツキです。
製作する方へ:Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトで設計・製作する場合、水晶振動子(発振子、共振子)のバラツキを抑えるのがもっとも大切です。 これは、直列共振周波数:fsだけでなく各水晶定数についても言えます。 合わせて、なるべく無負荷Q:Quの大きな水晶を使うことにあります。 そのようにして製作すれば旧来の設計では得られなかったような素晴らしい特性のラダー型フィルタが作れます。これは、夢物語やオカルトではなくて理論的に正しいことですから確実に行なえば誰でも再現できます。そうならなかったら何かが不十分と言う意味です。
【私の試作例】
試作品はこんな感じに出来上がりました。 写真から何となく実感が湧くでしょう。
8素子用の基板に組み立てた状態です。 流石に専用基板だけあってうまく纏めることができました。 基板設計の段階ではすこし窮屈な印象もありましたが製作に支障はありませんでした。 コンパクトに纏まっているので使い易いユニット部品になりました。
以下の特性はシミュレーションではなく、このフィルタを測定器で評価した結果です。 今のところ試作品レベルですが、忘れてしまう前に途中経過を測定しておきました。 当然ながら+αの対策は行なっており、上記のシミュレーションのまま作った訳ではありません。 対策の効果を検証するのが以下の測定の目的でもあります。
参考:8素子用基板はまだ幾らか残っているので頒布は可能。 ←品切れです。ご希望があるようなら再製作します。(2015/12/11現在)
【概要評価】
横軸のひと目盛りは1kHzです。全体では10kHz幅です。 また縦軸はひと目盛りが10dBです。100dBの範囲で観測しています。
通過損失には測定用のマッチング回路のロスが含まれています。マッチング回路のロスを除いた正味の通過損失は10dB以内でした。 通過帯域から約80dB下がったところに少し盛り上がりはありますが、十分な帯域外減衰量だと思います。 中心軸から見た左右の特性はほぼ対称になっています。 これは8素子にしたのが効果的でした。 12.8MHzと周波数が高くなったのも有利です。周波数に比例して水晶発振子のfsとfpの間隔が広くなるためです。
但し、周波数が高いのは良いことばかりではありません。 中心周波数と帯域幅で考える「フィルタQ」が大きくなることから、High-Qな水晶振動子が不可欠です。 現実にはQuが不十分な水晶で作ることになるので通過帯域が弓なりになりエッジが丸くなってしまいます。改善は可能ですが一段と高級な設計・製作になります。
製作する方へ:Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトウエアによる設計でもここまで行けます。十分良い特性ではありませんか? もしこのように行かないなら、それは本質的に水晶振動子(発振子)のバラツキによるものでしょう。 まずは使う水晶を精度よく測定することにあります。その上で水晶定数の「バラツキを抑える」ことがフィルタ作りの原点です。良い水晶を選別することで誰でも設計ソフトを頼ってこの特性に至ることは可能なのです。
【-6dB帯域幅】
中心部分から見て、-6dBの帯域幅を測定してみました。 設計値では2.76kHzでしたが、2.55kHzに減少しています。 約7.6%の減少なので、違いはそれほど大きくもありませんが幾らか広めに設計した方が良かったようです。6素子でも同様の減少傾向がありました。
使用した水晶振動子の無負荷Q:Quがやや小さかったことによる「帯域幅減少」でしょう。肩の部分の丸味も同じ理由です。もちろんQuの問題が原因の全てではありません。 通過帯域は完全なフラットとは言えませんがまずまずと言えそうです。
【-60dB帯域幅】
上の-6dB帯域幅と。この-60dB帯域幅でシェープ・ファクタ(形状比)を計算してみましょう。
-6dBが、2.55kHzで、-60dBが4.312kHzでした。 従ってシェープ・ファクタ:k=Bw(-60)/Bw(-6)=4.312/2.55=1.691です。 理想はk=1ですが、2以下であれば一般的なSSB用クリスタル・フィルタとしては合格点です。
SSB送信機において逆サイドの漏れは気にならないでしょう。 受信機に使っても切れの甘さを感じることはありません。
【キャリヤ周波数は】
実際に使うときに必要なキャリヤ周波数を測定しておきました。 幾らか不満はあっても、いきなりジャンクにはせず、SSBジェネレータにでも使ってみたいと思います。
USB側が:f(USB)=12,795.075kHz
LSB側が:f(LSB)=12,797.962kHz
・・・でした。
どちらのキャリヤも発生させ易い周波数です。 参考までに、両キャリヤポイントの中心をフィルタの中心周波数とすれば、fc=12,796.520kHz(概略)となります。 送受信機の設計では、フィルタの中心周波数はこの周波数で行けば良いでしょう。
【あらためて、通過域の特性を見る】
「試作品」と言うのは、この特性に少々不満があるからです。 画面のマーカーはピークから3dB下がったところです。 一応、急峻な部分にはあるのですが・・・。
横軸はひと目盛りが500Hz、縦軸はひと目盛りが1dBの拡大目盛りになっています。 ですから通過帯域の平坦度が誇張されて蒲鉾型に見えているのではありますが・・・。 もちろん、「ちゃんと」やっているので右肩下がりもほぼ解消しています。
これで現実のRm=4.07Ωを考慮した状態でシミュレーションした結果と等価と言ったところです。 注目すべきはDishalの論文準拠の(簡易)設計ソフトでもここまでは行けるという意味です。もちろん、それ以上を求めるなら設計を変えないとダメですけれど・・・。
#本当の0.1dB Chebychev型はこんなに丸くないのです。(笑)
【帯域外減衰を見る】
通過帯域外の減衰状態を見ておきます。 横軸は全体で100kHzです。 縦軸は全体で100dBです。
通過域を画面の上端に合わせて見ています。 従って、フロアの部分は約-90dBと言うことになります。 多少左右で異なりますが、まずまず支障のない性能だと思って良いでしょう。
基板設計が悪いとこのような性能は得られません。 無用な信号の結合が起こらないようにコンデンサと水晶の配置を入念に調整して頂いたのでその効果があったようです。この性能から専用基板の出来がわかります。 コンパクトに纏めた構造を考慮すれば優秀な方だと思います。 あとは回路への実装で特性が劣化しないよう注意します。
☆
「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」だけで見ていたのでは完全な設計にはならないことがご理解頂ければBlogの意味があったことになります。 特定の状態を前提にした設計では、得られた結果が予想外になったとしても不思議ではありません。まったくバラツキのない水晶発振子など無いのですから。 もちろん、旨くないなら手だてはあります。見た通り、手だてを行なえばかなりまで行けるのですから有用性がないわけではありません。ですからもう過去の設計に戻る必要はないのです。
検討を進める過程で、きちんとした製作にはある程度マトモな道具が必要なこともわかってきました。 (シンセサイザ式の)SSGとRF電圧計(=RFミリバル)くらいでも、何とかなりますが効率は悪いでしょう。それさえ用意できないなら「闇夜で手探り」になってしまいます。 できたらTG付きのスペアナやネットアナがあると良いです。それら測定器も物を選ぶ必要があります。 製作のハードルは高くなってしまいますが現実である以上、甘言を退けて正直に書いておく方が良さそうです。 道具はあってもそれを使いこなす技術も欠くことができません。
水晶定数はLmとCmだけでは不十分です。損失抵抗:Rmの値も掴んでおかないと確認のシミュレーションができません。必ずシミュレーションしてから作る方が良いです。 LmやCmは発振周波数シフト法で良いです。Rmの方は以前紹介した書籍「W1FB's Design Notebook」にある様な測定治具が欲しいです。
高性能なフィルタ作りともなればイージーにとは行かないのは当たり前かもしれません。これで新世代のラダー型フィルタの設計は80%くらい確立できたと思っていますが、もう一度整理し直そうと思います。さらに幾つかフィルタを作ってみる必要があるでしょう。今も検証は進んでいます。de JA9TTT/1
(つづく)←音の良いCWクリスタルフィルタにリンク。
【12.8MHz 8-pole SSB Filter】
前のBlog(←リンク)では実際に新しい方法で作ったラダー型フィルタの製作例を示してその設計法も簡単に説明しました。 6素子の例で示しましたが、8素子ラダー型フィルタも基本的に同じです。
左図は「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」(以降は簡易設計ソフトと略)を走らせた状態です。
使用した水晶発振子は表示周波数が12.8MHzのもので形状はHC-49/Uです。 たくさん測定した中から無負荷Q:Quが高い物を8個選びました。 水晶定数はそれら選んだ物8個の平均値で与えます。
具体的には以下の通りです。
・Lm=7.989mH
・fs=12794.857kHz
・Cp=3.49pF
・・・です。
右側の特性図を見ると、中心周波数の上下を見た対称性が6素子よりずいぶん良くなっています。また、おなじ0.1dB−Chebychev型でも一段と急峻になっています。追加の2素子はずいぶん効果的です。 6素子のSSBフィルタでも実用にはなりますが、できればこのくらいの特性が望ましいでしょう。
【初期設計から実用設計へ】
この図は前回の再掲載です。 上記の設計で得られた値を書き込んだのが(A)です。 数値に端数が付き過ぎているのと、平均値計算なのでそのまま作るのには適しません。
(B)は、実際に使用う水晶発振子をどの位置に何番を使うのか具体的に選んで「格子周波数の同調」・・・Mesh Tuneを行なった結果です。 「簡易設計ソフト」の上部メニューバーから「Xtal」をクリックするとチューニング用小プログラムが現れます。 使い方はソフト付属HELPファイル:eDishalHelp.pdfのAppendixにある"Xtal Tuning"の項に詳しく書いてあるので事前に参照しておきましょう。
さらに(C)は数値を丸めて製作し易くしました。 どこまで丸めてしまって良いのでしょうか? 各コンデンサの値をばらつかせて特性がどの様に変化するのかを検証した資料を見ると±5%程度ではほとんど影響はありません。 従って、計算値から5%以内の誤差になるように選んでやれば十分そうです。 心配なら最終値でシミュレーションしてみましょう。(実際、それをしてみたらいろいろなことがわかったのですが・・・)
【LT-Spiceでシミュレーション】
すでに簡易設計ソフトのところでシミュレーションしたフィルタ特性がグラフで表示されています。あらためてシミュレーションする意味はあるのでしょうか?
「簡易設計ソフト」のシミュレーションでは不完全なのです。 それは以下の結果から良くわかります。
ここで使ったLT-Spiceは非常に有名です。半導体メーカーのリニア・テクノロージー社が無償提供している回路シミュレータです。無償とは言え非常に高機能かつ高性能です。それまで世の中にあった有償の回路シミュレータが淘汰されてしまったくらいのインパクトがありました。更新が継続されているのも素晴らしいです。 同社のサイトからダウンロード(←該当ページへリンク)して使うべきでしょう。
ネットをサーチすれば使い方も何となくわかると思いますから、あえて参考書籍のお薦めは書きません。 せっかく情報提供しても「高いものを買わされた」などと反感を持たれたら詰まりませんから・・・。倹約は美徳かも知れませんが吝嗇は進歩に結びつかずです。投資したなら、その分じゃぶり尽くせば良いのです。(笑)
この画面コピーは上記の8素子ラダー型フィルタをシミュレーション用に書いてみたものです。 水晶振動子そのものを書くのではなく、Lm、Cm、Ch、(Rm)に分けて回路図を作成します。 あとは画面のRunボタンを押してから、観測プローブを出力端子に当ててやればグラフィカルに特性が表示されます。
【Dishalのシミュレーションを再確認】
「簡易設計ソフト」の右側に表示されるグラフと同じものが得られるのか最初に確認しておきます。 左図はLT-Spiceによる同条件でのシミュレーション結果です。
各Lm、Cmは設計に使用したのと同じく平均値をインプットします。 またRmはシミュレータのデフォルト値・・・確か10ミリΩだったはず・・・をそのまま使いました。 Dishalの設計ソフトと同じく、Quは非常に大きい状態でのシミュレーションと言うことになります。
同じような結果が得られています。 LT-Spiceでもきちんとしたシミュレーションができています。 まあ、ちゃんとできて当たり前なのですが、これで以降の結果も信用してもらえると良いのですが・・・。
【現実的な水晶でやってみる】
何が「現実的」なのかと言えば、損失抵抗:Rmの値を実際の値としてインプットしました。 平均のRm=4.07Ωです。 Quで言えばQu=約158,000と言うことになります。 このQuの数字自体悪いものではありません。むしろごく普通の水晶発振子としては優秀な方です。
さっそく通過帯域の特性に注目しましょう。 遮断域に向かう角(カド)の部分が丸くなり、通過帯域は平坦でなく山形で、なおかつ凸凹しています。それに、すこし右下がり気味の特性です。
「簡易設計ソフト」は水晶発振子は無損失であると想定した結果でした。 現実はなかなか厳しいのです。 最初の特性グラフを見て「しめしめ、これでフィルタのエキスパート」なんて思ったら残念でしたということになるでしょう。世の中そんなに甘くありません。(爆)
#それどころか、さらに現実は厳しいことが次の結果を見れば明らかに!
【使用する水晶の実態とは】
これも再掲載ですが、念のためにもう一度アップしておきましょう。 この後で登場する実際の製作に使用した現実の水晶そのものの特性です。 念のため書いておきますが、この表の水晶振動子はそもそも選別品です。従って、良く揃ったものを集めてあります。無造作に・・まったくランダムに・・・選んだ水晶発振子ではないことを特筆しておきます。要するに良さそうなものを選んであるわけです。
次のシミュレーションで使った数字もこの表からピックアップしました。 従って、これから作ろうとするフィルタの「実態に即した特性」がシミュレーションできるわけです。水晶を良く選んで作ったんだから、当然良い結果を期待したいものです。
【作ったらこうなるに違いない!】
これは予め書いておきますが、シミュレーションよりも現実の方が良くなるのは稀ですから、この状態では製作しませんでした。 それにシミュレーションを行なう意味は、明らかな失敗作を回避するのも目的の一つです。
通過帯域の様子を見れば一目瞭然でしょう。 ずいぶん凸凹があって、だいぶ右肩下がりの特性です。 最初に見た簡易設計ソフトのグラフとずいぶん違っています。
入念に水晶を選んでから、(A)〜(C)の手順を踏んで製作してもこのような結果になることがあるのです。 「きちんと」やったんですが、旨く行かないのは何故なんでしょうね?・・・の、答えがここにあります。(C)のところまでやってハンダ鏝を握ったらこうなったでしょう。 何が問題なのか?・・・本質的には水晶振動子のバラツキです。
製作する方へ:Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトで設計・製作する場合、水晶振動子(発振子、共振子)のバラツキを抑えるのがもっとも大切です。 これは、直列共振周波数:fsだけでなく各水晶定数についても言えます。 合わせて、なるべく無負荷Q:Quの大きな水晶を使うことにあります。 そのようにして製作すれば旧来の設計では得られなかったような素晴らしい特性のラダー型フィルタが作れます。これは、夢物語やオカルトではなくて理論的に正しいことですから確実に行なえば誰でも再現できます。そうならなかったら何かが不十分と言う意味です。
試作品はこんな感じに出来上がりました。 写真から何となく実感が湧くでしょう。
8素子用の基板に組み立てた状態です。 流石に専用基板だけあってうまく纏めることができました。 基板設計の段階ではすこし窮屈な印象もありましたが製作に支障はありませんでした。 コンパクトに纏まっているので使い易いユニット部品になりました。
以下の特性はシミュレーションではなく、このフィルタを測定器で評価した結果です。 今のところ試作品レベルですが、忘れてしまう前に途中経過を測定しておきました。 当然ながら+αの対策は行なっており、上記のシミュレーションのまま作った訳ではありません。 対策の効果を検証するのが以下の測定の目的でもあります。
参考:
【概要評価】
横軸のひと目盛りは1kHzです。全体では10kHz幅です。 また縦軸はひと目盛りが10dBです。100dBの範囲で観測しています。
通過損失には測定用のマッチング回路のロスが含まれています。マッチング回路のロスを除いた正味の通過損失は10dB以内でした。 通過帯域から約80dB下がったところに少し盛り上がりはありますが、十分な帯域外減衰量だと思います。 中心軸から見た左右の特性はほぼ対称になっています。 これは8素子にしたのが効果的でした。 12.8MHzと周波数が高くなったのも有利です。周波数に比例して水晶発振子のfsとfpの間隔が広くなるためです。
但し、周波数が高いのは良いことばかりではありません。 中心周波数と帯域幅で考える「フィルタQ」が大きくなることから、High-Qな水晶振動子が不可欠です。 現実にはQuが不十分な水晶で作ることになるので通過帯域が弓なりになりエッジが丸くなってしまいます。改善は可能ですが一段と高級な設計・製作になります。
製作する方へ:Dishalの論文に基づく簡易設計ソフトウエアによる設計でもここまで行けます。十分良い特性ではありませんか? もしこのように行かないなら、それは本質的に水晶振動子(発振子)のバラツキによるものでしょう。 まずは使う水晶を精度よく測定することにあります。その上で水晶定数の「バラツキを抑える」ことがフィルタ作りの原点です。良い水晶を選別することで誰でも設計ソフトを頼ってこの特性に至ることは可能なのです。
【-6dB帯域幅】
中心部分から見て、-6dBの帯域幅を測定してみました。 設計値では2.76kHzでしたが、2.55kHzに減少しています。 約7.6%の減少なので、違いはそれほど大きくもありませんが幾らか広めに設計した方が良かったようです。6素子でも同様の減少傾向がありました。
使用した水晶振動子の無負荷Q:Quがやや小さかったことによる「帯域幅減少」でしょう。肩の部分の丸味も同じ理由です。もちろんQuの問題が原因の全てではありません。 通過帯域は完全なフラットとは言えませんがまずまずと言えそうです。
【-60dB帯域幅】
上の-6dB帯域幅と。この-60dB帯域幅でシェープ・ファクタ(形状比)を計算してみましょう。
-6dBが、2.55kHzで、-60dBが4.312kHzでした。 従ってシェープ・ファクタ:k=Bw(-60)/Bw(-6)=4.312/2.55=1.691です。 理想はk=1ですが、2以下であれば一般的なSSB用クリスタル・フィルタとしては合格点です。
SSB送信機において逆サイドの漏れは気にならないでしょう。 受信機に使っても切れの甘さを感じることはありません。
【キャリヤ周波数は】
実際に使うときに必要なキャリヤ周波数を測定しておきました。 幾らか不満はあっても、いきなりジャンクにはせず、SSBジェネレータにでも使ってみたいと思います。
USB側が:f(USB)=12,795.075kHz
LSB側が:f(LSB)=12,797.962kHz
・・・でした。
どちらのキャリヤも発生させ易い周波数です。 参考までに、両キャリヤポイントの中心をフィルタの中心周波数とすれば、fc=12,796.520kHz(概略)となります。 送受信機の設計では、フィルタの中心周波数はこの周波数で行けば良いでしょう。
【あらためて、通過域の特性を見る】
「試作品」と言うのは、この特性に少々不満があるからです。 画面のマーカーはピークから3dB下がったところです。 一応、急峻な部分にはあるのですが・・・。
横軸はひと目盛りが500Hz、縦軸はひと目盛りが1dBの拡大目盛りになっています。 ですから通過帯域の平坦度が誇張されて蒲鉾型に見えているのではありますが・・・。 もちろん、「ちゃんと」やっているので右肩下がりもほぼ解消しています。
これで現実のRm=4.07Ωを考慮した状態でシミュレーションした結果と等価と言ったところです。 注目すべきはDishalの論文準拠の(簡易)設計ソフトでもここまでは行けるという意味です。もちろん、それ以上を求めるなら設計を変えないとダメですけれど・・・。
#本当の0.1dB Chebychev型はこんなに丸くないのです。(笑)
【帯域外減衰を見る】
通過帯域外の減衰状態を見ておきます。 横軸は全体で100kHzです。 縦軸は全体で100dBです。
通過域を画面の上端に合わせて見ています。 従って、フロアの部分は約-90dBと言うことになります。 多少左右で異なりますが、まずまず支障のない性能だと思って良いでしょう。
基板設計が悪いとこのような性能は得られません。 無用な信号の結合が起こらないようにコンデンサと水晶の配置を入念に調整して頂いたのでその効果があったようです。この性能から専用基板の出来がわかります。 コンパクトに纏めた構造を考慮すれば優秀な方だと思います。 あとは回路への実装で特性が劣化しないよう注意します。
☆
「Dishalの論文に基づく簡易設計ソフト」だけで見ていたのでは完全な設計にはならないことがご理解頂ければBlogの意味があったことになります。 特定の状態を前提にした設計では、得られた結果が予想外になったとしても不思議ではありません。まったくバラツキのない水晶発振子など無いのですから。 もちろん、旨くないなら手だてはあります。見た通り、手だてを行なえばかなりまで行けるのですから有用性がないわけではありません。ですからもう過去の設計に戻る必要はないのです。
検討を進める過程で、きちんとした製作にはある程度マトモな道具が必要なこともわかってきました。 (シンセサイザ式の)SSGとRF電圧計(=RFミリバル)くらいでも、何とかなりますが効率は悪いでしょう。それさえ用意できないなら「闇夜で手探り」になってしまいます。 できたらTG付きのスペアナやネットアナがあると良いです。それら測定器も物を選ぶ必要があります。 製作のハードルは高くなってしまいますが現実である以上、甘言を退けて正直に書いておく方が良さそうです。 道具はあってもそれを使いこなす技術も欠くことができません。
水晶定数はLmとCmだけでは不十分です。損失抵抗:Rmの値も掴んでおかないと確認のシミュレーションができません。必ずシミュレーションしてから作る方が良いです。 LmやCmは発振周波数シフト法で良いです。Rmの方は以前紹介した書籍「W1FB's Design Notebook」にある様な測定治具が欲しいです。
高性能なフィルタ作りともなればイージーにとは行かないのは当たり前かもしれません。これで新世代のラダー型フィルタの設計は80%くらい確立できたと思っていますが、もう一度整理し直そうと思います。さらに幾つかフィルタを作ってみる必要があるでしょう。今も検証は進んでいます。de JA9TTT/1
(つづく)←音の良いCWクリスタルフィルタにリンク。
2015年11月26日木曜日
【測定】Quartz Crystal Test Fixture
【測定:水晶発振子のテスト治具】
【テスト治具の回路図】
水晶発振子or水晶振動子のテストには標準のテスト治具があって、ごく一般的に使用されています。 50Ωの入出力インピーダンスを12.5Ωに変換して、その12.5Ωのところに水晶発振子/振動子を装着して測定します。 従って、水晶は12.5+12.5=25(Ω)の負荷インピーダンスで測定されることになります。これはIECの標準測定回路だったはずです。
図の回路は、E24系列の抵抗器を使って測定治具を実現している一例です。おそらくメーカーでは専用の抵抗器を特注しているに違いありません。しかし手作りで数台作るにはとてもそこまでできないので市販の抵抗器の組み合わせで間に合わせる必要があるのです。
抵抗器は理想を言えばノンカット型のRF用がベストですが、用途をHF帯(〜30MHz)に限るとすればごく普通の表面実装用のチップ型を使えば十分です。誤差はできたら1%が良いですが5%のものを多数購入して実測のうえ選別するのが現実的でしょう。 あまりパワーは入れないので1608サイズで良いと思います。もちろん2012サイズでも3216サイズでも大丈夫です。あまり小さなチップ抵抗は扱いにくくなります。
部品表:
(1)抵抗器:2.2Ω、4.7Ω、12Ω、39Ω、62Ω、120Ω・・・各2本
(2)コネクタ:BNC型、あるいはSMA型・・・2個
(3)プリント基板:FR4材両面生基板・・・適宜寸法(t=1mmなど)
(4)ソケット:HC-49/U型水晶発振子に適合するもの。要耐久性。・・・1個
本格的にやるなら、プリント基板を起こしてラインインピーダンスを合わせてやれば良いのですが、簡単な回路だから手貼りでパターンを直接描いても良さそうです。 配線は短かめに、なおかつストレー容量が大きくならないように考慮します。 水晶を挿入するソケットが一番の問題かもしれません。あまり安っぽいものを使うと耐久性が無くて困ることになります。なにしろ、数百回、数千回の抜き差しになるかも知れません。
参考:この12.5Ω 測定治具を実際に製作しクリスタル・インピーダンス・メータ(CIメータ)で使用した経緯を纏めた別のBlogがあります。→続編へリンク
☆
まったくの自家用メモです。ラダー型クリスタル・フィルタの製作には直接的な関係はありません。治具として製作すべき物と言う訳でもありません。 こうした製作情報はあまりネット上に無いのでメモとして書いておきました。プロはメーカー製の専用治具を購入してしまうので、自作などしないからでしょう。アマチュアでもお金持ちは購入すれば良いことです。 特に製作をお奨めするような内容ではないので、水晶の測定に興味がなければささっと素通りされて下さい。入出力インピーダンスが50ΩのTG付きスペアナやVNA等が前提の治具です。de JA9TTT/1
(おわり)
【テスト治具の回路図】
水晶発振子or水晶振動子のテストには標準のテスト治具があって、ごく一般的に使用されています。 50Ωの入出力インピーダンスを12.5Ωに変換して、その12.5Ωのところに水晶発振子/振動子を装着して測定します。 従って、水晶は12.5+12.5=25(Ω)の負荷インピーダンスで測定されることになります。これはIECの標準測定回路だったはずです。
図の回路は、E24系列の抵抗器を使って測定治具を実現している一例です。おそらくメーカーでは専用の抵抗器を特注しているに違いありません。しかし手作りで数台作るにはとてもそこまでできないので市販の抵抗器の組み合わせで間に合わせる必要があるのです。
抵抗器は理想を言えばノンカット型のRF用がベストですが、用途をHF帯(〜30MHz)に限るとすればごく普通の表面実装用のチップ型を使えば十分です。誤差はできたら1%が良いですが5%のものを多数購入して実測のうえ選別するのが現実的でしょう。 あまりパワーは入れないので1608サイズで良いと思います。もちろん2012サイズでも3216サイズでも大丈夫です。あまり小さなチップ抵抗は扱いにくくなります。
部品表:
(1)抵抗器:2.2Ω、4.7Ω、12Ω、39Ω、62Ω、120Ω・・・各2本
(2)コネクタ:BNC型、あるいはSMA型・・・2個
(3)プリント基板:FR4材両面生基板・・・適宜寸法(t=1mmなど)
(4)ソケット:HC-49/U型水晶発振子に適合するもの。要耐久性。・・・1個
本格的にやるなら、プリント基板を起こしてラインインピーダンスを合わせてやれば良いのですが、簡単な回路だから手貼りでパターンを直接描いても良さそうです。 配線は短かめに、なおかつストレー容量が大きくならないように考慮します。 水晶を挿入するソケットが一番の問題かもしれません。あまり安っぽいものを使うと耐久性が無くて困ることになります。なにしろ、数百回、数千回の抜き差しになるかも知れません。
参考:この12.5Ω 測定治具を実際に製作しクリスタル・インピーダンス・メータ(CIメータ)で使用した経緯を纏めた別のBlogがあります。→続編へリンク
☆
まったくの自家用メモです。ラダー型クリスタル・フィルタの製作には直接的な関係はありません。治具として製作すべき物と言う訳でもありません。 こうした製作情報はあまりネット上に無いのでメモとして書いておきました。プロはメーカー製の専用治具を購入してしまうので、自作などしないからでしょう。アマチュアでもお金持ちは購入すれば良いことです。 特に製作をお奨めするような内容ではないので、水晶の測定に興味がなければささっと素通りされて下さい。入出力インピーダンスが50ΩのTG付きスペアナやVNA等が前提の治具です。de JA9TTT/1
(おわり)
2015年11月12日木曜日
【部品】8-Pole X-tal Filter Board
【8素子クリスタルフィルタ用基板】
【8素子用基板ができた】
8素子クリスタル・フィルタ用プリント基板が完成しました。 何とか6素子の基板と同じサイズになるように纏めてもらいました。 入出力端子も6素子の基板と同じになるようにできたので互換性があります。
もしもご希望があればですが、必要なお方に3枚ずつ頒布したいと思っていいます。 頒布要領は前回の6素子と同じなので、そちら(←リンク)をご覧頂ければと思います。
なお。パターン作成上の制限で、水晶振動子を基板に密着して実装すると旨くありません。6素子用基板の時と同じ様に浮かせてハンダ付けします。水晶振動子のケースも必ずGNDに接続しておきます。(参考:水晶振動子を載せるのに、これ(←リンク)を使うと便利そうです)
【想定回路はこれ】
8素子クリスタル・フィルタ用基板が想定しているラダー型クリスタル・フィルタの回路は左図のようになっています。
図は私の製作例です。ただし、これと同じ周波数の水晶振動子を使ったからと言って同じ設計値(部品定数)にはならないのでご注意を! (即ち、ご自身の水晶に合わせた再設計を要します)
(A):設計ソフトで設計したままの状態。
(B):個々の水晶振動子のバラツキを考慮してチューニングした計算結果。
(C):実際に製作するために数値を丸めたもの。
・・・だいたい、こんなプロセスで設計を進めて行くことになります。 必要に応じて回路シミュレータなども動員して確認しておけばなお宜しいと思います。
【実践でフィルタに】
図上設計のままでは絵に描いた餅です。 図をいくら眺めていても現物のフィルタにはならないので実際の製作に進まなくてはなりません。(写真は製作中の様子)
クリスタル・フィルタは水晶振動子の実測値に基づいた設計を行なっています。 特にこのタイプのラダー型クリスタル・フィルタの場合、各振動子のバラツキに応じて個々のチューニングを行ないます。従って所定の順番・位置に取付けなくてはならず、もし付ける場所を間違えると悲惨です。 振動子にはわかり易いように予め番号を振っておき、基板への実装も十分確認しながら行ないましょう。
コンデンサも実測しておき、場所を間違えないように組み立てることが重要です。 基板の方もシルク印刷付きなのでかなりわかり易くなっています。(言うまでもないと思いますが、シルク印刷のある面に部品を実装するようにします)
☆ ☆ ☆
Dishalの論文に基づく(簡易)設計プログラムのお陰で、高度のクリスタル・フィルタ設計がとても容易になりました。 もはや旧来のCohn minimum loss型には戻れないでしょう。 それだけ優秀なクリスタル・フィルタが設計・製作できるからです。 ちょうど製作の助けとして8素子用専用基板があったらFBだと思っていたら再びJR2FKN/1 鶴田さんから基板設計の話しが来ました。 「6素子と同じサイズの基板に」と言う無理っぽいお願いにも工夫で対応して頂きました。組立は窮屈かもしれませんがその分コンパクトに纏まっていて完成後は使い易い筈です。 沢山は作らなかったのですが、自家用には十分すぎる枚数です。 前回とおなじくらい頒布可能なので、ご希望があればメールでお問い合わせを。お一人様あたりフィルタ3つ分ずつ頒布します。 回路パターンは上記の「想定回路」の通りになっています。
新しいラダー型フィルタの設計・製作を扱って以来、ずいぶん沢山のお方が製作を試みたと聞いています。 旨く行った例も多いようですが、どうも思い通りにならなかったと言うお話しも漏れ聞いています。 「Dshalのプログラム」(注1)を使い、Mesh Tuneも指示通りにきちんとやったのだがどうしてなんでしょう?・・・と言う声も聞こえます。 このあたり、やはり実践をふまえた作業手順を細かく伝えないと不十分なのではないかと感じています。 それに、プログラムは予め想定に従った定型の設計なので必ずしも再現性が良くないことも確認しています。入念にやったからと言って旨くないこともあるのでしょう。 良くできた設計プログラムだとは言え、そんなものなのです。 ツール(道具)は使い様と言ったところでしょうか。いずれそんな話題も扱わなくてはならないようですね。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク
コラム・Dishalのプログラム:(注1)
「Dshalのプログラム」と言う認識がそもそもずれているのかもしれません。 Dishalはラダー型フィルタの合理的(現実的)な設計方法に関する論文の執筆者です。 その論文に基づき条件を端折って簡易型の計算・設計プログラムに纏めたのがDJ6EVで、さらにそれを英語化したのがG3JIRでした。ですから「Dishalの論文に基づく(簡易)設計プログラム」と呼ぶのが適切であり、そもそもDishal氏は設計プログラムには一切関係していないのです。
この簡易設計プログラムは一見完璧そうに見えますが、必ずしも思い通りに行かないのは条件を端折っているせいでしょう。もちろん、厳密な設計パラメータをインプットするよう、ユーザに求めたなら使いこなせるのはごく限られた人だけになってしまったでしょう。ですら簡易型に旨く纏めた意義は十分あると思います。思い通りの結果にないからと言って価値がない訳ではありません。言うまでもないでしょうが、その設計プログラムが「簡易型」なのはDishal氏に責任がある訳ではありません。
Dishalの論文は種々のフィルタ形式について適用できるため「Dishalフィルタの音」などと言う表現も正しくありません。その設計法を使って、どんな形式のフィルタを設計したのかによります。例えばButterworthとChebyshevの違いは有りえますが、どちらもDishalの設計法で製作できます。ですから「Dishalのフィルタ」とくくってしまうのは正しくありません。 せっかく高度なフィルタの設計に興味を持ったのですから正しい認識を持ちたいものだと思ってます。
【8素子用基板ができた】
8素子クリスタル・フィルタ用プリント基板が完成しました。 何とか6素子の基板と同じサイズになるように纏めてもらいました。 入出力端子も6素子の基板と同じになるようにできたので互換性があります。
もしもご希望があればですが、必要なお方に3枚ずつ頒布したいと思っていいます。 頒布要領は前回の6素子と同じなので、そちら(←リンク)をご覧頂ければと思います。
なお。パターン作成上の制限で、水晶振動子を基板に密着して実装すると旨くありません。6素子用基板の時と同じ様に浮かせてハンダ付けします。水晶振動子のケースも必ずGNDに接続しておきます。(参考:水晶振動子を載せるのに、これ(←リンク)を使うと便利そうです)
【想定回路はこれ】
8素子クリスタル・フィルタ用基板が想定しているラダー型クリスタル・フィルタの回路は左図のようになっています。
図は私の製作例です。ただし、これと同じ周波数の水晶振動子を使ったからと言って同じ設計値(部品定数)にはならないのでご注意を! (即ち、ご自身の水晶に合わせた再設計を要します)
(A):設計ソフトで設計したままの状態。
(B):個々の水晶振動子のバラツキを考慮してチューニングした計算結果。
(C):実際に製作するために数値を丸めたもの。
・・・だいたい、こんなプロセスで設計を進めて行くことになります。 必要に応じて回路シミュレータなども動員して確認しておけばなお宜しいと思います。
【実践でフィルタに】
図上設計のままでは絵に描いた餅です。 図をいくら眺めていても現物のフィルタにはならないので実際の製作に進まなくてはなりません。(写真は製作中の様子)
クリスタル・フィルタは水晶振動子の実測値に基づいた設計を行なっています。 特にこのタイプのラダー型クリスタル・フィルタの場合、各振動子のバラツキに応じて個々のチューニングを行ないます。従って所定の順番・位置に取付けなくてはならず、もし付ける場所を間違えると悲惨です。 振動子にはわかり易いように予め番号を振っておき、基板への実装も十分確認しながら行ないましょう。
コンデンサも実測しておき、場所を間違えないように組み立てることが重要です。 基板の方もシルク印刷付きなのでかなりわかり易くなっています。(言うまでもないと思いますが、シルク印刷のある面に部品を実装するようにします)
☆ ☆ ☆
Dishalの論文に基づく(簡易)設計プログラムのお陰で、高度のクリスタル・フィルタ設計がとても容易になりました。 もはや旧来のCohn minimum loss型には戻れないでしょう。 それだけ優秀なクリスタル・フィルタが設計・製作できるからです。 ちょうど製作の助けとして8素子用専用基板があったらFBだと思っていたら再びJR2FKN/1 鶴田さんから基板設計の話しが来ました。 「6素子と同じサイズの基板に」と言う無理っぽいお願いにも工夫で対応して頂きました。組立は窮屈かもしれませんがその分コンパクトに纏まっていて完成後は使い易い筈です。 沢山は作らなかったのですが、自家用には十分すぎる枚数です。 前回とおなじくらい頒布可能なので、ご希望があればメールでお問い合わせを。お一人様あたりフィルタ3つ分ずつ頒布します。 回路パターンは上記の「想定回路」の通りになっています。
新しいラダー型フィルタの設計・製作を扱って以来、ずいぶん沢山のお方が製作を試みたと聞いています。 旨く行った例も多いようですが、どうも思い通りにならなかったと言うお話しも漏れ聞いています。 「Dshalのプログラム」(注1)を使い、Mesh Tuneも指示通りにきちんとやったのだがどうしてなんでしょう?・・・と言う声も聞こえます。 このあたり、やはり実践をふまえた作業手順を細かく伝えないと不十分なのではないかと感じています。 それに、プログラムは予め想定に従った定型の設計なので必ずしも再現性が良くないことも確認しています。入念にやったからと言って旨くないこともあるのでしょう。 良くできた設計プログラムだとは言え、そんなものなのです。 ツール(道具)は使い様と言ったところでしょうか。いずれそんな話題も扱わなくてはならないようですね。 de JA9TTT/1
(つづく)←リンク
コラム・Dishalのプログラム:(注1)
「Dshalのプログラム」と言う認識がそもそもずれているのかもしれません。 Dishalはラダー型フィルタの合理的(現実的)な設計方法に関する論文の執筆者です。 その論文に基づき条件を端折って簡易型の計算・設計プログラムに纏めたのがDJ6EVで、さらにそれを英語化したのがG3JIRでした。ですから「Dishalの論文に基づく(簡易)設計プログラム」と呼ぶのが適切であり、そもそもDishal氏は設計プログラムには一切関係していないのです。
この簡易設計プログラムは一見完璧そうに見えますが、必ずしも思い通りに行かないのは条件を端折っているせいでしょう。もちろん、厳密な設計パラメータをインプットするよう、ユーザに求めたなら使いこなせるのはごく限られた人だけになってしまったでしょう。ですら簡易型に旨く纏めた意義は十分あると思います。思い通りの結果にないからと言って価値がない訳ではありません。言うまでもないでしょうが、その設計プログラムが「簡易型」なのはDishal氏に責任がある訳ではありません。
Dishalの論文は種々のフィルタ形式について適用できるため「Dishalフィルタの音」などと言う表現も正しくありません。その設計法を使って、どんな形式のフィルタを設計したのかによります。例えばButterworthとChebyshevの違いは有りえますが、どちらもDishalの設計法で製作できます。ですから「Dishalのフィルタ」とくくってしまうのは正しくありません。 せっかく高度なフィルタの設計に興味を持ったのですから正しい認識を持ちたいものだと思ってます。
2015年10月27日火曜日
【測定】GPS-RX NEO-6M
【GPS受信モジュール:u-blox NEO-6M】
【NEO-6Mをテスト】
あらゆる製品やサービスがinternet接続される時代にあって、その対象になるモノの正確な位置情報を知る必要があるのでしょう。 様々なGPS受信モジュールが登場しています。(SNSに何でもかんでも情報アップしてると貴方の行動は筒抜けですよ・笑)
写真もそのGPS受信モジュールの一つです。 u-blox社製のモジュール:NEO-6Mを基板に実装しアンテナを付属したセットが販売されています。 ホビーストの実験・研究用を狙ったものと思われます。(→コレ)
GPS受信モジュールのみでは扱いにくいですが、基板実装済みなので使い易くなっています。 付属のアンテナはオマケ程度のものとも言えますが、この状態で手軽にテストができるのは便利でしょう。
このモジュールの特徴は「高感度」と、ある程度任意に設定できる「パルス出力」にあると思います。(参考:無改造ではパルスで緑LEDが点滅するのみ)
インターフェースはシリアルで、TTLレベルです。 レベル変換を行えば、RS-232Cインターフェースで接続することもできます。 この写真では、左のケーブルの先にUSB-シリアル変換基板があって、パソコンとはUSBで接続しています。 電源はUSB経由で供給可能です。
蛇足でしょうが、USB-シリアル変換器にはTTLレベルのシリアル出力をもったモジュールが必要です。そう言うものは例のarduino 等で使うためでしょうか安価に多数登場しています。(→コレとか) かつてのようにMAX-232等を使ってRS-232Cレベルに信号変換する必要も無くなっているのです。 それに、RS-232Cのようなレトロなインターフェースを持ったパソコンなどシーラカンスのようなものでしょう。 なお、TXDとRXDはクロス接続で使用します。
【専用アプリがある】
従来は汎用のアプリを使ってGPSの受信状態を把握していました。 取りあえずそれでも十分役立つのですが、このモジュールには専用のアプリが用意されています。「u-center」というアプリです。
上記リンクで直接ページが開かない場合は:「評価キット・ツール」→「サポート」→「評価ソフト」の順にページを辿るとダウンロードが見つかるでしょう。あるいは、米ダウンロードサイトのURL(←直接リンク)で。
その専用アプリを通して、モジュールの機能を再設定することができます。 例えば、パルス出力は購入初期のデフォルト状態では1pps(=1Hz)ですが、異なった周期に変更することが可能です。 もちろん、このパルス出力はGPSからの1ppsに同期しているので、平均化処理などを行なって電波伝搬に起因する揺らぎの除去を徹底的に行なえばGPS衛星搭載のRb-OSC(ルビジウム原子時計)と同等の周期精度(周波数精度)を得ることも不可能ではありません。このモジュールを活用するGPS周波数基準器の製作については「トランジスタ技術誌2016年2月号」P99〜P125に詳細な記事がありますから参照して下さい。(2016.1.10)
参考・1:NEO-6MとGPS周波数基準器のBlog内関連情報はこちら(←リンク)から。
☆
かつて、ロックウエル製のTU30-D140と言うGPS受信基板が流行ったことがありました。元々が何かの機器からの「外しジャンク品」だったらしく、やがて枯渇とともに忘れ去られました。
このu-blox製NEO-6Mを載せた基板はジャンク品ではありません。 ごく普通に販売されている商品です。 ヤフオク出品物のような価格不定品ではありません。 機能を考えた価格もリーズナブルな範囲と言えます。 活用はユーザにゆだねられてはいますが、面白い応用も可能だと思っています。
参考・2:NEO-6Mでパソコンの時計精度を向上してJT-65でオンエア。(ここ←リンク)
参考・3:このモジュールのバックアップ機能が旨く働かない時は。(ここ←リンク)
何よりも進歩していると感じるのはその「受信感度」でしょう。 最初の写真のように窓際に置いただけで、この画面コピーのように全天の沢山の衛星を簡単に捉えてくれました。ですから連続動作中に衛星をLostする心配もなくなっています。 de JA9TTT/1
(おわり)
【NEO-6Mをテスト】
あらゆる製品やサービスがinternet接続される時代にあって、その対象になるモノの正確な位置情報を知る必要があるのでしょう。 様々なGPS受信モジュールが登場しています。(SNSに何でもかんでも情報アップしてると貴方の行動は筒抜けですよ・笑)
写真もそのGPS受信モジュールの一つです。 u-blox社製のモジュール:NEO-6Mを基板に実装しアンテナを付属したセットが販売されています。 ホビーストの実験・研究用を狙ったものと思われます。(→コレ)
GPS受信モジュールのみでは扱いにくいですが、基板実装済みなので使い易くなっています。 付属のアンテナはオマケ程度のものとも言えますが、この状態で手軽にテストができるのは便利でしょう。
このモジュールの特徴は「高感度」と、ある程度任意に設定できる「パルス出力」にあると思います。(参考:無改造ではパルスで緑LEDが点滅するのみ)
インターフェースはシリアルで、TTLレベルです。 レベル変換を行えば、RS-232Cインターフェースで接続することもできます。 この写真では、左のケーブルの先にUSB-シリアル変換基板があって、パソコンとはUSBで接続しています。 電源はUSB経由で供給可能です。
蛇足でしょうが、USB-シリアル変換器にはTTLレベルのシリアル出力をもったモジュールが必要です。そう言うものは例のarduino 等で使うためでしょうか安価に多数登場しています。(→コレとか) かつてのようにMAX-232等を使ってRS-232Cレベルに信号変換する必要も無くなっているのです。 それに、RS-232Cのようなレトロなインターフェースを持ったパソコンなどシーラカンスのようなものでしょう。 なお、TXDとRXDはクロス接続で使用します。
【専用アプリがある】
従来は汎用のアプリを使ってGPSの受信状態を把握していました。 取りあえずそれでも十分役立つのですが、このモジュールには専用のアプリが用意されています。「u-center」というアプリです。
上記リンクで直接ページが開かない場合は:「評価キット・ツール」→「サポート」→「評価ソフト」の順にページを辿るとダウンロードが見つかるでしょう。あるいは、米ダウンロードサイトのURL(←直接リンク)で。
その専用アプリを通して、モジュールの機能を再設定することができます。 例えば、パルス出力は購入初期のデフォルト状態では1pps(=1Hz)ですが、異なった周期に変更することが可能です。 もちろん、このパルス出力はGPSからの1ppsに同期しているので、平均化処理などを行なって電波伝搬に起因する揺らぎの除去を徹底的に行なえばGPS衛星搭載のRb-OSC(ルビジウム原子時計)と同等の周期精度(周波数精度)を得ることも不可能ではありません。このモジュールを活用するGPS周波数基準器の製作については「トランジスタ技術誌2016年2月号」P99〜P125に詳細な記事がありますから参照して下さい。(2016.1.10)
参考・1:NEO-6MとGPS周波数基準器のBlog内関連情報はこちら(←リンク)から。
☆
かつて、ロックウエル製のTU30-D140と言うGPS受信基板が流行ったことがありました。元々が何かの機器からの「外しジャンク品」だったらしく、やがて枯渇とともに忘れ去られました。
このu-blox製NEO-6Mを載せた基板はジャンク品ではありません。 ごく普通に販売されている商品です。 ヤフオク出品物のような価格不定品ではありません。 機能を考えた価格もリーズナブルな範囲と言えます。 活用はユーザにゆだねられてはいますが、面白い応用も可能だと思っています。
参考・2:NEO-6Mでパソコンの時計精度を向上してJT-65でオンエア。(ここ←リンク)
参考・3:このモジュールのバックアップ機能が旨く働かない時は。(ここ←リンク)
何よりも進歩していると感じるのはその「受信感度」でしょう。 最初の写真のように窓際に置いただけで、この画面コピーのように全天の沢山の衛星を簡単に捉えてくれました。ですから連続動作中に衛星をLostする心配もなくなっています。 de JA9TTT/1
(おわり)
2015年10月13日火曜日
【回路】Simple HAM Band Receiver 1968
【簡単なHAMバンド用受信機:1968スタイル】
【1968年式シンプル受信機】
ちょっとネタ切れなので、JARLアマチュア無線ハンドブックの第2版:1970年版から簡単な受信機回路をピックアップして題材にします。1970年版ですが実際には1968年2月の印刷物です。従って1968年式と言った方が適切でしょうか?
この受信機は米国はARRLハンドブックに毎年掲載されていた球数のごく少ないシンプルな受信機をお手本にしたものですが、日本人らしく細部まで高性能化が試みられています。 日本のHAMは大半が高級指向であり、そのニーズに応えたと言えるでしょう。 しかし、そもそもの良さである「シンプルさ」がかなり損なわれたように感じます。本来、たかが5球スーパのごときモノに高級を求めてはいけないのです。(笑)
高性能を目指すのであれば、無理に球数を絞らず高1中2形式に土台を置いた方が総合性能は良くなったのではないでしょうか。製作に要する費用も手間もさして違わないでしょう。それよりも、むしろ複合管の多用は配線が難しくなるだけではないでしょうか。各段を別個の球に分けて最適な配置にした方が製作は容易になるはずです。図の回路は見かけの球数は少なくても製作はかなり難しくなっています。真似て作るならそのあたりを考慮した方が良いでしょう。
☆
1968年と言えば、もうすぐ50年になりますが著作権は残っていますので残念ながら記事の全文は紹介できません。しかし、ざっと説明しますのでわかる人には十分な情報だと思います。
受信周波数帯は3.5MHzと7MHzに絞っています。ダイヤル機構に扇形のダイヤル面を持ったフリクション減速型を用いるからです。この形式のダイヤルはあまり減速比が取れないのでジェネカバのような受信範囲にしてしまうと実用的なHAM用受信機になりません。
既成のコイル・・・例えばトリオのSシリーズコイルなど・・は使わず、エアダックスコイルを使って2バンドカバーにしています。 アンテナ同調回路はボトムカップリングのBPF形式で、イメージ比を良くすることを目的とした回路です。同調バリコンに松下電器産業製(現パナソニック)のECV-2DX18と言う最大容量198pFの2連周波数直線型・・いわゆるF直バリコン・・・を使って短波受信機として最適化してあります。 局発(同調)バリコンとは連動しないので別のツマミでプリセレクタ形式の操作となります。
局発コイルもエアダックスです。周波数のカバー範囲が狭いので小容量の2連VC・・ECV-2RW20を使っています。これは通信機用で容量直線型max17.5pFの2連型です。周波数安定度に影響するためポリバリコンではなくて、エアーバリコンです。 バンド切換えは局発コイルのタップ切換えのみであり、アンテナ同調回路は切り替えません。 バンドを移るにはアンテナ同調のツマミを大きく回す必要があります。
いきなり同調回路の話しに入ってしまいまたが、改めて回路の話しをしましょう。真空管4本を使ったシングルスーパです。中間周波は定番の455kHzです。 この受信機のコンセプトは最少の球数で実用性能を持った受信機を作ることにあったはずです。 整流管は使っていないので球数だけで言えば家庭用スーパと同じです。 しかし、複合管や半導体を積極的に使って8〜9球分の高性能化を図っています。
まずはミキサーと局発です。6GJ7と言うTVのチューナ回路用に開発されたフレーム・グリッドの高性能管を使っています。家庭用スーパでおなじみの6BE6より高いゲインを期待し、S/Nの改善も狙っています。 局発回路はハートレーではなくて、周波数安定度に優れたVackar回路を採用しているのも通信機の拘りでしょう。 ミキサは第1グリッド注入型です。 6GJ7のHigh-gmと相まって、低NFとハイゲインの両立を図っているフロントエンドです。
中間周波増幅(IF-Amp)はセミリモートカットオフ管の6EH7です。これもカラーTV用に開発されたフレーム・グリッドの高性能管です。 ハイゲイン故に自己発振の懸念はありますが、1段増増幅なので何とかなるのでしょう。 IFフィルタにロスが大きめの国際電気のメカフィルを使っているのでゲイン不足の対策として6EH7を採用したものと思います。 なお、検波回路との関係もあってAGCは掛かっていません。カソード抵抗を可変する手動ゲイン調整が付いています。 受信中は手動ゲイン調整を頻繁に操作する必要がある筈です。
検波回路は6BL8の5極管部分を使ったグリッド検波型です。SSB/CWの受信時には同じ6BL8の3極部でBFOを発振させて注入します。 但し、管内容量によるBFO注入のようで意図的な注入はしていません。 ここにゲインのあるグリッド検波を使ったのは、ステージ数が少ないことによるゲイン不足を補うためでしょう。ダイオード検波だとゲインはマイナスになりますが、グリッド検波ならプラスのゲインが稼げます。 BFOは安定度の良いプレート同調型発振回路を採用しています。
低周波増幅は6AB8の3極部と5極部の2段構成です。低周波ゲインのボリウムのあとすぐにダイオードを使ったクリッパ回路が入っているのはAGCが無いための対策です。 プレート電圧が低いこともあって1.4Wとあまりパワーは出ませんが、受信音をスピーカの近傍で聞くHAM局には十分な電力です。入力部のクリッパが無いと突然強い局が出て来たとき耳をつんざく大音響の危険があります。
なお、カソードが共通になっていて使いにくい6AB8を使うメリットは少なさそうに思います。6AW8のような球にした方が良いのではないでしょうか。6AB8の採用はパワートランスのヒータ電流に余裕が無いことによる窮余の策なのかもしれません。
電源回路はシリコンダイオード2個を使った両波整流です。 大食いの低周波出力管をケチったので僅か50mAの容量で間に合わせています。 電源部が小さいと発熱も少なくなるので悪くない手法だと思いますが、外付けのアクセサリ類に供給する余力がないのが気になります。
感度としてS/N=10dBで0dBμ(=1μV)の感度があると言いますので、家庭用の5球スーパとは一線を画す高感度が得られています。 3.5MHzや7MHzと言ったローバンドには十分な受信感度です。 ハイバンドにはクリスタルコンバータ(クリコン)の付加で対応すれば良いでしょう。
非常な拘りを持って設計製作された受信機ですが、やはりAGCが無いのは欠陥だと思います。AGCはぜひとも付加すべきです。そうすればAGC電圧を読む形式で、Sメータも付加することができるので一段と通信型受信機の体裁が整います。AGCの付加は研究課題でしょう。
【コイル】
アンテナコイルにはエアダックスコイル:200509を使用しています。 左図はコイルの仕様です。もし持っていればカットして作ります。 200509は直径20mmで、巻線の線径は0.5mm、巻きピッチ0.9mmです。アンテナコイル(34回巻き)のインダクタンスは10.2μHです。 局発コイルの方は200816を使います。 同じく直径20mm、巻線の線径は0.8mm、巻きピッチは1.6mmです。 局発コイルのインダクタンスは3.5MHzの時(42回)が10μHで7MHz(24回)が5.3μHとなっています。
各エアーダックスコイルの入手はかなり難しいので、今となってはアンテナコイルはトロイダルコアに巻くのが良いでしょう。
局発コイルは周波数安定度が問題になるので良い物を使うべきです。 ボビンに巻線して自作する方法があるので何とかするしかありません。 タイトボビンも入手不可能ではありません。
左図にはないL4ですが、0.1μHのインダクタを使います。この受信機が設計された当時なら、TV用パーツとして市販品がたくさん売られていました。 いまならμ(ミュー)の小さなトロイダルコアに巻くか、空芯コイルを巻けば良いでしょう。同調コイルとの関係で最適値が変わるので2つのコイルがクリチカル・カップリング〜ややアンダーカップリングになるようインダクタンスを調整します。インダクタンスを大きくし過ぎると双峰特性になってしまうので旨くありません。少なければ選択性は良くなりますが通過損失が増えます。
他のコイルですが、受信選択度はメカフィルで決まってしまうので、IFTは何でも良いでしょう。High-C気味のIFTの方が自己発振を回避し易いです。どうしても発振する時は抵抗器をかませてQダンプするしかありません。 BFOコイルはIFTの改造で何とかなりそうです。 アウトプット・トランス、電源トランス、平滑チョークコイルは今でも市販品があるので支障はないでしょう。
【製作へのヒント】
まず、真空管ですが初段の6GJ7に多少問題はありそうです。 他の球は困難なく手に入るでしょう。ソケットを購入するのを忘れずに。全て9ピンのノーバー管用(9Pin−mt管用)です。周波数から見て、ステアタイトの必要は無くベークモールド型でも良いです。
後で触れますがDDS化などで局発は別途用意するつもりなら、初段は6EJ7の採用をお薦めします。 低周波アンプの6AB8は6AW8Aがお奨めです。同等管もたくさん存在します。 検波の6BL8も同等に使える類似管がたくさんあって、6U8系や6GH8系でも良いのであまり支障はないでしょう。IFアンプの6EH7は6BZ6や6GM6などで代替する手があるほか、ポピュラーな6BA6でも極端な違いは無いと思います。電源整流のシリコンDiはあまた存在するのでお好みで。1N4007などが手頃です。
選択度を決めるメカフィルの入手に困る可能性があります。中古のメカフィルは劣化している危険性があります。代替案として、いまならまだ手に入るCollins製にマッチングトランスを付加して使う方法が考えられます。もっと安価に行きたいなら、5素子の世羅多フィルタでも十分良い選択度が得られます。メカフィルにひけを取らないのでお薦めの一案です。IF周波数は455kHzより少し低くなりますが支障はないでしょう。
アンテナバリコンは指定の周波数直線型は入手困難です。 しかし、ここは等容量2連型の(ポリ)バリコンでも何とかなると思うので試してみる価値は十分あります。 局発回路のバリコンは何とか類似の市販品が手に入るようなので頑張って探すしかありません。指定の型番に囚われないで、FMラジオ用の2連バリコンを入手すれば代替できます。最大容量20〜30pFの物が多かったはずです。もちろん、エアーバリコンがベストです。
一番厄介なのはダイヤル機構の部分でしょう。 丸形の大型バーニヤダイヤルを工夫して代替する方法があります。 あとは糸掛けダイヤルくらいしか思いつきません。 ジャンク品やオークションの出物は運が良ければ手に入りますが、確実性が無いのが難点です。 最近見掛ける安易なギヤダイヤルではバックラッシュが多くて使いにくい受信機になってしまいます。
いっそのこと、局発は思い切って近代化を図ってしまってはどうでしょうか? DDSオシレータ+ロータリエンコーダ+デジタル周波数表示にすれば、ダイヤルの読み取り、操作性、周波数安定度のすべてが一挙に解決できます。ミキサー管のグリッドに4Vpp程度の局発を与えれば良いので簡単な回路で行けます。 DDS化はシャシ上の回路レイアウトにも自由度が生まれ製作しやすくなります。 DDSを使ってはいても信号系はすべて球ですかられっきとした真空管受信機です。(笑)
☆ ☆ ☆
FBな市販品が溢れていますし、中古の無線機でさえ紹介した回路よりもずっと高級だったりします。 受信することだけが最終目的なら購入してしまうのが一番手っ取り早いでしょう。 しかし、手作り受信機で自分だけのオリジナルな無線局を構成したいなら再び注目しても良いのかもしれません。 ダイヤルメカなど入手性に問題のある部分は近代的な技術でカバーしてしまえば、メインの部分に真空管を残したまま高性能で実用的な管球式通信型受信機を自作することは十分可能です。 いろいろ構想を膨らませながら昼休みのひと時の息抜きになったなら幸いです。de JA9TTT/1
(おわり)
【1968年式シンプル受信機】
ちょっとネタ切れなので、JARLアマチュア無線ハンドブックの第2版:1970年版から簡単な受信機回路をピックアップして題材にします。1970年版ですが実際には1968年2月の印刷物です。従って1968年式と言った方が適切でしょうか?
この受信機は米国はARRLハンドブックに毎年掲載されていた球数のごく少ないシンプルな受信機をお手本にしたものですが、日本人らしく細部まで高性能化が試みられています。 日本のHAMは大半が高級指向であり、そのニーズに応えたと言えるでしょう。 しかし、そもそもの良さである「シンプルさ」がかなり損なわれたように感じます。本来、たかが5球スーパのごときモノに高級を求めてはいけないのです。(笑)
高性能を目指すのであれば、無理に球数を絞らず高1中2形式に土台を置いた方が総合性能は良くなったのではないでしょうか。製作に要する費用も手間もさして違わないでしょう。それよりも、むしろ複合管の多用は配線が難しくなるだけではないでしょうか。各段を別個の球に分けて最適な配置にした方が製作は容易になるはずです。図の回路は見かけの球数は少なくても製作はかなり難しくなっています。真似て作るならそのあたりを考慮した方が良いでしょう。
☆
1968年と言えば、もうすぐ50年になりますが著作権は残っていますので残念ながら記事の全文は紹介できません。しかし、ざっと説明しますのでわかる人には十分な情報だと思います。
受信周波数帯は3.5MHzと7MHzに絞っています。ダイヤル機構に扇形のダイヤル面を持ったフリクション減速型を用いるからです。この形式のダイヤルはあまり減速比が取れないのでジェネカバのような受信範囲にしてしまうと実用的なHAM用受信機になりません。
既成のコイル・・・例えばトリオのSシリーズコイルなど・・は使わず、エアダックスコイルを使って2バンドカバーにしています。 アンテナ同調回路はボトムカップリングのBPF形式で、イメージ比を良くすることを目的とした回路です。同調バリコンに松下電器産業製(現パナソニック)のECV-2DX18と言う最大容量198pFの2連周波数直線型・・いわゆるF直バリコン・・・を使って短波受信機として最適化してあります。 局発(同調)バリコンとは連動しないので別のツマミでプリセレクタ形式の操作となります。
局発コイルもエアダックスです。周波数のカバー範囲が狭いので小容量の2連VC・・ECV-2RW20を使っています。これは通信機用で容量直線型max17.5pFの2連型です。周波数安定度に影響するためポリバリコンではなくて、エアーバリコンです。 バンド切換えは局発コイルのタップ切換えのみであり、アンテナ同調回路は切り替えません。 バンドを移るにはアンテナ同調のツマミを大きく回す必要があります。
いきなり同調回路の話しに入ってしまいまたが、改めて回路の話しをしましょう。真空管4本を使ったシングルスーパです。中間周波は定番の455kHzです。 この受信機のコンセプトは最少の球数で実用性能を持った受信機を作ることにあったはずです。 整流管は使っていないので球数だけで言えば家庭用スーパと同じです。 しかし、複合管や半導体を積極的に使って8〜9球分の高性能化を図っています。
まずはミキサーと局発です。6GJ7と言うTVのチューナ回路用に開発されたフレーム・グリッドの高性能管を使っています。家庭用スーパでおなじみの6BE6より高いゲインを期待し、S/Nの改善も狙っています。 局発回路はハートレーではなくて、周波数安定度に優れたVackar回路を採用しているのも通信機の拘りでしょう。 ミキサは第1グリッド注入型です。 6GJ7のHigh-gmと相まって、低NFとハイゲインの両立を図っているフロントエンドです。
中間周波増幅(IF-Amp)はセミリモートカットオフ管の6EH7です。これもカラーTV用に開発されたフレーム・グリッドの高性能管です。 ハイゲイン故に自己発振の懸念はありますが、1段増増幅なので何とかなるのでしょう。 IFフィルタにロスが大きめの国際電気のメカフィルを使っているのでゲイン不足の対策として6EH7を採用したものと思います。 なお、検波回路との関係もあってAGCは掛かっていません。カソード抵抗を可変する手動ゲイン調整が付いています。 受信中は手動ゲイン調整を頻繁に操作する必要がある筈です。
検波回路は6BL8の5極管部分を使ったグリッド検波型です。SSB/CWの受信時には同じ6BL8の3極部でBFOを発振させて注入します。 但し、管内容量によるBFO注入のようで意図的な注入はしていません。 ここにゲインのあるグリッド検波を使ったのは、ステージ数が少ないことによるゲイン不足を補うためでしょう。ダイオード検波だとゲインはマイナスになりますが、グリッド検波ならプラスのゲインが稼げます。 BFOは安定度の良いプレート同調型発振回路を採用しています。
低周波増幅は6AB8の3極部と5極部の2段構成です。低周波ゲインのボリウムのあとすぐにダイオードを使ったクリッパ回路が入っているのはAGCが無いための対策です。 プレート電圧が低いこともあって1.4Wとあまりパワーは出ませんが、受信音をスピーカの近傍で聞くHAM局には十分な電力です。入力部のクリッパが無いと突然強い局が出て来たとき耳をつんざく大音響の危険があります。
なお、カソードが共通になっていて使いにくい6AB8を使うメリットは少なさそうに思います。6AW8のような球にした方が良いのではないでしょうか。6AB8の採用はパワートランスのヒータ電流に余裕が無いことによる窮余の策なのかもしれません。
電源回路はシリコンダイオード2個を使った両波整流です。 大食いの低周波出力管をケチったので僅か50mAの容量で間に合わせています。 電源部が小さいと発熱も少なくなるので悪くない手法だと思いますが、外付けのアクセサリ類に供給する余力がないのが気になります。
感度としてS/N=10dBで0dBμ(=1μV)の感度があると言いますので、家庭用の5球スーパとは一線を画す高感度が得られています。 3.5MHzや7MHzと言ったローバンドには十分な受信感度です。 ハイバンドにはクリスタルコンバータ(クリコン)の付加で対応すれば良いでしょう。
非常な拘りを持って設計製作された受信機ですが、やはりAGCが無いのは欠陥だと思います。AGCはぜひとも付加すべきです。そうすればAGC電圧を読む形式で、Sメータも付加することができるので一段と通信型受信機の体裁が整います。AGCの付加は研究課題でしょう。
【コイル】
アンテナコイルにはエアダックスコイル:200509を使用しています。 左図はコイルの仕様です。もし持っていればカットして作ります。 200509は直径20mmで、巻線の線径は0.5mm、巻きピッチ0.9mmです。アンテナコイル(34回巻き)のインダクタンスは10.2μHです。 局発コイルの方は200816を使います。 同じく直径20mm、巻線の線径は0.8mm、巻きピッチは1.6mmです。 局発コイルのインダクタンスは3.5MHzの時(42回)が10μHで7MHz(24回)が5.3μHとなっています。
各エアーダックスコイルの入手はかなり難しいので、今となってはアンテナコイルはトロイダルコアに巻くのが良いでしょう。
局発コイルは周波数安定度が問題になるので良い物を使うべきです。 ボビンに巻線して自作する方法があるので何とかするしかありません。 タイトボビンも入手不可能ではありません。
左図にはないL4ですが、0.1μHのインダクタを使います。この受信機が設計された当時なら、TV用パーツとして市販品がたくさん売られていました。 いまならμ(ミュー)の小さなトロイダルコアに巻くか、空芯コイルを巻けば良いでしょう。同調コイルとの関係で最適値が変わるので2つのコイルがクリチカル・カップリング〜ややアンダーカップリングになるようインダクタンスを調整します。インダクタンスを大きくし過ぎると双峰特性になってしまうので旨くありません。少なければ選択性は良くなりますが通過損失が増えます。
他のコイルですが、受信選択度はメカフィルで決まってしまうので、IFTは何でも良いでしょう。High-C気味のIFTの方が自己発振を回避し易いです。どうしても発振する時は抵抗器をかませてQダンプするしかありません。 BFOコイルはIFTの改造で何とかなりそうです。 アウトプット・トランス、電源トランス、平滑チョークコイルは今でも市販品があるので支障はないでしょう。
【製作へのヒント】
まず、真空管ですが初段の6GJ7に多少問題はありそうです。 他の球は困難なく手に入るでしょう。ソケットを購入するのを忘れずに。全て9ピンのノーバー管用(9Pin−mt管用)です。周波数から見て、ステアタイトの必要は無くベークモールド型でも良いです。
後で触れますがDDS化などで局発は別途用意するつもりなら、初段は6EJ7の採用をお薦めします。 低周波アンプの6AB8は6AW8Aがお奨めです。同等管もたくさん存在します。 検波の6BL8も同等に使える類似管がたくさんあって、6U8系や6GH8系でも良いのであまり支障はないでしょう。IFアンプの6EH7は6BZ6や6GM6などで代替する手があるほか、ポピュラーな6BA6でも極端な違いは無いと思います。電源整流のシリコンDiはあまた存在するのでお好みで。1N4007などが手頃です。
選択度を決めるメカフィルの入手に困る可能性があります。中古のメカフィルは劣化している危険性があります。代替案として、いまならまだ手に入るCollins製にマッチングトランスを付加して使う方法が考えられます。もっと安価に行きたいなら、5素子の世羅多フィルタでも十分良い選択度が得られます。メカフィルにひけを取らないのでお薦めの一案です。IF周波数は455kHzより少し低くなりますが支障はないでしょう。
アンテナバリコンは指定の周波数直線型は入手困難です。 しかし、ここは等容量2連型の(ポリ)バリコンでも何とかなると思うので試してみる価値は十分あります。 局発回路のバリコンは何とか類似の市販品が手に入るようなので頑張って探すしかありません。指定の型番に囚われないで、FMラジオ用の2連バリコンを入手すれば代替できます。最大容量20〜30pFの物が多かったはずです。もちろん、エアーバリコンがベストです。
一番厄介なのはダイヤル機構の部分でしょう。 丸形の大型バーニヤダイヤルを工夫して代替する方法があります。 あとは糸掛けダイヤルくらいしか思いつきません。 ジャンク品やオークションの出物は運が良ければ手に入りますが、確実性が無いのが難点です。 最近見掛ける安易なギヤダイヤルではバックラッシュが多くて使いにくい受信機になってしまいます。
いっそのこと、局発は思い切って近代化を図ってしまってはどうでしょうか? DDSオシレータ+ロータリエンコーダ+デジタル周波数表示にすれば、ダイヤルの読み取り、操作性、周波数安定度のすべてが一挙に解決できます。ミキサー管のグリッドに4Vpp程度の局発を与えれば良いので簡単な回路で行けます。 DDS化はシャシ上の回路レイアウトにも自由度が生まれ製作しやすくなります。 DDSを使ってはいても信号系はすべて球ですかられっきとした真空管受信機です。(笑)
☆ ☆ ☆
FBな市販品が溢れていますし、中古の無線機でさえ紹介した回路よりもずっと高級だったりします。 受信することだけが最終目的なら購入してしまうのが一番手っ取り早いでしょう。 しかし、手作り受信機で自分だけのオリジナルな無線局を構成したいなら再び注目しても良いのかもしれません。 ダイヤルメカなど入手性に問題のある部分は近代的な技術でカバーしてしまえば、メインの部分に真空管を残したまま高性能で実用的な管球式通信型受信機を自作することは十分可能です。 いろいろ構想を膨らませながら昼休みのひと時の息抜きになったなら幸いです。de JA9TTT/1
(おわり)
2015年9月28日月曜日
【測定】Crystal Motional Parameters , Plus
【測定:水晶の等価定数の比較測定】
【周波数シフト法による水晶定数測定】
水晶の等価回路:Lm、Cm、Rmよりなる直列共振器と直列に容量:C1を入れると共振周波数が変化します。各記号の意味などは前回のブログ(←リンク)を参照して下さい。
fo=1/(2*π*√(Lm*Cm))が、
CmがC'=Cm*C1/(Cm+C1)になることから、
fo'=1/(2*π*√(Lm*C'))と変化します。
C1は既知であり、foもfo’も実測で求まるから、Cmが計算できるのです。 Cmの値を算出できたら、さらに直列共振周波数:foから計算することでLmを求めることができます。 なお、実際には電極間容量及び、ホルダ容量も影響しますのでそれらの合計容量である:Chも実測によって求めておきます。
C1が直列になった時の発振周波数をf1とし、C1をショートした時の発振周波数をfoとすれば、Cmは以下の計算式で求めることが出来ます。
Cm=(2*(C1+Ch))*(f1-fo))/fo・・・・・(1)
なお、コンデンサ:C1、Ch、Cmの単位はファラド、周波数:fo、f1の単位はHzです。
また、Lmは、Cmとfoから計算できます。
Lm=1/((2*π*fo)^2*Cm)・・・・・・・(2)
Lmの単位はヘンリです。Cmはファラド、foはHzの単位で計算します。
必要な測定器は周波数カウンタと数pFが精度良く測定できる容量計(Cメータあるいは、LCRメータなど)です。 周波数カウンタも測定値の安定さ・・・すなわち、基準がふらつかなければ十分なので絶対精度はそれほど必要としません。 少しウオームアップしてから使用すれば十分でしょう。 むしろ、1Hzの桁まで読み取れる測定分解能が必須です。 一般的な周波数カウンタであれば殆どのものが条件を満たすでしょう。 従って、ごく普通の周波数カウンタと小容量が測れるCメータがあれば水晶定数を求めることができます。
発振部はオリジナルのG3UURのものと同じです。 続くバッファ・アンプは単なるエミッタフォロワよりも、図の回路の方が良いです。 少々感度の悪い周波数カウンタでも十分な信号を与えることが出来、測定が安定します。 発振用トランジスタ:Q1には2SC2668Yを使いましたが、これは2SC1923Yが同等品です。 2SC945や2SC1815も使用可能です。hFEランクは何でも大丈夫です。 バッファ・アンプのトランジスタ:Q2は2SK544Eを使っています。これは、2SK241Yでも良く2SK439E(ピン配置に注意)でも大丈夫です。 9VのZennerダイオードで電源を安定化していますが、大元の電源に安定化電源を使用すれば省略可能です。 回路図のスイッチ:SW1の部分は、実際にはスイッチではなくジャンパ・ピンの抜き差しで代用します。その方が無用のストレー容量が増えず好ましいからです。(次項以降の写真参照)
【重要:C1の値は実測値を使うこと】
この例では、C1=22pFを使っています。 しかし、Cmの計算式でC1=22pFとすれば、誤差が大きくて旨くありません。
かならず、C1を測定回路に実装した状態で実測しておきます。 数回計測して、平均値を用いています。この例では、C1=25.75pFでした。
もちろん、コンデンサの誤差やブレッドボードの分布容量が効いてくるので、22pFのコンデンサを使ったからと言って同じ値にはならないので、各自が実測しなくてはなりません。 ひいてはCmやLmの精度にも多大な影響があるので入念な測定が求められます。
ここでは、LCRメータ:DE-5000(←参考リンク)と専用の「SMDパーツ用プローブ」を組み合わせて使い、ショート・オープン校正を行なってから測定しています。LCRメータの測定周波数は100kHzを選ぶと分解能が高くなります。
【foの測定】
最初はC1を短絡(ショート)した状態で発振させます。 そのときの周波数をfoとして記録します。
ブレッドボードに作った測定回路は不安定ではないかと懸念するかもしれません。 もちろんこれから長く使おうと思うならプリント基板にハンダ付けで作ることをお奨めします。
その際は、測定するクリスタルを挿入するソケットにはスムースで接触の良い物を使うべきです。 普通のICソケットでは、たくさんの抜き差しには耐えられずヘタってしまうでしょう。 その点、ブレッドボードは抜き差しが容易であり、接触もまずまず安定しているので良いと思います。 実際に作ってみると、発振周波数の不安定も見られないので、心配は要らないと思います。測定再現性もまずまずでした。
なお、このブレッドボードは底面にプリント基板を使ったGND板が貼付けてあります。 GND板は回路のGNDラインと結んであります。このあたりの配慮が安定測定のためのノウハウの一つです。
【f1の測定】
クリスタルにC1が直列に入った時の周波数を測定します。
C1を短絡(ショート)していたピンを抜き去れば良いです。 C1が直列に入ると、発振周波数の上昇が見られるでしょう。
なお、「発振周波数が安定しない」、「予定の周波数から大幅に外れている」、「周波数のふらつきが大きい」などは、測定している水晶発振子の不良が考えられます。 実際に、秋葉原で入手した水晶発振子では発振しない物や、発振はしても数値がばらついて不安定な物が見られました。 そのような水晶発振子は水晶発振器に使えないのはもちろんですが、よりシビアな性能が要求されるフィルタ用にはまったく使い物になりません。×印でも付けて除外しておきましょう。
【12800kHzの測定例:VNAを使ったもの】
比較の基準には、ネットワーク・アナライザ(VNA)を使って測定した水晶定数を使用することにします。
図は、12.8MHz・HC-49/U水晶発振子についてネットワーク・アナライザを使って-3dB法でLm、Cm、Rmを求めた結果です。 以下、いずれの測定でもネットワーク・アナライザを使った測定結果を取りあえずの基準としています。
いずれも平均値ですが、Lm=7.965(mH)、Cm=19.428(fF)です。
【12800kHzの測定例;発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=8.0709(mH)、Cm=19.174(fF)です。
上記のVNAによる測定値を基準とすれば、周波数変化法で求めたLmは+1.33%であり、Cmは-1.31%の違いとなりました。 それぞれの標準偏差を比較しても大きな違いは無いことがわかります。
【9000kHzの測定例(1):VNAを使ったもの】
この水晶発振子は、aitendoで10個150円で売られているものです。形状はHC-49/USです。 期間を置いて20個ずつ過去2回購入しています。 まずは、最近購入した20個についてネットワーク・アナライザで測定した例を示してきます。
いずれも平均値ですが、Lm=39.9492(mH)、Cm=7.8352(fF)でした。
この水晶発振子は、周波数:foのバラツキはまずまず少ないものの、損失抵抗:Rmのバラツキが大きいです。 それに伴い、無負荷Q:Quの値も大きくバラついています。 σが186000もあるのは発振用としても支障がありそうです。実際に、次項のように発振周波数法では発振できないものがありました。 非常に良い水晶も混じっているので、フィルタで使用するにはピックアップすべきです。玉石混淆と言った水晶発振子でした。
【9000kHzの測定例(1);発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は再測定しても同じであったため、25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=40.299(mH)、Cm=7.767(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+0.88%、Cmは-0.87%の違いです。
【9000kHzの測定例(2):VNAを使ったもの】
上記と同じ9MHzの水晶発振子です。 購入したのも同じaitendoで、形状も同じHC-49/USです。 但し、購入時期が異なっており、数ヶ月間を置いています。 数ヶ月では在庫品が回転していない可能性もあるので、個体に刻印されていたロットを示すと思われる記号をしらべてみました。(左欄外に記載) 共通したロット番号もありましたが、異なるものも含まれたので先の20個とは混ぜずに測定してみました。 もちろん大きな差が見られなければフィルタに使う際には混合してしまうつもりです。
いずれも平均値ですが、Lm=40.477(mH)、Cm=7.735(fF)でした。
こちらのグループもRmに大きなバラツキがあり、従って無負荷Q:Quも大きくバラついています。 σでみても163000ですから、上記のグループと似たようなものと言えそうです。 直列共振周波数:foで比較しても平均値では僅か3Hzしか違わないので同じグループとして扱っても支障なさそうです。 いずれにしても、選別して使えば良いフィルタも可能でしょう。
【9000kHzの測定例(2);発振周波数変化法】
同じように、発振周波数変化法で測定してみました。 既に2例を見ているので、同じような結果が得られると推測できますが結果はどうだったでしょうか?
いずれも平均値ですが、Lm=40.930(mH)、Cm=7.651(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+1.12%、Cmは-1.09%の違いです。 予想通り同じような結果になりました。
【測定法による水晶定数の違い】
以上、ネットワーク・アナライザを使って水晶定数を求める方法と、直列容量の有無による発振周波数変化から水晶定数を求める方法の比較を行なってみました。
ネットアナによる方法は、直列共振周波数:foにおいてLmとCmが打ち消し合って、Rmが求められることを原理とします。Rmの値と測定治具における共振特性からLmの値を求めて行く方法です。 一方、後者の直列に容量を付加する方法は、付加した容量による共振周波数の変化からCmの値を求める方法です。 このように測定原理は異なっています。
それぞれの方法で求めてみて、原理の異なる測定法から得られたLmとCmが2%以内の違いで求められることがわかりました。 このことから、簡略な方法でありながら周波数変化法で求めたLmやCmも十分信頼できる精度が得られていると推測できます。 標準偏差の比較でも大きな違いは見られませんでした。
ここには示しませんでしたが、3周波数法や、±45度法など他の方法と比較しても概ね1〜2%程度の違いしかありませんから、いずれの測定法でもまずまずの精度でLmやCmが求まることがわかりました。 これは得られた数値に基づくフィルタ特性のシミュレーションや、製作したフィルタそのものの実測特性からも得られた数値の正しさが実証できていると思います。 わずか2%程度の違いではフィルタ設計の結果に何ら差異は認められません。従って目的に対して十分な測定精度です。
もちろん、直列容量:C1の値を実測から精度良く求めるほか、個々の水晶発振子の並列容量:Chも実測で求めるなど相応の注意は必須です。 それでも自作好きのHAMならたいてい持っていそうな測定器・・・周波数カウンタとCメータだけでLmやCmが良い精度で求められることは嬉しい結果でしょう。
☆ ☆ ☆
【おまけ:G3UUR法によるRmの測定】
上記の比較検討は既に紹介したARRLの出版物:「QRP POWER」(←参考リンク)に囲み記事があった「G3UURによる水晶定数の求め方」に基づいています。 十分良い精度でモーショナル・インダクタンス:Lm、及びモーショナル・キャパシタンス:Cmが求められることがわかりました。
しかし、残念ながら動的な損失抵抗;Rmを求めることが出来ませんでした。そのため、無負荷Q:Quの値も計算できません。Dishalに基づく簡易フィルタ設計ソフト(←参考リンク)を使う上ではRmの値は必要としませんが、RmやQuは水晶の良し悪しに関わるので気になる人も多いでしょう。 ちなみに、Rmがわかれば、無負荷QはQu=ωo*Lm/Rmで計算することが出来ます。(ωo=2*π*foなのは言うまでもないでしょう)
Rmが求められない不都合に対応する解決法を見掛けたので要約して説明しておきます。 これはG3UUR自身の記事であり、QRP-ARCI(QRP Amateur Radio Club International)の季刊誌、The QRP Quarterlyの2010年10月号に掲載されたものです。 なお、図の回路で発振とバッファ・アンプに使うトランジスタはオリジナルではBC108あるいはBC182となっています。いずれもfT=200MHzくらいの小信号用汎用品なので、2N3904や2SC1815のような代替品で大丈夫です。ダイオードD1とD2は筆者はOA47と言うMullard製のゲルダイを使っていますが、代替として1N60や1K60などのゲルマニウム点接触型を使えば良いでしょう。 またVR2は無くても良さそうです。コンデンサの単位;1nFと言うのは1000pF(=0.001μF)のことです。
以下、G3UURの発振回路でRmを求める手順を箇条書きに纏めてみました。 測定は1個の水晶発振子ではなく、複数個のグループについて行なうことを前提としています。
(1)準備:
検波ダイオードの先にあるMとGと言う端子間にデジタル・マルチ・メータ:DMMを接続して電圧が読めるようにしておく。また、O/P端子とGの間に周波数カウンタを接続する。
(2)foとVoscの測定:
水晶発振子を挿入する。スイッチS1とS2を閉じて発振周波数:foの測定を行なう。 そのときに、foと共にDMMに表示される電圧Vosc;(発振電圧の相対値)を記録しておく。Voscの測定で周波数カウンタ接続の影響が見られるなら一時的に接続を外すこと。
(3)f1の測定:
スイッチS1を開き、S2を閉じたままで発振周波数:f1を測定する。
測定したfo、f1からLmとCmを算出しておく。(これは、上で行なった方法と同じ)
(4)水晶ペアの作成:
測定した水晶発振子のグループから、DMMで読み取った発振電圧:Voscが近くて(5%以内)、なおかつ周波数;foがなるべく近い(100Hz以内)ものを2つ選ぶ。 もしもそのグループ内でDMMで読み取った電圧:Voscが大きくばらついているようなら、Vosc電圧が大きいもの2個のペアと、小さいもの2個のペアの2種類を作るのが良い。
(5)測定:
作ったをペアをハンダ付けして並列にしたものを発振回路に入れる。スイッチ1、2ともに閉じた状態でDMMの電圧;Voscを読み取る。
水晶が単独だった時よりもDMMの電圧;Voscは大きくなるでしょう。
(6)発振電圧の調整;
S2を開いて、VR1=100Ωを加減して水晶発振子が単独だった時の発振電圧:Voscと同じになるように調整する。 ペアにした2個で個々のVosc電圧が異なるなら平均値を用いる。
(7)Rxの測定:
水晶発振子を取り除いてから、TP1とTP2の間にDMMを抵抗計に切り替えて接続し、R1(100Ωの可変抵抗器)の抵抗値;Rxを読み取る。
その抵抗値:Rxの2倍がRmの値です。(ペアにした2個のRmの平均値)
発振電圧が大きいペアと、小さいペアの2種類について上記の測定を行なえば、そのロットのRmについて、大きなものと小さながわかることになります。他はその間にあるでしょう。 全体の平均値はその中間あたりでしょうか? 誤差±10%くらいの測定精度があるそうですが、これは十分設計に役立つデータになります。
☆上記の方法以外にも、例えばARRL発行のハンドブック:2010年版 ARRL Handbook のCrystal Filter section (11.6)にも簡易ながらもう少し良い精度で求める方法が掲載されています。上記とはまた異なった方法で面白いです。お持ちなら参照を。 以上、【おまけ】の項は資料に基づいた解説です。理屈の上では旨く行きそうに思いますが、やってみたわけではありませんからあとは各自で実験して下さい。
☆ ☆ ☆
【エピローグ】
誰しも良い測定器や良い環境があればと望むものです。 もちろん、それが可能ならベストに違いありませんが、時として本末転倒になってしまうことがあります。 FBなメーカー製Rigが何台も買えるほど投資した挙げ句、出来上がったモノと言えばまったくの初心者レベルだった・・・では笑話しにしかならないでしょう。 ならばなるべく少ない出費で楽しむのが賢明と言うものです。それに何でも高級な方法が格段に優れるわけでもありません。(以上、自戒を込めて・笑)
しかし、簡単な方法には不安があるのも常です。何となく高級な道具を使った方が良さげに見えるものです。 だから誰かが比較して有効性の検証をしておけば簡単な方法も安心できるでしょう。これで簡易な方法も自信を持ってお奨めできると思います。de JA9TTT/1
(おわり)
追記:
比較用にデータ付きクリスタルを無償頒布する・・・と言う話しは一旦ペンディングにさせてもらいます。周波数変化法で良い精度の測定ができることがわかったので、比較用のクリスタルは必要ないでしょう。それに希望されるお方も少ないようです。(2015.09.28)
【周波数シフト法による水晶定数測定】
水晶の等価回路:Lm、Cm、Rmよりなる直列共振器と直列に容量:C1を入れると共振周波数が変化します。各記号の意味などは前回のブログ(←リンク)を参照して下さい。
fo=1/(2*π*√(Lm*Cm))が、
CmがC'=Cm*C1/(Cm+C1)になることから、
fo'=1/(2*π*√(Lm*C'))と変化します。
C1は既知であり、foもfo’も実測で求まるから、Cmが計算できるのです。 Cmの値を算出できたら、さらに直列共振周波数:foから計算することでLmを求めることができます。 なお、実際には電極間容量及び、ホルダ容量も影響しますのでそれらの合計容量である:Chも実測によって求めておきます。
C1が直列になった時の発振周波数をf1とし、C1をショートした時の発振周波数をfoとすれば、Cmは以下の計算式で求めることが出来ます。
Cm=(2*(C1+Ch))*(f1-fo))/fo・・・・・(1)
なお、コンデンサ:C1、Ch、Cmの単位はファラド、周波数:fo、f1の単位はHzです。
また、Lmは、Cmとfoから計算できます。
Lm=1/((2*π*fo)^2*Cm)・・・・・・・(2)
Lmの単位はヘンリです。Cmはファラド、foはHzの単位で計算します。
必要な測定器は周波数カウンタと数pFが精度良く測定できる容量計(Cメータあるいは、LCRメータなど)です。 周波数カウンタも測定値の安定さ・・・すなわち、基準がふらつかなければ十分なので絶対精度はそれほど必要としません。 少しウオームアップしてから使用すれば十分でしょう。 むしろ、1Hzの桁まで読み取れる測定分解能が必須です。 一般的な周波数カウンタであれば殆どのものが条件を満たすでしょう。 従って、ごく普通の周波数カウンタと小容量が測れるCメータがあれば水晶定数を求めることができます。
発振部はオリジナルのG3UURのものと同じです。 続くバッファ・アンプは単なるエミッタフォロワよりも、図の回路の方が良いです。 少々感度の悪い周波数カウンタでも十分な信号を与えることが出来、測定が安定します。 発振用トランジスタ:Q1には2SC2668Yを使いましたが、これは2SC1923Yが同等品です。 2SC945や2SC1815も使用可能です。hFEランクは何でも大丈夫です。 バッファ・アンプのトランジスタ:Q2は2SK544Eを使っています。これは、2SK241Yでも良く2SK439E(ピン配置に注意)でも大丈夫です。 9VのZennerダイオードで電源を安定化していますが、大元の電源に安定化電源を使用すれば省略可能です。 回路図のスイッチ:SW1の部分は、実際にはスイッチではなくジャンパ・ピンの抜き差しで代用します。その方が無用のストレー容量が増えず好ましいからです。(次項以降の写真参照)
【重要:C1の値は実測値を使うこと】
この例では、C1=22pFを使っています。 しかし、Cmの計算式でC1=22pFとすれば、誤差が大きくて旨くありません。
かならず、C1を測定回路に実装した状態で実測しておきます。 数回計測して、平均値を用いています。この例では、C1=25.75pFでした。
もちろん、コンデンサの誤差やブレッドボードの分布容量が効いてくるので、22pFのコンデンサを使ったからと言って同じ値にはならないので、各自が実測しなくてはなりません。 ひいてはCmやLmの精度にも多大な影響があるので入念な測定が求められます。
ここでは、LCRメータ:DE-5000(←参考リンク)と専用の「SMDパーツ用プローブ」を組み合わせて使い、ショート・オープン校正を行なってから測定しています。LCRメータの測定周波数は100kHzを選ぶと分解能が高くなります。
【foの測定】
最初はC1を短絡(ショート)した状態で発振させます。 そのときの周波数をfoとして記録します。
ブレッドボードに作った測定回路は不安定ではないかと懸念するかもしれません。 もちろんこれから長く使おうと思うならプリント基板にハンダ付けで作ることをお奨めします。
その際は、測定するクリスタルを挿入するソケットにはスムースで接触の良い物を使うべきです。 普通のICソケットでは、たくさんの抜き差しには耐えられずヘタってしまうでしょう。 その点、ブレッドボードは抜き差しが容易であり、接触もまずまず安定しているので良いと思います。 実際に作ってみると、発振周波数の不安定も見られないので、心配は要らないと思います。測定再現性もまずまずでした。
なお、このブレッドボードは底面にプリント基板を使ったGND板が貼付けてあります。 GND板は回路のGNDラインと結んであります。このあたりの配慮が安定測定のためのノウハウの一つです。
【f1の測定】
クリスタルにC1が直列に入った時の周波数を測定します。
C1を短絡(ショート)していたピンを抜き去れば良いです。 C1が直列に入ると、発振周波数の上昇が見られるでしょう。
なお、「発振周波数が安定しない」、「予定の周波数から大幅に外れている」、「周波数のふらつきが大きい」などは、測定している水晶発振子の不良が考えられます。 実際に、秋葉原で入手した水晶発振子では発振しない物や、発振はしても数値がばらついて不安定な物が見られました。 そのような水晶発振子は水晶発振器に使えないのはもちろんですが、よりシビアな性能が要求されるフィルタ用にはまったく使い物になりません。×印でも付けて除外しておきましょう。
【12800kHzの測定例:VNAを使ったもの】
比較の基準には、ネットワーク・アナライザ(VNA)を使って測定した水晶定数を使用することにします。
図は、12.8MHz・HC-49/U水晶発振子についてネットワーク・アナライザを使って-3dB法でLm、Cm、Rmを求めた結果です。 以下、いずれの測定でもネットワーク・アナライザを使った測定結果を取りあえずの基準としています。
いずれも平均値ですが、Lm=7.965(mH)、Cm=19.428(fF)です。
【12800kHzの測定例;発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=8.0709(mH)、Cm=19.174(fF)です。
上記のVNAによる測定値を基準とすれば、周波数変化法で求めたLmは+1.33%であり、Cmは-1.31%の違いとなりました。 それぞれの標準偏差を比較しても大きな違いは無いことがわかります。
【9000kHzの測定例(1):VNAを使ったもの】
この水晶発振子は、aitendoで10個150円で売られているものです。形状はHC-49/USです。 期間を置いて20個ずつ過去2回購入しています。 まずは、最近購入した20個についてネットワーク・アナライザで測定した例を示してきます。
いずれも平均値ですが、Lm=39.9492(mH)、Cm=7.8352(fF)でした。
この水晶発振子は、周波数:foのバラツキはまずまず少ないものの、損失抵抗:Rmのバラツキが大きいです。 それに伴い、無負荷Q:Quの値も大きくバラついています。 σが186000もあるのは発振用としても支障がありそうです。実際に、次項のように発振周波数法では発振できないものがありました。 非常に良い水晶も混じっているので、フィルタで使用するにはピックアップすべきです。玉石混淆と言った水晶発振子でした。
【9000kHzの測定例(1);発振周波数変化法】
上記と同じ水晶発振子を、発振周波数変化法で測定してみました。 直列容量C1は再測定しても同じであったため、25.75pFで計算しています。
実測から計算された平均値は:Lm=40.299(mH)、Cm=7.767(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+0.88%、Cmは-0.87%の違いです。
【9000kHzの測定例(2):VNAを使ったもの】
上記と同じ9MHzの水晶発振子です。 購入したのも同じaitendoで、形状も同じHC-49/USです。 但し、購入時期が異なっており、数ヶ月間を置いています。 数ヶ月では在庫品が回転していない可能性もあるので、個体に刻印されていたロットを示すと思われる記号をしらべてみました。(左欄外に記載) 共通したロット番号もありましたが、異なるものも含まれたので先の20個とは混ぜずに測定してみました。 もちろん大きな差が見られなければフィルタに使う際には混合してしまうつもりです。
いずれも平均値ですが、Lm=40.477(mH)、Cm=7.735(fF)でした。
こちらのグループもRmに大きなバラツキがあり、従って無負荷Q:Quも大きくバラついています。 σでみても163000ですから、上記のグループと似たようなものと言えそうです。 直列共振周波数:foで比較しても平均値では僅か3Hzしか違わないので同じグループとして扱っても支障なさそうです。 いずれにしても、選別して使えば良いフィルタも可能でしょう。
【9000kHzの測定例(2);発振周波数変化法】
同じように、発振周波数変化法で測定してみました。 既に2例を見ているので、同じような結果が得られると推測できますが結果はどうだったでしょうか?
いずれも平均値ですが、Lm=40.930(mH)、Cm=7.651(fF)でした。
同様にVNAによる測定結果を基準とすれば、発振周波数変化法によって求めた、Lmは+1.12%、Cmは-1.09%の違いです。 予想通り同じような結果になりました。
【測定法による水晶定数の違い】
以上、ネットワーク・アナライザを使って水晶定数を求める方法と、直列容量の有無による発振周波数変化から水晶定数を求める方法の比較を行なってみました。
ネットアナによる方法は、直列共振周波数:foにおいてLmとCmが打ち消し合って、Rmが求められることを原理とします。Rmの値と測定治具における共振特性からLmの値を求めて行く方法です。 一方、後者の直列に容量を付加する方法は、付加した容量による共振周波数の変化からCmの値を求める方法です。 このように測定原理は異なっています。
それぞれの方法で求めてみて、原理の異なる測定法から得られたLmとCmが2%以内の違いで求められることがわかりました。 このことから、簡略な方法でありながら周波数変化法で求めたLmやCmも十分信頼できる精度が得られていると推測できます。 標準偏差の比較でも大きな違いは見られませんでした。
ここには示しませんでしたが、3周波数法や、±45度法など他の方法と比較しても概ね1〜2%程度の違いしかありませんから、いずれの測定法でもまずまずの精度でLmやCmが求まることがわかりました。 これは得られた数値に基づくフィルタ特性のシミュレーションや、製作したフィルタそのものの実測特性からも得られた数値の正しさが実証できていると思います。 わずか2%程度の違いではフィルタ設計の結果に何ら差異は認められません。従って目的に対して十分な測定精度です。
もちろん、直列容量:C1の値を実測から精度良く求めるほか、個々の水晶発振子の並列容量:Chも実測で求めるなど相応の注意は必須です。 それでも自作好きのHAMならたいてい持っていそうな測定器・・・周波数カウンタとCメータだけでLmやCmが良い精度で求められることは嬉しい結果でしょう。
☆ ☆ ☆
【おまけ:G3UUR法によるRmの測定】
上記の比較検討は既に紹介したARRLの出版物:「QRP POWER」(←参考リンク)に囲み記事があった「G3UURによる水晶定数の求め方」に基づいています。 十分良い精度でモーショナル・インダクタンス:Lm、及びモーショナル・キャパシタンス:Cmが求められることがわかりました。
しかし、残念ながら動的な損失抵抗;Rmを求めることが出来ませんでした。そのため、無負荷Q:Quの値も計算できません。Dishalに基づく簡易フィルタ設計ソフト(←参考リンク)を使う上ではRmの値は必要としませんが、RmやQuは水晶の良し悪しに関わるので気になる人も多いでしょう。 ちなみに、Rmがわかれば、無負荷QはQu=ωo*Lm/Rmで計算することが出来ます。(ωo=2*π*foなのは言うまでもないでしょう)
Rmが求められない不都合に対応する解決法を見掛けたので要約して説明しておきます。 これはG3UUR自身の記事であり、QRP-ARCI(QRP Amateur Radio Club International)の季刊誌、The QRP Quarterlyの2010年10月号に掲載されたものです。 なお、図の回路で発振とバッファ・アンプに使うトランジスタはオリジナルではBC108あるいはBC182となっています。いずれもfT=200MHzくらいの小信号用汎用品なので、2N3904や2SC1815のような代替品で大丈夫です。ダイオードD1とD2は筆者はOA47と言うMullard製のゲルダイを使っていますが、代替として1N60や1K60などのゲルマニウム点接触型を使えば良いでしょう。 またVR2は無くても良さそうです。コンデンサの単位;1nFと言うのは1000pF(=0.001μF)のことです。
以下、G3UURの発振回路でRmを求める手順を箇条書きに纏めてみました。 測定は1個の水晶発振子ではなく、複数個のグループについて行なうことを前提としています。
(1)準備:
検波ダイオードの先にあるMとGと言う端子間にデジタル・マルチ・メータ:DMMを接続して電圧が読めるようにしておく。また、O/P端子とGの間に周波数カウンタを接続する。
(2)foとVoscの測定:
水晶発振子を挿入する。スイッチS1とS2を閉じて発振周波数:foの測定を行なう。 そのときに、foと共にDMMに表示される電圧Vosc;(発振電圧の相対値)を記録しておく。Voscの測定で周波数カウンタ接続の影響が見られるなら一時的に接続を外すこと。
(3)f1の測定:
スイッチS1を開き、S2を閉じたままで発振周波数:f1を測定する。
測定したfo、f1からLmとCmを算出しておく。(これは、上で行なった方法と同じ)
(4)水晶ペアの作成:
測定した水晶発振子のグループから、DMMで読み取った発振電圧:Voscが近くて(5%以内)、なおかつ周波数;foがなるべく近い(100Hz以内)ものを2つ選ぶ。 もしもそのグループ内でDMMで読み取った電圧:Voscが大きくばらついているようなら、Vosc電圧が大きいもの2個のペアと、小さいもの2個のペアの2種類を作るのが良い。
(5)測定:
作ったをペアをハンダ付けして並列にしたものを発振回路に入れる。スイッチ1、2ともに閉じた状態でDMMの電圧;Voscを読み取る。
水晶が単独だった時よりもDMMの電圧;Voscは大きくなるでしょう。
(6)発振電圧の調整;
S2を開いて、VR1=100Ωを加減して水晶発振子が単独だった時の発振電圧:Voscと同じになるように調整する。 ペアにした2個で個々のVosc電圧が異なるなら平均値を用いる。
(7)Rxの測定:
水晶発振子を取り除いてから、TP1とTP2の間にDMMを抵抗計に切り替えて接続し、R1(100Ωの可変抵抗器)の抵抗値;Rxを読み取る。
その抵抗値:Rxの2倍がRmの値です。(ペアにした2個のRmの平均値)
発振電圧が大きいペアと、小さいペアの2種類について上記の測定を行なえば、そのロットのRmについて、大きなものと小さながわかることになります。他はその間にあるでしょう。 全体の平均値はその中間あたりでしょうか? 誤差±10%くらいの測定精度があるそうですが、これは十分設計に役立つデータになります。
☆上記の方法以外にも、例えばARRL発行のハンドブック:2010年版 ARRL Handbook のCrystal Filter section (11.6)にも簡易ながらもう少し良い精度で求める方法が掲載されています。上記とはまた異なった方法で面白いです。お持ちなら参照を。 以上、【おまけ】の項は資料に基づいた解説です。理屈の上では旨く行きそうに思いますが、やってみたわけではありませんからあとは各自で実験して下さい。
☆ ☆ ☆
【エピローグ】
誰しも良い測定器や良い環境があればと望むものです。 もちろん、それが可能ならベストに違いありませんが、時として本末転倒になってしまうことがあります。 FBなメーカー製Rigが何台も買えるほど投資した挙げ句、出来上がったモノと言えばまったくの初心者レベルだった・・・では笑話しにしかならないでしょう。 ならばなるべく少ない出費で楽しむのが賢明と言うものです。それに何でも高級な方法が格段に優れるわけでもありません。(以上、自戒を込めて・笑)
しかし、簡単な方法には不安があるのも常です。何となく高級な道具を使った方が良さげに見えるものです。 だから誰かが比較して有効性の検証をしておけば簡単な方法も安心できるでしょう。これで簡易な方法も自信を持ってお奨めできると思います。de JA9TTT/1
(おわり)
追記:
比較用にデータ付きクリスタルを無償頒布する・・・と言う話しは一旦ペンディングにさせてもらいます。周波数変化法で良い精度の測定ができることがわかったので、比較用のクリスタルは必要ないでしょう。それに希望されるお方も少ないようです。(2015.09.28)
2015年9月13日日曜日
【部品】Crystal Motional Parameters
【部品:水晶の等価定数と評価】
「はじめに水晶定数ありき」です。新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計(←リンク)には水晶の等価定数を知る必要があります。そして設計ソフトに与える定数の精度でフィルタ設計が決まってしまいます。 水晶振動子(発振子、共振子)は水晶板の機械振動ですが、外部から電気的な特性を眺めるとLC共振器と等価な「回路」として見ることができます。
等価回路は、LCRが直列になった「直列共振回路」とそれに並列に容量Chが入った回路としてみることができます。 LCRが直列になった部分が水晶板が機械振動しているそのものであり、このLCRをモーショナル(動的)定数と言います。 それぞれ添字を付けて、Lm、Cm、Rmと言います。並列に入ったコンデンサは、主に水晶板を挟む電極板によるキャパシタンスと、水晶板を保持し保護するための外周器によるストレー容量です。ホルダー(容器:Holder)容量の意味で、添字としてhを付けてChと呼ばれることが多いようです。或はパラレルの意味で、Cpとする例も良く見掛けます。
このBlogの読者であればラダー型クリスタル・フィルタの話しの中で、何度となく登場している記号なので周知のことと思います。纏める意味であらためて書いておきました。 常識はずれの添字を付けてしまうと話しが混乱し易くなるので、なるべく従った方が良いと思っています。
参考:International Electrotechnical Commission Standard : IEC STDによれば、水晶振動子の等価モーショナル定数はC1、L1、R1とし、並列容量をC0としています。また、直列共振周波数(resonance frequency)をfr、並列共振周波数を反共振周波数(anti-resonance)と呼びfaで示すのを標準としています。学会の論文など執筆のお方はこれに従うのが良いでしょう。このBlogも従った方が良いのかもしれませんが、過去のBlog全部の書き換えは容易でないのでそのままで行くことにします。w
☆
以下は自家用メモとして纏めておいたものです。 多少は参考になる可能性もありますが、個々の数値そのものはあまり役には立たないと思ってもらった方が良いでしょう。あえて役立つとすれば、一般に手に入る可能性がある水晶の良し悪しが統計的に判断できることくらいでしょう。 もしも、この先もご覧ならそのような意味で眺めて頂ければと思います。
(参考)だれでも「標準水晶」のような「水晶定数がわかっている物」が容易に手に入れば良いのですが難しいでしょう。そう言う物があれば、自身の測定の確かさの検証がきるのですが・・・。 もし私の測定結果で良ければ「チェック用の水晶」として・・・もちろん基準などと言うつもりはなくて単なる目安ですが・・・頒布(無償)も考えています。 ご興味の有無でもコメントしてもらえたらと思っています。
【aitendoの15円水晶:8MHz】
秋葉原のaitendoで現在でも販売されている8MHzの水晶発振子です。 通販でも買い求めることが出来ます。 10個単位で売られており、2015年7月ころ150円で購入して来たものです。 2袋購入し、20個について水晶定数を求めました。 安物水晶の典型と言えそうですが、お手軽なのは有難いです。
【aitendo 8MHz水晶の特性一覧】
直列共振周波数:foのバラツキは標準偏差でみて、75Hzほどでした。 悪くない数字だと思います。
無負荷Qの価;Quを水晶振動子の良さと考えると、平均で128,000くらいあるので、悪くない数字でしょう。 但し、Quのバラツキはかなり大きいようです。 標準偏差で24,000もあるので、Quが低い物をフィルタに使うと思うような特性が出ないかもしれません。 従って、良いラダー型フィルタを作るためには、必ず実測してQuの小さい物を除く必要があるでしょう。 そのほか、ロットの混合が原因と見られるLmのばらつきも見られるので、Lmをなるべく揃えると言った選別も行なうべきです。 それでも、20個も購入すれば、特性良好なSSB用フィルタが作れるのは間違いないようでした。
【NDK製NTSCクロマ発振用;3579.545kHz】
HC-6/Uと同じサイズで溶接で組立られたタイプです。HC-48/Uと言う形状です。 リード線は細くて長いハンダ付けタイプです。 3579.545kHzと言うのは、TV受像機がアナログだった時代のカラー復調用サブキャリヤの周波数です。
NTSC方式なら、どんなカラーTVにも必ず一つは入っていたものでした。同様にVHSやβマックス方式のVTRでも使われていました。(4倍の14.318MHzを使う例も多いようです)
この水晶発振子はずいぶん前にIさんに頂いた物だったと思います。 大きくて使いにくいのでやや持て余し気味でしたが、実測してみたらなかなか良い物でした。 Quが大きいのです。
【NDK 3549.545kHz水晶の特性一覧】
他に使った記憶は無いので、全部で14個頂いたようです。 但し、測定していて2個は不良品でした。 1個は電極間の絶縁抵抗が低下しています。 もう1個は水晶板がケースに接触しているらしく機械的損失:Rmが異常に大きいのです。 そのため、これらの2個は除外して表に纏めておきました。
この水晶発振子の特徴は無負荷Q:Quが高いことにあります。 平均で20万を超えていて、低いものを除去すれば平均25万くらいになるので、かなり良い特性のフィルタが作れます。但しSSB用のような帯域幅の広いフィルタでは、中心周波数から見た上下の非対称性が目立つため不向きではないかと思われます。対策としてfpを移動させる方法で対称化を図る方法もありそうです。 CW用の狭帯域フィルタには最適です。高いQuを必要とする100〜250Hz幅くらいのTransitional gaussian to 6dB型で設計してみたいと思っています。良い音のCW受信機が作れるでしょう。
【Toyocom製ボーレート用:11059.2kHz】
ボーレート・ジェネレータ用のクリスタルでしょう。コンピュータ時代らしい周波数の水晶発振子です。 同一ロットで無開封の袋入りが非常に安価に売られていたので纏めて購入した記憶があります。
日本のメーカー名が入っているので、そこそこ良好ではないかと思って購入した覚えがあります。 たしかに、中華クリスタルのように100個に3個も不良が混じっていると言うようなことはありませんでした。
【Toyocom 11059.2kHz水晶の特性一覧】
流石に日本メーカの水晶発振子と言いたい所ですが、直列共振周波数のバラツキは思ったよりも大きかったです。 8MHzの水晶よりもバラツキの絶対値は大きくなるのは当然ですが、それを考慮しても大きいようです。
ただ、無負荷Q:Quの価はバラツキが少なかったです。 残念なのは、そのQuの平均値が小さいことにあります。 平均で10万少々と言うのは、発振用には支障ありませんがフィルタ用としては少々物足りないのです。 無損失の水晶振動子を前提としたDishal準拠の簡易設計ソフトでは現実との乖離が大ききくなる傾向がありそうです。 なるべく、Quが大きいものを選別して使用すると幾らかでも有利でしょう。
【NDK製時計用水晶:4194.304kHz】
HC-49/U型のこの水晶発振子は2^22Hzの水晶です。22段のバイナリ・カウンタ(2進カウンタ)で分周すれば1Hzが得られるので、おそらく置き時計などの用途に使っていたものと思います。
周波数はやや低めですが、SSB用フィルタは十分可能です。 まだ評価の途中なのですが、無負荷Q:Quは20万近くありそうなので有望だと思います。 HC-49/USよりも水晶板が大きいのも有利な筈で、あとはバラツキが少なければフィルタ用として最適でしょう。 以前はたくさん流通していたので持っている人は多いと思いますが?
一例であるが:
fo=4193.174kHz
Rm=16.7Ω
Lm=125.5mH
Cm=11.48fF
Qu=198,000
【朝日電波製12.8MHz:その1】
12.8MHz=2^7×100kHzの汎用水晶発振子と思います。 最近はより小型の20MHzあたりが標準的な汎用水晶発振子のようですが、以前は12.8MHzでした。
そのまま発振回路に使われるケースが殆どだと思いますが、TCXOに組み込まれたものもあるでしょう。但し、TCXO用と一般発振用は温度特性の決め方には違いがあります。 この水晶発振子がどちらなのかはわかりません。 次項の12.8MHzの方を先に評価したので、こちらは後回しになっています。一応、概略の価を書いておくに留めます。 形状はHC-49/Uを一回り小さくしたものです。
fo=12.797744MHz
Rm=12.2Ω
Lm=19.4mH
Cm=7.97fF
Qu=128,000
なお、念のために書いておきますがfFというのは、フェムト・ファラドのことです。 フェムトとは10^-15で、1ピコ(p)は1^-12であるから、1fFは0.001pFのことです。 mHは1/1000ヘンリーなのは言うまでもないでしょう。Quは単位無しの無名数です。
【朝日電波製12.8MHz:その2】
同じ12.8MHzの汎用水晶発振子ですが、ユーザー名が印刷された専用品です。 形状はHC-49/Uのようですが、何となくケースに厚みがあるように感じます。すこし違うのかもしれません。
数年前ですが、オークションに大量に登場したことがあって、数名のお方と一緒に分けて頂いたことがありました。その後もオークションに登場しているそうで、これは別途落札したものだそうです。 前から有った手持ちと比較したら、ロット番号が違っているようでした。 その他は同じようです。 ICOMと書いてありますが、無線機でおなじみのICOMなのかどうかは不明です。どんな場所に使っていたのでしょう? また、なぜ大量にオークションに登場するのでしょうか? 朝日電波と言う会社は既に存在しない(?)ようなので、整理されたとき流出したのだろうか?
【ASAHI 12.8MHz水晶の特性一覧】
偶々なのかもしれませんが、無負荷Q:Quが高くて、周波数:foのバラツキも小さいのが特徴です。 Quは平均で15万を超えます。標準偏差も1万以下なので良く揃っていると思って良いでしょう。 もちろん、選別すれば安心です。 次項に示した表は選別の一例を示しています。
【ASAHI 12.8MHz水晶の選別例】
8素子のラダー型フィルタを目的に選別してみました。 まずは、Quの大きさで並び替えを行ないます。 その後、周波数順に並び替えを行なったあとで、周波数差が一番小さい8個の組を選んでいます。 このように並べ替えた物を使って設計することになります。
これらの一覧表はMS-Excelで作成しているので並べ替えはお手のものです。 もちろん、水晶定数も必要項目だけをインプットすればあとは自動的に求まります。平均値や標準偏差の計算も同様です。ラダー型フィルタの製作では水晶定数をたくさん計算しなくてはならないので、いちいち電卓をたたいていたのでは日が暮れてしまうでしょう。(笑)
Dishal準拠の簡易設計ソフトには平均値を入れてやれば良いです。 この水晶はQuが大きいので肩部分のダレも少なくて良いフィルタになるでしょう。 どんな物が作れるのか、気になるお方は表の数値を設計ソフトにインプットして遊んでみてはいかがですか?
【水晶定数の測定について】
水晶定数の測定は幾つかの方法で試しています。 結論から言うと、どの方法で測定しても大差はないようでした。 写真では、ネットアナを使っている様子です。 おなじネットアナを使う方法でも、-3dB法と±45度法があります。スペアナ+TGでやるなら-3dB法と言うことになるでしょう。
さらに、まったく別の方法として発振させ直列容量の有無による周波数シフト量から求める方法もあります。 まだ他にも方法があって、同じ水晶発振子についてそれぞれに基づき測定し計算してみました。 その結果、測定方法の間でせいぜい1〜2%くらいの違いしか見られずかなり良く一致しました。
そのような結果から、特別高級な測定器を用いなくても十分良い精度で水晶定数が得られることが確認できました。 従って、もっとも手軽な発振周波数のシフト量を測定する方法・・・G3UURの方法・・・がアマチュア向きでしょう。 安価な手段で実現できなくてはフィルタを製作する意味も薄れるので、これはたいへん良い結果です。
注意すべきは、直列に挿入する容量値を発振回路に実装した状態で実測から求め、その数字に基づいて計算することです。例えば30pFのコンデンサを使ったからと言って、30pFで計算するのではなく回路に入れた状態で実測した数値を使用します。測定にはLCRメータDE-5000(←リンク)とSMD部品用測定プローブを使うと容易でした。
それさえ行なえば良い精度で水晶定数の算出ができるでしょう。 周波数シフト法ではRmが求められませんが、Dishal準拠の簡易設計ソフトを使った設計ではRmの数値は必要としないので殆どの製作者にとって欠点にはならないでしょう。 もちろん、それ以上を目指すならW1FBの測定治具などを検討すべきですが・・・。 G3UURの方法についての比較と考察などは別のBlog(←リンク)で扱っています。ぜひ参照して下さい。
☆
自家用情報なので、数値そのものは殆どの人に役立たなかったでしょう。 それに、外観形状を見ただけでは良否の判定は出来ませんから写真と似ていると言って、類似の性能が保証されるわけではありません。フィルタへの適否は個々の測定によらねば判断できません。
参考までですが、SSB用フィルタを作る際の判断はQu>100,000と考えています。これは最低限の数字です。 もしQu>150,000ならなかなか良い水晶です。もちろんQu<100,000でもSSBフィルタは作れますが設計通りに行かないのはやむを得ないでしょう。思惑とはずいぶん異なる可能性も有ります。
発振用に作られた水晶発振子をクリスタル・フィルタ用として使うのはリスクがあるのではないかと思う人もありそうです。 しかし実測値で示したように、良く吟味すれば非常に良い水晶振動子が安価に手に入るのですから、クリスタル・フィルタはやっぱり「自作するもの」と言えるのではないでしょうか? de JA9TTT/1
(おわり)
「はじめに水晶定数ありき」です。新しいラダー型クリスタル・フィルタの設計(←リンク)には水晶の等価定数を知る必要があります。そして設計ソフトに与える定数の精度でフィルタ設計が決まってしまいます。 水晶振動子(発振子、共振子)は水晶板の機械振動ですが、外部から電気的な特性を眺めるとLC共振器と等価な「回路」として見ることができます。
等価回路は、LCRが直列になった「直列共振回路」とそれに並列に容量Chが入った回路としてみることができます。 LCRが直列になった部分が水晶板が機械振動しているそのものであり、このLCRをモーショナル(動的)定数と言います。 それぞれ添字を付けて、Lm、Cm、Rmと言います。並列に入ったコンデンサは、主に水晶板を挟む電極板によるキャパシタンスと、水晶板を保持し保護するための外周器によるストレー容量です。ホルダー(容器:Holder)容量の意味で、添字としてhを付けてChと呼ばれることが多いようです。或はパラレルの意味で、Cpとする例も良く見掛けます。
このBlogの読者であればラダー型クリスタル・フィルタの話しの中で、何度となく登場している記号なので周知のことと思います。纏める意味であらためて書いておきました。 常識はずれの添字を付けてしまうと話しが混乱し易くなるので、なるべく従った方が良いと思っています。
参考:International Electrotechnical Commission Standard : IEC STDによれば、水晶振動子の等価モーショナル定数はC1、L1、R1とし、並列容量をC0としています。また、直列共振周波数(resonance frequency)をfr、並列共振周波数を反共振周波数(anti-resonance)と呼びfaで示すのを標準としています。学会の論文など執筆のお方はこれに従うのが良いでしょう。このBlogも従った方が良いのかもしれませんが、過去のBlog全部の書き換えは容易でないのでそのままで行くことにします。w
☆
以下は自家用メモとして纏めておいたものです。 多少は参考になる可能性もありますが、個々の数値そのものはあまり役には立たないと思ってもらった方が良いでしょう。あえて役立つとすれば、一般に手に入る可能性がある水晶の良し悪しが統計的に判断できることくらいでしょう。 もしも、この先もご覧ならそのような意味で眺めて頂ければと思います。
(参考)だれでも「標準水晶」のような「水晶定数がわかっている物」が容易に手に入れば良いのですが難しいでしょう。そう言う物があれば、自身の測定の確かさの検証がきるのですが・・・。 もし私の測定結果で良ければ「チェック用の水晶」として・・・もちろん基準などと言うつもりはなくて単なる目安ですが・・・頒布(無償)も考えています。 ご興味の有無でもコメントしてもらえたらと思っています。
【aitendoの15円水晶:8MHz】
秋葉原のaitendoで現在でも販売されている8MHzの水晶発振子です。 通販でも買い求めることが出来ます。 10個単位で売られており、2015年7月ころ150円で購入して来たものです。 2袋購入し、20個について水晶定数を求めました。 安物水晶の典型と言えそうですが、お手軽なのは有難いです。
【aitendo 8MHz水晶の特性一覧】
直列共振周波数:foのバラツキは標準偏差でみて、75Hzほどでした。 悪くない数字だと思います。
無負荷Qの価;Quを水晶振動子の良さと考えると、平均で128,000くらいあるので、悪くない数字でしょう。 但し、Quのバラツキはかなり大きいようです。 標準偏差で24,000もあるので、Quが低い物をフィルタに使うと思うような特性が出ないかもしれません。 従って、良いラダー型フィルタを作るためには、必ず実測してQuの小さい物を除く必要があるでしょう。 そのほか、ロットの混合が原因と見られるLmのばらつきも見られるので、Lmをなるべく揃えると言った選別も行なうべきです。 それでも、20個も購入すれば、特性良好なSSB用フィルタが作れるのは間違いないようでした。
【NDK製NTSCクロマ発振用;3579.545kHz】
HC-6/Uと同じサイズで溶接で組立られたタイプです。HC-48/Uと言う形状です。 リード線は細くて長いハンダ付けタイプです。 3579.545kHzと言うのは、TV受像機がアナログだった時代のカラー復調用サブキャリヤの周波数です。
NTSC方式なら、どんなカラーTVにも必ず一つは入っていたものでした。同様にVHSやβマックス方式のVTRでも使われていました。(4倍の14.318MHzを使う例も多いようです)
この水晶発振子はずいぶん前にIさんに頂いた物だったと思います。 大きくて使いにくいのでやや持て余し気味でしたが、実測してみたらなかなか良い物でした。 Quが大きいのです。
【NDK 3549.545kHz水晶の特性一覧】
他に使った記憶は無いので、全部で14個頂いたようです。 但し、測定していて2個は不良品でした。 1個は電極間の絶縁抵抗が低下しています。 もう1個は水晶板がケースに接触しているらしく機械的損失:Rmが異常に大きいのです。 そのため、これらの2個は除外して表に纏めておきました。
この水晶発振子の特徴は無負荷Q:Quが高いことにあります。 平均で20万を超えていて、低いものを除去すれば平均25万くらいになるので、かなり良い特性のフィルタが作れます。但しSSB用のような帯域幅の広いフィルタでは、中心周波数から見た上下の非対称性が目立つため不向きではないかと思われます。対策としてfpを移動させる方法で対称化を図る方法もありそうです。 CW用の狭帯域フィルタには最適です。高いQuを必要とする100〜250Hz幅くらいのTransitional gaussian to 6dB型で設計してみたいと思っています。良い音のCW受信機が作れるでしょう。
【Toyocom製ボーレート用:11059.2kHz】
ボーレート・ジェネレータ用のクリスタルでしょう。コンピュータ時代らしい周波数の水晶発振子です。 同一ロットで無開封の袋入りが非常に安価に売られていたので纏めて購入した記憶があります。
日本のメーカー名が入っているので、そこそこ良好ではないかと思って購入した覚えがあります。 たしかに、中華クリスタルのように100個に3個も不良が混じっていると言うようなことはありませんでした。
【Toyocom 11059.2kHz水晶の特性一覧】
流石に日本メーカの水晶発振子と言いたい所ですが、直列共振周波数のバラツキは思ったよりも大きかったです。 8MHzの水晶よりもバラツキの絶対値は大きくなるのは当然ですが、それを考慮しても大きいようです。
ただ、無負荷Q:Quの価はバラツキが少なかったです。 残念なのは、そのQuの平均値が小さいことにあります。 平均で10万少々と言うのは、発振用には支障ありませんがフィルタ用としては少々物足りないのです。 無損失の水晶振動子を前提としたDishal準拠の簡易設計ソフトでは現実との乖離が大ききくなる傾向がありそうです。 なるべく、Quが大きいものを選別して使用すると幾らかでも有利でしょう。
【NDK製時計用水晶:4194.304kHz】
HC-49/U型のこの水晶発振子は2^22Hzの水晶です。22段のバイナリ・カウンタ(2進カウンタ)で分周すれば1Hzが得られるので、おそらく置き時計などの用途に使っていたものと思います。
周波数はやや低めですが、SSB用フィルタは十分可能です。 まだ評価の途中なのですが、無負荷Q:Quは20万近くありそうなので有望だと思います。 HC-49/USよりも水晶板が大きいのも有利な筈で、あとはバラツキが少なければフィルタ用として最適でしょう。 以前はたくさん流通していたので持っている人は多いと思いますが?
一例であるが:
fo=4193.174kHz
Rm=16.7Ω
Lm=125.5mH
Cm=11.48fF
Qu=198,000
【朝日電波製12.8MHz:その1】
12.8MHz=2^7×100kHzの汎用水晶発振子と思います。 最近はより小型の20MHzあたりが標準的な汎用水晶発振子のようですが、以前は12.8MHzでした。
そのまま発振回路に使われるケースが殆どだと思いますが、TCXOに組み込まれたものもあるでしょう。但し、TCXO用と一般発振用は温度特性の決め方には違いがあります。 この水晶発振子がどちらなのかはわかりません。 次項の12.8MHzの方を先に評価したので、こちらは後回しになっています。一応、概略の価を書いておくに留めます。 形状はHC-49/Uを一回り小さくしたものです。
fo=12.797744MHz
Rm=12.2Ω
Lm=19.4mH
Cm=7.97fF
Qu=128,000
なお、念のために書いておきますがfFというのは、フェムト・ファラドのことです。 フェムトとは10^-15で、1ピコ(p)は1^-12であるから、1fFは0.001pFのことです。 mHは1/1000ヘンリーなのは言うまでもないでしょう。Quは単位無しの無名数です。
【朝日電波製12.8MHz:その2】
同じ12.8MHzの汎用水晶発振子ですが、ユーザー名が印刷された専用品です。 形状はHC-49/Uのようですが、何となくケースに厚みがあるように感じます。すこし違うのかもしれません。
数年前ですが、オークションに大量に登場したことがあって、数名のお方と一緒に分けて頂いたことがありました。その後もオークションに登場しているそうで、これは別途落札したものだそうです。 前から有った手持ちと比較したら、ロット番号が違っているようでした。 その他は同じようです。 ICOMと書いてありますが、無線機でおなじみのICOMなのかどうかは不明です。どんな場所に使っていたのでしょう? また、なぜ大量にオークションに登場するのでしょうか? 朝日電波と言う会社は既に存在しない(?)ようなので、整理されたとき流出したのだろうか?
【ASAHI 12.8MHz水晶の特性一覧】
偶々なのかもしれませんが、無負荷Q:Quが高くて、周波数:foのバラツキも小さいのが特徴です。 Quは平均で15万を超えます。標準偏差も1万以下なので良く揃っていると思って良いでしょう。 もちろん、選別すれば安心です。 次項に示した表は選別の一例を示しています。
【ASAHI 12.8MHz水晶の選別例】
8素子のラダー型フィルタを目的に選別してみました。 まずは、Quの大きさで並び替えを行ないます。 その後、周波数順に並び替えを行なったあとで、周波数差が一番小さい8個の組を選んでいます。 このように並べ替えた物を使って設計することになります。
これらの一覧表はMS-Excelで作成しているので並べ替えはお手のものです。 もちろん、水晶定数も必要項目だけをインプットすればあとは自動的に求まります。平均値や標準偏差の計算も同様です。ラダー型フィルタの製作では水晶定数をたくさん計算しなくてはならないので、いちいち電卓をたたいていたのでは日が暮れてしまうでしょう。(笑)
Dishal準拠の簡易設計ソフトには平均値を入れてやれば良いです。 この水晶はQuが大きいので肩部分のダレも少なくて良いフィルタになるでしょう。 どんな物が作れるのか、気になるお方は表の数値を設計ソフトにインプットして遊んでみてはいかがですか?
【水晶定数の測定について】
水晶定数の測定は幾つかの方法で試しています。 結論から言うと、どの方法で測定しても大差はないようでした。 写真では、ネットアナを使っている様子です。 おなじネットアナを使う方法でも、-3dB法と±45度法があります。スペアナ+TGでやるなら-3dB法と言うことになるでしょう。
さらに、まったく別の方法として発振させ直列容量の有無による周波数シフト量から求める方法もあります。 まだ他にも方法があって、同じ水晶発振子についてそれぞれに基づき測定し計算してみました。 その結果、測定方法の間でせいぜい1〜2%くらいの違いしか見られずかなり良く一致しました。
そのような結果から、特別高級な測定器を用いなくても十分良い精度で水晶定数が得られることが確認できました。 従って、もっとも手軽な発振周波数のシフト量を測定する方法・・・G3UURの方法・・・がアマチュア向きでしょう。 安価な手段で実現できなくてはフィルタを製作する意味も薄れるので、これはたいへん良い結果です。
注意すべきは、直列に挿入する容量値を発振回路に実装した状態で実測から求め、その数字に基づいて計算することです。例えば30pFのコンデンサを使ったからと言って、30pFで計算するのではなく回路に入れた状態で実測した数値を使用します。測定にはLCRメータDE-5000(←リンク)とSMD部品用測定プローブを使うと容易でした。
それさえ行なえば良い精度で水晶定数の算出ができるでしょう。 周波数シフト法ではRmが求められませんが、Dishal準拠の簡易設計ソフトを使った設計ではRmの数値は必要としないので殆どの製作者にとって欠点にはならないでしょう。 もちろん、それ以上を目指すならW1FBの測定治具などを検討すべきですが・・・。 G3UURの方法についての比較と考察などは別のBlog(←リンク)で扱っています。ぜひ参照して下さい。
☆
自家用情報なので、数値そのものは殆どの人に役立たなかったでしょう。 それに、外観形状を見ただけでは良否の判定は出来ませんから写真と似ていると言って、類似の性能が保証されるわけではありません。フィルタへの適否は個々の測定によらねば判断できません。
参考までですが、SSB用フィルタを作る際の判断はQu>100,000と考えています。これは最低限の数字です。 もしQu>150,000ならなかなか良い水晶です。もちろんQu<100,000でもSSBフィルタは作れますが設計通りに行かないのはやむを得ないでしょう。思惑とはずいぶん異なる可能性も有ります。
発振用に作られた水晶発振子をクリスタル・フィルタ用として使うのはリスクがあるのではないかと思う人もありそうです。 しかし実測値で示したように、良く吟味すれば非常に良い水晶振動子が安価に手に入るのですから、クリスタル・フィルタはやっぱり「自作するもの」と言えるのではないでしょうか? de JA9TTT/1
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