CQ Hamradio誌2011年9月号では、直接FCZコイルを代替できる自作コイルの製作を扱った。
写真はその続編である。昨日:2012年2月18日発売の同誌3月号に掲載されている。(CQ誌は毎月19日が発売日だが、今月は日曜日なので18日に前倒しとか)
コイルが苦手な自作HAMにとっては既製品が有難いに違いないが、いま売っている互換品と称する『FCZ-Coil』も長くは続かないかもしれない。 コアや巻枠と言ったコイルの製作に必要な部材の調達が安定しないのだそうだ。(それが原因で継続できなかったと言う。JH1FCZ大久保OM談) そのため互換品と言いつつも違う特性のものになっている可能性も有る。販売店の言い分を鵜呑みにせず、同調可変範囲や無負荷Q:Quなどを自身で確認してみるくらいの注意は必要そうに思う。また、自分で巻くなら少々怪しげなボビンキットよりも素性のわかった素材を買って巻く方が安心だろう。もちろん再現性も良い筈だ。
そのような状況にあって、全国どこから何時でも入手できる素材を使ってFCZコイルと機能・性能ともに同等以上のものが作れるように検討しておきたいものだ。 そうした意図で実際に材料を入手し、多数のコイルを試作して得た結果を纏めたのが表記の雑誌記事である。
各FCZコイルの製作について、いちいち細かく記述していたのでは誌面がとても足りない。 そのため表を使った製作の一例を挙げたあと、ほかは巻くためのデータとして一覧表にギュッと纏めてある。たぶん難しくはない筈だが、表の使い方がわからなければ資料として役に立たないだろう。 このBlogは記事をサポートするのが目的なので、もしご覧になって解り難いようなら補足したいと思う。 率直なご意見を頂けたらと思う。或はご自身で製作してみてのご感想なども大歓迎だ。
申し訳ないが記事そのものをいきなりBlogに掲載することは筆者としても御法度である。 大半の地域では、昨日2月18日には発売になった筈なので書店でお手に取って頂ければ幸いだ。前から1/3あたり、102ページから107ページの全6ページである。 3月号はまたもや品切れになるかも・・・なのでお急ぎどうぞ。(まさか・笑) 以下、記事をお手元に置いてページを開きながら読んで頂けたらVY-FBだ。
参考:発売日から時間が経過すると一般書店では入手できなくなるだろう。その場合、amazonなどのオンライン書店、あるいはCQ出版社に直接あたるのも良い。ほか公立図書館にも一定期間は置いてあるだろう。確実なところでは大塚駅南口から徒歩5分のJARL資料室が良いだろう。またバックナンバーが品切れになればCQ出版社に該当ページのコピーサービス(有料)を依頼する方法もある。
低い周波数ではコア材に#1材を使っている。後から気付いたのであるが、#1材は少し入手が難しいかもしれない。その点申し訳なかった。それで以下に対処方法など書いておくことにした。
国内で入手できない訳ではないが、何処にでも置いてあるものではないようだ。 今後需要が増えれば扱うお店も増えてくるかもしれない。 調べた範囲では、T25-#1とT37-#1はマイクロ電子(←リンク)で在庫している模様だ。ほかに円高のおり海外通販もお薦めできる。(写真はT37-#1コアと、バイファイラ巻き途中の様子。コア塗色はくすんだ青である)
#1が入手できないなら#2材にたくさん巻く方法がある。手間が増えるのをいとわないならお薦めできる方法だ。性能も#1材に巻くよりも良いくらいだ。(#1コア材は性能が良くないのであまり使われないのも事実) 他にフェライト材のFTシリーズのうち#61、#67、#68材を使う手がある。何れも5MHzあたりまでの周波数なら共振回路にも十分使用できる。しかも比透磁率μsが大きいので少ない巻き数で済む。 温度特性などカーボニル鉄系のTシリーズより不利な面もある。普通の同調回路には良いがVFOやVXOなど安定度を要する用途には検討を要する。
#1材が入手しにくい場合にはこのような方法で代替する事をお薦めしたい。 代替で作ったコイルのQuは#1材で作るよりも高くなるので代替は悪くない選択である。(注:コア材が違えば記事掲載の巻数データは使えないので各自で検討されたい) 他のコア材は入手容易なので問題ないだろう。
【トロイダルコアは経済的】
トロイダルコアは高価と言うイメージがあるようだ。 意外かもしれないが、T25やT37と言った小さなサイズのコアは@100円前後のお値段だ。秋葉原の幾つかの部品店に揃っているが、私はサトー電気(←リンク)の通販で購入した。上記の#1材を除く、T25、T37サイズで#2、#6、#10材の全種類が手に入る。単価はそれぞれ105円〜126円だった。 後述するトリマ・コンデンサも数10円である。 他に抱き合わせる固定コンデンサや巻線材料を合わせても、オリジナルのFCZコイルより安価に作れる。特別な場合を除きシールドケースに入れる必要もない。
従って私のコスト試算では一つあたり150円ほどと言った感じだ。あとはわずかな手間がかかるのみである。 オークションでFCZコイルに高額入札するよりもトロイダルコアを使った代替品の製作をお薦めしたい。何しろオリジナルのFCZコイルよりもだいぶ経済的なのだから。
FCZコイルにおいてリンクコイルの巻き数は重要なテーマであろう。 記事ではオリジナルそのままのものを作る例と、こうしたRFアンプに適した例を示している。
但し、記事はRFアンプを扱うのがテーマではないので回路の解説などは省いている。 見ての通りの簡単なRFアンプなので説明の必要はなさそうだが、簡単に捕捉しておこう。 回路図が掲載されていると、そちらの方が気になってしまうお方もあるらしいので。
写真は抵抗器数個を除いて主要部品を並べレイアウトの様子を見ているものだ。左のBNCコネクタ近くにあるのがFCZ-7相当のコイルだ。 RF(プリ)アンプなので50Ωと整合するようにリンク巻線を減じてある。コイルの巻き方などは記事に詳しく書いた。得られた選択度特性は後ほど紹介している。
トロイダルコアで作ったコイルのインダクタンスを可変するのは厄介だ。せいぜい巻線間隔を寄せたり広げたりするくらいしかできない。巻線の移動では共振周波数の可変はあまりできないのだ。
そこで共振周波数の可変には「可変コンデンサ」を使うことになる。 常に共振調整をしたいならバリコンやバリキャップを使うことになる。一度合わせたら滅多に調整しない用途なら半固定コンデンサ(トリマ・コンデンサ)を使う。
トリマ・コンデンサにも各種があるが、FCZコイルの代替用途には安価で小型のものがお薦めだ。写真右手前にある赤・黄・緑・茶色をした4種類は東京秋葉原ほか大阪日本橋でも見かけるポピュラーな品だ。 さらに秋月電子通商(←リンク)で4個100円で買えるから全国どこからでも通販で安価に入手できる。(裏を返せば、これら4つで100円のトリマコンデンサを使う前提で試作している)
他にも各種のトリマコンデンサがあるがHF帯(〜30MHz)で使うならどれも大差はない。手持ちを活用できるだろう。 なお、最大容量:C(max)が大きなものは最小容量:C(min)も大きい傾向がある。C(min)が大きいと周波数可変範囲の上端が伸びなくなってしまう。また容量変化が大きいと同調調整もクリチカルになる。固定コンデンサを併用して適度な容量のトリマコンデンサを使うのが製作のコツと言える。
写真はRFアンプの出力側に使ったRFトランスだ。FT37-#43コアにφ0.32mm/UEW線を6回トリファイラ(Trifiler)巻きしてある。こちらはフェライトコア:FTシリーズのコアを使った広帯域トランス形式である。 アンプの出力部分に共振回路を使うことも可能だが、負荷インピーダンスとの関係からFCZコイル及びその代替コイルは適当ではない。
選択度を追求するなら出力側も同調形式にすべきだが、タップ位置は中点では旨くない。最適なタップ位置を求めてドレインへ行くように引き出す。実験を要するので少し面倒だろう。もしもより鋭い選択度を必要とするなら入力側の共振器を2〜3段重ねる方が良いのではないだろうか。従ってアンプの出力側は扱いの楽な広帯域トランス型をお薦めしておく。広帯域設計でもミキサー前のプリアンプとして、多過ぎるくらいのゲイン:約28dBが得られている。
記事では2SK241Yを代表例として書いてある。 オーソドックスな高周波増幅回路である。 実際2SK241Yで特性評価を行なった。 IdssランクはYでもGRでも良いような回路設計にしたので記事中の指示に従い、バイアス調整のVR1を加減してもらえば良い。
適宜調整すればIdssランクはY、GRのどちらを使っても個々のバラツキ以上の差は現れない。特定のIdssランク品を血眼になって探すのはまったくのナンセンスだ。 なお、Idssが10mAを越えるものを使うとVRを絞っても10mA以下に調整できない事がある。 その場合はソース抵抗(106ページの回路図ではR2:10Ω)を47Ωか100Ωに交換してみる。以上の調整方法は2SK241だけでなく代替品を使う際にも当てはまる。
2SK241の供給は今のところ心配なさそうであるが、こうした足付き部品は総じて各メーカーともに非推奨品種になっている。表面実装型以外のニーズが激減しているからだ。いま持っているモールド金型が寿命になったら更新をせずに該当品種はすべて廃番になるのかもしれない。 長い意味で見たら将来に供給の不安は残っている。しかし暫くは心配いらないと思っている。膨大な流通在庫があるし、手持ちを持っている人も多い筈で欠乏して困る事にはなるまい。いずれ台湾か中国メーカーの安価な互換品が登場するだろう。むしろ過剰な買い溜めは損である。
こちらの2SK439(旧・日立製作所/現・ルネサスエレクトロニクス)を使っても良い。 IdssランクはE、Fのいずれでも可だ。 調整してしまえば同様に性能の差はないから手持ちがあれば使うと良い。
なお、捺印面から見た時の足の並び方は、2SK241とは裏返しになっていて逆なので注意が必要だ。 写真の様になっているので良く確認して間違えないように!
2SK439の供給状況だが、すでに新規生産はなくて流通在庫品に頼る状態になっている模様だ。製造会社の状況が二転三転しているから儲からない製品が整理されてしまうのは仕方がないのだろう。 まだ入手は出来るが価格は上昇気味なのであえてこれに拘らなくても良いと思う。必死になって探しまわるのは『素人丸出し』と言うもので、足モトを見られ高く買わされるのがオチだ。 RFアンプを含めて、発振回路ほか多くの用途で上記の2SK241か、次項で扱う2SK544を使えば十分だと思う。 拙宅でも手持ち在庫はわずかだが買い足すつもりはない。新規の製作に採用することもないだろう。
三洋セミコンダクター社(現:ONセミコンダクターグループ)の2SK241互換品である。 厳密にはIdssランクの区分けの仕方が異なるが、おおよそ2SK544(E)=2SK241(Y)で、2SK544(F)=2SK241(GR)と思えば良い。 足の並び方もまったく同じなのでそのまま差し換え可能だ。 なお、写真のものは2.54mmピッチになるようリード線をフォーミング(成形加工)してある。 未加工でストレート足のものもあって電気的には同等品である。
2SK544の方が早くからディスコン(生産終了)になっていると思っていた。実際はいまでも部品販売会社から購入できる。但し秋葉原の半導体小売店では見ないようだ。 単品の価格は2SK241と同程度であるが、最近になって数量割引のディスカウント販売で安く買うことができた。商社の在庫一掃セールなのかもしれない。 そのような共同購入プロジェクトが2回ほどあったので纏め買いの数量稼ぎに参加させてもらった。 お陰で十分以上の在庫になったので、これからは2SK544を定番に考えなくてはなるまい。
なお、電気的特性が似ているので2SK241の代替には2SK544が良い。電極間容量やgm等は非常に近い値だ。差換えに向く特性である。2SK241の互換品を作る意図で開発されたFETではないかと思っている。但し多少浅いバイアスでカットオフする特性のようだ。従ってAGC感度は高めになる。 パナソニック社の事業再編もあって旧・三洋電機の半導体部門はONセミコンダクターのグループに移った。 今後も安定供給が継続するならHAMの自作にお薦めしたいFETだ。 しかし三洋セミコン社のサイトでも、ONセミ社のサイトでも正規の検索では型番がヒットしないのが心配なところだ。 手に入るのは流通在庫品のみで、既に生産中止している可能性も高そうだ。(残念)
RFアンプの周波数特性である。 記事では概略のみ示したが、帯域特性はリンク2tでこのようになった。 あくまでもRFアンプであって『プリセレクタ』と言わなかったのは選択度の関係からだ。
この程度の選択度ではプリセレクタと言ったらウソだろう。 もちろんオリジナルのFCZコイルではさらに選択度が悪いので『プリセレクタ』などと言ったら大ウソである。(笑)
オリジナルのFCZコイルのまま小容量の直列コンデンサで工夫すると言う手もあるが、副共振が現れることがあり、共振特性も崩れるので本質的ではないと思う。巻き換えなしでは他に簡単でうまい方法はなかったのだろうが・・・。
写真では同調の中心を7050kHzに合わせている。 このようにHAMバンドの中心に合わせて使えば良いだろう。 シビアな事を言えば受信周波数が動いたら同調を取り直すべきかもしれない。しかし中心部とのゲイン差はごく僅かだ。 このようにリンク2tなら固定同調の無調整式でも良いのではないかと思う。
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より高選択度の真の『プリセレクタ』を作るには、より一層無負荷Q:Quの高いコイルを作る必要がある。さらには同調回路の段数も重ねなくてはならない。 そう言えば昔はエアダックスコイルを使って作ったものだった。シールドは厄介だったがアレはなかなか良いコイルだったのを思い出す。
短波帯RF回路の重要パーツ、コイルはエボナイト・ボビンに手巻きから始まりプラグイン・ボビン、モノコイル、FCZコイルそしてトロイダルコアへと変化して来た。部品や回路の変化に伴い進化して来たが、それぞれの時代にマッチした製作で対応してきた訳だ。 すべてデジタル処理するような通信機でさえ、アンテナに繋がるIn/Outの部分にはLCフィルタが残る。これからもコイルを使った共振回路のノウハウは重要なようだ。
最後の方は少々主題から外れてしまった感じもするがこんなところで。 一連のFCZコイル関連記事が長く参照されるなら幸いである。 de JA9TTT/1
記事へのご質問などあれば順次ここに追記の予定。
(おわり)